情報社会〔情報・メディア〕 ▽執筆者〔情報社会〕 小林弘忠(こばやし・ひろただ) セコム(株)顧問/立教大学非常勤講師 1937 年東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞東京本社メディア編成本部長を 経て、現職。著書は『浮世はままよ〔岸田吟香ものがたり〕』 『新聞記事ザッピング読解法』 『新聞報道と顔写真』『巣鴨プリズン』など。 ◎解説のフォーカス〔情報社会〕 ユビキタス社会の到来 ●21 世紀が幕を開けた 2001 年は、通信が話題となった年だった。電話会社事前登録制度 やLモード、次世代携帯電話が登場、さらにNTTの他の通信事業者への光ファイバー開 放問題も加わって、高速、大容量を含めた新通信時代を予兆させた。 ●とりわけ脚光をあびたのは携帯電話をはじめとするモバイル通信の活用である。携帯電 話によるインターネット利用で、コンビニエンスストアの買い物も携帯電話でできるシス テムや情報家電とのネット化も実用段階にある。一方で、出会い系サイトを舞台とした犯 罪も急増、通信の高度化、多機能化で、いっそうの対策が必要であることを印象づけた。 ●政府はe‐Japan構想を打ち出し、世界トップクラスのIT立国をめざそうとして いる。しかし、高速ネット利用料金はじめ課題は多い。光ファイバーの整備は 2000 年末現 在地方都市は 22%、世界の中で日本のネット率は前年より1ランク落ちて 14 位(2001 年 情報通信白書)、電子政府のレベルは 22 カ国中 17 位。政府の施策を中心に、開発が進む通 信技術と予想される生活の変化、情報社会を阻害する諸問題などに関する用語を収集した。 ★2002 年の新語〔情報社会〕 ★IT国家戦略〔情報社会〕 政府のIT戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)が 2001(平成 13)年 に発表した日本のIT化指針。 (1)低料金インターネットを 01 年に実現、 (2)05 年まで に 1000 万世帯に光ファイバーの超高速ネットを、3000 万世帯にDSL(デジタル加入者 線)やCATV回線の高速ネットインフラを整備、 (3)06 年に地上波デジタルテレビを全 国で普及させるという内容。06 年に光ファイバーやCATV回線網で、動画情報も常時提 供できるようにする計画で、この戦略のもとに、次世代インターネット通信手順を高度化 させてe‐Japan(→別項)化を推進、5年以内に世界最先端のIT国家にする構想。 ★デジタル著作権(Digital Copy-right)〔情報社会〕 BS(放送衛星)デジタル放送のコピー番組をネットオークションで販売、摘発された事 件から注目された。デジタル情報は複製しても画質が良好なので、この種の犯罪は増える とみられるが、違法品をサイトで販売する場合、プロバイダ(接続業者)の責任の範囲は 明確ではない。そこで文化庁の著作権審議会第1小委員会は、プロバイダの法的責任につ いて提言をまとめた。著作権侵害の訴えを受けたプロバイダは、発信者に通知、異議がな ければ著作物をサイトから削除できることを制度化、著作権侵害行為の通知を受けて問題 情報を削除、アクセスを不可能にしたときはプロバイダの責任を問わないとの内容。「通知 と削除のルール」といわれている。異議申立てがあった場合、当事者間の協議を促すため 通信の秘密を侵さない範囲で、著作権を主張する人にプロバイダが侵害者の住所、氏名な どの情報を知らせることも提起している。アメリカでは同様の制度ができている。 ★次々世代携帯電話(第4世代携帯電話)〔情報社会〕 超高速でハイビジョン映像はじめ高画質の動画を送受信できるネットワーク携帯電話。次 世代携帯電話(→別項)のサービスが 2001(平成 13)年から開始されるが、次々世代は現 行携帯電話の約1万倍以上の通信スピードがある。CDアルバム1枚なら1分以内、映画 でも3分で配信可能。05 年をめどに実用化の計画で準備が進められている。総務省は通信 コストがいまよりも安いインターネット電話のシステムを採用する。2005 年にまず 30 メ ガビット、2010 年には 100 メガビットのスピードを実現、その技術やネットワーク専用閲 覧ソフトの開発のため電話各社、電機産業会社で組織するモバイルインターネット推進協 議会をスタートさせている。現在の携帯電話端末には互換性はないが、次々世代では互換 性をもたせ、利用者が買い替え費用を節約できるようにする。 ★IP電話(Internet Protocol Phone)〔情報社会〕 インターネットの通信技術(プロトコル)を利用した電話サービス。パソコンからインタ ーネット通信網を通しても使用可能(インターネット電話)だ。通信事業認可を総務省に 届けている事業者は 360 社(2001(平成 13)年1月末現在)。一般電話は回線を使い、通 話が終わるまで回線は専有されるが、このサービスは音声をデジタル化、分割して送信す る点に特徴がある。データの固まりごとに空回線を選んで送れるので、効率よく通信網を 利用でき、特に長距離料金が安くなる。通信サービス方法としては(1)一般電話機対電 話機、(2)パソコン対電話機、(3)パソコン対パソコンの3パターンがある。利用者が 多い(1)のサービスは、事業者に登録しておけば自宅の電話機や公衆電話から利用でき る。アメリカへの通話料は1分 19 円と割安だ。パソコン通話は同一機種、同ソフトが必要 で、使い勝手は必ずしもよくない。 ★VOIP(Voice Over Internet Protocol)〔情報社会〕 画像などを送るデータ通信回線と同じ回線に電話などの音声データの送信を統合するネッ ト技術。別々の通信回線を利用していたデータと音声をインターネットに接続する機器が 対応する通信手段(IP)によって一緒に送る最先端技術だ。データと音声を信号に置き 換えてばらばらに送信、送信先で統合する。電話は通話ごとに専用回線が必要だが、VO IPにすると交換局を経由せずデータの塊ごとに空き回線を利用して送れるので、(1)通 信網の効率化、(2)交換局を経由しないことによる低通信料化、(3)画像と音声を使う ネットサービス化が可能。NTT、KDDIはブロードバンド(→別項)実現のためにA DSLや無線ネットを使って実用化、2000(平成 12)年末から 01 年にかけては国内4C ATV局と韓国ソウル市内を結んだ2万世帯対象のCATV網通話実験も行われている。 ★迷惑メール(trouble mail)〔情報社会〕 携帯電話に届けられる不必要な情報。NTTドコモのiモード利用者に被害が多い。見た くもないメールが着信しても料金をとられるので利用者から苦情が殺到、同社は 2001(平 成 13)年8月から月間最大 120 円分を無料化した。迷惑メールは、配信代行業者がサイト 運営者の依頼で配信、11 桁のすべての携帯アドレスにコンピュータ・プログラムで送信す る。同社は番号組み合わせを変更、アドレスを変えることも勧めているが、なお跡を絶た ない。出会い系サイトにも使われ、警視庁も対策を検討している。 ▲情報社会と生活〔情報社会〕 ◆情報リテラシー(information literacy)〔情報社会〕 インターネットから情報を得たり、経済活動をする時代はコンピュータに対する能力が求 められてくる。そこで、コンピュータへの能力度といったものが情報リテラシーといわれ る。狭義の意味では、コンピュータを自在に扱えるとの意味から、コンピュータリテラシ ーまたはメディアリテラシーともいう。リテラシーとは、もともとは読み書きの能力のこ と。情報の取捨選択、評価、利用が情報リテラシーだ。 情報を分析して企業活動に役立てるには自在に情報を引き出せ、データを解釈でき、デー タを加工できなくてはならない。コンピュータを単に扱えるというコンピュータリテラシ ーから、自在に扱う情報リテラシーが重要といわれる。 リテラシーは、(1)情報基礎リテラシー、(2)パソコンリテラシー、(3)ネットリテラ シー、に分けられ、郵政省(現総務省)の「情報リテラシーに関する調査」 (1999 年)によ るリテラシー度は男 7.09 点、女 6.33 点との結果が出ている。 ◆モバイル・コンピューティング(mobile computing)〔情報社会〕 会社のデスク以外の出先から携帯情報端末(PDA)やノートパソコンを社内のネットワ ークに接続し、社内情報を入手したり、電子メールを使って会社の上司と連絡する一種の テレワーク。例えばユーザーと商談中に、商品の在庫などを知りたい必要が出た場合、電 話をかけて問い合わせ調べてもらうと時間がかかるが、携帯端末を自社のイントラネット などにつないで検索すればすぐにわかる。こうした移動体通信を利用して業務に役立てる ワークスタイルがふえてきた。 ◆デジタル・デバイド(digital divide)〔情報社会〕 情報社会では情報機器を自由に操れる人ほど社会的に有利になる現象がみられるようにな っている。就職するにはパソコン、インターネットに精通している人のほうが好条件で迎 えられる状況となっており、アメリカではパソコン、インターネットに精通しているかど うかで所得格差が生まれ、社会問題化している。情報機器によって生じる経済的格差をデ ジタル・デバイド(デバイドは境界)という。1999 年、アメリカ商務省が農村部は大幅に ネット利用が遅れており、「ネットワークからの落ちこぼれ」と報告してから注目された。 国内の地域、企業だけではなく、国対国のデジタル・デバイドも今後は問題になるとみら れ、情報社会は情報機器の精通度が国力にも影響をあたえてくるといえそうだ。 ◆メールマガジン(Mail magazine)〔情報社会〕 インターネットの電子メールを利用して、個人や団体が定期的に情報を配信するシステム。 ニュース記事や企業情報、エッセイ、創作文など種類は多様で、定期発行の雑誌に例えて メールマガジン(略称メルマガ)とよばれるようになった。無料のものが多い。2001(平 成 13)年6月に小泉純一郎首相が発行したメールマガジン(らいおんはーと)は創刊時に 計 100 万件以上の登録があり、情報社会の新しい政治PR手法と注目された半面、情報操 作の危惧も指摘された。 ◆マイクロソフト事件(Microsoft case)〔情報社会〕 アメリカ司法省と全米 20 州が 1998 年5月コンピュータソフト最大手のマイクロソフトを 反トラスト法(アメリカ独占禁止法)違反で提訴した事件。同社は基本ソフト(OS)市 場で世界シェア 90%以上をもつが、その独占性を利用してOSとインターネット閲覧ソフ ト(ブラウザー)を抱き合せ販売したり、他社のブラウザー販売を妨害したのは独占禁止 法違反に当たると判断された。マイクロソフト側は独占性を否定して争ったが、連邦地裁 は独禁法違反行為を認め、会社2分割の命令を下した。同社はワシントン連邦高裁に上告、 高裁は2分割問題では地裁で再度検討するよう差し戻したものの、独禁法違反については 認めた。同社はさらに高裁に再審理を請求、これも却下されたため、最高裁に上告してい る。一方で和解の道も模索されている。 ◆シニアネット(Senior net)〔情報社会〕 高齢者が生きがい、仲間づくりのためにつくっているネットワーク。会社卒業後の新たな 出会いを求める市民ネットが各地にひろがっている。仙台市では老人福祉センターを会場 にパソコン教室をひらいてネットクラブをつくっている。金沢市は市に生きがい情報作業 センターを設置、小学校の工作室をパソコン教室にしてボランティアの指導で1年間 6400 人が利用した。東京都三鷹市でも民間団体がネットワークをつくりSOHO活動にも役立 てるなど高齢者によるデジタル・デバイド(→別項)をなくす新しい形の情報社会が形成 しつつある。 ◆エコーネット(Echo-net)〔情報社会〕 エアコン、冷蔵庫、照明などの白物家電やガス漏れ、火災検知などのセンサーをネットワ ーク化する規格。経済産業省は、次世代ネットワークシステム開発とその普及をめざして 家電メーカー中心にコンソーシアム(会員社約 80)をつくっている。機器間の接続に電力 線、無線を使うので省エネ、高齢化社会に適している。エコーネットが実現すると、電力 量、電気料がテレビモニターで表示できたり、エアコン、照明を外出先から切り替えたり できる。2003(平成 15)年にはサーバーなどが製品化され、個人認証によるセキュリティ も開発される。ポストPCとよばれるネット接続端末の情報家電はすでに量産化の時代と なっている。 ◆ICカード定期券〔情報社会〕 定期券を自動改札機に通さなくても通過できる非接触型の記憶装置を埋め込んだ定期券。 改札機を通過させてもいいが、定期入れのまま所定のマークに触れるだけで出入りできる。 JR東西会社で実験し、2002(平成 14)年から実用化される。JR東日本ではスイスイ通 れる意味から「スイカ」(Suica)と名づけられている。定期券は事前に払った料金分 乗車できるイオカード機能も備えているので乗り越した場合、精算機を利用しなくても改 札機で自動精算できる。 ◆教育ネット(Education Network)〔情報社会〕 学校をインターネットでつなぐネットワーク。政府は約 67 億円で公立校の校内LANと校 外を接続する整備を進め、2001(平成 13)年度に全国4万公立小中高校をインターネット でつなぐ計画は達成される見通し。02 年度から小中校で教科にとり入れられる「総合的な 学習の時間」でインターネットが活用される。公立高はすでに8割が利用可能、うち6割 がホームページを開設している。しかし教師のパソコン習熟度はいまひとつで、文部科学 省調べでは3万 8829 校のうち操作できる教師は 58 万 6000 人いても、生徒に指導できる 教師は3割程度といわれる。 ◆遠隔教育〔情報社会〕 高度通信情報システムを利用し、時間や場所の制約なしにだれもが教育サービスが受けら れるネットワーク利用の教育。欧米では普及が進んでそのコンテンツが輸出され、新産業 として注目されている。日本でも都立科学技術大学を中心に研究、実験が進められ、ディ スタンスラーニング学会も設立されている。東京都の石原慎太郎知事が提唱して 2001(平 成 13)年 10 月開催の「アジア大都市ネットワーク 21 会議」にもテーマのひとつとしてと りあげられアジア各国との協調が話し合われた。アニメを活用して教材を簡単に作成でき る遠隔教育のためのソフトもいろいろ開発され、学校教育、企業研修に使われはじめてい る。 ◆Jデビット取引率〔情報社会〕 1999(平成 11)年1月にサービスが始まったJ(ジェイ)デビットカード(→「デビット カード」)は 2000 年3月から決済情報の集中管理センターが登場、全国規模の使用が本格 化した。同年末現在利用可能なデビット枚数は約3億枚、デビット用端末は 15 万カ所で稼 働し、年間取引高は 1000 億円を突破した。業態別では、デパートは 11 社が導入済み、ス ーパーなどは客1人当たりの利用単価が低く伸び悩み。偽造しやすい磁気ストライプ型で は安全性に限界があるためカードのIC化も必要とされ、総務省は 02 年度から順次ICカ ードに換え、05 年には年間扱い高を 20 兆円規模にする計画だ。 ◆時刻認証(タイムスタンプ)(Time Stamp)〔情報社会〕 ネット上の株式取引が盛んになれば、時差のある外国との取引は、わずかな時間の誤差で も損失発生による賠償問題に発展しかねない。コンピュータ間で共通時間を使う時刻同期 体制を整える必要がでてきたため、総務省は同省通信総合研究所(日本で唯一の標準時配 信機関)から企業向けに標準時配信をするシステムづくりに着手した。産学協同の時刻認 証研究会を設置して技術開発をめざし、2002(平成 14)年4月から配信する予定。時刻認 証制度、証明書発行の時刻認証機関もつくり、時刻認証ビジネス市場拡大も期す。州間の 時差があるアメリカでは店頭株市場(NASDAQ)がルールをつくり、時間誤差を標準 時の 3秒以下に定めている。 ◆量子情報通信(Quantum Information Communications)〔情報社会〕 光の波の性質を応用する光ファイバー通信に比べ、ネットワーク上で光子など素粒子の特 性を生かして情報を伝達する通信。現在の 1000 万倍以上の超高速通信が可能となる。光子 ひとつひとつに「0」か「1」のデジタル情報を伝送する技術なので、第三者がその情報 を盗もうとしても光子が偏光で変化するため送受信している人にわかる。データ盗用が防 げるのでサイバーセキュリティは飛躍的に向上するといわれ、総務省は 2001(平成 13)年 度から 10 年計画で研究開発する。産学官による研究会を発足、初年度5億 5000 万円を投 入する。民間でもNTTなどが取り組み、アメリカではIBM、AT&Tが研究をはじめ ている。 ◆ドメイン名登録訴訟〔情報社会〕 インターネット上の住所のドメイン名(例えば .cp.jp)は早い者勝ちで使用できるが、 1998(平成 10)年の信販会社のドメイン名をめぐっての訴訟で 2000 年 12 月、富山地裁が この種としては初判断を示して注目された。裁判は信販会社名のドメイン名を取得した人 を被告に、同社を原告にして争われた。判決は、(1)ドメイン名は商標と同様の価値があ る、(2)有名企業のホームページにアクセスする場合、社名が使われていると推測するの が一般的として、ドメイン名はインターネット上の住所にすぎず、アクセスには検索エン ジン使用が普通とする原告の主張を退けた。ドメイン名は売買が原則禁止とされているが、 01 年から登録制限が緩和され、日本語ドメインも使われるようになった。日本では仲裁セ ンターがあるが、法的拘束力はなく、国際的ルールづくりが望まれている。 ◆電子商取引推進協議会(ECOM)(Electronic Commerce Promotion Council of Japan) 〔情報社会〕 電子商取引が活発になることを見越して、スムーズなルールづくりなどを決めるため産業 界、民間企業で結成している団体。2001(平成 13)年4月施行された電子署名法(電子署 名及び電子認証に関する法律→別項)に対応するため、電子署名利用者のシステム構築、 利用ガイドラインをつくり注目されている。(1)企業が電子商取引をする場合は、各人に 渡される秘密カギの複製は基本的に行わず、各人の責任で保管する、(2)企業は安全対策 としてISO15408 に準拠したソフトなどを使う、 (3)署名する際は、電子署名の意味と 署名範囲をはっきりさせるなどが内容。ガイドラインは、企業が電子認証システムを構築 し、電子認証を活用していくうえでの指針となる。 ◆電子商取引専門調査チーム〔情報社会〕 インターネットによる電子商取引を専門的に調査する国税局のチーム。東京、大阪、名古 屋の3国税局に 2000(平成 12)年3月設置されたが、国税庁が5カ月間の調査結果をまと めたところ、ホームページで有料制の電子会議室を開催した会社員が、1台のパソコンで 推定 8000 万円の申告漏れをしていたなど計 20 億円以上の不正が発覚した。資本金1億円 以上の企業(20 社)の申告漏れは 4.2 億円、中小企業(23 社)は 3.08 億円、個人事業者 (31 人)は 3.6 億円。大企業は大半が経費の計上時期を間違えたケースだったが、中小企 業や個人事業者は所得があったのに無申告の事例がめだった。 ◆ホームページ訴訟〔情報社会〕 保険契約をめぐって東京都内の男性が「保険契約者保護者協会」を名乗り「保険会社詐欺 事件」とのホームページを掲載した。同社は男性を相手にインターネットの公開差し止め を求める仮処分を東京地裁に申請、同地裁は 2001(平成 13)年4月、保険会社の主張を認 め公開を禁止する決定を下した。男性が第三者を通じてホームページを公開すること、同 社を中傷する他の内容のホームページ公開も禁じた。ホームページ公開を禁止する仮処分 は珍しく、匿名で企業を批判するホームページが多い中で警鐘を鳴らした決定と注目され た。 ◆ネットストーカー(Net-stalker)〔情報社会〕 「好きだ」「付き合ってくれ」などと連日、しつこくeメールを送りつける行為。警視庁ハ イテク犯罪対策総合センターの調べでは、半年スパンで数十件の被害の訴えがあり社会問 題化している。ネット上で名誉を傷つける事件や現実のストーカーは取り締まれるが、ネ ットストーカーはストーカー行為規制法でも適用外。ネットワークの匿名性を悪用し、法 の盲点をついた行為に、警視庁はストーカー規制法対象に組み込めるかどうか検討を初め ているといわれるが、安易な規制を戒める声もある。 ◆ジンジャー(Ginger)〔情報社会〕 2002 年に発売される 21 世紀最大の発明、と全米をわかせている製品。インターネットを 上回る画期的なものといわれるが、それが何であるかは判明せず、どんな路面でも走るこ とができる移動車との評判が立つだけで、正体探しが世界のメディアではじまっている。 ジンジャー現象はあっという間に情報が拡散される情報社会の象徴ともなっている。 ▲電話通信の現状〔情報社会〕 ◆電話料金値下げ競争〔情報社会〕 マイライン(→別項)を機に通信業界の料金値下げ競争が激しくなった。新電電の日本テ レコムが全国の市内料金を3分 8.8 円から 8.5 円、電力系新電電で関東地区が営業基盤の東 京通信ネットワーク(TTNet)は平日昼間3分の市内料金を 8.7 円から 8.4 円に値下げ、 長距離電話サービスのフュージョン・コミュニケーションズは通話距離に関係なく一律3 分 20 円の新料金を発表した。このほかNTTコミュニケーションズ、KDDIなども対抗 値下げして話題となった。 ◆通信・放送融合法案〔情報社会〕 放送がアナログ式からデジタル式になると、高画質、多チャンネル、情報の大量送信がで きる。双方向通信サービスも実現され、テレビを使っての電子商取引(通信販売)も可能 だ。そうなれば通信と放送別々の法律の必要がなくなるので、通信事業者にも通信衛星(C S)、CATV利用の放送事業への参入を認める前提で策定されるのが通信・放送融合法案。 放送法や有線テレビジョン放送法では、放送免許がないと番組配信ができず、NTTは、 放送参入はNTT法で禁止されている。通信施設保有の第1種通信事業者は当局に約款を 届ければ放送事業に参入できるようにする。NTTにもCSなどに番組配信を解禁する計 画。 ◆電力会社の通信統合〔情報社会〕 電力 10 社がデータ通信事業を統合、全国規模で高速通信サービスを展開する。光ファイバ ー網の高速インフラではNTTに匹敵、通信分野ではNTT、KDDI、日本テレコムに つぐ第4パワーとなる。1999(平成 11)年 11 月に東京通信ネットワーク(TTNeT)、 大阪メディアポート(OMP)、中部テレコミュニケーション(CTC)など電力系新電電 共同出資のデータ通信会社、PNJ‐C(PNJコミュニケーションズ)を 10 社が直接出 資に切り替えたうえに 200 億円出資、中央電力3社が会社分割でデータ通信事業を分離し てPNJ‐Cに集約させる。PNJ‐Cは総延長 18 万キロメートルの光ファイバーを保有、 NTT東西会社の 22 万キロメートルにつぐ。 ◆NTTグループ3カ年計画〔情報社会〕 電話料金引き下げなどでの経営悪化からうちだした計画。(1)東西地域会社の業務のうち 設備保守、管理部門は、設立する新会社に外注化する、 (2)人員再配置の大幅拡大、 (3) 光サービス会社を設置、著作権保護目的のプラットフォームを構築し、光ファイバーを利 用した新サービスを開始、(4)光ファイバーによる家庭向け高速大容量通信サービスを月 額 3000 円台から 9000 円台で提供、 (5)ADSL、ISDN(総合デジタル通信網)月額 料の引下げ、などが柱。 ◆NTTの光ファイバー開放〔情報社会〕 NTT東日本、西日本両社の光ファイバーを他の通信事業者に開放する問題。両社は全国 で7万 9000 キロメートルの光ファイバーケーブルを敷設、全国シェア 85%を占める。他 の通信事業者に貸出しはしなかったが、e‐Japan(→別項)計画を進める政府は高 速ネット実現のため開放を求め、アメリカ政府も通信の閉鎖性を指摘していた。NTTは 方針を転換して貸出しを認める方針をとり、DSL事業者とのあいだで賃貸契約を旧郵政 省に申請、同省も認可した。設備投資の力がない通信事業者もNTTの全国網が使えるこ とになれば大容量通信が加速され、低料金競争も期待されている。 ◆支配的事業者規制〔情報社会〕 通信事業者の規制方法のひとつで、1996 年アメリカが通信法を改正して導入した。基幹通 信網を保有している通信事業者と一般の通信事業者とを区別し、巨大通信網の事業者を支 配的事業者と規定した。日本ではNTTがこれに該当する。基幹通信網のある事業者を特 別視したのは、その通信網を他の通信事業者に開放させ、料金を適正化させるためだ。ア メリカでは、支配的事業者の協力意欲を高める手段として、通信網を開放した場合は規制 を緩和する方針をとっている。日本でも郵政相(当時)の諮問機関の電気通信審議会が 2000 年、NTT東西地域会社、NTTドコモを支配的事業者対象とする方針を公表、総務省が 関連法改正をめざしたが、NTTの強い反対で支配的事業者規制は事実上骨抜きとなった。 ◆インセンティブ規制〔情報社会〕 郵政相(当時)の諮問機関、電気通信審議会(電通審)がNTTグループに対してうちだ した規制方法。競争を促すために、競争政策にマッチした方針をとれば規制を緩和すると いうインセンティブ(刺激)によって通信市場の適正化を高める方策だ。インセンティブ 規制は、2000(平成 12)年 11 月、郵政相への電通審第1次答申の中に盛りこまれた。 (1) 光ファイバーを新電電などに開放すればインターネット事業を認める、(2)NTT持株会 社が東西地域会社とNTTコミュニケーションズ(長距離、国際通信)の株(各 100%保有)、 NTTドコモ(移動体通信)株(67%保有)の持株比率を引き下げれば通信機器製造参入 を認めるなどという内容。グループの独立性を高めることを刺激剤として競争の活発化を 図ったが、NTTは難色、新電電、CATVなども警戒している。 ◆卸料金制度〔情報社会〕 企業が専用線を使う場合、NTTに専用線の回線料金を支払うが、他の通信事業者が専用 線を用いるときも同料金を支払うので、インターネット接続業者はメリットが少なくなる。 これを直そうという制度。現在、通信回線をもっていない第2種通信事業者約 7000 社はN TT東西地域会社の市内網に自社の回線を接続する方法でしか利用者に通信サービス提供 はできない。一般企業向け料金より安くなれば、2種業者はNTTから回線を借りて企業 向けサービスも可能で、競争原理から通信料も安くなる。アメリカでは卸専用線料金制度 を採用、通信業者には企業より約2割引いて回線を販売している。 ◆マイライン(My-line)〔情報社会〕 2001(平成 13)年5月から始まった電話会社事前登録制度(優先接続制度、電話会社選択 サービス)。利用者はマイライン事業者協議会加盟 13 社の中から市内、県内・市外、県外、 国際の4分野で会社を選択、番号を登録しておけば「00XY」のような電話会社の識別番 号をダイヤルしなくても、選んだ会社を通じて通話できるので便利になった。制度導入の 理由は、電話会社で異なる識別番号を同じにすることで選別を自由にし、利用者に条件の よい会社を選んでもらい電話会社の競争を促す目的がある。競争には料金値下げがアピー ルしやすいため、00 年 11 月に解禁された広告宣伝で各社の値下げ競争が展開された。01 年3月末までに約 3000 万件の申込みがあったが、登録処理が間に合わず、約 800 万件がサ ービス開始の5月1日に利用できなかった。 ◆Lモード(L-mode)〔情報社会〕 NTT東西地域会社が開発した家庭電話機を用いた新サービス。Lは、英語の「Living(生 活に役立つ)」 「Local(地域に密着した)」 「Lady(女性と家族のために)」を意味している。 プッシュホンの画面をより拡大し選択ボタンもつける。2∼3万円のLモード電話を使用 し、月額 300 円程度の料金を支払えば、市内料金でインターネット、メール送受信、ネッ トバンキングなどができる。パソコンのようにアドレス入力の必要がなく、メニューボタ ンを押すだけでインターネットにつながる。高齢者向けと携帯電話に押される家庭電話加 入増を図るのがねらい。NTTではICカード専用公衆電話もLモード対応端末にしてい く予定。総務省は当初、NTT東西会社の業務は地域に限定されるとのNTT法の規定に 逸脱すると難色を示したが結局は認可した。KDDIなどは認可に反発している。 ◆次世代携帯電話(第3世代携帯電話)〔情報社会〕 同一周波数で多くの通話ができデータ通信が現在よりスピードアップ、高速、大容量で世 界各地から受発信も可能なIMT‐2000(International Mobile Telecomunication-2000) という国際規格に合わせた携帯。NTTドコモとKDDIが 2001(平成 13)年秋に登場さ せた。通信技術にはNTTドコモの日欧方式(W‐CDMA)とKDDIやアメリカが採 用しているcdma2000 式がある。NTTドコモのサービスは通信速度が 40 倍アップ、 KDDIのは大容量と利用地域の広さに特長がある。次世代は今後、ICカードの一種で 個人情報入りUIMカード(User Identity module card)を搭載、カードで個人認証と取 引決済もできるようになる。携帯端末から情報家電、パソコン、カーナビゲーションなど の端末にも利用でき、IPv6(→別項)が開発されると、これら端末を通してインター ネット情報を入手できる。普及には仕様標準化が必要のため総務省はルール化を検討して いる。 ◆携帯電話決済システム〔情報社会〕 携帯電話を暗証番号の入力キーに使って決済するシステム。カード式電子マネーが不人気 なところから開発が進められている。自動販売機や飲食店の支払いもできる電子財布にし ようとの計画だ。KDDIは携帯でコンサートチケットを予約、決済しその携帯を会場に 持参するだけで入場できるサービスを実施している。携帯がお金、カードの代用になる日 も遠くないが、規格統一、手数料問題など課題は少なくない。 ◆WAP(Wireless Apprication Protocol)〔情報社会〕 携帯電話のインターネット接続サービスの規格で、小さな携帯電話の画面に合うように情 報内容の記述言語などを定めている。NTTドコモのiモードとは別規格だが、ヨーロッ パ、アメリカ、日本のKDDIがこの規格を採用、世界的規格となっている。これに対し 次世代電話技術の規格のW‐CDMAは、最大で毎秒2メガビットの送信ができるように なっている。速度にして現在の携帯電話の約 200 倍。NTTドコモは 2001(平成 13)年 からこの規格の次世代電話サービスをはじめ、ヨーロッパ各国でもこの規格を導入するの で、これも世界的な規格となる見通し。両者を組み合わせると、携帯電話で各国の情報内 容閲覧、メール交換、送受信が可能。 ◆ユニバーサルサービス(Universal service)〔情報社会〕 電話料金、サービスを全国同水準にするサービス。その実現のために通信事業者が資金を 拠出してユニバーサルサービス基金を創設することが総務省で計画されている。NTT東 西会社は全国一律サービスの提供が義務づけられているが、過疎地域などでは赤字となり、 NTTだけが一律サービスで他の事業者は収益性の高い地区だけで事業を続ければ、NT Tの経営をさらに圧迫する点を考慮した。基金はアメリカ、フランスを例に他の事業者に も負担を求める。 ◆iモード(i mode)〔情報社会〕 iモードはNTTドコモが 1999(平成 11)年春開始した携帯電話新サービスで、インター ネットに接続することができるのが特徴。iモードの i はインターネット(internet)、 インタラクティブ(interactive)、インフォメーション(information)、を意味している。 iモード携帯電話を購入し、同社に登録すれば携帯電話で電子メール交換、ホームページ 閲覧、銀行振込みなどもできる。専用技術は不要で、対象金融機関も増えているので利用 価値は広がった。eコマースの端末としても利用度が高まり、KDDIなどもネット接続 サービスで、携帯電話普及の後押しをしている。 ◆iアプリ(i Appli)〔情報社会〕 特定の基本ソフト(OS)に頼らずにプログラムを実行できるNTTドコモによるiモー ド携帯電話の新サービス。2001(平成 13)年初めに登場した。ネットワーク対応のプログ ラム言語(java)技術を取り入れたものでアメリカ・マイクロシステムズが開発した。 これまでのiモードは特定のプログラムが内蔵されていないとインターネットから地図な どは取り込めなかったが、javaが内蔵されていればネットを通じて地図、カラオケ、 ゲームなど各種ソフトが入手できる。次世代携帯電話にも応用される。しかし、01 年春個 人情報の一部が流出する不具合がみつかり、42 万台が無償交換される騒ぎがあった。 ◆B‐ISDN(Broadband Integrated Service Digital Network)〔情報社会〕 次世代総合デジタル通信網のこと。ISDNは、総合デジタル通信網。メディア別に敷設 されているテレコム回線を一本化してコストを軽減し、効率よく、高品質のデータを送信 する回線。情報を数値化して送るデジタル送信、高速・大量送信が可能な光ファイバーの 登場で実現した。1984(昭和 59)年、NTTがINS(Infomation Network System)と 名づけて音声、データ、画像を統合したネットワークの商用を開始したのが最初。国際電 信電話諮問委員会(CCITT)は標準伝送容量を 144 キロビット/秒と規定した。 しかし、ISDNは狭い地域しか送信できないので、これにかわりB‐ISDN(広帯域 ISDN)が注目されてきた。伝送速度は現在が毎秒 64 キロビット∼1.5 メガビットなの に対し、155 メガビット∼620 メガビットの大容量を確保でき、ISDNより 1000 倍以上 の情報量を処理、ハイビジョン映像も3∼4チャンネル分の映像を1回線で瞬時に送れる。 鮮明なのでこの通信網のハイキャプテン(カラー写真に音声をつけ加えた情報)も実用化 される。 ◆ATM交換機(Asynchronous Transfer Mode switching unit)〔情報社会〕 広域総合デジタル通信網(B‐ISDN)はじめ高速通信デジタルネットワークの中核を なす非同期転送モード。企業、大学内や同一区域を汎用コンピュータ、WS(ワークステ ーション)パソコンで結ぶLAN(Local Area Network をネットするWAN(Wide Area Network 構内情報通信網)、複数のLAN 大規模ネットワーク)が急速に広まり、さら に国際的なネットワーク化も進んでいる。こうしたデジタルネットの基幹システムとなる 交換機がATM。ATM交換機を使うと、毎秒 100 メガ(1メガは 100 万ビット)以上の 膨大な情報量を多数の相手に送ることができる。送る情報量は、例えば電話回線と比較す ると 2500 倍という。 ▲サイバーセキュリティの確立〔情報社会〕 ◆サイバーセキュリティ(cyber security)〔情報社会〕 サイバー(電脳空間)への不正行為は、(1)侵入(目標のコンピュータに侵入して管理権 限を奪う)、(2)ステップ(他のコンピュータに侵入、そこを踏み台にして目標のサーバ ーに入り込む)、(3)改ざん(入り込んだコンピュータのデータを改ざんする)、(4)漏 洩(侵入して情報を盗み出したり、内部の情報を漏らす)、(5)なりすまし(他人のパス ワードを盗んだりしてその人になりすます)、(6)メール爆弾(大量のメールなどを送り つけ、コンピュータをまひさせる)、 (7)ウイルス(ウイルスのついたメールなどを送り、 情報を破壊する)などがある。つまりサイバー被害は、(1)機密の喪失、(2)情報の破 壊、(3)保存の喪失、(4)不正コピー、に分けられる。セキュリティ対策は、以上のこ とを考え、不正侵入防止策と予防・検知策、監視策を講じなければならないことになる。 不正侵入防止策はコンピュータ管理者をおいて、アクセス管理、アクセス防御を施すなど 不正に対する直接対策。予防・検知策は、パスワード管理、ウイルスのワクチン管理、コ ピー防止管理など。監視策はセキュリティ監視、教育などで、いずれも間接対策といえよ う。 アクセス管理とは不正侵入を未然に防ぐ技術であり、暗号化、バイオメトリクス(→別項)、 パスワードによる認証を含む対策。アクセス防御は外部からの不正アクセスを具体的に防 御する技術で、代表的なものはファイアウォールだ。これら多重防護対策を立てておくの がサイバー社会のインフラといわれる。 ◆電子署名・認証法案(electronic signature / certification low)〔情報社会〕 正式には電子署名及び認証業務に関する法律案。通産(現経済産業)、郵政(現総務)、法 務3省が 2000(平成 12)年4月国会に提出、01 年4月より施行。電子ハンコを法的に効 力があると認め、不正防止を図ると同時にインターネットによる電子商取引(eコマース) のバックアップ体制を整え、eコマース市場を活性化するねらいがある。 インターネット情報はコンピュータを経由して目的地のコンピュータに到着するが、中継 するコンピュータには情報がいったんコピーされる。このため第三者が盗用したりする不 正行為が行われ、取引などを阻害する。これを防ぐには、情報をやりとりする人が間違い なく本人であることの証明が必要である。そうした認証を法律で認めようというもので、 今後は電子署名が現在の押印、署名と同じように、「私文書は本人又はその代理人の署名又 は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」 (民事訴訟法第 228 条第4項)記録 の証拠として効力をもった。具体的には情報交換者の本人を証明するハンコ登録の役所に 相当する電子認証機関を設置する。例えば企業同士の取引では、商業登記簿謄本などで実 在する企業であれば、認証機関から本人証明である電子証明書(デジタル証明書)が発行 される。情報は公開鍵暗号方式(→別項)で暗号化してやりとりする。公開鍵暗号は秘密 鍵と公開鍵からなり、秘密鍵は実印、公開鍵が印鑑登録証明書に相当する。この鍵を使っ て取引すれば、第三者によるなりすましを心配しなくてすみ、詐欺行為も防げる。認証機 関は政府が認める民間機関も選定される。不正な証明書を発行させる行為に対しては懲役 3年以下または 200 万円以下の罰金が科せられるなどの罰則も設けている。 ◆ネットワーク犯罪(network crime)〔情報社会〕 警察庁がまとめた 2000(平成 12)年のインターネット犯罪(ネット犯罪)の発生総件数は 484 件。わいせつ文書頒布事件がトップで 154 件、児童買春・児童ポルノ法違反 121 件、 詐欺 53 件、名誉棄損 30 件、著作権法違反 29 件などが主なものだ。めだつのはインターネ ットオークションを利用した詐欺犯罪と児童買春・児童ポルノ法違反。前者では、オーク ションにゲーム機を譲るとニセ情報を掲載し 72 人から約 680 万円をだましとった事件、後 者では高校生男女がホームページを開設して援助交際を募りつかまった事例がある。出会 いサイト悪用買春も社会問題となっている。 ◆不正アクセス犯罪〔情報社会〕 不正アクセス禁止法が 2000(平成 12)年2月施行されてから同年末までの検挙件数は 31 件、37 人(警察庁調べ)。不正アクセス行為は海外からの 25 件を含めて 106 件。禁止法施 行後もコンピュータ攻撃事件は多い。検挙の 31 件の内訳は(1)他人のIDやパスワード を無断で入力する識別盗用 29 件、(2)セキュリティホールへの攻撃1件などだ。犯行動 機で最も多いのは利用料金請求を免れる不正が 13 件、嫌がらせ・仕返しが5件、メールの 盗み見5件、麻薬販売、詐欺8件。00 年のコンピュータウイルスの発見届け出件数は 99 年に比べ約3倍の1万 1109 件と過去最悪で、新種のマトリックスが 2136 件で最高、ラブ・ ウイルスが 1221 件で2位。 ◆偽造カード犯罪対策〔情報社会〕 偽造カード被害が急増、日本クレジット産業協会(870 社加盟)調べでは、2000(平成 12) 年中の盗難カード使用による被害は約 308 億円、うち偽造カード被害は 45%にあたる 140 億円で、3年前の 11.6 倍。この対策に法務省はカード偽造、行使は 10 年以下の懲役また は 100 万円以下の罰金、偽造、盗難カード所持は5年以下の懲役または 50 万円以下の罰金、 スキミング(カード端末機に極小の機器を仕掛け、カードの磁気データを吸い取る)行為 は3年以下の懲役または 50 万円以下の罰金と定めた刑法改正案を国会に提出した。警察庁 は全国の県警に偽造カード解析装置を 01 年度配備する。カード業界では 03 年をめどにI Cカードを導入、すでにIC化しているカード会社も出てきている。 ◆サイバーフォース(Cyber Force)〔情報社会〕 警察庁が発表した情報セキュリティ政策大系の中で明らかにされた構想。電脳部隊といわ れるサイバー捜査班。サイバーテロでは、他のサーバーをステップして目標サーバーに攻 撃をかけるバッファ・オーバーフロー(buffer overflow)という手口が多い。間接に侵入さ れても被害は少なく、サーバー経由で追跡も困難となるため追跡捜査班が必要となった。 鑑識力ある人材育成を急ぎ、産業界との連携パイプとなる情報セキュリティ・アドバイザ ーの設置を進め、官民連絡機関「ネットワーク・セキュリティ・センター」(仮称)設置の 動きもある。アメリカには 100 人規模の「国家インフラ防護センター」 (NIPC)がある。 ◆サイバー安保〔情報社会〕 「サイバー攻撃対策特別行動計画」に基づく政府のサイバー安全保障対策。政府は内閣に IT戦略本部(本部長・総理大臣、本部員は主閣僚)を、下部機構に官民で構成する戦略 会議をおいて官民連携の確立体制ができた。セキュリティについても民間有識者による部 会がつくられた。サイバー安全保障とは、サイバースペース(電脳空間)への攻撃の対処 法で、例えば防衛庁のサイバースペースに攻撃をしかけられると国防上重大な影響をあた え、情報通信、金融、電気、鉄道などインフラへの被害は国民生活を混乱させるので、水 際の防御と攻撃時の政府の対応策だ。 ◆ITセキュリティ国際情報機構〔情報社会〕 経済産業省が企画しているITセキュリティ策のひとつ。国内外の関係機関と連携して被 害情報や防御策情報を交換できる情報共有機関を組織しようというものだ。世界各国はI T推進を柱として産業振興に取り組んでいるが、問題はセキュリティ面。例えば、2001(平 成 13)年初めにもインターネット上に、日本の政府機関や企業のホームページをいっせい に攻撃しようとの中国語のホームページが登場、実際に病院、大学など 70 機関のホームペ ージがアタックされた。グローバル化してきたサイバーテロに対抗し、各国と情報共有メ カニズムを構築するのがねらい。経済産業省は製造業、電力、ガスといった担当部門の業 界ばかりでなく、金融、運輸、建設など所管外の団体も加入する機構づくりを計画してい る。 ◆サイバー犯罪防止条約〔情報社会〕 インターネットを通じたサイバー犯罪を国際的に防止することを目的とする条約。日米欧 が 2002 年に発効をめざして検討している。発効されれば、サイバー犯罪に関して初の国際 条約となる。ネットワークを利用した不正行為を国内法で犯罪として位置づけることを加 盟各国に義務化、捜査機関の連携、接続事業者に通信記録を提出させること、個人情報の 保護、犯人の引き渡しなどが案として盛られている。 ◆日本ネットセキュリティ協会(JNSA)(Japan Network Security Association)〔情報 社会〕 ネットワーク環境整備を目的に設立された団体。日本独自の安全規範をつくるのをテーマ に、技術、政策、マーケティングの3部会を設置している。業種が多岐にわたっているた め、これまで統一、横断的な組織がなかった。増加が予想されるサイバーテロに備えるの と、技術用語統一、独自のセキュリティポリシーづくり、相互接続の評価試験環境提供、 PKI(公開鍵基盤→別項)の技術研究、不正アクセス対策などに取り組む。 ◆セキュリティ評価認証制度〔情報社会〕 セキュリティ評価と認証を希望する企業は、ISO(国際標準化機構)の基準に基づく体 制をつくり、これを評価機関が評価、認証機関が審査して「お墨付き」を与える制度。日 本は遅れているが、欧米では整っている。イギリスは特に進んでおり、国内規格にBS7799 という認証システムがある。国際的にはアメリカ・イギリスなど6カ国が 94 年コモン・ク ライテリア(CC)名の統一評価認証基準をつくり、98 年にはISO15408 として国際標 準化されている。 ◆NISM(Network Information Security Manager)〔情報社会〕 第1種電気通信事業者の業界団体、電気通信事業者協会が創設したセキュリティ資格制度。 セキュリティ技術を備える人材育成が目的。中央官庁や企業のホームページへの攻撃、M TXウイルスなど新種ウイルスが急増、サイバーセキュリティ対策が急務となってきたた めだ。ネットワーク関係では電気通信主任技術資格制度(国家試験)があるが、セキュリ ティ分野は専門性が高いため資格が必要とされた。総務省は通信事業者向けガイドライン を改定、セキュリティポリシー策定、緊急通報体制を盛り込み、2002(平成 14)年度から ウイルス監視などに投資する際の税制支援をうちだしている。 ◆クリプトレック(Cryptrec)〔情報社会〕 暗号技術の評価を推進するために政府の委託を受けた暗号専門家による団体。暗号技術評 価委員会とよばれる。2003(平成 15)年度をめどに構築される電子政府に向けてセキュリ ティを確保するのを目的として発足した。暗号技術を公募して技術的、専門的に評価、電 子政府に最も適合した暗号技術を選定する。評価対象となるのは公開カギ暗号、共通カギ 暗号、ハッシュ関数、疑似乱数生成の4方式。暗号技術は、高度情報ネットワーク社会の 最重要問題だけに、継続的な見直しと国際的な標準化が課題となっている。 ◆セキュリティ政策体系(security policy outline)〔情報社会〕 2000(平成 12)年官公庁のホームページが不正侵入されたサイバーテロ事件は、インター ネットの防護体制の不備が指摘された。サイバー社会を守るため警察庁がうちだしたサイ バーテロに対する強化策。官公庁サイバーテロ事件では、16 件中6件が情報を大量に送る ことにより、誤作動させるバッファ・オーバーフロー(buffer overflow)という手口が使わ れた。侵入者は大学のサーバーに侵入、さらにステップして官庁に侵入した。このほか最 近は目標のサーバーに連続してアクセスし、セキュリティホール(セキュリティの不備な 個所)を丹念に探すポートスキャン、コンピュータが誤作動を起こしたスキに侵入するD oS(Denial of service)攻撃など手口も悪質、巧妙になってきたためねばり強い対抗策が 必要となってきた。 ◆セキュリティポリシー(security policy)〔情報社会〕 セキュリティ対策の中核をなすもので、セキュリティの方向性、範囲の設定を定める安全 性の理念。利用と禁止の範囲をどのようにするかが大きなポイントとなる。インターネッ トとイントラネットなど社内ネットワークを接続するかどうか、接続すれば不正侵入の危 険性がふえるが、その場合安全性をどう保つかを策定するのがセキュリティポリシー。情 報システムをつくるうえで欠かせない理念だ。 情報システム作成の手順は、(1)計画、(2)構築、(3)運用、(4)分析、に分けられ るが、セキュリティポリシーは計画段階で設定される。セキュリティポリシーは企業戦略 の一環ととらえられている。 ◆セキュリティ投資(security investment)〔情報社会〕 ハッカーによるホームページの不正侵入、ウイルスによる被害など相次ぐサイバーテロに よって官民にセキュリティに対する投資関心が高まっている。セキュリティに資本を投ず るのが結局は経済効果を生むという意識からだ。このためセキュリティビジネスが新産業 として注目されている。不正アクセスを 24 時間、365 日監視する「不正侵入監視サービス」、 同様の「ウイルス監視サービス」や不正侵入防止のための本人証明をする「証明書発行サ ービス」を始めている企業やセキュリティ専門家を認定、ユーザーの定期検診を行う企業 もある。アメリカではセキュリティビジネスが育成されている。 ◆バイオメトリクス(biometrics)〔情報社会〕 個人の生体的特徴をコンピュータの個人識別に用いようとする技術。本人の身体の一部を 利用した本人証明技術ともいわれる。建物の出入り、出退勤、パソコン、OA機器の本人 確認などに使われ、現在は指紋、掌紋、虹彩(黒眼の部分の模様)や顔、声などを登録し ておいて、他人と識別する実験が活発となり、指紋照合による識別方法は、実用化されて いる。これは同一ではない指紋によって識別しようとするもので、電子商取引ばかりでな く、すでにマンションの出入り、企業の出退勤に利用されている。 ◆フィルタリングソフト(Filtering Software)〔情報社会〕 有害サイトを遮断するソフト。経済産業省の外郭団体のニューメディア開発協会が無料配 布しており、教育現場で最近利用が増えている。すでに全国の公立小中学校ではほぼ 100% パソコンが導入され、うち 60%近くがインターネットに接続されている。児童、生徒がア ダルト、カルト、暴力、殺人などのサイトを見る機会も増えているわけだが、このソフト を利用すれば有害なキーワードは自動的に遮断され閲覧できない。家庭でも利用されだし ている。 ◆ホームページ防護対策〔情報社会〕 ホームページの防護対策についての調査がテレコムサービス協会(プロバイダ、コンピュ ータ関連企業で組織の団体)がホームページ開設企業 150 社を対象調した調査では「防護 対策をとっていない」とする企業は 15%、 「わからない」との回答は5%あり、両者合わせ ると野放し状態は2割にのぼった。「ハッカーに攻撃された」は 34%、「ホームページが書 き換えられた」実害は3%で 45 社に1社の割。警察庁が 2000(平成 12)年公表した東証 1部上場とエネルギー、交通、金融など計 2000 社対象(回答 844 社)のサイバーテロ対策 状況調査では、上場企業 32 社(6.7%)が被害にあった経験をもつが、85%の上場企業が 「自社の対策は十分でない」と答えている。 ▲産業利用とシステム〔情報社会〕 ◆e‐Japan2002 プログラム〔情報社会〕 IT戦略本部の 2002(平成 14)年度の年次計画。高速インターネット構築、音楽、映像コ ンテンツのネット取引を促進するための著作権法改正などの法整備に重点をおいている。 ◆電子メール傍受法〔情報社会〕 サイバーテロやデジタル犯罪の急増で、電子メールを傍受する動きが世界的に高まり、イ ギリスでは 2000 年 10 月に法律が施行された。アメリカでも立法化の準備が進められてい る。イギリスの法律は、インターネットのプロバイダが、特定の送受信者のメールをすべ て傍受できる装置(ブラックボックス)をとりつけることを義務づけたほか、暗号で送受 信されるメールは、解読ソフトを捜査当局が入手できるとの内容。犯罪発生前に傍受体制 を整え、犯罪を早期追跡するねらいがある。暗号解読ソフトの提出を拒否すると最大限2 年の懲役刑となるが、(1)捜査には内相の許可が必要、(2)解読ソフトは捜査終了後廃 棄、(3)ブラックボックスの監視には独立機関があたることになっている。日本では4種 の犯罪(組織的殺人、集団密出入国、薬物取引、銃器売買)には、捜査当局が裁判所の傍 受令状と立会人のもとに、電話、携帯電話、電子メールの傍受ができるという通信傍受法 が 2000(平成 12)年7月 15 日施行され、全国警察本部に 62 台の傍受装備が配備されて いる。 ◆光伝送交差点〔情報社会〕 警察庁が東京都 23 区内の幹線道路 100 カ所に設けた監視カメラつき交差点。これまでも場 所により監視カメラがあったが、雑踏用、車ナンバー撮影カメラで、主に電話回線送信の ため画面分析に時間がかかった。光伝送カメラはデジタルなので鮮明なうえリアルタイム で送信され、デジタル処理による画像の数値化、相互通信も可能。交通量、人出数などが 計算でき、事故、事件のスピード対応に威力が発揮される。 ◆位置情報サービス〔情報社会〕 PHSを徘徊高齢者に持たせ、行方がわからなくなった場合位置を確認する行政サービス として発足したが、最近は全地球測位システム(GPS)と携帯電話の無線通信網を活用 し、徘徊高齢者、幼児ばかりでなく、盗難自動車、オートバイを発見する位置情報サービ スが注目されてきた。