近年にみる東アジアの少子高齢化

⿪ᣀ⮥ 2⿉ȪɀȪ᰷Ήǽଦ੿ⶲ⽶‫ك‬Ƿ᰷ΉЄ⭿֝ಏ⿬
近年にみる東アジアの少子高齢化
若林敬子
はじめに
東アジア各国࡮地域では少子高齢化が急速に進んでいる。合計特殊出生率(TFR)をみ
ると韓国や台湾、シンガポールなどは日本を下回る低水準にある。中国や東南アジア諸国
連合(ASEAN)でも少子化が進んでおり、今後、日本を上回る速度で社会が高齢化してい
く見通しである。本稿ではまず、東アジアにおける少子高齢化の実態を出生率の低下、高
齢化の速度、平均寿命の伸びといった側面から概観するとともに、少子高齢化の傾向に歯
止めを掛けるのが難しい点を指摘する。次に、日本、中国、韓国、台湾などアジア NIES
(新興工業経済群)を主に取り上げ、各国࡮地域別に少子高齢化が進んだ背景や見通しさら
には中国社会保障についての若干を述べる。
Ⅰ 東アジアの低出生率
まず表 1 で東アジア諸国࡮地域の TFR の推移を確認したい。2004 年の TFR は、韓国 1.16、
台湾 1.18、シンガポール 1.24、香港 0.93 であり、過去最低水準に落ち込んでいる日本(1.29)
をも下回る数字が並んでいる。
人口が安定的に推移するとされる TFR(置き換え水準)は 2.1 であるが、日本は 1974 年に
それを下回り 2.05 となった。当時、これら NIIES 諸国࡮地域の TFR は、韓国 4.53、台湾 4.00、
シンガポール 3.07(いずれも 1970 年)で、いずれも高出生国࡮地域であった。その後、TFR
は日本を上回る勢いで低下。中国への返還が決まった影響で早くから低下した香港を除く
と、とりわけ 2000 年過ぎからの下落が目立つ。中国も 1970 年には TFR が 5.8 であったが、
90 年代後半には 1.8 台へと大きく下落した1)。
表 2 は 1950 〜 2050 年の東アジア各国࡮地域の人口推移で、見通し部分は国連推計(2004
年)による。これによると、各国࡮地域の人口増加は今後一段と鈍化、中国や韓国は 2025
年から 2050 年の間に人口が減少する見通しである。タイやマレーシア、インドネシアな
ど ASEAN 諸国も人口拡大のペースが鈍化することになる。
95
表 1 東アジア諸国࡮地域の合計特殊出生率の推移
年
日本
1950
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
3.65
2.37
2.00
2.14
2.13
1.91
1.75
1.76
1.54
1.53
1.50
1.46
1.50
1.42
1.43
1.39
1.38
1.34
1.36
1.33
1.32
1.29
1.29
韓国
台湾
4.53
3.47
2.83
1.67
1.59
1.74
1.78
1.67
1.67
1.65
1.58
1.54
1.47
1.42
1.47
1.30
1.17
1.19
1.16
6.53
5.75
4.82
4.00
2.83
2.52
1.89
1.81
1.72
1.73
1.76
1.76
1.78
1.76
1.77
1.47
1.56
1.68
1.40
1.34
1.24
1.18
シンガポール
香港
5.77
4.66
3.07
2.07
1.82
1.61
1.83
1.73
1.72
1.74
1.71
1.67
1.66
1.61
1.47
1.47
1.60
1.41
1.37
1.25
1.24
2.67
2.05
1.49
1.27
1.28
1.35
1.34
1.36
1.30
1.17
1.10
0.99
0.97
1.02
0.93
0.96
0.94
0.93
中国
5.81
6.26
4.02
6.08
5.81
3.57
2.24
2.20
2.31
1.98
1.81
1.83
1.81
1.78
1.81
1.82
1.82
(1.75)
(注) 中国の 2000 年は全国 1.75、都市 1.35、農村 2.06、詳細は若林(2005: 159–164)および若林敬子
研究室(2005)参照。
(出所) 厚生労働省(2004)
、中華民国(2000a; 2000b)
、韓国、シンガポール、香港の統計庁 HP。
表 2 東アジアの国࡮地域の人口推移
日本
中国
韓国
香港
シンガポール
タイ
マレーシア
インドネシア
フィリピン
ベトナム
インド
(単位⿉1,000 人)
1950 年
2005 年
2015 年
2025 年
2050 年
83,625
554,760
18,859
1,974
1,022
19,626
6,110
79,538
19,996
27,367
357,561
128,085
1,315,844
47,817
7,041
4,326
64,233
25,347
222,781
83,054
84,238
1,103,371
127,993
1,392,980
49,092
7,764
4,815
69,064
29,558
246,813
96,840
95,029
1,260,366
124,819
1,441,426
49,457
8,362
5,144
72,635
33,223
263,746
109,084
104,343
1,395,496
112,198
1,392,307
44,629
9,235
5,213
74,594
38,924
284,640
127,068
116,654
1,592,704
(注) 国連統計では台湾は中国に含まれる。
(出所) UN(2004)
.
