韓国における協同組合法と共済事業

韓国における協同組合法と共済事業
崔
目
桓碩
次
1.はじめに
2.農協の株式会社化について
3.韓米FTAについて
4.協同組合基本法について
5.おわりに
1.はじめに
韓国では、2012 年に共済事業をめぐって3つの大きな出来事が発生した。1つ目は、3月2日に
農業協同組合(以下、農協)が株式会社に転換したことである。2つ目は、3月 15 日に韓米 FTA が
発効されたことである。3つ目は、12 月1日に協同組合基本法が施行されたことである。
農業協同組合の株式会社への転換により、共済の形態として生損兼営を行ってきた農協共済は、農
協生命保険と農協損害保険にそれぞれ分離され、監督法規も既存の「農業協同組合法」から「保険業
法」に変わった。そして、韓米 FTA の発効により、4大共済ともいわれる農業協同組合共済、水産
業協同組合共済、セマウル金庫共済、信用協同組合共済等は3年以内にソルベンシーマージン比率を
金融監督院に報告しなければならないこととなった。なお、新しい協同組合の誕生という観点から協
同組合基本法が実施され、国が協同組合の創設を積極的に奨励・支援している。
本稿では、3つの現象に関するそれぞれの背景を詳細に紹介し、共済事業をめぐっての相互関連性
について分析した後、今後の方向性について考察したい。
1
2. 農協の株式会社化について
2.1
韓国における農協組織の変遷過程
1)終戦直前の農協組織(1段階)
韓国では、第2次世界大戦後、農協組織の組み立てについて様々な議論が行われた。その中で、
「韓国における農業信用(1)の改善に関する建議」を主張した農業専門家のジョンソン案(2)と「韓国の
協同組合金融立法に関する建議」を主張したクーパー案(3)をめぐって議論し続けた後、クーパー案が
採択され、1958 年に農業銀行(信用事業)と農協(経済事業)が誕生した(4)。
2)従来の農協組織(2段階)
ところが、農協は資金調達能力が不足して事業活動が円滑に行われず、また、農業銀行も農業銀行
法に農協の事業に必要な資金を支援できるように規定したものの、経営の不備等の理由で資金の支援
を断った。このような状況の中で、農業銀行と農協を統合しなければならないという意見が高まり、
1961 年8月 15 日に農協が誕生した(5)。
農協の組織は、図1のように会員組合の下に農協中央会があって、その機関が経済事業、信用事業、
教育支援事業を行っている。経済事業は、農業従事者が安定的に農業を営むことができるように生
産・流通・加工・消費に至るまで様々な支援を行っている。この事業は大きく農業経済部門と畜産経
済部門に分かれており、農産物の販売拡大を通じた農家所得の増大と農業費用の節減のための事業に
注力している。信用事業は、農協の活動に必要な資金と収益を確保し、差別化された農業金融のサー
ビス提供を目的にしている。また、信用事業は銀行の業務以外にも NH カード、NH 保険、相互金融、
外国為替等の様々な金融サービスを提供している。教育支援事業は、農業従事者の権益を代弁し、よ
り豊かな生活のために福祉文化生活を支援している。また、農・畜産関連の新技術・新品種の開発等
(1)
農業信用とは、信用事業のことである。信用事業は農業従事者のための各種事業の推進に必要な資金を提供
し、偶然の事故の対策として生命共済と損害共済事業を実施している。また、農業部門に対する投・融資業務を
行うことにより農業・農村の開発を効率的に支援している。その他に、共済福祉事業として共済奨学金の支給と
共済加入者に無料で健康診断を行うなど様々な医療支援事業を実施している。
(2)
1955 年に駐韓米経済調整室の招待で米国の農業信用および農協専門家であるジョンソン博士が訪問し、1カ
月間の調査後提出した意見書である。その主な内容は、①韓国の農協は組合員である農業従事者たちにより管
理・運営される民主的な組合に改編する、②現在の地方金融組合は単位組合の連合会である郡組合に、各地所は
単位組合に改編する、③市郡組合と単位組合の業務は経済事業と信用事業を兼営する、④各郡組合の連合体とし
て道連合会と中央連合会を設立し、今の金融組合の道連合会は農協の道連合会に編入される、⑤金融組合連合会
は‘韓国農業銀行’に、金融組合とその地所を‘農業組合’という名称の下で地方協同組合に改編し、農業組合
は農業従事者のための購買・販売・信用事業等を取扱う多目的な条件にするという内容であった。キム・ゼヨン
(2007)pp.26-27.
(3)
1956年のフィリピン駐在の米国の農業協同組合の専門家であるクーパーが提出した意見書である。その主な
内容は、組合金融を志向する点においてはジョンソン案と同じであるが、韓国農業銀行法・信用組合法・農業組
合法の3つの案に構成されていて信用組合の独立と協同組織の多元化を目的とした。そして、農業協同組合の組
織体系は、移動組合-農業組合-市郡連合会-中央会の4段階にし、金融組合は信用組合に、金融組合連合会は
農業銀行に改編することを勧告した。そうすることによって、農業銀行は信用組合に貸付し、信用組合は農業組
合、特殊組合および移動組合に対して農業資金を供給することにした。キム・ゼヨン(2007)pp.27-28.
