広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報 - ESD・ユネスコスクールフォーラム - 第 2 号 (平成 26 年度) 広島 ESD・ユネスコスクール研究会 (広島県ユネスコ連絡協議会) 2015 年 12 月 目 次 【研究会発表報告】 ドイツの学校教育における ESD の取り組み………………………………………………1 阪上弘彬 持続可能な社会づくりのために平和の担い手となる子どもを育てる……………………6 -幟町小学校における ESD の取組- 岡本順子 幼児期からの ESD-就学前教育における ESD 研究の現状-……………………………16 森川敦子 どのような教育が平和構築に貢献しうるか………………………………………………21 -戦争記憶の継承に焦点をあてて- 長尾実咲 カフェ(喫茶店)から見える ESD……………………………………………………………23 -総合的な学習の時間のための教材開発- 潮田愉子 ESD ユネスコ世界会議(名古屋・岡山)の成果と今後の展開……………………………25 中山修一 イスラム社会における ESD に関する研究-親和性に焦点をあてて-…………………33 松井理恵 第 1 回広島県ユネスコ ESD 大賞の報告……………………………………………………35 河原富夫 【論文】 グローバル化の視点に立つ ESD としての高校地理教育の教材開発にむけて…………37 和田文雄 【研究ノート】 検証:教育振興基本計画のなかの ESD……………………………………………………47 中山修一 【事業計画】 広島 ESD・ユネスコスクール研究会 平成 26 年度 事業計画……………………………56 【執筆要項】 『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報』執筆要項……………………………………57 阪上弘彬「ドイツの学校教育における ESD の取り組み」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、1-5 頁。 ドイツの学校教育における ESD の取り組み 阪 上 弘 彬* 1.はじめに 本稿は、①2000 年以降のドイツの教育の現状と ESD の特徴について、②筆者が実際 に訪問したドイツの学校(授業等を含む)の様子や ESD の内容をどのように学校内で位 置付け、実践をしているかについて紹介・報告するものである。 2.ドイツの学校教育と ESD 1)ドイツの学校教育の現状 連邦制を採用するドイツでは各州に様々な権限が付与され、教育の分野においても各 州が独自の政策やカリキュラムを展開している。また第 1 図が示すように、中等教育が 分岐している点は日本と大きく異なる点である。 第 1 図:ドイツの学校系統図(http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2011/08/p235_t8-2-4.pdf より引用) 2)PISA(国際学力調査)を契機とした教育改革 1995 年の TIMSS(国際数学・理科教育調査) 、2000、2003 年の PISA(OECD 生徒の学 習到達度調査)によるドイツ国内の学力不振を契機として、教育改革がなされた(原田、 2006)。第 1 表は KMK(各州文部大臣会議)が採択した「7 つの行動分野(Sieben Handlungsfelder)」を示したものである。 3)ドイツの学校教育における ESD 政策 (1)教育改革における ESD の位置付け 2000 年以降に展開された教育改革は、ESD の展開に対しても影響を与えている。 * 広島大学大学院教育学研究科大学院生、日本学術振興会特別研究員 -1- Komission e.V.(2011)によれば、 「教育改革によって、ESD へ向けた学際的な学習方法 の統合や、必要に応じた学校外とのパートナーとの協力についても、新たな可能性が開 かれつつあり」 、ESD によって学習のあり方に変化がもたらされると考えられる。 第 1 表:7 つの行動分野 ①就学前教育段階からの言語能力の改善 ②就学前教育と基礎学校との接続の改善 ③基礎学校教育の改善(読解力・理数の基礎理解) ④教育的に不利益な条件を背負う子供への支援 ⑤教育スタンダードに基づく授業と学校の質的保障と改善 ⑥教育の専門性(診断と方法コンピテンシー)の改善 ⑦特別支援を必要とする生徒及び特に才能のある生徒への教育提供、終日(全日)教育に よる教育・支援の拡充 (原田(2006)より作成) (2)国レベルにおける ESD の取り組みと役割 学校教育における ESD の取り組みは、「国連持続可能な開発のための教育の 10 年 (UNDESD)」以前からすでに取り組まれてきた。代表的な取り組みが、教育計画・研 究振興のための連邦・州委員会(BLK)による「BLK-Programm”21”」(1999-2004)と 「Transfer21」 (2004-2008)の 2 つである。前者ではドイツのほぼすべての州、200 校が 参加するとともに、後者では 2500 校が参加した。その結果を受けて、ESD で育む能力 「形成能力(Gestaltungskompetenz)」が開発された(トランスファー21、2012)。 ESD の取り組みにあたっては、ESD の内容が多岐にわたることもあり、ドイツでは 年次テーマ(第 2 表)が示されている。2007 年から 20013 年までは個別的なテーマを 扱っているが、2014 年は UNDESD の最終年ということもあり、今までの取り組みをま とめる大きなテーマが掲げられていることがわかる。 ESD の果たす役割を考えた場合、学習内容の部分が強調されているが、トランスファ ー21(2012)によれば、学校経営・教員の質的向上にも大きな役割を果たしている。 第 2 表:ドイツにおける ESD の年次テーマ 年次 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 テーマ 文化多様性(kulturelle Vielfaht) 水(Wasser) エネルギー(Energie) 金(Geld) 都市(Stadt) 栄養(Ernährung) 交通(Mobilität) 将来への架け橋(Brücken in die Zukunft) (http://www.bne-portal.de/aktuelles/jahresthema-2014/uebersicht-aller-jahresthemen/より作成) (3)州レベルにおける ESD の取り組み ラインラント=プファルツ州教育センター(Pädagogisches Zentrum Rheinland-Pfalz) が中心となり、ESD に関する研究や機関雑誌(第 2 図)の発行、実践例の紹介がされて いる。 -2- 第 2 図:ラインラント=プファルツ州教育センターが発行する ESD に関する雑誌 3.ドイツの学校の様子と ESD 本章では筆者がこれまでに調査で訪れた学校についていくつか取り上げ、学校の様子 (授業を含む)並びに学校における ESD の具体的な取り組みについて紹介する。 1)基礎学校(Grundschule) 本節では、2010 年 4 月に訪問した Schule am Martinsberg について紹介する。 第 3 図:博物館の見学の様子 第 4 図:昔の町の様子 第 5 図:水道管の展示 筆者が見学した際には、水に関する博物館の見学を通じた、「水」に関する学習を見 ることができた。博物館では主に、水路や水道の設備に関して学ぶとともに、町の発展 との関係を子供たちに意識させながら、学習が進められていた。 2)総合制学校(Gesamtschule) 本節では、2011 年 1 月に訪問した Staudinger Gesamtschule Freiburg(以下、Staudinger とする)について紹介する。 Staudinger では、学校における全ての活動において「エネルギー」に関する観点を盛 り込むことで、エネルギーに関する理解や省エネルギーの意識を高めている。例えば、 第 7 図に示すように、学校における発電の発電量と使用量に関するパネルが設置される とともに、教科指導(例えば、音楽においてはエネルギーを音にして実感させるなど) においてもエネルギーに関する学習内容が教えられている。また過去には、エネルギー に関するクラブ活動「エコワットプロジェクト(ECO WATT Projekt) 」も実施されてい た。 -3- 左から、第 6 図:学校の概観、第 7 図:エネルギーに関する取り組みの説明の様子、 第 8 図:学校生活(ルール)とエネルギーの関連、第 9 図:学習した成果を低学年に教える高学年の様子 3)ギムナジウム(Gymnasium) 本節では、2012 年 8 月及び 2013 年 11 月に訪問した Gymnaisum an der Stadtmauer(以 下、Stama とする)について紹介する。 第 10 図 授業の様子 第 11 図 授業の様子 第 12 図 プロジェクト発表 ギムナジウムは、主に大学入学を目指す生徒たちが通う学校である。授業では積極的 な生徒の発表や活動(第 10、11 図)が行われていた。また Stama では、学校の所在す る都市内の気温変化(とくにヒートアイランド現象)に関する生徒主体のプロジェクト の報告を聞くことができた(第 12 図) 。とりわけ、このプロジェクトでは、 「持続可能 性」が意識されていることを、生徒たちの報告から聞くことができた。 4.まとめ 最後に、ドイツの学校における ESD の取り組みの特徴について述べていきたい。 ドイツの学校における ESD の取り組みの特徴は、ESD は単なる学習内容にとどまら ず、学習意欲や学校の質的向上、学校全体においても学校経営や教員の質的向上につな がるものとして位置づけられている点にある。これは ESD が、学校を取り巻く制度や 環境を含めた、学校全体の改革に寄与しうることを示しているといえる。 また ESD の推進に当たって重要な分野は、 教員養成や研修といった学校における ESD 実践の担い手をいかに育成するかである。この点で、ドイツでは ESD の視点を取り入 れて教員研修を行っている州もある。大髙(2013)によれば、ニーダーザクセン州では ESD の年次テーマの一つにあたる「交通」を視点とした、教科内容の統合や教員養成が なされている。このように教員養成の過程においても ESD は、重要なテーマとしての 地位を確立しつつあるといえる。 参考文献 大高皇(2013):モビリティ・マネジメント教育を担う教員の養成・研修体制-ドイツ・ニーダ ーザクセン州を事例として-. 日本社会科教育学会全国大会発表論文集, 9, 158-159. 上條直美・阿部治監訳: 『ドイツ国内実施計画 国連持続可能な開発のための教育の10年 20052014』 (http://www2.rikkyo.ac.jp/web/ESDrc/products/C-FRG-1.pdf) (最終閲覧日:2014.6.20) -4- 国立教育政策研究所(2010、2012) : 『学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関す る研究』 原田信之(2006):教育スタンダードによるカリキュラム政策の展開―ドイツにおける PISA シ ョックと教育改革―. 九州情報大学研究論集, 8(1), 51-68. トランスファー21 編著・由井義通・卜部匡司監訳(2012):『ESD コンピテンシー 学校の質的 向上と形成能力育成のための指導指針』 、明石書店. Deutsche UNESCO-Komission e.V.(2011) :National Aktionplan für Desutschland 2011. Bonn.(第2 版) -5- 岡本順子「持続可能な社会づくりのために平和の担い手となる子どもを育てる」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、6-15 頁。 持続可能な社会づくりのために平和の担い手となる子どもを育てる -幟町小学校における ESD の取組- 岡 本 順 子* * 広島市立幟町小学校教諭 -6- -7- -8- -9- - 10 - - 11 - - 12 - - 13 - - 14 - - 15 - 森川敦子「幼児期からの ESD-就学前教育における ESD 研究の現状」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号) 』2015 年、16-20 頁。 幼児期からの ESD -就学前教育における ESD 研究の現状- 森 川 敦 子* 1.問題と目的 文部科学省によれば、ESD(Education for Sustainable Development、以下 ESD と記述) とは「持続可能な開発のための教育」であり、地球に存在する人間を含めた命ある生物 が、遠い未来までその営みを続けていくために、これらの課題を自らの問題として捉え、 一人ひとりが自分にできることを考え、実践していくこと(think globally, act locally)を 身につけ、課題解決につながる価値観や行動を生み出し、持続可能な社会を創造してい くことを目指す学習や活動である1)。 平成 20(2008)年版の幼稚園教育要領及び小学校・中学校の学習指導要領、平成 21 (2009)年版の高等学校の学習指導要領に持続可能な社会の構築の観点が盛り込まれ、 学校教育においても、ESD の考え方に沿った教育が必要とされている。また、国及び広 島市をはじめとする全国の地方自治体が策定した教育振興基本計画においても ESD の 推進が明記される等、学校教育における ESD の充実が求められている2)3)。 このような状況を踏まえ、現在、日本では学校における ESD の研究事例や実践例も 多く報告されている4)5)6)。しかし、それらの多くは主として児童期以降の実践事例で あり、就学前教育における ESD 研究や実践の現状については、未だ十分に明らかにさ れているとはいえない。 そこで、本稿では就学前教育における ESD 研究や実践の現状を明らかにし、幼児期 からの ESD の意義について考察することを目的とする。 2.就学前教育における ESD の国際的研究の動向 1)OMEP(世界幼児教育・保育機構以下 OMEP と記述)における ESD 研究 ここでは、まず、就学前教育における ESD 研究が継続的に行われている OMEP(世 界幼児教育・保育機構)を取り上げ、国際的な視点から ESD 研究についてみていくこ ととする。 2)OMEP について OMEP7)とは、Organisation Mondiale Pour l’Éducation Préscolaire(仏語)の略称で、 「世 界幼児教育・保育機構」と訳されている。