(中位推計)
96
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
Ⅱ 急速に進む高齢化
東アジアの少子化はこの地域の高齢化をもたらす。一般に 65 歳以上の人口が全体の 7%
に達すると「高齢化社会(aging society)」、14% に達すると「高齢社会(aged society)」と呼
ばれる。表 3 は国連推計による東アジア各国࡮地域の高齢化率 7% と 14% の各々の年を示
し、その間の年数を記したものである。日本の場合、1970–94 年の 24 年間を要したが、中
国は 23 年間、NIES の韓国、シンガポールは 16–17 年間、ASEAN 諸国も 14–20 年間で駆け
抜け、日本を上回る早いピッチで高齢化が進む見通しである。
韓国では 65 歳以上の人口比率が 2005 年の 9.4% から 2050 年には 34.5% に増加し、同年
の日本の予測値 35.9% とほぼ肩を並べる。中国も 2050 年にはこの比率が 23.6% に達する
とみられる。出生率低下と高齢化の関係を示したのが図 1 であるが、これによると TFR が
置き換え水準の 2.1 に下落した後で、タイムラグの程度に違いはあれ、
「高齢化社会」から
「高齢社会」への転換が進むことが分かる。
表 4 は、2050 年に予想される年齢構成比を見たものだが、日本や韓国、シンガポールで
は 80 歳以上の高齢者の割合が 1 割を上回り、介護を必要とする年齢層が増える。因みに
世界では現在、80 歳以上の高齢者人口は総人口の 1.3% の 8,700 万人に過ぎない。しかし、
2050 年には同 4.3% の 3 億 9,400 万人に拡大、特に途上国では現在の 4,200 万人から 2 億 7,900
万人に急増し、80 歳以上の全人口の 71% を占めるとみられる。国別では中国࡮1 億 50 万
人(国内総人口の 7.2%)、インド࡮5,290 万人(同 3.3%)が 1、2 位を占める。
東アジアの高齢化を人口年齢中位数で確認しておくと(表 5)、2050 年の推計値は韓国が
53.9 歳と最も高くなり、日本の 52.3 歳を上回る見通しである。シンガポール、香港も 50
歳を超え、人口大国の中国も 44.8 歳と急速な高齢化が進むことになる。また、ASEAN 諸
国も現在の 20 歳代から 30–40 歳代へ上昇するところが多い。
表 3 高齢化のスピード(2004 年推計)
日本
中国
韓国
香港
シンガポール
タイ
マレーシア
インドネシア
フィリピン
ベトナム
(単位⿉年)
高齢化率 7%
高齢化率 14%
倍加年数
1970
2001
1999
1983
2000
2005
2018
2018
2024
2020
1994
2024
2016
2014
2016
2025
2038
2037
2044
2034
24
23
17
31
16
20
20
19
20
14
(出所) 表 2 に同じ。
近年にみる東アジアの少子高齢化
97
図 1 アジア諸国の出生力転換期間と高齢化率倍化期間
(出所) 嵯峨座(2003: 12)
。
表 4 年齢区分別人口分布
(単位⿉%)
2005 年
日本
中国
韓国
香港
シンガポール
タイ
マレーシア
インドネシア
フィリピン
ベトナム
インド
0–14 歳
15–59 歳
14.0
21.4
18.6
14.4
19.5
23.8
32.4
28.3
35.1
29.5
32.1
59.7
67.7
67.7
70.2
68.2
65.7
60.6
63.3
58.8
63.0
60.0
2050 年
60 歳以上 (うち 80 歳以上) 0–14 歳
26.3
10.9
13.7
15.4
12.2
10.5
7.0
8.4
6.1
7.5
7.9
1.1
1.4
2.8
1.5
0.8
0.6
0.6
0.5
1.0
0.8
13.4
15.7
12.0
12.4
12.6
16.8
18.2
17.6
19.0
17.4
18.3
15–59 歳
44.9
53.3
46.8
48.8
49.3
55.5
60.2
58.7
61.0
57.1
61.0
60 歳以上 (うち 80 歳以上)
41.7
31.0
41.2
38.7
38.0
27.8
21.6
23.7
20.0
25.5
20.7
15.3
7.2
13.0
13.2
14.0
5.8
3.9
3.3
2.8
4.4
3.3
(出所) 表 2 と同じ。
Ⅲ 平均寿命の伸長
東アジア各国࡮地域の高齢化を平均寿命の面から概観したい。国連 2004 年推計から抜
粋した表 6 の数字は、男子と女子を合わせたものである。それによると、世界の平均寿命
は 1995–2000 年の 64.1 歳から 50 年後の 2045–50 年には 74.7 歳へと 10.6 歳伸びると予測さ
れている。エイズ感染拡大の影響で寿命が短くなる国もあるものの、医療技術や衛生環境
の進歩もあって寿命は大きく伸びる。世界一の長寿国࡮日本は現在 81.9 歳(男 78.3 歳、女
85.3 歳) で、2045–50 年に 88.3 歳(男 84.1 歳、女 92.5 歳) とさらなる伸長が見込まれる。他
98
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
表 5 人口年齢中位数の推移
日本
中国
韓国
香港
シンガポール
タイ
マレーシア
インドネシア
フィリピン
ベトナム
インド
(単位⿉歳)
1950 年
2005 年
2050 年
22.3
23.9
19.1
23.7
20.0
18.6
19.8
20.0
18.2
24.6
20.4
42.9
32.6
35.1
38.9
37.5
30.5
24.7
26.5
22.2
24.9
24.3
52.3
44.8
53.9
51.0
52.1
42.5
39.3
40.5
37.9
41.3
38.7
(出所) 表 2 と同じ。
の東アジア各国࡮地域も香港 86.9 歳、中国も 78.7 歳などと寿命が伸びる。
年少人口指数と老年人口指数の和を「従属人口指数」と呼ぶ。
「従属人口指数」はその
国の被扶養人口の規模を示すもので、指数が大きいと社会の負担が大きいことを意味す
る。
「従属人口指数」は一般に出生率の低下とともに下落するが、日本の場合はその現象
が 1950 年から 40 年に渡って続いた。この時期は扶養負担が軽く、経済発展には追い風と
なる。事実、日本の高度成長期はこの時期と重なる部分が大きかった。東アジア各国࡮地
域では 70 年代以降の出生率下落で「従属人口指数」が低下、年少人口や老年人口が生産
年齢人口に比べ少ないという「人口ボーナス」期を迎えた。このことが 80 年代後半以降
2)