GPSによるので、位置確認の誤差はなくピンポイントで発見でき るのが特徴。インターネットや電話で位置確認の依頼があれば、すぐに検索して地図を送 付、要請に応じて警察に通報して警備員が捜索活動にあたるセコム方式が代表例。自動車 盗難は年間 20∼30%の割で増加、2000(平成 12)年は5万 6000 件に達している。 ◆ヒトGIS(Hito GIS)〔情報社会〕 航空写真測量、地図情報、位置計測技術を生かして、人体をデジタル化して3次元数値デ ータとして管理する人体管理システム。骨や臓器など人体各部位の位置や病巣の座標値を 磁気共鳴断層像撮影装置などの人体画像を利用してGIS(地理情報システム)でデジタ ル計測し、部位、病巣をビジュアルに表示、数値化する仕組みだ。体の内部を地図的にと らえて病気を診断するわけで、経験則、感覚的な判断による診断からデータに裏づけられ た治療ができる。医療現場、医療教育に役立てる。 ◆電子ナンバープレート(Electronic Number Plate)〔情報社会〕 ナンバーはじめ車体の大小、車種、車検情報、使用車種規制(NOx)の適不適を記録し たICチップ付ナンバープレート。道路に設けたアンテナを使いプレートの情報を電波で 読み取る。ITS(高度道路交通システム)のインフラとして、国土交通省が 2004(平成 16)年をめどに実用化を図る。時速 140 キロメートルまで対応可能な実験も実施。 ◆レーンマーカー(lane marker)〔情報社会〕 固定式情報発信装置のことで、例えば横断歩道に発信機を埋め込んで受信機を持っている 歩行者に音声情報を送れば、視覚障害者も安心して渡れるシステム。人工衛星を使うカー ナビゲーションより誤差が少なく、正確に情報が伝えられる。国土交通省がシステム化を 計画し、2002(平成 14)年に実用化をめざす。駅ホームや段差のある道路にも利用する。 ◆モバイルEC(Mobil Electronic Commerce)〔情報社会〕 移動体通信とくに携帯電話によるEC(電子商取引)。携帯電話の多機能化で今後携帯電話 ECが活発になると予想されるが、電子商取引推進協議会(ECOM)は課題点として(1) 携帯電話紛失時の個人認証方式や本人以外利用できない仕組みの確立、(2)商品を手にと れる実店舗販売との組合せの模索、(3)電波の届かない地域の決済サービス、(4)GP S(全地球測位システム)と連動した位置検索によるローカル、リアルタイム情報の提供 などをあげている。 ◆デビットカード(debit card)〔情報社会〕 デビットとは即時決済の意味で、買い物代金を銀行、郵便貯金の預金口座から即時引き落 とせる磁気式カード。2000(平成 12)年3月から出回り、取引件数は1カ月で 19 万件、 取引額は 86 億円にのぼった。サービスシステムの加盟店(約 10 万)で品物を買う場合、 設置されている端末にキャッシュカード(普段、銀行・郵便局で使っているカード)を挿 入し、暗証番号を入れて本人と確認されれば銀行引落しで品物が購入できる。クレジット カードのように書類の書込みが不要で手数料もない。 インターネットショッピングなど日常的なeコマースで普及されるとみられ、日本デビッ トカード推進協議会もできており、本格的なキャッシュレス時代のカードと目されている。 情報は暗号化され、暗証番号で本人識別されるが、暗証番号を盗まれると被害が出る盲点 もある。 ◆非接触カード(no touch card)〔情報社会〕 人に渡したり自動機械を通す接触型ではなく、ポケット内にしまったままでカードの中身 がわかり、本人識別ができるICカード。銀行のキャッシュカードと同じ規格の 0.7 ミリメ ートルの薄いカードの中に記憶装置のICチップが入っており、カード読取り装置に近づ けると発信された電波を受け取り、電波でICを作動させて情報を読み込む。入門許可書、 身分証明書、ICカード定期券(→別項)などにも応用されている。電波法で微弱電波が 使用されていたが、1998(平成 10)年の改正で 13.56 メガヘルツで空中電力1ワットの電 波も可能となったたため新非接触型カードも登場、12∼13 センチ離れていても識別できる ようになった。自動機器のスリットと接触しないので磨耗もせず、データのセキュリティ 性にもすぐれている。 ◆著作権権利情報集中機構(J‐CIS)(Japan Copyright Information System)〔情報社 会〕 マルチメディア・ソフトの著作権保護を目的に、文化庁が設立する新しい公益法人。文字、 データ、画像、動画、音声など多岐にわたる著作権を集中的に管理する目的で設立。マル チメディアは文字、映像、音声などデジタル化された情報をコンピュータで融合するシス テムで、複雑な流通経路をたどるため著作権の管理が検討課題だった。種類も膨大で、し かも融合して利用されるため個々のソフトの著作者をつきとめて許諾を得るのは困難視さ れてきた。音楽など著作権の集中管理が行われている分野では、権利者団体のデータベー スとJ‐CIS間にコンピュータを接続し、著作権の情報を検索できるようにする。 ●キーワード〔情報社会〕 ●日本のネットワーク利用(Use of Network in Japan)〔情報社会〕 NTT系情報通信総合研究所調べによると、2000(平成 12)年末のインターネット利用世 帯は前年末比 11.9%増の 1600 万世帯(普及率 34・0%)と3世帯に1世帯の割、ネット 人口は 74・0%増の 4500 万人(総務省推計では 4708 万人)となった。それが 04 年には 4000 万世帯、1億人に増加、光ファイバー、ADSL(→別項)利用の高速化も進み、高 速利用者は 3300 万世帯に達するという。電子情報技術産業協会調べでは、00 年度のパソ コンの国内出荷台数は前年度比 22%増えて 1210 万台と初めて 1000 万台を突破、過去最高 を記録した。一方、野村総合研究所の調査では、携帯電話の人口比の利用割合は 69・8% (スウェーデン、韓国に次ぎ3位)で、小中学生は4人に1人が所有(NTTドコモ調査) している。しかし、ネット苦情相談も急増、警察庁に 02 年中に寄せられた苦情は銀行口座 売買など有害情報相談 2896 件、名誉毀損・中傷 1884 件、詐欺、悪質商法 1396 件、商品 未着 1301 件、スパムメール 1352 件など1万 1135 件で、前年(2965 件)の約4倍(→「ネ ットワーク犯罪」→「不正アクセス犯罪」)。 ●ユビキタス社会(ubiquitous society)〔情報社会〕 原義は「あまねく存在する」という意味の英語。アメリカ・ゼロックスの研究所が提唱し たコンピュータ使用の概念に組み込まれて一般化した。家電製品がそうであるように、コ ンピュータの存在を意識させず、コンピュータが生活環境の中にごく自然に溶け込んでい る環境という意味に用いられ、現代はユビキタス情報社会ともいわれている。ネットワー クの中で、必要な情報を時間、場所と関係なく、迅速、安全に取り出せ、活用できる時代 というわけである。コンピュータを意識せず自在に使うことは、携帯電話のメールやイン ターネットなどで実証されている。高齢社会で高齢人口が増えると、高齢者と若年層との 間、高齢者間でもデジタル・デバイド(→別項)が生じる心配はあるが、現代は好むと好 まざるとにかかわらず、コンピュータを手足のように扱うユビキタスの時代となっている。 ●e‐Japan(イージャパン)(e-Japan)〔情報社会〕 政府のIT戦略本部が 2001(平成 13)年3月にうちだした高度情報社会の国家指針。 (1) 情報通信ネットワーク戦略、 (2)教育振興と人材育成、 (3)電子商取引(EC)の促進、 (4)行政の情報化(電子政府)と公共分野のIT活用促進、(5)ネットワークの安全・ 信頼性の確保など7項目を柱としている。(1)5年内に 3000 万世帯を高速ネット、1000 万世帯を超高速ネットへ接続可能とし、低料金アクセスを達成する、(2)全国民がネット を利用、多様情報を世界から入手、共有、発信できるようにする、(3)IT活用で新規事 業を創出、産業効率化を図り経済構造を高度化する、(4)03 年度までに電子政府を創設、 EC市場は 70 兆円規模にする、(5)遠隔教育・医療を普及させるなどの点を主眼とし、 5年後は世界最先端のIT国にするとうたわれている。目標達成のために個人情報保護基 本法はじめ商法、民法などIT関連法が改正された。 ●IT基本法〔情報社会〕 正式には高度情報通信ネットワーク社会形成基本法。情報通信技術による社会経済の変化 に対応し、高度情報通信ネット社会形成のための施策を迅速、重点的に推進することを目 的とした法律。2001(平成 13)年1月に施行された。同法は、高度情報通信ネット社会を 「高度情報通信ネットワークを通じて多様な情報、知識を自由、安全に世界規模で入手、 共有、発信することで、あらゆる分野で活力ある発展が可能となる社会」と定義づけ、そ のためには全国民がネットワークを利用できる機会をもち、情報通信技術の恩恵を受けな ければならず、ここにネットワーク社会の意義があるとしている。それにはネットワーク 拡充、コンテンツの充実、情報活用能力習得の推進、公正な競争の促進、専門的人材の育 成、規制改革、知的所有権の保護に基づいた電子商取引、電子政府の確立と促進、ネット ワークの安全性の確保などを基本施策としてあげ、これらの施策で経済構造改革、雇用創 出などを図る。施策を推進するのがIT戦略本部とIT戦略会議。 ●行政ICカード(政府多目的カード)〔情報社会〕 国や地方自治体の証明書交付、許可証申請など行政サービスに使えるICカード。役所の 書類を電子化し、役所に行かなくても自宅のパソコンで書類申請できる電子政府が実現す る 2003(平成 15)年度をメドに発行する。国民に個人番号を割り振る総務省の住民基本台 帳システムを行政機関が共通して利用、カード1枚で本人確認、個人記録に役立てようと いうものだ。官用だけでなく、買い物代金の決済にも用いようと 2001 年秋、全国 55 市町 村で 200 万枚のカードを配布して実験が行われた。現在では、住民票交付、転居届の提出 は実印持参で役所に赴かなければならないが、今後はカード処理ですませられ、パソコン で申請してもカードや暗証番号があれば本人と認定される仕組み。健康保険、介護保険、 公立大学学生証、公立図書館の利用証にも使われ、将来的には電子商取引、パスポート、 運転免許証もこのカードへの一本化が検討されている。カードには氏名、生年月日、性別、 住所の個人情報を格納、かざすだけで情報が読み取れる非接触型とする予定。問題はプラ イバシーの漏洩なので、公開カギと秘密カギを組み合わせた暗号カードを想定している。 インターネット〔情報・メディア〕 ▽執筆者〔インターネット〕 五藤寿樹(ごとう・ひさき) 聖徳大学助教授 1954 年名古屋市生まれ。筑波大学大学院退学。聖徳大学専任講師を経て、現職。日本社 会情報学会理事、OA学会、ACM会員。著書に『OA概論』『現代の経営管理』『データ ベース白書 2001』(いずれも共著)ほか。 ▲インターネット活用のための用語〔インターネット〕 ◆ケーブルインターネット(CATV Internet)〔インターネット〕 ケーブルテレビに利用するケーブルを利用しインターネットサービスを提供することやそ の利用形態。CATVインターネットともいう。ケーブルテレビは地域内の電柱にケーブ ルを張り、そのケーブルを家庭に引き込んで多チャンネルのテレビ放送を受信する。この ケーブルは専用のケーブルであることから周波数帯域が広く、テレビ放送以外にケーブル モデムを使用することでインターネットに利用できる。電話回線を利用するダイアルアッ プ接続は、インターネット利用料金のほかに電話料金を必要とするが、ケーブルインター ネットではインターネット利用料金のみで、さらに数メガ∼20 メガビット/秒の高速な通 信が可能である。ASDLとともにブロードバンド通信として利用が増加している。 ◆ポータルサイト(Portal Site)〔インターネット〕 WWWブラウザを利用する場合に最初に表示されるホームページ。ポータルは玄関の意味 で、ホームページを閲覧する場合の入口として利用するホームページ。検索エンジンやリ ンク集サイト、各種ニュースのサイトをポータルサイトにする場合が多い。バナー広告等 の収益性から検索エンジンやプロバイダ等が利便性のあるホームページを提供しポータル 化を進めている。WWWブラウザのホームページ設定でポータルサイトとするホームペー ジのURLを入力すれば、ユーザーが自由に設定することができる。 ◆マルチキャスト(Multicast)〔インターネット〕 特定多数のグループに対してデータを配信すること。一般にインターネットでは、特定の 一つのコンピュータに対してデータが配信されるユニキャストが利用される。なお、不特 定多数に対してデータを配信することをブロードキャストという。 インターネット放送(→別項)等のコンサートライブの配信では、ユニキャストでおのお のの要求元におのおののデータを配信するとサーバーにもネットワークにも大きな負荷が かかる。また、ブロードキャストではデータを一度配信するだけでよいがネットワーク全 体に配信され、ネットワークの負荷が大きく他の通信に影響がでる。それに対して、マル チキャストでは、データを要求したグループ(例えば、インターネット上のコンサートラ イブの参加者)に配信する場合、一度送信すれば、マルチキャストに対応したルータによ り、参加者のみに配信されることになる。 ◆ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)〔インターネット〕 インターネットのドメインネームやIPアドレスの管理を行う国際組織。1998 年9月まで アメリカ政府との契約に基づき南カリフォルニア大学内のIANA(Internet Assigned Numbers Authority)がIPアドレスの割当てやドメインネームの調整を行ってきたが、 契約終了にともない、国際的な議論が活発化し、民間を中心にアメリカ・カリフォルニア 州に非営利公益法人ICANNを 98 年 10 月に設置し、IANAの機能を移管した。2001 年より、gTLD(generic Top Level Domain com ドメイン(――.com)や edu ドメイン ( ― ― .edu ) 等 ) の ほ か に 新 g T L D が 制 定 さ れ、.biz,.info,.pro,.aero,.museum,.name,.coop,の七つのサービスが開始された。 ICANNの下に、アジア太平洋地区を担当するAPNIC(Asia Pacific Network Information Center)がある。また、このAPNICの下にJPNIC(社団法人日本ネ ットワークインフォーメーションセンター)が位置づけられ、JPドメイン名(――.jp) を管理している。 ◆コンピュータウイルス(Computer Virus)〔インターネット〕 ネットワークや記憶媒体を介して、コンピュータシステムに被害を及ぼすソフトウェア。 1986 年のパキスタン・ブレイン・ウイルスが最初のコンピュータウイルスといわれている。 経済産業省のコンピュータウイルス対策基準では、第三者のプログラムやデータベースに 対して、意図的に何らかの被害を及ぼすようにつくられたプログラムで、自己伝染機能(自 らの機能によって、ほかのプログラムに自らをコピーしたり、システム機能を利用して自 らをほかのシステムにコピーすることにより、ほかのシステムに伝染する機能)、潜伏機能 (発病するための特定時刻、一定時間、処理回数等の条件を記憶させて、発病するまで症 状を出さない機能)、発病機能(プログラム、データ等のファイルの破壊を行ったり、設計 者の意図しない動作をする等の機能)のうちひとつ以上有するものをいう。コンピュータ ウィルスには、ファイル感染型(プログラム等にウィルスが仕込まれ、プログラムを実行 すると発症する)、ブートセクター感染型(コンピュータが起動するときのブートプログラ ムに感染する)、マクロ感染型(Word や Excel 等のマクロ機能(処理を自動化するために 実行手順を記述しておき、必要なときに実行する機能)を利用して感染・発病する)、トロ イの木馬型(有益なプログラムに見せかけて望ましくない動作をする)、ワーム型(ネット ワーク環境を利用して自己増殖をする)等がある。 ブロードバンド通信の普及により、ケーブルインターネット(→別項)やADSL(→別 項)が急増し、家庭でインターネットに常時接続するパソコンが増加したことからコンピ ュータウィルスの被害が増加している。特に、メール機能を悪用したウィルスの被害が多 い。2000 年9月に発生したマトリックス(MTX)、同年 12 月に発生したハイブリス (Hybris)、01 年7月に発生したサーカム(Sircam)、同年8月に発生したコードレッド (CodeRed)、同年9月に発生したニムダ(Nimda)の被害件数が多い。 ◆サイバースクワット(Cyber-squatting)〔インターネット〕 ドメイン名の取得が先願主義であることから、ドメイン名を転売、中傷を目的に取得し、 不法占拠(スクワット)すること。特に欧米で問題化しており、世界知的所有権機関(W IPO)やICANN(→別項)で検討が行われている。日本のJPドメイン名紛争は日 本知的財産仲裁センターが解決処理を行っている。 ◆ブラウザクラッシャー(browser crasher)〔インターネット〕 ホームページに仕掛けをして、そのページを閲覧すると無限連鎖のポップアップ広告や、 メールソフトを起動させ、Webブラウザに過剰な負荷をかけ、Webブラウザをフリー ズさせたり、コンピュータ自体にも被害をもたらすホームページ。略してブラクラともい う。 ◆無料ホームページ(Free Web Site)〔インターネット〕 ホームページを無料で開設することができるサービス。個人がホームページを開設する場 合、契約しているプロバイダ内に設置できる場合が多いが、一般に容量が少なく、利用で きるサービスも限定される。無料ホームページサービスは、自ら開設したホームページに、 無料ホームページプロバイダからバナー広告等が付加されるが、その広告により無料で開 設できる。容量も一定量を確保でき、CGI(→別項)等を利用することができる。 ◆フリーメール(Free Email)〔インターネット〕 無料の電子メールサービス。バナー広告やDM等の広告料金による運営により無料で利用 できる。Web メールと POP メールとがある。 Web メールは、電子メールをホームページ(Web)上でやりとりする仕組みで、Web ブラ ウザ上の操作でメールの受発信を行う。POP メールは、メールソフト(メーラー)を利用 する仕組みで、メーラーを設定する必要がある。Web メールは、メールの読み書きしてい る間インターネットに接続していなければならないが、POP メールは、そのつどインター ネットとの接続を切断でき、ダイアルアップ接続の場合通話料が節約できる。メールアカ ウント(アドレス)を取得するには、Web ブラウザから必要事項を入力し利用規約に同意 すれば、即座に発行され直後から利用できる。フリーメールには架空名義でメールアドレ スを取得できるものもあり、ネットオークション上での詐欺やスパムメール(→別項)等 の不正利用に使われる可能性がある。一方、Web メールではパソコンを持参しなくても、 外出先でメールの交換が可能となるなどメリットも多い。 ◆スパムメール/迷惑メール(Spam Mail)〔インターネット〕 受け手の意思を無視して一方的に送りつけられる、広告やダイレクトメールなどの営利目 的の電子メール。郵便によるダイレクトメールに対してコストがかからないことから乱発 され、受け手に迷惑が及ぶ。テレビのコメディー番組「Monty Python's Flying Circus」の なかで、レストランで注文をする夫婦がスパム(Spam 豚肉加工品の缶詰)と連呼される ため注文ができない場面から、本来の電子メールのやりとりが、必要でない電子メールが 入ることにより邪魔をされる例えに、スパムメールとよばれているが、正しい用語として は、「招かざるコマーシャル電子メール」UCE(Unsolicited Commercial E-mail)がよ い。スパムメールは、ネズミ講(無限連鎖販売)まがいのものやアダルト広告など悪質の ものが多く、また、受け手の意思を無視して送られてくるメールを受信するのに、インタ ーネット接続料金を支払わなければならない問題や、第三者のメールサーバーを不正に経 由して送られ、受け手はそのサーバーから送られたと思ってしまうことなどから、対策が 必要である。iモードなど携帯電話によるインターネットサービスにおいても出会い系サ イトからの勧誘メール等の迷惑メールが社会問題化している。 ◆インターネット電話/IP電話(internet telephony / IP phone)〔インターネット〕 インターネットを経由して音声の送受信をすることで、通常の電話のように利用する方法。 インターネットを利用することで通話料が格安となる。 パソコン対パソコンの方式だけでなく、パソコンを保有しないユーザーに対して、電話対 電話で途中をインターネットを経由する方式も利用されている。これは、最寄りのサービ ス拠点まで通常の電話回線で接続し、そこから通話先の拠点までをインターネットを経由 して送り、さらに通話先まで電話回線で接続することになる。 ◆インターネット情報誌/メールマガジン(WebZine / Mail Magazine)〔インターネット〕 インターネットを利用してニュースや各種情報の記事を提供するもの。ホームページで提 供するものと、電子メールで提供するものがあり、ホームページで提供するものを、ウェ ブジン(WebZine)とよぶ。WebZine の Zine は、小規模で無料配付の出版物という意味で あったが、現在は有料のものも多い。また、電子メールで提供するものはメールマガジン、 電子メール新聞とよばれ、各メールアドレスに配信される。2001 年6月創刊された小泉内 閣メールマガジンは、7月5日現在 210 万 7000 人の読者が登録した。 ◆インターネット放送(internet broadcasting)〔インターネット〕 インターネット上で音声や動画等のマルチメディア情報を提供するサービス。音声や動画 な ど の デ ー タ を ブ ラ ウ ザ で リ ア ル タ イ ム で 再 生 す る ス ト リ ー ミ ン グ 技 術 (streaming technology)の進歩により、コンサートやスポーツのライブ放送、企業のイベント放送、新 聞社のニュース放送、ラジオ局の競馬中継や学習塾の授業放送等が行われている。また、 オンデマンド放送として、過去に作成されたものを見たいときに再生することもできる。 ◆検索エンジン(search engine)〔インターネット〕 膨大なホームページのなかから、知りたい情報のキーワードを入力することで、そのホー ムページを検索するサービス。検索エンジンはホームページをデータベース化し、その検 索機能を提供する。検索エンジンには、データの収集方法から「登録型」と「ロボット型」 に分類できる。 「登録型」は、例えば Yahoo!Japan( http://www.yahoo.co.jp/)のように担 当者が手動で情報を登録し、その登録された情報のなかから検索を行う。「ロボット型」は 例えば goo( http://www.goo.ne.jp/)のようにロボットとよばれるプログラムによって、イ ンターネット上から情報を自動的に検索し、収集を行う。iモードなど携帯電話によるイ ンターネットサービスが普及したことから、携帯電話専用の検索エンジンも登場している。 ◆次世代インターネット(next generation internet)〔インターネット〕 インターネットの接続スピードを現行の 100 倍から 1000 倍に高める計画。アメリカの次世 代インターネットの計画には二つあり、ひとつは政府主導の「次世代インターネット構想」、 もうひとつは民間主導の「インターネット2」である。「次世代インターネット構想」は、 1997 年から3年間毎年1億ドルの予算で開始されたプロジェクトで、国防総省、エネルギ ー省、NASA、全米科学財団、国家標準技術院が参加している。 「インターネット2」は、 96 年に 34 の大学が、大学研究だけの高速ネットワークを構築するプロジェクトで開始され、 その後大手ネットワーキング機器メーカーの資金援助や全米科学財団を通して政府も資金 援助することになり、産官学協力のプロジェクトとなった。2001 年8月現在 180 以上の大 学が参加するUCAID(University Corporation for Advanced Internet Development) により推進されている。日本では、98(平成 10)年 12 月に超高速・高機能次世代インタ ーネットコンソーシアム(Real Internet Consortium)が、8大学4企業により研究開発が 行われている。99 年1月には郵政省(現総務省)の「次世代ネットワークに関する懇談会」 で推進方策が検討されている。01 年1月政府のIT戦略本部で決定された「e-Japan 戦略」 の世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成では、「競争および市場原理のもと、5 年以内に超高速アクセス(目安として 30∼100 メガビット/秒)が可能な世界最高水準の インターネット網の整備を推進することにより、必要とするすべての国民がこれを低廉な 料金で利用できるようにする」としている。 ▲インターネットの基礎用語〔インターネット〕 ◆ADSL(非対称デジタル加入者線)(Asymmetric Digital Subscribe Line)〔インターネ ット〕 既存の銅線による電話回線を利用した高速データ通信を行う技術。電話局と加入者宅に信 号分離装置(スプリッタ)を設置し、アナログ音声信号と音声信号より高い周波数帯を利 用するデジタルデータ信号を分離する。このことにより、1本の回線で音声電話によって 通話しながらデータ通信を同時に行うことができる。1990 年代初頭に開発された。ADS Lはビデオオンデマンド用に開発され、各種DSL(デジタル加入者線)のうちいちばん 最初に開発された技術である。非対称とは、加入者宅から電話局への上り方向の伝送速度 と電話局から加入者宅への下り方向の伝送速度が異なり、下り方向が高速であることから きており、インターネットの利用特性にもマッチしている。日本では、2000(平成 12)年 よりサービスを開始している。 ◆CGI(Common Gateway Interface)〔インターネット〕 WWWブラウザからの要求により、WWWサーバーでCGIプログラムを実行するための インターフェイス。HTMLで記述されたホームページは、WWWブラウザからの要求に よりWWWサーバーからファイルのデータを送っているだけだが、CGIを利用すること で双方向的な処理が行える。例えば、ホームページの来訪者数の累計をカウンタで表示し たり、ホームページ上のアンケートに回答する場合やショッピングの申込書、Web メール や掲示板、チャット等に利用される。CGIプログラムはCGIスクリプトによって記述 されるが、Perl 言語などが利用される。 http://www.marimba.com/ ◆Cookies(クッキー)〔インターネット〕 WWWサーバーのユーザー管理システム。WWWサーバーで生成した Cookie 情報をユー ザーに転送しておき、そのページにアクセスしたときに Cookie 情報を送り返すことで、ユ ーザー別にカスタマイズしたサービスが可能となる。これは、WWWのHTTP(→「プ ロトコル」)では、サーバー側でだれがアクセスしたのかわからず、例えば1日に1万回の アクセスがあったとしても、1万人の人がアクセスしたのか1人の人が1万回アクセスし たのかわからない。これを Cookie を利用するとアクセスした人を特定でき、そのアク セスの履歴によりその人に適したサービスが提供できるようになった。 ◆GIF(Graphic Interchange Format)〔インターネット〕 ホームページで最も一般的な画像データ形式。アメリカのパソコン通信会社 Compu Serve 社が提唱した。GIF画像の表示形式として、「インターリーフGIF形式」というデータ を読み込むにしたがって徐々に鮮明になってくる表示方式や「透過GIF形式」というG IF画像の背景を透明にし、ページの背景に同化してその画像のみ表示されるもの、また 「アニメーションGIF形式」のように簡易なアニメーションを表示する形式等がある。 1999 年アメリカ・UNISYS社が、同社が保有するGIFイメージファイルのフォーマ ットに必要なLZW圧縮アルゴリズムの特許に対してライセンス条件を変更し、GIFフ ォーマットを使用したホームページを公開する場合も同社よりライセンス(ライセンス料 500 ドル)を取得しなければならなくなり、ライセンス料等の発生しない画像形式であるP NG形式に移行するホームページが増えるなどGIFライセンス問題が起きている。 ◆HTML(Hyper Text Markup Language)〔インターネット〕 インターネットのホームページを記述する言語。SGML(Standard Generalized Markup Language)という文書記述言語の国際標準を簡素化し、WWW用にページ間をリンクする ハイパーリンク機能などを拡張したもの。HTMLの最新バージョンは、1997 年にW3C (World Wide Web Consortium WWWに関する標準使用を策定する非営利法人)から勧 告されたHTML4.0 であり、自動音声読み上げ装置や点字ディスプレイ等すべての人に対 応できるようにさまざまな方法をサポートする仕様である。 ◆IPv6〔インターネット〕 インターネット利用者数の増大にともなう、IPアドレス(インターネット上で、コンピ ュータを識別するための固有番号)の枯渇に対して、現在(IPv4)の 32 ビットから 128 ビットへ拡張を行うもので、IETF(Internet Engineering Task Force)が 1995 年に標 準仕様を発表した。IPv6が普及すれば家庭内の家電や自動車等もインターネットに接 続することが可能となりさまざまな利用法が広がる。2000(平成 12)年 10 月家電メーカ ーや通信業者などが参加した「IPv6普及・高度化推進協議会」が発足し利用方法など の検討が始まった。 ◆Java〔インターネット〕 アメリカ Sun Microsystems 社が 1995 年に発表した、インターネットに対応したオブジェ クト指向プログラム言語。Java で記述したプログラムは、コンパイルされて中間言語形式 のバイトコード(Java アプレット)にして実行される。Java アプレットはコンピュータの 機種やOSに依存することなく実行でき、インターネットで転送し、ブラウザ上で展開で きる。 ◆NetNews〔インターネット〕 インターネット上の電子掲示板サービス。NetNews は、電子メールと違い、不特定多数に 特定のテーマに関する情報を配信するサービス。NetNews には学術的テーマから趣味に至 るまで多数のニュースグループがあり、記事(またはアーティクル)を投稿(またはポス ト)すると、世界中のニュースサーバーへ転送される。 ◆SET(Secure Electronic Transactions)〔インターネット〕 インターネット上でクレジットカード決済を安全に行うプロトコル(通信規約)。アメリカ Visa International 社、Master Card International 社等が 1996 年にそれぞれ独自の規約 を統一して共同標準化し、97 年に正式版が策定され、同年から実用化されている。 SETでは、取引の参加者が電子証明書を取得することが前提となる。このことから、他 者と偽って取引する「なりすまし」を防ぐことができる。そして、注文のデータとクレジ ットカードのデータが別々に暗号化され、加盟店(販売者)ではクレジットカードのデー タを解読できず、またクレジットカード会社には注文内容が伝わらない。これは、現実の システムでは、加盟店がクレジットカード番号を見ることができるという問題に対し、よ り安全性が高く、またクレジット会社に購買履歴を知られることがない利点がある。 ◆プロトコル(protocol)〔インターネット〕 ネットワーク上で正確にデータを交換するために従わなければならない通信規則。URL で最初の http://は、プロトコル名を表す。http は hyper Text Transfer Protocol の略で、W WWでの通信プロトコル。 ◆FTP(File Transfer Protocol)〔インターネット〕 ファイル転送のプロトコル、またはそのサービスをさす。つまりインターネットを経由し て特定のコンピュータにあるファイル(プログラムやデータ等)を自分のコンピュータに ダウンロード(取り込む)することや、逆に相手のコンピュータの特定の場所に自分のフ ァイルをアップロード(書き込む)することができる。FTPはセキュリティの点から、 パスワード等によるアクセス権限をもつユーザーにしか利用できない。しかし、不特定多 数のユーザーに対して自由にファイル転送できるものもあり、これを anonymous FTP と よび、フリーウェア等をダウンロードすることができる。 ◆TCP/IP(Transmission Control Protocol/ Internet Protocol)〔インターネット〕 アメリカARPA(高等研究計画局)の提案により作成されたプロトコル群で、インター ネット利用の標準プロトコル。TCP/IPは、1983 年からインターネットの前身である ARPNETで公式に採用された。 アプリケーション層、トランスポート層、インターネット層、ネットワークインターフェ イス層の四つの階層からなる。アプリケーション層は、WWWや電子メールで使用するH TTP(Hyper Text Transfer Protocol)やSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)等 のプロトコルで、トランスポート層はTCP(Transmission Control Protocol)とUDP (User Datagram Protocol)、インターネット層はIP(Internet Protocol)など、ネット ワークインターフェイス層はインターネットや公衆回線を利用するためのプロトコルから なる。 ◆Telnet〔インターネット〕 ネットワークを介して遠隔地のホストコンピュータに接続し、そのコンピュータをあたか も自分のコンピュータのように操作することができる、TCP/IPのアプリケーション プロトコルまたはそのサービス。 ◆WWW(World Wide Web)〔インターネット〕 ハイパーテキスト形式の分散型情報システム。Web とよぶ場合が多い。世界中の情報(ホ ームページ)を相互にリンクすることから名付けられている。 1989 年スイスの欧州素粒子物理学研究所の Tim Berners-Lee らが提案した。 WWWは、通信プロトコルにHTTPと、情報記述言語としてHTML(Hyper Text Markup Language)、さらに情報へのアクセスメソッドと格納場所を指定するURLによ って構成される仕組みである。 ◆URL(Universal Resource Locator)〔インターネット〕 インターネット上の情報の位置を示す書式。Web ブラウザでホームページにアクセスする ときに入力する。プロトコル名、ドメイン名等からなる。HTTP3.2 まではURLという 言葉が使われてきたが、HTTP4.0 からURI(Uniform Resource Identifiers)という 言葉が使用されることになり、URLでの命名規則をより細かに規定したものをURI、 その簡略型をURLとしてよびわけるようになった。 ◆ドメイン名(domain name)〔インターネット〕 インターネットに接続する組織等の名称。右から左へ、トップレベルドメイン(国の識別 名称=jp は Japan の略)、第2レベル属性(co は company の略で、企業)、組織レベル(組 織の名称等)である。さらに左にサブドメインレベルとして部門等をつけることもできる。 なお、インターネットはアメリカで構築され、アメリカ以外に接続していなかった歴史的 背景から、アメリカでは国の識別名称はつけず、属性レベルを3文字(例えば、.com(ド ット・コム)のように commerce の略で商業を表す)で設定する。ドメイン名は、英数字 と記号で表記されたが、日本語の表記も可能な汎用JPドメイン( ―― .jp)が、2001(平 成 13)年2月より導入された。 ◆VRML(Virtual Reality Modeling Language)〔インターネット〕 3次元グラフィックスの記述言語。仮想空間をブラウザ上に構築でき、それを利用すれば 3次元空間のなかを自由に歩き回る(ウォークスルー)等のバーチャルリアリティ体験が できる。1994 年から規格化がはじまり、最新の仕様は 96 年選定されたVRML2.0 で、97 年ISOの国際標準規格になり、VRML97 とよばれている。現在、VRML3.0 が、V RMLコンソーシアムで提案、審議されている。 ◆XML(eXtensible Markup Language)〔インターネット〕 インターネットに対応した構造化文書のデータ記述言語。1998 年にW3C(World Wide Web Consortium WWWに関する標準使用を策定する非営利法人)においてXML1.0 が 勧告された。 ホームページを作成するHTMLは情報の表示の制御が主たる機能であり、文書がもつ構 造に対する表現機能はあまり考慮されていない。そもそもHTMLは、SGML(Standard Generalized Markup Language)という文書記述言語の国際標準を簡素化しWWW用にし たものであり、インターネットの普及により、元来SGMLが保有していた文書構造を表 現する機能の必要性が認識されるようになった。つまり現在のホームページでは情報が表 示されたが、それを利用者がコンピュータ処理で自動的に必要な情報のみを加工すること はできなかった。XMLは、文書構造を独自に定義することができ、文書構造を手掛かり にそれを可能とするばかりか、多様な使い方にも対応できる厳密な仕様を定め、しかも簡 潔に扱えるようにする。 ◆サーバー(server)〔インターネット〕 特定のサービスを提供するコンピュータ。インターネットに接続するサーバーにホームペ ージの提供を行うWWWサーバー、メールの送受信を管理するメールサーバー、NetNews の配信を行うニュースサーバー、ドメイン名に関する情報を管理するネームサーバー、F TPによるファイル転送の管理をするFTPサーバー等がある。 ◆ネチケット(netiquette)〔インターネット〕 Network と Etiquette を合わせた造語。ネットワーク上のエチケットという意味。 ◆FAQ(Frequently Answered(Asked)Questions)〔インターネット〕 頻繁にある問い合わせと、その回答。技術的な質問等に対して、ホームページ上にFAQ コーナーを設けてあるものが多く、そこを読めば一般的な問題は解決することが多い。 ◆ファイアーウォール(fire wall)〔インターネット〕 組織内のコンピュータやLANに外部からの侵入を防ぐ目的で設置してあるセキュリティ システム。本来、防火壁という意味。組織内のネットワークとインターネットの間に設置 して外部からの不正アクセスを防止する。 ◆プル技術/プッシュ技術(pull / push technology)〔インターネット〕 プル技術は、利用者自ら引き寄せて(プル)情報を得る形態の技術で、従来のブラウザで 行われている形態。プッシュ技術は、提供者から情報を押し出して(プッシュ)利用者が 情報を得る技術。Point Cast や Castanet 等がその例である。 ◆ブラウザ(browser)〔インターネット〕 ホームページを閲覧するソフト。WWWブラウザのことで、Web ブラウザともよぶ。イン ターネット上のホームページを閲覧し、ハイパーリンクにより必要とする情報を拾い読み (ブラウズ)することができる。Netscape Navigator や Internet Explorer などが代表 的なブラウザである。 ◆プロバイダ(ISP)(Internet Service Provider)〔インターネット〕 インターネット回線接続業者。正確にはインターネット・サービス・プロパイダである。 プロバイダは階層化が進んでおり、国内、国際のバックボーン回線をもつものを1次プロ バイダ、1次プロバイダのサービスを利用して、自社のサービスを提供するものを2次プ ロバイダ、同様に2次プロバイダのサービスを利用して、自社のサービスを提供するもの を3次プロバイダとよぶ。 ◆ホットリスト(hot list)〔インターネット〕 ブラウザのURL登録機能。頻繁に利用するホームページを登録しておくことで、URL を入力する手間を省く。ブックマークとかお気に入りのページ等とよばれる。 ◆メーリングリスト(mailing list service)〔インターネット〕 グループ内の電子メールサービス。そのメンバーがメールを出すと、グループ全員に配信 される。参加者はメーリングリストサーバーに電子メールを送信すると、メーリングサー バーは送られてきたメールをメンバー全員に配信する。 ◆レップ(representative)〔インターネット〕 アメリカの広告業界で多数のメディアをとりまとめて広告管理を行う業者のことをメディ アレップとよぶ。日本では広告メディアがさほど多数存在しないことからこのような用語 はあまり使われなかったが、膨大に存在するホームページに広告を掲載する場合、業者の 存在が必要になってきている。レップは、複数のウェッブコンテンツ提供者と契約し、広 告代理店やクライアント企業から出稿の依頼を受け、そのクライアントに最適なウェッブ を提案し、各ウェッブサイトに広告を配信する。 ◆ローミング(roming service)〔インターネット〕 国際間でプロバイダ同士が提携をし、お互いのアクセスポイントをそれぞれの利用者が利 用できるようにしたサービス。海外に行きインターネットに接続する場合、国際電話によ り日本のプロバイダにアクセスする例が多かったが、ローミングサービスによりコストを おさえることができるようになっている。ローミングサービスを受ける場合には、1分に つき 10 円前後の料金が加算される。 ◆OCN(Open Computer Network)〔インターネット〕 NTTのインターネット接続サービス。OCNサービスは、ベストエフォート型とよばれ、 従来の既存ネットワークが品質維持型であるギャランティー型に対して、トラフィックが 集中すると伝送速度が遅くなるなど、信頼性よりは低価格提供を優先したネットワーク。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 2002 年版] コンピュータ〔情報・メディア〕 ▽執筆者〔コンピュータ〕 細貝康夫(ほそがい・やすお) システムコンサルタント 1934 年神奈川県生まれ。防衛大学校理工学研究科卒。防衛庁技官、(株)三菱総合研究所 主任研究員などを経て、現職。著書は『データ保護と暗号化の研究』『コンピュータウイル スの安全対策』『カードビジネスのすべて』など。 ◎解説のフォーカス〔コンピュータ〕 量子情報技術が拓くコンピュータの新展開 ●最近、企業や大学では原子や分子などを1個ずつ操って半導体材料などをナノ(10 億分 の1)レベルで制御する「量子情報技術(QIT)」が注目されている。QITによる量子 暗号の鍵配布の実現が 2010 年、用途を特定した量子コンピュータが早くても 10 年、汎用 型が 15 年以降だと予測されている。 ●量子コンピュータの実現をめざして、実用的な量子情報処理のための基本素子(量子ビ ット)の研究開発が進展している。絶対に解読が不可能とされる量子暗号を用いた通信シ ステムの実験に国内で初めて成功した。 ●DNAコンピュータとよばれる新しい計算手法を使って遺伝子を検査する技術が開発さ れた。 ●ミックスド・リアリティ(複合現実感)の実用化が外科手術の医療現場、仮想現実のな かで貴重な体験が得られるエンターテインメントやゲームなどで進展している。 ●複数のサーバーに業務を分ける従来の分散型から、ユーザーが各種業務を集約した一つ のサーバーから必要な機能をインターネットを介して取り出す統合型へとサーバーの需要 が急速に変化してきた。そのため、「次世代メガサーバーの開発」が急速に進展している。 ★2002 年の新語〔コンピュータ〕 ★ニューロLSI(neuro LSI)〔コンピュータ〕 デンソーの基礎研究所は脳の神経回路を模したニューロLSI(大規模集積回路)を大幅 に小型化する新しい手法を開発した。ニューロLSIは画像認識など処理が複雑になるほ ど回路が大きくなるという問題があった。 神経細胞(ニューロン)の情報処理をまねた演算は、掛け算や足し算を繰り返し、特殊な 関数(シグモイド関数)を用いるため、大規模な回路とメモリーが必要だった。デンソー は、これらとほぼ同じ計算結果が得られる、確率関数を応用した簡単な演算方法を新たに 開発した。 10 個の入力信号があるニューロン1個を回路におきかえた場合、現在の演算では 25 万個以 上の素子が必要になるが、新方式では2万個程度ですみ、回路面積を 10 分の1以下に小型 化できるという。この演算を、障害物を回避するロボットなどの制御に応用したところ、 従来法と同等の機能を示したという。 この研究は、名古屋産業科学研究所の産官学共同プロジェクト「創発型ソフトコンピュー タ」の成果。デンソーは個人の好みを学習できるエアコン操作や、周辺環境の変化に対応 できるロボット制御などの応用を想定して実用化をめざす。 ★DNAチップ/遺伝子検査(DNA chip / genetic screening)〔コンピュータ〕 東京大学とオリンパス光学工業の共同研究チームは、多数の計算を同時並列的にこなせる 「DNA(デオキシリボ核酸)コンピュータ(→別項)」とよばれる新しい計算手法を使っ て遺伝子を検査する技術を開発した。オリンパスはこの技術を応用して、処理スピードが 速い遺伝子診断装置の実用化をめざす。新技術は、がん遺伝子など病気に関連した遺伝子 が体内で働いていないかを調べる検査に利用する。 がん遺伝子や糖尿病関連遺伝子など、検査したい病気の遺伝子とだけ結合するDNAチッ プを、例えば1万種類つくり、それぞれを見分けるため1から1万までの番号の代りにな る部分をチップの一部につける。これを患者の血液などから遺伝子を抽出した溶液に混ぜ、 特殊な処理を加える。 溶液の中ではDNA同士が複製を繰り返したり、不要な部分が切れるなど一連の反応が順 次起きる。最終的に生まれるDNAチップの番号部分を読み取ると、患者の細胞でどんな 遺伝子が活動しているかが分かる。 実験では約3時間で検査が完了。既存の手法に比べ、検査全体にかかる時間は2分の1か ら3分の1ですんだという。 ★量子暗号(quantum encryption)〔コンピュータ〕 三菱電機は、北海道大学電子科学研究所と共同で、絶対に解読が不可能とされる量子暗号 を用いた通信システム実験に国内で初めて成功した。 「量子暗号」とは、「量子を観測すると、その量子の状態は必ず影響を受ける」というハイ ゼンベルクの不確定性原理を応用した暗号方式のこと。つまり、量子の重ね合わせの状態 にある量子ビットを外部から一度でも観察すると、同時に0と1の両方の値をとっていた 状態が、0か1のどちらかに決定してしまうという性質を利用している。この性質を利用 すれば、量子ビットの状態変化の有無により、通信途中で傍受(観測)されたかどうか、 の判定が可能になる。盗聴が行われると、ひとつひとつの光子に、情報を搭載する量子暗 号が反応、盗聴の事実が確認できる。 共同実験では、情報を暗号化したり元の状態に戻したりするときに使う「共通カギ」を光 ファイバで 200 メートル伝送することに成功した。光子は波の性質をもっており、縦か横 の方向に振動する。どちらかを0か1と決めておけば、カギの情報を送ることができる。 インターネットを利用した電子商取引や金融機関の電子決済、「電子政府」を実現させるた めには、暗号技術は不可欠で、研究開発が活発になっている。しかし、既存の暗号技術は、 どんなに進歩しても、最新鋭のコンピュータを使って膨大な時間をかければ、暗号情報が 解読されてしまう危険性がある。量子暗号の場合は、その心配がない。 ★C言語用探索型デバッグツール(the search-style debug tool for C language)〔コンピュ ータ〕 東芝はソフトウェアのバグを効率的に探し出す探索型デバッグツールを初めて開発した。 このツールは「Prolo」とよび、CやC++言語で書かれた逐次、マルチタスクプロ グラムまで対応できる。 記録した動作ログの中からバグを含み、不具合が生じた動作ログを異常動作ログとして把 握し、それに似た正常動作ログを探し出して比較する。この比較により正常動作ログでは 起こっていない動作を異常動作ログから検出し、デバッグ領域を絞り込んでいく作業など、 一連の過程を自動化した。 マルチタスクなどの複雑なプログラムやシステム規模が大きくなるほど、バグ探索効果も 大きく、初心者でも熟練プログラマーと同等のデバッグ作業ができ、デバッグ作業時間を 半減できるという。 ログの特徴を表す値や類似度計算を行い、プログラム動作の定量評価を行っているため、 定量的にデバッグすべき領域を絞り込んでくれるほか、ソースコードを調べる優先順位も 示すことができる。 ★量子ビット(qubit;quantum bit)〔コンピュータ〕 量子計算の基本となる情報量を量子ビットまたはキュビットという。通常のビットが0ま たは1しか保持できないのに対し、量子ビットは0と1の任意の重ね合わせを保持できる (→「量子コンピュータ」)。量子コンピュータの基本単位となる量子ビットの実現に向け て、核磁器共鳴(NMR)、固体内双極子‐双極子相互作用、電子のスピン状態、単電子ト ンネル効果、高温超伝導ジョセフソン接合等を利用する方式が提案されている。 ▲話題のコンピュータ〔コンピュータ〕 アメリカ・IBMは、世界最高速のスーパーコンピュータ「ブルージーン」の開発にのり だした。演算処理能力は1秒間に 1000 兆回で、用途はヒトゲノムの解読に続くたんぱく質 の機能解析などの研究。GRAPE6は、6代目の世界最速の天文学専用スーパーコンピ ュータで多数の星の間に働く重力を計算する。 ◆スーパーコンピュータ(super computer)〔コンピュータ〕 同時代のコンピュータのなかでも最も超高速の演算能力をもつものの名称である。原子力、 気象、宇宙などの膨大な計算が要求される分野で利用されている。最初、アメリカ・クレ イ社のCRAY‐1(クレイ・ワン)が市場に出荷され、この名前が浮上した。スーパー コンピュータには、ベクトル型とスカラー型がある。 現在のアメリカ・クレイ社は 1999 年にアメリカ・シリコングラフイックス(SGI)のス ーパーコンピュータ部門を買収したアメリカ・テラコンピユータが社名変更して発足した。 スカラー型の市場動向としては、アメリカ・クレイ社は、2001 年夏に「スーパークラスタ ー」を販売した。IBMは処理速度が 12 テラフロツスの「RS/6000SP」を発売した。 NECは処理速度が 141.3 ギガフロツプスの「TX7‐スーパードーム」を、富士通は、 処理速度が 1.12 テラの「VPP700Eシリーズ」を発売した。 ベクトル型の市場動向としては、アメリカ・クレイ社は1CPU当たり 64 ギガフロツプス の「SV1」、NECは最大処理能力が5テラフロツプスの「SX‐5シリーズ」、富士通 は最大処理能力が5テラフロツプスの「VPP5000」、日立製作所は最大処理能力が7テラ フロツプスの「SR8000」を発売した。 ◆ブルージーン(blue jeans)〔コンピュータ〕 アメリカ・IBMは、1999 年から5年間で1億ドルを投入し、世界最高速のスーパーコン ピュータ「ブルージーン」の開発にのりだした。