最近の関節リウマチの見地

この発表は、某医療関係会社の社員研修を兼ねた教育講演会です。この時期はちょうど A&R より RA 評価基準(特に T2T)
の新しい提案が発表された直後で、日本の各大学のリウマチ評価基準が一掃されそうな状態でした。張本人であるウ
ィーン大学 Dr.Smolen の講義を直接聴いての講義となりました。
2011 年 2 月某日
最近の関節リウマチの見地
第一章 関節リウマチの再確認。
2010 年のリウマチ友の会発行のリウマチ白書では、リウマチ患者は全国で 70 万人と発表されています。男女比も
1:3 で、ずっと以前他誌発表されていたものに比べてやや比率が男性の方に上がったという印象です。男女比は年齢
別では高齢になると1:1に近くなるとのことから、男性患者が長生きしているからかと考えられます。
日常診察で、患者に「リウマチってどんな病気?」と聞くと、
「関節が痛い」「関節が腫れる」「四肢が変形する」
「朝、
全身がこわばる」「動きがしんどい!」などの症状を訴えられます。では、「なぜそのようになるのか?」と聞くと、
答えはマチマチで、的の得た答えを言える方は極尐数です。
下の図は 73 歳女性の膝を経時的に追ったレントゲン写真です(Fig.1)
。①~⑤と約5年間で膝関節は変形していく
ことが解ります。関節リウマチの変形としては③までで、それ以降は、靭帯/軟骨系の破綻による不安定性のため、
側方同様性が強くなり、骨同士がぶつかり合っている部位から骨が破壊されています。④は、昔「波型変形」と呼ば
れていましたが、一連の写真群を観る限り、破壊途上の状態を表現したことに過ぎません。ここでリウマチ治療につ
いて再確認しておきたいのは、「なぜ腫れを作っているのか?」「何が関節を壊しているか?」ということを認識する
ことが、リウマチ診療を考えていく上で必要だからです。
■Fig.1:【症例】女性
RA
右膝関節
リウマチ関節炎の本体を形成しているのは「滑膜」です。通常は靭帯や関節包(関節の壁)を裏打ちする壁紙のよ
うな透明の膜で、関節鏡下では透き通って見える程度です。これに炎症反応がおこると新生血管が発生し、一気に肥
厚してきます。通常の外傷や慢性的な軟骨損傷があると、この程度の滑膜の炎症(滑膜炎)は起こります。リウマチ
との決定的な違いは、炎症滑膜から高濃度の「炎症性サイトカイン」が多量に産生されることです。炎症性サイトカ
インの代表的なものは TNFa、IL-6、IL-1 が挙げられます。サイトカインが様々に反応し(Fig.2)
、破骨細胞分化が促
進され、新生血管が造成し、炎症滑膜(パンヌス)を形成します。このパンヌスが周囲組織を破壊します。
■Fig.2:滑膜増殖(パンヌス)のメカニズム
従来はこの炎症滑膜(パンヌス)が発生したら、ステロイド注射や関節鏡下切除によりパンヌスを縮退させるもの
でした。ただ前述した通り、滑膜はもともと壁紙のようなものなので、これを人為的に“完全に”取り除くことは不
可能であり、破壊進行は止められませんでした。しかし現在では、リウマチ治療の肝としてこのパンヌスを発生させ
ないことを目標としています。ポイントとしてはパンヌス新生のマーカーをいち早く検査で拾い出すことが重要とな
ります。そうなると従来のリウマチ診断基準では全く手遅れとなります。
リウマチ治療の基本的な考え方 3 本柱があります。それは、早期の治療(Early Treatment)、緻密な管理(Tight
Control)、そして積極的な治療(Aggressive Treatment)です。早期の治療(Early Treatment)については、最近では
Window of Opportunity という概念が浸透しつつあります。適切な抗リウマチ剤の使用により関節破壊抑制効果のでる
期間があり、それを称したものです。近年の様々な臨床研究により証明されていて、発症より 2 年間で病勢をコント
ロールすると将来の変形予防によいといわれていました。最近では発症 3 カ月の間に治療を開始した方がよいという
報告もあります。いずれにしても早期に治療を開始するには、早期診断が必須であることは、疑いのないところです。
そのような意味では従来の診断基準では全く歯が立たなかったのですが、2009 年の EULAR(欧州リウマチ学会)提唱
されたリウマチ分類基準が注目されています(Fig.3)。この診断基準は抗 CCP 抗体や IgM- RF も項目に含まれ、また大
中小関節炎の個数も反映されて、今後大いに支持されていくものと思われます。しかしこの Criteria でも引っかから
ない手指足指の単関節炎では、引っかからないものもあります。そこで有用なのは、マイクロコイルを使用した MRI
による骨髄・滑膜評価、そして超音波ドップラーを利用した滑膜内超音波検査が挙げられます(fig.4)。どちらも日本
の中堅規模の病院には必ずある医用機器ですので、医療スタッフのやる気があれば早期に実施できる検査です。また、
開業医の先生方に、これらの機器はなかなか揃えられるものではないので、その場合は検査で近隣病院に紹介するの
もよいと思います。
■Fig3:新しい「関節リウマチ」の分類基準(ACR/EULAR2009)
1 関節炎(腫脹または疼痛関節)の数と分布
1つ以下の中・大関節*
0点
2~10 個の中・大関節*
1点
1~3つの小関節**
2点
4~10 個の小関節**
3点
10 個を超える(少なくとも 1 個以上の小関節を含む)
5点
2 血清学的検査陽性(抗 CCP 抗体・RF)
抗 CCP 抗体および RF 陰性
0点
抗 CCP 抗体または RF が陽性で低力価(正常上限の1~3 倍)
2点
