第27期東京都青少年問題協議会 第8回専門部会 平成20年1月24日(木) 都庁第一本庁舎33階 特別会議室N6 午前10時00分開会 ○青山青少年課長 おはようございます。本日は、ご多忙の中、青少年問題協議会第8回 専門部会にご出席いただきまして、まことにありがとうございます。 まだお見えでない委員の方もいらっしゃいますけれども、定刻となりましたので、ただ いまから第8回専門部会を開催させていただきます。本年明けまして初めての専門部会に なりますが、本年もよろしくお願いいたします。 お手元に本日の資料をお配りしてございますので、ご確認をお願いいたします。 資料1は「東京都におけるひきこもり対策」です。資料2は「若年者雇用就業対策」で す。資料3は「東京都における不登校の対応」です。資料4は「東京都における中途退学 への対応策について」です。資料5は「心の東京革命」です。資料6は「子育て応援都市 東京・重点戦略〜社会全体で子育てを応援する東京の実現に向けて〜」です。資料7は 「要支援家庭の早期発見・支援事業」です。また、参考資料として、「ひきこもりサポー トネット」のリーフレットとフォーラムのチラシ、「ひきこもる若者のこころと家族への 支援を考える」をお配りしております。 そろっておりますでしょうか。 それでは、前田部会長、議事進行をよろしくお願いいたします。 ○前田部会長 これまで、ここにお集まりの委員の方、外部の有識者の方から、専門分野 における貴重なご意見を伺ってまいりましたけれども、今回は、若者問題に携わる都庁内 部の関係部局の職員の方から、都の取組みについてご報告をいただいて、委員の方からご 意見をちょうだいしたいと思っております。 初めに、「若年者の自立支援」として、「ひきこもり対策」、「若年者雇用就業対策」、 「不登校・中途退学の対応」の順にお話しいただいて、次に、「幼少期の親支援」として、 「心の東京革命の推進」と「子育て家庭への支援事業」について、事業の説明を伺えれば と思います。事業に関する質問は、すべての事業説明が終わってからまとめてということ でよろしいですね。 では、初めに、「若年者の自立支援」として「ひきこもり対策」について、青少年・治 安対策本部の前島青少年担当課長からご説明をいただきたいと思います。 それでは、よろしくお願いいたします。 ○前島課長(青少年・治安対策本部) よろしくお願いいたします。「東京都におけるひ きこもり対策」についてご説明いたします。 ‑ 1 ‑ 近年、ひきこもりやニートなど、就労や就学に至らず、社会とのつながりを持たない若 者の社会的自立が大きな問題となっております。ひきこもりは、適切な対応をしなければ 長期化するといった傾向があるという指摘がありますが、社会的な孤立化や心理的な負担 の増大などといった、ひきこもる本人の問題や家族の問題だけではなく、将来的には、若 年労働者数の減少や社会的負担の増大など社会的不安につながることが懸念され、早急な 対応が必要です。 東京都は、こうした状況を踏まえて、ひきこもりの状態にある若者本人や家族を支援す るため、平成16年度より、ひきこもる本人や家族、関係者からの相談を、インターネット のメールで応じる東京都ひきこもりサポートネットを開設いたしました。昨年7月からは、 インターネット相談に加え、電話相談を開設するとともに、相談者の状態に応じて、ひき こもる本人や家族等々、直接、面接して相談するための窓口を設置するなど、ひきこもり サポートネットの機能の拡充を図ってまいりました。 お手元に、ひきこもりサポートネットのリーフレットとカードがありますので、後ほど ご覧いただければと存じます。 また、お手元のA3の資料の左下のところに、サポートネットの相談状況が簡単に書い てありますが、この中で、本人の相談率として、インターネット相談が56%、電話相談は 始まったばかりですが、これが43%と、ひきこもり相談を行っている他の機関に比べて、 ひきこもる本人からの相談が半数以上と非常に高いことが特徴と言えます。 また、同じく平成16年度には、実際にひきこもりにかかわる相談に対応している機関の 担当者による、ひきこもりに係る連絡調整会議を設置しました。この会議においては、具 体的なひきこもりの事例検討等を行いまして、各機関のひきこもり相談やひきこもりに関 する情報を共有化するとともに、相談機関間で実務的な連携を充実させ、各機関における ひきこもりの取組みの充実と連携強化を図ってまいりました。 さらに昨年からは、こうしたひきこもり対策の拡充を図り、若年者自立支援事業として 位置づけ、資料にある大きく2つの取組みをしてまいりました。1点目は、ひきこもりの 実態調査です。ひきこもりの人数については、これまで全国で26万人から160万人までの 幾つの推計がありますが、ひきこもりの特性から実態の把握が困難なため、これまで、実 態や要因、背景等は明らかにされず、有効な対策が講じられてこなかった状態があります。 そこで、都では、ひきこもりに対する有効な支援策を検討するため、全国に先駆けて、ひ きこもりの実態調査を実施しました。 ‑ 2 ‑ 調査に当たっては、まず有識者等による検討会を設置し、調査方法や調査項目などを検 討しました。その検討結果を踏まえ、都内に在住する15歳から34歳までの男女を3,000名 抽出し、訪問によるアンケート調査等を行い、都内のひきこもりの人数推計と、一般的な 若者の自立意識から見た引きこもりに関する考察のための基礎データを得ました。 また、ひきこもりに関する相談を行っている医療機関や相談機関と、ひきこもり支援を 行っている民間支援団体に、ひきこもりにかかわる相談や支援の実績について調査しまし た。また、その機関や団体を通じて、ひきこもりの状態にある若者で、直接協力が得られ る本人から、ひきこもりの個別の事例を臨床心理士が面接して聞き取る調査も行いました。 現在、これらの調査結果を、有識者による検討会で分析・考察しているところで、2月 に開催する「ひきこもる若者のこころと家族への支援を考えるフォーラム」を目途に、人 数推計など、速報値として公表するとともに、今年度末までには調査結果をまとめてまい ります。 2点目は、「ひきこもりの支援を行うNPO法人の実態調査」です。ひきこもりへの支 援活動は、公的機関だけではなく、NPO法人を中心とした民間団体においても行われて います。今後、ひきこもりの自立に向けて総合的な対策を講じていくためには、公的機関 相互の連携だけではなく、NPO法人と連携することが不可欠ですが、都内におけるNP O法人の実態や個々の支援活動内容は明らかになっていない状態があります。 そこで、都では、認証を受けている若者支援に関係する分野の都内のNPO法人5,851 団体に対して、郵送で活動内容等について調査しました。さらに、その調査結果をもとに、 若者の自立支援を行っていて、かつ、協力いただけるNPO法人59団体を直接訪問しまし て、活動状況や支援内容、団体の運営状況について個別に聞き取りを行いました。 現在、NPO法人の実態調査で明らかになった支援団体の現状や課題、取組事例をもと に、ひきこもりに対して有効な支援プログラムの検討・開発を進め、今年度末までにまと めてまいります。 最後に、今後、平成20年度以降のひきこもり対策について、支援プログラムの実施・検 証と、ひきこもり等防止対策の実施についてご説明いたします。 まず、先ほどご説明いたしましたNPO法人の実態調査において検討・開発を進めてい る支援プログラムを、実際にNPO法人と共同して実践するとともに、その有効性を検討 してプログラムの改善・精査を行い、フォーラム等を通じてその成果をNPO法人や関係 者に普及啓発してまいります。 ‑ 3 ‑ 具体的には、ひきこもりの状態にある若者本人や家族を対象とした支援プログラムでは、 自宅等を訪問し、外出に向けた働きかけを実施したり、自宅以外に安心できる居場所を提 供し、グループ活動や自然キャンプなどを行うことを通して自己肯定観を高めたり、ボラ ンティア活動や短期合宿などを行い、社会的に参加する能力や自信を高めたりする取組を NPO法人と協働して実際に行ってまいります。 また、NPO法人の調査結果では、ひきこもりを支援する団体において、支援スタッフ の質的・量的な不足や現状のノウハウ等の不足の課題が指摘されており、これらを踏まえ て、支援団体の組織体力の向上を図る、ひきこもりの支援者を支援するプログラムを実施 してまいります。 具体的には、支援に必要な知識・技能や団体運営に必要なノウハウに関して、支援スタ ッフや団体経営者を対象とした研修やセミナーを開催したり、支援スタッフ相互の派遣や 受入れ研修などによる団体間の交流を促進し、情報を積極的に交流・活用する態勢を構築 してまいります。 次に、ひきこもり等防止対策の実施についてご説明いたします。ひきこもり対策では、 社会との接点が失われた後のひきこもり支援は非常に困難であり、早期発見、早期対応が 極めて重要であるということが指摘されています。こうした指摘を踏まえ、不登校経験者 や高校中退者など、ひきこもりに陥るおそれがある若者をあらかじめ把握し、継続的に支 援する仕組みを構築するひきこもりサポートネットモデル事業を実施してまいります。 具体的には、モデル地域を指定し、地域の実情に合わせて、不登校経験者や高校中退者 の把握を行い、その情報をもとに、自宅等の訪問や、家族や本人との面接を通して、相談 や情報提供などの継続的な支援を行っていきます。また、地域における教育や福祉、就労 等のさまざまな資源を活用して、地域の特性を生かしたひきこもり予防策の支援を展開す る予定でございます。 また、ひきこもり対策を普及・啓発するために、ひきこもりの状態にある者の家庭向け に、ひきこもり対応マニュアルを作成し、民生・児童委員や青少年地区委員等を通じて必 要な家庭に配布します。また、高校中退者向けの支援リーフレットを作成し、所属を通じ て必要な高校生に配布したりしてまいります。 ひきこもり等防止対策の実施と支援プログラムの実施・検証につきましては、「10年後 の東京」への実行プログラムの施策、青少年を社会性を持った大人に育てる環境づくりと して位置づけております。 ‑ 4 ‑ なお、説明の中に出てまいりました2月23日、「ひきこもる若者のこころと家族への支 援を考えるフォーラム」を開催いたします。お手元に、薄緑色のチラシがあると思います が、委員の皆様にもこのフォーラムのご案内を申し上げまして、ひきこもり対策について の説明を終わらせていただきます。 ありがとうございました。 ○前田部会長 どうもありがとうございました。 それでは、先ほど申し上げましたように、ご質問があろうかと思いますが、後でまとめ てということで、続きまして、「若年者雇用就業対策」につきまして、産業労働局の増田 担当副参事からご説明いただきたいと思います。 ○増田副参事(産業労働局) 産業労働局で若年者の就業推進を担当している増田でござ います。どうぞよろしくお願いいたします。 若干のお時間をいただきまして、産業労働局で実施しております若年者雇用就業対策の 概要について簡単にご説明させていただきます。 それでは、お配りしてあります資料に沿ってご説明させていただきます。 1枚のペーパーがご用意してございまして、その下に関連するパンフレットを幾つかお つけしております。まず、1の「若年者の雇用就業支援」についてです。若年者の雇用を 取り巻く環境につきましては、年明けから株価が連日のように大幅に値下がりしておりま して、景気の先行きも不透明感が広がっているといったような状況がありますが、これま での景気の回復基調と、2007年問題と言われていたような団塊世代の大量退職が重なりま して、ご承知のとおり、新規学卒の市場は、1人が3つも4つも内定をもらうような完全 な売り手市場となっております。 このような状況だけを見ますと、若者の雇用問題も一気に改善したかに見られがちです けれども、直近の労働力調査の結果を見ても、若年者の完全失業率については、全年齢層 の平均と比べても依然として高い数値を示している状況があります。ちなみに、11月分が 12月末に発表されておりますので、こちらで見てみますと、全年齢層の完全失業率が3. 8%です。これに対して、15〜24歳層では、男性で7.7%、女性で6.2%という2倍に近い ような状況がございます。 