World Bank Document

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21321
平等な世界を目指して
年次総会スピーチ
世界銀行グループ総裁
ジェームズ・D・ウォルフェンソン
於:チェコ共和国、プラハ
2000年9月26日
国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループの年次総会にようこそご出席下さいました。
特に、世界銀行の最も新しい加盟国となったサン・マリノ共和国の代表団を歓迎いたしま
す。
トレバー・マニュエル議長のご支援と力強いスピーチに感謝の念を表明します。議長は
、自由への闘いにおけるリーダーシップと、自由が達成された後の健全な経済運営という
たぐいまれな組み合わせを体現されました。また、総務の方々や理事の皆様には、世銀の
業務におけるパートナーシップにお礼を申し上げます。
さらに、ミッシェル・カムドシュ前IMF専務理事には、在任中のすべての功績に敬意を
表すると共に、友情や緊密な協力に感謝の意を表します。後任のホルスト・ケーラー専務
理事とも同様に緊密な協力関係のもとで仕事を進めていくのを楽しみにしています。我々
はすでに幸先の良いスタートを切りました。私もまた、ケーラー専務理事と共にアフリカ
を訪問するのを心待ちにしています。
また、先ほどケーラー専務理事が指摘された世銀とIMFの相互補完的な役割に対する我
々の共通理解について、深い賛同の念を表します。我々の共通の目標は、持続可能で平等
な成長を通じた生活の質の向上であり、貧困を緩和することです。この共通の目標を追求
するにあたって、世銀の中核的な任務は、特に開発の制度や構造、社会的側面に焦点を合
わせた貧困の緩和です。世銀はその意味で、国際金融の安定の推進と維持という主要な目
標を追求するうえでマクロ経済の問題に重点を置くIMFの役割を補完しています。
これらが極めて密接に関連していることも強調しておきたいと思います。我々がマクロ
経済の安定を蝕んでいる構造的欠陥や社会的緊張に立ち向かうことができなければ、最初
に犠牲になるのは貧困層でしょう。同時に、我々が財政的な責任を追求する中で、最優先
とすべきは貧しい人々の保護です。
今回の総会の開催地となったチェコ共和国ならびにプラハの人々や当局に対してもお礼
を申し上げます。大変困難な状況だったにもかかわらず、素晴しい仕事をして下さいまし
た。バツラフ・ハベル大統領にも感謝の念を表します。大統領はひとつの世代の希望や夢
を体現し、また代弁しているたぐいまれな人物であり、本日のお話は大変示唆に富んだも
のでした。我々は、彼の新たな価値の創造への呼びかけを、今後も常に心に留めておくこ
とでしょう。
チェコ共和国は、移行プロセスの痛みや困難を経験してきました。しかし先駆者として
歩み続け、平等な成長に欠くことのできない制度や市場構造、ガバナンス(統治)の構築
にしっかりと取り組んでいます。ヨーロッパの心臓部に位置するここプラハにこうして集
うことは、欧州統合に向けた動きの重要性を象徴するものです。
議長、私が世銀グループの総裁としてこうして議長の前で話をさせていただくのは今回
で6回目、2期目の任期では初めてとなります。私は過去5年間に多くを学びました。この
間、妻のエレーンと共に訪れた国は100ヵ国あまりにのぼります。
リオデジャネイロの貧困地区に暮らし、地域の自助的な上下水道プログラムに参加した
女性から、開発は施しではなく参加とエンパワーメント(権限の付与)だと学びました。
マングローブの湿地の環境悪化によって生計の手段を奪われたメコン川三角地帯のエビ
養殖業者からは、環境面での課題への対応を怠れば、勤勉が報われないこともありうると
いうことを学びました。
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世銀総裁就任後初めて訪問した国のひとつ、コートジボワールでは、イスラム教指導者
から、片方の手で貧しい人々に援助を行っても、もう一方の手で同額の債務返済を迫れば
、貧困の緩和にはほとんど役立たないことを教えられました。この教訓に基づいて、重債
務貧困国(HIPC)イニシアティブが生まれたのです。
そして何よりも私は、共通の人間性について学びました。貧しい人々が子どもに望むも
