縮約形「てか」「つか」

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「明海日本語」 第 13 号 (2008. 2)
「というか」 の文法化に伴う音韻的変化の一考察
縮約形 「てか」 「つか」 をめぐって
田
辺
和
子
キーワード:文法化, 縮約形, 長母音化, 子音重複, 口語化
はじめに
現在, 若者の間で 「というか」 の縮約形である 「てゆーか」 「っていうか」 「てーか」 「つーか」
「てか」 「つか」 などが頻繁に使われていることは, 一般的に認識されている。 元来, 「というか」
は, 「A というか B」 というように, A と B を比較する場合に使われ, したがって, A と B の品詞
は同一で, 発話中または句を率いる表現として, 文中で使用されてきた。 しかし, ここ約 10 年の
間に, この 「というか」 は文法化し(1), 上で述べた ‘A’ も ‘B’ も伴わずに 「というか (または, そ
の縮約形)」 単独で文と文とを結ぶ接続詞のように使われ出したのである。 さらには, 発話を始め
るとき, 聞き手の注意を促す目的で使う談話指標 (discourse marker), hedge や filler とよばれ
る緩衝語 (mitigation) としての機能を果たすようにまでに変化した。 本稿では, 「というか」 の
縮約形がつくられる過程の音韻的変化を分析した。
1. 文法化 (Grammaticalization) と音韻化 (Phonologization)
文法化というのは 「ある語が辞書的な意味を失いつつも (意味の漂白 bleaching), その反面に
おいて統語的機能を強化する」 ことを意味する。 この文法化過程を最初に述べたのはフランスの比
較言語学者 Antoine Meillet であるが, ここ 20 年, 研究の中心となってきたのが Traugott
(1982, 2005) や Lehmann (1985, 1995) である。
日本においては, 秋元 (2002) が, 詳しく文法化のメカニズムについて説明している。 秋元
(ibid.: 19) は, 動詞が文法標識になる文法化過程を以下の 4 つの連鎖に段階化している:
非意味化 (desemanticization)
脱範疇化 (decategorialization)
接語化 (cliticization)
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侵食 (erosion)
さらに, 侵食を次の三段階に分けている。
Ⅰ. 動詞が十分な音韻的形式を持っている。
Ⅱ. 動詞の音韻的実質が侵食される傾向にある。
Ⅲ. 動詞が独自のトーンやストレスを失うようになる。
英語においてよく挙げられる例としては, be + going + to の going が [gnna] と発音され
る例である。 本論文では, 上記の侵食の段階Ⅱ.Ⅲ.に 「と+いう+か」 の縮約形創生の段階をあて
はめ, 考察する。 引用機能語 「と」 と動詞 「言う」 とがどのように音韻的変化をとげるか検証する
ことを目的とする。
本研究は, 当初は, 「てーか」 の文頭で使われる談話指標としての機能に着目して分析を始めた。
「ていうか」 の談話機能については, すでに Lauwereyns (2000), メイナード泉子 (2004), マグ
ロイン花岡 (2007) によって検証されてきたが, いずれの論文も語用論的機能分析を中心に論じら
れてきた。 本研究では, インターネット上のコミュニケーションの中での 「というか」 の文法化を
考察していたが, 分析を進めるにつれて 「というか」 の文法化のヴァリエーションは多種多様であ
り, しかも音韻的にも興味深い変化を伴っていることを発見した。 そこで, 文法化の分類, 段階付
け, 順序立ての根拠を正確に打ち立てる上でも, 現段階で音韻論的分析が必要不可欠であるという
認識を得た。 このような理由で本論文では 「というか」 の文法化に伴う音韻論的変化の考察を以下
のように行なったのである。
2. 分析の対象と方法
先の項でも述べたように, 本研究では対象を Internet Relay Talk に絞った。 これは, 本研究の
目的がインターネット上の一種の社会方言を形成しているのではないかという仮説に立ち, インター
ネット上に繰り広げられるドメインやブログの世界をスピーチ・コミュニティーとしてとらえ, そ
の中での言語変化を検証することにあるからである。
例文の探し方は, Yahoo 検索機能を使用した。 また特に言語的特長を明確に持っているドメイ
ンとして 「2 ちゃんねる」, 及びブログ 「ギャル革命」 (http://blog.livedoor.jp/sifow) (藤井志
穂) は, 本文から該当部分を秀丸エディターのコンピュータソフトにより抜き出した。
3. 「というか」 の文法化の過程
Hopper and Traugott (1993: 7) は, 文法化過程を
