アーヘン訪問記 - 理工学部

随想
アーヘン訪問記
竺
文 彦
Fumihiko JIKU
理工学部環境ソリューション工学科
教授
Professor, Department of Environmental Solution Technology
アーヘン
また,窓の外側には電動式のブラインドがついてい
市にあるアーヘン工科大学の ISA(環境工学研究
る.室内のスイッチで鎧戸のようなブラインドが上
所)に滞在したので,ドイツの生活や環境施設につ
下する.日本の部屋のブラインドは室内についてい
いて紹介する.アーヘン市は,ケルンの西,ドイツ
るので,日光は遮断できるが熱は室内に入ってきて
北部の西端に位置する町で,郊外にはオランダ,ベ
しまう.省エネを考えるなら,ブラインドは室外に
ルギー,ドイツ三国の国境が接する地点が観光地と
すべきだが,日本ではあまりそのような例を見な
なっている.人口は約 30 万人で,大学の街である.
い.室外ブラインドのドイツと,ゴーヤの緑のカー
一昨年,夏,短期研究員としてドイツ
テンの日本と言うところか.室内の暖房はハイツン
1.ドイツの生活
グ(英語だとラジエータ)である(写真 1).お湯
の循環で室内がふんわりと暖かくなる.ドイツはこ
1)ISA(環境工学研究所)
アーヘン工科大学は,元々単科大学として始まっ
の夏大変涼しくて,日本では猛暑であったが,大変
たが,今では,経済学部,医学部を含む総合大学で
涼しく過ごさせてもらった.8 月 31 日は雨で,気
あり,学部や研究所が街のあちこちに分散して存在
温が下がり,ハイツングをつけたほどである.ドイ
しており,日本のようにキャンパスというものはな
ツあるいはヨーロッパには,地域的なお湯の配管が
い.
ISA では,部屋を一ついただいた.ゼミ室として
使われていた部屋のようで,3, 4 人が入れそうな広
い部屋をゆったりと使わせていただいた.部屋の窓
は優れた構造になっている.窓枠に取っ手がついて
いて,取っ手を下に向けると締り,横に向けると窓
が横に大きく開くのだが,取っ手を上に向けると窓
の上部が内側に少し開くのである.留守にするとき
でも上を少し開けておくと空気の入れ替わりもあ
り,雨になっても室内に雨が入らず,便利である.
― 15 ―
写真 1
ハイツング
あり,暖房などに利用されている.ごみ発電におい
壁を塗る技術があるのだという.
ても,発電の後のお湯を地域で利用できるためエネ
ルギー利用効率が高いが,日本ではお湯の利用が難
3)交通
アーヘン駅について,すぐ気が付いたのは,駅広
しく,発電所のエネルギー利用率が低くなってしま
場の片隅に電気自転車が並んでいたことである(写
うことが課題である.
真 3).観光客用だと思われるが,電気自転車が充
電されていて,観光客が電気自転車を駅から借り
2)住宅
街の中の一般住宅に下宿した.4 階建てで,通り
て,街の中を回れるようになっている.主要な観光
に面して各階 3 つの窓が付いて「ドライ・フェンス
ポイントなどにも同様に電気自転車ステーションが
ター」(三つ窓)住宅と呼ばれている典型的なドイ
設置されている.ヨーロッパの主要な街にはこのよ
ツの町家である(写真 2).この家には 3 家族と私,
うな貸し出し用電気自転車ステーションが設けられ
それから最上階の屋根裏階には大家の男性が住んで
ている.ドイツの町には,歩道か車道に自転車レー
いた.
ンが設けられており,自転車が大変走りやすい.北
裏の庭に出るとバイオ(緑色),紙類(水色),そ
の他燃やすごみ(黒色)の三つのごみ箱が置かれて
欧ほど完璧ではないが.日本の街にももっと自転車
レーンがあればと思う.
ドイツの鉄道(DB)は,快適である.ゴトンゴ
いた.庭は樹が鬱蒼と茂っていて,街の中とは思え
トンという振動がなく,揺れが少ない.列車が動き
ないほどであった.
街の中の各家々は高さが揃い,壁面がそろってい
出してスピードを出し始めても,目を閉じていると
るので,通りの景観が大変美しい.看板なども控え
ほとんど気が付かないほどである.広軌であること
めなので,街の景観には学ぶところが多いと思う.
