根 本 祐 二 氏 東洋大学経済学部教授

第41回NSRI都市・環境フォーラム
(no.281)
『インフラ崩壊』
講師
根 本 祐 二 氏
東洋大学経済学部教授
日時 2011年5月18日(水)
場所 NSRIホール
目次
今年から3年後の2014年は、東京オリンピックが開催された1964年から数えて50年になる。
学校や橋など当時整備された社会資本は、今いっせいに更新投資の時期を迎えている。老
朽化した社会資本の更新を怠るといずれは崩壊する。学校、庁舎などの建築物は倒壊する。
橋は落ちる。上水道管は破裂する。老朽化は確実に起きるが、その対策がほとんど考慮さ
れていない。財源がほとんど確保されておらず、圧倒的多数の人が危機感を抱いていない。
こうしたインフラ崩壊の危機の実情、国民として民間として何が可能なのかを探る。
1 崩壊寸前の社会資本
―荒廃するアメリカ、日米の対比、抵抗の理由
2 更新投資の量的推計
―PFI推進委員会での資産、東洋大学ソフト、財政分析等研究会ソフト
3 自治体のマネジメントの動き
―狛江市、藤沢市、宮代町、他自治体との比較
4 崩壊させいない知恵
―バランスシート改革の必要性、統廃合・多機能化・インフラマネジメント・超寿命化・
広域連携・不動産有効活用・規律ある資金調達
5 進め方の知恵
―客観的な情報把握、一元的なマネジメント体制、PDCAサイクルと第三者委員会、市民参
加、民間提案
◆根本 祐二 (ねもと・ゆうじ)氏
東洋大学経済学部教授
1954年鹿児島生まれ。東京大学経済学部卒業後、1978年日本開発銀行(現日本政策
投資銀行)入行。関西支店企画調査課長、プロジェクトファイナンス部次長、首都圏企画室
長、地域企画部長を経て2006年東洋大学経済学部教授就任。
2007年より同大学経済学研究科公民連携専攻主任、2008年より同PPP研究センター
センター長を兼務。専門はPPP、地域再生。
〈主な著書〉
「地域再生に金融を生かす」
(学芸出版社)
、
「公民連携白書」
(共著、時事通信社)
、
「朽ちていくインフラ」
(日本経済新聞社)など。
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『インフラ崩壊』
谷 大変長らくお待たせいたしました。ただいまから第41回都市・環境フォーラムを始
めさせていただきます。本日はお忙しい中、また、気候がよくなりましたが、お暑い中、
お越しくださいまして、まことにありがとうございます。
本日のご案内役は、私、広報室の谷礼子でございます。どうぞよろしくお願い申し上げ
ます。
さて、本日のフォーラムは、ご案内のとおり、東洋大学経済学部教授でいらっしゃる根
本祐二先生にお越しいただきました。本日は、
『インフラ崩壊』と題してご講演をいただき
ます。
根本先生につきましては、お手元の資料のとおり、日本開発銀行、現在の日本政策投資
銀行に入行され、その後、地域企画部長を経られまして、2006年に東洋大学の経済学
部教授にご就任されました。2008年からは同大学のPPP研究センターのセンター長
も兼務されていらっしゃいます。
根本先生といえば公民連携分野の第一人者でいらっしゃることは皆様よくご存じのとお
りでございます。実は、このフォーラムでも2007年6月に、
「公民連携を広げる知恵」
と題してご講演をいただいています。
『インフラ崩壊』は、社会資本の老朽化はもちろんのことでございますが、ことし3月
に起こりました地震のような災害によってももたらされます。
本日は、日本が抱える問題点とその解決方法などについて具体的な方法をお話しいただ
けるものと楽しみにしております。
それでは早速、先生にご講演をいただきたいと存じます。皆様、大きな拍手で先生をお
迎えください。
(拍手)
根本 ご紹介いただきました東洋大学の根本です。こんにちは。
熱心にご質問いただく会だと記憶しておりますので、是非、後ほどご質問を下さい。
資料の中に、
『朽ちるインフラ』という本のチラシがあります。まだ出版はされていませ
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んが、再来週、本屋に並ぶということでございますので、是非お買い求めいただけるとあ
りがたいなと思います。
1.崩壊寸前の社会資本
(図1)
今日のテーマは、社会資本の老朽化の問題で、
「インフラ」と書いてありますが、インフ
ラだけでなく、上物、箱物、建築物も含めて、日本は非常に老朽化しているという話です。
ほっといても崩壊をするよということで、当初は、
「崩壊寸前」というタイトルで本を出そ
うとしていました。ところが、出版社に「崩壊寸前」というのは何が崩壊するのかよくわ
からないといわれまして、最終的には「朽ちるインフラ」というタイトルになりました。
筆者としてはあまり気に入ってないんですが、これがパッと目に映るんだそうです。サブ
タイトルが「忍び寄るもうひとつの危機」というものです。では、もう1つのほうは何か
というと、これが震災であります。本はもう3月には書き終えておりまして、3月中に出
版をする予定だったんですが、それどころではないなということで、急遽、震災関連の情
報を多少付加して、こういうサブタイトルをつけました。大震災というのは明確にある日
突然やってくる。でも、いつ来るかわからない天災です。これに対して社会資本の老朽化
は、100%確実にやってくる人災です。これを放置していたら犯罪です。100%確実
に予見できるということは100%確実に避けることができるわけです。
私は後者の方に注目して、ここ数年間研究を続けてまいりました。ようやく昨年ぐらい
から風向きが変わり、老朽化問題、更新投資問題が注目されてきました。今までは公共投
資の財源を減らす一方でしたが、ちゃんとお金をつけていかないと大変なんだよというこ
とをいってきたところ、昨年あたりから、一昨年は減額要求をした国交省の予算も、今年
度に関しては同額の要求で、国の姿勢もかなり変化してきていると思います。
(図2)
そういう中で震災が起きました。震災が起きた以上こういう話はもうどうでもいいのか
なということは全くありません。
「緩やかな震災」という言葉を使っていますが、地震が起
きなくても古くなったら確実に壊れるわけでございます。ある日突然ボンと起こるわけで
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はないけれども、日々小規模な震災は起きている、と考えないといけないと思います。そ
のことについて財源の問題も含めて調べたのがこの本であります。
地震は一気に発生するが、発見の予見可能性は低い。老朽化は緩やかに発生するが、
100%確実に予見できるということです。
全く違うタイプの災害ですが、実は対策は同じだと私は思います。ハード面の対策、こ
れは耐震性を強化するということになります。老朽化して耐震性の弱いものを更新してつ
くっても仕方がないわけです。ハード的に耐震性が強いもの、社会の仕組みとして災害に
強い町をつくるというのは、地震に対しても、あるいは老朽化に対しても全く同じことだ
と思います。
ソフト面も同じです。地震というのは予見ができないので、何が起きてもいいようにソ
フトの対策を講じなければいけない。老朽化は予見できますが、常に想定外がつきまうの
で、これもソフトの対策が同様に必要だと思います。地震と老朽化は実は同じ問題だとい
うことです。
「緩やかな震災」という言葉をつけています。なるほど老朽化というのはそういうこと
なんだということで、これは結構評判がよい。慢性病ですね。急性の病気が震災だとする
と、老朽化というのは慢性病で、ともすれば見過ごしがちなんですね。手遅れになってか
らハッと思うんですが、それでは遅い。もう十分手遅れになっているんですが、これから
でも最大限頑張りましょうという話を今日はします。
(図3)
老朽化をすると、更新投資をしないといけない。怠るとどうなるのか。これは、200
7年にアメリカで橋が落ちた事故の写真です。更新投資を怠ると、危険な状態のまま使う
か、全く使用停止にするかの選択を迫られることになります。使用停止にすればまだいい
ですが、使い続けていると事故が起きてしまう。死亡事故です。2007年、つい最近起
きたものです。これは地震でも何でもありませんが、ある日突然落ちたんですね。
(図4)
これは国土交通白書の大変すぐれた分析だと思っています。実はアメリカの橋は、19
80年代の初頭に橋が落ちたり、落ちそうになったので使用停止にした、あるいはケーブ
ルが切れたりという事故が相次いで起きました。1981年に「荒廃するアメリカ」とい
う本が書かれて、世界で話題になりました。日本でも翻訳本が出ております。インフラと
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いうのはお金をかけなければ
いずれは崩壊していくんだと
いう至極単純な事実を示した
ものですが、非常にインパク
トがありました。
何故、アメリカの橋が19
80年代に落ちたんでしょう
か。何故、日本の橋は落ちな
いんでしょうか。アメリカの
橋が1980年代に落ちたの
は、古かったからです。それ
らの橋はいつかけられたかというと、1930年代にかけられています。何故その時にか
けたか。フランクリン・ルーズベルトが大恐慌の後の景気対策として打ったニューディー
ル政策です。フーバーダムをつくったり、いろいろなことをやって、全米でインフラ投資
を加速しました。高速道路、橋をたくさんかけました。景気対策、雇用対策としてやりま
した。これ自身は正しい。そうしなければ経済がさらに疲弊していったでしょう。
ところが、かけた橋をメンテナンスするということを怠った。グラフを見ていただくと
わかりますけれども、1930年代にかけた後はストンと落ちるんです。その後経済が拡
大してくると橋の本数は増えるんですが、30年代のニューディールの時に一生懸命投資
したことによって一段落してしまったんですね。アメリカ人は、
「もうこれでインフラは十
分だ」と思って、手抜きをしていくわけです。メンテナンスをしない。道路財源を一般財
源に変えていく。道路のメンテナンスの予算がとれなくなってしまう。次第次第に橋が老
朽化していく。それが50年経過して80年代に落ち始めた。
全く同じことを日本もやっているわけです。道路財源を一般財源にしましょう。道路の
予算をどんどん切っていきましょう。それでも、日本の橋は落ちないではないか。国交省
の人がこのグラフを財務省に持っていくと、
「日本の橋は落ちてないね」という話になるそ
うです。それはおかしいんですね。アメリカの橋が落ちて、日本の橋が落ちないというこ
とは理論的にあり得ません。何故日本の橋が落ちないかというと、古くないからです。古
くなれば日本の橋も落ちます。物理的な耐用年数があります。今であれば100年落ちな
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い橋はできるでしょう。ところが、昔の技術であれば、耐用年数の程度しかもたないと考
えないといけません。
それでは、
いつ頃古くなりますか。
日本の橋の第1のピークは1960年代の前半です。