のは、ここにこうして集う我々すべてが子どもにしてやりたいと思うこと
―
教育、健康、保障、機会
―
と同じなのです。彼らは発言の機会を求めているのであり、施しを求めているのではあり
ません。自らの暮らしをより良くするための機会を求め、自らの人権が尊重されることを
望んでいるのです。
我々は皆このような共通の人間性のために努力し、何よりも貧困と闘うために情熱を持
ってこうして集まっています。しかし、貧困を克服するには情熱だけでは不十分です。我々
は成果を伴なう行動をとらなければなりません。そして長期的なコミットメントが必要で
す。
この10年間の根本的な変化は困難なものでしたが、貧困との闘いにおいて劇的な前進を
遂げる真の機会を提供してくれました。チャンスは目の前にあり、我々はそれをつかまな
ければなりません。
我々は貧困とは何か、そしてどのようにすれば平等な開発をもたらすことができるのか
について理解を深めてきました。我々はより有効かつ透明に、そして説明責任をもって任
務を果たせるよう、組織を変え、業務の方法を変えつつあります。
しかし我々すべて
―
開発途上国、先進国、国際機関やあらゆる形態の市民社会、民間セクター
―
が力を合わせて初めて、貧困との闘いにおいて前進することができます。貧困との闘いを
てこ入れするためのパートナーシップ、グローバル化した経済にふさわしい新しい国際主
義を構築するためのパートナーシップでなければなりません。
この建物の外では、若者たちがグローバル化に反対するデモを繰り広げています。私は彼
らの多くが正当な問いかけをしていると深く信じていますし、貧困と闘う新しい世代の意
欲を歓迎しています。私は彼らの情熱と問いかけを共有しています。我々に学ぶべき点が
多いのも事実です。しかし、互いに建設的にかかわり合い、尊重しあってこそ初めて前進
できるのではないでしょうか。こうした流れのなかで、ここプラハに対話の場を提供して
下さったハベル大統領に深く感謝しています。
新たなミレニアムに直面する世界
議長、我々は今、新しいミレニアムの始まり、グローバル化が劇的に加速した10年間の
終わりという節目に立っています。これまでの歩みを振り返り、現状を評価し、将来に向
けてのビジョンを用意すべき時です。今我々は大いなる機会の到来と共に、途方もない課
題も抱えています。我々はグローバル化を機会ととらえ、貧困を課題として受け止めなけ
ればなりません。では、我々の言うグローバル化とは、一体どんなものなのでしょうか。
グローバル化とは、世界の相互関連性や相互依存度が高まることです。
グローバル化とは、国際貿易や投資、金融が国民所得の伸びをはるかに上回るペースで
拡大し、各国の経済がますます密接に統合されるようになることです。
グローバル化とはまた、国際的な金融危機をも意味します。東アジアの経験にみられる
ように、一国の金融不安がすべての国に影響を及ぼす可能性があります。
グローバル化は、数年前には想像も及ばなかったほど我々のコミュニケーション能力を
変貌させてしまった技術とも関係があります。
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グローバル化は疾病、特にエイズやマラリア、結核とも関連があります。また犯罪や暴
力、国境を越えた脅威やテロリズムともかかわっています。
グローバル化は、労働者が自らの能力を開発し、経済統合の進展によって生み出された
雇用を通じて家族を支える新しい機会をもたらします。
一方で、グローバル化は、先進国の労働者に、労働者の権利が制限されている低コスト
の国に雇用を奪われるのではないかという不安をもたらしています。そして開発途上国の
労働者は、遠く離れた多国籍企業の本社で自分たちの生活に関わる決定が下されることに
不安を覚えています。
つまり、グローバル化は機会をもたらすと共に、リスクも伴うのです。我々はこうした
リスクに対し、各国レベルでは、調整プロセスの管理や、社会、構造、金融システムの強
化によって対処しなければなりません。グローバルなレベルでは、より堅固な国際金融シ
ステムを確立し、疾病と闘うために努力し、環境悪化の流れを押し戻し、通信手段を活用
して声なき人々の声を取り上げていかなければなりません。
議長、グローバル化の流れを後戻りさせることはできません。我々の課題は、グローバ
ル化を恐怖や不安の材料ではなく、機会や参加の手段にすることです。
