TFT アレイ用フォトレジストは,液晶パネルにおけるトラン 舘 俊 聡* ジスタを作成するために用いられている。近年では,ガラスサ イズの大型化が進み,フォトレジストに対する要求も多様化し てきている。本稿では,市場要求に対する東京応化工業 (TOK)の開発状況について概説する。 した。 レジスト開発変遷 また,配線に Mo/Al,Cu などのメタル膜が使用 されることが多く,ウェットエッチング時のメタル 当社では,第1世代基板サイズから液晶パネル製 膜との高密着性を要求されるようになった。これは 造用フォトレジストの開発を積極的に行っている。 回路線幅の微細化に伴い,ウェットエッチング後の 図1に TOK フォトレジストのロードマップを示す。 面内寸法均一性が必要とされたためである。その高 基板サイズの大型化に伴い,高感度化,基板面内の 密着性を実現した製品が「TFR―1070」である。 寸法均一性の向上を要求され,第3,4世代基板サ さらに,ポリシリコン液晶パネルの製造工程にお イズに「TFR ― 2500」,「TFR ― 1000H」を上市 いては,高イオンドーピングを行う工程もある。高 イオンドーピング工程においては,高温な熱が掛か るため,耐熱性の高いフォトレジストが必要とされ *Tachi Toshiaki 東京応化工業(株)先端材料開発2部 技師 る。その要望を実現させた製品が「TFR ― 1250」 Spin Type Resist 80 TFR―H PL 70 TFR―790 PL 60 TFR―860 PM 電光感度(mJ) Slit&Spin Type Resist Spinless Type Resist TFR―2500 PM 50 TFR―1250 PM TFR―2550 PM Higher thermal resistance 40 TFR―4050 PM TFR―4000 PM TFR―4500 PM H/T process TFP―Trial TFR―1000H PM 30 TFR―1070 PM TFR―6000 PM TFR―1070S4 PM Good adhesion on metal G1∼G2 G3∼G4 図1 68 G5∼G7 Higher Gantry speed type Wide HT Process margin G8∼ TOK フォトレジストのロードマップ 電 子 材 料 である。 速度での膜厚均一性の優れたフォトレジストとして 第5世代サイズ以降では,塗布方式がスピン方式 「TFR ― 4000」を上市した。図2に TFR ― 4000 から,非スピン方式へ変更され,フォトレジストの の非スピン塗布での塗布均一性データを紹介する。 リソグラフィ特性だけでなく,塗布特性が重要視さ 塗布装置に関しては,当社の「TR115220SCP― れるようになり,それに対応した開発が急務となっ CLT」,基板サイズは 1,870 × 2,200 × 0.7mm, た。当社においては塗布装置の開発も行っており, ノズル移動速度は 150mm /s の条件にて,基板端 “M&E(Material & Equipment)”の協業を生か し,非スピン方式の開発にも成功しており,TFP ― 部 10mm カットにて± 2.08 %の達成を実現して いる。 2500 の非スピン対応フォトレジストとして 近年においては,ノズル移動速度 250mm /s の 「TFR ― 2550」,TFR ― 1000H の非スピン対応フ 高速化の要望を実現するための開発も行っている。 ォトレジストとして「TFR ―6000」の製品化を行 ノズル移動速度の高速化に伴い,塗布時の液切れの っている。 発生が問題となる。液切れ対策としては,フォトレ このように,第1世代基板サイズから第3世代基 ジストを低粘度化することで改善できるが,ノズル 板サイズまでの開発では,高感度化を目的とし開発 移動時のフォトレジストの塗出量が大きくなり,塗 を進めてきたが,第4世代基板サイズ以降は,高感 布時のフォトレジストの膜内に溶剤が多く存在し, 度化および塗布方式を考慮した材料設計とすること 塗布斑の発生リスクが高くなる。その対策を行った が必要とされている。 試作品「TFP ― 391」の非スピン塗布データを図 3に紹介する。ノズル移動速度 250mm /s の塗布 非スピン塗布用フォトレジストの開発 条件にて,基板端部 20mm カットで± 1.78 %の 膜厚面内均一性を達成している。 第6/第7世代基板サイズ以降においては,高感 コーティング装置:TR115220SCP―CLT ガラスサイズ:1,870×2,200×0.7t(mm) コーティング面積:1,865×2,196(mm) コーティング速度:150mm/s 真空度:66Pa(Slow―5sec) プリベーク:110℃,proxy―30sec,Direct―170sec 測定器:MCPD 図2 「TFR―4000」の塗布均一性データ 2008 年 5 月号別冊 膜厚 膜厚 膜厚 膜厚 度かつ非スピン塗布装置における高速なノズル移動 コーティング装置:TR115220SCP―CLT ガラスサイズ:1,870×2,200×0.7t(mm) コーティング面積:1,865×2,196(mm) コーティング速度:250mm/s 真空度:66Pa(Slow―5sec) プリベーク:110℃,proxy―30sec,Direct―170sec 測定器:MCPD 図3 「TFP ― 391」(試作品)の塗布均一性 データ 69 〈現像時間〉 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 0 レジスト膜厚(相対値) レジスト膜厚(相対値) 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 20 40 60 80 100 120 140 露光量(mJ/cm2) 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 〈現像時間〉 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 の各条件での傾きをγ値として表 したものである。