の他に,レールの継ぎ目が振動を与えないように接
日本に戻ってきて,混乱した景観を見ると,日本は
続されているものと思われる.東海道線はよく揺れ
途上国だなーという気がする.
るが,改善してもらいたいものである.鉄道の切符
街の中ばかりではなく,農村部に行っても景観は
は,駅の自動販売機か窓口で買う.窓口ではいつも
素晴らしい.家は基本的には煉瓦でつくられている
何人か順番を待っている人がいて,すぐには買えな
が,壁は白く塗られ,屋根は茶色か赤い瓦で統一さ
い.ボタンを押して番号のシートを取って,まあ,10
れている.煉瓦は穴あきの煉瓦が多い.農家と牧場
人ほど待たなければならない.郵便局に行っても,
と森があると,それだけで一幅の絵画になる.白い
スーパーマーケットのレジーでも列を作って,延々
壁を塗るマイスターがいて,ほとんど汚れない白い
と待っている.ドイツ人は待つことがちっとも苦に
写真 2
三つ窓住宅
写真 3
― 16 ―
電気自転車スタンド
ならないようである.駅の窓口は大変親切で,乗り
換えの駅や時間,乗り場をプリントアウトして,渡
2.家庭ごみの処理
各家庭には,3 種類のごみ箱が置かれている.ご
してくれる.だだし,ドイツの鉄道はよく遅れる.
5 分や 10 分は言うに及ばず,30 分,1 時間遅れる
み箱の形は縦長で,車のついたボックスで,ふたの
こともしばしばである.日本の鉄道は時間に正確で
色は水色(紙類),緑色(生ごみ),黒または赤色
あることで知られていたが,最近は遅れるようにな
(その他焼却ごみ)である.その他に包装容器はゲ
ってきており,ヨーロッパ的になってきたという事
ルべザック(黄色い袋)で出される.日本と同じよ
であろうか.
うにごみカレンダーが市役所から配布され,曜日ご
となどにその日のごみ箱を家の前に出しておくと,
各戸収集で収集される(写真 5).日本と異なるの
4)広場
アーヘン市役所前には広場があり,土日などに,
は,生ごみを収集することと,ゲルべザックの包装
さまざまな催しが行われていた.ある時は手作りマ
容器では,紙,プラスチック,ビン,缶などリサイ
ーケットであり,骨董市であり,フリーマーケット
クルマークの付いているさまざまな材料の容器を一
であり,ある時は遊園地,ある時はコンサートとい
緒に入れることなどで,細かな分別はしていない.
収集された家庭ごみは,焼却場に搬入されるが,
う具合である.週末に広場にいって,どのような催
し物が行われているか楽しみであった.狭い広場で
紙類はバインドされてリサイクルに,生ごみは堆肥
あるが,見上げるような遊園地の観覧車が設置され
化され,その他ごみは焼却される.また,焼却施設
た時には驚いた.ヨーロッパでは,遊園地は移動す
では発電をした後,温水を地域に供給することが多
るものだそうな.
い.したがって,ごみ焼却場ではなく,ごみ利用施
ヨーロッパの街と日本の街の違いとして,広場が
設と呼ばれることも多い.
12 年前にアーヘンに滞在した時には,水や飲み
あるか,無いかが挙げられるという.
物にはリユースのガラス容器が多く使われていた
12 年前に,同じアーヘンに半年間滞在したが,
が,今回はペットボトルが多く使用されていた.た
ドイツ人は相変わらずお節介で,街で誰かが困って
だし,ペットボトルには容器代保証のマークが付い
いると声をかけてきて助けてくれる.街で若者に注
ており,レジーに持っていくか,専用のペットボト
意しているおじさんがいる.ドイツの社会は健全だ
ル回収機に投入すると 25 セントが返ってくる.学
という感じがする.
生などは,お金が無くなると周りのペットボトルを
写真 4
建設中の遊園地
写真 5
― 17 ―
業務用ごみ箱の収集
集めてレジーに持っていくこともよくあるとのこと
の選別工場を訪問した.朝早く列車で出かけた.場
であった.
