「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対する意見

平成23年7月29日
法務省民事局参事官室 御中
社団法人 日本クレジット協会
〒103-0016
東京都中央区日本橋小網町14番1号
住生日本橋小網町ビル
電話番号 03-5643-0011
担当者:業務企画部部長 與口 真三
「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」に対する意見
第3 債務不履行による損害賠償
6 金銭債務の特則(民法第419条)
(1)要件の特則:不可抗力免責について
<意見>
金銭債務の不履行について一般則による免責を認めることについては賛成できない。
不可抗力免責を認める方向で検討する場合には,不可抗力の意義が明確に定義される
ことが必要であり,かつその際,免責されるべき不可抗力の範囲については,大震災や
大洪水など,債務者の主張や個別的事実確認がなされなくとも客観的かつ類型的に不可
抗力による不履行と認識できる範囲に限定されることが適切である。
<理由>
1 クレジットカード会社,信販会社は,多くの顧客を相手に尐額かつ大量な取引を日
常的に行っており,かつ,多くのクレジットカード会社等は,日本全国の顧客を対象
としている。すなわち平成 21 年のクレジットカードの取扱高は,約 44 兆 3188 億円
であり,個別クレジットも含めた販売信用全体で 51 兆 7824 億円である。また,平成
22 年 3 月末現在の日本におけるクレジットカードの発行枚数は,3 億 2233 万枚とな
っている。なお,クレジットカードによる取引の大半が翌月 1 回払(マンスリークリ
ア)等の非割賦販売であるところ(平成 21 年 41 兆 0401 億円),データが得られた
範囲では,この非割賦販売による 1 件あたりの取扱高は 5,575 円である。
この結果,顧客からの不可抗力である旨の申し出に対して,都度その申出事実を調
査し,可否を判断していくことは実際上極めて困難であり,不可抗力の範囲が明確化
されるとともに,その範囲についても不可抗力該当性が容易に判別できるようなもの
1
に限定されなければ,取引において著しい混乱を生じさせるおそれがある。
2 仮に,個別対応が求められた場合には,例えば貸金業法上,個人である債務者との
貸付けに係る契約に基づく貸付けの債権について,支払いの有無等に関し,指定信用
情報機関に対して所定事項を直ちに(遅くとも翌日の通常の営業時間の開始前まで
に)登録することが義務づけられているところ,類型的判断が困難な事実まで不可抗
力とされた場合には,不可抗力によって支払いができなかった場合に,直ちに,その
旨を含めて登録すること又は支払い遅延の事実を登録しないとの判断をすることは
著しく困難である。
また,貸金業法だけではなく,割賦販売法においてもそれぞれ顧客との取引状況に
ついて遅滞なく指定信用情報機関に登録が義務付けられているところであるが,当該
登録を行うべき時期までに不可抗力の有無を判断することは容易ではない。
仮に,これらの法令に基づき,指定信用情報機関に対して支払遅延の事実を登録し
た後に,不可抗力によってその登録内容が変更されるようなことがあった場合,不可
抗力によって免責となった取引に留まらない範囲で混乱が生じる懸念が存在する。
(2)効果の特則:利息超過損害の賠償について
<意見>
金銭債務の不履行における利息超過損害の賠償請求を認めることには賛成できない。
また,仮にこれを認める場合にも,その意義が明確に定義されることが必要であり,か
つその範囲についても客観的かつ類型的な範囲に限定されることが適切である。
<理由>
「6 金銭債務の特則(民法第419条)(1)要件の特則:不可抗力免責について」で述
べたとおり,クレジットカード会社は多くの顧客を相手に尐額かつ大量な取引を日常的
に行っているところ,そのためにはシステムによる定型処理が不可欠であって,クレジ
ットカード取引を成り立たせる基盤となっている。すなわち,このようなシステムによ
る定型化された処理は,単に取引のための事務処理コスト等を低廉にするということを
超えて,社会における決済インフラとして重要な意義を有しているクレジットカード取
引を成り立たせるための不可欠な要素である。
このような定型処理の観点からは,金銭債務の不履行における利息超過損害の賠償請
求を一般的に否定する現行の判例法理は合理的なものであり,仮に超過損害の賠償請求
を認める場合であっても,その範囲について客観的かつ類型的な範囲とされることが適
切である。
2
第5 契約の解除
5 複数契約の解除
<意見>
一つの契約の不履行に基づいて複数契約全体の解除を認めること,特に異なる当事者
間で締結された複数契約全体の解除を認める規定を設けることについて検討すること
には反対である。
<理由>
あっせん型のクレジット取引は,売買契約や役務提供契約を購入者等と販売業者等の
間で,立替払契約その他のクレジットの利用に係る契約を購入者等とクレジット会社の
間で締結する。また,売買代金債権を目的とする債権譲渡契約その他の契約を販売業者
等とクレジット会社との間で締結する。
もしこのような,異なる当事者間における複数の契約を活用する取引において,ある
契約の不履行により複数契約全体の解除が認められると,クレジット会社から独立した
事業者であり,クレジット会社がその行為を支配していない販売業者等の行為によって,
クレジットの利用に係る契約も解除され,既払分も含めて返金を行わなければならない
ことになる。解除事由があっても解除権行使がされるか否かわからない一方,解除事由
がある契約の当事者ではない者については,自ら解除事由を除去する対応をとることが
容易ではないことなどに鑑みると,クレジット会社はいつ契約が解除になるか分からな
い状態におかれ安定した取引を行うことが出来なくなってしまう。
割賦販売法においては,抗弁の接続が定められているが,これは,あくまで一定の要件
のもとに,創設的に認められているものであり(最(三小)判平成 2 年 2 月 20 日),しか
も,これから弁済期の到来する債権に対して支払いの停止を認めているものである。そ
れを,民法で契約の解除という強い効力を認めることは適当でなく,特に,これが割賦
販売法の対象とならないクレジットカードショッピングにおける翌月 1 回払い(マンス
リークリア)についても適用されるようなことがあれば,クレジットカード取引に混乱
をもたらす危険が大きい。
すなわち,クレジットカードショッピングにおけるマンスリークリアは,実質的に決
済としての機能を果たしているものであるところ,平成 20 年改正法による改正前の割
賦販売法で定める割賦購入あっせんに該当しないクレジットカードショッピングが平
成 21 年において 35 兆 9558 億円(但し,販売業者・役務提供事業者以外の者による第
三者型クレジットカードによるもの)に達し,公共料金や国民年金保険料などの支払い
のためにも用いられている。マンスリークリアを中心とするクレジットカード取引が,
社会における決済インフラとして重要な意義を有している実態に鑑みれば,クレジット
カード取引に混乱を生じさせることは相当ではない。
3
第10 詐害行為取消権
2 要件に関する規定の見直し
(2)取消しの対象
ウ 偏頗行為
(ア)債務消滅行為
<意見>
一部債権者への弁済であっても,それが本旨弁済である限り詐害行為取消権の対象と