演算処理能力は 97 年にチェスの世界チャ ンピオン、ゲーリー・カスパロフを破った「ディープ・ブルー」を改良し、1秒間に 1000 兆回の演算処理ができる。現在の世界最高速のスーパーコンピュータの演算処理回数は、 アメリカ・エネルギー省の主導で開発された1秒間に2兆回で、これを 500 倍も上回る性 能をもつという。用途はヒトゲノム(全遺伝情報)の解読に続くたんぱく質の機能解析な ど、バイオ分野の先端研究。ブルージーンは最先端の情報技術(IT)を活用して生命科 学の研究を推進するバイオインフォマティクス(生命情報工学)の典型として注目されて いる。その能力で、生命の秘密のカギをにぎるたんぱく質生成の仕組みの解明にチャレン ジする。 ブルージーンの構成は1秒間に 10 億回の演算を行う高性能プロセッサを 32 個集積し、一 つのチップを構成する。このチップを縦横8個ずつ並べ、64 個を搭載したボードを作る。 このボードを8枚積み重ねた「タワー」をさらに並列に 64 台つなげる。10 億回の演算を実 行するプロセッサを 100 万個利用した「巨大な並列処理コンピュータ」である。ブルージ ーンの設計思想を標語風に「SMASH」と表現している。つまり、シンプル(単純 メニー(たくさん many)、そしてセルフヒーリーング(自己修復力 simple)、 self-healing)の英 文頭文字を連ねたものである。 ◆超並列コンピュータ(super parallel computer)〔コンピュータ〕 単一のシステムの中に少なくとも 1000 個以上のプロセッサを連結して、それらが互いに協 調動作することによって、複数のプロセッサをうまく制御してプログラムを分散処理する コンピュータのこと。 日本電気は地球環境変動メカニズムの解明や将来予測に利用する超高速並列計算機システ ム「地球シミュレーター」を科学技術庁(現文部科学省)から受注し、本体製作に着手し た。運用開始は 2002(平成 14)年3月の予定。 同システムは、0.15 ミクロンの銅配線プロセス、約 5700 万トランジスタと最先端の超高 速・高集積相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術を採用、1CPU当たり8ギガフロ ツプスのベクトルプロセッサ8個で構成する計算ノード 640 台を高速ネットワークで接続 し、最大性能 40 テラフロツプス(1秒間に 40 兆回の計算速度)を実現。基本ソフトには UNIXベースの「SUPER‐UX」を大幅に強化し提供する。 IBMは世界最速の超並列コンピュータ「ASCI White」を完成させたと発表し た。このコンピュータはIBMの超並列UNIXサーバーRS/6000SPで構成され、最 大性能 12.3 テラフロツプスを達成した。RS/6000SPシステムは、8192 個のマイクロ プロセッサ(銅配線テクノロジー採用)、6テラバイトのメモリーを搭載している。「AS CI White」はアメリカ・エネルギー省(DOE)が進めているスーパーコンピュ ータ開発計画ASCI(アスキー)の一環。納入先のローレンス・リバモア国立研究所 (Lawrence Livermore National Laboratory)では、物理実験の代りとなる大規模なコン ピュータ・シミュレーションに使用される。 ◆GRAPE6〔コンピュータ〕 東京大学が開発した世界最速の天文学専用スーパーコンピュータを使って、アメリカの研 究者が星団や銀河の形成、進化を解明する日米共同プロジェクトが発足し、ニューヨーク のアメリカ自然史博物館でアメリカ側に貸与されるスーパーコンピュータGRAPE6が 公開された。 GRAPE6は東大の牧野淳一郎助教授(天文学)らが開発した多体問題専用機で、多数 の星の間に働く重力を計算できる。2001(平成 13)年には現存する世界最速の汎用コンピ ュータの 10 倍である 100 テラフロツプス(毎秒 100 兆回の浮動小数点演算速度)の計算速 度を達成する見通しである。アメリカ側はインターネットを通じて日本にあるGRAPE 6を使うほか、今回貸与された小型GRAPE6で多数の恒星間に働く重力の相互作用を 計算する。 ◆CMOS並列機(CMOS parallel computer)〔コンピュータ〕 大型汎用コンピュータでは、低コストのCMOS(相補型金属酸化膜半導体)プロセッサ の開発と並列処理技術や銅線配線技術の採用によって、高速性能を実現した。 日本IBMは 12 個のプロセッサを搭載した 1600 ミツプスのIBMS/390G6を、日立 製作所は 13 個のプロセッサを搭載した 1700 ミツプスの「P6パイロットシリーズ」を、 富士通は 16 個のプロセッサを搭載した 2000 ミツプスのGS8900 を販売した。また、CM OSプロセッサは、低速、集積度大、電流小、構造簡単などの特徴があるため、ベクトル 型スーパーコンピュータ(NECのSX‐4や、富士通のVPP700)にも採用されている。 ◆カオスコンピュータ(chaos computer)〔コンピュータ〕 科学技術振興事業団・戦略的基礎研究推進事業「脳を創る」のプロジェクトでは、「脳の動 的時空間計算モデルの構築とその実装」について研究している。動きを予測する規則はあ るが、実際の結果はやってみなければわからない。そんな不思議な性質を「カオス」とい う。現在のコンピュータは、各回路が同じリズム(クロック)に合わせて動く「同期・デ ジタル」式である。だが、生物の脳は、それぞれが独自に動き、カオス的な振舞いをもつ 「非同期・アナログ」動作を行う。同プロジェクトではこれをヒントにした「カオスコン ピュータ」の創造に取り組み、数年後には1万本の神経(ニューロン)、1億の結合(シナ プス)をもった「デジタルよりもはるかに速い」処理速度のコンピュータを実現する予定 である。 つまり、脳のカオス性と非同期性に着目して、脳における非線形時空間ダイナミクスを用 いた情報処理機構に関する数理モデルを構築するとともに、その基本モデルをアナログ電 子回路技術、非同期電子回路技術を用いて実装する。 ◆量子コンピュータ(quantum computer)〔コンピュータ〕 「ミクロの世界で、物理状態が重なり合うことがある」という量子力学の原理を基礎にお いたコンピュータのこと。一つの基本素子で、「0」「1」を重ね合わせた状態(量子ビッ ト)をつくって、それを計算に使う。このため、もし素子が 10 個あれば、1回にできる計 算が2の 10 乗(1024)通りまで増える。素子を多くすれば、急激に計算能力が向上する。 量子コンピュータには、(1)任意の物理系の効率的なシミュレーション、(2)発熱量の きわめて少ないコンピュータの実現、(3)素因数分解が得意であり、計算時間の飛躍的短 縮、などが期待される。 ◆バイオコンピュータ/分子コンピュータ(bio computer / molecular computer)〔コンピュ ータ〕 バイオコンピュータとは「生物の行っている生命維持機能に基づく情報処理機構」を計算 に応用するものである。具体的には、バクテリオロドプシンというたんぱく質による光素 子に基づく計算機の構想などがあげられる。 分子コンピュータとは、「分子レベルの生物化学的、物理化学的な性質に基づく計算機構」 を応用するものである。分子コンピュータは、シリコンベースの現在のコンピュータに対 して、原理的には速度・エネルギー効率・記憶容量などの点において潜在的な優位性をも っているが、基本的なDNA計算操作の実行精度の改良、解ける問題サイズのスケールア ップ化、プログラム可能な計算メカニズムとそのアーキテクチャの開発など、実現可能性 の課題が少なくない。 分子コンピュータの実現手法に関する研究の現状は「DNAコンピュータ」が主流である。 ◆DNAコンピュータ(DNA computer)〔コンピュータ〕 DNA(デオキシリボ核酸)は、四つの塩基(A、T、C、G)からなる。DNAコンピ ュータはこれらの配列をビット列に見立て、それぞれの塩基が1対1で特定の塩基としか 結びつかないという特性を利用する。 このコンピュータのアイデアは、RSA公開暗号系の提案者のひとりであるL・エイドル マン教授が 1994 年に発表した。その論文では、既存の計算機が不得意な問題を取り上げて、 DNA分子上に符号化し、分子生物学における実験手法を駆使してこの問題をみごとに解 いた。 DNA計算の仕組みは、(1)DNAの短い断片を試験管に入れる(DNA分子上に問題を 符号化する)、 (2)試験管を遠心分離機で振り回し、酵素の働きをかりながら処理する(科 学反応によって計算処理する)、(3)目的の答えとなるDNAが得られたかどうかをゲル 電気泳動などの分析器を使って検出する(計算結果を出力する)、などである。 ◆脳型コンピュータ(brain computer)〔コンピュータ〕 「脳型コンピュータ」とは、人間の脳の働きをまねて、直観による情報処理や、価値判断 の能力をもたせたコンピュータのことである。 開発動向としては、通商産業省(現経済産業省)工業技術院が、「ブレインウェア(脳機能 情報処理)」と名づけた研究プロジェクトを 1995(平成7)年度から開始した。超高速の情 報処理ができる超並列処理コンピュータや、学習機能に優れたニューラルネットなどの既 存技術の長所を組み合わせるほか、シリコン半導体を応用して集積度を高めたり、バイオ 素子を使って自然な言葉や音声で命令できるシステムの開発をめざす。また、カオス理論 や非線形学などの最新の知見を取り入れる。 東京大学先端技術研究センターでは、 「神経細胞は、自分が最も心地よい状態に努力すると、 自然に最適な答えが導き出せる」という学習の法則をロボットのアームを制御する頭脳に 組み込んだ。すると、アームの一部を針で刺すと、アームはすばやい動きで針から逃れた。 東京工業大学の研究グループは、ニューロン(神経単位)が結合している「シナプス」と いう部分と同じ働きをするトランジスタをつくった。そして、シナプスは刺激が何度も伝 わると、刺激に応じて結合を強めるという「ヘブの法則」を用いてシナプスの働きを再現 した。 ◆データフローマシン/DDMP(data flow machine / Data-Driven Media Processor)〔コ ンピュータ〕 アメリカ・マサチューセッツ工科大学のJ・B・デニスが提案した非ノイマン型コンピュ ータの一種で、データ駆動コンピュータともよばれる。このコンピュータには命令の逐次 実行系列を制御するプログラム・カウンタがない。そのかわり、各命令は命令の種類と命 令の実行結果の行先情報をもち、プログラム自体はデータの依存関係を示すデータフロー として表現される。並列計算による高速性があり、非定型的高速処理が要求される科学技 術計算用として期待されている。 シャープは、画像の圧縮や伸張が従来のプロセッサより 30 倍以上速いデータ駆動方式のプ ロセッサチップDDMPを開発した。処理能力は、1秒間に 3800 万回のデータ処理が行え る。データ処理を行う高速演算コアは、データ入力部、プログラム制御部、演算部とデー タを一時保存する発火制御部の四つの部分からなる。データがこの四つの部分を回る間に 必要な処理が行われる。 ◆OLTPマシン(Online Transaction Processor)〔コンピュータ〕 このマシンは、内部に複数の中央演算処理装置やメモリー、ディスクを装備しており、シ ステムの一部が故障しても全体を停止することなく修復できるもので、別名ノンストップ (無停止型)コンピュータともいう。 導入効果として、 (1)多数のオンライン取引処理が汎用機より優れ、コストも安い、 (2) 故障に強く、24 時間無停止の稼働が可能、 (3)システムを柔軟に拡張できる、などがある。 コンパックコンピュータは、無停止型の超並列サーバー「ノンストップ・ヒマラヤSシリ ーズ」を、インターネット言語JAVAの最新技術「J2EE(JAVA2プラットフォ ーム・エンタープライズ・エディション)」に完全準拠させたと発表した。 これにより、J2EEに対応したOS(基本ソフト)ウィンドウズNTやUNIX上で作 成されたWebアプリケーションがヒマラヤ上で実行でき、特定のハードウェア環境に限 定されないシステム構築が可能となる。 ◆ニューロコンピュータ(neuro computers)〔コンピュータ〕 脳を構成する神経細胞(neuron) ・神経回線網(neural network)の構造・情報処理機能を モデル化し、高度の情報処理装置の実現をめざしたコンピュータをニューラルコンピュー タ(neural computers)とよび、この原理を既存のノイマン型コンピュータのうえにソフ ト的に、またはハード的に模倣したコンピュータを、ニューロコンピュータと通常、称し ている。 ニューロコンピュータモデルは非線形のニューロモデルを数多く結んだネットワーク上で 並列分散的に情報処理を行うところに特徴がある。このアプローチのことをコネクショニ ズムとか並列分散ともよぶ。 ◆光コンピュータ(optical computer)〔コンピュータ〕 光の優れた属性を生かした新しい発想でイメージされているコンピュータである。 光を情報処理に利用するとき着目されている属性は、(1)超並列・高速処理、(2)信号 の空間配列の利用、(3)信号処理の多機能性、(4)信号相互間の無干渉性、(5)広帯域 性、(6)信号の多様性、などである。 現在、研究中の光コンピュータの方式には、(1)時系列演算方式(ノイマン方式)、(2) 並列アナログ演算方式(画像処理による方式)、 (3)並列デジタル演算方式の三つがある。 めざすところは超並列・高速処理コンピュータであり、ニューロコンピュータの技術とし て期待されている。しかし、その実現には光技術に適したアーキテクチャの研究をはじめ 光インタコネクション(素子間を光でつなぐ技術)、非線形光学素子、空間光変調器の開発 など多くの課題がある。 ◆光ニューロコンピュータ(optical neuro computer)〔コンピュータ〕 ニューロコンピュータは生物の脳の情報処理機構をハード的に模倣したもので、その特徴 は「並列処理」と「学習」にある。この機能を光演算器を利用しレンズの組合せやホログ ラフィにより相関などの演算を行わせたものが、光ニューロコンピュータである。光ニュ ーロコンピュータの特徴は、(1)光には空間並列性という特徴があり、膨大な数のニュー ロン間配線が可能である、(2)光波は互いにクロストーク(混線・混信)を受けないで伝 搬し、伝送容量が大である、(3)超高速演算ができる、などである。 ベクトル行列演算に光技術を応用した光連想メモリーの研究や光アソシアトロンなどの学 習機能をもつコンピュータの研究が進められている。 ◆ 2 世 代 フ ァ ジ ー / フ ァ ジ ー ・ コ ン ピ ュ ー タ (the second generation fuzzy / fuzzy computer)〔コンピュータ〕 ファジーとは、やわらかでぼんやりしていて、あいまいなことをいう。現在使われている ノイマン型コンピュータは、1か0か、正か負か、というように2値論理(デジタル論理) で割り切っている。これをクリスプ(crisp)な世界というが、クリスプでは中間的な値が うまく取り扱えない。ファジー論理ではメンバーシップ関数という一種の確率変数で中間 的なあいまいな状態を表現し、人間の言葉のあいまいな意味内容を数理的に扱えるように した。 第1世代ファジーは、地下鉄の運転、掃除機、洗濯機、調理器などの自動制御に威力を発 揮した。第2世代ファジーは、人間や社会に直接働きかけ、知識処理に威力を発揮すると いわれている。人間は直感や経験に基づく融通自在(ファジー)な行動を行う。これらを コンピュータでさせようとするのがファジー・コンピュータである。 ▲コンピュータ・ネットワーク〔コンピュータ〕 インターネット利用拡大にともない、情報システムは複数のサーバーに業務を分ける分散 型から、ユーザーが各種業務を集約した一つのサーバーから必要な機能をネットで取り出 す統合型へと急速に変化している。このため、業務を高速処理するメガサーバーが必要と なる。 ◆コンピュータ・ネットワーク(computer network)〔コンピュータ〕 独立した複数のコンピュータ・システムを通信回線により、互いに資源を共有することが できるように結合させたシステムのこと。 コンピュータ・ネットワークの特徴として、(1)複数の処理装置を含むこと、(2)処理 装置が独立または共同して動作できること、(3)処理装置間が有機的に結びついているこ とがあげられる。その効果には、(1)通信回線の共用による通信コストの削減、(2)分 散による信頼性の向上、(3)異業種間の結合による複合型業務処理の実現化、(4)情報 流通の促進などがある。コンピュータ・ネットワークは、規模により、ローカル・エリア・ ネットワーク(LAN local area network)とワイド・エリア・ネットワーク(WAN wide area network)に大別される。 ◆次世代メガサーバーシステム(mega server system of next generation)〔コンピュータ〕 アメリカ・IBMは、2002 年をめどに「次世代メガサーバーシステム」を製品化する。メ ガサーバーとは、ネットワークの核に位置してインターネット業務を高速処理するコンピ ュータのこと。次世代メガサーバーのシステム構造は、現行のUNIXサーバー「RS6000」 とシークエントの「NUMA(ヌマ)サーバー」技術を融合して実現する。NUMAサー バーは、一つのシステム上でUNIXとウィンドウズの両OSを併用できる独自構造をも つ。また、CPU(中央演算処理装置)を増設する場合、効率的に処理の負荷を分散し、 システム性能を最大限に発揮させる高速のメモリー共有化技術が特徴である。次世代サー バーではこれらの技術にIBMのもつ汎用コンピュータ、UNIXサーバーの技術を加え ることで、ウィンドウズとインテルの 32/64 ビットプロセッサー、次期UNIX‐OS「モ ントレー」とインテルの 64 ビットプロセッサー、パワーPCという異なるシステム環境を、 きわめて高い信頼性を維持しながら1台のサーバーで混在運用できるようにする。 ◆ネットワークOS(NOS)(Network Operating System)〔コンピュータ〕 NOSとは、アプリケーション・プログラムに対して通信関連サービスを提供すると同時 に、OSI(開放型システム間相互接続)参照モデルの中位層のプロトコル処理を行う基 本ソフトウェアのことである。NOSの基本機能としては、サーバ上のファイルとプリン タの共有機能、ユーザー管理とセキュリティ機能、障害対策機能があげられる。主な製品 には、ノーベル社の Net Ware や、マイクロソフト社の NT Sever がある。 その導入効果は、(1)異機種接続ができるため、ユーザーが自由にLANのハードウェア を選択できる、(2)既存の情報資産が継承できる、(3)パソコンの能力を最大限に引き 出せる、(4)市販のパッケージ・ソフトウェアを手軽に利用できる、などである。 ◆データ暗号規格(DES)(Data Encryption Stand-ard)〔コンピュータ〕 DESは、アメリカ商務省標準局(NBS)が 1977 年に公布したアメリカ連邦政府機関の 標準暗号方式である。NBSが 73 年に公募した中からIBMが開発・提案した方式を採用 した。DESは、送信者と受信者が同一の鍵を用いて通信文を暗号化・復号するという慣 用暗号方式の一種である。その処理手順は、64 ビットに分けられた平文の入力を 56 ビット の鍵が制御しながら、16 段にわたる転置と換字処理を行って 64 ビットの強力な暗号文を出 力する。復号は、これと逆の操作によって行われる。その特徴は、(1)取扱いが容易なこ と、(2)暗号化・復号の処理効率がよいこと、(3)鍵の生成が容易なこと、である。 ◆デジタル署名/RSA暗号(digital signature / RSA cryptograph)〔コンピュータ〕 東芝はインターネットで株の売買や電子商取引をする際に印鑑のかわりとして使う「デジ タル署名」の生成手法を考案した。 デジタル署名は電子署名ともいわれ、暗号技術を応用して作成した偽造の難しい電子デー タのことで、電子商取引などの本人確認に使用する。この手法では代表的な公開鍵暗号(→ 別項)である「RSA暗号」方式を採用した。 「RSA暗号」方式では 1024 ビット(10 進 数にして 300 ケタ以上)の大きな整数の計算を 1000 回ほど繰り返して署名を生成する。 新技術はこの大きな数を従来のように2進数で表現するのではなく、いくつかの定数で割 った余りの組合せで表す「剰余演算系」とよぶ特殊な手法を使った。32 個の定数を設定し、 それぞれ別の回路を使って並列に計算することで、処理を大幅に高速化した。 この回路を組み込んだ署名生成専用のLSIをインターネット株取引などに使うサーバー システムに搭載すれば、毎秒 1000 個のデジタル署名が生成可能となる。 ◆暗号ソフト「PGP」〔コンピュータ〕 軍事レベルの強度を誇る暗号ソフト「プリティ・グッド・プライバシー(PGP)」がネッ トワーク・アソシエイツ社から発売された。PGP暗号は鍵の長さが 128 ビットの公開鍵 暗号である。 1991 年に生まれたPGPは個人向けにはインターネットで無料ソフトとして配布され、 400 万人の利用者がいる「世界標準」の暗号ソフト。PGPでは、メールを送る相手が公表 している「公開鍵」で暗号化し、受け手は自分だけがもつ「秘密鍵」で解読する仕組みで ある。 日本では暗号の鍵を第三者機関である「認証局」で一括して管理する方式が注目されてい る。認証局方式は、そこに全部の鍵があるので政府にコントロールの機会を与えてしまう。 一方、PGPはユーザー同士が認証しあう方式だから政府の介入が難しい。 ▲コンピュータの利用〔コンピュータ〕 複合現実感の技術の実用化が外科手術などで始められている。生物の生態や振舞いから特 別な最適化問題を解く群知能のアルゴリズムが研究・開発された。また、日英同時通訳ソ フトが発売された。音声を逐次通訳するため海外旅行に使うと便利。 ◆バーチャル・リアリティ(VR)/ミックスド・リアリティ(MR)(virtual reality / mixed reality)〔コンピュータ〕 バーチャル・リアリティ(仮想現実感)とは、人間の感覚器にコンピュータによる合成情 報を直接提示し、人間の周囲に人工的な空間を生成することである。これは人工現実感と も称されている。人工現実感の研究は、現在、機械技術研究所やアメリカ航空宇宙局など で進められている。 仮想体験システムは、仮想現実感の技術を応用して、仮想環境をつくりだし対話的に疑似 体験を提供するシステムのこと。事例としては、住宅展示場で特殊なアイフォンというメ ガネに写る虚像とデータグローブによりキッチンルームの体験をしたり、難病児の医療用 として病室で多摩動物公園を散策する体験をしたり、教育用としてタービン発電機の生産 工場モデルで危険な作業の安全性を学ぶことなどがある。 ミックスド・リアリティ(複合現実感)とは、コンピュータ・グラフィックス(CG)な どと実写の映像とをリアルタイムに融合する表現技術のこと。医療やエンターテインメン トなど応用は広く、世界の先端をいく日本の技術に関心が高まっている。 ◆2000 年問題/Y2Kバグ(Year 2000 bug)〔コンピュータ〕 西暦 2000(平成 12)年になったとたん、コンピュータシステムに誤作動が発生するという 問題である。この問題は、コンピュータの処理能力が低かった時代にデータ量を節約する ために年号を西暦の下2ケタで管理してきたのが原因である。政府はコンピュータ誤作動 問題に関する調査結果をまとめている。 ◆400 年に一度の「閏日」問題(leap year bug every 400 years)〔コンピュータ〕 閏年(うるうどし)は4年に一度だが、100 で割り切れる年は閏年とはせず、400 で割り切 れる年は閏年とするという例外規定がある。コンピュータにこの例外規定がプログラムさ れていないと、閏年ではないと判断し、「2月 29 日」を認識できなくなり、誤作動が起き る。 ◆人工知能(AI)(Artificial Intelligence)〔コンピュータ〕 人工知能研究が正式に始まったのは、1956 年に行われたダートマス会議である。人工知能 とは「コンピュータにより人間のもつ知的活動を実現する技術」のこと。 AIに期待されている効果は、情報を相互に独立な個々のモジュールを内部にもち、ユー ザーの必要に応じて問題解決手順に組み立てる知的な働きである。 AI研究には次の二つのアプローチがある。(1)科学的立場からのもので、シミュレーシ ョンによって知能のメカニズムを解明することを目的に、コンピュータが使われている。 この場合は一般的に認知科学といわれている。(2)工学的立場からのもので、知的能力を コンピュータに与えることを目的とし、知識工学とよばれる分野に属している。応用面で はエキスパートシステムがある。 ◆群知能〔コンピュータ〕 個々のアリ(蟻)は、餌を集めるにしても、においの刺激に応じて条件反射で物をくわえ たり放したりしているだけで「餌を探して集める」と考えて行動するわけではない。しか し、こうした単純作業も多数のアリが繰り返すと、一定の効率で「餌を探して集める」と いう目的が達せられる。「賢くない」アリを多数集めると、単純な足し算ではなく、群れに それ以上の知能、つまり群知能が生まれる。こんなアリの生態を工学的に活用する研究が 始まっている。 三菱電機中央研究所は、群知能を応用した文書分類法を開発した。アリがにおいをもとに 餌などを分別するのと同様に、文中の特定の単語を手掛かりにコンピュータが内容ごとに 分類する。高度の人工知能を使わなくてすむのがこの応用の利点で、膨大なデータベース にある大量の文書情報の自動分類に有効。 東京大学工学部の三浦宏文教授らの研究グループは、超小型ロボットであるマイクロマシ ンの制御にアリの群知能を利用して、多数のロボットを目的に向かって誘導する研究を進 めている。群知能では1台のロボットは交信や指揮のための高度な人工知能やセンサーを 搭載しないから、サイズが小さく、多くの機能を搭載しにくいマイクロマシンに適してい るという。 ▲コンピュータの基礎用語〔コンピュータ〕 ◆アーキテクチャ(architecture)〔コンピュータ〕 ハードウェア、ソフトウェアを含めたコンピュータシステム全体の設計思想、つまり構成 上の考え方や構成方法のこと。これによりコンピュータシステムの使い勝手、処理速度な どの基本的な性格が決まる。具体的には、ハードウェアでは、処理単位である語長、記憶 装置やレジスタのアドレス方式、バスの構成方法、入出力チャネルの構造、演算制御や割 り込みの方法などがある。 また、ソフトウェアでは、オペレーティング・システム(OS)の機能と構成、使用言語、 プログラム間のインタフェースなどである。 ◆アイテニアム/マッキンレー〔コンピュータ〕 アイテニアム(IA‐64)は、アメリカ・インテルの「次世代 64 ビットプロセッサー」で、 次世代インテルチップの最初の製品である。IA‐64 は、クロック周波数が 800 メガヘル ツ、システムバス速度が毎秒 2.1 ギガバイトで、クロック当たり最大 20 命令の同時演算処 理が可能な「エピック」とよばれる新構造を採用し、性能向上を周波数に依存した従来チ ップに対し飛躍的な高性能化を実現している。 マッキンレーは、2002 年に出荷を開始する第2弾の「次世代 64 ビットプロセッサー」で ある。これを 512 個搭載することによって、高性能、高拡張性、高可用性のある超大型汎 用コンピュータやスーパーコンピュータが実現可能となる。 ◆RISC(縮小命令セットコンピュータ)/CISC(複合命令セットコンピュータ) (Reduced Instruction Set Computer / Complex Instruction Set Computer)〔コンピュー タ〕 RISCは、CPU(中央処理装置)内の命令語のアーキテクチャ(設計思想)に関する 言葉である。従来からのCISCは、複雑な命令語体系をもち、同じ処理を行うプログラ ムを少ない命令数で実現するよう設計されている。そのため計算速度やコストが犠牲にさ れていた。しかし、RISCは単純で限定された数の命令語体系をとり、演算方式を単純 化してスピードアップとコスト削減をはかった。現在は、RISCチップの低価格化が進 み、ビジネスWSの市場が拡大されている。 ◆TRON(The Realtime Operating system Nucleus)〔コンピュータ〕 TRONとは数千、数万のコンピュータを接続し、さまざまな相互関係をもたせながらそ れぞれの目的を同時並列的に遂行する超機能分散システムを実現させるOS(基本ソフト) のこと。TRONプロジェクトは、超機能分散システムの構築を掲げて 1984 年から開始さ れた。TRON基礎プロジェクトとしてBTRON(ヒューマン・インターフェースをつ かさどるOS)、ITRON(制御用リアルタイムOS)、CTRON(情報通信ネットワ ーク向きOSインタフェース)、MTRON(分散型マルチ・マイクロプロセッサ用OS)、 TRONCHIP9(32 ビットVLSIマイクロプロセッサ)がある。 TRONを復活させるために新会社「セネット」が 99 年1月に設立された。事業内容は、 (1)BTRON最新仕様の公開、 (2)英語版・中国語版のパッケージソフトの開発、 (3) JTRONの普及、(4)BTRON・OSのバンドル販売やRTRON専用機の開発など である。 携帯電話のJ‐フォンは、ゲームや音楽・動画配信などが楽しめる次世代携帯電話の基本 ソフト(OS)に、TRONを採用する計画である。ソフトウェア開発のアプリックス社 製のTRON仕様OSを搭載した次世代携帯端末を、2001(平成 13)年から複数の国内大 手メーカーが製造・販売する見通し。 ◆ベオウルフ・クラス・クラスター(Beowulf class cluster)〔コンピュータ〕 科学技術振興事業団の北野共生システムプロジェクトの研究チームは、市販の部品を使っ て 33 台のパソコンを製作し、基本ソフト(OS)のLinux(リナックス)やアメリカ のアルゴンヌ国立研究所が開発した並列計算用の無料ソフトを組み込んで安価な並列コン ピュータをつくった。この並列コンピュータは 1993 年にアメリカ航空宇宙局の研究グルー プが提唱した「ベオウルフ・クラス・クラスター」とよぶ構想に基づいて開発された。現 在、世界中で 100 を超えるプロジェクトが進行中である。 同機の処理能力は 6.8 ギガフロツプスで、1秒間に 68 億回の演算ができる。1000 ギガフロ ツプスを超える最新のスーパーコンピュータに比べ性能は劣るが、製作費用は 98 年末の発 注時点で 1500 万円である。現在はパソコンなどの作製に必要な部品が当時より安いため、 製作費は総額 500 万円以下ですむという。 ◆クラスタリング技術(clustering technology)〔コンピュータ〕 コンピュータの対障害性を向上する要素技術。同種のコンピュータ、中央演算処理装置(C PU)などをネットワークで複数台を房型に接続して、あたかも1台のコンピュータのよ うに見せる機能である。これにより、ひとつのシステム単位に障害が発生しても即座に別 のコンピュータ、CPUに処理を引き継ぐことが可能となる。この技術は従来、超並列コ ンピュータや汎用機で使われていたが、最近ではウィンドウズNTを搭載するパソコンサ ーバーの領域で採用されている。PCサーバーのクラスタリング技術の主な製品としては、 アメリカ・タンデムコンピューターズのサーバーネット、マイクロソフト社のウルフパッ クなどが発表されている。 ◆プラットフォーム(platform)〔コンピュータ〕 コンピュータの基盤のことであり、ハードウェアとソフトウェアがある。ハードウェアで は、かつては汎用コンピュータが唯一のプラットフォームであったが、1980 年代以降はパ ソコンが普及し、そしてワークステーションが台頭して、プラットフォームも多様化して いる。ソフトウェア・プラットフォームは基本ソフトウェア(OS)のことである。 ◆UNIX〔コンピュータ〕 1969 年にアメリカ・AT&Tベル研究所がPDP7上に開発した時分割方式のマルチタス ク・マルチユーザーのオペレーティング・システム(OS)。71 年にPDP11 上に移植す る際にC言語で書き直され、移植性の高いオープンシステムのOSとなった。75 年ごろか らソースプログラムが大学、研究所、企業等に配布されるようになって急速に普及・発展 した。UNIXの優れている点は、 (1)高品位文書の作成が容易、 (2)文書検索が容易、 (3)オープンシステム、(4)優れた操作性などである。 ◆コンパイラ/インタプリタ(compiler / interpreter)〔コンピュータ〕 FORTRAN、C言語、COBOL、PL/1などの高級言語で書かれたプログラムを 機械語プログラムに翻訳するプログラムまたは、そのプログラム言語の総称。 一般にコンピュータ自身が唯一理解、実行できる言語を機械語とよぶ。機械語はコンピュ ータのハードウェアに密接に関連するため使用するコンピュータによってまちまちである。 そこで各コンピュータがこのコンパイラを用意することによって、人間が記述するプログ ラムをコンピュータに左右されにくいものにした。 コンパイラはすべての処理の実行に先立って機械語への翻訳を一括して行うが、処理の実 行に際して次の命令文を逐次、機械語に翻訳する方式の言語をインタプリタとよぶ。コン パイラに比べて処理速度の遅さなどの問題点はあるが、結果の確認などがその場でできる ため、プログラムの入門用やデバックに幅広く利用されている。BASICなどが有名で ある。 ◆MIPS(Million Instructions Per Second)〔コンピュータ〕 コンピュータが単位時間に実行できる命令の数を表す単位。1MIPS(ミップス)とは 1秒間に 100 万回の命令が実行できること。現在の超大型コンピュータは、およそ 10 から 100MIPS程度の性能である。関連用語としては、浮動小数点演算の速度の単位を表すF LOPS(フロップス)、論理演算の単位を表すLIPS(リップス)などがある。 ●キーワード〔コンピュータ〕 ●リナックス(Linux)(Linux)〔コンピュータ〕 リナックスは 1991 年、フィンランド・ヘルシンキ大学の学生だったリーナス・トーバルズ によって、業務用大型コンピュータなどで使用されているOS「UNIX(ユニックス)」 をベースにして開発された。主に複数のパソコンなどをネットワーク化する際の中核コン ピュータ「サーバー」用のOSとして使用されている。インターネットを通じて無料で入 手できるうえ、ネット上でプログラムが公開されている(オープンソース)ため、世界中 の技術者らが自発的に改良を重ねた結果、動作の安定性などで高い性能をもつとされてい る。 アメリカでは、98 年9月、世界最大の半導体メーカー、インテルがリナックス関連ソフト を販売する「レッドハット・ソフトウェア」に資本参加したほか、IBM、ヒューレット・ パッカード、デルコンピュータなどが相次いで支持を表明し、急速に注目を集めた。 リナックスの著作権はトーバルズが所有しているが、インターネットからだれでも無料で 複写(ダウンロード)でき、他の人に無料配布すること、プログラムを書き換えることが 認められている。ただ、書き換えたプログラムをリナックスに取り入れるかどうかは、ト ーバルズが決定する。こうして、亜流のリナックスが発生するのを防いでいる。 ●ナノテクノロジー(nanotechnology)〔コンピュータ〕 「ナノ」は 10 億分の1を意味する接頭語。10 億分の1メートルレベルで原子や分子の挙動 を観察すると、私たちが通常触れる世界とは違った現象が生じている。それらを見つけ、 利用する技術をナノテクノロジー(超微細加工技術)という。 アメリカでは予算を倍増し、国家ナノテク戦略(NNI)を推し進めている。ナノテクの 応用分野とその具体例として次の四つをあげている。 (1)材料・カーボンナノチューブ(高 性能磁気ヘッド)、(2)ライフサイエンス・体に埋め込む分子機械(がんだけを攻撃する 薬)、(3)エレクトロニクス・単電子機械(DNA分子素子)、(4)環境エネルギー・変 換効率の高い太陽電池(有害化学物質除去網)。 日本の競争力は材料開発の分野では先頭集団にいるとみられている。ナノテクノロジーと いう造語は日本から発信されたといわれる。発信者は東京理科大の谷口紀男教授(当時) で、1974 年の国際生産技術会議で使った。精密加工の精度が 2000 年には1ナノメートル 程度になると予測し、そのための総合生産技術が必要になると指摘した。 ●量子情報技術(QIT)(quantum information technology)〔コンピュータ〕 原子や分子などを1個ずつ操って半導体材料などをナノ(10 億分の1)レベルで制御する 技術を「量子情報技術(QIT)」という。 電子や原子、光の粒である光子をナノテクノロジーで1個ずつ制御できる微小世界では、 日常感覚では理解し難い不思議な現象が生じる。粒子としての性質以外に波としての性質 が顕著になってくる。この世界は量子力学によって説明される。 量子力学には次の三つの基本性質があり、この性質を通信や情報処理に生かそうとする動 きが活発になっている。 (1)重ね合わせ 現在の情報通信では情報の基本単位であるビットが1か0のどちらか 一方の値をとるのに対し、量子情報通信では情報の基本単位となる量子ビットが1と0の 両方の値を同時にとることができる。この性質を重ね合わせとよぶ。1量子ビットは重ね 合わせ状態が2個、2量子ビットでは4個、3量子ビットでは8個存在する。量子ビット の数がn個になると、現在のコンピュータに比べて計算速度は2のn乗倍速くなる。 (2)もつれ合い 2個以上の電子や光子の間に存在する不思議な相関関係。一方の量子 の状態が決まると、もう一方の状態も瞬時に決まってしまうという現象。この現象を利用 すると大量の情報を瞬時に遠隔地に送ることができる「テレポーテーション」が実現する。 フラーレン(C60)とよぶ炭素素材を使った実験で、すでに実現可能なことが確認され ている。 (3)観測による影響 量子の重ね合わせの状態を外部から一度でも観察すると、同時に 1と0の両方の値をとっていた状態が、1か0のどちらかに決まってしまう性質をさす。 暗号に利用すれば、第三者が盗み見した瞬間に量子状態が変化して、情報内容も変更され てしまうため、絶対に破られない安全な暗号になる可能性がある。 ●イントラネット(intranet)〔コンピュータ〕 イントラネットの構成例 WWWサーバーやウェブ・ブラウザなどのインターネット技術を活用したオープンな企業 内コンピュータ・ネットワーク(LAN)、つまり企業内情報システムのこと。企業内ネッ トワークと社内WWWサーバーを中核にして構築し、クライアントはインターネットと同 一のブラウザ(検索閲覧ソフトウェア)で利用する。そのため、これまでの情報システム に比べ、初期導入費用が安く、構築も段階的に簡単にできる。それに情報の発信や閲覧が 容易にできるという特徴がある。 イントラネット構築のポイントとしては、次の二つがあげられている。(1)インターネッ トとの接続、LAN/WANの構築、ネットワーク・コンピュータ体制の確立などの通信 インフラの整備、(2)WWWブラウザやグループウェアなどネットワーク統合ソフトウェ アを上手に使い分けること。 ●エクストラネット(extranet)〔コンピュータ〕 イントラネットを介して、企業のイントラネット内に社外の特定の提携先や取引先だけが 接続できるネットのこと。イントラネットの「イントラ」が企業内を意味するのに対して 「エクストラ」は企業外をさす。通常は、社員しか見られないイントラネット内の情報を、 セキュリティや認証技術を駆使して提携先・取引先企業にまで接続を認めるネットである。 ●インターネット・コンピューティング(internet computing)〔コンピュータ〕 インターネットワーク利用の拡大にともない、情報システムは複数のサーバーに業務を分 ける従来の分散型(クライアント・サーバー)から、ユーザーが各種業務を集約した一つ のサーバーから必要な機能をインターネットで取り出す統合型(インターネット・コンピ ューティング)へと急速に変わり始めている。 インターネット・コンピューティングとは、ユーザーがクライアント機に設定されたブラ ウザ(閲覧ソフト)を使って、各種業務を集約した一つのメガサーバー(→「次世代メガ サーバーシステム」)から必要な機能をインターネットで取り出す方式。 この方式の構築のポイントは、次の三つがあげられる。(1)クライアント機はWebブラ ウザにすることによって最小限の機能にとどめ、低コストで、もっと簡単にだれでも使え るものにする。(2)さまざまなアプリケーションで作成されたファイルを読み込み、HT ML(→別項)形式に変換して保存する機能やJava対応のアプリケーションサーバー としての機能をデータベース管理システムに備える。(3)メガサーバーにSCM(サプラ イチェーンマネジメント)、PDM(プロダクトデータマネジメント)などアプリケーショ ンを収納する。 コンピュータ〔情報・メディア〕 ▽執筆者〔コンピュータ〕 細貝康夫(ほそがい・やすお) システムコンサルタント 1934 年神奈川県生まれ。防衛大学校理工学研究科卒。防衛庁技官、(株)三菱総合研究所 主任研究員などを経て、現職。著書は『データ保護と暗号化の研究』『コンピュータウイル スの安全対策』『カードビジネスのすべて』など。 ◎解説のフォーカス〔コンピュータ〕 量子情報技術が拓くコンピュータの新展開 ●最近、企業や大学では原子や分子などを1個ずつ操って半導体材料などをナノ(10 億分 の1)レベルで制御する「量子情報技術(QIT)」が注目されている。QITによる量子 暗号の鍵配布の実現が 2010 年、用途を特定した量子コンピュータが早くても 10 年、汎用 型が 15 年以降だと予測されている。 ●量子コンピュータの実現をめざして、実用的な量子情報処理のための基本素子(量子ビ ット)の研究開発が進展している。絶対に解読が不可能とされる量子暗号を用いた通信シ ステムの実験に国内で初めて成功した。 ●DNAコンピュータとよばれる新しい計算手法を使って遺伝子を検査する技術が開発さ れた。 ●ミックスド・リアリティ(複合現実感)の実用化が外科手術の医療現場、仮想現実のな かで貴重な体験が得られるエンターテインメントやゲームなどで進展している。 ●複数のサーバーに業務を分ける従来の分散型から、ユーザーが各種業務を集約した一つ のサーバーから必要な機能をインターネットを介して取り出す統合型へとサーバーの需要 が急速に変化してきた。そのため、「次世代メガサーバーの開発」が急速に進展している。 ★2002 年の新語〔コンピュータ〕 ★ニューロLSI(neuro LSI)〔コンピュータ〕 デンソーの基礎研究所は脳の神経回路を模したニューロLSI(大規模集積回路)を大幅 に小型化する新しい手法を開発した。ニューロLSIは画像認識など処理が複雑になるほ ど回路が大きくなるという問題があった。 神経細胞(ニューロン)の情報処理をまねた演算は、掛け算や足し算を繰り返し、特殊な 関数(シグモイド関数)を用いるため、大規模な回路とメモリーが必要だった。デンソー は、これらとほぼ同じ計算結果が得られる、確率関数を応用した簡単な演算方法を新たに 開発した。 10 個の入力信号があるニューロン1個を回路におきかえた場合、現在の演算では 25 万個以 上の素子が必要になるが、新方式では2万個程度ですみ、回路面積を 10 分の1以下に小型 化できるという。この演算を、障害物を回避するロボットなどの制御に応用したところ、 従来法と同等の機能を示したという。 この研究は、名古屋産業科学研究所の産官学共同プロジェクト「創発型ソフトコンピュー タ」の成果。デンソーは個人の好みを学習できるエアコン操作や、周辺環境の変化に対応 できるロボット制御などの応用を想定して実用化をめざす。 ★DNAチップ/遺伝子検査(DNA chip / genetic screening)〔コンピュータ〕 東京大学とオリンパス光学工業の共同研究チームは、多数の計算を同時並列的にこなせる 「DNA(デオキシリボ核酸)コンピュータ(→別項)」とよばれる新しい計算手法を使っ て遺伝子を検査する技術を開発した。オリンパスはこの技術を応用して、処理スピードが 速い遺伝子診断装置の実用化をめざす。新技術は、がん遺伝子など病気に関連した遺伝子 が体内で働いていないかを調べる検査に利用する。 がん遺伝子や糖尿病関連遺伝子など、検査したい病気の遺伝子とだけ結合するDNAチッ プを、例えば1万種類つくり、それぞれを見分けるため1から1万までの番号の代りにな る部分をチップの一部につける。これを患者の血液などから遺伝子を抽出した溶液に混ぜ、 特殊な処理を加える。 溶液の中ではDNA同士が複製を繰り返したり、不要な部分が切れるなど一連の反応が順 次起きる。最終的に生まれるDNAチップの番号部分を読み取ると、患者の細胞でどんな 遺伝子が活動しているかが分かる。 実験では約3時間で検査が完了。既存の手法に比べ、検査全体にかかる時間は2分の1か ら3分の1ですんだという。 ★量子暗号(quantum encryption)〔コンピュータ〕 三菱電機は、北海道大学電子科学研究所と共同で、絶対に解読が不可能とされる量子暗号 を用いた通信システム実験に国内で初めて成功した。 「量子暗号」とは、「量子を観測すると、その量子の状態は必ず影響を受ける」というハイ ゼンベルクの不確定性原理を応用した暗号方式のこと。つまり、量子の重ね合わせの状態 にある量子ビットを外部から一度でも観察すると、同時に0と1の両方の値をとっていた 状態が、0か1のどちらかに決定してしまうという性質を利用している。この性質を利用 すれば、量子ビットの状態変化の有無により、通信途中で傍受(観測)されたかどうか、 の判定が可能になる。盗聴が行われると、ひとつひとつの光子に、情報を搭載する量子暗 号が反応、盗聴の事実が確認できる。 共同実験では、情報を暗号化したり元の状態に戻したりするときに使う「共通カギ」を光 ファイバで 200 メートル伝送することに成功した。光子は波の性質をもっており、縦か横 の方向に振動する。どちらかを0か1と決めておけば、カギの情報を送ることができる。 インターネットを利用した電子商取引や金融機関の電子決済、「電子政府」を実現させるた めには、暗号技術は不可欠で、研究開発が活発になっている。しかし、既存の暗号技術は、 どんなに進歩しても、最新鋭のコンピュータを使って膨大な時間をかければ、暗号情報が 解読されてしまう危険性がある。量子暗号の場合は、その心配がない。 ★C言語用探索型デバッグツール(the search-style debug tool for C language)〔コンピュ ータ〕 東芝はソフトウェアのバグを効率的に探し出す探索型デバッグツールを初めて開発した。 このツールは「Prolo」とよび、CやC++言語で書かれた逐次、マルチタスクプロ グラムまで対応できる。 記録した動作ログの中からバグを含み、不具合が生じた動作ログを異常動作ログとして把 握し、それに似た正常動作ログを探し出して比較する。この比較により正常動作ログでは 起こっていない動作を異常動作ログから検出し、デバッグ領域を絞り込んでいく作業など、 一連の過程を自動化した。 マルチタスクなどの複雑なプログラムやシステム規模が大きくなるほど、バグ探索効果も 大きく、初心者でも熟練プログラマーと同等のデバッグ作業ができ、デバッグ作業時間を 半減できるという。 ログの特徴を表す値や類似度計算を行い、プログラム動作の定量評価を行っているため、 定量的にデバッグすべき領域を絞り込んでくれるほか、ソースコードを調べる優先順位も 示すことができる。 ★量子ビット(qubit;quantum bit)〔コンピュータ〕 量子計算の基本となる情報量を量子ビットまたはキュビットという。通常のビットが0ま たは1しか保持できないのに対し、量子ビットは0と1の任意の重ね合わせを保持できる (→「量子コンピュータ」)。量子コンピュータの基本単位となる量子ビットの実現に向け て、核磁器共鳴(NMR)、固体内双極子‐双極子相互作用、電子のスピン状態、単電子ト ンネル効果、高温超伝導ジョセフソン接合等を利用する方式が提案されている。 ▲話題のコンピュータ〔コンピュータ〕 アメリカ・IBMは、世界最高速のスーパーコンピュータ「ブルージーン」の開発にのり だした。演算処理能力は1秒間に 1000 兆回で、用途はヒトゲノムの解読に続くたんぱく質 の機能解析などの研究。GRAPE6は、6代目の世界最速の天文学専用スーパーコンピ ュータで多数の星の間に働く重力を計算する。 ◆スーパーコンピュータ(super computer)〔コンピュータ〕 同時代のコンピュータのなかでも最も超高速の演算能力をもつものの名称である。原子力、 気象、宇宙などの膨大な計算が要求される分野で利用されている。最初、アメリカ・クレ イ社のCRAY‐1(クレイ・ワン)が市場に出荷され、この名前が浮上した。スーパー コンピュータには、ベクトル型とスカラー型がある。 現在のアメリカ・クレイ社は 1999 年にアメリカ・シリコングラフイックス(SGI)のス ーパーコンピュータ部門を買収したアメリカ・テラコンピユータが社名変更して発足した。 スカラー型の市場動向としては、アメリカ・クレイ社は、2001 年夏に「スーパークラスタ ー」を販売した。IBMは処理速度が 12 テラフロツスの「RS/6000SP」を発売した。 NECは処理速度が 141.3 ギガフロツプスの「TX7‐スーパードーム」を、富士通は、 処理速度が 1.12 テラの「VPP700Eシリーズ」を発売した。 ベクトル型の市場動向としては、アメリカ・クレイ社は1CPU当たり 64 ギガフロツプス の「SV1」、NECは最大処理能力が5テラフロツプスの「SX‐5シリーズ」、富士通 は最大処理能力が5テラフロツプスの「VPP5000」、日立製作所は最大処理能力が7テラ フロツプスの「SR8000」を発売した。 ◆ブルージーン(blue jeans)〔コンピュータ〕 アメリカ・IBMは、1999 年から5年間で1億ドルを投入し、世界最高速のスーパーコン ピュータ「ブルージーン」の開発にのりだした。演算処理能力は 97 年にチェスの世界チャ ンピオン、ゲーリー・カスパロフを破った「ディープ・ブルー」を改良し、1秒間に 1000 兆回の演算処理ができる。現在の世界最高速のスーパーコンピュータの演算処理回数は、 アメリカ・エネルギー省の主導で開発された1秒間に2兆回で、これを 500 倍も上回る性 能をもつという。用途はヒトゲノム(全遺伝情報)の解読に続くたんぱく質の機能解析な ど、バイオ分野の先端研究。ブルージーンは最先端の情報技術(IT)を活用して生命科 学の研究を推進するバイオインフォマティクス(生命情報工学)の典型として注目されて いる。その能力で、生命の秘密のカギをにぎるたんぱく質生成の仕組みの解明にチャレン ジする。 ブルージーンの構成は1秒間に 10 億回の演算を行う高性能プロセッサを 32 個集積し、一 つのチップを構成する。このチップを縦横8個ずつ並べ、64 個を搭載したボードを作る。 このボードを8枚積み重ねた「タワー」をさらに並列に 64 台つなげる。10 億回の演算を実 行するプロセッサを 100 万個利用した「巨大な並列処理コンピュータ」である。ブルージ ーンの設計思想を標語風に「SMASH」と表現している。つまり、シンプル(単純 メニー(たくさん many)、そしてセルフヒーリーング(自己修復力 simple)、 self-healing)の英 文頭文字を連ねたものである。 ◆超並列コンピュータ(super parallel computer)〔コンピュータ〕 単一のシステムの中に少なくとも 1000 個以上のプロセッサを連結して、それらが互いに協 調動作することによって、複数のプロセッサをうまく制御してプログラムを分散処理する コンピュータのこと。 日本電気は地球環境変動メカニズムの解明や将来予測に利用する超高速並列計算機システ ム「地球シミュレーター」を科学技術庁(現文部科学省)から受注し、本体製作に着手し た。運用開始は 2002(平成 14)年3月の予定。 同システムは、0.15 ミクロンの銅配線プロセス、約 5700 万トランジスタと最先端の超高 速・高集積相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術を採用、1CPU当たり8ギガフロ ツプスのベクトルプロセッサ8個で構成する計算ノード 640 台を高速ネットワークで接続 し、最大性能 40 テラフロツプス(1秒間に 40 兆回の計算速度)を実現。