これは何故でしょう。東京オリンピックです。東京オリンピックの前に国力の増強という
ことで首都圏を中心にインフラ投資を加速させます。橋ではありませんが、首都高速道路
は1963年にできているわけです。ああいった投資が日本全国で始まるのが1960年
代の前半です。
では、その50年後はいつか。今ですね。今まさに皆さんのいる現代が、過去に投資し
たインフラの老朽化が始まる年です。2014年、3年後ですが、東京オリンピック開会
50周年です。これは同時に、何もしなければ、日本のインフラが崩壊し始める元年にな
るわけです。この図はそれがわかる非常にいい図だと思います。これを国交省さんがかく
と国交省の利益誘導みたいにとられてしまうんですが、
事実を極めて正確に伝えています。
(図5)
実は、日本の橋で、落ちそうになっている橋は幾らでもあります。これも国交省がホー
ムページで実名入り、写真入りで、詳細なカルテを公表しています。これが「道路橋の重
大損傷―最近の事例―」平成21年のものです。橋の年齢は橋齢といいますが、建ってか
ら何年ぐらいでどんな事故を起こしているか。重大損傷というのは、落ちることはもちろ
んですが、車両を通行どめにするということもあります。特に川の橋は、川の流れによっ
て橋脚がどんどんすり減っていくわけです。そうなると、そこを補強しないといけない。
こういうものを重大な損傷と呼んでいます。何もしなければ落ちるというケースです。
それが、公表されているものだけでこれだけあります。実は、橋齢50年未満でも重大
損傷が起きています。ここが50歳のラインです。40年や30年しか経過していないの
に落ちそうになっている橋が非常に多いということです。ですから、日本の橋が落ちない
というのは、落ちそうになった時にちゃんと予見して手を打っているということにすぎな
いわけで、日本の橋が落ちないということではありません。今までは数が少ないから落ち
ないように管理することができました。これからはそうはいきません。これから膨大な老
朽橋が生じてきます。全国で何十万橋とあります。国が管理していればまだいいですが、
地方自治体が管理している橋はほとんど無管理状態だと考えたほうがいいと思います。驚
くべきことですが、実際に調査をしてみて、そもそもどこに橋があるかもよくわかってな
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いということがありました。
今の話は橋の話ですが、同じようなことは他のインフラにも起きています。本の中に大
分詳しく書いてあります。上水道管の破裂や、建築物でもベランダが落ちたり、タイルが
はがれたり、天井が落ちたり、ということが起きています。ただ、人身事故になかなかな
らないので、今までは報道されてきませんでした。橋同様に日本の建築物は大丈夫なんだ
という迷信が、
財政当局や市民、
議員にはある。
「そんなに日本の建物が壊れるわけないよ。
まあまあ耐震補強してないけど、大丈夫だよ」ということを今まではいってきています。
特に、自治体の市役所の庁舎は、一番後手に回っている建物です。さすがに学校は耐震
補強しようということで予算がつきますが、市役所を建てかえようとすると反対が出る。
「何で市の職員が新しい建物に入るのに税金を使うんだ。壊れないんだから、大丈夫だろ
う」
。それで議会で否決されることが結構あるんですね。私は何年も前から、それは間違い
だといっています。市役所というのは災害復旧本部にならなければいけないですから、緊
急時に真っ先に壊れるような建物では市長がいられない。実際問題、市民も来るわけなの
で、学校を優先するのはもちろんいいですが、新しい箱をつくるんだったら、まず市役所
を何とかしてくださいという話をしてきましたが、間に合いませんでした。
(図6)
間に合わなかったデータがこ
れです。今回の大震災で、旧耐
震基準の震度6以下の建物は、
津波がなかった場所でもこれだ
け壊れています。まだまだたく
さんあります。皆さんお調べに
なるとびっくりすると思います。
今の基準は震度7でも壊れては
困るというものです。旧耐震で
建てて耐震補強していなければ
震度7で壊れるのは仕方がないと思いますが、震度6でも壊れています。しかも津波の影
響は全く受けていません。
鹿行大橋は茨城県の霞ヶ浦の橋です。そこは震度6でした。かけかえ工事中で、隣に新
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しい橋をかけようとしていたんですが、古い橋はそのまま供用されていて、車が通行して
いる状態で落橋しました。今回津波の関係で5本ぐらい橋が落ちていますが、津波と無関
係で落ちたのは唯一この橋です。
これは岩手県の遠野市のデータです。遠野市の当日の震度は震度5強です。6でもな
かった。それでも全壊です。ちょっとびっくりします。
福島県庁、郡山市役所、須賀川市役所、水戸市役所、高萩市役所、近くでは千葉市役所、
あとは九段会館、ミューザ川崎。ミューザ川崎は公共施設ではありませんが、九段会館は
国有財産です。これらは、現在全く使用禁止になっているものが多いし、もう使えないん
だけど、だましだまし使っているところもある。
今回の九段会館の事故は皆さんご存じでしょうけれども、仮にあんな事故が起きたら、
普通だったら1カ月ぐらい延々とテレビで取り上げます。そのくらい大事故ですが、余り
にも津波や原発が激しいものですから、
メディアに九段会館は最近全然出てこなくなった。
全く無視しているんです。もちろん津波の大変さを報道してくれるはありがたいことです
が、こっちの問題もちゃんと見てもらわないと困るんです。そうしないとまた同じことを
繰り返すという日本人独特の失敗のパターンが再現してしまうのではないかと思います。
私どものホームページで、震度6以下で、津波の被害がないところで使用不能になった
ものをリストアップするサイトをつくってあります。是非そこをご覧ください。本当に
びっくりするくらいたくさんあります。こんなので大丈夫なのと思ってしまいます。
これらは老朽化のために使用不能になった。震度5でも使用不能になる。それは建築確
認を取って建築許可が出ているわけですから、設計ミスでも施工ミスでもない。基本的に
は全部老朽化したものです。物によっては50年を超えているものもありますが、大体4
0年から45∼46年ぐらい。つまり、耐用年数の手前で、大きなショックが起きれば使
えなくなってしまう。ショックが起きなくても時間の問題だろうと思います。
2.更新投資の量的推計
(図7)
では、それならどんどん建てかえればいいではないですかと思いがちなんですが、これ
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は財源の問題になってきます。
「増え
る社会資本ストック、
減る公共投資」
ということです。
社会資本ストック、
これはGDPの統計で、建物だけで
なく、インフラも、上下水道も全部
含めています。
土地は除いています。
この棒グラフのストックが年々増え
続けているということです。更新投
資の量はストックの量に比例します
ので、ストックが増えるということ
は更新投資の圧力がそれだけ加わっているということです。今450兆円ぐらいの社会資
本ストックがあります。企業でいえば有形固定資産です。有形固定資産は有限ですので、
物によりますが、平均50年ぐらいで耐用年数を迎えるとすれば、450兆円のストック
を維持するためには、年間10兆円ぐらいの投資をし続けなければいけないということに
なります。
一方、
その財源の裏返しである公共投資は年間幾らか。
これが折れ線グラフのほうです。
ご覧をいただくと、まずびっくりするのは山型になっているということです。過去のピー
クは1990年代の後半です。バブル経済が崩壊した後、景気対策をどんどん打ったんで
すね。皆様のお仕事もこの時期はたくさんあったと思います。GDPベースで40兆円ぐ
らいでしたが、今は20兆円で半減しています。1990年代の末期からどんどん減って
います。小泉構造改革の時にどんどん減って、さらに減りということです。今や名目では
バブル期の水準すら下回っているということになります。
この減っている公共投資で増える更新投資を賄わないといけないということです。何か
比喩で例えてくださいといわれるので、例えばサラリーマンの方が、新しくマンションを
買いました。子どもを私学に入れました。その途端に会社からリストラされてしまったと
いう感じですね。収入は減るんですが、支出は変わらないわけです。収入が減った分、デ
フォルトさせてくれればいいんですが、そうは世の中は甘くない。借金は残っているとい
う状態です。
これが国全体で起きているんです。会社のリストラは予見できないかもしれませんが、
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国全体でストックが増えていることは大分昔からいわれていた。必ず更新投資が必要にな
りますよというところまで思いが至らなかったということであります。
(図8)
「増大する需要を減少する予算で賄うジレンマ」ということで、これはざっと見ていた
だければいいんですけれども、左側の山を見ていただくと、最近公共投資が減っている。
素人が見ると、過去あれだけやったんだったら、もう公共投資要らないでしょうね、予算
要は福祉や介護に振り向けましょうという話になるわけです。
民主党政権の最初の公約が、
「コンクリートから人へ」といわれていました。コンクリートは十分に投資したからもう
いいという意味だったわけですが、それは明らかに理論的に間違いです。何故ならば、コ
ンクリートは更新しなければならないからです。
今減っているということは、過去のストック分が増えているということなので、これを
今後更新しなければいけません。仮に今と同じだけの予算を確保できたとしても、この三
角形の部分の予算が足りなくなります。極めて単純なことなんですけれども、これが今ま
で政策に反映されてきませんでした。私も数年前から延々といい続けて、あちこちで講演
をしながらちょっと抽象的ないい方をしてきました。
いろいろな反論があります。1つは、国がやれといったんでしょう、国がやれといった
から地方もやったんですよと。だから、国が面倒を見るべきだ。今までも困ったら国が面
倒見てくれたから、自分から率先して何か対策を打つ必要はなくて、今までどおりやれば
国が最終的に面倒見てくれるよという、これは「国家責任転嫁型」と名づけています。無
責任だとしかいいようがないんですが、あながち不合理でもなくて、実際に自分に非が
あったとしてもやっぱり困ったら国が助けてくれるというんです。周りも助けろ助けろと
いうんですね。だから、何もしなくても助かるんです。
学校の耐震化というのは地方によって物すごくばらつきがあります。数年前にもう10
0%になっている自治体もたくさんあります。こういうところは国の補助を当てにしない
で、ほかのことを切り詰めて子どもたちの命を守ってきた。ところが、その時何にもしな
いで、ボケッと何か別のことにお金をかけていた自治体のために、手厚い保護が数年前か
ら始まっているんですね。そういうことを目の当たりにしている首長や議員は、
「幾ら一生