content item grammatical word clitic inflectional affix
と説明している。 つまり, それまで文法の一部で無かった形が, 歴史的変化の中で文法体系に組み
込まれ, さらに時間を経るとその単位を小さくしていく過程である。
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「というか」 の文法化に伴う音韻的変化の一考察
「というか」 においては, 文法化の過程は, 以下のように大別できる。 ここでは 「A というか B」
という形を基準に, A と B の有無と構文論的・語用論的機能を基準に分類してみた。
第一段階
複合助詞表現 「というか」
‘A’ というか ‘B’
A と B は同一品詞である。
例 1 :正直言って, まだまだ使いづらい。 というか, コンセプトを具現化する上で論理矛盾がま
だまだ多く, サービスとしてちゃんと成立していない。
http://blogs.itmedia.co.jp/speedfed/2007/05/google feedburne-f352.html
[2007/12/03 接続]
第二段階
従属節表現 「ていうか」 「ってか」 「つうか」
A と B は, 示す範囲が広くなり, 同一品詞とは特定できないが, 意味的に譲歩性がある。 (それ
にしても, だけど) 発話の中で使われる。
例 2 :ま, 僕に非はあるんですが。
つうかルミさんは完全に人を舐めてますね。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/4239/noudhi02/
[2007/12/03 接続]
例 3 :BIG になれますかしらねぇ∼?! ってか, なるつもりですけどっ♪笑)
http://blog.livedoor.jp/sifow/archives/13356769.html [2006/2/2 接続]
第三段階
会話指標 「つーか」 「ってか」
聞き手への働きかけを目的とした語用論的機能を強める。 A 部分は, 相手の発話に拠るので, 「っ
てか」 から, いきなり発話を始める形をとる。 内容的には聞き手の前提に異議をとなえたり, メタ
言語否定 (内容は認めつつも, 言葉の不適切さなどを指摘すること) を目的とする。
例 4 :>> 847 (847 番の発話に対しての意見という表示)
つーか
植物が知ったバージョンがもともと携帯だったんだろね。
テレビで見たか友達からきいたのかは知らんけど。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/4239/noushi02/
第四段階
[2007/12/02 接続]
フィラー・呼びかけ語的意味 「つーか」 「つか」 「てか」
特に直前の相手の会話の内容をうけるものでなく, いいよどみ (hedge) や ‘間’ をとる役割をす
ることばとして使われる。
例 5 :つーかブラウザー
つーか使っているブラウザーはどれ?
http://tuka.da-te.jp/ [2007/12/03 接続]
ブログのタイトルの最初に使われることがしばしばある。 また, コメントをつける聞き手の前提
となるものもないのに 「つーか」 で始める。
以上のように 「というか」 は, 「A よりか (むしろ) B」 という句表現から, 文法化により主観
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化 (subjectification) を深め, 文中ですでに自分で述べたことに対して, 若干の譲歩的内容を加
えたりする談話的機能を獲得するようになる。 さらには, 間主観化 (intersubjectification) の段
階では, 相手の言ったことについて, メタ言語否定 (マグロイン 2007: 170) の役割を担って, 語
用論化する。 メタ言語否定とは, 「命題に対しての真偽値的・意味論的演算子ではなく, 前言の発
話に対して反対する (異議を唱える, 否認する) ための措置であり, その際否定されるのは (命題
ではなく) 慣習的・会話的含意, 発音, 形態素, スタイル, 使用域などである」 として, マグロイ
ンは, 定義している。
このように主観化が進むにつれて, 語の役割が, 聞き手との関係を良好に保つ目的に次第に移行
し, 統語論的にも文頭に移動して来る。 Traugott (2003: 133) は, 日本の万葉集の中にある 「さ
てもあるがね」 が, 観阿弥の謡曲では間投詞 「さてさて」 として使われている例を挙げている。
4. 縮約化のプロセスにみる音韻的変化 (phonologization)
4.1
「というか (toiuka)」 の音韻的縮約一覧
以下に 「というか」 から 「ていうか」 「てゆうか」 「てゆーか」 「てか」 に至る過程および 「とい
うか」 から 「っていうか」 「ってゆうか」 「ちゅうか」 「つーか」 「つか」 に至る過程を子音と母音に
分解して表してみた。 また, それぞれのモーラ数と含まれる母音の数を示した。
表1
「というか」 縮約過程の音韻変化
変化型