(4)
農協中央会(1963)pp.249-253参照。
(5)
キム・ドニョン(2011)p.4参照。
2
を行って、国内における最大の社会貢献活動を推進している(6)。
図1
農協の組織図
(出典)農協のホームページより作成。
3)株式会社化された農協組織(3段階)
農協は 1961 年に設立され、2000 年には農協と畜産業協同組合、人参業協同組合の統合を通じて、
現在職員が約2万3千人(契約職を含む)に至る組織に成長した(7)。ところが、1986 年から始まった
ウルグアイラウンド(Uruguay Round)通商交渉が 1993 年に妥結し、1995 年には WTO が創設される一
連の過程の中で、農産物の輸入開放に対する農業従事者の不安感が大きくなるとともに、農協が農・
畜産物の流通・販売等の経済事業を怠っているという批判と運営の透明性やコーポレートガバナンス
の欠如といった指摘があり、農協を信用事業(8)と経済事業(9)に分離しようとする主張が出始めた(10)。
信用事業も専門性と効率性が減少し、都市銀行に比べて徐々に競争力が低下していった。そこで、
政府は経済事業と信用事業を活性化し、会員組合と農業従事者の利益を保護する本来の役割を充実し
た組織に変化させるため農協の改革を推進した(11)。その作業が本格化したのは、李明博政権になっ
(6)
『韓国の農協』(2011)pp.10-11参照。
農林水産食品部(2011)p.1参照。
(8)
信用事業とは、農業従事者のための各種事業の推進に必要な資金を提供し、偶然の事故の対策として生命共
済と損害共済事業を実施している。また、農業部門に対する投・融資業務を行うことにより農業・農村の開発を
効率的に支援することである。
(9)
経済事業とは、農業従事者が安定的に農業を営むことができるように生産・流通・加工・消費に至るまで
様々な支援を行うことである。
(10)
キム・ドニョン(2011)p.4参照
(11)
農林水産食品部(2011)p.1参照。
(7)
3
てからであって、2008 年 12 月9日に農協・農業従事者団体・学界等の専門家 11 人で「農協改革委
員会」を構成し、「農協中央会の信・経分離推進方案」という事業構造の改編作業を始めた(12)。そ
の後、様々な審査を受け、2011 年3月に農協法の改正案が議決され、2012 年3月2日付で施行され
た。
図2
再編された後の農協の組織図
(出典)農協のホームページより作成
農協法の改正の主な内容は、①事業分離方式、②経済事業の活性化、③金融事業の競争力の向上、
④名称使用料制度の導入、⑤政府支援、⑥組合選挙制度の改善等が挙げられる(13)。その内、事業分
離方式に関しては、農協中央会の下に2つの持株会社を置く体制(「農協経済持株会社(14)」と「農協
金融持株会社(15)」)に転換された。
このような経緯から、農協共済は農協生命保険と農協損害保険に分離され、組織形態も協同組合か
ら株式会社に変わることになり、保険業法が適用されることになった(16) 。また、その際、保険業法
(12)
同上pp.1-2参照。
同上pp.3-8参照。
(14)
農協経済持株会社は、農・畜産物の販売・流通・加工等の経済事業を担当する。
(15)
農協金融持株会社は、農業・農村の経済に多くの収益をもたらせるよう、7つの金融子会社を持つ。
(16)
新設された農協法の第134条の5(農協生命保険および農協損害保険)によると、①中央会は共済事業を分離
して、生命保険業を営む法人(以下、“農協生命保険”という)と損害保険業を営む法人(以下、“農協損害保険”
という)をそれぞれ設立する。この場合、その事業の分離は「商法」第530条の12による会社の分割とみなし、事
業の分離手続きは「商法」第530条の3第1項、第2項および第4項、第530条の4から第530条の11までを準用
し、「商法」第530条の3によって準用される「商法」第434条の内、“出席した株主の議決権の3分の2以上の
数と発行株式総数の3分の1以上の数”は“代議員過半数の出席と出席した代議員の3分の2以上の賛成”とみ
(13)
4
の適用に関する特例も定められた。これにより、今後、退職年金は5年間販売が禁止され、農業機械
保険を除外した自動車保険商品等は別途の認可が必要となった。そして、既存の共済契約は保険業法
による保険契約とみなし、農協生命保険と農協損害保険がその契約を全部引き受けたものとされた。
また、農協銀行は金融機関保険代理店に登録され、バンカシュランスルール(17)が適用されることと
なった。
2.2
韓国における農協共済の設立と事業推移
1)農協共済の設立経緯
農協は農業銀行と農協が統合された当時、1954 年1月 23 日から家畜保護法に基づいて農業銀行で
取扱った特殊家畜共済と火災共済を引受け、損害共済事業を開始した。その後、1965 年に「生活安
定共済」と「こども希望共済」という商品を販売することによって、生命共済事業も実施されるよう
になった(18)。この時期から農協は、生命共済事業と損害共済事業を兼営することになった。
さらに、1977 年には当時の逓信部(19)が取扱った国民生命保険(20)を引受けた。この国民生命保険は
国民生命保険法に基づいて一般人を対象に事業を行っていたため、農協共済も法的に一般人を対象に
して事業を行うことができるきっかけとなった。ところが、国民生命保険は保険金が少額であり、事
業が零細であったため、事業費が相対的に増加した。そこで農協は新規募集を中断した(21)。
1980 年代は生命共済が大幅に成長した時期である。共済掛金は 1980 年に 518 億ウォンにすぎなか
ったが、1990 年には 10 倍以上の 6,386 億ウォンに到達した。システム的には 1981 年に農協中央会
の組織が2段階になって農協中央会の共済事業の元受取扱が全面中止されたが、1982 年 10 月から農
協中央会が事業規模の拡大を通じた安定的な事業基盤を確保するためにすべての金融店舗において元
受取扱ができるようにした。また、責任準備金の算定方式も契約者に有利であるチルメル方式から純
保険料方式に転換した(22)。
なす。②この法に特別な規定がなければ農協生命保険および農協損害保険については「保険業法」を適用すると
している。
(17)
バンカシュランスルールとは、銀行や証券会社の窓口で保険を販売するとき、特定保険会社の商品割合が2
5%を超えないことと、販売職員を2人以下に制限する規定である(保険業法91条2項、3項、100条1項4号)。
(18)
金在重(2010)p.1、NH農協生命ホームページ参照。
(19)
現在の郵政事業本部の前身で1948年に発足した政府機関である。
(20)
国民生命保険は、1929年に朝鮮総督部により「朝鮮簡易生命保険」という名称で、国民生活の安定と社会の
健全な発展に寄与し、相互扶助という社会政策的機能の遂行の目的に始まった。それを解放後、国民生命保険に
名称を変えたが、当時の不安定な政治・経済・社会的な雰囲気のためその規模は急激に減少した。1945年に日本
から引受けた1,120万件の契約は、1948年末には280万件に、1952年には16万件に急減した。その中で、韓国戦争
が勃発し、保険事業は事実上中断された。1952年12月には国民生命保険事業の全般を規制する基本法として国民