また、今ご説明しました新規学卒者の就職率の改善等に伴いまして、フリーターなどの 若年の不安定就業者の数は、2003年には217万人いました。それが2006年には187万人と3 年間で30万人も減少しております。しかし、減少した30万人の内訳を見てみますと、15〜 ‑ 5 ‑ 24歳層で24万人と大幅に減少しておりますけれども、25〜34歳層の減少は6万人にとどま っておりまして、いわゆる年長フリーターと言われる層については滞留傾向が顕著になっ ている状況にあります。このため、私どもとしましても、特に年長フリーターへの支援を 充実したいと考えております。 次に、2の「施策の概要」でございます。資料をおめくりいただきまして、東京しごと センターのパンフレットをご覧いただければと思います。東京しごとセンターは、東京都 が都民の方々の雇用や就業を支援するということで、「しごとに関するワンストップサー ビスセンター」ということで、千代田区飯田橋に平成16年7月に設置した施設です。パン フレットの中をお開きいただきますと、若年者の支援につきましては、お開きいただきま したパンフレットの左側の下のほうにありますけれども、ヤングコーナーというところで 実施しておりまして、こちらは全国的には「ジョブカフェ」と呼んでいる道府県が多いと 思いますが、こちらにおきまして、個別のキャリアカウンセリング、就職のノウハウなど を盛り込んだ各種セミナー、また、国のハローワークと連携して職業紹介などを実施し、 若者の就職を支援しているところでございます。 また、資料はおつけしていないのですけれども、職業能力開発センターというところが ありまして、旧名称で申し上げますと職業訓練校です。こちらでは、若年者向けに、就業 に必要な基礎的能力の習得に重点を置いた職業訓練を実施しております。平成19年度につ きましては、特に滞留傾向が顕著となっております年長フリーターへの支援を充実すると いうことで、新たに年長フリーター等就職活動応援事業を開始しまして、しごとセンター と職業能力開発センターが連携して、年長フリーターの常用雇用化に向けた支援に重点的 に取り組んでいるところでございます。 ちなみに、次におつけしているパンフレット(東京しごとセンター多摩)ですけれども、 昨年8月にしごとセンター事業を全都的に展開しようということと、多摩地域にお住まい の方々の利便性の向上といったことを目指しまして、中央線の国分寺の駅から5分ほどの ところにある東京都の労働相談情報センター、昔の労政事務所の2階に「東京しごとセン ター多摩」を開設しまして、就業支援の強化を図っているところでございます。 それでは、「主な取組」について幾つか簡単にご説明させていただきたいと思います。 まず①、今お話ししました「年長フリーター等就職活動支援プロジェクト」です。このパ ンフレット(年長フリーター再起動!)をご覧いただきたいと思います。パートタイムと かアルバイトで、これまで長い間働いてきたために、自分のキャリアや能力に不安を感じ ‑ 6 ‑ ているといったような方々を主な対象とした事業です。 パンフレットをお開きいただきまして、4ページをご覧いただければと思います。こち らに事業全体の仕組みの図がありまして、導入部として、雇用情勢とか就職活動に関する セミナーをまず実施します。その後に、技術や知識を身につけていただくための3カ月間 の職業訓練を実施いたします。これは民間に委託して行います。訓練が終わった後に、東 京しごとセンターにおいて就職につながるためのインターンシップとか合同就職面接会な どを組み合わせて実施しまして、年長フリーターの常用雇用化に向けた総合的な支援を行 ってまいるといったような事業でございます。 次に、②「若者による若者就業支援プロジェクト」です。こちらのリーフレット(東京 都若者就業支援プロジェクト)になります。NPO法人等から、就職活動に踏み出せない 若者に対する就職支援事業の企画の提案を募集しまして、その中から選定された事業に対 して、その実施に必要な経費の一部を助成する事業です。この事業は平成18年度から実施 しておりまして、お手元のリーフレットの次に平成19年度の助成事業の概要がございます。 「若者の若者による就労に向けたステップアップ支援事業」はNPO法人の社会参加支援 センター・リーラ、ほか5団体が平成19年度の実施団体でございます。事業の内容につき ましては、時間の関係もありますので、後ほどご覧いただければと思います。 もう1枚おめくりいただきますと、平成18年度の実施事業をおつけしております。「T OKYO発『ジョブパスポートでGO!』事業」は、NPO法人NICE。ほかに3団体 が選定されて事業を実施いたしました。これらの事業の成果につきましては、地域や行政 で若者就業支援に携わっていらっしゃる関係者を集めた成果報告会、これは昨年11月にし ごとセンターで開催しまして、100名を超える方々に参加いただきましたけれども、これ らの機会を通じまして広く周知を図っているところでございます。 次に、③「ワークスタート支援プログラム」です。こちらの水色のリーフレット(ワー クスタート!)になります。働くことに不安を感じるなど、就職活動になかなか踏み出せ ないといったような若者が社会から孤立することがないようにということで、仕事に対す る理解と共感を深めて、社会人として必要な生活習慣、基本的能力などを身につけてもら うためのプログラムなどを実施しております。このプログラムを通して、就職活動への自 信と意欲を高めてもらい、しごとセンターで実施しているさまざまな就業支援事業の利用 へと結びつけていきたいと考えております。 次に、④「若者ジョブサポーター」です。こちらのパンフレット(若者ジョブサポータ ‑ 7 ‑ ー)になります。こちらの事業は、企業と行政の関係者が一体となって若年者雇用の問題 に取り組むことを目的とした事業です。例えば、インターンシップとか職場体験の受入れ といったようなことを、現在、既に若者の就業自立を支援する取組みとして行っている企 業、また、今後行う意思がある企業、こういった企業を登録させていただき、東京都のホ ームページや印刷物に、企業名とか取組内容等を掲載し、広く周知を図っているところで ございます。なお、昨年12月末現在で、331の企業にご登録をいただいている状況です。 次に⑤です。「若年者向け訓練」ということで、これは、職業能力開発センター、旧職 業訓練校で実施している事業でございます。こちらのリーフレット(4月入校生募集 若 年者就業支援科)です。主に中卒の方、また、高校を中退されたといったような、就職に 困難を伴う若者を対象として、ビジネスマナーやコミュニケーション能力も含めた、就業 に必要な基礎的能力の習得に重点を置いた訓練を実施しております。リーフレットは、自 動車整備コースという科目ですけれども、そのほかに、福祉サービスとか塗装コースとい ったような科目も用意しております。 最後になりますけれども、単位制パソコン科といった訓練も実施しております。この黄 緑のリーフレット(単位制パソコン科)です。アルバイトをなさっているとか、昼間に働 いているということで、職業能力を習得する機会がなかなかないという方に、夜の時間帯 に実施するということで受講しやすいということ、それから、ご自分のペースでそれぞれ の生徒が技能を習得できるようにということで、一つのユニット、この事業名についてい ますように、単位ごとに習得していく、いわば自動車教習所のような弾力的な運用による 訓練も実施しております。 以上、雑駁ではありますけれども、産業労働局で実施しております若年者雇用就業対策 についてご説明させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○前田部会長 ありがとうございました。 続きまして、教育庁のほうから、「不登校・中途退学の対応」について、産業教育担当 主任指導主事の出張さん、お願いいたします。 ○出張主任指導主事(教育庁) よろしくお願いいたします。私は、教育庁指導部の産業 教育を担当しております出張と申します。 資料は、資料3と資料4に基づいてご説明したいと思います。 まず資料3をご覧ください。こちらに「東京都における不登校の対応」ということでま とめさせていただいております。不登校対応を進める上での現状の部分ですが、現在、 ‑ 8 ‑ 小・中学校における不登校は、平成18年度は小学校で0.34%、中学校で3.24%になってお ります。中学校では、平成10年度からほぼ3%台で推移している状況があります。 これらを受けまして、東京都教育委員会といたしましてはさまざまな対応をさせていた だいております。ちょうど右上のフレームになります。一つがスクールパートナー事業で す。これに基づきまして、スクールカウンセラーを全公立中学校に週1日派遣しておりま す。また、文部科学省の委託事業として、問題を抱える子ども等の自立支援事業を行って おり、26区市町村で適応指導教室の専門指導員の派遣や家庭への訪問指導員の派遣などを 行っております。また、3番目にありますが、やはりこれも文部科学省が委託する事業で すが、子どもと親の相談員を、都内63の小学校に、18の生活指導推進指定地域に生活指導 推進協力員を配置しております。さらに、すべての公立学校で年3回、ふれあい月間を実 施しまして、いじめや不登校等の取組の改善を図っているところでございます。 こうしたさまざまな取組をしておりまして、そのおかげか、不登校児童・生徒の学校へ の復帰率が増加して、要するに、復帰がかなっている児童・生徒が増えております。平成 18年度に関しましては、中学校において過去最高の24.2%が学校に復帰したという状況に なっております。 続きまして、資料4をご覧ください。「東京都における中途退学への対応策について」 ということで1枚にまとめさせていただいております。都立高校の平成18年度の中途退学 率は、過去10年間では大きく減少しておりますが、平成18年度は全日制で2.4%、定時制 で16.4%、ここ3年間で見るとほぼ横ばい状態になっております。 東京都教育委員会として、これら中途退学防止への対策ということでさまざまな施策に 取り組んでいるところでございます。まず、「特色ある学校の設置」ということで、一番 左側のフレームになりますが、チャレンジスクールを平成12年度から開設しております。 この学校は、小・中学校時代に不登校経験を持つ生徒や高校の中途退学者を主に受け入れ ている学校で、3部制をとりまして、昼夜間定時制の総合学科高校としてやっております。 学力試験や調査書によらない入学選抜を行っているところでございます。本人のライフス タイルや学習ペースに合わせて時間帯を選び、幅広い選択科目から選択して学んでいくよ うにしております。現在、そこにお示しの5校を開設し、さらに、八王子拓真高校の1校 に関しましては、2学級分をそのチャレンジ枠という形で募集しているところでございま す。 続きまして、エンカレッジスクールです。これは、今まであった都立高校の既存校をエ ‑ 9 ‑ ンカレッジに変えております。内容はチャレンジスクールと同じく、学力検査によらない 入試により選考を行います。入学後は、2人担任制によるきめ細かい指導と、集中できる 30分授業による基礎・基本の徹底が特色で、成績は、定期考査は行わず、努力を評価する という形です。現在、4校が指定されているところです。 また、新たなタイプの昼夜間定時制高校を平成17年度から開設しております。この学校 に関しましては、多様な専門科目の選択科目と学年制のよさを残した3部制の昼夜間定時 制で、午前、午後、夜間のいずれに所属し、1日4時間ずつ学習します。他の部の科目も 履修できるようにしております。現在、これについては4校開設しております。 さらに、高校教育のセーフティネットの役割を果たす通信制高校として、いつでもどこ でも学べるということで、インターネット等の通信技術を活用したトライネットスクール を平成17年度に1校開設しております。 続きまして、「学校における指導の充実・改善」でございます。全国に先駆けまして、 すべての都立高校で、校長、副校長などの管理職が学期に1回授業観察を行っております。 