懸命やっても、最後は一番悪いところに揃う。率先してやっても意味がない」と思ってし
まいます。国の人にいいたいのは、そういうモラルハザードを助長しないでくださいとい
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うことですね。
もう1つは、
「市民責任転嫁型」というのがあります。道路が必要だ、公民館が必要だ、
学校が廃校なんてとんでもない、下水道も早く公共下水道をつけてくれ、これは全部市民
がいったことだ。市民がいうとおりに、その要望にこたえて政治をするのが一番いい政治
だ。その結果起きたんだから、責任は市民にあるんだ、こういういい方です。市民の皆さ
んとしてどう思われるでしょうか。
あと、もう1つあります。
「聖域主張型」です。金がないのはわかった、何とかしないと
いけないのもわかった、でも、自分のところだけは別よ、図書館だけは別よ、図書館はこ
ういう理由で必要だから、ほかは削ってもらって結構だけど、図書館だけ削らないでくだ
さい、あるいは公民館だけ削らないでくださいという聖域を主張するタイプ。こういう人
たちが非常に多くて、この話をしていてもらちが明かないなと思いました。
(図9)
その結果何が起きているか。
これはマクロの財政の問題です。
国と地方の負債のパーセンテー
ジです。国と地方の負債の残高
の総額と名目GDPの比率です。
上に行けば行くほど悪いんです
が、一目瞭然日本が一番悪い。
この比率は、動いたとしても年
間に数%ポイントしか動かない。
5%ぐらい動けば相当いろいろ
なことが起きたということになります。この20年間に、OECDの国で10%以上悪化
した実績が6回だけあります。そのうち1回は2008年のアイスランドの金融危機。金
融立国を目指したアイスランド経済が崩壊した。それから、2009年のイギリス。イギ
リスも実は金融危機の対応に失敗して、労働党政権が崩壊し保守党政権にかわる。その前
年の話です。残りの4回が全部日本です。OECDの中で断トツに悪いパフォーマンスを
示しているのが日本なんです。
昔からそうかというと、そんなことはありません。1993年の段階であればほかの国
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とそんなに変わりません。イタリアよりははるかにいい。昔はイタリアよりはいいぞと威
張っていましたが、その後、バブル経済の崩壊の時の経済政策の打ち方を失敗した。大盤
振る舞いをして、借金が増えたということです。ずっと増え続けましたが、1回だけ下向
きの時があります。これが小泉構造改革の時です。小泉構造改革はいろいろな弊害もあり
ますが、少なくとも借金を減らそうとして減らせたということで、我々国民としてはちゃ
んと評価してあげないといけないと思います。ほかの政権は何もしていない。
民主党政権も何だかんだいいながらできていませんが、この統計にはまだ反映されてい
ません。戦犯はほとんど自民党です。自民党が今ごろ何をいっているんだいという感じが
私はします。おまえのおかげで財政が悪化したんだぞと。震災の起きた時に機動的に動け
るように平時における財政上の余裕をつくるのが政治家の大きな役割だと思います。バタ
バタやるのではなくて、
「よし」と、こういうときこそ10兆円ボンと出せる、そういう準
備をしていくことが政治家の役割だったにもかかわらず、全くそれをやってこなかった。
国民もそれを望んでいなかった。非常時のファンドではなくて、目先の仕事、目先の金を
くれと我々がいい続けたが故に、迎合的な政治が続いてこうなってしまったということで
す。これは大いに反省すべきだと思っています。もちろん自分自身も含めてです。
40歳代以上の人は皆戦犯だと思います。今日お見えの方の殆どはともに共犯です。若
い人は上司のことは無視して、自分の世代がちゃんと生きていけるかどうか考えたほうが
いいですね。この状態は持続できないと思います。早目に日本に見切りをつけてもいいか
もしれないし、とにかく自分あるいは自分の子ども、孫のために何ができるか、是非若い
世代の人には考えてもらいたい。また、40歳代以上の人は責任をちゃんととって一生懸
命やってほしい。
(図 10)
これは先ほどいったようなことです。4つのタイプに分類をしています。
(図 11)
マクロ的な不足の推計をいたしました。マクロ的な不足といっても、ちゃんと建築物の
延べ床面積や上下水道の配管の延長、道路の面積を全部計算しまして、それに更新単価を
かけて、日本全体の投資額を算出しています。そうすると、今後毎年8兆円必要になって
くる。今でも更新投資を2兆円ぐらいやっています。とすると、将来の公共投資は、今ま
でと同じことを同じようにやって、さらに更新投資もやるとなると、3割増しにしないと
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いけないということです。3割増しの数字をご覧になると、建設業界の方は、3割増しの
需要がある、
市場が拡大すると思われるかもしれませんが、
そういう意味ではありません。
潜在的にこれだけ必要だけれども、
お金は全然ないわけですね。
3割増しにするためには、
別のところからとってこなければいけない。こんな景気の悪い中で医療や福祉からとって
こられるか。
公共投資の予算をとっているのは福祉です。
扶助費といわれているものです。
そっちに返してくれということが可能であれば、
それも1つの選択かもしれません。
ただ、
政治的にそれはとても可能ではないでしょう。そうすると、26兆円という市場が顕在化
するという可能性はありません。しかしながら、26兆円の仕事をしないといけない。そ
れが民間のお仕事です。20兆円の予算で26兆円の仕事をする。生産性を30%上げる
ということです。これが知恵として出せればこの問題を解決することはできるのではない
だろうかと考えています。
私の専門はPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)ですが、PPPの
用語としてバリュー・フォー・マネーという言葉があります。費用対効果ということです。
従来の公共投資と同じような発想で同じような発注をしていたのではだめです。民間にど
んどん任せて、性能は同じだけれども、かけるお金をできるだけ減らしていくことを考え
ていかないといけません。バリュー・フォー・マネー、30%を日本全国でやるというこ
とですから大変です。大変ですが、そのくらいやらないと追いつかないという大変な状態
にあります。
3.自治体のマネジメントの動き
(図 12)
これは1年ほど前に内閣府のPFI推進委員会で発表したものです。結構インパクトが
ありました。その後の成長戦略にも老朽化の話が書かれるようになりました。次の私の仕
事は、これを各地域に落としていくということです。日本全体で何兆円といわれても
ちょっとよくわからない。地域ごとに落としていったらどのくらいになるんでしょうかと
いうことを計算するのが次の私の仕事でした。どういうことをすればいいかというヒント
を与えてくれたのがこのグラフです。
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これは藤沢市の公共施設マネジ
メント白書というものです。いろ
いろな席でこれを紹介しているの
で、
ご存じの方も多いと思います。
公共施設だけです。
横軸が取得年、
縦軸が延べ床面積です。先ほどマ
クロで図をかきました。あれは金
額でした。延べ床面積という物理
的な単位で見ても、つり鐘状にな
っているということがわかると思います。地方の公共投資も、以前は相当集中的にやりま
したが、最近はだんだん減ってきているということがわかります。
藤沢市は人口が増加している自治体です。そこでも減ってきています。ちなみに、色が
違うのは施設の種類でございます。
緑が学校。
学校は大体築40年から50年のところと、
20年から40年のところに集中しています。人口増加に伴い学校をどんどんつくってき
た。左のところの緑の物件は、これは3年前のグラフですので、既に耐用年数を経過して
います。従って、これからどんどん学校を建てかえないといけない。
一番左側にぽつんとピンクの建物があります。これが市役所の本館です。この段階で築
56年、今、築60年にならんとしています。今回の震災で全壊は免れましたが、とても
職員が安心して勤務できるような状態ではないということで建てかえに着手しています。
私もこのプロジェクトを3年ぐらいやっていて、早く建てかえないと危ないですよといっ
ていますが、やはり市役所は一番最後になるんですね。一番最後になるからポツンとまだ
残っていた。
議員が反対するとか市民が反対するということでしたが、今回は議会の開催中に震災が
発生しましたので、議員もその恐怖を経験しました。ですから、今まで反対していた人も
賛成となりました。そうならないと気づかないのかと私は思います。不幸中の幸いで、本
当に全壊する前に建てかえに移ってくるということになります。
これをヒントにして、こういうふうに分布しているということは将来の予測に使えるだ
ろうということです。耐用年数到来時点でリプレースしていくとすれば、将来どのくらい
お金が必要になるかわかるはずだ。これは建築物に限りません。道路も橋梁も上下水道も
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全部同じです。そうすると、何年先ぐらいにどのくらいお金が必要になるかということが
わかるはずだと考えました。それで、いろいろなところで共同研究をしています。
(図 13)
これは神奈川県の秦野市です。トータルで差し引きの不足額を計算しました。ここは3
割不足しています。公共施設、道路、橋梁、下水道が出てて、トータルで3割不足してい
る。日本全体のマクロの数字に非常に近い。秦野市は首都圏の中では最も1人当たりの市
民のストックが少ない、かつ新しい、老朽化していない都市です。そこでもお金が足りな
いんです。
(図 14)
幾つかの市を分解して整理したものです。皆さん是非ご自分のところでやってみられる
といいと思います。横軸が人口1人当たりの公共施設の延べ床面積、箱が多いかどうかと
いうことをあらわしています。
縦軸が建築後30年以上経過した建物の延べ床面積の比率。
これは古いかどうかを示しています。縦軸のほうは毎年ちゃんと同額投資している。耐用
年数50年だとすると、40%になるんですね。平均的な投資をしているところは40%
になります。40%を超えていれば老朽化している。下回っていれば老朽化していないと
いうことになります。秦野市、左下の点ですが、1人当たりの箱の面積もそんなに多くな
いし、老朽化もしていません。だから、一番優秀なんです。首都圏の自治体で、今まで調
べた中で一番優秀な自治体ですら3割不足しているという数字が出ました。
藤沢市、習志野市は非常に古いです。都市化が早いということです。早く都市化した自
治体は学校も病院も市役所も公営住宅も全部老朽化しています。これが一斉に来る。箱は
そんなに多くないけれども、老朽化していますので、今すぐ手を打たないといけない。
