水質基準の項目別解説 (753kbyte)

水 質 基 準 の 項 目 別 解 説
(第3版)
周南都市水道水質検査センター協議会
平成24年4月30日
目
次
ページ
1.一般細菌
1
2.大腸菌
2
3.カドミウム及びその化合物
3
4.水銀及びその化合物
4
5.セレン及びその化合物
5
6.鉛及びその化合物
6
7.ヒ素及びその化合物
7
8.六価クロム化合物
8
9.シアン化物イオン及び塩化シアン
9
10.硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素
10
11.フッ素及びその化合物
11
12.ホウ素及びその化合物
12
13.四塩化炭素
13
14.1,4-ジオキサン
14
15.シス-1,2-ジクロロエチレン及びトランス-1,2-ジクロロエチレン
15
16.ジクロロメタン
16
17.テトラクロロエチレン
17
18.トリクロロエチレン
18
19.ベンゼン
19
20.塩素酸
20
21.クロロ酢酸
21
22.クロロホルム
22
23.ジクロロ酢酸
23
24.ジブロモクロロメタン
24
25.臭素酸
25
26.総トリハロメタン
26
27.トリクロロ酢酸
27
28.ブロモジクロロメタン
28
29.ブロモホルム
29
30.ホルムアルデヒド
30
31.亜鉛及びその化合物
31
32.アルミニウム及びその化合物
32
33.鉄及びその化合物
33
34.銅及びその化合物
34
35.ナトリウム及びその化合物
35
36.マンガン及びその化合物
36
37.塩化物イオン
37
38.カルシウム、マグネシウム等(硬度)
38
39.蒸発残留物
39
40.陰イオン界面活性剤
40
41.ジェオスミン
41
42.2-メチルイソボルネオール
42
43.非イオン界面活性剤
43
44.フェノール類
44
45.有機物
45
46.pH値
46
47.味
47
48.臭気
48
49.色度
49
50.濁度
50
1.一般細菌
概説
標準寒天培地(ペプトン5g・ブドウ糖1g・酵母エキス2.5g・寒天15g/L)を用いて36±1℃
で24±2時間培養したとき、培地中に集落を形成する細菌を言い、分類学的に特定の菌又は
一つのグループを指したものではありません。
一般細菌は大腸菌より多く存在し、一般細菌の一部は塩素に対して大腸菌より強い抵抗
性をもっているので、消毒効果の確認のために検査を行います。
水質基準=1mLの検水で形成される集落数が100以下であること。
詳説
①一般細菌の定義
標準寒天培地(ペプトン5g・ブドウ糖1g・酵母エキス2.5g・寒天15g/L)を用いて36±1℃
で24±2時間培養したとき、培地中に集落を形成する細菌を言い、細胞の中に核をもたない
原核細胞からなる微生物のうち、藍藻類を除いた中温性好気性菌で、嫌気性菌・低温性細
菌は含まれません。
②一般的事項・環境中の存在量等
清浄な地下水には一般細菌は少なく、汚染された水ほど多い傾向にあります。
水質基準の「1mLの検水で形成される集落数が100以下であること。」は浄水場における
緩速ろ過のろ過効率と関連して定められたものです。しかし近年浄水場では、ろ過方式の
主体が緩速ろ過から急速ろ過方式になり、この急速ろ過工程では前もって塩素処理が行わ
れているのが普通であるため、一般細菌の検査は塩素による殺菌効果の判断のため実施す
るというようにその目的が変わってきました。
③健康影響・水の性状に関する影響等
一般細菌として検出される細菌の多くは直接病原菌との関連性がないものがほとんどで
あり、直接健康影響に結びつくものではありません。
④その他
食品衛生法でも、一般細菌数として、食品に応じて 0~4.0×106の基準値が定められてい
ます。
また、食品中に一般細菌数が約107個/g以上存在すると一般細菌による食品の腐敗が始ま
ります。
WHOの飲料水水質ガイドラインは、設定されていません。
1
2.大腸菌
概説
特定酵素基質培地を用いて水道水を36℃±1℃で24~28時間培養し、培養液を366nmの紫
外線を用い蛍光観察により大腸菌の存在を調べます。蛍光がある場合には大腸菌が存在し
ます。
大腸菌と水系病原細菌の相関は高いことから水系病原細菌による水道水の汚染の有無を
判断するため検査を行います。
水質基準=検出されないこと。
詳説
① 大腸菌の定義
腸内細菌のうち長さ2~4μm、直径1μmのグラム陰性・無芽胞のかん菌で、β-グルクロニ
ダーゼ活性を持つ菌(例外あり)で、学名はEscHericHia.coLi(えしぇりきあ)といいま
す。現在、EscHericHia属は他に、E.bLattae、E.aLbertii、E.adecarboxyLata、E.Hermannii、
E.vuLneris、E.fergusoniiの6種が知られています。
② 一般的事項・環境中の存在量等
水系感染症の病原細菌であるコレラ菌・赤痢菌・サルモネラ菌等を水道水から直接培養・
検査することは技術的・時間的に、不断の給水義務を負う水道事業体では現実的でないの
で大腸菌を検査することによって間接的に病原細菌による汚染の有無を判断するために行
います。
表流水中では、1~10,000個/100mL、湖沼水中では、0~1000個/100mL、地下水中では、
0~10個/100mL程度検出されます。
③ 健康影響・水の性状に関する影響等
大部分の大腸菌は非病原性ですが、大腸菌O157のようにベロ毒素を産生し下痢や腹痛を
引き起こす病原性大腸菌が腸管出血性大腸菌・腸管毒素原性大腸菌・腸管侵入性大腸菌・
腸管病原性大腸菌・腸管付着性大腸菌の5種類存在します。この内、大腸菌O157・H7はβグルクロニダーゼ活性を持たないので検出できませんが、通常の水道水中の残留塩素濃度
で大腸菌は短時間で死滅します。
④ その他
食品衛生法では、大腸菌群として、基準が定められています。
WHOの飲料水水質ガイドラインは、0/100mL。
2
3.カドミウム及びその化合物
概説
カドミウムとは金属元素の一種で、通常、自然水中の存在量は僅かですが、鉱山排水や
工場排水、廃棄物処理場の排水等が混入して水系汚染が起こることがあります。
摂取したカドミウムは腎臓に蓄積し健康障害をもたらすことがあり、その代表的な例と
しては富山県神通川流域で発生したイタイイタイ病があります。
水質基準=0.003mg/L 以下であること。
詳説
①カドミウムの定義
カドミウムは元素記号 Cd、原子番号 48 の元素で、青白色の光沢を有する軟らかい金属
で、錆びにくい性質があります。
②一的事項・環境中の存在量等
カドミウムは、亜鉛鉱石に含まれて産出し、亜鉛とともに自然界に広く分布しています。
非汚染地区の環境中のカドミウム濃度は、雨水中で 0.05μg/L、海水中で 0.05~0.11μg/L、
河川水中では 0.02~0. 1μg/L と報告されています。
工業的用途としては、メッキ、顔料、窯業材料、合金材料などに用いられています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
カドミウム中毒による障害例としては、富山県神通川流域で、上流に位置する神岡鉱山
(亜鉛鉱山)から排出されたカドミウムにより、農業用水を介して水田土壌汚染が発生し
ました。その結果、用水を飲用とし、汚染水田で収穫された米・大豆などを摂取していた
住民の体内に高濃度のカドミウムが蓄積され、イタイイタイ病が発生しました。カドミウ
ムの長期暴露による臨界臓器は腎臓で、近位尿細管機能異常(カドミウム尿症)を呈しま
す。尿細管障害が慢性になると、骨・Ca 代謝異常をきたし、ついには骨粗しょう症を伴う
骨軟化症となり、骨折などからの激しい痛みが引き起こされます。
発がん性については、IARC(国際がん研究機関)ではグループ 1(人に対して発がん性
のあるもの)に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、0.003mg/L。
水質基準値の算定式(非発がん性)
TDI
1μg/kg 体重/日
1 日飲料水量
2L
寄与率
10%
体重
50kg
水質基準値=TDI×体重×寄与率÷1 日飲料水量=0.001×50×0.1÷2=0.0025
3
4.水銀及びその化合物
概説
水銀は元素記号 Hg、原子番号 80 の元素で、融点-38.87℃、常温で唯一液体の銀白色の
金属です。
水俣病・新潟水俣病の原因物質として広く知られています。
水質基準=0.0005mg/L 以下であること。
詳説
①水銀の定義
水銀は元素記号 Hg、原子番号 80 の元素で、融点-38.87℃、常温で唯一液体の銀白色の
金属です。水への溶解度は、水銀蒸気は不溶で、塩化第二水銀は溶解性が高く、塩化第一
水銀はあまり溶けず、硫化水銀は難溶です。
②一般的事項・環境中の存在等
水銀の主な用途は、食塩の電気分解用の陰極、水銀電池、蛍光灯(蛍光管内に封入され
ている)、体温計、合金用のアマルガム等に使われています。
環境中では極微量の水銀は普遍的に存在しており、地殻中に 0.08mg/kg、大気で 0.003
~0.009μg/m3、土壌で 0.1mg/kg、海水で 0.005~5.0μg/L、河川で 0.03~0.1μg/L といわれ
ています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
水銀の経口摂取による吸収は、食物に含まれる水銀の場合と水との場合では異なり、水を
介しての吸収は無機水銀の場合は 15%以下で、有機水銀(ジメチル水銀)では、胃腸管を
通してほとんど完全に吸収されます。また、有機水銀であるメチル水銀は脂溶性のため無
機水銀より毒性が高いです。
水銀中毒は、神経障害、腎臓障害を引き起こします。また、高濃度の水銀に触れると組
織を破壊します。
メチル水銀による中毒症状として初期症状に、感覚異常・倦怠感・目のかすみ・運動障
害等、重症では昏睡・死亡に至る場合もあります。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、総水銀として 0.001mg/L。
水質基準値の算定式(非発がん性)
PTWI
3.3μg/kg 体重/週
1 日飲料水量
寄与率
2L
10%
体重
50kg
水質基準値=PTWI÷7×体重×寄与率÷1 日飲料水量=0.0033÷7×50×0.1÷2=0.00118(基準
の継続性を考慮し 0.0005)
4
5.セレン及びその化合物
概説
セレンは多くの金属、非金属とセレン化合物をつくります。そして、その毒性は金属セ
レンでは低いのですが、化合物では非常に高くなります。セレンの環境濃度が高いベネズ
エラ・中国の一部地域では、人の胃腸障害・皮膚の脱色・皮膚炎の障害がみられます。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①セレンの定義
セレンは元素記号 Se、原子番号 34 の元素で、沸点 685℃、金属セレンは灰色の光沢のあ
る固体で、セレン融解物は赤褐色です。
また、多くのセレン化合物には臭気があり、ニンニク臭がするものもあります。セレン
元素は水に不溶ですが、亜セレン酸塩・セレン酸塩は水に溶けます。
②一般的事項・環境中の存在等
セレンは、生体微量必須元素で欠乏すると心筋症や関節と筋肉の疾患がおこるといわれ
ています。
主な用途は、複写機の感光剤、ガラスの脱色剤、赤ガラスの着色剤、半導体の材料、顔
料等各種工業部門に幅広く使用されています。
環境中での存在量は、地殻中には 0.05mg/kg、井戸水で 0.06~0.16μg/L、河川水で 0.02
~0.63μg/L となっています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
セレンは多くの金属、非金属とセレン化合物をつくります。そして、その毒性は金属セ
レンでは低いのですが、化合物では非常に高くなります。 セレン化合物の多くは、皮膚・
粘膜・爪・毛髪に障害をもたらします。また、ベネズエラ・中国のセレンの環境濃度が高
い地域では、胃腸障害・皮膚の脱色・皮膚炎の障害がみられます。
IARC(国際がん研究機関)では、グループ 3(人に対する発ガン性について分類できな
い)にランクされています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.01mg/L。
水質基準値の算定式(非発がん性)
TDI
約 4μg/kg 体重/日
