幼児の概念化における非階層的カテゴリーと クロス分類の発達的特徴

滋賀大学教育学部紀要 教育科学
No. 59, pp. 1 - 9, 2009
幼児の概念化における非階層的カテゴリーと
クロス分類の発達的特徴
児 玉 典 子・伊 藤 あずさ
Category Representation and Cross-classification
in Children’s Concepts
Noriko KODAMA and Azusa ITO
概念は抽象化の過程で生起するものである。
リー項目に着目し、幼児には階層的カテゴリー
発達的に、子どもはまず自分と環境との日常的
化能力があることを示した。しかし、彼らの研
な関わりに基づいた事象・事物から概念化を行
究は二者関係の分析にとどまっており、三者関
い、概念同士の関係性を理解しながらしだいに
係にまでの検討はなされていない。Nguyen 自
科学的事象・事物へと概念化のレベルを変える。
身は、様々な次元における非階層的カテゴリー
具体的概念から抽象概念への変化がここに認め
化能力についての検討の不足を認めており、異
られる。このことが、われわれの複雑な思考を
なる階層のカテゴリーを比較させるという事態
可能にしている。
そのものが非日常的であることなどから、幼児
概念化には、カテゴリー化の働きが欠かせな
期のカテゴリー化研究においては、次元ととも
い。カテゴリー化とは、事象・事物を何らかの
に日常への接近についてのさらなる検討が必要
ルールによってまとめる活動であり、児玉・中
であると考えられる。
川(2006)は、3 歳児と 4 歳児の比較によって、
非階層的カテゴリー化能力については、分類
3 歳児は 4 歳児よりもカテゴリー化を行いやす
カテゴリーとスクリプトカテゴリーが注目され
いが、4 歳児は刺激の示す役割についての言語
ている。その理由は、分類カテゴリーは階層的
反応と動作反応が多くなることを明らかにし
カテゴリーを多用し、スクリプトカテゴリーは
た。すなわち、幼児の年齢によって、カテゴ
非階層的カテゴリーを多用するという
リー化の特徴はかなり異なる。
(Nguyen, 2007)
、性格的に違いのあるカテゴ
カテゴリーには、分類カテゴリー、スクリプ
リーについての理解の差が存在するからであ
トカテゴリー、価値的カテゴリーなど、さまざ
る。子どもは自分の周りの環境を生活のために
まな種類がある。また、カテゴリーの中には階
認識することで、分類カテゴリーよりもスクリ
層的カテゴリーと非階層的カテゴリーが存在す
プトカテゴリーを良く理解する(丸野 , 1991)
。
る。Nguyen & Murphy(2003)は、食品の次
しかし、その環境は個人によって異なるため、
元での二者関係において 3 歳児が分類カテゴ
その中で二つのカテゴリーの理解に差が生じる
リーとスクリプトカテゴリーを理解し、4 歳以
か否かを明らかにする必要があるだろう。
上の子どもがそれに加えて価値的カテゴリーを
カテゴリー化の検討に当たっては、2 つの点
理 解 し て い る こ と を 示 し た。 ま た、Nguyen
で方法の改善を必要とする。まず、カテゴリー
(2007)は、様々な次元における階層的カテゴ
ラ ベ ル を 付 与 し な い 条 件 の 設 定 で あ る。
児 玉 典 子・伊 藤 あずさ
Nguyen(2007)は、問題提示の際にカテゴリー
Nguyen(2007)が用いた三者関係は 2 つの同
ラベルを付与する条件を設定しているが、これ
一カテゴリー項目と一つの無関係なカテゴリー
は、人は無意識にカテゴリーを形成していると
項目から成立しており、すべて同一のカテゴ
いう彼の見識とは矛盾する。したがって、カテ
リーから成立する三者関係を調べたわけではな
ゴリーラベルを付与しない条件の設定が必要で
い。したがって、すべて同一カテゴリーから成
ある。
立する三者関係を用いることにより、4 歳まで
次の点は、子どもをいかにリラックスさせ、
大人に検査されているという意識を持たせない
か、ということである。Crain & Mckee(1985)
の複雑なクロス分類能力を詳細に検討すること
ができる。
本研究では、パペットを用い、幼児が非階層
は、パペットの使用によって子どもはより集中