第2次世界大戦直後、未だ戦火の消えないヨ ーロッパで、幼児教育にたずさわっている人々が、国境を越えて子ども達のために協力 する目的をもって、国際機関を創設した。結成当初、加盟国は 11 カ国だったが、2014 年時点で世界 56 カ国。OMEP の目的は次の通りである。 ・OMEP は、すべての子どもが、家庭や保育・教育機関、そして社会の中で、より良く発 達し幸せになるように、最適条件を用意する。 ・この目的のために、OMEPは、幼児教育・保育を改善するためのあらゆる努力を支援 する。 * 比治山大学現代文化学部子ども発達教育学科准教授 - 16 - ・OMEP は、幼児教育・保育の向上に影響を与える研究を援助する。これによって、OMEP は人類の相互理解に貢献し、ひいては世界の平和に寄与する。 ・幼児教育・保育を振興させる。 3)OMEP における ESD 国際プロジェクト OMEP では 2010 年以降、ESD 国際プロジェクトを立ち上げ、以下のようなテーマに 基づいて ESD 研究や就学前教育の場での実践を推進している。 Part 1 Child Interviews(about 2010 Congress logo)(2010) 2010 OMEP 大会ロゴについての子どもへのインタビュー Part 2 ESD in Practice(by 7Rs)7Rs による ESD の実践(2011) 7Rs ・Respect(子どもの人権への尊敬) ・Reflect(世界の異文化的差異の熟考) ・Rethink(今日的価値観の再考) ・Reuse(古い物の再使用) ・Reduce(消費の削減) ・Recycle(再生利用) ・Redistribute(資源のより公平な再分配) Part 3 Intergenerational Dialogues for ESD (2012-13) ESD のための世代間対話 Part 4 Equality for Sustainability (2013-14) 持続可能性のための平等 Part 5 Teacher Training Resources for ESD(2014-15) ESD のための教師トレーニングの方策 このように OMEP では、幼児教育・保育における ESD を積極的に推進するために、 毎年テーマを設定し、国際調査や実践を実施している。 そこで、 次に、ESD に関する国際調査の一つである Child Interviews (about 2010 Congress logo)を取り上げ、詳しくみていくこととする。 4)Child Interviews(about 2010 Congress logo) 2010 年に実施された Child Interviews は、図1のような 2010 年大会のロゴマークを基に、1 歳から 8 歳までの子ど もたちを対象としたインタビュー調査である。本調査には、 世界 28 カ国の子どもたち計 9142 名が参加した。 主な質問項目と回答例は次の通りである8)。 Q:この絵を見て教えてください。これは何をしている ところですか? 図1:2010 年大会のロゴマーク A:地球を洗っているところ。 A:子どもたちが星を作っている。 A:子どもたちが球に絵をかいて遊んでいる。 A:彼らが地球を守っている。 A:地球が健康になるよう助けている。 Q:どうして、彼らはそうしているの? A:地球を美しくきれいにするため。 A:彼らはごみを散らかすのをやめるよう教えている。もし、あなたがごみを散らかしたら、 あなたの国は破壊されるから。 A:もし地球がきれいだったら私も幸せだし、地球の友達(太陽や月)も幸せだと思うから。 A:もし、地球をきれいにしなかったら、地球が死んで私たちも死んでしまうから。 A:私たちは地球をきれいにしなければならない。なぜなら、地球には動物や植物や私たちが 住んでいるから。 - 17 - Q:他に何かありますか? A:あなたはゴミを捨ててはいけない。みんなも捨ててはいけない。 A:あなたは自分が欲しくないものは人にあげてはいけない。 A:あなたは自分が使っていない時には、照明や電気を消してください。それはとても簡単な ことです。 Q:持続可能な開発という言葉を聞いたことがありますか?どういう意味か知っています か? この質問については、ほとんどの子どもたちが認識していなかったが、数名の子ども たちは次のような回答をしている。 A:持続可能な開発とは、自然のための行動、愛、思いやりのこと。 A:よりよい発展のための未来への行動のこと。 A:それは、地球の豊かさを意味している。 A:それは、誰もが地球のために何かしなければならないことを意味している。 A:私たちは食べるために水や食べ物をいつも貯めている。私たちは地球のことを心配して、 使いすぎないようにする必要がある。ただ、必要なだけ使うようにする。 これらの回答に見られるように、子どもたちは、幼いながらも現在の地球が抱える課 題や自分たちがすべきことについて認識していることが明らかになった。また、本調査 から、8 歳以下の子どもの中にも少数ながら、持続可能な開発(Sustainable Development) の意味について認識している子どもがいることが明らかになった。 5)2014OMEP 国際大会(in アイルランド)にみる ESD 研究 次に、2014 年に OMEP 国際大会で発表された ESD 関連研究発表題目例9)を基に、各 国の幼児教育・保育における ESD 研究の現状について概観する。2014 年の大会で発表 された主な ESD の研究発表は次の通りである。 ① How do we use plastic": 3rd OMEP ESD Project: Intergenerational Dialogue for ESD applied in Korea, Ji Eun Kim (Ewha Womans University) 私たちはどのようにプラスチックを使用すればよいのか 3rd OMEP ESD プロジェク ト:ESD のための世代間対話の韓国における適用 ② Changing to Sustainable Lifestyle through ESD project and applying 7Rs in ECEC(Early childhood Education and care) in Korea, Seenyoung Park (Ewha Womans University) ESD プロジェクトを通じた持続可能なライフスタイルへの変換と韓国の ECEC にお ける 7Rs の適用 ③ Considering ESD Through Intergenerational Exchanges-Cases in Japan, Toshiko Kaneda (Japanese National committee of OMEP) 世代間交流を通じた ESD の検討―日本の場合 ④ A Research Programme for Education for Sustainable Development in Early Childhood, John Siraj-Blatchford (327Matters) 幼児期の持続可能な開発のための教育の研究計画(スウェーデン) ⑤ Researching the use of reclaimed resources in early childhood settings, Paulette Luff (Anglia Ruskin University in the East of England, United Kingdom) 幼児期における再生資源の使用に関する研究(東イングランド) ⑥ Priority SD challenges: how kindergartens can help to face them, Natalia Ryzhova (Moscow City Pedagogical University) 優先的 SD の挑戦:幼稚園はどのようにして、それらに対応するための支援ができる のか 2014 年の OMEP 国際大会では、アジア、ロシア、ヨーロッパ、北欧をはじめ多くの 国で ESD 研究が進められ、その成果が国際会議で発表されている。このように近年、 - 18 - 幼児期の ESD 研究は、環境や再生資源の問題、世代間対話、ESD のカリキュラム研究 など様々な国や研究分野で進められているといえる。 3. 日本の就学前教育における ESD 研究 先述の通り、世界各国で幼児教育・保育における ESD 研究が盛んに行われている。 では、日本では、どのような視点から ESD 研究が進められているのであろうか。次 に、日本の就学前教育における ESD 研究について、近年の日本保育学会で発表された 事例を基にみていくこととする 10)11)12)。 【日本保育学会で発表された ESD 関連研究の例】 ①冨田久枝、片山知子、吉川はる奈、田爪宏二、上垣内伸子、名須川知子「乳幼児をめぐ る自然環境と ESD 教育−日本の保育における『継承と創造』をめざして−」、2012 ②冨田久枝、上垣内伸子、片山知子、吉川はる奈、田爪宏二、那須川知子、鈴木裕子、藤 原照美、西脇二葉「地域で育つ・地域を創る『乳幼児教育における ESD』―日本の保育 における継承と創造を目指して―」 、2013 ③大澤力、岩田力、関章信、生駒恭子、小林辰至「幼小中における持続可能性教育の実践 的研究-科学の芽生えから課題解決能力育成へ」2014 ④川口順子、井上美智子「持続可能な社会の形成と保育者の役割―保育者養成の課題―」 2014 ⑤中西エリナ、花原幹夫「遊びをより豊かにするリサイクル素材の考察」2014 このように、日本保育学会では、2011 年以降、上記の通り、ESD に関する様々なシ ンポジウムや発表が行われ、自然環境、伝統文化、科学、遊び、保育者養成等の各分野 で、その成果が明らかにされている。 4.まとめ 本稿の目的は、就学前教育における ESD 研究や実践の現状を明らかにし、幼児期か らの ESD の意義について考察することであった。 本稿により、就学前教育における ESD 研究は、特に、2010 年頃から OMEP や日本保 育学会等を中心に、自然環境、伝統文化、科学、遊び、カリキュラム開発、保育者養成 等の各分野で進められてきていることが明らかになった。 これらの結果を踏まえ、幼児期からの ESD の意義について考察する。 1)なぜ幼児期からなのか ESD はライフスタイルや生きるための価値観を学ぶための教育である 13)。幼児期は、 生活の基本的態度や価値観が形成される重要な時期であるため、学童期や青年期のみな らず、幼児期から ESD の取組を積み上げていくことが効果的である。また、幼児期の 実践は、幼児だけでなく保育者や親等、周りの大人が一緒に関わることが多く、周りの 大人の考え方やあり方も問われることとなる。つまり、ESD の取組を通して保育者や親 も共に育つのである。そのため、幼児期の取組が活性化すれば、その影響は周りの大人 へも波及し、教育効果もより大きくなると考えられる。 2)日本の保育と ESD の共通点 富田ら 14)は日本の保育と ESD の共通点として、次の 6 点を挙げている。 ①「生活」が基盤である。 ② 主体的な活動としての「遊び」を通した総合的な指導である - 19 - ③「環境を通しての保育」という基盤概念がある ④ 自然とのかかわりを重視している ⑤ 園と家庭と地域の連携を重視している ⑥ 学び手(子ども)と保育者の相互作用が必要(保育者自身の生き方が問われる) このように、幼児教育と ESD の関連は非常に深い。幼児教育の特質から考えても、 ESD の取組は幼児期から計画的・系統的に行っていくことが望ましいと考える。幼児期 からの ESD を積み重ねていくことによって、持続可能な社会の形成者としてふさわし い資質・価値観の育成やライフスタイルの確立がより促進され、ESD の成果がさらに高 まることが期待できる。 以上本稿から、幼児教育における ESD 研究の意義や可能性が明らかになった。しか し、日本では、まだ就学前教育における ESD の研究例も少なく、ガイドラインも十分 には確立されていない。 また、保幼小連携の取組は全国的に行われているが、ESD の視点はほとんど踏まえら れていない。したがって、今後は、小学校以降との連続性も踏まえつつ、幼児教育や保 育における ESD 研究やガイドラインの作成を推進していく必要があると考える。 参考文献 1)文部科学省「ESD 持続可能な開発のための教育」 (http://www.ESD-jpnatcom.jp/about/index.html/ 2015.9.22) 2)文部科学省「教育振興基本計画における ESD について」 (http://www.mext.go.jp/unesco/004/_icsFiles/afieldfile/2013/10/11/13399721.pdf 2015.922) 3)広島市『広島市教育振興基本計画 平成 22 年(2010 年)9 月 平成 26 年(2014 年)3 月更新』 4)角屋重樹『学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究最終報告書)』国立 教育政策研究所、教育課程研究センター、2012 5)中山修一、湯浅清治、和田文雄 『持続可能な社会と地理教育実践』古今書院、2011 6)広島市教育委員会「広島市立学校『平和教育プログラム』指導資料」2013 7)Education for Sustainable Development OMEP ホームページ (http://www.worldomep.org/en/education-for-sustainable-development/ 2014.9.19) 8)Ingrid Engdahl,Milada Rabušicová, “Children’s Voices about the State of the Earth and Sustainable Development” A report for the OMEP World Assembly and World Congress on the OMEP World Project on Education for Sustainable Development 2009-2010. (http://www.worldomep.org/files/1314390_ESD-congress-report-child-interviews.pdf/ 2015.9.25) 9)OMEP International Conference 2014 “66th OMEP World Assembly and Conference BOOK OF ABSTRACTS” 2014. 