ならない方向で検討することに賛成である。
<理由>
マンスリークリアを中心とするクレジットカード取引では,電気,水道,ガス,電話
などの継続的に発生する公共料金,さらには,国民年金保険料や一部の税金などの決済
のためにも用いられるものである。また,ネット取引にかかわる代金の支払いに際して
は,クレジットカードが用いられる場合が多い。
このように,クレジットカードのショッピング取引は,社会における決済の仕組みと
して重要なものとなっており,カード会員においても,できる限りクレジットカード会
員契約を維持することを欲する者が尐なくない。
このため,資力の欠乏により支払が困難となった債務者であっても,特にクレジット
カード代金の支払いを優先することを欲する者も存在するところ,公共料金の決済など
にも用いられる実情に鑑みれば,このような弁済を有効なものとして扱う必要性妥当性
が認められる。
3 効果に関する規定の見直し
(1)債権回収機能(事実上の優先弁済)の当否
<意見>
債権回収機能を否定又は制限するかどうかについては,責任財産の保全という制度趣
旨との関係のほか,詐害行為取消権の積極的な行使の動機付けの観点も踏まえてご検討
いただきたい。
<理由>
詐害行為取消権の行使には,訴えの提起や訴訟追行に伴う各種の手間(事実関係の調
査なども含む)や費用を負担するだけでなく,敗訴の危険も負う。このことを踏まえれ
ば,自ら積極的に権利を行使した者とこれをしなかった者との間にはおのずと差があっ
4
てしかるべきである。また,先に債権回収に着手した者がより保護される結果になると
しても,詐害行為による財産散逸をできる限り早く是正することにつながり,結果とし
て全ての債権者の利益につながるものである。
第12 保証債務
3 保証人の抗弁等
(1)保証人固有の抗弁-催告・検索の抗弁
イ 適時執行義務
<意見>
本件について,適時執行義務に関する規定を設ける場合,これが連帯保証にも適用さ
れるものとして民法に規定されることについて反対する。
<理由>
担保の目的物は,例えば市場において取引される有価証券のようにその時々において
価格が高下するものもあれば,自動車などの耐久消費財のように,時の経過とともに価
値が減尐することが通例であるものなどもありうるところである。
クレジット契約では,本人が日常生活で必要とする自動車や家電製品等を目的物とし,
かつ,必要に応じ当該クレジット契約に基づく購入者等の債務について連帯保証を得る
ことがあるが,これらの目的物は,時の経過とともに価値が減尐するものであることが
一般である。
ここで,時の経過とともに価値が減尐するものが担保目的物である場合の「適時」は,
法律上契約上担保権の行使が可能となったときとされやすいものと考えられるところ,
適時執行義務を連帯保証人との関係で認めることとする場合は,上記のようなクレジッ
ト契約の場合,本人が日常生活で必要とする自動車や家電製品等の売却処分を遅延発生
後短期間のうちにクレジット会社に強制することに繋がりかねず,保証人の利益を考慮
するあまり債務者の利益を損なう可能性が大きい。また,特に債務者の分割返済等の和
解の申し出や遅延後に期限の利益を再度付与しようとするときなどに保証人の了解を
得られず,債務者と保証人の利害の対立がある場合には,債権の管理回収にも支障が生
じることも懸念される。
4 保証人の求償権
(1)委託を受けた保証人の事後求償権(民法第459条)
<意見>
委託を受けた保証人による期限前弁済につき,現行の取扱い(委託を受けない保証人
5
と同等とならない取扱い)を維持する方向で検討されること,尐なくとも,期限前弁済
であることから当然に委託を受けない保証人と同様に扱わない方向で検討されたい。
<理由>
自動車販売などにおいて,販売業者と購入者との間で割賦販売契約を締結しつつ,
クレジット会社が購入者等の委託を受けて保証を行うことにより,クレジット機能を
提供している取引が存在する。
そのような契約において,購入者等が民事再生手続に入った場合には,売買契約の
目的物であり,かつ留保所有権の目的物である自動車使用を継続させる等の必要から,
販売業者が購入者等に有する債権について期限の利益を喪失させないまま,販売業者
と購入者等より保証委託を受けたクレジット会社間の契約において,クレジット会社
は,販売業者の有する残債権について期限未到来分も含め保証履行することが一般的
である。また,そもそも再建型法的倒産手続にあっては,その手続の開始により期限
の利益の喪失が認められない場合もありうる(最(三小)判平成 20 年 12 月 16 日参照)。
法的倒産手続以外でも,販売業者とクレジット会社間において,債務者の同意のも
と,販売業者の有する債権が期限の利益を喪失する前においても,保証履行を行う場
合があることを定め,実際に運用されているケースもある。
すなわち,期限前に代位弁済を行うことが委託の趣旨に当然に反するものとはいえ
ないのであり,期限前弁済であるから委託を受けない保証であると結論づけることは
取引の実態と整合しない。
また,このような場合に委託を受けない保証人とされることになると,クレジット会
社は期限の利益を喪失するまで保証履行を行わないという選択をせざるを得ず,そのよ
うな場合,販売業者は,債権管理を行う手間や費用との関係で,積極的に期限の利益を
喪失させることにもなりかねない。
7 根保証
(1)規定の適用範囲の拡大
<意見>
根保証に関する特別規定の対象を全ての根保証に広げるといった検討を進められる
場合には,業態特有の事情なども踏まえ事業者の実務への影響に考慮いただき慎重にご
対応いただきたい。
<理由>
中小事業者に対して,その仕入代金その他の事業活動のために必要な費用の決済の
ために用いられる法人カードを発行する場合には,当該企業の代表者を保証人につけ
6
ることが多い。このような法人カードは,社用車の給油や小口の事務用品の購入など
にも用いられ,中小事業者の事務の合理化の効果も認められるのであり,貸金等根保
証契約と同様の規律を定めることになれば,かえって中小事業者の利便性を損なうこ
とになりかねない。
また,クレジットカード会社においても,法人カードの保証を一定期間に限定される
と,その都度保証契約をし直さなければならないことになり,実務上大きな負荷が掛か
り,現在のようなコストでのサービス提供が難しくなる。
8 その他
(1)主債務の種別等による保証契約の制限
<意見>
個人取引,事業者取引ともに高額な取引を,保証制度を活用することにより実現しう
るものは日常的に多く見られる。クレジット取引においても,保証人を取得して与信を
するという取引は広く行われ社会に浸透しているものであり,このような保証を著しく
制限するような検討は慎重に行うべきである。
<理由>
例えば,自動車等の耐久消費財をクレジットで購入しようとする場合に,購入を希
望する者の信用力だけでは与信できない場合に,保証人を立てることによって信用力
を補っている。このような保証が認められないということになると,これまで保証人
を立てることによりクレジットを利用して自動車等の耐久消費財を特に問題なく購入
してきた消費者が,現金でなければ購入できなくなってしまう。
そもそも,保証契約は,信用補完の制度として我が国の取引実務において定着してい
るものであり,一般法たる民法において類型的画一的に保証契約の効力を否定すること
は,かえって,信用供与取引を必要とし,かつ健全にこれを利用することができる者か
らその機会を奪うことになるだけでなく,活力ある経済活動を阻害することにもなりか