生徒による授業評価も実施しておりまして、これらの観察、授業評価をもとに、教員一人 一人の授業力の向上を図っているところでございます。また、進級卒業規定の見直しや弾 力化、転編入の改善、それから、やむを得ず中途退学する生徒の減少を図ると同時に、中 学生対象の合同説明会や小中高夢のかけ橋推進事業等により高校への理解を促進しまして、 不本意入学者を減らすようにしているところでございます。 また、中途退学率の高い学校については、東京都教育委員会で、中途退学防止改善計画 書を提出させ、課題分析と具体策の実行を指導してきているところでございます。また、 中学校には全校にスクールカウンセラーが配置されておりますが、都立高校については60 校にスクールカウンセラーを週に1日派遣して態勢を整えているところでございます。 また、文部科学省がいたす事業として、問題を抱える子ども等の自立支援事業におきま しては、いじめ、不登校、暴力行為、中途退学、児童虐待の5つの課題について調査研究 を行うということで、都立高校12校に週1回、4時間、臨床心理士を派遣して教育指導体 制を整えているところでございます。 そのほかいろいろやっているわけですが、中途退学の課題がある学校については、14校 ですが、1年次の学級数を1つ増やして少人数指導をしたり、12校に養護教員を複数配置 するなどの対策をしております。 それから、相談機能の充実ということで、東京都教育相談センターが水道橋にあります ‑ 10 ‑ が、ここに中途退学のための相談窓口として、平成17年4月に青少年リスタートプレイス を開設しております。本人や保護者に電話や来所による個別相談や情報提供、関係機関の 紹介等を行っております。 さらに、相談センターからは、家庭や学校の要請に応じてアドバイザリースタッフとい う形でスタッフを派遣し、相談に乗っております。 以上、東京都における不登校・中途退学への対策を、簡単ではございますが説明させて いただきました。都教委といたしましては、引き続き、不登校や中途退学防止のために関 係諸機関と連携を図りながら施策を実施してまいりたいと思っております。どうぞよろし くお願いいたします。 以上でございます。 ○前田部会長 ありがとうございました。 続きまして、「幼少期の親支援」として、「心の東京革命の推進」について、青少年・ 治安対策本部の赤木副参事からお願いいたします。 ○赤木副参事(青少年・治安対策本部) それでは、「心の東京革命」につきまして、 「幼少期の親支援」という観点で簡単にご説明させていただきたいと思います。 「心の東京革命」と申しますのは、東京都の、いわゆる施策・事業とは若干性格を異に すると申しますか、石原知事が平成11年に提唱したもので、資料の一番上にありますとお り、「次代を担う子どもたちに対し、親と大人が責任をもって正義感や倫理観、思いやり の心を育み、人が生きていく上での当然の心得を伝えていく取組」、まさにこういったこ とを家庭・学校・地域・社会全体、民間企業を含めて全体に呼びかけて一つのムーブメン トを起こしていく、一つの社会運動として進めていくという取組です。その社会運動、ム ーブメントを起こすための推進体制として、左上ですが、「心の東京革命推進協議会(青 少年育成協会)」というものを、知事を名誉会長、千葉大名誉教授の多湖輝先生を会長と して組織し、こちらが推進組織となって各方面に呼びかけを行っている状況でございます。 この「心の東京革命」、こうしたムーブメントがなぜ必要と考えたかということで、ち ょっと小さい字で申し訳ないのですが、その下に「心の東京革命の問題意識」ということ で書かせていただいております。この協議会での議論とも若干重なるかと思いますので簡 単にお話しします。 まず、社会の現状として、これは子どもに限らないのですが、自己中心的な生き方が蔓 延し、責任や義務よりも権利を重視するとか、自分の金銭的な価値や物的な価値を余分に ‑ 11 ‑ 重視するような、社会における価値のバランスの崩壊といったような現状を背景に、社会 における基本的なルールを守れない子どもたちが増えているのではないか。この基本的な ルールというのは、そう難しい話ではありませんで、人と会ったらあいさつをするとか、 人の話はちゃんと聞くとか、そうしたレベルの基本的なルールすら守れていない子どもた ちが増えているのではないか。 そうした中で、現在の子どもたちに見られる問題として、この場合は主に問題行動や逸 脱行動を行う子どもたちに見られる特徴ということですが、自己中心的で必要な規範意識 や他者を思いやる気持ちが欠如している。欲望や衝動を抑制する耐性や言葉による問題解 決能力が未成熟である。自分自身を大切に思う自尊感情が欠如している。こうした問題が あるのではないかと。これは、社会全般の少子化、情報化、都市化といった動向が当然背 景にありますし、それに伴って、家庭・学校・地域・社会全体での教育力が低下してきて いるということをバックグラウンドに出てきた問題であるということではありますが、こ のままではいけないと。こうした事態に対して、親と大人、社会全体が自覚を持って、子 どもたちに真正面から相対していきましょうということで、そうした運動を社会全体で起 こしていこうということで取り組まれました。 その目指す方向としては、一番下にありますが、「社会の『きまり』や人との約束を守 る」、「思いやりをもつ」、「自らを律することができる」、「責任感、正義感をもつ」、 「人々や社会のために役立つことに喜びを見いだす」、こういった青少年を社会全体で育 てていこうということを運動としてやっていこうというとこでございます。 その中で、特に「幼少期の親支援」ということで、この間ずっと継続的に取り組んでい るのが、そのすぐ右、「家庭・地域への働きかけ」ということで「心の東京塾」というも のを平成14年から実施してきております。これは、若いお母さん方を対象にして、幼稚園 や児童館、保育園、あるいは地域の公民館みたいなところを使って、若いお母さん方にと っては、子育ての先輩であるような年配の女性が多いのですが、そうした方に、グループ ワークでの技法といったことを研修していただいてアドバイザーという形になっていただ いて、子育てについてのグループワークを継続的に実施してきております。 テーマとしては、しつけに関するということで、あいさつをさせるとか、子どもをしか るにはどうしたらいいか、手伝いをさせるにはどうしようかというようなことをテーマに して、みんなで話し合いをして、これまでの自分の子育てのあり方、自分の姿勢を、一方 では反省し、あるいは、他の人々のいろいろな知恵とか共通の悩みなどを知って、一方で ‑ 12 ‑ は安心もしということで、あしたからの子育てにヒントを得て、また立ち向かうお力を得 ていただくというようなことでやってきております。その「心の東京塾」は、年間100前 後、各地域で実施してきておりまして、開始からの通算の、延べですが、受講者数が今年 度で1万人を突破しまして、現在、1万1,000人ぐらいという状況でございます。 この「心の東京塾」のためのテキストといいますか、グループワークのワークブックと して、「子育ての手引き あ・い・う・え・いくじ」と、そこに表紙の絵が載せてありま すけれども、これを作成して頒布しております。これは、3歳から就学前の子どもを持つ 保護者の方をメインターゲットとしてつくっております。 すみません、説明を一つ飛ばしてしまいました。この社会運動の呼びかけとして、この ペーパーの一番上に戻りますけれども、「心の東京ルール〜7つの呼びかけ〜」というこ とで、そこにある7項目、「毎日きちんとあいさつさせよう」から「子どもにその日のこ とを話させよう」まで、この7つの項目を呼びかけとして整理して皆さんに訴えかけてい るところ、「あ・い・う・え・いくじ」についても、この7つの呼びかけ、あいさつ、し かる、手伝い、がまん、人をうやまう、子どもをきたえる、話をさせる、この7つの項目 に沿ってそれぞれどうやっていったらいいかを考えるためのワークブックとして構成して おります。これを使って若いお母さん方に話し合っていただくという活動を進めてきてお ります。 そのほか、社会運動ということですので、いろいろな機会やメディアを使い幅広く訴え ようということで、右側にありますとおり、「普及・啓発活動」、「区市町村・民間団体 等との協働」ということで、一つ一つのご説明は省略させていただきますけれども、さま ざまな活動を実施してきております。 一つだけ、右上に「親子の絆コンサート」とありますけれども、これが、妊娠中の母と 父親、あるいは、小さなお子さんをお持ちのご両親を対象に、多湖先生の幼児教育に関す る講演とピアノの演奏とをセットにして、子育てに関する知識、考え方とリラックスする 時間とを同時に提供するということで行っている事業もあります。そうした形で、今後と も、社会運動ですので、これでどこまで成果が出たというのは難しいのですけれども、訴 えを続けていきたいと考えております。 簡単ですが、以上で終わらせていただきます。 ○前田部会長 ありがとうございました。 最後に、「子育て家庭への支援事業」について、福祉保健局計画課のほうから順にご説 ‑ 13 ‑ 明いただけますか。よろしくお願いいたします。 ○西尾係長(福祉保健局) 私、福祉保健局少子社会対策部計画課計画係長の西尾と申し ます。本来ならば、計画課長の角田がご説明するところでございますが、急用がありまし て、私が代理でご説明させていただきます。 それでは、資料6「子育て応援都市東京・重点戦略」について私からご説明させていた だきます。 私ども、昨年6月に、局を横断して総合的な子育て支援対策を推進していこうというこ とで、子育て応援戦略会議という局横断会議を立ち上げております。山口副知事を座長と して、13部局にわたるさまざまなセクションが、いろいろな角度から子育て支援策を検討 しまして、その成果が、昨年12月21日ですが、「子育て応援都市東京重点戦略」として策 定させていただきました。今回は、その内容についてご紹介させていただきたいと思いま す。 まず、左の「現状と課題」です。課題としては大きく3つあるだろうと考えております。 まず第1が、働き方の見直しが必要なのではないかということ。第1子の出産を機に、女 性の約7割が離職するという現状があります。それから、男性の育児参加がまだまだ足り ない。こうした現状を踏まえて働き方の見直しが必要なのではないか。これが一つの視点。 もう一つは、都内における保育所の待機児童数。これは毎年5,000人前後で推移しており まして、今年度においても都内で4,600人の待機児童数があります。こうした待機児童解 消のための短期集中的な取組が必要ではないか。これが2つ目の視点です。もう一つが、 子育て中の親御さんの約9割が、社会全体で温かく見守る雰囲気が欲しいと。裏を返せば、 子育て家庭に対して、環境的に冷たいところを感じるということがアンケートで示されて いる現状がありまして、そうしたことから社会全体で温かく見守る雰囲気をつくることが 必要ではないか。こうした3つの視点から、私ども、「3つの目標と11の重点戦略」とい うことで策定させていただいております。 まず目標1ですが、「子育てと仕事が両立できる雇用環境」を整備する。ワーク・ライ フ・バランスが今重要なこととして言われているわけですが、この両立支援のための雇用 環境整備は非常に重要な視点です。具体的な施策としては、重点戦略1、2、3とありま すが、例えば重点戦略2は産業労働局の事業になりますが、育児休業の取得促進が重要で はないかと。今、大企業では、育児休業制度は相当普及しておりますが、中小企業におい てはまだまだ制度の普及、取得率が低いのではないか。こうした現状に対して、育児休業 ‑ 14 ‑ 代替社員の雇用経費を助成していこうという施策を考えているところでございます。 それから、目標2です。「多様な保育サービスの競い合いにより、大都市東京にあった サービスを拡充し、待機児童5千人を解消する」と。先ほど、今年度においても4,600人 いるということで、こうしたことで一気に待機児童解消というわけにはいきませんが、少 なくとも、今までのペースよりもさらにアクセルを踏み込んで保育サービスの拡充をする 必要があるのではないか。 