子どもの肥満の時代推移について

子どもの肥満の時代推移について
指導教官
松坂
晃
発表者 舟久保 洋枝
キーワード:子ども、肥満、BMI、時代推移
1.緒言
肥満は現代社会の深刻な問題のひとつになって
いる。以前、肥満は大人の問題として考えられて
いたが、近年においては子どもの肥満も大きな問
題となってきた。子どもの頃の肥満が成人期の肥
満へ移行し、さまざまな健康障害を引き起こすと
考えられている。
アメリカでは国民健康診断調査や国民健康栄養
調査研究のデータをもとに、性年齢階級別の成長
曲線を作成し、子ども達の肥満頻度の時代推移を
調べている。だが日本には一定の肥満判定基準が
表1:BMI 肥満判定基準
Age
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
male
18.41
17.89
17.55
17.42
17.55
17.92
18.44
19.10
19.84
20.55
21.22
21.91
22.62
23.29
23.90
24.46
25.00
(Cole、TM et al,2000)
なく、肥満頻度の時代推移はわかっていない。本
研究では Cole ら(2000)の BMI による肥満判定基
準を用いて日本の子どもの肥満頻度の時代推移を
調べてみた。
female
18.02
17.56
17.28
17.15
17.34
17.75
18.35
19.07
19.86
20.74
21.68
22.58
23.34
23.94
24.37
24.70
25.00
3.結果
表2に肥満児の割合をまとめた。肥満児の割合
は年々増加する傾向を示していた。とくに、男女
とも 8 歳と 11 歳が多かった。またどの年齢も 1993
2.研究方法
年と 2003 年の間の増加の割合は他の年代に比べ
データは学校保健統計調査報告書の昭和43年
て小さく、肥満児の増加に歯止めがかかりつつあ
(1968 年)、昭和58年(1983 年)、平成5年(1993
ると思われる。表3に BMI の平均値と最頻値を示
年)、平成15年(2003 年)の身長と体重の相関表
した。BMI の平均値は年々増加していたが最頻値
を用いた。各年男女5歳、8歳、11歳、14歳、
には大きな時代変化はみられなかった。
17歳を対象に相関表を表計算ソフトにすべて入
表2:日本の子どもの肥満児の割合(%)と推移
力し、そこから BMI を求めた。次に Cole の BMI
による肥満判定基準値(表 1)を超えたセルに含まれ
る人数を加算して肥満者数を求めた。この BMI 基
準値は、6カ国、0∼25 才の約19万人のデータ
を用いて、18歳の BMI が25と30に匹敵する
各年齢の BMI 値を試算して、小児の肥満判定基準
として提唱されたものである。日本では成人の肥
満を BMI25以上と定義しているため、本研究で
も BMI25に匹敵する小児の基準値を使って肥満
の割合を求めることにした。
male
5
8
11
14
17
female
5
8
11
14
17
1968
1983
1993
2003
3.10
3.27
2.73
6.46
8.83
10.34
8.97
7.94
8.94
14.27
14.96
12.19
12.13
8.48
17.43
17.30
13.71
14.68
3.42
4.21
6.86
8.61
8.64
9.45
9.10
6.33
11.99
11.42
13.74
12.04
8.64
10.91
15.20
15.57
14.28
11.47
と考えられる。そこで日本の子どもの肥満頻度を
表3:BMI の平均値と最頻値
学校保健統計の資料をもとに分析したところ、時
BMI平均値
male
5
8
11
14
17
female
5
8
11
14
17
BMI最頻値
male
5
8
11
14
17
female
5
8
11
14
17
代とともに増加していることが明らかになった。
1968
1983
1993
2003
15.6
16.8
19.0
15.5
16.2
17.6
19.4
21.0
15.7
16.6
18.0
19.7
21.5
15.6
16.8
18.2
19.9
21.7
15.4
16.0
17.7
20.2
21.1
15.6
16.4
18.1
20.5
21.3
15.5
16.4
18.2
20.7
21.4
次に本研究結果と他外国の子どもの肥満の割合
を比べてみた。アメリカの子どもの肥満の割合が
特に高いのが目立つ。アメリカと比べると日本の
子どもの肥満の割合は低いが、中国やロシアと比
べると日本の子どもの肥満の割合は高い。現代の
日本の肥満児の増加はエネルギー、特に動物性脂
15.4
17.1
20.1
肪の取り過ぎと運動不足によるものと考えられ、
正しい生活習慣を子どもに身につけさせてゆく必
要がある。また、基準値の妥当性を含めてさらに
検討する必要があろう。
15.5
16.5
18.5
15.0
15.5
16.5
18.5
20.0
15.0
15.5
16.0
19.0
20.5
15.0
15.5
16.3
18.5
20.3
15.0
16.3
19.5
14.5
15.0
16.5
19.5
20.5
15.0
15.0
16.5
19.5
20.5
15.0
15.5
16.0
19.5
20.5
表4:他国と日本の子どもの肥満の割合(%)
male
female
China
Russia
1997
13.1
14.8
1997
8.4
7.0
1998
9.6
8.3
United
Japan
States
1988-1994 1993
25.0
12.5
26.3
11.6
*日本は 5−17 歳、日本以外の国は 6−19 歳までのすべ
ての年齢を含んだ肥満の割合
6.文献
1)
4.考察
これまで日本ではローレル指数や成長曲線を使
Brazil
文部科学省(1968.1983.1993.2003): 学校保健統
計調査報告書:国立印刷局
2)
Cole, T.M. et al. (2000):Establishing a standard
って子どもの肥満が判定されてきた。BMI は明確
definition for child overweight and obesity
な基準が無いためほとんど使用されていない。国
worldwide:
際的には Cole らの BMI 肥満判定基準が提唱され、
320:1240-1243.
international
survey:
BMJ
BMI を小児肥満の判定基準としようとしている働
3) Wang, Y. et al. (2002): Trends of obesity and
きもみられる。BMI は体重増と脂肪増の区別がで
underweight in older children and adolescents in
きないことや身長の影響を受けるなどの問題もあ
the United States, Brazil, China, and Russia: Am J
るが、国際間のデータ比較に際しては利点が多い
ClinNutr. 75:971-7.