この10年間は、グローバル化が加速しただけではありません。開発途上国における政策
の質も大幅に向上しました。世界中で、初等・中等学校に通う子どもたちの数が増えまし
た。多くの国で人々の寿命が延び、乳幼児や妊婦の死亡率が低下しています。経済政策の
分野では、インフレ率は低下し、市場は自由化され、投資も力強い伸びを示しています。
経済見通しも明るく、開発途上国の国民一人当たり所得は年率3%を軽く上回る伸びが
期待できます。これはここ数十年で最も高い持続的な伸びで、先進国の伸び率を上回って
います。事実、開発途上国の多くの人々は、こうした政策の改善とグローバル化がもたら
した果実を享受しているのです。
しかしあまりにも多くの国にとって、こうした楽観的な状況はいまだに幻に過ぎません
。
あまりに多くの国々で、人口の増加が国民一人当たり所得の伸びを帳消しにしています
。あまりに多くの国々でエイズが平均余命の延びを帳消しにし、数え切れないほどの悲し
みと苦難を引き起こしています。あまりに多くの国々で、兵器や戦争、紛争が開発を帳消
しにしてしまっています。グローバルなレベルでも、不安定な原油価格や商品価格、為替
相場の激しい変動を考えると、楽観的な見通しに安心してはいられません。
我々は不平等というひずみを抱えた世界に生きています。世界の人口のうち、最も豊か
な上位20%の人々が世界の所得の80%以上を得ている状況は、どこかおかしいと言わざる
を得ません。現在多くの国々でみられるように、人口の10%が国民所得のほぼ半分を得て
いる状況には問題があります。最も豊かな上位20ヵ国の平均所得が、最も貧しい20ヵ国の
平均所得の37倍に達している状況はどこか間違っており、その格差は過去40年間で2倍あ
まりに拡大しています。12億人がいまだに1日1ドル以下で生活し、28億人が2ドル以下で
暮らしている状況は、何かが間違っているのです。
あらゆる力が世界を小さくする方向に動いている今、考え方を改めなくてはなりません
。我々は今こそ自分たちがひとつの世界に共に暮らしており、貧困は、住んでいる場所に
かかわらず、我々の社会の問題だと認識すべきです。貧困は我々の責任なのです。政治指
導者たちも、今こそこうした責務を認識すべきです。
今やリスクはかつてないほど高まっています。これまで開発を大きく阻害してきた紛争
は、決して歴史の単なる偶然ではありません。深刻な貧困を抱え、一次産品への依存度が
高い国では、紛争発生のリスクがはるかに高くなっています。所得格差の著しい国では、
暴力的な犯罪の発生リスクが一段と高くなっています。そして、今日のグローバル化が進
む世界にあっては、ある社会においてあてはまる事は、国際紛争やテロにもあてはまるの
です。
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貧困との闘いは、まさに世界平和と安全保障のための闘いなのです。
貧困との闘い方について我々は何を学んできたか
これらの課題に取り組むにあたって、我々は共に行動しなければなりません。また我々
は経験から学んだ教訓を参考にしなければなりません。我々は何を学んできたのでしょう
か。
我々は、貧困とは不十分な所得や、人的能力の開発不足以上のものであることを学びま
した。貧困は発言の機会や自分たちの声を代弁する者を持たないことであり、権力の乱用
や汚職の影響を受けやすいことでもあります。また女性に対する暴力や犯罪への恐怖、さ
らには自尊心の欠如にもかかわってきます。
貧困とは、我々が60ヵ国の6万人の貧しい人々を対象に行った聞き取り調査から学んだ
ように、行動や選択の基本的な自由や機会を持たないことです。
我々は、市場主導の改革に社会や制度の開発を組み合わせれば、貧困層にも経済成長を
もたらすことができることを学びました。我々は、経済成長が持続的な貧困緩和に向けた
最も強い力であることを学びましたが、経済成長は柱とはいえそれだけでは不十分なので
す。
本気で不平等と闘うつもりであれば、貧しい人々が教育や健康、土地を含む資産を築く
手助けもしなければなりません。農村部、都市部を問わず、貧困地域向けにインフラを整
備したり、知識の普及を図る必要があります。根深い不平等に立ち向かい、ジェンダーや
民族、社会、人種の溝を埋めていかねばなりません。我々は貧しい人々を凶作や自然災害
、犯罪、紛争、疾病、失業から守らなければなりません。