の「奇跡」と称された高度経済成長を実現した背景の一つになったとの見方もある 。
東アジア諸国の「人口ボーナス期」は出生率低下を背景に 2010–25 年頃まで続くところ
が多いと予想される(図 2)。しかし、人口高齢化が早く進んだ国ほどこの期間は早く終了
し、それから先は高齢化対策がより切実な政策課題となる(店田編、2005: 283)。出生率低
表 6 平均寿命の推移
(単位⿉歳)
1995–2000
2000–2005
2010–2015
2020–2025
2045–2050
64.1
80.5
69.7
74.6
80.0
77.2
69.0
71.9
64.9
68.6
68.8
61.5
64.7
81.9
71.5
76.8
81.5
78.6
69.7
73.0
66.5
70.2
70.4
63.1
67.1
83.7
73.3
79.4
82.8
80.2
73.1
75.0
70.0
72.8
73.2
66.7
69.5
85.3
74.4
81.4
84.0
81.6
75.5
76.7
72.0
74.9
75.3
70.0
74.7
88.3
78.7
84.4
86.9
84.5
79.1
79.9
76.9
78.6
78.9
75.9
世界
日本
中国
韓国
香港
シンガポール
タイ
マレーシア
インドネシア
フィリピン
ベトナム
インド
(出所) 表 2 と同じ。
近年にみる東アジアの少子高齢化
99
図 2 人口ボーナス(従属人口指数の低下)の期間
(出所) 図 1 と同じ。
下で生産年齢人口が相対的に多い時代は政府の歳入も拡大するが、この時期を捉えて高齢
化対策を講じておかないと将来に禍根を残すことになる。
Ⅳ 東アジアの出生性比不均衡
東アジア人口の特色の一つとして、出生性比(女児に対する男児の割合)の高さの問題が
ある。この数値に歪みが生まれる主因は、その国࡮地域の出生率が低下する中で、家系継
承や男子労働力確保を狙いに男児選考が強まることである。近年の超音波診断などによる
妊娠中の胎児性別判定が普及し、技術的な性選択が容易になるにつれ生命をめぐる倫理観
が希薄化し、少なくとも 1 人の男児を出生したいという男児選好が支配的となる。
中国の 2000 年人口センサスによると同国の出生性比は 119.92 にまで高まっている。男
尊女卑がなお強いといわれる韓国においても、出生順位があがるにつれて出生性比が高ま
ることが指摘されている。近年、韓国で 111(2002 年値、内第 1 子 106.5、第 2 子 107.3、第 3 子
以上 141.1)
、台湾で 109、香港で 107 という値が公表されているが、正確にはもっと高いと
みてよい。ただし、一般に女子の方が平均寿命が長いことから、人口が高齢化するにつれ
3)
女子人口が増え、男子人口の超過現象は後退する 。
日本でも伝統的に東北地方の農村などで男子願望࡮長男単独相続の農民意識が強かった
が、近年は高齢化問題が現実化する中、介護されるには嫁よりも実の娘の方がよい、との
考えから女児選好への逆転現象が見られる。しかし、沖縄などではなお位牌伝承の トー
トーメー と呼ばれる強固な慣習が残存し、家の継承における男児願望は消滅していない
(琉球新報社編、1980)
。
100
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
表 7 合計特殊出生率と婚外子出生比率⿉1995、2000 年
TFR.
フランス
ドイツ
オランダ
スペイン
イタリア
ポルトガル
婚外子出生比率
1995
2000
1995
2000
1.71
1.25
1.53
1.18
1.20
1.41
1.88
1.38
1.72
1.24
1.24
1.55
37.6
16.1
15.5
11.1
8.1
18.7
42.6
23.4
24.9
17.7
9.7
22.2
(注) 日 本 の 嫡 出 で な い 子 は 1995 年 1.24%(14,718 人)
、2000 年 1.63%(19,436 人)2003 年 は 1.93%
(21,634 人)なお 1925 年は 7.26%(151,448 人)
。
(出所) Council of Europe(2003)
.
出生性比に直接関係はないが、東アジアでは「十二支」が出産数に与える影響も認めら
れる。例えば、台湾では龍年生まれが喜ばれ、1976 年の出生が膨らんだ。シンガポールで
も同様の現象が見られる。また、日本では 1966 年(昭和 41 年)に 丙午(ひのえうま) が
敬遠され、TFR が 1.58 に低下したこともあった。
婚外子出生についても言及したい。表 7 は西欧諸国の中から 1995–2000 年に合計特殊出
生率が上昇した国を挙げ、その婚外子出生比を示したものである。それによると、イタリ
アやスペイン、ポルトガル、ドイツ、フランス等では 1990 年代後半に出生力が回復して
いるが、この要因として婚外子出生の増加があったことが読み取れる。一方、東アジア各
国࡮地域では文化や慣習の違いから婚外子出生の増加には限度があろう。このため、西欧
でみられたように出生率を押し上げる要因にはなりそうにない。
Ⅴ 各国࡮地域の現状
1.Ʒᅠቊâլ᧯᤹Ǿ⣏‫ڸ‬ሬ΢Ǻ
2004 年のわが国の TFR は 1.29 であった。前年の 1.2905 から 1.2888 へと低下し、小数点
第 3 位まで見ると過去最低となった。日本の TFR が人口が増減しない水準 2.1(置き換え水
準) を下回ったのは 1974 年、丙午の 1966 年を下回り
1.57 ショック
が叫ばれたのが
1990 年 6 月であったが、一向に下落に歯止めが掛からない。
出生数は、2003 年の 112 万 3,610 人から 2004 年は 111 万 835 人と 1 万 2,775 人減少した。
1947–49 年の第 1 次ベビーブーム期(年間 270 万人)、1971–74 年の第 2 次ベビーブーム期の
年間 200 万人超に比べると半分強の水準である。出生数は 1975 年以降、毎年減少を続け
た後、92 年以降は増減を繰り返しつつ緩やかな減少傾向を辿り、2001 年からは 4 年連続
で減少、第 1 子出世時の母親の平均年齢は 28.9 歳と 1965 年から 3.2 歳上がった。
、1999 年 12 月に「新
政府は 1994 年 12 月に「エンゼルプラン(緊急保育対策等 5 か年計画)」
、2003 年 7 月に「少子化社会対策基本法」
エンゼルプラン(少子化対策措置推進基本方針)」
近年にみる東アジアの少子高齢化
101
表 8 市区町村別にみた合計特殊出生率の上位―下位 10 位⿉1998 〜 2002 年平均
上位 10 位
人
1 沖縄県多良間村
2 鹿児島県天城町