1 日飲料水量
2L
寄与率
10%
体重
50kg
水質基準値=TDI×体重×寄与率÷1 日飲料水量=0.004×50×0.1÷2=0.01
5
6.鉛及びその化合物
概説
鉛は金属元素の一種で、河川水中には鉱山排水や工場排水に由来して溶存していること
があます。また、種々の工業製品中(バッテリー、はんだ、防錆材料)にも添加物や不純
物として含まれ、環境中に広く分布しています。
水道水で検出される鉛は主に、鉛管や鉛を含有した銅合金製接続部品からの溶出により
ます。現在では、このような鉛含有製品を水道配管に使用することは禁じられていますが、
古い家屋の敷地内配管などには、いまだに残存している可能性があります。ただ、鉛管が
使用されている場合であっても、流水であれば基準値を超えることはほとんどないと考え
られますので、朝一番の水などは配管内に停滞していたものですので、バケツ一杯分程度
は飲用以外の用途に使用することが望まれます。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①鉛の定義
鉛は元素記号 Pb、原子番号 82 の元素で、蒼白色の光沢を有する軟らかい金属で、空気
中で容易に酸化されて表面が錆び、鉛色になりますが、錆が内部まで進行することはあり
ません。
②一般的事項・環境中の存在量等
鉛管からの鉛の溶出量は、pH、水温、硬度、滞留時間に依存し、pH が低く、水温が高
く、硬度が低く、水の滞留時間が長いほど溶出量は多くなるという傾向があります。
環境中の鉛濃度は、都市部の降水中で 40μg/L、海水中で 0.03μg/L、河川・湖水中では
0.001mg/L~0. 01mg/L と報告されています。また、食品中の含有量は、玄米 78~85μg/kg、
精白米 14~29μg/kg、まぐろ 167~286μg/kg、いわし 8~12μg/kg、ごぼう 190~197μg/kg、
南瓜 291~328μg/kg 等となっています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
摂取した鉛は体内の各臓器に分布しますが、生体内での挙動はカルシウムと類似してお
り、特に骨に蓄積されます。(生体内の存在量の 90%以上)
また、職業上等での高濃度暴露などを受けた場合の症例では、血中濃度が 50~80μg/dL
レベルで、疲労感、不眠、過敏、頭痛、関節痛、消化管障害等の症状がみられ、100~200μg/dL
程度で、脳炎、腎臓障害が起こるとされています。これらのことからもわかるように、鉛
の標的組織は中枢及び抹消の神経組織と腎臓です。
発がん性については、鉛及び無機鉛化合物として IARC(国際がん研究機関)ではグルー
プ 2B(人に対して発がん性を示す可能性がある)に分類されています。
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.01mg/L。
6
7.ヒ素及びその化合物
概説
中国・インド・バングラデシュ等世界各国で土壌由来のヒ素が地下水を汚染し、その水
を飲料している人々がヒ素中毒に苦しんでいます。ヒ素の慢性中毒症として、皮膚病変、
鳥足症、末梢血管病変、皮膚がん等があげられます。
人に対して発がん性があります。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①ヒ素の定義
ヒ素は元素記号 As、原子番号 33 の元素で、金属と非金属の両方の性質をもった半金属
です。
②一般的事項・環境中の存在等
ヒ素の主な用途は、ガリウムヒ素半導体の材料、ガラス、顔料、木材の防腐剤等に広く使
われています。
ヒ素の環境中の濃度は、地殻中には 1.8mg/kg 存在し、多くは硫化物として産出します。
また、大気中で 0.02~0.11mg/m3、雨水中で 0.55~12.0μg/L、河川水で 0.9~1.3μg/L 存在
します。また、海産物(エビ・カニ・海草類)の食品中には比較的多量にヒ素化合物を含
んでいますが有機ヒ素化合物のため無毒性または低毒性のものが多いとされています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ヒ素は昔から毒薬として知られており、ヒ素カレー混入事件は記憶に新しいところです
が、その毒性は、水素化ヒ素>亜ヒ酸>ヒ酸>有機ヒ素の順となっており化合物の形態に
よって異なります。ヒ素の慢性中毒症として、皮膚病変、鳥足症、末梢血管病変、皮膚が
ん等があげられます。
また、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、人に対して発がん性のあるもの:
グループ 1 に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.01mg/L。
7
8.六価クロム化合物
概説
クロムとは金属元素の一種で、自然水中には工場排水(メッキ、染料、皮革処理等)や
鉱山廃水に由来して溶存していることがあります。工業的用途としては、ステンレス等の
合金材料として使用される他、メッキ材料、電池、顔料、皮なめし、木材の防腐剤等に使
用されています。人に対して発がん性があります。
水質基準=0.05mg/L 以下であること。
詳説
①六価クロムの定義
クロムは元素記号 Cr、原子番号 24 の元素で、銀白色の光沢を有する硬くてもろい金属
で、空気中や水中では酸化されず耐食性があり、耐熱性、耐摩耗性もあります。
②一般的事項・環境中の存在量等
クロムはいくつかの原子価(+2、+3、+6)をとりますが、環境中のクロムは主にクロム
鉄鉱として産出する 3 価の金属で 3 価のクロムの存在は人間の生産活動に伴う汚染による
ものです。6 価のクロムの毒性は強く、3 価のクロムの 100 倍といわれています。環境水中
の 3 価のクロムは浄水処理により、6 価のクロムに酸化されると考えられているので、水質
基準での項目名は六価クロムとなっておりますが、定められた検査方法では全クロムを求
め、六価クロムとして表示しています。
クロムの環境中での存在量は、地殻平均で 100mg/kg、河川水で 0~0.1μg/L、海水で 0.04
~0.07μg/L、大気中で 0.01~0.05μg/m3、穀類で平均 0.07μg/g、牛乳で 0.013μg/g とされて
います。
③健康影響・水の性状に関する影響等
職業上で六価クロムの暴露を受けた労働者に見られる例ですが、粉塵等を長期間にわた
り吸入すると、皮膚・呼吸器の障害、肺がん、鼻中隔穿孔(鼻の隔壁に穴があく症状)な
どになります。しかし、クロム自体は生体にとって微量必須元素であり、欠乏するとグル
コース(ブドウ糖)、脂質及びタンパク質代謝系に障害が生じます。6 価や 3 価の形態をと
った時のクロムが毒性を有するのであって、クロムを含むステンレスのコップで水を飲ん
だからといって、中毒を起こすわけではないという点に注意しておかなくてはなりません。
IARC(国際がん研究機関)では、六価クロムはグループ 1(人に対して発ガン性のある
もの)にランクされています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、総クロムとして 0.05mg/L。
8
9.シアン化物イオン及び塩化シアン
概説
シアンは、炭素と窒素の化合物で化学式では CN と表します。青酸カリは、シアンの化合
物で広く知られています。
シアン(化合物)の慢性毒性としては、DNA の合成・造血の過程に重要な働きを果たす
ビタミン B12 濃度を低下させ、ビタミン B12 不足を悪化させる可能性があります。また、甲
状腺でのヨウ素の取り込みにも影響し、甲状腺腫の発生率を増加させることもあります。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①シアンの定義
炭素と窒素の化合物で化学式では CN と表します。また、シアンの化合物は遊離型シア
ンと錯塩型シアンに分けることができ、前者にはシアン化ナトリウム(NaCN)・シアン化
カリウム(KCN・通称-青酸カリ)、後者にはフェリシアン化カリウム等の金属の錯化合物
があります。
②一般的事項・環境中の存在等
シアン(化合物)の主な用途は、亜鉛メッキ等のメッキ工業、金属精錬、アクリロニト
リル・メチルメタクリレート等の繊維・プラスチックの化学合成等に使用されます。
熱帯地方・亜熱帯地方の人々の主食である根菜作物キャッサバに高濃度に含有すること
があります。また、アーモンドにも高濃度に含有することがあります。
自然水中にシアンはほとんど存在しませんが、工業排水等による汚染によりしばしば検
出されます。
③健康影響・水の性状に関する影響等
シアンの急性毒性として、血中にシアノヘモグロビンを生成しヘモグロビンの酸素運搬
を阻害するため窒息状態を引き起こします。また、めまい・頭痛・意識喪失・痙攣等もあ
らわれ、ひどい場合には呼吸が停止し、死にいたります。
慢性毒性としては、シアン(化合物)はDNAの合成・造血の過程に重要な働きを果たすビ
タミンB12濃度を低下させ、ビタミンB12不足を悪化させる可能性があります。また、甲状腺
でのヨウ素の取り込みにも影響し、甲状腺腫の発生率を増加させることもあります。
④その他
WHOの飲料水水質ガイドライン値は、0.07mg/L。
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10.
硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素
概説
硝酸態窒素とは水中に含まれる硝酸塩(例-NaNO3・KNO3)中の窒素のことを言い、亜
硝酸態窒素とは水中に含まれる亜硝酸塩(例-NaNO2・KNO2)中の窒素のことを言います。
水質基準では硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の合計量で表します。
体内では硝酸態窒素が亜硝酸態窒素へ還元され、血液中のヘモグロビンと反応して酸素
運搬機能のない血色素のメトヘモグロビンを生成してチアノーゼを呈す場合もあり、ひど
い場合には窒息状態を引き起こします。これらを予防する観点から検査を行います。
また、亜硝酸態窒素はアミン類等と反応し、発がん性のニトロソアミンを生成します。
水質基準=10mg/L以下であること。
詳説
①硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の定義
硝酸態窒素とは水中に含まれる硝酸塩(例-NaNO3・KNO3)中の窒素のことを言い、亜
硝酸態窒素とは水中に含まれる亜硝酸塩(例-NaNO2・KNO2)中の窒素のことを言います。
②一般的事項・環境中の存在量等
硝酸態窒素は、あらゆる場所の土壌、水、野菜を含む植物中に広く存在しています。亜
硝酸態窒素は、硝酸態窒素より一般に非常に低濃度ですが、かなり広く存在しています。
水中の硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の由来は、無機肥料の使用、腐敗した動植物、生活
排水、工場排水等です。これらに含まれる窒素化合物は、水や土壌中で酸化、還元され、
アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素となります。地表水中の硝酸態窒素の濃度
は一般に0.5~2mg/L、亜硝酸態窒素の濃度は0.001~0.01mg/Lのことが多い。
③健康影響・水の性状に関する影響等
硝酸態窒素の一部は体内で亜硝酸態窒素に還元されます。亜硝酸態窒素は血液中のヘモ
グロビンと反応し、酸素運搬機能のない血色素メトヘモグロビンを生成します。このメト
ヘモグロビンが10%以上になるとメトヘモグロビン血症と呼ばれ、チアノーゼ(血液中の
酸素飽和度(ヘモグロビンが酸素と結合している割合)が低下した場合等に、唇や爪が紫
藍色に変色したような状態を示す)を呈し、30~40%になると窒息状態となります。硝酸
態窒素の還元はpH値が4.6以下ならほとんど起こりません。大人の胃酸のpH値は通常2~3
ですので硝酸態窒素はほとんど還元されませんが、胃酸の分泌の少ない乳児はpH値が約4
強ですので亜硝酸態窒素が多く生成されます。そのためこの症状は乳児にみられます。
④その他
WHOの飲料水水質ガイドライン値は、硝酸として50mg/L・亜硝酸として3mg/L。
10
11.
