2007年度大学入試センター試験 解説〈倫理〉

2007年度大学入試センター試験 解説〈倫理〉
第1問
問1
青年期の心理 (8点)
1
正解は①。
組合せを問う問題である。落ち着いて考えればできるから,分かるものから丁寧
に解いていこう。Bがウの「予測」,Eがオの「生活の質の改善」にあたることはす
ぐに分かるはず。Aもエの「制御」である。問題はアの「記述」とイの「説明」の違
い。「記述」が表面的な事実の集積であるのに対し,「説明」とはその事実の意味を
示すことである。したがって,たとえばアンケート調査の結果を数値だけ示すのは
「記述」だが,数値の意味することや読み取れる傾向を示すことは「説明」である。
よって,アとイの具体例はそれぞれCとDである。
問2
2
正解は③。
無意識とは意識(理性)ではコントロールできない心の深層部分のことで,期せず
して行なってしまう行為の原因と考えられている。①②④はいずれもこの例として適
当である。フロイトにおいては個々人の生活史が無意識のあり方を決定する大きな
要因となっている。
③は対象に没入して我を忘れている状態で,西田幾多郎のいう「純粋経験」にあ
たる。
問3
3
正解は④。
「葛藤」と呼ばれる心理学用語についての設問だが,問1と同じく落ち着いて考え
よう。Aは「感情的」になることがエの「衝動的表出」であり,それを「道徳的基準」
に照らして悩んでいる。Bは明らかにイの「親密」と「孤独」である。Cは「独力」
で解くか「友人」に頼るかの葛藤で,アの「自立対依存」にあたる。Dはウの「協
力」と「競争」の対立である。
第2問
問1
「怒り」について (24点)
4
正解は④。
2006年(新課程)以降のセンター倫理では,世界史関連の知識が目立っているので,
学習を怠らないようにしたい。ホメロスは前8世紀頃に活躍したと言われている古代
ギリシアの詩人。神話的世界観を描いた叙事詩である『イリアス』と『オデュッセ
イア』が代表作。
①エンペドクレスは紀元前5世紀頃のギリシアの哲学者。万物は土・空気・火・水
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の四元素の混合から成っているとした。
②ソフォクレスはギリシア三大悲劇詩人(あとの二人はアイスキュロスとエウリ
ピデス)の一人。代表作は『オイディプス王』『アンティゴネ』。
③ヘシオドスは前8世紀頃の古代ギリシアの詩人。
『仕事と日々』
『神統記』で有名。
正解は③。
5
セネカは1世紀のストア派の哲学者。ローマ皇帝ネロの師であったが,後に不興
を買って政治の表舞台からは退く。「怒りについて」「人生の短さについて」などで
有名。
①アウグスティヌスは初期キリスト教会最大の思想家。『神の国』『告白』が有名。
②エピクロスはヘレニズム期のギリシアの哲学者。快楽主義で知られる。
④プロティノスは3世紀頃の哲学者。新プラトン派の教義を確立した。
問2
正解は①。
6
インド思想では生と死の無限の連鎖が続くと考える(輪廻転生)。しかし一方で
「生とは苦しみである」とも考えるので,いかにこの輪廻転生を抜け出すか(解脱)が
大きな課題となった。ブッダは自己への執着(我執)を断つことが重要であると考え
た。
②「自分の中に永遠的要素を見出す」ことを目的とするのは,ウパニシャッド哲
学の立場に近い。ブッダは永遠不変の自己の存在を否定した(諸法無我)。
③仏教では極端な快楽や苦行を避ける「中道」を重んじるので「身体的な苦行を
積み重ねる」という点が誤り。
④仏教は,人知を越えた超越的な神を信仰する宗教ではないので,「不可知なるも
のの存在を認める」は適当ではない。
問3
正解は③。
7
プラトンは魂を,真理の認識に関わる「理性」,行為や決断に関わる「気概」,感
情や情動に関わる「欲望」の三つの部分に分けた。理性だけが永遠の真理であるイ
デアを知ることができるので,それに基づいて「気概」と「欲望」を指導する。こ
れが「三部分説」である。ここから
問題は
A
B
に入るのは「理性」であることが分かる。
に入るのが「気概」なのか「欲望」なのかだが,「怒り」がどちらに属
するのかという知識は高校倫理の水準を越えている。注目すべきは「怒りの座た
る
A
的部分は…徳ある行為に役立つとされる」という文のつながり。ここか
ら
A
が,行為に関わる方,つまり「気概」だと推測できる。なお,「気概」は最