所はデュッセルドルフの北に位置する 80 km ほど
離れたクレフェルトにあり,EGN(ライン下流ご
み処理会社)という会社である.この工場の従業員
1)ヴァイスヴァイラー MVA(焼却場)
家庭ごみの焼却場を見学した.アーヘンから 18
は 50 人,三交代で仕事をしている.EGN の会社全
km 東に位置するヴァイスヴァイラー焼却場を訪れ
体では 700 人の従業員がいる.このような包装容器
た.日本では,各自治体が焼却場を持っているが,
の選別工場は,全国で 50 工場ほどある.
ドイツでは広域で取集している.この焼却場は,冷
工場に搬入されたゲルベザックは,まず,破袋装
却塔からモコモコと湯気をあげている大きな褐炭の
置の後,25 cm の選別機にかけられる.次に,磁力
発電所の隣にあった.
で鉄とアルミが選別され,さらに,PE, PP,パッ
この焼却場はヴァイスヴァイラー MVA(焼却
ク,PET の順に選別機にかけられる.このプラス
場)という会社が運営している.1996 年に稼働し
チックの選別はセンサーで判別し,風圧で分離す
始めた.ごみの収集範囲は 60 km 圏内で,年間の
る.分離されたものは,軽いものと重いものに分離
ごみ収集量は 36 万 t/年,ごみ収集人口は 120 万人
される.25 cm 以上のものは,人の手によって選別
である.ごみ量の 70% は家庭ごみで,30% が産業
される.これらの選別されたものは,バインドされ
廃棄物である.焼却炉は 3 基あり,回転式火格子式
て,隣の棟に送られる.隣の棟では,それぞれ選別
の炉で,処理量は 1,200 t/日である.排ガス処理
されたものが,裁断され洗浄され,浮力の選別を受
は,噴霧,バグフィルター,水洗,触媒脱硝の 4 段
けて,純粋な破砕物として,袋に入れられて,再生
階で行っており,フィルターでは 3000 本の布フィ
品の原料として搬出される.どのようなものに再生
ルターが用いられている.主灰の発生量 9 万 t/年,
されるのかと質問すると,プラスチックのボード,
飛灰 1 万 t で,焼却灰は東ドイツの地下深くに埋め
浄化槽,衣類などになるとのことであった.紙,
立てとのことであった.蒸気は 52 t/h 発生し,これ
鉄,アルミも原料として,搬出される.残ったもの
は隣の発電所に送られて,35 MW, 5 万軒分の発電
は,燃焼炉に持って行って燃焼する.
を行っている.家庭ごみの 50% はバイオ由来であ
話を聞いた後,現場を見せてもらった.工場内は
り,発電によって年間 400 万 t の炭酸ガス削減にな
ベルトコンベアーが錯綜しており,床にかなり埃が
るという.
落ちていて,ほこりっぽい.鉄,アルミの選別機や
これらの説明を受けた後,ごみピットから順次焼
却炉など現場を見学した.帰りにはカッコいいデザ
インの絵の入ったガラスカップやボールペンをいた
だいた.
2009 年時点で,ドイツには約 70 カ所のごみ焼却
施設があり,年間約 1,800 万 t の処理能力がある.
2006 年には電力量 63 億 kWh/年,熱量 137 億 kWh
/年を供給している1).
2)クレフェルト包装容器選別工場
リサイクルマークのついた包装容器は,ゲルべザ
ック(黄色い袋)で収集されているので,包装容器
写真 6
― 18 ―
光学的センサーによるプラスチックの選別
プラスチックの選別機など工程を順次見せてもらっ
た.担当者が分かりやすいイラストのパンフレット
た.プラスチックの選別機では,高速のベルトコン
で説明をしてくれた(写真 8).このコンポスト場
ベアーから容器がポンポンと弾かれて選別されてい
は 1994 年に設立され,生ゴミや剪定枝などを堆肥
た(写真 6).25 cm 以上の大きいものは,日本と
化してきたが,2011 年に嫌気発酵装置を導入した.
同様に人手で選別を行っていた.大変丁寧に詳しく
現在 30,000 t/年のバイオごみを堆肥化している.
説明いただいた.
実際 7 t トラックが何台も生ごみを搬入していた.