生命保険法および郵便年金法を制定し、保険および年金事業を復活させようとした。1960年以降、会社人のため
の職場保険と短期貯蓄性が強い自立保険を開発するなどの努力により、1971年には国内生命保険のうち9.3%を
占めるようになった。しかし、当時の逓信部の金融事業は資金運用の伸縮性と業務の専門性が欠如されており、
また金利が低かった政策資金に投資しすぎるなど様々な問題点を有していた。したがって、1976年国民生命保険
事業と郵便年金事業を農協に移転した。ジョン・スンヨン(2006)pp.58-59参照。
(21)
このような状況の下で、当時の逓信部は都市・農村間の金融サービスを均等に提供し、国民の生活安定と社
会福祉の増進を図るため、1983年7月から定期保険、特別保証保険、教育保険、養老保険、福祉保険の5種の商
品をもって「郵便局保険事業」を再開した。ジョン・スンヨン(2006)p.59参照。
(22)
『韓国農協論』(2001)pp.312-314参照。
5
農協共済の組織は最初の貯蓄共済部の共済課から 1969 年に共済部に組織改編された。それがさら
に 1995 年には共済事業本部に改編された。1998 年 11 月には共済組織の専門化のために共済保険事
業本部と名称を変更し、2000 年7月1日から共済事業の競争力を確保するために共済保険分社が設
立された(23)。
2)農協共済の事業推移
2000 年から 2010 年までの農協共済における生命共済の実績を生命保険市場と比較したのが表1で
ある。農協の生命共済事業は生命保険市場に比べて 2000 年は 13.8%を占めていたが、徐々に減少し
2010 年には 10.8%となった。特に、2002 年から 2005 年までは生命共済の共済掛金が減少傾向をみ
せているが、その原因は当時の景気の悪化(24)と保険市場における銀行窓販開始にあると考えられる
(25)
。また、同時期の共済金の増加は満期を迎えた共済金の規模が大きかったためである(26)。
表1
区分
農協共済と生命保険市場の実績比較
共済掛金・保険料
共済金・保険金
農協共済
生命保険
共済占有率
農協共済
生命保険
共済占有率
2000
7,137
51,654
13.8
4,521
37,385
12.1
2001
7,205
47,364
15.2
3,350
34,353
9.8
2002
6,760
49,067
13.8
4,254
29,418
14.5
2003
6,180
50,392
12.3
6,035
31,739
19.0
2004
5,623
53,751
10.5
7,647
31,623
24.2
2005
6,426
61,472
10.5
8,596
35,584
24.2
2006
7,094
66,455
10.7
4,834
35,146
13.8
2007
7,309
75,096
9.7
4,752
44,877
10.6
2008
7,739
73,561
10.5
6,441
47,544
13.5
2009
8,007
76,957
10.4
6,997
47,379
14.8
2010
8,963
83,007
10.8
7,054
53,709
13.1
(注)単位:十億ウォン、%
(出典)保険開発院『保険統計年鑑』と生命保険協会(韓国)『統計年報』各号より作成
その反面、生命保険市場は持続的に収入保険料が増加しており生命共済と対照的である。特に、生
命保険市場は、銀行窓販が開始された 2003 年8月から 2007 年にかけて収入保険料が急激に増加した。
(23)
(24)
(25)
(26)
同上pp.312-314参照。
『保険統計年鑑』(2004)
宋貞根(2005)pp.27-40参照。
『保険統計年鑑』(2004)
6
図3
農協共済と生命保険会社の収入保険料の比較
(注)単位:十億ウォン
(出典)保険開発院『保険統計年鑑』と生命保険協会(韓国)『統計年報』各号より作成
3)生命保険市場の再編
①規模の拡大
まず、生命保険市場の規模を把握するとき、郵政事業本部の保険の場合は、国営として行われてい
る機関であるため、民間生命保険と同等に比べることは適当ではないかもしれない。しかし、韓米
FTA により、金融監督委員会の規制を受けるようになった点、そして、民間生命保険会社との競争上
の優位性がなくなり、むしろ、今後、生命保険市場において売れ筋商品ともいわれる変額保険、退職
保険等への新商品販売が禁止された点等を考慮すると、実質的に公正な競争が行われるようになった
と思われる。そこで、本論文では、郵政事業本部の保険も民間保険と同じ市場に入れて検討を行いた
い。
したがって、既存の民間保険市場に郵政事業本部の保険と農協生命が加わることにより、韓国の生
命保険市場の規模は拡大した。2010 年度基準で、再編された生命保険市場は、総資産ベースで、
4,166,519 億ウォンから 4,815,500 億ウォンに約 13%拡大した。
表2 再編された生命保険市場の規模(2010 年度)
総資産
収入保険料
区分
金額
割合
金額
割合
民間生命保険
4,166,519
86.5%
830,074
83.3%
郵政事業本部の保険
318,087
6.6%
69,471
7.0%
農協生命
330,894
6.9%
97,227
9.7%
合計
4,815,500
100%
996,772
100%
7
(注1)単位:億ウォン
(出典)保険開発院『2010 年度 保険統計年鑑』より作成
②競争の促進
郵政事業本部の保険と農協生命という2つのプレーヤーが生命保険市場に加わることにより、生命
保険市場の規模が大きく拡大するとともに、自然にその中のプレーヤー同士の競争は激しくなると思
われる。また、韓米FTAを通じて、米国との間に国境を越えた取引が容易になったことから、米国の
生命保険会社との競争も積極的に展開すると予想される。
表4は韓国の保険市場におけるプレーヤーの数と収入保険料をベースにした保険料割合である。こ
れをみると、国内の生命保険会社数は14社で最も多い。それに郵政事業本部の保険と農協生命が加え
て16社になった。そして、外資系生命保険会社の場合は、合計で9社が韓国の生命保険市場に進出し
ているが、その中でも米国系の生命保険会社が半分以上の5社を占めている。
保険料割合の場合、国内社は最も大きく66.7%を占めている。その次は、農協保険、その他の外資
系、米国系、郵政事業本部の保険の順になっているが、それぞれの差はそれほど大きいものではない。
表3 生命保険会社の数と保険料割合
生命保険会社
区分
数
保険料割合
国内社
14
66.7
米国系
5
8.3
その他の外資系
4
8.9
郵政事業本部の保険
1
7.0
農協生命
1
9.1
合計
25
100
(注1)単位:社、%
(注2)国内社、米国系、外資系は2010年度基準
(注3)農協保険は2012年に組織転換され、それぞれ生命保険会社と損害保険会社を設立
(出典)生命保険協会(韓国)『統計年報』各号より作成
以上のように韓国の生命保険市場の現状をみると、今後、生命保険市場で競争が激しくなる可能性
がある。その一部の根拠として、今回の韓米FTAにより、郵政事業本部の保険は協定発効の2年後に
変額保険、損害保険、退職保険を含む新商品の販売が禁止されることと、農協保険の場合、退職年金
が5年間販売禁止、農業機械保険以外の自動車保険商品等は別途の認可が必要になった。また、農協