3 東京都神津島村
4 鹿児島県伊仙町
5 沖縄県下地町
6 鹿児島県和泊町
7 鹿児島県徳之島町
8 長崎県美津島町
9 長崎県上県町
10 長崎県石田町
3.14(1,331)
2.81(7,175)
2.51(2,143)
2.47(7,765)
2.45(3,157)
2.42(7,696)
2.41(13,099)
2.39(8,399)
2.39(4,479)
2.39(4,748)
下位 10 位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
東京都渋谷区
東京都目黒区
東京都中野区
東京都杉並区
京都府京都市東山区
東京都世田谷区
福岡県福岡市中央区
東京都新宿区
東京都豊島区
東京都文京区
人
0.75(190,467)
0.76(244,794)
0.77(302,658)
0.77(514,607)
0.79(44,096)
0.82(805,031)
0.82(149,828)
0.82(270,221)
0.83(240,329)
0.84(171,799)
(注)( )は全市区町村人口。
(出所)厚生労働省大臣官房統計情報部「平成 10 〜平成 14 年人口動態保健所―市区町村別統計―人口動
態特殊報告」
。
と「次世代育成支援対策推進法」を成立させたが効果は出ていない。
2004 年の TFR を都道府県別にみると、上位は沖縄 1.72、宮崎 1.52、福島 1.51 などで、
下位は東京 1.01、京都 1.14、奈良 1.16 などである。2004 年は東京、千葉、富山、愛知、香
川、長崎、宮崎の 7 都県でわずかながらも前年より上昇した。ただし、東京の中でも渋谷
区(0.75)を始め特別区の TFR は低く、少子化の深刻さを浮き彫りにしている。市区町村
別 TFR の 1998–2002 年平均値について、上位࡮下位 10 番目までを並べたのが表 8 である。
最高は沖縄県多良間村の 3.14 で、1983–87 年࡮2.53、1988–92 年࡮2.50、1993–97 年࡮2.35、
1998–2002 年࡮3.14 と一貫して高水準を維持している。
因みに筆者は 2005 年 2 月に多良間島を調査したが、多産の背景には子どもは生めるだ
け生もうとする風土が残るうえ、島ぐるみの充実した子育て環境があることを実感した。
例えば、多良間村では結婚や出産、入学などで島に定住する人々に定住促進奨励金を出し
ており、交付額は 1995 〜 2000 年に 2,816 万円に達していた。また、出生祝い金は、第 1࡮
第 2 子は 5 万円、第 3 子以上は 10 万円であり、同じ期間に 69 件、795 万円が支給されてい
た。
2.Ʒ˛࡛â 2030 ౫Ǻ͆‫ۑ‬Ǿɜʀȷȇ
世界の耳目を集めた中国の「壮大なる実験」である一人っ子政策が始まったのは 1979
年のことであった。この時、筆者は次の様に記した。
「中国が国家社会経済計画に人口計
画を組み入れ、物質的生産の計画と人口計画の 2 つのバランスをとるという、厳しく歴史
(若林編著、
上例をみない政策をとりはじめたことは、壮大な人類史的実験とも呼びえよう」
1983: 15)
。
それから 4 半世紀が経過した。中国は資本主義的な手法で 物質的生産の計画 を推進
する一方で、人口の再生産については依然として計画的な管理を継続している。この影響
で中国では少子高齢化が急ピッチで進展する見通しである。表 9 と図 3 は中国の人口の将
102
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
表 9 中国の将来人口推計⿉2000 〜 2050 年
(単位⿉億人)
高位
中位
低位
TFR 2.0
12.67
13.18
13.62
14.05
14.44
14.75
14.97
15.09
15.15
15.16
15.11
12.67
13.18
13.62
14.03
14.36
14.57
14.65
14.65
14.57
14.42
14.19
12.67
13.18
13.52
13.83
14.06
14.17
14.17
14.05
13.83
13.53
13.15
12.67
13.18
13.62
14.13
14.56
14.84
15.00
15.07
15.07
15.01
14.85
2050 年の 65 歳以上比
21.31%
22.69%
24.49%
21.68%
人口ピークの年とその
時の人口
2040 年
15.15
2030 年
14.65
2028 〜 29 年
14.18
2035 〜 40 年
15.07
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
(出所) 杜࡮段(2004)
。
来推計であるが、中位推計で見て全人口は 2030 年に 14 億 6,500 万人でピークを迎え、
2050 年には 14 億 1,900 万人に減少する。また、高位推定では 2040 年、低位推定では 2028–
29 年にそれぞれ人口はピークを打ち、以後減少に転じてしまう。
高齢化が進む中で懸念されるのは社会保障制度が未整備な点である。中国では社会養老
保障制度は都市の一部にしか行き渡っていない。表 10 が示すように同制度の適用範囲は
総就業者数の 15.6% に過ぎず、都市就業者数に限っても 43.6% と半分以下である。また、
養老年金の享受比率を見ると 60–64 歳で 22.1%、60 歳以上の合計で 19.6% にとどまってい
るとされる(表 11)。医療費については、全額負担している職場は国の機関、国有企業の
『中国衛
一部に過ぎず、自営業や出稼ぎ農民などの 8 割以上は自己負担している(表 12)。
図 3 中国の将来人口推計
(出所) 表 9 の図化、若林(2005: 407)
。
近年にみる東アジアの少子高齢化
103
表 10 中国における社会養老保障制度の適用範囲⿉2000 年
人数
(万人)
保障制度参加比率
(%)
保障制度参加者数
10,447
–
総就業者数
66,875
15.6
(都市)城鎮就業者数
23,940
43.6
総労働年齢就業者数
62,653
16.7
21,084
49.6
(都市)城鎮労働年齢就業者数
(注) 労働年齢は 15 〜 59 歳。
(出所)
『中国統計年鑑』2001 年、中国 2000 年人口センサス結果より算出。
李(2003)
。
表 11 中国における高齢者の養老年金享受比率(2000 年)
年齢
(単位⿉%)
男
女
計
60–64 歳
26.4
17.6
22.1
65–69 歳
70–74 歳
75–79 歳
80–84 歳
14.8
28.3
24.3
21.1
30.8
11.0
8.0
5.7