10)日本保育学会『第 65 回大会発表要旨集』2012 11)日本保育学会『第 66 回大会発表要旨集』2013 12)日本保育学会『第 67 回大会発表要旨集』2014 13)冨田久枝、上垣内伸子、片山知子、吉川はる奈、田爪宏二、那須川知子、鈴木裕子、藤原照 美、西脇二葉「地域で育つ・地域を創る『乳幼児教育における ESD―日本の保育における継 承と創造を目指して―』 」『千葉大学教育学部研究紀要第 62 巻』155-162 頁、2014 14)冨田久枝他、上掲書 - 20 - 長尾実咲「どのような教育が平和構築に貢献しうるか」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、21-22 頁。 どのような教育が平和構築に貢献しうるか -戦争記憶の継承に焦点をあてて- 長 尾 実 咲* 1.研究の目的と動機 本研究の目的は、戦争記憶の継承の教育について比較し、実際に平和構築に貢献しう る教育を導き出すことである。戦争記憶の継承の教育のモデルとしてドイツの歴史教育 と日本(広島)の平和教育を取り上げ、両者のカリキュラム、社会に与えた影響につい て比較し、この2つの国の戦争記憶の継承の方法をモデルとして教育の平和構築への貢 献について考える。 第二次世界大戦終結より 70 年が経とうとしている。戦後、敗戦国日本、ドイツでは それぞれ二度と戦争を起こさないために第二次世界大戦下の戦争記憶の継承に関する 教育が行われてきた。戦後ドイツの歴史教育では、 「ホロコースト」 、すなわちナチによ るユダヤ人大量虐殺をどう教えるかが最大の課題であり、 (①p10)加害認識に重きを置 いている。一方、広島においては原爆被害の継承が平和教育の中心となっており、被害 認識に重きが置かれてきた。同じ敗戦という歴史を抱えながら、ドイツと日本では全く 異なるアプローチで教育において戦争記憶の継承が行われてきた。このように異なった アプローチから戦後、戦争記憶の継承が行われてきた日本とドイツであるが、戦後 70 年を迎えるにあたって、戦争を経験した人々の高齢化という大きな問題に直面している。 高齢化に直面し、ドイツにおいてはナチの過去についてどのような方法で語り継いでい けばよいかという問いが歴史教育の取り組むべき課題の中でますます大きな位置をし めつつある。 (①p32)広島でも、平和教育の軸足を「発信」へ切り替える動きが目立つ (中国新聞 2009 年 4 月 28 日)ようになり、高齢化という大きな問題に直面し、歴史教 育・平和教育は変化の時代を迎えている。 変化の時代を迎え、これまでの戦後の教育を振り返ることは大きな意義を持つに違い ない。両者の異なる教育は社会に何を残し継承してきたのだろうか。戦後 70 年にわた る教育による戦争記憶の継承は社会にどんな影響を与えてきたのか、日本の平和教育、 ドイツの歴史教育というアプローチを被害認識と加害認識に注目しながらカリキュラ ム、社会に与えた影響を比較し、平和教育と歴史教育をモデルにとりながら教育の平和 構築への貢献について考察する。 2.研究の内容と方法 1)ドイツ、日本における加害認識・被害認識について (1)ドイツ人の加害認識・被害認識 ・アンケート調査、文献より (2)日本人の加害認識・被害認識 ・アンケート調査より 2)平和教育、歴史教育について (1)ドイツの歴史教育について ・カリキュラムを中心に整理する。 ・ドイツ社会と歴史教育とのつながり、歴史教育の影響について調べる。 * 広島市立大学国際学部学部生 - 21 - ・歴史教育を通じて子どもたちが何を感じ、何を考えたか、また歴史教育を受けて きた大人たちが何を感じているか、ホロコースト・平和をどう認識しているかに 関するアンケート調査。 (2)日本の平和教育について ・カリキュラムを中心に整理する。 ・日本社会と平和教育のつながり、平和教育の影響について調べる。 ・平和教育を通じて子供たちが何を感じ、何を考えたか、また平和教育を受けてき た大人たちが何を感じているか、原爆・平和をどう認識しているかに関するアン ケート調査。 3)教育と認識について (1)何が認識、教育に違いを与えてきたのか ・アンケート調査の分析、社会と教育の移り変わりについて文献など (2)認識の違いが社会にどのような違いをもたらしているか ・アンケート調査の分析、文献より 4)教育の平和構築への貢献について考察する。 (1)これまでの戦争記憶の継承の教育を振り返って (2) (1)を踏まえてこれからの教育と平和構築について考察 3.主要参考文献 ①川喜田敦子『ドイツの歴史教育』白水社 2005 年 ②寺田佳孝『ドイツの外交・安全保障対策の教育:平和研究に基づく新たな批判的観点の探求』 風間書房 2014 年 ③大友秀明『現代ドイツ政治・社会学習論―「事実教授」の展開過程の分析』東信堂 2006 年 ④近藤孝弘『ドイツの政治教育 成熟した民主社会への課題』2005 年 ⑤熊谷徹『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』高文研 2007 年 ⑥色川大吉編『1945 年 敗戦から何を学んだか 日本・ドイツ・イタリア』小学館 1995 年 ⑦村上登司文『戦後平和教育の社会学的研究』学術出版社 2009 年 ⑧西尾理『学校における平和教育の思想と実践』学術出版社 2011 年 - 22 - 潮田愉子「カフェ(喫茶店)から見える ESD」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、23-34 頁。 カフェ(喫茶店)から見える ESD -総合的な学習の時間のための教材開発- 潮 田 愉 子* 1.研究の目的と動機 本研究の目的は、 「カフェ(喫茶店) 」を通して持続可能な社会づくりのための学びを 提案することである。 持続可能な社会づくりのための学びとは、いわゆる ESD (Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)である。 私はカフェでバイトをしている経験から、様々な形でカフェが利用されていることを 感じていた。静かに勉強したい人、友達とわいわい楽しく話をしたい人、買い物帰りで 休みたい人など、多種多様である。また利用者の中には宗教的、体質的に食に制限のあ る人もおり、利用すること自体ができない人もいる。私たちカフェの店員やオーナーは 常に、できる限り誰もが来ることができ、また満足してもらえるように、対応している。 このようにカフェは利用者のニーズに合わせて、満足のいくサービスを提供しなけれ ばならない。しかしカフェに来る利用者は上の例で挙げたように、実に多種多様である。 よって、ひとつの空間に、個々人が満足のいくサービスを提供するカフェには、ESD 的 な側面があると考えた。 そもそも ESD とは、持続可能な将来を創造するために世界規模で取り組むべき教育 であり、私たち一人ひとりが世界の人びとや将来世代、また環境との関係性の中で生き ていることを認識し、持続可能な開発を目指した行動を変革するための教育である1)。 また本研究で扱う「カフェ(喫茶店) 」とは、コーヒー・紅茶などの飲物、菓子、果物 や軽食を客に供する飲食店のことである2)。ちなみに日本国内にあるカフェの店舗数は、 最新の調査では 7 万 454 店(2012 年時点。 「平成 24 年経済センサス―活動調査」 )。最 盛期の 15 万 4630 店(1981 年)の半数以下に落ち込んだが、それでも 2014 年現在で 5 万店超のコンビニの 1.4 倍だ3)。カフェは昔から、日本人によく馴染みのある場所であ る。 これまでの「カフェ」をめぐる研究や論考を見ると、その多くがカフェとはどのよう な場所なのか、その文化性などを議論するものが多かった。研究ではないが、カフェと ESD を結びつけた「ESD カフェ」というものも存在する。 「ESD カフェ」とは、持続可 能な社会につながる「学びの場」について参加者と語り合い、ESD について考えるもの である4)。しかしどちらも「ESD を実践する」に焦点を当てると、実際に実践している とは言い難い。 そこで本研究では利用者のみならず世界中の人に優しいカフェとは何か考えること を通して、ESD の学習と実践をしたい。例えばコーヒー豆を扱う授業では、フェアトレ ードとは何か学習するだけではない。途上国における経済の持続可能性とカフェにおけ る持続可能性をいかに調和させるかを議論させ、生徒自身でリアルにフェアトレードを 考えることができる。また食事メニューの開発に焦点を当てると、食のバリアフリー5) を学習するだけでなく、いかに現実的にカフェという利益追求する集団に食のバリアフ リーを組み込めるかを考えられるだろう。インテリアに視点を変えると、ユニバーサル * 広島市立大学国際学部学部生 - 23 - デザインとカフェをいかに調和できるかの学びになる。 このようにカフェには、多角的な視点から社会を学ぶきっかけ、ESD 的な要素が十分 に内包されている。日本人の生活に密着しており、多種多様な人が利用するカフェを通 した ESD の学習は、ただ ESD を学ぶだけにとらわれず、ESD の実践にも繋がる本研究 は意義があると考える。 2.研究の内容と方法 1)高校生を対象にした指導案を作成する この授業の目的は、カフェ利用者のみならず世界中の人に優しいカフェを考えること を通して、多角的な視点で社会を学ばせることである。授業の構成としては、順に、コ ーヒー豆の選択(フェアトレード) 、食事メニューの開発(食のバリアフリー) 、インテ リアデザイン (ユニバーサルデザイン)の全 3 時間とする。そしてそれぞれを一時間 ずつ授業実施できるよう、指導案を書く。 2)指導案をもとに教材準備 今までの ESD 教材を参考にしながら、指導案をもとに必要な教材を準備する。 3)授業を実施 総合的な学習の時間において、授業を実施する。その授業とは、まず授業で扱うテー マを提示する。そしてそのテーマに沿って、カフェ利用者のみならず世界中の人に優し いカフェにするために、何をどうすればよいかを考え、生徒に発表、議論させる。この スタイルで数回実施する。 3.主要参考文献 ①生方秀紀、神田房行『ESD をつくる-地域でひらく未来への教育』ミネルヴァ書房、2010 年。 ②五島敦子、関口知子編著『未来をつくる教育 ESD-持続可能な多文化社会をめざして』明石書 店、2010 年。 ③柴田書店 MOOK『カフェ開業読本 カフェオーナーになるためには』柴田書店、2007 年。 ④高井尚之『カフェと日本人』講談社、2014 年。 ⑤田中直人『建築・都市のユニバーサルデザイン : その考え方と実践手法』彰国社、2012 年。 ⑥永嶋万洲彦『人気のカフェをつくる本 注目の 7 スタイルの成功開業実例集』旭屋出版、2003 年。 ⑦日比野正己編著『図解バリア・フリー百科』TBS ブリタニカ、1999 年。 ⑧宮入賢一郎, 横尾良笑著『トコトンやさしいユニバーサルデザインの本』日刊工業新聞社、2007 年。 ⑨ユネスコ(阿部治、野田研一、鳥飼玖美子監訳)『持続可能な未来のための学習』立教大学出 版会、2005 年。 ⑩吉田文和『独立・開業から成功する店づくりまで 飲食店完全バイブル 増補版』日経レストラ ン編集部編、日経 BP 社、2005 年。 注 1)卜部匡司「持続発展教育(ESD)の授業構成に関する理論的考察」『徳山大学論叢(72 号) 』2011 年、115-127 頁。 2)中館真理子『喫茶店文化とコミュニケーション―<たまり場>の社会史―』東洋大学社会学部卒業論文、2008 年、 4 頁。 3)高井尚之『カフェと日本人』講談社、2014 年、9 頁。 4)ESD-J(http://www.ESD-j.org/j/activity/activity.php?catid=254)[12 月 14 日閲覧] 5)食のバリアフリー…様々な食に制限のある利用者が安心して、食を楽しめること。SEKAI CAFE『SEKAI CAFE(セ カイカフェ)の営業開始に関するお知らせ~東京 2020 年に向けた、浅草発の新たな食のおもてなし~』株式会社日 本 SI 研究所インバウンド事業部、2014 年、1 頁。 - 24 - 中山修一「ESD ユネスコ世界会議(名古屋・岡山)の成果と今後の展開」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、25-32 頁。 ESD ユネスコ世界会議(名古屋・岡山)の成果と今後の展開 中 山 修 一* はじめに 本稿は、第 6 回広島 ESD・ユネスコスクール研究会(2014 年 12 月 20 日:広島大学 附属高校)での発表原稿に、補筆を行ったものである。 本稿の目的は、ユネスコの国連 ESD の 10 年最終報告書(2014) 「我々が望む未来に 向けて(Shaping Our Future We Want, 202p.)」 、それと並行して策定されたユネスコの今 後 5 年間の ESD 行動計画「グローバル・アクション・プログラム(UNESCO Global Action Programme)」(2013 年 11 月)、並びに世界大会での二つの決議「あいち・なごや宣言」 (2014 年 11 月)と「ESD 推進のためのユネスコスクール宣言」 (2014 年 11 月)の要点 を整理し、今後の ESD の展開方向について検討するとともに関連情報の提供を試みる ことである。 日本提案=国連決議=ユネスコ主導の「国連 ESD の 10 年(2005~14)」の最終年に 当たる今年、ユネスコは、日本政府(文部科学省)と共催で、名古屋市と岡山市におい て、次の日程で「ESD ユネスコ世界会議」を開催した。 (公式名称)持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議 2014 年 11 月 4~8 日 岡山市(ステークホルダー会議) 2014 年 11 月 10~12 日 名古屋市 ・・・・・・・・・・・・巻末資料1 この世界会議は、 「国連 ESD の 10 年」の成果を総括した上で、2015 年以降の ESD の 進め方を議論し、基本的な方向を「あいち・なごや宣言」として決議したという点で、 ESD の歴史上、画期的な国際会議であった。 1.ESD 世界大会(名古屋)におけるユネスコのイリナ・ボコバ事務局長と下村文科大 臣の挨拶の要点 ボコバ事務局長(ユネスコ及び文部科学省による報道発表資料: 2014 年 12 月 5 日 文科省ホームページ閲覧)は、「技術、政策、経済的なインセンティブだけでは、持続 可能な開発を達成することはできません。私たちは、個人としても、社会全体としても、 ものの考え方や行動様式を変えていく必要があります。それこそが持続可能な開発のた めの教育(ESD)の目指すところなのです。 」と挨拶で述べた。なお、この挨拶は、Global Action Programme の頭書の文言を引用したものである 次に、下村文科大臣(中国新聞:2014 年 11 月 11 日:巻末資料1)の挨拶の要点は、 次の 3 点にまとめられる。①最も積極的に取り組んできた国(日本)の自負を持って国 際社会に貢献したい。