的カテゴリー項目の三者関係を理解できるか否
して検査に臨むことができると指摘している。
かについて検討することを目的とする。
その際、
ま た、Roby & Kidd(2008) は、Referential
分類カテゴリーとスクリプトカテゴリーに注目
Communication 検査において、パペットを使
し、それぞれの三者関係の理解に差が認められ
用した子どもの成績は使用しなかった子どもの
るのか、また発達的変化が生じるのかについて
成績よりも良かったことから、パペットの使用
も検討する。
が実験者の発問の意味を良く理解させると報告
した。しかし、Nguyen らの一連の研究では、
方 法
パペットを用いた問題提示を行っていない
(Nguyen & Murphy, 2003; Nguyen, 2007)。そ
[予備実験 1 三者関係カード体裁の決定]
のことが、彼らの実験結果についての疑念を起
本実験で使用する三者関係カードの体裁を決
こさせる。本研究においては、幼児への問題提
定するため、5 歳児 4 名(男女各 2 名)を被験
示にパペットを使用することが適切であろう。
者とし、Nguyen(2007)が用いた材料を日本
カテゴリー化の発達研究においては、クロス
人向けに改訂した三者関係を印刷したカードと
分類に注目することが重要な意味を持つ。なぜ
パペットを用いた。カードは写真とイラストの
なら、われわれはカテゴリー形成と共に一つの
2 種類であり、試行は練習試行 2 問と本試行 16
項目(事象・事物)を一つ以上のカテゴリーに
問(分類試行 8 問、
スクリプト試行 8 問)であっ
分類するようになるからである。これがクロス
た。分類試行とスクリプト試行の各 8 問中 4 問
分類である。例えば、われわれはパンを穀物の
は正しい三者関係であり、残りの 4 問は誤った
分類カテゴリーと朝食のスクリプトカテゴリー
三者関係が混ぜてある。誤った三者関係は、正
に同時に分類する。大人については、食べ物の
しい三者関係の解答を信頼できるものにするた
次元の項目を分類カテゴリーとスクリプトカテ
めのものである。正しい三者関係は、すべて同
ゴリーに無意識に分類するだけでなく(Ross
じ カ テ ゴ リ ー の 同 水 準 の 項 目 で 構 成 し た。
& Murphy, 1999)、分類カテゴリーや主題カテ
Table 1 上に*で示したものが正しい三者関係
ゴリーのような同じ項目をよく含むカテゴリー
である。実験の前に実験者が行った教示は、
「こ
を無意識に形成する(Nguyen, 2007)ことが明
れから 3 つの写真
(あるいは絵)
が書かれたカー
らかとなっている。一方幼児については、4 歳
ドを 1 枚ずつ見せます。私(パペット)はあな
児が食品の次元における項目をクロス分類する
た(被験者)にカードの中に描かれている 3 つ
ことが出来ること、2 歳までに様々な次元の三
の写真(あるいは絵)がすべて仲間かどうか聞
者関係についてクロス分類することが出来るこ
きます。
あなたがすべて仲間だとおもったら
『は
と が 明 ら か と な っ た(Nguyen & Murphy,
い』と答えてください。すべて仲間ではないと
2003; Nguyen, 2007)。しかし、様々な次元にお
思ったら『いいえ』と答えてください」という
ける項目のクロス分類能力についてはまだ検討
ものであった。次に練習試行に入り、実験者は
されておらず、また三者関係についてのクロス
「桜・ばら・朝顔」の三者関係のカードを提示し、
分 類 も 不 十 分 な ま ま で あ る。 す な わ ち、
パペットを用いながら、
「これは、桜、ばら、
幼児の概念化における非階層的カテゴリーとクロス分類の発達的特徴
朝顔です。この 3 つはすべて仲間ですか」と尋
[予備実験 2 5 歳児における非階層的カテゴ
ねた。被験者の解答の正誤にかかわらず、実験
リー化能力とクロス分類能力の検討]
者は必ず「桜、ばら、朝顔はすべてはなです。
だからこの 3 つは仲間です」というフィード
5 歳児における非階層的カテゴリー化能力と
クロス分類能力を検討するため、
5 歳児 14 名
(男
バックを与えた。なお、3 つの花の色はそれぞ
