雲からのメッセージを探る −雨や雪 を調べよ う− 小学校理科C区分では,地表,大気圏及び天体に見られる諸現象の観察などに基づいて,それら の規則性をとらえることや,時間的・空間的な現象の見方や考え方を育てることに重点が置かれて 構成されている。しかし,自然に見られる現象は突発的であり,一過性である。ここでは,自然環 境に目を向けさせるために,身近に観察できる素材として雨や雪を取り上げ,その教材性を検討し た。 [ キーワー ド]小学 校理科 環境教 育 水の 循環 雨 と雪 はじ めに 環境を考えるときに欠くことのできないもの 方 水 蒸気の 行方 法 (1) 図1のように, のなかに水がある。その姿は,固体・液体・気 タッパーまたは 体と様々に変化させ,私たちの周りに存在して シャーレに紅茶 いる。その水の循環は,海をスタートとして大 のこし網でこし きくとらえた場合に,「海の水が蒸発して雲を た小麦粉を8分 つくり,雨が降り,川ができ,その水がまた海 目ほど入れ,ふ へ戻る」となる。 たをしておく。 小学校では,第4学年C区分の内容で,「水 (2) 雨が降り出し は常温でも水面から水蒸気になって蒸発し,空 たら,5秒〜30 気中の水蒸気は,雨,雪,霜などに変わって再 秒程度ふたをあ び地面に戻ってくることなどを調べ,自然界で けたタッパーを は水が循環していることをとらえられるように 雨の中に出す。 図1 小麦粉の選別 する」とあるように,自然環境に直接働きかけ (3) 時間がきたらタッパーのふたをして中の ることを重視し,小学校で環境教育を行う場合 小麦粉とよくからめ,小麦粉が固まるのを の重要な観点が含まれている。 待つ。 ここでは単に川の働きについての学習をする (4) 静かに紅茶のこし網でふるい,こし残っ だけにとどまらず,水を総合的にとらえ,自然 た小麦粉の固まった粒を取り出し,大きさ 界の水の循環という視点,さらに環境教育とい を記録する。 う視点から,子供が興味・関心をもって学習す る実験事例について紹介をする。 (5) 固まった粒を用紙にのり付けし,ラベル に採集日と降水量を記入し張り付ける。 (6) 小麦粉で固めた雨粒に,採集当日の天気 1 雨の大きさを調べる実験例 準 備 タッパー(10cm×10cm)又はシャーレ,ピン 図や降水量などの資料を張り付ける。 (7) 同様に注射器を使い,0.01cm3,0.02cm3, 0.05cm3・・の水の粒を小麦粉の中に落とし, セット,小麦粉,紅茶のこし網,黒い紙,のり, 採集した雨粒と比較し,雨粒のおおよその ラベル,新聞の天気図等 体積を調べる。 結果 と考察 表1 雲粒と雨粒の大きさ (単位 mm) (1) 水の量と小麦粉の粒の大きさは図2のと 降り方 1時間 1日の おりである。 の雨量 雨 微 周囲の状況 量 雨 1以下 5以下 傘がなくても,なんとか外にい られる 小 雨 1〜5 5〜20 傘が必要になり,水たまりもで きる 並 雨 5〜10 20〜50 雨らしい雨が降ったという感じ 大 雨 10〜20 50〜100 下水があふれるところもあり, 川はかなり増水する 豪 雨 20以上 100以上 浸水や土砂崩れのおそれもでて くる (「地学観察実験ハンドブック」より) 図2 小麦粉で採集した水粒 (2) 紅茶のこし網の中にちょっと大きめの粒 2 雨の強さ 準 備 金のたらい(又は傘),ビデオカメラ,テープ ぶがでてくる。小麦粉だけが固まっている レコーダー,記録用紙 物は,指で押すと崩れるのに対して,雨粒 方 で固まった物は崩れにくいで区別できる。 (3) 同じ時間に採集した雨粒なのに大きさが 違う。 法 (1) 雨の降り始めと同時に,グラウンドのよ うな広い場所で,金のたらいを頭にかぶり, 金のたらいで雨をうけ,その音を聞く。ま (4) 10cm四方のタッパーを使い雨粒を集めた た,同時にテープレコーダーで金のたらい 場合,1㎡ あたりに降った雨粒の量の検討 にあたる雨の音を録音し,雨の降り方につ へと発展性がある。 いて観察した感想を記録する。 参 考 (1) 寒冷前線の降雨時には,15分間間隔で雨 粒を採集し,時系列に並べ雨粒の大きさを (2) 降っている雨をビデオカメラで写し,雨 粒の落ちている速さを記録する。 結果と考察 比較したり,年間を通して資料を収集する (1) 時間とともに雨の音が変わり,同じ強さ ことによって,季節と雨粒の関係などを考 や大きさで降っていないことがわかる。 察することもできる。 (2) 簡単な方法なので,授業時間でも家庭で の学習としても行うことができる。霧雨の (2) 傘よりも,金のたらいの方が雨の強さを 音として体感できため,強さを比較しやす い。 時は,網戸用の網を利用して,雨粒を集め (3) 道路に近いところでは,雨の音ばかりで て小麦粉の中に落として観察することもで なく,車の音などの雑音が多く,再生した きる。雨の降り方と雨量については,表1 ときに聞きづらい。このような場合には, のようになっている。 集音マイクなどを利用する必要がある。 (3) 冬は,雪を同じ方法で採集し,雪の見た (4) ビデオカメラの再生は,近くを落ちる雨 目の大きさと実際の大きさを比較すること 粒がよくわからなかった。