具体的には、「保育サービス拡充緊急3か年事業」ということを私どもは考えていまし て、今まで、過去5年間で、実は1万7,000人分の保育の定員数を増加させてきておりま すが、これでも依然として5,000人という待機児童数が変わらない。それでは、今後3年 間でもっとペースを上げていこうということで、3年間で1万5,000人分の保育定員を確 保しようという計画です。具体的な施策としては、今、マンション等に併設する保育所が 非常に増えております。土地の事情とかいろいろありますが、こうしたものを積極的に設 置・促進していこうということで補助事業を考えております。 もう一つが無利子貸付制度によって、認証保育所等をもっと設置促進していこう。こう したことを考えております。 それから、こうした保育所とは別に、さまざまな保育サービス、緊急的・一時的な保育 ニーズということで重点戦略5で挙げておりますが、病児・病後児保育などの充実も子育 てと仕事の両立支援には欠かせないのではないかということで、事業の充実を図ってまい ろうと思っています。さらに、乳幼児の一時預かりサービスの推進ですが、就労している、 していないにかかわらず、理由を問わず、リフレッシュのためにお子さんを一時預かりし ていこうというサービスで、区市町村ではいろいろ広がりつつある事業ですが、これを都 としても促進していこうと考えております。育児に関するストレスを軽減することで、ひ いては、虐待とか子育て不安を解消していくことを考えております。 それから、重点戦略7ですが、例えば若い親御さんで、初めての子育てで子育てのスキ ルがない、核家族化で地域で孤立している、そうした子育て家庭の方々に、子育て支援拠 点の強化、これは具体的に「子育てひろば」というものがありまして、親の交流を目的と するような場を広げていく。それから、「子育てひろば」そのものに子育ての相談機能を 充実していこうと考えています。もう一つが、親の子育て力向上支援ということで、今、 区市町村でも相当広がっているところですが、子育てスキルが不足している親御さんを対 象としてグループワークを実施しているところが増えています。これは非常に重要なこと ‑ 15 ‑ であると私どもも考えておりまして、実施している区市町村を補助事業によってさらに後 押ししていこうと。そうしたことで、ひいては虐待の未然防止につながるのではないかと 考えております。 目標3に移りまして、「社会全体で子育てをあたたかく見守り、支援する」ということ で、重点戦略8になりますが、「子ども連れでも気軽に外出できる環境の整備」を行いま す。乳幼児のお子さんを持つ方はなかなか外出しにくい環境にあるということで、こうし たことを解消するため、具体的には、授乳やおむつがえができる「赤ちゃんのオアシス」 を都内に600カ所、中学校区に1カ所という計算で600カ所整備していこうと考えておりま す。実は、既に板橋区で、「赤ちゃんの駅」ということで100カ所以上のこうした設備が あり、非常に好評を博していることにヒントを得て全都的に展開していきたいと考えてい る事業でございます。 その他、住宅環境の整備や、非常に重要なところですが、医療体制の整備等の事業も盛 り込んでおります。 こうした施策で、全庁を挙げて、今後、来年度を初年度として3年間、総合的な子育て 支援策を推進していきたいと考えております。 それから、「推進体制」として、「子育て応援とうきょう会議」というものも立ち上げ ております。今、申し上げた子育て応援戦略会議は都庁の局横断会議ですが、とうきょう 会議は、企業、NPO、大学、いろいろな事業者さんに集まっていただきまして、社会全 体で子育てを応援するにはどうしたらいいか。これを検討しながらいろいろな施策を打っ ていきたいと考えております。 以上、子育て応援都市東京重点戦略の説明は終わります。 これから、資料7の「要支援家庭の早期発見・支援事業」について少子社会対策部の田 村からご説明いたしますが、先ほど、なかなか子育てスキルがない親御さんとか、地域で 孤立している親御さんに対する支援の話をしましたが、ちょっと心配な子育て家庭をどう やって発見していくか、そうした仕組みについて、私ども、新しい事業を考えております。 そちらの説明をさせていただきたいと思います。 ○田村係長(福祉保健局) 子ども医療課母子保健係長の田村と申します。よろしくお願 いいたします。 私からは、主に母子保健事業を基点とした要支援家庭の早期発見支援事業の取組につい てお話をさせていただきたいと思います。ここで、支援を要する家庭を一括りにして言っ ‑ 16 ‑ てしまうのですけれども、ここでの定義を簡単にまとめておいたほうがいいと思いますの で、右側の三角形の図のほうにまとめさせていただきました。 子育て家庭は、子育てだけではなくて生活の中でいろいろな課題があるので、例えば経 済とか教育、医療であるとか、さまざまな支援を必要としているのですけれども、ここで は、特に家庭機能の不全の最たる重症例が虐待ということですし、東京では虐待の相談件 数が年々上がってしまっておりますので、虐待予防の観点から要支援家庭をとらえ、その 保護者の状況、子どもの状況、養育環境に何らかの問題を抱え、それを放置することで養 育が困難な状況に陥る可能性がある家庭としております。 下の三角形の図のように、健康群から虐待群までいろいろなレベルで保健医療の世界で は家庭をとらえるのですけれども、非常に多いのはやはり健康群であることを私たちは忘 れてはいけなくて、多くのお母さん方は、育児不安などがありながらも、いろいろなサポ ートとか自己解決力で解決していきますし、このそれぞれの層が簡単に4つに分かれるも のではなくて、それぞれやはりグレーな部分を持ちながら相互に行き来していることも忘 れてはいけないと思っております。 なにがしかの社会的なサポート、必要な支援、必要な人々、機関につなげることで、子 育ての不安、家庭の機能を回復していける手立てがある方々に対しては、要支援家庭とし て、できるだけ早いうちにそのリスクを発見することが求められていると思います。 右側の図に移りまして、現在、母子保健事業がどのように行われているかということで すけれども、平成9年に地方自治法と母子保健法の改正がありまして、身近な住民サービ スとしての具体的な母子保健事業については、区市町村が実施主体となっております。母 子保健事業が要支援家庭を早期に発見する上で、日本の母子保健事業のすぐれた点が3つ ありまして、まず1点目として、下の図にたくさんの事業が段階的にありますが、体系的 また重層的に3歳児まで構成されているということがあります。特に、母子健康手帳の交 付という制度については、全数を把握し、その妊婦さんを把握するという母子健康手帳の 交付は日本固有の施策でありまして、海外は、どちらかというと医療保険の中で妊婦健診 などをやりながら、保健局などがバックアップしていますけれども、行政が主体となって、 妊婦さん、母親の状況を体系的に把握できるという点は日本の母子保健が持つ大きな特性 と思っております。 また、保健ですので、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチとあります が、事業が全数のお母さんを対象につくられていますので、その中で、より多くの健康な ‑ 17 ‑ 方々、支援が必要な方々全体を見回した中で、その家庭が置かれているリスクの状況を客 観的に見ていくことができるという利点があります。そのリスクに応じてハイリスクのア プローチをしていけるという特色があります。 3点目に、主に母子保健事業を行う保健センター、保健所などでは、複数の専門職がお りますので、1人、2人の判断ではなくて、多くの判断で、複数の視点でその家庭の健康 度などをはかるという、客観性や、また、フォローの面でもすぐれた面があります。 下の表で、具体的にこのような母子保健事業を使いながら、どのように要支援家庭を発 見していくかという具体例については、例えば、母子健康手帳は、妊娠初期症状が始まる と言われている9週から11週までに妊婦さんに妊娠届を出していただいて母子健康手帳を 出すことが望ましいとされているのですが、母子健康手帳の交付の時期は、妊娠判定薬や 不妊治療などの影響もあると思いますが、年々早い傾向にはなっております。やはり行政 が妊婦さんとかかわる最初の機会なので、このときに保健師さんによる全数面接を行って いる実態であるとか、人口が多いところでは、区役所とか戸籍課のようなところで母子健 康手帳を交付するのですが、そのときに子育てアンケートのようなものを配って、それを 見ながら、その専門職につないでいくといったような取組を今後は広げていきたいと思っ ております。 それから、妊娠期のサービスとしては、妊産婦健診、こちらについては受診をきちんと 受けていただくということで、未受診者のフォローが今後は大切になってくるのかと思っ ております。 あと、具体的な例で申しますと、新生児訪問では、産後うつ病のリスクを早期に発見す るために、エジンバラ式産後うつ病質問票の活用などが、実際に練馬区とか先駆的にやっ ているところもありますが、進めていきたいと思っております。そのほか、乳幼児健診で のスクリーニングなど、各時期に応じた有効な要支援家庭の早期発見への手段があります。 ただ、都内の区市町村は、地域のいろいろな特性がありまして、お子さんが生まれるのが 2人ぐらいの青ヶ島から6,500人ぐらいの江戸川区まで、お子さんが生まれる数も、母子 保健事業にかかわるスタッフの数も、地域の特性も異なるところがありますので、各区市 町村の地域に応じて、どのやり方がその区市町村に一番ふさわしいのかといったことを、 私どもと相互に連携しながら、その地域に合ったやり方で、できるだけ支援が必要な方を 早期に見つけて必要な手立てに結びつけたいと思っております。 一方で、母子保健事業は、狭い意味での母子健康手帳の交付から3歳児健診ですけれど ‑ 18 ‑ も、やはり限界がありまして、基本的に妊娠届を出していただく方が対象になるという面 があります。広義の意味での母子保健事業では、例えば、妊娠したら妊娠届を出すとか、 妊婦健診を定期的に受けるとか、望まない妊娠・結婚・出産を防ぐとか、思春期保健教育 であるとか妊娠・出産についての正しい知識の普及啓発などが必要と思います。やはり事 案の性質上基本的に、どうしても、今は父親の方も両親学級や各種健診への参加率は高ま っているのですけれども、母親の体も診るということが事案の特性ですので、父親への関 与度がどうしても低くなってしまっております。 そういう意味では、例えば、民間でやっているファザリングの団体であるとか、妊娠期、 出産期の教育をやっていらっしゃる団体とか、地域のさまざまなネットワークを活用しな がら、網の目を張りめぐらせていって、親御さんはいきなりお子さんができて親になると いうわけではないので、長いスパンで、要支援家庭の未然防止に着手していくことも私ど もの今後の課題かなと思っております。 私からは以上です。 ○前田部会長 ありがとうございました。 もちろん子どもを軸にしているわけですが、多岐にわたるご説明をいただきました。ご 関心のある部分について、各委員からご質問、ご意見をちょうだいしたいと思います。ど なたからでも構いませんのでよろしくお願いいたします。 ○小島委員 小島でございます。ご報告、どうもありがとうございました。 ひきこもりから出産まで、まさに出産時のときから起きた問題がひきこもりまでずっと つながっていくということがよくわかりました。実際、私も今、高齢化しているひきこも りの青年のカウンセリング、家族問題のカウンセリングなどを現場でやっていますし、就 労の問題、進路、不登校などずっとかかわっていますけれども、ご提案というか、ちょっ と考えていただきたいと思っていろいろな自治体にもお声かけはしているのですけれども、 取組が難しい。東京都であれば、何らかの形ができるかなと思いました。 私はずっと就労の困難者に支援をしていて、日本の就労問題が解決するためには、新し い職種創出をしていかなければいけないとずっと思っていました。特に、就労問題は福祉 問題の結果の問題が大きいのではないかと思っていました。