ねない。
第13 債権譲渡
1 譲渡禁止特約(民法第466条)
(1)譲渡禁止特約の効力
<意見>
譲渡禁止特約の効力については,譲渡禁止特約の付された債権が譲渡された場合の債
務者の負担,二重払いの危険及び相殺の期待の喪失による不利益等に鑑み,譲渡人につ
7
いて倒産手続の開始決定があったときに譲渡禁止特約を譲受人に対抗できない規定を
新設すること等,譲渡禁止特約の効力を制限する方向での制度の見直しは慎重なご対応
をお願いしたい。
<理由>
民法の改正によって債権譲渡禁止特約の効力が制限され,債権譲渡禁止特約にかかわ
らず債権譲渡が有効とされる場合があれば,クレジット会社は,その意に反する加盟店
による債権譲渡によって,支払先変更に係る多大な事務負担を負い,二重払いの危険に
さらされると共に加盟店に対する立替払金返還請求権又は債権譲渡代金返還請求権と
の相殺の期待を失うという不利益を受けることになる。
(2)譲渡禁止特約を譲受人に対抗できない事由
ウ 譲渡人について倒産手続の開始決定があった場合
<意見>
債務者が二重払いの危険を被る可能性があることを十分に配慮した検討をしていた
だきたい。
<理由>
クレジット取引のような大量の取引関係があり,その処理のために画一的な取扱いが
求められる取引においては,加盟店に対する立替払い金又は債権譲受代金の支払に誤り
がないよう,一般に加盟店契約において立替払い金債権等の譲渡禁止特約を締結して,
契約関係を固定している。
もっとも,かかる譲渡禁止特約の定めがある場合でも,加盟店は,融資を得るなどの
目的で将来債権である立替払い金債権等の譲渡を行い,これについて,第三者対抗要件
及び債務者に対する権利行使要件である通知がなされる場合がある。
この点,倒産手続開始決定は,債務者に対する通知がされず,譲渡禁止特約を対抗で
きない事由の発生を時宜に覚知することができないおそれがある。また,クレジット業
界では,加盟店に対する立替払金又は債権譲受代金の支払を取引銀行に対する先日付振
込の依頼により行っているのが原則であり,この場合には,依頼済みの振込手続を停止
することに多大な困難を伴う(
「第 17 弁済 1 弁済の効果」に対する意見参照)。
8
2 債権譲渡の対抗要件(民法第467条)
(2)債務者対抗要件(権利行使要件)の見直し
<意見>
債務者対抗要件として債務者の承諾を残していただきたい。
<理由>
クレジットカード取引のうち債権譲渡形式をとるものについては,債務者対抗要件の
具備を債務者の異議なき承諾によって行っているところ,債権譲渡の対抗要件につき,
債権譲渡登記に一元化したときには,実務上,債権譲渡形式によるクレジットカード取
引が存続し得なくなってしまうおそれが大きい。
すなわち,クレジットカード取引のうち債権譲渡形式によるものは,クレジットカー
ド加盟店である販売業者や役務提供事業者(加盟店)が,クレジットカード会員である
購入者又は役務提供受領者(会員)に対し,商品等を販売し又は役務を提供したことに
より取得する売買代金債権又は役務提供対価に係る債権を,クレジットカード会社に譲
渡し,クレジットカード会社が加盟店に対して当該債権譲渡による譲受代金を支払うと
ともに,会員に対して譲受債権を行使するという法律構成をとっている。
我が国におけるクレジットカード会社によるあっせん型のクレジットカードの取扱
額は,平成 21 年度 1 年間で約 39 兆 0277 億円に達するが,うち,平成 20 年改正法に
よる改正前の割賦販売法で定める割賦購入あっせんに該当しないクレジットカードシ
ョッピングが平成 21 年において 35 兆 9558 億円であることに示されるとおり,その大
半はいわゆるマンスリークリアであり短期間で取引が完了するものである。また,デー
タが得られた範囲では,マンスリークリアによる 1 件あたりの取扱高は 5,051 円である
ことからうかがえるとおり,クレジットカードショッピングは,小口大量取引を日常的
に行うものである。このようなクレジットカード取引において,債務者による承諾が債
務者対抗要件でなくなる場合には,実際上債権譲渡方式によることができなくなり,ク
レジットカード取引の根幹が大きく崩れることとなりかねない。
すなわち,債権譲渡の対抗要件から債務者の承諾を外す場合,仮に譲渡人による通知
が対抗要件として認められても,小口かつ多頻度のカード取引において加盟店にカード
利用者に対する通知を要求すれば加盟店に対して過度な負担を課すことになる。この点
をさらに敷衍すると,我が国においては,販売業者等は複数のクレジットカード会社と
加盟店契約を締結することが一般化しており,VISA や MasterCard など同一の国際ブラ
ンドが賦されていても提示されたクレジットカードの発行会社の如何によって,債権の
譲受人が相違する。このため,加盟店が提示されたカードを見て,カード会員に対して
債権譲受人を通知することは容易ではないのである。
さらに,カード利用者が利用するカードの発行者たるカード会社(イシュアー)の加
9
盟店ではなく,当該カード会社と提携する他のカード会社(アクワイアラー)の加盟店
でカードを利用した場合には(なお,3 つ以上のカード会社が介在する取引もある。),
加盟店,アクワイアラー及びイシュアーの間で複数の債権譲渡が行われるところ,加盟
店,アクワイアラー(場合によっては更に多数のイシュアー以外のカード会社)が債権
譲渡の通知をそれぞれ当該カード利用者に対して行わなければならないことになる可
能性があるが,イシュアー以外のカード会社は,カード会員の住所その他の連絡先を把
握していないため,実際上このような通知を行うことは不可能である。
さらに,債権譲渡方式によるクレジットカード取引のうち,特にマンスリークリアの
場合,その実質においては決済サービスである。すなわち,譲渡対象とされているのは,
現金売買であればその場で決済されて消滅する債権であり,一般的には加盟店や会員が
ことさらに債権の存在を意識しない債権であって,いわば,その実質においては,債権
譲渡の法形式を借用しているに過ぎないものともいえる。
債権譲渡の対抗要件制度の検討に当たっては,当事者が明確に債権の存在を認識し譲
渡に供している典型的な債権譲渡取引とは異なる,債権譲渡形式を借用しているとも評
価できる取引が存在すること,このような取引について,債務者の承諾を対抗要件とし
て扱ってきて格別の問題が生じていなかったことも考慮していただくことを望むもの
である。
3 抗弁の切断(民法第468条)
<意見>
仮に,意思表示による抗弁の放棄という構成を採るとしても,改正前後で,クレジッ
トカード取引について,会員規約による包括的な抗弁切断や将来発生しうる抗弁の切断
の可否に関する考え方が変わることのないよう特段の配慮をされたい。
<理由>
債権譲渡構成のクレジット取引は,債務者である購入者等の商品の代金等の支払手段
として,購入者等がクレジット会社に対する債務負担の意思を持ちつつ,その申込みに
よって行われるものであり,債務者が覚知しないところで行われる債権譲渡とは根本的
に異なる。特に翌月 1 回払い(いわゆるマンスリークリア)のものは,購入者等に対する
信用供与という性質よりも,支払手段の提供又は資金決済の機能の提供を行っており,
比較的短期間に取引が完了するものである。
また,我が国におけるクレジットカード会社によるあっせん型のクレジットカードの
取扱額は,平成 21 年度 1 年間で 39 兆 0277 億円に達するが,うち,平成 20 年改正法