21.7
19.4
15.3
11.9
85 歳以上
18.9
4.0
9.0
計
26.7
17.1
19.6
(出所) 中国 2004 年人口センサス結果より算出。李(2003)より。
表 12 医療費の調達分布⿉2000 年 5 月
(単位⿉%)
国の
機関
国有
企業
集団
企業
郷鎮
企業
職場が全額負担
22.3
18.3
9.7
7.7
10.1
4.9
2.2
雇用者と従業員が折半
28.4
26.5
18.9
11.5
16.9
2.2
–
職場が定額補助あと個
人負担
19.3
19.3
23.8
3.8
19.1
2.7
4.4
軽病は定額補助、重病
は比率に応じて払い戻
し
9.1
9.5
6.8
–
4.5
1.8
–
個人࡮家族の全額負担
17.5
23.2
37.4
76.9
41.6
80.5
82.2
3.4
3.2
3.4
–
7.9
8.0
11.1
その他
計
100.0
(767)
100.0
(856)
100.0
(206)
外資系
企業
100.0
(26)
100.0
(89)
自営業
100.0
(226)
出稼ぎ
農民
100.0
(45)
(注) 1998 年農村人口の 87.4% が自費。
(出所) 鄭࡮李(2001: 94)より。
104
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
生年鑑 2002 年』によると、1998 年第二次国家衛生サービス調査報告では自費受診者の割
合は、都市部は 44.1%、農村部は 87.3%、全国 76.2% である。
こうしたなかで中国政府は社会保障制度の拡充に力を入れ始めている。例えば、国家人
口࡮計画出産委員会は 2004 年から 15 の省࡮市の農村部において、一人っ子政策に従った
家族に対する報奨金支給制度を試験的に導入、2005 年には年間 4 億元の予算を投入して対
象地域を全国に拡大する方針を打ち出した。同制度は、60 歳以上で子どもが 1 人または 2
人の夫婦に年 600 元(1 元は約 13 円)で夫婦 2 人で 1,200 元を亡くなるまで支払うというも
4)
ので、老後の不安を払拭するための実質的な養老年金と見てよい 。中国では農村部にお
いて社会保障制度が特に立ち遅れているが、上記制度はその突破口としての役割が期待さ
れている。
3.Ʒⱦ࡛âլ᧯᤹Ǿˌᨕሬ΢ᕮᛡ
1970 年の韓国の TFR は 4.53 であった。同時期に日本が 2.13 と置き換え水準程度であっ
たのに比べるとかなり高かった。ところがその後急低下し、1985 年に 1.67 と日本の 1.76
を下回る水準となった。90 年代に入っても下落は止まらず、2004 年には 1.16 と世界最低
水準を記録した(表 13)。出生児数は 2001 年に年間 60 万人、翌 2002 年には同 50 万人を相
次いで割り込んでおり、減少のスピードが速い。総人口は 2016 年にピークにして減少、
5,000 万人を超えないと予測されている。
韓国は 1960 〜 80 年代に「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を果たし、生活水準が
向上した。1997 年に金融危機を経験したが、景気は回復している。しかし、日本と同様に
定職を持たず、結婚や出産をためらう若者が多いとされる。とりわけ晩婚化は日本よりも
表 13 韓国の人口指標
年
出生児数
粗出生率(‰)
合計特殊出生率
出生性比
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
646,197
658,552
718,279
739,291
723,934
728,515
721,074
695,825
678,402
642,972
616,322
636,780
557,228
494,625
493,471
476,052
15.2
15.4
16.6
16.9
16.4
16.3
16.0
15.3
14.8
13.8
13.2
13.4
11.6
10.3
10.2
9.8
1.58
1.59
1.74
1.78
1.67
1.67
1.65
1.58
1.54
1.47
1.42
1.47
1.30
1.17
1.19
1.16
111.8
116.6
112.5
113.8
115.5
115.4
113.3
111.7
108.4
110.2
109.6
110.2
109.0
110.0
108.8
108.2
(出所) 韓国統計庁 HP「人口動態統計」
。
近年にみる東アジアの少子高齢化
105
早く進行しており、TFR 低下の 6 割程度を説明する要因との見方もある。また、韓国の離
婚率は、1970 年は 0.4(日本は 0.93)、1980 年は 0.6(同 1.22)と日本の半分以下であったが、
1990 年に 1.1(同 1.28)へ上昇し、2002 年には 3.0(同 2.3)とついに日本を上回った。離婚
率も日本を上回るテンポで上昇している。
同棲や婚外子出生割合についての正式な公表値はないが、日本と同等以下と推定され
る。中絶頻度は日本の 2 倍以上ともいわれる。婚外子出生を社会的に容認しない伝統的な
家族観が続くのであれば、西欧でみられたような出生率回復への望みは薄い。
韓国における家族計画運動の流れを振り返ると、1961 年に「大韓家族計画協会」が設立
され、1966–70 年は 3 人の子を持つことをスローガンとした。その後、1971–75 年は 2 人の
子を持つことがスローガンとなり、1981–85 年は人口増加率を 1% に抑制するための運動
を展開した。しかし、人口抑制を狙ったこのような家族計画事業は少子化の進行で 1986–
90 年に転換期を迎えることになった。少子化の背景としては、激しい学歴競争の中で教育
費が高騰していることも背景にあるとされる。消費支出に占める教育費の割合は、日本で
は 5% 未満が、韓国で 12% と高い。今後の生活も「悪くなっていく」と将来の不安が強く、
生活の質
の低下が背景にあろう。中国以上に男児選好による出生性比の不均衡が生じ
ていることも、忘れてはならない韓国の人口問題である。
人口政策は大統領の直属に「低出産高齢社会委員会」が設立され、2005 年 9 月から「低
出産高齢社会基本法」が施行され始めた。世界最速ペースの少子高齢化に対する危機感に
より、今後 5 年間 19 兆ウオン(約 2 兆 2,000 億円)を投じるという。
4.Ʒ۞ᛗâቈਸ᤹Ǜබˀᅶ
台湾では 17 世紀、対岸の福建࡮広東省からの第 1 次移民が流れ込んだ。1949 年前後には、
共産党との内戦に敗れた国民党ならびにその支持者ら約 100 万〜 150 万が大陸から流入し
