公的な育児休業制度・ 補助の活用法

「産休・育休を取りたい」と言われても慌てないために
公的な育児休業制度・
補助の活用法
1 国内の現状について
2 今、事業主にできること
3 従業員に対する給付金制度
「産休・育休を取りたい」と言われても慌てないために
公的な育児休業制度・補助の活用法
国内の現状について
1│近年の少子化の状況
(1)仕事を持つ女性従業員の現状
①従業員から「妊娠報告」を受けたら
従業員、特に女性の従業員が結婚をして「寿退職」。これはひと昔前のこと。最近は結婚
をしても引き続き働くケースが増えています。次に控えているのは、
「その従業員に子ども
が授かること」ではないでしょうか。
もし、従業員から「妊娠しました」の報告があったとしたらどのように受け止められる
のでしょうか?
「おめでとう、元気な赤ちゃんを産んで、働けるようになったら戻っておいで。」と、に
こやかに言えますか?
それとも「さて、困ったな。退職したいと言われても、すぐにこの人に代わる優秀な従
業員を見つけられるかな。だからといって、長期の休みを取りたいなんて言われたら、こ
れも困る……。」と頭を抱えてしまうでしょうか?
②従業員のホンネ
今度は従業員の立場です。
「妊娠しました」と事業主に報告に行きたいところですが、向
かう足が重たく感じるのではないでしょうか。
新しい家族を迎え入れる希望に満ち溢れているのですが、
「仕事はどうしよう。本当は産
んだ後も働きたいのだけれど、認めてもらえるだろうか。嫌な顔をされないかな。」という
不安を抱くことでしょう。また、
「新しい家族が増えることは嬉しい反面、今まで以上に生
活費が嵩むし、夫の収入も減っているので、自分が仕事を辞めると生活が苦しくなるから、
仕事を続けたい。」と思い悩むことでしょう。
「育休明けに職場復帰したくてもできない(しない)理由」は「体力が持たない気がする
から」がトップで、
「職場が産休・育休を取得できるような雰囲気ではないから」も多いと
いいます。事業主の理解が得られないことにより、泣く泣く退職してしまうケースが多い
のです。
これは同時に事業主から見れば、優秀な労働者を手放すことになるのです。
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③子育て中の再就職
一旦退職してしまうと、小さな子どもを抱えての職探しには困難が待ち受けています。
「良い人なのだけど、小さな子どもがいるのでは、いつ休まれるかわからないから、採用
できない」と敬遠されてしまいます。
当の本人も、「保育園に預けてもお迎えの時間だからといって人よりも先に帰りづらい」
また「熱が出たからといっても、すぐに帰らせてもらえないだろうし、急に休みも取りに
くい」からと「再就職は子供が幼稚園や小学校に上がってからにしよう……」と、再発進
の時期を後ろへずらします。復帰が遅くなり、遅くなればなるほど仕事に対する感が鈍り、
復帰することが億劫にもなってきます。
(2)少子化・晩婚化
■少子化・晩婚化チャート
結婚しない
自分のライフスタイルに合う相手がいない、etc…
家庭に納まる
子供を産まない
再び仕事に就く
仕事を辞める
子育て一筋
とある女性
子供を産む
子供が一定の歳になれば再就職
結婚する
子供を産まない
仕事を続ける
子供を産む
一人の女性が仕事を持ち、ある程度の年齢になった時、
「結婚するか、しないか」という
分岐点さしかかったとします。
「重要なポストを任されていて、仕事にやりがいを感じてい
るので、今後、結婚をしてライフスタイルが変えることはしたくないから結婚は見送ろう。」
と結婚を選択しないことで、「結婚をしない人」が増えていきます。
「結婚」を選択したとしても、独身生活を長く経験した後、ようやく結婚に踏み切ること
になり、「晩婚化」が進んでいきます。
そして、次にぶつかるのが、
「子どもを持つか持たないか」という分岐点です。結婚をし
ても、「夫婦二人で生活を楽しみたい」という理由だけではなく、
「仕事に影響するから子
どもはまだ欲しくない」もしくは「子どもを持つまでの経済力がない」などの理由で子ど
もを産む年齢がどんどん高くなり、
「晩産化」が進行していきます。それは、一人の女性が
子どもを産む人数が減少することにもつながり、「少子化」の原因の一つにもなります。