銀行は金融機関の保険代理店として登録され、バンカシュランスルールが適用されることとなった。
このような事実から、現在、退職年金保険は特に生命保険分野において注目を浴びている分野であり、
商品の特性上、長期性の商品であるため初期に市場を確保することが非常に重要である。
8
2.3
韓国調査の内容
日本の生協総合研究所における生協共済研究会では、今年から海外の共済事情に関する調査を実施
した。最初の対象国は韓国となり、9月2日(月)から5日(木)まで、韓国における農協の株式会
社化と韓米 FTA が共済事業に与える影響に焦点を当て、韓国の大学教授や実務者と面談し、以上の2
つの現象についてどのような認識をもっているのかインタビューを行った。ここでは、その内容につ
いて紹介したい。
1)農協の株式会社化に関する認識
①農協の株式会社化に関する背景
株式会社化される前の農協は、農協の本来の事業である経済事業は怠っていて、収益が出る信用事
業には力を入れていた。非効率的な農業本体の問題点に合わせて、韓米 FTA のような自由貿易環境が
伸展するにあたって、農協の自律的な改革ではなく、政府による農協の改革が行われた。
本格的に政府による農協の改革が議論されたのは、2008 年 12 月9日に「農協改革委員会」が構成
されて以来である。この農協改革委員で「農協中央会の信・経分離推進方案」という事業構造の改編
作業を始めた。
時期的にみると、韓米 FTA は8回に亘る交渉を通じて、2007 年4月2日にすでに妥結されており、
農協の改革は、韓米 FTA の内容も含めた上で進められたものである。それで、韓米 FTA が 2012 年3
月 15 日に発効される前の同年3月2日に株式会社への組織改編作業が完成した。
②農協生・損保の事業について
それまで生命・損害共済を兼営してきた農協共済は、株式会社に転換されることにより、それぞれ
「農協生命」と「農協損保」に分離された。その中で、保険会社と議論になったのは、バンカシュラ
ンスと商品販売に関する問題であった。農協生命が全国にある 1,162 箇所の地域農協チャネルを通じ
て保険を販売することは、保険会社にとって大きな脅威である。また、農協保険の場合、事業構造上、
既存の保険会社より事業費が小さいため、保険料が安い商品を開発することができる。そのため、農
協保険が新しい商品を開発するとそれも保険会社にとっては大きな脅威になる。それで、バンカシュ
ランスルールの適用と退職年金等の新商品販売の5年間禁止により、農協保険と既存の保険会社の間
でバランスが取れたという認識も存在している。なお、バンカシュランスルールには、25%販売ルー
ルという規制が定められており、他の保険会社は農協の販売チャネルを利用して 75%利益を共有す
ることができるという認識もある。
株式会社に転換して農協生・損保がもっている長所としては、①ブランド価値が高い、②組合員の
組織へのロイヤルティが高い、③低い事業費のため、他の保険会社に比較して価格競争力を持ってい
る等が挙げられている。また、上記のように、5年間はバンカシュランスルールの適用が排除されて
いるため、様々なチャネルを利用して商品が販売できることもメリットとして言われている。ただし、
以前より規制が厳しくなっていることは短所であると論じられている。
9
その他に農協生命の場合、株式会社に転換して1年半経過した現在、既存の 400 名の職員から
1,200 名まで急増した。そのため、コーポレートガバナンスに関する問題も今後の課題である。
2)韓米 FTA が共済事業に与える影響に関する認識
韓米 FTA の内容の中では、共済事業と保険事業の間で、共済事業に競争上の優位性(competitive
advantage)を提供してはならない、実行可能な限り保険事業と同一の規制を適用しなければならな
いと規定している。また、以上のような目的で、金融監督委員会は共済事業に関しても監督権限を駆
使しなければならないこととなっている。実際、韓米 FTA が発効された3年以内に4大共済事業の支
払能力(ソルベンシー・マージン)を金融監督委員会が監督することとなっている。
より重要なのは、共済事業に関する規制の内容は協定文に書いているのみでなく、両国はワーキン
ググループを設置し、常に規制の差益をなくすための作業が進められている点である。たとえば、
2012 年から金融委員会、3大共済(農協は 2012 年から保険会社に転換)および郵便局の担当者がワ
ーキンググループを構成し、2013 年5月9日に郵便局保険および主要共済関連の規制改善案を発表
した。その主な内容は、実行可能な範囲内に、共済営業関連の内部統制、販売チャネルおよび営業規
制、共済商品に関する規制、財務健全性等において保険業法と同一水準の規制を適用するよう各共済
機関の共済監督基準を改正することにした。なお、健全性監督の強化のため、2014 年から毎期決算
完了後、財務健全性指標(RBC)および主要経営実績を金融委員会に提出し、金融委員会と関連部署
との協議の下で監督を行うこととなっている。
3)他の共済事業(3大共済)に関する認識
①水産業協同組合の共済事業について
水産業協同組合の場合、農協中央会と組織構造や機能が類似しているため、農協と同じく株式会社
になる可能性があると予想されている。しかし、共済事業の場合は、規模が小さいため、株式会社は
難しいと言われている。
②セマウル金庫の共済事業について
セマウル金庫は3大共済の中で、組織改編作業を最も積極的に進めている団体である。最近、韓国
のグリーン損害保険会社の引受に財務的投資家としても参加した。その理由は、韓米 FTA による生命
保険と損害保険の組織分離に備えて、生命保険に偏っている共済事業の多角化を通じて新しい収益源
を創出するためである。また、損害保険に関する専門性を確保することができ、保険業(商品開発、
資産運用等)全般に関するシナジー効果を通じて、セマウル金庫が保険市場の支配力(マーケットシ
ェア)を強化するきっかけになる。今後、金融当局の政策決定によって変わる可能性も存在するが、
グーリン損害保険の引受が可能になる時点には、共済事業と合併して子会社として運営する計画であ
る。
10
③信用協同組合の共済事業について
信用協同組合の場合は、規模が小さいため、株式会社への転換可能性は低いという認識が支配的で
あった。
2.4
小括
農協の株式会社化は、内部的な要因と外部的な要因の相互作用によって行われた結果である。すな
わち、組織の非効率的な内部の問題を韓米 FTA のような外部の環境の中で解決しようとする動きとし
ても考えられる。
そこで、農協には、どのようなメリットとデメリットがあるのか。まず、メリットとしては、株式
会社に転換することにより、資金へのアクセスがより柔軟になった。協同組合における今までの資本
へのアクセスは、①組合員からの出資金と、②販売による収益のみであったが、これからは、株式の
取引や再投資等のような方法を利用して資金調達を行うことができる。そして、M&A 等を通じて規模
の拡大が容易になり、海外進出も可能になった。農協の株式会社化は、フランスのアグリコルとオラ
ンダのラボ(Rabo)バンクをモデルにしており、農協組織を世界に広げようとする経営戦略をもって
いる。最後に、外国資本がない純粋な協同組合の資本であるため、競争力が強い。しかも、利益の配