処理工法は,最初の 3 週間,トンネルコンポストと
呼ばれる密閉式のコンポストによりメタンガスを回
3)有害物回収ステーション・リサイクル場
有害物回収ステーションが市内にあると言うの
収している.トンネルコンポスト(密閉式ファーメ
で,場所を教えてもらって,一人でバスに乗って出
ンター)は 7 槽あり,各槽の容量は 600 m3 である
かけた.市内のローテエルデ駅近くにフィリップス
(写真 9).これらの槽の地下には浸出水貯蔵槽(39
の大きな工場があり,その近くにステーションはあ
×9.45×3 m)があり,トンネルコンポストからの
った.テニスコート場より少し広いくらいの場所
浸出水を集めて堆肥層に散布している.ガスは 60
で,有害物回収・リサイクルのおおきな回収コンテ
∼120 m3 /t 発生し,平均的には 90 m3 /t 発生してい
ナが 5, 6 個置いてあって,ガレキや電気製品,ペ
ンキの大きな缶などが回収されていた.写真を撮っ
ている間にも,女性が車で来てペンキの缶を捨てて
行ったり,おじいさんが生ごみを捨てに来たりして
いた(写真 7).このようなリサイクル場が日本に
もあるといいのではないかと思う.アーヘン市では
このほか,有害物収集車があって,何月何日どこど
この場所という通知があって,その場所に有害物を
持っていくと回収してもらえるとのことであった.
4)ヴィルゼルン・コンポスト場
隣町のヴィルゼルンのコンポスト場の見学をし
写真 8
写真 7
ペンキ缶の廃棄
写真 9
生ごみから電気のパンフレット
― 19 ―
トンネルコンポストの表側
る.ガス貯留タンクは 400 m3 である(写真 10).
して,携帯電話は爆発の可能性があるので,事務所
この後,開放式のコンポスト槽 5 槽に移すが,各槽
に置いておくように言われた.携帯用のメタン測定
3
の容量は約 700 m である.こちらのコンポストの
器を持っての見学となった.1990 年代にドイツで
発酵期間は 18 日間である.その後,積み上げられ
は開放式コンポスト施設が普及したので,このよう
て 15 日間,後発酵を行う.出来上がった堆肥は,
なガス利用の発想も出てきたものと思われる.
パンフレットには,ZeW および AWA のマーク
最大 10% 種堆肥として循環される.年間のバイオ
廃棄物処理量は 1.8 万 t であり,堆肥の生産量は
が付いている.ZeW はアーヘン,ヴィルゼルン,
1.4 万 t/年である.年間のガス発生量は 164 万 Nm3
デューレン,バイスヴァイラーなど 28 の市町村の
であり,57% がメタンである.発熱量は約 5.5 kWh
連合体(日本でいえば市町村事務組合)で,このコ
3
/m で,バイオガスのエネルギー量は 903 万 kWh/
ンポスト場を AWA ごみ処理会社に委託している.
年で,電力の生産量約 342 万 kWh/年,熱の生産量
家庭ごみの効率的な発電を考えれば,日本でも生
371 万 kWh/年である(写真 11).浸出液は 70∼75
℃で 2 時間加熱し,6 カ月貯留して農地へ散布され
る.
ごみの分別が必要であると思う.
3.エネルギー関連施設
ドイツにおける電力源の構成としては,褐炭 24
話を伺った後,現場を見せてもらった.見学に際
%,石炭 19%,原子力 18%,天然ガス 14%,風力
8%,バイオマス 5%,太陽光 3%,小型水力 3%,
生活ごみ 1%,軽質油・水力・その他 5% とされて
2)
いる(2011 年)
が,再生可能エネルギーが増加し
てきている.