もう1つのパターン、埼玉県の宮代町というところです。ここは比較的新しい。だけど、
箱が多い。人口が少ないということももちろんありますが、人口比で考えても箱が多い。
こういうところは外科手術をしないといけない。箱のストックを減らしていく。資産の量
を減らしていかないと市民1人当たりの負担が負担し切れなくなってしまいます。緊急度
と外科手術が必要かどうかということは簡単に診断ができます。
こういった健康診断をしながら各地を今回っているところであります。
(図 15)
これは省略いたします。
15
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(図 16)
これが先ほど申し上げた宮代
町です。
箱が多いといいました。
その宮代町で計算をしたグラフ
です。これは将来のヘルスケア
プランだと考えていただければ
いいと思います。横軸が201
1年から2060年までの50
年間。縦軸は更新投資の必要金
額です。棒グラフは各年々の更
新投資の金額ですので、高いと
いうことはそれだけお金がかかるということになります。色が違うのは資産の種類で、青
が公共施設で赤いのが上水道、白っぽいのが下水道、薄いブルーが橋梁、濃い赤が道路、
茶っぽいのが設備とか備品、これはメディカルの機械です。民間企業であれば固定資産台
帳をちゃんと持っていて、いつそれを更新しないといけないか考えながら経営をするわけ
ですが、地方公共団体の場合はそういうことをしません。国もしません。政府も基本的に
そういうことをしません。どんぶり勘定でしか物を考えてない。一度これをやってみま
しょうよということでこれをつくったんです。
実は、年間どのくらいこの分野に使えるのかというお財布の中身が、4億円ぐらい。こ
の線より上は全部不足です。人口の減少は入れてません。これから人口が減り、高齢化し
て住民税収が減るということは入れていない。それでも、ここで切られちゃう。ここから
上は全部不足になります。10年ごとにおもしろいパターンが出ています。最初の10年
間、何とか足ります。先ほど比較的若いといったのは、ここに効いてきます。都市化が遅
れているので、さほど老朽化していません。従って最初の10年は更新期を迎えるような
資産が余りありません。大体自治体の場合はここで安心するんです。自治体の計画は最長
でも10年です。普通は3年、よくて5年、大体翌年度のことしか考えません。そうでは
ないとおっしゃる方がいらっしゃるかもしれませんけど、それはそうではないんですね。
もしこの図を10年で切っていったら、宮代町は大変健康な自治体ということで誤診し
てしまいます。おたく何も考えなくていいですよ、健康ですといってお帰しをしたでしょ
20110518
16
う。でも、我々の人間ドックはそうではないです。50年先まで読みます。次の10年は
悲惨な10年になります。
学校の建てかえが一斉に到来します。
小中学校が7校あります。
中学校が3校、人口3万人の町に中学校が3校です。これは異常に多いです。
そこで、今彼らは何をし始めているか。10年たった時点で統廃合といったら大混乱す
るので、10年先を見越して今のうちに統廃合プランを立てようということでスタートし
ています。4月からスタートしました。町民は大変驚いて、統廃合けしからぬと、とりあ
えず思うんですが、10年後に着手したらもう建てかえられなくなってしまいます。古い
建物を子どもたちの危険を顧みずに、耐震補強したとしても、耐用年数が伸びるわけでも
ない。結局、子どもたちの危険を放置したまま、何もしない状態に陥ってしまうんですね。
であれば、学校を少し減らしてでも安全を確保したほうがいいのではないかということを
10年間の間にみんなで議論して決めましょうということです。非常に真っ当なやり方で
す。初めて地域経営が始まったと私は思います。
10年間しのげば何とかなるかというとそうでもありません。次の10年は上水道と橋
梁の10年になります。次の10年は下水道になります。少しずつずらして整備をしてき
ているんです。下水道はまだ実は整備がし足りない状態です。でも、この図を見て彼らは
何をしたか。公共下水道の施工計画の面積を縮小しました。とてもじゃないけど維持でき
ない。だから、今のうちに人口が増えないようなところは公共下水道の計画をやめてしま
うということです。国の政策で公共下水道をどんどんやりましょうというのはいいんです
が、更新投資の負担は全部自治体がかぶります。維持できないと思うのなら今のうちから
クローズしておこうということになります。下水道がなくなるのは大変不便です。不便は
不便ですが、お金がなければ中途半端な状態になってしまう。であれば、人をできるだけ
市街地の中心部にコンパクト化して住まわせる。周辺部分は公共下水道ではないコミプラ
とか集落排水、合併浄化槽など、別の手段でやっていく。これは電力にちょっと似ている
ようなところがあります。原発で全部賄おうとしないで風力や水力を組み合わせていれば
よかったんです。公共下水道も、本当に巨大な装置型の産業になります。放射能は出しま
せんが、下水管を更新できなくなったら、これはこれで大問題だと思います。できるだけ
代替の手段をとりながら計画を進めていく必要があると思います。
本来国が率先してやってもらいたいと思いますが、埼玉県の宮代町という小さな自治体
が先鞭をつけてやろうとしています。大変素晴らしい動きだと思います。
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4.崩壊させない知恵
(図 17)
更新問題の対処法ということでいろいろな対処の仕方があります。ここに書いてないこ
とでいわなければならないことは、日本の財政の負担が非常に多いということです。更新
投資問題は、資産を増やすという問題です。いずれにしてもバランスシートの問題です。
民間企業の方であればわかりますが、人件費をちょっと削るとか、委託費を削るのは、
キャッシュフロー改革です。それとバランスシート改革は全然違います。借金を2割減ら
せといった場合は、人件費を減らしても追いつかない。バランスシートを改善するために
はバランスシート改革をしなければいけない。
負債を減らすためには資産を切り売りして、
見合いの資産を落としていかないといけないんですね。今までの日本の行政改革は、基本
的にはキャッシュフロー改革しかやっていません。事業仕分けというのも、事業がスパッ
と廃止されればバランスシートに影響するかもしれませんが、基本的にはキャッシュフ
ロー、費用を圧縮するということです。自治体の経営も同じです。私の専門であるPFI
も含めて、できるだけ安くする。これはこれで重要で、やらなければいけないのですが、
この更新投資問題に関していうと、それだけでは足りないんです。アセット自体を増やさ
ない、これが必要なんです。
結果的に、従来の発想だと、アセットをふやさないためには更新投資をしないという決
断しかないんですね。60年たった市庁舎をそのままにしておくという決断しかないんで
すね。これは決断ではないです。何もしないでサボタージュしているだけです。実際に行
われている対策はそれです。更新投資がない、そのための対策として更新投資をしないと
いう知恵しか今のところありません。いずれはやらないといけない。やらないといけない
んだけれども、できるだけ減らしていく、それが必要になります。そういう例をここで紹
介をしています。
(図 18)
1つは、施設仕分けと呼んでいます。要らないものは要らないとしていかないといけな
い。これでは皆さんのお仕事が増えないかもしれませんが、財政が破綻してしまうよりは
いいと思います。これは習志野市で、実際に市民を集めて、今皆さんが使っている施設は
どのくらいお金がかかっていますかというアンケートをとったものです。こういうデータ
20110518
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を掲載しているのが、
先ほど藤沢市で紹介した公共施設マネジメント白書というものです。
実際に習志野市のデータをお見せします。数字も全部入れてあります。市民が電卓をたた
きながら、最後の2つを計算するんですね。計算すればすぐ出るんですが、計算する前に、
聞いています。公民館を皆さんが1回利用すると1件当たりどのくらいお金がかかってい
るでしょうか。人件費もあるし、施設費もあるし、電気代もかかっている、もろもろの費
用と利用件数を割ったら、大体いくらかかっていますか。公民館というのは有料のところ
が最近多い。お金を払っているんだからいいでしょうと思うんですが、件当たりどのくら
いお金を使って、いくら収入がありますかという問題を出すんです。
皆さんも直観で考えていただくといいと思います。大体1件当たり1000円や200
0∼3000円使用料がかかります。結構払っているような気もするから、足りるとは思
えないけれども、半分ぐらいは受益者負担で賄っているかなと思うのが普通です。でも、
これは習志野市に限りません。全国平均どこも同じですが、費用は利用件数1件当たり1
万円かかります。収入は大体500円です。そんなに差がありません。私は1万円が高い
とはこの数字を見たときに思いませんでした。民間の会議室を借りてもそのくらいかかる
かもしれません。それだったら、それは民間の会議室を借りてもらえばいい。特に重要な
ことであれば、その賃料に対して補助金を出してあげればいいと思います。
実際に公民館を使っているのは大半がサークル活動です。要するに個人の趣味です。個
人の趣味のためにどれだけ公共投資をして税金を使うのか。この数字が出ると目の色が変
わります。今まで公民館を使っている人は必要だといい、でも、公民館を使ってない人は
沈黙するだけでした。使ってないけど税金を払っている人たちがここで発言を始めます。
収入の500円というのも驚きです。払っている人は1000円ぐらい払っているんです
けど、実は無料という特例扱いになっている人が非常に多いんですね。自治体によっては
3分の2ぐらいが特例で0ということになると、完全なコストセンターになってしまいま
す。それでも公民館が必要ですかということです。そういうことを問うていく。私は必要
ないといっているわけではなくて、それは皆さんで決めてください、考えてください。公
民館を建てかえるのが優先なのか、古い市庁舎を建てかえるのが優先なのか、そういうこ
とをみんなで考えてみてくださいといっています。そうすると、皆さん、間違いなく、1
0人中9.9人は考え方を変えます。ですから、公共施設というのはいかに無駄が多かっ
たかというのが数字でわかるようになる。これがやはり今までは欠けていた情報でした。
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(図 19)
宮代町の場合には、施設の仕分けの提案もしています。中学校を1校に統合して真ん中
に持っていく。小学校も統合する。その統合した学校に公民館や図書館あるいは社会福祉
施設を組み込んでいくということです。これは後ろに出てくる多機能化という話にもつな
がりますが、1つの施設で1つの機能を担わせなければならないというのは別に誰が決め
たわけでもない。
(図 20)