による改正前の割賦販売法で定める割賦購入あっせんに該当しないクレジットカード
ショッピングが平成 21 年において 35 兆 9558 億円であることに示されるとおり,その
10
大半はいわゆるマンスリークリアであり短期間で取引が完了するものである。また,デ
ータが得られた範囲では,マンスリークリアによる 1 件あたりの取扱高は 5,051 円であ
ることからうかがえるとおり,クレジットカードショッピングは,日常的に尐額かつ大
量に取引がなされるものである。
このような取引について,クレジット会社が,短期間に売買契約等の抗弁事由の調査
をすることは困難であるところ,抗弁の切断が認められないということになると,クレ
ジットカード会社の負担として大きすぎるうえ,実質的に決済としての性質を有する取
引であるクレジットカード取引の安定を害し,社会的な決済インフラとしての意義を害
することになる。
4 将来債権譲渡
(1)将来債権の譲渡が認められる旨の規定の要否
<意見>
①将来債権譲渡の規定については,「将来債権」の譲渡の有効性を認める規定を現在の
判例法理に基づき明文化していただきたい。
②また,「将来債権」の規律を明文化するに際しては,将来債権を含むクレジット債権
のキャッシュフローを活用した証券化による資金調達の支障とならないようにご配
慮いただきたい。具体的には,例えば,「将来債権の譲渡人は,正当な理由なく,将
来債権の発生を阻害したり,将来債権の譲受人への帰属を阻害したりしてはならない
という義務を負う」というような文言を明文化するなどのご対応をいただきたい。
(2)公序良俗の観点からの将来債権譲渡の効力の限界
<意見>
将来債権譲渡の効力については,取引実態などを勘案し,具体的な基準を設け立法化
していただきたい。例えば,「将来債権の譲渡時において,譲渡人が長期間にわたって
その発生(原因関係)を維持するための費用を負担することが,その債権者を不当に害
することとなる場合には,当該将来債権の譲渡は,その効力を生じない。」といった主
旨の規定についてもご検討いただきたい。
(3)譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の効力の限界
<意見>
将来債権の譲渡の後に譲渡人の地位に変動があった場合に,その将来債権譲渡の効力
を第三者に対抗することができる範囲については,第三者に対抗することができる範囲
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を明確にする規定を設けるものとする方向での検討は慎重に願いたい。
第17 弁済
1 弁済の効果
<意見>
弁済の効果を定める前提としては,弁済の要件を定める必要があると思料されるとこ
ろ,弁済の要件を定めるにあたっては,特に金銭債務に関し,金銭の提供だけでなく,
金融機関を通じた振込など決済手段が多様化していることを踏まえる必要があること,
その際,小口大量取引の場合,理由中に示す次のような問題点があることを考慮いただ
きたい。
<理由>
民法において弁済に関する基本的なルールを定める場合にはその定め方によっては、
次のような実務上の影響が生ずることが考えられる。
現代社会においては,金銭債務の履行につき債権者の預貯金口座への払込みなどの
方法による場合が多く存在する。預貯金口座への払込みに関しては,大規模事業者に
よる給与等の振込,クレジット取引における加盟店への振込など,同時期に大量の振
込手続を処理しければならないものがあり,これらについては,その円滑な処理のた
めに定型的なシステム処理が行えるようデータを作成し,実際に債権者口座への着金
日前に振込手続をとることが一般的である。
このような同時期に大量の振込手続がとられるものに関しては,当該振込手続をと
った債務に係る債権について差押等がなされても,これについて振込依頼を撤回する
ことが実務上極めて困難となる。すなわち,振込依頼を撤回する処理を行うには,他
の債務の期日における履行を遅滞しないよう,それらの振込処理に影響がないように
しつつ,差押通知記載の債権に係る振込依頼の有無を全振込依頼データの中から確認
のうえこれを特定し,かつ,特定された対象となる振込データの再加工を行う必要が
あるが,クレジット取引が小口大量取引であることに照らせば,これを短期間で処理
することは多大な負荷が生じるものである。
そこで,このような取引の実情を踏まえて合理的な内容となるよう,弁済の要件をご
検討いただくことを希望するものである。
7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで)
<意見>
合意による充当が優先することが明確化される方向での検討を是非進めていただき
12
たい。併せて,民事執行手続における配当も,弁済充当と同様に合意による充当が優先
するよう検討していただきたい。
充当に関する合意内容については,柔軟なものが認められるよう配慮されたい。
<理由>
クレジットカード会社,クレジット会社は,同一の顧客との間で,カードショッピン
グや個別クレジットの利用による商品等の購入代金及びこれに対する手数料及び遅延
損害金並びに金銭消費貸借契約に基づく債権及びこれに対する利息及び遅延損害金債
権など,複数の契約に基づき複数の金銭債権を有することが尐なからず存し,かつ,こ
れらを預貯金口座などへの払込や口座振替により,まとめて収受することが一般的であ
る。これらの取引に基づく債権はいずれも小口でありかつ大量取引であるため,電算シ
ステムにより定型処理をせざるを得ない。そこで,クレジットカード会社,クレジット
会社においては,顧客と充当の順序方法につき合意し,これに従ってシステムを構築し
処理することとしている。充当合意の内容は,取引の性質などを勘案しつつ定められて
いるものであり取引の実情に即したものであるから尊重されるべきものであり,充当合
意の優先が明確化されることは重要と考える。また,民事執行手続による配当も,金銭
債権債務関係の消滅をもたらすという点で,実質的に債務の弁済と類似するものである
ところ,この場合にも,合意による充当が優先されると扱われれば,今後のシステム構
築が簡便となり,取引に要するコストの低減がはかられることになる。
10 弁済による代位(民法第499条から第504条まで)
(3)一部弁済による代位の要件・効果の見直し
ア 一部弁済による代位の要件・効果の見直し
<意見>
一部弁済による代位の場合に代位者が単独で担保権を実行することを認めた判例法
理を見直し,代位者は債権者との共同でなければ担保権を実行することができない旨を
明文で規定するかどうかについては,一部弁済による代位があった場合の抵当不動産か
らの配当上,原債権者が優先するという判例法理を明文化する方向で検討を進めていた
だきたい。
イ
連帯債務の一部が履行された場合における債権者の原債権と一部履行をした連帯
債務者の求償権との関係
<意見>
連帯債務の一部を履行した連帯債務者が,ほかの連帯債務者に対して求償権を取得す
13
るとともに,一部弁済による代位によって,原債権及びその担保権を行使し得ることに
なっているが,この場合に連帯債務の一部を履行した連帯債務者が取得する求償権は,
債権者の有する原債権に劣後し,債権者が原債権の全額の弁済を受領するまで,当該連
帯債務者は求償権等を行使することができない旨を明文化する方向で検討を進めてい
ただきたい。
(4)債権者の義務