今、子育て支援の困難家庭を 見つけだしていくというか、早い段階で超早期対策をしていくというのは私も全く同じ意 見ですけれども、こういう家庭の中の、実際に訪問に、一緒に研究のためについていった ときがあるのですが、2代、3代と続いているんですね。要は、生活保護指定の家庭は、 ‑ 19 ‑ 2代目、3代目になっていて、そこにもうある一つの文化が生まれている。そこから生ま れている子どもたちが集団生活に溶け込めず学習困難児になって、不登校、不就労、そし て長期化の非社会的存在になっていくということです。 そのために、今、既存の、日本にある雇用体制の中に入っていくために、さまざまな職 業能力開発を、私自身も10年間現場でやっていたのですが、やっても、どうしても、基本 的な文化、理解力、要するに人間関係の理解力等に問題が見えないところがあるので困難 だと。 では、どうしたらいいかといったときに、一つ言えるのは、彼ら自身が就労できるよう な職種を公共の現場の中から生むことはできないかということと、もう一つは、今、何度 も皆さんの報告の中にあった社会の問題であるというときに、無関心という言葉が出てき ましたけれども、私が今、関西地域でやっているのは、無関心層にどうやって訴えかける かということが起きない限り、社会の取組として解決できないということで、商工団体と かいろいろなところに、私がやっているのは尼崎市ですが、尼崎市というのは大変いろい ろな問題を抱えているところで、そこで今、就労問題の座長をさせていただいています。 そこで、尼崎市の市長にお願いしまして、尼崎市は環境市の宣言をしますと。若者環境都 市になるということで、要するに、若者にとって尼崎市が全市を挙げて取り組むのだとい うスローガンを掲げています。そして、商店街には、さまざまなチラシを貼ってもらった りして喚起してもらっているわけです。 私たち社会の中で一番の財産であるのは、若者であるということを一人一人にわかって いただいて、そのためには、専門的なサポーターだけでなく、一般社会の人たち自身も、 自分たちが持っている固有の能力をそこで還元してもらえるように、例えば、今、出まし たけれども、子育て支援の場合は、正直申しまして、ワーク・ライフ・バランスの両立と いうことに対してはどちらかというと懐疑的です。私も30年近く働きながら家庭で子ども を育てましたけれども、実際に両立は不可能です。起きている時間のほとんどを職場にい ますので。両立というのは、同じだけで立つと。並立するためには一人の力ではだめです。 実際に働きながら、ほとんどの収入を子育てのために使っていて、実際には二重、三重保 育をしないとできなかった。じゃ、保育先は、自分が望んでいる教育環境に合っているか というと、合わない。 そういう問題を考えていくときに、一番必要だと思ったのは、やはりホームワークの支 援者でした。日本は、どうしてもお手伝いさんという形で他人が家庭に入ることは、核家 ‑ 20 ‑ 族になってからは、あまりよしとしていなかったのですけれども、今、実際に見ていくと、 孤立する家庭を補っていくためには、第三者的な健全な社会が介入していくことも必要だ と思いますので、東京都の中に、例えば東京都知事の認定のホームワーカーのヘルパーさ んがスペシャリストとして職業訓練をして、育児や家庭の家事、家庭問題についての相談 をしながら従事するような、新しい職種創出を生むことによって、雇用の創出と社会の健 全化みたいな大きな仕組みができてくればいいのではないかと思いました。これだけ具体 的に調査・研究ができていて、具体的な施策ができていれば、今度は、実際に運用する都 民を育てていく現場が起きたらいいのではないかと思いました。 長くなりましたけれども、以上です。 ○前田部会長 私から委員に質問するのはあれですが、職種の創出の問題と、最後のとこ ろで、ホームワークの支援者の問題が結びついて、職種の創出の一つの例としてというこ とですね。繰り返しというか、つながっていくようなものを断ち切るための新しい職種の イメージは‥‥。 ○小島委員 実際に沖縄県で、私は、就労コーディネーターというものを3年間かけて養 成しました。というのは、さまざまなところで就労支援をしている人だけでなく、沖縄県 も母子家庭が非常に多くて、基地問題の関係でさまざまな困難な家庭があります。そうい うことを支援するためには実際の現場を知らなければいけないということで、2年間、徹 底的に現状把握をした上で、どういう支援が必要なのかということで支援プログラムをつ くって、なおかつその人たちが、専門の対象者をある程度決めて就労の支援をやっていこ うということで、学校支援と母子家庭視点、中高年支援、女性の再就職支援みたいな形で、 コーディネーター養成をしました。これは、実際にこれから動き始めるのですけれども、 今、しごとセンター等にキャリアカウンセラー等はたくさんいますし、私自身もキャリア カウンセリングをやっていますけれども、実際の問題でいくと、現場の中で、さまざまな 専門的なスキルの必要性がありますので、あまり細分化するのはよくないかもしれないの ですけれども、問題解決するためには、若干専門性を出してわかりやすくしたほうがいい のではないかというのが私の持論です。 ○前田部会長 ○篠崎委員 それでは、篠崎委員、お願いいたします。 自分の関心領域に近いところの話で言うと、若年雇用就業対策に関して、産 労局で行われている幾つかの政策の説明がありましたけれども、私の理解ですと、資料2 の「主な取組」の中に5つの取組が書かれています。例えば、①や⑤は職業訓練的なもの、 ‑ 21 ‑ ②はサポート側のさらに支援という形、③は就職活動の導入部支援みたいな形ですよね。 ④は、企業にお願いをして、若者への支援を行うというような形だと理解したのですが、 それを踏まえた上で、やや雑駁になりますけれども、ここには、企業側に対する対策が少 ないという印象を持ちました。本当に雑駁で申し訳ないのですが。 職業訓練にしても、NPOの支援にしても、就職活動の導入部の支援に関しても、すべ て若者に何かをさせようとか、あるいは、若者に何かをしてもらうためにその回りを支援 するとか、そうしたことは熱心にされていて、実は、私はきょう初めて見たものも幾つか ありましたけれども、企業との連携、企業と協力をさらに超えた、これは過激なことを言 うかもしれませんが、例えば、年長フリーター解消のために、企業に対して助成金を出す とか税制優遇をするとか、そうした考えはないのでしょうか。そういう雑駁な質問ですが。 もし、お考えになっていることがあればお聞かせいただきたいと思います。 ○前田部会長 よろしいでしょうか。産労局のほうで、もし可能であればお答えいただけ ればと思います。 ○増田副参事(産業労働局) 先生ご指摘のとおりだと思います。今回ご説明させていた だいたのは、私が所属しているところが雇用就業部ということで、求職者の対策を主にや っているところですので、基本的には、若者に対する支援策という形になっております。 ただ、私どもの商工部では企業への支援を実施しておりますので、企業と連携して、中 小企業への人材確保とか、そういう取組も実施しております。全体としてのそういう部分 が抜けたところがありまして、そこはご了承いただければと思います。 それから、企業への助成金等の支援については、今、主に低所得者対策の関係で、そう いう中に当然ながら若年のフリーターなども含まれているわけですけれども、そうした方 に職業訓練を実施しまして、その間の生活資金も助成して、その後に採用した企業に対し ては、一定程度の助成金を出すといったような新たな取組を現在検討しているところでご ざいます。 ○前田部会長 ○篠崎委員 ○前田部会長 ○大塚委員 よろしいでしょうか。 はい。 ほかの委員のほうから、どなたでも、また、どんなテーマでもどうぞ。 きょうのお話を拝聴しまして、非常に充実した政策をしていらして、もう行 政として考えられることはほとんどやっていらっしゃるなと大変感銘を受けました。そう すると、全体として、これはもうわかっていらっしゃることかと思いますが、例えば、母 ‑ 22 ‑ 子手帳は妊娠届を出した人だけであるとか、働きかけて、それにこたえてくれるという人 というのは、実はもともと問題がない人ということが全般的な状況としてあるわけですよ ね。 私が興味を持ったのは最後の三角形で、これ以上効果的に施策をしていこうとすると、 どうしてもピンポイントで絞って働きかけていくという方向性をとらざるを得ないかなと、 聞いていて感じました。 私が質問させていただきたいのは小島先生ですけれども、先生が2代、3代続いてきて 一つのカルチャーをつくっているとおっしゃったのですが、それについてもう少し具体的 にお教え願えたらと思います。 ○小島委員 私が今、実態調査をしているところは尼崎市と沖縄県ですので、ここはちょ っと、ある意味、特殊な事情がたくさん絡んでいるので、そこだけで話すことは危険だと 思うのですが、まず、早婚です。早婚家庭の中で子どもが生まれてしまうと、何が起きて いるかというと、その早婚の母親はきちんと時間をかけた母性の中で育まれていませんの で、早婚するときの理由が、基本的に、愛情の欠落で自分の存在を確認したいために異性 に求めていくコースが多いわけです。その中で子どもが生まれるのですが、自分自身の中 での幼児性がまだ抜けていないので、例えば子どもをほかの人がかわいがったりすると、 そこに対する嫉妬が生まれたり、子ども自身をどう育てていいのかということがわからな い。 私がケースで持っている親子の場合は、男の子2人ですけれども、下の子と上の子の父 親が違っていて、母親自身が32歳ですが、2代、3代という生活保護世帯で、おばあちゃ んがまだ49歳で私と同い年でした。そのおばあちゃん自身も、自分の子どもよりももっと 下、孫よりも下の子どもを持っていて、そのおばあちゃんの母親もまだいるわけです。そ れが結構近いところにいるのですが、実際に親子関係として起きているのは共依存です。 要するに、自分たちの親子関係のさまざまな軋轢をすべてその中で憎悪のような形で出て いるので、大変なときに助けてあげようということがない。自分が大変なときになぜあな たはやってくれないのか、みたいなことが続いているわけです。 実際、そこに市のケースが入って、尼崎市には就労相談員という非常勤のかかわりを持 っている人が8人ぐらいいまして、そこへ、何とか就労させようと思って訪問するのです が、子どもの問題よりも、32歳のお母さんを何とか自立させようということで、職業訓練 施設への入校を勧めたわけです。そこでやろうとしていたのですが。 ‑ 23 ‑ 私も職業訓練校で14年間教えていて、皆さんは現実的ではないと思われるかもしれませ んけれども、これは本当の話で、中学校を卒業していても、ローマ字が書けない、読めな い。ローマ字が書けない、読めないと、今、ここの資料の中にもパソコン、ITとありま したけれども、パソコンを教える初期の段階ができないわけです。「ka・ki・ku・ke・ko はできても、「kya・kyu・kyo」は書けない。そういう人たちは決してレアケースではな くて実際にいます。 そのお母さんも実際にそういう学力だったわけです。識字率が高いと言われている日本 の中で、実際に職業訓練校の入学試験には「中学卒業程度」と書いてありますけれども、 「この題について」の「題」の意味がわからなくて白紙答案を出してしまったと。結局、 今度は、自分があまり読み書きができないことに対して、その相談員に知られたくないと いうプライドがあるわけです。そうすると、基本的な部分で言うと、子どもが小学校に入 って、この宿題教えてと母親に言っても、本当は教えてあげたいけど、わからないから、 そんなの面倒くさいと子どもを離してしまう。かといって、今度は、学校に持っていかな ければならないものもわからない。それから、学校からのお知らせがよく理解できないと いう家庭があります。 そういう人たちは、住んでいる場所が低所得ですから限られていますし、相談をしよう にも、そういうところに行ったら、市に行くんだよとかいう形がとれていない。ですから、 社会の中でどんどん孤立するというか、集団化していく。