フッ素及びその化合物
概説
フッ素は、ホタル石、氷晶石、フッ素リン灰石等の鉱物として、自然界に広く分布して
おり、長期間飲料水から摂取すると、歯や骨に蓄積され、斑状歯や骨格フッ素中毒症(骨
格フッ素沈着症)といった症状があらわれます。
フッ素は、斑状歯予防の観点から検査を行います。
水質基準=0.8mg/L以下であること。
詳説
①フッ素の物性、性状等
フッ素は、元素記号F・原子番号9・原子量19のハロゲン元素の一つで、最も反応性の高
い元素です。
②一般的事項・環境中の存在量等
フッ素は、自然界にはフッ化物(F-)、珪フッ化物(SiF62-)の化合物の形で存在し、元素
の形で存在しません。いずれも無色のイオンで、ナトリウム塩(NaF)は水溶性ですが、
アルミニウム、カルシウム、マグネシウムの各塩はわずかしか溶けません。主な鉱石はホ
タル石、氷晶石、フッ素リン灰石で、自然界に広く分布しています。したがって水中のフ
ッ素は、主として地質に由来することが多いです。しかし、近年、フッ素化合物を使用す
る工場から工業排出物として河川水中に混入することがあります。
環境中のフッ素濃度は、大気で0.5~3ng/m3 以下、雨水で0~0.6mg/L、海水で1.3~
1.4mg/L、河川水で0~0.2mg/L、井戸水で1mg/L以下です。
③健康影響・水の性状に関する影響等
水溶性のフッ化物は、経口摂取後、速やかにほとんど吸収され、慢性毒性として斑状歯
の発生と骨格フッ素中毒症を引き起こします。
斑状歯とは、フッ素による歯冠部の白濁を主とする発育不全症で、歯の表面に不規則の
白亜状の斑点ができ、次いで黄色又は褐色の斑点ができます。進行すると歯に穴があき、
歯の表面が侵食された状態となります。斑状歯の発生はほとんどが永久歯に限られ、その
形成期間は乳幼児から14歳ぐらいまでに現れるのが特徴です。
骨格フッ素中毒症は、フッ素により骨格構造が影響を受け、軽度のものは関節の痛み、
ひどい場合は歩行障害等を生じます。
④その他
WHOの飲料水水質ガイドライン値は、1.5mg/L。
11
12.
ホウ素及びその化合物
概説
ホウ素は、自然界中には、ほう酸・ほう酸塩として存在していますが、自然水中に含ま
れることはまれで火山地帯の地下水等にメタほう酸として含まれることがあります。また、
ガラス工業・エナメル工業等の排水から自然水中に混入することがあります。
ホウ素は、動物実験による胎児の体重増加抑制の観点から検査を行います。
水質基準=1mg/L以下であること。
詳説
①ホウ素の物性、性状等
ホウ素は、元素記号 B・原子番号 5・融点 2,300℃で水に不溶性の黄色または黒色の硬い
固体の元素です。
②一般的事項・環境中の存在等
表流水のホウ素濃度はアメリカではほとんどが1mg/L 以下で、北イタリアでは約 65%が
0.1mg/L 程度となっています。海水中ではホウ素は 4~5mg/L 存在します。
植物では細胞組織に存在し、豆類で 25~50μg/g、果物・野菜 5~20μg/g、穀類・穀物 1
~5μg/g となっています。
また、目薬の中にホウ素は、ホウ酸(H3BO3)の形で消毒・洗浄剤として含まれており、
耐熱ガラスには B2O3 の形で10数%含んでいます。ゴキブリ駆除剤のホウ酸団子は文字通
りホウ酸を 40 数%含んでいます。
③健康影響・水の性状に関する影響等
火傷や損傷皮膚からの粉末・軟膏等のホウ酸の経皮致死量が、最低で 8,600mg/kg 体重と
いう報告があります。経口毒性では最低で 640mg/kg 体重という報告もあります。
慢性暴露により食欲減退、吐き気、紅疹を引き起こすこともあります。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.5mg/L。
12
13.四塩化炭素
概説
炭素原子 1 つに塩素原子 4 つが結合した化合物で、フロンの原料として使用されること
が多かったのですが試験研究・分析用途に使用されるもの以外は生産が全廃されています。
肝臓に対して急性及び慢性の毒性を持ちます。
人に対して発がん性を示す可能性があります。
水質基準=0.002mg/L 以下であること。
詳説
①四塩化炭素の定義
分子式 CCL4 で表される炭素原子 1 つに塩素原子 4 つが結合した化合物です。
CL
構造式
C は炭素原子
CL
C
CL
CL は塩素原子
CL
②一般的事項・環境中の存在量等
フロンの原料として使用されることが多かったのですがフロンと同じくオゾン層破壊物
質(オゾン層破壊係数 1.1)として「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定
書」に基づき 1995 年末でエッセンシャルユース(試験研究・分析用途に使用されるもの)
を除く生産が全廃されています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
四塩化炭素は、消化管・呼吸器・皮膚から容易に吸収され、肝臓で代謝され呼気・尿・
糞便中に排出される。代謝される際に生成されるトリクロロメチルラジカルが、肝細胞の
壊死を引き起こし肝臓障害が起きます。
また、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、人に対して発がん性を示す可能
性がある:グループ 2B に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.002mg/L。
13
14.1,4-ジオキサン
概説
溶剤、1,1,1-トリクロロエタンの安定剤等に使用され有機溶剤中毒予防規則では、第 2 種
有機溶剤に区分されています。1,4-ジオキサンの化合物は様々な臓器で腫瘍を誘発します。
人に対して発がん性を示す可能性があります。
水質基準=0.05mg/L 以下であること。
詳説
①1,4-ジオキサンの定義
分子式 C4H8O2 で表される炭素原子 4 つに水素原子 8 つと酸素原子 2 つが結合した化合
物で沸点が 101℃で特徴的な臭気のある無色の液体で、水に溶けます。
H
構造式
H
H
C
C
H
C は炭素原子
O
O
O は酸素原子
H は水素原子
H
C
H
C
H
H
②一般的事項・環境中の存在等
溶剤、1,1,1-トリクロロエタンの安定剤(約 2%)等に使用されており、また、ポリオキ
シエチレン系非イオン界面活性剤等の製造工程で副生し洗剤などに不純物として存在しま
す。
水への溶解度は高く、水域において高濃度ではありませんが広範囲の汚染が確認されて
います。また、通常の浄水処理(凝集沈殿+砂ろ過)ではほとんど除去されません。
③健康影響・水の性状に関する影響等
弱い麻酔作用があり、溶剤である 1,4-ジオキサンに暴露されると肝臓・腎臓障害を起こ
します。皮膚からも吸収されます。
IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 2B(人に対して発がん性
を示す可能性がある)に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、設定されていません。
14
15.シス-1,2-ジクロロエチレン及びトランス-1,2-ジクロロエチレン
概説
分子式 C2H2CL2 で表される炭素原子 2 つに水素原子 2 つと塩素原子 2 つが結合(炭素原
子 1 つに水素原子 1 つと塩素原子 1 つが結合したものが二重結合したもので塩素原子が同
じ方向にあるもの(シス体)と逆の方向にあるもの(トランス体))した化合物で塩素系溶
剤の製造過程中に反応中間体として生成・使用される。その他、溶媒・染料抽出剤・香料・
ラッカー等にも使用されています。
水質基準=0.04mg/L 以下であること。
詳説
① シス-1,2-ジクロロエチレン及びトランス-1,2-ジクロロエチレンの定義
分子式 C2H2CL2 で表される炭素原子 2 つに水素原子 2 つと塩素原子 2 つが結合(炭素原
子 1 つに水素原子 1 つと塩素原子 1 つが結合したものが二重結合したもので塩素原子が同
じ方向にあるもの(シス体)と逆の方向にあるもの(トランス体))した化合物です。
構造式
CL
CL(H)
C は炭素原子
C
C
CL は塩素原子
H は水素原子
H
H(CL)
②一般的事項・環境中の存在量等
塩素系溶剤の製造過程中に反応中間体として生成・使用されます。その他、溶媒・染料
抽出剤・香料・ラッカー等にも使用されています。
環境中では、製造過程・溶剤として使用される過程で環境中に放出されることにより存
在します。また、トリクロロエチレン・テトラクロロエチレンが土壌中の細菌等によって
分解されるときにもシス-1,2-ジクロロエチレン及びトランス-1,2-ジクロロエチレン
が生成します。
③健康影響・水の性状に関する影響等
高濃度の 1,2-ジクロロエチレンを吸入すると、中枢神経系機能低下を引き起こします。
また、低濃度では吐き気・眠気・めまい等が起きるという報告もあります。
発がん性については、関係するデータがありません。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.05mg/L(1,2-ジクロロエチレンとして)。
15
16.ジクロロメタン
概説
分子式 CH2CL2 で表される化合物で揮発性が高く、水への溶解度は体積比で約 2%で各種
溶剤等に使用されており、大気中に放出される量がトルエン、キシレンに次いで 3 番目に
多くなっています。
人に対して発がん性を示す可能性があります。
水質基準=0.02mg/L 以下であること。
詳説
①ジクロロメタンの定義
別名二塩化メチレンとも言い分子式 CH2CL2 で表される炭素原子 1 つに水素原子 2 つと
塩素原子 2 つが結合した化合物で沸点が 39.8℃と低く揮発性が高く、水への溶解度は体積
比で約 2%です。
CL
構造式
C は炭素原子
CL
C
H
CL は塩素原子
H
②一般的事項・環境中の存在量等
用途は、金属脱脂洗浄剤・プリント基板洗浄剤・各種溶剤(フィルム・油脂・樹脂・ゴ
ム等)・ペイントはく離剤・ウレタン発泡助剤・ポリカーボネートの重合反応溶剤等多様で
広く使われています。
環境中では、製造過程、各種溶剤として使用される過程で大気中に放出されることによ
り存在し、トルエン、キシレンに次いで 3 番目に多くなっています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
高濃度の蒸気吸入暴露は中枢神経系への様々な影響をもたらし、多くの場合激しい昏睡
状態になります。空気中濃度で、1.06g/m3 の急性暴露で、知覚及び運動機能を喪失させた
との報告があります。
また、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、人に対して発がん性を示す可能
性がある:グループ 2B に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.02mg/L。
16
17.テトラクロロエチレン
概説
1980 年代初め頃から新潟県・熊本県等各地でトリクロロエチレン・テトラクロロエチレ
ン・1,1,1-トリクロロエタンにより井戸が汚染され社会問題となりました。
テトラクロロエチレンは、分子式 C2CL4 で表される炭素原子 2 つに塩素原子 4 つが結合
した化合物で、人に対して発がん性を示す可能性があります。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①テトラクロロエチレンの定義
分子式 C2CL4 で表される炭素原子 2 つに塩素原子 4 つが結合した化合物で、水に不溶で
有機溶媒によく溶け、エーテルのような臭いがあり、不燃性です。
構造式
CL
CL
C は炭素原子
C
C
CL
CL は塩素原子
CL
②一般的事項・環境中の存在等
1980 年代初め頃から新潟県・熊本県等日本各地でトリクロロエチレン・テトラクロロエ
チレンにより井戸が汚染され社会問題となりました。
テトラクロロエチレンの主な用途は、ドライクリーニングの洗浄剤・塗料などの溶剤・
金属機械部品の脱脂洗浄剤として使用されています。
環境中では、製造過程・溶剤として使用される過程またテトラクロロエチレンを含むス
ラッジ類の廃棄物・工場排水等から環境中に放出されることによって存在します。
③健康影響・水の性状に関する影響等
経口摂取により嘔吐・腹痛・意識喪失等が見られることがあります。また、高濃度のテ
トラクロロエチレンは、酩酊・知覚の歪曲・陽気といった中枢神経系へ影響を及ぼし、低
濃度では肝臓と腎臓に障害をもたらします。
また、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、人に対して発がん性を示す可能
性がある:グループ 2B に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.04mg/L。
17
18.トリクロロエチレン
概説
1980 年代初め頃から新潟県・熊本県等各地でトリクロロエチレン・テトラクロロエチレ
ン・1,1,1-トリクロロエタンにより井戸が汚染され社会問題となりました。
