NTN TECHNICAL REVIEW No.74(2006) [ 製品紹介 ] 鉄道車両用新RCT軸受とシール付き絶縁軸受 Development of New RCT Bearing for Axleboxes and Insulated Bearing with Shields 岡 竜 太 郎* Ryutaro OKA 近年,鉄道車両は環境にやさしく,エネルギー効率の良い輸送手段として 見直されており,鉄道車両用軸受の需要は主に中国やヨーロッパで大幅に 伸びています. 鉄道車両用軸受には,その公共性のため高い信頼性が求められるとともに, 鉄道会社からはメンテナンス期間の延長が要求されています. 従って,鉄道車両用軸受の課題は,如何に信頼性を維持し,メンテナンス 期間を延伸できるかとなります.NTNはこれらの課題を解決し,中国やヨ ーロッパ市場に対応した新RCT軸受とシール付き絶縁軸受を開発しました. In late years a railroad carriage is eco-friendly, and energy efficiency is reviewed as good transportation, and demand for railroad bearing business bearing largely lengthens in China and Europe. . High reliability is pursued in a bearing for railroad for the publicity, and extension of a maintenance period is demanded from a railroad company. Therefore the problem of bearing for railroad is how realize maintain reliability and extension for maintenance period. NTN developed an Insulated Bearing with Shields and New RCT Bearing which could solve problem for railroad bearing and cope with China and Europe market. This report introduces evaluation test results at laboratory about performance of Insulated Bearing with Shields and New RCT Bearing. いる. 1.まえがき 今回これらの課題を解決し,大幅に需要が伸びてい 近年,鉄道車両は,環境に優しくエネルギー効率が る中国,欧州市場のニーズに応える,より高性能な車 優れる交通手段として見直されており,特に,都市間 軸軸受として「鉄道車両用新 RCT軸受」 ,主電動機用 のインフラ整備,高速化推進が積極的に行われている 軸受として「シール付き絶縁軸受」を開発した.本文 中国や世界需要の50%を占めEU統合により更なる では,新RCT軸受とシール付き絶縁軸受の評価試験 高速化が推進される欧州市場等では,鉄道車両用軸受 結果を紹介する. の需要が大幅に伸びている. 鉄道車両用軸受は,動力伝達装置であるモータ(主 2.新RCT軸受 電動機)に使用される主電動機用軸受,モータの出力 欧州市場ではシリーズ化されたメートル系軸受が鉄 を車軸に伝えるギアボックス(駆動装置)に使用され る駆動装置用軸受,車体重量を支える車軸軸受があり, 道用車軸軸受に採用されており,中国市場でも数多く いずれも鉄道の走行に直接影響する重要部品であり, 採用されている.今回,欧州や中国市場で標準として 高い信頼性が要求されている.また,車両を運用する 採用されているEN規格(ヨーロッパ規格)に準拠し エンドユーザからは,メンテナンス期間延伸が要求さ た,「新RCT軸受」を開発した. れており,信頼性を維持して如何にメンテナンス期間 *RCT軸受:鉄道車両の車軸に使用される,密封式の複列円すい ころ軸受. 延伸を実現するかが,鉄道車両用軸受の課題となって **産機商品本部 -80- 鉄道車両用新RCT軸受とシール付き絶縁軸受 【試験条件】 2. 1 新RCT軸受の開発 従来のRCT軸受に下記3項目の新技術を盛り込んだ 表1 耐久試験条件 Condition of endurance test 新RCT軸受を開発し,EN規格での評価試験を行なっ 回転速度(min-1) た.それぞれの新技術の特長と試験結果について紹介 2125 のパターン運転 ラジアル荷重(kN) する. 48.0±9.8 アキシアル荷重(kN) 1 樹脂保持器の採用 潤 2 フレッティング対策板の採用 0±14.7 滑 グリース潤滑 運転時間 70万km走行相当 3 低発熱シールの採用 【試験結果】 2. 2 樹脂保持器 鉄道総研管理基準値(鉄分 1.0%) (wt%) 樹脂保持器は,耐衝撃性を有する特殊材料を採用し ており,潤滑寿命延伸とともに,保持器強度の向上が 期待される. 鉄分 1.2 wt% 1.03 1.0 0.8 樹脂保持器採用のメリット検証 0.6 1 摩耗粉(鉄分)の抑制 鉄製保持器と樹脂製保持器での運転後のグリー 0.4 ス中の鉄分発生状況を比較した結果,運転時の鉄 0.2 分発生の抑制が確認できた. 