このことから, も重要である。 降っている雨の速さを感ずることができた。 参 考 (1) ビデオカメラを利用する場合には,走行 している車や野球のボールを投げたビデオ など,速さを比較するものを用意しておき 比べるとより実感を持つことができる。 (2) 雨の強さを調べる方法としては,地面か らの跳ね返りを観察するのも方法である。 (3) 雨粒が落ちる速さについては,表2のと おりである。 表2 雨粒の大きさと終末 速度 最初の直径(mm) 終末速度(m/s) 0.001 0.00003 0.002 0.00012 0.005 0.00075 0.01 0.003 (5) 食塩と氷を混ぜたものをアルミニウム缶 0.05 0.075 の中に入れ,水たまりの中に立て,水たま 0.1 0.30 り付近の様子を観察する。風がある場合に 0.5 2 は,画板などで風を防ぐようにするが,明 1 4 るい方が水たまりの様子が観察しやすいの 9 で,南側をあけるようにする。 10ひょう (「一般気象学」より) 図3 水蒸気の確 認 (6) この装置のペットボトルとアルミニウム 缶の間に線香の煙を流し込み,ペットボト 3 雨のゆくえ ルの口から流れ出てくる煙の様子を観察す 準 備 る。 ペットボトル,アルミニウム缶,三脚,割 り箸,氷,食塩,線香,画板又は板,マッチ, 結果と考察 (1) 地面を掘ってみると,水たまりができる スコップ ぐらいの雨が降った割に,雨水が深くまで 方 しみ込んでいないことが確認できる。 法 (1) スコップで水たまりの近くの土を掘り起 (2) 線香の煙を水たまりの上にかざしただけ こし,どの深さまで地面に水がしみ込んで では,水蒸気の様子が分かりづらかったが, いるか観察する。 冷気とともに線香の煙を流すと,線香の煙 (2) 水たまりの様子を観察し,湯気があがっ ていないことを確認する。 の量以上に煙がが出てくる。 これは,水蒸気が線香の煙を核として湯 (3) 線香に火をつけて,その煙を水たまりの 気となったためと考えられ,普通の状態で 上にかざし線香の煙の様子を観察する。 は確認しづらい,雨からの水蒸気の様子を (4) 図3のように,三脚の中にペットボトル 確認することができた。 の底を切り,途中にアルミニウム缶を支え (3) 寒剤を使って線香の煙を流す実験だけを るための割り箸を入れ,水たまりの中に立 行った場合,単に線香の煙だけが流れてい てる。 ると勘違いをする子供が出てくるので,寒 剤を入れてアルミニウム缶をペットボトル の中に入れずに,線香の煙だけを流す実験 を行い,比較する必要がある。 おわりに 雲から降ってくる雨や雪は,北海道に住む子 供たちにとって,自然なことであり,ごくあた (4) 水たまりの水がなくなるのは,地面にし り前のことでもある。しかし,小学校で子供と み込むことだけでなく,水蒸気となって蒸 ともに自然環境について学習するためには,身 発していくことを確認できる。 近でいつでも簡単に観察できるような素材が適 考 している。その点からも,雨や雪は教材として 参 (1) この実験は,教室の中でも行うことがで 十分に活用できる。 きる。バットに湯気が出ない程度のぬるま また,発展として降り出した雨や雪を集め, 湯を用意し,アルミニウム缶の中に氷と食 時間によってその性質がどのように変わってい 塩を混ぜたものを入れ,ぬるま湯の中に立 くか調べることもできる。降り始めから1分ご てる。明るい方が見やすいので,スタンド との雨や雪を採集して蒸発乾固させて,残留物 などを用意して水面をてらすとよい。 を観察したり,指示薬を使って調べたり,パッ (2) また,氷と食塩の混合比は,氷100に対し て食塩33という割合である。この割合が寒 クテストなどを用いて水質を調べるなどの活動 へと発展させることが考えられる。 剤としての性能に優れており,−21.3℃程 雨や雪の学習は,人間生活との関連性を考え 度になる。(「化学データブック」より) させるなど子供の発想を生かすことにより,自 然界の水の循環の様子について,より広がりを 4 雨や雪をつくるも の 準 備 ビーカー,電気スタンド 方 法 持った学習へと進展させることができる。 これまでの実験をもとに,小学校理科におけ る他の単元との関連性を考えてみると,表3の ようになる。 (1) ビーカーに雨をためて,たまった雨の様 子を観察する。たまった雨水の様子が観察 しづらい場合には,電気スタンドで雨水を てらす。 (2) 同様に雪も解かして,ビーカーにたまっ た水の様子を観察してみる。 結果 と考察 ビーカーの中にいろいろな小さな粒が見える。 特に,雪の場合には,白い雪のはずなのに,解 けた水の中には,黒っぽい物が含まれているの で,意外性がある。 参 考 (1) メスシリンダーを利用して同体積の水と 雪を比較し,その違いを体感しよう。 (2) あわせて1日の積雪量を調査しておくと, 雪が降った時の雪の核になった物質がわか り,そのときの上空の汚れの様子も観察す ることができる。 表3 単元の関連図
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