ア 債権者の義務の明確化
<意見>
担保保存義務について検討される場合には,不動産に対する典型担保権の場合だけで
なく,動産に対する非典型担保の場合における取引の実情を配慮し検討していただきた
い。
<理由>
いわゆるオートクレジット,オートローン契約を締結する場合,クレジット会社は,
これら契約に基づく債務が完済されるまで自動車について所有権を留保し,購入者を
使用者,クレジット会社又はその指定するものを所有者とする自動車所有者登録をす
るとともに,当該債務を被保証債務とする保証契約を締結することがある。
この場合において,保証人が代位弁済をなした場合には,所有権を留保した自動車
について保証人に当該留保所有権が移転することとなるが,道路運送車両法上,自動
車登録ファイルには,弁済による代位を登録する制度がなく,保証人に対する所有者
登録移転登録の方法によらざるを得ない。しかしながら,この場合には,当然に自動
車の使用者登録が抹消されてしまい,改めて自動車の使用者の協力を得て使用者登録
手続をする必要があるところ,使用者が所在不明となるなどにより,このような協力
が得られない場合も存在する。この結果,本来第 2 次納税義務者である留保所有権者
が,実質上自動車税の第 1 次納税義務者と扱われるなど,留保所有権に代位した者に
所有者登録を移転することで不利益が生じることもあるため,本来担保保存義務に合
致するはずの代位者に対する所有者登録手続をとることが,代位者の利益に反するこ
とも考えられる。
他方,代位弁済により債務が完済となった場合に,債権者がそのまま留保所有権に基
づく登録を維持することも,既に弁済により債権が消滅した債権者に対してその管理の
ための負担を課すこととなってしまう。
14
第18 相殺
1 相殺の要件(民法第505条)
(1)相殺の要件の明確化
<意見>
判例法理のもとで,安定的に運用されている実務を阻害するような方向での検討をす
ることには賛成できない。
<理由>
クレジット会社と加盟店とのクレジット利用代金の精算業務(立替払い,債権譲渡)
において,既払分についてキャンセル処理が発生した場合に,未払いと相殺をするとい
うことが一般的に行われているが,加盟店が倒産し,他の債権者による差押さえがなさ
れた場合に,このような相殺が制限されることになれば加盟店契約に基づく安定したク
レジット取引ができなくなってしまう。すでに,いわゆる無制限説をとる判例法理を踏
まえ広く安定的に運用されている実務を変更する必要性があるとは考えられず,このよ
うな方向での検討には賛成できない。
第24 申込みと承諾
8 隔地者間の契約の成立時期
<意見>
隔地者間の契約の成立時期につき,承諾の意思表示の到達時とされることについては,
これが強行規定である場合には賛成できない。
<理由>
割賦販売法 35 条の 3 の 56 は,指定信用情報機関に加入する包括信用購入あっせん業
者及び個別信用購入あっせん業者に対して,一定の場合に包括信用購入あっせん関係受
領契約又は個別信用購入あっせん受領契約に関する事実で同法所掲のものを加入する
指定信用情報機関に提供することを義務づけているところ,係る提供すべき事項には,
契約年月日が含まれている。
仮に,隔地者間の契約成立について,承諾の意思表示が到達したときとされ,かつこ
れが強行規定とされた場合には,いつ承諾の意思が申込者に届いたかを確認しなければ
割賦販売法上の上記の義務を適切に行うことができなくなる懸念がある。
また,貸金業法 17 条 2 項は,貸金業者に対し,極度方式基本契約を締結した際に契
約内容を明らかにする書面の交付を義務づけているところ,同書面の記載事項にも契約
年月日が含まれている。このため,仮に上記のような改正がなされた場合には,契約締
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結年月日を法定書面に記載するために,契約承諾の意思表示を通知し,その到達を確認
して法定書面を交付することになってしまい,事前書面交付義務も考慮すると,煩雑な
書面交付が必要となってしまう。
クレジット会社が行うクレジットや貸金の取引は,日常的に大量な取引を処理しなけ
ればならず,上記のような処理は実務上困難である。
第27 約款(定義及び組入要件)
1 約款の組入要件に関する規定の要否
<意見>
約款についてその組入要件を検討するにあたっては,現在広く認められ安定的に行わ
れている実務を尊重して検討していただきたい。また,その際,約款の組入要件につき,
実務的な対処が困難となる厳格な内容のものとすること及び,約款の内容やこれによる
取引の性質などを考慮することなく画一的な約款の組入要件を盛り込むことについて
は反対する。
<理由>
約款による取引は,単に大量の取引を合理的,効率的に行う手段としての意義に留ま
るものではない。すなわち,小口大量取引を迅速かつ日常的に行う必要があるクレジッ
ト取引の場合,電算処理システムを用いて定型的に実行することが不可欠となっている
ところ,このような場合には,取引条件が均質定型化されていることが不可欠であるこ
とから,約款による取引でなければ,そもそも存在することができない。
一方,著しい不当条項である場合は別論,一般的に約款が契約内容となることについ
ては,実務上特段の問題は生じていない。
このため,約款の組入要件につき実務上の必要性を考慮せずに専ら理論的観点からの
厳格な要件を課し,実務的対処が困難となることは,認められるべきではない。
また,約款については,電力供給契約や水道供給契約,鉄道旅客運送契約など,約款
使用者の相手方に,当該約款による契約を締結するか否かの選択の余地すら事実上存在
しないものがある反面,クレジットカードの会員規約のように,相手方に契約を締結す
るか否かの選択の余地が十分にあり,かつ相手方からの契約の解約申入れもほぼ無限定
で認めているものもある。
加えて,約款の内容が取引の基本契約である場合には,当該基本契約の締結自体で適
用されることとなる条項と,その後に改めて当事者が締結する個別的な取引に係る契約
の内容となる条項を複合的に有するものがあるのであり,このような基本契約ではない
約款の場合と比較して,おのずと異なる組入要件が考えられてしかるべきである。
さらに,クレジットの場合には割賦販売法により,貸金については貸金業法により,
16
基本的な取引条件について,契約締結前に書面交付が義務づけられている。
このため,これらの差異を考慮せず,約款の組入要件を画一的に民法に規定すること
は取引の実情にも整合せず不適当である。
4 約款の変更
<意見>
約款が民法に規定される場合は,特に継続反復してなされる取引の基本契約に係るも
のを中心に,約款使用者の相手方の個別の同意によらない,より簡便な方法で変更がで
きるような規定としていただきたい。
<理由>
クレジット取引は,多数の顧客を相手に,大量の尐額取引を迅速に行うことを特質の
一としているところ,このような取引においては電算処理を前提とし,かつ画一的な取
引条件によらざるを得ないため,約款による取引とならざるを得ない。ここで,クレジ
ットカード会員規約のように,継続反復してなされる取引の基本契約として長期にわた
り契約関係が維持されることを前提としているものの場合には,社会状況や経済情勢の
変動などに伴い,約款の内容を変更する必要性が生じることもまた避けがたいところ,
変更についても画一的にその効力を生じさせないと,上記特質に反することになり,業