0 0.02 樹脂保持器 【試験軸受】 鉄板保持器 図2 試験後グリース鉄分含有量 Quantity of iron in grease after endurance test ・複列円すいころ軸受 (φ120×φ220×155/160) 樹脂保持器 <グリース寿命延伸 軽量化> 低発熱シール <軸受温度低減> 軟薄板(ゴムリップ付き黄銅板) <フレッティング対策> 図1 新RCT軸受 New RCT Bearing -81- NTN TECHNICAL REVIEW No.74(2006) 2 保持器強度向上 2. 3 フレッティング対策効果の確認 落下衝撃試験を実施した結果,樹脂保持器は現在問 耐久試験後の後蓋摩耗状況を比較した結果,フレッ 題なく実績のある鉄板保持器よりも強度面で有利であ ティング対策の有効性を確認することができた. ることが確認された. 【試験条件】 【試験条件】 表3 フレッティング対策効果確認試験条件 Test condition of prevention of fretting test 表2 落下衝撃試験条件 Condition of fall impact test 2 回転速度(min-1) 9800 (落下高さ:80 mm) 振動加速度(m/s ) 落下サイクル(cpm) 2125(330 km/h相当) ラジアル荷重(kN) 30 アキシアル荷重(kN) 試験時間(h) 54.9 6.5 7273 【試験結果】 試験軸受 防振用空気ばね 図3.落下衝撃試験機 Fall impact test machine (後蓋) フレッティング対策品 標準品 図5 試験後の後ろ蓋幅面形状 Form of backing ring width after examination 【試験結果】 36万回でサスペンド 400000 2. 4 低発熱シールの効果確認 回転試験により低発熱シールと標準シール(スプリ 落下回数 300000 ング付き)の運転時温度を比較した結果,標準シール 200000 9.3万回でクラック発生 に比べて低発熱シールのリップ温度は約20℃の温度 低減効果が確認することができた.(温度測定位置: 100000 シール摺動部のリップ直下2 mm付近) 0 鉄板保持器 樹脂保持器 図4 落下衝撃試験 Test result of fall impact test 標準シール 低発熱シール 図6 オイルシール形状 Shape of oil seal -82- 鉄道車両用新RCT軸受とシール付き絶縁軸受 【試験結果】 【試験条件】 表4 低発熱シール効果確認試験条件 Test condition of light contact seal ラジアル荷重(kN) 68.3 アキシアル荷重(kN) 13.6 回転数(min-1) 表7 EN規格回転試験結果(℃) Test result of EN standard ピーク値 2216(330km/h走行相当) 運転パターン 慣らし 運 転 正逆回転(EN規格準拠) 安定時 【試験結果】 安定時 (平均値) 表5 低発熱シール効果確認試験結果(℃) Test result of light contact seal 外輪A列 外輪B列 シールA列 シールB列 耐久試験 軸 箱 標 準 Max シール Ave 56.6 56.5 73.9 78.4 50.5 50.3 49.9 65.2 69.6 45.2 低発熱 Max シール Ave 44.2 46.4 45.9 52.8 41.5 41.3 42.7 43.0 49.6 38.7 軸受1 軸受2 EN規格 内 輪 97.9 98.8 ― 外 輪 80.1 78.5 ― 内 輪 45.7 47.9 外 輪 37.3 36.8 2hrの間 5℃以下 内 輪 43.9 外 輪 34.1 90以下 軸受1と軸受2の外輪温度差 15以下 20以下 隣接するサイクルの外輪温度差 10以下 20以下 2. 6 まとめ *雰囲気温度20℃換算 樹脂保持器,低発熱シール,フレッティング対策の 採用により,EN規格に準拠し,かつ信頼性を維持し メンテナンス周期延伸が可能な車軸軸受を実現するこ 2. 5 EN規格回転試験結果 とができた. EN規格に基づく回転試験を実施した結果,新RCT 軸受はEN規格に準拠していることを確認することが できた. 3.主電動機用シール付き絶縁軸受 高速化に伴う車両軽量化要求やLRV普及により, 主電動機自体のコンパクト化が要求されているととも に,鉄道会社からはメンテナンスコスト削減のために メンテナンス周期延伸が要求されている. 現在,主電動機用軸受は60〜90万kmで中間給脂 が行われている.主電動機のメンテナンス周期は主電 動機のブラシレス化及び軸受の絶縁化により,軸受の 潤滑寿命に大きく支配されており,主電動機用軸受の 図7 車軸軸受回転試験装置 Test machine for Journal bearing 潤滑寿命延伸が望まれている.これまで潤滑寿命の延 伸対策として長寿命グリースの開発が行われてきた が,軸受部分に必要な潤滑が長期間供給されなければ 【試験条件】 潤滑寿命の延伸は望めないため,グリースポケット形 表6 EN規格回転試験条件 Test condition of EN standard 状などの軸受周辺構造の重要性が見直されている. 