トリクロロエチレンは、分子式 C2HCL3 で表される炭素原子 2 つに水素原子 1 つと塩素
原子 3 つが結合した化合物で、麻酔性があります。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①トリクロロエチレンの定義
分子式 C2HCL3 で表される炭素原子 2 つに水素原子 1 つと塩素原子 3 つが結合した化合
物で、水に不溶で有機溶媒に可溶で、クロロホルムのような臭いがあり、麻酔性がありま
す。
構造式
CL
H
C は炭素原子
C
C
CL は塩素原子
H は水素原子
CL
CL
②一般的事項・環境中の存在等
トリクロロエチレンの主な用途は、ドライクリーニングの洗浄剤(現在は使用されてい
ない)・塗料などの溶剤・金属機械部品の脱脂洗浄剤として使用されています。
環境中では、製造過程・溶剤として使用される過程またトリクロロエチレンを含むスラ
ッジ類の廃棄物・工場排水等から環境中に放出されることによって存在します。また、地
下水中でテトラクロロエチレンが分解し、トリクロロエチレンが生成されるという報告も
あります。
地下に浸透したトリクロロエチレンは、地下で安定な形で閉じ込められるため、長期間
汚染が継続します。
③健康影響・水の性状に関する影響等
高濃度のトリクロロエチレン蒸気に暴露されると、眠気・頭痛・吐き気・粘膜の炎症及
び中枢神経の機能低下を引き起こします。
また、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、人に対する発ガン性について分
類できない:グループ 3 に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.07mg/L。
18
19.ベンゼン
概説
合成樹脂・合成繊維・合成ゴム・医薬品・農薬・可塑剤等の原料として、また、有機溶
剤、自動車の排出ガス中、ガソリン中の含有物(約 1%弱)として広く使用・存在していま
す。
人に対して発がん性があります。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①ベンゼンの定義
分子式 C6H6 で表される化合物です。
②一般的事項・環境中の存在量等
合成樹脂・合成繊維・合成ゴム・医薬品・農薬・可塑剤等の原料として広く使用され、
有機溶剤であるトルエン・キシレン中には不純物として存在する他、自動車の排出ガス中
にも多く含まれています。
また、ガソリン中には環境省「大気汚染防止法」に基づく「自動車の燃料の性状に関す
る許容限度及び自動車の燃料に含まれる物質の許容限度」の規定が平成 12 年 1 月 1 日より
「5%以下(体積比)」が「1%以下(体積比)」に改められたことにより含有物として約 1%
弱存在しています。
ベンゼンの多くが大気中に揮散し消失すると推定されており、水中に残留したものも速
やかに生物によって分解されます。
(水中半減期は数日~1 週間)
③健康影響・水の性状に関する影響等
高濃度のベンゼンを吸入すると、めまい・嘔吐・頭痛・昏睡等を起こします。人体に対
し、特に白血球が影響を受けやすく、高濃度暴露により白血病になるとの報告もあります。
また、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、人に対して発がん性のあるもの:
グループ 1 に分類されています。
④その他
タバコの煙にはベンゼンが含まれおり、煙の中心部分には 0.01~0.1mg(タバコ 1 本当
り)
・副流部分には 0.05~0.5mg(タバコ 1 本当り)のベンゼンが検出され、喫煙者のベン
ゼン暴露量は非喫煙者の 3~10 倍であるという報告もあります。
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.01mg/L。
19
20.塩素酸
概説
浄水場で通常使用される消毒剤の次亜塩素酸ソーダおよび欧州等で消毒剤として二酸化
塩素が使用される場合には分解生成物として水道水中に存在します。原水中に存在するこ
とは稀で、ほとんどが浄水場で使用する薬品に由来すると考えられています。
人の甲状腺に対して影響があると考えられるため平成 20 年度から水質基準となりました。
水質基準=0.6mg/L 以下であること。
詳説
① 塩素酸の定義
分子式 CLO3-で表される化合物です。
塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウムが水に溶解すると電離して存在します。
② 一般的事項・環境中の存在量等
塩素酸ナトリウムは、雑草の除草剤、二酸化塩素の原料、金属表面処理剤、マッチ、花
火等に使われます。
原水中に塩素酸が存在することは稀です。
③ 健康影響・水の性状に関する影響等
健康影響については、ラットの 90 日間強制経口投与試験において、甲状腺のコロイド枯
渇と脳下垂体障害(下垂体前葉細胞の細胞質の空胞化)が認められました。
また、浄水場で使用される次亜塩素酸ソーダは、長期間の貯蔵で徐々に酸化され塩素酸
濃度が高くなります。この酸化は、貯蔵温度が高いほど早まります。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.7mg/L。
水質基準値の算定式(非発がん性)
TDI
30μg/kg 体重/日
1 日飲料水量
2L
寄与率
80%
体重
50kg
水質基準値=TDI×体重×寄与率÷1 日飲料水量=0.03×50×0.8÷2=0.6
20
21.クロロ酢酸
概説
水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中の有機物が反応して生成さ
れる有機塩素化合物で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つです。発がん性を示す報
告はありませんが、動物実験による脾臓重量増加及び体重減少・肝臓重量減少等の観点か
ら検査を行います。
水質基準=0.02mg/L 以下であること。
詳説
①クロロ酢酸の定義
分子式 CH2CLCOOH で表される炭素原子 1 つに水素原子 2 つと塩素原子 1 つにカルボ
キシルキ基が結合した化合物で沸点が 189℃で、水への溶解度は大きく 850g/L です。
H
構造式
C は炭素原子
CL
C
COOH
CL は塩素原子
H は水素原子
H
②一般的事項・環境中の存在等
2,4-ジクロロフェノキシ酢酸等の農薬原料・キレート剤原料・医薬品原料及び界面活性剤
原料として使用されます。
水道で問題となるのは、水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中の
有機物が反応して生成される場合で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つとなります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
発がん性を示す報告はありませんが、ラットを使った動物実験によると 3.5mg/kg/day で
脾臓重量増加が見られ、26mg/kg/day 以上では体重減少・肝臓重量減少がみられたという
報告があります。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.02mg/L。
21
22.クロロホルム
概説
クロロホルムとは、トリハロメタンの一種でメタン(分子式CH4)の水素原子 4 個のう
ち、3 個が塩素原子に置換された構造のものです。水道水の浄水処理過程で消毒用に添加さ
れる塩素剤と原水中のフミン質等の有機物が反応して生成される有機塩素化合物で、消毒
副生成物と呼ばれているものの一つです。人に対して発がん性を示す可能性があります。
水質基準=0.06mg/L 以下であること。
詳説
①クロロホルムの定義
別名 トリクロロメタンともいい水に難溶で、ほとんどの有機溶媒に易溶の有機塩素化合
物です。揮発性が高く、無色透明で、特有の臭いとかすかな甘味を有し不燃性で、引火性
はありません。
工業的な用途としては、フッ素樹脂及びフッ素系冷媒(フロン)の原料などに使用され
ます。
構造式は下記のとおりです。
CL
CL は塩素原子を示す
CL
C
C は炭素原子を示す
H
H は水素原子を示す
分子式 CHCL3
CL
②一般的事項・環境中の存在量等
環境中での存在は、工業原料に使用されるほか、溶剤、抽出剤として使用される過程で
環境中に放出されることによりますが、その揮発性のため、大半が大気中に移行するもの
と考えられます。また、地表を汚染した場合でも揮散により消失し大気中に移行します。
大気中では、光化学反応により生成されたヒドロキシラジカルとの反応により、徐々に
分解され、その半減期は 70~123 日と計算されています。
工業的な用途としては、フッ素樹脂及びフッ素系冷媒(フロン)の原料などに使用され
ます。水道水中のクロロホルムは、煮沸(5 分程度)により除去が可能です。
③健康影響・水の性状に関する影響等
クロロホルムは中枢神経系の抑制作用を持ち、麻酔用に使われてきましたが、肝臓及び
腎臓に毒性を示すことが動物実験等で確認されています。毒性の発現は、反応中間体であ
るホスゲンの脂質や組織タンパクに対する障害作用によります。また、高濃度のガスを多
量に吸引すると、意識喪失とその後の昏睡状態を経て死に至ることもあります。
IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 2B(人に対して発がん性
を示す可能性がある)に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.06mg/L。
22
23.ジクロロ酢酸
概説
水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中の有機物が反応して生成さ
れる有機塩素化合物で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つです。
ジクロロ酢酸は、IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 3(人に
対して発がん性による分類が不可能なもの)に分類されていますが、1999 年に肝細胞癌が
増加するという報告があり現時点では十分な知見がないため、発がん性の恐れがあるもの
として検査を行います。
水質基準=0.04mg/L 以下であること。
詳説
①ジクロロ酢酸の定義
分子式 CHCL2COOH で表される炭素原子 1 つに水素原子 1 つと塩素原子 2 つにカルボ
キシルキ基が結合した化合物で沸点が 194℃で、水と混和します。
CL
構造式
C は炭素原子
CL
C
COOH
CL は塩素原子
H は水素原子
H
②一般的事項・環境中の存在等
水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中の有機物が反応して生成さ
れる有機塩素化合物で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つです。
浄水処理過程では、活性炭により除去が可能です。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ジクロロ酢酸は、IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 3(人に
対して発がん性による分類が不可能なもの)に分類されていますが、1999 年に肝細胞癌が
増加するという報告がありました。しかし、現時点ではまだ十分な知見が集積されている
とは言いがたい状況にあります。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.05mg/L。
23
24.ジブロモクロロメタン
概説
ジブロモクロロメタンとは、トリハロメタンの一種でメタン(分子式CH4)の水素原子
4個のうち、2 個が臭素原子に 1 個が塩素原子に置換された構造のものです。
水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中のフミン質等の有機物が反
応して生成される有機塩素化合物で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つです。
水質基準=0.1mg/L 以下であること。
詳説
①ジブロモクロロメタンの定義
別名クロロジブロモメタンともいい水に難溶であり、有機溶媒に可溶の有機ハロゲン化
合物です。その生成量は原水中の臭素イオン濃度に比例し、臭素イオンが多いほど生成量
も多くなります。
Br は臭素原子を示す
CL
構造式
CL は塩素原子を示す
Br
C
H
C は炭素原子を示す
H は水素原子を示す
分子式 CHBr2CL
Br
②一般的事項・環境中の存在量等
環境中での存在は、水中の次亜塩素酸が臭素酸イオンを酸化して次亜臭素酸を生成し、
この次亜臭素酸が原水中のフミン質等と反応して生成することによります。すなわち、水
中の臭素イオンが消毒用の塩素によって有機物と反応しやすい次亜臭素酸の形態となって