近の教科書・用語集では「意志」の語が用いられている。
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2007年度センター試験 倫理
問4
8
正解は②。
アリストテレスは「徳」を,理性の働きによる「知性的徳」と,良い行動や態度
である「習性的徳(倫理的徳)」に分けた。「中庸(メソテース)」とは過多と過少を
避けた中間であり,適切な行動を実現する基準のこと。こうした中庸を選ぶ習慣を
身につけることで形成されてくるのが「習性的徳(倫理的徳)」であるとした。この
ように習慣の必要性に言及しているのは②だけである。「浪費」(=過多)と,「必要
以上に惜しんだり」すること(=過少)を避ける「習慣づけ」によって,
「おおらか」
という徳が形成されるとしている。
問5
9
正解は③。
中国では,天がこの世界の創造者であり,天命に背いた王朝は滅びると考える。
孟子はこの考えを発展させ③でいう「易姓革命」を説いた。
①「王道思想」も孟子が唱えたものだが,その説明が誤り。正しくは,君主は仁
と義によって人民を幸福にする政治を行うべきであるという思想。
②「兼愛(けんあい)」とは,分け隔てなく人々を愛するべきであるという墨子の
思想。
④「浩然(こうぜん)の気」とは,正義を繰り返し行うことによって育ってくる,
大らかで力強い道徳的心情のこと。ここまでは正しいが,「覇道(はどう)政治」と
は,王道政治の反対で力による民衆の支配のことで,誤り。
問6
10
正解は④。
ここでいう「愛の神が遣わした救世主(メシア)」とは「イエス」のこと。キリス
ト教はイエスをメシアとして信じる点でユダヤ教やイスラームと異なっている。
①はユダヤ教的な神観。②はスピノザのような汎神論(万物が神であるという思
想)的な神観。③は大乗仏教における菩薩の姿に関する記述である。
問7
11
正解は①。
イスラームの教えは,内面的な信仰上の問題から政治・法律・経済・社会の問題
に至るまでイスラーム教徒(ムスリム)の全生活を律している。
②,③,④はいずれもイスラームに関する正しい記述。
問8
12
正解は②。
本文では,第二段落で怒りに否定的な評価を与える思想を紹介しているが,第三
段落では「このように怒りは,対人関係という局面において,思慮深く適正に発せ
られる場合,高く評価される」とし,更に第四段落では「神の怒り」を「社会のあ
り方を省みるきっかけ」だとして,共に肯定的な評価を与えている。この趣旨を踏
まえているのは②だけである。
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①怒りが肯定されるのは「信仰深い人々から」発せられる場合だけではない。③
「つねに除去されるべき」が誤り。④も①と同様「賢者」だけが「例外的」に認めら
れるわけではない。
第3問
問1
「和」について (24点)
13
正解は②。
仁斎の重視したのが「誠」であることは知っていても,「忠信」という言葉を知ら
なかった受験生が多かったかもしれない。意味としてはほとんど同じで,自分も他
人も欺かないこと。仁斎が孔子の『論語』を聖典視したことを押さえており,なお
かつ孔子の説いた「忠」が自分を欺かないことであることを理解していれば,類推
できたはずだ。
①の「愛敬」は中江藤樹の重視した「孝」の核心。③の「慈悲」はブッダの重視
した他者をあわれみいつくしむ普遍的な愛のこと。④の「義理」は必ずしも学問的
な概念でないが,江戸時代に発達した道徳観念で,私的な「人情」に対して公的な
道徳を指す。
14
正解は②。
古文辞学派を開いた荻生徂徠は,古典を読んで徳のある政治をおこなっていた古
代聖人たちの「先王の道」を知り,「礼楽刑政」の制度を整えるべきだと考えた。
①にある「夫子(ふうし)」とは中国で広く尊称として使われる語で,年長者や教
師,高官などに対して用いられ,また孔子その人を指すこともある。
③の「惟神の道(かんながらのみち)」は本居宣長の概念。
④については,山本常朝の『葉隠』に「武士道」が説かれているほか,山鹿素行
の「士道」,新渡戸稲造の著書『武士道』でも述べられている。
問2
15
正解は④。
「世間虚仮,唯仏是真(せけんこけ,ゆいぶつぜしん)」は聖徳太子の仏教的な世界
観を表わす言葉として知られる。2003年度の本試験・第3問の問5においても出題
されている。