当は組合員への還元を実現する可能性が高いという観点からも、組合員のロイヤルティを高めること
ができる。
その反面、デメリットとしては、組織のアイデンティティの問題がある。韓国の農協の場合、員外
利用に関する制限はなく、準会員という枠組みとして一般人に対しても営業を行ってきたが、今回の
組織改編により、さらに積極的に一般人に対して営業を推進していくと予想される。そうすると、当
然、組合員と一般人との境界がなくなり、組織アイデンティティの問題が発生する可能性がある。
そして、コーポレートガバナンスの問題もある。株式会社になったとはいえ、まだ農協中央会が金
融持株会社の経営を監督・指示する権限を有しているため、農協経済持株会社と農協金融持株会社は
独自的に円滑な経営ができない。さらに、農協金融持株会社の場合は、農林水産部はもちろん、金融
委員会の監督・指示までも受けることとなっているため、意見調節にも問題が発生する可能性が高い。
最後に、「ブランド使用料」の問題である。農協組織は2つの持株会社に分離されたが、農協金融
持株会社は農協経済持株会社を支援するため、巨大な配当金とブランド使用料を農協中央会に支払わ
なければならない。たとえば、2012 年の農協金融持株会社の純利益は 4,726 億ウォンであったが、
そのうち、4,351 億ウォンをブランド使用料として農協中央会に支払った。2012 年は、実際収益が期
待収益に大幅に至らなかったためでもあるが、このような減少が続く場合、農協組織の設立当時と同
じような結果が再び発生する可能性もある。
言い換えると、農協の株式会社化は、新しい農協への転換点であり、持続可能な成長のためには、
農協本来の組織アイデンティティを継承しながら、変化する環境に柔軟に対処していかなければなら
ない。
11
3.韓米 FTA について
3.1
韓米 FTA の経緯
韓米 FTA の経緯は 1989 年まで遡る。初めて韓米 FTA に関する議論が行われたのは、1989 年に
出された米国の国際貿易委員会(USITC)の報告書である「アジア・太平洋地域国家との FTA 締結に
関する検討報告書」の中で、米国における望ましい FTA 対象国家として、韓国、シンガポール、台
湾が選ばれて以来である。その後、1999 年6月に駐韓米国商工会議所(AMCHAM)が当時の大統領で
あったビル・クリントンに韓米 FTA の締結を促す書簡を送ることによって本格化された。それをき
っかけに、両国は長年にわたる事前実務会議を経て、2006 年2月3日に米国のワシントンで正式に
韓米 FTA の協商を宣言した。
協商が始まった後、韓米 FTA は8回に亘る交渉を通じて 2007 年4月2日に妥結された。その後、
国会での批准を経て 2012 年3月 15 日に発効された。
3.2
韓米 FTA における保険と共済分野の内容
韓米 FTA は、総 24 章、付属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲで構成されている。その内、「第 13 章金融サービス」の
ところに保険・共済関連の内容が規定されている。そして、保険・共済関連の内容は、民間保険分野、
国営保険分野、共済分野という大きく3つの分野にまとめることができる。以下でそれぞれの内容に
ついて説明することとしたい。
1)民間保険分野に対する内容
第 13 章金融サービスの中で、保険に関する内容は、大きく6つに分けることができる。それは、
①保険商品およびサービスの提供、②監督の透明性、③自律規制機構、④苦情処理、⑤保険の迅速な
利用可能性、⑥保険ワーキンググループの設置である。
①保険商品およびサービスの提供
各当事国は、内国民待遇を付与する条件に基づいて、相手国の国境間金融サービスの供給者が海上
運送、商業的空港、宇宙ロケット打上げおよび貨物運送、再保険および再々保険といった貿易関連保
険商品の国境間取引ができるように許可した。また、保険コンサルティング、リスク評価、損害査定、
保険計理業務のようなサービスも許可し、そして、保険仲介に関するサービスも提供できるように許
可した。
②監督の透明性
保険を含む金融機関の認可審査期間を従来の 150 日から 120 日に短縮することと、監督規定を改正
する際の意見収斂期間を従来の 20 日から 40 日に拡大した。
③自律規制機構
各当事国は自律規制機構が内国民待遇と最恵国待遇の義務を遵守することを規定している。たとえ
ば、韓国の場合、保険開発院が保険自律規制機関として定められている。ところが、米国については
定められていない。
12
④苦情処理
各当事国は、保険会社のすべての苦情を各保険会社の相対的規模を考慮した上で開示しなければな
らない。その際、苦情指数の比率形態およびレベル形態、または他の合理的な形態のような透明な方
式で提示されなければならない。
⑤保険の迅速な利用可能性
各当事国は、保険サービスを迅速に提供するために、発効後1年以内に、例外目録アクセスに基づ
いた商品届出手続を採択する。また、韓国はその商品が保険業監督規定で定められた基準を充足して
いない場合、金融監督委員会が新保険商品の販売前に事前商品届出を要求する。そして、韓国はすべ
てのバンカシュランス商品について商品届出を要求する。
⑥保険ワーキンググループ
各当事国は、金融サービス監督組織に関連する公務員で構成された保険ワーキンググループを設置
する。このワーキンググループは、透明性、郵政事業本部、保険を販売する分野別協同組合と民間保
険事業者間の同等な競争を保障するための措置、金融監督、政策等を行う。毎年1回会合し、その結
果を共同委員会に報告する。
2)国営保険分野(郵政事業本部の保険)に関する内容
今まで、保険会社とは異なる国営保険という形態で事業を行ってきた郵政事業本部の保険は、米国
との FTA を通じて、民間保険会社に対する競争上の優位性がなくなった。その規制としては、FTA 発
効後、変額保険、損害保険、退職保険等を含む新商品の販売が禁止されるようになった。そして、保
険商品販売の限度額を引き上げる前に金融監督委員会と協議し、金融監督委員会はその引上げ案を公
表し、パブリックコメントを聴取する機会を設けることになった。その他には、FTA 発効後2年以内
に、金融監督委員会は、郵政事業本部が提出する財務上の各種書類を確認し、必要なときに意見を提
出することになった。また、同じく2年以内に、郵政事業本部が行う保険商品の広告について、民間
保険会社と同一の規制を適用することになった。
3)共済分野に関する内容
4大共済といわれる韓国における農業協同組合中央会、水産業協同組合中央会、セマウル金庫連合
会、信用協同組合中央会についても他の民間保険会社との間で共済に競争上の優位性を与えてはなら
ないと規定している。そして、FTA 発効後3年以内に金融監督委員会が4大共済の支払能力(ソルベ
ンシー)を監督することになっている。
13
表4 韓米 FTA における保険・共済分野の主要内容
区
分
民
間
保
険
主要内容
詳細内容・規制事項
条文
保険商品および
サービスの提供
・貿易関連保険商品の国境間取引許可
・保険仲介業に関する国境間取引許可
・保険コンサルティング、リスク評価、損害査定、計理業務の国境
間取引許可
・現地法人や支店を通じた新保険商品およびサービス提供
第 13.5 条、
付属書 13-A