務運営が出来ない。このため,このような約款の変更については,個別特定の相手方の
みを対象とするようなものでない限りにおいて,実務上適用可能で合理的な方法による
ことができることが不可欠である。
なお,このような方法によることとしても,クレジット業界で主に使われている約款
では,契約締結時にあらかじめ規約の変更手続きを定めており,かつ相手方が契約の解
約申し入れをすることについてほぼ制約をしていない。また,電気供給契約や水道供給
契約,鉄道旅客運送契約とは異なり,クレジットの場合には,同種のサービスを提供す
る事業者が多数存在し,約款の変更について納得できなければ自由に退会ができるよう
になっている。このため,簡便な方法によったとしても,相手方の利益を損なうおそれ
は小さいと考えられるのであり,約款の変更においては,このような事情も加味して考
慮していただきたい。
17
第31 不当条項規制
1 不当条項規制の要否,適用対象等
<意見>
不当な契約条項に関する規定を民法に設けることについては反対である。
<理由>
1 取引の一方の当事者の利益を不当に害するものであるかは,取引当事者の属性や市
場の特性状況,取引の内容や形態,取引に至る経緯など多種多様な事項の相関関係に
おいて判断されるべきものであるところ,一般法である民法において,多種多様な事
情を十分反映させて要件を定めることができるのか疑義がある。また,仮にこのよう
な個別的事情を離れて一般化することとなる場合には,経済活動に対して過度の萎縮
的効果を招く懸念が否定できない。
2 また,例えばクレジット業界においては,クレジット契約の解除制限(割賦販売法
30 条の 2 の 4)や損害賠償等の額の制限(同 30 条の 3)等,消費者保護のための契
約内容規制が十分になされており,事業者に課せられている書面の交付においても,
その書面の記載事項として,「商品に隠れた瑕疵がある場合に事業者が当該瑕疵につ
いて責任を負わない旨が定められていないこと」
,
「法令には違反する特約が定められ
ていないこと」が規定されるなど,それぞれの業法において,不当条項が定められな
いような規律がされている例は尐なくないところ,これとは別個に一般法たる民法に
おいて不当条項規制を定める場合,過剰な規制となるおそれがある。
3 どのような条項が不当条項となるかについては,その時々の状況などによっても変
化することが予想されるところ,一般法である民法で定めることは適切ではない。
第32 無効及び取消し
2 一部無効
(3)複数の法律行為の無効
<意見>
一つの契約の無効に基づいて複数の法律行為を無効にする,特に異なる当事者間で締
結された複数契約の無効を認めるような規定を検討することには反対する。
<理由>
クレジット取引は「売買契約や役務提供契約」と「債権譲渡契約又は立替払契約」
という異なる当事者による複数契約を活用する取引であり,「売買契約や役務提供契
約」の無効をもって「債権譲渡契約又は立替払契約」も無効となってしまうというこ
18
とでは,クレジット会社は,自らが関知しない理由によって自己が当事者である契約
について無効を主張されることになってしまい安定した取引を行うことが出来なくな
ってしまう。
また,割賦販売法においては創設規定として抗弁の接続が定められているが,これは,
あくまで一定の要件のもとに政策的に認められているものであり(最 (三小)判平
2.2.20),しかも, これから弁済期の到来する債権の支払いの停止を認めているもので
ある。それを民法で契約の無効という強い効力を認めることは適当ではなく,特に,こ
れが割賦販売法の対象とならないクレジットカードショッピングにおける翌月 1 回払
い(マンスリークリア)についても適用されるようなことがあれば,クレジットカード
取引に混乱をもたらす危険が大きい。
すなわち,クレジットカードショッピングにおけるマンスリークリアは,実質的に決
済としての機能を果たしているものであるところ,平成 20 年改正法による改正前の割
賦販売法で定める割賦購入あっせんに該当しないクレジットカードショッピングが平
成 21 年において 35 兆 9558 億円(但し,販売業者・役務提供事業者以外の者による第
三者型クレジットカードによるもの)に達し,公共料金や国民年金保険料などの支払い
のためにも用いられている。マンスリークリアを中心とするクレジットカード取引が社
会における決済インフラとして重要な意義を有している実情に鑑みれば,クレジットカ
ード取引に混乱を生じさせることは相当ではない。
第36 消滅時効
1 時効期間と起算点
(1)原則的な時効期間について
<意見>
短期消滅時効の制度を廃止して時効期間を統一化することには賛成である。
時効期間を統一化する場合は,実務への影響を考慮し,時効期間は5年を基準に検討
するべきである。
時効の中断及び停止事由を改正するにあたっては,分かりやすく,複雑ではない規定
にするべきである。
<理由>
現在の大方の商取引の実務においては,商事消滅時効の5年を前提に消滅時効管理の
システムが作られている。クレジット債権についても,商行為によって生じた債権とし
て,時効期間は5年になると解されているため,5年を前提にシステムを作っている。
仮に,時効期間が現行民法の原則と同じ10年に統一された場合には,債務者にとっ
19
て,従前より時効期間が長くなって不利益である。他方,債権者にとっても,必ずしも
歓迎されるべきことではない。すなわち,債権の時効管理をすべき期間が今までの2倍
になるため,極めて膨大な数の債権を長期間に渡って管理しければならないという負担
をもたらすこととなる。
さらには,時効期間を現行民法下の短期消滅時効規定のように,1年,2年又は3年
とするなど短期に設定すると,債権の効力を必要以上に弱めて妥当でないと考えられる
一方で,債権者は,迅速な権利行使をせざるをえないこととなり,これによって債務者
にとっても,再生のチャンスを狭める等の現実の不利益をもたらすこととなる恐れがあ
る。
第39 売買-売買の効力(担保責任)
1 物の瑕疵に関する担保責任(民法第570条)
(4)代金減額請求権の要否
<意見>
売買代金の減額請求権の要否について検討する場合には,クレジット契約など,売買
契約の代金額を基に行われる,第三者が信用供与者となる与信取引との関係で実務上の
混乱が生じないよう,特に配慮して検討していただきたい。
<理由>
クレジット契約は,売買契約に基づく売買代金を基礎とする金員につき第三者が信用
供与者となる与信取引であるが,このようなクレジット契約は,自動車や家電など日常
生活において必要となる耐久消費財の購入のために用いられることも尐なくない。
クレジット契約の場合,割賦販売法上抗弁接続規定がおかれていることも併せ考える
と,かかる与信取引において,代金額の変動に関する行為が,与信取引の当事者である
クレジット会社とは無関係に行われることとなると,与信取引関係について取引の安定
が図れない。もし,代金減額請求権そのものを導入するのであれば,与信取引関係が介
在している場合について与信取引の安定が図られるなど特段の配慮がされるように,与
信取引に第三者が介在する場合も取引が円滑に進むような方法のご配慮をしていただ
きたい。
20
第43 贈与
1 成立要件の見直しの要否(民法第549条)
<意見>
贈与の考え方,特にその成立要件について,実務の実態を踏まえて効率かつ柔軟な要
件を定める方向で検討がされることについて賛成する。
<理由>
東日本大震災の被災者に対する義援金などで見られるように,カード会員が,カード