イ
ロ
to
to
i
yu
u
u
(ka)
(ka)
モーラ数
3
3
母音数
3
2
第 2 グループ
イ
ロ
ハ
ニ
te
te
te
te
i
yu
e
u
u
(ka)
(ka)
(ka)
(ka)
3
3
2
1
3
2
1
1
第 3 グループ
イ
ロ
ハ
ニ
t te
t te
t te
t te
i
yu
e
u
u
(ka)
(ka)
(ka)
(ka)
4
4
3
2
3
2
1
1
第 4 グループ
ロ
ホ
ニ
ts
tsu
tsu
yu
u
u
(ka)
(ka)
(ka)
2
2
1
1
1
1
第 5 グループ
ロ
ホ
ニ
t ts
t tsu
t tsu
yu
u
u
(ka)
(ka)
(ka)
3
3
2
1
1
1
第 1 グループ
第 1 グループ
第 3 グループ
第 5 グループ
to- で始まるグループ
tte- で始まるグループ
tts- で始まるグループ
第 2 グループ
第 4 グループ
te- で始まるグループ
ts- で始まるグループ
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「というか」 の文法化に伴う音韻的変化の一考察
4.2
母音における変化の考察
まず, 第 1 から 5 グループ全体を通して考察できる言語変化というのは, 母音の変化と母音数の
減少である。 音韻的には または に変化して, モーラ数と母音の数共に 3 個から最低は 1
個へと減っている。 これは, もともとの形 「というか (t o i u k a)」 において, o i u という 3 個
の母音が連接していたものが, 最終的に第 2 グループでは 「てか (t e k a)」, 第 3 グループでは
「つか (t s u k a)」 となり, e または u の母音ひとつに縮約されているのである。
第 1 グループから第 5 グループ, 各グループ共通して認められる母音の変化は, 口蓋化によって
y を介在させて, 最終的に母音を消滅させることである。 厳密には, 第 2・3 グループで考察でき
るとおり, i u → y u u → e → 無母音という変化である。 つまり, ふたつの母音の連続 i u が狭
母音 (半母音) y による長母音化効果 y u u を経て, 母音 e ひとつとなる。 そして, やがてはその
e も ‘e i u’ として元々 i u の前に存在していた別の e に, 役割が吸収された形で姿を消してしまい,
結局, 最後は母音 i u が完全に縮約され, e のみ残る結果となる。 モーラ数と母音数では, まず長
母音化によってモーラ数は変らずに母音数が減り, 次の段階でモーラ数が減ることでこの現象をあ
らわしている。
の組み合わせに着目して, 分類してみた。 まず, i u はイ型, y u u はロ型, e はハ型, 無
音 (ゼロ) はニ型, u u はホ型とすると, に見られる変化というのは, イ+ロ+ハ+ニ型と,
ロ+ホ+ニ型の二つのいずれかのパターンによって, 無音となって削除されることが明らかになっ
た。
以上の分析をまとめると, 母音変化という点では, 最終的に o i u e と, o i u u の二種類
の母音縮約の結果が考察できた。 前者 は, 奥舌母音から前舌母音への移行で, 前方への移
行, 後者, は, 広母音から狭母音への上方への動きとして認められる。 また, モーラ数・母
音数の減少を伴うことからもわかるとおり, 共に縮約に伴う口の動きやそれに要する労力の軽減化
現象と推察できよう。
4.3
子音における変化の考察
子音における変化としては, 「と」 をともなう縮約形の特徴が考察できる。 Alfonso は 「と」 に
続く言葉の縮約形を以下のように整理している。
TO +
YUU
TO
TO
→
→
CHUU
TTE
YUU
(Alfonso, 1980: 11923)
→ TTE
(Alfonso の記述 CHUU は, 下記の tsyuu の表記と同一のものを意味する)
上記三種の変化様式は, 「とゆうか」 においてはそれぞれ下記の三つの変化形を示唆する。
①
toyuuka →
tsyuuka
(とゆうか)
(ちゅーか)
60
②
toiuka
→
③
toyuuka →
tteiuka
(というか)
(っていうか)
tteka
(とゆうか)
(ってか)
これらの子音における変化において, もっとも特徴的なのは,
1)
t の破擦音化
2)
子音重複 (gemination)
である。 以下にそれぞれの考察を述べてみる。
4.3.1
t の破擦音化
第 4 グループでは, 語頭が閉鎖音 t ではなく, 破擦音 ts で始まっている。 上の変化①
という
か→ちゅうかに当たる変化である。 この t 子音の破擦音化は, それに続く母音においての y u u →
u u → u という変化を誘引している。 そして, 最終的にはこのグループでは 「ちゅう (か)」 が
「つ (か)」 に変るので, モーラ数が 2 から 1 へ減少し, 母音数は 1 である。
4.3.2
子音重複
子音重複というのは, 単子音が重子音になることで, 同じ子音が 2 個連続するのである (下宮他