女各 7 名)を被験者とし、予備実験 1 で用いた
れ異なっていた。練習試行の 2 問目は「ほうき・
イラスト体裁の三者関係カードとパペットを用
ちりとり・やしの木」であり、解答の正誤にか
い、
予備実験 1 と同様の手続きで実験を行った。
かわらず「ほうきとちりとりは掃除のときに使
分類カテゴリーとスクリプトカテゴリーの非階
います。しかし、やしの木は掃除のときには使
層 的 カ テ ゴ リ ー 化 能 力 の 有 無 の 判 断 は、
いません。だからこの 3 つは仲間ではありませ
Nguyen(2007) に な ら い、 チ ャ ン ス レ ベ ル
ん」という正しいフィードバックを与えた。こ
50%で行った。50%以上であれば非階層的カテ
の後、本試行に入ったが、フィードバックは与
ゴリー化能力があり、50%以下であれば非階層
えなかった。本試行の順序については、偏りが
的カテゴリー化能力はないと判断した。
これは、
ないようカウンターバランスを施した。すべて
各カテゴリーについて正答と誤答の 2 つが予想
の三者関係の正答数は、写真体裁で男児 13 問、
さ れ る か ら で あ る。 ク ロ ス 分 類 の 判 断 は、
女児 9 問であり、イラスト体裁で男児 11 問、
Nguyen(2007) に な ら い、 チ ャ ン ス レ ベ ル
女児 14 問であった。全体としてはイラスト体
25%で行った。
裁の成績がわずかに良かった。正しい三者関係
すべての三者関係に注目したとき、分類試行
では、写真体裁で男児 5 問、女児 3 問であり、
の平均正答数は 8 問中男児 6.6 問、女児 5.1 問
イラスト体裁で男児 1 問、女児 8 問であった。
であり、スクリプト試行の平均正答数は 8 問中
男児は写真体裁の正答数が多く、女児はイラス
男児 6.1 問、女児 5.7 問であった。チャンスレ
ト体裁の正答数が多かった。全体としては、イ
ベル 50%は 4 問である。正しい三者関係に注
ラスト体裁の方が成績が良かった。従って、本
目したとき、分類試行の平均正答数は 4 問中男
実験ではイラスト体裁を用いることとした。男
児 2.9 問、女児 1.3 問であり、スクリプト試行
児と女児の成績の差については、予備実験 2 で
の平均正答数は男児 2.4 問、
女児 3.2 問であった。
も検討することとした。
チャンスレベル 50%は 2 問である。性とカテ
ゴリーの二要因分散分析の結果、性の主効果に
有 意 な 傾 向 が 認 め ら れ た(F=3.09, df=1/12,
Table 1 非階層的カテゴリーの三者関係
分類試行
スクリプト試行
(分類カテゴリーの三者関係)
(スクリプトカテゴリーの三者関係)
ターゲット
次元
A
B
ターゲット
次元
C
D
①電車
乗り物
消防車
縄跳び
①電車
学校
ランドセル
シャンプー
②パジャマ
服
セーター 靴下
②パジャマ
③ゴム製のアヒル おもちゃ パズル
学校
就寝
毛布
枕
③ゴム製のアヒル 入浴
石鹸
袋
④看護師
人物
お父さん 飛行機
④看護師
診察
絆創膏
ノート
⑤ケーキ
食べ物
ハンバーガー チーズ
⑤ケーキ
誕生日
プレゼント
ろうそく
⑥お店
建物
病院
警察官
⑥お店
買い物
カート
医者
⑦食卓
家具
ベッド
ソファー ⑦食卓
食事
皿
箸
⑧トナカイ
動物
象
犬
クリスマス サンタクロース ツリー
注)下線部は、正しい三者関係を示す。
⑧トナカイ
児 玉 典 子・伊 藤 あずさ
p<.10)。正しい三者関係についてクロス分類を
行ったところ、平均正答数は 4 問中男児 1.7 問、
実験器具:
予備実験 1、2 と同様、3 者関係のイラスト
女児 0.6 問であった。チャンスレベル 25%は 1
とパペットを用いた。イラストは、予備実験の
問である。クロス分類できたか否かについて性
結果をふまえ、
「バラ」のイラストを黄色に、
2
別に関するχ 検定を行ったところ、有意な傾
パジャマのイラストを上下同柄に変更したもの
向が認められた(χ2=2.8, df=1, p<.10)。
を用いた。
これらの結果は、女児のクロス分類を除き、
男児も女児もチャンスレベルを上回っており、
パペットへの反応:
パペットの使用が子どもに及ぼす効果を検討