た。1995 年末の数字であるが、台湾にはアミ族、タイヤル族、パイワン族など 9 つの原住
民(計 35.8 万人=全人口の 1.7%)を含め、戦前から居住する 本省人 が 84% を占める。残
5)
り 16% が戦後に移住してきた 外省人 という内訳である 。
台湾における戦後の人口政策࡮家族計画を振り返ると、蒋介石ら国民党幹部が 1949 年
に移動࡮流入した後の 1953 年、人口増加政策が打ち出された。これには 大陸反攻
の
兵源を確保する狙いがあり、産児制限はタブーとされ、とりわけ反共政策ゆえに大陸から
遷移してきた外省人がより多くの子を生むようにと奨励された。
その後、農復会(中国農村復興委員会)主任であった蒋夢麟が 1959 年に産児制限を提唱し
た。行政院は 1964 年から家族計画に着手し、67 年 2 月に発表した施政方針で「人口政策」
に関する説明を初めて盛り込んだ。 子どもは 2 人がちょうどよい。1 人でも少ないことは
ない。男の子でも女の子でもどちらでもよい という内容であった。
1968 年に本格的な政策として「台湾地区家族計画実施弁法」が、69 年には「中華民国
人口政策要綱」や「加強遂行人口政策法案」が実施され、台中市には「家族計画研究所」
106
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
図 4 台湾の人口動態の推移⿉1949 〜 2003 年
(出所) 若林敬子研究室(2005)
。
が設立された。一連の政策を受け、台湾の出生率は下落傾向を辿り、2003 年には 10.1‰
まで低下した(図 4)。出生数は 1949 年の 40 万人から 2003 年は 23 万人へ、自然増加率は
1976 年の 21.2‰ から 2003 年は 4.3‰ へそれぞれ減った。TFR は戦後から 1956 年までは 6.00
以上の高水準だったが、家族計画の実施で低下し、80 年代後半は 1.70–1.80 の水準となり、
2000 年は 1.68、03 年には 1.24 と日本を下回った。
少子化に対応して台湾では 90 年代から「合理的な範囲内で人口増加を維持する」政策
に転換した。具体的には「適切な年齢で結婚し子どもをもつ」ことを奨励、現在の人口を
維持するための TFR2.1 を目指し、少子化対策を実施し始めている。
表 14 には台湾の未婚率の推移を示したが、1970 年から 2004 年の 34 年間に急上昇し、
男子では 20–24 歳、25–29 歳で、女子では 30–34 歳、35–39 歳を加えた全ての年齢層で日本
を上回る水準になっている。女性の未婚率上昇を背景に近年、大陸やアジアからの「花嫁
表 14 台湾における未婚率の推移⿉1970 年と 2004 年
男
20–24 歳
25–29 歳
30–34 歳
35–39 歳
日本(参考)
女
日本(参考)
1970
2004
2000
1970
2004
2000
87.7
35.0
10.9
8.6
96.6
76.8
41.2
21.0
92.9
69.3
42.9
25.7
50.3
8.7
2.2
1.2
89.5
59.1
26.9
14.8
87.9
54.0
26.6
13.8
(出所) 内政部統計処資料、センサス結果。
近年にみる東アジアの少子高齢化
107
6)
輸入」が急増しており、2003 年は結婚件数の 3 分の 1 は国際結婚だとされる 。
5.Ʒȿɻȴɥʀɳâ˛࡛Ṿǽ΢լ᧯᤹Ǻᣀ൰
シンガポールの人口 416 万人(2002 年央)の構成は、中国系 76.8%、マレー系 13.9%、イ
ンド系 7.9%(2000 年) で、4 分の 3 が中国系である。同国の TFR は 1950 年代に 6.00、60
年代前半に 5.00 を超えていたが、70 年代に置き換え水準の 2.1 を下回った。その後、80 年
代半ばに持ち直す局面もあったものの、2003 年には 1.25 へ落ち込んでいる。
人口政策は、① 1966–84 年の「家族計画プログラム期」
、② 1984–87 年の「優生政策期」
、
③ 1987 年以後の「新人口政策期」の 3 つに分けられる。出産抑制政策から出産促進政策
へ移行したのは、②のタイミングである。背景には、1980 年の国勢調査で高学歴女子の出
生率が低いことが判明し、
「人口の資質」への懸念が生じたことがある。
リー࡮クアンユー首相(当時)は 1984 年に高学歴女子はより多くの子どもを生むべきだ
と演説、高学歴女子の子供への小学校優先入学、扶養控除の拡充などを実施する一方、低
学歴女子に不妊手術を促すなどの措置を講じた。高学歴公務員を対象に政府自らがお見合
いサービスを行うといった施策も導入した。政府の狙いは高学歴の多い中国系女性の出産
を促すことであったが、こうしたやり方に対しては差別主義的との批判も出た。
その後、政府は 1987 年 3 月から「経済的に可能な場合࡮3 子以上」を奨励する政策へ転
換。2000 年 8 月には子育て支援強化策、2001 年 4 月に第 2 子、第 3 子に対するベビーボー
ナス(出産奨励金)を給付するという補助を実施している。
以上のように、シンガポールでは 80 年代半ば以降、政府が結婚奨励や子育て支援策を
積極的に打ち出した。これらの措置を受けて若干の出生率回復が観察されたものの、①未
婚者の増加、②晩婚化の進展、③出生年齢の上昇―などは続き、長期の下落トレンドに
変化は出ていない。③については第 1 子出生時の母親の年齢が、1990 年の 27.5 歳から
2000 年には 28.4 歳に、第 2 子は 29.8 歳から 31.3 歳へとそれぞれ上昇した。
同国の出生率がエスニック࡮コミュニティ別にどう異なるかを表 15 で確認すると、TFR
には明らかな差がある。2001 年の数字を見ると、人口の 14% を占めるマレー系は 2.45 と
高出生であるが、77% を占める中国系は 1.21 に過ぎず、両者の間には 2 倍以上の開きがあ
る(全国は 1.41)。中国系の TFR は日本をも下回る水準に落ち込んでいる。一方、表 16 は
表 15 シンガポールにおける民族別にみた合計特殊出生率と平均初婚年齢
TFR.
中国系
マレー系
インド系
初婚年齢(歳)
1980
1990
2000
2001
1.73
2.19
2.03
1.65
2.69
1.89
1.43
2.54
1.58
1.21
2.45
1.50
1960 年以前 1971–80 年 1991–2000 年
20.7
17.7
18.0
24.3
21.7
22.1
26.9
24.8
25.3
(注) シンガポールの人口構成は中国系 76.8%、マレー系 13.9%、インド系 7.9%(2000 年値)
。
(出所) Leow(2000)
.