抗 CCP 抗体または RF が陽性で高力価(正常上限の 3 倍以上)
3点
3 関節炎の持続時間(自覚症状出現から)
6 週間未満
0点
6 週間以上
1点
4 急性期反応物質(CRP・ESR)
CRP および ESR 正常
0点
CRP および ESR 異常
1点
以上の 4 項目のトータルスコアが 10 点満点中 6 点以上あれば RA と分類できる。
■Fig:4
MRI(マクロコイル)関節周囲の骨髄浮腫の評価
超音波ドップラー
滑膜増殖(新生血管)の評価
緻密な管理(Tight Control)は、文字通り患者の病勢・状態を逐一把握することです。具体的には、病気が軽快し
ていく指標として“「患者の訴え」を減らしていく”ことがあります。もちろんこのことは重要ですが、ただし関節リ
ウマチは腫脹を放置すると変形が進行していく病気です。患者によっては、腫脹はあっても疼痛が無いという状態を
よく見受けられます。その場合は、ただ患者の訴えだけを聞いても目的は達成できません。関節チウマチで最も重要
なことは、何を基準にして治療を進めていくかで、「T2T」(Treat to Target;将来関節破壊が起こらないことを目標
とした治療)というキャッチフレーズがリウマチ専門医で浸透しつつあります。では T2T を実現するには何を指標に
すればよいでしょう。従来は DAS(Disease activity Scale;44 関節の評価)やこれを簡略化した DAS28という評価
法があり、多くのリウマチセンターや大学で汎用されてきました。しかしこれは、関節の腫脹の程度は反映されない
こと、下肢関節は膝のみで足趾はまったく反映されないこと、そして寛解基準が ACR50/70 に比べ甘いことが指摘され
ております。先日、A&R でこの T2T recommendation に関する論文が発表され、DAS28 にかわり SDAI(Clinical Disease
Activity Index)に代わることになりそうです。これは比較的 ACR50/70 に近似しており、今後普及していくものと
考えられます。
積極的な治療 Aggressive Treatment としては、早期に診断後、推奨度 A であるメトトレキセートやアサラゾピリン、ブシラミンを初
期に投与し、1~3 カ月で評価。低活動性なら他の抗リウマチ剤を使用し、中~高活動性なら条件次第で生物学的製剤
を開始するというものです。生物学的製剤は5剤(この発表作成時は4剤)現在発売されています。普及率は内服剤
ほど高くありません。これは過去の既往歴に縛りがあること、高額なため多くの患者に投与できないことが挙げられ
ます。
また開業医の先生方の中には、経験がないことから投与に踏み切ることを躊躇していることも考えられます。その
ような場合は、投与合併症が出現した場合のバックアップの病院として、中堅規模の医療機関と緊密に提携すること
を提唱したいと思います。生物学的製剤の導入や合併症発症の際は入院収容し、状態が落ち着いたら引き続き主治医
の元で継続可療していくことが必要であり、今後のリウマチ治療に必要ではないかと考えます。
第二章 リウマチ整形外科医の将来は?
以上の3原則を期に、リウマチが制覇されつつあります。パラダイムシフトという概念の転換期であり、Care(短
期的な QOL の改善、疼痛軽減)から Cure(長期的な QOL の改善、変形の防止)に治療目標が変わってきたからです。
そうなるとリウマチの特有の症状である手足の変形は無くなるのか?そうなるとリウマチ整形外科は不要か?となっ
てきます。しかしさまざまな理由で、変形を許した患者の数は減尐することは予想されますが、変形は無くならない
と考えます。全国に日本リウマチ学会の専門医が広まっていることから、リウマチ診断に関してかなり早く正確にな
っています。しかし地域によってはまだ人数は不十分な地域もあり、早期治療といったことが残念ながら間に合わな
い患者もいます。また他の病気で抗リウマチ剤が使用できなかった方、
「副作用がイヤだから」という自らの意思で抗
リウマチ剤を拒否し手足が変形した方、漢方や民間療法に熱心になりすぎて投与が遅れた患者も無受けられます。そ
のような患者は今後も予想され、そのような患者のためにもリウマチ整形外科は、手術手技を磨いていくことになり
ます。
また Care→Cure のパラダイムシフトの関連で、手術内容も変化しつつあります(Fig.5)。例を挙げると、足趾変形
に対する手術法があります。足趾 MTP 関節は放置すると関節は脱臼し、外反母趾と HammerToe 変形とが共存し足底に
難治性の胼胝(べんち)形成となる独特の変形を呈します。従来は MTP 関節を残すとますます変形を許すことになる
ため、関節を切除する切除関節形成術が主な手術法でした。先の考え方で薬物療法により「変形が進まない」ことか
ら、
「できるだけ関節は温存しよう」という考え方が広まっています。私どもが施行しているのは、中足骨頚部を短縮
し脱臼を整復する関節形成術を進めています。これにより足趾機能を温存でき、歩容によいと考えています。
■Fig:5:関節切除から関節温存へ!
リウマチ整形外科の主な手術は、従来滑膜切除(鏡視下も含む)や人工関節置換術でした。人工関節置換術は現在
も主力ですが、滑膜切除はめっきり減尐しました。最近の人工関節手術は術後成績がかなり安定しています(Fig.6)。
人工関節手術は関節構造が破綻した患者のための手術であり、その状態以前で何らかの関節形成術が今後考案される
かもしれません。そのような意味では薬物療法の変化で、手術の意味合いも変わってきています。
■Fig:6:人工膝関節全置換術