5 歳児は非階層的カテゴリーの三者関係を分類
するため、子どもの反応を正反応と負反応に分
カテゴリーとスクリプトカテゴリーに関して理
類して記録した。正反応とは、子どもがパペッ
解することができることを示している。また、
ト提示時に肯定的な反応を示したものであっ
クロス分類については、男児はクロス分類でき
た。例えば、笑顔になる、歓声をあげる、撫で
るが女児はそこまでには至らないことも分か
ようとするなどの行動である。負反応とは、子
る。このことは、先行研究が示した結果と比較
どもがパペット提示時に否定的な反応を示した
して、より複雑なカテゴリー理解能力を 5 歳児
ものであった。例えば、表情が変わらない、パ
が持っていることを示唆している。したがって、
ペットへの関心を示さないなどの行動である。
本実験では 5 歳児より年少の幼児における非階
教示文:
層的カテゴリーか能力とクロス分類能力の検討
を行うことが適切であろう。
実験の前に実験者が以下の教示を行った。
「こ
れから 3 つの絵が書かれたカードを 1 枚ずつ見
予備実験 2 では、さらなる改善点が明らかと
せます。私(パペット)はあなた(被験者)に
なった。それは、教示文に使用した言葉とイラ
カードの中に描かれている 3 つの絵がすべて友
ストに関することである。教示文については「仲
だちかどうか聞きます。あなたがすべて友だち
間」という言葉を使用したが、これは幼児にとっ
だとおもったら『はい』と答えてください。す
て親しみのあまりない難しい言葉であった。そ
べて友だちではないと思ったら『いいえ』と答
れよりも園内でよく使用されている「友だち」
えてください」
を本実験では用いた方が良いであろう。イラス
手続き:
トに関しては、練習試行の「桜・バラ・朝顔」
まず、実験者が教示を与えた後、練習試行を
の課題において「桜」のピンクと「バラ」の赤
行った。練習試行 1 では、実験者は「桜・ばら・
を同系色としてカテゴリー化した被験者が 1 名
朝顔」の三者関係のカードを提示し、パペット
見られた。このような混同がおこらないように
を用いながら、
「これは、桜、ばら、朝顔です。
するため、本実験では「バラ」のイラストを赤
この 3 つはすべて友だちですか」と尋ねた。被
から黄色に変更することとした。また、パジャ
験者の解答の正誤にかかわらず、実験者は必ず
マを見た被験者が「あまりパジャマらしくない」
「桜、ばら、朝顔はすべてはなです。だからこ
と発言したため、本実験においては、より親し
の 3 つは友だちです」というフィードバックを
みのある上下同柄で描かれたイラストを採用す
与えた。練習試行 2 では、
「ほうき・ちりとり・
ることとした。
やしの木」のカードを用い、解答の正誤にかか
わらず「ほうきとちりとりは掃除のときに使い
[本実験の方法]
被験者:
ます。しかし、やしの木は掃除のときには使い
ません。だからこの 3 つは友だちではありませ
3 歳 児 20 名( 男 児 10 名、 女 児 10 名 ) と 4
ん」という正しいフィードバックを与えた。こ
歳児 20 名(男児 10 名、女児 10 名)を被験者
の後、16 問の本試行に入ったが、フィードバッ
とした。3 歳児の平均年齢は 3.75 歳、年齢幅 3.53
クは与えなかった。16 問の内訳は、予備実験
歳~ 3.98 歳、4 歳児の平均年齢は 4.45 歳、年
と同様分類試行 8 問、
スクリプト試行 8 問であっ
齢幅 4.03 歳~ 4.91 歳、であった。
た。分類試行とスクリプト試行の各 8 問中 4 問
幼児の概念化における非階層的カテゴリーとクロス分類の発達的特徴
結 果
が正しい三者関係であった。本試行の順序につ
いては、偏りがないようカウンターバランスを
1 .パペットに対する反応
施した。
統計的検定:
パペットに対する反応は非常に良かった。正
すべての三者関係と正しい三者関係につい
反応は、3 歳男児では 9 人、3 歳女児では 10 人、
て、年齢、カテゴリーの種類、性について繰り
4 歳児男児では 7 人、4 歳女児では 8 人であった。
返しのある 3 要因の分散分析を、性差が認めら
つまり、性別あるいは年齢にかかわらず、大部
れなかった場合には年齢とカテゴリーの種類に