それでは1つの施設で複数の機能を担えるようにするほうがいいのではないかというこ
とで、スケルトン・インフィルを提案しています。秦野市では実際に図面を引いてみまし
た。公民館がどうしても必要だ、そういう人もいるでしょう。それなら、公民館は残しま
す、ただし、今ある公民館は、公民館として使えるスペースのほかに玄関があったり、事
務室があったり、トイレがあったり、階段があったり、駐車場があったりするわけです。
実は小さくなればそういう共用施設のウエートが大きくなる。それらは別に要らないです
ね。であれば、学校の空き教室に公民館を入れていく、そうすると共用部分は共有できる
わけです。使う時間帯が違うからトイレの数を増やす必要もない。高さは少し高くしない
といけないとかあるかもしれません。そうすると、これだけで20%削減することができ
ます。公共施設の20%がこの共用化、多機能化によって削減することができます。
設計・建設関係の方、是非アイデアを出してください。今自治体は、こういう形でない
と切り抜けられないということがよくわかってきています。技術的な裏づけを必要として
います。もちろん法制度のお手伝いもしないといけないんですが、技術的にこうやればで
きるよということが明らかになれば動くと思います。
共用化、多機能化のいいところは、廃校にしなくてもいいんです。子どもがいなくなっ
て空き教室が増える。今は空き教室がたくさんあると、何か名前をつけて使っていること
にしている。空き教室が多いと宣言すると廃校になってしまう。そうすると、何とか教室
という名前の空き教室を抱えた巨大な不稼働資産のほかに、また別に新しいものをつくら
されてしまう。これはすごくもったいない。空き教室にどんどん他の施設を入れる。そう
すると、教室数が少なくても学校は確実に残ります。将来、近くにニュータウンができま
した、子どもが増えましたとなったら、公民館に使っていたところをまた教室に戻せばい
いんです。このように機能をどんどん変えていくことが技術的に可能であれば世の中は変
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20
わると思います。
これによって20%の投資コストが削減できるという試算をしています。
(図 21)
それから、インフラのマネジメントもやっています。これは青森県の橋梁のマネジメン
トが非常に有名です。多機能化というのは箱のほうには有効ですが、インフラには有効で
はないんです。上水と下水を兼ねることはできないので、こっちはマネジメントしないと
いけないなというのが1つ。
いい忘れましたが、日本全体の資産の中で、半分が建築物、半分がインフラ、建築物の
中の半分が学校なんです。ですから、学校に手をつけない限り、オーバーアセットの状況
は絶対になくならない。残りの半分のインフラの場足、そのうちの2割ぐらいが橋梁だろ
うと思います。青森県がアセットマネジメントを橋梁についてやっています。主として長
寿命化ですが、橋梁の場合は、上下水道や建築物と違って比較的長寿命化はやりやすいと
思います。それも計画的にやらないといけないということです。
(図 22)
もう1つは間引きです。東京都も含めてですが、上水道や下水道の配管図をご覧になる
と、その錯綜ぶりに驚かれると思います。縦横無尽にパイプが通っている。A点とB点を
つなぐのに、1本だったらそれが破断すると危ないけれど、10本も20本も通っていた
りするんです。これは、景気対策でどんどんやれということになって、10年前ここに引
いたけど、
今回こっちに引こうかみたいなことで、
どんどん過重な投資をしていっている。
道路は見えますから、さすがに抑制をしますが、地下はわかりません。水道局あるいは下
水道局の人でないとわからないし、そこにいても実はよくわからないという状況です。
間引きができないかなと私は思っています。インフラが重要だといって全部更新してい
たら、お金が足りない。料金を上げないと追いつかない。
(図 23)
間引きできないかなと思っ
ている根拠がここにあるんで
す。これは東京都の上水道の
統計です。東京都の方はこう
いう試算に使われると思って
ないと思いますが、これは公
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表されている資料です。
給水人口1人当たりの配管延長距離がどんどん延びてきています。
1.9と2.05というのは、原点が0ではないので、2倍も3倍もあるということでは
ないんですが、1990年時点、バブルの絶頂期1.9だったのが、その後人口が別に
減ってないにもかかわらず、上水道の投資は続いていて、足元で2.05です。10%ぐ
らい増えている。1990年の東京において上水道が本当に不足していたでしょうか。あ
のとき東京都の水道局のサービスに不満を持っていたでしょうか、もっと配管を延ばして
くれよといったでしょうか。いってないんですよ。もう十分にあの時点で満足できていた
はずなんです。にもかかわらず追加投資が相次いでいる。少なくとも90年代でも十分満
足できるのであれば、これからは2.05ではなく、1.9を目標にして減らしていく、
それが間引きなんです。これだけで1割減ります。
こういう発想は、水道や下水道の方には多分全くなくて、まだあまり議論していません
が、当然猛反対すると思います。金がないんだったら、こういうことをせざるを得ないで
すね。ほかに知恵があるんだったらどんどん出していただきたいんです。一番楽なのは間
引きだと思います。いよいよ間引きの時代に突入するということになります。
(図 24)
話は変わりますが、
不動産の有効活用についてです。
インフラから地上に話が戻ります。
公有の建物、有形固定資産が大変だというのはわかりますが、土地が片や余っているわけ
です。その土地を売るというのも1つあります。国は余剰国有地を売ったり貸したりする
ということを一生懸命やっていますが、それでもまだまだ足りない。自治体はいわんやで
すね。公的な不動産は、国交省の試算だと450兆円ぐらいあるといわれています。その
資産効率を1%でも上げてあげれば年間何兆円という収入が生み出されるんですね。
これが1つの例です。奈良県の養徳学舎というプロジェクトです。これは奈良県の行政
財産です。ただし、場所は奈良県ではなく、東京都文京区の奈良県の県民子弟、大学生が
通う寄宿舎です。それがそもそも必要かという議論はもちろんありますが、奈良県民とし
てはそのための公共施設を持つことは賛成する、是非やりたいということを前提にした場
合、それでもお金はない。奈良県庁は一切お金を出しません。でも、学舎は新しくしたい。
ないものねだりのリクエストを考えるわけです。ただ、1ついえるのは、土地があいてい
ます、その土地を使っていただいて結構です、その土地を使って儲けていただいて結構で
す、その利益の範囲内で建物を建ててください、無償で下さいということです。
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それが、実現しました。手前が養徳学舎です。裏側にあるのがマンションです。今日も
いらっしゃるかもしれませんが、ヒューリックさんというデベロッパーの上場会社がこの
プロジェクトを受注しました。ヒューリックは自分の信用でお金を調達して、建設会社に
は払わないといけない。長期間、50年だったと思いますが、定期賃貸借で土地を借りて、
それでマンションを運営する。50年分の期待収入が入ってきますので、それの範囲内で
払える地代が出てきます、その地代と、この学舎の建設費を相殺するという形をとってい
ます。4∼5億円です。その4∼5億円のお金を奈良県は出せないということでこういう
仕組みが成立をしています。一番得をしたのが奈良県です。お金を一銭も出さないで新し
い公共施設を手に入れることができました。ヒューリックさんは損をしたか。損をするこ
とはあり得ないです。企業のCSRでやっているなんて、そんなことはあり得ません。余
り儲かってはいないと思いますけれども、損をしてはいません。通常のビジネスの範囲内
にとどまっています。それなら、マンションの入居者は、奈良県の県民の子弟が安いお金
で寄宿できるようにボランティア的に、ほかよりも高い家賃を払っているのか。そんなこ
ともあり得ないです。こちらもマーケットベースでしか人は入らない。
つまり、3人のプレーヤーのうちの1人だけが大幅に儲けて、残りの2人も損してない
というゲームです。何故そんなことができたかというと、使っていない土地があったから
です。使っていない土地というのは使わないでいるとゼロだと思うかもしれませんが、経
済的にはマイナスです。本来使えるものを使っていないというのはマイナスです。そのマ
イナスを使ってあげることによってプラスが生じているということです。民間企業でも余
剰地がないとはもちろんいいませんけれども、公的部門、政府の場合は余剰地の塊みたい
なものです。全く使ってない土地というのはさすがにすぐ目をつけられますが、敷地の一
部が余っている。これは市役所なんかもそうですね。そういうのがたくさんあります。い
ろんな形でそこで収入を得る。最近区役所にコンビニを併設する、24時間の駐車場を併
設するなど、いろいろな形で収入を得ていますが、余剰不動産をうまく使わないといけな
いと思います。そういう知恵が出てきています。
(図 25)
それから、自治体間の連携を入れてあります。広域連携なので、1つの自治体ですべて
をやるということはできない。今でもありますが、例えば火葬場とか廃棄物の処理場など
は複数の自治体で組んで投資をしています。そうしないと小さい町ではとてもじゃないけ
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どできませんということがあります。
ここで紹介する例は、最近の震災の例です。実は震災復興対策で私が非常に注目してい
るのは、都道府県や国は頼りにならないなということです。自治体そのもの、基礎自治体、
市町村が一番頼りになるんですが、今回は市町村自体が被災しています。役場も流されて
しまう、町長さんも亡くなってしまう、職員の3分の1ぐらいはどうしようもない状態、
残りの人もみんな被災しているということになると機能しないんですね。そのときに県や
国に支援を求めるんですが、大変時間がかかる。来ても市町村の仕事と県や国の仕事は全
然違うので、余り役に立たない。もちろん役には立つんですが、役に立つ範囲が限られて
いる。そうすると、近く、まあ遠くてもいいんですが、同じような市町村の職員なら、同
じような仕事を日々しているので、すぐシフトできるんです。実際に避難所の運営、例え
ば釜石市の避難所を北九州市の職員が運営しているとか、そういうケースは今回も結構あ
りました。
これは岩手県の遠野市というところですが、遠野というのは津波の被害を受けていませ
ん。内陸部の盛岡や花巻という大都市からも車で1時間ぐらい、沿岸部にも車で1時間ぐ
らいということで、後方支援の拠点として非常にいい立地条件です。遠野市が、被災した
宮古や釜石、山田、大槌というところを支援している。これは非常にいいと思いました。
更新投資の話とはちょっと違うんですが、日常からこういう関係があれば、防災拠点み