108
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
表 16 シンガポールにおける学歴別にみた子ども数、一人っ子、無子夫婦⿉1990、2000 年
子ども数(人)
一人っ子(%)
無子夫婦(%)
1990 年
2000 年
1990 年
2000 年
1990 年
2000 年
Below Secondary
Secondary
Post-Secondary
University
3.4
1.6
1.5
1.4
3.3
1.9
1.5
1.3
8.7
15.9
15.2
15.9
12.6
17.2
18.4
18.6
4.1
6.4
6.1
7.8
5.4
6.6
8.0
9.4
計
2.8
2.5
10.5
15.1
4.7
6.4
(出所) 表 15 と同じ。
既婚女性の学歴別に子供の数、一人っ子の割合、無子夫婦の割合を示したものであるが、
7)
学歴が低いほど子供の数が多くなる傾向が読み取れる 。
6.Ʒ⴫ᚯâ˛࡛⡫⤅֭ǚȘ΢լ᧯ᣞຎ
香港の総人口の 95% は中国系である。香港では 1997 年に中国に返還される前から出生
率が低下していた。返還後は 1 を下回る超低出生状況が続いている。図 5 は香港の人口動
態を示すが、近年では自然増加率はゼロに近い。ただし、中国本土からの人口流入が予想
されるため、他の東アジア各国࡮地域とは異なり、人口減少は起きない見通しである。
香港でも女性の高学歴化࡮晩婚化が進んでいるが、香港政府は社会保障全般における給
付水準を最低限に抑制しているほか、子育て世帯への支援措置など少子化対策も極めて限
定的にしか行っていないとされる。先述したシンガポールの場合、政府の公的支援措置に
より出生率が回復する時期もあったが、香港の場合は一貫して下落基調が続いている(2003
年 2 月 26 日、この超低出産率に対し、公式の人口政策を発表)
。
図 5 香港の人口動態の推移⿉1949 〜 2003 年
(出所) 図 4 と同じ
近年にみる東アジアの少子高齢化
109
表 17 有配偶女子の就業者割合の比較
20–24 歳
25–29 歳
30–34 歳
35–39 歳
65 歳〜
(単位⿉%)
香港
2001 年
シンガポール
2000 年
東京
2000 年
日本
2000 年
66.7
72.9
67.3
60.7
66.7
72.8
67.2
56.4
42.4
47.5
42.5
46.0
40.3
44.6
43.7
53.6
2.6
5.4
23.4
24.8
(出所) 各国࡮地域の人口センサス結果。
表 17 に示すように、香港ではシンガポールと同様に既婚女子(有配偶女子)に占める就
業者の割合が高い。25–29 歳では 72.9%、30–34 歳では 67.3%、35–39 歳では 60.7% であり、
日本がいずれの年齢層でも 40–50% 台なのに比べ高水準だ。ただし、この数字は 65 歳以上
の年代では逆転し、日本の方が高くなっている。
おわりに
以上見てきたように、日本だけでなく、経済の躍進が続く中国、かつて 四つの龍 と
呼ばれ急速な成長を遂げたアジア NIES で急速な少子高齢化が進行している。特に NIES の
TFR は、香港 0.94、韓国 1.16、台湾 1.18、シンガポール 1.24 と軒並み日本の 1.29(いずれ
も 2004 年)よりも低い。個別には触れなかったが、ASEAN 諸国でも少子高齢化は進んで
おり、表 3 で見たように高齢化率が 7% を超える「高齢化社会」から 14% を超える「高齢
社会」への移行期間の年数は、タイとフィリピンが 20 年、インドネシアが 19 年などと高
齢化速度は日本(24 年)以上となり、2030–2050 年代には「高齢化社会」が到来する。
東アジア各国࡮地域で進む少子高齢化は将来のマクロ経済に悪影響を及ぼす。少子高齢
化の進展で労働力人口と国内貯蓄率が減少すれば成長力の下押し要因となるからだ。
ショックを和らげるためには、規制緩和や技術開発、高齢労働者の再活用などを通じて生
産性向上や人的資源の有効活用を図る必要があるが、
「国民生活の安定」という観点から
は医療、年金など社会保障制度の整備が肝要となる。社会保障制度は整備すればするほど
国家や国民の負担も高まる面もあり慎重な制度設計࡮運用が必要であるものの、高齢化が
かなりの程度進行した段階では手遅れになるだけに早急な対応が求められよう。
日本を除く東アジア諸国࡮地域の社会保障制度の実態は様々である。NIES を構成する
韓国や台湾、シンガポールでは制度の整備が比較的に進んでおり、全国民ないしはそれに
近い人口を対象とする給付体制が既に存在する。一方、マレーシアやタイ、フィリピン、
インドネシアの ASEAN 加盟国や中国においては、人口のかなりの部分を占める農民や自
営業者の大半については制度が整っていない。また、同じ ASEAN 加盟国の中でも、1990
年代以降に新規加盟し、経済発展の度合いが低いベトナムやカンボジア、ラオスなどでは
110
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006
制度の対象が主として一部の公務員や軍人に限られており、整備はさらに遅れている。ど
の国࡮地域にとっても、少子高齢化を見据えた制度の構築࡮見直しが不可欠であるが、と
りわけ NIES 以外、すなわち ASEAN 諸国と中国では制度の対象者が限定的ないしは制度
自体が存在しないことから課題が山積しているのが実情であろう。
新規加盟国以外の ASEAN 諸国と中国の社会保障制度の現状に触れておくと、ASEAN
では総じて医療保険制度は公務員や企業従業員を対象に整備され、自営業者や農民に対す
る制度は遅れている。年金制度も、例えばインドネシアやタイでは一定の規模以上の企業
に年金制度への加入を義務付けているが、農民や自営業者向けの制度は存在しない。中国
でも社会保障制度を享受しているのは都市企業労働者が中心で、老人や農業従事者、出稼
ぎ労働者など社会的弱者を対象とする制度は未整備である。公的年金制度には「都市従業
者基本年金」
、
「公務員年金保険」
、
「農村社会年金保険」があるが、
「農村社会年金保険」
はほとんど稼動していない。医療保険も農村部では基本的に未整備であり、大部分の地域