そこにある文化というのは、結 局、生活保護をもらうことが唯一の手段ですから、どうやったら生活保護を切られないか ということだけが大きな目標になってきて、よけいな働きをすると生活保護をもらえなく なるということが、親子の中での伝承としてできてきてしまうわけです。 そういう知恵が長けてきて、自立するための自助努力を放棄する、放棄せざるを得ない わけです。これを読んでおいてね、こういうのを書いておいてねと、いろいろな仕掛けを しているのですけれども、基本的な部分で言うと、そこに落ち着いてしまうわけではない のですが、30歳を過ぎて、社会的に見れば一応大人に見える人が文字の識別ができないと いう問題は、なかなか難しいと思います。 ○大塚委員 そうすると、そういう人にふさわしい新しい職種のイメージについてお話し いただけますか。 ○小島委員 職種を持つまでに、まず字を読み書きしなければいけないわけで、そういう 方たちは、私は実際に会ったのですが、ちゃんと受け答えはできるわけで、じゃ、勉強し ‑ 24 ‑ ようねとは言えないわけです。すごくプライドがあるから。 今、働きかけているのは、公民館活動の中で、外国人就労者が多くて、そこの子どもた ちも日本語の中に同化していくことが難しいので、今年、プログラムをつくって、来年ぐ らいからちょっとケーススタディで走らせようかと言っているのは、外国人労働者の子ど も向けに日本語教室を開こうと。そこに、その人たちが清掃スタッフのような形で入って もらう。その人たちに日本語を覚えなさいというか、30を過ぎて、一緒に国語教室をやり ましょうと言っても絶対に来ないんです。であれば、そこにかかわっていくことによって 自尊感情を呼び起こそうかということを考えています。 ですので、基本的には、行政の中で、清掃スタッフやメール集配みたいな形をやってい くとか、そんなに大変な就労をいきなりポンとやるのではなくて、週に1回、2回、緩や かで薄いつながりを持つことによって、必要不可欠な知識を徐々に‥‥。ですから、その 人たちを短期につくろうというよりも、5年、10年、ゆっくり時間をかけてもいいから、 社会とつながるようにできないかなと考えています。もう長い期間をかけてそうなってい るので、短期の何かのトレーニングで何かの職に就けるとは、正直申し上げて、あの現場 を見ていて、私は思えないです。 以上です。 ○前田部会長 ほかに。 では、西村委員、大葉委員の順にお願いします。 ○西村委員 本当に広い範囲のテーマについて貴重なご報告をいただいて、大変勉強にな りました。 私は、3〜4年前に大田区の青少年問題協議会の委員を委嘱されたときに頂いた、「心 の東京革命」などの資料を拝見し、正直なところびっくりしました。青少年の健全育成に ついてここまで緻密に問題を整理分析し、その具体的対応を含めお考えになっておられる と同時に、かなり多くの優秀な方たちが、これらの問題に熱心に取り組んでおられるのを 知り、非常に感銘を受けました。要は、これをどうやって実践し、効果を上げていくかと いうことだろうと思います。 つまり、現在の諸問題に的確に対応し、それを少しでも良い方向に解決していくと同時 に、これからこういう問題を持った青少年を発生させないという両面の努力が大変必要だ と思います。短期的な対策と中長期的な対策ですが、そのためには、行政だけでなく、い ろいろな方からお話がありましたように、NPOとか、地域社会全体とか、特に、産業界 ‑ 25 ‑ を含めた協力のネットワークが必要だと思います。 既に、「心の東京革命推進会議」とか、「子育て応援とうきょう会議」とか、そういう 横断的な会議体ができているのは非常に結構なことです。しかし、こういう問題に関心が ある人はたくさんいるのですが、具体的な情報や知識を持っている人は極めて限られてい ると思います。せっかくこのような的確な問題提起と対応策を、もっと地域や企業も巻き 込んで、共通の認識にして協力体制をつくっていかないと、大変もったいないという感じ がいたします。 ある先生も申しておられたように、いろいろなアクションをとっても、例えばセミナー をやっても、出てこられるのは十分に問題がわかって、そうだ、そうだという人が多いけ れど、これらの問題を本当に聞いてほしい人はなかなか出てこない。そういう人にどう伝 え、認識を深めるかが課題であります。 そのためには、いろいろな媒体で、いろいろな形での粘り強いPRが必要だと思います。 テレビや新聞では、毎朝、毎晩、考えられない凶悪な犯罪、詐欺、偽装、汚職だの、それ に世界的な紛争、重油の暴騰、株価の暴落など、加えて青少年非行など、暗い嫌な話ばか りで、滅入ってしまいます。 しかし、問題を抱えている若者もたくさんいることも事実ですが、すばらしい若者、す ばらしい活動をしている若者もたくさんいます。企業についても、偽装とか、企業倫理を 疑う事例があり、また、利益中心主義、成果主義で、人間を粗末にしているイメージだけ が報道されていますが、多くの企業は、みんなそれぞれの役割と使命を自覚し、着実に仕 事をしております。だが、そういうのはニュースにならず、非常に例外的なものが大きく クローズアップされ、たたかれている。 最近の格差論争も、私は大変疑問を持ちます。格差、ワーキングプアといった言葉だけ が一人歩きして、問題の実態や本質からずれて、不安や不満だけの増幅を狙った表面的な 論争になっているように思い、大変遺憾であります。 テレビ、新聞などのマスコミは、暗いニュース、一部の例外を大きく取り上げがちな本 性を持っていますが、明るく着実な活動のニュースももっと報道して欲しいものです。東 京都も幾つかのスポンサーの番組を持っていますし、NHKも例えば、「鶴瓶の家族に乾 杯」「ようこそ先輩」、以前は「プロジェクトX」、いまは「プロフェッショナル」など の良い番組を持っていますが、全体の報道量からするとまだ少ないと思います。 偏った暗い報道が、今の若者から夢や希望を失わせて、自分は世の中の役に立たない、 ‑ 26 ‑ 自分の役割は期待されていない、自分は不幸な状況に置かれていると誤解や思い込みが悪 循環になっているような感じがします。是非、せっかく良いことをされているのですから 広報、PRに一層のご努力を期待しています。 同時に、私は唯一の企業出身者として、企業も決して捨てたものではないと申し上げた い。多くの企業は使命感を持っておりますし、青少年問題、若手人材の育成問題について も、非常に関心が高くなってまいりました。例えば、職場体験とかインターンシップ、そ れから、学校の先生などを積極的に受け入れて職場体験をしていただくとか、そういう企 業も増えてきていますので、個別企業や企業の団体にも、敬遠されずに協力方を是非要請 して頂きたい。 それから、企業人と消費者が対立する論点が、極端にならないことも望みたいと思いま す。生産者、企業人は、同時に企業市民であり、生活者、消費者ですから、仕事をしない 非社会的な若者が増えることは、それだけ消費力が減り、結局企業に跳ね返ってくるわけ で、当然関心を持つべきものであります。是非、行政、地域、NPO、教育界、横のつな がりを一層強めて頂きたいと期待を申し上げて、意見といたします。 ○前田部会長 赤木副参事から、特にはよろしいですか。 ○赤木副参事(青少年・治安対策本部) おっしゃるとおりだと思いますので、努力させ ていただきます。 ○前田部会長 ○大葉委員 では、お願いします。 たくさんのご報告を受けまして、多数の局と、13部あるということで、連携 とその実現化に、今後3年間でぐっと具体的な青少年問題も減らしていく策が始まるのか なと、お聞きしながら興奮しました。 ハード、フレームがこのようにできているということは、今後の東京都の育児というも の、青少年のそうしたいろいろな問題が減っていくということは、すごく効果的な対策だ と実感しました。いよいよこれからは、実際にはソフトの部分とか実現のマネジメントの 部分、連携の部分だなという印象を受けました。 特に、私もこの委員のほうに応募させていただいたときに提言に書かせていただきまし たのが、今、幼少期の親支援を充実させることによって、15年後から発生して青少年問題 を激減させる、低減させることができるのではないかということを書かせていただきまし た。特に、私の仕事が、出産準備教育や青少年のそうした望まぬ妊娠防止策ですので、要 支援家庭の早期発見・支援事業のところで、こうした提案はどうであろうかということの ‑ 27 ‑ 意見を述べさせていただけたらと思います。 まず、父親への関与度が低いということで、もちろん、母子保健ということで、母子手 帳も日本だけのすばらしいシステムですけれども、私の場合は、父親の育児の関与度こそ 行政でうんと力を入れていただきたいと思います。民間だけに任せておくのは、もちろん リンクは大事ですけれども、ソフトそのものを、科学的根拠に基づいて行政で立ち上げて いただきたいと思っております。 例えば、思春期でのそうした教育も必要であるということがご報告にもあったのですけ れども、学校の家庭科で、例えば未来の育児支援ということで保育園に見学に行ったり、 粉ミルクのつくり方のようなものが家庭科の教科書にあるのですが、実際に粉ミルクとい うのは、ユニセフも、WHOも、今は母乳推進のキャンペーンを全世界で1985年から力を 入れておりまして、やはり母乳を与えたほうが母親の精神が安定しやすい。自分が持って いる生理モデルを発揮できるほうが母親の自尊感情が高まりやすいということもあって、 世界的に、母乳育児が成功するようなサポートが提供されています。 しかし、思春期のときに学校の家庭科で学ぶのがミルクのつくり方ですと、青少年たち が健康モデル、本来、自分自身が持っている生理的な機能であったり、精神的な感受性に よって成長するというプロセスが、そこでもうゆがんでしまっているということを大変も ったいなく感じていましたので、これは教育庁の皆様とも連携していける部分だと思いま すので、青少年の段階で、夫婦の協力であるとか、育児の健康モデルについて知る機会を もっと増やすチャンスはいっぱいあるということをご提案申し上げたいと思います。 また、父親の準備教室も、第2子出産動機が夫の育児参加率に左右されるという論文は 世界じゅうで出されておりますし、夫婦関係満足度が育児満足度に関係するということも 社会学のいろいろな分野でも報告されておりますので、こちらも、先ほど申し上げたよう に、ぜひとも行政でフレームをつくって、そこに自治体ごとにいろいろトライアルされて いるものとか、NPOがなされているものとかを取り込んでいくことが理想のフレームワ ークではないかと思っております。 私も昨年、2度ほど、中野区のほうで父親育児参加率増加のためのプログラムをトライ アルでさせていただきまして、今後、定期的な開催になるかもれませんが、父親たちは情 報を求めています。現在、各区市で母親教室は必ず行われていますよね。そこで父親も参 加できる週末両親学級なども、私も3区ほどプログラムづくりに協力させていただいてい るのですが、父親たちは、行政がやるからこそ参加率が非常に高い形で情報を求めて、そ ‑ 28 ‑ して行動案を求めて、具体的にどんな支援ができるだろうかということを求めていらっし ゃるので、このチャンスをもっと生かせるのではないかと思っています。 あと、虐待予備軍の話ですが、今、虐待の防止対策はいろいろ、心の東京革命のほうで もしてくださっているということで、こんなにも多くの細やかな配慮と具体策が実施され ているのかということで大変うれしく思いましたが、パイが一番多いのは虐待予備群と育 児不安群だと思います。これが妊娠中から、妊娠前からとても多くなっておりまして、1 週間のうち、何回も新聞社やテレビ、雑誌などから取材を受けます。妊娠前からの育児不 安ということで、育児の情報として、大変だ、怖いという情報が多めに流れていること、 テレビのニュースで流れるのも、悲惨さの大きなものから報道が決定します。前代未聞の 事件から報道が決定しますので、普通にメディアで、きょうは何があっただろうとニュー スを知る場合、こんなふうに殺されてしまうんだ、こんなふうに虐待してしまうんだとい うことで、健康モデルが伝わりにくいという環境下で私たちは出産・育児の準備期を過ご しているという背景があると思います。