① 『三経義疏』は法華経・勝鬘経・維摩経の注釈書である。法華経が聖徳太子,
最澄,日蓮によって重視されたことは知っておくべきだろう。②『三教指帰』は空
海の著作,③「厭離穢土,欣求浄土(おんりえど,ごんぐじょうど)」は源信の言葉。
問3
16
正解は①。
意見の対立を超越した「達(さと)り」に到ることは難しいから相手を尊重して
話し合えというのが引用文の趣旨であるから,「達観者」になれという②は明確に間
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違いだし,③の「大局的な観点」というのもこれに近い。また人が「党」(=集団)
や村の意見に同調するからこそ異なる党や他の村との対立・衝突が起こるとされて
いるので,④のように「集団の意向に同調」することで問題が解決するわけではな
い。本問はリード文の下線部以下にほとんど正解が書いてあるようなものであるか
ら,冷静に読み取ってほしい。
問4
17
正解は①。
契沖については触れる程度にしか学習していない受験生が多いと思われるが,国
学全般についての確かな理解があれば消去法でも説ける。
②は「ますらをぶり」とあるので賀茂真淵。③は荷田春満,④は平田篤胤について
の記述。神道全体がそうであるのだが,復古神道もまた宗教的な教団ではなく一つ
の世界観というべきものであり,誰が「開祖」かを決められるわけではない。それ
までの神道が儒教思想と渾然一体となっていたのに対し,日本古来の神々への信仰
に純化したものが復古神道である。
問5
18
正解は①。
前半の『武士道』は同じくキリスト教思想家の新渡戸稲造の著作である。後半は
正しく,それが④の立場につながっている。②はJesusとJapanという「二つのJ」,
③は無教会主義という内村の立場についての正しい記述。
問6
19
正解は④。
和辻哲郎は,モンスーン型が日本のような穏健で受容的な性格を生み,沙漠型が
厳格な一神教を生み,牧場型がヨーロッパ的な合理精神を生むと考えた。
問7
20
正解は③。
人間は個人であると同時に社会的な存在でもあるという二重性格を持つ,という
のが和辻の言う「間柄的存在」の議論である。「社会と個人との対立的な統一」とあ
る③が正解となる。
①のように「共同体の中に生きる」だけではだめである。②は夏目漱石の「自己
本位」,④はイギリスの思想家ミルの考え。この問題は2005年度の本試験第3問・問
7に類似の問題があり,過去問演習が勝敗を左右した。
問8
21
正解は③。
第1段落と最終段落の内容を押さえれば何の問題もないはずだ。また聖徳太子に
ついての問3もヒントになる。
① と ② は日本的な「和」についての一般的な理解だが,実際に先哲が提唱した
「和」とはそのように自分を捨てて他者に同調するものではなく,意見や価値観の相
違を前提にした共生の思想である,というのがリード文の趣旨である。④は他者に
同調どころか相手を自己に同調させるという自己中心的な記述なので論外である。
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第4問
問1
「法律」について (24点)
22
の正解は①。
自然法とは,問題文にあるように「時代や地域で変わることのない普遍的な法」
のことであり,従って何を普遍的なものと考えるかによって,それを担うものが変
わることになる。古代ストア派の場合は世界の生成と存在の原理であるロゴス(理
法)を,中世キリスト教神学は神の意志をそれぞれ自然法の担い手だと考えた。近
代自然法思想においては,例えばグロティウス,ホッブズ,ロックに見られるよう
に,人間の理性こそ普遍的なものだとする考えが強く見られるようになった。
23
の正解は②。
グロティウスはオランダの法学者。本文にあるように「近代自然法の父」である
と同時に「国際法の父」でもある。人類普遍の理性に基づいた自然法を最高の法規
範とすることで,国際社会においても秩序ある法的状態を実現しようとした。
問2
24
正解は③。
アリストテレスは,物事を生み出す四つの原因の一つとして「目的因」を挙げて
いる。そしてこの観点を物体の運動全体の説明に用い,万物は一定の目的によって
運動していると考えた。こうした目的論的自然観に対して,16,7世紀の天文学者で
あるケプラーが発見した惑星運動に関する法則や,彼に影響を受けたニュートンが