たいなものも、
宮古や釜石の沿岸沿いにつくったらまた津波でやられるかもしれないので、
最初からみんなで共同で遠野につくっておく。自衛隊が来たらまずそこに集積をする。そ
ういう広大な土地を遠野が提供して、何かあったときはそこを基点に支援してもらうとい
うことにすれば、実効性の高い公共投資ができるのではないかと思います。
(図 26)
今までお話ししたのは資産を増やさないというやり方です。資産を単純に従来どおり増
やすと負債が同じように増やさなければいけなくなってしまうので、ただでさえ悪い負債
の依存度がもっと悪くなってしまう。資産をできるだけ増やさないということは、負債を
増やさないということです。民間資金をできるだけ入れることによって公的な負債を増や
さないというやり方です。
これも、国の文書に書かれた言葉で、
「規律ある資金調達」といっています。今、復興国
債や復興地方債を出すといっています。国が面倒を見るから国債を出す、それが国の政治
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家の務めだと思っているかもしれませんが、借金を返すのは私たちの子どもたちです。少
なくとも今の政治家じゃないだろうと思うんです。できる限りのことをするといっておき
ながら、自分の資産を全部投げ打って貢献している政治家は誰1人もいない。次世代にツ
ケを残して、やりましたなんて威張らないでほしいと思います。
今の日本の財政はやはり規律がないんですね。税金も同じです。税金を上げるのは今の
世代が痛みを伴いますから、次世代に送るよりはまだいいんですが、それも規律がない。
足りないお金は何とか国民からとるという話です。もっと前にやるべきことがあると思う
んですが、この「規律ある資金調達」というのは民間資金を入れることです。
今、日本にはGDPの2倍以上の借金があることは事実です。片や1400兆円の個人
金融資産がある。これが日本が財政破綻しない唯一のよりどころです。この1400兆円
の個人金融資産が、律儀にも国債、地方債を買ってくれているから、国民の中では資産と
負債がバランスしているんですね。ギリシャやアイスランドは、外国人の投資家が買って
いるので、そこが見切りをつけるとあっという間に経済がクラッシュしてしまう。日本の
場合にはそうはなっていない。なっていないが故に、まだ大丈夫と思っているんですが、
これにも限界があります。
1400兆円の個人投資家の資産が、フワフワした国債、政治家の人気取りとしか思え
ないような国債の購入に向かうのではなく、自分が支援したいプロジェクトにダイレクト
に行くような仕組みをつくる必要があると思います。
これは、海外で行われていて、こういう言葉は皆さんお聞きになっていると思います。
左側がTIF(タックス・インクリメント・ファイナンス)
。右側がレベニュー債。いずれ
も特定のプロジェクトからしか返済を受けない。一生懸命頑張るそのプロジェクトのため
にしか使われないので、そのプロジェクトを応援する人しかお金を出さない。お金の調達
がつかなかったら、そのプロジェクトはスタートしないんですね。返済はそのプロジェク
トから得られる収入だけです。もちろん、受益者負担のあるものはその収入ですし、あと、
税金として発生する場合でもそれはそれでいいんですが、そのプロジェクトの便益を計算
して限定をします。仮に見通した収入が得られないような場合は、この債権者は返済を受
けられないということです。
国債というのは日本国がだめにならない限り返済を受けられますから、幾ら出してもみ
んな買ってくれるんですね。でも、危ない。国債を買っている人はそろそろ見切りつけた
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ほうがいいと思いますが、これはそうではないんですね。このプロジェクトが失敗したら
返ってこないんです。返ってこなくてもいいと思えるようなプロジェクト、もしくは絶対
に成功させるぞと思えるようなプロジェクトに限定してお金を出していくということです。
そんなのはお金は集まらないでしょうと思うかもしれませんが、実はこれはアメリカの
連邦破産法の改正が20年ぐらい前にありまして、先取り特権というのが認められていま
す。何かといいますと、日本国あるいは宮城県は破綻しても、このプロジェクトが元気で
頑張っていればお金を返してもらえるということです。だめになったら返さなくてもいい
けれども、これが元気で頑張っていればちゃんと優先的に返してくれる。親がへたっても
子どもが元気であれば優先的に回収できるという仕組みです。日本で導入する場合はそれ
もセットで導入しないといけないんですが、世界ではそれが法定化されています。もちろ
ん税収を含めてですが、市場が選別するんです。この機に乗じて、あんまり必要とも思え
ないもの、あるいは同じように被災してしまったらどうしようもないなと思える公共投資
をしないためには、国民のお金による投票が必要ではないかということです。
これはちょっと難しい話なので、国の役人にいってもなかなか進まなくて、がっかりし
ています。これをやらないと1400兆円の行きどころがないんです。ちゃんとこういう
仕組みをつくってあげれば1400兆円が流れ始める。復興の財源は、何だかんだいって
も25兆円や30兆円、そんなものです。ほんの一部でも回れば資金調達はつくんです。
そういう資金は別に高金利でなくてもいいし、
あるいは5年とか10年でなくてもいいし、
例えば50年とか100年、あるいは期限を切らないで配当だけ定期的にやるというもの
でもいいのかもしれないと思います。そういう知恵がこれからどんどん出せるといいなと
いうことです。
5.進め方の知恵
(図 27)
「本日伝えたかったメッセージ」ということで、100%確実な緩やかな震災に備える
のは当然の義務です。不足分の3割の予算を確保するのではなく、生産性を3割引き上げ
る必要があります。そのためには従来の発想ではだめです。この発想から抜けられない地
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域は滅びると思っています。何とかしてください、何とか知恵を出してくださいといわれ
るんですけれども、知恵にも限界があります。地域もちゃんと努力しないとなかなかそれ
は無理だと思います。私の専門であるPPPの出番になるわけですけれども、まさに従来
どおりでいいということは全くないので、ぜひ新しい知恵を出してください。別にそれは
PFIであろうが、民営化であろうが、何でもいいんですね。民間の知恵を上手に拾い上
げていく方法があるのではないかと思っています。
(図 28)
補論ということで、先ほどご紹介しました震災の絡みで、皆さんに耳寄り情報、おもし
ろいプロジェクトの話を幾つかしたいと思います。
岩手県遠野市は、支援自治体ということで今、大変頑張っておられますが、実は地震の
被害には遭っています。市庁舎の本館が全壊です。全壊というと、私は文科系の人間なの
で、本当に崩れていると思いますが、これは柱が折れているんです。大変危険で、もう入
れない状態になっている。これが全壊状態ということです。津波の影響はないんですが、
とにかく市庁舎が使えないということになってしまいました。そこで、市役所は市街地の
商業施設の空きスペースに移転しました。それから、遠野市は合併自治体ですので、議会
は、合併前の自治体の議場に移転しました。この間が今20キロ離れています。日本で市
長部局と議会が一番離れている自治体ということになります。このぐらいの距離感がいい
と当事者はいっていましたね。議員も責任感が出ます。しょっちゅう職員を呼びつけて口
ききを頼むこともなく、ちゃんと静かなところで考えることができると思います。
(図 29)
市役所をスーパーの空きスペースに移転しました。これは中心市街地の活性化センター
という公共施設です。土地も建物も市のものです。中に商業テナントを入れて賃料収入を
得て、この投資を回収していくという公共投資のモデルになっています。御多分に漏れず
なかなかお客さんが来ない。
シャッターがどんどんおりる、
入り口を閉じるという状態で、
ちょっと寂しい雰囲気でした。そこで、空きスペースを上手に使いまして、それを繰り回
しまして、ここに遠野市役所とぴあ庁舎というものが入りました。
(図 30)
27
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こういう感じです。我々が行っ
たのは連休の直前でしたが、連休
明けから稼働しますということに
なっていました。
したがいまして、
職員はいなかったんですが、デス
クが並んでいます。左下の写真が
ショッピングモール部分です。地
方の駅前の再開発ビルの典型のよ
うな感じです。今はテナントが全
部敷き詰められている状態ですか
らいいんですが、間が抜けていたりすると非常に寂しい。買い物も余りしたくないなとい
う雰囲気のところに、市役所がワンフロアの半分を借りてくれました。向こう側に見える
のがショッピングモールの部分で、手前が市庁舎の部分です。市民向けのブースがちゃん
とあり、市民課や税務課とかあります。
市は、とにかく全壊になったわけですから、これを何とかしないといけない。プレハブ
の庁舎を建てるのでも、やはり何十日かかかる。いわんや新しい庁舎なんか建てている時
間もない。安全で便利なスペースが直ちに確保できました。全壊から47日後です。この
くらいのスピードでやらないと市の仕事ができない。というのは、被災自治体だから、被
災者である市民のために支援をしないといけない。罹災証明というのを発行しないといけ
ないですね。罹災証明がないと赤十字の義援金ももらえない。罹災証明を出す場所をちゃ
んと確保してあげないといけない。あるいは、もっと早い段階の話だと、実際は亡くなっ
た方はいませんが、もし死者が出たような場合だったら、真っ先に火葬の許可が必要にな
ります。でも実は被災自治体のほうは火葬許可が出せないような状態でした。もちろん火
葬場も倒壊していますから、1週間以上ご遺体がそのままの状態にあったということも実
際にあったわけです。そんな仕事は民間ではできません。NPOでもできません。これは
行政の公権力そのものです。市役所に頑張ってもらわないといけないということで、頑張
れるような形のスペースをつくりました。
それから、これは市民にとって評判が非常にいい。市役所まで行っても市の用事を済ま
せるだけだったのが、ここに来たら買い物もできるわけです。あるいは逆に買い物がてら
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来て、市の用事をちょっとだけ済ます。2つの用件を同時にすることができるということ
です。最近コンビニで住民票がとれるところも出てきていますが、そんな半端なものでは
ない。丸ごとショッピングセンターが市役所になっているという話ですから、こんな便利
なことはない。商業施設には、市長部局から賃料収入を払いますし、市の職員が毎日毎日
100人ぐらい来ます。この人たちもボーッとして帰るわけではなくて、何か買い物をし
て帰ります。今までなかったような固定客をこの商業施設は初めて得ることができたわけ