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2│少子化・晩産化を統計データで見る
(1)少子化・晩婚化の進行
①出生数と合計特殊出生率の推移
2007 年(平成 19 年)の出生率は、108 万 9,818 人と前年の 109 万 2,674 人より 2,856 人
減少し、6年ぶりに増加に転じた前年から再び減少しました。
我が国の年間の出生率は、第1次ベビーブーム期には約 270 万人、第2次ベビーブーム
期には約 210 万人でしたが、1975(昭和 50 年)に 200 万人を割り込み、それ以降、毎年減
少し続けています。
■図1 出生数及び合計特殊出生率の推移
②子供の数の減少
出生数の減少は、我が国における年少人口(0〜14 歳)の減少をもたらしています。
第2次世界大戦後の年少人口の総人口に占める割合の変化をみると、1950 年には 35.4%
(約 3,000 万人)と、総人口の 3 分の1を超えていましたが、第1次ベビーブーム期移行
の出生数の減少により、1960 年代後半まで低下を続け、総人口の約4分の1となりました。
その後、第2次ベビーブーム期の出生数の増加により若干増加しましたが、1980 年代後
半から再び減少傾向となり、1997 年(平成9年)には、老年人口(65 歳以上)よりも少な
くなりました。
また、総務省「人口推計(平成 20 年)」によると、年少人口は 1,717 万6千人、総人口
に占める割合は 13.5%となっています。これに対して生産年齢人口(15〜64 歳)は 8,230
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万人(対総人口比 64.5%)、老年人口は 2,821 万6千人(同 22.1%)となっており、我が
国の人口構造はますます少子高齢化が進行しています。
③都道府県別にみた少子化の現状
2007 年の全国の合計特殊出生率は 1.34 ですが、47 都道府県別の状況をみると、全国を
上回るのは 29、下回るのは 14 でした。
■図2
都道府県別合計特殊出生率(2007 年)
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(2)未婚化・晩婚化の進行
①未婚化の進行
婚姻件数は、第1次ベビーブーム世代が、かつて結婚適齢期といわれていた 25 歳前後の
年齢を迎えた 1970(昭和 45)年から 1974(昭和 49)年にかけて、年間 100 万組を超え、
婚姻率(人口千対)も概ね 10.0 以上と「結婚ブーム」を現出しました。その後は、婚姻件
数・婚姻率ともに低下傾向となり、1978(昭和 53)年以降は年間 70 万組台で増減を繰り
返しながら推移してきました。「結婚ブーム」であった 1970(昭和 45〜)年代前半と比べ
ると半分近くまで落ち込んでいます。
また、2005(平成 17)年の総務省「国勢調査」によると 25〜39 歳の未婚率は男女とも
に引き続き上昇しています。
30 年前の 1975(昭和 50)年においては、30 代の男女ともに約9割が結婚していたこと
を考えると、この間、未婚化が急速に進行していることがわかります。さらに、生涯未婚
率を 30 年前と比較すると、男性は 2.12%(1975 年)から 15.96%(2005 年)、女性は 4.32%
(1975 年)から 7.25%(2005 年)へ上昇しています。
厚生労働省「人口動態統計」によると、我が国では、2007 年に生まれた子どものうち、
98%は嫡出子(法律上の婚姻をした夫婦間に出生した子)です。子どもは男女が結婚して
から生まれる場合が大半である我が国において、結婚しない人の割合が増加すれば、出生
数の減少に直接的な影響を与えることになります。
■図3 婚姻件数及び婚姻率の年次推移
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②晩婚化、晩産化の進行
日本人の平均初婚年齢は、2007 年で、夫婦が 30.1 歳(対前年比 0.1 歳上昇)、妻が 28.3
歳(同 0.1 歳上昇)と上昇傾向を続けており、結婚年齢が高くなる晩婚化が進行していま
す。
