増 山 理 兵庫医科大学内科学講座循環器内科 教授

特 集
兵庫医科大学内科学講座循環器内科
増山 理
PROFILES ───────────────────────────────
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増山
理 兵庫医科大学内科学講座循環器内科 教授
Tohru Masuyama
1980年 3 月:大阪大学医学部医学科卒業
1984年 3 月:大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了
1984年 4 月:大阪警察病院心臓センター
1987年 8 月:米国Stanford大学心臓内科 研究員
1989年 9 月:大阪大学医学部第一内科
1995年 7 月:
同
助手
1999年 4 月:大阪大学大学院医学系研究科病態情報内科学 講師
2002年 8 月:
同
助教授
2004年 2 月:兵庫医科大学内科学講座循環器内科 教授
大学を卒業した時は、心疾患の診断といえば心電図か心臓カテーテル検査かという時代でした。
何とか非侵襲的な診断を確立したいと始めた研究も、診断技術の格段の進歩に伴い、治療へ
とシフトしてきました。現在はいろいろな手法を用いて慢性心不全の病態の解明と治療法の
開発に腐心しています。興味ある人はぜひお声掛けください。最近、出張などが多く、車中
の読書に勤しんでおります。中国古典文学にはまってしまいました。
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はじめに
10年ひと昔と言うが、このひと昔、ふた昔の間に心臓超音波診断法は大きく進歩
した。現在の心臓超音波検査は、これら1980年代前半に開発された断層エコー図
とカラードプラ法を駆使して行われていると言っても過言ではない 1,2)。しかし、
心臓超音波診断法はその後もいろいろな技術革新があり、まず画像・信号の質が
格段に向上した。このことにより、以前ではとても超音波診断装置では見られな
かったものを観察、さらには計測できるようになった。体表からの冠動脈血流の
捕捉がその最たるものであろう。また、当時では全く考えられもしなかったよう
な新しい機能が開発・付加されてきた。本稿では最近の技術革新による産物の代
表的なもののいくつかについて概説する。
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1.体表からの冠動脈血流の
捕捉
心臓超音波診断装置の性能の飛躍的な向上により、現在では日本人においては約
9 割の症例で冠動脈(左前下行枝)の描出・血流の捕捉が可能となった(Fig.1)1−3)。
冠動脈(血流)が「見られることがある」ではなく、「通常は見られる」に至ったの
である。冠動脈病変は起こる場所が定まっていないので、診断にはどこにどれくら
いの狭窄または閉塞病変があるかを観察しなければならない。残念ながら現在、心
臓超音波診断装置で観察できる部位は限られており、そういう意味では、冠動脈疾
患の診断に直接応用できるわけではない。しかし、同時に記録できる冠動脈血流速
波形が冠動脈疾患の診断に役立つ。たまたま計測部位に狭窄があれば高流速血流が
観察されるが、通常狭窄部位は計測部位よりも上流
(近位部)
にある。そのような場
合には、冠動脈血流速波形は収縮期優位の血流速波形になったり、薬剤負荷に伴う
冠動脈血流速の増加の程度
(冠予備能)が低下したりする。従って、これらの所見を
観察することは診断の一助になる。近位部に閉塞がある場合には逆行性の血流信号
が記録される。
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A net
Vol.10 No.3 2006
Fig.1. 胸壁からの冠動脈血流の捕捉
左図はカラードプラ像で、同画像では冠動脈血流信号が赤色で示される。右図はパルスドプラ冠動脈血
流速波形で、拡張期優位の血流信号が見られる。
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2.血管内超音波法
従来、動脈狭窄の診断はもっぱら冠動脈造影によっていた。しかし、一見、狭窄
が無いように見える冠動脈においてもすでにプラーク
(粥腫)が存在する。これは血
4)
管内超音波(intravascular ultrasound:IVUS)法により容易に観察できる
(Fig.2)
。本
手法は、カテーテルの先端に高速回転する超音波探触子を収め、20〜30MHzの超
音波で血管内から走査するもので、その画像は、壁内のプラークの形、組織の性状
などをかなり正確に表現することから、プラークの評価法として活用されている。
最大のメリットは、in vivo でプラークの定量的評価が可能なことである。中年以降
の成人の正常な冠動脈では、内腔と内膜、中膜、外膜の境界が明瞭に表現され、
多くのプラークは三日月状の肥厚した内膜エコーとして捉えられる。冠動脈病変
の早期発見にも用い得るが、実際には冠動脈狭窄例においてプラークの性状を観察
することにより、カテーテル・インターベンション治療戦略の決定に用いられる。冠
動脈形成術後の解離の検出、インターベンション後の再狭窄の評価にも有用である。