です。これは非常にいいプロジェクトだなと思います。
市庁舎が自前の建物でないといけないというのは全く決まっていません。そういうふう
にみんなが思い込んでいるだけの話です。海外では、人口10万人ぐらいでもテナントと
して入っている市役所はどこにでもあります。自分の資産を持たなければならないという
ことはありません。片や、民間のスペースは幾らでもあいているわけです。駅前の再開発
で閑古鳥が鳴いているというのは日本全国どこにでもあるわけです。百貨店が撤退して、
その後町全体が疲弊してしまったという、例えば木更津のようなところもあるわけです。
だったら、木更津市役所は駅前のそごうの跡に入れればいいというのが我々のもともとの
主張でしたが、
「いや、そうはいっても」みたいなことでなかなかできないんです。
「そう
はいっても」をあっという間になし遂げた例がここにあります。遠野市長は非常に政治的
なリーダーシップのある方で、絶対にできるはずだ、できなければ法律を変えろというぐ
らいの勢いでやっています。
自分のところの市の仕事だから、
これはこれでいいんですが、
先ほどご紹介したように、
ほかの市の仕事もしてあげている。市民運動公園を開放して自衛隊の駐屯基地をつくって
います。そうしないと、自衛隊の重車両が被災地に直接行ったら、もともと道路がガタガ
タになっているのに危ないし、とめておくところは本来避難所として使わなければならな
いので、そういう場所もないんですね。どこかにとめてあげないといけないんですが、ど
こも提供しない状態が予想されたので、
遠野市が真っ先に手を挙げて、
「ここを提供するよ」
といって、提供しています。ところが、自衛隊の重たい重機はさすがに重たいので、地面
がガタガタになってしまいます。運動公園のために復旧しようとすると大体5000万円
ぐらいかかるだろうといわれています。ところが、そのお金が出るかというと出ません。
基礎自治体の仕事は基礎自治体の範囲内に限定されている。これは地方自治法という法律
で限定されている。遠くに行ってもいいんですが、それはあくまでも自分のところの市民
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のための施設でないといけない。保養所や少年自然の家が遠くにありますが、それは自分
の住民のために使うということが前提になっています。したがって、地方交付税も補助金
も全然出ないです。その5000万円をどうやって工面するのか、財政課長が大いに頭を
抱えていました。そんなことを気にしていたらできないんだというのが遠野市長のおっ
しゃりたいことで、確かにそのとおりで、首相にしたいぐらいです。
そういう人たちを応援しないといけないと思っていまして、法改正を要求しようと思っ
ています。そんなことを含めて感じたことであります。
(図 31)
ここに図面があります。こちら側が市役所で、こちら側が商業です。セキュリティーが
大丈夫かなと気になりますが、ここ間にシャッターをつけようとしています。基本的には
シャッターが閉まるまでは1つの空間です。市民もどんどん来てください。市庁舎の部分
にもどんどん入ってきて、職員に声をかけてください。職員はちょっとたまらないかもし
れませんが、さぼっていたら見られるわけです。そういう緊張感もあって非常にいいので
はないかと思います。
(図 32)
これは釜石市の例です。これも新しい公共施設を象徴するような事例だと思います。釜
石市は津波でやられています。市庁舎そのものは助かっていますが、対策本部は町中に置
かないといけないということで、これは喫茶店ですが、外食のチェーンのブースのような
4人がけのいすが8個ぐらいあるところを使っています。それぞれのブースごとに課の看
板をかけるわけです。本庁舎からその日の担当の職員が自分の看板を持ってきて、今日は
ここが会計課、ここが土木事務所、ここは福祉というふうにブースを占用するんです。業
者や我々みたいな研究者、あとは市民が相談をすると、その件だったらこっちにどうぞと
紹介していくわけです。
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これは非常にいいと思いまし
た。市は安全なスペースが直ち
に確保できた。先ほどの遠野市
は47日といいましたけど、こ
ちらは10日後、あっという間
にできました。市役所本庁舎は
無事でしたが、当然書類もひっ
くり返っているし、職員もどこ
にいるかわからない状態だった
ので、この場所さえ決めていれ
ば、ここには確実に来るという状態をつくりました。
それから、市の職員がいっていたのは、これは比喩ではなくて、本当に風通しのいいオ
フィスだそうです。今までは課が違ったら、何をやっているのか全然知らなかった。だけ
ど、ここに来ると、なるほどそういう仕事はそういうふうにやるのねというのがよくわか
る。自分のところでもできるんだけど、そういうことだったら、こっちの課のほうがより
ちゃんとお手伝いできますよというように、たらい回しではなく、すぐに一番いいセク
ションを紹介してあげることができる。職員同士でも、
「こういうのが来たんだけど、どう
しようかね」と相談できる。お客さんが途絶えたときにお隣のブースに声をかけて、本当
に意思疎通ができます。
その職員はこのブースを占有しているわけではありません。また、翌日来たら別の人が
来るのかもしれません。いわゆるフリーアドレスです。市役所の職員がデスクを1人1つ
ずつ持たなければならないということは全然ないと思います。市民がむしろ使いやすいよ
うな配置をして、市の職員はパソコンだけ持ってくる。そのコーナーで仕事をする。帰っ
たらパソコンをちゃんと返す、そういうやり方をすれば公共施設はもっともっと面積が少
なくて済むのではないかなと思います。
市民も非常に便利です。災害関連の手続がワンストップで可能となり、どこに行ったら
いいかわからないけど、とりあえずここに来たら、ワンフロアの中にみんながいるので、
最初に会った人が担当でなくても、必ず担当が近くにいる。非常に仕事がはかどるといっ
ていました。これも新しい公共施設のいい事例だと思います。
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遠野市にしても、釜石市にしても、極めていい事例を出してくれているので、ありがた
いと思うんですが、地震があったからできたというのが寂しいですね。本来地震がなくて
もこういうのはみんなで考えてやろうよとできたはずなんですね。多くのとうとい犠牲の
上にようやくアイデアが開花するのはちょっと違うと思います。
本当に不幸中の幸いで、我々、首都圏の人はそんなに大きな被害を受けているわけでは
ありません。だけど、こういう事例を学ぶことはできるわけです。こういう事例を紹介し
ても地震が来ないとぴんとこないという人は本当に地震でやられてしまうと思います。貴
重な経験も、してはならない経験でしたけれども、事実として起こった以上は、この資産
を全国民が共用して、無駄なことはなるべく避けて、財源をすかせてあげて復興のほうに
お金が回るようにしていくということが必要だと思います。
そういうことで私からのプレゼンは以上でございました。
本のPRを再度させていただきますけれども、我ながら大変いい本だったと思っていま
す。ここ数年やっていたことすべて集大成で入れてありますので、ぜひお読みいただけれ
ばありがたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
(拍手)
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フリーディスカッション
谷 先生、
どうもありがとうございました。
『インフラ崩壊』
というお話でございましたが、
本当に震災の後のことでございましたので、実感としてよくわかりましたし、再生や更新
につきましては、官と民が連携して直していくというお話も具体的な事例を交えてお話し
いただきまして、ありがとうございました。
今日は大勢の方に来ていただいていますが、是非この機会に先生にご質問のある方はど
うぞお手をお挙げください。
赤松(市民情報誌+α編集委員会) 事例として出てきた藤沢や宮代、それから、狛江で
すが、例えば狛江だと、もともと共産党系の市長さんがおられたり、宮代も近隣の杉戸と
かとは随分状況が違う自治体であると思います。首長の政治的立ち位置とマネジメントの
取り組みとは、具体的な動きの中で何か差異が生じてくるものなんでしょうかということ
が1点。
2点目は、先ほど遠野の例などがありましたが、合併政策との関係で、特例債を発行す
るなどの施策を前提に合併施策をしてきた結果、兵庫の篠山の例などにもあらわれている
ように、公共施設を特例債をフルに使ってつくろうということになって、必ずしも公共施
設の再配置や再編統合に結びつかなかったようにも思えるのですが、この辺の、合併政策
をやるとかえって、かつての旧市町村域のバランスを考えて、もしかしたらしばらくはそ
ういうことができなくなってしまうのかどうか。その辺の公共施設の再配置に与える影響
といった観点で若干補足をいただければありがたいと思います。よろしくお願いします。
根本 首長の政治的な立ち位置の問題ですが、認識と行動に分けると、認識は政治的な立
場はほとんど関係なかった。共産党であろうが何だろうが、事実の数字を示されると皆さ
ん一様に驚き、対応しなければならないと考えます。対応しなくてもいいと考えた首長は
今まで1人もいないです。
行動についていうと、基本的には、何とかしようとしたという意味では同じですが、一
番違うのは速度でしょうか。何党というよりは、従来型の発想をとるような人と、いわゆ
る改革派といわれているような人のスピード感に随分差があります。私はスピード感のあ
るところとしか取り組みたくないので、ここに挙げているところはそれなりのスピード感
があります。首長が意識してもそれが職員に浸透するまでに間があると、数年、平気でか
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かってしまう。そうすると、手遅れになってしまう。そこは自助努力でちゃんとスピ―
ディーにやろうというところとしかおつき合いをしたくないので、結果的にはそこには大
きな差があるかなと思います。
ただ、それも大分スピードは短縮してきています。最初に行政のほうで計画が出てきた
ら、大抵とんでもなく時間がかかるので、私なんか10倍のスピードでやってくださいと
いうんですね。2倍というのはすぐできるんですが、10倍です。議会も含めて。2年か
かるんだったら3カ月でやれるかどうか、そのくらいのスピード感で考えてみてください
と。実際にはそれでも半年や1年かかってしまうんですが、そのくらい突き詰められても
何とか対応できるかどうかというところに首長の政治的なスタンスは多少あります。
それから合併特例債についてです。
合併政策自体、
私はあんまり賛成していないんです。
民間企業だったら、合併以外に技術提携や販売提携、持ち株会社などいろいろな選択肢が
あります。いろいろな組み合わせがあり、すべての分野でこの会社と組むのがベストだと