発見した万有引力の法則は,天体から地上の物体に至るまで,あらゆる運動を因果
関係に基づく機械論的自然観の立場から説明しようとした。
①はコペルニクス,②はブルーノ,④はベーコンに関する記述である。
問3
25
正解は③。
カントにとって人格とは,理性が命じる道徳法則の下に,自律的に自由に行為す
る主体のことである。こうした人格としての人間は,何かの手段として利用されて
はならず,目的として尊重されなくてはならないとした。
①はモンテーニュ,②はショーペンハウアー,④はアダム=スミスの思想。
問4
26
正解は①。
シュヴァイツァーはフランスの哲学・神学者であり,1913年から医師としてアフ
リカに渡り現地の医療に貢献した。この経験から,全て生命は神的なものに通じる
が故に等しく価値がある,という「生命への畏敬」を説いた。
②のルソーは社会契約説で有名な18世紀のフランスの思想家。③は19世紀のデン
マークの思想家で,実存主義思想の先駆者。④は20世紀フランスの実存主義哲学者。
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2007年度センター試験 倫理
問5
27
正解は③。
ヘーゲルの「人倫」には「家族」,「市民社会」,「国家」の三つの段階がある。そ
して家族の親愛性と市民社会における個人の自主性とが結合し,真の人倫(法と道
徳の統一)が実現するのが国家であるとした。
①婚姻によって「家族」を形成することは人倫の第一段階として重要であり,「本
質的要素」だといえる。
②確かにヘーゲルは市民社会を「欲望の体系」と呼んでいるが,これは「欲望が
うずまく無秩序状態」とは言えない。経済的な関係とは,生産・消費のあらゆる局
面において相互に依存しあう状態であり,この状態は所有権の確保や契約など法律
を通じて秩序づけられている。
④の「永遠平和」はカントが主張したもの。
問6
28
正解は④。
スペンサーは19世紀のイギリス哲学者。進化論を社会学に応用したことで知られ
ている。社会生活が進歩するにつれて,分業が生じたり制度が細分化する現象は,
まさに生物が進化して多様化するのと同じであるとするなど,社会を科学的知識に
よって捉えようとした。
①は主にベーコンに代表されるイギリス経験論の立場。②はデカルト,③はコント
の思想。
問7
29
正解は④。
④のように「公益をそこなう行為」はベンサムの功利主義の原則である「最大多
数の最大幸福」に反する。従ってそうした行為を抑止するためには「その行為によ
って得た利益を上回る不利益を与える制裁」が与えられるべきであるとした。
① の政治的権力への「委託」はロックの社会契約説的な考え方。 ② ベンサムは,
人間は快を求め苦を避ける利己的なものであるから外的な制裁が必要である,と考
えた。「内的な制裁」を重視したのはミル。③ベンサムが最も重視したのは「法律的
(政治的)制裁」である。
問8
30
正解は②。
第1の段落において,「法律は常に正しいとは限らない…法律の正当性はどのよう
な観点から吟味されてきたのだろうか」という問題提起がなされ,最終段落では自
然法思想,人倫思想,功利主義はそれぞれ,「法律の正当性を吟味し,批判する観点
を与えてくれる」とある。②はこの趣旨をよく踏まえている。
①「法律だけでは,人間は外面的に道徳的になるにすぎない」,というのは本文に
現れている限りでは第3段落におけるカントの立場であり,ヘーゲルやベンサムに
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2007年度センター試験 倫理
関しては特にそのような言及はない。
③本文には「理想的な国家を構想するためには」という問題意識は見られない。
④「国際化」等のことは本文では全く触れられていない。
第5問
問1
民主社会と人権について (20点)
31
正解は④。
ミルには『女性の隷従』という著作があり,女性解放思想の先駆者とされている。
この知識を持っている受験生は少ないと考えられるが,消去法で選べる。
①は「一般意志」の語からルソーの立場と分かる。ルソーは議会政治の進んだイ
ギリスが形式的な民主主義でしかないと批判している。
②はロックの抵抗権についての記述。
③は生産様式が土台(下部構造)となって社会制度や文化などが上部構造として形成
されるというマルクスの唯物史観についての記述。