有機物と反応し、ジブロモクロロメタンが生成されます。
表流水中のジブロモクロロメタンの半減期は 0.7 時間~16 日とされています。また、嫌
気状態において、メタン菌や脱窒素菌、硫酸還元菌が存在すると微生物分解されます。
水道水中のジブロモクロロメタンは、煮沸(5 分程度)により除去が可能です。
ジブロモクロロメタンは試験用試薬などに使用されますが、用途はごく限られています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ジブロモクロロメタンのヒトへの影響は有用な情報が無く、不明です。しかし、動物実
験により経口投与した場合、体重の減少や腎臓及び肝臓に対する毒性がみられました。
IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 3(人に対する発がん性に
ついて分類できない)にランクされています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.1mg/L。
24
25.臭素酸
概説
臭素酸は、オゾンによる高度浄水処理時に水中の臭素が酸化されて生成する他、塩素消
毒剤の次亜塩素酸ソーダに不純物として含まれています。
人に対して発がん性を示す可能性があります。
水質基準=0.01mg/L 以下であること。
詳説
①臭素酸の定義
臭素酸の塩を水に溶かすと臭素酸(BrO3-)と陽イオンに解離します。塩の代表例は、臭
素酸カリウム(KBrO3)・臭素酸ナトリウム(NaBrO3)などがあります。
②一般的事項・環境中の存在等
臭素酸カリウム(KBrO3)・臭素酸ナトリウム(NaBrO3)のような塩の形態で存在しま
す。臭素酸カリウムは小麦粉のグルテンの結合を助ける改良剤として、また、臭素酸ナト
リウムは毛髪のコールドパーマ液の第 2 剤に 6~10%含まれ使用されています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
水道で問題となるのは、水道水の高度浄水処理過程でオゾンにより臭素が酸化され生成
する場合と、消毒用に添加される次亜塩素酸ソーダに不純物として含まれる場合で、通常
の浄水処理やエアレーションでは除去が困難で有効な除去方法がありません。
IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 2B(人に対して発がん性
を示す可能性がある)に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.01mg/L。
食品衛生法では、
「臭素酸カリウムとして小麦粉 1kg あたり 0.03g 以下で、最終食品に残
留しないこと」となっています。
水質基準値の算定式(発がん性)
VSD(10-5)
0.357μg/kg 体重/日
1 日飲料水量
2L
体重
50kg
水質基準値=VSD×体重÷1 日飲料水量=0.000357×50÷2=0.008925≒0.009
25
26.総トリハロメタン
概説
総トリハロメタンとは 4 種のトリハロメタン(クロロホルム、ジブロモクロロメタン、
ブロモジクロロメタン、ブロモホルム)の合量をいいます。
水質基準=1mg/L 以下であること。
詳説
①総トリハロメタンの定義
一般的にトリハロメタンとは、メタン(CH4)を構成する 4 個の水素原子の内、3 個がハ
ロゲン類に置換されたもので、水道水中のトリハロメタンに関してはアメリカ環境保護庁
(US.EPA)が定義したものとして、検出頻度が高い上記 4 種の物質を指します。トリと
は 3 のことで、トリハロメタンとは、3 つのハロゲンが結合したメタンという意味です。
②一般的事項・環境中の存在量等
原水(浄水処理前の水)には病原性細菌が含まれている可能性があるので、水道水(浄
水処理後の水)については消毒(殺菌)の確実性と給水末端までの消毒効果の持続性が必
須の条件となります。塩素剤は消毒効果が大きく確実であること、消毒効果の持続性があ
ること(残留効果)、大量処理にも容易に適用できることなど、優れた性質を数多く有して
います。
しかし、この効力の大きい塩素剤の使用が、一方ではトリハロメタン生成の一つの原因
ともなっています。
トリハロメタン生成は、①富栄養化した湖沼や河川の水中にはさまざまなプランクトン
やフミン質などの有機物が含まれており、これらのものはトリハロメタン生成の一因とな
る物質でトリハロメタン前駆物質と呼ばれています。②浄水工程中でこれらの前駆物質と
消毒剤(塩素剤)とが出会うとトリハロメタンが生成されます。その生成量は前駆物質濃
度、塩素剤濃度、接触時間及び水温に比例します。すなわち、原水の水質が悪く、塩素注
入量が多く、末端の給水になるほど、また水温が高いほどその生成量は増加する傾向にあ
ります。また、塩素剤には消毒効果のほかに酸化作用もあり、水に溶解している鉄、マン
ガンなどの金属類を酸化したり有機物を分解するなどの効果もあり、浄水処理には重要な
要素となっており欠かすことができません。
塩素注入を行う浄水処理においては、結果的にどうしてもトリハロメタンが生成してし
まうというジレンマが存在します。
③その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、1mg/L。
26
27.トリクロロ酢酸
概説
水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中の有機物が反応して生成さ
れる有機塩素化合物で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つです。
トリクロロ酢酸は、IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 3(人
に対して発がん性による分類が不可能なもの)に分類されていますが、発がん性の恐れが
あるものとして検査を行います。
水質基準=0.2mg/L 以下であること。
詳説
①トリクロロ酢酸の定義
分子式 CCL3COOH で表される炭素原子 1 つに塩素原子 3 つおよびカルボキシルキ基が
結合した化合物で沸点が 198℃で、水に非常によく溶けます。
CL
構造式
C は炭素原子
CL
C
COOH
CL は塩素原子
CL
②一般的事項・環境中の存在等
医薬品の原料・除草剤・タンパク質の濃縮・ケミカルピーリングの TCA 法の薬剤等に使
用されます。ケミカルピーリングの TCA 法では、トリクロロ酢酸濃度が 5~15%程度の濃
度のものが使用されています。
水道で問題となるのは、水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中の
有機物が反応して生成される場合で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つとなります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
トリクロロ酢酸は、IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 3(人
に対して発がん性による分類が不可能なもの)に分類されています。マウスによる動物実
験で肝腫瘍を引き起こすことが報告されています。しかし、ラットでは発がん性を示す知
見は認められていません。
浄水処理過程では、活性炭により除去が可能です。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.2mg/L。
27
28.ブロモジクロロメタン
概説
ブロモジクロロメタンとは、トリハロメタンの一種でメタン(分子式 CH4)の水素原子
4個のうち、2 個が塩素原子に 1 個が臭素原子に置換された構造のものです。
消毒副生成物と呼ばれているものの一つで人に対して発がん性を示す可能性があります。
水質基準=0.03mg/L 以下であること。
詳説
①ブロモジクロロメタンの定義
別名ジクロロブロモメタンともいい水に難溶で、有機溶媒に可溶の有機ハロゲン化合物
です。その生成量は原水中の臭素イオン濃度に比例し、臭素イオンが多いほど生成量も多
くなります。
Br は臭素原子を示す
CL
構造式
CL は塩素原子を示す
CL
C
C は炭素原子を示す
H
H は水素原子を示す
Br
分子式 CHBrCL2
②一般的事項・環境中の存在量等
環境中での存在は、水中の次亜塩素酸が臭素酸イオンを酸化して次亜臭素酸を生成し、
この次亜臭素酸が原水中のフミン質等と反応して生成することによります。すなわち、水
中の臭素イオンが消毒用の塩素によって有機物と反応しやすい次亜臭素酸の形態となって
有機物と反応し、ブロモジクロロメタンが生成されます。
表流水中のブロモジクロロメタンの半減期は 0.5 時間~1 日とされています。また、嫌気
状態において、メタン菌や脱窒素菌、硫酸還元菌が存在すると微生物分解されます。
水道水中のブロモジクロロメタンは、煮沸(5 分程度)により除去が可能です。
ブロモジクロロメタンは試験用試薬などに使用されますが、用途はごく限られています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ブロモジクロロメタンのヒトへの影響は有用な情報が無く、不明です。しかし、動物実
験により経口投与した場合、甲状腺や肝臓に対する影響がみられ、高濃度投与群について
は体重の減少などが観察されました。
IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 2B(人に対して発がん性
を示す可能性がある)に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.06mg/L。
28
29.ブロモホルム
概説
ブロモホルムとは、トリハロメタンの一種でメタン(分子式CH4)の水素原子 4 個のう
ち、3 個が臭素原子に置換された構造のものです。
水道の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤と原水中のフミン質等の有機物が反応
して生成される有機塩素化合物であり、消毒副生成物と呼ばれているものの一つです。
水質基準=0.09mg/L 以下であること。
詳説
①ブロモホルムの定義
別名トリブロモメタンともいい水に難溶で、有機溶媒に可溶の有機ハロゲン化合物です。
その生成量は原水中の臭素イオン濃度に比例し、臭素イオンが多いほど生成量も多くなり
ます。
Br
構造式
Br は臭素原子を示す
Br
C
H
C は炭素原子を示す
H は水素原子を示す
Br
分子式 CHBr3
②一般的事項・環境中の存在量等
環境中での存在は、水中の次亜塩素酸が臭素酸イオンを酸化して次亜臭素酸を生成し、
この次亜臭素酸が原水中のフミン質等と反応して生成することによります。すなわち、水
中の臭素イオンが消毒用の塩素によって有機物と反応しやすい次亜臭素酸の形態となって
有機物と反応し、ブロモホルムが生成されます。
表流水中のブロモホルムの半減期は 1 時間~24 日とされています。また、嫌気状態にお
いて、メタン菌や脱窒素菌、硫酸還元菌が存在すると微生物分解されます。
水道水中のブロモホルムは、煮沸(5 分程度)により除去が可能です。
ブロモホルムは試験用試薬などに使用されますが、用途はごく限られています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ブロモホルムのヒトへの影響は有用な情報が無く、不明です。しかし、高濃度暴露では
皮膚及び眼への刺激性を示し、急性影響として肺水腫、痙攣、肝障害が見られたとの報告
があります。また、動物実験によると鎮静、嗜眠などの中枢神経抑制作用なども見られま
す。IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 3(人に対する発がん性
について分類できない)にランクされています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.1mg/L。
29
30.ホルムアルデヒド
概説
ホルムアルデヒドとは、炭素原子に水素原子 2 個、酸素素原子 1 個が結合した構造のも
ので、水道水の浄水処理過程で消毒用に添加される塩素剤やオゾンと原水中の天然有機物
が反応して生成される有機化合物で、消毒副生成物と呼ばれているものの一つです。
IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 1(人に対して発がん性の
あるもの)に分類されています。
水質基準=0.08mg/L 以下であること。
詳説
①ホルムアルデヒドの定義
ホルムアルデヒドは水にとけやすく、刺激臭をもつ有機化合物です。無色透明で、37%
以上の溶解度の水溶液をホルマリンといいます。
工業的な用途としては、尿素-ホルムアルデヒド、フェノール、メラミン、ポリアセタ
ール等の樹脂の原料などに使用されます。また、化粧品、殺菌剤、織物そして腐食防止剤
にも使われます。
構造式は下記のとおりです。
H は水素原子を示す
H
O は酸素原子を示す
H
C
C は炭素原子を示す
O
分子式 HCHO