基本ソフトには UNIXベースの「SUPER‐UX」を大幅に強化し提供する。 IBMは世界最速の超並列コンピュータ「ASCI White」を完成させたと発表し た。このコンピュータはIBMの超並列UNIXサーバーRS/6000SPで構成され、最 大性能 12.3 テラフロツプスを達成した。RS/6000SPシステムは、8192 個のマイクロ プロセッサ(銅配線テクノロジー採用)、6テラバイトのメモリーを搭載している。「AS CI White」はアメリカ・エネルギー省(DOE)が進めているスーパーコンピュ ータ開発計画ASCI(アスキー)の一環。納入先のローレンス・リバモア国立研究所 (Lawrence Livermore National Laboratory)では、物理実験の代りとなる大規模なコン ピュータ・シミュレーションに使用される。 ◆GRAPE6〔コンピュータ〕 東京大学が開発した世界最速の天文学専用スーパーコンピュータを使って、アメリカの研 究者が星団や銀河の形成、進化を解明する日米共同プロジェクトが発足し、ニューヨーク のアメリカ自然史博物館でアメリカ側に貸与されるスーパーコンピュータGRAPE6が 公開された。 GRAPE6は東大の牧野淳一郎助教授(天文学)らが開発した多体問題専用機で、多数 の星の間に働く重力を計算できる。2001(平成 13)年には現存する世界最速の汎用コンピ ュータの 10 倍である 100 テラフロツプス(毎秒 100 兆回の浮動小数点演算速度)の計算速 度を達成する見通しである。アメリカ側はインターネットを通じて日本にあるGRAPE 6を使うほか、今回貸与された小型GRAPE6で多数の恒星間に働く重力の相互作用を 計算する。 ◆CMOS並列機(CMOS parallel computer)〔コンピュータ〕 大型汎用コンピュータでは、低コストのCMOS(相補型金属酸化膜半導体)プロセッサ の開発と並列処理技術や銅線配線技術の採用によって、高速性能を実現した。 日本IBMは 12 個のプロセッサを搭載した 1600 ミツプスのIBMS/390G6を、日立 製作所は 13 個のプロセッサを搭載した 1700 ミツプスの「P6パイロットシリーズ」を、 富士通は 16 個のプロセッサを搭載した 2000 ミツプスのGS8900 を販売した。また、CM OSプロセッサは、低速、集積度大、電流小、構造簡単などの特徴があるため、ベクトル 型スーパーコンピュータ(NECのSX‐4や、富士通のVPP700)にも採用されている。 ◆カオスコンピュータ(chaos computer)〔コンピュータ〕 科学技術振興事業団・戦略的基礎研究推進事業「脳を創る」のプロジェクトでは、「脳の動 的時空間計算モデルの構築とその実装」について研究している。動きを予測する規則はあ るが、実際の結果はやってみなければわからない。そんな不思議な性質を「カオス」とい う。現在のコンピュータは、各回路が同じリズム(クロック)に合わせて動く「同期・デ ジタル」式である。だが、生物の脳は、それぞれが独自に動き、カオス的な振舞いをもつ 「非同期・アナログ」動作を行う。同プロジェクトではこれをヒントにした「カオスコン ピュータ」の創造に取り組み、数年後には1万本の神経(ニューロン)、1億の結合(シナ プス)をもった「デジタルよりもはるかに速い」処理速度のコンピュータを実現する予定 である。 つまり、脳のカオス性と非同期性に着目して、脳における非線形時空間ダイナミクスを用 いた情報処理機構に関する数理モデルを構築するとともに、その基本モデルをアナログ電 子回路技術、非同期電子回路技術を用いて実装する。 ◆量子コンピュータ(quantum computer)〔コンピュータ〕 「ミクロの世界で、物理状態が重なり合うことがある」という量子力学の原理を基礎にお いたコンピュータのこと。一つの基本素子で、「0」「1」を重ね合わせた状態(量子ビッ ト)をつくって、それを計算に使う。このため、もし素子が 10 個あれば、1回にできる計 算が2の 10 乗(1024)通りまで増える。素子を多くすれば、急激に計算能力が向上する。 量子コンピュータには、(1)任意の物理系の効率的なシミュレーション、(2)発熱量の きわめて少ないコンピュータの実現、(3)素因数分解が得意であり、計算時間の飛躍的短 縮、などが期待される。 ◆バイオコンピュータ/分子コンピュータ(bio computer / molecular computer)〔コンピュ ータ〕 バイオコンピュータとは「生物の行っている生命維持機能に基づく情報処理機構」を計算 に応用するものである。具体的には、バクテリオロドプシンというたんぱく質による光素 子に基づく計算機の構想などがあげられる。 分子コンピュータとは、「分子レベルの生物化学的、物理化学的な性質に基づく計算機構」 を応用するものである。分子コンピュータは、シリコンベースの現在のコンピュータに対 して、原理的には速度・エネルギー効率・記憶容量などの点において潜在的な優位性をも っているが、基本的なDNA計算操作の実行精度の改良、解ける問題サイズのスケールア ップ化、プログラム可能な計算メカニズムとそのアーキテクチャの開発など、実現可能性 の課題が少なくない。 分子コンピュータの実現手法に関する研究の現状は「DNAコンピュータ」が主流である。 ◆DNAコンピュータ(DNA computer)〔コンピュータ〕 DNA(デオキシリボ核酸)は、四つの塩基(A、T、C、G)からなる。DNAコンピ ュータはこれらの配列をビット列に見立て、それぞれの塩基が1対1で特定の塩基としか 結びつかないという特性を利用する。 このコンピュータのアイデアは、RSA公開暗号系の提案者のひとりであるL・エイドル マン教授が 1994 年に発表した。その論文では、既存の計算機が不得意な問題を取り上げて、 DNA分子上に符号化し、分子生物学における実験手法を駆使してこの問題をみごとに解 いた。 DNA計算の仕組みは、(1)DNAの短い断片を試験管に入れる(DNA分子上に問題を 符号化する)、 (2)試験管を遠心分離機で振り回し、酵素の働きをかりながら処理する(科 学反応によって計算処理する)、(3)目的の答えとなるDNAが得られたかどうかをゲル 電気泳動などの分析器を使って検出する(計算結果を出力する)、などである。 ◆脳型コンピュータ(brain computer)〔コンピュータ〕 「脳型コンピュータ」とは、人間の脳の働きをまねて、直観による情報処理や、価値判断 の能力をもたせたコンピュータのことである。 開発動向としては、通商産業省(現経済産業省)工業技術院が、「ブレインウェア(脳機能 情報処理)」と名づけた研究プロジェクトを 1995(平成7)年度から開始した。超高速の情 報処理ができる超並列処理コンピュータや、学習機能に優れたニューラルネットなどの既 存技術の長所を組み合わせるほか、シリコン半導体を応用して集積度を高めたり、バイオ 素子を使って自然な言葉や音声で命令できるシステムの開発をめざす。また、カオス理論 や非線形学などの最新の知見を取り入れる。 東京大学先端技術研究センターでは、 「神経細胞は、自分が最も心地よい状態に努力すると、 自然に最適な答えが導き出せる」という学習の法則をロボットのアームを制御する頭脳に 組み込んだ。すると、アームの一部を針で刺すと、アームはすばやい動きで針から逃れた。 東京工業大学の研究グループは、ニューロン(神経単位)が結合している「シナプス」と いう部分と同じ働きをするトランジスタをつくった。そして、シナプスは刺激が何度も伝 わると、刺激に応じて結合を強めるという「ヘブの法則」を用いてシナプスの働きを再現 した。 ◆データフローマシン/DDMP(data flow machine / Data-Driven Media Processor)〔コ ンピュータ〕 アメリカ・マサチューセッツ工科大学のJ・B・デニスが提案した非ノイマン型コンピュ ータの一種で、データ駆動コンピュータともよばれる。このコンピュータには命令の逐次 実行系列を制御するプログラム・カウンタがない。そのかわり、各命令は命令の種類と命 令の実行結果の行先情報をもち、プログラム自体はデータの依存関係を示すデータフロー として表現される。並列計算による高速性があり、非定型的高速処理が要求される科学技 術計算用として期待されている。 シャープは、画像の圧縮や伸張が従来のプロセッサより 30 倍以上速いデータ駆動方式のプ ロセッサチップDDMPを開発した。処理能力は、1秒間に 3800 万回のデータ処理が行え る。データ処理を行う高速演算コアは、データ入力部、プログラム制御部、演算部とデー タを一時保存する発火制御部の四つの部分からなる。データがこの四つの部分を回る間に 必要な処理が行われる。 ◆OLTPマシン(Online Transaction Processor)〔コンピュータ〕 このマシンは、内部に複数の中央演算処理装置やメモリー、ディスクを装備しており、シ ステムの一部が故障しても全体を停止することなく修復できるもので、別名ノンストップ (無停止型)コンピュータともいう。 導入効果として、 (1)多数のオンライン取引処理が汎用機より優れ、コストも安い、 (2) 故障に強く、24 時間無停止の稼働が可能、 (3)システムを柔軟に拡張できる、などがある。 コンパックコンピュータは、無停止型の超並列サーバー「ノンストップ・ヒマラヤSシリ ーズ」を、インターネット言語JAVAの最新技術「J2EE(JAVA2プラットフォ ーム・エンタープライズ・エディション)」に完全準拠させたと発表した。 これにより、J2EEに対応したOS(基本ソフト)ウィンドウズNTやUNIX上で作 成されたWebアプリケーションがヒマラヤ上で実行でき、特定のハードウェア環境に限 定されないシステム構築が可能となる。 ◆ニューロコンピュータ(neuro computers)〔コンピュータ〕 脳を構成する神経細胞(neuron) ・神経回線網(neural network)の構造・情報処理機能を モデル化し、高度の情報処理装置の実現をめざしたコンピュータをニューラルコンピュー タ(neural computers)とよび、この原理を既存のノイマン型コンピュータのうえにソフ ト的に、またはハード的に模倣したコンピュータを、ニューロコンピュータと通常、称し ている。 ニューロコンピュータモデルは非線形のニューロモデルを数多く結んだネットワーク上で 並列分散的に情報処理を行うところに特徴がある。このアプローチのことをコネクショニ ズムとか並列分散ともよぶ。 ◆光コンピュータ(optical computer)〔コンピュータ〕 光の優れた属性を生かした新しい発想でイメージされているコンピュータである。 光を情報処理に利用するとき着目されている属性は、(1)超並列・高速処理、(2)信号 の空間配列の利用、(3)信号処理の多機能性、(4)信号相互間の無干渉性、(5)広帯域 性、(6)信号の多様性、などである。 現在、研究中の光コンピュータの方式には、(1)時系列演算方式(ノイマン方式)、(2) 並列アナログ演算方式(画像処理による方式)、 (3)並列デジタル演算方式の三つがある。 めざすところは超並列・高速処理コンピュータであり、ニューロコンピュータの技術とし て期待されている。しかし、その実現には光技術に適したアーキテクチャの研究をはじめ 光インタコネクション(素子間を光でつなぐ技術)、非線形光学素子、空間光変調器の開発 など多くの課題がある。 ◆光ニューロコンピュータ(optical neuro computer)〔コンピュータ〕 ニューロコンピュータは生物の脳の情報処理機構をハード的に模倣したもので、その特徴 は「並列処理」と「学習」にある。この機能を光演算器を利用しレンズの組合せやホログ ラフィにより相関などの演算を行わせたものが、光ニューロコンピュータである。光ニュ ーロコンピュータの特徴は、(1)光には空間並列性という特徴があり、膨大な数のニュー ロン間配線が可能である、(2)光波は互いにクロストーク(混線・混信)を受けないで伝 搬し、伝送容量が大である、(3)超高速演算ができる、などである。 ベクトル行列演算に光技術を応用した光連想メモリーの研究や光アソシアトロンなどの学 習機能をもつコンピュータの研究が進められている。 ◆ 2 世 代 フ ァ ジ ー / フ ァ ジ ー ・ コ ン ピ ュ ー タ (the second generation fuzzy / fuzzy computer)〔コンピュータ〕 ファジーとは、やわらかでぼんやりしていて、あいまいなことをいう。現在使われている ノイマン型コンピュータは、1か0か、正か負か、というように2値論理(デジタル論理) で割り切っている。これをクリスプ(crisp)な世界というが、クリスプでは中間的な値が うまく取り扱えない。ファジー論理ではメンバーシップ関数という一種の確率変数で中間 的なあいまいな状態を表現し、人間の言葉のあいまいな意味内容を数理的に扱えるように した。 第1世代ファジーは、地下鉄の運転、掃除機、洗濯機、調理器などの自動制御に威力を発 揮した。第2世代ファジーは、人間や社会に直接働きかけ、知識処理に威力を発揮すると いわれている。人間は直感や経験に基づく融通自在(ファジー)な行動を行う。これらを コンピュータでさせようとするのがファジー・コンピュータである。 ▲コンピュータ・ネットワーク〔コンピュータ〕 インターネット利用拡大にともない、情報システムは複数のサーバーに業務を分ける分散 型から、ユーザーが各種業務を集約した一つのサーバーから必要な機能をネットで取り出 す統合型へと急速に変化している。このため、業務を高速処理するメガサーバーが必要と なる。 ◆コンピュータ・ネットワーク(computer network)〔コンピュータ〕 独立した複数のコンピュータ・システムを通信回線により、互いに資源を共有することが できるように結合させたシステムのこと。 コンピュータ・ネットワークの特徴として、(1)複数の処理装置を含むこと、(2)処理 装置が独立または共同して動作できること、(3)処理装置間が有機的に結びついているこ とがあげられる。その効果には、(1)通信回線の共用による通信コストの削減、(2)分 散による信頼性の向上、(3)異業種間の結合による複合型業務処理の実現化、(4)情報 流通の促進などがある。コンピュータ・ネットワークは、規模により、ローカル・エリア・ ネットワーク(LAN local area network)とワイド・エリア・ネットワーク(WAN wide area network)に大別される。 ◆次世代メガサーバーシステム(mega server system of next generation)〔コンピュータ〕 アメリカ・IBMは、2002 年をめどに「次世代メガサーバーシステム」を製品化する。メ ガサーバーとは、ネットワークの核に位置してインターネット業務を高速処理するコンピ ュータのこと。次世代メガサーバーのシステム構造は、現行のUNIXサーバー「RS6000」 とシークエントの「NUMA(ヌマ)サーバー」技術を融合して実現する。NUMAサー バーは、一つのシステム上でUNIXとウィンドウズの両OSを併用できる独自構造をも つ。また、CPU(中央演算処理装置)を増設する場合、効率的に処理の負荷を分散し、 システム性能を最大限に発揮させる高速のメモリー共有化技術が特徴である。次世代サー バーではこれらの技術にIBMのもつ汎用コンピュータ、UNIXサーバーの技術を加え ることで、ウィンドウズとインテルの 32/64 ビットプロセッサー、次期UNIX‐OS「モ ントレー」とインテルの 64 ビットプロセッサー、パワーPCという異なるシステム環境を、 きわめて高い信頼性を維持しながら1台のサーバーで混在運用できるようにする。 ◆ネットワークOS(NOS)(Network Operating System)〔コンピュータ〕 NOSとは、アプリケーション・プログラムに対して通信関連サービスを提供すると同時 に、OSI(開放型システム間相互接続)参照モデルの中位層のプロトコル処理を行う基 本ソフトウェアのことである。NOSの基本機能としては、サーバ上のファイルとプリン タの共有機能、ユーザー管理とセキュリティ機能、障害対策機能があげられる。主な製品 には、ノーベル社の Net Ware や、マイクロソフト社の NT Sever がある。 その導入効果は、(1)異機種接続ができるため、ユーザーが自由にLANのハードウェア を選択できる、(2)既存の情報資産が継承できる、(3)パソコンの能力を最大限に引き 出せる、(4)市販のパッケージ・ソフトウェアを手軽に利用できる、などである。 ◆データ暗号規格(DES)(Data Encryption Stand-ard)〔コンピュータ〕 DESは、アメリカ商務省標準局(NBS)が 1977 年に公布したアメリカ連邦政府機関の 標準暗号方式である。NBSが 73 年に公募した中からIBMが開発・提案した方式を採用 した。DESは、送信者と受信者が同一の鍵を用いて通信文を暗号化・復号するという慣 用暗号方式の一種である。その処理手順は、64 ビットに分けられた平文の入力を 56 ビット の鍵が制御しながら、16 段にわたる転置と換字処理を行って 64 ビットの強力な暗号文を出 力する。復号は、これと逆の操作によって行われる。その特徴は、(1)取扱いが容易なこ と、(2)暗号化・復号の処理効率がよいこと、(3)鍵の生成が容易なこと、である。 ◆デジタル署名/RSA暗号(digital signature / RSA cryptograph)〔コンピュータ〕 東芝はインターネットで株の売買や電子商取引をする際に印鑑のかわりとして使う「デジ タル署名」の生成手法を考案した。 デジタル署名は電子署名ともいわれ、暗号技術を応用して作成した偽造の難しい電子デー タのことで、電子商取引などの本人確認に使用する。この手法では代表的な公開鍵暗号(→ 別項)である「RSA暗号」方式を採用した。 「RSA暗号」方式では 1024 ビット(10 進 数にして 300 ケタ以上)の大きな整数の計算を 1000 回ほど繰り返して署名を生成する。 新技術はこの大きな数を従来のように2進数で表現するのではなく、いくつかの定数で割 った余りの組合せで表す「剰余演算系」とよぶ特殊な手法を使った。32 個の定数を設定し、 それぞれ別の回路を使って並列に計算することで、処理を大幅に高速化した。 この回路を組み込んだ署名生成専用のLSIをインターネット株取引などに使うサーバー システムに搭載すれば、毎秒 1000 個のデジタル署名が生成可能となる。 ◆暗号ソフト「PGP」〔コンピュータ〕 軍事レベルの強度を誇る暗号ソフト「プリティ・グッド・プライバシー(PGP)」がネッ トワーク・アソシエイツ社から発売された。PGP暗号は鍵の長さが 128 ビットの公開鍵 暗号である。 1991 年に生まれたPGPは個人向けにはインターネットで無料ソフトとして配布され、 400 万人の利用者がいる「世界標準」の暗号ソフト。PGPでは、メールを送る相手が公表 している「公開鍵」で暗号化し、受け手は自分だけがもつ「秘密鍵」で解読する仕組みで ある。 日本では暗号の鍵を第三者機関である「認証局」で一括して管理する方式が注目されてい る。認証局方式は、そこに全部の鍵があるので政府にコントロールの機会を与えてしまう。 一方、PGPはユーザー同士が認証しあう方式だから政府の介入が難しい。 ▲コンピュータの利用〔コンピュータ〕 複合現実感の技術の実用化が外科手術などで始められている。生物の生態や振舞いから特 別な最適化問題を解く群知能のアルゴリズムが研究・開発された。また、日英同時通訳ソ フトが発売された。音声を逐次通訳するため海外旅行に使うと便利。 ◆バーチャル・リアリティ(VR)/ミックスド・リアリティ(MR)(virtual reality / mixed reality)〔コンピュータ〕 バーチャル・リアリティ(仮想現実感)とは、人間の感覚器にコンピュータによる合成情 報を直接提示し、人間の周囲に人工的な空間を生成することである。これは人工現実感と も称されている。人工現実感の研究は、現在、機械技術研究所やアメリカ航空宇宙局など で進められている。 仮想体験システムは、仮想現実感の技術を応用して、仮想環境をつくりだし対話的に疑似 体験を提供するシステムのこと。事例としては、住宅展示場で特殊なアイフォンというメ ガネに写る虚像とデータグローブによりキッチンルームの体験をしたり、難病児の医療用 として病室で多摩動物公園を散策する体験をしたり、教育用としてタービン発電機の生産 工場モデルで危険な作業の安全性を学ぶことなどがある。 ミックスド・リアリティ(複合現実感)とは、コンピュータ・グラフィックス(CG)な どと実写の映像とをリアルタイムに融合する表現技術のこと。医療やエンターテインメン トなど応用は広く、世界の先端をいく日本の技術に関心が高まっている。 ◆2000 年問題/Y2Kバグ(Year 2000 bug)〔コンピュータ〕 西暦 2000(平成 12)年になったとたん、コンピュータシステムに誤作動が発生するという 問題である。この問題は、コンピュータの処理能力が低かった時代にデータ量を節約する ために年号を西暦の下2ケタで管理してきたのが原因である。政府はコンピュータ誤作動 問題に関する調査結果をまとめている。 ◆400 年に一度の「閏日」問題(leap year bug every 400 years)〔コンピュータ〕 閏年(うるうどし)は4年に一度だが、100 で割り切れる年は閏年とはせず、400 で割り切 れる年は閏年とするという例外規定がある。コンピュータにこの例外規定がプログラムさ れていないと、閏年ではないと判断し、「2月 29 日」を認識できなくなり、誤作動が起き る。 ◆人工知能(AI)(Artificial Intelligence)〔コンピュータ〕 人工知能研究が正式に始まったのは、1956 年に行われたダートマス会議である。人工知能 とは「コンピュータにより人間のもつ知的活動を実現する技術」のこと。 AIに期待されている効果は、情報を相互に独立な個々のモジュールを内部にもち、ユー ザーの必要に応じて問題解決手順に組み立てる知的な働きである。 AI研究には次の二つのアプローチがある。(1)科学的立場からのもので、シミュレーシ ョンによって知能のメカニズムを解明することを目的に、コンピュータが使われている。 この場合は一般的に認知科学といわれている。(2)工学的立場からのもので、知的能力を コンピュータに与えることを目的とし、知識工学とよばれる分野に属している。応用面で はエキスパートシステムがある。 ◆群知能〔コンピュータ〕 個々のアリ(蟻)は、餌を集めるにしても、においの刺激に応じて条件反射で物をくわえ たり放したりしているだけで「餌を探して集める」と考えて行動するわけではない。しか し、こうした単純作業も多数のアリが繰り返すと、一定の効率で「餌を探して集める」と いう目的が達せられる。「賢くない」アリを多数集めると、単純な足し算ではなく、群れに それ以上の知能、つまり群知能が生まれる。こんなアリの生態を工学的に活用する研究が 始まっている。 三菱電機中央研究所は、群知能を応用した文書分類法を開発した。アリがにおいをもとに 餌などを分別するのと同様に、文中の特定の単語を手掛かりにコンピュータが内容ごとに 分類する。高度の人工知能を使わなくてすむのがこの応用の利点で、膨大なデータベース にある大量の文書情報の自動分類に有効。 東京大学工学部の三浦宏文教授らの研究グループは、超小型ロボットであるマイクロマシ ンの制御にアリの群知能を利用して、多数のロボットを目的に向かって誘導する研究を進 めている。群知能では1台のロボットは交信や指揮のための高度な人工知能やセンサーを 搭載しないから、サイズが小さく、多くの機能を搭載しにくいマイクロマシンに適してい るという。 ▲コンピュータの基礎用語〔コンピュータ〕 ◆アーキテクチャ(architecture)〔コンピュータ〕 ハードウェア、ソフトウェアを含めたコンピュータシステム全体の設計思想、つまり構成 上の考え方や構成方法のこと。これによりコンピュータシステムの使い勝手、処理速度な どの基本的な性格が決まる。具体的には、ハードウェアでは、処理単位である語長、記憶 装置やレジスタのアドレス方式、バスの構成方法、入出力チャネルの構造、演算制御や割 り込みの方法などがある。 また、ソフトウェアでは、オペレーティング・システム(OS)の機能と構成、使用言語、 プログラム間のインタフェースなどである。 ◆アイテニアム/マッキンレー〔コンピュータ〕 アイテニアム(IA‐64)は、アメリカ・インテルの「次世代 64 ビットプロセッサー」で、 次世代インテルチップの最初の製品である。IA‐64 は、クロック周波数が 800 メガヘル ツ、システムバス速度が毎秒 2.1 ギガバイトで、クロック当たり最大 20 命令の同時演算処 理が可能な「エピック」とよばれる新構造を採用し、性能向上を周波数に依存した従来チ ップに対し飛躍的な高性能化を実現している。 マッキンレーは、2002 年に出荷を開始する第2弾の「次世代 64 ビットプロセッサー」で ある。これを 512 個搭載することによって、高性能、高拡張性、高可用性のある超大型汎 用コンピュータやスーパーコンピュータが実現可能となる。 ◆RISC(縮小命令セットコンピュータ)/CISC(複合命令セットコンピュータ) (Reduced Instruction Set Computer / Complex Instruction Set Computer)〔コンピュー タ〕 RISCは、CPU(中央処理装置)内の命令語のアーキテクチャ(設計思想)に関する 言葉である。従来からのCISCは、複雑な命令語体系をもち、同じ処理を行うプログラ ムを少ない命令数で実現するよう設計されている。そのため計算速度やコストが犠牲にさ れていた。しかし、RISCは単純で限定された数の命令語体系をとり、演算方式を単純 化してスピードアップとコスト削減をはかった。現在は、RISCチップの低価格化が進 み、ビジネスWSの市場が拡大されている。 ◆TRON(The Realtime Operating system Nucleus)〔コンピュータ〕 TRONとは数千、数万のコンピュータを接続し、さまざまな相互関係をもたせながらそ れぞれの目的を同時並列的に遂行する超機能分散システムを実現させるOS(基本ソフト) のこと。TRONプロジェクトは、超機能分散システムの構築を掲げて 1984 年から開始さ れた。TRON基礎プロジェクトとしてBTRON(ヒューマン・インターフェースをつ かさどるOS)、ITRON(制御用リアルタイムOS)、CTRON(情報通信ネットワ ーク向きOSインタフェース)、MTRON(分散型マルチ・マイクロプロセッサ用OS)、 TRONCHIP9(32 ビットVLSIマイクロプロセッサ)がある。 TRONを復活させるために新会社「セネット」が 99 年1月に設立された。事業内容は、 (1)BTRON最新仕様の公開、 (2)英語版・中国語版のパッケージソフトの開発、 (3) JTRONの普及、(4)BTRON・OSのバンドル販売やRTRON専用機の開発など である。 携帯電話のJ‐フォンは、ゲームや音楽・動画配信などが楽しめる次世代携帯電話の基本 ソフト(OS)に、TRONを採用する計画である。ソフトウェア開発のアプリックス社 製のTRON仕様OSを搭載した次世代携帯端末を、2001(平成 13)年から複数の国内大 手メーカーが製造・販売する見通し。 ◆ベオウルフ・クラス・クラスター(Beowulf class cluster)〔コンピュータ〕 科学技術振興事業団の北野共生システムプロジェクトの研究チームは、市販の部品を使っ て 33 台のパソコンを製作し、基本ソフト(OS)のLinux(リナックス)やアメリカ のアルゴンヌ国立研究所が開発した並列計算用の無料ソフトを組み込んで安価な並列コン ピュータをつくった。この並列コンピュータは 1993 年にアメリカ航空宇宙局の研究グルー プが提唱した「ベオウルフ・クラス・クラスター」とよぶ構想に基づいて開発された。現 在、世界中で 100 を超えるプロジェクトが進行中である。 同機の処理能力は 6.8 ギガフロツプスで、1秒間に 68 億回の演算ができる。1000 ギガフロ ツプスを超える最新のスーパーコンピュータに比べ性能は劣るが、製作費用は 98 年末の発 注時点で 1500 万円である。現在はパソコンなどの作製に必要な部品が当時より安いため、 製作費は総額 500 万円以下ですむという。 ◆クラスタリング技術(clustering technology)〔コンピュータ〕 コンピュータの対障害性を向上する要素技術。同種のコンピュータ、中央演算処理装置(C PU)などをネットワークで複数台を房型に接続して、あたかも1台のコンピュータのよ うに見せる機能である。これにより、ひとつのシステム単位に障害が発生しても即座に別 のコンピュータ、CPUに処理を引き継ぐことが可能となる。この技術は従来、超並列コ ンピュータや汎用機で使われていたが、最近ではウィンドウズNTを搭載するパソコンサ ーバーの領域で採用されている。PCサーバーのクラスタリング技術の主な製品としては、 アメリカ・タンデムコンピューターズのサーバーネット、マイクロソフト社のウルフパッ クなどが発表されている。 ◆プラットフォーム(platform)〔コンピュータ〕 コンピュータの基盤のことであり、ハードウェアとソフトウェアがある。ハードウェアで は、かつては汎用コンピュータが唯一のプラットフォームであったが、1980 年代以降はパ ソコンが普及し、そしてワークステーションが台頭して、プラットフォームも多様化して いる。ソフトウェア・プラットフォームは基本ソフトウェア(OS)のことである。 ◆UNIX〔コンピュータ〕 1969 年にアメリカ・AT&Tベル研究所がPDP7上に開発した時分割方式のマルチタス ク・マルチユーザーのオペレーティング・システム(OS)。71 年にPDP11 上に移植す る際にC言語で書き直され、移植性の高いオープンシステムのOSとなった。75 年ごろか らソースプログラムが大学、研究所、企業等に配布されるようになって急速に普及・発展 した。UNIXの優れている点は、 (1)高品位文書の作成が容易、 (2)文書検索が容易、 (3)オープンシステム、(4)優れた操作性などである。 ◆コンパイラ/インタプリタ(compiler / interpreter)〔コンピュータ〕 FORTRAN、C言語、COBOL、PL/1などの高級言語で書かれたプログラムを 機械語プログラムに翻訳するプログラムまたは、そのプログラム言語の総称。 一般にコンピュータ自身が唯一理解、実行できる言語を機械語とよぶ。機械語はコンピュ ータのハードウェアに密接に関連するため使用するコンピュータによってまちまちである。 そこで各コンピュータがこのコンパイラを用意することによって、人間が記述するプログ ラムをコンピュータに左右されにくいものにした。 コンパイラはすべての処理の実行に先立って機械語への翻訳を一括して行うが、処理の実 行に際して次の命令文を逐次、機械語に翻訳する方式の言語をインタプリタとよぶ。コン パイラに比べて処理速度の遅さなどの問題点はあるが、結果の確認などがその場でできる ため、プログラムの入門用やデバックに幅広く利用されている。BASICなどが有名で ある。 ◆MIPS(Million Instructions Per Second)〔コンピュータ〕 コンピュータが単位時間に実行できる命令の数を表す単位。1MIPS(ミップス)とは 1秒間に 100 万回の命令が実行できること。現在の超大型コンピュータは、およそ 10 から 100MIPS程度の性能である。関連用語としては、浮動小数点演算の速度の単位を表すF LOPS(フロップス)、論理演算の単位を表すLIPS(リップス)などがある。 ●キーワード〔コンピュータ〕 ●リナックス(Linux)(Linux)〔コンピュータ〕 リナックスは 1991 年、フィンランド・ヘルシンキ大学の学生だったリーナス・トーバルズ によって、業務用大型コンピュータなどで使用されているOS「UNIX(ユニックス)」 をベースにして開発された。主に複数のパソコンなどをネットワーク化する際の中核コン ピュータ「サーバー」用のOSとして使用されている。インターネットを通じて無料で入 手できるうえ、ネット上でプログラムが公開されている(オープンソース)ため、世界中 の技術者らが自発的に改良を重ねた結果、動作の安定性などで高い性能をもつとされてい る。 アメリカでは、98 年9月、世界最大の半導体メーカー、インテルがリナックス関連ソフト を販売する「レッドハット・ソフトウェア」に資本参加したほか、IBM、ヒューレット・ パッカード、デルコンピュータなどが相次いで支持を表明し、急速に注目を集めた。 リナックスの著作権はトーバルズが所有しているが、インターネットからだれでも無料で 複写(ダウンロード)でき、他の人に無料配布すること、プログラムを書き換えることが 認められている。ただ、書き換えたプログラムをリナックスに取り入れるかどうかは、ト ーバルズが決定する。こうして、亜流のリナックスが発生するのを防いでいる。 ●ナノテクノロジー(nanotechnology)〔コンピュータ〕 「ナノ」は 10 億分の1を意味する接頭語。10 億分の1メートルレベルで原子や分子の挙動 を観察すると、私たちが通常触れる世界とは違った現象が生じている。それらを見つけ、 利用する技術をナノテクノロジー(超微細加工技術)という。 アメリカでは予算を倍増し、国家ナノテク戦略(NNI)を推し進めている。ナノテクの 応用分野とその具体例として次の四つをあげている。 (1)材料・カーボンナノチューブ(高 性能磁気ヘッド)、(2)ライフサイエンス・体に埋め込む分子機械(がんだけを攻撃する 薬)、(3)エレクトロニクス・単電子機械(DNA分子素子)、(4)環境エネルギー・変 換効率の高い太陽電池(有害化学物質除去網)。 日本の競争力は材料開発の分野では先頭集団にいるとみられている。ナノテクノロジーと いう造語は日本から発信されたといわれる。発信者は東京理科大の谷口紀男教授(当時) で、1974 年の国際生産技術会議で使った。精密加工の精度が 2000 年には1ナノメートル 程度になると予測し、そのための総合生産技術が必要になると指摘した。 ●量子情報技術(QIT)(quantum information technology)〔コンピュータ〕 原子や分子などを1個ずつ操って半導体材料などをナノ(10 億分の1)レベルで制御する 技術を「量子情報技術(QIT)」という。 電子や原子、光の粒である光子をナノテクノロジーで1個ずつ制御できる微小世界では、 日常感覚では理解し難い不思議な現象が生じる。粒子としての性質以外に波としての性質 が顕著になってくる。この世界は量子力学によって説明される。 量子力学には次の三つの基本性質があり、この性質を通信や情報処理に生かそうとする動 きが活発になっている。 (1)重ね合わせ 現在の情報通信では情報の基本単位であるビットが1か0のどちらか 一方の値をとるのに対し、量子情報通信では情報の基本単位となる量子ビットが1と0の 両方の値を同時にとることができる。この性質を重ね合わせとよぶ。1量子ビットは重ね 合わせ状態が2個、2量子ビットでは4個、3量子ビットでは8個存在する。量子ビット の数がn個になると、現在のコンピュータに比べて計算速度は2のn乗倍速くなる。 (2)もつれ合い 2個以上の電子や光子の間に存在する不思議な相関関係。一方の量子 の状態が決まると、もう一方の状態も瞬時に決まってしまうという現象。この現象を利用 すると大量の情報を瞬時に遠隔地に送ることができる「テレポーテーション」が実現する。 フラーレン(C60)とよぶ炭素素材を使った実験で、すでに実現可能なことが確認され ている。 (3)観測による影響 量子の重ね合わせの状態を外部から一度でも観察すると、同時に 1と0の両方の値をとっていた状態が、1か0のどちらかに決まってしまう性質をさす。 暗号に利用すれば、第三者が盗み見した瞬間に量子状態が変化して、情報内容も変更され てしまうため、絶対に破られない安全な暗号になる可能性がある。 ●イントラネット(intranet)〔コンピュータ〕 イントラネットの構成例 WWWサーバーやウェブ・ブラウザなどのインターネット技術を活用したオープンな企業 内コンピュータ・ネットワーク(LAN)、つまり企業内情報システムのこと。企業内ネッ トワークと社内WWWサーバーを中核にして構築し、クライアントはインターネットと同 一のブラウザ(検索閲覧ソフトウェア)で利用する。そのため、これまでの情報システム に比べ、初期導入費用が安く、構築も段階的に簡単にできる。それに情報の発信や閲覧が 容易にできるという特徴がある。 イントラネット構築のポイントとしては、次の二つがあげられている。(1)インターネッ トとの接続、LAN/WANの構築、ネットワーク・コンピュータ体制の確立などの通信 インフラの整備、(2)WWWブラウザやグループウェアなどネットワーク統合ソフトウェ アを上手に使い分けること。 ●エクストラネット(extranet)〔コンピュータ〕 イントラネットを介して、企業のイントラネット内に社外の特定の提携先や取引先だけが 接続できるネットのこと。イントラネットの「イントラ」が企業内を意味するのに対して 「エクストラ」は企業外をさす。通常は、社員しか見られないイントラネット内の情報を、 セキュリティや認証技術を駆使して提携先・取引先企業にまで接続を認めるネットである。 ●インターネット・コンピューティング(internet computing)〔コンピュータ〕 インターネットワーク利用の拡大にともない、情報システムは複数のサーバーに業務を分 ける従来の分散型(クライアント・サーバー)から、ユーザーが各種業務を集約した一つ のサーバーから必要な機能をインターネットで取り出す統合型(インターネット・コンピ ューティング)へと急速に変わり始めている。 インターネット・コンピューティングとは、ユーザーがクライアント機に設定されたブラ ウザ(閲覧ソフト)を使って、各種業務を集約した一つのメガサーバー(→「次世代メガ サーバーシステム」)から必要な機能をインターネットで取り出す方式。 この方式の構築のポイントは、次の三つがあげられる。(1)クライアント機はWebブラ ウザにすることによって最小限の機能にとどめ、低コストで、もっと簡単にだれでも使え るものにする。(2)さまざまなアプリケーションで作成されたファイルを読み込み、HT ML(→別項)形式に変換して保存する機能やJava対応のアプリケーションサーバー としての機能をデータベース管理システムに備える。(3)メガサーバーにSCM(サプラ イチェーンマネジメント)、PDM(プロダクトデータマネジメント)などアプリケーショ ンを収納する。 放送・映像〔情報・メディア〕 ▽執筆者〔放送・映像〕 志賀信夫(しが・のぶお) 放送批評懇談会理事長 1929 年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。NBA東京セッション実行委員会会長。 著書は『テレビ媒体論』『放送』『いまニューメディアの時代』『昭和テレビ放送史』『デジ タルHDTVの時代』など。メディア・ワークショップ代表理事。 ◎解説のフォーカス〔放送・映像〕 ブロードバンド(BB)時代へ動く放送 ●ブロードバンド(BB=広帯域)とは、従来のISDNや電話回線などのナローバンド (狭帯域)に比べて、送られる情報量が一躍 20∼100 倍まで増す高速大容量の通信方式。 ADSL(非対称デジタル加入者線)やCATV(ケーブルテレビ回線)、FTTH(光フ ァイバー)と常時接続できる。テレビなみの画質と音声がパソコンでも楽しめ、ダウンロ ードの速度もぐんとアップする。政府の「e‐ジャパン重点計画」では、この高速回線を 5年以内に 3000 万世帯に普及させることを目標にしている。 ●この情報高速網を活用、テレビ各局は映像ネット配信事業に進出している。日本テレビ はいちはやく著作権管理会社「ビーバット企画」をNTT東日本などと設立、2001(平成 13)年7月から有料配信を開始、同年9月には事業会社化して本格的なビジネスを展開す る。フジテレビ、TBS、テレビ朝日の民放キー3局は、高速インターネット向けの映像 配信事業で提携することを合意。02 年春にも合弁の専門事業会社を設立し、有料会員制で 配信サービスを始める。BB先進国のアメリカでは、有料配信される素材は音楽ライブが 中心。魅力ある素材(コンテンツ)の開発と著作権の管理が今後のカギとなる。 ★2002 年の新語〔放送・映像〕 ★テレビバンキング(TV-Banking)〔放送・映像〕 テレビバンキングのイメージ 銀行がBS(放送衛星)デジタル放送を活用したテレビバンキングに相次いで参入してい る。三和銀行やスルガ銀行が 2001(平成 13)年5月にサービスを始めたほか、あさひ銀行 も参入を決めた。各行ともリテール(小口金融)業務の強化をねらっている。電話やイン ターネットを使った取引と並び、家庭のテレビを使った金融取引が店舗外取引の有力手段 として離陸した。 BSデジタル放送は、テレビ番組だけでなく、商品情報などのデータを番組に送ることも 可能。金融サービスはこのデータ放送を活用する。電話回線を通じて家庭と放送局を結ぶ 双方向のサービスも可能になる。リモコン操作でテレビショッピングなども行えるため、 電子商取引のインフラとしても期待されている。残高照会や取引明細照会のほか、振込み や振替えといった資金取引ができる。将来は外貨預金や投資信託の購入など本格的なサー ビスの利用も可能になる。BSデジタル放送が本格的に普及すれば、自宅にいたまま資金 決済などができる在宅金融サービスの拡大に弾みがつくとみられる。テレビはパソコンよ りも普及率が高く、操作も簡単なので、高齢者に受け入れられやすく、通信インフラの整 備が進めば、次世代金融サービスとして広がる可能性を秘めている。00 年 12 月からサービ スを開始した三井住友銀行(旧さくら銀行)、富士銀行、01 年3月からの第一勧業銀行を含 め、大和銀行も検討中であり、都銀全行がテレビバンキングを導入する。パソコンや携帯 電話を使ったネットバンキングも契約件数や取引件数が急増しており、BSデジタル機器 の普及にともない、テレビバンキングの取引件数も伸びていくだろう。 ★PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)テレビ〔放送・映像〕 主なPDPテレビ ブラウン管よりも薄型で、液晶テレビよりも大画面なのが、PDP(プラズマ・ディスプ レイ・パネル)テレビの特徴であり、特殊なガスに電圧をかけたときに生じる放電現象を 利用して映像を表示する方式である。 いままで主に業務用に使われてきたのは高価格だったためであり、2001(平成 13)年春ご ろから価格が下がった。それは、その前年 12 月からBS(放送衛星)デジタル放送が始ま り、PDPテレビを普及させる追い風となったからである。それでも最も小さい 32 インチ 型で実売価格は 60 万円を切った段階、まだ 夢の壁掛けテレビ だといえよう。それでも 100 万円を切ったので、01 年のPDPテレビの国内出荷台数は 00 年の 10 倍以上の 10 万 台に達する見通しだ。このうち 30∼40%が一般家庭用になる見込み。00 年は業務用が 80% を占めていたので、家庭向けが大幅に増えたことになる。PDPテレビはこれから手ごろ な価格の家庭用と大型の業務用に、市場は二極化しそうだ。 【主なPDPテレビ】 〔W32-PD(日立製作所)〕 PDPの最小型、2001 年 4 月発売。32 型(716mm 399mm)、画素数 852 1024。実売 価格約 60 万円。 〔PDP-502HD(パイオニア)〕 民生用で先駆け、1999 年 7 月発売。50 型(1098.2mm 620.5mm)、画素数 1280 768。 実売価格約 130 万円。 〔TH-42PM50/S(松下電器産業)〕 BSデジタル放送チューナー内蔵、2001 年 8 月発売。42 型(920mm 852 518mm)、画素数 480。実売価格約 80 万円。 〔PX-61XM1(NEC)〕 世界最大、2001 年 7 月発売。61 型(1350.7mm 760.3mm)、画素数 1365 768。実売価 格約 250 万円。 ★MPEG4(エムペグ・フォー)〔放送・映像〕 デジタル放送で使用している映像圧縮の方式である「MPEG2」の親戚(→「MPEG」)。 MPEG4は、映像をいくつかの部分に分けてから別々に圧縮し、電送する。例えば、ニ ュースキャスターの映像と背景ビデオを別々に符号化して圧縮し、電送する。こうするこ とにより、より狭い帯域でも映像を送れるようになる。 映像を部品化することにより、再利用することもできるが、実用化にはまだ時間を必要と する。これらの映像部品をすばやく見つけるために、映像検索のための符号化「MPEG 7」も考えられている。MPEG4の技術はどちらかというとテレビ電話の技術をもとに 開発されたので、容量の小さい伝送路がターゲットにされている。 ★24P(高画質デジタル)カメラ(HDW-F900)〔放送・映像〕 通称 24P。劇場映画にもテレビにも使えるデジタル高画質カメラ。24Pの 24 は、コマ数 を表し、Pはプログレッシブ方式をいう。映画は1秒間 24 コマの画像をスクリーンに投射 することで、動いているように見える。テレビは毎秒 30 コマの画像だが、24Pカメラはビ デオカメラにもかかわらず、映画のコマ数にあわせた。フィルム映写機能しかない映画館 でも利用できるからだ。デジタルビデオなので、その場で映像が確認できるばかりか、撮 り直しも、CG合成も自由自在。映画だけでなく、DVDや規格の異なるヨーロッパのテ レビにも変換が容易であり、各映像世界のハード面の障壁を飛び越えた。ソニーとハリウ ッドの映画人が開発し、1年間で世界に約 1000 台、日本に数十台普及した。価格は1台 1000 万円。日本の他メーカーも同種のカメラを開発、アメリカでの発売を進めている。ル ーカス監督が「エピソード2」で、テレビマンユニオンは「子供が見たルーブル美術館」 で、全編 24Pカメラを使用した。 ★曲げて運べる紙テレビ(フィルム液晶素子画面)〔放送・映像〕 テレビ画面はブラウン管が従来の常識だったが、それを覆したのが、「フィルム液晶素子」 という画面。液晶とポリマー繊維でつくった膜をプラスチック基板で挟んだ構造であり、 厚さは 0.4 ミリメートル、紙のように軽い。曲げたときも厚さを一定に保つように、ポリマ ー繊維を混ぜてあるのが特徴。動画を映したり、カラー化するのは今後の課題であり、実 用化にはもうしばらく時間がかかりそうだが、NHK技研(技術研究所)公開で一般公開 され、21 世紀の未来型テレビとして注目された。フィルム液晶テレビを曲げてポケットに 入れて持ち歩く時代は夢ではなくなった。 ▲放送事業〔放送・映像〕 放送のデジタル化が進むとともに、放送と通信の融合はしだいに深まり、両者の壁はうす くなってきた。ケーブルテレビはもともと電線を使っているので通信に近い放送であった が、インターネットの普及に従って、通信との結びつきを強くしており、通信事業の色彩 を濃くしている。 BS・CSによる衛星放送もデジタル化とともに通信事業に近づいており、インターネッ トを使ったショッピングやネットバンキングなど通信との結合がますます進んでいくもの と思われる。 一方、通信業界も映像配信事業に積極的にのりだしており、放送界もこれら通信業者と手 を結んで映像ソフトの提供をしようとしているので、ますます通信と放送の融合は、双方 から従来の壁が取り除かれようとしているといっていいだろう。 こうした動きは、放送が通信の色合いを濃くするばかりか、放送は通信の性質をもたざる をえなくなる。だが、この傾向が強くなりすぎると、放送はそれ自身の特色を失ってしま う。そこで、放送はコンテンツ(番組)の質をよくしていき、放送文化の特徴を鮮明にう ちだす必要に迫られている。これが放送の今後の課題といえる。 ◆NHK(日本放送協会)(Nippon Hoso Kyokai)〔放送・映像〕 東京都渋谷区神南に本部をおき、NHKの電波を直接各家庭に向けて放送する特殊法人。 その運営は主に受信料(2001(平成 13)年度は収入 6414 億円で全収入の 96.7%)で賄わ れている。NHKの電波は、地上放送と衛星放送の2種、合計して 10 波がある。前者には 総合、教育の2テレビ、ラジオ第1と第2およびFM放送がある。後者にはデジタルハイ ビジョン、衛星第1テレビジョン・デジタル衛星第1テレビジョンおよび衛星第2テレビ ジョン・デジタル衛星第2テレビジョンの二つのサイマル(同時)放送が行われている。 このほか、BSデジタル放送では、「緊急時に役立つ」「生活をより便利にする」をコンセ プトに、データ放送、番組ガイド(EPG→別項)などのサービスを実施している。また、 96 年3月からFM文字多重放送を開始している。 海外発信では、NHKワールドTV、NHKワールド・プレミアム、NHKワールド・ラ ジオ日本の3種。世界各国への正しい日本理解の促進に貢献し、あわせて海外の日本人へ 必要な情報を提供する。前者はテレビ国際放送で1日 24 時間、国内とほぼ同時に視聴でき る。ニュース・情報番組が中心で、英語ニュースも充実している。中者は映像番組配信で 前者と同じ地域の局にスクランブル(有料コンテンツを契約者だけが見られるようにする 技術)をかけ、1日 24 時間配信する。後者は1日延べ 65 時間、短波で日本語と英語を含 む 22 の言語で放送している。 放送法によって以下のようなことが定められている。(1)豊かで、かつ、良い放送番組を 放送し、または委託して放送させることによって公衆の要望を満たすとともに文化水準の 向上に寄与するように最大の努力をはらうこと。(2)全国向けの放送番組のほか、地方向 けの放送番組を有するようにすること。(3)わが国の過去の優れた文化の保存ならびに新 たな文化の育成および普及に役立つようにすること。 事業計画・収支決算は国会の審議を経ることを求められている。なお、運営の基本計画は、 全国から選ばれた須田寛、櫻井孝頴、鳥井信一郎ら 12 名の学識経験者からなる経営委員会 で決める。関連団体は、NHKエンタープライズ 21 などの放送番組の企画・制作、販売分 野が8社、NHKきんきメディアプランなどの地域関連団体が6社、NHK総合ビジネス などの業務支援分野が6社、NHKサービスセンターなどの公益サービス分野が7社、福 利厚生団体が2社となっており、形態も株式会社、財団法人、社会福祉法人などさまざま である。2001 年6月末の受信契約総数は約 3747 万件、うち地上波テレビのみが約 2671 万件、衛星放送も契約しているのが約 1076 万件となっている。大型企画は宇宙の進化の謎 を追う「宇宙・未知への大紀行」(9回シリーズ)や、日本人のルーツを問う「日本人はる かな旅」(5回シリーズ)、「アジア古都物語」(6回シリーズ)など見応えある番組ライン アップである。 ◆民放(民間放送)〔放送・映像〕 放送番組や局の経営の費用を、スポンサー(広告主)が支払う広告料金(電波料、製作費、 ネット費)で賄う商業放送、および契約者から視聴料金を取る有料放送。2001(平成 13) 年8月3日現在、地上波系が音声放送 101 社(中波 47 社、短波1社、FM県域 49 社、F M外国語4社、このほかFMコミュニティ 141 社)、テレビ放送 127 社、テレビ多重専門(第 三者)文字放送6社であり、衛星波系では音声がBSアナログ1社、BSデジタル 10 社、 CSアナログ1社、CSデジタル6社、テレビがBSアナログ1社、BSデジタル7社、 CSデジタル 103 社、データがBSデジタル 15 社、CSデジタル2社となっている。 51(昭和 26)年9月1日、名古屋の中部日本放送と大阪の新日本放送(現・毎日放送)が それぞれラジオ放送を開始。テレビは 53 年8月 28 日、東京の日本テレビが初放送を開始 した。これら地上系に対し、衛星系はJSB(日本衛星放送)が 91 年4月1日に放送を開 始した。JSBの設備を利用したPCM音声放送(テレビジョン音声多重放送)セント・ ギガは 91 年9月1日に放送を始めた。CS(通信衛星)によるテレビ放送は、日本ケーブ ルテレビジョン、スターチャンネル、ミュージックチャンネルの3社が 92 年5月1日から それぞれ有料放送を開始した。