いう場合に初めて合併するんですね。だから、合併の選択肢は100分の1や2ぐらいし
かない。何故自治体だったらいきなり合併なんですか。何故そのために特例債というあめ
を出さないといけないんですかというのが、政策的にすごくおかしいなと思っていて、私
は特例債以前に合併自体が反対です。百歩譲って合併はいいとしても、今の特例債の政策
はばらまきでしかない。合併をする理由の中に特例債が使えるから、というものもあり、
本末転倒もいいかげんにしろと言いたい。それをいう首長も、それを当選させる市民も相
当ひどいと思います。
実際問題、特例債を出して、本来なら淘汰されるべき公共投資が行われているし、それ
はめぐりめぐって国民負担になります。期限が切れたら延長はないと思いますので、自然
消滅してもらいたいなと思います。
野津(国土交通省) ひとしきりお話を聞かせていただき、非常におもしろく聞かせてい
ただきました。非常に興味深かったのは、全体のストックの半分が建築で半分がインフラ
だというお話がありました。建築関係については、いろいろな機能を集約すればいいとい
うご示唆をいただいた中で、インフラの対応が非常に重要になってくるのではないかと考
えております。
その中で、
「間引き」という非常に象徴的な日本語をお聞かせいただきました。宮代町が
比較的若い自治体だということで、
まずは学校のことを考えて、
次に下水道を考えていく。
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そうではない自治体、既に古くなっている自治体については、インフラの下水道や道路に
ついては危機感を持っている自治体も多いのではないかと思います。実際にいろいろな
方々と議論されている中で、そういったインフラについて、特に危機感を抱いていて、間
引きといった議論を進めていこうとされている自治体がもしあれば教えていただければと
思います。
根本 インフラよりは公共施設、
箱のほうが先に来ていますね。
インフラはこれからです。
一番先行している藤沢市や習志野市も今年度ぐらいからちょっとやろうかなというくらい
です。インフラについていうとタイミングがちょっとずれる。市庁舎や学校ほど切迫はし
ていないんです。多少時間をかけてやる余裕があることはあります。
もちろん問題は認識しているので、例えば公共下水道の計画を見直すということも含め
て、打つべき手は打っていくと思います。それが、不幸にしてというか、脚光を浴びてし
まったのが、今回の液状化ですね。習志野や浦安で話題になっていますが、実際、公共下
水道の本管を全部やりかえるには2∼3年かかる。
従来型のやり方もいいと思うんですが、
ちょっと違うやり方をしていかないといけないと思います。これまでは液状化というリス
クに対して十分対応できていなかったということなので、それにも対応し、なおかつ間引
きもしないでやるというのは無理だと思います。液状化対応をすることを、タイミングと
してどういうルートをつけていくのか。
それを考えざるを得ないということです。
それも、
不幸にしてですが、きっかけがあるという状況になっています。
河合(㈱竹中工務店) すばらしいお話ありがとうございました。1つお伺いしたいのは、
いろいろな費用対効果に関する情報等を明確な形で提示すれば、政策検討機関や意思決定
者がまじめに考えてくれて、インフラの今後のマネジメントにかかわる負債や投資計画に
ついてまじめに考えてくださるということでしたが、お話の中では、行政、政治の中で、
計画期間が1年、長くて3年、本当に長くて10年という単位で決められていて、長期的
な展望がないまま進み、事業の枠組みも制度的な枠組みも決まっているかのように受け取
りました。国レベルで、大きなインフラの負債などの問題を考えるために、長期的に考え
ようというシステムや、制度的に使える枠組みのようなものはないんでしょうか。
根本 本の中で少し書いてあります。理想的には、社会資本整備計画のようなものを50
年∼100年で国がつくって、地方ももちろん自分たちでつくる。それから社会資本整備
交付金を別につくる。従来の縦割りの補助金を全部統合した公共投資の交付金をつくって
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おいて、ちゃんと社会資本整備計画のとおりやらないとその交付金の対象にしないという
ことだと思うんです。
それが国全体でできれば、
恐らく簡単に世の中は変わると思います。
そのくらいのことができなくてどうするのというのが私の主張です。できなくても地方
は地方で自分でやればいいんですね。今、秦野、宮代は、名前は違いますが、施設の再配
置計画という名前の計画をつくり、それと総合計画を同時並行でつくっています。総合計
画は10年なんですけれども、再配置計画は最長50年です。この2つを基軸にする。両
方もちろん矛盾させないでつくる。
50年の計画を前提に総合計画もつくるということで、
計画の位置づけを上げるようなことをしています。
すべての自治体でもしそれをすれば、少なくとも行政とは計画に基づいてちゃんと実行
する組織なので、計画にそういう視点が織り込まれればそのとおりになります。現にそう
いうふうに進んでいる自治体もありますから、そこは余り悲観していません。それができ
なかったらどうするかというと、それはできるように頑張るしかないので、成功事例を紹
介する。担当としては数字があっても仕事にするのはなかなか難しいなという意識は常に
持ちますが、当然市長の耳にちゃんと入れて、市長がヘッドになるような会議で決め、議
会の承認も得ておくという位置づけであれば、名称はともかくとして実質的に管理可能な
指針ができ上がると思います。
生田目 先ほど規律ある資金調達のお話がありました。プロジェクトの主体や規模が具体
的によくイメージできないんですが、どんなふうに考えればよろしいんでしょうか。
根本 借金をして返せる主体でないといけないので、通常は株式会社か投資事業組合、信
託などのようにそういうお金を責任を持ってまとめる機能があればいいです。NPO法人
や任意団体だったら恐らくお金を出してくれないので、それにかわるもの、通常は会社の
ようなイメージですね。プロジェクトは大きくても小さくてもいいんですが、例えば、風
力発電のための数億円を、
市民の本当に小口のお金で集めて調達している事例があります。
そのくらいのロットです。例えば漁港の再整備とか、やるかどうかわからないですが、津
波が来ても大丈夫な高層の住宅など、特定の固有名詞に場所をつけて、このプロジェクト
のために1000万円や1億円を集めるというイメージですね。そういうものをさらに束
ねる。そういうプロジェクトが100あったら、100全部がだめになることはない。リ
スクを分散するために、100を束ねるようなファンドができれば、そのファンドはお金
を集めることができるかもしれません。
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似たようなものとしては、今、住民参加型地方債というのがあります。例えば、以前の
例だと、松山の坊ちゃん電車というのがありますね。ああいうのをつくる目的で市民から
お金を集める事例は今でもあるんです。今までの制度だと、松山市の坊ちゃん電車でお金
を集めても、その債券の券面には坂の上の雲何とかと書いてあります。ただし、それは松
山市の一般財源から返済されるんです。坊ちゃん電車が失敗しても、松山市の市民がみん
なで返してくれるし、逆に松山市がへたってしまったら、坊ちゃん電車が幾ら頑張ってい
てもお金は返ってこないということになります。
それだと規律がない。今やろうとしているのは、坊ちゃん電車が成功しないとお金が返
らない仕組みを先程の規律の仕組みの中で導入する。そうすると、何となくフワフワと坊
ちゃん電車を支援するかのではなくて、本当にそれが投資として的確なのかどうかを考え
るようになる。そうして集まったお金であればみんなが協力してくれるのではないか。そ
れが海外で行われているTIFやレベニュー債の仕組みで、日本でできないはずはないと
思っています。
生田目 時間要素を考えるとどうなんでしょうか。坊ちゃん電車なんていうと、緊急性の
ない、多少のどかな、あるいはゆったりした感じがするんですが。
根本 目的は何でもいいんです。とっさに思いつかなかったので、坊ちゃん電車を実例と
してあげましたが、漁業や農業で緊急に、例えば30日後に必要というものがあれば、そ
れはそれで別にいいと思います。それは国が決めるのではなく、いつ、幾ら、何年の債務
でやるかというのは債券の発行者もしくはファンドマネジャーが考えるべきことです。そ
れを市民が納得しなかったらお金が集められないだけの話です。そこはある意味、市場メ
カニズムを入れていくということなので、国も地方も、もちろん税金の優遇措置は必要で
すが、
それ以外のところはなるべく口を出さないで、
民間の知恵に委ねるという発想です。
赤松(市民情報+α編集委員会) 再度質問させていただきます。質疑の中で、少し前の
方の質問に対して、総合計画と公共施設の再配置の計画の2本柱で動かすことの意味のお
答えがありました。総合計画自体は、自治法上は基本構想のみ議決が条文化されているわ
けで、例えば公共施設の再配置の計画を議会の承認を得るという前提にした場合、今まで
ですと、全員協議会での説明やその程度かと思いますが、公共施設についてきちんと位置
づけをネットワークとしてとるということを考えた場合には、従来の単独の公共施設の設
置条例ではなくて、公共施設の設置条例の一本化とか、あるいは最近取り組まれている自
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治基本条例について、理念条例だけではなくて、手続条例の役割も持たせて、そこで担保
して議決をとる。どのような方向が可能性として一番有効とお考えでしょうか。
根本 条例の議論は今していますが、そこまで行っている例はありません。社会資本整備
条例のようなものをつくらないと意味がないという話はしていて、その中に何を盛り込む
のかというのを、財産の設置条例みたいな要素まで入れるのか、もうちょっと基本的なも
のにするかは、今のところは決まっていないです。
ただ、条例がないといけないとか、計画を議決しなければいけないということでもなく
て、ミクロ的にやるのは、例えば公共下水道の計画を見直すとか、そういうところから1
つ1つ積み上げていく話なので、そっちがちゃんとしているのであれば、そっちをちゃん
とするために上位の包括的なことをどのくらいしておく必要があるかという話です。ミク
ロのほうがちゃんとできるのであれば、マクロのほうはそんなにギリギリやらなくてもい
いのかなという今のところの感じです。
谷 先生、どうもありがとうございました。
それでは、皆様、きょうのすばらしいご講演に対しまして、いま一度大きな拍手をちょ
うだいしたいと思います。
(拍手)
以上をもちまして本日のフォーラムを終了させていただきます。きょうはありがとうご
ざいました。
(拍手)
(了)
根本祐二氏
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