2 名 1985: 43)。 日本語の場合は, 促音化することを意味するが, 言語によっては, 長音化する場
合もある。 本研究 「というか」 の縮約形においては, この子音重複は, 上記に示した変化②・③の
ように 「て (te)」 の促音形 「って (tte)」 によって現れる。 表 1 では, 第 3・5 グループとして記
された変化である。
第 3 グループは, 第 2 グループの語頭 t がそのまま促音化している。 第 2 も第 3 もそれぞれ独立
して変化を繰り返しているとすると, 促音化が母音変化と直接関係があるこということにはならな
い。 しかし, 現段階で促音化が単なる 「飾りものの要素」 と言い切ることもできない。 なぜなら,
第 4 と 5 グループの混合的変化すなわち,
ちゅうか (tsyuuka) → っちゅうか (ttsyuuka) → つーか (tsuuka) → つか (tsuka)
のように 「ちゅう (か)」 から 「つ (か)」 に変わることに促音化が関与している可能性も考えられ
るからである (那須昭夫氏 (私信) の指摘による, 2007)。
4.3.1 と本項 4.3.2 の考察をふまえて, Alfonso の変化のモデルを組み合わせると, TO YUU →
TTE YUU → CHUU となり, ここでも促音化が拗音化を引き出す効果があるとも考えられる。 し
かし, また, ちゅうか → っちゅうか, という促音が順番として後から付くということも十分考え
られる。
4.3.3
グループ分類と変化過程の順序
第 1 グループから第 5 グループの分類というのは, イ型・ロ型変化のタイプでの分類であって,
変化の順番については, 第 1 から第 5 へと順々に起こるとは限らない。 たとえば, 第 1 グループ
の変化 /t o i u / → /t o y u u/ の後は, 第 2・第 3 グループによる /t e k a / /t t e k a/ への
61
「というか」 の文法化に伴う音韻的変化の一考察
動き, と同時並行的に第 4・第 5 グループによる /tsuyuuka/ をへて, /t s u k a/ /t t s u k a/
への動きがあるとも推察できるのである。 さらに, 前項でも触れたように, t の破擦化と母音の変
化との関連は認められたが, 促音化の縮約への係わり合いが判明していないので, 第 2 と第 3 グルー
プも独立した変化とも考えられる。
ここで注目すべきことは, 一般に撥音・促音は文節の頭の位置に立たないといわれてきたが (前
田 2003: 207), 「ていうか」 の縮約形においては, すべての縮約形に促音で始まる形があり, 実際
に使われている度合いも高いということである。
参考までに, Yahoo ブログ検索にて調べた 「てか」 「ってか」 「つか」 「つーか」 の注目度推移
(2005 年 1 月∼2007 年 12 月, 2007 年 12 月 12 日採取) から数値を抽出し, 筆者がグラフを作成し
た。 このグラフによると, 「てか」 と 「ってか」 との関係, 「つか」 と 「っつか」 との関係が, まっ
たく異なった形を示していることから, 「促音形」 と 「非促音形」 に一定の規則性が伺えない。 し
たがって, 「促音形」 が, 変化過程において 「非促音形」 に先行するのか, 後追いなのか, いまだ
明確な判断は下せない。 このグラフから理解できることはモーラ数も母音数も少ない短縮形 「てか」
「つか」 の使用が急速に増えていることである。 ブログ全体数が増加していることを考慮しなけれ
表2
「てか」 「ってか」 「つか」 「っつか」 「つーか」 の注目度推移 (概数)
2005. 12
2006. 3
2006. 6
2006. 9
2006. 12
2007. 3
2007. 6
てか
2,200
3,800
3,900
4,000
3,950
6,000
5,000
ってか
2,200
3,800
3,900
3,800
3,900
4,800
4,000
つか
5,000
5,100
5,800
6,100
5,000
8,000
7,000
1,000
1,200
1,200
1,200
1,400
1,600
っつか
1,000 以下
つーか
800
(2007 年 12 月 12 日 Yahoo ブログ検索参考)
9,000
8,000
てか
7,000
ってか
6,000
5,000
つか
4,000
っつか
3,000
2,000
つーか
1,000
0
2005. 12 2006. 3
2006. 6
2006. 9 2006. 12 2007. 3
(作成:筆者)
図1
2007. 6
62
ばならないが, 少なくとも簡略化において促音化が 「てか」 「つか」 という最終形に行き着くに当
たって絶対的に経由しなければならない音韻的段階とは判断できかねる(2)。
4.4
促音化の社会言語学的意味
促音化というのは, 江戸・東京弁の特徴である (松村 1980: 29)。 このことから, 促音化の目的