1)RWE(ライン・ヴェストファーレン電力会社)
RWE は,ドイツで 1 位,2 位を争う電力会社で,
従業員数は 17,000 人である.1898 年に設立され,
1990 年まではエッセンに本社を持ち,大手エネル
写真 10
発生ガスタンク
ギー会社であった.現在,中欧,イギリス,USA
で電力,ガス,水道などの大型買収を行う公益事業
者であって,ドイツの株価 DAX の株価指数会社 30
写真 11
発電装置
写真 12
― 20 ―
ヴァイスヴァイラー RWE 全景
のうちの 1 つである(写真 12).1998 年に電力の自
削機械が小さく見えた.なお,2000 年の再生可能
由化が行われ,8 大電力会社が現在 4 社に集約され
エネルギー法(Erneuerbare Energien Gesetz)により
た.4 大会社とは,西北部 RWE(エッセン),西南
太陽光や風力など再生可能エネルギーによる電力を
部 EnBW(カールスルーエ:仏の EDF の傘下),
送電会社が固定価格で優先的に買い取り,その費用
中央部 E. ON(デュッセルドルフ),東部 Vattenfall
は一般の電力料金に上乗せして消費者が支払う仕組
(スエーデン企業の傘下)である.2008 年における
みが形成され,2011 年には再生可能エネルギーが
電力全体の 20% となった.
発電量は,6400 億 kWh であった.
RWE の子会社には,RWE Power, RWE Energy,
RWE Irading, RWE Innogg, American Water Works,
2)アーヘン・ローレンスブルグのソーラー住宅
CalAm(カリフォルニア州での水道),RWE npower
などがある.
ドイツには各地にソーラー住宅などエネルギーに
配慮した住宅がつくられている.アーヘンにもソー
褐炭と石炭の国内発電量は 50% である.天然ガ
ラー住宅街があり,自転車で 10 分くらいの所に,
スによる発電割合は,1 割以下である.欧州エネル
ローレンスブルグのソーラー住宅街があった(写真
ギー取引所(EEX)がライプチッヒ市にあり,電力
14).住宅街の入り口に 2 棟のオフィス・ビルがあ
の 23% がここで取引されている.
り,その奥の道に沿って,西側には 8 棟 16 軒の 2
また,地域電力会社や配電会社は,1,000 社以上
軒連続の住宅,東側には 6 棟 27 軒の連続した(長
存在する.2005 年における 4 大会社のシェアーは,
屋の)住宅が並んでいた.デザインの優れた住宅が
発電 70%,小売 45% であって,2002 年には RWE
並んでいたが,特に太陽光パネルがたくさん設置さ
は電力第 1 位となった.
れている訳でもなく,どうしてソーラー住宅と呼ば
RWE の施設としては,石炭発電 5 か所,褐炭発
れているのかよくわからなかった.住宅街の出口に
電 4 か所,天然ガス発電 6 か所,原発 4 か所,水力
7 か所,他の方法 2 か所を有している.
説明を受けた後,現場を案内してもらった.ま
ず,褐炭の搬入からで,褐炭の積み上げられた山か
らベルトコンベアーで工場内に褐炭が送り込まれて
いた.巨大な冷却塔では下部に猛烈な水のシャワー
が降り注いでいた.工場内ではボイラーなどの見学
写真 13
褐炭の露天掘り
をした.最後に,これまでの歴史的な蒸気タービン
や発電機が陳列されている棟を見て,見学を終え
た.駐車場から道路に出ると,かなり広い面積に太
陽光パネルが設置されている丘があった.たぶんこ
の会社が設置したのであろうとのことである.
ついでなので,近くのインデンにある褐炭の鉱山
に寄ってみることになった.褐炭の鉱山は露天掘り
で,その全体を見渡せる公園に向かった.入り口に
は小さな遊園地がつくられていて,真四角な鉄の見
学用タワーがあった.展望台から露天掘りの鉱山全
体が見渡せた(写真 13).巨大な露天掘りの中に掘
― 21 ―
写真 14
ローレンスブルグ住宅全景
は,ソーラー住宅のパネルが確かに設置されてはい
たが.
そこで,研究所に戻って,ネットでローレンスブ
ルグのソーラー住宅を調べてみた.この住宅街のす
べての建物は,断熱性の高い構造でパッシブハウス
になっている.
東側のオフィスビルは,熱エネルギー需要量が約
48 kWh/m2a である.ガス燃料の熱放射の少ない暖
房装置は,温水と暖房に利用されている.平らな屋
写真 15
根には太陽光発電(7 kW ピーク)が設置されてい
風車展望台からの展望
る.西側のオフィスビルでは,土壌熱を利用してい
はこれまでのいろいろな資料が貼り付けてあった.