②一般的事項・環境中の存在量等
大気中での存在は、工業原料、プラスチックおよび樹脂接着剤から環境大気中に放出さ
れることによります。 3~23mg/kg の範囲の濃度で様々な食品中にも存在していることが
報告されています。また、喫煙者は約 0.38mg/日の高濃度の暴露を受けています。
水道水中のホルムアルデヒドは、微量ですが検出されます。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ホルムアルデヒドは消化管から容易に吸収され、主に筋肉に分布し、腸、肝臓等他の組
織中では低レベルとなっています。また、蟻酸に迅速に酸化されます。
高濃度の経皮暴露により刺激性・アレルギー性皮膚炎が起こります。
IARC(国際がん研究機関)では発がん性について、グループ 1(人に対して発がん性の
あるもの)に分類されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、0.9mg/L。
30
31.亜鉛及びその化合物
概説
亜鉛とは金属元素の一種で、自然水中には地質に起因するものが微量含まれますが、工
場排水や鉱山廃水により汚染が起きることがあります。
人体に対する毒性は低く、亜鉛による水系汚染が人間の健康に影響を及ぼすことは殆ど
ないと考えられます。むしろ、欠乏による健康障害の方が、人に与える影響としては大き
いとも言えます。
水質基準は、水の白濁及び金属味の防止という観点から定められたものです。
水質基準=1mg/L 以下であること。
詳説
①亜鉛の定義
亜鉛は元素記号 Zn、原子番号 30 の元素で、青みをおびた銀白色の金属で湿った空気中
では表面に塩基性炭酸塩を形成します。
②一般的事項・環境中の存在量等
水道の障害としては、給水管に使用した亜鉛メッキ鋼管からの溶出により、水が白濁し
た例があります。
亜鉛の環境中での存在量は、土壌中で 10~300mg/kg、河川水で 10μg/L、海水で1μg/L
とされています。
亜鉛は工業的用途としては、ダイカスト製品、メッキ材料、電池、防食材に使用されま
す。
③健康影響・水の性状に関する影響等
亜鉛自体はヒト及びすべての生体機能にとって必須元素で、ほぼ 200 種に及ぶ含亜鉛酵
素が同定されています。代表例としては、多くの脱水酵素、アルドラーゼ、ペプチターゼ、
ポリミターゼ、及びホスファターゼがあり、生体内で重要な機能役割を果たしています。
欠乏すると食欲不振、成長阻害、性器発育不全、味覚障害、生殖機能障害、角化症、脱毛、
暴力的になるなどの精神神経障害等の症状が現れます。
亜鉛不足の原因としては、最近の食品製造原料は精製されたものが多く、亜鉛の含量が低
いこと、また、フィチン(パンやインスタントラーメンなどの小麦製品に含まれる)が吸
収を阻害するためです。
亜鉛を多く含む食品としては、牡蠣、抹茶、かずのこ、きなこ、にぼしなどがあります。
通常、成人 1 日当たりの摂取量は約 15mg で、150mg を超えると他の金属の代謝拮抗物質と
なり、銅や鉄の代謝に影響を及ぼすので、適度な摂取が必要です。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、設定されていません。
31
32.アルミニウム及びその化合物
概説
地球上に広く分布し、地球表層部では酸素、ケイ素についで多い元素で、金属としては
最も多く存在します。自然水中にも含まれますが溶解度が小さいので、地下水 0.014~
0.29mg/L・河川水 0.016~1.17mg/L となっています。
アルミニウムの存在下では低濃度の鉄が水を着色させることがあるため、着色防止の観
点から検査を行います。
水質基準=0.2mg/L 以下であること。
詳説
①アルミニウムの定義
アルミニウムは元素記号 AL、原子番号 13 の元素で、銀白色の金属で沸点が 2,327℃、
融点は 660℃で、比重は 2.7 です。
②一般的事項・環境中の存在等
地球上に広く分布し、地球表層部では酸素、ケイ素についで多い元素で、金属としては
最も多く存在します。自然水中にも含まれますが溶解度が小さいので、地下水 0.014~
0.29mg/L・河川水 0.016~1.17mg/L となっています。また、耐熱ガラスには酸化アルミニ
ウム(AL2O3)の形で2%程度、胃腸薬にはメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の形態で
含まれています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
欧米では 1960~1970 年代からアルツハイマー病とアルミニウムの関係が疑われ、多くの
研究がなされましたが、1996 年、WHO は「アルミニウムが現時点においてアルツハイマ
ー病の病因であるとの裏づけは得られない。」と報告しました。翌 1997 年には、
「アルミニ
ウムはヒトを含めたいかなる動物種においても、生体内でアルツハイマー病の病態を引き
起こさない。
」と結論しました。
アルミニウムとその化合物はヒトではほとんど吸収されません。
アルミニウムの存在下では低濃度の鉄が水を着色させることがあるため、着色防止の観
点から検査を行います。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値は、第二版では 0.2mg/L となっていましたが第三版
では設定されていません。
32
33.鉄及びその化合物
概説
純粋な鉄は白色・光沢のある展性、延性に富む金属です。用途は水道では、鋳鉄管・鋼
管等、導水管に使用されています。地下水中に鉄バクテリアが存在する場合、導・送水管
内で繁殖し管の閉塞を起こしたり赤水や金気を含む水が出ることがあります。鉄が溶解し
てくると臭気・苦味を与えます。
水質基準=0.3mg/L 以下であること。
詳説
①鉄の定義
鉄は、地殻中で 2 番目に豊富な金属であり、自然鉄は砂鉄として知られています。酸素
や硫黄と結合し、酸化鉄・硫黄鉄・水酸化鉄・カーボネートとして存在します。
純粋な鉄は白色・光沢のある展性・延性に富む金属であり、融点 1,535℃、25℃での比重
は 7.86 です。
②一般的事項・環境中の存在量等
鉄は地殻中に多量に存在し、岩石や鉱物から溶解したり、鉱山排水・埋立地浸出水・下
水・鉄関連産業の排水より多量に検出されます。環境条件により存在状態が変化し、溶解
性・不溶解性として存在します。
環境中においては湖沼・貯水池等では、富栄養化が進むと夏期には底層部が還元状態に
なり鉄・マンガンの溶出が多くなります。河川水中の鉄は地質に起因します。また鉱山排
水・工場排水により混入する場合もあります。地下水中では硫酸第 1 鉄や第 1 鉄イオンと
して含まれる時もあります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
人の体内での鉄の主な機能は血中での酸素の運搬と酸化還元酵素の活性中心としての役
割で、欠乏すると貧血状態になります。鉄の平均致死量は 200mg~250mg/kg 体重です。
急性の毒性としては、うつ病・昏睡・痙攣・呼吸器障害や心拍停止などがあります。
また、水の性状に関する影響として水道水中では、鋳鉄管・鋼管などが老朽化してくる
と内部のライニングが剥がれ、溶存酸素により酸化され錆コブなどを作ります。その鉄や
錆コブなどが溶解したり流速の変化により流れ出すと水に色が付き(0.3mg/L 以上)布な
どを黄褐色に着色したり臭気や苦味を与えたりします。
④その他
浄水場では、溶解している鉄を除去するため前塩処理により塩素を注入し不溶解性の第 2
鉄化合物として、凝集沈殿・濾過により除去しています。
33
34.銅及びその化合物
概説
自然水中の銅は 0.2~30μg/L で鉱山廃水や工場排水、農薬の混入等に起因して汚染され
ます。銅による水系汚染が問題となった事例としては、足尾銅山の廃水により渡良瀬川流
域が汚染され、水稲の生育阻害などの被害を生じたいわゆる足尾銅山鉱毒事件があります。
自然水中の銅は凝集沈殿処理法で除去可能ですが、水道水中には銅管からの溶出があり、
金属味をつけたり着色することがあります。
水質基準=1mg/L 以下であること。
詳説
①銅の定義
銅は元素記号 Cu、原子番号 29 の元素で、展性、延性加工性に富み、熱及び電気伝導率
は銀の次に大きいという性質を持つ軟らかい金属です。
②一般的事項・環境中の存在量等
環境中の存在量は、土壌中で 2~100mg/kg、自然水では 0. 2~30μg/L、野菜、小麦粉、
酪農及び肉製品中では通常 0.01mg/g 以下と報告されています。
水道水中の銅は主に銅管からの溶出によるもので、特に銅管を使用した給湯器は水温が
高くなるので溶出量も多く、水道水の銅による障害のほとんどが給湯器に起因しています。
銅を含んだ水がタイル上などで蒸発して銅が残る場合と、銅が石鹸と反応し金属石鹸を作
る場合は容器やタイル、布等が青くなることがあります。また、浴室等の浴槽や壁面がピ
ンク色やベージュ色をしている場合、貯めた水の色が青く見えることがあります。
銅の用途は、電線、銅管、貨幣、農薬、厨房器具、合金材料などです。
③健康影響・水の性状に関する影響等
銅は生体にとって微量必須元素で、成人の必要量は約 2mg/日です。銅が欠乏した場合は、
貧血(赤血球の減少)、白血球の減少、骨粗しょう症や骨の異常などが起こり、過剰になっ
た場合は吐き気、嘔吐などの症状が出現します。
銅は、①エネルギーの産生に関与する、②各種酵素の構成成分となる、③赤血球白血球
の成熟を促す、④骨の形成を助け骨の強度に関与するなどの働きがあり、脳の発育にも必
要といわれています。特に幼児の成長には不可欠な成分とされており、肉や牡蠣、ナッツ
類に多く含まれています。
発ガン性については、長期暴露試験の結果からも、銅及びその塩類には哺乳動物に対す
る発ガン性はないと考えられています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値(第 3 版)は、2mg/L。
34
35.ナトリウム及びその化合物
概説
自然水中のナトリウムは地質に起因し、工場排水、下水、海水等の混入によっても増加
することがあります。また、風送塩(台風等の風によって運ばれた海水に由来する塩)や
融雪剤の散布等によって増加することもあります。
ナトリウムは通常の浄水処理では除去することはできませんが、逆浸透法(淡水化処理)
では除去可能です。
水質基準は、味覚の観点(異常味の防止)から定められたものです。
水質基準=200mg/L 以下であること。
詳説
①ナトリウムの定義
ナトリウムは元素記号 Na、原子番号 11 の元素で、白銀色で柔らかく伸展性があり、電
気的陽性の極めて強い金属です。還元力が強く反応性が高いので単体のまま天然に存在す
ることはありません。
②一般的事項・環境中の存在量等
環境中の存在量は、地殻で 28,300mg/kg、海水で 10,770mg/L、大気で 7~7,700ng/m3
です。
水道水中のナトリウムは原水由来のほか、pH 調整剤、消毒剤、軟化処理によるものがあ
ります。飲料水において、通常塩類として存在する味覚の閾値は 200mg(ナトリウムイオ
ンとして)とされています。
用途としては、ナトリウムランプ、合金、融雪剤、石鹸、ガラス、医薬品、水処理剤な
どの製造原料に用いられています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ナトリウムは生体にとって必須元素で、幼児や成長期の子供の1日必要量は 120~400mg
以下、成人では約 500mg です。その働きとしては、①細胞の浸透圧が一定に保たれるよう
に調節する②体液をアルカリ性に保つ③夏バテや日射病を防ぐ④筋肉や神経の興奮を収め
るなどがあります。
一般にナトリウムは急性毒性物質ではありませんが、まれに多量摂取した事故例などを
みると、痙攣、筋硬直、脳浮腫、肺浮腫などの症状が出現します。
日本人の摂取量は、食塩の形で 10~15g と言われていますが、食品からの摂取量が大部
分で、飲料水由来のものは殆ど無視できる量です。
欠乏すると,食欲の減退、筋肉の脱力や痙攣、倦怠感などの症状がでます。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値(第 3 版)は、設定されていません。
35
36.マンガン及びその化合物
概説
マンガンは純粋なものは銀白色、炭素を含んだものは灰色です。用途は特殊鋼の脱酸及
び添加剤、ガラスの着色・染色、乾電池等です。水道水では微量でも塩素処理により色度
の原因となります。給・配水管の内壁などにマンガン酸化物が付着すると触媒となり酸化
が促進され、沈殿し流速等の変化により流出し「黒水」障害を引き起こします。
水質基準=0.05mg/L 以下であること。
詳説
①マンガンの定義
マンガンは地殻中に広く分布し、純粋なものは銀白色、炭素を含んだものは灰色です。
水中においてはイオンやコロイド状として存在し懸濁微粒子に吸着されています。泥炭地
では水中の有機物に結合して存在しています。
②一般的事項・環境中の存在量等
マンガンは地殻中に広く分布する元素のひとつであり、鉱物としては軟マンガン鉱