もっともっとポジティブであり、問題は大なり小 なり、人生20年、子どもを自立した一人の大人に育てることが育児ですから、いろいろと 対策論が生じる場面はあっても、全体的にはポジティブであるという情報が、そうしたボ トムアップ式に流れないと、どんどんイタチごっこのように、育児が怖くなる、不安にな る情報が流れていると思います。 この産後うつという問題で、今、12.8%という報告が出ていますが、あと、虐待群、虐 待予備群の方々、産後うつ群の方々が、どういった出産状況であったか、どういった出産 準備教育を受け入れたか、また、受けられなかったかという調査がありますと、出産のあ り方が育児に与える影響が大きいように思います。 各自治体の区市町村と産後の育児教室とかの講師のお仕事をいただいて全国を回ってお りますが、やはり母親の自尊感情が出産によって大きくそがれるケースもあります。例え ば、金曜日の午後から帝王切開が非常に増えます。土日はスタッフが少なくなるので帝王 切開で出しましょうと。一見予防的ではありますが、母親は自然に産んであげられなかっ た、子どもが進みたいときに進んでこさせてあげることができなかった、または、帝王切 開期手術が、時間的な制約や医療スタッフの不足など、外側のハードの問題で起きること によって、母親の内面の自信喪失が非常に多く起きています。こうしたことも、もっと医 療との連携で改善できるのではないかと思いますし、日本は土日の出産が非常に少ないと いうことで、世界的にも、WHO的にも指摘を受けてしまうべき点があります。 ‑ 29 ‑ なので、この辺は、福祉保健局とともに、医療の部分で、例えば母子手帳が70%台で、 本来はどんな方でも行政にアクセスすれば母子手帳がもらえるのに、本来、その母子手帳 を取りにこない方々が虐待群の予備軍なので、サポートしなければいけないわけですよね。 そこで、産婦人科が、妊娠の判定をするために、どんな方々でも、未受診の方もたまにい らっしゃるのですが、虐待予備軍の方々は、妊婦検診を受ける回数が少ないことと母子手 帳の交付を受けないということが明らかですので、都内だけでも、産婦人科と、母子手帳 を持っていない方の受診があった場合は、妊婦検診のときには住所を書いていただくわけ ですから、その方に母子手帳を送って妊娠中の家庭訪問をしてくださいというような策も 打ち出せるのではないかと思います。もうやっていらっしゃるのかもしれませんが。 そうした面で、杉並区や中野区にもヒアリングをさせていただいたときに、母子手帳の 交付を受けない方々が将来的には虐待予備軍であると。そうすると、青少年要支援家庭予 備軍でもあるということですので、医療機関に、そうしたご家庭になる可能性がある女性 が妊娠の判定にいらしたときには、そうした母子手帳の交付並びに行政の関与のスタート が、システムとしてはつくれるのではないかと思っておりますので、このあたりのソフト が充実できるのではないかと思いました。 あと、私も長野県の駒ヶ根市というところが、子ども課ということで、教育委員会と母 子保健課と児童福祉課が全部合体して、3万人の都市なので年間300人ぐらいしか子ども が生まれないからということで、子ども課ということで、今、トライアルで、19歳、20歳 前後で出産した女性たちの虐待防止プログラムをちょっとトライアルでさせていただいて おります。そうしましたところ、やはり、19歳、20歳前後で出産した方々は高校にほとん ど行っていませんでした。そして中学校のときから不登校ということで、自尊感情が大変 低い状態です。 細かいプログラムの案に関しては、今ここではお時間がありませんので省略しますが、 やはりこういういろいろなアプローチによっては、自尊感情を取り戻すようなアプローチ、 グループワーク、ワークショップが可能で、感想の中では、これからこの子を一生懸命に 育てたいと思う感想をいただけておりますので、その辺のソフトに関して、また今後詰め る機会に、私もまたいろいろご提案させていただけたらと思いました。 その駒ヶ根市が、一度トライアルさせていただいたときに、実は、高齢出産の方々の育 児不安も大変強いのが昨今の特徴なので、高齢出産であれば、成熟した大人なので虐待が 起きないかというと、そうではないという報告を受けておりますので、高齢出産の方々は、 ‑ 30 ‑ 不妊治療の影響もあるのか、ちょっと早すぎる不妊治療ということで、健康的な夫婦生活 があるのに2年以内に妊娠が成立しない場合は不妊という定義ですが、今、「不妊歴2カ 月の○○です」というようなメールもあちこちからいただいたり、早すぎる不妊治療が、 子どもをつくるとか、子どもの人生を操作するということとか、子どもが自尊感情を感じ にくいような育児の始まりもそのあたりにあってはならないと思いますので、そうした母 親の自尊感情を高めるいろいろなプログラムと、父親の育児参加の増加という点で、また 医療と提携して、母子保健と、そして、父親が育児参加したくても会社から早く帰れない という企業との連携もありますので、ソフト化の部分で今後に期待させていただきたいと 思います。 提言と感想が混ざってしまいましたが、以上です。 ○前田部会長 ありがとうございました。 お答えいただく前に、私、初めにお断りしておかなければいけなかったのですが、ちょ っと中座しなければならない用があるので、副会長にお願いして、ちょっと失礼させてい ただきます。 ○加藤副会長 それでは、前田先生の後を継がせていただきます。 ご意見をどうぞ。 ○宮台委員 おはようございます。大変充実した施策が今でも行われていると思います。 大葉ナナコさんがおっしゃったとおりだと思いますが、全体として、バックボーンがどこ にあるのか、優先順位がどうなっているのかということについてわかりにくい部分があり ましたので、その辺について、お尋ね方々ご意見を申し上げたいと思います。 社会政策の歴史を概略振り返りますと、1970年代の前半ぐらいまで福祉国家主義という ことで、行政がある程度、財政をベースにした行政的支援を、教育や地域、社会的な弱者 に対する提供という形でなしていく形でしたが、70年代後半になると、福祉国家主義が財 政的に破綻したということと、一部の経済学者から、いわゆるモラルハザード、ウェルフ ェアクイーンと言われるような現象が話題になったということが契機になり、新自由主義、 今で言うネオリベの方向に舵が切られることになるわけです。 それは、レーガニズムやサッチャリズムに象徴されるアングロサクソン系の社会政策で あったわけですが、あまり時をたたずして、教育や医療が著しく荒廃し、地域が空洞化す るという現象が起こったということがありました。とりわけ、イギリスで舵を切り直して、 サッチャー、メイジャーの後のブレア政権で、ニューレイバー、新しい労働党ということ ‑ 31 ‑ で新しい社民主義が提唱されて、それが「第三の道」と呼ばれました。新しい社民主義の 「新しい」の中身は、弱者の支援ではなくて、動機づけを持つ者を支援すると。弱者の支 援となると、簡単に言えば、みずからあえて弱者にとどまる人間たちを放置するというモ ラルハザードが起こってしまうということで、第三の道としての動機づけ支援がベースに なりました。 ところが、例えば小泉内閣以降の、中央から出てくる政策が、基本的にはチャレンジ支 援という方針であったことにも象徴的ですけれども、実際には、このチャレンジ支援とい うのは非常に排除的に働きます。それは、ブレア政権のブレーンであったアンソニー・ギ デンズが、第三の道の主唱者でありながら、最終的には社会的包摂性が肝心なのだという ことを繰り返し言わざるを得なくなったということです。 それは、例えばテレビドキュメンタリーを見るといろいろ出ているとおり、チャレンジ する意欲がある人間を支援するといっても、チャレンジする意欲を持てるだけ恵まれてい るとか、チャレンジする時間があるだけ恵まれているという問題が存在します。では、そ もそもチャレンジできない状況、そういうデフォルトの設定に置かれてしまっている人間 たちをどうするのかということが根本的に問題になると。その意味で言えば、第三の道、 動機づけ支援は重要だけれども、その動機づけを持たない人間については、動機づけ支援 とは別に、従来の福祉国家政策と一部通じるわけですけれども、ある程度の贈与を行うこ とによって初期状態を改善する。それは経済的な状態を改善するということのみならず、 社会に関するイメージを改善してもらうということが非常に重要なポイントになります。 その話から少し進めますけれども、例えば、僕はよく、政治家さんたちのブレーンをす るときに言うのですが、「チャレンジするにも余裕から」という言い方をします。不安を ベースにしてチャレンジさせようというやり方は、もちろん無効ではなくて、ある程度の リソースやアセットを持つ人間に対しては効くのですが、それを持たない人間は、「チャ レンジするなら不安から」みたいなやり方をされると、抑うつ的な状態に置かれてしまう わけです。そこは、例えば使い分ける必要があると思います。 それとの兼ね合いで言うと、今回ご紹介いただいた政策のかなりの部分が、周辺的な部 分、問題を抱えている部分に対する支援という形をとっていることが気になるところです。 実際には、社会が包摂的だというイメージ、あるいは、その実体を伴うイメージを増大さ せていくためには、周辺を支援していることを証拠として見せるだけではなくて、周辺部 分ではない、胴体部分についての日常からの働きかけが非常に必要だと思います。 ‑ 32 ‑ 実は、このあたりは、大葉ナナコさんがやっていらっしゃることにも関連することです が、例えば、わかりやすい例を言うと、僕がここで最初にプレゼンテーションをさせてい ただいたときに、企業やその他の社会的なセクターから矛盾するメッセージが出てくるこ とがあります。例えば、グローバル化ですが、グローバル化は早晩終止符が打たれると思 いますけれども、グローバル化のもとでの企業からは、「まともに生きるよりもうまく生 きろ」というメッセージが出てくる。実際に、そうした経済界の圧力や方向づけによって、 教育においても、まともに生きるよりもうまく生きろというメッセージが出てくる。 しかしながら、データとして申し上げますと、例えばOECDの国際学力比較調査の上 位をずっと続けているフィンランドという国があります。そこをはじめとする上位の国は、 フィンランドが典型ですが、かなり早い段階から能力別編成を既にやめています。どうい う教育をしているかというと、きょうも出ていたグループワークがキーワードです。要は、 グループワークの中で、できる子、できない子がいろいろ混ざっている状態をつくりだし て、その中で相互扶助を通じて、簡単に言うとチームで連携して自分たちの力を上げてい くという活動をベースにする。そうした国が圧倒的に国際学力比較調査では高い。 日本は、ご存じのように、大変レベルが落ちてきましたが、データを知らない方が勘違 いして、要するに、エリートをちゃんと育てるような選抜教育をやっていないからだとい うことをおっしゃいますが、実際には全く違っていて、日本の学力がどんどん下がってい る理由は、平均よりも下の部分がどんどん下がっているわけです。先進国の中では、アメ リカに次いで日本が、要するに、平均よりも下の部分の学力が非常に低い。そういう国に なってしまっているわけです。 能力別編成は、さっきの動機づけ問題の一角ではありますね。ある程度のリソースを持 っている人間にとっては、ある程度は効くかもしれませんけれども、リソースを持たない 人間にとってはどんどん切り捨てられていくことになるので、その意味で言えば、教育全 体が、今のところ、古くさい競争教育イメージになっているせいで、教育界から出てくる メッセージは、教育先進国から見たらデタラメなものになっている可能性はないだろうか ということがあります。 もう一つ。企業ですが、経団連等から、日本に工場を置いてやるだけありがたく思えと いうメッセージが出てくる。こうした企業に対する社会的なサンクションがまだなされて いないことが大きな問題だと思います。篠崎委員から、企業に対する働きかけが鈍いので はないかと。私もそう思います。重要なのは、行政が企業にも働きかけているよというイ ‑ 33 ‑ メージを我々が共有できることです。