1975 年には、夫が 27.0 歳、妻が 24.7 歳であったので、ほぼ 30 年間に、夫は 3.1 歳、
妻は 3.6 歳、平均初婚年齢が上昇していることになります。
また、初婚の妻の年齢(各歳)別婚姻件数の構成割合を 1987 年から 10 年ごとにみると、
ピーク時の年齢が上昇するとともに、その山も低くなっていることがわかります。
また、初婚年齢が遅くなるという晩婚化が進行すると、それに伴い、出生したときの母
親の平均年齢も遅くなるという晩産化の傾向が現われます。2007 年の場合、第1子が 29.4
歳、第2子が 31.4 歳、第3子が 32.9 歳であり、ほぼ 30 年前の 1975 年と比較すると、そ
れぞれ 3.7 歳、3.4 歳、2.6 歳遅くなっています。高年齢になると、出産を控える傾向にあ
ることから、晩婚化や晩産化は少子化の原因となります。
■図4 初婚の妻の年齢(各歳)別婚姻件数の割合
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今、事業主にできること
1│育児・介護休業法の改正
少子化対策の観点から、喫緊の課題となっている仕事と子育ての両立支援等を一層進め
るため、男女ともに子育て等をしながら働き続けることができる雇用環境を整備すること
を目的とする、
「育児休業・介護休業等」の法律が改正されました(平成 22 年6月 30 日施
行)。
■改正する法律の概要
①子育て期間中の働き方の見直し
■現状
●女性の育児休業取得率は約9割に達する一方、約7割が第1子出産を機に離職。
●仕事と子育ての両立が難しかった理由は、「体力がもたなそうだった」が最も多く、
育児休業からの復帰後の働き方が課題。
●育児期の女性労働者のニーズは、短時間勤務、所定外労働の免除が高い。
●子が多いほど病気で仕事を休むニーズは高まるが、子の看護休暇の付与日数は、子の
人数に関わらず年5日。
■改正内容
●短時間勤務制度の義務化
短時間勤務制度について、3歳までの子を養育する労働者に対する事業主による措置義
務とする。
●所定労働の免除の義務化
所定外労働の免除について、3歳までの子を養育する労働者の請求により対象となる制
度とする。
●子の看護休暇の拡充
現
行:小学校就学前の子がいれば一律年5日
改正後:小学校就学前の子が1人であれば年5日、2人以上であれば年 10 日とする。
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②父親も子育てができる働き方の実現
■現状
●勤労者世帯の過半数が共働き世帯となっているなかで、女性だけでなく男性も子育て
ができ、親子で過ごす時間を持つことの環境作りが求められている。
●男性の約3割が育児休業を取りたいと考えているが、実際の取得率は 1.56%。男性
が子育てや家事に費やす時間も先進国中最低の水準。
●男性が子育てや家事に関わっておらず、その結果、女性に子育てや家事の負荷がかか
り過ぎていることが、女性の継続就業を困難にし、少子化の原因にもなっている。
■改正内容
●父母ともに育児休業を取得する場合の休業可能期間の延長(パパ・ママ育休プラス)
●父母がともに育児休業を取得する場合、育児休業取得可能期間を、子が1歳から1
歳2ヶ月に達するまでに延長する。
●父母1人ずつが取得できる休業期間(母親の産後休業期間を含む)の上限と同様1
年間とする。
●出産後8週間以内の父親の育児休業取得の促進
妻の出産後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合、特例として、育児休業の再度
の取得を認める。
●労使協定による専業主婦(夫)除外規定の廃止
労使協定により専業主婦の夫などを育児休業の対象外にできるという法律の規定を廃
止し、すべての父親が必要に応じ育児休業を取得できるようにする。
※これらに合せて、育児休業給付についても所要の改正あり
③仕事と介護の両立支援
■現状
●家族の介護・看護のために離転職している労働者が、平成 14 年からの5年間で約 50
万人存在。
●要介護者を日常的に介護する期間に、年休・欠勤等で対応している労働者も多い。
■改正内容
●介護のための短期休暇制度の創設
要介護状態にある家族の通院の付き添い等に対応するため、介護のための短期の休暇制
