基礎化学熱力学のまとめ(算数編) 秋山 4/1/04 本講義では、平衡系の熱力学の初歩について講義する。熱力を取り扱える様にする為に、いくら かの数学は必要不可欠である。非常に重要な事は、数学の導入により諸概念の理解が飛躍的に簡単 になる。秋山も確かに図的理解も重要だとは思うが、数学を使わない説明が分かりやすいというの は、往々にして単なる誤解だったりするので注意しよう。ここでは、必要な数学を適当に羅列して おくが、人によっては高校数学の内容の復習が必要であるかもしれない。また、ちょっとした数学 をさらに講義で補強する事もある。 1 算数のまとめ(高校数学の内容は、ほぼ除く) 1.1 全微分と偏微分 f (x1 , x2 , x3 , ...xn ) の全微分は、 df (x1 , x2 , x3 , ...xn ) = ¶ n µ X ∂f ∂xi i=1 dxi (1) ³ ´ ∂f ここで、 ∂x は、f (x1 , x2 , x3 , ...xn ) を xi のみの関数として微分する。この偏微分記号 ∂ は『ラ i ウンド』と発音される。 ex.) 2次元の関数の場合 µ df (x, y) = ∂f ∂x ¶ µ dx + ∂f ∂y ¶ dy (2) この事については講義中に図を書きながらなぜ、全微分(完全微分)、偏微分という概念が欲しかっ たのか?について述べると思う。 1.2 完全微分と不完全微分 しばしば、完全微分と不完全微分(微少量)が区別される。個人的な体験で恐縮だが、秋山に とっては熱力学の第一次理解のポイントは、この完全微分と不完全微分をきちんと区別することで あり、状態量と非状態量を区別することであった。高校数学の範囲では、微少量 d0 x と dx を格別 区別するような勉強の仕方はしていなかったと思う。また、『微分の定義』そのものが問われるこ とも少なく、微分すると何が得られるかという方に関心がすぐに移ってしまうので、なおさらこの 違いは意識されなかったことだろう。 ここでは算数上の定義等からよりも熱力学の実情として、すなわち経路に依存する量か否かを具 体例を積み上げながらつかんでほしい。少し代表例を挙げておけば、熱量の微小変化は経路によっ 1 てしまうから状態量ではないが、T (温度)で割ったエントロピーは状態量だったりする。また、 ある量 x を保ちつつ準静的に d0 Q の熱量を系に加える事で、系の温度が dT 上がった場合、 Cx = d0 Q dT (3) をこの過程に対する熱容量と呼び、単位質量あたりの熱容量を比熱 cx と呼ぶが、x が決まって初 めて状態量になる。つまり経路が決まって初めて、定圧比熱 cp 、定積比熱 cv といった状態量を考 えることができる。 1.3 線積分 さて、そうなると積分について補助的な解説もこの算数編に必要であろう。とくに経路に沿った 積分の話は重要だ。 xy 平面上のある区域内において M (x, y) が連続、一意の関数である場合、この平面上の滑らか な曲線 C にそって積分(線積分)ができる。C がパラメータ表示で、 x = x(t) (4) y (5) = y(t) (ただし、C は、a ≤ t ≤ b)で定義されているとする。滑らかな曲線 C にそった線積分は、 Z Z b dx M (x, y)dx = M (x(t), y(t)) dt dt C a Z Z N (x, y)dy = C b N (x(t), y(t)) a dy dt dt (6) (7) で出来る。(線要素を定義して経路に沿って積分する事が分かりやすい標識については、公式集や 解析学の教科書を見ること。講義でも触れるかもしれないが。) 熱力学では、 dU (x, y) = M (x, y)dx + N (x, y)dy (8) の様なものを積分して U を求めたい場合が多々ある。しかし、特に案ずる事はない。