INCAを用いた 自動キャリブレーション

INCAを用いた
ZF Friedrichshafen AG
Dr. rer. nat.
Peter Fischer
自動キャリブレーション
同一のプログラムで異なるキャリブレーションを実現
自動車用ECUを制御するソフトウェアは、いわゆるベーシックプログラム(プラットフォームソフトウェア)と変数データで構成されて
います。このデータはアプリケーションあるいは適合データとも呼ばれています。同一のベーシックプログラムを用いて、特定の適合デー
タを導入することで、別々の車両や顧客に対応する変数を作ることが可能になります。この種の適合データのデータセグメント(例えば
クラッチ設定の詳細など)は、いわゆるデータアーカイブの形式でよく管理されます。これは車両の設定全般に関するデータだけでなく、
顧客によって異なる診断インターフェースや車載通信の方法や範囲に関するものにも適用されます。基本の適合データセットと多様な
データアーカイブを組み合わせることで、最終的に非常に特殊な車種向けのソフトウェアが生成されます。
自
動車用ECUのソフトウェア開発を支
さまざまな適合をユーザーの介入無しにテ
データアーカイブを構造的に管理
援するための自動テスト手順との関連
ストすることが望ましく、テスト手順に多
一般的な状況では、同一のECUプロジェク
でよく取り組まれる問題として、異なる適
様な適合を含むことが望ましい場合は、ユー
トがさまざまな顧客や車両に用いられます。
合をいかに生成可能かという件があります。
ザーのやりとりを一切無くせば明らかに有
個々の適合変数でさえ、別のデータアーカ
この記事では、ZF Friedrichshafen社のエ
ンジニアが一つのベーシックプログラムを用
利になります。
イブの形で管理されます。したがって多様
いて数種の適合の自動生成を行なった手法
INCAのTool APIを用いた自動適合
ETAS製の測定・適合システムINCAはTool
APIと連携して、Windows® COM通信メ
システムが必要です。
カニズムを用いて独自に開発したアプリケー
イル)は個別に、トランスミッション制御
についてご紹介します。このプロセスには
INCA Application Program Interface
(API)が使われています。
なデータアーカイブを構造的に管理できる
このために、データアーカイブ(DCMファ
ション内からいくつかのINCAコンポーネン
のファンクションに即して、以下のような
量産に自動ソフトウェアテストを
トを制御する方法を提供します。この手法
階層的なファイル構造で保存されています。
ECUソフトウェア開発は、顧客が量産体制
でアクセスするコンポーネントには、INCA
に入る時点で終了するわけではありません。
データベース、適合データマネージャ、実験
実際、新しい顧客に向けて最新の機能や調
環境およびハードウェア設定エディタが含
整を加えながら常に製品の改善を図ってい
まれます。COMインターフェースはinca-
くことは、例外的というより原則的なこと
com.cpp/.h というファイル名のC/C++
であり、従って元のファンクションすべてが
ソースファイルで提供されます。
確実に動作することが常に保証されている
•
•
•
•
•
•
ドライビング・ストラテジー
クラッチ
トランスミッション
ドライブシステム
ECU
診断
必要があります。それを実現するには、広
範にわたる自動テストが欠かせません。そ
個々のアーカイブには、ユーザー名を含む
して運転時間に関して相当の要求があるた
記述的な名前が付けられており、例えばク
め、この種のテストは可能な限り監視無し
ラッチ設定専用のデータアーカイブには、
で(例えば夜通し)実行する必要がありま
ベーシックプログラムから、所定の車両タ
す。
イプ向けの特定のクラッチのプロパティを
決定するのに必要なすべてのデータが含ま
れています。
20
RT J1.2007
HEXファイルデータアーカイブの自動化ア
ストは例えばHardware-in-the-Loopシス
プリケーション用ツール
高度なテストシーケンス制御での統合
テム上で、一定間隔で実行することができ
ZF FriedrichshafenのエンジニアはINCA
Tool APIを使用して、Windows®コマンド
ラインツール CALWIN ( CALibration
With INca)を開発しました。このツール
は、データアーカイブを用いたECUアプリ
図3は、ECUソフトウェアアプリケーション
ます。異なる適合データを持つHEXファイ
の自動テストの一般的なシーケンスを表わ
ルの自動生成で、テストシーケンスの一部
しています。制御システムの任意のファン
として必要なプログラムバージョンのすべて
クションを周期的に調べるために、このテ
を作成することが初めて可能になりました。■
➔
ケーションの自動キャリブレーションのため
のTool APIの一部を利用しています。CALWINは、一つの作業でさまざまな顧客に対
応するデータアーカイブを処理することが
できます。これを可能にするため、DCM