で全額自己負担となっている。都市部住民の最低生活保障や年金財源の補填に財政資金が
重点配分され、農村部、都市部貧困層の生活に対する保障は十分に行われていないのが実
情であり、社会保障制度が格差を拡大している面もある。
ASEAN 諸国は 1997 年に発生した通貨࡮金融危機の影響でインフレが急伸するなど国民
生活が混乱、特に貧困層など社会的弱者の生活が困窮した。その際、国民生活安定の重要
性が強く認識され、緊急時対応だけでなく少子高齢化も踏まえた社会保障制度を拡充すべ
きとの機運が強まった。例えば、タイのタクシン政権は 2002 年から全国民を対象に「30
バーツ医療制度」と呼ぶ制度をスタートし、
「国民皆医療保険制度」の導入に動いた。イ
ンドネシアでも 2002 年の憲法改正で全国民対象の社会保障制度の構築を盛り込み、国民
へのサービス向上を進めようとしている。一方、中国でも社会保障制度が未整備である農
村部において、一人っ子政策に従った 60 歳以上の高齢者向けに報奨金支給制度を導入す
るなど制度の拡充に動き出した。しかし、いずれも改革は緒に就いたばかりで、制度の設
計や運用など様々な面で今後も政策努力が必要である。
(注)
1) なお大陸中国の TFR の正確さについては問題があるものの、ここでは一応 2000 年センサス結果に基づ
き、全国 1.75(都市 1.35、農村 2.06)を記しておく。
2) 国連人口基金は 1998 年版「世界人口白書」で、このような時期について経済発展戦略を展開するのに
有利であるとして「人口ボーナス」と呼んだ。
3) 東アジアの男子人口超過現象については、朝鮮戦争で男子人口の損失が大きかった韓国、蒋介石率い
る国民党が大陸から追われた際に約 100 万人の男子軍人が流入した影響が残る台湾のように歴史的な要
因を抱える国࡮地域もある。
4) 例えば、四川省では農民 1 人当たり年間収入が約 2,230 元であり、報奨金は決して小さい額ではない。
筆者が国家人口࡮計画出産委員会の案内で 2004 年 9 月に四川省成都市郊外の金堂県雲綉郷で調査したと
ころ、この制度の財源は中央政府 80%、四川省 11%、成都市 9% で、県負担はゼロであった。中国では都
市に定住化しつつある農村出稼ぎ農民の社会保障問題も大きな課題であり、筆者は現在、中国人民大学
人口研究所、上海社会科学院と共同で実態調査を進めている。
5) 台湾の人口問題については、若林(1996: 第 11 章)で記した。
6) 台湾における結婚問題に関連して以下の 2 点を指摘しておく。①台湾の軍人は一般に 45 歳の定年まで
近年にみる東アジアの少子高齢化
111
結婚が許されず、現役中に結婚するには特別許可を受けなければならない。このため、退役時にまとまっ
た退職金が支払われるのを機に斡旋業者を介して、多額の結納金を支払い、 原住民 少女(15–17 歳が
多く、年齢差は 30 歳前後に達する)と結婚するケースが少なくない。②台湾企業の投資急増、台湾人ビ
ジネスマンの頻繁な往来を背景に、大陸において 秘書 (大陸第二夫人)を持つ例が増えている。台湾
アルナイ
に残された妻とのトラブルも増え、
「二؊」
(二人の妻)と呼ばれる問題が多発している。
7) シンガポールの結婚࡮出産奨励策の近年(2004 年 8 月)の先進的政策の詳細については、佐々井司「出
生力変化と社会経済属性別性差と少子化対策の効果―シンガポールにおけるケーススタディ」を参照
されたい。下記参考文献、厚生労働科学研究費補助金政策科学推進研究事業(2004)の中の 1 論文である。
(参考文献)
ᅠቊ◭
厚生労働省(2004)
、
「人口動態統計」
。
厚生労働科学研究費補助金政策科学推進研究事業(2003)
、
『韓国࡮台湾࡮シンガポール等における
少子化と少子化対策に関する比較研究』
(2002 年度総括研究報告書)
。
―(2004)
、
『韓国࡮台湾࡮シンガポール等における少子化と少子化対策に関する比較研究』
(2003
年度総括研究報告書)
。
厚生労働省大臣官房統計情報部「平成 10 〜平成 14 年人口動態保健所―市区町村別統計࡮人口動態特
殊報告」
。
嵯峨座晴夫(2003)、「アジアの人口高齢化と高齢者生活」アジア人口開発協会『人口と開発』No. 23、
2003 年夏。
店田廣文編(2005)
、
『アジアの少子高齢化と社会࡮経済発展』早稲田大学出版部。
、琉球新報社。
琉球新報社編(1980)
、
『トートーメー考―女が継いでなぜ悪い』
若林敬子編著(1983)
、
『中国の人口問題』
(現代のエスプリ No. 190、1983 年 5 月)
。
若林敬子(1996)
、
『現代中国の人口問題と社会変動』新曜社。
―(2005)
、
『中国の人口問題と社会的現実』ミネルヴァ書房。
若林敬子研究室(東京農工大学大学院農学研究科国際環境農学専攻࡮国際地域開発学講座)
(2005)
、
『中国人口統計基本資料集』DTP 出版。
中華民国(2000a)
、内政部統計処資料࡮センサス結果。
―(2000b)
、同上。
杜鵬࡮段成栄(2004)
、
「中国人口老齢化発展趨勢分析」
(若林敬子編࡮筒井紀美訳『中国の人口問題
を中国の人口社会学者はどうみているか』ミネルヴァ書房。2006 年 8 月刊行予定の中に全訳収録)
。
李建民(2003)
、
「中国における農村住民の養老問題」
(2003 年 11 月シンポジウム資料)
。
鄭杭生調査࡮李迎生(2001)
、
『社会保障与社会結搆転累型―二元社会保障体系研究』中国人民大
学出版社。
⇠◭
Council of Europe, Recent Demographic Development 2003.
Leow Bee Geok, Superintendent of Census Census of Population 2000 Advance Data Release, Singapore
Department.
UN, World Population Prospects: The 2004 Revision.
(わかばやし࡮けいこ 東京農工大学 E-mail: [email protected])
112
アジア研究
Vol. 52, No. 2, April 2006