②2015 年から 5 年間、優れた ESD の取り組みを実践した世界の 3 個人・団体を毎年選び、 それぞれ 5 万ドルの奨励金を授与する表彰制度を創設したい。 ③日本の「ユネスコスクール」を 5 年間で 1 万校に増やし、自然や文化遺産学習、農業 体験といった実践を進める。 なお、下村大臣の挨拶を掲載した中国新聞の記事タイトルは、「平和・環境教育の国 際会議が開催 名古屋」であった。この国際会議の公式名称は、「持続可能な開発のた * 広島 ESD・ユネスコスクール研究会顧問 - 25 - めの教育に関するユネスコ世界会議」であったが、中国新聞報道では、「平和・環境教 育の国際会議」と言い換えて使った。このことは、「持続可能な開発のための教育」の 真意が、報道関係者には、「平和・環境教育」としか理解できていないという限界を示 すものであったと言わざるを得ない。 ともあれ、国内向けには、今後 5 年間にユネスコスクールを、1 万校に増やすという 一大目標を掲げた点に注目したい。当時の国内のユネスコスクールは、800 校超であっ たから、今後 5 年間で少なくとも 9000 校を増やす目標になる。これは、年間で 2000 校 近い増加目標となる。今後、ユネスコスクールの増加とともに、その質的水準の維持が、 大きな課題とならざるを得ないだろう。ちなみに、国際会議が開催された 2014 年の 11 月頃では、世界のユネスコスクールが、約 1 万校であった。 2.ユネスコ「国連 ESD の 10 年」最終報告書(2014)の 10 項目の総括 同報告書「我々が望む未来に向けて」は、UNESCO のホームページから、ダウンロー ドできるが、202 ページの大作である。その 9 ページに、次の 10 項目にわたる総括の 要点(中山仮訳)がまとめられている。これら 10 項目は、過去 10 年間で、ESD のどの ような分野で進展してきたかを明らかにしている。中でも注目すべき点は、第 6 項で、 機関包括型アプローチ(Whole-institution approach)が、ESD の実践を後押しているとい う指摘である。つまり、ESD が学校全体で取り組むことの有効性を評価していることが 明示されている。 (1)教育の中で、持続可能性が議論されるようになった。 (2)持続可能な開発の課題と教育の課題とが融合しつつある。 (3)政治的な指導性が、ESD の推進に機能し始めている。 (4)多様な関係機関・団体の連携が、効果を出し始めている。 (5)地方レベルの参画が進みつつある。 (6)機関包括型アプローチ(Whole-institution approach)が、ESD の実践を後押ししている。 (7)ESD は、交流学習、学習者主体の学びを押し進めている。 (8)ESD は、学校教育の中で取り組みが進んでいる。 (9)ノン・フォーマルやイン・フォーマル教育においても、取り組みが進んでいる。 (10)技術教育、職業教育、技能研修などでも、ESD の取り組みが始まっている。 3.第 37 回ユネスコ総会(2013 年 11 月)で決議された ESD Global Action Programme (GAP) 日本の提案で始まった「国連 ESD の 10 年」は、2005 年に開始され、2014 年に最終 年を迎えた。したがって、今後、ESD をどう展開すべきかが、第 37 回ユネスコ総会(2013 年 11 月)で討議され、2015 年から 5 年間を見据えた「ESD グローバル行動計画」 (GAP) が決議された。それが、2014 年 11 月に名古屋で開催された「持続可能な開発のための 教育に関するユネスコ世界会議」で、広く承認を得て発効するという手続きが採られた。 GAP は、二つの目標を掲げている。第 1 は、全ての人々が持続可能な開発に関わる知 識、技能、価値観、態度を習得する機会を持つために、教育・学習を再方向付けし、持 続可能な開発に貢献し、実際に成果を上げるよう能力向上を図ること。第 2 に、持続可 能な開発を促進する全ての関連アジェンダ・プログラム・活動において、教育・学習の 役割を強化すること、である。 また、GAP には、次の 5 つの優先行動分野が掲げられた。 ①政策的支援 ②教育・トレーニングの場に持続可能性の概念を取り入れる(機関包括型アプローチ) ③教員やトレーナーの能力向上 - 26 - ④青少年の役割支援と動員 ⑤地域コミュニティや地方政府にコミュニティ・レベルの ESD プログラム策定を推奨 http://www.unesco.org/new/jp/unesco-world-conference-on-ESD-2014/ESD-after-2014/global-action-programme/(2014 年 12 月 10 日閲覧) 4.ESD あいち・なごや宣言(2014 年 11 月 12 日採択) 名古屋で開催された「持続可能な開発のための教育に関するユネスコ世界会議」 (2014 年 11 月 10~12 日)は、最終日に「ESD あいち・なごや宣言」を全体会議で採択した。 ここでは、宣言の第 8、10、15 項に注目して仮訳しておきたい。中でも、第 15 項の (c)において、2015 年中に策定される「国連持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals=SDGs)に ESD の推進を盛り込む努力と 2015 年 5 月に韓国の仁川で 開催されるユネスコ等主催の「世界教育フォーラム 2015」において、2015 年以降のユ ネスコ教育目標に、ESD を明確に位置付けるという将来計画を書き込んだ点が注目さ れる。 まず、第 8 項は、ESD が目標にすべき資質や能力を、次のように明示した。 「批判的 思考、システム思考、分析的問題解決、創造性、協働、不確実なことに直面した際の決 断、また、国際的な課題がつながっていることの理解及びその自覚から生じる責任のよ うな、地球市民そして地域の文脈における現在及び未来の課題に取り組むために必要な 知識、スキル、態度、能力、価値を発達させることで、学習者自身及び学習者が暮らす 社会を変容させる力を与える ESD の可能性を重要視し、 」 次に第 10 項は、ESD の実践に当たって重視すべき領域や普遍的原則を明示している。 「ESD の実践は、持続可能な開発への文化の貢献、平和の尊重、非暴力、文化多様性、 地域と伝統的な知識、先住民の叡智と実践、さらに、人権、男女の平等、民主主義、社 会正義のような普遍的原則の必要性と同様に、地元、国内、地域、世界の文脈を十分に 考慮するべきであることを重視し、 」 そして、第 15 項は、ユネスコ加盟国の政府に以下のような更なる取り組みを求めて いる。 a)教育の目的、教育を支える価値をレビューし、教育政策とカリキュラムがどの程 度 ESD のゴールを達成しているかを評価し、システム全体としての包括的アプロ ーチ及びマルチステークホルダーの協力、教育セクター、民間企業、市民社会及 び多様な持続可能な開発分野に従事する人々のパートナーシップに特別な注意を 払いながら、教育、訓練、及び持続可能な開発政策への ESD の統合を強化し、教 員や他の教育者の教育、 訓練、職能開発が十分に ESD を取り入れることを確保し、 b)特に GAP の五つの優先行動分野に沿った国内及びサブナショナルレベルのフォー マル及びノンフォーマルな教育・学習の両方に必要な機関の能力を構築するなど、 政策を行動に移すために実質的な資源を配分、結集し、 c)第一に ESD を教育の目標として残し、分野横断的なテーマとして SDGs に取り入 れることを保証し、第二にユネスコ世界会議(2014 年)の成果を 2015 年 5 月 19 日から 22 日に韓国・仁川で開催される世界教育フォーラム 2015 において考慮さ れるよう保証することで、ポスト 2015 年アジェンダ及びそのフォローアッププ ロセスに ESD を反映、強化させる。 http://www.ESD-jpnatcom.jp/conference/result/index.html (2014 年 12 月 11 日閲覧) 5.ESD 推進のためのユネスコスクール宣言(ユネスコスクール岡山宣言) 宣言の全文は、世界会議の特設ホームページに掲載されている。注目すべきポイント は、 「日本のユネスコスクール:私たちのコミットメント(誓い) 」にまとめられた8つ - 27 - の項目である。 これら 8 項目を、日本のみならず世界の教育関係者が深く理解し、実践して行けば、 世界の学校が変わり、持続可能な社会の構築に大きな夢を持つことが可能となり、その 実現に着実な歩みを続けていくことができよう。 私たちは、日本の教育を変えていく原動力として ESD をこれからも進めていきます。 ①私たちは、持続可能な未来のために、身近な地域に貢献するとともに、グローバルな 視点に立って行動する次世代を育みます。 ②私たちは、平和、環境、気候変動、生物多様性、国際理解、多文化共生、エネルギー、 人権、ジェンダー、防災、文化遺産、地域学習、持続可能な生産と消費等、学びの入り 口やテーマが何であれ、その先に地域、国、アジア、世界の平和と持続可能性を見据 えて、地域の人々をはじめ多くの人たちと協働しながら、つながりを意識した教育を 実現します。 ③私たちは、ESD の本質を理解するとともに、ESD の魅力を広く社会に伝えるため、児 童生徒の変容、教師の変容、学校・地域の変容を明確に示します。 ④私たちは、気候変動、生物多様性、防災、持続可能な生産と消費など、国境を越えた グローバルな課題について理解し、解決方法をさぐり、解決に向けてともに取り組ん でいく国内外のユネスコスクール、特に近隣のアジア諸国のユネスコスクールとのテ ーマ学習・協働学習に取り組みます。 ⑤私たちは、互いに学びあい、活動の質を高めていくために自発的に組織されるユネス コスクール同士の全国ネットワークをつくります。そして、ユネスコスクール間の交 流や協働を推進し情報交換・活用の仕組みを充実させます。 ⑥私たちは「変化の担い手」として子どもと教師を捉え、地域社会における持続可能性 の実践者となるように努め、他の学校、社会教育・生涯学習機関、NGO/NPO、自治 体など多様な主体とともに、持続可能な地域づくりに貢献します。 ⑦私たちは、さまざまな主体との対話と連携を通して、「国連 ESD の 10 年」の後継プ ログラムである「ESD に関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」の5 つの優先行動分野をつないでいきます。 ⑧私たちは、世界 181 の国にひろがるネットワークの一員として、ESD に取り組み、持 続可能な未来をともに築いていくことを、そしてそのために、さまざまな交流と連携 の機会をつくって学びあうことを、日本と世界のユネスコスクールに対して呼びかけ ます。 以上は、世界会議の特設ホームページ(http://www.ESD-jpnatcom.jp/conference/result/pdf/Aichi-Nagoya Declaration school ja.pdf)に掲載さ れている。 6.今後の展開 今後、ESD の推進に当たって、大事な課題が浮び上がってくる。それは、国連事務総 長が、2012 年に提案した Global Education First Initiative(GEFI)=グローバル教育にお ける主導理念の柱である Global Citizenship Education(世界市民教育)の概念や目標と ESD とのすり合わせに関する議論を深めていくことである。 1)世界市民教育をめぐる国連、ユネスコの動き 世界市民教育をめぐる近年の国連、ユネスコの動きを年次順に整理すると、次のよう である。 ①2012 年、潘国連事務総長が、Global Education First Initiative(GEFI) (グローバル教育イニシ アティブ=主導理念)を発表した。これが国連レベルでの GCE に関する最初の動きとなっ た。なお、GEFI は、 (ア)全ての子ども達への学習機会の保証、 (イ)教育の質の向上、 (ウ) Global Citizenship の育成という三つの重点課題を提示した。つまり、Global Citizenship 教育 は、国連事務総長が、国連を代表して提案した緊急の三つの教育課題の一つであった。 ②これを受けて、韓国、ソウルにあるアジア太平洋地域国際理解教育センター(APCEIU)が、 - 28 - 2013 年 9 月 9~10 日に、 Technical Consultation on Global Citizenship Education を開催した。 ③APCEIU は、同年 12 月 2~4 日に、タイのユネスコアジア太平洋教育事務所(UNESCO Bangkok Office)において、UNESCO Forum on GCE(Global Citizenship Education)を開催し た。 ④2014 年 11 月 12 日 名古屋で開催された「持続可能な開発のための教育に関するユネスコ 世界会議」の最終日に、APCEIU の鄭所長が、 「世界市民教育」を ESD の後継中心テーマと して提案した。 ⑤2015 年 5 月 19~21 日に韓国のインチョンで開催されたユネスコの「世界教育フォーラム 2015」において 2030 年の国際教育目標が議論され、その成果は、 「インチョン宣言」として、 最終日に参加者の総意で採択された。同宣言の全文は、ユネスコの次のウエブサイトで閲覧 できる。 (https://en.unesco.org/world-education-forum-2015/incheon-declaration:2015 年 5 月 29 日閲覧)同宣言の 要点の第 1 は、ユネスコは、今秋 11 月の第 38 回総会において、The Education 2030 Framework for Action(以下、Education 2030)を提案し採択を目指す。Education 2030 の骨子は、インチ ョン宣言を当てる。第2に、2015 年 9 月に発表される国連の Sustainable Development Goals (SDGs)の内容を、Education 2030 にしっかりと盛り込む。第3は、全てのユネスコ加盟国 政府は、年度内に Education 2030 を反映させた各国版を作成する。第4は、ユネスコが取り 組む質の高い教育の開発には、ESD 並びに GCE の深化を通して、地域とグローバル社会の 発展に有為な態度、技能や資質の発展を図ることを求めた。 ⑥インチョンでのユネスコ等主催の「世界教育フォーラム 2015」は、1990 年、タイのジョム ティエン(Jomutien)で、ユネスコ、ユニセフ、世界銀行、国連開発計画の主催で開催され た「万人のための教育(EFA)世界会議」 、2000 年、セネガルのダカール(Dakar)において、 ユネスコ、ユニセフ、国連開発計画、国連人口基金並びに世界銀行の主催で開催された「世 界教育フォーラム」に続いて開催されたユネスコの教育分野における最高レベルの基本政策 検討会合ある。