分の被験者がパペットに肯定的な反応を示した。
ついて 2 要因の分散分析を行った。分類カテゴ
2 .成績の高い被験者と低い被験者の比較
リーとスクリプトカテゴリーについては、項目
をクロス分類し、年齢による差が認められるか
すべての三者関係と正しい三者関係に関し
2
どうかχ 検定を行った。
て、年齢、性別ごとに各試行の正答数とクロス
分類数を集計し、その平均正答数を Table 2 ~
Table 5 に示した。成績の高低に関する判断基
Table 2 3 歳男児の正答数
全ての三者関係
正しい三者関係
被験者
年齢
分類
スクリプト
分類
スクリプト
クロス分類
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
3.98
3.96
3.90
3.88
3.61
3.72
3.77
3.53
3.56
3.60
3
5
6
4
1
3
2
2
0
1
0
4
5
3
1
4
3
5
2
0
1
1
2
0
0
0
0
2
0
0
0
1
1
0
0
1
1
1
1
0
0
0
1
0
0
0
0
1
0
0
平均
3.75
2.7
2.7
0.6
0.6
0.2
Table 3 3 歳女児の正答数
全ての三者関係
正しい三者関係
被験者
年齢
分類
スクリプト
分類
スクリプト
クロス分類
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
3.87
3.82
3.81
3.92
3.81
3.74
3.58
3.62
3.68
3.77
0
2
3
5
4
4
3
2
4
3
0
5
4
5
4
4
4
3
2
2
0
0
2
1
0
0
1
0
1
0
0
1
1
1
0
0
2
1
0
1
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
平均
3.76
3.0
3.3
0.5
0.7
0.1
児 玉 典 子・伊 藤 あずさ
Table 4 4 歳男児の正答数
全ての三者関係
正しい三者関係
被験者
年齢
分類
スクリプト
分類
スクリプト
クロス分類
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
4.85
4.79
4.52
4.58
4.31
4.23
4.51
4.46
4.03
4.10
4
7
7
4
4
7
7
6
4
5
4
8
3
4
4
7
7
7
4
4
0
4
4
0
1
3
3
2
0
1
0
4
1
0
2
4
3
3
0
0
0
4
1
0
1
3
2
1
0
0
平均
4.38
5.5
5.2
1.8
1.7
1.2
Table 5 4 歳女児の正答数
全ての三者関係
正しい三者関係
被験者
年齢
分類
スクリプト
分類
スクリプト
クロス分類
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
4.78
4.91
4.68
4.81
4.21
4.21
4.31
4.68
4.24
4.32
5
8
5
6
1
8
2
7
4
7
4
8
6
5
1
7
2
7
3
7
1
4
1
2
0
4
0
3
4
3
0
4
2
1
1
3
0
3
3
3
0
4
1
0
0
3
0
3
3
2
平均
3.76
5.3
5.0
2.2
2.0
1.6
準は、正しい三者関係、クロス分類、すべての
の 正 答 数 は、3 歳 男 児 0 問、3 歳 女 児 0 問、4
三者関係の順に、成績の正答数によった。
歳男児 4 問、4 歳女児 2 問であった。つまり、
すべての三者関係に注目したとき、かなりの
成績の高低に関しては、分類試行において正答
個人差が現れた。そこで、各年齢と性別につい
数で 3 問以上の差が見られ、スクリプト試行に
て、最も成績の高い子どもと最も成績の低い子
おいては正答数 4 問以上の差が見られた。しか
どもとを比較すると、すべての三者関係に注目
し、各年齢と性別に関しては、分類試行とスク
したとき、分類試行において最も成績の高かっ
リプト試行の間にそれほど大きな差は見られな
た子どもの正答数は、3 歳男児 6 問、3 歳女児
かった。
3 問、4 歳 男 児 7 問、4 歳 女 児 8 問 で あ っ た。