開発は包括的なものでなければなりません。教育や保健医療だけでなく、良いガバナン
ス(統治)や汚職との闘い、立法・司法改革や金融部門の改革も含む必要があります。開
発は健全な経済政策を伴なわなければならないのと同様に、インフラ整備や環境保護も含
まなければなりません。これらすべての要素が相互に依存しあい、補強しあっているので
す。
また、これは根本的なことですが、我々は開発を上から押しつけることはできないこと
を学びました。開発のための普遍的な青写真などありません。それぞれが独自の計画を立
て、自主的に実施していかねばならないのです。
それぞれの国で策定され採用される包括的なアプローチ無しには、我々は平和で平等な
世界に不可欠な開発を達成することはできないでしょう。
我々は学んだことを実践しています。1年あまり前、包括的アプローチの重要性を認識
して、我々は包括的開発のフレームワーク(CDF)をスタートさせました。総合的、長期
的で当事国が主体となるこのフレームワークは、現在12ヵ国で実施されています。
我々は昨年からIMFと共同で、パートナー諸国による貧困緩和戦略の策定を支援するこ
とを始めました。貧困緩和戦略とは、当事国主体の、貧困に焦点を合わせた戦略です。我々
の包括的フレームワークや貧困緩和戦略は、開発コミュニティで高い評価を得つつある開
発へのアプローチを具現化したものです。
このアプローチを貫く重要な要素がひとつあることを認識する必要があります。それは
参加です。参加はプロジェクトやプログラムのレベルで力強い結果をもたらし、社会変革
や改革の基盤となる社会的なコンセンサスを生み出すことができます。これは自由の一部
でもあります。
参加の重要性を強調するのに、ビロード革命を生み出したここプラハ以上にふさわしい
場所があるでしょうか。世界中の貧しい人々が求めていると言っているもの―より良い生
活を送るための自由と参加と発言の機会
―
を再確認するのに、この地以上にふさわしい場所があるでしょうか。
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参加は様々なかたちで可能であり、各地で良い結果を出しています。
バングラデシュでは、我々は500万人以上の貧しい人々へのマイクロ・クレジット(小
口融資)を主導している非政府機関(NGO)を支援しています。この貧しい人々の9割は女
性です。
ウガンダで我々は、地域グループに対してマッチング・グラント(補完的な無償資金)
の供与を行ってきました。この結果、学校の出席率や保健施設の利用率は劇的に改善して
います。
インドでは、民主主義の進展によって、ごく小さな町にまで人々の参加が波及すること
が示されました。改革によって、地方議会における女性議員の比率が上昇しました。
我々は借入国政府の支援やリーダーシップのもとで、地域社会や地方自治体、民間セク
ターや市民社会と協力して、地域社会が主体となった開発を支援しています。
インドネシアでは2,000あまりの村や地域社会のグループが、地方の補助金を受けるた
めに独自の提案を作成しています。
ベニンでは女性たちが森林を守り、森を燃料源ではなく収入源にしています。
また国内レベルでは、我々は貧しい人々が経済や社会に参加でき、またその恩恵を享受
できるような力強い制度づくりを支援しています。国の機関を貧しい人々のニーズに対応
できるようにする必要があります。あまりに多くの国々で貧困との闘いが、政策や規制、
法律に不当な影響力を持つ経済エリートの既得権との闘いでもあることを認識しなければ
なりません。
各国政府と連携し、包括的アプローチを実現でき、参加と平等、包含を実現できるなら
ば、開発の民主化は現実のものとなるでしょう。
情報通信革命
今日、我々はほんの数年前までは想像もできなかった規模で、すべての人々を巻き込むこ
とができるユニークな手段を手にしています。情報通信革命は、従来型の開発を一変させ
てしまうでしょう。
この革命は、グローバル経済の姿を塗りかえる歴史的な機会を約束します。知識と情報
への広範で平等なアクセス、エンパワーメントの強化や地域社会の参加、経済成長、雇用
、基本的サービスへのアクセスの改善などを通してです。
この5年間にわたって我々は、どうすれば開発を加速するために情報通信技術と知識の
力を活用できるかを考えてきました。