決済により,義援金や公益団体への寄附を行うこと,カード会員がポイントを利用して
公益団体等に対し寄附を行うことを申し出て,これに対応してカード会社が会員に代わ
りポイントに相当する寄附を行うことなど,法的には贈与と評価される行為がなされる
例が尐なくないが,これらについては例えば電話による申出で行われることも見受けら
れるところである。
贈与について,常に書面によらなければ取消しをなし得るとする場合,クレジット会
社としては安定的で確実な事務処理を行うために寄附をしようとする者の意思を書面
で確認しなければならないことになるが,これでは,かえって善意の行為を妨げる結果
となりかねない。
このため,実務の実態を踏まえて効率かつ柔軟な成立要件を定めることは,社会的意
義のある行為を促進することにもつながると思われる。
第44 消費貸借
1 消費貸借の成立
(1)要物性の見直し
<意見>
消費貸借を諾成契約として規定することについては,反対する。
<理由>
消費貸借を諾成契約とすると,貸主に「貸す債務」が生じることとなり,金銭の交付
前に借主の信用不安が生じたとしても,特約がない限り当該義務を免れないこととなり
かねない。また,特約を定めても,当該特約に定める事由に該当することを,貸主側で
立証する責任が生じるものと考えられ,営業上のノウハウである審査基準を開示せざる
を得ないなど各種の弊害が予測される。
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4 期限前弁済に関する規律の明確化
(1)期限前弁済
<意見>
消費貸借契約において,期限前弁済を制限し又は禁止する特約が一切認められないと
の趣旨である場合には,これに反対である。
また,借主が貸主に対して賠償する損害を実損害とすることには,反対である。
<理由>
1 クレジットカード会社,信販会社などは,多数の者との間で小口の貸付けを行いつ
つ,その返済については預貯金口座からの自動振替により受けることが通例である。
このような取引の場合,借主が,期限前弁済を自由にできることとすると,(1)弁
済をした借主やその金銭消費貸借契約の特定が容易ではない,(2)期限前弁済がなさ
れた日如何によって,預貯金口座への振替を停止することがきわめて困難となる,(3)
場合によって,約定の弁済期日までの利息を収受することが利息制限法の制限利率を
超える利息の受領に該当することとなり,貸金業法第 12 条の 8 に違反することとな
りかねない,などの理由から,期限前弁済については,貸主の事前の承諾を必要とす
る,又は貸主への事前の連絡と指定された弁済方法に従うなどの特約が締結されてい
ることが通例である。
このような特約は,大量取引における画一的事務処理から外れるものについて的確
に把握し対処するために合理的なものであり,改正後もその効力が認められてしかる
べきものである。
2 借主が貸主に対して賠償する損害を実損害とする場合,実際上その立証の困難性か
ら紛争が増加する可能性があり,また,不相当に過大な損害に関しては,利息制限法
による制限によって対応すれば足りる。
(2)事業者が消費者に融資をした場合の特則
<意見>
借主は貸主に生ずる損害を賠償することなく期限前弁済をすることが許される特則
の創設には反対である。
<理由>
1 クレジット会社は,顧客との契約期間に合わせて資金調達等も行っている。借主の
勝手な都合により一方的に期限前に何等ペナルティを課されることもなく,自由に弁
22
済することが出来るということになれば,契約を締結する意味もなく,あらかじめそ
のような事態を想定したコストを見込まなければならなくなり,借主が負担する手数
料もその分高くなることになってしまう。
2 利息制限法所定の利率を超える損害金である場合を除いて,これを制限する最高裁
判例は存在しておらず、このような制度を設けることは多様な取引の有り様、契約の
有り様をせばめることとなる。
5 抗弁の接続
<意見>
売買契約等と与信取引との間の抗弁接続を認める規定を一般法である民法で定める
ことには反対である。
<理由>
売買契約等と与信取引との間の抗弁接続は,原則論として,民法原理から導かれるも
のではなく(最(三小)判平成2年2月20日集民159号151頁),政策的に規定
されるものである。また,抗弁の接続規定の創設状況を諸外国の例から見ても,抗弁接
続については様々な場合を限定して定められている。すなわち,政策的に一定の範囲を
定めて認めており,一般的な法理に基づき定めているものではないと思われる。
ここで,抗弁接続を規定する政策的判断は,消費者保護の観点のみならず,対象とな
る取引性質なども考慮すべきであるところ,例えば,割賦販売法では,支払停止の抗弁
は,クレジット取引のうちの一定の類型の取引に限り認められているにすぎない。また,
政令所定の金額(4 万円,リボルビング方式の場合には 3 万 8000 円)に満たない小口
取引の場合(割賦販売法第 30 条の 4 第 4 項,施行令第 21 条第 1 項(リボルビング方式
の場合は,法第 30 条の 5 第 1 項,施行令第 21 条第 2 項)
,35 条の 3 の 19 第 4 項,施
行令第 24 条)や,クレジット取引が営業のため又は営業として締結される場合など一
定の場合(法第 35 条の 3 の 60 第 1 項及び 2 項)等には,適用除外規定が設けられ,取
引の実情に照らし,きめ細かな規定によって,消費者保護と取引の安定性との調和が図
られているところである。
しかるに一般法である民法に,抗弁接続規定を設けることは,たとえそれが消費貸借
取引に限定され,かつ一定の要件の下で定められたとしても,健全な経済活動を阻害す
ることにもなりかねず妥当でない。
すなわち,民法において,消費貸借取引に関し抗弁接続規定を設けることとした場合,
一般法たる民法の性質上,政策的な要件を定めることは困難と考えられる。また,仮に
一定の限定的な要件を定めたとしても,裁判規範として解釈運用される際には,政策判
断を離れた拡張解釈,類推解釈などがなされて取引の安定を害することが危惧される。
23
このような場合,事業者は,抗弁を受ける可能性のある取引を回避するということにつ
ながりかねない。
また,抗弁を受ける可能性のある取引を引き続き行う事業者は抗弁を受けるための費
用を見越して,手数料など消費者が負担する費用を引き上げ,かえって消費者が負担す
るコストに跳ね返るおそれがある。
第49 委任
1 受任者の義務に関する規定
(2)受任者の忠実義務
<意見>
委任契約に関し,その内容等にかかわらず一般的に忠実義務を課すこととすることに
は賛成できない。
<理由>
委任契約も,受任者に委任事務処理の裁量が広範囲に与えられ,高度の委託信任関係
に基づくものから,委任事務の内容や行使の態様が限定され,委託信任関係の程度がさ
ほど高くないものまで様々なものが存在する。
このような委任契約の内容や当事者の関係などにかかわらず,委任契約であるという
ことで忠実義務を規定することは実情に合致せず適切でない。
5 準委任(民法第656条)
<意見>
準委任に関する規定を設け,あるいはこれに代わる役務提供型契約の受皿規定を設け
る方向性自体に反対するものではないが,その際,指図遵守義務,忠実義務,自己執行
義務が原則とされることのないよう特に配慮されたい。
<理由>
1 役務提供型の契約には,機械的定型的な作業を提供するもの,マニュアル化された