会員社の 00 年度決算概況によると、衛星系を除く地上民放 192 社の営業収入は総額2兆 6317 億 3300 万円で、新規開局社を除いた既存局ペースでは 前年比 6.5%の増収となった。経常利益は総額 3154 億 5700 万円で前年比 33.2%増となっ た。昨年に続き、営業収入、経常利益ともに全社の総額が前年を上回った。 ◆民放連(NAB)(The National Association of Commercial Broadcasters in Japan)〔放 送・映像〕 日本民間放送連盟の略称。民放各社の共同の利益を守り親睦をはかる目的で、民放誕生の 年(1951(昭和 26)年)、初の免許を受けた 16 社によって設立され、2001(平成 13)年 8月1日現在の会員社は、総数 202 社である。内訳は、地上放送は 192 社で、ラジオ単営 が 65 社(うち中波 11 社、短波1社、FM53 社)、ラジオ・テレビ兼営 36 社、テレビ単営 91 社となっている。この地上放送を音声放送とテレビ放送に大別すると、前者が 101 社、 後者が 127 社に分けられる。衛星放送は 10 社で、うち音声放送のみは4社となる。事務所 の所在地は東京都千代田区の文芸春秋西館。 ◆放送法〔放送・映像〕 国民生活に大きな影響力をもつ放送が、健全な発達をとげることができるようにする目的 で、放送番組、放送運営の全般を規律するもの。1950(昭和 25)年春の国会で制定され、 国民的基盤に立つ公共的な放送機関としてのNHKの設立、運営、財政、番組、監督につ いて定め、また、電波法による放送局の免許というかたちで放送事業者としての地位を得 た民放については、番組の編成、広告放送の実施などについて、規定している。まだ民放 テレビが生まれていなかった 50 年に制定された放送法なので、2000(平成 12)年までの 50 年間において、30 回にも及ぶ法改正が行われてきた。その「放送法等の一部を改正する 法律による改正」は、技術の進展にかかわるものが最も多く、ラジオからテレビ、宇宙開 発、放送大学学園法、国際放送の相互交換中継、有線テレビジョン放送、超短波多重放送、 CS放送、BSデジタル放送、デジタル方式のテレビ放送および超短波放送など新しい放 送が導入されてきた経過をたどることができる。 01 年の法改正においては、 「通信と放送の融合」 「放送という概念が必要かどうか」 「特殊法 人NHKをどうするか」などを検討した。 ◆放送番組向上協議会/放送番組向上委員会・放送と青少年に関する委員会〔放送・映像〕 放送番組向上協議会は、正会員のNHKと民放から事務局員が送られ、1969(昭和 44)年 から「放送番組向上委員会」における放送のあり方や問題点などについて討議した記録を まとめて全国の放送局などに配付してきたが、2000(平成 12)年より「放送と青少年に関 する委員会」の討議資料や視聴者からの意見などをも一緒にした両委員会の記録を関係団 体に送付している。 放送番組向上委員会は「テレビの悪影響から青少年を守れ」という声に呼応してつくられ、 学識経験者7人によって構成、委員長は草柳大蔵。討議したテーマは「ワイドショーのあ り方」「放送とプライバシー」「事件報道の仕方」「TBSビデオテープ問題」「ペルーの日 本大使公邸人質事件」など多数。また、「放送倫理に関する懇談会」などのシンポジウム、 セミナーを開催してきた。 青少年に関する委員会は、「バラエティー系番組に対する見解」などを発表、番組制作者や 有識者が視聴者を交えて公開シンポジウムを行ったりしている。また中学生とともに、「テ レビはこのままでいいのか」という公開討論会を開いた。委員長は原寿雄、7名の委員で 構成している。 ◆ A T P ( 全 日 本 テ レ ビ 番 組 製 作 社 連 盟 ) (Association of all Japan TV Program Production)〔放送・映像〕 主たる製作会社で組織された社団法人(静永純一理事長)。1982(昭和 57)年3月に設立。 86 年5月より社団法人となる。2001(平成 13)年8月現在、正会員社が 69 社、準会員社 14 社、テレビ局などの賛助会員社 48 社で構成される。シンポジウムを開いたり、テレビ局 や著作権団体と交渉するなどの活動を行っている。ほかにも、製作会社をめざす人を対象 とした会社説明会とパネル・ディスカッションを兼ねたATPシンポジウムを毎年開催し ている。また、毎年6月にATP賞を選んでいる。総務大臣賞、優秀賞、長寿番組賞、新 人賞、特別賞、個人賞を選び、グランプリを決める。01 年のATP賞グランプリは「花は どこへ行った∼静かなる祈りの反戦歌」が受賞した。また、今回からテレビ記者賞が新設 された。 ◆放送と人権等権利に関する委員会機構(BRC)(Broadcast and Human Rights / Other Related Rights Committee)〔放送・映像〕 「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」(郵政省(現総務省)放送行政 局長の私的諮問委員会)における苦情対応機関に関する討議を受けて、1997(平成9)年、 放送事業者が自主的に設置した機構。同機構の評議委員会が、放送と人権等権利に関する 委員会の委員の選任を行う。初代委員長には有馬朗人、委員には、飽戸弘、大宅映子、佐 藤庄一郎、清水英夫、田島泰彦、芳賀綏、渡邊眞次が選ばれた。その後、有馬氏は参院議 員・文部(現文部科学)大臣となり、清水氏が委員長に選任された。当面は人権にかかわ る苦情にのみしぼって対応していく(電話 03・5212・1333)。 ◆映像アーカイブセンター〔放送・映像〕 放送済みのニュースやドラマなどの番組の映像をデジタル化して体系的に保存するのが、 「映像アーカイブセンター」であり、NHKによって建設される。「アーカイブ」とは「公 文書の保管所」のことをいうが、映像素材の有効活用をはかるとともに、将来は図書館の ように、古い番組を一般人でも閲覧できるような施設をめざしている。民放各局も自前の ビデオテープ保管庫をもっているが、同センターは 180 万巻を収容、映像の集積施設では 国内最大級になる。建設地は埼玉県川口市内の旧NHKラジオ放送所跡地の一部、面積約 1.6 ヘクタールの敷地に延べ床面積1万 1000 平方メートルの施設を建てる。総工事費は 80 ∼100 億円の見通し、1999(平成 11)年度内に事業計画を決めて、テレビ放送開始 50 周 年に当たる 2003 年春オープンを予定している。光ファイバー経由で使いたい映像をすぐ取 り寄せることができ、「公開ライブラリー」も併設が計画されている。フィルムやアナログ テープをデジタルコピーする費用が 140 億円に達し、建設費を軽く超え、全部終えるのに 20 年以上かかるという。 ◆衛星放送〔放送・映像〕 赤道上空3万 6000 キロメートルの静止軌道上に浮かぶ放送衛星(BS)および通信衛星(C S)から家庭に直接電波を届ける放送。地球局から衛星に電波を送り(アップリンク)、そ れを受信した衛星は電波をトランスポンダ(中継器)で増幅して地上に送り返す。家庭で は、送られてきた電波をパラボラアンテナで受け視聴する。電波が上空から届くので途中 さえぎるものがなく、ゴースト(多重像)のない、きれいな映像が得られる。音声は、P CM(pulse Code Modulation)方式による高品質のデジタルサウンドであるため、低い音 から高い音まで、弱い音から強い音まで、きれいに忠実に再現できる。また、衛星一つで 日本全国をカバーできるのも利点のひとつであるが、地域に密着したローカル情報にはむ かない。さらに地上波に比べ大容量の情報を送れるので、ハイビジョン放送に利用されて いる。中継局や送電線が必要ないので、災害時や海上、僻地でも受信できることも強み。 日本では 1989(平成1)年にNHKがBS2波による本放送を開始したことにより衛星放 送が始まった。現在、日本で放送に使用されている衛星はBS‐3、JCSAT‐2、J CSAT‐3、スーパーバードBの四つである(→「BSデジタル放送」・→「CSデジタ ル放送」・→「東経 110 度・BS‐後発機」)。 ◆BS放送〔放送・映像〕 衛星放送のなかでも、放送衛星(BSbroadcasting satellite)を使った放送。放送衛星はテ レビの難視聴解消を主目的として打ち上げられた。通信衛星(CS)と違って、BSは衛 星の位置に取決めがあり、国際的にチャンネル数が割り当てられている。NHKの衛星放 送は、放送衛星2‐bにより試験放送を続けてきたが、1989(平成1)年6月1日から本 放送となった。同年6月3日からは2波による 24 時間放送を開始した。NHK衛星第1テ レビはニュース&スポーツチャンネルとして、国内外の情報を 100%独自放送し、衛星第2 テレビはカルチャー&エンターテイメントチャンネルとして、娯楽や芸能・文化を中心に 定曜・定時編成し、海外のソフトも放送している。衛星第2は難視聴解消のために、地上 放送の同時放送のほか、先行・時差放送や同種番組の集中編成なども行っている。01 年8 月末の衛星放送契約数は 1076 万件となり、1100 万台に近づきつつある。 放送衛星BS‐3が 90 年に打ち上げられ、91 年から2チャンネルが3チャンネルとなった。 それは、民放初の日本衛星放送(JSB 愛称WOWOW ワウワウ)が放送を開始した からである。WOWOWは、音楽、映画、スポーツを中心とした編成をし、01 年7月の加 入世帯は 266 万件である。 現在、BS‐3の1チャンネルはハイビジョンの試験放送にも使用されている。また、放 送衛星を利用した初のデジタル音声放送局、衛星デジタル音楽放送(SDAB 愛称セン ト・ギガ)は 91 年3月、本放送を開始したけれども、聴取者が少なく、経営に苦んでいる (→「BSデジタル放送」)。 ◆BSデジタル放送〔放送・映像〕 BSデジタル放送の受信方法 BSデジタル放送は、2000(平成 12)年 12 月1日から本放送が開始され、デジタルハイ ビジョン(HDTV)放送、標準テレビ(SDTV)放送、音声放送、データ放送が行わ れている。 デジタルハイビジョン放送は7社によって放送、高画質・高音質でワイドな多チャンネル 放送が楽しめる。静止画像やデータ信号などによって多彩な情報を届けるデータ放送はテ レビ事業者8社、データ放送専門事業者8社の計 16 社によって行われ、「見るテレビから 使うテレビ」へと進化したといえよう。 高音質の音声放送は、音声放送専門事業者4社とテレビ事業者6社の計 10 社によって 23 番組が放送されている。テレビ放送においては、NHKはBS1・2でSDTV、BS3 でHDTV放送を行い、大河ドラマをはじめデジタルハイビジョン放送が目玉となる。 民放BS各社はそれぞれ独自の目玉番組を用意しているほか、BS日テレ、BS朝日、B S‐i、BSジャパン、BSフジは総合編成を計画、WOWOWはHDTVで映画を放送、 スターチャンネルはSDTVでハリウッド映画を中心とした一般向けの編成でのぞんでい る。 「カラーテレビ以来の画期的な進歩」と関連業界はBSデジタル放送を位置づけ、総務省 は「1000 日で 1000 万世帯」の普及目標を掲げている。 アナログテレビ受像機にBSデジタルチューナーを付けて視聴する場合は、そのチューナ ーを1本のケーブルで接続できる業界標準のD端子を装備した「カラーテレビ・デジタル レディ機」に力を入れている。 ◆通信衛星(CS)(communications satellite)〔放送・映像〕 1964(昭和 39)年に暫定制度として発足、73 年に恒久制度となったインテルサット(国際 電気通信衛星機構)は、現在約 20 基の通信衛星を配置し、多国間にまたがる通信サービス を行っている。企業は電話、データ伝送、テレビ局は映像伝送のため、そのサービスを利 用している。76 年に暫定制度として発足、79 年に国際機関となったインマルサット(国際 海事衛星機構)は、衛星を船舶通信に利用する目的で設立された。しかし、船舶通信だけ では需要が伸びず、85 年に航空機との通信、89 年には地上の移動体通信に利用できるよう 条約が改正された。テレビ局や通信社・新聞社が僻地等からのデータ電送に利用している。 民間企業としては、欧米間、南北アメリカ間の通信サービスを行うパンナムサットや、ヨ ーロッパのアストラ、アジア地域のアジアサットなどが登場した。80 年代に入り、ユーテ ルサットやアラブサットなど広範囲ではないものの近隣諸国への電送を可能にする通信衛 星機構が現れた。現在では、ケーブルテレビ向けの番組供給に利用されたり、出力があが ったこともあって、アストラのようにDTH(直接受信衛星放送)サービスを行う衛星も 増えた。 ◆CS放送〔放送・映像〕 通信衛星(CS)を使った放送。周波数は国際的に取り決められるものの、放送衛星(B S)と違って衛星の軌道位置がいくつもとれるのが特徴。もともとが通信衛星のため、国 際的な対応も可能で、国内から海外に発信することもできる点でBSより自由度が高いと いえる。また、BSに比べて出力が小さいので、パラボラアンテナの口径が大きくないと 受信できなかったが、最近ではそのアンテナも小型化し、どこの家庭でも簡単に設置でき るようになった。 1989(平成1)年に日本通信衛星および宇宙通信のCSがそれぞれ打ち上げられた。これ らのCSを利用した放送サービスを行うため、同年 10 月に放送法と電波法が一部改正され た。その改正により、放送サービスを行う事業者は、CSを管理・運用する受託放送事業 者とCSのトランスポンダを借用して実際に番組サービスを行う委託放送事業者に分けら れ、後者の事業者を認可制としている。 ◆CSデジタル放送〔放送・映像〕 日本のCSデジタル放送は、世界的にみても進歩している。放送デジタル化の先駆けとし て、1997(平成9)年1月から本放送を開始したが、最初にスタートをきったパーフェク TVは、3番目に開局を予定していたJスカイBと合併して、98 年5月からスカパー(ス カイパーフェクTV)として再出発した。また、97 年 12 月に2番目に本放送を始めたディ レクTVは、委託放送事業としてプラットフォームを開き、2社競合が2年半以上続いた が 2000 年にスカパーに統合されてしまい、スカパーは正式社名を「日本デジタル放送サー ビス」から「スカイパーフェクトコミュニケーションズ」に 01 年7月に変更した。 スカパーの 2001 年7月末における加入数は 276 万となったが、受信機の拡販のために1人 当たり2万 5000 円程度の加入者獲得コストを費やしてきた。このため 01 年3月期の連結 最終赤字は 240 億円を超えた。そこで、インターネットなど通信分野へ食指を動かし、放 送用受信機を活用した企業向け衛星データ通信や光ファイバーなどブロードバンド回線を 使った映像配信など、従来の衛星放送専業から脱皮して、陸空両面で通信事業に着手する。 「コミュニケーションズ(通信)」の文字を社名にしてから1年経って、放送の投資を通信 ネットで回収しようとしだした。777 億円にのぼる累積損失に対する市場の評価は厳しく、 放送事業が難産で産み落とした負の副産物を、通信分野でどれだけ有効利用できるかは、 これからの大きな課題といえる。 カミングスーン・ティービーなどCSデジタルの番組供給会社が、インターネット向けの 番組配信事業に相次ぎのりだし、ネット放送向けの番組供給を衛星放送向けにつぐ収益源 に育てるねらいである。 ◆東経 110 度・BS‐CS〔放送・映像〕 衛星軌道配置図 BSAT‐1a(NHKのBS(放送衛星)やWOWOWなどが使用している衛星)と同 じ軌道位置である東経 110 度に、CS(通信衛星)N‐SAT‐110 が打ち上げられるが、 このCSを使ってスカイパーフェクTVが衛星放送を行うようになるのでBS・CS両放 送の共用受信が可能になり、視聴者は一つのパラボラアンテナで多くの番組を経済的に簡 単に楽しめる。これは衛星放送の普及・発達にはずみをつけることになるだろう。焦点の CSは、JSAT(日本サテライトシステムズ)とSCC(宇宙通信)が共同で打ち上げ、 運用するものであり、国際的な取決めや技術的な問題などで、衛星の位置がさまざまだっ たBSとCSが初めて同じ位置に上がることになる。そのためそれぞれ一つずつ必要だっ たアンテナとチューナーが一つだけですみ、両者間の垣根は事実上消えてなくなる。 総務省はCSデジタル放送のHD(ハイビジョン・デジタル)化が進めば、BSデジタル 放送とは異なるマルチチャンネルの楽しみ方ができるようになると、技術基準の改正をう ちだしており、2000 年以降の地上波デジタル放送の計画をも含めて、本格的なデジタル放 送が到来したときの「ホームネットワーク」も現実のものとなる。家庭内をネットワーク し、デジタル放送のあらゆる番組やデータをサーバーに蓄積して、居間のホームシアター はもとより、各部屋で取り出してさまざまな番組が楽しめるようになるだろう。 ◆視聴覚障害者向け「字幕放送」増加〔放送・映像〕 字幕放送時間の推移 字幕放送をはじめとする視聴覚障害者向けのテレビ放送が着実に増加しており、さらに今 後も強化される見通しである。総務省の調査によると、2000(平成 12)年度における字幕 の放送時間数はNHK(総合)が 1731 時間 15 分、NHK(教育)が 878 時間 59 分、民 放キー局は合計で 1435 時間7分、合計で約 3045 時間となった。字幕付与可能な総放送時 間(午前7時から午前0時までの間で字幕を付けることができる放送時間の合計)に占め る字幕放送時間の割合は、00 年度でNHK(総合)が前年度比 21.6%増の 67.6%、民放キ ー5局が同 21.1%増の 8.6%。なお字幕放送を実施している民放事業者数は 127 社中 115 社となった。00 年度の解説放送はNHK(総合)が 2.4%、NHK(教育)が 5.2%、民放 キー局が 0.3%。また手話放送はNHK(教育)が 2.2%、民放キー5局が 0.2%である。 【字幕放送時間および字幕付与可能な総放送時間に占めるその割合】 〔NHK〕 1997 年 10:55(32.5%) 1998 年 11:43(35.7%) 1999 年 20:39(55.6%) 2000 年 20:22(67.6%) 〔民間放送〕 1997 年 8:26( 3.5%) 1998 年 12:29( 5.3%) 1999 年 16:51( 7.1%) 2000 年 21:18( 8.6%) ※民放はキー5局合計、NHKは総合テレビを集計。放送時間は1週間の字幕放送時間の 合計(再放送等を除く)。( )内の数字は、字幕付与可能な総放送時間に占める字幕放送 時間の割合。 ◆データ放送〔放送・映像〕 各事業者が想定しているデータ放送内容 放送用電波のすき間を使って、音声、文字、映像などの各種情報を電送するサービス。ア ナログ放送では送る情報に限界があったが、デジタル化で圧縮技術が進み、大容量の情報 でも送れるようになった。これがBSデジタル放送の特徴のひとつであり、視聴者は時間 に関係なく、画面上に好きなデータを取り出せる。 テレビ番組の内容を補う「番組連動型」と、ニュースや天気予報などの「独立型」の2種 類がある。BSデジタル受信機を購入すれば、データ放送を利用することができ、電話回 線をつなげば、番組の感想や商品申込みなど、視聴者側から情報を発信する「双方向サー ビス」も可能になる。 テレビ系8社の場合は、本編の番組をより楽しむことが目標であり、スポーツ中継の選手 のデータ、映画出演者のプロフィール、CMの商品データなどの詳しいデータを送る。双 方向機能を生かせば、クイズ番組への参加、ドラマ出演者の服のオークション、CMショ ッピングの申込みなどが可能になる。公共放送のNHKはショッピングなどの商売になる ものは除かれ、内容が制限される。 非テレビ系の場合は、すでにテレビ東京系の「ITビジョン」でデータ放送の実績がある メディアサーブと、気象情報のウェザーニューズの既存2社、BSデジタル用に設立され た新しい5社、ハイビジョン推進協会の独立型データ放送8社がある。出資者に通信社や 新聞社が加わっているとニュースを提供、レコード会社なら音楽、福祉・医療情報、カタ ログ通販、チケット予約、銀行と提携したホーム・バンキングや電子メールサービスなど がある。 また、NHK、BS民放各社のテレビ番組情報を1週間先まで表示、視聴予約、録画予約 までを画面上でできるEPG(番組ガイド)も行う。 そのほか、TBSは松下電器産業・NTTなどと共同で、BSデータ放送などに対し、デ ジタルコンテンツの制作や電子商取引サービスを提供する新会社「トマデジ」を設立した。 また、北海道テレビ放送は、住友商事、JTBなどと共同、データ放送のシステム開発を 手がける新会社「デイ・キャスト」を設立するなど、データ放送に対するテレビ界の関心 は強い。 【各事業者が想定しているデータ放送内容】 テレビ系 ●NHK 〔データ内容〕番組連動と、独立で緊急や生活情報など 〔双方向〕スタジオ参加など ●BS日テレ 〔データ内容〕連動で選手データなど。独立は検討中 〔双方向〕できればやりたい ●BS‐i 〔データ内容〕連動に力。独立は天気予報など 〔双方向〕クイズ、買い物など ●BSフジ 〔データ内容〕タレントの服の競売など連動中心に 〔双方向〕当初からやりたい ●BS朝日 〔データ内容〕連動も、天気予報やニュースなど独立も 〔双方向〕やる方向。買い物など ●BSジャパン 〔データ内容〕連動は旅行情報など、独立はニュースなど 〔双方向〕BS制作番組の中で ●WOWOW 〔データ内容〕やることは決まっている。独立もやる 〔双方向〕検討中 ●スター・チャンネル 〔データ内容〕映画の解説、出演者データなど連動で 〔双方向〕しない 非テレビ系 ●日本ビーエス放送 〔データ内容〕福祉・医療情報など「人」をテーマに 〔双方向〕通販など ●メディアサーブ 〔データ内容〕生活情報や買い物、ホームバンキングなど 〔双方向〕基本にすえる ●メガポート放送 〔データ内容〕やりたいことは、いっぱいある 〔双方向〕やる。準備中 ●ウェザーニューズ 〔データ内容〕防災を含めた気象情報 〔双方向〕やる方向で検討中 ●日本メディアーク 〔データ内容〕通信社ニュース、福祉・医療情報など 〔双方向〕ホームバンキングなど ●DCI 〔データ内容〕およそ考えられる、あらゆる情報 〔双方向〕あらゆるものが対象 ●日本データ放送 〔データ内容〕テレビと同様、さまざまなニュースなど 〔双方向〕買い物など ●ハイビジョン推進協会 〔データ内容〕受信機のバージョンアップなどのソフト 〔双方向〕 ― ◆EPG(電子番組ガイド)(Electronic Program Guide)〔放送・映像〕 テレビ画面上で簡単にチャンネル選択ができるサービス機器。アメリカのベンチャー企業 であるジェムスターが 50%、電通が 42.5%、東京ニュース通信が 7.5%出資して、合弁会 社「インタラクティブ・プログラム・ガイド」を設立、日本で電子番組ガイドのサービス を提供する。新会社は地上波の民放テレビ局と組み、99 年秋、地上波の電波のすき間を使 って家庭のテレビ向けに情報を送るEPGサービスとGガイド・コールドを始めた。画面 上で新しい番組内容を見たり、見たい番組の検索や視聴予約、ビデオ録画予約などがリモ コン操作で簡単にできる。BSデジタル放送開始の 2000 年 12 月から本格展開した。新会 社は主に広告収入で運営されることになった。 ◆CATV(cable television ; community antenna television)〔放送・映像〕 ケーブルテレビ、有線テレビ。CATVは大別すると都市型と農村型に分けられ、農村型 CATVの地域密着情報システムに対し、都市型CATVの最大の特徴は多チャンネル・ 娯楽情報タイプといえる。1955(昭和 30)年4月にテレビ難視聴対策施設として、群馬県 伊香保温泉で誕生したわが国のCATVは、BS、CS放送といった衛星メディアの台頭 や、ソフト面のプラス要素もあって、これから本格的な発展への重要な段階を迎えるとい えそうだ。96(平成8)年 10 月、武蔵野三鷹ケーブルテレビが商用サービスとしては日本 初のCATVを利用したインターネット接続サービスを開始した。放送以外のCATV利 用も進み、電話やインターネットに接続して通信サービスに活路を見出している。デジタ ル化すれば、チャンネル数が現在の5倍程度に増え、画質もよくなり、通信事業を推進す るうえでも、大きな強みといえる。CATVにおける第1種電気通信事業者数は、2000 年 4月末現在、前年3月の 63 社から 145 社に2倍以上の増加となった。うちインターネット サービスを開始している事業者は 100、インターネット事業者数は 136 となり、同事業を 会社の柱にしようとするCATV業者が急速に増えている。CATVのインターネット利 用者数は前年3月からの1年間で、3万 2000 件から 21 万 6000 件に急速に普及、1年間 で7倍の伸びを示した。 都市型CATVの定義は、(1)端子数(加入が可能な世帯数とほぼ同じ意味)1万以上、 (2)自主放送(民放やNHKの再送信ではない放送)が5チャンネル以上、(3)双方向 機能があるCATVのことである。多チャンネルといっても現実には十数チャンネルから 五十数チャンネルが日本の現状で、アメリカのように 150 チャンネルといったものはない。 加入時の費用は、契約料5万円前後とケーブルを家庭に引き込む工事費などがかかる。利 用料は基本が月額 3000 円前後、それに加えて映画などのチャンネルを別料金にしている局 もある。日本初の本格的ペイ・パー・ビュー(視聴ごとに料金を支払う)方式を、日本ヘ ラルド映画は通信衛星を使って、1990(平成2)年7月から自社配給洋画の配信について 始めた。 このように民間通信衛星の利用が広がって、日本の都市型CATVは、やっと本格的な多 チャンネル時代に入り、今後は放送だけでなく、テレビショッピングやテレビ電話、遠隔 医療への利用も始められており、マルチメディア時代を加速させる新たなネットワークと して注目されている。現在、インターネットや電話などの双方向通信サービスも急速に進 められている。 CATVの外資規制が撤廃されてから、統廃合がどんどん進んでおり、外資系都市型CA TV統合の動きがめだってきた。その代表がジュピターテレコムとタイタス・コミュニケ ーションズの 2000 年9月の統合。 ◆コミュニティ放送局〔放送・映像〕 市町村など限られた地域を対象にした小さいFM局で、1999(平成 11)年3月から最大出 力が 20 ワツト以下になった。県域FMやAMに乗りにくい地域密着情報を提供する局であ り、1992(平成4)年1月に制度化された。コミュニティ放送は1地域1局に制限されて いたが、94 年5月に複数設置が認められ、95 年3月に出力の上限が1ワツトから 10 ワツ トに引き上げられた。総務大臣の放送免許が必要であり、半径数百メートルの範囲にごく 微弱な電波(学園祭などで利用されるもの)を飛ばす。北海道函館市の「FMいるか」が 92 年 12 月に開局して以来、コミュニティ放送局は増え続け、2001 年8月現在 141 局。生 の話題やニュースが市民の生活情報として役立っていることもあり、全国各地で開局が相 次いでいる。そのきっかけとなったのは阪神・淡路大震災で被災者の強い味方となったた めである。最近はインターネット放送を使っている局もある。分布の傾向は「東高西低」 で、北海道が2ケタなのに対して九州・四国は1ケタである。 ◆外国語FM放送〔放送・映像〕 在日外国人向けのFMラジオ放送。1995(平成7)年 10 月に大阪では「関西インターメデ ィア」が、東京では 96 年4月に「エフエムインターウェーブ」が開局した。英字新聞の発 行会社ジャパンタイムス社が主体となり、三井物産や徳間書店が参加したのが「エフエム インターウェーブ(インターFM)」。周波数は 76.1 メガヘルツで、東京都、埼玉県、千葉 県、神奈川県は全域で、群馬県、栃木県、茨城県は一部地域で受信できる。音楽番組を主 軸にしながら、ニュースや来日する海外の政治家、経済人などのインタビュー番組、外国 人向けの生活関連情報、娯楽情報なども放送する。関西電力が中心となって設立した「関 西インターメディア」はひとあし早く開局しており、十数カ国語の言語を使い、音楽番組、 情報番組を放送している。これらの外国語FM放送は、ブラジル系の労働者にポルトガル 語放送で喜んでもらったり、国際コミュニケーションに思わぬ貢献をしたりしたが、FM 地域局が増え、関東の一部で混信が起き、苦情も出ている。 ◆国会中継専用テレビ〔放送・映像〕 CS(通信衛星)やCATVを媒体として、本会議や各種委員会審議の模様を各家庭に伝 える構想。無編集、ノーカット、コメントなしで、原則として発言者だけを映す。国会テ レビの構想は、リクルート事件後の政治改革論議を進めるなかで、自民党から提案があり、 1991(平成3)年3月、各党の賛成を得て、衆議院に「国会審議テレビ中継に関する小委 員会」が設けられた。また、参議院でも議院運営委員会を中心に、時期を同じくして調査 会がスタートした。93 年には、日本でのC‐SPAN(アメリカの議会中継専門テレビ局) の配給会社「C‐NET」の田中良紀社長が、 「国会TVを実現し、21 世紀型国会をつくる 会」を発足させ、国会テレビの推進にあたり、98 年CSデジタル放送を通じて放送を開始 した。 97 年、民間の政治改革推進協議会(民間政治臨調)が財界などの出資で株式会社設立案を まとめたが、参院の同意を得られず、宙に浮いた。CS放送スカパー(スカイパーフェク TV)で放映されている国会TVは、2000 年7月以降月約 600 万円の衛星使用料が未払い となり、01 年1月には、未納金約 3500 万円を支払わなければ停波すると通告されたほど の不振だったが、小泉内閣の人気を受けて新規加入者が急増、約 5000 人の加入者までに伸 びた。それでも月に 250 万円の収入、 「経営的には少し日が射し始めたかなという程度にな った」と同社の田中社長は語っていたが、このほどスカパーの基本サービス・セットのな かに組み込まれ、経営は安定しそうだ。 ◆放送大学(the university of the air)〔放送・映像〕 テレビ・ラジオの放送で学ぶ大学として 1983(昭和 58)年4月設置、85 年学生受入れ開 始。教養学部のみの単科大学3コース、6専攻がある。 98(平成 10)年1月からCSデジタル放送を利用し、放送エリアを全国に拡大した。また 全国の都道府県に設置された学習センターには、すべての放送教材が備えられている。学 生の種類は全科履修生・選科履修生・科目履修生がある。全科履修生は4年以上在学し、 124 単位を取得すると「学士(教養)」の学位が得られる。他は卒業を目的とせず、約 320 の科目の中から自分の学習したい科目を選択して学習する学生。放送大学は学生を受け入 れてから 16 年経ち、2000 年9月末時点で、卒業生数1万 6245 人、在校生数8万 4086 人。 面接授業では私語がまったくなく、一般の大学生とは違った自主性がみられる。単位互換 性を認める協定締結校は、短大・大学を含めて 01 年4月現在で、早くも 212 校。さらに増 える見通しだ。02 年4月に修士の学位を取得できる通信制の大学院を開校予定。放送大学 としての特色を生かし、高度な専門職業人の養成をめざす。 ▲放送技術と新事業展開〔放送・映像〕 日本初の本格的な「放送・通信融合サービス」事業を展開する「(株)イー・ピーエフ・ネッ ト」が、2002(平成 14)年春にサービスを開始する。この会社は松下、東芝、日立の主要 家電メーカー3社を中核株主とし、在京キー局各社や衛星放送事業社、商社 27 社が出資、 次の五つのサービスがリモコンの簡単な操作で可能になる。 (1)蓄積型データ放送=サービス・コンテンツを常時自動蓄積する。 (2)双方向通信=STBからインターネット経由でアクセス可能。 (3)放送と相互リンク=放送番組との相互連携が可能。 (4)Eメール=写真や音声の添付も可能。 (5)コンテンツ配信=S‐CAS課金での配信サービスに対応する。 「使えるテレビ」をメーカー側が新技術を駆使して、新サービス事業に本格的にのりだし た。 ◆シンジケーション事業〔放送・映像〕 アメリカではネットワークを介さないで番組流通を行っている仕組みに、「シンジケーショ ン」とよばれる番組流通市場がある。ローカル局や独立的ケーブルテレビ事業者にとって、 重要な番組調達手段であるばかりか、番組制作者にとっても、制作費回収のために不可欠 な仕組みであり、各放送地域ごとのローカル局間で競争入札が行われている。 日本でもデジタル多チャンネル時代を迎え、放送番組の多角的な利用やシンジケーション 事業に取り組む事業が現れ、放送番組の流通ルートが多様化されだした。また、デジタル 多チャンネル化によるコンテンツ不足やコンテンツ形態の多様化に対応するために、映画 ソフトへの出資や、インターネット・データ放送の新しいコンテンツ分野の流通のために も、必要度が増してきた。 テレビ東京メディアネットやサテライトコミュニケーションズ西日本(SCN)などが、 このシンジケーション事業に取り組んだ具体例である。テレビ東京メディアネットは、ア ニメ番組の企画制作、国内外の地上局や衛星放送などへ番組を供給する会社。そのほかパ ッケージソフトの企画・マーチャンダイジングといった2次利用などに一貫して取り組ん でいる。SCNは 2000(平成 12)年4月から通信衛星を利用した全国のCATV局向けに コンテンツ流通サービスを開始した。TBS、ソニーピクチャーズ・テレビジョン・ジャ パン、サテライトニュース、日本ビデオニュース、ニューズ・ブロードキャスティング・ ジャパンなどが番組供給をする。 ◆SNG(satellite news gathering)〔放送・映像〕 サテライト・ニュース・ギャザリングは、通信衛星を利用し、テレビ・ニュースの取材機 能、機動性と配信力を高める送受信システム。現在の主なテレビ・ニュースは、ENG (electric news gathering)で取材しており、遠隔地等で取材したものを局に送信する場合 には、FPU(field pick-up unit)でマイクロ電送しているが、離島や遠隔の山間部からの 送信にはやはり困難があった。それを改善すべくSNGシステムが開発された。アメリカ では早くから実用化され、コーナスというSNG専門のテレビ・ニュース配信会社が設立 された。加盟 68 社にパラボラと車載局を配置、取材したニュースを1日4∼5回ネットし ている。日本では 1989(平成1)年春から実施され、ニュース以外のスポーツ中継、ワイ ドショーなどの素材送りにも利用すべく、テレビ各社は湾岸戦争以降競って準備を進め、 態勢を固めた。 ◆ビデオ・オン・デマンド(VOD)/ニュース・オン・デマンド(NOD)(video on demand ; news on demand)〔放送・映像〕 現在のCATVでも、数十チャンネルの中から好きな番組を選べるが、放送日時は家庭か ら指定できない。ところが、「ビデオ・オン・デマンド」は、家庭にいながらにして好きな 番組を見たいときによびだせる。家庭で好きな番組を選び、端末機で注文すると、すぐに その家のテレビに送信される。ニュース・オン・デマンドは、そのニュース版。 1994(平成6)年7月から、関西文化学術研究都市で始まった、光ファイバーを使ったマ ルチメディア実験では、このビデオ・オン・デマンドが目玉となっており、300 のモニター 世帯に光ファイバーを引き、実用化へのステップにした。デジタル時代の受像機には、サ ーバーをつけたビデオ・オン・デマンド機能のものが普及するといわれ、アメリカでは約 10 種類ものその種の受像機が売り出されている。 ◆ホームサーバー(home server)〔放送・映像〕 放送されている映像を自動的に蓄積し、見たい映像をいつでもよびだせる家庭用録画・録 音装置。例えば見逃した番組を冒頭から見直したり、野球のホームランだけを編集して楽 しんだりできる。BSデジタル放送に対応して商品化される。アメリカではデジタル放送 開始とともにこのホームサーバーを利用した各種の受像機が発売され、録画時間も新機種 開発にともなってしだいに伸びている。現在は1日 24 時間程度のものが多いが、いずれは 1週間分ほどの録画が可能になる。アメリカの「リプレイTV」「ティボ」などは 30 時間 前後の録画が可能であり、テレビ画面上のガイドに従って自ら好みの番組を録画して好き なときに見るばかりか、自らのつくったチャンネルに好みの番組を「編成」することも可 能としている。ホームサーバーは次世代の有望商品になるものと想定されており、アメリ カの先行会社と日本の機器メーカーが提携したり、日本独自の開発をしようとしたりして おり、デジタル時代が進むに従ってこのホームサーバーの需要は相当高まってくるものと 予測されている。 ◆インターレス方式/プログレッシブ方式〔放送・映像〕 インターレスとプログレッシブの原理 テレビ画像を表示する方式。インターレス(飛び越し走査)方式は、1コマ目が偶数番目 の走査線を、2コマ目が奇数番目の走査線を、というように、1コマにつき半数ずつの走 査線を交互に使い画像を表示させる。動画の表示に適している。現在のテレビ放送は、こ の方式である。一方、プログレッシブ(順次走査)方式は、すべてのコマですべての走査 線を使う。そのため、文字などにちらつきがでないもので、パソコン業界が強く推してい る。インターレス方式をi、プログレッシブ方式をPの略称で示している。 ◆音声透かし技術〔放送・映像〕 透かし技術 と 映像透かし とはメディアコンテンツの保護と管理を行うためのもので、 音声透かし の2タイプがある。 映像透かし では、放送形式等さまざまな画像フォ ーマットの出現が予想されるため、個別に開発が必要となるが、 音声透かし はコンテン ツの音声部分に人間には聞こえないID情報を埋め込んで、それを検出するシステムのた め、画像化フォーマットに影響されることはきわめて少なく将来優位となることが予想さ れるほか、無映像のメディアでも利用可能のため応用範囲が広くなる。 ◆B‐CASカード〔放送・映像〕 BSデジタル放送の標準的な受信機には、CAS(Conditional Access System コンディシ ョナル・アクセス・システム 限定受信システム)の機能が内蔵され、有料放送サービス をはじめデータ放送による双方向サービスやNHKの受信料確認のための自動表示メッセ ージなどに利用されている。 このCAS機能はBSデジタル放送事業者のほか、BSデジタル放送を再送信するケーブ ル事業者、さらに 2002(平成 14)年春にサービス開始を予定されている東経 110 度通信衛 星を利用したCSデジタル放送、2003 年からの地上デジタル放送にも活用される。 そのCAS機能のキーとなるのが、B‐CASカードであり、このカードは書替え可能な メモリー、EEPROM、CPUなどのチップを内蔵、BSデジタルチューナーや同内蔵 のデジタルテレビに装着することでBSデジタル放送が楽しめる。 このB‐CASカードは、受信機メーカーが生産台数に並行して、必要な枚数をB‐CA Sに発注する。B‐CASは、(1)CAS技術方式の使用許諾など使用権の保持および他 メディアへの普及促進、(2)ICカードの発行管理と所有権の保持、(3)ICカード被 貸与者の基本台帳の管理、(4)ICカード固有の秘密番組(鍵)の管理などを行う。 CASはBSデジタル放送を再送信するケーブルテレビ事業者も対象としていることから、 ヘッドエンド(送信)装置やセット・トップ・ボックス(STB)の標準化に動いている 日本ケーブルラボとのCASをめぐる管理面などの調整が当面の課題として浮上してきた。 ▲放送番組関連〔放送・映像〕 ◆インタラクティブ・ドラマ(双方向ドラマ)(interactive drama)〔放送・映像〕 視聴者がストーリー展開を電話投票などで選択し、それらによって複数用意された結末の うちひとつだけが放送されるというドラマ。1996(平成8)年6月、関西テレビとフジテ レビが「東芝インタラクティブ劇場・犯人がいっぱい!」を深夜に放送した。主人公が殺 人事件を解決するというストーリーで、三つの二者択一の選択肢が設けられた。CMの間 に投票の受付けと集計を行い、CM終了後、票の多かった選択肢にそったストーリーが放 送され、八つ用意されたうちのひとつの結末にたどりついた。NTTの電話投票システム 「テレゴング」を利用したが、ドラマでの利用はこれが初めてだが、デジタル時代になれ ば、双方向ドラマへの試みは多様に展開されるに違いない。 ◆TVショッピング(テレビ通販)〔放送・映像〕 茶の間から手軽に買い物ができるテレビ通販は、一つの商品を時間をかけて説明する「イ ンフォマーシャル」がうけており、ことに「生放送は録画放送に比べ5倍以上の売上げに なることもある」と家電販売に強いジャパネットたかたの高田明社長は語っており、各社 とも生放送に力を入れつつある。日本通信販売協会の市場規模推計では、テレビ通販は 1900 億円を超え、通販市場全体(2兆 3900 億円)の8%ほどに成長した。 ◆キラーコンテンツ〔放送・映像〕 悩殺的な魅力をもったソフト。パンチのきいた内容をもった番組。例えば、スポーツ関係 でいえば、プロ野球中継での巨人戦、サッカー・ワールドカップ大会戦などであり、料金 を払ってでもぜひみたい、大衆に人気の高いソフトウェアをいう。 ◆視聴率(TV audience viewing ratings)〔放送・映像〕 テレビの、ある時間帯の番組が、特定の調査地域で、どれくらいの人(または世帯)に視 聴されたかをパーセントで表示した数字。試聴した量を測定したものであり、質とは直接 関係がない。人の場合は「個人視聴率」(→別項)、世帯の場合は「世帯視聴率」とよばれ ており、前者を重視しようという傾向にある。この調査方法には個人日記方式と調査機に よる方法があり、機械調査会社のニールセン・ジャパンは 2000(平成 12)年3月末で視聴 率調査を打ち切ったので、機械調査はビデオリサーチ1社の独占状態に入った。調査機方 式は、テレビ受像機にメーターを取り付け、どのチャンネルのどの番組を、何時間何分見 ていたかを記録し、それをただちにコンピュータで集計して算出する。 NHK放送文化研究所が毎年春と秋の2回、7歳以上の全国民(個人)を対象として実施 している全国視聴率調査は個人日記式法であり、 「1%は7歳以上の国民 110 万人」とみら れるので、1%は 110 万人と人数計算されるケースもある。視聴率の時間区分としては通 常、テレビ局の放送開始から放送終了を「全日」、午後7時から 10 時までを「ゴールデン タイム」、午後7時から 11 時までを「プライムタイム」とよんでいる。この三つのタイム のすべての平均視聴率がトップになったテレビ局が「三冠王」を獲得したと発表している。 最近は「ノンプライム」を加えたトップを「四冠王」と自称している。 ラジオ界では聴取率調査を年2回行っており、調査時期が近づくにつれて特別番組が編成 されている。 ◆個人視聴率〔放送・映像〕 NHKが実施している日記式個人視聴率調査は7歳以上の全国民を対象にしたものである が、ビデオリサーチが機械式調査で行っている個人視聴率の調査は、世帯視聴率調査と世 帯内個人視聴率を同時に測定するものであり、関東地区のテレビ所有世帯の中から選ばれ たサンプル世帯の4歳以上の個人を対象にその視聴を測定している調査である。そのため この二つの調査は、調査方法もサンプル抽出の方法もまったく異なっており、同じ結果が 出ないのは当然だといえるし、切り離して考えるべきである。 個人をベースとした視聴率をとらえようというニーズが高まり、ニールセンもビデオリサ ーチも 1966(昭和 41)年から月1回特定週に、世帯内個人を対称とした日記式個人視聴率 調査を実施したが、87 年アメリカでPM(ピープルメータ)調査が実施されるや、わが国 でもこの調査システムの導入論が高まり、ニールセンに次いでビデオリサーチが 97 年春か ら正式稼働させた。世帯と個人の両視聴率を同時に測定できる機械は、このときからサン プル世帯に取り付けられ、テレビの見始めと終了時に対象者にリモコンの自分用のボタン を押してもらい、各個人の視聴を識別する。サンプルは関東地区で 600 世帯、約 1900 人の 個人が対象者となっている。ボタンを押さなくてすむ「パッシブメーター」も開発中であ り、デジタル時代になれば、「デジタル対応メーター」も必要になるだろう。まだ個人視聴 率の調査の未来には課題が残されている。 ◆ビデオリサーチ〔放送・映像〕 商品別CM出稿量上位20(2000年) 民放 23 社、東芝、電通、博報堂、大広の出資により、1962(昭和 37)年9月に設立され た日本最大手の総合調査会社。視聴率測定機によるテレビ視聴率をはじめとするラジオ、 新聞、雑誌などの各種媒体接触調査および媒体評価調査、広告効果調査・分析などのメデ ィア・リサーチ事業を行っている。消費者動向や商品力の市場調査、世論調査および広告・ プロモーションをサポートするマーケティング・リサーチ事業、メディア・マーケティン グデータのデータベースをもとに、デジタル化・ネットワーク化した情報システムサービ スおよびシステム開発を事業内容としている。 テレビ視聴率調査は、全国 27 地区で機械式による世帯視聴率調査を実施。97 年4月から関 東地区においてPM(ピープルメータ)による個人視聴率調査を開始した。関東地区以外 の地区では日記式を採用している。年間 52 週調査している地区は 11 であり、関東地区は 600、関西地区と名古屋地区は 250、北九州地区や札幌地区など8地区は 200 のサンプル世 帯となっている。熊本地区など 16 地区は年間 24 週調査しており、サンプル世帯は 200。 【2000 年の商品種類別年間のCM出稿量上位 20(関東地区)】 ※左端数字は 00 年順位、次のカッコ内数字は 99 年順位、商品種別後の数字は年間出稿秒 数、次のカッコ内数字は前年の出稿秒数と前年比 1(1)普通乗用車 970,530(997,950:97.3%) 2(2)他の特殊小売店 884,505(877,515:100.8%) 3(4)郵便・電信・電話 4(3)玩具 733,950(639,915:114.7%) 631,960(848,595:74.5%) 5(10)他の金融 580,935(457,560:127%) 6(57)通信に付帯するサービス 7(6)ビール 523,570(126,245:414.7%) 518,520(530,085:97.8%) 8(11)保健薬 511,770(457,170:111.9%) 9(9)スーパー 502,065(466,035:107.7%) 10(5)レコード 481,070(613,515:78.4%) 11(7)コーヒー 462,315(498,360:92.8%) 12(15)住宅・建材総合 447,615(380,385:117.7%) 13(13)他の非アルコール飲料 14(20)他の化粧品 15(19)洋画 398,370(323,805:123%) 356,080(326,200:109.2%) 16(17)化粧品総合 17(8)他の調味料 18(22)学校 399,135(399,750:99.8%) 349,695(329,205:106.2%) 348,810(495,315:70.4%) 339,245(311,445:108.9%) 19(16)他の食品 335,595(333,360:100.7%) 20(14)即席麺類 334,665(391,875:85.4%) ▲映像とビデオ〔放送・映像〕 ◆3D映像(立体映像)(3-dimension scenography)〔放送・映像〕 映像を3次元的に再現する方式をいう。 立体的に見える原理は、画像を見る両目の視角を変えることである。そこで、右目で見た 画像と左目で見た画像をスクリーンに投影、左右の目にそれぞれの画像だけを送り込まな くてはならないので赤・青の色眼鏡で区別をするか、光の振動方式で区別する偏光フィル ターの眼鏡が必要になる。2色焼付けした立体写真のアナグリフ式はカラー画像ではでき ない。しかし、観客にとって左右 180 度、前後 125 度の範囲がすべて立体映像で占められ るので、完全に画像の中に入り込んだ感じになる。ステレオスペース方式はポラロイド方 式でカラー映像が可能。大型画面にするため 70 ミリフィルムを2本使うシステム。また眼 鏡なしでも立体映像を体験できる。 ◆ハイビジョン〔放送・映像〕 HDTV(High Definition Television 高品位テレビジョン/高精彩度テレビジョン)全体 のことをいうこともあるが、そのうちの日本の方式であるBS(放送衛星)アナログのH DTVの愛称として使われていることが多い。その場合、走査線は 1125 本(有効走査線は 1080 本)であり、BSを使って実用化試験放送を行ってきた。ハイビジョン・アナログ放 送はNHKと民放7局が共同で放送してきたが、民放は 2000 年末から始まるBSデジタル 放送に参入するため、ハイビジョン推進協会から撤退する。NHKは衛星の設計寿命がき れる 2007 年をめどに現在のハイビジョン放送を継続していき、なるべく早くデジタルに切 り替える方針である。2000 年6月末までのハイビジョン国内出荷数は 84 万 3000 台となっ ているが、コンバーターを使ったりしてハイビジョンを視聴している総数は 206 万 3000 件 となった。デジタル時代に入って海外でもHDTVが導入され、デジタルHDTVは国際 的な進出が期待されている。 ◆アイマックス・シアター(I-max theatre)〔放送・映像〕 映画館の数倍もある大きなスクリーンに立体画像(3D)を映すのがアイマックス・シア ター。運営母体のソニー・ミュージックエンタテイメント(SME)によると、この方式 を導入した劇場は世界で 150 以上、国内に 22 ある。映画というよりは映像アトラクション というべき作品だが、従来の映画の約 10 倍の制作費がかかるため、ソフト不足が現在の問 題点である。 ◆サブリミナル的手法(Subliminal)〔放送・映像〕 映像の中に、人間の目では感知しえないほど短い、内容とは関係のないコマ(画像)を繰 り返し挿入する手法。テレビだと、そのコマ数は1秒間 30 フレームの中に1∼3フレーム を挿入する。効果のほどは定かではないが、挿入された映像は見る人の潜在意識に残ると いわれている。1995(平成7)年5月に放送された、TBSの「報道特集」の中でサブリ ミナル的手法が使われ議論をよんだ。同年6月 15 日、TBSは記者会見でサブリミナル的 手法が「不適切」であったと陳謝し、同年7月 21 日、郵政省(現総務省)からTBSに文 書により厳重注意がなされた。サブリミナル的画像は通常感知しえないため、チェックが 難しい。読売テレビは日立製作所の協力でサブリミナル的画像を事前にチェックできるシ ステムを開発するなどの対策を立てた。 ◆ビデオ・ジャーナリスト(video journalist)〔放送・映像〕 小型の市販ビデオカメラを用いて、撮影から取材、編集、解説に至るまでを、1人でこな す映像記者のこと。略称VJ。映像記者。命名者であるM・ローゼンブルムは、「1人の記 者がペンをもつように、ビデオカメラを常に所持して映像という言葉で表現する人」と定 義づけ、「低コスト、規模縮小の設備で、テレビ界を変革させる武器になる」と断言してい る。機動性にすぐれ、相手により近づき等身大の取材ができるのが長所。ノルウェーの「テ レビ・ベルゲン」が、VJを用いた最初のテレビ局で、1990 年代になって、アメリカのC ATV向け 24 時間ニュース専門局「ニューヨーク1」などでVJが活躍しだした。日本で も、アジアプレス代表の野中章弘がVJによる取材活動をし、VJの神保哲生は日本初の ニュース専門インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」を 2000 年4月にスタ ートさせた。 ◆ビデオ・ライブラリー(video library)〔放送・映像〕 テレビ番組やビデオ・アートなどのビデオ作品を蒐集し、一般に公開する映像図書館。草 創期のテレビ番組がビデオとしてほとんど残っていなかったことから、1982(昭和 57)年 9月「放送文化財保存問題研究会」が発足。同研究会は「テレビ番組を開かれた文化財と する運動」(略称 ビデオプール video-pool)を展開し、85 年には、放送文化基金助成を 得て「草創期テレビ保存番組リスト」を作製した。NHKは 81 年に「放送番組ライブラリ ー」を設置したが現在はない。現在、過去に放送された番組など総合的なビデオ映像を公 開しているのは、総務省が法的にただひとつ指定した「放送番組センター」である。