正しい三者関係に注目したとき、分類試行に
一方、最も成績の低い子どもの正答数は、3 歳
おいて最も成績の高かった子どもの正答数は、
男 児 1 問、3 歳 女 児 0 問、4 歳 男 児 4 問、4 歳
3 歳男児 2 問、3 歳女児 1 問、4 歳男児 4 問、4
女児 2 問であった。また、スクリプト試行にお
歳女児 4 問であった。一方、最も成績の低い子
いて最も成績の高かった子どもの正答数は、3
どもの正答数は、3 歳男児、3 歳女児、4 歳男児、
歳 男 児 5 問、3 歳 女 児 4 問、4 歳 男 児 8 問、4
4 歳女児ともすべて 0 問であった。また、スク
歳女児 8 問であり、最も成績の低かった子ども
リプト試行において最も成績の高かった子ども
幼児の概念化における非階層的カテゴリーとクロス分類の発達的特徴
の 正 答 数 は、3 歳 男 児 1 問、3 歳 女 児 2 問、4
三者関係に注目すると、
平均正答数は低くなり、
歳男児 4 問、4 歳女児 4 問であり、最も成績の
分類カテゴリーについては 4 問中 0.6 問と 0.5
低かった子どもの正答数は、3 歳男児、3 歳女児、
問、スクリプトカテゴリーについては 4 問中 0.6
4 歳男児、4 歳女児ともすべて 0 問であった。
問と 0.7 問であった。クロス分類の平均正答数
つまり、各年齢と性別にかかわらず、成績の低
も 0.2 問と 0.1 問と低く、ほとんどの被験者は
い子どもは正答することができなかった。また、
クロス分類ができなかった。
分類試行とスクリプト試行の成績の間には大き
な差は見られなかった。
以上の結果から、すべての三者関係に注目し
一方、4 歳男児と 4 歳女児では、すべての三
者関係に注目したとき、平均正答数は分類カテ
ゴリーについては 8 問中 5.5 問と 5.3 問であり、
たときと正しい三者関係に注目したとき、成績
スクリプトカテゴリーについては 8 問中 5.2 問
の高い子どもは正しい三者関係と正しくない三
と 5.0 問であった。正しい三者関係に注目する
者関係の両方の成績が高かった。しかし、成績
と、
分類カテゴリーについては 4 問中 1.8 問と 2.2
の低い子どもは、正しくない三者関係の成績の
問、スクリプトカテゴリーについては 4 問中 1.7
みが高く正しい三者関係の成績は低かった。つ
問と 2.0 問であった。クロス分類の平均正答数
まり、正しい三者関係が成績の高低に大きな影
は 1.2 問と 1.6 問であった。
響を及ぼしていた。
性差が認められなかったため、年齢とカテゴ
クロス分類において最も成績の高かった子ど
リータイプについての繰り返しのある 2 要因の
もの正答数は、3 歳男児と女児でともに 1 問、
分散分析を行ったところ、年齢の主効果が認め
4 歳男児と女児でともに 3 問であった。最も成
られた(F=18.27, df=1/38, p<.01)
。
績の低かった子どもの正答数は、3 歳男児、3
さらに、各年齢・性別ごとの平均正答率を算
歳女児、4 歳男児、4 歳女児ともに 0 問であり、
出した。すべての三者関係に注目したとき、分
クロス分類はできなかった。
類試行の平均正答率は 3 歳男児 33.6%、3 歳女
児 37.5%、
4 歳男児 68.8%、
4 歳女児 66.3%であっ
3 .非階層的カテゴリーとクロス分類
た。スクリプト試行の平均正答率は 3 歳男児
すべての三者関係に注目したとき、分類カテ
33.6%、3 歳女児 41.6%、4 歳男児 66.3%、4 歳
ゴリーの三者関係を 1 問でも理解(形成)でき
女児 62.5%であった。チャンスレベル 50%と
た 被 験 者 は、3 歳 男 児 9 人、3 歳 女 児 9 人、4
比較すると、分類試行においてもスクリプト試
歳男児 10 人、4 歳女児 10 人であった。また、
行においても、3 歳児はチャンスレベルに満た
スクリプトカテゴリーの三者関係を一つでも理
ないが 4 歳児はチャンスレベル以上の遂行を示
解(形成)できた被験者は、3 歳男児 8 人、3
している。
歳女児 9 人、4 歳男児 10 人、4 歳女児 10 人であっ
た。
正しい三者関係に注目したとき、分類カテゴ