そのことによって、この社会はちゃんとした社会な のだという印象が上がっていく。 その意味で言えば、例えば、男性の子育て、育児休の取得率が最も高いノルウェーでは、 アメとムチを非常によく使っています。それは、簡単に言えば、取得率をある程度以上上 げない企業にはペナルティを課すことと、取得率を上げた企業については、行政がそれを、 今はインターネット社会ですから、情報として喧伝することによって、まともな会社で働 きたいと思う人間、例えばそういう人は能力がまた高かったりするわけです。能力がある 人間を採ろうと思う企業は、そうした情報社会の中で、わかりやすく言えば、評判を取る しかない。評判システムを利用するしかない。当たり前ですが、企業は自分の収益になら ないことはやりませんので。むしろ、社会的に貢献的なことをすると自分たちの利益にな るのだというプラットフォームを行政がつくっていく義務があると思います。 逆を言えば、社会に対して敵対的、それこそ非社会的、脱社会的な企業はペナルティを 受けるぞというイメージを行政がつくっていく必要があります。そこは、半分、あるいは、 それ以上は、我々がどういう情報を共有材として持つことができるのか、どういう社会イ メージを持つことができるのかという問題ですので、その辺もきっちり充実させていただ ければと思います。 最後に、社会の包摂性について言うと、例えば社会学の中では、相互扶助の概念も、人 格的なものと非人格的、つまり、役割とマニュアルに基づいたものを分けるわけですが、 パーソナルなものから見放されてしまった人間、これをそれこそ対症療法的にインパーソ ナルな行政的なサービスで支援することは不可欠ですが、それで重要なのは、対症療法と 根本治療の部分をきっちり分けて、両方とも施策に取り込んでいく必要があると。パーソ ナルなネットワークから取り残された人間をインパーソナルな扶助で支えるのみならず、 そもそもパーソナルなネットワークからこぼれ落ちてしまうのはなぜなのか。簡単に、パ ーソナルなネットワークの中の包摂性の割合を上げていくためにはどうすればいいのかと いう、そうした方向性も重要です。その意味では、地域の相互扶助といっても、インパー ソナルなものとパーソナルなものを分けて、パーソナルなネットワークの包摂性を上げて いくためにはどうするのか。これは、まちづくりとか、それこそ隣近所付き合いをどうす ればいいのかということも含みますが、そうした取組が必要なのだろうと思います。 いずれにしても、社会の包摂性を上げるための施策は、最も早い時期、恐らく義務教育 のプロセスから始まると思います。そこで徹底したグループワークの経験を通じて、お互 ‑ 34 ‑ いに、パーソナルな関係で扶助し合うことのありがたさや、それが、恐らく信頼ベースの コミュニケーションの重要性について気づくことができるのかどうか。逆に言えば、生き 馬の目を抜くような、下手なことをしていたら、ほかのやつが、そうしたことをやらない で、コストをかけないで、その時間をもっと競争にかけているのに何をやっているんだみ たいな、そういうイメージを抱かざるを得ないような教育がトルソーの部分でなされてい けば、周辺部分の手当てをどんなに行っても、社会的なイメージはよいものにはならない と思います。 以上です。 ○加藤副会長 どうもありがとうございました。 予定の時間も来たようですので、東京都からさまざまに行われている制度的なもののご 説明をいただいて、それに対する対症療法的なことについて、各委員からいろいろご報告 いただき、最後に、宮台委員から、ボディの部分というか、原理原則の部分というか、構 造的なものについてご説明をいただきました。 増田委員、どうぞ。 ○増田委員 学説的なそういうことで説明していただいて、今、宮台委員がおっしゃって くださったことは私も同感なので、少し自分の立場から補足させていただきます。 私も先ほどの行政からの報告は、とてもきめこまやかであると感じましたけれども、一 番抜けている部分は、家庭全体というか、子育て全体というか、人間社会全体の中に男女 があってというところで、対象的には、子どもが生まれるので母親のケアという形で母子 手帳が発行されてという構造はよくわかりました。けれども、そこにどのように男性がか かわっていくかという点においては、社会構造の中で抜けているのではないかということ を客観的に見せていただいて感じました。 ですから、家庭は、男性と女性がいて子どもを育てていく中が一番必要だという視点か ら考えると、広い言い方をすると、社会全体は経済構造の中にありますから、働き手が働 いてどういうふうに経済を成り立たせていくかというところに目をとめてしまうと、そこ にとらわれてしまう。男性が働いていれば、家庭の中にかかわっていく時間が少なくなっ て、そして、直接的な子どもへのかかわりが少なくなるということで、行政は、そこの部 分は見ていく必要がないのではないかと思いますけれども、今、宮台委員が言ってくださ ったように、そこの部分で、企業への語りかけが必要なのではないかということをとても 感じました。 ‑ 35 ‑ そして、自立ということを考えるときに、例えば、夫婦で、お母さんが、最近、「空気 が読めない」とかいう言葉がありますけれども、こういうことだから空気読めないで嫌に なっちゃうわねというような会話が子どもから親に対してあったとします。そのときに男 性が、いや、僕は自分の妻をこのように思うから、あなたがこういうふうに言うことはお かしいんだというような、そういう会話が成り立つような世の中のものの見方というか、 社会構造というか、そういうふうな姿を子どもたちが見て、大人はこのようにして自分の 自立を確立していくんだという姿勢を示すためにも、対症療法的な母子だけにかかわって いくのではなくて、社会の中で自立していくためのビジョン、男性、女性がどうかかわっ ていくかというような大人への働きかけがこれから必要ではないかということを感じまし た。 私どもの団体では、高校生と保護者に対する進路に関する意識調査を3回やりまして、 3回目のときに見えてきたものは、世の中で、教育はどこに責任があるかというような調 査に対して、前回よりも第3回目のほうが、家庭が大事だという率が増えています。その ことを見ましても、世の中の機運が高まっていくことによって、世の中がそれに影響され ていくのかなと感じましたので、やはりこれが大事なのだということを行政も‥‥。「こ れが大事」というのは、自分たちがどう生きていくか、家庭をどうつくっていくかという ことに少し視点を下ろしていただくことによって変わっていく可能性があるのかなと感じ ました。 時間を短くしようと思いましたので、全部は言えないのですけれども、いろいろと思い はあるけど言葉が出なくて申し訳ありません。たくさん感じさせていただきました。あり がとうございました。 ○加藤副会長 ありがとうございました。いろいろな方のご意見をいただき、皆さん、短 くしようと思って十分なご意見を伺えなかったと思いますが。 議論としては、周辺の問題に対する基本的な問題、有意義な問題だったと思います。制 度としては、ここまでやっているのかというほどよくやっておられることは、よくわかり ました。 ただ、そういう制度がうまく機能するための条件が幾つかあるだろうと思います。例え ば、宮台委員は情報の共有と言いましたけれども、必ずしも正しい情報、有効な情報が共 有されているわけではないので、そこら辺を行政が、何が正しい有効な情報であるかを見 分けて、それを広くすることが大切だろうと思います。 ‑ 36 ‑ 単純な例を言うと、渋谷区で毎年秋、11月ごろに、保育士さんを集めて、ある先生が講 演しているのですけれども、数年前からやっていて、最初は50人以下の集まりでした。と ころが、その先生の話が実際の保育にものすごく役に立つというので、だんだん増えて、 去年の秋は1,000人近くまでなってしまった。とにかくみんながその先生の話を聞いて、 それでやるとうまくいくということでした。ですから、情報として、そういうような情報 を行政がすくい上げて、より広くやっていくということが必要だろうと思います。 もっと言えば、心理的な側面が本当に大切だということで、例えば、女性の再就職支援 はもう当たり前のことですが、女性が就職したときに、家に帰ってきたときに、そのお母 さんが非常にうれしそうな顔をしてお酒を飲んで帰ってきたら、待っている子どもはもの すごく不愉快になるわけです。要するに、そういうときは、あなたがいるからお母さんは こうやって働けているのよ、ありがとうというような、その対応だけでもまるっきり違っ てくると。 例えば、僕も講演などで、母親に子どもの言うことを聞きなさいと言います。子どもに その日のことを話させようということを言うのですが、そうすると、お母さんが、きょう は学校で何があったのかという話をする。それは検察官の話であって、子どもの話を聞く ということではないわけです。お母さんの話ではなくて検察官の話です。話をさせなさい ということは、子どもが話しやすい環境をつくることですよという、そこら辺の基本的な 理解がないですから、いろいろなメッセージに、きちんとそうしたものをつける。 例えば、ねだる子にがまんをさせようというとそのままですが、ねだる子にがまんをさ せたらとんでもないことになるというのはいくらでも起きるわけです。シャベルが欲しい というのでシャベルを与える、そうすると、バケツが欲しいからとバケツを与える。次か ら次へと欲しいと。そして最後にはおかしくなる。それは、欲しいものは別にシャベルで もバケツでもなくて、欲しいのは親の関心ですから。そういうときは、絶対にがまんさせ てはいけないわけです。親の関心が欲しいときにはがまんさせてはいけないし、親の関心 以外のものが欲しいときにはがまんをさせるとか、そこら辺のところです。 子どもに手伝いをさせろと言いますが、よく手伝いをしている子どもが母親を殺してし まったと新聞で問題になるわけですけれども、好きなお母さんの手伝いをしている子が殺 すわけはないので、好きでもないけれども、親の関心が欲しいから手伝っていると、日々、 憎しみが湧いて殺してしまう。その他幾つかいろいろありますが、時間がないので言いま せんけれども。 ‑ 37 ‑ 基本的に、この制度をうまく動かすための正しい情報みたいなものをきちんと行政がつ かんでいただいて、きちんと正しくやることと、宮台先生がおっしゃったボディの部分、 例えば難しくないことでは、まさに心の東京革命あたりは全く難しいことではなくて当た り前のことを言っているのですが、その難しくないことが非常に難しくなってきてしまっ ているのが、今の時代です。それは当たり前のことが実行できない時代。それは、社会全 体として、これだけのことを東京都はやっているけど、それでもうまくいってない。これ はもう驚くべきことです。これだけやっているのに、それでも社会がうまくいかないとい うのは一体何なのかというと、恐らく、そこに、宮台委員が言おうとした基本の原因があ るのだろうと思います。 メンタルヘルス対策はものすごく増大しているけど、メンタルヘルスはどんどん悪化し ている。青少年対策も、ニート、ひきこもり、不登校でも、これだけやっていて、かつ、 全部うまくいかない。そういうようなところの基本的な問題の指摘と、個々の先生方のい ろいろなご指摘と、大変有効な議論であったと思います。 きょうはいろいろとご報告をいただき、ありがとうございました。 最後に、事務局から今後のことについてお願いします。 ○青山青少年課長 ありがとうございました。 次回ですが、専門部会での意見聴取は次回で最後の予定です。日にちですけれども、2 月7日、木曜日、午後2時から、33階の特別会議室S5で開催いたします。意見聴取を行 う先生につきましては、神戸女学院大学の内田樹先生から、「社会環境の変化と若者の価 値観」ということでご発表いただく予定でございます。よろしくご出席をお願いいたしま す。 ○加藤副会長 どうもありがとうございました。 それでは、これをもちまして第8回専門部会を閉会させていただきます。ありがとうご ざいました。 午後0時10分閉会 ‑ 38 ‑
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