としては, 社会言語学的要素が考えられる。 すなわち, 江戸弁風の加味という若者ことばによる演
出ではないかと思うのである。 促音化させることによって, 庶民性, 日常性を添えることで, 親し
みやすさを演出し, 公 (おおやけ) 性に対抗して, 私的要素・仲間ことば・口語として砕けた雰囲
気を作り上げているのである。 背後には, 隠語的要素として, ある程度の排他性も含まれているだ
ろう。 このような意図によるものとすると, 母音縮約という音韻的変化そのものには, 促音化は大
きく係わり合いがないことになる。 つまり, 促音化の順番は, 言語変化の過程を立証するにはさほ
ど大きな要素ではなく, あらゆる形態において恒常的に起こっている変化と考えられよう。
5. ま と め
本論文では, 「というか」 の文法化に伴う縮約体のバリエーション形成に至る過程を音韻論の視
点から考察し, そのメカニズムを分析して来た。 その現象としての概略は toiuka から 1) teka,
または 2) tsuka と二種の変化型が考察された。 これらは, モーラおよび母音が 3 つから 1 つへと
縮約された形で, 口蓋化による狭母音 y との組み合わせと長母音化により, oiu e, oiu u と
いう変化を導き出している。 また, 子音の変化にみられる現象としては, t ts の破擦化と語頭に
おける子音重複すなわち促音化である。 破擦化は, 口蓋化とのコンビネーションにより母音 u を
誘引する要因となっているが, 促音化は, 口語体らしさを強め, 集団語としての特徴付けのための
社会言語学的な要因が原因と分析した。
謝
辞
本論文の執筆にあたり, 井上史雄教授に貴重なご教示をいただいたことにこの場を借りて深く御礼申し上
げたい。 また, 那須昭夫氏 (筑波大学) のご助言にも心から感謝申し上げる。
〈注〉
(1)
1999 年 (沖裕子) に 「手のひらの言語学・質問 21:若い人が使う 「ていうか」 はどんな言葉ですか」
言語
(2)
Vol. 28, No. 5 の記述がある。
「てか」 「つか」 においては, 不適切な語の混入もあるので, さらなる検証が必要である。
参考文献
秋元実治 (2002)
文法化とイディオム化
ひつじ書房
Alfonso, Anthony (1980) Japanese Language Pattern. Sophia University L. L. Center of Applied Linguistics. Tokyo
「というか」 の文法化に伴う音韻的変化の一考察
遠藤邦基 (1992)
国語表現と音韻現象
新典社
下宮忠雄・川島淳夫・日置孝次郎編 (1985)
橋本進吉 (1953)
国語音韻の研究
63
言語学小辞典
同学社
岩波書店
Hopper, Paul J. & Traugott, Elizabeth Closs (1993) Grammaticalization. Cambridge University Press.
Lauwereyns, Shiauka (2000) Hedges in Japanese spoken discourse: A comparison Between younger and
older speakers (Ph.D. dissertation). Michigan State University.
Lehmann, Christian (1985) “Grammaticalization: synchronic variation and diachronic change”. Lingua e Stile XX. 303318.
(1995) Thouhts on Grammaticalization. Munchen/Newcastle: Lincorn Europe.
前田正人 (2003)
国語音韻論の構想
和泉書院
マグロイン花岡直美 (2007) 「文章の 「ていうか」 とメタ言語否定」 久野・牧野・ストラウス (編)
の諸相
言語学
くろしお出版
松村明 (1980)
江戸語東京語の研究
メイナード泉子 (2004)
森山隆 (1971)
談話言語学
上代国語音韻の研究
東京堂
くろしお出版
桜楓社
Traugott, Elizabeth Closs (1982) “From propositional to textual and expressive meanings: some
semantic pragmatic aspects of grammticalization”. Perspectives on Historical Linguistics, ed. by
Wnfred P. Lehmann and Yakov, Malkiel. 245271. Amsterdam/ Philadelphia: John Benjamins.
(2003) “From subjectification to intersubjectification”. Hickey, Raymond (ed.) Motives for
Language change. Cambridge University Press.