ファイルおよびユーザーは、明快に構造化
されたXML ファイルで管理されています
(図1)
。
個別の適合 HEX ファイルが、それぞれの
ユーザー向けに生成されます。
自動実行の対象となる個々のアクションは
以下の通りです。
• INCAとの接続設定
• INCAデータベースで、A2Lファイル1件
(ECUアプリケーションのデータディスク
リプション)とHEXファイル1件(ECU
アプリケーション)で構成されるプロ
ジェクトの作成
• INCA適合データマネージャを用いて、
DCMファイル形式のプロジェクト関係
のデータアーカイブをコピー
<?xml version=“1.0“ encoding=“UTF-8“ ?>
<!-- ********** File dcm.xml ************************** -->
<!DOCTYPE DCM_Files SYSTEM “./calwin_dcm.dtd“ >
<!-- ********** DCM files (archives) *********************** -->
<DCM_Files>
<!-- ******** Variant for OEM_1 ********** -->
<Customer name=“OEM_1“>
<DCM file=“\dcm\diagnostics\kwp_interface_oem_1.dcm“ />
<DCM file=“\dcm\gearbox\gear_oem_1.dcm“ />
</Customer>
<!-- ******** Variant for OEM_2 ********* -->
<Customer name=“OEM_2“>
<DCM file=“\dcm\global_data\global_data_oem2.dcm“ />
<DCM file=“\dcm\diagnostics\kwp_interface_oem2.dcm“ />
<DCM file=“\dcm\diagnostics\errorhandler_oem2.dcm“ />
<DCM file=“\dcm\gearbox\gear_oem_2.dcm“ />
</Customer>
</DCM_Files>
• ECU適合データセットをHEXファイルと
して新しい保存名でエクスポート。この
ファイルは、ECUへ直接フラッシュ可能。
• 上記のうち最後の2件は、必要に応じて
反復して追加のHEXファイルを作成可能。
CALWINはまた、A2LおよびHEXファイル、
そして適合されるHEXファイルの保存先パ
スで構成される、適合対象のECUプロジェ
クト(proj)を必要とします。コマンドライ
ンツールは全データをコピーし、INCA Tool
API経由でデータアーカイブのアプリケー
ションを整理します(図2)
。
図1(上):
DCMファイル(アーカイブ)と
ユーザーのバリアントが
記されたXMLファイル
図2:
CALWINは
ベーシックプログラムと
関連のデータディスクリプション、
そして多数のデータアーカイブを用いて、
所望のHEXファイルを作成します。
21
J 2 0 0 7 . 1 RT
データソースの最新の更新状況に基づいて
ECUソフトウェアを生成
車両セットアップの準備
別の事例として、CALWINはソフトウェア
開発で作成されるECUアプリケーションの
コンフィギュレーションを行う目的で活用
データディスクリプションの生成
されます。専用のアーカイブを用いて、診
断インターフェースや特定ユーザー向けファ
ンクションといったOEMおよび車両に特化
CALWINがユーザーのバリアントを作成
したプロパティが設定されます(図4)
。こ
れは、車両の設定に適用するのと同じソフ
トウェアテクノロジーにより、つまりプログ
ラムパラメータの非常に具体的な値を入力
することによって実現されます。CALWIN
すべての
バリアント
ECU自動フラッシュ
のおかげで、この作業は手動入力の必要が
なく、プログラムリリースの一部として自動
設定の形をとることができます。
任意のテスト
自動テストの実行
結論
INCA Tool APIのオープンインターフェース
は、ECUソフトウェア適合の自動化を容易
テスト結果の文書化
に行う上で役に立っています。
自動テスト内の最初の展開では、テストシー
図4:
ECUソフトウェアの
コンフィギュレーション
(いわゆる基本適合)の
ためにCALWINを利用
22
RT J1.2007
ケンス過程でさまざまなユーザーのバリアン
開発プロセスの別の時点で、新たに開発さ
トが動的に作成されます。それらはその後、
れるCALWINツールは自動的にECUソフト
直近の開発状況に基づいて自動テストの対
ウェアのバリアントを作成し、それはその後
象になります。
車両で適合されます。ECU適合の専門領域
は明らかに多くのさらなる用途に開かれて
います。
図3:
CALWINはECUアプリケーションの
バリアントの自動生成を容易にし、
それらすべては一つのテストシーケンスの
過程でテスト可能です。