て,検出器と熱ポンプが設置されており,エネルギ
この風車は,NPO 組織の所有のものであって,他
ー回収システムを持っている.他の一般のビルに対
の風車は会社とか,組合とか,いろいろの組織が所
して,1/4 の熱しか必要でない.
有しているとのことである.
住宅の方の特徴としては,放熱を削減したガス燃
この風車は 1999 年に造られ,出力は 1.8 MW で
焼と木材利用暖房が使用されており,温水では 60
ある.地域の高度は 182−201 m,ローターの長さは
%が太陽熱利用で,平らな集熱器のほか,真空集熱
70 m,風力は 6.3−6.5 m/s である.建設費用は 550
器,ファサード集熱器も用いられている.西側住宅
万ユーロで,25% 自己資金,75% は利子の有利な
2
では,熱エネルギー必要量は 8 kWh/m a または 25
ローンである.建設に当たっては,風力調査,鳥の
kWh/m2a であり,土壌熱を利用している.また,
調査など調査を行い計画した.建設前の付近の地図
雨水の利用も行っている.東側住宅では,熱エネル
と 2000 年の地図を見比べると,住居や高速道路の
2
2
ギー必要量 13.5 kWh/m a または 48.7 kWh/m a であ
る.太陽光発電は最大 7 kW で,ガス燃料で暖房と
建設などで地域の状況にも変化がある.
らせん階段を上がって展望台に立つと,遠望でき
て気分がいい(写真 15).展望台の設置された風車
温水を利用し,雨水利用も行っている.
したがって,ドイツのソーラー住宅は,単に太陽
はドイツに 3 基あるとのこと.西側のすぐ下の生垣
光発電だけでなく,室内の熱を逃がさない構造な
より向こうはオランダとのことで,オランダ側にも
ど,総合的な省エネ住宅となっているようであり,
大きな風車が 3 基作られている.
このような省エネ住宅は,各地に数多く建設されて
Dr. Horst Klutting は,先進的な再生可能エネルギ
ーの買い取り制度を進めたアーヘンモデルを作り,
いる.
これまでアーヘンのエネルギー対策を進めてきたと
のことであった.下に降りて記念撮影をして,感謝
3)風力発電
見学をした発電用風車は,アーヘン市の郊外の小
高い丘にあり,9 基の風車があって,ウインドパー
の意を表して見学は終了した.彼はまた自転車に乗
って,戻っていった.
クと呼ばれていた.待っていてくれたのは,Dr. Horst
Kluttig という方で,この風車には,世界中から見
4)ラントカナル・ノルド(メタン発酵施設)
学者が訪れているといって,これまでの見学者の写
アーヘン駅からケルン駅へ行き,ケルン駅からデ
真を貼り付けたパネルを見せてくれた.タワーのら
ュッセルドルフ空港行きの近郊電車に乗り換えて,
せん階段を登りながら説明を受けた.タワーの壁に
ヴォーリンゲン駅に向かった.小さな駅で降りて,30
― 22 ―
2002 年に発足したドイツのバイオマス連盟によ
ると 2004 年には 2,000 カ所,2006 年には 4,000 カ
所のバイオガス施設(600∼800 MW)に達すると
予想されており,EU における重要な生産会社は,
Valorga International 社(仏)および Linde KCA 社
(独)である3).
5)オーバーロスフィー・エネルギー村
写真 16
近年,ドイツではエネルギー村という農村から再
メタン発酵槽と見学者
生可能エネルギーを生産することが始まっていると
分ほどトウモロコシ畑の中の道を歩いて,メタン発
のことである.第 1 号のエネルギー村は,ユーンデ
酵施設に向かった.施設公開日でたくさんの人が集
村という所で,ドイツの中央部とのことであった.
まってきていて,例のごとく,ホットドッグと飲み
その近くのオーバーロスフィー村というエネルギー
物のお店が出ていて,賑わっていた.
村を見学した.