度を設ける(年5日、対象者が2人以上であれば年 10 日)。
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④実効性の確保
■現状
●妊娠・出産に伴う紛争が調停制度の対象となっている一方で、育児休業の取得に伴う
紛争はこうした制度の対象外。
●育児・介護休業法は法違反に対する制裁措置がなく、職員の粘り強い助言・指導等に
より実効性を確保している状況。
■改正内容
●紛争解決の援助及び調停の仕組み等の創設
育児休業の取得等に伴う苦情・紛争について、都道府県労働局長による紛争解決の援助
及び調停委員による調停制度を設ける。
●公表制度及び過料の創設
勧告に従わない場合の公表制度や、報告を求めた際に虚偽の報告をした者等に対する過
料を設ける。
改正前
出生
1歳
育児休業
3歳
就学
1歳まで請求できる権利。保育所に入所できない等
一定の場合は1歳半まで延長可能
勤務時間短縮の措置
①勤務時間の短縮
②所定外労働の免除
③フレックスタイム
④始業・終業時刻の繰り上げ下げ
⑤託児施設の設置運営
⑥⑤に準ずる便宜の供与
⑦育児休業に準ずる制度
努力義務
事業主にいずれかの措置を講ずることを義務付け
子の看護休暇(年5日まで)
法定時間外労働の制限(月24H、年150Hまで)
深夜業の免除
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改正後
出生
1歳
3歳
就学
1歳(両親ともに育児休業を取得した場合、1 歳2ヶ月)まで請
求できる権利。保育所に入所できない等一定の場合は1歳半ま
で延長可能
育児休業
勤務時間の短縮措置
所定外労働の免除
措置
努力義務
③フレックスタイム
④始業・終業時刻の繰り上げ下げ
⑤託児施設の設置運営
⑥⑤に準ずる便宜の供与
⑦育児休業に準ずる制度
子の看護休暇(年5日まで)
(子1人につき年5日まで、年10日を上限)
法定時間外労働の制限(月24H、年150Hまで)
深夜業の免除
■「イクメン」にとっての高いハードル
「イクメン」とは「子育てする男性(メンズ)」の略語です。単純に育児中の男性とい
うよりは「育児休暇を申請する」など、積極的に子育てを楽しみ、自らも成長する男性
を指します。
法改正されたものの、父親が残業を減らしたり、育児休業を取得したりするにはまだ
まだ課題が残されています。
●仕事の責任が重くなっていく年代と重なり、休んでいられない
●休んでいる間に自分のポストが他の人に取られないかと不安
●職場の人繰りが大変である
●男性が育休を取得した前例が無いので取得の希望を出しにくい
などの問題があり、思うようにこの制度を活用できないというのが実情のようです。
「イクメン」とその職場の意識改革も急務といえるのではないでしょうか。
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2│育児休業制度の活用においてのメリット
(1)育児休業制度等の活用
子どもが授かる従業員を産休・育児休業明けも引き続き雇い続け、さらに一定の要件を
満たした事業主に対し経済的にバックアップされる制度があります。
これらの制度を活用することで、優秀な職員に対し「子どもを持っても働き続けてもら
いたい」とお考えの事業主と、働き続けたいと願う従業員との双方の思いが実現すること
ができます。
平成 22 年度の主な育児関係助成金等の概要は、下記のとおりとなります(要件等の詳細
は省略しておりますのでご了承下さい)。
■育児・介護雇用安定等助成金
①中小企業子育て支援助成金
一定の要件を備えた育児休業・短時間勤務制度を実施する中小企業主に対して、育児
休業取得者・短時間勤務制度の適用者がはじめて出た場合に助成金を支給する制度。
●対象事業主
一定の要件に該当する常時雇用する労働者の数が 100 人以下の雇用保険適用事業主で
あること。
●支給対象期間
該当する労働者が平成 18 年度から平成 22 年度までの間に育児休業・産後休業を開始し
6ヵ月以上取得した後職場復帰後6ヵ月以上継続して雇用された場合。または、同期間
内に短時間勤務を開始し、6ヵ月以上同制度を利用した場合。
●受給額
1人目
2人目
育児休業
短時間勤務
育児休業
短時間勤務
100 万円
60〜100 万円
60 万円
20〜60 万円