(MnO2)、サイロメレン鉱等があり、深海床にはマンガンに富むマンガン団塊の存在が知
られています。環境中の分布は土壌で 200~3000mg/kg、海水で 1.7~5.0μg/L、河川水で 8
~180μg/L です。
③健康影響・水の性状に関する影響等
マンガンは主に食物から摂取されます。マンガンの欠乏により成長の鈍化、貧血、生殖
障害等がみられます。経口摂取による毒性は珍しく、報告例での飲料水のマンガン濃度は、
少なくとも約 14mg/L 以上といわれています。慢性毒性としては、衰弱、食欲不振、筋肉痛、
感情麻痺等があげられます。マンガンの水質基準は色度の増加、黒色浮遊物の流出等を防
止する観点からさだめられました。
④その他
従来緩速濾過方式が多くマンガンが微量含まれていても除去されていました。しかし原
水中に多くのマンガンが含まれている場合は過マンガン酸カリウムによる酸化、凝集沈殿、
また少量の場合は前塩素、あるいは中間塩素後、マンガン砂による接触濾過法が一般的で
す。しかしわずかな量でも長年の累積により「黒い水」の発生がありますので洗管作業等
により配・給水管内の付着物を洗い流す必要があります。
また、マンガンは人における微量必須元素で、体内には約 200mg 程度あると推測されて
います。
WHO の飲料水水質ガイドライン値(第 3 版)は、0.4mg/L。
36
37.塩化物イオン
概説
塩化物イオンは、水中に溶解している塩化物中の塩素分をいいます。塩化ナトリウム・
塩化カリウム・塩化カルシウム等として、食品工業や肥料・乾燥剤等に使用されています。
水道水中の塩化物イオンが 250mg/L を超えると塩味を感じるといわれており、味覚の観
点から検査を行います。
水質基準=200mg/L 以下であること。
詳説
①塩化物イオンの定義
塩化物イオンとは、水中に溶解している塩化物中の塩素分をいいます。
塩化物とは、塩素と他の元素の化合物でナトリウム塩(NaCL)
・カリウム塩(KCL)
・カ
ルシウム塩(CaCL2)等として自然界に広く存在し、水に溶解し、塩化物イオンとして測
定されます。
②一般的事項・環境中の存在量等
塩化ナトリウムは、塩素・水酸化ナトリウム・食塩の製造原料として使用され、塩化カ
リウムは、カリ肥料・水酸化カリウムの製造原料として、また、塩化カルシウムは、乾燥剤・
融雪剤として身近に使用されています。
水道水中の塩化物イオンは天然由来のものが多く、特に海に近い場所では海水の浸透・
風送塩の影響を受けやすく、海岸地帯では多くふくまれます。また、原水中に生活排水・
工場排水が多量に混入すると塩化物イオンが増加することもあります。
また、水道水中の塩化物イオンは、浄水処理で凝集剤である PAC や消毒剤である次亜塩
素酸ナトリウム、塩素の使用により増加します。
塩化物イオンは表流水中では数 mg/L~十数 mg/L 程度含まれています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
塩化物イオン自体の毒性は知られていませんが 2.5g/L 以上の濃度の塩化ナトリウムを含
む飲料水を過剰に飲用していると高血圧症を引き起こすことが報告されています。
水道水中の塩化物イオンが 250mg/L を超えると塩味を感じるといわれており水質基準も
200mg/L 以下と定められました。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン値(第 3 版)は、設定されていません。
37
38.カルシウム、マグネシウム等(硬度)
概説
水中のカルシウムイオン・マグネシウムイオン量を、これに対応する炭酸カルシウム量
に換算し、mg/L で表したものです。
硬度の高い水は、口に残るような味がしますので味覚の観点から検査を行います。
水質基準=300mg/L 以下であること。
詳説
①カルシウム、マグネシウム等(硬度)の定義
硬度は、水中のカルシウムイオン・マグネシウムイオン量を、これに対応する炭酸カル
シウム量に換算したもので、石鹸の洗浄効果を阻害する能力を示したものです。アルカリ
土類金属であるカルシウムとマグネシウムの塩類を多く含む水を硬水、少ない水を軟水と
いいます。
②一般的事項・環境中の存在量等
水中のカルシウム塩及びマグネシウム塩は主として石灰岩・チョーク等の堆積岩からく
るものですが、海水・工場排水・下水などの混入によることもあります。水道水ではモル
タルライニング管・施設のコンクリート構造物あるいは水の石灰処理により増加すること
があります。
石鹸(脂肪酸のナトリウム塩・カリウム塩)は水に良く溶けますが、カルシウム・マグ
ネシウム等の金属元素を含む水はそれらの金属が石鹸中の脂肪酸と結合して水に不溶の化
合物を生成して石鹸の洗浄効果を低下させます。
③健康影響・水の性状に関する影響等
健康障害として硬度が高すぎると、胃腸を害して下痢を起こす場合があります。また、
水の硬度と脳溢血や虚血性心臓疾患の間には負の相関があます。
硬度の高い水は、口に残るような味がし、低すぎる場合は、淡白でコクの無い味がします。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン(初版)では、軟水・硬水を硬度により以下のように分
類しています。
軟水
0~ 60mg/L
硬水
120~180mg/L
38
中程度の軟水
60~120mg/L
非常な硬水
180mg/L 以上
39.蒸発残留物
概説
蒸発残留物とは、水中に浮遊したり、溶解して含まれているものを、水を蒸発・乾固さ
せた後に残る物質を重量であらわしたものです。主な残留物の成分は、カルシウム・マグ
ネシウム・シリカ・ナトリウム・カリウム等の塩類及び有機物です。
水質基準=500mg/L 以下であること。
詳説
①蒸発残留物の定義
水浴上で水道水を蒸発・乾固させたときに残る浮遊物質・溶解性物質をいいます。主な
残留物の成分は、カルシウム・マグネシウム・シリカ・ナトリウム・カリウム等の塩類及
び有機物です。
②一般的事項・環境中の存在量等
通常水道水中の蒸発残留物は 200mg/L 以下ですが、海水の影響をうけた地下水や鉱山湧
水など硬度の高い水では蒸発残留物の値が高いことがあります。残留成分は自然由来のも
の、または原水への下水放流水・工場排水等の混入によるものです。
厚生省(現・厚生労働省)は、1985 年「おいしい水研究会」を設置しその中でおいしい
水の水質要件を蒸発残留物について 30~200mg/L としています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
蒸発残留物の中でも溶解性のものは基準値を超した場合でも健康への悪影響を及ぼすと
いうことはありません。
また、蒸発残留物の無機塩類は、多く含む場合、また極端に少ない場合には味をまずく
させるという影響があります。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドライン(初版)では全溶解性物質として 1000mg/L を定めてい
ます。また、全溶解性物質の濃度による味への影響を次のように区分しています。
極めて良い
300mg/L 以下
良い
300~600mg/L
普通
600~900mg/L
悪い
900~1200mg/L
飲みにくい
1200mg/L 以上
39
40.
陰イオン界面活性剤
概説
界面活性剤はせっけん・アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等、一般家庭では洗濯
用あるいは台所用洗剤として広く利用されています。界面活性剤は陰イオン、非イオン及
び陽イオンの界面活性剤に区分され、多くの産業分野でも利用されています。このうち、
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
(AOS)、アルキル硫酸エステルナトリウム(AES)等の界面活性剤を陰イオン界面活性剤
といいます。
給水栓水に泡を生じるようになると、外見上好ましくないという理由から検査を行いま
す。
水質基準=0.2mg/L以下であること。
詳説
①陰イオン界面活性剤の定義
通常1個の分子の中に、水に溶けるが油に溶けにくい性質の「親水基」と、逆に油に溶け
るが水に溶けにくい性質の「親油基」の構造を合わせもち、液体の境界面に吸着し界面張
力を下げる性質をもっているものを界面活性剤といいますが、そのうち陰イオン界面活性
剤とは、水に溶けたときに親油基の部分が陰イオンに電離するものをいいます。
②一般的事項・環境中の存在量等
陰イオン界面活性剤は、家庭雑排水が下水処理場を経由して、又は直接河川へ流入する
ことによって広く水域環境中に存在します。過去においてはABSに代表されるものでした。
しかし次第にABSより易分解性の合成洗剤の開発に重点がおかれ、現在わが国ではABSは
ほとんど使用されておらず、生分解されやすいLAS・AOS等が開発・使用されています。
更に合成洗剤の無リン化も進められ、こちらも現在では、一般家庭洗剤のほぼ100%が無リ
ン製品になっています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
ABSの毒性は人体への直接的な実験ではヒト6人に精製したABSを50ppm、4ヶ月間服用
させ、2人が若干食欲減退を訴えた他は、体重の変化、血液、尿とも正常であったなどの結
果から、数ppmのABSを含む水を飲用しても人間の健康に影響を与えることはないと考え
られています。ABSが飲料水に含まれた場合、臭いに敏感な人は16ppm程度で感知し、味
は1.75~2.0ppmで感知している人が多いことなどの知見が得られていますが、ABSは通常
0.5~1.0ppmで水に泡を生じるようになるので、この濃度以上では飲料水として外見上好ま
しくないという理由から、水質基準は0.5 ppmと定められましたが、1992年には、0.2mg/L
に強化されています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、設定されていません。
40
41.
ジェオスミン
概説
異臭味障害の中のかび臭の原因物質で、放線菌・藍藻類のアナベナ・オシラトリアによ
り産生されます。
その臭いは、純かび臭がします。
水質基準=0.00001mg/L 以下であること。
詳説
①ジェオスミンの定義
トランス-1,10-ジメチル-トランス-9-デカロールといいます。
分子量 182、分子式 C12H22O、沸点は 254℃で、構造は次のとおりとなっています。
H
H
H
H
H
CH3
H
C
C
H
C
C
C
C
C
C
H
C
C
H
H
H
H
OH
H
H
H
CH3
②一般的事項・環境中の存在等
異臭味障害の内のかび臭の原因物質で、放線菌・藍藻類のアナベナ・オシラトリアによ
り産生されます。その臭いは、純かび臭がします。
一般的に水温が 20~30℃の場合にかび臭の発生が多く、場合によっては 5~15℃で発生
する場合もあります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
モロコの稚魚による魚毒試験では、急性毒性は認められていません。また、0.05~1mg/L
の濃度でのアカヒレの 48 時間後の生存率は 100%という毒性試験も報告されています。
世界各国で広く水道水でかび臭が発生していますが、かび臭が健康に影響をもたす等の
問題は起こっていません。
また、緩速ろ過、オゾン処理・活性炭処理等により除去することができます。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、設定されていません。
41
42.
2-メチルイソボルネオール
概説
異臭味障害の中のかび臭の原因物質で、藍藻類のフォルミディウム・オシラトリアによ
り産生されます。墨汁の様なにおいがします。
水質基準=0.00001mg/L 以下であること。
詳説
①2-メチルイソボルネオールの定義
1,2,7,7-テトラメチルビシクロ [2,2,1]ヘプタン-2-オールといいます。
分子量 168、分子式 C11H20O、沸点は 208℃で、構造は次のとおりとなっています。
CH3
CH3
C
CH3
H
C
OH
C
C
C
H
CH3
C
H
H
H
C
H
H
②一般的事項・環境中の存在等
異臭味障害の内のかび臭の原因物質で、放線菌・藍藻類のフォルミディウム・オシラト
リアにより産生されます。その臭いは、墨汁の様な臭いがします。
一般的に水温が 20~30℃の場合にかび臭の発生が多く、場合によっては 5~15℃で発生
する場合もあります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
0.05~1mg/L の濃度でのアカヒレの 48 時間後の生存率は 100%という魚毒性試験も報告
されています。
世界各国で広く水道水でかび臭が発生していますが、かび臭が健康に影響をもたす等の
問題は起こっていません。
また、緩速ろ過、オゾン処理・活性炭処理等により除去することができます。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、設定されていません。
42
43.