我々は、分析や助言を通して、またグラント(無償資金)供与ファシリティーであるイ
ンフォデブ(infoDev)を通して、各国政府との協力のもと、政策、規制、ネットワークの
即応体制を強化してきました。
我々は、研修を実施し、幅広い学習コミュニティを提供する、グローバル・ディベロッ
プメント・ラーニング・ネットワーク(Global
Development
Learning
Network:
GDLN)を通して、世界中の開発リーダーを結んでいます。
開発のためのワールド・リンク(WorLD
Links)というプログラムを通して、開発途上国と先進国の間で中等学校の教師と生徒を結
びつけています。
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最新の情報通信技術を利用して「建物のない大学」を創設し、サハラ以南のアフリカ諸
国をアフリカ・バーチャル(仮想)大学を通じてグローバルな教授陣や学習教材と結びつ
けています。
グローバル・ディベロップメント・ゲートウェイ(Global
Development
Gateway)やグローバル・ディベロップメント・ネットワーク(Global
Development
Network:
GDN)を通じて、時代を越え、知識を共有します。我々は、知識のネットワーク、グロー
バルな研究、草の根レベルの実践的地域社会を支援しています。
そして最後に、我々は世界中の貧しい地域社会で利用されている実用的なアプリケーシ
ョンを数多く開発しています。現地の言語で知識を伝え、新規事業を起こすためのコミュ
ニティを構築し、医療を支援し、お互いを、そして世界と彼らを結びつけるのが目的です
。
情報通信革命によって、権限を付与され、参加を現実にするかつてない機会がもたらされ
ました。世界中の貧しい人々が行動を求めています。「貧しい人々の声」の事後調査結果
によると、多くのグループが主要優先事項として情報通信技術へのアクセス拡大を我々に
求めています。
インターネット、遠隔教育、携帯電話やぜんまい式ラジオを通じて、村の長老や熱心な
学生が大蔵大臣と同じ情報にアクセスできる日が到来するよう我々は努力する必要があり
ます。
通信技術のおかげで、我々は本当の意味で参加する手段を手に入れることができます。
対等にプレーできるフィールドが作られます。これが真の平等です。
結果を出す世界銀行
世銀はその歴史を通じて、第二次大戦後の復興からグローバルな開発の課題まで、変化
する外的環境にいつも適応してきました。こうした変化は今日も続いています。世銀の歴
代総裁が成し遂げた功績や過去の堅固な基盤の上に築いた、この5年間の我々の活動につ
いてもう少し紹介しましょう。
この5年間、世銀は引き続き貸付を、保健、教育、社会保護などの社会分野に集中的に
行ってきました。こうした貸付は、現在では世銀貸付の約4分の1を占めています。
5年前、エイズに対する世界的な闘いに投じられた世銀の貸付額はわずかでしたが、今
日では、アフリカ向けに最近供与された5億ドルのプログラムを含めおよそ10億ドルにの
ぼります。5年前には、紛争後の活動に従事することはありませんでしたが、今日では35
カ国以上の国で活動しています。5年前には、重債務貧困国(HIPC)イニシアティブなど
考えもしませんでした。今日では10カ国に対して債務救済に合意し、年末までにその数を
20カ国にするべく最大限の努力をしています。5年前には、汚職撲滅プログラムは行って
いませんでしたが、この5年間に600件あまりを処理しました。5年前には、環境に「害
を及ぼさない」ことだけを重視していましたが、今日では気候変動や生物多様性のプログ
ラムを含む環境のポートフォリオは150億ドルにのぼっています。
各国政府との協力のもと、ガバナンス(統治)と投資環境の整備にも努めています。イ
ンフラ整備に民間セクターがより効果的に貢献できるように、健全な規制環境の整備に努
めています。国際金融公社(IFC)は革新的な各種プロジェクトと資産の増加を通じて、
投資機会の新規開拓に努めています。また多国間投資保証機関(MIGA)による保証も5
年前の6億ドルから、今日では15億ドルあまりに増加しています。
我々は結果を重視し、結果を出してきました。我々が、実行できる以上のことを約束して
いるという声が一部にあります。
