「は」と「が」及び条件文の「と・ば・たら・なら」についての文法指導 呉承和 去年の 7 月に日本交流協会が主催した「2010 年台湾人日本語教師本邦研修」に参加した。 研修では国際交流基金会の日本語国際センターおよび杏林大学で文法、読解の指導、教室 活動や通訳養成メソッドに関する講義を受けた。ワークショップという形でさまざまな課 題を達成しながらより効果的な教え方や教材の作り方について考えたり、研究成果を取り 入れた講義を聴いてノートをとったりした毎日であった。 以下は市川保子先生が担当した「文法指導」という講義の内容に基づいて作成したレポ ートである。 一、「は」と「が」 1、「は」 話し手の気持ちを表すとりたて助詞である。基本的な特徴は次のとおりである。 (1)主題(トピック)を表す。 主題とは話し手と聞き手両方が知っていて、話題に取り上げることである。つまり、話 し手と聞き手両方の共通の話題であり、既に知っている古い情報である。 ①チンさんは高校の先生です。 (2)対比を表す。 ②サッカーはいいですが、テニスはあまりしません。 (3)一般的なこと、性質・状態を表す(判断文)。 ある物事や事態に対して話し手の判断を含む文は判断文と呼ばれる。 ③地球は丸い。 ④日本語はおもしろい。 ⑤田中さんはあした来ないだろう。 (4)述語の選択を表す。また、述語に疑問詞が来ると「は」になる。 日本人です。 ⑥木村さんは 独身です。 九州に住んでいます。 (※木村さんという前提があって、それについて説明する。) ⑦キムさんはどこへ行ったんですか。 (5)全体を表す。 ⑧象は鼻が長い。 1 (6)大きくかかる。 ⑨これは昨日私が買ったかばんです。 (7)ピリオド(句点「。」)越え。 新しい主題(トピック)が現れるまで、主題(トピック)は同一である。「は」の文は文のピ リオドを越えて次の文、次の文へとかかっていく。 ⑩新宿は大きな町だ。夜 11 時でも大勢の人でにぎわっている。若者が好 きな町だ。 (8)「が」「を」、そして「に」の一部の代わりができる。 ⑪私が肉を食べない。-> 私は肉は食べない。 ⑫この大学に女子大学生がたくさんいる。 ->この大学は女子学生がたくさんいる。 2、「が」 述語(動詞など)との論理的な関係を表す格助詞である。基本的な特徴は次のようである。 (1)主語を表す。 主題は談話レベル、会話・文章の意味を表すのに対して、主語は構造的、文の成分の部 分(一文レベル)である。 ①公園で子供が遊んでいる。 (2)対象を表す。 ②私は君が好きだ。 (3)物事の生起。また、発見を報告する。(新情報) ③地震が起こった。 ④あ、財布がない。 (4)眼前描写(描写文)。 描写文とは目の前にある物事や事態などをそのまま表現することである。 ⑤空がきれいだ。 (5)疑問詞が主語のときは「が」をとる。 ⑥だれが発表しますか。 (6)主語の選択を表す。 ⑦)私が行きます。 2 (7)従属節の主語は「が」をとる。小さくかかる。 ⑧あなたが行くなら、私も行く。 ⑨これは私が買ったかばんです。 (8)「部分」を表す。 ⑩象は鼻が長い。 二、条件文の「と・ば・たら・なら」 前文が何らかの要因やきっかけとなって、後文を制約する文を条件文と呼ぶ。 条件を表現するのには「と」「ば」 「たら」と「なら」がある。 と、 前文 (条件を表す従属節) ば、 後文 たら、 (主節) (意志) (非過去・過去) なら 1、前文と後文の「時間的前後関係」を必要とするのは「たら・ば・と」である。つまり、 前文が起こってから、後文が起こる。これに対して、「なら」は時間の前後関係があるとき にも、ないときにも用いることができる。 ①北海道へ行ったら、アイスクリームが食べたい。 ②北海道へ行くと、ラーメンを食べる。 ③北海道へ行けば、スキーができる。 ④北海へ行くなら、飛行機が一番安い。 2、主節(後文)の文末に意志表現をとることができるのは「たら」と「なら」である。 「と」 と「ば」は意志表現をとることができない。しかし、以下の場合では「ば」は意志表現を とることができる。 (1)前文と後文の主語が異なる場合。 ⑤明日雨が降れば、仕事を休もう。 ⑥来週桜が咲けば、花見に行こう。 (2)前文の述語が状態を表すとき。 ⑦部屋が暑ければ、窓を開けてください。 ⑧わからなければ、いつでも聞いてください。 3、「と・ば・たら・なら」の伝達機能 (1)自分の意見・主張押し付け、言いっぱなし。 ⑨田中さんが来たら、わかるよ。 (2)事実関係を述べる、事務的。 ⑩田中さんが来ると、わかるよ。 3 (3)助言的、ていねい。 ⑩田中さんが来れば、わかるよ。 三、結論・感想 外国語を学習するときに、文法の勉強は重要で不可欠なことである。しかし、筆者の経 験上では多くの学習者にとって文法は無味乾燥で、わかりにくいものである。自分が勉強 してきた道を振り返ると、似たような経験を持っていることに気づいた。最初に日本語を 学ぶとき、さまざまな文法項目を理解するために結構苦労してきた。学習者は文法をよく 理解したいが、同時にできるだけ触れたくないという矛盾した気持ちがよくわかる。ゆえ に日本語教師として日本語の文法、また文法の教え方をよく理解しなくてはならない。そ うではなければ学習者にとって文法というものはおそらく永遠になぞの塊になってしまう だろう。 日本語教師になってから文法の指導は思った以上に難しいと感じたことはしばしばある。 よく生徒たちに質問されるのはやはり助詞の使い分けである。その中でも係助詞の「は」 と格助詞の「が」の使い分けはもっとも説明しがたい。今回の研修では改めて「は」と「が」 の使い分けを勉強した。最初は「は」と「が」の違いはこれまで何度も勉強したので、別 にもう一度学ばなくてもいいのではないかと思ったが、それは大きな間違いであった。な ぜなら使い分けができてもうまく説明できないところもあり、また「は」を使うべきなの か、それとも「が」を入れるべきなのか、わからない場合がたくさんあるからである。 さらに、条件文、つまり条件を表現する「と」 「ば」「たら」「なら」の使い分けも勉強し た。今まで「~ば」の特徴として主節の文末に意志表現をとらないことを学んだが、例外 があることを知らなかった。それは「前文と後文の主語が異なる場合」と「前文の述語が 状態を表すとき」である。今回の研修を通して、改めて日本語の文法を学習することがで きた。今後の文法指導にも大いに活用したいと思う。 作者簡介 吳承和。東吳大學日本語文學系研究所碩士。現任文化大學日本語文學系、文化 大學推廣教育部、市立中山女中、市立西松高中、私立育達高職、萬華社區大學 日語講師。教授高中第二外語、日語會話等相關科目。 4
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