情報番号:01060810 テーマ:顧客データベースの作り方 編著者:服部泰典 1)無秩序な情報の氾濫 情報化が急ピッチで進展し、あらゆる場所で情報があふれるようになってい る。企業でも各部門でさまざまな情報を入手し、個人でもひとりひとりが情報 の収集に躍起になっている。収集した情報をさらにEXCELで加工し、少し でもわかりやすく整理しようと躍起になっているが、膨大な情報はすでに個人 の手におえない状態である。その結果、1件の情報の収集にかなりのコストが かかるにもかかわらず、同じような情報が同時に幾つもの部門にストックされ ている。あるいは必要な情報が他の部門にあるにもかかわらず、情報が見つか らずビジネスチャンスを逃していることもある。 情報がバラバラにストックされていて役に立っていない例として、顧客情報 がその最たるものである。A社の経理部門では、B社からの請求が毎月7通も 届くと言う。A社ではB社の7つの部門と取引をしているからである。しかし B社への支払総額をB社経理部門に問い合わせると、経理部門では返事ができ ないそうである。このような状態では顧客管理どころの話ではない。早急に全 社ベースの顧客データベース(販売管理システム)を構築する必要がある。 2)顧客データベース構築の手順と留意点 ① 企業内における顧客情報の位置付けを明らかにする 多くの企業では会計システムを軸に全社の情報システムを構築している。会 計システムでは、データを顧客ベースで捉える必要がないため、顧客ごとのデ ータまで管理できていないケースが多い。したがって会計システムを軸に顧客 管理システムを構築することはできない。顧客管理を目的とするなら別途新た な情報システムを構築する必要がある。 ただ顧客データベースと言っても管理レベルはさまざまである。請求書の統 一なら全社ベースの販売管理システムを導入するだけで十分であるが、顧客の 細かい属性情報や顧客との接触情報などまで記録しようとすると販売管理と は別に情報系のシステムを構築する必要がある。まずは自社でどのレベルで顧 客情報を管理するのか、位置付けをはっきりさせる必要がある。 ② 情報の利用目的を明らかにする 情報は単に「集める」「蓄積する」だけではまったく意味がない。「活用す る」ことで初めて顧客満足に結びつけることができ、業績にも貢献する。しか し活用の方法は部門によって違うことも多い。例えば営業部門では個別顧客の 情報が必要だが、開発部門ではさまざまなセグメントで分類した属性情報が必 *この情報の無断コピーを禁じます。 (株)経営ソフトリサーチ・レファレンス事業部 1 要であるということもある。システムを構築するにあたっては、まず各部門で 顧客情報をどのように利用するのか、目的を明らかにする必要がある。 ③必要な情報の範囲を設定する システムを構築する時、「とりあえず何でも貯めておこう。もしかして必要 になるかもしれない」と言う姿勢では、データベースは膨大な大きさになる。 しかも必要でもない情報を集めるのにコストも無駄にかかることになる。目的 を決めたら、その目的を達成するにはどういったデータ項目が必要かを十分吟 味し、必要な範囲の情報だけを蓄積するようにすべきである。 ④情報の収集方法を決める 利用目的、情報の範囲が決まってくれば、必要な情報をどのように集められ るかもおのずと決まってくる。営業マンの人的要素で集める、アンケートで集 める、イベントで集めるなど収集の方法は多岐にわたる。ただ売上情報と属性 情報を対応させるには、両者を結びつける手段が必要である。小売業、サービ ス業であれば会員カードなどを使う。 ⑤情報の管理方法を確定する 顧客から集めた情報を誰がどのように管理するかも決めておく必要がある。 特定の部署で一括して管理するのか、部門でもデータの更新ができるようにす るのか。データ項目ごとにどの部門(あるいは誰が)どこまで更新・参照でき るのかを決めておく必要がある。特に平成17年4月から施行された個人情報 保護法の関係もあるので、特定の個人を参照する場合、どのデータ項目にアク セスできるか、誰がアクセスできるのかなどアクセス権を細かく設定し、情報 が漏洩しないように十分注意を払わなければならない。 ⑥情報の整理・分析方法を確定する。 単純に個々の情報を分析・抽出するだけでよいのか、それともデータ項目を クロスさせて抽出するのか(例えばAと言う商品を購入した20代の女性を抽 出するなど)などにより導き出される成果は異なってくる。そこでデータを整 理・分析・加工する方法をあらかじめ検討しておく必要がある。必要なデータ を抽出できるようデータベースを構築する必要があるからである。 ⑦情報の活用方法を検討しておく。 「目的」とも絡むが顧客データベースをどのように活用するかもあらかじめ 考えておく必要がある。目的に沿った活用ができるようデータベースを構築す る必要があるからである。 ⑧システム発想で顧客データベースを検討する。 顧客情報はあらゆる部門とかかわりを持つ。商品開発・生産部門・物流部門・ 営業部門・マーケティングなど必要な情報のレベルは違うが、どの部門でも顧 客の動向・ニーズは最大の関心事である。また商品情報、営業情報、物流情報 などは顧客データと関連付けできるようにしておけばデータの価値は何倍に も増す。システム的な発想で顧客データを活用できるようにデータベースを構 築する必要がある。 *この情報の無断コピーを禁じます。 (株)経営ソフトリサーチ・レファレンス事業部 2 ⑨専門部署を確立する。 顧客データの活用方法は非常に多様である。蓄積した情報を100%活用し ている企業はほとんど皆無と言ってよい。顧客データをフルに活用するために は専門部署あるいはプロジェクトチームを作り、そこで目標を与えて顧客デー タの活用方法を開発させるのも一つの方法である。 ⑩あるべき姿をビジュアルな形で作成する システムの構想が固まってくればシステムの青写真をビジュアルな形でま とめる必要がある。ビジュアルな形でわかりやすくまとめることにより、誰で も理解できるようになれば全社的にオーソライズできるからである。 ⑪投資対効果を明らかにする システムの概要がほぼ固まってくれば、投資効率を明らかにしなければなら ない。システムの構築にどれぐらい費用がかかるのか、システムのデータをど のように活用し、それによってどのような効果が期待できるのかを数字で明ら かにするのである。投資に見合う十分な効果が期待できるということになれば、 計画どおりに実行する。もし投資が効果を上回るようであれば、効果の薄い部 分を縮小するよう計画を見直す必要がある。 3)顧客データベース構築の課題と対応策 企業が顧客データベースを構築し、顧客情報を一元管理しようとするとき、 最大の障害となるのが営業担当者の反発である。営業担当者が顧客情報の共有 に積極的になれないのは次のような理由による。 イ)営業担当者が自分の顧客について知っていることを会社に教えると自分の 価値が下がるのではないかと恐れている ロ)顧客データは営業担当者自身の個人資産と考えており、会社には渡したく ない ハ)顧客に関する情報を決まったフォーマットに整理してデータベースに入力 するのは大変だ このような反発に対応し、営業担当者を納得させるには、顧客データを共有 するメリットを十分に説明する必要がある。たとえば顧客データをデータベー スで管理することにより、よりきめ細かなサービスを提供でき、より高い顧客 満足を実現できることなどである。また顧客データの入力に関しては、データ 入力に積極的になるほど高い評価が得られるようにするなど、動機付けの面で 工夫をするのも一つの対応策である。 *この情報の無断コピーを禁じます。 (株)経営ソフトリサーチ・レファレンス事業部 3
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