監督透明性
・監督規定を改正するとき、意見収斂期間を 20 日から 40 日に拡大
・認可審査期間を 150 日から 120 日に短縮
自律規制機構
苦情処理
保険の迅速な利
用可能性
保険ワーキング
グループの設置
国
営
保
険
郵政事業本部の
保険
・各当事国は自律規制機構が内国民待遇と最恵国待遇の義務を遵守
すること
・各当事国は、すべての苦情情報について保険会社の相対的規模を
考慮した上で開示
・例外目録アクセスに基づいた商品申告手続を採択(1年以内)
・すべてのバンカシュランス商品について商品申告を要求する。
・各当事国の金融サービス監督組織に関連する公務員で構成
・毎年1回会合し、その結果を共同委員会に報告
・金融監督委員会は、郵政事業本部が提出する財務上の各種書類を
確認し、必要なときに意見を提出(2年以内)
・郵政事業本部が行う保険商品の広告について、民間保険会社と同
一の規制を適用(2年以内)
・変額保険、損害保険、退職保険等を含む新商品の販売禁止
・保険商品販売の限度額を引き上げる前に金融監督委員会と協議
第 13.11 条、
付属書 13-B
第4節
第 13.12 条
付属書 13-B
第5節
付属書 13-B
第9節
付属書 13-C
付属書 13-D、
確認書簡
共
付属書 13-B
4大共済
・支払能力(ソルベンシー)の導入(3年以内)
済
第6節
(注1)公的退職年金制度および法定社会保障制度の一部を構成する活動やサービスに対しては適用されない(第
13.1 条)。しかし、当事国が自国の金融機関に対して公共機関または金融機関間の競争を許可した場合には例外
的に適用される。これにより、韓国の退職年金、米国の民間保険会社が取扱う健康保険と労災保険は規定が適用
される。
(注2)自律規制機構について、韓国は「保険開発院」が定められているが、米国は定められていない。
(注3)韓国における4大共済は、農業協同組合中央会、水産業協同組合中央会、セマウル金庫連合会、信用協同
組合中央会である。
(出典)『韓米 FTA 協定文』、『追加協商合議文』により作成
3.3
最近行われた共済組合の評価について
韓国の「毎日経済新聞」は、2013 年6月 19 日から6月 24 日まで、共済組合に関する評価を連載
した。共済組合に関する評価は初めて行われたものであり、今後、共済組合に対する監督官庁の監督
にも影響を与えると考えられる。ここでは、その内容について紹介したい。
1)評価対象と項目について
評価の対象は、組合員数と資産が大きい 17 団体に選定した。評価は、大学教授4名、研究院2名
(金融研究院、債券研究院)、新聞社1名、債券評価会社代表1名で、合計8名が行った。その他に
国会議員 10 名が諮問委員として参加した。
評価項目は、①意思決定体系の適正性、②資金収支分析および計画の適正性、③資産配分の適正性、
④資産運用管理の効率性、⑤資産運用リスク管理の効率性、⑥資産運用と管理の効率性の6つであっ
た。
14
2)評価結果
評価者8名が評価基準によって 17 団体の評価を行った結果、評価レベル5段階の内、最も優れて
いる「非常に良好」に該当する共済組合は1つもなかった。むしろ、「非常に足りない」として評価
された項目が多く、エンジニアリング共済組合は4つの項目すべてが「非常に足りない」であった。
消防共済組合と建設共済組合は3つの項目が「非常に足りない」であった。教職員共済組合と建設勤
労者共済組合がすべての項目で「良好」と評価され、17 団体の中で最もいい評価を得た。
表5
韓国の共済組合に関する評価
(注)評価レベルは、①非常に良好、②良好、③普通、④足りない、⑤非常に足りない、の順である。
(出典)『毎日経済新聞』(2013.06.19)記事から作成
3)評価に関する意見
評価者8名による、共済組合の評価に関する意見は以下のように大きく4つにまとめることができ
る。
①資産運用に関して専門的な組織がなく、中長期的な資産・負債総合管理(ALM)も行われていない。
②共済市場について開示されている資料がほとんどない。
③現在のような共済事業が続くと貯蓄銀行のような破綻が発生するかもしれない。(韓国の貯蓄銀行
は、一般銀行(都市銀行)より高い金利を顧客に提供するため、リスクが高い不動産に積極的に投資
した。しかし、金融危機以降、不動産市場が不況に陥り、多くの破綻会社が発生した。)
④天下りにより、意思決定システムに問題が多い。
15
3.4
小括
韓米 FTA が共済に与える最も大きな影響は監督の一元化である。今まで、監督官庁が異なることに
より、規制の差が生じ、保険事業と比較して共済事業に優位性が与えられているという認識があり、
これからはそのような競争上の優位性があってはならないというのが 韓米 FTA の内容である。
共済と保険の性質を考えると監督の一元化には違和感が生じるが、韓国の共済の場合、員外利用に
関する制限がなかったことが共済と保険の境界を低くする要因になったと考えられる。
2章でも取り上げたが、今後、韓米 FTA 協定を履行するための「規制改善案」は、共済事業の制度
的側面のみならず、共済の監督方向にも大きな影響を与えるものと予想されている。言い換えると、
今、韓国の共済事業は、これから保険化していくのか、それとも今までの性質を継続していくのか、
という転換点(Turning Point)にある。その中で重要なのは、韓国社会の中で共済事業がもつ役割
をもう一度振り返って、協同組合のアイデンティティを継承していくことである。
4.協同組合基本法について
4.1
法制定の背景
1)新しい経済社会の発展のためのモデルとしての「協同組合」
グローバル金融危機のとき、株式会社に比較して、協同組合は安定的な経営をみせた。UN も協同
組合の経済安定効果および社会統合機能に注目し、各国に協同組合活性化のための法律の整備を勧告
した経緯がある(27)。
2)8つの個別法による協同組合の設立制限
協同組合基本法が制定される前には、8つの個別法に基づいた協同組合が運営されていた。すなわ
ち、韓国では、この個別法の要件を満たさない限り、協同組合を設立することができなかった。
表6
韓国における8つの協同組合法
協同組合法
農業協同組合法
1961 年
監督官庁
農林水産食品部
中小企業協同組合法
1961 年
中小企業庁
山林組合法
1961 年
山林庁
水産業協同組合法
1962 年
農林水産食品部
たばこ生産協同組合法
1963 年
企画財政部
信用協同組合法
1972 年
金融委員会
セマウル金庫法
1982 年
行政安全部
消費者生活協同組合法
1999 年
公正取引委員会
(出典)金
制定年度
應圭(2012)より作成
(27)
2009年UN136号の決議文(“Resolution 64/136. Cooperatives in social development”)で2012年「世界協
同組合の年」とともに関連する法制度の整備を勧告した。
16
4.2
協同組合基本法の内容
1)「協同組合」という新しい「法人格」の導入
今までは、法人を設立するとき、商法上の会社(株式会社等)、民法上の法人(社団法人等)のい
ずれかのみ認められてきた。今回、協同組合基本法を制定することにより、新しい事業形態である
「協同組合」に法人格を与えることができた。
表7
商法上の会社、民法上の社団法人、協同組合の比較
商法
区分