今後、ユネスコは、インチョンでの議論を整理し、2030 年の世界教育目標 を、今秋のユネスコ総会(2015 年 11 月)に提案する。なお、ジョムティエンとダカールで の「万人のための教育」国際会議に関する総括は、文部科学省日本ユネスコ国内委員会の次 のウエブサイトに、よくまとめられている。(http://www.mext.go.jp/unesco/004/003.htm:2015 年 5 月 31 日閲覧) ⑦インチョンの宣言とそれ以前の二つの会議の宣言の決定的な違いは、インチョン会議の宣 言においては、1990 年と 2000 年の宣言にはなかった ESD と GCE の推進の重要性がはっき りと盛り込まれたことである。 2)ユネスコにおける ESD と Global Citizenship Education の位置づけ それでは、ユネスコにおける Global Citizenship Education は、ESD との関連でどのよ うな位置づけになるのであろうか。 ユネスコは、まず、ESD に推進に先立ち、 「国連環境と開発会議」 (1992 年)の成果 を踏まえ、1994 年から Environment, Population and Development(EPD)プログラムを開 始した。このプログラムの成果物が、2002 年のヨハネスブルグでの「持続可能な開発に 関する世界首脳会議(World Summit on Sustainable Development) 」で発表された Education for Sustainable Future と題した教材開発ガイドラインである。それは、文字通り持続可能 な未来へのあるべき教育の在り方を主要な教科別に、取り組みをまとめたものであった。 なお、日本政府が、2002 年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で、 「国連 ESD (Education for Sustainable Development)の 10 年」を提案した際、ユネスコは、Education for Sustainable Future を、その具体の教材開発モデルとして同時に発表した。 2012 年の「国連持続可能な開発会議」 (リオデジャネイロ)で、国連事務総長による Global Education First Initiative(GEFI)の提案が採択され、国連の教育開発プログラムの 主要課題と位置づけられた。そのシンボル的フレーズとして、従来、ESD で使用された Think globally, and act locally を、Think and act globally and locally と表現した。 潘事務総長の提案を受けた韓国のユネスコアジア太平洋国際理解教育センター - 29 - (APCEIU)は、その実質的推進機関の役割を担い、ユネスコに、Global Education First Initiative の中心的テーマとして、Global Citizenship Education の推進を提案した。 また、ユネスコは、2013 年に、Global Citizenship Education(GCE)プロジェクトを、 2014~17 年の 3 か年プロジェクトとして推進することを決定した。その概要は、ユネ スコ本部のウエブサイト http://www.unesco.org/new/en/global-citizenship-education に掲 載されている。 ユネスコは、2014 年 4 月、オマーンのマスカットにおいて、 「万人ためのグローバル 教育」国際会議を開催し、2015 年以降のユネスコの教育改革目標案を採択した。その採 択案が、2015 年のインチョンでの UNESCO World Education Forum 2015(WEF 2015)の 討 議 の 原 案 と 位 置 づ け ら れ た 。( マ ス カ ッ ト 合 意 文 書 の ウ エ ブ サ イ ト は 、 http://unESDoc.unesco.org/images/0022/002281/228122E.pdf 2015 年5月 30 日閲覧) インチョンでは、マスカット合意文書を中心に討議が進められ、その成果が、インチ ョン宣言(Inchon Declaration=2030 年の教育目標)として採択されたのである。そこで は、ESD と GCE の推進が、質の高い教育を目指すための中心課題と位置づけられた。 おわりに:ESD に関心をもつ全ての人々に重要かつ喫緊の課題 1)ESD の原則や目標の再確認に努めよう ESD は、国際理解教育、人権教育、開発教育、環境教育、平和教育などの原理を融合 したものと位置づけられる。 したがって、その原則と方向は、持続可能性、持続可能な開発主義の価値(平和、思 慮された自由、民主主義、人間の義務、多文化主義に根差した正義など)を、21 世紀の グローバル人材の中心的資質と定め、その普及を目指している。 従来、より良い社会の構築を目指す教育が求めてきた価値観、行動、態度形成は、平 和で持続可能な社会の構築に必要な価値観や態度への転換が求められている。 2)持続可能な開発のための教育と世界市民教育の相互関係の理解を深めよう ユネスコにおいて、世界市民教育を主導するのは、ユネスコアジア太平洋地域国際理 解教育センターである。同センターは、世界市民教育を、国際理解教育の発展形と位置 づけている。その原則と方向は、世界市民としての普遍的価値(平和、自由、民主主義、 正義、人間の権利など)を、万人の世界市民的資質と定め、その育成と普及を目指して いる。 インチョンで開催されたユネスコ等主催の世界教育会議 2015(5 月 19~21 日)では、 2030 年を目標とする「国連持続可能な開発目標」 (UN Sustainable Development Goals= SDGs) (2015 年 9 月に採択予定)の達成に向けた教育目標を、2015 年 11 月のユネスコ 総会で採択することが、参加した約 130 か国の代表により決議された。 今秋、ユネスコ総会で採択予定の“2030 年の教育目標の行動枠組み”では、国連が 9 月に採択予定の“持続可能な開発目標=SDGs”を踏まえ、持続可能な社会の構築に有 為なグローバル人材のための具体的な資質の育成と世界普及に向けた世界市民教育の 必要性が謳われることになるだろう。 http://www.unesco.org/new/en/media-services/single-view/news/world_education_forum_will_set_roadmap_for_global_education_until_2030/#.VWQJ9OmJiAI(2015 年 5 月 26 日閲覧) 3) 「あいち・なごや宣言」の第 15 項の(C)に述べられた SDGs(持続可能な開発目標 =Sustainable Development Goals)に関する学習プログラムの開発に努めよう SDGs は、2015 年 9 月の国連総会で採択される予定である。目標年次は、2030 年で、 環境保全と経済発展の両立を目指す。これは、2000 年に国連で採択された MDGs(ミレ - 30 - ニアム開発目標=Millennium Development Goals)が、2015 年を目標年次としていたの で、その後継プログラムとして、2016~30 年の国際社会の目標となる。 SDGs の達成を目指すには、ESD の包括的な目標である「ものの考え方や行動様式を 変えていく」 (ESD グローバル行動計画の頭書き)ことが、求められている。 なお、巻末に、中国新聞が報じた「持続可能な社会へ 17 項目」(2014 年 8 月 13 日) のコピーを掲載した。 ・・・巻末資料2 今後、すべての教育の場で、すべての教科で SDGs に関わるテーマやトピックが取り 上げられ、それらの達成に向けた議論や学習を深めることが、すなわち ESD の推進に かかわって行くことになるだろう。 「よりよい社会」や「平和で持続可能な社会」の目標は、SDGs の達成に向けて人類 の叡智を集中させてこそ、初めて実現に近づくことができると言えよう。 「持続可能な社会」とはどんな社会かと、改めて問われれば、2030 年に SDGs の 17 項目の目標が、地球規模でできるだけ多く達成されている社会といえよう。ちなみに、 ESD が国連の 10 年として世界的に展開する指針としてユネスコが策定した「国連 ESD の 10 年国際実施計画」 (2005)には、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成が、ESD の 目標であると明示されていた。 なお、SDGs 17 項目(案)のウエブサイト「Open Working Group Proposal for Sustainable Development Goals」は、次のとおりである。http://sustainabledevelopment.un.org/sdgsproposal 4) 「日本のユネスコスクールの誓い」の第 4 項、第 5 項の実践に積極的に取り組もう 前記の目次5に全体で 8 項目の誓いを挙げておいた。中でも重要な事項は、第 4 項に 述べられた「近隣のアジア諸国のユネスコスクールとのテーマ学習・協同学習への取り 組み」であろう。また、第 2 に、 「ユネスコスクール同士の全国ネットワークづくり」 も努力目標である。これら二つの事項については、現在の日本のユネスコスクールに、 最も欠けている「誓い」といえる。 ともあれ、1953 年に始まったユネスコスクール・ネットワーク(ASPnet)事業は、国 内外の加盟学校間の交流を通して学習の好事例を交換し、ユネスコの理想の実現を目指 したものであった。そして、ユネスコが、2005 年に「国連 ESD の 10 年」の主導機関と なってからは、ユネスコの理想に「平和で持続可能な社会の構築」が追加され、質の高 い教育の世界的普及の先頭に立っている。 資料1:中国新聞(朝刊)2014 年 11 月 11 日 - 31 - 資料2:中国新聞(朝刊)2014 年 8 月 3 日 - 32 - 松井理恵「イスラム社会における ESD に関する研究-親和性に焦点をあてて-」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、33-34 頁。 イスラム社会における ESD に関する研究 -親和性に焦点をあてて- 松 井 理 恵* 1.研究の目的と動機 本研究の目的は、イスラム社会における持続可能な教育を導き出すことである。イス ラム教徒の人間観、世界観の根源となっているコーラン、ハディースを研究し、コーラ ン、ハディースに描かれているイスラム世界のあるべき姿、人間像について研究すると ともに、それらがいかにして子供たちの人間観、世界観の育成に寄与してきたのかにつ いて研究する。 また、コーラン、ハディースの教えにおける ESD 的要素についても検証し、イスラ ム社会での ESD において、コーランとの親和性をいかにして取り込んでいくのかにつ いても研究する。その二つを踏まえた上で、西洋の価値観を押し付ける教育ではなく、 イスラム社会にあった教育とはどのようなものなのか提案していく。 ESD(Education for Sustainable Development) :持続可能な開発のための教育とは、現在 社会が抱えている環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な課題を自らの問題とし て捉え、身近なところから取り組むことにより、それらの課題の解決につながる新たな 価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくこと を目指す学習や活動のことを指す1)。ESD は、それぞれの地域にあった教育、各社会に おける文化を大切にする教育であると言われている2)。 コーランとは、預言者ムハンマドの口を通して語られた神のことば。コーランはイス ラムの根本聖典で、ムスリムの生活を、心理的・物理的両面において規定している。 ハディースとは、預言者ムハンマドが人間として語った言葉および、した行いの記録 の集大成である。 イスラムにおいて、人間は神の意志に従って行動しなければならず、 いかにして神の意志を知るかが重大な問題となるのであるが、神の意志はコーランおよ びハディースによってのみ知ることができると信じられている。こうして、イスラムに おいて聖典は、第一次聖典としてのコーランと第二次聖典としてのハディースの二つだ けであり、後の時代のイスラムのあらゆる形態は、すべてコーランおよびハディースか ら出て来ている3)。 第 6 回広島 ESD・ユネスコスクール研究会に参加したとき、ESD の目指すものと、 イスラムの教え、イスラムを信じている人が目指すものが似ていると感じた。それと同 時に、西洋的価値観を押し付けようとする教育はイスラム世界では受け入れられがたい と知った。中東諸国だけでなく、アジア諸国、世界中に広まったイスラム教。そして現 在では、欧米諸国を始め、イスラム教は、世界で一番信者が増え続けている宗教である といわれている。人々は、イスラム教の何に魅了されたのか。そんな世界中に広まった イスラム教のように、ムスリムたちの心を引く教育があるのではないかと思いこの研究 をしてみようと思った。 また、現在、さまざまなテロ集団の活動が報道される中、日本を含め、世界中でイス ラムに対する正しい認識を持つことが重要視されてきている。日本では、イスラムに対 * 広島市立大学国際学部学部生 - 33 - して無知な人たちが多く、さまざまな情報が錯乱する中で、彼らの世界観、人間観を正 しく理解してくことが必要となってくる。そして、グローバル化によって、ますます多 様化が進む中、日本はどのようにしてイスラム社会と向き合っていくべきなのか、この 研究を通して考えていきたいと思った。 これまでの先行研究として、イスラムの自然観・人間観に関する研究、グローバル化 とイスラムに関する研究、世界の教科書で宗教はどのように教えられているのか、など の研究が挙げられる。これらの先行研究において、イスラム教徒が多数を占める教育の 場において、イスラムのお教えがどう教えられているのか、また神話性と教育の関連性 についての研究が不十分である。また、比較的新しい ESD とイスラムの親和性につい て研究されているものは見つからなかった。 以上の不十分な点を補うため、本研究ではコーランを読み、コーランに描かれる ESD 的要素を研究するとともにイスラム世界の教育における親和性の利用について研究し ていく。 2.研究の内容と方法 1)イスラムの人間観、世界観についての研究 イスラム社会における持続可能性とは何なのか、コーラン、ハディース通して読み解 いていく。