施設は,発酵槽 2 槽,ガス貯留槽 2 槽,それに小
朝 6 時ころアーヘンを出発して,ケルン,フラン
さな槽が 1 槽と,発電施設があった(写真 16).発
クフルトと列車を乗り換えて,マールブルグに着
電施設などを見学し,発酵槽では外側の階段をあが
き,そこからさらに乗り換えて,ベッターという小
って,槽の中をガラス窓から見ることもできた.槽
さな村の駅に着いた.ここからはタクシーでオーバ
内部の液面からポコポコと泡立っているのが見られ
ーロスフィー村へ向かった.施設公開の場所につい
た.説明を聞いたが,おおよそ 2,000 t/年の植物,
ては,タクシーの運転手がよく知っていて,連れて
コーンなどを原料としていて,廃棄物は使っていな
行ってくれた.着いたのはちょうどお昼頃であっ
い.発電は 1.2 MW,熱量 1.2 MW を出力していて
た.木材チップの置き場に沢山人が集まっていて,
いる.CO2 削減量約 7,000 t/年となり,近くの 3,000
ソーセージやビールが売られていて,賑わってい
世帯にお湯を供給し,17,000 t の堆肥を生産してい
た.しばらくすると,説明が始まって,集まった人
る.建設費は 500 万ユーロということであった.
に説明を始めたが,ドイツ語のため,詳しい内容は
この施設の所有者はライン・エネルギー会社であ
把握できなかった.パンフレットをもらって,後で
るが,このほかにブースを出展している Bioreact
読むことにした.建物の中にはチップのボイラーと
社と Bioconstruct 社 の パ ン フ レッ ト を も ら っ た .
発電機があり,お湯のパイプの配管が見られた(写
Bioreact 社は,発酵の専門会社のようであり,エン
真 17).集まっている人々は,周辺の農民の人のよ
ザイムなどを販売している.Bioconstruct 社は,バ
うで,いろいろ質問していたので,自分の村でもや
イオ施設の建設会社であり,ホームページでは,ド
ってみようかと思っている人たちの様に見受けられ
イツ北部に多くのバイオ施設を建設している.
た.のんびりとソーセージを食べていたら,ここだ
後日,インターネットでライン・エネルギー会社
を見ると,ラントカナル・ノルドの施設は,2011
けの見学ではだめだよーと言われて,もう一つの施
設にタクシーで向かった.
年に操業を開始し,16 の農業主が面積 400 ha で原
もう一つの施設とは,メタン発酵の施設であっ
料のバイオマスを約 23,000 t/年提供している.ト
た.建物の外には,円形のメタン発酵槽がつくられ
ウモロコシは最大 25 km の範囲から収集されてい
ている(写真 18).こちらは先ほどよりさらに多く
る.
の人たちが集まっていて,ビールやワインやソーセ
― 23 ―
鉄道は,乗り心地は快適だが,時間については信用
できない.
ネットの情報では,ドイツ初のバイオエネルギー
村のユーンデ村は,人口 770 人,農家数は 10 戸
(酪農 8 戸,養豚 2 戸)の村である.ゲッティンゲ
ン大学とカッセル大学が構想を作り,その候補地を
公募したところ,17 地域が立候補し,選ばれたの
がユーンデ村である.エネルギー村構想は,バイオ
写真 17
ガスによる電力と熱供給,木質バイオマスによる地
木材チップボイラー
域暖房である.
一か月半の間に,さまざまな施設を見学したが,
ドイツは新しい技術に挑戦しているという印象を強
く受けた.それは,技術のみではなく,そのことを
可能とする社会システムがあるからであり,日本の
場合は社会的なシステムの停滞が十分な技術力を発
揮できない状況となっているように思える.
(このアーヘン工科大学への留学は龍谷大学短期国
外研究員制度を利用したものである.)
写真 18
メタン発酵槽
参考文献
ージでお祭り騒ぎのようであった.こちらでは説明
もしてくれなかったので,ブースを出している会社
のパンフレットを何枚かもらって,写真をとって,
帰ることにした.途中,特急が遅れて,何とかアー
ヘンに着いたのは,夜 12 時を回っていた.ドイツ
1)jsim.or.jp/kaigai/1005/003.pdf
2)ドイツの電力・エネルギー事情とビジネスチャンス,
日本貿易振興機構(ジェトロ),2012, 5 月;http : / /
www.jetro.jp/jfile/report/07000984/Germany_E_E.pdf
3)NEDO 海外レポート No.969, 2005. 12. 14 ; http : //
www.nedo.go.jp/content/100106523.pdf
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