γ値が小さい条 件ほど,露光量に対する HT 部の 膜厚変動率が少なく,塗布膜厚に 関して,厚い条件ほど良好である 0 〈露光量50∼150〉 図4 示したものである。図5は,図4 100 200 露光量(mJ/cm2) 〈露光量100∼300〉 最適化条件のシミュレーション結果 300 ことが分かる。また,短時間現像 ほどγ値は小さいが,現像時間に よる変化率は大きくなる。現像時 間 70 秒以上であれば,γ値の変 0.9 膜厚:1.5μm 0.8 像時間による膜厚変動率が安定することが理解でき γ値 0.7 膜厚:2.1μm 0.6 る。これらより,HT 工程を安定して製造するため には,塗布膜厚を厚く,また長時間現像することが 0.5 好ましいと考える。 0.4 0.3 化はほとんどなく,70 秒以上の条件であれば,現 また,使用マスクにより形状も大きく異なる。 0 50 100 現像時間(s) 150 図5 現像時間 vs γ値 HT 工程の導入当時は,スリットタイプのマスクが 使用されていたが,高解像力化が進むなかで不具合 も見受けられるようになった。高解像力化の実現に は,高コントラストなフォトレジストが必要となる。 それに伴い,良好な凹凸形状を得ることが難しい ハーフトーンマスク(HT Mask)プロセス 対応フォトレジストの開発 (図6)。高コントラストなフォトレジストを使用す ると,HT 部の平坦性を得ることが困難となる。そ こで,現在は透過率変更型マスクへの移行が進んで 近年の基板サイズの大型化に伴い,スループット いる。図6のように透過率変更型マスクを使用する 向上を目的とする,製造工程削減が検討されている。 ことで,良好な平坦性を得ることが可能となる。今 その1つとしてハーフトーンマスク(HT Mask) 後の HT 工程に求められるフォトレジストとしては, を用い,リソグラフィ1工程を削減する手法が挙げ 高い解像力があり,HT 部の安定した平坦を確保で られる。ここで挙げる HT Mask 工程は,Act,S/ きる設計が必要となると考えられる。 D 工程の2工程を,凹凸パターンを用い1工程で行 うプロセスである。このときに使用される凹凸パタ i 線用フォトレジストの開発 ーンに必要とされる特性は,凹部における膜厚面内 均一性に優れていることである。その特性を得るた めの当社の開発設計概要について述べる。 70 中小型液晶パネルにおいては,液晶パネル基板内 にドライバ IC などを作成し,付加価値の高いパネ まず図4に,シミュレーションにてプロセス条件 ルの開発が取り組まれている。それに伴い,さらな を最適化したシミュレーション結果を示す。これは, る線幅の微細化が要求され,従来の露光波長領域が 露光量とフォトレジスト膜厚の変化を現像時間別に g / h / i 線を含むブロードバンドな露光機から,単 電 子 材 料 透過率マスク スリットマスク ガラス Cr TFR―4500 PM 55mJ/cm2 ガラス Cr TFP―TrialPM 65mJ/cm2 TFP―Trial PM 40mJ/cm2 膜厚:2.1μm/プリベーク:110℃,90s 露光装置:CANON MPA=600FA/現像条件 : TMAH 2.38%,70s 図6 マスクによる形状の違い TSDR―Di500 PM 解像度(L/S 1.5μm,Eop:65mJ/cm2) 3.0μm 2.0μm 1.5μm 1.4μm 1.3μm 1.2μm CA―Trial 解像度(L/S 1.5μm,Eop:44mJ/cm2) 3.0μm 2.0μm 1.5μm 1.4μm 1.3μm 1.2μm 1.1μm 基板:Si/膜厚:1.5μm/プリベーク:90℃―90s/露光装置:NIKON 702J P.E.B.:120℃―90s/現像条件:TMAH 2.38%,65s 図7 i 線用フォトレジスト「TSDR ― Di500」と化学増幅型フォトレ ジスト「CA―Trial」(試作品) □ 波長化された i 線露光機が登場し,当社においても それに合わせたフォトレジストの開発を行った。 低温ポリシリコン液晶パネルの製造においては, 従来のフォトレジスト材料からの大きな変更とし さらなる微細化とガラス面内の線幅均一性が要求さ ては,感光剤のベースのベンゾフェノン骨格となる れている。当社では,従来の NQD(ナフトキノン が,i 線にて吸収を持つため,解像性の大きな劣化 ジアジド)ノボラック樹脂系のフォトレジストだけ の原因となる。そこで当社では,半導体用のフォト でなく,より微細化実現の可能性が高い化学増幅型 レジストのトップメーカーである利点を生かし,i フォトレジストの開発も,同時に進めている。図7 線露光機に適した非ベンゾフェノン骨格の感光剤を には試作品「CA ―Trial」のデータを示した。 選定し,この感光剤に対する樹脂の最適化を行った 24mJ / cm 2 と高感度であり,解像力関しても, 結果,高解像力フォトレジスト「TDSR ― Di500」 NA = 0.14 の低 NA 露光機にて 1.1μm までの解 の開発に成功した(図7)。 像を実現している。しかしながら,従来の系と像形 TSDR ― Di500 は,優れた解像特性を実現して 成システムが大きく異なるため,克服しなければな おり,今後の低温ポリシリコン液晶パネルの製造に らない技術課題はある。現在パネルメーカー,装置 必要な微細化用途に十分応えられるフォトレジスト メーカーと協力し合いながら開発を進めているとこ となっている。 ろである。 2008 年 5 月号別冊 71
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