羽田空港の支援車両約 8000 台の維持管理を効率化

羽田空港の支援車両約 8,000 台の維持管理を効率化
AutoCAD Map 3D をもとに近代設計が開発
2010 年 10 月、羽田空港の沖合で建設中の D 滑走路が開業する。年間の発着回数が 30 万
3000 回から 40 万 7000 回と大幅に増えることになった。これに伴い、空港の地上業務を担
う空港地上支援車両(GSE)の管理も複雑化する。そこで導入されたのが、AutoCAD Map
3D をベースに建設コンサルタントの株式会社近代設計が開発した GSE 管理システム
「Area Manager」だ。
空港の運航管理業務に AutoCAD Map 3D を活用
飛行機の積み荷を運ぶパレットカーや燃料を補給する給油車など、空港では様々な車両
が業務を支えている。これらの車両は「GSE(Ground Support Equipment:地上支援機
材)」と呼ばれ、置き場所が厳格に決められている。飛行機の周りに何気なく駐車している
ように見える車両も、実はあらかじめ駐車スペースが指定されているのだ。
また、GSE には 1 台ずつ「承認証」と呼ばれる書類が発行され、使用期限などが定めら
れている。羽田空港には約 8,000 台の GSE があるため、場所的、時間的な管理は大変だ。
羽田空港の地上業務を担う GSE。D 滑走路の開業でその運航管理はさらに複雑になる
複雑化する運航管理業務を効率化するために採用されたのが、「Area Manager」という
GSE の管理システムだ。近代設計がオートデスクの GIS ソフト「AutoCAD Map3D」をも
とに開発した。
空港の平面図をもとに GSE の停車スペースの大きさや位置などの空間的情報を正確に管
理するのと同時に、どの GSE がいつまでその場所を使うのかといった時間的情報も管理で
きるようになっている。
「これまでは図面と表計算ソフトを使って、空間的情報と時間的情報を手作業で突き合
わせて管理していました。Area Manager はこれらの情報を統合的に管理できるので、情報
の一貫性が常に確保できるほか、省力化にもつながります」と開発を担当した近代設計技
術三部の平野猛也次長は語る。
AutoCAD Map 3D をベースに近代設計が開発した GSE 運航管理システム「Area Manager」
3 時間の講習で使える本格的 GIS
このシステムを使うのは、羽田空港の管制運航情報官だ。その職務について国土交通省
東京航空局東京空港事務所の渡辺正己次長は「GSE に関する管理のほか、着陸する飛行機
の駐機場所(スポット)を決めたりするほか、日本周辺で遭難情報を受けたときの救援活
動を統括する業務などもあります」と説明する。
D 滑走路が開業すると、羽田空港の発着容量は 1 時間当たり 31 便から 40 便へと大きく
増える。これに伴い、空港の管理業務も増加するため、管制運航情報官の数は現在の 67 人
から 14 人増えて 81 人体制になる予定だ。
GSE の運航管理から救難活動まで幅広い業務を担う羽田空港の管制運航情報官室
国土交通省東京航空局東京空港事務所の渡辺正己次長(左)と管制運航情報官室のある建
物
多種多様な業務を担当する管制運航情報官自身が Area Manager を操作して各駐車スペ
ースへの車両の割り当てや、車両の所属会社、使用期限といった情報の入力ができるよう
に、一連の操作をカスタマイズして、簡単な操作で行えるようにした。
「本格的な GIS ソフ
トがベースになっていますが、忙しい管制運航情報官でも約 3 時間の講習だけで使えるよ
うに開発しました」と近代設計技術三部の IT エバンジェリスト、高野弘樹氏は語る。
CAD 図面を活用した高精度の管理
ゲートと滑走路の間を行き交う飛行機や、緊急着陸した飛行機が駐機スペースに移動す
る間に GSE と接触することがないように、停車スペースの形や大きさ、位置は飛行機の移
動軌跡や空港施設の CAD 図面をもとにした高精度の管理が求められる。また車両には動力
が付いた自走式のものと、ほかの車両にけん引や推進されることによって動く非自走式の
ものがある。これらも区別して管理しなければならない。
「GIS ソフトにもいろいろとあります。AutoCAD Map 3D を選んだのは、CAD 図面デ
ータとの親和性がとてもよかったからです。既存の CAD 図面を読み込み、そのまま生かす
ことができました。また、本格的な GIS ソフトを管制運航情報官の方が簡単に使えるよう
にするため、カスタマイズできることも必要でした」と平野氏は AutoCAD Map3D を選ん
だ経緯を説明する。
管制運航情報官に限らず、羽田空港の運営や維持管理を担当する多くの関係者にとって、
GSE の管理情報は重要である。そこで Area Manager の情報は、AutoCAD Map 3D と連
動する「Autodesk MapGuide Enterprise」によって、イントラネット上に公開され、空港
の運営管理に携わる職員の間で情報共有できるようになっている。
これまで表計算ソフトと図面などで行っていた GSE の管理は、Area Manager によって一
元化され、管理業務は大幅に効率化された
さらに近代設計はある航空会社向けに Area Manager と GPS(衛星測位システム)の位
置情報を連携させ、GSE などの位置を Area Manager の画面上にリアルタイムに表示させ
る動態管理システムも開発中だ。鉄道の列車集中制御システム(CTC)のようなシステム
を空港の場で実現したものだ。
「GPS にも様々なシステムがあり、精度もいろいろあります。今回、開発した動態管理
システムでは、精度は 3m くらいで十分です。AutoCAD Map 3D と必要十分な精度の GPS
を組み合わせることで、大幅にコストを押さえることができました」
(平野氏)。
維持管理を効率化する IPRM ソリューション
近代設計が空港関連の業務に乗り出したのは約 8 年前。
道路や河川などの分野と異なり、
航空法や ICAO と呼ばれる国際航空基準、無線や電気設備に関する規制、GSE の運航管理
などの知識やノウハウが必要だ。
「非常に特殊な分野のため、新規に参入するのは大変」
(平
野氏)という。
近代設計では飛行機の駐機場所(スポット)の使用状況を、平面図と工程表で管理する
スポット運用管理システム「Spot Manager 2008」
、飛行機が移動する際の軌跡や構造物と
の間隔などを検証する航空機移動区域安全検証システム「Blast& Clearance」といった空
港業務用のソフトも開発している。
これらのシステムは、AutoCAD をベースにカスタマイズしたものだ。空港分野はもとよ
り、道路や河川などの土木・インフラ分野では、施設の建設から維持管理へと業務の中心
が移り変わりつつある。これまでは、紙の図面や台帳、表計算ソフトなどで行ってきた維
持管理業務も効率化が求められてくる。しかし、インフラの種類や管理体制はケースバイ
ケースで大きく異なり、画一的なパッケージソフトがあまり存在しないのも実情だ。
過去の CAD 図面資産を生かしつつ、空間的、時間的な管理業務を統合した維持管理シス
テムを作っていく上で、AutoCAD Map 3D や Autodesk MapGuide Enterprise を中心とし
たオートデスクの IPRM(Infrastructure Planning & Records Management)ソリューシ
ョンは有効だ。近代設計の Area Manager をはじめとしたシステム開発は、建設コンサル
タントや建設会社が様々なインフラの維持管理業務を担っていく方向性を示しているもの
だろう。
Area Manager の開発を担当した近代設計の技術者たち
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