慣らし運転 回転速度 rpm 車速 km/h 554 1108 1662 2216 2216 83 165 248 330 330 でメンテナンス不要な「シール付き絶縁軸受」を開発 した. 68.3 ラジアル荷重 kN アキシアル荷重 kN 今回,コンパクト化を可能とし,かつ120万kmま 耐久試験 3.4 6.8 10.2 13.6 風冷風速 m/s 約10 (回転停止中は0) 運転時間 h 各ステップ24 13.6 3. 1 シール付き絶縁軸受の特徴 新幹線をはじめとする鉄道車両用主電動機には,外 2910 輪の外径及び幅面に絶縁層を有する絶縁軸受が採用さ アキシアル荷重:5s負荷−5s無負荷(両方向)のサイクル負荷 れている.その絶縁軸受の外輪部分に潤滑寿命延伸対 策として,グリースポケットに相当する環状シールを -83- NTN TECHNICAL REVIEW No.74(2006) 設けた. なお,環状シールは絶縁性能確保のために材質は樹 脂とし,内側は高温,振動条件下での使用でグリース 試験軸受 漏れが発生しない特殊形状とし,従来構造よりもコン パクト化が図られている. 加振装置 グリースポケット 絶縁層 絶縁層 図9 回転加振試験装置 Test machine with vibration 環状シール 開発品構造 従来構造 【試験結果】 図8 シール付絶縁軸受の構造 Structure of insulated bearing with shields NU214及び6311ともグリース漏れ,シール外れ は発生しなかった. 3. 2 性能評価試験 3.運転性能・耐久試験 1.絶縁性能 i)急加速試験 外輪にシール溝が形成されたことによる絶縁抵抗 急加速運転時の温度特性を確認した結果,急激な 性能への影響有無を確認した結果,現行のセラミ 温度上昇,グリース漏れなく運転可能であること ックス絶縁軸受と同等の1000MΩ以上(500V が確認できた. 印加)の絶縁抵抗値を有することが確認できた. 2.回転加振試験 【試験軸受】 回転加振試験実施により,振動条件下での運転に NU214及び6311 おいて,グリース漏れやシール外れがないことを 確認した. 【試験条件】 表9 急加速試験条件 Test condition of high speed 【試験軸受】 NU214及び6311 1800×60→6180×30→ 運転パターン (min-1×min) 8600×2(加速条件は全て242min-1/s) 【試験条件】 ラジアル荷重(kN) 表8 回転加振試験条件 Condition of rotation test with vibration -1 軸受回転数(min ) 6500 ラジアル荷重(kN) 1.5 雰囲気温度( ℃) 試験軸受 試験軸受 25±5 軸箱振動加速度(m/s ) 2 加振周波数(Hz) 2.6 300 70〜120(50秒でスイープ) 図10 主電動機用軸受回転試験装置 Test machine for traction motor bearing -84- 鉄道車両用新RCT軸受とシール付き絶縁軸受 【試験結果】 回転速度 ×100mm-1 90 外輪温度上昇 80 回転速度 70 60 50 40 温度上昇 ℃ 30 20 10 0 0 0.5 1 時間 1.5 2 温度上昇 ℃ 回転速度 ×100mm-1 NU214 100 6311 100 90 外輪温度上昇 80 回転速度 70 60 50 40 30 20 10 0 0 0.5 h 1 時間 1.5 2 h 図11 急加速試験結果 Result of high speed test ii)耐久試験 4.あとがき 240万km走行相当の耐久試験を行った結果,グリ ース漏れや急激な温度上昇もなく,試験後の軸受 鉄道車両用新RCT軸受とシール付き絶縁軸受につ 及びグリースの劣化は軽微であり,継続使用可能 いて,その概要と試験の結果を紹介した. な状態であった. 鉄道車両の安全性・信頼性の向上に対する要求は, 今後も高まることが予想される.一方で,鉄道事業者 表10 耐久試験後のグリース分析結果 Result of Grease analysis after endurance test 蛍光X線(wt%) は車両のメンテナンスコストの削減を追及する傾向に Fe Cu 広がり ちょう度 油分離率 (%) NU214 0.03 0.02 200 6.2 6311 0.05 − 220 3.2 新品グリース 0.00 0.00 250 − 試 料 鉄総研管理基準値 0.5以下 0.3以下 150〜350 ある. 今後,今回紹介した新RCT軸受とシール付き絶縁 軸受は,鉄道車両の最重要部品である車軸軸受のメン テナンス周期延伸ならびに信頼性向上に有効な手段に なると考えられる. 30以下 参考文献 214外輪温度 6311外輪温度 室温 『鉄道総研報告』 RTRI REPORT Vol.11 No.9 97.9 P25〜30 温度 ℃ 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 1000 2000 3000 時間 4000 5000 6000 執筆者近影 h 図12 耐久試験結果 Result of endurance test 3. 3 まとめ 現行のセラミックス絶縁軸受と同等の絶縁及び高速 運転性能を有し,かつ密封化によりメンテナンス周期 岡 延伸が可能な主電動機用軸受を実現できた. 竜太郎 産機商品本部 等速ジョイント技術部 -85-
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