軟らかいプラーク
硬いプラーク
石灰化病変
Fig.2. 血管内超音波(IVUS)で観察した種々のプラーク
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3.三次元エコー図
1970年代の心臓超音波診断は、もっぱら、単一の超音波ビームを胸壁から投入し
その反射波を時間軸でスイープすることにより得られた M モードエコー図によっ
ていた。その後、超音波ビームを二次元的に電子走査し、断層エコー像が得られる
ようになった
(断層心エコー図法)。当初から、この発展の先には当然三次元エコー
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特 集
があった(Fig.3)。これが種々の技術革新により可能になったのはこの数年以内で
ある 5)。三次元データの収集は最近の情報処理技術の飛躍的な向上により容易に
なったが、現在ではこれらのデータを分かりやすくどう表示するかが問題であろ
う(Fig.4)
。
M−Mode
断層エコー
リアルタイム
三次元エコー
Fig.3. Mモードエコー図から断層心エコー図、さらには三次元心エコー図への発展
Fig.4. 左室からみた僧帽弁の三次元心エコー図(右図)とその基になる断層心エコー図(左図)
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4.超音波心筋イメージの解析
近年の心臓超音波診断装置開発が目指した方向として、従来の超音波では見ら
れなかったものを見ようとする試みがあげられる。そのひとつに、コントラスト
エコー法という手法がある。これは静脈内にコントラスト剤を注入し、それが肺血
管床を通過し、左室、大動脈、冠動脈を経て心筋に潅流された像を見ようとするも
のである。最近、肺血管床を通過するコントラスト剤が開発され、また装置側も微
量のコントラスト剤を検出する機能が開発されたために、心筋潅流のイメージング
が可能となった(Fig.5)6)。この手法によれば、心筋梗塞領域や心筋虚血領域ではコ
ントラスト剤による染影が不良となることから、診断や治療戦略の決定に有用と考
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A net
Vol.10 No.3 2006
投 与 前
投 与 後
Fig.5. 健常例における経静脈心筋コントラストエコー像
コントラスト剤の投与前(左図)には心腔内にしか染影が見られないが、投与後(右図)には心筋も染影
されている。
えられる。一方、コントラスト剤を使わずに心筋の組織性状を評価しようという試
みもある7)。例えてみれば、目の前にリンゴがあるとする。そのリンゴが美味しい
かどうか、または中味がつまっているかどうか、腐っていないかなどは誰もが知り
たい情報であるが、実際手に取って見ても、なかなかそこまで判断することは難し
い。大きさ、形、色は識別できても中味の状況までは分からず、美味しいかは食べ
てみて初めて分かる。超音波組織性状診断は、超音波を使ってそのリンゴの中味が
美味しいかどうか、腐っていないかどうかを知ろうとする試みに例えられよう。決
してリンゴの中味の細胞一つひとつを超音波で見ようというものではなく、もし、
美味しいかどうか、また腐っていないかどうかが、中の水分含量や弾性特性と関係
しているなら、おそらくそういうことも超音波診断によって知ることが実際可能か
もしれないと考えているわけである。
超音波心臓診断はこの20年以内に飛躍的に進歩した。最近では超小型の診断装置
も開発されており、今後、心臓病診断において超音波心臓診断の役割が倍加するこ
とは間違いない。
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参考文献
1 )中谷
敏:エコーからみた心臓病学.南江堂,東京,2005,1−162.
2 )増山
理:スタートアップ心エコーマニュアル.南江堂,東京,2002,1−168.
3 )Hozumi T, Yoshida K, Ogata Y, et al.:Noninvasive assessment of significant left
anterior descending coronary artery stenosis by coronary flow velocity reserve
with transthoracic color Doppler echocardiography. Circulation 97:1557−1562,
1998.
4 )南都伸介,田内潤,藤井謙司,奥山裕司:図解心臓カテーテル法−診断法から
インターベンションまで(改訂 3 版)
.中外医学社,東京,2005,1−381.
5 )伊藤
浩,岩倉克臣:3 次元心エコーテキスト.文光堂,東京,2004,1−99.
6 )増山
理,伊藤
浩:実践経静脈心筋コントラストエコー法.南江堂,東京,
2001,1−99.
7 )増山
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理,伊藤
浩:超音波で心筋を見る.最新医学社,大阪,1998,1−113.