それらの教えが、子供たちの行動や、価値観の育成にどのように影響してい るのか研究する。 2)ESD における親和性の研究、イスラムの教えとの関連性に関する研究 ESD において、コーランの教え、イスラム社会の世界観、人間観と重なる部分、重な らない部分について研究する。 以上の 2 つを踏まえた上で、イスラム社会における持続可能な開発のための教育につ いて研究する。 3.主要参考文献 ・中田考(監修) 『日亜対訳 クルアーン――「付」訳解と正統十読誦注解』黎明イスラーム学術・ 文化振興会、2014 年。 ・塩尻和子著『イスラームの人間観・世界観―宗教思想の深淵へ―』筑波大学出版会、2008 年。 ・藤原聖子著『世界の教科書で読む〈宗教〉』ちくまフリマー新書 2011 年。 ・トランスファー21 編著『ESD コンピテンシー』明石書籍、2012 年。 注 1)文部科学省 HP「日本ユネスコ国内委員会」 http://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm 2015.1.6 2)第六回 広島 ESD・ユネスコスクール研究会 レジメ 3)ハディースとは何なのか(牧野信也著) http://www2.dokidoki.ne.jp/racket/hadisu_1.html 2015.1.28 - 34 - 河原富夫「第 1 回広島県ユネスコ ESD 大賞の報告」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、35-36 頁。 第 1 回広島県ユネスコ ESD 大賞の報告 河 原 富 夫* 広島県ユネスコ連絡協議会は、ESD とユネスコスクール活動の向上を支援するため、 広島県内の小・中・高等学校、専門学校、大学並びに民間活動団体の中から、ESD・ユ ネスコスクールの普及・推進に関わる優れた活動を顕彰する事業を新たに興し、 昨年 夏、第1回広島県ユネスコ大賞の応募要項を配布させていただきました。募集部門は、 ESD 推進校部門、ユネスコスクール部門、社会部門の三つでした。 10 月 8 日で締め切り、有識者で構成する審査委員会を経て、11 月 22 日(土)午後、 広島市南区民文化センターで、 広島県ユネスコスクール連絡協議会及び株式会社中国 放送と共催し、多くの関係者の協力・後援・助成を頂いて、第1回広島県ユネスコ ESD 大賞発表会を行いました。 今回の応募数は、ESD 推進校部門に 4 点、ユネスコスクール部門に 6 点、社会部門に 7 点、そして社会部門の映像作品が 2 点、合計 19 点でした。 応募いただいた作品は、それぞれ優れた実践に裏打ちされており、甲乙付け難い審査 状況でした。 審査に当たりましては、 「我が国における国連 ESD の 10 年実施計画」に述べられて いる ESD(持続可能な開発のための教育)の目標に合致した実践、つまり、 『地球規模 で考え、様々な課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組み、持続可能な 社会づくりの担い手となるような個々人を育成し、意識と行動を変革する。』という視 点から、それぞれの実践を評価し選考していきました。各部門の具体的な評価の指標は、 広島 ESD・ユネスコスクール研究会で検討し提供していただいたものです。 ○ESD 推進校部門の審査では、学校目標や授業・課外活動目標の明確さ、授業や課外 活動内容の適切性、年間授業計画等の適切性、今後の継続性の 4 点を評価の指標とし ました。 この部門の大賞は、活動テーマを「持続可能な地域社会の担い手を育む教育の創造」 として実践された廿日市市立佐方(さがた)小学校に贈られています。 ○ユネスコスクール部門の審査では、学校目標の明確さ、学校上げての推進組織の確 かさ、他校(外国を含む)との交流、年間カリキュラムの適切性、今後の学校上げて の継続性、この 5 点を評価の指標としました。 この部門の大賞は、活動テーマを「国際理解を深めグローバル人材としての素養を 培う。」として実践された広島県立広島井口高等学校に贈られています。 ○社会部門の審査では、目標の明確さ、取り組みのユニークさ、推進している組織の 継続性、目標や内容の普及(広がり)の可能性、地域の学校との連携の程度、この 5 点を評価の指標としました。 この部門の大賞は、活動テーマを「2030 年までの四半世紀継続活動」として実践さ れた江田島市能美町の永田川(えいだかわ)カエル倶楽部に贈られています。 ○映像特別賞の審査では、該当する部門の評価の指標が映像構成に明確に反映されて いるかということに着目しました。 * 広島ユネスコ協会、第1回広島県ユネスコ大賞審査委員長 - 35 - この部門の大賞は、活動テーマを「感動が育む生きる力」として実践された特定非 営利活動法人おのみち寺子屋に贈られています。 これらの実践内容や審査の講評等の詳細は、第 1 回広島県ユネスコ ESD 大賞実施報 告書(広島県ユネスコ連絡協議会編、2015 年 2 月)に掲載されています。各校の今後の 実践の参考にしていただければ幸いです。 今回のユネスコ ESD 大賞は第 1 回目ということもあり、応募は県南部の学校や団体 が多かったのですが、次回からは県北部から、また、中学校及び大学からの応募も期待 しているところです。特にユネスコスクールにあっては、文部科学省により、ESD の推 進拠点と位置付けられていますので、各校の実践を持ち寄り、成果を共有してさらに ESD を発展させるために、第 2 回以降の広島県ユネスコ ESD 大賞に奮って応募くださ るようお願いいたします。 なお、第 2 回の実施に当たっては、 応募要項や広報等に改善を加えて参りたいと考 えています。ご意見等がございましたら、お知らせください。 - 36 - 和田文雄「グローバル化の視点に立つ ESD としての高校地理教育の教材開発にむけて」 『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、37-46 頁。 グローバル化の視点に立つ ESD としての高校地理教育の教材開発にむけて 和 田 文 雄* * 広島 ESD・ユネスコスクール研究会代表 - 37 - - 38 - - 39 - - 40 - - 41 - - 42 - - 43 - - 44 - - 45 - ※初出『大学教育論叢(創刊号:2014 年度) 』福山大学大学教育センター、2015 年、109-118 頁。 - 46 - 中山修一「検証:教育振興基本計画のなかの ESD」『広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報(第2号)』2015 年、47-55 頁。 検証:教育振興基本計画のなかの ESD 中 山 修 一* 1.目的 国の教育振興基本計画は、戦後、初の教育基本法の改正(2006 年)により制度化され たもので、2008 年 6 月に第一期計画が閣議決定を経て公表された。他方、日本が提案 し、国連総会決議(2002 年)を経てユネスコが策定した「国連 ESD の 10 年・国際実施 計画」 (2005 年)は、全世界のユネスコ加盟国に対し、ESD の推進を国の教育基本政策 の中に位置づけるよう求めていた。このユネスコの要請を踏まえた政府は、教育振興基 本計画の中に、ユネスコ主導の ESD の推進を書き込んだ。 本稿の目的は、次の二つである。第 1 は、国と政令指定都市の教育振興基本計画の中 で、ESD 関連の基本用語が、どの程度盛り込まれているかを数量的に検証すること。第 2 に、ESD 関連用語の代表格である「持続可能な社会」が、国と政令指定都市の教育振 興基本計画の中で、具体的にどう記述されているかを検証することである。なお、政令 指定都市を検証対象とした理由は、広島市と同格の都市の基本計画を比較検討してみた いと考えたからである。 2.検証作業のきっかけ 2011 年はじめ、筆者は、広島市教育委員会の「平和教育プログラム」策定委員会へ参 加することになった。同プログラムの基本構想を聞くと、平和教育を ESD の視点から とらえ直してみたいとのことであった。ESD の日本での推進の議論に、かつて日本ユネ スコ国内委員として深く関わりを持った筆者としては、この要請をすぐに受けることに した。 参加するに当たり、同市教育委員会が 2010 年に策定した広島市教育振興基本計画を 読んでみた。印象深かったのは、その冒頭の「趣旨」の後半に、広島市の今後 5 年間の 教育課題として、 「平和で持続可能な社会」の構築に関わる ESD への取り組みが重要で ある、との記述を目にしたことであった。そこで国の教育振興基本計画と広島市のそれ とを、改めて読み比べてみた。その結果、国の教育振興基本計画には、広島市の基本計 画が書き込んだ「平和で持続可能な社会・・・」という文言は見当たらなかった。国が 書きこんでいない文言を、広島市が書き込んでいたことに感動すら覚えたことを思い出 す。実は、 「平和で」という文言を持続可能な社会の前につける表現は、ESD の主導機 関として、その推進を世界各国に呼びかけているユネスコの掲げるメッセージと同じで あった。 ともあれ印象的な広島市教育振興基本計画との出会い以降、筆者は、全国の地方自治 体が策定した教育振興基本計画に、ESD の推進がどのように書き込まれているかを検 証する作業への関心を温めてきた。それから約 4 年が経ち、今、教育振興基本計画は、 すでに 2013 年以降、5年毎の見直し制度を受けて第二期の時代に入っている。昨年、 「国連 ESD の 10 年(2005~14) 」が終わり、その後継の「ユネスコ・ESD グローバル・ アクション・プログラム(2015~20)」の開始年に当たる今年、当時の思いを実行に移す ことにした。それは、ESD が、文部科学省の独自プログラムというより、日本提案では * 広島 ESD・ユネスコスクール研究会顧問 - 47 - あるが世界の平和構築を理想に掲げるユネスコの基幹プログラムであることを踏まえ ての検証作業である。 3.教育振興基本計画の地方自治体における策定状況 国の教育振興基本計画(2008)を受けて、全国の地方自治体のどれ程が独自の計画を 作成しているかについて、文部科学省(生涯学習政策局政策課教育改革推進室)は、平 成 26 年 3 月 31 日現在の全国集計を公表している。 (http://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/doc.htm:平 成 27 年年 7 月 23 日閲覧) それによると、策定済は、47 都道府県のうち 46 都道府県、また、20 政令指定都市は すべてが、そして 43 中核市のうち 38 中核市に及んでいる。なお、これらを含む全国の 市区町村の策定状況は、全国 1740 市区町村の 63.9%に上っていると報告されている。 これにより、教育基本法が全国の自治体に要請した地方自治体版の教育振興基本計画は、 全国の都道府県、政令指定都市並びに中核都市のほとんどで、また、それらを含む全市 区町村の 60%超えで策定が進んでいることが分かる。 4.国の教育振興基本計画の二つの意義 改正教育基本法(2006)と旧法(1947)との最も大きな違いは、その第 17 条で新た に我が国初の「教育振興基本計画」の策定を規定したことであろう。同条 1 項では、国 に基本計画の策定を義務づけ、また、同 2 項では、地方公共団体に対して、策定に努め るよう要請した。こうして生まれた教育振興基本計画には、大きく二つの意義があると いえる。 第 1 の意義は、日本の教育における成果主義の導入である。この時期、なぜ、こうし た基本計画の策定政策が導入されたのかについては、2000 年に入っての行政全般にお ける成果主義の導入が背景にあったと考えられる。教育分野では、まず、大学から成果 主義の導入が進んだ。文部科学省は、2002 年から当時の国立大学に自主性と競争力を 高めるための法人化に先立ち、各大学に 5 年を目標とする中期目標の策定を指示し、そ れに基づく自己点検、自己評価制度を導入した。それにともなって、大学の教員別授業 別シラバス作成の厳密化が一挙に進んだ。他方、教育振興基本計画は、こうした大学で の先例に倣って、初等、中等学校など個々の学校の教育の目標と成果点検の明確化を求 めて、教育全般に基本計画の制度を導入したことになる。それは、戦後、学校教育にお ける目標が、学習指導要領に基づいて立てられるのが一般的であったが、その上位に位 置する教育の基本政策に関する計画制度の導入であった。これにより国による教育活動 の指針は、教育振興基本計画と学習指導要領とが車の両輪となって回り始めた。 第 2 の意義は、特に筆者が注目する点である。それは教育振興基本計画が、ユネスコ の推奨する ESD の推進を、しっかりと組み込んだことである。ESD は、日本が 2002 年 に国連に提案し、国連総会決議を経てユネスコが主導機関に指定された国際的教育革新 運動である。それは、ユネスコの理念そのものにも大きな影響を与えた。主導機関とな ったユネスコは、世界 190 を超える加盟国に対し、国家教育政策に、ESD の推進を位置 づけることを強く推奨した。その結果、アジア諸国では、例えばベトナムのように、い ち早く ESD 推進法という特別の法律を制定した国も出現した。また、中国のように、 いわゆる学習指導要領に推進を強く盛り込んだ国もある。これらに対応する形で、日本 では、ESD 特別法ではなく、教育振興基本計画の策定という制度を作り、その中に ESD の推進を盛り込んだのである。 ESD の日本での公式な普及開始は、 「わが国における「国連 ESD の 10 年(2005-14)」 実施計画」 (2006)を基点としている。また、教育分野における ESD の推進は、2006 年 - 48 - の教育基本法の改正で生まれた教育振興基本計画の中に書きこまれた。これにより我が 国の教育振興基本計画がもつ ESD 推進の意義は、一段と重要なものとなった。少々大 げさに表現すれば、国連への ESD 提案国としての先導的任務の具体像が、教育振興基 本計画に盛り込まれた ESD の推進策であるとも言える。 5.検証に使った資料 1)検証に際して採用した資料は、国の第二期教育振興基本計画(2013)と全国 20 の 政令指定都市の同基本計画のうち、次の方法で検証資料に採択可能な計画である。 2)それぞれの教育振興基本計画は、2015 年 7~8 月に PDF ファイルで閲覧可能なウエ ブサイトからダウンロードして収集した。 3)全国 20 の政令指定都市のうち、策定年月が平成 25 年以前のものは、第一期の国の 基本計画(平成 20 年 7 月策定)を参酌したもので、同 26 年以降は、第二期の基本 計画(平成 25 年 6 月策定)を参酌したものと見ることにした。 