川崎 市民ミュージアムにもビデオ映像ライブラリーがあり、そこには多くの映像関連資料がそ ろえられている。 ●キーワード〔放送・映像〕 ●NHK地上波デジタル放送新戦略〔放送・映像〕 NHKは 2003(平成 15)年から始まる地上波放送のデジタル化に合わせ、関東7都県でそ れぞれ地域(ローカル)放送を行う新戦略を始める。現在は首都圏向けに7都県共通番組 を放送しているが、これを改めて、各都県の放送局から地域ニュースなどを放送する。 BS(放送衛星)デジタル放送では、NHKは全国一律の番組を流しているが、地上波の デジタル放送では地域情報を充実させる方針を進めることにしたためだ。こうして各都県 別放送を開始すると、各地域の民間ローカル局との競争は必至であり、経営基盤の弱い民 間地方局はこのNHKの動きに反対している。 7都圏のNHKの視聴世帯は日本全体(約 4000 万世帯)の3分の1の 1300 万世帯に達す る。NHKのローカル放送の具体的な計画は、民間ローカル局が現在ない茨城県で 03 年に 放送を開始、その後北関東の栃木、群馬、埼玉の順でローカル放送をひろげていく。東京、 千葉、神奈川は地元と調整しながら、11 年までに完全移行したいという。 NHKの総合テレビは現在全国一律の番組に加え、地域ニュースや情報番組など1日3時 間半前後のローカル番組を各道府県の放送局が個別に制作・放送しているが、首都圏は例 外となっていた。それは東京の放送センターが7都県共通の広域番組を作っていたからだ。 7都県の知事らで構成する関東地方知事会は、かねてからNHKに対し、「他道府県と同様 のローカル放送導入を望む」と要望しているが、経営基盤の弱い関東の民間地方局は反対 していた。双方向サービス可能な地上波デジタル放送では、NHKはこの機能を生かした いと新サービスの導入を検討している。 ●CM確認システム〔放送・映像〕 ビデオリサーチ(VR)は、音声透かし技術を使った放送確認システムを開発したアメリ カ・ベランス社と技術提携などで合意した。デジタル放送にも対応できる同システムのラ イセンス契約を結び、日本国内のテレビCM放送確認に導入したい考えだ。ベランス社の システム「Confir Media」は、コンテンツの音声部分に人間に聞こえないID情報を埋め 込み、検出する仕組み。映像透かし(→「音声透かし技術」)ではなく音声に埋め込むため、 画像フォーマットによる影響が少ないのが利点。現在、CM映像でテレビ画面に映らない 部分にエンコードする方式で放送確認を行っているが、画像フォーマットが多様化するデ ジタル放送時代をみすえ、音声透かし(→別項)で最先端の技術をもつベランス社との提 携にふみきった。 ●2陣営で競う次期CS放送〔放送・映像〕 次期CS放送の2陣営と放送局 主なネット向けコンテンツ 2002(平成 14)年春に開始する次期CS(通信衛星)放送のサービス体制が固まった。ス カパー(スカイパーフェクト・コミュニケーションズ)は放送局 11 社と提携、番組提供や 料金徴収などのサービスを開始する。三菱商事、日本テレビ放送網などが設立したプラッ ト・ワン(東京・千代田区)は7社と組む。総務省は次期CS放送局として 18 社を認可し ており、すべての放送局がこの2陣営を通じて放送を開始して競いあう。 この 11 社は、サービス会社として放送局と契約し、番組パッケージを作ったり、テレビシ ョッピングや天気予報など画像、文字、音声、課金徴収の幅広いデータサービスを代行す る。 次期CS放送はテレビとインターネットを使ったショッピッグやネットバンキングなど通 信と放送が融合したサービスを実現する。放送局1社に割り当てる周波数帯を広げ、双方 向サービスを可能にする。この結果、チャンネル数は現行のCS放送に比べ少ない。 スカパーTVは現行CSで約 300 チャンネルを放送しているが、次期CSではテレビ 46、 データ3となる。プラット・ワンはテレビ 15、データ 17、音声放送 20 となる。地上波、 CS、新規参入組など幅広いチャンネルを獲得したスカイパーフェクTVに対し、プラッ ト・ワンはデータ、音声放送を充実させ、映画に強いWOWOWやプロ野球巨人戦をもつ 日テレのコンテンツ(情報の内容)を投入する。 スカパーTVは現行CS放送ですでに加入者 260 万人を獲得しているが、プラット・ワン はゼロからのスタートであり、10 年までに加入者 300 万人を目標にしている。 次期CS放送はBS(放送衛星)と同じ東経 110 度に衛星があるため、新型受信機を1台 買えばBSデジタルと次期CS放送の両方を受信できる。ただBSデジタルは試聴が無料 の広告放送が中心であるのに対し、次期CS放送は有料。 【次期CS放送の2陣営と放送局】 ※カッコ内は主な株主 〔スカイパーフェクTV陣営〕 C‐TBS(TBS、三井物産、リクルート) サテライト・サービス(フジテレビ、産経新聞社、電通) シーエス・ワンテン(日立製作所、テレビ朝日、凸版印刷) インタラクティーヴィ(ジュピター、日本経済新聞社、テレビ東京) アクティブ・スポーツ・ブロードキャスティング(ジェイ・スカイ・スポーツなど) マルチチャンネルエンターテイメント(スカイパーフェクTV、JSAT) ハリウッドムービーズ(伊藤忠商事、ソニー・ピクチャーズテレビジョン) シーエス映画放送(イマジカ、衛星劇場) 阪急電鉄(日本生命、三和銀行) シーエス・ナウ(PCCWジャパン) シーエス九州(岩崎産業、大川家具センター) 〔プラット・ワン陣営〕 シーエス日本(日本テレビ、読売新聞社、帝京大学) CS‐WOWOW(WOWOW、千趣会) スペーステリア(三菱商事、エフエム東京) 日本メディアーク(時事通信社、ドリームネット、共同通信社) 日本ビーエス放送(ビックカメラ、松下電器産業) メガポート放送(毎日新聞社、角川書店) イー・ポート・チャンネル(松下電器産業、東芝) 【衛星放送の番組会社が供給する主なネット向けコンテンツ】 〔カミングスーン・ティービー〕 映画の予告編、映画のメーキングビデオ、映画館の上映スケジュールや地図、DVDや映 画グッズの販売(料金は未定)。配信を委託するプロバイダーは複数社と調整中。 〔アトス・インターナショナル〕 コンサート映像(200 円)、ギターレッスンシリーズ(200 円)。配信を委託するプロバイダ ーは有線ブロードネットワークス。 〔スポーツ・アイネットワーク〕 スポーツドキュメンタリー (マウンテンバイクなど、300 円)。配信を委託するプロバイダ ーは有線ブロードネットワークス。 〔シー・ネット〕 国会中継(料金は未定)。配信を委託するプロバイダーはAll、有線ブロードネットワー クス。 ●次期CS認可局の枠借り敗者復活〔放送・映像〕 次期CS放送に 復活 参入する主なCS局 次期CS(通信衛星)デジタル放送で、総務省の審査に落ちた放送会社は、認可を受けた 企業の空きチャンネルを借りて参入する動きが出た。落選企業の番組が放送されれば、当 初の認可内容と異なる番組が流されることになるが、同省はこの 敗者復活 を黙認する 構えである。 認可企業側も人気番組をもつ復活組を取り込み、チャンネル枠を埋め、顧問拡大に生かす ねらいがある。次期CS放送に 復活 参入する主なCS局は、文末に示してある。 次期CS放送については、2000(平成 12)年 11 月、41 社が放送事業者としての認可を申 請したが、総務省は「事業を遂行するための財務基盤」や「サービス内容」などを基準に 厳しい審査を実施、18 社を認可した。だが、認可された企業は落選企業の番組を取り込め ば、サービスが豊かになるため、敗者復活を果たせないかと考えた。落選企業の中には「そ れでは総務省の審査が形がい化するおそれもある」と批判する声も出た。 ただ総務省は、「番組内容が良くても事業計画で落ちたケースもある。認可された企業に有 力コンテンツが加わることに問題はない」(衛星放送課)との立場をとっている。これは、 事業計画の変更に規則をかけるよりも、復活組のコンテンツを取り入れることで、次期C S放送の普及を優先する方針とみられる。 【次期CS放送に 復活 参入する主なCS局】 ※〔社名(チャンネル名)〕 〔キッズステーション(キッズステーション)〕 子ども向けアニメ・情報。視聴可能世帯数 366 万。受入先はCTBS(TBS系)。 〔スペースシャワーネットワーク(スペースシャワーTV)〕 音楽プロモーションビデオなど。視聴可能世帯数 352 万。受入先はマルチチャンネルエン ターテインメント(スカイパーフェクTV系)。 〔エスエムイー・ティーヴィ(ヴュージック)〕 音楽ライブ生中継など。視聴可能世帯数 230 万。受入先はCTBS。 〔アニマックスブロードキャスト・ジャパン(アニマックス)〕 アニメ専門。視聴可能世帯数 130 万。受入先はサテライト・サービス(フジテレビジョン 系、交渉中)。 ●1000 万の大台を超えたCATV〔放送・映像〕 CATVの加入世帯数と普及率の推移 総務省が 2001(平成 13)年6月に発表した「ケーブルテレビの普及状況」によると、1048 万世帯と 1000 万の大台を突破、普及世帯は 22.1%となった。 ニュース、スポーツ、映画、天気予報などの専門チャンネルが1日中放送され、欲しい情 報がすぐ手に入る。雑誌感覚で試聴できるラインアップが視聴者の要望にマッチしたとい う見方もあるが、高速インターネットをめぐるサービスが加入者増のけん引役を果たした という見方も強い。別の総務省の調査では、01 年3月末のケーブルインターネットの加入 は、78 万 4000 世帯であり、前年度の4倍近くにふくらんだ。 ADSL(非対称デジタル回線網)や光ファイバー(FTTH)サービスに比べて、利用 料金が低廉化しているのがCATVの強味。電話、インターネットを1本のケーブルで活 用、速い、安い、多チャンネルを売りものに、複合サービスのパック販売にも力を入れて いる。140 局以上のCATVがネットすると、680 万世帯が可能になるという。 ブロードバンド(BB)時代の放送のけん引車として、ケーブルテレビが登場してきたと 解されており、放送とネットの連動、加入料や月々の利用料以外の広告収入の確保、ケー ブルテレビならではの地域定着性などの特徴が出て、利用者の信頼が高まれば、日本にも CATV時代がくる希望がもてるだろう。ジュピターテレコムやイッツ・コミュニケーシ ョンズなど国内の主要ケーブルテレビ(CATV)278 社は、01 年8月放送のデジタル化 方式の統一で合意した。双方向性の確保や番組編成の自由度の向上、回線のインターネッ ト活用などを進めるため、CATV各局はデジタル化を進めており、CATV局が衛星放 送などを受信して加入者に配信する方式と、加入者宅に設置しテレビに接続するSTB(セ ットトップボックス)の規格を統一することになる。 【CATVの加入世帯数と普及率の推移】 〔1996 年度〕 事業社数 :708 施設数 :937 加入世帯数:500 万 普及率 :11.0% 〔1997 年度〕 事業社数 :720 施設数 :973 加入世帯数:672 万 普及率 :14.6% 〔1998 年度〕 事業社数 :738 施設数 :1030 加入世帯数:794 万 普及率 :17.0% 〔1999 年度〕 事業社数 :686 施設数 :984 加入世帯数:947 万 普及率 :20.0% 〔2000 年度〕 事業社数 :646 施設数 :946 加入世帯数:1048 万 普及率 :22.1% 【国内の主要なCATV会社と加入世帯数】 ジェイコム東京(306,000) 京阪神ケーブルビジョン(256,576) 東急ケーブルテレビジョン(253,927) 阪神シティケーブル(236,980) テプコケーブルテレビ(236,000) スターキャット・ケーブルネットワーク(226,059) 大阪セントラルケーブルネットワーク(184,400) ●ミニ番組はスパークを続ける〔放送・映像〕 番組と番組の すき間 で、美しい風景やトレンド情報などを楽しめるのが、ミニ番組の 特異な世界。おなじみの長寿番組がある一方、新企画のニューフェイスもある。ミニ番組 の特徴は、第1がほとんど大部分が1社提供、第2がスポンサーを見ると通信関係など元 気のいい業種がめだつ、第3が6分間の番組がかなり多い、第4がここ数年間番組の本数 がほぼ変わらない、などであり、紀行、美容、音楽、グルメなどのさまざまな内容が盛り 込まれている。民放連の自主規準によると、5分以内の番組では流せる提供CMは1分、 6分番組になると 10 分以内の番組とみなされ、CMは2分挿入できる。そのためミニ番組 は6分番組が多くなっている。 長寿ミニ番組では、テレビ朝日の「世界の車窓」やフジテレビの「くいしん坊!万才」な どが著名であり、TBS「名作の風景」や日本テレビ「オススメッ」などおなじみのミニ 番組も少なくない。放送枠が多いのはフジテレビ。プライムタイム(午後7∼11 時)で 13 番組ある。それらのうち7番組が 2001(平成 13)年春スタートの新顔、ミニ番組では珍し い全国ネット放送の「らんくる」は女性が気になるものベスト5を紹介する新番組である。 フジが毎時0分からスタートの番組が多いからであり、54 分放送開始のフライング編成の 他の放送局はミニ番組の放送枠が少ない。日本テレビはプライムタイム帯に7枠、文学や 絵画、音楽の名作の舞台となった家を巡る「心に残る家」が異色。TBSは輝いている女 性の笑顔の素に迫る「キテ!ミテ」、テレビ朝日は海中風景を紹介する「海ごころ」を始め た。ミニ番組は営業面でメリットが大きく、スパークを続けている。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 2002 年版] 」広告宣伝〔情報・メディア〕 ▽執筆者〔広告宣伝〕 小林太三郎(こばやし・たさぶろう) 早稲田大学名誉教授 1923 年群馬県生まれ。早稲田大学文学部卒、同大大学院修了。著書は『広告管理の理論 と実際』『広告』『生きる広告。12 章』ほか。 嶋村和恵(しまむら・かずえ) 早稲田大学教授 1955 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。同大学院商学研究科博士課程単位取得。著 書は『新版新しい広告』『日本の広告研究の歴史』『現代広告論』ほか。 ◎解説のフォーカス〔広告宣伝〕 インターネット時代の広告 ●インターネットが出現し、広告活動には変化が出てきている。インターネットを利用し たビジネスによって、消費者は自宅にいながら、いつでも簡単にいろいろなものを手に入 れられるようになった。広告主がインターネット広告に求めるのは、いかに取引を完結さ せるかということになる。他社のサイトに掲出して人目をひくインターネット広告と、企 業のホームページの役割を厳密に分けるのは難しい。 ●広告活動に厳しい制約のある業界でも、インターネット上での情報公開が進むと広告規 制の意味がうすれてくる。弁護士広告、医療機関の広告の規制緩和には、インターネット が影響をあたえたと考えていいだろう。 ●では従来からの媒体を使った広告はどうなるのだろうか。パソコンや携帯電話を使った インターネットは基本的には個人を対象とする。家族や友人との情報が共有できるという 点では、従来のメディアに利点もある。ただし、各メディア、ビークルの価値を示すデー タの整備、媒体取引の健全化など、課題も多い。最終的には、さまざまな媒体をいかに組 み合わせ、消費者の心を動かすかがこれからの広告、マーケティング・コミュニケーショ ンの課題となる。 ★2002 年の新語〔広告宣伝〕 ★10 桁CMコード(ten digit CM code)〔広告宣伝〕 テレビCM取扱い業務の合理化と放送事故防止のため、日本広告主協会、日本民間放送連 盟、日本広告業協会の3団体が合意した「第三者CM放送確認システム」に使われる、個々 のCMに割り振られたコード。10 桁の上4桁は広告主を示すコード、下6桁は広告主が自 社のCM素材ごとに付けたコード。コードの発番と管理は、共通コード管理センターが行 う。2000(平成 12)年 12 月から稼働しており、放送局は原則として 10 桁CMコードの付 いていないCMは放送しない。すべてのCM素材にはこのコードが信号として記録され、 調査会社による機械式放送確認が可能になる。 ★インターネット視聴率調査(internet rating research)〔広告宣伝〕 インターネットの各ウェブサイトのアクセス数、オーディエンスの特性、バナー広告のリ ーチやクリック数などを把握するための調査。インターネット広告ビジネスの進展にとも なって、正確なデータが求められるようになっている。日本でインターネット視聴率調査 を行う代表的な企業として、日経BP、アイ・エス・ティ、ネットレイティングス、ビデ オリサーチネットコム、ジュピターメディアメトリックスがあげられる。 ★オプトイン・メール(opt-in mail)〔広告宣伝〕 インターネットを利用したダイレクトメール配信方法の一つで、特定ジャンルの情報が自 分宛に配信されることを許可する会員に、希望の情報をメールで届けること。オプトイン メールの配信を専門にしている業者があり、情報を希望するユーザーはその会員になって、 自分の希望をあらかじめ伝える。オプトインメールには、メールを受信したり、クリック したりするとポイントが付いたり、プレゼントが当たるインセンティブ・オプトイン・メ ールと、特にインセンティブをつけず純粋にメールを配信するピュア・オプトイン・メー ルとがある。一般のダイレクトメールが必ずしもユーザーに歓迎されず、無視されてしま うことが多いのに対して、オプトイン・メールはユーザー側から情報をリクエストしてい ることになるので、配信後の反応が高くなるといわれる。 ★TRP(Target Rating Point)〔広告宣伝〕 GRP(→別項)同様、テレビCMがどの程度視聴されたかを示す指標。GRPが世帯視 聴率の総和であるのに対して、TRPはターゲットとなる層の個人視聴率の総和を示す。 個人視聴率データは年齢、性別、職業別等で得られるので、製品のターゲットにあわせた TRPが用いられる。例えば、M1(男性 20∼34 歳)、M2(男性 35∼49 歳)、M3(男 性 50 歳以上)、F1(女性 20∼34 歳)、F2(女性 35∼49 歳)、F3(女性 50 歳以上) という区分のTRPや、会社員、自由業、商工自営業、学生、専業主婦などといった職業 別区分でのTRPが使われる。ピープルメーターの導入以降、個人視聴率調査の精度が増 し、GRPよりもTRPを重視する広告主が増えてきている。TARP(Target Audience Rating Point)、TGRP(Target GRP)とよばれることもある。 ★メディア・レップ(media rep / media representative)〔広告宣伝〕 広告会社の一形態としてのメディア・レップとは、広告媒体スペースやタイムの販売を専 門にする会社をさし、広告主の広告活動全般を担当するアドバタイジング・エージェンシ ーと対照されるものである。欧米では、広告会社は大きくアドバタイジング・エージェン シーとメディア・レップに分かれて発達してきたが、日本ではこれまで媒体の販売に特化 したメディア・レップはあまり見られなかった。しかし最近になって、日本でも、インタ ーネット広告を出稿する広告主のために、ウェブサイトの広告スペース販売を専門にする メディア・レップが出現している。メディア・レップはさまざまなウェブサイトの特性に 関して専門知識をもち、広告主にどのサイトが広告掲載に適するかをアドバイスしたり、 いくつかのサイト上に共通の広告枠を企画するなどプランニングを行う。 ★アフィリエイト・プログラム(affiliate program)〔広告宣伝〕 インターネット上でビジネスを行う事業者が、提携関係を結んだ特定のサイト(アフィリ エイト・サイト)に広告を掲載することをさす。ただし、広告を掲載するだけで広告料金 が生じるのではなく、その後の成果、例えば会員獲得、資料請求、商品やサービスの販売 など実際の成果に応じて報酬が支払われるという契約になっている。広告を掲載する事業 者にとっては、広告に成果がなければ料金を支払う必要はない。アフィリエイト・サイト にとっては、自分たちのサイトと関連性の高い事業者と提携し、広告を掲載することで広 告収入を高めることが可能になる。 ▲広告の機能と広告環境〔広告宣伝〕 ◆二重価格表示(dual pricing)〔広告宣伝〕 商品やサービスの価格の安さを強調するために、値引き前の価格と値引き後の価格を両方 掲げて表示されているものをいう。二重価格表示自体が問題なのではなく、表示されてい る値引き前の価格で販売された事実がなければ、二重価格表示をすることで、実際より著 しく有利な取引であると消費者に誤認させることになり、景品表示法に違反する。公正取 引委員会は、1969(昭和 44)年に、比較対照に使える価格は「最近相当期間、その価格で 販売した実績が必要」という運用基準を公表し、さらに 80 年には「相当期間」とは「耐久 消費財は3カ月、季節商品は1カ月とする」という解釈を加えていた。しかし、商品のラ イフサイクルが短くなり、価格表示の形態も多様化している現代に合わせて、2000 年6月 に運用基準を改定した。それによると、セール開始前8週間のうち、4週間以上の販売実 績があれば二重価格表示は可能である。8週間より短い場合でも、期間の半分以上の販売 実績があれば可能。しかし、生鮮食料品の売れ残りを防ぐタイムサービスのような場合に は、同一商品の価格が目の前で変化するのであるから問題なく二重価格表示ができる。 ◆新聞広告掲載基準〔広告宣伝〕 広告主や広告会社から持ち込まれた広告原稿を、新聞に掲載できるかどうかを判断する基 準。広告が新聞掲載にいたるには、日本新聞協会が制定した「新聞掲載基準」や「新聞広 告倫理綱領」、さらに各新聞社独自の「広告掲載基準」による審査を通る必要がある。各新 聞社は広告の営利性を考慮したうえで、「新聞社の自主的判断によって不良広告や悪質な広 告主を排除」するためにこの種の審査を行っている。 ◆求人広告の変化〔広告宣伝〕 1999(平成 11)年4月からの改正男女雇用機会均等法の施行によって、求人広告は大きな 変化が求められることとなった。同法第5条で「事業主は、労働者の募集および採用につ いて、女性に対して男性と均等な機会を与えなくてはならない」と規定されたため、これ にあわせて厚生労働省では「求人広告作成上の留意点」をまとめた。女性であることを理 由として募集対象から外すことや、男性、女性の募集人数を設定すること、女性にだけ異 なる募集条件を出すことや、採用を女性のみにすることなども禁止されている。「カメラマ ン」は「カメラマン(男・女)、撮影スタッフ」などと書かなくてはならないし、「セール スレディ」というような表現も使えない。 ◆たばこ広告の自主規制〔広告宣伝〕 日本たばこ協会は、1998(平成 10)年4月から、たばこの個別銘柄のテレビ、ラジオ・コ マーシャルをすべて中止した。これは、国内外での嫌煙運動の高まり、アメリカでの喫煙 健康被害訴訟などを考慮した、たばこ業界の自主規制のひとつである。 ◆ 日 本 広 告 審 査 機 構 ( 日 広 審 / J A R O / ジ ャ ロ ) (Japan Advertising Review Organization)〔広告宣伝〕 広告主、媒体、広告代理業を主体とする会員から構成される広告の自主規制機関。その事 業内容は、(1)広告、表示に関する問い合わせの受付、処理、(2)広告、表示に関する 審査、指導、(3)広告、表示に関する諸基準の作成、(4)広告主、媒体、広告代理業の 自主規制機構との連携、協力、(5)消費者団体、関係官庁との連絡、協調、(6)企業、 消費者に対する教育、PR活動、(7)情報センター機能の確立、(8)その他、目的達成 のための必要事項、などである。審査、処理部門には関係団体協議会、業務委員会、審査 委員会をおき、諸々の問い合わせの審議と処理にあたる。審査委員会の裁定の結果、広告 主側に非ありとすれば、広告主に広告の修正・停止を求める。広告主がこれに従わない場 合、この委員会は公表、媒体各社に広告掲載の差止め処理ができる。事務局は問い合わせ の窓口となり、可能な範囲で処理することとなっている。 ◆公共広告機構(AC)(Japan Advertising Council)〔広告宣伝〕 公共広告を推進する非営利団体。アメリカには、広告評議会(AC Advertising Council) があって、小児マヒ、町の清掃、山火事、汚染防止などをテーマにした公共広告を展開し てきたが、これをお手本にした機関が公共広告機構といえる。機構の会員となった企業か ら資金を、媒体側から割安な紙面や時間を提供してもらい、資源、環境、食糧、福祉、身 体障害者、道徳その他をテーマにした広告を行ってきている。 ◆おとり広告〔広告宣伝〕 おとり広告に関する表示 公正取引委員会が指定する不当表示のひとつ。広告を見た消費者が店頭に買い物に行って みると、店頭に商品がまったくない、広告商品と実際に販売されている商品とで価格、品 質、色、サイズ、柄、メーカー等が違っている、実際には売る気のない商品が広告されて いる、広告では販売数量や販売時間などの制限がないのに実際には制限されているなど、 実際に行われる取引と相違がある広告を、「おとり広告」とよび、規制の対象となる。 広告商品を買う目的で店頭に行っても目的達成が不可能なのに、店頭まで引っ張られたた めに他の商品の購入が起こる可能性が高い、という意味での「おとり」である。1982(昭 和 57)年、公正取引委員会は、景品表示法4条3号に基づき、「おとり広告に関する表示」 を不当表示として規定、その後 93 年に「おとり広告に関する表示」は変更され、93(平成 5)年5月から施行されている。 【おとり広告に関する表示】 [1993(平成5)年4月 28 日、公正取引委員会告示第 17 号] 一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、自己の供給する 商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う次の 各号の一に掲げる表示 (1)取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない 場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示 (2)取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、 その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 (3)取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客の一人当たりの 供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合 のその商品又は役務のついての表示 (4)取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げ る行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務につい ての表示 ◆オープン懸賞(sweepstakes)〔広告宣伝〕 主要国の景品規制の概略 オープン懸賞とは、懸賞によって一般消費者に賞品・賞金などを提供するもので、その告 知は主に広告を通じて行われる。オープン懸賞は、いかなる場合でも取引に付随しないこ とを条件とする。「取引に付随しない」とは、「商品を買わなければならないというもので はない」の意。これに対して、商品購入を条件として、商品購入者だけに応募させる懸賞 をクローズド懸賞という。1996(平成8)年4月、景品規制の大幅な緩和が行われ、一般 業種でのオープン懸賞の景品類の限度額は、従来の 100 万円以内から 1000 万円に引き上げ られた。 【主要国の景品規制の概略】 [日本] 〔クローズド懸賞〕一定額(最高 10 万円)以内であれば可 〔オープン懸賞〕懸賞額に制限あり(最高 1000 万円) 〔総付〕一定額(取引額の 10%)まで可 〔根拠法〕独占禁止法、景品表示法 〔規制機関〕公正取引委員会 [アメリカ] 〔クローズド懸賞〕禁止 〔オープン懸賞〕制限なし(注 1) 〔総付〕制限なし(注 1)(注 2) 〔根拠法〕FTC法、州法 〔規制機関〕連邦取引委員会 [ドイツ] 〔クローズド懸賞〕禁止 〔オープン懸賞〕制限なし 〔総付〕原則禁止(小額の宣伝用商品等は可) 〔根拠法〕不正競争防止法、景品規制令 〔規制機関〕裁判所 [フランス] 〔クローズド懸賞〕禁止 〔オープン懸賞〕制限なし 〔総付〕原則禁止(小額(1%+30F,最高 350F)の景品類・見本は可) 〔根拠法〕懸賞を禁止する法律、価格競争令 〔規制機関〕経済省(裁判所) ◆景品(premium)〔広告宣伝〕 主要国の景品規制の概略 景品規制の概要 景品表示法第2条第1項では、(1)顧客誘因の手段として、(2)取引に付随して提供す る、(3)経済上の利益を景品類と定義している。景品類の提供方法は、総付(そうづけ) 景品、一般懸賞、共同懸賞に分類される。総付景品とは、商品購入者全員、小売店の来店 者全員、申込み順または入店の先着順といった形で、懸賞によらないで景品類を提供する ものである。一般懸賞とは、抽選やじゃんけんのような偶然性を用いたり、パズル、クイ ズの正誤、作品や競技の優劣で当選者を決めて景品類を提供するものである。共同懸賞と は、一定の地域の小売業者、商店街等の商店等、一定の地域の一定の種類の事業者等が、 共同して行う懸賞による景品類の提供をさしている。商店街の小売店が共同して行う場合 は、年3回、70 日間という限度もある。提供できる景品類の最高額、および総額の制限は 次のとおりである。 【景品規制の概要】 ●景品表示法第3条(景品類の制限及び禁止) 〔一般消費者告示〕 [総付景品(総付景品の最高額の制限)] 取引価額 1,000 円未満:最高額は 100 円 取引価額 1,000 円以上:最高額は取引価額の 10 分の1 〔懸賞景品告示〕 [一般懸賞(懸賞による景品類の最高額及び総額の制限)] 懸賞による取引の価額が 5,000 円未満:最高額は取引価額の 20 倍、総額は懸賞に係る売上 予定額の2% 懸賞による取引の価額が 5,000 円以上:最高額は 10 万円、総額は懸賞に係る売上予定額の 2% ※最高額・総額ともに限度内でなければならない [共同懸賞(懸賞による景品類の最高額及び総額の制限)] 懸賞による取引の価額にかかわらず最高額 30 万円、総額は懸賞に係る売上予定額の3% ※最高額・総額ともに限度内でなければならない ●独占禁止法 〔オープン懸賞告示〕 [オープン懸賞] 提供できる経済上の利益の最高額は 1,000 万円 ▲広告業界〔広告宣伝〕 ◆クリエイティブ・エージェンシー(creative agency)〔広告宣伝〕 広告代理業の一種で、主に広告のクリエイティブ・サービス(広告制作サービス)を、広 告主に対して提供する代理業。マーケティング・サービス、市場調査、広告効果測定、そ の他のサービスは、できるかぎり外部の専門機関を利用して、ユニークな広告クリエイテ ィビティ面に主力をおく。 ◆ハウス・エージェンシー(house agency ; inhouse agency)〔広告宣伝〕 広告代理業の特殊なタイプで一般に、特定の広告主によって、財務的に管理、所有されて いる広告代理業をさす。広告主からみれば、自社だけの専属代理業になる。広告主専属広 告会社または代理業ともよばれている。大規模広告主の場合には、広告予算がきわめて大 であるので、これを使うと媒体手数料が回収でき、経済的であると同時に、企業機密を保 持することができるといった長所はあるが、独立の広告代理業のもつ客観性、広告表現の 創造性、媒体支配力(または共生力)、豊富な広告知識と広告経験、バイタリティ、機動力 といったものに欠けるおそれがある。 ◆メガ・エージェンシー(Mega Agency)〔広告宣伝〕 広告会社の合併吸収の結果できあがった巨大広告会社がメガ・エージェンシーとよばれる。 広告主のグローバル化と同時に、広告会社もグローバルなネットワークを展開する必要が 出てきており、国内のみならず、外国の広告会社との合併吸収によってグローバル化を達 成しようとする広告会社も多い。広告会社が巨大化することで、同一の業界からはひとつ の会社の製品しか扱わないという原則が守られにくくなる場合もある。 ◆広告主(advertiser)〔広告宣伝〕 広告を出稿する主体を広告主(こうこくぬし)という。広告主は広告商品、サービスの提 供者であり、広告で主張される意見の主体であり、広告物に責任を負う立場にある。広告 会社側が広告主をよぶときに、クライアント(client)とかアカウント(account)という ことも多い。一方、テレビ局やラジオ局は、広告主を番組提供者という意味でスポンサー (sponsor)とよぶことが多い。 ◆ビリング(billing)〔広告宣伝〕 広告会社が取引先の広告主に請求する媒体料金(広告スペースやタイムの料金)と、媒体 扱い以外に広告会社が提供するサービス、例えば販売促進活動や調査、PR活動などの代 金の合計がビリングになる。これは広告会社の取扱高ともいわれる。 ◆オリエンテーション(orientation)〔広告宣伝〕 広告主が特定のキャンペーンの企画を広告会社に依頼するとき、広告商品の特性、商品の ターゲット、広告目標、広告期間、利用希望媒体、広告予算などを詳細に説明することを オリエンテーションという。広告会社はこのオリエンテーションを受けて、広告キャンペ ーン計画を立案することになる。 ◆プレゼンテーション(presentation)〔広告宣伝〕 広告会社が、見込み広告主および取引中の広告主などを対象にして提出する広告キャンペ ーン計画案の提示・説明活動をいう。プレゼン。広告会社がすでに取引してきた広告主に 対して、取引継続のために提出する広告計画書の提示説明活動を、レコメンデーション (recommendation)と区別してよぶこともある。プレゼンテーションとは、一般的に広告 会社が広告主を対象にして行う場合が多いが、媒体社がタイム・スペース販売のために広 告会社または広告主に対してあるいは独立制作プロダクションが広告会社、媒体社、広告 主に対して行う特定キャンペーンに関するクリエイティブ企画、特定問題に対する一連の 解決策の提示説明を行う場合をさすこともある。 ◆CMプランナー(CM planner)〔広告宣伝〕 CMとは、テレビやラジオで放送される広告をさし、英語ではコマーシャル(commercial) という。CMプランナーは、広告物の中でもテレビ、ラジオのコマーシャルの企画を担当 する人。コマーシャルにとって重要な音(音楽や効果音など)、言葉、映像といった要素、 テレビコマーシャルなら 15 秒、30 秒、ラジオコマーシャルなら 20 秒という時間的な制約 を考慮して、企画立案を行う人である。 ◆アカウント・プランナー(account planner)〔広告宣伝〕 広告表現制作と、広告調査の両方に通じた広告のプランナーで、広告主のマーケティング 戦略に基づいた広告活動の企画に責任を負う。ストラテジック・プランナーともよばれ、 1960 年代にイギリスの広告会社から誕生したといわれる。一般に、広告表現制作にかかわ る人々は、調査結果を制作に生かすことにあまり積極的でないといわれるが、アカウント・ プランナーは、科学的な広告表現の制作のために情報収集や調査を行い、他の制作担当者 の参考になるように情報提供する。 ◆コピーライター(copywriter)〔広告宣伝〕 印刷広告のキャッチフレーズやボディ・コピーなど、放送広告のナレーションや台詞の部 分など、広告物のコピー(→別項)の部分を書く人。 ◆アート・ディレクター(art director)〔広告宣伝〕 広告物の視覚表現の部分を担当する人。どのようなアートをつくりあげ、コピーとアート をどのようにレイアウトするか、映像全体をどのようにまとめあげるかなどに責任を負う。 ◆ストーリーボード(storyboard)〔広告宣伝〕 テレビCMのアイデアを一覧できるように描き出したもので、主要画面をイラストで説明 した「映像部分」と、映像にともなうナレーションや登場人物のセリフ、音楽やサウンド エイフェクトなどの「音声部分」、状況説明などが一連の流れにそって提示されている。絵 コンテともよばれる。プレゼンテーション(→別項)のときに、広告主にCMのアイデア を説明するのに使われる。 ▲広告計画・広告管理とその周辺〔広告宣伝〕 ◆パブリック・リレーションズ(PR)(public relations)〔広告宣伝〕 個人または組織体が、相手の意見や態度を好ましい方向に指向する際に行うもので、「個人 ないし組織体で持続的または、長期的な基礎に立って、自身に対して公衆の信頼と理解を かち得ようとする活動」と定義されている。企業に例をとれば、一般大衆、消費者、従業 員(その家族とか関係筋)、販売業者、資材仕入先の関係業者、株主、債権者、銀行などの 金融関係、政府諸機関、教育機関、その他のグループなどがPR活動の対象となる。 ◆パブリシティ(publicity)〔広告宣伝〕 パブリシティは、広告と同じように媒体、特にマスコミ媒体を使って行われる情報提供活 動のひとつで、広告と混同されることがある。広告の場合、広告主が自らの管理した広告 物を、料金を支払って媒体に掲載してもらうことが要件である。 パブリシティとは、ある商品や企業がらみのニュースなどを、媒体側が取り上げる価値が あると判断したことによって、記事や番組に取り込まれたものをさす。したがって、パブ リシティの場合には、取り上げてもらっても媒体料金の支払いはともなわない。しかも、 広告と比べてパブリシティは、広告主から直接発信された情報ではなく、公平な第三者(こ の場合は媒体社)が価値を認めたものと受け取られる可能性があり、受け入れられやすく、 信頼性が高い情報だと評価されることが多い。 一方で、広告なら広告主自身が内容を隅々までコントロールすることができるのに対して、 パブリシティでは必ずしも好意的に取り上げられるとはかぎらないところに危険性がある ともいえる。 ◆ペイド・パブリシティ(paid publicity)〔広告宣伝〕 媒体料金を支払う必要がないものがパブリシティなので、ペイド・パブリシティ(料金を 支払われたパブリシティ)とは自己矛盾を抱える言葉であるが、パブリシティの効果に着 目して、いかにも広告であるというつくりではなく、一見パブリシティに見えるようなつ くりにした広告をさす。新聞や雑誌によくみられる。 ◆コーポレート・コミュニケーション(corporate communication)〔広告宣伝〕 これは次のように解される。(1)PRと同意語、(2)PRとコーポレート・アイデンテ ィティ(CI)を含む用語、(3)企業または機関とか組織体の各部門、段階のコミュニケ ーションを統合する統一的コミュニケーション活動。アメリカのある企業はコーポレー ト・コミュニケーションの中に、(1)プレス関係、社内コミュニケーション、(2)エデ ィトリアル・サービス(講演、文献・資料提供、投資家関係など)、(3)パブリック・ア フェアー(政府関係、地域社会関係、消費者関係、慈善活動関係など)、(4)広告などを 含ませているが、これは広義的なものとみてよい。 ◆メディア・ミックス(media mix)〔広告宣伝〕 広告媒体、つまり新聞、雑誌、ラジオ、テレビをはじめ屋外広告媒体、交通広告媒体、ダ イレクト・メール、劇場媒体(または映画広告媒体)、POP広告、新聞折込み広告、その 他の広告媒体などを組み合わせることをいう。メディア・ミックスは広告媒体戦略に関す るもので、広告主(企業側)にとって所定の広告メッセージを見込み市場に効率的に伝達 するためにはこれがどうしても必要になる。 ◆メディア・プランニング(media planning)〔広告宣伝〕 広告メッセージをターゲットに効果的、効率的に到達させるために、予算の範囲内で最適 な媒体を選択し、組合せを考え、出稿計画を練りあげること。広告計画は媒体計画(メデ ィア・プランニング)と広告表現計画が二つの柱だが、最近になってメディア・プランニ ングが注目されるようになったのは、外資系広告会社がメディア・プランニングを専門に する新会社を設立し、攻勢をかけていることが影響している。その結果、日本の大手広告 会社もこぞってメディア・プランニング重視の姿勢を示すようになり、欧米の広告会社が 使っているオプティマイザー(→別項)というメディア・プランニングのサポート・シス テムを意識して、日本の広告会社各社も独自のシステムを開発している。 ◆オプティマイザー(optimizer)〔広告宣伝〕 最適なメディア・プランニング(→別項)を支援するコンピュータ・システムを一般にオ プティマイザーとよぶ。1980 年代から欧米の広告会社は、広告主の要請に応える形で各社 独自のオプティマイザーの開発を行ってきた。オプティマイザーを使えば、広告主の広告 予算、広告のターゲットなどを入力するだけで、その予算のもとで、最大の媒体到達をも たらすメディア・プランができあがる。これらの中には、テレビの個人視聴率データや新 聞・雑誌の閲読データなどさまざまなデータが含まれ、ターゲットひとりひとりがどのよ うなビークル(→別項)と日常的に接触しているかがプラン決定のベースとなっている。 ◆広告のアカウンタビリティ(accountability of advertising)〔広告宣伝〕 アカウンタビリティは「説明責任」とか「報告責任」などと訳されるが、広告のアカウン タビリティといったときには、広告投資に対してどれだけの具体的な成果があったかを、 広告担当者が広告主のトップに説明する責任をさす。ここでの成果としては、ターゲット への広告の到達率、ブランド認知率、リスポンス率のほか、広告の種類によっては売上高 などが取り上げられることもある。 ◆ビー・トゥ・ビー(B to B)広告(B-to-B advertising / B 2 B advertising)〔広告宣伝〕 広告主もビジネス、広告の受け手もビジネスである広告活動を、ビジネスからビジネスへ、 という意味でビー・トゥ・ビー広告とよぶ。簡単にビジネス広告という研究者もある。こ れは、一般消費者を対象とした消費者広告に対する言葉である。ビー・トゥ・ビー広告に は、産業用品やサービスのユーザーをターゲットとした産業広告、流通業者を対象とした 流通広告(→別項)、医師、弁護士、会計士などの専門職業に従事している人を対象とした 専門広告などがある。なおビー・トゥ・ビーは、最近ではB2Bと表記されることもある。 ◆流通広告(trade advertising)〔広告宣伝〕 メーカーや卸売業者が広告主となり、卸売業者、小売業者などの流通業者をターゲットと して行う広告である。同一の商品でも、消費者のニーズを喚起することを目的とし、消費 者に向けて行われれば消費者広告であるが、流通業者に向けて仕入れの促進や売上増進を ねらって行われると流通広告となる。流通広告を通して流通経路を刺激し、よりいっそう の販売をはかる広告である。流通広告には主としてDM広告と業界紙・誌が用いられるが、 ときに業界紙・誌のかわりとして一般紙・誌が用いられることもある。百貨店やコンビニ エンスストアなどの流通業者が行う広告も、広告を広告主の業種別に分類したときには流 通広告ということがあるので、注意が必要である。 ◆ 意 見 広 告 (opinion advertising;issue advertising;advocacy advertising;protest advertising)〔広告宣伝〕 個人ならびに組織体が特定の重要な事柄についてそれぞれの意見を陳述する広告が意見広 告である。わが国のある新聞社は、これについて「(1)表現が妥当なものは掲載する。た だしその意見について署名者が責任をもちえないと判断されるものは掲載しない。(2)広 告および広告の機能を否定するものは掲載しない。(3)紛争中の意見は公共性が高いもの で表現の妥当なものに限り掲載する。ただし裁判中の関係当事者の意見は原則として判決 確定前は掲載しない。(4)個人の意見広告は内容、肩書きを問わず掲載しない」と広告掲 載基準で規定している。 ◆タイ・アップ広告/タイ・イン広告(tie-up ad./tie-in ad.)〔広告宣伝〕 ある広告主が同業者とか関連産業界の諸企業または商店街の諸企業などとタイ・アップす る広告(水平的共同広告)、さらには広告主が自社の流通経路(例えば販売店など)と共同 して行う広告(垂直的共同広告)をタイ・アップ広告、タイ・イン広告、ジョイント広告、 または共同広告という。 ◆リスポンス広告(response advertising)〔広告宣伝〕 広告の受け手から反応を直接得ることを目的とした広告を意味する。この目的に基づいた ダイレクト・メール、通信販売用の広告などがその一例である。最近は新聞、雑誌、新聞 折込み、ラジオ、テレビなどにもこの広告が掲載または流されるようになった。別名とし てダイレクト・リスポンス広告、リザルト広告、直接反応広告などがある。 ◆ティーザー広告(teaser advertising)〔広告宣伝〕 広告キャンペーン期間の開始時点で、商品の全貌や広告主名をあえて隠し、消費者に「何 の広告だろうか?」という疑問を抱かせ、答えを知りたいという欲望を起こさせる広告が ティーザー広告である。キャンペーンが進むに従って、徐々に商品名や広告主名を明らか にしたり、徹底的にじらしたうえである時点で一挙にベールをはいだりすることで、消費 者の注意と関心を高め、さらに購買の段階にまで引っ張っていこうとするテクニック。 ◆マルティプル・ページ広告(multiple pages advertising)〔広告宣伝〕 新聞や雑誌の広告で、見開き2ページを超えて何ページにもわたって掲載される広告。マ ルティプル広告ともよばれる。関連する多くの商品を一度に広告したり、詳細な情報を提 供するためなどに活用される。 ◆ブランド・キャラクター(brand character)〔広告宣伝〕 ブランドを象徴的に示す役割をもつ架空、あるいは実在の人物やキャラクター。ブランド・ キャラクターは広告キャンペーンや製品パッケージ、販売促進活動等に活用される。世界 的に有名なブランド・キャラクターとしては、ピルズベリーの「グリーン・ジャイアント」 とよばれる緑色の巨人のアニメ・キャラクター、マールボロの「マールボロ・カウボーイ」、 ミシュランの「ビベンダム(ミシュラン・マン)」などがある。日本では古くは不二家のペ コちゃん、最近では So-net やポストペットのモモなどがあげられる。 ◆タイトル・スポンサーシップ(title sponsorship)〔広告宣伝〕 企業がスポーツの試合を後援していることを明示すべく、試合名(タイトル名)の前に企 業名をつけたもの。日本語では冠スポーツといわれることもある。 ◆アンブッシュ・マーケティング(ambush marketing)〔広告宣伝〕 特定のイベントのスポンサーではない企業が、あたかもスポンサーであるかのようにみせ るマーケティングの手法。オフィシャル・スポンサーになれなかった企業、オフィシャル・ スポンサーとなるための費用をまかなえなかった企業が使う。アンブッシュとは、待ち伏 せという意味。オリンピックや大規模なスポーツ・イベントではオフィシャル・スポンサ ーになりたい企業が続出するが、実際になれる企業は限られる。そこで、一般的にスポー ツ全般を支持するような広告を使い、あたかもそのイベントを公式に支持しているような 印象をあたえる。道義的、倫理的に問題があるといわれることもある。 ▲広告媒体と広告表現〔広告宣伝〕 ◆インターネット広告(internet advertising ; advertising on the internet)〔広告宣伝〕 インターネットを使って行われる広告活動。電通では、インターネット広告を「独立した コンテンツをもつメディアで広告スペースの取引に対する料金体系が明確化されているも の」と定義して、広告費を推計している。推計の結果、2000(平成 12)年の日本のインタ ーネット主要サイトの推定広告費は約 590 億円であった。 インターネット広告の種類としては、電通では、(1)ウェブページの中に横断幕状に掲出 されるバナー広告(→別項)、(2)記事情報配信サービスを使って文字だけで送信される 電子メール広告、(3)ユーザーが専用のソフトウェアを使ってニュース等をダウンロード すると同時に配信されるコマーシャル(プッシュ型広告)の3種類に分けて説明している。 ◆バナー広告(banner ; banner advertising)〔広告宣伝〕 従来、バナーあるいはバナー広告という言葉が多く使われたのはPOP広告や屋外広告の 領域で、プラスチックや紙や布などで長方形、3角形などの旗状につくった広告物をさし ていた。旗状の広告物というところから、最近ではインターネット広告(→別項)の分野 でもこの言葉が使われるようになった。 インターネット広告でのバナー広告とは、ウェブの検索ページやさまざまなホームページ 上に登場し、ウェブ・ユーザーの注意を喚起し、広告部分をクリックすると、広告情報の 掲載されたウェブページにジャンプさせる仕組みをもつ。 ◆クリック保証広告(click guaranteed ad.)〔広告宣伝〕 ウェブページ上でバナー広告を目にした人が、バナー広告をクリックして初めて広告主の ホームページに接続される。バナー広告を掲出しただけでなく、実際にネット利用者がそ れをクリックしてくれて、ホームページにジャンプする回数で広告料金が決まり、契約し た広告回数だけクリックされるまで広告を配信し続けるという制度がクリック保証広告で ある。 ◆成果報酬型インターネット広告〔広告宣伝〕 インターネット広告は成果がつかみにくい、という広告主の声に応え、クリック保証広告 (→別項)からさらに一歩進めて、バナー広告をクリックして広告主のホームページにい き、資料請求や、注文といった行動を起こした回数に応じて広告料金を決めるシステム。 「契 約成立」とか「資料請求」とか、広告主が成果として何を求めるかによって広告料金は違 ってくる。 ◆バーチャル広告(virtual advertising)〔広告宣伝〕 実在しない広告をデジタル処理で画面に映し出すテレビ広告で、アメリカでは日常的に利 用されるようになっている。サッカー中継の際に、グラウンドのセンターサークルにスポ ンサー企業のロゴを映し出したり、スーパーボウルの中継の際に、フェンスに各社の広告 を映し出したり、また繁華街のビルの一角をスクリーンとして広告を映し出すというよう な形で使われている。 ◆ラッピングバス(wrapping bus)〔広告宣伝〕 広告をプリントした粘着シートで車体のほぼ全体をラッピングしたバス。ラッピングに使 われる粘着シートは、コンピュータによって精密で美しいグラフィックや文字などを印刷 することができるだけでなく、新しい接着剤の開発によって、ラッピングしてもきれいに はがして張り替えることができるのが特徴である。東京都では屋外広告物条例およびその 施行細則を改訂することで実現した。バスの前面と窓へのラッピングは認められていない が、交通安全の面でも表現にはある程度の制約が課せられる。例えば、漫画のように連続 した絵が描いてあるもの、電話番号やインターネットのURLなどを読ませるものなどは、 ほかの車の運転者や歩行者の脇見運転を誘うおそれがあるので、望ましくない。 ◆ビークル(vehicle)〔広告宣伝〕 メディアもビークルも、媒体をさす言葉であるが、新聞とか雑誌とか媒体の種類をさす場 合にはメディアといい、新聞のなかでも、朝日新聞、読売新聞、日経新聞と個別の媒体を さす場合にはビークルという。個別銘柄媒体という場合もある。 ◆POP広告(point of purchase advertising)〔広告宣伝〕 消費者が商品を購買する時点(point of purchase)で、商品への関心を引き、買おうという 気にさせる広告。ポップ広告ではなく、ピー・オー・ピー広告と読む。商品のプライスカ ードやステッカー類、店頭に飾ってあるポスター、CMに使われるタレントの等身大ディ スプレイなどがおなじみのものである。 食品売場でその食品の栄養価値や健康への効果、調理方法などを詳細に書いたメモをつけ たり、ほかの商品と組み合わせて使われることを考慮して、関連製品を近くに陳列すると いった工夫も考えられ、広告と販売促進の境界的な手段といえる。 ◆フロア広告(floor advertising)〔広告宣伝〕 建物の通路の床面を利用した広告で、アメリカではすでに小売店などでPOP広告として 活用されている。日本では交通広告の媒体として、駅構内のフロアなどで展開されている。 ◆メディアジャック〔広告宣伝〕 特定媒体ビークル(→別項)内の購入できるスペースやタイムを、すべて一広告主、ある いは関連のある少数の広告主の広告が占めた状態をメディアジャックとよぶ。例えば、あ る路線を走る電車の車両内の広告スペース、ある日の特定の新聞の広告スペース、CS放 送テレビ局の広告タイムが、すべて単一の広告主で占められる状態がそれである。 ◆アドカード(adcard / freecard)〔広告宣伝〕 絵はがきの形態の広告媒体で、アドカードというのはアドカード社の登録商標。無料で入 手できるはがきだが、そこに新製品の広告、レストランの広告、試写会の案内などが印刷 されている。レストラン、映画館、レコード店、あるいは駅構内などに専用のラックを置 き、そこに何種類かのカードを入れ、通行人に自由に取ってもらえるようになっている。 ◆クーポン広告(coupon ad. ; couponing)〔広告宣伝〕 クーポンとは、特定の商品に関して券面に書いてある金額分の値引きを受けることのでき る券であり、クーポン広告とは新聞広告、雑誌広告、折込み広告やビラなどにクーポンが 印刷されているものをさす。またクーポンを使って行う販売促進活動をクーポニングとい う。 ◆ダイレクト・メール(DM)広告(direct mail advertising)〔広告宣伝〕 郵便によって直接見込み客へ送り届けられる広告。ダイレクト・アド(直接広告 direct advertising)の一種で、かつては宛名広告ともよばれていた。 ◆CM殿堂入り作品(ACC Permanent Collection)〔広告宣伝〕 全日本シーエム放送連盟(ACC)が、後世に伝えるべき価値のあるCMとして選定した もので、1983(昭和 58)年から 2000(平成 12)年までの間にテレビCM51 本、ラジオC M27 本がある。CM殿堂入り第1号は、61 年の寿屋(現サントリー)のアンクルトリスが 登場する「トリス酒場」というアニメーションのCM。ACCは、創立 40 周年を記念して、 記念誌『CM殿堂』を発行した。 ◆ハウス・オーガン(house organ)〔広告宣伝〕 機関誌。企業が、グッド・ウィル(好意とか信頼)の育成、売上高の増加、一般大衆の意 見の創成を意図して、従業員、セールスマン、販売店、消費者一般の理解と信頼を得るた めに発行する定期・不定期刊行物のこと。一般に無料であり、形式はブックレット形式、 新聞形式、会報形式などがあり、ほとんどは企業の総務部、広報部、広告部、販売部、販 促部、あるいは人事部などでつくられる。 ◆インフォマーシャル(informercial)〔広告宣伝〕 インフォメーション(情報)とコマーシャルの二つの言葉から合成されたもので、15 秒、 30 秒という通常のコマーシャルより長い時間をかけた、情報量の多いコマーシャル。数分 から数十分にわたるものもあるので、商品の使い方、効果効能などを詳細に伝えることが できる。ケーブルテレビやCS放送局などのニューメディアを通じた広告によく使われて いたが、最近では地上波テレビでも登場している。そのまま注文を受け付けるダイレクト・ リスポンス型のインフォマーシャルも多い。 ◆比較広告(comparative advertising)〔広告宣伝〕 競争相手のブランドや自社の旧製品等と、自社の現在のブランドを比較対照し、自社ブラ ンドがいかに優れているかを示す広告表現の手法。比較広告は業界の2番手以下の企業や、 後発ブランドが、リーディング・ブランドを引合いに出して、自社のブランドがリーディ ング・ブランドと比較しても遜色がないということをアピールするための手法である。し たがって、通常は業界のリーダーはこの手法に興味を示さないことが多い。 アメリカでもかつては比較対照を具体的に名指しせず、「ブランドX」という形式で提示す る比較広告が多かったが、かえって消費者に誤認させるおそれがあるため、1972 年、FT C(連邦取引委員会)が名指しによる比較広告を推奨した。日本では、1987(昭和 62 年) に公正取引委員会が「比較広告に関する景品表示法上の考え方」を発表し、これが一般に は比較広告の解禁と受け取られているが、実際には比較広告が法律で禁止されていたとい う事実はなく、広告業界が自粛していたにすぎなかった。適正な比較広告が行われると、 消費者に多くの情報が提供でき、消費者の賢明な選択が助けられる、独占的な価格設定が なくなり、商品の価格が下がる、といったメリットが考えられる一方で、各社が自分たち に都合のいい点だけを比較すると、消費者がかえって混乱するというデメリットも考えら れる。 ◆OHM/移動オーディエンス(Out-of-Home Media and mobile audiences)〔広告宣伝〕 広告オーディエンスの中で移動性の強いものは、「モバイルオーディエンス」とよばれる。 屋外広告や交通広告の対象者がこの種のオーディエンスとなる。この屋外広告媒体と交通 広告媒体は屋外に配置・掲出されるから、OHMとよばれる。 ◆パルシング(pulsing)〔広告宣伝〕 電波広告を波形に流す戦略・戦術。これはウェーブ理論とかフライティング(flighting)と もいわれ、ある時期に広告量を増大し、その後減少、再び増やすというようなウェーブ状 の広告量・広告投入の技法。このパルシング・キャンペーンには、広告メッセージの質、 フライト間の間隔、メディア・ミックスなどが考慮される。 ◆テスティモニアル広告(testimonial advertising)〔広告宣伝〕 特定の商品について知識が豊富だと考えられている人が、あるブランドを推奨する広告を いう。プロのヘアスタイリストが使っているヘアメイク用品、一流の料理人が推奨する食 品、トップブリーダーが推奨するドッグフード、という広告がこれにあたる。 ◆記事体広告(editorial advertising)〔広告宣伝〕 広告メッセージのフォーマットのひとつで、一見広告らしくなく、記事のような構成でつ くられている広告のこと。広告(advertising)と記事(editorial)を合わせてアドバトリ アル(advertorial)とよばれることもある。最近の広告は、生活情報、商品情報を意欲的 に提供するものが多くなったが、そのためによく記事型の広告が利用されている。日本新 聞協会は新聞記事と混同されるおそれがあるので、この種の広告には「広告」とか「PR」 と表示するよう関係者に働きかけている。 ◆コピー(copy)〔広告宣伝〕 印刷媒体の広告では文字の部分、放送媒体の広告ではナレーターやタレントが言葉として 話す部分がコピーである。印刷広告の場合には、 (1)見出し(ヘッド)、 (2)副見出し(サ ブ・ヘッド)、 (3)本文(ボディ・コピーまたはテキスト)、 (4)小説明(キャプション)、 (5)ブラーブ(またはバルーン、登場人物の口から吹き出しのように出ている言葉)、 (6) ボックス(またはパネル)、(7)スローガン、ロゴタイプの諸要素からなる。もっと大ま かに、広告物全体をさして使われることもある。 ◆否定訴求(negative appeal)〔広告宣伝〕 広告商品の特徴・便益点を、マイナスのシーンや状況を描き出しながら訴えること。不安 感や恐れをかきたて、いわんとするところに結びつけるのが否定訴求のねらいだが、あま り暗すぎると逆効果になることもある。この逆が、肯定訴求(positive appeal)である。こ れはこういうプラス、便益があるから魅力的とストレートに訴えるもので、広告では一般 にこの種のアピールが用いられる。 ◆シズル広告(sizzle advertising)〔広告宣伝〕 シズルとは油で揚げたり、熱した鉄板に水を落としたときなどのようなジュージューとか シューシューという音のこと。魅力的な音をたてて、その商品を食べたくさせるような広 告がシズル広告である。その音からの高まる感じがシズル感とよばれる。ステーキを焼く 音、ビールの栓をぬいてグラスに注ぐ音などは、シズル広告、シズル感を説明するうえで の好例である。 ◆3Bの法則〔広告宣伝〕 3Bはビューティ(Beauty 美女)、ベイビィ(Baby 赤ちゃん)、ビースト(Beast 動 物)を意味する。これらの要素は広告の注目率や閲読率を高めやすいから、広告メッセー ジをつくる際は、3Bを考慮することが大切というのが、3Bの法則で、広告制作上有効 とされてきた経験則である。 ◆AIDMA(アイドマ)の原則〔広告宣伝〕 消費者の購買心理過程を表したものといわれ、広告制作での基本原則とされている。Aは 注意(attention)、Iは興味(interest)、Dは欲求(desire)、Mは記憶(memory)、Aは 行為(action)を意味する。 「注意させ、興味を抱かせ、欲しがらせ、心にきざみつけさせ、買わせる」ように意図し た広告制作が、最も有効な広告物を誕生させるということである。AIDCAまたはAI DAの原則ともいわれるが、この場合のCは確信(conviction)を意味する。 ◆5Iのルール〔広告宣伝〕 広告コピーをつくるときのコピー・ライティング・ルールのなかに5Iのルールがある。 広告は、すばらしいアイデア(idea)から出発すること、直接的なインパクト(immediate impact)という観点からつくられていること、メッセージは最初から最後までずっと興味 (incessant interest)をもって見られ読まれるように構成されていること、見込客にとっ ての必要な情報(information)が十分かつうまく盛り込まれていること、衝動を駆り立て る力(impulsion)を備えていることを意味する。 ▲広告調査と方法〔広告宣伝〕 ◆新聞の面別接触率調査(readership survey by newspaper page)〔広告宣伝〕 新聞の面(政治面、経済面、社会面、家庭面、テレビ面など)による読者数の違いを調べ る調査。面によって読者数が違うということは経験的にわかっていたが、実際の接触率で どのくらい違いがあるのかはあまり調査されていなかった。朝日新聞社は 1995(平成7) 年から面別接触率調査を開始し、結果を公表している。これは、広告か記事かは問わず、 特定の面に読者がどの程度接触しているかを明らかにするものであり、「それぞれの面に広 告を掲載した場合、その広告に接触する人々が最大限でどの程度になるかの目安として利 用できるデータ」であると説明されている。調査の方法は、まず調査対象日の新聞そのも のへの接触の有無、その紙面の保有状況と、調査対象面ごとの接触状況をたずねていくも ので、選択肢は「確かに見た、読んだ」「見た、読んだような気がする」「見た、読んだ覚 えはない」の三つである。面別接触率が明らかになれば、広告主はどの面に広告を出稿し たいという希望を強くうちだすことが可能になる。しかし、これまでは、希望面を指定し ても、掲載希望日にその面が利用できるかどうかわからなかっただけでなく、どの面でも 料金は同じという不合理がまかり通っていた。面別接触率調査が行われることによって、 新聞広告の料金体系も合理的なものに変わらざるをえない。 ◆個人視聴率(people rating)〔広告宣伝〕 性別、年齢など属性の明らかになっている個人が、どのようなテレビ視聴をしているかを 明らかにするためのデータ。かつて視聴率調査会社が提供していた視聴率データは、世帯 単位で得られたものが中心であり、世帯視聴率とよばれていた。個人視聴率は、世帯内の 個個人単位での視聴率である。広告主にとっては、想定したターゲットが見てくれる時間 帯や番組にコマーシャルを挿入するためのデータとなる。放送局にとっては、番組編成や 制作のためのデータとなる。 ◆アール・エフ・エム(RFM)(recency, frequency and monetary value)〔広告宣伝〕 「リーセンシィ」は特定の顧客リストに掲載されている人または企業の、最近の購入・問 い合わせ等の行動、「フリークエンシィ」は購入、その他の行動の回数、「マネタリー・バ リュー」は所定の期間(通常 12 カ月)に顧客が支払った金額を意味する。ダイレクト・マ ーケティングやダイレクト・リスポンス広告の効果・効率を高めようとすれば、顧客別の RFMのデータベースがつくられていなければならない。 ◆サーキュレーション(circulation)〔広告宣伝〕 一般に広告媒体の普及の度合いをさす。新聞と雑誌についてはその発行部数もしくは販売 部数を、ラジオ・テレビについてはある時点で使用されているセット数、もしくは一定地 域(聴取・視聴地域)内のラジオあるいはテレビの所有セット数を意味している。また、 屋外広告については、ある特定の屋外広告を見る機会をもっている歩行者、車両利用者の 数をいい、交通広告では広告掲載中の乗客数もしくは各駅の乗降客数をいう。最近、特に アメリカの媒体分析の専門家の間ではサーキュレーション概念を新聞と雑誌だけに限定し、 他の媒体については、オーディエンス(audience 視聴者・聴取者など)概念を用いる傾 向がでているが、これは新聞と雑誌についてのサーキュレーション数字を、定期的に公表 している組織ABC(Audit Bureau of Circulations 発行部数公査機関)の活動に負うと ころが大きいといわれる。 ◆ピープルメーター(PM)(peoplemeter)〔広告宣伝〕 個人視聴率(→別項)を測定するためのメーター。メーターによるテレビ視聴率測定は、 かつては世帯単位で行われていたので「世帯視聴率」といわれていた。これに対して「個 人視聴率」は、当初は、調査対象者に視聴記録をつけてもらう日記式調査であったが、調 査対象者の負担が重く、しかも記録のミスが多くて、集計にも時間がかかるものであった。 日記式にかわって、継続的に個人視聴率が測定でき、すばやく集計が可能な方法として考 えられたのがピープルメーターである。現行のピープルメーターは、調査対象者に自分に 割り当てられたボタンを押してもらうという負担を強いるものであり、積極的な協力が必 要なのでアクティブ式といわれている。これに対して、だれがテレビ視聴をしているかを メーターが自動的に識別する、調査対象者はまったく何もしなくていいというメーターを フルパッシブ・ピープルメーター(→別項)といい、開発が期待されている。日本でのピ ープルメーターを使った調査は、エーシー・ニールセンが 1994(平成6)年から開始した が、同社は 2000 年3月をもって日本でのテレビ視聴率調査から撤退した。ビデオリサーチ は 97 年4月から関東地区、01 年4月から関西地区でピープルメーターを利用した調査を行 っている。 ◆フルパッシブ・ピープルメーター(full passive peoplemeter)〔広告宣伝〕 個人視聴率(→別項)を測定するピープルメーターで、調査対象者側がまったく何もしな いでもよい仕組みをもっているもの。フルパッシブとは、完全に受動的な状態、何もしな い状態という意味。現行のピープルメーター(→別項)は、調査対象者が自分を識別する ボタンを押すことが前提で、その煩わしさが巻き起こす問題が多い。例えば、機械に弱い 人や、調査に協力する責任感に欠ける人は、実際にテレビを見ていてもボタンを押し忘れ、 個人が特定できないことがある。また、煩わしい調査だということで、調査協力の受諾率 が下がり、結果的に視聴率にバイアスがかかるおそれもある。自動的にだれがテレビを見 ているかを判断してくれるメーターができれば、この種の問題は解決するはずである。フ ルパッシブ・ピープルメーターはまだ実用化されていないが、事前に家族の顔を登録して おき、メーターに付いている小型カメラ付きコンピュータでだれが見ているのかを判断す るというような方式である。 ◆コスト・パー・サウザンド(CPT)(Cost Per Thousand)〔広告宣伝〕 広告が到達したオーディエンスの人数 1000 人当たりの媒体料金。CPM(Cost per Mil) ということもある。広告に使用する媒体の経費効率を比較するための指標として一般に利 用される。 CPT=広告料金/到達読者(視聴者) 1000 ◆CPR(Cost Per Response)〔広告宣伝〕 広告によって引き出した一反応(リスポンス)当たりのコスト。媒体料金を読者、視聴者 からのリスポンスの回数で割ることで得られる。リスポンスとは、実際の商品注文だけで なく、問い合わせ、資料の請求、セールスマンの訪問の要求などを意味する。1注文当た りのコストであればCPO(Cost Per Order)ということもできる。 ◆リーチ(reach)〔広告宣伝〕 特定の広告物を媒体に出稿した結果、ターゲットの中で最低1回でもその広告物に接触し た人の割合を示す。到達率ともいう。テレビコマーシャルを例にとると、普通は同一のコ マーシャルが何回も放送されることになるが、コマーシャルに接触した回数は関係なく、 最低1回は接触していればリーチがあったと考える。広告キャンペーンでは、さまざまな 媒体をミックスして使い、ターゲットに効率的に到達しようと考えるので、1種類の媒体 だけでなく、複数の媒体を使った結果のリーチを考えることも重要である。 ◆フリクエンシー(frequency)〔広告宣伝〕 特定の広告物を媒体に複数回放送、あるいは掲載したとき、それに接触したひと1人当た りの平均的な接触回数をいう。頻度ともいう。正確には、アベレージ・フリクエンシー(平 均視聴頻度)。計算上では、GRP(→別項)をリーチで割ることで求められる。 ◆GRP(Gross Rating Point)〔広告宣伝〕 特定の広告キャンペーンで、広告主が特定の媒体を利用して得たターゲットのリーチの総 和。テレビの場合なら、延べ視聴率、ラジオなら延べ聴取率とよばれる。テレビの場合、 あるコマーシャルを複数回放送したときの視聴率の総和。かりにあるコマーシャルを5回 放送したとして、それぞれの視聴率が 10%、15%、15%、20%、25%だったとすれば、こ の間のGRPは 85%(85GRPともいう)となる。理論的にはGRPは無限大に大きくす ることが可能で、GRPが大きくなればなるほどリーチは 100%に近づき、フリクエンシー も高くなる。 GRPは電波媒体以外にも使われ、その場合には延べ到達率とよばれる。 ◆フォーカス・グループ法(focus group method)〔広告宣伝〕 広告の事前テスト法のひとつで、企業がねらう見込み標的市場から 10∼20 名内外をしぼり、 抽出し、この人たちをひとつのグループにし、テストすべき特定のトピックについて討議 させる。訓練を受けた有能な面接調査員が、テスト資料とか資材をこの人たちに上手に提 示するとともに、グループのディスカッションをうまくガイドする。ディスカッションは、 一般にテープにおさめられ、この会合終了後、調査員がこの話し合いを分析し内容や合意 点をまとめあげる。グループ・インタビューともよばれる。 ●キーワード〔広告宣伝〕 ●環境広告(environmental advertising)〔広告宣伝〕 製品やサービスがいかに環境保全に配慮しているか、企業が環境保全にどのように取り組 んでいるかを示す広告を環境広告という。消費者の地球環境問題への関心の高まりによっ て、製品の製造工程、使用中、使用後の廃棄やリサイクルに至るまで、企業が環境保全に どのように対処しているかが問われるようになっている。従来から、環境をテーマにした 広告は存在していたが、「地球にやさしい」「環境に安全」というようなあいまいな表現が 根拠なく使われることもあり、消費者の誤認をまねくおそれがあるといわれていた。 国際標準化機構(ISO)は、広告も含めた環境ラベルに、正確かつ検証可能で、誤解を 生じさせないこと、科学的実証方法による根拠があり、何度実験しても同じ結果が出るこ となど九つの一般原則(ISO14020)を提示している。また、第三者機関が環境保全に関 する基準を設定し、その基準を満たした製品やサービスに所定のマーク等の使用を認める 場合(環境ラベル・タイプI、ISO14024)、製品やサービスの環境保全についての配慮 を事業者自身が宣言する場合(同・タイプ II、ISO14021)、事前に設定された指標で定 量的環境情報を表示する場合(同・タイプ III、ISO14025)とラベリングの分類をして いる。 タイプIは、日本ではエコマーク、Rマーク(再生紙使用マーク)などがある。ISO14000 シリーズは日本工業規格(JIS)でもすでに制度化されている。 ●モバイル広告(mobile advertising)〔広告宣伝〕 携帯電話、PDAなど移動通信端末向けに配信される広告。NTTドコモが 1999(平成 11) 年にiモードのサービスを開始してから、J‐フォンのJスカイ、au/ツーカーのEZ ウェブなども含めて、ブラウザ付き携帯電話からインターネットに接続するユーザーが急 激に増加した。このようなユーザーをねらって、携帯電話用の検索サイトなどにモバイル 広告が掲載されており、モバイル広告はこの種の広告をさすことが多い。 インターネット広告同様、バナー広告、テキスト広告、電子メール広告などが可能である。 ディスプレイに表示されたクーポンを店頭で見せるだけで割引が受けられるというような プロモーションにも使われている。 将来は、携帯電話の位置確認システムを使って、特定の時間帯に特定のエリアにいる携帯 電話ユーザーにだけ広告を配信するというような使い方も可能になる。2001 年8月現在で iモードの加入者は約 2689 万人、EZウェブは約 820 万人、Jスカイは約 790 万人、合 わせて 4000 万人以上がモバイル広告にアクセス可能である。 ●医療機関の広告規制緩和(deregulation of hospital advertising)〔広告宣伝〕 厚生労働省は、医療機関が自ら行うインターネットによる情報提供は、広告には当たらな いとして規制の対象としていないが、医療機関、医業に関する広告は、現在でも原則禁止 である。その理由として、(1)医療は人の生命・身体に関わるサービスであり、不当な広 告により見る側が誘引され、不適当なサービスを受けた場合の被害は、他の分野に比べ著 しいこと、(2)医療はきわめて専門性の高いサービスであり、広告の受け手はその文言か ら提供される実際のサービスの質について事前に判断することが非常に困難であることが あげられている。 2001(平成 13)年3月に施行された改正医療法および厚生労働省告示では、医業等の広告 規制緩和が話題になっている。広告の原則禁止は変わらないが、「事実や客観的な情報とし て個別に定められた事項」についての広告は認められ、広告できる事項が従来より広がっ た。代表的なものとして、 「診療録(カルテ)の開示実施」 「医師、歯科医師の略歴、年齢、 性別」「手話、点字を含む対応可能な言語」「費用の支払い方法(使用可能なクレジットカ ードなど)または領収」などが新たに定められた。虚偽広告、誇大広告の禁止は当然であ るが、比較広告の利用も禁止されている。 ●弁護士広告の規制緩和(deregulation of lawyer advertising)〔広告宣伝〕 従来、弁護士の業務広告は、 「日本弁護士連合会則」 「弁護士の業務の広告に関する規定」 「弁 護士の業務の広告に関する規則」で規制されていた。ところが、弁護士広告規制の根拠は、 必ずしも合理的なものとはいえなかった。大多数の弁護士の認識においては、顧客を強力 に誘引する手段へのニーズがなかったこと、しかも、弁護士という職業はプロフェッショ ンであって、ビジネスではなく、商業化に身を任せるべきではないという感覚があったと いわれる。一般市民向けの情報はほとんどなく、いざ弁護士に仕事を依頼するということ になったとき、何を基準に弁護士を選んでいいかほとんどわからないというのが現状だっ た。 近年、弁護士を市民に身近で利用しやすいものにしようという動きが出はじめ、2000(平 成 13)年3月に広告関連規定が改訂され、10 月1日に施行された。これによって、弁護士 広告は原則自由、例外禁止となった。 例外的に禁止される広告は、(1)客観的事実に合致していない広告、(2)誤導・誤認の おそれのある広告、(3)誇大または過度な期待を抱かせる広告、(4)特定の弁護士また は法律事務所と比較した広告、(5)法令、会則等に違反する広告、(6)弁護士の品位ま たは信頼を損なうおそれのある広告であり、表示できない事項としては、 (1)勝訴率、 (2) 顧問先・依頼者名、(3)受任中の事件、(4)過去の関与事件があげられている。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 2002 年版] ジャーナリズム〔情報・メディア〕 ▽執筆者〔ジャーナリズム〕 浅野健一(あさの・けんいち) 同志社大学教授 1948 年香川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。共同通信社社会部・外信部・ジャカル タ支局長などを経て、同志社大学文学部教授。著書は『犯罪報道の犯罪』『マスコミ報道の 犯罪』『天皇の記者たち』『松本サリン事件報道の罪と罰』など。 ◎解説のフォーカス〔ジャーナリズム〕 日本の社会と、機能していないジャーナリズム ●小泉純一郎という政治家はあの森前首相を森派会長として支え続けた旧体制の主流派で ある。その人が改革、変革をさけんで人気を集めている。憲法違反の 8.13 靖国参拝の後も、 80%台の支持率を維持している。なぜこんなに人気があるのか。日本のジャーナリズムが まったく機能していないからだ。憲法改正をとなえ、精神医療ユーザーを「精神異常者」 とよんだり、同時多発テロを受けてアメリカの「戦争」支援を明言、自衛隊の公然たる軍 隊化を公言しても、それを垂れ流すだけで、彼のもつ危険な体質をほとんど伝えない。 ●靖国神社への参拝後は「首相番記者」に囲まれての「ブラ下がり」取材だけだった。内 閣記者会は会見を要求もしなかった。 ●石原都知事が8月 15 日に靖国参拝後、報道陣から公的か私的かについて聞かれた際、 「く だらないことを聞くな」とすごんだが、「くだらない質問とは何ごとか」と言い返す記者も いない。 ●不況と失業者・自殺者の急増などの社会不安が強まる一方で、侵略戦争を肯定する歴史 教科書が一部で採択されるなどのネオ・ファシズム化が進むこの国で、権力監視機能を失 ったメディアの迷走が続いている。 ▲2001 年のトピックス〔ジャーナリズム〕 ◆集団取材の報道被害(Media group victims)〔ジャーナリズム〕 大きな事件・事故が起きると数百人の報道陣が現場に押し掛けて、被害者・被疑者個人や 地域全体への集中豪雨的な取材で住民の平穏な生活を破壊する報道被害。特に新聞・雑誌 とテレビのカメラによる市民にまとわりつくような執拗な取材が原因。1社ごとの対応で は防ぐことが困難。神戸連続児童殺傷事件、高知・脳死臓器移植、和歌山毒物カレー事件、 西鉄バス乗っ取り事件、アメリカ原潜「えひめ丸」事故などで社会問題化。京都・小学生 刺殺事件では、人権と報道・関西の会が 2001(平成 13)年1月『マスコミがやってきた! 取材・報道被害から子ども・地域を守る』(現代人文社)を出版し、住民代表の「犯人より マスコミのほうが怖かった」という体験を通して、学校、保護者、住民が報道陣にどう対 応したかを記録した。 ◆仙台「筋弛緩剤事件」報道〔ジャーナリズム〕 仙台の「筋弛緩剤事件」で 2001(平成 13)年1月6日に逮捕された守大助氏に対し、当初、 10 人を超す患者の死に関与したかのような大報道があった。しかし守氏が冤罪を訴えてい ることが1月 18 日に明らかになり、月刊『現代』『週刊ポスト』などの雑誌と一部テレビ 局が冤罪疑惑という視点で報道。守氏は阿部泰雄弁護士と共著で「僕はやってない!」(明 石書店)を7月 11 日の初公判前に出版。これに対して田島泰彦上智大教授は「ワンサイド に立つのはいけない。弁護側の筋書きに乗って踊らされてはまずい」(7月 17 日の毎日新 聞)と非難したが、捜査段階から被疑者の言い分が社会に伝わったのは画期的だった。 ◆沖縄アメリカ兵強かん事件報道(Okinawa Alleged US Airman Rape Case Coverage)〔ジ ャーナリズム〕 2001(平成 13)年6月 29 日に沖縄本島でアメリカ兵強かん被疑事件が起きた。アメリカ 政府は7月2日に逮捕状の出た空軍軍曹に関し、日本への引き渡しの条件として、(1)被 疑者に対する人道的な取扱い、(2)取調べ中の通訳と弁護士の立会い、(3)取調べの時 間的な制限を求めたため、交渉が長引き4日後に逮捕になった。アメリカのメディアは日 本の司法制度の遅れを指摘。朝日新聞ニューヨーク支局の山中季広記者が、アメリカ・メ ディアが日本の警察の厳しさを誇張したとする記事を書くなど、アメリカの主張を「とん でもない筋違いの要求」とみる世論が生まれた。 また田中眞紀子外相が「被害者に落ち度がある」と発言した。写真週刊誌『FRIDAY』 記者が被害者の職場に押し掛けて面会を強要、沖縄県弁護士会会長が「節度ある取材」を 求める声明を出した。『週刊新潮』は3回にわたって被害者の当日の行動を職業、年齢、家 族関係などとともに伝え、弁護士会から警告を受けた。アメリカ誌『タイム』、アメリカ軍 紙「星条旗」なども、被害者のプライバシーを侵害し、軍曹が起訴されたのは日本に黒人 への人種差別があるからだなどという荒唐無稽な記事を載せた。 ◆マリナーズの取材拒否(Mariners Rejection of Japanese Press)〔ジャーナリズム〕 アメリカ大リーグのマリナーズは 2001(平成 13)年7月 12 日、日本の報道機関を対象に、 イチロー外野手と佐々木主浩投手への取材を当面、禁止すると発表した。日本の写真週刊 誌が7月7日夜に両選手の球場外での姿を撮影し「プライバシーを侵害した」というのが 理由。結局は、7月 16 日に解除された。日本のメディアの取材・報道が「グローバル」化 する過程で、日本マスコミの常識が国際的には通用しなくなってきた。 ◆えひめ丸事故報道〔ジャーナリズム〕 ハワイ沖でアメリカ原潜に衝突されて沈没した愛媛県立宇和島水産高校の「えひめ丸」実 習生の父親が 2001(平成 13)年2月 18 日、宇和島で記者会見し、 「私は芸能人でも有名人 でもない。カメラやフラッシュが、どんなにストレスになるか分からないのだろうか。こ れは家族全員の気持ちだ」と述べた。 事故で鎖骨を骨折し、帰国した機関員の1人は、松山空港に着いた際、報道陣に揉まれて 報道機関の機材が当たり、負傷が悪化した。 朝日新聞学芸部の寺田憲二記者は、5月2日付の紙面で、実弟の長男がこの事故で行方不 明になり現地でマスコミの対応役を買って出た経験から、「報道される側になって、家族の 心情をふみにじるような質問攻めに、悲しみと怒りと恐怖の記憶が焼き付いてしまった」 と書いた。また妻に「あなたは、あんなことをして私たちを養ってきたの」と言われたと いうエピソードを紹介し、代表取材の導入や「大事件のときの社会面」の作り方を再考す るよう提案した。 ◆皇太子妃「懐妊の兆し」報道〔ジャーナリズム〕 宮内庁は 2001(平成 13)年4月 16 日、皇太子妃に懐妊の兆候があると発表。 「正式発表ま でには至っていない。静かに見守ってほしい」と要請。マスコミは「男児が生まれれば皇 太子に次いで皇位継承順位第2位」と大大的に報じた。 朝日新聞は 1999 年 12 月 10 日、今回と同様に朝刊トップで、皇太子妃「ご懐妊の兆し」を 報じたが、宮内庁は同 30 日に流産と発表し、朝日の報道を批判した。 ◆日本テレビの取材・放送規範〔ジャーナリズム〕 日本テレビは 2001(平成 13)年6月 25 日、 「犯罪被害者の取材、報道に関する当面のガイ ドライン」を発表した。大阪教育大学付属池田小学校児童殺傷事件での児童に対するイン タビューに批判があったため。「ことさらに悲しみを引き出すための心ない安易なインタビ ューはしない」「顔の露出の必要性を慎重に検討し、ナレーションへの差し替えも行う」な どと決めている。また報道・情報番組担当者が携行する「日本テレビ取材・放送規範」を 作成。氏家斉一郎社長は「被害者への配慮は報道というより人間としての問題で、日本民 間放送連盟の場でも議論を起こしたい」と述べた。 ◆社民CM放送拒否〔ジャーナリズム〕 社民党が 2001(平成 13)年7月の参院選用に制作したCMに、 「本当に怖いことは、最初、 人気者の顔をしてやってくる」というセリフが、「他党を誹謗中傷する」とキー局、準キー 局すべてで、オンエアを拒否された。問題になった部分を、「小泉総理が、いくら人気者で も、憲法9条は変えさせない」と変更して放送された。放送拒否は自民党への「配慮」と みられる。 ◆自民党報道番組検証委員会〔ジャーナリズム〕 自民党がテレビ報道において自民批判がいきすぎだとして 2001(平成 13)年4月9日に設 置。党本部で専従職員が番組をチェックするほか、全国 2000 人によるテレビモニター制度 を発足させた。同年2月には放送法改正などの制度的規制を検討する放送活性化検討委員 会を設置。4月の総裁選や7月の参議院選を前に自民批判を監視、けん制しようという意 図だった。ところが自民党総裁選でテレビが小泉人気を演出。両委員会とも、小泉政権発 足後は休眠状態に。「いまの内閣はマスコミと仲良くやって誕生した。マスコミのご機嫌を 損ねたくないってことでしょう」(前副幹事長が7月7日の朝日新聞にコメント)というこ とらしい。 ◆新聞社の「第三者」機関〔ジャーナリズム〕 毎日新聞が 2000(平成 12)年 10 月 14 日に「『開かれた新聞』委員会」を設置。01 年元日、 朝日新聞も「報道と人権委員会」を創設するなど計 20 社がつくった。名称はさまざまで、 組織形態も活動内容も異なる。各社がこれまでもっていた記事審査室(64 社にある)や読 者広報室の延長線上の新組織としての「第三者」機関。毎日新聞、新聞労連と一部研究者 は「日本の独自のオンブズマン」「社内オンブズマン制度」(社内オンブズマンは誤訳で社 別オンブズマンとすべき)などと誤って評価し、報道評議会を「理想論」でいますぐには 困難と位置づけている。 各新聞社がその新聞に「理解がある有識者」を選んでいるから、被害者が安心して訴える ことはできない。報道被害の当事者からの苦情申立てがほとんどないことから明らかなよ うに、「報道被害救済」などの看板を掲げただけで、国際的な基準を満たした報道評議会や オンブズマンとは無縁の、各新聞社の苦情処理機関にすぎない。 ◆脱・記者クラブ宣言〔ジャーナリズム〕 長野県の田中康夫知事は 2001(平成 13)年5月 15 日、「『脱・記者クラブ』宣言」を発表 し、県庁内にある三つの記者クラブに対して、6月末までに退去を命じた。田中知事は宣 言で、クラブに部屋をタダで提供しているうえに、クラブの世話をするための職員の人件 費、光熱水費などが、年 1500 万円分の便宜供与に相当するとし、「見直されなければなら ない」と断じた。都道府県レベルでの記者クラブ廃止は初めて。 田中知事は、クラブの代りに「表現道場」と名付けたプレスセンターが正式に開設される までの間は、県庁本館5階の会議室を「仮設表現道場」とした。 上智大学の田島泰彦教授は、長野県の会見が一般市民を含めたすべての「表現者」に開か れる点について、「メディアやジャーナリストと一般市民とを『素朴な平等論』で同じ扱い にしていいのか」 (7月1日付の「新聞労連」機関紙)と指摘した。大マスコミと「表現者」 を区別する発想は誤っている。 ◆東京都の幻の記者室使用料徴収〔ジャーナリズム〕 東京都は 2001(平成 13)年6月8日、「報道機関とはいえ特定の企業に無償で便宜供与を 行うことは不公平」との指摘があるとして、使用は許可したうえで 10 月1日から、都庁内 の記者室を利用する報道機関各社に使用料の徴収をすると通告した。これが実行されれば、 全国の記者クラブは大混乱に陥り大改革を迫られたはずだ。 しかし、石原慎太郎知事は7月 13 日の記者会見で、この通告を白紙撤回すると表明した。 知事は各社あての通告文書について「私はいっさい、目を通していない。(徴収は)私はも ともと賛成じゃない。これはなかったものにして、新しい記者クラブの形を都からつくっ ていこうと思っている」と話した。都庁には記者クラブが二つあり、23 社が所属している。 石原知事の有言不実行は市民への裏切りである。 ◆森前首相「買春」訴訟判決〔ジャーナリズム〕 森喜朗前首相が早大在学中の 1958(昭和 33)年、東京都売春等取締条例(当時)違反の疑 いで検挙されたなどと報じた月刊誌『噂(うわさ)の真相』記事をめぐる訴訟で、東京地 裁の信濃孝一裁判長は 2001(平成 13)年4月 24 日、 「検挙歴についての真偽は判断できな い」としたうえで、他の記事部分での名誉棄損を認めて噂の真相側に 300 万円の支払いを 命じる判決を言い渡した。しかし、検挙歴については、首相側が前歴を否定する証拠をい っさい出さなかったことについて、「事実無根を主張した者の訴訟態度としては不可解」と 述べ、月刊誌には賠償責任はないと判断した。訴訟の過程で、地裁は森首相の検挙歴の有 無を調べるよう警視庁に嘱託したが、警視庁は「調査に応じられない」と回答していた。 ◆NHK「慰安婦」番組改変で訴訟〔ジャーナリズム〕 「NHK教育テレビETV2001『シリーズ 戦争をどう裁くか』第2回『問われる戦時性 暴力』」(2001(平成 13)年1月 30 日放映)。 日本軍慰安婦を取り上げた番組で、00 年 12 月に開かれた女性国際戦犯法廷が昭和天皇を 「有罪」と認定したことや、元日本軍兵士の証言などが放送直前にカットされ、歴史修正 主義者のインタビューが急きょ挿入された。右翼の圧力が背景にあった。法廷を主催した 「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」が、「事前の企画と大きく異なる番組を放映 したのは信義則違反だ」と7月 24 日に 2000 万円の損害賠償を求め提訴。同法廷の国際実 行委員会も同日、放送と人権等権利に関する委員会(BRC)へ、正確に伝える番組や謝 罪放送を求める申立書を提出したが却下された。 ◆NHKに訂正放送命令〔ジャーナリズム〕 NHK総合テレビ「生活ほっとモーニング」の「妻からの離縁状」 (1996(平成8)年6月 8日放送)で、別れた夫の言い分だけを離婚の経緯として放映されたとして、元妻が損害 賠償などを求めてNHKを提訴。2001(平成 13)年7月 18 日、東京高裁は訂正放送と 130 万円の支払いを命じた。 「元夫から元妻に反対取材すれば、出演を拒否すると言われたため、 女性から取材をしなかった」と指摘した。訂正放送を命じた判決は初めて。NHKは上告。 このほか、「プロジェクトX 父と子 執念燃ゆ 大辞典」(01 年6月 19 日)の番組では、 広辞苑が完成する前に、その前身となる辞典があったことを無視していると出版社が抗議。 同じ「プロジェクトX 白神山地 マタギの森の総力戦」(01 年7月 10 日)でも、取材に 協力した青森県側の自然保護団体の元幹部らが7月 23 日「事実を歪めている」と抗議する などトラブルが相次いだ。 ◆バトル・ロワイアル〔ジャーナリズム〕 中学生が殺し合う過激な映像が話題をよんだ「バトル・ロワイアル」 (東映、深作欣二監督) は、業界の自主規制機関・映倫管理委員会は「R‐15」(15 歳未満お断り)に指定したが、 少年犯罪問題に関係して 2000(平成 12)年末の国会で議論された。映画を観た市民からは ほとんど問題視されなかったが、自民党がすすめる「青少年社会環境対策基本法案」に影 響した。 ◆アメリカ同時多発テロ報道〔ジャーナリズム〕 2001 年9月 11 日のアメリカ同時多発テロ事件は、日本のテレビでは夜のニュース時間帯 だったため、衝撃の瞬間の映像を繰り返し放送した。2機目の旅客機が世界貿易センター ビルに突入して火の手が上がる瞬間は生中継された。アメリカでは報復感情をぶつける報 道がめだった。日本の新聞、テレビにも「報復」「日本も参戦」など平和憲法無視の見出し がおどった。この機に自衛隊を公然と軍隊化する危険な動きをチェックする姿勢も少なか った。主要新聞はアメリカのアフガン空爆に反対せず、憲法を無視したテロ対策特別措置 法成立に加担した。 アメリカ・ABCテレビは9月 18 日、激突した瞬間の動画映像を今後、特別の場合を除い て使用しないことを決定。「子どもが恐怖心をもって夜眠れなくなった」など、視聴者から の批判があったため。日本のTBSも扱いを慎重にした。ブッシュ政権のミサイル防衛、 京都議定書離脱、人種差別撤廃会議でのイスラエル非難に抗議しての退場などアメリカの 「単独行動主義」が批判されていたのに、なぜアメリカがねらわれたかの原因を冷静に追 究する報道が少なかった。 ◆自衛隊法「改正」で「防衛秘密」新設〔ジャーナリズム〕 政府がテロ対策特別措置法案とともに国会に提出した自衛隊法改正案は広範な「防衛秘密」 を指定し、その漏えいや教唆について、自衛隊員だけでなく、政治家、国家公務員、防衛 関連企業従事者、報道記者らも処罰の対象とする。1985(昭和 60)年に自民党が議員提案 したが、廃案になった「国家秘密法案」の内容の一部も入った。憲法で保障された「言論 の自由」を無視した法案といえる。直接の取り締まりの対象は、防衛関連の国家公務員や 関連省庁の長、防衛秘密に関連する製造、役務提供の民間企業従事者らになる。秘密漏え いは5年以下の懲役。また、ジャーナリストも対象に含み得る「教唆」などの罰則を、3 年以下の懲役としている。 ◆東京・歌舞伎町ビル火災報道〔ジャーナリズム〕 2001(平成 13)年9月1日未明、東京・歌舞伎町で起きた雑居ビル火災は、44 人の死者を 出した。死者の多くはとばく営業していた麻雀ゲーム店と、 過激なサービス の飲食店に いた。遺族が姓名、顔写真の報道を望まないのは明らかだった。しかし、テレビ各局は実 名を放送、顔写真も数枚使った。読売新聞を除く主要新聞は実名を掲載。日経新聞は住所 を伏せた。読売は、1日付夕刊で一部実名を報道したものの、2日以降は取りやめた。顔 写真は朝日が 12 枚(2、3日付朝刊)、産経新聞は5枚を掲載した。 浜田純一東大大学院教授のように「顔写真は人生を伝える。一生を終えるとき、新聞に匿 名でしか出なかったというのはむしろ情けない」(9月 23 日の朝日新聞)という見解があ るが、外国メディアでは被害者の姓名は「当事者もしくは直近の家族がコントロールでき る」というのが常識。発生直後は、「お心当たりの方はフリーダイヤルへ」という報道だっ た。それで十分だった。 ◆名誉毀損賠償の高額化〔ジャーナリズム〕 数十万円が相場といわれてきた名誉棄損やプライバシー侵害訴訟で 2001(平成 13)年3月 以降、高額の賠償を命じる判決が相次いだ。東京高裁は3月、巨人の清原和博選手が『週 刊ポスト』を発行する小学館を相手にした訴訟で 1000 万円。7月には「近所とトラブルを 起こした」と報じられた大原麗子氏の訴えで、東京高裁は1審どおり、光文社に 500 万円 の支払いを命令。大原氏が控訴していなかったため認定額は変わらなかったが、「慰謝料額 は 1000 万円を下回るものではない」と述べた。東京地裁は同月、野中広務自民党幹事長(当 時)が「政敵にスキャンダルを仕掛けた」などとする記事を載せた『日刊ゲンダイ』に 500 万円の支払いを命じた。また、東京地裁は9月、テレビ局アナウンサーが学生時代に風俗 店に勤務していたと書いた『週刊現代』『フライデー』(講談社)に 770 万円を賠償するよ う命じた。 賠償額の上昇でメディア側の自浄努力が促される一方で、本来自由であるべき公人への批 判が委縮する危険性もある。私人には高額の賠償があるべきだ。 ▲報道をめぐる事例〔ジャーナリズム〕 ◆「NHK爆弾漁法でやらせ」訟訴〔ジャーナリズム〕 月刊『現代』 (講談社)2000(平成 12)年 10 月号は、NHKジャカルタ支局のインドネシ ア人元助手らが「前支局長の坂本務(つとむ)氏が、1997 年8月 24 日、スラウェシ島マ カッサル近くの島で、『爆弾漁法』の常習犯である漁師に、事前に現金を渡す約束をしたう えで、爆弾を海に投げさせ、浮いてきた魚を獲るシーンを撮影した」と告発していると報 じた。映像は 97 年8月 29 日の総合テレビ「ニュース 11」と9月6日の「BS1」で放映 された。記事は、カメラ助手、ガイド役の大学職員、爆弾を投げた漁師らの証言をもとに 「やらせ」と断定した。 NHKと坂本氏は9月4日(発売日前日)、「虚偽の報道で名誉を傷つけられた」として講 談社などを相手どり、総額1億 2000 万円の損害賠償と謝罪広告を求める損害賠償訴訟を東 京地裁に起こした。NHKが名誉棄損で提訴したのは初めて。01 年9月までに7回の口頭 弁論が開かれた。NHKは放送済みのビデオを提出した。 「ニュース 11」では、爆弾を投げ た漁師が残りの爆弾をポリタンク(燃料タンクにカモフラージュ)にしまうシーンがアッ プで写っている。遠くからさっと撮影したというNHKの主張が崩れた。講談社は元助手 が持っている未編集テープのコピーを提出。これに対し、NHK側は「オリジナル・ビデ オ・テープは、当初、原告日本放送協会のジャカルタ事務所に保管されていたものである が、現在所在不明である(本件記事が掲載されたころ、捜索したが、発見できなかった)」 と述べた。ガイド役の大学職員は、爆弾投てきがNHKのためで、金銭授受があったこと を認めている。 ◆和歌山カレー事件報道〔ジャーナリズム〕 マスメディアは 1998(平成 10)年7月 25 日に和歌山市園部地区の夏祭り会場で起きた毒 物混入カレー事件を大きく報道した。「朝日新聞」が8月 25 日に、地区内の男性がヒ素中 毒症状を起こしており、 「民家の住人」に保険金疑惑があると報道。40 日間にわたって民家 を報道陣が包囲した。夫妻が 10 月4日に別件逮捕された際には 500 人を超す報道陣が殺到。 妻がカレー事件で逮捕されたのは 12 月9日(4回目の逮捕)だった。 裁判報道も検察側の主張を大きく伝えており、フェアとはいえない。和歌山地裁は 2000 年 10 月、夫に懲役6年(求刑8年)の判決を言い渡し確定した。 ◆所沢ダイオキシン報道〔ジャーナリズム〕 1999(平成 11)年2月1日のテレビ朝日「ニュースステーション」で、「所沢ダイオキシ ン 農作物は安全か」と題した特集で、民間の環境総合研究所のデータとして、所沢産ホ ウレンソウなど野菜のダイオキシン濃度を「1グラム当たり 0.64∼3.80 ピコグラム(ピコ は1兆分の1)」と報道した。久米宏キャスターが同研究所所長とのやりとりで、「葉っぱ もの」を「ホウレンソウ」など「葉もの野菜」と受け取られるように繰り返し表現した。 久米氏は番組で謝罪訂正した。 所沢市の農家ら 376 人が 99 年9月、テレビ朝日などに謝罪放送と約2億円の損害賠償を求 めた訴訟で、さいたま地裁は5月 15 日、「報道は主要部分で真実」と認定し、農家側の訴 えを棄却した。農家 41 人が東京高裁に控訴した。 ◆脳死臓器移植報道〔ジャーナリズム〕 脳死臓器移植法が施行されて初めての脳死移植が 1999(平成 11)年2月 28 日、高知赤十 字病院で行われた。その後、17 例の脳死判定があった。脳死移植手術は 16 例。 1例目の第1報は、NHKが2月 25 日、 「ニュース7」で「高知県の 44 歳の女性に、臓器 提供を前提とした脳死判定へ」と報道。病院にメディアが殺到、死を待つかのような報道 が展開された。28 日午前、脳死と判定。 厚生省(現厚生労働省)の臓器移植専門委員会は 99 年3月から、メディア論などの臨時委 員3人を増員。2000 年3月にはリアルタイムの取材・報道を抑制するためにも、移植のプ ロセスを検証する機関が設置されたが 01 年6月に簡素化された。 ◆ロス疑惑報道〔ジャーナリズム〕 1984(昭和 59)年1月から『週刊文春』が長期連載した「疑惑の銃弾」で始まった三浦和 義元貿易会社社長に対する人権侵害報道。三浦氏は 81 年 11 月 18 日、ロサンゼルスで妻K さんの写真を撮っていたとき3人組の強盗に襲われた。Kさんが頭部を撃たれ、三浦氏も 脚を撃たれた。Kさんは日本の病院で1年後に死亡。『週刊文春』は、三浦氏に対し、保険 金を目当てに妻の殺害を計画、友人O氏に銃撃させたと糾問。警視庁も動き、85 年9月、 ロスのホテルで 81 年8月、元女優にKさんの頭をハンマーで殴らせたとする殴打事件で三 浦氏と元女優を逮捕。88 年 10 月にはロス銃撃事件で三浦氏と、実行犯としてO氏を逮捕し た。 銃撃事件で東京地裁(松本昭徳裁判長)は 94(平成6)年3月 31 日、三浦氏に無期懲役を 言い渡した。O氏を無罪とし、 「氏名不詳者による銃撃」という論理で三浦氏を有罪にした。 98 年7月1日、東京高裁(秋山規雄裁判長)は逆転無罪判決を出し、三浦氏は釈放された。 検察は最高裁に上告した。O氏については上告せず、無罪が確定した。 三浦氏による 487 件にのぼる対メディア民事訴訟で、時効分を除けば約 80%勝訴している。 ◆神戸少年殺傷事件報道〔ジャーナリズム〕 1997(平成9)年、神戸の小学生殺傷事件で殺人・死体遺棄容疑で逮捕された中学3年生 Aの顔写真を雑誌『フォーカス』(新潮社)が掲載し論議をよんだ。駅売店やコンビニエン スストア各社が同誌の販売中止を決定し、車内の吊り広告を断る鉄道会社がでた。また、 東京法務局は、少年法に関連して新潮社に事情聴取を申し入れた。98 年、 『文藝春秋』7月 号が少年の検事調書7通を掲載。最高裁は少年法に違反していると抗議、東京の営団地下 鉄などは販売を自粛。一部の図書館は閲読禁止に。被害者の父親とA少年の両親がそれぞ れ単行本を出版。被害者の父親が起こした損害賠償請求訴訟で、神戸地裁は 99 年3月、1 億 400 万円の支払いを命じた。 兵庫県警捜査官が犯行声明文の筆跡鑑定について、虚偽の事実を少年に伝えて自白させた として 98 年 10 月に告発されている。 ▲報道と人権〔ジャーナリズム〕 ◆匿名報道主義〔ジャーナリズム〕 犯罪報道における人権侵害を減らすため、書かれる側の不利益を意識し、名誉・プライバ シーを侵害しないように一般刑事事件の被疑者・被告人と被害者の「実名報道」をやめ、 匿名を原則とすること。犯罪を個人だけに還元せず、社会全体の問題としてとらえようと いう立場をとる。浅野健一がスウェーデンの犯罪報道における人権重視について報告した (『犯罪報道の犯罪』1984 年)のなかで提唱した。スウェーデンでは、74 年報道倫理綱領 に「一般市民の関心と利益の重要性が明白に存在しているとみなされる場合のほかは、姓 名の報道は控える」 (15 条)と定めている。公人、準公人による職務上の犯罪、疑惑は顕名 報道する。日本は未成年者と精神医療ユーザーを除き、逮捕・強制捜査という当局のアク ションを実名の根拠とする「実名報道主義」をとっている。 ◆被害者のプライバシー〔ジャーナリズム〕 事件・事故の被害者だからといって、実名報道がいつも許されるわけではない。犯罪の内 容や被害者の姓名に重要な意味のある場合を除いて、個人名を特定して報道する意味はな い。 ◆被害者の実名報道に批判〔ジャーナリズム〕 1995(平成7)年 12 月のつくば妻子殺人事件、97 年4月の東京・渋谷の会社社員殺人事 件、99 年 10 月の埼玉県桶川市の大学生刺殺事件などのように、殺人事件で女性が被害者に なると、被害者の住所、姓名、学校名、学年、年齢、家族関係などを報じる。テレビのワ イドショーは通夜や葬儀の模様を追いかけ、遺族にカメラとマイクを向ける。アメリカな どでは当局が告知した後、遺族の意向を聞いてから報道する。2000 年 11 月にオーストリ アのアルプスで起きたケーブルカー火災で死亡した 10 人のうち2人の遺族が日本大使館に 氏名公表をしないように要請し、報道されなかった。被害者のプライバシー保護が政府の メディア法規制案(→別項)の根拠とされている。一般刑事事件では被害者は原則として 匿名にすべきだ。 ◆死者の人格権〔ジャーナリズム〕 1987(昭和 62)年1月に死亡した女性エイズ患者の遺影を掲載して、「主に外国人船員相 手の売春バーに勤めた」 (『フォーカス』87 年1月 30 日号、新潮社)、 「不特定の男性相手に 売春」 (『フラッシュ』87 年2月 10 日号、光文社)と報じた両誌の取材記者と両社を相手に、 女性の両親が損害賠償を求めた裁判で、大阪地裁は 89 年 12 月 27 日、両社がそれぞれ慰謝 料を支払うことを命ずる判決を下した。遺族の人格権侵害という形で、間接的に死者の人 格権の保護を認めた初の判断を示した。 ◆マスコミ裁判(press trial)〔ジャーナリズム〕 テレビ、新聞、雑誌が事件報道にあたって被疑者を犯人扱いにする例がいっこうになくな らない。 「重要参考人」も「被疑者」も「犯人」ではない。法的には有罪確定までは「無罪」 と推定される。 