正 し い 三 者 関 係 に つ い て、Nguyen(2007)
にならってクロス分類を行ったところ、クロス
分類の平均正答数は 3 歳男児と女児で 0.2 問と
リーの三者関係を 1 問でも理解(形成)できた
0.1 問、
4 歳男児と女児で 1.2 問と 1.6 問であった。
被験者は、3 歳男児 4 人、3 歳女児 3 人、4 歳
4 歳児は 3 歳児よりも成績が高く、1 問以上ク
男児 7 人、4 歳女児 8 人であった。また、スク
ロス分類をすることができた。クロス分類に成
リプトカテゴリーの三者関係を一つでも理解
功した子どもは、3 歳男児 2 人、3 歳女児 1 人、
(形成)できた被験者は、3 歳男児 6 人、3 歳女
4 歳男児 6 人、4 歳女児 6 人であった。3 歳児
児 6 人、4 歳男児 7 人、4 歳女児 8 人であった。
はほとんどクロス分類ができないが、4 歳児は
平均正答数に関しては、すべての三者関係に
半数以上がクロス分類ができた。そこでクロス
注目したとき、3 歳男児と 3 歳女児の分類カテ
分類の成功と失敗を年齢に関してχ2 検定を
ゴリーの平均正答数は 8 問中 2.7 問と 3.0 問で
行ったところ、
年齢が有意であった(χ2 = 8.64,
あり、スクリプトカテゴリーの平均正答数は 8
df=1, p<.01)
。
問中 2.7 問と 3.3 問であった。しかし、正しい
児 玉 典 子・伊 藤 あずさ
考 察
ルに満たなかったが 4 歳児はほぼチャンスレベ
ルの成績を示した。このことは、子どもが様々
1 .パペットの使用
な次元で分類カテゴリーとスクリプトカテゴ
パペットを使用することは、非常に良い結果
リーの非階層的三者関を理解することができる
を生み出した。Crain & Mckee(1985)が指摘
こと、それが 3 歳から 4 歳の間に生じることを
しているように、大人に検査されているという
示している。Nguyen(2007)も同様の結果を
意識を持たずに子どもをリラックスさせること
報告しており、本実験の結果は、それを支持す
ができる点で、効果的な方法である。本実験で
るものである。
は、パペットに対する子どもの肯定的反応が多
いという結果が得られた。このことから、本実
験でのパペットの使用は、子どもをリラックス
4 .幼児の非階層的カテゴリー化能力とクロ
ス分類
させることにより、一層集中して検査に臨むこ
すべての三者関係に注目したとき、カテゴ
とができる環境を整えることを可能にしたと考
リータイプによる非階層的カテゴリー項目には
え ら れ る。 ま た、Roby & Kidd(2008)は、
差 は 認 め ら れ な か っ た。 本 実 験 の 特 徴 は、
Referential Communication 検査において、パ
Nguyen(2007)が 2 つのカテゴリー項目と 1
ペットを使用した子どもの成績は使用しなかっ
つの葛藤するカテゴリー項目を使用したのに対
た子どもの成績よりも良かったことを報告し、
し、すべて同一カテゴリー項目の三者関係を導
パペットの使用が実験者の発問の意味をよりよ
入したことである。
このことは、
同一カテゴリー
く理解させたためであると推測している。これ
項目の関係性の理解を問うよりも、より複雑な
らのことは、パペットの使用が適切な方法であ
カテゴリー化能力の検討を可能にした。
それが、
ることを示している。
正しい三者関係の検討である。
正しい三者関係に注目したとき、3 歳児は
2 .カテゴリーラベルを付与しない条件設定
様々な次元の非階層的カテゴリーを理解するこ
すべての三者関係に注目したとき、ほとんど
とができなかったが、4 歳児はそれよりも成績
の子どもは分類カテゴリーにおいてもスクリプ
が良く、チャンスレベルに達した。また、カテ
トカテゴリーにおいても 1 つ以上のカテゴリー
ゴリータイプによるカテゴリー理解の差は認め
形成ができていた。また、正しい三者関係に注
られなかった。Nguyen & Murphy(2003)は、
目したとき、3 歳では半分近くの子どもが、4
食品の次元の二者関係において 3 歳児と 4 歳児
歳ではほとんどの子どもが 1 つ以上のカテゴ
が分類カテゴリーとスクリプトカテゴリーを理