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1995年、私は世銀が「知識の銀行(ナレッジ・バンク)」になると宣言しました。我々
はこの点で大きく前進しています。1996年には、私は世銀が「汚職というガン」と闘うと
宣言しました。そして今や世銀は、その闘いの先頭に立っている組織のひとつです。1997
年、私は「包含するという課題」について話をしました。実際、我々は、弱者や社会のふ
ちにいる人々を舞台の中央に押し上げようと、これまで以上に努力しています。1998年、
私は基本的な経済成長を、社会的、構造的発展とバランスのとれたものにする必要に言及
し、包括的開発のフレームワーク(CDF)の構築を呼びかけました。それ以来、我々はこ
のアプローチを試みており、よりグローバルな基盤に立った貧困緩和戦略を導入してきま
した。1999年、私はガバナンス(統治)と能力構築、他者とのパートナーシップの重要性
についてお話しました。我々は日々これらの問題に取り組んでおり、大きな成果を上げて
います。
そして、我々はプログラムの質を高めるため、絶えず努力しています。この5年間に、
独立した組織である評価局により、満足できる、あるいは改善されたと評価された貸付業
務の割合は大幅に伸びました。5年前には未達成が懸念されるプロジェクトの比率は34%
でしたが、今日では15%に減少しました。借入国と我々との距離は一段と短縮されました
。今や国別担当局長の半数と職員2,300人が、現地に駐在しています。また、5年前には一
切公表されていなかった国別援助戦略の85%以上が公開され、透明性も高まりました。
我々の開発に対する取り組みは変化し、世銀は変貌しました。 我々はすでに目標を達成
したでしょうか。そうとは言えません。しかし大規模な改革プログラムの半ばは過ぎたと
言えるでしょう。今後5年間、このプログラムの実施にさらに力を入れていきます。
我々は各国のプログラム支援にあたり、IMFと協力しながら、社会的、構造的課題に責
任を持って取り組む用意があります。我々は、選択や役割分担について、国連諸機関や他
の多国間開発銀行と協力しています。 我々は、単に我々のプロジェクトを実施するのでは
なく、各国政府と協力して、その国自身の政策や制度の推進を支援しています。
こうしたことすべては、我々の業務戦略に一層の変化を迫るものです。広範な基準を設
定する各国政府の努力への支援を拡大し、細部にわたる介入は削減していく必要がありま
す。
我々は、基本原則に重点を置き、貸付条件を簡素化します。我々は、援助供与国による
支援と政府予算や政策サイクルに沿ったプログラム貸付によって、その国が主体となった
国別戦略を支援します。この目的のために我々は、貧困緩和支援融資を導入します。
プロジェクトでもプログラムでも、我々は各国特有の個別のニーズに柔軟に対応し、助
言や貸付、無償資金供与によって地域プログラムを支援するための革新的な方法を模索し
ています。
我々は、借入国の行政的負担を軽減するため、開発コミュニティのパートナーと協力し
て、調達、環境、報告基準・手続きの調和と調整を図ります。
我々は、これが規模を拡大し、より迅速で、柔軟で、効果的な実施への道だと信じていま
す。
また、中所得国の貧困克服に対する我々の取り組みを続け、強化していくことをここで
明言します。
我々は、1日2ドル以下で暮らしている中所得国の10億人の人々を無視することはでき
ません。我々は引き続き、貧しいコミュニティにおける教育、保健、社会保護の分野で、
資金と知識を活用していきます。
我々は今後も、改革の推進に不可欠な貸付と貸付以外のサービスの相乗効果を生かして
いきます。貧困緩和にとって極めて重要な投資、雇用環境を改善するため、国や地域当局
との協力を続けます。時が経てば、これらの国々の市場へのアクセスは拡大するでしょう
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。それでも、こうした国々に、貧困との闘いに必要な資金を不安定な資本市場からの調達
に頼るよう求めることはできません。我々のパートナーシップは、長期的なものでなけれ
ばならず、良い時も悪い時もコミットし、貧困対策を重視するものでなければなりません
。
条件の厳しい業務であり、予算は著しく制約されています。この機会をお借りして、現
在の変革期に懸命に働き、プロ意識をもって貢献した世銀グループの幹部らと職員に深い