「被疑者」を「犯人」よばわりし、被疑者の過去、私生活などをあばきたて、 読者の憎しみをかきたてようとする。被疑者の家族や友人まで巻き込む例も少なくない。 ◆被疑者の呼び捨て廃止〔ジャーナリズム〕 毎日新聞社は 1989(平成1)年 11 月1日付から、犯罪報道のときそれまで呼び捨てにし てきた被疑者の氏名の後ろに、「容疑者」の呼称をつけることにした。法的には、有罪判決 確定までは無罪と推定される、などの理由による。12 月1日までに残りのほとんどすべて の新聞社、通信社、放送局が同様の措置をとった。読売新聞社は社告で、犯罪者に対する 社会的制裁機能を否定した。 ◆「容疑者の言い分」報道〔ジャーナリズム〕 逮捕段階の被疑者に弁護人を派遣する当番弁護士制度が大分と福岡で生まれたことと連動 して西日本新聞社が 1992 年 12 月に始めた。留置場や拘置所に拘束されている被疑者の主 張を当番弁護士などを通じて取材し、被疑者本人の同意があれば報道する仕組みだが、現 在は機能していない。 ◆少年犯罪の実名報道〔ジャーナリズム〕 少年法 61 条は、満 19 歳以下の「少年」の犯罪の報道に関し、「氏名、年齢、職業、住居、 容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又 は写真を掲載してはならない」と規定している。日本新聞協会は 1958(昭和 33)年 12 月、 「(1)逃走中で、放火、殺人など凶悪な累犯が明白に予想される場合、(2)指名手配中 の犯人捜査に協力する場合など、少年保護よりも社会的利益の擁護が強く優先する特殊な 場合」を除き、匿名報道にすると決めた。少年法の精神を尊重した自主規制。 東京の女子高校生コンクリート詰め事件では『週刊文春』89 年4月 20 日号が逮捕された少 年4人を実名報道した。過去にはこのほか、60 年浅沼社会党委員長が 17 歳の少年に刺殺さ れたときにもマスコミ各社が実名で報道している。 97 年の神戸の小学生殺傷事件で『週刊新潮』と『フォーカス』が被疑者とされた少年の実 名や顔写真を掲載。 大阪府堺市で 1998(平成 10)年1月に起きた死傷事件で殺人罪に問われた少年が、月刊誌 『新潮 45』で名前と写真を掲載されたとして新潮社らに損害賠償を求めた訴訟で、大阪高 裁(根本眞裁判長)は 2000 年2月 29 日、新潮社側に賠償を命じた大阪地裁判決を取り消 し、訴えを棄却する判決を下した。男性は上告したが、同年 12 月に取り下げた。この判決 後、愛知県豊川市主婦殺害、西鉄バス乗っ取り、など少年による凶悪犯罪が、 「またもや 17 歳の犯行」というように、報道された。 少年事件は外国と比べて非常に少なく、また国内でも急増しているわけでもないのに、特 異な事件を一般化する情緒的な少年事件報道をうけ、少年法が改正された。 ◆放送と人権等権利に関する委員会機構(Broadcast and Human Rights / Other Related Organization)〔ジャーナリズム〕 NHKと日本民間放送連盟は 1997(平成9)年6月から番組苦情対応機関、 「放送と人権等 権利に関する委員会機構(BRO)」をスタートさせた。BRO議長は伊藤正己。また機構 内に8人の委員で構成する「放送と人権等権利に関する委員会(BRC)」(委員長・清水 英夫)を設置。TBSビデオ問題などをきっかけに郵政省(現総務省)・自民党によるマス コミ統制の動きに対し放送界が自主的に運営する制度が誕生した。 委員会決定はこれまで6例。第1号は 98 年3月 19 日に、アメリカ・サンディエゴの教授 父娘殺害事件報道で、民放テレビ局3社に「権利侵害といえないが、放送倫理上問題があ った」と公表。同年 10 月にはNHKが京都の幼稚園に関する報道で「表現が適切さを欠い た」などと指摘する決定書を出した。99 年3月、関東の大学ラグビー部員2人が無実の強 かん事件で逮捕された件で、民放3局が「犯人としての断定的な報道につながりかねない」 報道をしたとして、放送倫理上問題があったと裁定。99 年 12 月、隣人トラブル報道ではフ ジテレビに対し、「人権への配慮が不十分で報道倫理上問題があった」と認定した。00 年 10 月、伊予テレビの自動車ローン詐欺事件報道で、自動車販売業者に対して人権侵害があ ったと裁定した。委員会が人権侵害と認定したのは初めてだった。01 年1月、援助交際ビ デオ関連報道で名古屋テレビに対し、「見込み捜査なのに一部断定に及んでいるうえ、当初 の報道の修正をしなかった」と決定した。 委員会による斡旋で解決したのは7例ある。また、99 年 12 月埼玉県桶川市の大学生刺殺事 件のテレビ報道で「被害者やその家族に2次的な報道被害が及んでいる」と指摘して、節 度ある報道を呼びかける要望書をNHKと民放キー5局に送付した。 放送業界全体が守るべき報道倫理綱領を早急に策定して、綱領に違反しているかどうかを 審判すべき。また委員に市民代表を入れるなどの改革が必要。BRCの連絡先は電話 03・ 5212・7333(平日の午前 10 時から午後5時まで)、FAX03・5212・7330。 ◆政府・自民党の法規制国会へ〔ジャーナリズム〕 自民党は 1999(平成 11)年3月、脳死移植報道などを理由に「報道と人権等のあり方に関 する検討会」を設置。「活字メディアに対して、欧米にみられるような自主的なチェック機 関や苦情処理機関の設置」「自主規制が有効に機能しなければ法規制を検討する」などと提 言した。また、政府の「個人情報保護法制化専門委員会」 (委員長・園部逸夫前最高裁判事) は 2000 年9月、大綱案を発表。政府は 01 年3月 27 日の閣議で個人情報保護法案を閣議決 定し、通常国会に上程。法案は、民間の「個人情報取扱事業者」の義務規定は適用しない ものの、「利用目的の制限」などの5項目の基本原則は適用する。その一方、報道機関が自 ら苦情対応機関を設置し、保護策を公表する「努力義務」の規定を設けた。 一方、法務省の人権擁護推進審議会は、01 年5月 25 日、「政府から独立した強制調査権限 をもつ行政委員会」である「人権委員会」(仮称)の設置を森山法相に答申した。人権委員 会は「あらゆる人権侵害」に対応するが、特に差別、虐待、公権力によるものやメディア によるもので深刻なものには調停や仲裁、勧告・公表、訴訟援助などで積極的な救済を図 る。メディアの人権侵害を調査する際、強制調査権を行使する余地を残すかどうかが焦点 のひとつだったが、答申は報道の自由を尊重し、「任意的な調査で対処すべきだ」と結論づ ける一方で、応じない場合などに調査過程を公表することを提案した。参院自民党が進め てきた青少年社会環境対策基本法案の議論が4月、内閣部会に移され、立法化に向けて本 格的議論が始まった。 メディア各団体はこれらの3点セットになった法規制に対しての反対運動を展開している が、法案が出てきた背景となっているメディアによる「弱い者いじめ」の横行に対し、プ レス全体でどうするかについて意志一致ができていない。 ◆新聞労連の「報道被害相談窓口」〔ジャーナリズム〕 新聞労連が 1998(平成 10)年3月に新聞、通信社の取材・報道で人権侵害を受けた人の苦 情を受け付けるために設置。報道被害ホットラインともよばれる。2001 年7月までの3年 5カ月で 41 件の相談があり、20 件を対応した。 新聞労連は 97 年2月に報道評議会設立に向けて努力することを決定。新聞などの経営者が 加盟する日本新聞協会に働きかけているが、協会はこれに応じないために、労連だけで相 談窓口を発足させた。 相談は郵便(〒101-0061 東京都千代田区三崎町3‐5‐6 造船会館5階 新聞労連「報 道被害相談窓口」係)かFAX(03・5275・0359)で受け付ける。 人権と報道に取り組む弁護士の有志が 01 年7月 18 日、報道被害救済弁護士ネットワーク (電話・FAX 03・3351・6066)を設立した。 ▲報道に関する制度と取組み〔ジャーナリズム〕 ◆新聞倫理綱領〔ジャーナリズム〕 1946(昭和 21)年7月 23 日、全国日刊紙の代表が集まって採択。これが日本新聞協会(会 長 渡辺恒雄・読売新聞社社長)の発足のきっかけになった。協会にはNHK、民間放送 の多くが加盟しており、新聞倫理綱領は、新聞・放送を通じての自主規制コードとなって いる。 新聞協会は 2000(平成 12)年6月 21 日、総会を開き、新しい新聞倫理綱領を制定した。 99 年秋から「新聞倫理綱領検討小委員会」(委員長 中馬清福・朝日新聞社専務)を設置、 外部の有識者の意見も聴きながら、検討を続けていた。新綱領は、前文の冒頭に、初めて 国民の「知る権利」が民主主義社会をささえる普遍の原理であると規定。また、「公共的、 文化的使命を果たす」ために「自らを厳しく律し、品格を重んじなければならない」と規 定した。「自由と責任」「正確と公正」「独立と寛容」「人権の尊重」「品格と節度」の5項目 を規定。「人権の尊重」では、報道を誤ったときはすみやかに訂正し、正当な理由もなく相 手を傷つけたと判断したときは、反論の機会を提供する」と述べている。 ◆新聞再販制度と言論の自由〔ジャーナリズム〕 1997(平成9)年4月1日、日本新聞協会は「新聞再販制度の見直しは必要かと題する研 究報告書を発表した。(1)多様な新聞が戸別配達制度により全国に配布されるシステムは 表現の自由や国民の知る権利の観点から憲法の保障を受けている。(2)表現の自由を制約 する方策をとろうとする場合、制約が高度の必要性をもつこと、および、ほかに方法がな いことを立証する責任を負う、などと述べ、公正取引委員会の再販問題小委員会が 95 年7 月の中間報告でうちだした新聞再販見直し論にはこの観点が欠けていると批判。同委員会 は 2001 年1月 23 日、新聞、雑誌、音楽用CDなどの再販制度について、 「競争政策の観点 からは廃止すべきだが、当面は存置することが相当だ」とする結論を発表した。このなか で、関係業界に対し、価格設定の多様化などを要請した。 ◆言論に対する襲撃・暴力〔ジャーナリズム〕 1987(昭和 62)年5月3日夜、兵庫県西宮市にある朝日新聞社阪神支局2階の編集室で何 者かによって記者が撃たれた。うち1人は死亡、1人は重傷を負った。9月には同名古屋 本社社員寮を襲い(死傷ゼロ)、東京本社でも側壁から銃弾が発見された。これらの事件直 後にはいずれも「赤報隊」名の犯行声明が通信社に送られてきた。また、市議会で「天皇 に戦争責任はある」と発言した本島等・長崎市長が、90 年1月 18 日、右翼にピストルで撃 たれて重傷、さらに政教分離の立場から、他のキリスト教系3大学長とともに大嘗祭を批 判した弓削達・フェリス女学院大学長の自宅に、4月 22 日銃弾が撃ち込まれる事件も起き た。ジャーナリストへの偶発的でない襲撃は、1918(大正7)年「白虹貫日事件」で村山 龍平・朝日新聞社長が右翼に暴行を受けたのが始まり。皇室を題材にした小説の掲載を理 由に、61 年2月1日、嶋中鵬二・中央公論社長邸が右翼の少年に襲われ、家人2人が殺傷 された。 ◆メディア責任制度(media accountabitity system)〔ジャーナリズム〕 メディアに対する法的な規制は、憲法上も、権力を監視し批判する健全なジャーナリズム 活動のためにも、あってはならない。そこで、メディアが自らの責任で、報道の自由と名 誉とプライバシー擁護を両立させるためにつくった仕組み。(1)メディア界で統一した報 道倫理綱領の制定と、(2)ジャーナリストが倫理綱領を守っているかどうかをモニターす る報道評議会・プレスオンブズマンの設置、をセットにした制度である。報道評議会とプ レスオンブズマンは同義語と考えてよい。両者ともメディアと報道される市民の間に立っ て仲介する「第三者」機関ではない。報道された市民や団体の訴えに耳を傾け、大メディ アに対して対等な関係に立てるようオンブズ(スウェーデン語で「代理する」の意)し、 調査・審理する。メディアが倫理綱領に違反したと判断した場合は、叱責の裁定文を公表 する。「社内オンブズマン」「公的オンブズマン」は誤訳。潮見憲三郎著『オンブズマンと は何か』 (講談社)が詳しい。日本弁護士連合会(日弁連)は 87(昭和 62)年と 99(平成 11)年にメディア責任制度を設立するよう求める要望書をメディア界に送っている。報道 被害者、市民、記者、法律家らでつくる「人権と報道・連絡会」 (〒168-8691 東京都杉並 南郵便局私書箱 23 号、FAX03・3341・9515)は、85 年からメディア責任制度の確立を 求めて運動している。 ◆報道評議会(Press Council)〔ジャーナリズム〕 (1)プレスの自由の擁護、(2)倫理綱領の遵守に対する監視、(3)読者からの取材・ 記事に対する苦情対応、(4)新聞間、新聞とニュース・ソース間の問題の処理、を目的と する活動を行う評議会。1916 年スウェーデンで設けられた。台湾も 63 年に設立し、世界 約 30 カ国にある。イギリスの報道評議会は、1949 年「新聞に関する王立委員会」の勧告 によって 58 年に発足。62 年、第2次王立委員会の勧告は、報道評議会の強化と、新聞界以 外から評議会委員に参加を求めるべきことなどを含み、64 年から新定款に基づく報道評議 会が活動を開始した。91 年に報道苦情委員会に改組。日本弁護士連合会は 99(平成 11) 年 10 月、日本にも新聞評議会を設立すべきだと提言した。 ◆プレスオンブズマン(press ombudsman for the general public)〔ジャーナリズム〕 オンブズマンとは 1809 年スウェーデンで創設され、多くの国々で採用されている一種の議 会行政監察官で市民の代理人のこと。スウェーデン語では男女とも「オンブズマン」であ り、オンブズパーソンと言い換える必要はない。スウェーデンは、1969 年報道評議会制度 改革のひとつとして、この「一般市民のためのプレスオンブズマン」を設けた。ほかのオ ンブズマンと異なり、法律に基づかない民間機関。新聞・雑誌に対する苦情はすべてプレ スオンブズマンに寄せられ、オンブズマンはその苦情に基づいて、あるいは自らの発意に よって調査し、苦情が正当であると判断したときは、該当の新聞・雑誌に自発的な訂正か 反論の掲載を求める。自発的解決が得られなかった場合は、自らの判断と編集者の弁明と を添えて報道評議会に回付する。報道評議会による裁決は全文1字の削除もなく、当の新 聞、雑誌がめだつところに掲載しなければならない。アメリカ・カナダなどでは全国的レ ベルではなく、いくつかの新聞社が独自においている。特に「ワシントン・ポスト」の制 度はよく知られる。 ◆新聞人の良心宣言〔ジャーナリズム〕 新聞・通信社の労組で組織する日本新聞労働組合連合会(新聞労連、参加組合員4万人) は 1997(平成9)年2月、臨時大会で「新聞人の良心宣言」(報道倫理綱領)を採択した。 「憲法で保障された言論・報道の自由は市民の知る権利に応えるためにある」と宣言し、 (1) 公的機関や大資本からの利益供与や接待を受けない、(2)自らの良心に反する取材・報道 の指示を受けた場合、拒否する権利がある、など 34 項目の行動指針を明示。「犯罪報道」 の項で推定無罪の原則を尊重すると明記し、被害者・被疑者を匿名とするか実名とするか については「常に良識と責任をもって判断し、報道による人権侵害を引き起こさないよう に努める」と規定。 また、「新聞人の良心宣言」で示した「基本姿勢」のひとつは、「言論の自由を守り、真実 の報道を続けようとする新聞人に対し、会社側が不当な圧力や処分をしてきた場合は、新 聞労連がこの新聞人を守るために全面的に支援する。具体的には、新聞労連の本部にFA X(03・3221・0948)を設置し、各組合や個人からの訴えや意見を広く受け付ける。さら に多様な価値観を尊重したうえで、メディア間の相互批判を積極的に行うとともに、報道 評議会の設立をめざす」と述べている。2000 年9月には、報道評議会原案を発表した。 ◆朝日新聞の事件報道新基準〔ジャーナリズム〕 2000(平成 12)年3月 27 日の「朝日新聞」は「『報道される立場』さらに尊重 朝日新聞 社の事件報道」という社告を出した。 「捜査当局に身柄を拘束された者については実名原則」 を確認。さらに「『精神障害者』と『刑事責任能力のない心神喪失者』とは別の概念である ことに留意する。容疑者に通院歴や入院歴があっても、十分な取材を尽くしたうえで刑事 責任能力があると判断されるときは『実名報道』の原則を適用する。報道に際しては、原 則として、病名や通院歴などの事実には触れない」と述べている。今回は3度目の改訂。 毎日新聞も同年 12 月、ほぼ同様の新基準を制定。新基準では、精神医療を受けたことのあ る人も実名になり、後に「刑事責任能力のない心神喪失者」であると判断されると、その ことが報道される。現在、匿名になっている権利を奪ってもよいということではない。匿 名原則にすることでしか、この矛盾は解決しない。 ◆性・暴力表現自粛〔ジャーナリズム〕 日本民間放送連盟は 1999(平成 11)年6月、午後5時から9時までを「児童、青少年の視 聴に十分配慮する」時間帯として暴力・性表現を自粛。10 月の番組改編までに加盟テレビ 局が実施。国内で初めて放送時間帯制限を設けることを決めた。NHKと民間放送連盟で つくる放送番組向上協議会は 2000 年4月、自主規制機関「放送と青少年に関する委員会」 を設け、視聴者からの苦情を受け付けている。子どもに見せたくない番組を受信機で自動 的にカットできる「Vチップ」については「引き続き検討を行う」として導入は見送られ た。 ◆自主規制〔ジャーナリズム〕 (1)法令に基づく言論規制としてではなく、(2)マス・メディア企業またはその連合体 の意思、またはマス・メディア労働者個人の心理によって、(3)情報が受け手にあたえる であろう効果を予測し、その効果を消滅もしくは減殺させる目的で、(4)その情報を破棄 したり改変する行為。自主規制には「明示された規制」(「倫理綱領」など)と「明示され ない規制」(マス・メディア企業自身の事前規制)の2種類が存在する。自主規制が問題に なる場合、日本の現状では後者のほうがはるかに日常的であり、問題も大きく、多い。 ◆検閲(censorship)〔ジャーナリズム〕 言論・表現を事前に抑制し、情報の伝達を阻害すること。日本国憲法 21 条2項は検閲を「絶 対的」に禁止することを規定している。歴史的に、検閲の禁止が言論の自由の基礎をなし てきた。1695 年、イギリスは出版許可法(The Licensing Act)を廃止し、アメリカでも憲 法修正第1条によって言論の自由を確立する法理となった。日本国憲法の検閲禁止規定は それ以上の意義を有している。 ◆報道協定〔ジャーナリズム〕 「誘拐事件のうち、報道されることによって被害者の生命に危険が及ぶおそれがあるもの について」結ぶ協定。1960(昭和 35)年東京で起きた「雅樹ちゃん事件」が引き金となり、 同年6月、日本新聞協会編集委員会が「誘拐報道の取り扱い方針」を定めた。この方針は その後何回も改定され、70 年、 「人命に危険の及ぶおそれのある誘拐事件、またはこれに準 ずる事件」と改められた。報道側で一致すれば自主的に解除できる。 ◆記者クラブ〔ジャーナリズム〕 各省庁、都道府県庁、市役所、警察署、団体など、主要なニュース・ソースの記者室にお かれている取材のための機関。記者クラブの第1号は、1890(明治 23)年、第1回帝国議 会の新聞記者取材禁止の方針に対して「時事新報」記者が、在京各社の議会担当によびか け、 「議会出入記者団」を結成、10 月には、これに全国の新聞社が合流し、名を「共同新聞 記者倶楽部」と改めたことによる。1941(昭和 16)年5月、新聞統制機関「日本新聞連盟」 の発足にともない、クラブの数が3分の1に減らされ、クラブの自治が禁じられた。戦後 の 49 年 10 月 26 日、日本新聞協会は「記者クラブに関する方針」を作成して、記者クラブ を「各公共機関に配属された記者の有志が相集まり親睦社交を目的として組織するものと し取材上の問題にはいっさい関与せぬこと」と規定。新聞協会は 97 年 12 月、記者クラブ について「親睦組織」という位置づけを、公的機関が保有する情報へのアクセスを容易に する「取材のための拠点」と改めた。新見解は記者クラブに属さないメディアや記者の取 材活動を阻害してはならないともうたっているが、フリー・ジャーナリストなどを排除す る実態はそう変わっていない。西山武典・元共同通信編集主幹が 86 年に調査したところに よると、共同通信記者が加盟している記者クラブは 612 あった。全国紙が 96 年に行った調 査では 781 だった。 ◆法廷内写真取材〔ジャーナリズム〕 最高裁大法廷が開廷前3分間に限って写真取材を認めているなど、ごく少数の例外を除い て、日本では法廷での写真取材を禁止してきた。それが 1987(昭和 62)年 12 月 15 日か らスチール・カメラ、ビデオ・カメラ各1、開廷前2分間だけ、という条件つきながら、 全国の裁判所で取材が認められることになった。 敗戦直後は法廷での写真取材はかなり自由だった。ところが 49 年1月、刑事訴訟規則が施 行されて、「公判廷における写真の撮影、録音または放送は、裁判所の許可を得なければ、 これをすることができない」と定められたこと、このころから公安・労働事件で「荒れる 法廷」が続出したことなどから、撮影を認める裁判所が急速に減少した。さらに最高裁は 68 年6月、 「裁判所の庁舎等の管理に関する規程」を制定し、公判廷はおろか、裁判所構内 すら写真取材がむずかしくなった。 和歌山毒カレー事件の被告は 99(平成 11)年8月 11 日、 「法廷内で隠し撮りされた写真を 『フォーカス』に掲載され、肖像権を侵害された」として新潮社と同誌編集長に損害賠償 と謝罪広告の掲載を求める訴えを大阪地裁に起こした。法廷内無断撮影をめぐる民事訴訟 は初めて。 ◆NIE(Newspaper In Education)〔ジャーナリズム〕 「教育に新聞を」の略で、小学校から大学までの教育に新聞を教材として使うための、新 聞社と学校との共同活動。半世紀前からアメリカで始まり、現在、アメリカ新聞発行者協 会加盟の日刊紙約 1500 社のうち約 600 社がNIE計画を実施。学校で教育に使われる新聞 は約 300 万部、定価の半額で提供される。日本でも、若い世代の活字離れに対応するため、 日本新聞協会が 1988(昭和 63)年2月、NIE委員会を設置。小中高校の現場教師たちも 「NIE研究会」をつくって、新聞を利用した授業例の研究をしている。98(平成 10)年 4月にNIE委員会が日本新聞教育文化財団に移管。2000 年 10 月横浜情報文化センター 内にNIE全国センターを開設。実践校は 348 校(約8万人の児童・生徒)。 ◆メディア広報センター〔ジャーナリズム〕 鎌倉市は 1996(平成8)年4月、鎌倉記者会に便宜供与していた記者室をなくし、広報メ ディアセンターを開設した。元朝日新聞記者の竹内謙市長の発案。日本新聞協会が記者ク ラブを取材機関ではなく親睦団体と規定しながら、実際には排他的な取材機関であること を黙認している現状を打破するために行った。鎌倉記者会は日本新聞協会加盟の6社がメ ンバーだったが、広報メディアセンターにはマス・メディアであれば利用登録できる。た だし企業広報紙、政治団体・宗教団体の機関紙は除外。16 社が加盟している。 ▲ジャーナリズム一般〔ジャーナリズム〕 ◆ジャーナリズム(journalism)〔ジャーナリズム〕 時事的な事実や問題の報道・論評の社会的伝達活動。もともとは、ラテン語の「ディウル ナ」(diurna)、つまり日刊の官報を意味し、そこから英語に転化して「日々の記録」を意 味するようになった。いまではニュースを収集し、選択し、解説し、そして継続的・定期 的に伝達する行為、というのが一般的定義。ジャーナリズムは、生起した出来事の中から、 市民の次の行動決定のために必要な事実や議題をピックアップして、できるだけ早く、で きるだけ広く伝えることが要求される。 ◆ジャーナリスト(journalist)〔ジャーナリズム〕 主体的・積極的に現実を把握し、解釈し、表現することを任務としてジャーナリズム活動 を行う。一般的に、ジャーナリズム活動を、日々行い続けるものが、職業(専門)的なジ ャーナリストといわれるが、職業的ジャーナリストがもっている権利(ニュース・ソース への接近など)は、市民一人ひとりがもっている権利(「知る権利」など)と、まったく同 等なのである。 ◆マス・コミュニケーション(mass communication)〔ジャーナリズム〕 不特定多数の受け手を対象にマス・メディアを通じて、大量に情報を伝達するコミュニケ ーション過程のこと。マス・コミュニケーションの特徴としては、次のようなことがあげ られる。(1)送り手は通常大規模に組織された集団である、(2)機械的・技術的手段で 情報を大量に複製する、(3)これを、分散した不特定多数の受け手に伝達する、(4)受 け手が、送り手になれる機会は少なく、送り手と受け手の役割分化がはっきりしている、 (5) 受け手から送り手へのフィードバックがむずかしい。つまり、情報の流れは、送り手から 受け手へ、一方的である。マス・コミュニケーションが社会に対して行う活動は、次の諸 点があげられる。(1)出来事についての情報を収集し、伝達する活動(報道活動)、(2) その出来事について評価し、解説し、論評して、受け手の行動を指示する活動(論評活動)、 (3)社会の価値を後世に伝達する活動(教育活動)、(4)受け手に娯楽を提供する活動 (娯楽活動)。そのほか、(5)広告を伝達する活動(広告媒体としての活動)もある。 ◆マス・メディア(mass media)〔ジャーナリズム〕 マス・コミュニケーションの過程で、送り手と受け手を結ぶ媒体。新聞、雑誌、書籍、テ レビ、ラジオ、映画、ビデオやオーディオのテープなどがあげられる。日本語の「マスコ ミ」とは、通常このマス・メディアをさすことが多い。なお、メディアとは複数形で、単 数形ではミーディアム(medium)である。 ◆知る権利(right to know)〔ジャーナリズム〕 (1)マス・コミュニケーションにおける送り手の活動の自由を要求するものであり、 (2) 民衆一人ひとりが国政に関する情報を請求する権利。1945 年1月、アメリカのAP通信社 専務理事ケント・クーパーが「知る権利」を提唱する講演をしたことでこの言葉が生まれ た。クーパーが提唱したのは、第2次大戦中の政府によるニュース操作と公的宣伝のため に、民衆が真実から遠ざけられ各国間に反目と憎悪を激化させた反省から、国家権力に対 抗する新しい民衆の権利概念を対置させる必要を感じたからであった。この考えは 66 年に 「情報自由法」(Freedom of Information Act)が制定される運動にも発展した。 ◆アクセス権(right of access to mass media)〔ジャーナリズム〕 民衆の言論の自由を実現化するためにマス・メディアを開かれたものにし、人々がそれに 参入し利用する権利。アクセス権は、 (1)批判・抗議・要求・苦情、 (2)意見広告、 (3) 反論、(4)紙面・番組参加、(5)運営参加に分類できる。1967 年、アメリカの法律学者 ジェローム・バロンが提唱。 ◆プライバシーの権利〔ジャーナリズム〕 (1)私生活をみだりに「知られない権利」としてだけでなく、(2)個人一人ひとりが公 的機関および企業(生命保険、小売業、不動産業、金融機関など)が保有する自分のデー タについて「知る権利」をもち、(3)そのデータが誤っていれば訂正・修正させる権利を もつという積極的・能動的な権利。日本では、プライバシーの権利はもっぱら私生活を他 人に「知られたくない権利」 (right to be let alone)としてのみ理解され、このことから「知 る権利」と対立する概念のようにとらえられている。しかしこれではプライバシーとは保 護されるもの、侵害されてはならないものという守勢的・受動的な権利でしかない。アメ リカでは 1974 年プライバシー法(Privacy Act)が制定され、プライバシーの積極的・能 動的権利を確立させた。 ◆発表ジャーナリズム〔ジャーナリズム〕 官庁や民間企業などのニュース・ソース側が記者クラブなどを通じて積極的に発表・提供 する情報を、そのまま右から左に報道するジャーナリズム。そのような情報を「玄関ダネ」 といい、またそのような報道をアメリカでは「ステノグラフィック・リポーティング」 (stenographic reporting 速記報道)という。原寿雄・共同通信元編集主幹が、とりわけ 日本では「客観報道主義」がそれを支えているとして「客観報道を問い直す」ことを提唱 してから、改めて活発に議論されるようになった。 ◆インベスティゲイティブ・レポーティング(investigative reporting)〔ジャーナリズム〕 調査報道。警察・検察にたよらず、ジャーナリズムが意識的主体的に、政治の腐敗、税金 の浪費、大企業の腐敗組織化された犯罪を対象とし、また権力が国民に隠そうとする問題 を独自取材・調査し、あばくこと。「ワシントン・ポスト」によるウォーターゲート事件報 道が代表的。つまり本来、調査報道の対象となるのは公的な問題であって日本における「ロ ス疑惑」報道のようなものは「調査報道」とはいえない。しかし 1988(昭和 63)年、神奈 川県警が途中で捜査を放棄した川崎市助役に対するリクルートコスモス社からの贈賄事件 を、朝日新聞横浜・川崎両支局が独自に取材を続け、「リクルート疑惑」をあばきだしたこ とは、特筆すべき調査報道だった。 ◆パブリック・ジャーナリズム(public journalism)〔ジャーナリズム〕 シビック・ジャーナリズムともよばれる。メディアと市民の双方向性を強化するために、 従来の客観報道の枠を越えて市民が抱える諸問題をほりおこし、何をすべきかを明らかに する紙面、番組づくりをしようという新たな報道手法。1988 年の大統領選挙でネガティブ・ キャンペーンが問題になって、「ウィチタイーグル」紙の編集長が 90 年の中間選挙で導入 した。読者視聴者に依存しすぎてジャーナリストとしての議題設定がないとの批判も出て いる。 ◆センセーショナリズム(sensationalism)〔ジャーナリズム〕 大衆の原始的本能を刺激し、好奇心に訴え、興味本位の報道をすること。特ダネ意識―「特 ダネを抜いて同僚、同業他社や世間をアッと言わせたい」―のようなジャーナリストの心 理もセンセーショナリズムと結びついている。マス・メディアの商業主義から発している。 ◆パック・ジャーナリズム(pack journalism)〔ジャーナリズム〕 1985(昭和 60)年6月 19 日、豊田商事会長刺殺事件がおきた。約 50 人の報道人の目の前 での殺人。同年9月 11 日、「ロス疑惑」の元輸入雑貨販売会社社長が殺人未遂容疑で逮捕 された現場へ、各新聞やテレビ、週刊誌などの取材記者、カメラマンが詰めかけた。この ような日本のジャーナリズム情況を「ニューヨーク・タイムズ」が「殺人を防ぐ努力をせ ず、同一歩調をとり、好奇心をあおる」「パック・ジャーナリズム」(寄合い報道、報道軍 団)と指摘した。 ◆イエロー・ジャーナリズム(yellow journalism)〔ジャーナリズム〕 (1)大見出し主義、(2)センセーショナリズム、(3)感情に訴える(わいせつな表現 など)、(4)ニュースを自分でつくる(デッチあげ)、などの傾向をもつジャーナリズム。 19 世紀末、ジョセフ・ピューリッツァーの「ニューヨーク・ワールド」紙に連載中だった 「イエロー・キッド」(続き漫画の主人公である中国人の子どもの名前。黄色のインクで印 刷されていた)の書き手をウィリアム・ランドルフ・ハーストの「ニューヨーク・モーニ ング・ジャーナル」紙が買収して新聞に載せたことに始まる。 ◆ニュー・ジャーナリズム(new journalism)〔ジャーナリズム〕 事件や関係者などの取材対象(特定の人物)に密着取材し、文学的表現を用いて表現され るルポルタージュの一種。ウォルター・リップマンも使っていた言葉だが、現在の意味で 使われるようになったのは、トルーマン・カポーティの『冷血』 (1966 年)以来、トム・ウ ルフらアメリカのジャーナリストが主張してからである。ゲイ・タリーズやノーマン・メ イラーの作品にその影響もみられる。 ◆書き得報道〔ジャーナリズム〕 「書き得(どく)」というのは、真相がはっきりしない事件で、しかもどのように書き立て ようとも、どこからも文句をいわれるおそれがなく、したがって面白くセンセーショナル に書いたほうが得、という場合をいうジャーナリズム内部の用語。 ◆アナウンス効果(announcement effect)〔ジャーナリズム〕 アナウンスメント効果ともいう。候補者や政党が現在おかれている状況についての情勢報 道が、有権者の投票意図や投票行動に、なんらかの変化をもたらすこと。例えば、選挙の 予測報道で、優勢と報じられた候補者にさらに票が集まる「勝ち馬効果」や、逆に苦戦と 伝えられた候補者に判官びいきで票が集まる「負け犬効果」などが考えられている。しか し、アナウンス効果は存在しないとする説もある。 ◆パブリシティ(publicity)〔ジャーナリズム〕 広い意味では広告を含めた宣伝のことをいうが、狭い意味では、広告としてではなく、企 業が宣伝的な情報をジャーナリズムに提供し、一般的な記事の形で紙面や番組に報道して もらうこと。 広告が広告費と交換で載るのに対し、パブリシティは無料で載るところに違いがある。 ◆キャンペーン(campaign;press campaign)〔ジャーナリズム〕 ある特定の世論を喚起させるために新聞の紙面やマス・メディアを一定期間動員すること によって、継続的集中的に行う言論活動。もともと「平原」を意味し、そこで繰り広げら れる「戦闘」が転化し、「一定の場における行動、特別の目的をもった組織的活動」の意味 になった。 ◆クオリティー・ペーパー(quality paper)〔ジャーナリズム〕 高級紙。教養ある知的な読者を対象とする新聞。センセーショナリズムを排し、重要な事 項についての詳細な記録、高度な論評を内容とする。特にヨーロッパでは高級紙と大衆紙 (popular paper)とが、厳然と分かれている。イギリスの「ザ・タイムズ」、フランスの 「ル・モンド」などが代表的。 日本では実質的に高級紙にあたるものはない。 ◆フリー・ペーパー(free paper)〔ジャーナリズム〕 無料紙。広告収入だけで製作され、読者に無料で配布される新聞。日本では、1960 年代の 初め、団地向けに始まり、70 年代に入ってサンケイ新聞社が「サンケイリビング」を発行 したのをきっかけに、各新聞社が競って発行。配布地域を細分化して限定しているため、 地域の小規模広告主を吸収でき、広告収入をあげられる。 ◆タブロイド判(tabloid paper)〔ジャーナリズム〕 普通の新聞の大きさをブランケット判(blanket sheet)というが、その半分の大きさの新 聞。特にサイズの規定があるわけではない。 1919 年、アメリカのシカゴ・トリビューンが「イラストレイテッド・デイリー・ニュース」 をタブロイド判で出したのが始まりといわれる。一般紙が扱う記事は要約し、かわりにセ ンセーショナルな記事・写真を満載しているのが特徴。 ◆マク・ペーパー(Mac-paper)〔ジャーナリズム〕 「マクドナルド新聞」。簡単に読めるジャンクフード風の新聞のこと。 各記事は短く、わかりやすく、レイアウト、写真、グラフを多用して、視覚に訴える。む ずかしい解説や、調査報道、長いルポルタージュなどは載せない。ページ数も、アメリカ の新聞としては薄い 40 ページ程度に抑える。代表的なのが「USAトゥデイ」。 ▲取材・編集用語〔ジャーナリズム〕 ◆編集権〔ジャーナリズム〕 1948(昭和 23)年3月、日本新聞協会が発表した「新聞編集権の確保に関する声明」に基 づく政治的概念。同声明によると、「編集権とは 新聞編集に必要ないっさいの管理を行 う権能」であり「編集権を行使するものは経営管理者およびその委託を受けた編集管理者 に限られる」「定められた編集方針に従わぬものは何人といえども編集権を侵害したものと してこれを排除する。編集内容を理由として印刷・配布を妨害する行為は編集権の侵害で ある」。この「編集権」概念は新聞ばかりでなく出版にも持ち込まれ、放送でも「編成権」 という言葉になって使われている。「編集・編成権」は、占領軍の権力を背景として戦後の 日本で生み出されてきた独特の概念であり、諸外国にはない。現在なお新聞各社の労働協 約・就業規則のほとんどには「編集権」が経営者側にあることを明記している。このこと は、「思想の表明の自由」を損なうものであり、「国民の知る権利」を侵害するという問題 も示している。 ◆プレスの内部的自由(Innere Pressefreiheit 独)〔ジャーナリズム〕 マス・メディアで働く労働者たちの、そのメディアに対するアクセス権。ジャーナリスト が雇用主に対して、妨げられることなく、良心に基づいて行動し、書き、話す自由。ドイ ツでは 1968 年以来「プレス基本法」を設けて、その中にプレスの内部的自由を盛り込もう としてきたが、経営者側の抵抗にあって成案を得られないでいる。しかし、76 年ハンブル クの「ハンブルガー・モルゲンポスト」紙とボンの「フォアヴェルツ」紙は労組と協約を 締結し、編集長や編集管理職の任命、記者の雇用・配転・解雇については、編集局員の間 から選ばれた編集委員会と協議したうえで決定しなければならないこととした。編集委員 会には全従業員の代表組織である経営協議会からも代表の参加が認められているので、ジ ャーナリスト以外の従業員も含め編集方針にかかわる人事についての共同決定権を得た。 ◆公正の原則(fairness doctrine)〔ジャーナリズム〕 マス・メディアの伝える情報・思想など、争点に関して提起された対立見解に異論をもつ 視聴者(読者)に、そのマス・メディアを利用して反論を述べる機会をあたえること。特 に放送事業に適用される。日本では、放送法第3条で「政治的に公平であること」「意見が 対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定め られている。 ◆取材源の秘密〔ジャーナリズム〕 「ニュース源の秘匿」ともいう。情報やニュースの出所・提供者名を、本人の承諾なしに 外部に漏らさないこと。ジャーナリストや報道機関が守るべき基本的な倫理(モラル)の ひとつ。ウォーターゲート事件を追及した「ワシントン・ポスト」の2人の記者には、政 権内部でティップ・オフしてくれた重要な情報源があったが、それは「ディープ・スロー ト」という匿名のままで、いまだに氏名は公表されていない。日本では、取材源の秘匿は 法的に規定されてはいないが、1979(昭和 54)年、札幌地裁、同高裁で、80 年に最高裁で、 記者が取材源を明らかにしない「証言拒否権」が、民事上、保護されるべき「職業上の秘 密」として認知された。 ◆オフレコ発言〔ジャーナリズム〕 日本新聞協会は、1996(平成8)年2月、前年 11 月に江藤隆美総務庁長官(当時)が過去 の歴史に関して行った「オフレコ発言」が韓国の新聞にもれて辞任に追い込まれた件につ いて「外部にもれたのは、倫理的見地から遺憾。オフレコの約束は破られてはならない」 との見解をまとめた。「メモをとらない、報道はしない」との約束を前提にニュース・ソー ス側が情報提供したり、見解・意見を述べるのがオフレコだが、報道規制に利用されるお それがある。 ◆記者懇談〔ジャーナリズム〕 記者会見と異なり、カメラマンを入れず、記者はメモをとらず取材対象の氏名を伏せて取 材する形式。取材対象と日常的に接触している記者に限られるので、通常の会見より一歩 ふみこんだ情報の入手が可能になるとされる。記者団に対し、手短にコメントを出すのが 「プレス・リマークス(press remarks)」、ニュース・ソース側がジャーナリストに対して 状況説明を行うのが「ブリーフィング(briefing)」。もともとはアメリカ軍の「戦況要約」 のこと。 ◆ブラ下がり〔ジャーナリズム〕 報道の世界にも他の業界と同様、独特の言い回しや習慣がある。「政府首脳によれば」とい うクレジットもその一例。政党や政府のトップクラスが匿名を条件に問題の背景説明を行 う場合に用いられる。「首脳」とは党3役、派閥の領袖、政府では大臣、次官をさす。「ブ ラ下がり」は、首相や有力政治家が首相官邸や国会内の廊下を歩くとき、記者が囲んで歩 きながら取材すること。 ◆遊軍〔ジャーナリズム〕 日本の新聞社の現場では軍隊用語がいまも使われている。戦列外にあって味方を守り敵を 攻撃する軍隊で遊撃隊を意味するが、記者クラブなどに配置されず臨機応変に取材する記 者グループを遊軍と名づけている。沖縄ではフリー記者とよぶ。 ◆リーク〔ジャーナリズム〕 情報源(当局者)が個人的に特定のジャーナリストにひそかに流すこと。記者会見、発表 などの「オン・ザ・レコード」と異なり、リークは提供された情報の中身は報道してもい いが、情報の提供者の名前は公表しないことを前提にした、「バックグラウンド・ブリーフ ィング」のなかでも最も秘密度の高い情報提供の方法。不確かな内部告発、ライバル攻撃 などの特別の意図をもって行われることが多く、アメリカなどでは慎重に対応することに なっている。リークが情報提供者の側に有利なのは、報道された結果について責任をとら なくてよいからだ。 ◆スクープ(scoop)〔ジャーナリズム〕 (1)ニュース・ソース側(大部分は、政治権力や資本など)が隠したり歪めたりしてい る「事実」の正確な貌をあばきだすこと。(2)ニュース・ソース側が、いずれ発表しよう としている事柄を、何日か早く入手して出すこと。(3)公知の事実であって、みんなが重 視していない事柄に新しい問題性をみつけ、その事実のもつ意味を新たに明らかにしてみ せること。一般的には特ダネ・出し抜くこと、を意味する。 ◆虚報〔ジャーナリズム〕 「朝日新聞」が 1950(昭和 25)年9月 27 日に報じた「伊藤律架空会見」は虚報の典型。 潜行中の共産党幹部の伊藤氏と兵庫県の宝塚山中で会見したという「特ダネ」だったが、 3日後にまったく狂言とわかった。89(平成1)年4月 20 日付「朝日新聞」夕刊は、沖縄・ 西表島の海底のサンゴに大きく「KY」の文字が刻まれているカラー写真を一面に大きく 掲載し、「サンゴを汚したK・Yってだれだ」という見出しの記事を載せた。撮影したカメ ラマン2人が写真の効果をねらって自分で傷をつけたことがわかり、一柳社長が辞任した。 同年8月 17 日付「読売新聞」夕刊は、幼児連続誘拐殺人事件に関連して「被疑者のアジト 発見。警察、多数の物証を押収」との記事を掲載し、翌日、「おわび」の記事を載せて訂正 した。 ◆やらせ〔ジャーナリズム〕 狭義では、フィルム・ドキュメンタリーで、ありもしない事実を演出したり、事実を再現 するために事前に依頼して演技をさせることをいう。広義では、ドキュメンタリーばかり でなく、クイズからスポーツにいたるまでの八百長までを含む。やらせは、やらせである ことを視聴者に明示すれば、やらせでなくなる。1992(平成4)年9月 30 日に放送された NHKスペシャル「奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン」でのやらせが有名。 ◆わいせつ図画〔ジャーナリズム〕 刑法第 175 条は「猥褻ノ文書、図画其他ノ物ヲ頒布若クハ販売シ又ハ公然之ヲ陳列シタル 者」は処罰されることになっている。従来警察は、ヘアが見えるヌード写真を厳しく取り 締まってきた。だが 1993(平成5)年3月、ヘアが写っている写真集を出した3出版社が 自粛要請されたのを最後に、逮捕はもちろん、「警告」も「自粛」要請もなくなった。とこ ろが警視庁は、女性器を撮影したものはわいせつ、という基準を設けたらしく、94 年3月、 女性器が写った写真を無修整で掲載した写真集が摘発され、出版社の社長、編集者が逮捕 された。 ◆降版協定〔ジャーナリズム〕 新聞の紙型取りの時刻を定めそれ以降のニュースは翌日回しとする各新聞社間の協定。時 刻は地域によって異なる。 ◆テレゴング(telegong)〔ジャーナリズム〕 大規模電話投票システム。アメリカで始まり、日本ではNTTが 1993(平成5)年 11 月 から運用を開始した。放送局で生放送中、視聴者に質問を出し、あらかじめ最大6項目の 選択肢ごとに電話番号を設定しておき、それぞれの番号に電話をかけてもらい、かかった 数(コール数)を即座に放送局に通知する仕組み。視聴者がかけた電話は最寄りの電話局 につながり、そのコール数はホスト・コンピュータに集積され、5秒ごとに放送局のパソ コンに自動的に通知される。視聴者は全国どこからかけても、通話料金は 10 円ですむ。 同じ人間が何回かけてもわからない。世論の正確な縮図とはいえない。 ◆インナー・サークル(inner circle)〔ジャーナリズム〕 普通は権力の中枢の取り巻きグループのこと。アメリカのメディアでは、ホワイトハウス や官庁の高官から特別の背景説明を受けたり、食事に招かれたり、ニュースをリークされ たりするエリート・メディアをさす。3大テレビ・ネットワークとCNN、新聞は「ニュ ーヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」「ロサンゼルス・タイムズ」「ウォールストリ ート・ジャーナル」の4紙、それに『ニューズウィーク』『タイム』の2週刊誌の計9社を いう。 ◆パパラッチ(paparazzi)〔ジャーナリズム〕 イタリア語で、はえのようにぶんぶんうるさい虫のことで、単数ではパパラッツォ。フェ デリコ・フェリーニ監督の映画『甘い生活』で、ゴシップ雑誌記者とともに働くフォトグ ラファーに名づけられ、芸能人や政治家のスキャンダルやプライバシーを暴いた写真をね らう写真家をさす。1997 年8月 31 日、パリで交通事故死したダイアナ妃が乗っていた車 を、オートバイなどで追いかけた記者たちが「パパラッチ」だったことで一般的に知られ た。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 2002 年版] ◆コンバット・プール(combat pool)〔ジャーナリズム〕 戦争取材プール。プール取材とは、取材に大勢の報道陣が参加して、めいめいが記事や写 真を送稿することが困難な場合、代表だけが取材し、残りのメンバーはその素材を利用す る方法。湾岸戦争では、アメリカ国防総省が事前にこの戦争の取材はプールに限定するこ とを明らかにし、プールの代表は体力テストに合格することを義務づけた。ベトナム戦争 のとき戦争の現実が報道されたため、ベトナム戦争反対の世論が高まったことへの反省が 根本にある。戦後、米主要新聞・テレビ 17 社はアメリカ国防総省に戦場での報道の自由を 求める 10 項目の要求を提出した。その結果 1992 年5月、プールを設ける場合でも作戦開 始から 24∼36 時間以内で解消することになった。 ◆ブラック・アウト(black out)〔ジャーナリズム〕 もともとは空襲に備えての灯火管制のこと。それから転じて、軍・警察などによる報道管 制をさす。湾岸戦争で地上戦が始まった 1991 年2月 23 日夜(アメリカ東部時間)から 25 日まで、アメリカ中東軍シュワルツコフ司令官は、「作戦成功と将兵の安全のために」情報 の完全ブラック・アウトを命令した。このためアメリカのマスコミは湾岸戦争についてま ったく沈黙しなければならなかった。 ◆ピュリッツァー賞(Pulitzer Prize)〔ジャーナリズム〕 毎年、ジャーナリズム・文学・音楽などで功績のあったアメリカ市民に授与される賞。ハ ンガリー生まれのアメリカ人ジャーナリストで新聞経営者だったジョセフ・ピュリッツァ ー(Joseph Pulitzer 1847∼1911)の遺志で、その遺産をもとに 1917 年に創設された。 新聞ジャーナリズムに関しては、国際報道、国内報道、調査報道、フィーチャー、解説、 論説などの部門がある。 ●キーワード〔ジャーナリズム〕 ●メディア法規制〔ジャーナリズム〕 2001(平成 13)年6月 29 日の朝日新聞(大阪) 「記者は考える」というコラムで、徳山喜 雄記者は大阪府池田市の児童殺傷事件についてこう書いている。「事件直後、ある犠牲者の 葬儀会場を訪れた。会場前には葬儀場の警備員に加えて約 10 人の警察官が張り付いていた。 報道関係者が近づくと『遺族の意志なので』と立ち去るよう求められた。(略)『一市民』 と名乗る若い男性が『マイクを突き付けないでほしい。ストロボも使わないで』と訴えて 回っていた。責任者らしい私服警官は『すべての葬儀場に警官を配置した』と話した。こ の光景を見て、メディアを取り巻く事態の深刻さを改めて思い知らされた。『権力対マスコ ミ』というのがあるべき姿であろう。それが、被害者の家族ら市民を警察がメディアから 守るという構図になり変わっていた」(一部略) 小泉首相は6月 20 日、同小学校の児童とのメール交換にふれて、「マスコミは現地に行っ て、そういう方々にご迷惑をかけないほうがいいと思いますよ。『静かにしてもらいたい』 という声が強いですね」と語った。 個人情報保護法案は継続審議になったが、政府・与党による「表現者」に対する法規制の 動きが、同法案、法務省の新・人権救済機関設置、青少年社会環境対策基本法案(東京都 条例改悪含む)という3点セットで進んでおり、メディア責任制度が確立しなければ法規 制が導入されてしまう危機的状況にある。 ●『フォーカス』廃刊〔ジャーナリズム〕 写真週刊誌『FOCUS』 (1981(昭和 56)年創刊)が 2001(平成 13)年8月7日号をも って廃刊した。タブーとされた写真を次々と掲載、 「フォーカス現象」という言葉も生まれ、 創刊2年目には発行部数 200 万部を記録した。しかしここ数年は 30 万部にまで落ち込んで いた。新潮社の松田宏取締役は「『FOCUS』的報道はいまや各媒体が行っており、すで に世の中に定着した。むしろその分『FOCUS』が一つの雑誌としての価値を失ってい ったともいえる」と語った。そうだろうか。 最後の編集長となった山本伊吾編集長は6月 12 日、大阪地裁で「警察の聴取を受けた担当 記者が、もし建造物侵入を犯したとして自分の名前が新聞に出たりしたならば、子どもが 学校に行けなくなるなどと精神的にひどいダメージを受け、へたをすると自殺もしかねな い状況に陥っていた」と証言した。和歌山毒カレー事件の被告人が『FOCUS』に法廷 内の盗み撮り写真を掲載されたとして、新潮社と同社取締役ら7人を相手どって損害賠償 訴訟を起こしていた。 原告側は『FOCUS』の取材に問題が多いことを論証するため、99 年末、問題の記者ら が広島刑務所から出所する直前のオウム元幹部を撮影しようとしたケースを取り上げた。 記者が刑務所の近くのビルの屋上にビデオ機材を設置したのを、刑務所係官に発見され警 察に検挙されたのだが、山本氏は、自分がそこへ機材を置くよう命じたというウソの供述 をして、主犯として刑事責任を認めることにしたと「自白」した。 日ごろは、被疑者・被害者の実名、顔写真を載せながら、部下の記者の現行犯検挙事件で、 新聞の実名報道を止めようとする倫理的退廃。『フォーカス』は自滅した。 ●大阪池田小児童殺傷事件報道〔ジャーナリズム〕 大阪教育大学附属池田小学校で 2001(平成 13)年6月8日に起きた児童殺傷事件で、新聞、 テレビは校内で児童を取り囲んで取材、被害者に2次被害をあたえた。また現場で逮捕さ れた男性が精神科に入・通院していたことが強調され、治療歴と病名が犯罪の主要な要因 であるかのような報道が洪水のように流れ、この国に 200 万人いるとされる精神医療ユー ザーの心を傷つけた。 また政府与党は戦後、違憲性があるとして何度も導入が見送られた「保安処分」さえ可能 にしようとしている。 日本のマスメディアは犯罪報道において、刑事責任を問えない可能性がある場合に仮名報 道すると決めている。しかし、今回は産経新聞、フジテレビ系に続いて、NHKが同日午 後7時のニュースで、実名、顔写真を報道、共同通信が追随して、足並みを揃えて実名報 道にふみきった。マス・メディアが自らに課した仮名報道基準をいっせいに破った。 被疑者は「有名校の子どもを殺せば死刑になると思った」と伝えられる一方で、「罪を免れ るために精神病を装った詐病」という供述も流され、報道に一貫性がなかった。被疑者は 起訴されないまま、7月8日に鑑定留置が始まった。この被疑者は逮捕から4カ月以上も 迅速な裁判を受ける権利(憲法 32 条)を奪われた。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 2002 年版]
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