4)政令指定都市のうち、さいたま、新潟、京都の 3 市は、ウエブ上で各市の教育振興 基本計画を開くと、ゲーム画面に飛び、基本計画を閲覧することはできなかった。 恐らく、HP システムに外部から妨害を受けていると判断し、検証作業から除外し た。また、浜松市の同基本計画は、ウエブ上で見当たらなかったので除外した。そ の結果、検証作業ができたのは、全国 20 の政令指定都市のうち 16 都市となった。 6.教育振興基本計画のなかの ESD 関連用語の出現数の検証 最初の検証作業は、国と政令指定都市の教育振興基本計画が、ESD の推進をどの程度 頻繁に書き込んでいるかを、基本用語を使って数量化し、その比較を試みることである。 この作業のために、筆者は、ESD 関連基本用語として、 「ESD」、 「持続可能な社会」、 「持 続可能な開発のための教育」並びに「ユネスコスクール」の 4 つを選んだ。これらの選 択は、第二期教育振興基本計画を参考に読み取ったものである。 検証の方法は、コンピューターにダウンロードした国と 16 政令指定都市の PDF 版教 育振興基本計画に対し、PDF の検索機能から、 「高度な検索機能」を使って、4 つの基本 用語の出現数を調べ、その結果を表 1 にまとめた。 表 1 から読み取ることができる特色は、次のとおりである。なお、都市名の後の( ) 内の数字は、当該基本用語の出現数を著している。 1)国の基本計画における 4 つの基本用語の出現数は、ESD(6) 、持続可能な社会(7) 、 持続可能な開発のための教育(5) 、ユネスコスクール(1)、合計 19 である。なお、 4 つの用語のうち、 「持続可能な社会」の出現度が最も多い。これより、国の基本計 画では、ESD 関連用語として「持続可能な社会」が、最多の出現頻度であった。 2)政令指定都市の基本計画になると、4 つの基本用語の出現数は、国のそれに比べる と、岡山市(40)を例外とすれば、一般的に非常に少なくなる。合計数の多い順に 見ると、岡山市(40) 、広島市(5) 、堺市(4) 、名古屋市(3) 、仙台市(2) 、横浜市 (2) 、川崎、静岡、神戸の各市(1)となる。例外とした岡山市の場合については、 後述の(5)の特色で述べる。 3)教育基本法は地方公共団体に対し、国の計画を参酌して地域に即した教育振興計画 を策定するようにと第 17 条 2 項で規定する。それにも関わらず、ESD 関連の基本 用語が皆無の政令指定都市が、北から札幌市、千葉市、相模原市、大阪市、福岡市、 北九州市、熊本市の 7 市にのぼる。それら 16 市のうちの半数弱である。国の計画 には、ESD の推進がしっかりと書き込まれているにも関わらず、それをまったく参 酌していない政令指定都市が 7 市もあることに驚かされる。これらの都市の教育委 - 49 - 員会おいては、国の計画に書き込まれた ESD 推進の重要な意味が、よく理解されて いないと見ることができる。 4)4 つの基本用語ごとの政令指定都市別の特徴は、次のとおりである。まず、 「ESD」 について見ると、岡山市(32)が突出している。 「持続可能な社会」では、広島市(4) が際立っている。ESD の公式訳語である「持続可能な開発のための教育」では、堺 市(1)が見られるのみで、他の政令指定都市にはまったく見られない。また、文部 科学省と日本ユネスコ国内委員会が「ESD の推進拠点」と位置づける「ユネスコス クール」は、岡山市(8)と広島市(1)のみに見られるだけで、その他の都市には 皆無で実に寂しい。 表1:国及び政令指定都市の教育振興基本計画における ESD 関連基本用語の出現数 持続可能 国、 持続可能 な開発の ユネスコ D~G欄 番 政令指定都 策定年月 ESD の合計 ための教 スクール な社会 号 市 育 A B C D E F G H 0 国(第二期) 25.6 6 7 5 1 19 26.3 1 札幌市 0 0 0 0 0 24.3 2 仙台市 0 2 0 0 2 3 さいたま市 (注 1) ― ― ― ― ― 21.3 4 千葉市 0 0 0 0 0 23.1 5 横浜市 0 2 0 0 2 26.12 6 川崎市 0 1 0 0 1 22.3 7 相模原市 0 0 0 0 0 8 新潟市 (注 1) ― ― ― ― ― 22.3 9 静岡市 1 0 0 0 1 10 浜松市 (注2) ― ― ― ― ― 11 27.3 2 1 0 0 3 名古屋市 12 京都市 (注 1) ― ― ― ― ― 13 25.3 大阪市 0 0 0 0 0 14 26.3 2 1 1 0 4 堺市 15 26.3 1 0 0 1 神戸市 0 16 25.1 32 0 0 8 40 岡山市 17 26.3 4 0 1 5 広島市 0 25.4 18 福岡市 0 0 0 0 0 26.2 19 北九州市 0 0 0 0 0 26.3 20 熊本市 0 0 0 0 0 注 1)ウエブ上で同市の教育振興基本計画のページをクリックすると、ゲームの宣伝ページに移行する。なんらかの障害 により、該当ページを適正に開くことができない。 注 2)ウエブ上で確認できなかった。 5)基本用語「ESD」が検出されるのは、国(6)のほか、16 政令指定都市のうち、静 岡(1) 、名古屋(2)、堺(2) 、岡山(32)の 4 市であるが、岡山市が突出している。 岡山市の場合、他都市と比較して多用されているのは、二つの理由が考えられる。 第 1 は、策定の翌年、2015 年にユネスコ ESD 世界会議が同市で開催されることに なっていたこと、したがって、他都市に比べて ESD 関連事業を個別具体的に多く書 き込んでいたこと、また、基本計画の策定方式が、個別事業ごとにまとめる様式で あったことを指摘できる。第 2 の理由は、岡山市は、2005 年、国連 ESD の 10 年の - 50 - 開始年に国連大学高等研究所(横浜市) (現在名:持続可能な開発研究所)が、世界 で初めて 14 か所の ESD 推進拠点を指定した際、日本での 4 か所の一つに選ばれた という自負があった。国の教育振興基本計画は、 「ESD」よりも分かりやすい「持続 可能な社会」という用語を多く採用したが、岡山市では、用語「ESD」がかなり定 着しているということも推察される。ともあれ、これだけ多くの用語「ESD」を書 き込んだ基本計画は、他都市に類を見ない。なお、用語「ユネスコスクール」が岡 山市(8)で突出しているのは、前述と同じく、事業別中心の基本計画という記述様 式の特性に基づいていることも理由の一つといえる。 7.国の教育振興基本計画は「持続可能な社会」をどう書き込んだか 前節において、教育振興基本計画に ESD 関連の基本用語 4 点が、どれぐらいの頻度 で出現するかは明らかにできた。 そこで、次にこれら 4 点の基本用語の中から「持続可能社会」を選び、どのような施 策項目の下で、どのような文章で書き込まれているかを整理し、その特徴を理解するこ とにした。用語「持続可能な社会」を選んだ理由は、表 1 において、国の基本計画の中 で、ESD の推進の関連用語として最も多く 7 か所に出現しているからである。 作業としては、PDF の検索ツールを使って、用語「持続可能な社会」が、書き込まれ た文章を抜き出し、表 2 を作成した。 表2:教育振興基本計画における用語「持続可能な社会」を含む文章の一覧 出現 順 1 2 3 4 5 6 7 【項目】 ●用語「持続可能な社会」を含む文章 【前文】 ●これらの危機を乗り越え、持続可能な社会を実現するための一律の正解は存在しない。 【②我が国が直面する危機(地球規模の課題への対応)】 ●現在、世界環境問題、食料・エネルギー問題、民族・宗教紛争など様々な問題に直面している。これらは 正に地球規模の課題であり、かつてのような物質的な豊かさのみの追求という視点から脱却し、持続可能な 社会の構築に向けて人類全体で取り組んでいくことが求められている。 【(4)社会の方向性 (新たな社会モデル~知識を基盤とした自立、協働、創造モデルとしての生涯学習 社会の実現~)(国民全体の幸福の実現)】 ●また、国際的にも、地球規模の課題解決に貢献し、持続可能な社会を構築することにより、世界から信 頼・尊敬される存在感ある国へと飛躍する。 【(1)社会を生き抜く力の養成~多様で変化の激しい社会での個人の自立と協働~(今後の学習のあり 方)】 ●持続可能な社会の構築という見地からは、「関わり」「つながり」を尊重できる個人を育成する「持続可 能な開発のための教育(ESD)*8」の推進が求められており、これは「キー・コンピテンシー」の養成にも つながるものである。 【注*8 持続可能な開発のための教育/ Education for Sustainable Development(ESD)>】 ●持続可能な社会の担い手を育むための教育であり、国際理解、環境、多文化共生、人権、平和、防災等、 個別分野に関する教育を、持続可能な開発の観点から総合的につなげる概念である。2002年に開催された 「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)」において、我が国は「持続可能な開 発のための教育の10年」(以下、「ESDの10年」という)を提案した。2002年の第57回国連総会では、2005 年からの10年間を「ESDの10年」とすることが決議されるとともに、ユネスコ(国際連合教育科学文化機 関)が主導機関として指名されている 【<5年間における具体的方策>基本施策11 現代的・社会的な課題に対応した学習等の推進 ○基本的考え方】 ●現代的、社会的な課題に対して地球的な視野で考え、自らの問題として捉え、身近なところから取り組み、 持続可能な社会づくりの担い手となるよう一人一人を育成する教育(持続可能な開発のための教育:ESD)を 推進する。 【<5年間における具体的方策> 基本施策11 現代的・社会的な課題に対応した学習等の推進(主な取組) 11-1 現代的・社会的な課題等に対応した学習の推進】 ●さらに、ユネスコスクールの質量両面における充実等を通じ地球規模での持続可能な社会の構築に向けた教 育(持続可能な開発のための教育:ESD)を推進する。 表2の出現順1~7に見られる特徴は、次のとおりである。 ●出現順1は、 「前文」に書き込まれている。同前文ではグローバル化の進展などにより世界 - 51 - 全体が急速に変化している現状の中で、日本の置かれた状況は、産業空洞化や生産年齢人口 の減少など極めて危機的な状況にあるとの認識を述べる。そして、 「これらの危機を乗り越 え、持続可能な社会を実現するための一律の正解は存在しない。」と書き込んでいる。 ●出現順2は、項目「我が国が直面する危機(地球規模の課題への対応)」で、地球規模の課 題を、環境問題、食料・エネルギー問題、民族・宗教紛争など様々な問題と明示し、 「物質 的な豊かさのみの追求という視点から脱却し、持続可能な社会の構築に向けて人類全体で 取り組んでいくことが求められている。 」と書き込んだ。そこには、従来の物質的な豊かさ のみの追求から脱却することで、持続可能な社会の構築を目指す必要があるという重要な メッセージが書き込まれている。 ●出現順3は、項目「社会の方向性」の中で生涯学習社会の実現を目指すとする中で、 「持続 可能な社会を構築することにより、世界から信頼・尊敬される存在感ある国へと飛躍する」 と書き込んだ。つまり、持続可能な社会の構築を目指すことは、世界から信頼と尊敬される 国になるために必要なことであることを明示した。 ●出現順4は、項目「社会を生き抜く力の養成」の中で、 「持続可能な社会の構築という見地 からは、 「関わり」 「つながり」を尊重できる個人を育成する「持続可能な開発のための教育 (ESD) 」」の推進が求められており、これは「キー・コンピテンシー」の養成にもつながる ものである。 」と書き込んだ。このことは、ESD の推進により、 「 「関わり」 「つながり」を尊 重できる個人を育成するとともに「「キー・コンピテンシー」の養成にもつながるものであ る」と、ESD 推進の具体的な効果を明示した。 ●出現順5は、ESD とは何かを解説したもので、特に、ユネスコが主導機関となった経緯が 記述されている。 ●出現順6は、項目「5 年間における具体的方策」の中で、ESD を推進することで、持続可能 な社会づくりの担い手を育成するという、ESD の基本目標を述べている。 ●出現順7は、項目「5 年間における具体的方策 現代的・社会的な課題に対応した学習等の 推進」の中で、 「ユネスコスクールの質量両面における充実等を通じ地球規模での」ESD を 推進すると書き込んだ。このことは、ユネスコスクールの充実を図ることは、ESD の世界 展開に寄与することを視野にいれるべきことを強調したものであろう。 8.政令指定都市の教育振興基本計画は「持続可能な社会」をどう書き込んだか 政令指定都市の教育振興基本計画は、用語「持続可能な社会」を、どのような項目の 中で、どのように書き込んでいるかを整理し表3に整理した。 表3の都市別・用語の出現順に特徴をまとめると、次の通りである。 1)仙台市 仙台1は、項目「社会状況の変化」の中で、持続可能な社会の実現を目指して行くことが 重視されるようになったことを述べる。ただし、地球的課題の解決という観点の書き込みに なっていない。 仙台2は、項目「市民として主体的に社会にかかわり、共に生きる力」の中で、 「豊かな 地域づくりや持続可能な社会づくりのための重要な力」の育成が、教育の重要な役割である と述べている。 仙台3は、「持続可能な社会」の簡明な用語解説である。 2)横浜市 横浜1は、項目「身近な体験から持続可能な社会を考える環境教育」と、項目に書き込ん でいる。これは、環境教育こそが持続可能な社会を考える基礎になるとするもので、ESD を、 環境教育に偏重した考え方に基づく表現となっている。 横浜2は、「持続可能な社会」の簡明な用語解説である。 3)川崎市 川崎1は、項目「基本政策Ⅶ いきいきと学び、活動するための環境づくり ○現状と課 - 52 - 題」の中で、 「積極的に社会へ参画し、地域課題を解決していくことができる、持続可能な 社会の構築に向けた「市民力」の形成が求められます。」と書き込んでいる。ただ、持続可 能な社会の構築のためには、地域課題のみではなく、地球的課題にも対応できる市民力が必 要となるが、その点の記述が欠けている。 表3:政令指定都市の教育振興基本計画における用語「持続可能な社会」を含む文章の一覧 都 市 名 仙 台 市 出 現 順 1 2 3 横 浜 市 1 2 川 崎 市 1 名 古 屋 市 堺 市 1 神 戸 市 1 広 島 市 1 & 2 1 3 4 【項目】 ●用語「持続可能な社会」を含む文章 【1.社会状況の変化】 ●環境や経済など社会を取り巻く様々な課題を一人ひとりが自らの問題としてとらえ、持続可能な社会 の実現を目指していくことが、近年、重視されるようになっています。 