問2
32
正解は②。
しばしば部落差別問題について②のような議論が行なわれることがある。黙って
いれば子どもたちは意識することもないのに部落問題について学校で教えるから差
別が生じるのだ,という議論である。だが③にあるように,差別には根深い背景が
あるので,そこまで理解が及ばない限りは本質的な意味での差別解消にならない。
戦争の悲劇を繰り返さないためには過去の戦争がなぜ起こったのかを深く認識しな
ければならない,というのと同じである。
問3
33
正解は③。
限りある資源やかけがえのない自然を残すため,私たちの世代は未来の世代に対
しての責任がある。この考えを③「世代間倫理」という。
①は後半が正しくない。かつての神学的世界観などにおいては被造物の頂点に人
間が位置づけられることがあったが,実際の生態系は循環型の相互依存関係にあり,
ピラミッド状を成しているわけではない。
②は前半の最後「暮らし続けている」が誤り。政治難民などと同じく,「難民」と
言うからには元の居住地に住み続けられなくなって移動を余儀なくされた人を指す。
④は「経済や消費の水準をさらに高めながら」がおかしい。循環型社会という発
想は,従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会への自己批判として出発した
ものであり,成長至上主義への批判的観点を核心としている。
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2007年度センター試験 倫理
問4
34
正解は③。
植林計画地は「公有地」とあるので,そもそも付近住民がそこを駐車場代わりに
利用する権利が存在しなかったということになる。
これに対して他の選択肢は,①においては環境権,②は精神の自由,④は財産権お
よび生存権というように,いずれも根拠のある「人権」と「公共性」とが対立する
事例についての記述となっている。なお,「環境権」は憲法に明記されていない「新
しい人権」として,判例上認められ始めたものの一つである。
問5
35
正解は④。
丸山真男(1914-1996)は敗戦後に戦争指導者たちが責任を取ろうとしなかったの
を見て,日本の現状を「無責任体制」という言葉で批判している。日本思想史研究
者としての丸山は福沢諭吉を非常に高く評価しており,戦時には時代遅れとされて
いた西洋近代的な自我の確立という課題がまだ達成されていないと主張した。よっ
て「自主独立の精神をもつ個を確立しなければならない」とある ④ が正解となる。
なお,リード文のCに書かれてある「ある」論理から「する」論理へというのも丸
山の主張である。
①は西村茂樹,②は夏目漱石の主張であり,③は国家主義に転ずる以前の徳富蘇峰
の立場を表している。
問6
36
正解は④。
従来は「現代社会」で出題されていたようなグラフ問題が「倫理」でも出題され
た。図から読み取れるのは,人間開発指数と一人当たりGDPとの間にはごく大雑
把に比例的な傾向が見出せること,ただし重大な例外(ベトナムとボツワナ)が存
在すること,という二点である。
①は後者を無視しており,②は前者を無視しているので正しくない。③では「所得
格差」および「長寿と教育の格差」についての言及があるが,そのようなことを図
から判断することはできない。
問7
37
正解は②。
これも極めて「現代社会」的な内容であった。時事的・政治的なテーマにも関心
をもって,普段からニュースなどもよく見てほしい。
国際人権についての日本の態度は,A規約(社会権的規約)の一部などを留保し
ており,是正勧告を受けている。よって①は正しくない。
③はむしろ逆。額としては少なくないが,あまり有益でない事業を日本企業が受
注して行なっているなど,内容面で様々な批判がある。④はまったく逆で,日本は
難民の受け入れにきわめて慎重な姿勢をとっている。
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2007年度センター試験 倫理
②「オタワ条約」は対人地雷禁止条約ともいい,1997年に署名,1999年に発効し
た。日本は批准したが,アメリカ・ロシアなどの軍事大国は参加していないため,
有効性が限られている。
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