事務を処理するものなど,高度な委託信任関係に基づかずあるいは特定の者による作
業であることを必須としないものが多数存在する。
また,役務提供型契約には,サービス提供事業者たる受託者が,委託者に対し,予
め自己が定めた方法による役務を提供し,これにより,委託者が受託者の専門知識や
経験を安価に活用できるようになっていることが多い。
このように,役務提供型契約に基づく取引は,分業による効率化のために用いられ
24
ることが尐なくないことに鑑みれば,一般的に自己執行義務や忠実義務,指図遵守義
務を定めることは,取引の実態に整合しないおそれが大きい。
2 特に,クレジット業界では,自社の余剰能力を活用する観点から,信用照会業務,
クレジットカードの有効無効を判断するオーソリ業務,カード発行業務等,自社で行
っているクレジット業務について,これをアウトソーシング業務として,他の複数ク
レジット会社に対して提供することがある。かかる場合,クレジット会社は,自社業
務としても行っているものを複数の委託者のため受託業務としても行っていること
になるが,当該業務は,事務処理であり,一般的な忠実義務を観念することが難しく,
また,忠実義務を受託者であるクレジット会社に課す必要性に欠けるほか,執行の方
法について指図を受けることがかえって円滑な業務遂行を妨げることになりかねな
い。
第58 不安の抗弁権
1 不安の抗弁権の明文化の要否
<意見>
不安の抗弁権の明文化については,個別具体的な適用場面を明確にし(例えば,継続
的契約における不安の抗弁権の適用関係等),適用範囲が不当なものとならないように
慎重に検討すべきである。
<理由>
1 不安の抗弁権については,そもそもいかなる場合に認められるのか,具体的な要件
が必ずしも明確でないところ,その要件の明確化が図られない場合には,取引の安
定を害することになりかねない。
2 また,例えば,一定の継続的契約(スポーツジム利用契約,資格学校に係る在校契
約等)でボーナス払いを選択した場合において,継続的契約に係る反対債務(スポ
ーツジム利用等債務,授業提供債務)の履行が一定程度終了した後に,残りの反対
債務の履行を受けることができなくなる「具体的な危険」が生じたとして,不安の
抗弁権を行使して賦払金債務の全額の履行を拒絶することができるとすれば(なお,
かかる履行拒絶は,割賦販売法における支払停止の抗弁の規定によって導かれる。),
履行が終了した債務は,無償で提供されることとなり,必ずしも妥当でない帰結と
なることも想定されるが,かかる場面において不安の抗弁権を適用した場合の結論
は必ずしも明らかでない。
3 そこで,かかる実務上の適用場面も踏まえ,不安の抗弁権の明文化については,個
別具体的な適用場面を明確にし,適用範囲が不当なものとならないように慎重に検討
すべきである。
25
第59 契約の解釈
3 条項使用者不利の原則
<意見>
条項使用者不利の原則を規定することには,反対である。
<理由>
1 契約解釈は,契約締結の時における当事者間の合意内容を探求する事実認定の問題
であるから,本来は,その文言を踏まえつつ,当該契約締結に至る経緯その他諸般の
事情を勘案して判断されるべきものである。係る事実認定の方法に照らした場合に,
契約の一方の当事者に最も不利な解釈が当事者の合意内容であるとすることが合理
的な事実認定であるといいうるためには,本来,その当事者が,契約の文言につき,
複数の解釈が存在することを認識し,かつ,いずれの解釈も採用されうることを認識
していることが前提となるはずである。
約款を使用した契約も契約である以上,本来,この理は約款を使用している場合で
あっても異なるものではないはずであって,上記前提を問題とすることなく,約款で
あれば,およそ条項使用者に不利な解釈を採用するという原則を採用するのであると
すると,契約解釈の手法として妥当ではない。
2 仮に,上記事実認定手法を前提としない内容で,同原則が定められた場合,同原則
の適用範囲が無制限に拡大し,契約解釈が,条項使用者にとって,およそ予見不可能
なものになってしまう可能性がある。
3 また,かかる原則を採用する場合,条項使用者は,予見不可能な解釈を回避するた
めに,複数の解釈の可能性を排斥する条項内容を定めるようになり,これにより,約
款等の複雑化を招き,かえって,約款等の内容をゆがめ,その利便性を損なわせるこ
とになり,政策的判断として,これが妥当であるかにも疑問が残るものである。
第60 継続的契約
2 継続的契約の解消の場面に関する規定
(2)期間の定めのある継続的契約の終了
<意見>
期間の定めのある継続的契約に関し,更新を拒絶することが信義則上相当でないと認
められるときには,例外的に更新の申出を拒絶することができないとする規定を設ける
ことについては慎重にご検討いただきたい。
26
<理由>
クレジットカード会社が他の事業者と提携してクレジットカードを発行する場合な
どにおいて,期間を定めた契約を締結することがあるが,このような場合において,自
社の提携基準等に整合しなくなった場合に,期間満了を待って提携関係を解消する場合
が存在する。
このような場合において,信義則上相当でないことを否定する,いわゆる評価障害事
実を積極的に立証することは,自社の営業上の秘密を開示しなければならないことにつ
ながりかねない。従って,更新拒絶の不相当性について,できる限り明確にし,かつ,
過度に広範な内容とならないようにするなど,慎重な検討をしていただきたい。
(3)継続的契約の解除
<意見>
信頼関係破壊の法理を一般的に認めることには,反対である。
<理由>
すべての継続的契約が,賃貸借契約のように,当事者間の信頼関係に基づいて締結さ
れているわけではなく,各当事者に継続取引関係から離脱を認める理由も様々であり,
一般的基準として,信頼関係破壊の法理を持ち出すことは妥当ではない。
3 特殊な継続的契約-多数当事者型継続的契約
<意見>
「合理的な理由なく差別的に取り扱ってはならないものとすべきであるとの考え方」
について盛り込む場合には,慎重に検討していただきたい。
<理由>
クレジット会社は,多数の加盟店契約を締結しており,これら多数の加盟店契約が存
在することが,クレジットカードの利便性を高め,結果としてクレジットカード取引全
体を成り立たせるという点で,「当事者の一方が多数の相手方との間で同種の給付につ
いて共通の条件で締結する継続的契約であって,それぞれの契約の目的を達成するため
に他の契約が締結されることが相互に予定されているもの」と評価される余地もあるよ
うに思われるところ,クレジットカード加盟店によって,その業種・業態等や取扱高そ
の他の事情異なり,これに応じて異なる取扱いが生じることは,当然是認されてしかる
べきものである。
しかるに,取扱において差異をもうけることが許容される「合理的な理由」がどのよ
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うなものとなるのかについては必ずしも明確ではないため,このような規律を定めるこ
とは,かえって当然是認されるべき差異を否定することにつながりかねず,無用な紛争
を引き起こす可能性がある。
当該差別の禁止は,本来,正常な競争原理を確保することを目的とした独占禁止法に
より規制されるべきものであり,契約自由を原則とする一般法である民法での規制にな
じまないものである。
以上
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