●申請期間
受給できる事業主の要件を満たした日の翌日から3か月以内
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②育児費用等補助コース
労働者が、育児に係るサービスを利用する際に、それに要した費用の全部又は一部を
補助する制度を労働協約又は就業規則に規定し、実際に費用補助を行った事業主及び育
児に係るサービスを行うものと契約し、そのサービスを労働者に利用させた事業主に対
して、事業主が負担した額の一定割合を助成する制度。
●対象事業主
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に対する措置であること。その他
の要件を全て満たした事業主。
●受給額
労働者が利用した育児サービス費用のうち、事業主が負担した額に対して、以下の助成
を受けられます。
■育児サービスの例
●事業所内託児施設利用
●ベビーシッター会社等との契約
等
助成率
中小企業事業主
4分の3
大企業事業主
3分の1
限度額
●1年間につき利用者1人当たり 40 万円
●1事業所当たり 480 万円
●1年間につき利用者1人当たり 30 万円
●1事業所当たり 360 万円
赤字の助成率・限度額は、平成 21 年月1日から平成 24 年3月 31 日までの措置で、
以降は、助成率は2分の1、限度額は大企業事業主と同額になります。
③子育て期の短時間勤務支援コース
育児のための短時間勤務制度を労働協約又は就業規則に規定し、労働者がこれらの制
度を連続して6か月以上利用した場合に、事業主に支給する制度。
●対象事業主
●小規模事業主
常時 100 人以下の労働者を雇用する事業主で下記の双方の条件を満たしているこ
と。
●3歳に達するまでの子を養育する労働者が利用できる時間短縮勤務制度を労働協
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約又は就業規則により制度化していること。
●雇用保険被保険者として雇用する小学校3年生修了までの子を養育する労働者で
あって、短時間勤務制度の利用を希望した労働者に連続して6か月以上利用させた
こと。
●中・大規模事業主
101 人以上の労働者を雇用し、常時雇用する労働者数が 300 人以下の事業主、又は
常時雇用する労働者数が 301 人以上の事業主で下記の双方の条件を満たしている
こと。
●3歳に達するまでの子を養育する労働者が利用できる時間短縮勤務制度を労働協
約又は就業規則により制度化していること。
●対象制度
下記の①〜③のいずれかの短時間勤務を労働協約又は就業規則に定め、実施している
こと。
①1日の所定労働時間を短縮する短時間労働者
②週又は月の所定労働時間を短縮する短時間労働者
③週又は月の所定労働日数を短縮する短時間労働者
●受給額
①支給対象労働者が最初に生じた場合
小規模事業主
100 万円
(平成 22 年4月1日以降に初めて支
中規模事業主
50 万円
給対象労働者が生じた場合)
大規模事業主
40 万円
②最初に支給対象労働者が生じた日の
小規模事業主
80 万円
翌日から5年以内に、2人目以降の
中規模事業主
40 万円
支給対象労働者が生じた場合
大規模事業主
10 万円
④代替要員確保コース
育児休業終了後、育児休業取得者を原職又は原職相当職に復帰させる旨の取り扱いを
労働協約又は就業規則に規定し、育児休業取得者の代替要員を確保し、かつ、育児休業
取得者を原職等に復帰させた事業主に一定額を助成する制度。
●対象事業主
平成 12 年4月1日以降に育児休業取得者の代替要員を確保し、かつ、育児休業取得
者を休業終了後に原職等に復帰させているなど、その他の要件を全て満たした事業主。
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●受給額
原職等復帰について、平成 12 年4月1日以降に新たに就業規則等に規定した事業主。
①支給対象労働者が最初に生じた場合
②2人目以降の支給対象労働者が生じた場合
中小企業
50 万円
大企業
40 万円
中小企業
15 万円
大企業
10 万円
⑤休業中能力アップコース
育児休業者又は介護休業者がスムーズに職場復帰できるよう、職場適応性や職業能力