株式会社
有限会社
有限責任会社
事業目的
運営方式
合資会社
利潤の極大化
1株1票
1口1票
1人1票
設立方式
有限責任
規模
大規模
性格
物的結合
無限責任
無限責任
+有限責
任
主に中・小規模
物的・人的結合
民法
協同組合
一般
社会的
社団法人
組合員の実益増進
公益
1人1票
1人1票
届出制
(営利)
届出制
責任範囲
事業例
合名会社
協同組合基本法
人的結合
物的・
人的結合
大企業
集団
中小企業
税務法人
等
(米)ベンチャ
ー、コンサルテ
ィング等
法務法人
等
私募投資
会社等
サムスン
電子(株)
等
税務法人
ハナ等
(米)DreamWorks
Animation LLC
法務法人
ユルチョ
ン等
未来アセ
ット PEF
等
認可制
有限責任
該当なし
小規模+大規模
主に
小規模
人的結合
人的結合
一般経済
活動分野
<営利法人>
認可制
(非営利)
医療協同
組合等
学校、病
院、宗教
団体等
<非営利法人>
<社会的企業>(雇用部認定企業)
(出典)企画財政部(2012)より作成
2)「一般協同組合」と「社会的協同組合」について
「一般協同組合」と「社会的協同組合」との大きな違いは法人格にある。すなわち、一般協同組合
は営利法人である反面、社会的協同組合は非営利法人である。そして、設立の際にも一般協同組合は
市都知事に届け出ることとなっていることに対し、社会的協同組合は企画財政部の認可を受けること
となっている。なお、一般協同組合が行える事業の場合、業種および分野に制限はないが、社会的協
同組合の場合は、公益事業を 40%以上行わなければならない。
17
表8
一般協同組合と社会的協同組合の比較
一般協同組合
法人格
社会的協同組合
営利法人
非営利法人
設立
市都知事に届出制
企画財政部の認可制
事業
業種および分野の制限なし
公益事業 40%以上遂行
・地域社会の再生、住民権益の増進等
・国、自治体からの委託事業
剰余金の 10/100 以上
剰余金の 30/100 以上
配当
配当可能
配当禁止
精算
定款により残余財産処理
非営利法人・国庫等に帰属
法定積立金
(出典)企画財政部(2012)より作成
3)その他の内容
協同組合基本法は、既存の8つの個別法には適用されない。そして、一定の要件を充足する協同組
合の行為について大統領令で定めるところにより、公正取引法の適用例外を規定している(28)。
そして、協同組合は、5人以上の組合員が集まって、市都知事に届け出することにより設立される。
今まで、協同組合を設立するためには、たとえば、地域農協では 1,000 人以上、消費者生協では 300
人以上、信協・セマウル金庫では 100 人以上という規定が設けられていた。金融および保険業を除い
た経済・社会のすべての領域で設立可能であり、組合員の教育・地域社会への寄与等の義務もある。
ただし、社会的協同組合のみ、主な事業以外に付随的な事業として出資金総額(少額貸付は 2/3)の
限度内で“少額貸付および相互扶助”が可能である(第 94 条)。
なお、毎年7月の第一土曜日を「協同組合の日」として定め、商法(総則、商行為、有限責任会社)
および民法(法人)規定を準用することとなっている。
4.3
現在の協同組合の状況
1)設立状況
韓国の企画財政部が 2013 年 10 月 31 日付けで集計した協同組合の設立状況をみると、全体で
2,950 の協同組合設立の申告があり、2,851 の協同組合が運営されている。その中で、一般協同組合
は 2,811/2,750(申告/処理)、社会的協同組合は 127/91、一般協同組合連合会は 11/10、社会
的協同組合連合会は1/0の状況である。
(28)
公正取引法第60条(一定の組合の行為)規定を準用
18
図4
協同組合の設立状況(2013.10.31 基準)
(出典)企画財政部の協同組合ホームページから作成
協同組合の設立推移を月ごとにみると、2013 年1月には、349/225(申告/処理)だったのが、
10 月には、2,950/2,851 まで急増していることがわかる。
図5
協同組合の設立状況(累計)
(出典)企画財政部の協同組合ホームページから作成
2)企画財政部による協同組合の実態調査
韓国の企画財政部は、2013 年 11 月 15 日に協同組合の設立・事業現況、財務状況、政策の活用現
況等に関する「協同組合の実態調査の結果」を発表した。今回の実態調査は、協同組合基本法が施行
された後(2012 年 12 月1日以降)、初めて実施された調査で、2013 年5月を基準とし、協同組合
19
基本法に根拠して設立された 1,209 の協同組合についてアンケート調査を実施した。2013 年7月基
準で、協同組合の理事長 747 名、組合員 609 名、被雇用人 445 名が応えた。
表9
調査の回答率
区分
調査範囲
実際母集団
有効回答数
有効回答率
理事長
1,209
1,057
747
70.7%
組合員
1,205
1,031
609
59.1%
勤労者
1,205
699
445
63.7%
(注)電話が繋がらなかったり、勤労者がいない場合は除外
(出典)企画財政部(2013)より作成
①理事長に関する実態調査について
有効回答数 747 の協同組合を基準として、97.7%の 730 の協同組合が新しく設立された。他の法
人から協同組合に転換したのは、2.3%の9つに過ぎなかった。協同組合の設立準備期間は、約 2.6
カ月であった。業種は、卸売り・小売り業が 28.2%で最も多く、農・水・林業が 14.2%、製造業が
9.1%、教育サービス業が 9.1%、芸術・スポーツおよびレジャー関連サービス業が 6.4%等の順であ
った。
理事長のプロフィールは、専門大学卒業以上が 78.7%、50 代が 39.8%、男性が 79.1%、中小企
業の出身が 26.9%で多数を占めており、団塊世帯が退職の後、協同組合に積極的に参加しているこ
とがわかった。
協同組合の1つ当たりの平均組合員数は 58.7 名であり、1,100 名を超える協同組合7つを除外す
ると平均組合員数は 30.6 名であった。
協同組合の事業環境は悪い方である。月平均給与は、理事長が 177 万ウォン、正規職員が 147 万
ウォン(非正規職員は 114 万ウォン)で非常に低い状況である。このため、職員の募集のとき、低
賃金(49.3%)が最も難しい要因として選択された。しかも、役職員の保険加入率も理事長の場合、
国民年金 14.7%、健康保険 16%等で最も低く、正規職員の場合でも、国民年金 61.1%、健康保険
64.3%の水準であった。
協同組合の財務状況については、2013 年7月基準で、平均資産は約 4,000 万ウォンであり、平均
資産のうち、組合員の出資金は 74%の約 3,000 万ウォンで、資金調達が組合員の出資金に大きく依
存していることがわかった。
②組合員に関する実態調査について
組合員の協同組合への加入は、知り合いからの勧誘が 49.9%で最も多かった。これは、協同組合
の特徴が最も現れたものとして考えられる。その次は、発起人として参加が 15.9%、事業説明会の
参加が 12.5%の順であった。
20
組合員の大多数(99.3%)は、今後も協同組合の一員として参加することを希望していた。その理
由としては、良い事業目的(56.5%)、明るい事業展望(26%)、加入目的の充足(9.1%)の順で