感謝の念を表します。彼らは世界で最も献身的で有能な、開発に携わるチームでしょう。
彼らとその家族を称え、彼らと共に仕事ができることをたいへん誇りに思います。
前進:責任と機会
私は機会、保障、エンパワーメントについて語りました。参加、透明性、説明責任にも
言及しました。では、責任はどうでしょうか。
2年前、我々は援助の有効性に関する調査結果を発表しました。その調査結果は極めて
明解でした。良い政策をとっている国は援助を有効に利用し、良くない政策をとっている
国では援助は浪費されています。健全な経済成長のためにこうした良い政策を実施する国
が増えています。順調に前進している国も増えています。
自らの責任を果たす開発途上国は増え続けています。では、先進国はどうでしょうか。
一部の国は責任を果たしており、我々はそれらの国々に心から感謝しています。でも、多
くの国は責任を果たしていません。私は、今後、いくつかの優先分野に焦点を当てる必要
があると考えています。
第一に、多くの先進国は開発途上国向け援助において、国際的に認められた目標額を大
幅に下回っています。これらの国々は援助を増やさねばなりません。
第二に、先進国は、より深く、より早く、より幅広い債務救済のための資金を提供する
必要があります。重債務貧困国(HIPC)に早急に対応するためには、豊かな国に財源を
求めざるを得ません。このイニシアティブの財源は、よりコストのかかる他の中・低所得
国への支援を削って確保されるべきではありません。
第三に、先進国は貧困国に対する貿易障壁を撤廃する必要があります。我々の試算によ
ると、先進工業国による貿易障壁の年間コスト総額は、開発援助総額の2倍あまりにのぼ
っています。
第四に、エイズ、環境、基礎教育、保健など差し迫った課題に対しては、無償資金供与
を含む革新的な手段を模索すべきでしょう。世銀は、開発グラント・ファシリティーを強
化する必要があります。
第五に、多国間および二国間の援助国は、手続きを簡素化し、業務コストを軽減する努
力をしていくべきでしょう。
そして最後に、我々は、グローバル・レベルでの行動を必要とする問題がますます増え
ていることを認識する必要があります。我々はともに行動していかねばなりません。
今が絶好のチャンスです。今ほど豊かな国が潤沢な予算を抱えた時はかつてありません
でした。今ほど技術がダイナミックな時代はありませんでした。今ほど成長予測が明るい
時代は稀でした。あらゆる国の人々の行動が、貧困緩和へ向けた新たな決意によって推進
されなければなりません。
人口統計が我々に課題をつきつけています。現在60億人の世界人口は、25年後にはさら
に20億人近く増えると予想されます。その増加のほとんどは開発途上国でみられるでしょ
う。25年後の欧州の人口は現在とほぼ同水準ですが、開発途上国の人口は現在の50億人か
ら70億人近くに膨らみます。
開発への断固たる決意なくしては、欠乏、困窮、絶望の波を食い止めることはできない
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でしょう。公平な世界を作り出すことはできず、子どもたちに平和や安定を保証すること
はできないでしょう。今日ここに集った人は皆、我々にはもっとできることがあり、それ
を実行に移さなければならないことを知っています。
議長、我々は歴史的な機会を手にしています。
この新しい世界、我々の理解の深まり、より賢明な開発コミュニティ、国際機関が置か
れた環境の変化が意味するのは、ともに協力し、開発の方法を変更し、声なき人々に発言
の機会を与えることによって、今後10年間に貧困との闘いで真の結果をもたらすチャンス
があるということです。
グローバル経済、情報化時代、救命および生産性向上技術をめぐる機会と確かな見通し
は皆、我々の手の届くところにあります。
我々はグローバル化のメリットを生かし、ごく一部の人たちだけでなく、多くの人に繁
栄をもたらすために協力していかねばなりません。
これは単なる新しい経済プログラムではありません。共通の道義的、社会的価値観に基
づく義務、良識のある自己利益に基づいた義務でもあります。次の世代に平等で、平和で
、安全なより良い世界を残す義務なのです。
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