の維持回復を図る措置(現場復帰プログラム)を実施した事業主・事業主団体に支給す
る。
●対象事業主
育児休業期間が3ヶ月以上の育児休業者(産後休業終了後引き続き育児休業をした場合
には産後休業期間を含む)に対して、助成金の支給対象となる職場復帰プログラムを実
施したことなど、その他の要件を全て満たした事業主。
●職場復帰プログラム例
●在宅講習
●職場環境適応講習
●職場復帰直前講習
●職場復帰直後講習
●受給額
職場復帰プログラムの内容・実施期間に応じて算定。
支給対象者1人当たり
(限度額)
中小企業事業主
21 万円
大企業事業主
16 万円
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従業員に対する給付金制度
1│育児休業等のしくみと給付金
社会保険・雇用保険に加入していれば、従業員が出産・子育ての期間に休業する場合、
その本人に対して支払われる給付金の制度があります。
これらの制度を活用することにより、事業主はノーワーク・ノーペイの原則どおり、休
業中に賃金を支払わなければ、その期間中は、最低限の費用負担で済みます。一方、従業
員も無給である期間、一定の要件を満たせば賃金に代わるものとして給付金等支給により、
生活費を補うことができます。
(出産日)
出産予定日
H22.12.31
産前休業開始
H22.11.20
①産 前 休 業
6週間(42日)
産後休業終了
H23.2.25
①産 後 休 業
8週間(56日)
育児休業終了
H23.12.29
②育 児 休 業
③無給が一般的
④社会保険料がかかります
⑤社会保険料免除期間
健康保険〜出産手当金支給
雇用保険〜育児休業給付金支給
(1)産前・産後休業
期間は原則、産前:6週間、産後:8週間となります。
●産前休業
出産予定日が平成22年12月31日の場合、平成22年11月20日からとなります。
●産後休業
予定日の平成22年12月31日に出産した場合、翌日の平成23年1月1日からとなり
ます。実出産日によって、産後休業の開始が前後します。
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(2)育児休業
期間は原則、産後休業経過後(産後8週間)から子が1歳になるまでです。
(3)休業期間中の賃金
産前産後休業期間、育児休業期間の賃金については、法律上規定されていないた
め、有給・無給のどちらでもかまいません。
産前〜育児休業期間には、要件を満たせば健康保険や雇用保険から給付金等が支
給されます。賃金の支給があれば、いずれも減額されるので、無給が一般的です。
①産前産後期間
健康保険から「出産手当金」として標準報酬月額の3分の2が支給されます。
②育児休業期間
雇用保険から「育児休業給付金」として休業開始前の賃金の約50%が支給されます。
(4)保険料徴収
産前・産後休業期間中は、労使ともに休業前と同等の社会保険料がかかります。
本人負担分の徴収方法は、毎月振り込んでもらうか、出産後にある程度まとめて支
払ってもらうなど、従業員の方と相談の上、決定することをお勧めします。
また、雇用保険料は、賃金が支給されない場合はかかりません。
(5)社会保険料免除
育児休業期間中は、社会保険料が労使ともに免除されます。
2│まとめ
前述のような給付金制度を活用することにより、事業主・従業員の方の双方が金銭的な
負担に苦しむことなく、出産・育児休業を与え、与えられることができます。
行き着くところは、「帰る所があるのか」ということでしょう。
結婚しても、子供を産んでも働き続けたいと願う従業員に対しては、職場全体が再び受
け入れてあげられる雰囲気と環境が整っていれば、悩んだ挙句、「子供を産まない」「産ん
だら辞める」などという選択肢を選ばないで済みます。
日本中のありとあらゆる職場で、
「子供を産んでも復帰できる環境」があれば、少子化問
題はかなり小さくすることができるのではないでしょうか。もちろん、母となる方の職場
だけでなく、父となる方の子育て期間中の職場の理解も大いに必要となるのです。
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取り組み事例
介護の現場においてワーク・ライフ・バランスを推進し、
人材確保と従業員の定着率向上に効果あり!