【時代の変化を受けとめ、未来を切りひらいて行く力の中の「市民として主体的に社会にかかわり、共 に生きる力」】 ●「市民として主体的に社会にかかわり共に生きる力」は、豊かな地域づくりや持続可能な社会づくり のための重要な力であり、共に生きる社会に主体的にかかわる市民の力を育むこと、それは教育の重要 な役割です。(p.6) 【注 持続可能な社会】 ●世代を超えて環境、経済、人間・社会の3要素のバランスのとれた社会(p.41) 【(2)身近な体験から持続可能な社会* 10を考える環境教育】(p.15) 【注 *10 】 ●豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない経済発展を図りながら、持続的に発展することがで きる社会(p.15) 【基本政策Ⅶ いきいきと学び、活動するための環境づくり ○現状と課題】 ●地域の課題や市民の生活課題が多様化し、行政だけでそのニーズに応えるには限界がある中で、市民 自らの主体的な課題解決に向けた活動を促進するためには、各個人が学び、つながった成果を活かして 積極的に社会へ参画し、地域課題を解決していくことができる、持続可能な社会の構築に向けた「市民 力」の形成が求められます。(p.62) 【施策5を構成する他の事業 ○事業名:学校における環境教育の推進】 ●平成26年度に開催した「ESDに関するユネスコ世界会議」の成果を継承し、「持続可能な社会を支え る担い手づくり」を学校教育において展開 する「ESDフレンドシップ事業」を実施します。(p.28) 【(4)-④環境教育推進事業】 ●持続可能な社会の構築に関する当事者意識を子どもたちにはぐくみ、課題解決に向けて主体的に実践 することができるように環境教育の充実を図る。 ・持続可能な開発のための教育(ESD)の視点を取り入れ、食、生物多様性、水等の関係性をテーマに したESDプログラムを実施 ・小中学校及び幼稚園にグリーンカーテンを整備 (p.20) 【第2章 今後5年間に予想される神戸の教育を取り巻く環境の変化:2.グローバル化の進展、都市間 競争の激化や地球環境問題の深刻化】 ●温暖化やその影響による異常気象いった自然災害などの地球環境問題に対して、一人一人が十分な意 識と知識を持ち、後世に豊かな自然を継承し、持続可能な社会を構築していくことが重要である。 (p.4) 【1.趣旨】 ●今日、人々が地球的視野で考え、様々な課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組み、 持続可能な社会づくりの担い手となることが求められており、こうした地球規模での持続可能な社会の 構築は我が国の教育の在り方にとっても重要な理念であるとされています。(p.1) 【1.趣旨】 ●今後は、こうした教育を更に充実させながら、命を大切にし、平和で持続可能な社会を創造していく 力をもつ子どもを育てていくことが求められています。(p.1) 【(4)社会的課題に対処する意欲や態度のかん養等を目指した多様な教育の推進:オ 外国の人々の生活 や文化、歴史などに関する理解の促進、人権意識の醸成を目指した教育を推進する。:主な取り組み 国際理解教育の推進】 ●ユネスコスクール認定校における実践の普及・啓発を図り、地球的視野で考え、様々な課題に対し、 身近なところから取り組み、持続可能な社会づくりの担い手となる人材を育成する。(p.15) 4)名古屋市 名古屋1は、項目「施策5を構成する他の事業 ○事業名:学校における環境教育の推進」 の中で、 「持続可能な社会を支える担い手づくり」を学校教育において展開する「ESD フレ - 53 - ンドシップ事業」を実施します」と書き込んでいる。ただ、この場合も、事業名が、「学校 における環境教育の推進」の枠内で書き込まれており、ESD の推進が、環境教育の推進で達 成できるとの狭い解釈となっている。 5)堺市 堺1は、項目「環境教育推進事業」の中で、持続可能な社会の構築に主体的に取り組める よう環境教育の充実を図ると書き込んだ。この場合、環境教育の充実が、持続可能な社会の 構築に欠かせないことを強調している。この場合も、環境教育偏重型の典型的な書き方とな っている。 6)神戸市 神戸1は、項目「グローバル化の進展、都市間競争の激化や地球環境問題の深刻化」の中 で、 「自然災害などの地球環境問題に対し、 ・・・後世に豊かな自然を継承し、持続可能な社 会を構築していくことが重要である」と書き込んだ。この記述は、持続可能な社会の構築は、 後世に豊かな自然を残すために必要としている。これも環境偏重型の説明であり、ESD の 一面的な解釈と言わざるを得ない。 7)広島市 広島1、2、3は。いずれも項目「趣旨」に書き込まれている。「趣旨」の中に、3 度も 「持続可能な社会」を書き込んだのは、広島市の計画の大きな特徴と言える。 広島1&2は、文章の前段で、「今日、人々が地球的視野で考え、様々な課題を自らの問 題として捉え、身近なところから取り組み、持続可能な社会づくりの担い手となることが求 められており」と言い、後段で、「こうした地球規模での持続可能な社会の構築は我が国の 教育の在り方にとっても重要な理念である」とまとめている。 広島3は、「今後は、こうした教育を更に充実させながら、命を大切にし、平和で持続可 能な社会を創造していく力をもつ子どもを育てていくことが求められています」と結んで いる。 これら広島1、2、3の趣旨の中では、持続可能な社会の担い手になるべき取り組み方を 示し、持続可能な社会の構築が、我が国の教育のあり方にとって重要であると述べ、その推 進により「命を大切にし、平和で持続可能な社会を創造していく力をもつ子どもを育ててい くこと」の必要性が、しっかりと記述されている。ESD の推進を、真正面から受けとめた見 事な記述と評価されよう。 広島4は、項目「社会的課題に対処する意欲や態度のかん養等を目指した多様な教育の推 進:オ 外国の人々の生活や文化、歴史などに関する理解の促進、人権意識の醸成を目指し た教育を推進する。 :主な取り組み 国際理解教育の推進」の中で、 「ユネスコスクール認定 校における実践の普及・啓発を図り、・・・持続可能な社会づくりの担い手となる人材を育 成する」とユネスコスクール認定校の実践の中で、持続可能な社会づくりの担い手となる人 材を育成すると、ユネスコスクールの推進と持続可能な社会づくりの担い手育成の関係を、 明確に示した点が注目に値する。 9.検証作業から導かれた結論 1)国の教育振興基本計画は、ユネスコ策定の「国連 ESD の 10 年国際実施計画」の要 点を参酌し、我が国で ESD を推進することの意義、教育現場での具体的な取り組 み方法や内容を、バランスよく書き込んでいる。その点で、ユネスコの国際実施計 画が、各国に要請した教育政策の基本計画に、ESD の推進を組み込むことに十分に 応えている。 2)政令指定都市の教育振興基本計画の中でも、ESD に関わる記述が見られない都市が あることは大きな驚きである。あたかもユネスコや国の基本計画が呼び掛ける ESD の推進を、まったく意に介しない基本計画を策定しているような札幌、千葉、相模 - 54 - 原、大阪、北九州、福岡、熊本の各政令指定都市には、せめて第三期の計画策定時 には、書き込まれることを期待したいものである。 3)政令指定都市の中で、ESD の推進に国の基本計画を優れてよく参酌しているのが、 広島市と岡山市であった。ただ、両者にも書き込み方の違いが鮮明である。広島市 の場合は、ESD の推進が、現在の教育の改善にとっていかに大事であるかが書き込 まれ、合わせて ESD の推進拠点と定義されるユネスコスクールの充実の大切さも 明記している。 4)岡山市の場合は、他の政令指定都市には見られないほど多くの用語「ESD」と「ユ ネスコスクール」が出現する。この背景には、岡山市の教育振興基本計画が、他都 市とは異なり、事業別に詳細な施策を記述する様式を用いていることがある。それ だけに、ESD の推進が、学校教育のみではなく、公民館や図書館などの活動に大変 具体的に盛り込まれている。また、ユネスコスクールの推進についても、事業の内 容が具体的に書き込まれている。こうした点では、今回、検証の事例とした 16 都 市の中では、例外的に特色ある書き込みとなっている。 5)広島、岡山両市以外の政令指定都市のうち、ESD の推進が、環境教育の振興で実現 できるとした名古屋市や堺市の例は、ESD の推進を狭義にとらえた典型である。国 の基本計画には、環境教育は ESD 推進の一部であっても、それが中心であるとの 視点は書き込まれていない。今後は、環境教育の推進が、ESD の推進の中心に当た るとの発想の払拭が期待される。ESD の推進には、環境教育のほかにも、国際理解 教育、開発教育、平和教育、防災教育等の多様な分野が、深く関わり合っている。 6)最後に、今回の検証対象とした国と 16 の政令指定都市のすべてにおいて、まった く言及がなかったものの、実は大事な点を指摘しておきたい。それは、ESD の具体 的な目標であり、また、 「持続可能な社会」のイメージについてである。 ユネスコ策定の「国連 ESD の 10 年(2005~14)国際実施計画」 (2005)では、ESD 推進の具体的な目標を「国連ミレニアム開発目標」(2000)(MDGs=Millennium Development Goals)としていた。さらに、2015 年から始まった「ユネスコ・ESD グ ローバル実行計画」では、2015 年 9 月の国連総会で決議される「国連持続可能な開 発目標」 (SDGs=Sustainable Development Goals) (目標年=2030 年)を ESD の目標 にすると書き込んでいる。両者には、地球的課題とその開発目標が、ある程度の数 値目標で書かれている点に特色がある。前者では、8 大項目が、後者では 17 大項目 が取り上げられている。国連 SDGs(持続可能な開発目標)の時代に入った今後、 学校教育、社会教育のあらゆる場で ESD の推進に取り組む際には、持続可能な社 会の観点と観点別目標値とを、国連持続可能な開発目標(SDGs)を視野に入れて組 み立てることが、必須の要点となるだろう。 - 55 - 広島 ESD・ユネスコスクール研究会 -平成 26 年度 事業計画- Ⅰ 重点目標 (1)本研究会の目的である、ESD(持続可能な開発のための教育)およびその推進拠 点であるユネスコスクールの発展と普及を図るための研究と支援を進める。 (2)定例研究例会の発表及び投稿論文、短報およびエッセイなどを掲載する 2014 年 度の年報を刊行する。 Ⅱ 実施事業 1.会員の募集 研究会の活動・実践に関する広報に努める。そして、幅広く研究推進会員の委嘱をす すめ、普通会員の公募を積極的に行う。 2.定例研究例会の開催 定例研究例会を、6 月、9 月、12 月、3 月の第 3 土曜日に広島大学附属中高等学校(社 会科教室)で開催し、ESD およびユネスコスクールに関する実践およびそれを視野に入 れた研究についての発表と討議を行う。 3.役員会議の開催 広島県ユネスコ連絡協議会の ESD・ユネスコスクール専門委員会との緊密な連携の もと、月一回程度、代表、副代表、事務局長並びに顧問による役員会議を開催し、研究 会の運営について具体的に協議する。 4.情報収集とホームページによる発信 ESD(持続可能な開発のための教育)およびユネスコスクールに関する情報を、内外 の Web サイトを中心に収集・分析し、それを本研究会専用のホームページに掲載し、 また、メーリングリストにより発信する。 5.当面の研究プロジェクト (1)ユネスコスクールにおける実践の好事例を収集し検証する。 (2)ESD(持続可能な開発のための教育)の授業開発を進める。 (3)広島市「平和教育プログラム」の研究支援を行う。 (4)2014 年度の年報を刊行する。 - 56 - 広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報 -ESD・ユネスコスクールフォーラム- 執 筆 規 定 (1)原稿の締め切りは、毎年、翌年の 9 月末とする。 (2)刊行媒体としては、経費の点やコピーをとりやすいということから電子書籍とせ ず、PDF とする。 (3)掲載するものは、研究例会での発表に関するもの、および公募するものとして、 論文、実践、指導案、課題提起、速報などとする。 (4)原稿は、A4 サイズで 1 ページ 40 字×45 行の 20 ページまでとする。 (5)編集委員会は事務局に設ける。編集は体裁までとし、査読はしないが、場合によ っては、原稿の訂正および修正をお願いすることがある。 (6)原稿の提出先は、広島 ESD・ユネスコスクール研究会事務局 [email protected] である。 - 57 - 【研究会開催記録】 ・第4回研究会:平成 26 年 6 月 21 日(土) 発表者:1.阪上弘彬(広島大学大学院教育学研究科大学院生): 「ドイツの学校教育における ESD の取り組み」 2.池下 誠(練馬区立開進第一中学校): 「ESD の視点を取り入れ生徒の価値観を育てる中学校社会科の学習指導」 3.髙田準一郎(岐阜聖徳学園大学): 「周防大島から地域の持続可能性を考える」 ・第5回研究会:平成 26 年 9 月 20 日(土) 発表者:1.岡本順子(広島市立幟町小学校) : 「持続可能な社会づくりのために平和の担い手となる子どもを育てる ~幟町小学校における ESD の取組~」 2.森川敦子(比治山大学): 「幼児期からの ESD」 ・第6回研究会:平成 26 年 12 月 20 日(土) 発表者:1.長尾実咲(広島市立大学国際学部国際学科学生): 「どのような教育が平和構築に貢献しうるか」 2.潮田愉子(広島市立大学国際学部国際学科学生) : 「カフェから見える ESD」 3.中山修一(広島 ESD・ユネスコスクール研究会顧問): 「ESD ユネスコ世界会議の成果と今後の展開」 ・第7回研究会:平成 27 年 3 月 21 日(土) 発表者:1.松井理恵(広島市立大学国際学部国際学科学生): 「イスラム社会における ESD に関する研究」 2.大下あすか(広島市立戸坂小学校) : 「協同して課題を解決し、互いに認め合う子どもを育てるために」 3.河原富夫(広島ユネスコ協会): 「第1回 ESD 大賞審査報告」 4.中村光則(広島県教育委員会): 「ESD・ユネスコスクール出前講師派遣の仕組み作り検討会議の報告」 ―――――――――――――――――――――――――――― 広島 ESD・ユネスコスクール研究会年報 - ESD・ユネスコスクールフォーラム - 第2号(平成 26 年度) 2015 年 12 月 31 日発行 編集者:広島 ESD・ユネスコスクール研究会 発行所:広島 ESD・ユネスコスクール研究会事務局 〒731-3194 広島市安佐南区大塚東三丁目 4-1 広島市立大学国際学部比較国際教育学研究室気付 ――――――――――――――――――――――――――――
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