非イオン界面活性剤
概説
一般家庭で住宅用、洗濯用あるいは台所用洗剤として広く利用されているものの多くは
陰イオン界面活性剤ですが非イオン界面活性剤が含まれるものもあります。非イオン界面
活性剤の多くは繊維工業等の産業分野で利用されています。
給水栓水に泡を生じるようになると、外見上好ましくないという理由から検査を行いま
す。
水質基準=0.02mg/L 以下であること。
詳説
①非イオン界面活性剤の定義等
界面活性剤のうち水に溶けてもイオン性を示さないものを非イオン界面活性剤といいま
す。非イオン界面活性剤は、エーテル型、エステルエーテル型、エステル型及び含窒素型
の 4 つに分けられ、半分以上がエーテル型となっています。
エーテル型はポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、ポリオキシエチレンアルキル
フェニルエーテル(APE)が大部分を占めます。エステルエーテル型にはポリオキシエチ
レンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(PEG)等
があり、エステル型は食品添加物のモノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、ソルビ
タン脂肪酸エステル(SPAN)等があります。
②一般的事項・環境中の存在等
一般家庭で住宅用、洗濯用あるいは台所用洗剤として広く利用されているものの多くは
陰イオン界面活性剤ですが非イオン界面活性剤が含まれるものもあります。非イオン界面
活性剤の多くは繊維工業等の産業分野で利用されています。
エーテル型の非イオン界面活性剤の生分解性は高く環境負荷が小さいものですが、エス
テルエーテル型は完全分解には長時間を要します。
陰イオン界面活性剤は凝集沈殿処理ではほとんど除去されませんが、非イオン界面活性
剤はかなりの程度まで除去されます。
③健康影響・水の性状に関する影響等
AE の変異原性・催奇形性・発がん性は認められていません。また、吸収された AE は、
呼気と尿から排出され蓄積はされません。
発泡性試験によれば 0.02~0.05mg/L が発泡限界濃度となっています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、設定されていません。
43
44.フェノール類
概説
フェノール類とは、フェノール・2-クロロフェノール・4-クロロフェノール・2,4-ジ
クロロフェノール・2,6-ジクロロフェノール・2,4,6-トリクロロフェノールをいい、自然
水に含まれることはなく、フェノール等を原料とする化学工場等の排水に含まれ、また、
アスファルト舗装の道路に流れた雨水等から検出されることもあります。
フェノール類は水道水中の遊離塩素と反応すると異臭味を与えるため水質基準が定めら
れています。
水質基準=0.005mg/L 以下であること。
詳説
①フェノール類の定義
水道法のフェノール類とは、フェノール・2-クロロフェノール・4-クロロフェノール・
2,4-ジクロロフェノール・2,6-ジクロロフェノール・2,4,6-トリクロロフェノールを言
います。
②一般的事項・環境中の存在量等
フェノール類は自然水に含まれることはなく、フェノールを原料とする化学工場等の排
水に含まれ、また、アスファルト舗装の道路に流れた雨水等から検出されることもありま
す。
フェノールは、別名石炭酸ともいい、殺菌消毒剤、防腐剤、合成樹脂・可塑剤・医薬品・
染料等の原料として使用されています。
③健康影響・水の性状に関する影響等
フェノール類は遊離塩素と反応すると水道水に異臭味を与えるクロロフェノールとなる
ため水質基準が定められています。また、このクロロフェノールは 0.002mg/ L の極微量で
も水に特有の臭味を与えます。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、2,4,6-トリクロロフェノールが 0.002~0.3mg/ L、
2-クロロフェノールが 0.0001~0.01mg/ L、2,4-ジクロロフェノールが 0.0003~0.04mg/
L としています。
44
45.有機物
概説
水道水中の有機物に含まれる炭素の総量を表し、有機性物質による汚染の指標として検
査します。
水質基準=3mg/L 以下であること。
詳説
①有機物の定義
・炭酸塩(Na2CO3,NaHCO3 など)・
炭素を含む化合物のことで、酸化物(CO、CO2 など)
シアン化物(KCN・NaCN など)等の簡単な化合物は除きます。一般に有機化合物は水に
溶けてイオンになることがなく、また多くの有機溶剤に溶けて、揮発性が高く、融点が低
いという特徴をもっています。
②一般的事項・環境中の存在等
従来、水道水中の有機物量は過マンガン酸カリウム消費量として測定してきましたが、
過マンガン酸カリウムの酸化率はアルコール類・直鎖脂肪酸等は 10%程度、糖類・乳酸は
40~70%となっており有機物量が同じでもその種類によって測定値が異なり、また、過マ
ンガン酸カリウムは塩化物イオン等の有機物以外にも反応し消費される等問題点が多くあ
りました。
そのため、平成 16 年 4 月 1 日より有機物の測定方法は過マンガン酸カリウム滴定法から
現在の TOC 計を使用した全有機炭素計測定法にかわりました。
③健康影響・水の性状に関する影響等
天然由来の高分子有機化合物であるフミン酸、フルボ酸、ヒメトメラニン酸等からなる
フミン質を多く含む原水を浄水処理するとトリハロメタン、ハロ酢酸、ホルムアルデヒド
等の消毒副生成物も多く生成し間接的に有機物が健康影響を及ぼすこととなります。
また、有機物の多い水は渋味があるといわれています。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、設定されていません。
45
46.pH 値
概説
pH値とは水溶液中の水素イオンモル濃度の逆数の常用対数です。例えば、水素イオンモ
ル濃度が1×10-7moL/LであればpH値は7となります。そして、pH値が7より小さければ酸
性、大きければアルカリ性となります。
水のpH値に係る基準は、人体に対する影響に関するものでなく、浄水処理への影響ある
いは水道施設、配水管、家庭内の水道設備等の腐食という観点から設定されました。
水質基準=5.8以上8.6以下であること。
詳説
①pH値の定義
pH=- Log(H+)で(H+は水素イオン)、水溶液のpH値は水素イオンmoL濃度を示すものです。
pH値は水素イオンmoL濃度の逆数の常用対数であるのでpH6とpH7では前者の方が10倍
高いことを意味します。そして、pH値が7より小さければ酸性、大きければアルカリ性とな
ります。
②一般的事項・環境中の存在等
一般に天然水のpH値は5.0~9.0の範囲にあります。しかし水源の違いにより広い範囲の
値を示します。井戸水では主にpH6.0~7.0の弱酸性を示し、地表水のpH値は主に7.0~7.2
を示します。貯水池では、藻類が繁殖する季節(春から夏)においてはそれらの炭酸同化
作用(光合成)により、水中の炭酸ガスを吸収するため、かなり強いアルカリ性となり、
pH9~10に達することもあります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
極端なpH値の水に暴露されることにより、ヒトの目・皮膚・粘膜に炎症がみられます。
そのpH値は、11よりも高い値で目の炎症と皮膚障害の悪化、4以下で目の赤みと炎症が報
告されています。
pH値は浄水場における浄水処理工程中の凝集管理(原水の汚れを凝集剤と反応させ凝集
沈殿させ除去する)において重要です。凝集における処理水の適正pH範囲は6~7程度です。
また、浄水のpH値は水道管の腐食との関係でも重要です。pH値が酸性になるほど管が腐食
され錆の進行が早まりますのでpH値をアルカリ側(7.5程度)に制御することが必要となる
こともあります。
また、水道水の塩素消毒において、遊離残留塩素(水道水の塩素消毒の結果、水中に残
留した有効塩素)は塩素、次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンの形態で存在し、次亜塩素酸
は次亜塩素酸イオンの80倍以上の殺菌力があります。水のpH値が7.4程度から高くなってい
くと次亜塩素酸イオンの方が多くなり、pH値が9程度で、ほぼ100%が次亜塩素酸イオンと
なるため、pH値が高いと消毒効果を低下させます。
46
47.味
概説
味覚(及び臭覚)の感度は現在利用できる最も高感度の分析機器よりも性能が良く、し
かも種類を表現できる唯一の分析方法です。そして、味の検査による判定結果は、化学的
に原因物質を同定するために重要な役割を果たしています。
水道水に異常な味があることは水の汚染状態あるいは浄水処理・送配水施設に不具合が
あることを示しますので、実際の検査では水道水を40~50℃に温め、それを口に含み味に
異常がないかどうかを調べています。
水質基準=異常でないこと。
詳説
①味の定義
味は、基本的に甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5種類によって構成されます。そして、
その味は、味を感知させる化合物が舌にある味蕾に付着し味蕾中にある味覚細胞を刺激し、
その刺激が大脳の味覚中枢に伝えられることによって生じます。水の場合は、水に含まれ
る化合物濃度が、唾液の化合物濃度とほぼ同じであれば、その水は味を感じないと考えら
れます。
その他重金属による味を金属味、渋味等と呼ぶこともあります。
②一般的事項・環境中の存在等
水の味は、水に溶存する物質の種類、濃度によって感じ方が異なってきます。甘味の物
質としては、糖類、多価アルコール類等があり、鉛、亜鉛、アルミニウム等の無機イオン
も甘味を感じさせます。酸味は、主として無機・有機酸の水素イオンによるものです。塩
味は、無機塩類の陰・陽イオンによるとされています。苦味の物質には、カフェイン等の
アルカロイドやタンニン等があます。また、分子量が大きい中性塩も苦味を生じ、カルシ
ウムに比べマグネシウムの多い水は苦味を増します。
③健康影響・水の性状に関する影響等
WHOの飲料水水質ガイドラインによれば、塩化ナトリウムは、465mg/L含まれれば半数
の人が味を感じ始めます。また、塩化マグネシウムでは47mg/L、塩化カルシウムでは
350mg/L、鉄が約0.05mg/L、銅が約2.5mg/L、マンガンが約3.5mg/L、亜鉛が約5mg/Lとな
っています。
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48.臭気
概説
臭覚(及び味覚)の感度は現在利用できる最も高感度の分析機器よりも性能が良く、し
かも種類を表現できる唯一の分析方法です。そして、臭気の検査による判定結果は、化学
的に原因物質を同定するために重要な役割を果たしています。
水道水に異常な臭いがあることは水の汚染状態あるいは浄水処理・送配水施設に不具合
があることを示しますので、実際の検査では水道水100mLを40~50℃に温め、密栓状態で
攪拌した後、開栓と同時に臭いに異常がないかどうかを調べます。
水質基準=異常でないこと。
詳説
①臭気の定義
臭気はおおむね芳香性臭気、植物性臭気、土臭・かび臭、魚臭・生ぐさ臭、薬品性臭気、
金属臭、腐敗性臭気の6つに大分類し具体的な臭気(例-芳香臭・藻臭・かび臭・生魚臭・フ
ェノール臭・金気臭・下水臭等)で表現します。
臭いは、臭いのもととなる物質の分子がガス化して気散又は水蒸気とともに空気中に飛
散し、吸気することにより鼻腔の中に入り込み、嗅粘膜上皮の細胞、嗅小胞や嗅織毛の表
面膜に吸着されることにより感じます。
②一般的事項・環境中の存在等
水道原水には、種々の臭気物質が含まれていることがあります。特に問題となる臭気物
質は、藻類や放線菌等の生物に起因するかび臭物質、フェノール類などの有機化合物が主
なものです。かび臭物質としては、ジェオスミン、2-メチルイソボルネオール等が知られて
いますが、生物の増殖期には脂肪族アルコール類、アルデヒド類、チオエステル類や硫化
化合物等の多種多様な揮発性物質が生産され、臭気の原因となっています。
また、原水への工場排水の流入や水道工事で使用される接合剤などにより、薬品臭がす
ることもあります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
WHOの飲料水水質ガイドラインによれば、化合物により臭気が感じられる濃度として、
アンモニアは1.5mg/L、硫化水素が0.05~0.1mg/L、トルエンが0.024~0.17mg/L、キシレ
ンが0.02~1.8mg/L、エチルベンゼンが0.002~0.13mg/L、ホルムアルデヒドが25mg/Lと
なっています。
48
49.色度
概説
色度とは、水中に含まれる溶解性物質及びコロイド性物質が呈する黄褐色の程度をいい、
塩化白金酸カリウム・塩化コバルト溶液との目視による比色または、波長390nm付近の透
過光測定により検査します。
水質基準=5度以下であること。
詳説
①色度の定義
色度とは、水中に含まれる溶解性物質及びコロイド性物質が呈する黄褐色の程度をいい、
色度1度は塩化白金酸カリウム中の白金1mg・塩化コバルト中のコバルト0.5mgを純水1L
に含むときの黄褐色の呈色をいい、その倍量を含むとき色度2度というふうにいいます。
②一般的事項・環境中の存在等
水道原水である河川水や地下水等が着色する原因は、樹木などの植物のセルロースやリ
グニン酸が酸化される過程で生じるフミン質(腐植質ともいう)による場合がほとんどで
す。したがって、植物密生地帯を通過してきた河川水あるいは泥炭地層を浸透してきた伏
流水は、淡黄色あるいは黄褐色に着色しています。また、パルプ・製紙工業や織物工業か
らの高色度排水や、河川・湖沼における底質の鉄、マンガン化合物によっても着色します。
給水栓水の色による障害は、白水、赤水、黒水、青(緑)水など様々ですがフミン質に
由来する黄褐色の色度とは若干概念が異なります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
色度の主な原因物質であるフミン質は、人に対して特に有害なものではないとされてい
ますが、塩素消毒の塩素と反応してトリハロメタン・ハロ酢酸等の有害な有機ハロゲン化
合物が生成するといわれています。
④その他
WHOの飲料水水質ガイドラインは、設定されていません
49
50.濁度
概説
水の濁りの程度を定量的に表したものが濁度です。
濁度の高い水は、クリプトスポリジウム等の病原性微生物・濁質粒子に吸着された有害
物質等の健康に悪影響を及ぼすものを含む可能性がありますので、浄水場ではろ過後の水
の濁度が 0.1 度以下となるよう運転操作がなされています。
水質基準=2 度以下であること。
詳説
①濁度の定義
ポリスチレン系粒子懸濁液を「水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定め
る方法」の別表第 38 により調製した濁度 100 度の標準液に対する水の濁りの程度を定量的
に表したものが濁度です。
②一般的事項・環境中の存在等
ほとんどすべての河川水・湖沼水・地下水等の環境水には、土壌粒子を主成分とする懸濁
物質が含まれているため濁度が生じます。また、微生物が多く集合した懸濁物質が含まれ
ることもあります。
河川水では降雨・融雪・生活雑排水の流入・産業排水の流入時には濁度は高くなります。
ダム等の湖沼水では、植物プランクトンの増殖時には濁度が高くなります。
③健康影響・水の性状に関する影響等
濁度は、濁度以外の水質項目と関連したり、影響を与えたりします。例えば、濁度粒子の
表面は栄養塩類が吸着されやすいため細菌の増殖が活発になり、このため濁りがある水の
方が、濁りの無い水よりも細菌が増殖しやすくなります。さらに、濁度を上げる粒子は消
毒に使用される塩素を消費し、消毒効果を低減します。また、チウラム・2,4-ジクロロフェ
ノキシ酢酸等の農薬も粒子の表面に吸着され水溶解度以上の農薬が水に含まれることとな
ります。
④その他
WHO の飲料水水質ガイドラインは、設定されていません。
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