リーを形成することができていた。このことは、
解できることを示した。これを本実験の結果と
Nguyen(2007)と同様、3 歳児と 4 歳児はカ
合わせて考えると、4 歳児は Nguyen らが示し
テゴリーラベルを付与しなくてもカテゴリーが
たよりも複雑なカテゴリー化能力、すなわち三
形成できることを示すものである。被験者の中
者関係の理解能力を持つということが明らかで
にはカテゴリーを全く形成できなかったものも
ある。
いたが、これはカテゴリーラベルの有無よりも
Nguyen(2007)は、3 歳から 4 歳程度の年
概念の発達の差異によるものだと考えられる。
齢にかけて、幼児が階層的カテゴリーの三者関
係の理解を発達させると報告している。本実験
3 .非階層的カテゴリーの三者関係
すべての三者関係に注目したとき、分類試行
では、3 歳から 4 歳にかけての非階層的カテゴ
リーの理解がすすんだことが明らかとなった。
においてもスクリプト試行においても 3 歳児は
従って、4 歳程度で階層的カテゴリー化能力も
チャンスレベルに満たなかったが 4 歳児はチャ
非階層的カテゴリー化能力も発達すると考えら
ンスレベル以上の成績を示した。正しい三者関
れる。
係に注目したときには、分類試行においてもス
クロス分類については、本実験では、3 歳児
クリプト試行においても 3 歳児はチャンスレベ
に比較して 4 歳児が様々な次元における三者関
幼児の概念化における非階層的カテゴリーとクロス分類の発達的特徴
係をクロス分類できること、非階層的カテゴ
リーの三者関係についても 3 歳から 4 歳の間に
できるようになることを示した。Nguyen(2007)
は、2 歳までに子どもが様々な次元の三者関係
についてクロス分類をすることができること、
この能力は 3 歳から 4 歳で発達することを明ら
かにしている。また、二者関係のクロス分類に
ついては、Nguyen & Murphy(2003)が 4 歳
児で可能であると明らかにしている。これらの
ことから、クロス分類をする能力は 3 歳から 4
歳にかけて大きく発達すると考えられる。
引用文献
Crain, S. & Mckee, C. 1985. The acquisition of
structural restrictions on anaphora. In S.
Berman, J-W. Choe, and J. McDonough(Eds.),
Proceedings of National Education Longitudinal
Study, 16, Gentoo Linus Security Announcements.
University of Massachusetts, Amherst.
児玉典子・中川久美子 2006.3,4 歳児におけるカ
テゴリー化能力の発達的特徴.滋賀大学教育学
部紀要,56,9-17.
Nguyen, S.P. & Murphy, G.L. 2003. An apple is more
than fruit: Cross-classification in children's
concepts. Child Development , 74, 1783-1806.
Nguyen, S.P. 2007. Cross-classification and category
prepresentation in children's concepts.
Developmental Psychology , 43, 719-731.
Ross, B.H. & Murphy, G.L. 1999. Food for thought:
Cross-classification and category organization in
a complex real-world domain. Cognitive
Psychology , 38, 495-553.
Roby, A.C., & Kidd, E. 2007. The referential
communication skills of children with imaginary
companions. Developmental Science , 10, 531-540.