あった。
③被雇用人に関する実態調査
被雇用人の場合、1週間に 40 時間以上勤務する常勤職員が 46.8%であった。1週間の平均勤務時
間は 26.9 時間であった。被雇用人の場合も組合員と同じく、大多数(97.5%)が今後も協同組合に
勤務したいとしている。その理由として、良い事業目的(53.5%)、明るい事業展望(32.9%)、
雇用安定(9.7%)、勤労条件(2.8%)の順であった。
4.4
小括
「協同組合基本法」は様々な形態の少額・小規模の創業を活性化させ、貧困層の経済活動を支援し、
仕事を創出して庶民・地域経済の活性化および両極化の解消のために制定された。
協同組合基本法が施行されて以来 11 カ月経った時点で振り返ってみると、2,851 団体が協同組合
組織として運営されている。5人以上集まれば簡単に協同組合組織を作ることができる条件と、政府
が協同組合を積極的に奨励した結果である。
ところが、上記の実態調査からもわかるように、勤労者の賃金や社会保険加入等の環境はまだ厳し
い状況である。今後、協同組合組織が健全に成長していくためには、持続的に政府による制度的な補
完が必要である。
5.おわりに
本稿では、韓国において 2012 年に発生した農協の株式会社化、韓米 FTA の発効、協同組合基本法
の制定の3つの現象について述べた。この現象が 2012 年に発生した理由として、農協の株式会社化
は韓米 FTA の先制的な対応であったため、韓米 FTA 発効の直前に行われた。そして、協同組合基本法
は、世界協同組合の年と合わせて制定された結果である。すなわち、農協の株式会社化と協同組合基
本法の制定は、外部環境により進められたものである。しかし、農協の株式会社化と協同組合基本法
は、時間的余裕がなかったため、十分な議論が行われず誕生した。その分、制度的にまだ補完すべき
点が多い。
その他に、上記の3つの現象が発生した要素として、「グローバル化」と「市場社会の拡大」があ
る。まず、「グローバル化」の要素として、世界は WTO・FTA のような自由貿易環境の下で、政府か
らの保護・支援は弱まり、企業または個人は独自の力でグローバルな市場の中で競争しなければなら
ない状況になった。激しくなっていく環境の中で勝ち抜くためには、どうすればいいのか。企業とし
ては、効率性・生産性(付加価値)を向上させ、競争力を強める必要がある。そして、個人としては、
21
お互いの力を合わせて結束していく必要があると思われる。この要素が農協の株式会社化と協同組合
基本法の制定の背景にも繋がったと思われる。なお、協同組合基本法の制定には、市民社会の基盤が
脆弱であるという韓国の特性が起因している。8つの個別法以外には協同組合を作ることができない
点、NGO・NPO のような市民社会活動が不在している点、等は協同組合組織が急増した要因にもなっ
たと考えられる。
次に、「市場社会の拡大」は最も根本的な要素である。Michael Sandel(2013)は、30 年間、我々
の社会は「市場経済」から「市場社会」に変化しており(29)、「市場社会」には①不平等の発生、②
本来意味の変質といった問題があると指摘している。すなわち、「金」で買えるものが多くなればな
るほど、「金」をどれほど持っているのかが最も重要になり、そこから不平等が発生するということ
である。たとえば、「金」によって十分な医療サービスや良質の教育を受ける機会、政治的な発言力
や選挙での影響力等が決定されると深刻な問題になる。本来の意味が変質してしまう問題としては、
社会的の財源や社会的な慣習の領域にまで「市場的思考と価値」が入ると、本来の意味が変質してし
まい、大事にしなければならない姿勢や規範がなくなる可能性がある。たとえば、学生の学業成績を
上げるための現金誘引策がある。
すなわち、「有形財」は市場の中で交換しても、その商品の意味や価値を変えることはできない。
しかし、「無形財」のような、たとえば、現金誘引策等な領域に、市場的メカニズムを導入する行為
は、大事な非商業的価値、またはマインドを害したり、除外したりする可能性がある。
最も大きな問題として、「市場社会の拡大」により、不平等が段々大きくなっていく現実において、
生活のすべての側面を「市場化」することになると、豊かな人たちとそれではない人たちの間隔はさ
らに分離される。すなわち、貧富の格差がさらに広がる社会において、「公共性」は最も問題になる
部分である。それとともに、経済的に豊かではない人たちのための組織も必要である。その中で、協
同組合と共済事業の役割は非常に重要である。
上記の内容を踏まえて、韓国における農協と協同組合基本法の今後の方向性はどうなのか。まず、
農協の場合、これからは協同組合形態ではなく、株式会社形態で事業を行うことになり、組合員と一
般人との区分がなくなった。そのため、今までの農協組織のアイデンティティと農協株式会社のアイ
デンティティが重なることとなってしまい、ある意味では2つのアイデンティティを抱え込むことに
なる。たとえ、農協株式会社が保険業法上の規制を受けるとしても協同組合という「胎生的限界(30)」
を克服することは難しいと思われる。したがって、2つのアイデンティティがお互い衝突しないよう、
コーポレートガバナンスを行わなければならない。
協同組合基本法の場合、生まれたばかりの制度であり、それが定着していくためにはまだ十分な時
間と努力が必要であると考えられる。たとえば、1995 年に国際協同組合同盟(ICA)からは「協同組合
(29)
「市場経済」は、生産的な活動を組織化する効果的な道具である反面、「市場社会」は、すべてを買ったり、
売ったりすることができる社会である。すなわち、市場的思考と価値が生活のすべてを支配する社会である。
(30)
これは生まれつきからもっている性質を意味する。すなわち、農協の場合、その組織が株式会社に転換され
たとしても元々協同組合という性質からは離れないということである。
22
のアイデンティティに関する ICA 声明(31)」が発表され、協同組合は組合員により民主的に管理され
る組織であり、組合員は政策・意思決定に積極的に参加できるとされている。なお、協同組合の 10
年のための ICA のブループリントも、参加(participation)、持続可能性(sustainability)、ア
イデンティティ(identity)、法律体制(legal framework)、資本(capital)の5つの課題を掲げ
ている。今後、新しい協同組合が韓国の市民社会に安定に定着するためには、この方針に基づいて、
組合員の意識を強めていく必要があると思われる。なお、組合員同士の意見反映を通じた「間接的自
治の実現確保」にも努める必要がある(32)。
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(31)
ICAによる協同組合原則とは、第1原則:自発的で開かれた組合員制、第2原則:組合員による民主的管理、
第3原則:組合員の経済的参加、第4原則:自治と自立、第5原則:教育、研修および広報、第6原則:協同組
合員間協同、第7原則:コミュニティへの関心である。
(32)
江澤(2009)p.13参照。
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