dU (x, y) が 完全微分なら、 M (x, y) = N (x, y) = ∂U (x, y) ∂x ∂U (x, y) ∂y (9) (10) すなわち、 dU (x, y) = ∂U (x, y) ∂U (x, y) dx + dy ∂x ∂y (11) となるので、線積分の始点が (x1 , y1 )、終点が (x2 , y2 ) であるとすると、 Z (x2 ,y2 ) dU (x, y) = U (x2 , y2 ) − U (x1 , y1 ) (x1 ,y1 ) 2 (12) と計算できる。この場合、経路によらない状態量が求められる。(というのが、前の完全微分と不 完全微分の説で言葉で長々と述べていたことである。)これを具体的な練習問題で計算すれば、一 連の手続きがどんなものかわかるであろう。 もちろん不完全微分ならば、積分の実行にあたり経路をきちんと特定する必要がある。(上の完 全微分の場合、線積分の経路はどうでも良くて、始点が (x1 , y1 )、終点が (x2 , y2 ) でありさえすれ ば良かった事に注意。)ほとんどの熱力学量は状態量で、それを相手にする分には不完全微分の積 分はやらんでもすむのだが、残念な事に、仕事と熱量に関しては、熱力編で見たように不完全微分 (単なる微少量)であるから、不完全微分について少しコメントしておく。まず、積分経路を定め るという事は、(x, y) に関して、 y = f (x) もしくは、x = g(y) (13) の関係を定めるという事になる。この曲線はパラメータ表示で x = x(t) (14) y (15) = y(t) (16) (ただし、C は、a ≤ t ≤ b で定義)と書き直せる。従って、上で書いたそれぞれの変数ごとの積分 の表現を通じて求められる。その場合、x や y の微分の計算が必要である。 1.4 Legendre 変換 f (x1 , x2 , x3 , ...un ; a1 , a2 , a3 , ...am ) → g(y1 , y2 , y3 , ...vn ; a1 , a2 , a3 , ...am ) (17) と変数変換を行いたい時には、 g = f+ n X xi yi (18) i=1 とすれば良い。これは、熱力編の方にある熱力学的関数を丸覚えしなくても計算で芋づる式に出て くるようにする強力な武器であるだけでなく、いろいろな熱力学的関数の世界を見渡す事で熱力学 の全体像をつかむための重要な方法でもある。熱力学だけでなく物理の数多くの場面で活躍する変 換なので覚えておいて良い。(例えば、力学でのオイラー・ラグランジュ形式からハミルトン形式 への変換とか、、、。) ex.) 熱力学的関数エントロピー S 、体積 V 、粒子数 N の関数として内部エネルギー、 U = U (S, V, N ) (19) が与えられるとする。この場合、温度 T 、圧力 p、化学ポテンシャル µ は、 dU = µ ¶ T dS − pdV + µdN (20) で、与えられる。すなわち、 dU = ∂U ∂S µ dS + 3 ∂U ∂V ¶ µ dV + ∂U ∂N ¶ dN (21) と数学的にかける事を考慮すると、 µ T = p = µ = ¶ ∂U ∂S µ ¶ ∂U − ∂V µ ¶ ∂U ∂N (22) (23) (24) ここで S, V, N が変数の熱力学的関数から S, p, N を独立変数とした熱力学的関数を選びたければ、 H(S, p, N ) ≡ U + pV (25) とエンタルピー H を定義して変数の変換すなわち Legendre 変換すれば良い。上式は、 dH = dU + V dp + pdV (26) = T dS + V dp + µdN (27) よって、この熱力学関数 H の下では、 µ ¶ ∂H T = ∂S µ ¶ ∂H V = − ∂p µ ¶ ∂H µ = ∂N となる。こうした熱力学関数のまとめは、基礎熱力学のまとめ(熱力編) 参照。 『変分と変分原理』も加えておきたいところだったが、とりあえず略す。 http://mole.rc.kyushu-u.ac.jp/∼ akiyama/ 4 (28) (29) (30)
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