■埼玉県入間市
特別養護老人ホーム(職員数約 230 名
男女比2:8)
(1)取り組みの背景
介護ケアは、高齢者の方の入浴や排泄介助、車椅子への移動など肉体的に負担が大き
く、育児との両立は困難となる場合が多い。また、夜勤を含めたスケジュール調整・管
理作業は待ったなしのため、一人欠けると全員に負担がかかる。このため妊娠した女性
は職場に言い出しにくく、出産・育児休暇が取りにくい状況であった。
そのような状況の中、「次世代育成支援対策の実施による達成目標」を明示し、行動
計画を 2006(平成 18)年7月1日に策定した。行動計画の目的は、職員が仕事と子育
てを両立させることができ、職員全員が働きやすい環境を作ることによって、「全ての
職員がその能力を発揮」できるようにすること。その職場での制度の特徴として、正職
員とともに「非常勤職員も対象」とした点がある。
(2)具体的な活動
①育児休業の取得向上のため(男性の育児休業取得率の目標:10%以上、女性:70%)、
2008(平成 20)年 10 月より妊娠・出産等の相談窓口設置を明文化。職員に周知し育
児休業の取得をしやすい環境を整備し、目標を達成。
②非常勤職員においても 2008 年2月までに2名の育児休業取得実績。
③子供の出生時に父親が取得できる休暇制度を導入するために、2008 年 10 月より施設
長・理事長・対象管理職と相談し、制度化した。2010(平成 22)年6月までに研修・
チラシ等により職員に周知する。
④小学校に入学するまでの子を持つ職員が希望する場合に利用できる短時間制度及び
フレックスタイム制度の導入(1日に導入済)。ただし、フレックスタイム制度は介
護職員を除く職員(介護職員はシフト制のため)が対象である。
⑤小学校低学年の子を持つ職員が希望する場合に利用できる看護休暇制度を導入(2008
年4月1日導入済み)
⑥月1回のノー残業デー(緊急時等は除く)
⑦有給休暇の取得状況のばらつきをなくし、各事業所が平均に取得できる環境にすると
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企業経営情報レポート
「産休・育休を取りたい」と言われても慌てないために
公的な育児休業制度・補助の活用法
ともに、リフレッシュのための連休を取りやすくする(より)。対策として、各事業
所に有休取得状況の調査を行い、取得率の低いところに対して取得を促している。
⑧育児・介護休業法、雇用保険法、労働基準法に基づく育児・介護等の諸制度を職員に
周知する(2008 年 11 月までに勉強会・研修等にて周知済み)
(3)活動の効果
福祉関係での人材確保が難しい中、人材確保と維持、そして従業員の定着率向上に大
きな効果が見られるようになった。2008 年 10 月に、埼玉県労働局による「くるみんマ
ーク」を取得したこともあり、今年は9名の新規採用ができた。
育児休暇の取得は男女を問わずに職員に勧めている。2006 年に約2ヶ月間、長男誕
生によって育児休暇を取得した男性は、「育児作業に疲れながらも、その経験が復帰後
の介護業務に生かされている。子育て体験以前より、きめ細かくお年寄りに接すること
ができるようになった。」と話している。子育て体験が職業意欲の向上につながってい
る。
(4)活動継続や支援制度を行う上での留意点
トップダウンではなく、総務部所属の職員が中心となって組織全体の意識改革を粘り
強く続けた。具体的には、妊娠した職員の直属の上司との相談や調整、事業所内で勉強
会を開催することで、活動内容や関連する支援制度の周知と理解に努めてきた。施設内
のワーク・ライフ・バランスのあり方や育児・介護休業制度と法律上の給付金、および
問題発生時の連絡方法及び相談窓口についても説明する機会を設けた。
(5)今後の展開
「お父さん講座」の充実や職員・入居者が各々人生を楽しめる環境づくりを考えてい
る。2008 年7月に、
(財)21 世紀職業財団から「職場風土改革促進事業主」の指定を受
けた。これを踏まえて、職場風土改革促進事業として、管理職層への研修、○○支援制
度の職員への周知徹底、勤務体制や仕事の進め方の見直し、勤務時間等の雇用管理の見
直しなどに取り組むことを宣言した。
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