横浜市立大学岩崎博史準教授の研究チームの論文が、 米国ネイチャー

ネイチャー・ストラクチャー&モレキュラー・バイオロジーと同時発表
のため、日本時間 8 月 21 日(月)午前 2 時解禁
記
者
発
表
資
料
平 成 1 8 年 8 月 1 8 日
公立大学法人横浜市立大学
研 究 推 進 セ ン タ ー
担 当 課 長
今 井
信 二
T E L 7 8 7 - 2 0 1 9
横浜市政記者、横浜ラジオ・テレビ記者 各位
横浜市立大学岩崎博史準教授の研究チームの論文が、
米国ネイチャー・ストラクチャー&モレキュラー・バイオロ
ジー誌に掲載
~相同組換えを触媒する酵素「リコンビナーゼ」に働きかける補助因子「Swi5/Sfr1」
タンパク質複合体を発見し疾病の原因を明らかにすることが期待されます~
概市大大学院
要
国際総合科学研究科 生体超分子科学専攻 岩崎準教授らの研究チームが、相同組換えを触媒
する酵素「リコンビナーゼ」に働きかける新しい補助因子「Swi5/Sfr1」タンパク質複合体を発見しまし
た。
相同組み換えは、相同な染色体間でDNA鎖を交換する反応で、生物種の多様性を生み出す原動
力となっています。この反応には、2種類のリコンビナーゼRad51とDmc1が触媒する事が知られてい
ます。しかし、これらのタンパク質だけでは、実際の交換反応は起こらず、補助因子(メディエーター)
と呼ばれる補助タンパク質が必要です。すでにRad51に働きかけるメディエーターはいくつか発見さ
れていますが、岩崎準教授の研究チームが発見した分裂酵母Swi5/Sfr1タンパク質複合体はRad51
とDmc1の両方に働く因子であり、このようなメディエーターの発見は世界初となります。Swi5/Sfr1タ
ンパク質複合体は、ヒトを含めた高等生物にも進化的に保存されていることから、この研究により2つ
のリコンビナーゼの活性化機構の生物界における根本原理が明らかにされました。
本発見は、市大の研究費である研究戦略プロジェクト(2005年)のほか、ヒューマンフロンティアサ
イエンスプログラムと科学研究費補助金による成果で、平成18年8月21日発信の「Nature Structural
& Molecular Biology」WEBサイト(http://www.nature.com/nsmb/)で掲載されます。
【研究の詳細は別紙資料の通り】
研究チーム
横浜市立大学大学院国際総合科学研究科: 岩崎博史(準教授)、雲財悟(助手)、黒川裕美子(共同研究
員)、春田奈美(博士研究員)、村山泰斗(博士2年)、赤松由布子(学位取得者)遺伝学研究所;筒井康博
(助手)
今後期待される効果
DNAの相同組み換え機構はDNAの複製、修復、染色体分配のメカニズムに深く係わっています。ヒト遺
伝病には、家族性乳ガンやワーナー症候群など、組換え修復欠損のために高発ガン性となった多数の遺伝
病が知られています。また、ダウン症は減数分裂期の染色体分配が正常に起こらなかったために、第 21 番
染色体を余分に1本合計3本もったことによる病気です。このように、相同組換えは、多種の病気と密接な関
係がありますが、相同組換えの分子メカニズムは生物種を通して高度に保存されていることから、分裂酵母
での解析結果がそのままガンなど「遺伝子の病気」といわれるヒトの疾病の根本的な原因を明らかにするこ
とができるものと期待されます。
資
料
<研究に関する問合せ先>
岩崎 博史 (いわさき ひろし)
横浜市立大学大学院国際総合科学研究科生体超分子科学専攻創製科学部門
郵便番号 230-004
Phone:
横浜市鶴見区末広町 1-7-29
045-508-7238
Fax:
045-508-7369
E-mail:
[email protected]
HP: http://www.tsurumi.yokohama-cu.ac.jp/dmcb/index.html
<研究の背景と経緯>
すべての生物は、相同組換えによって、種の多様性を獲得している。特に、ヒトを含め
た真核生物においては、減数分裂期の相同組換えによってゲノムを再編することが、種の
多様性の獲得に繋がる。一方、体細胞分裂時においては、相同組換えはゲノム情報の安定
な維持機構として重要な働きをしている。すなわち、電離放射線などで DNA が切断され
た損傷の修復を直接的に行っている。
相同組換えは、文字通り、相同染色体間で DNA 鎖を交換する反応である。これは、レ
コンビナーゼと呼ばれる酵素が触媒する。最初に発見されたレコンビナーゼは、大腸菌の
RecA タンパク質である。RecA タンパク質は、単鎖(通常の DNA は二重鎖であるが、二
本鎖がほどけたり、片方の鎖が分解されたりして、一本鎖ができる)DNA に数珠状に結合
し、DNA-RecA からなるフィラメント構造を作る。このフィラメントの構造体が、相同な
配列をもつ二重鎖 DNA を検索し、もし、その配列をみつけると、二重鎖 DNA から相補鎖
をほぐし、自らの一本鎖 DNA と新たな二重鎖のペアリングを形成する。これを鎖交換反
応という(下図)。
レコンビナーゼによるDNA鎖交換の素反応
+
単鎖DNAが生じる
レコンビナーゼが結合して
DNA・レコンビナーゼフィラメ
ントができる
相同塩基配列の検索
+
DNA鎖の交換
レコンビナーゼ
真核生物のレコンビナーゼは、Rad51 と Dmc1 の二種類が知られている。これら二種類
とも非常に高い一次構造上(アミノ酸配列上)の相同性を有する。さらに、大腸菌 RecA
とも、高い相同性を有している。このことからも伺えるように、真核生物、原核生物を通
じて、組換えの根本的な反応原理は保存されていることがわかる。
Dmc1 は減数分裂時に特異的に発現して、機能することが知られている。一方、Rad51
は、体細胞分裂時にも発現しており、減数分裂組換えと DNA 修復の両方に関与している。
これまでの研究から、二種類のレコンビナーゼとも、大腸菌 RecA と、原理的に等価な
鎖交換反応能があることが分かっていたが、その活性が非常に低く、高い反応性を示すに
は、メディエーターと呼ばれる補助因子の存在が必要とされた。Rad51 のメディーエータ
ーとして、最初に出芽酵母(パン酵母のこと)の Rad55-Rad57 タンパク質複合体が発見
され、ヒトでもそのホモログが同定されている。その後メディーエーターとして、Rad52
(酵母にもヒトにも存在する)や、Brca2 が同定された。Brca2 は家族制乳癌の原因遺伝
子産物であり、このことからも、組換え修復がゲノム修復に重要な働きをしていることが、
ところが、減数分裂特異的に機能している Dmc1 のメディーエーターは、これまで未同定
であった。
<今回の研究概要>
我々の研究室では、分裂酵母の Swi5 タンパク質が Rad51 と一緒に組換え修復に働くこ
とを示していた。Swi5 と複合体を形成するタンパク質を検索した結果、これまで同定され
ていなかった新しいタンパク質を見出し Sfr1 と命名した。この Swi5-Sfr1 タンパク質複合
体は、分裂酵母以外に出芽酵母や、マウス・ヒトにも高度に保存されている(Akamatu et
al PNAS 2003)。今回、分裂酵母の Rad51 タンパク質、単鎖 DNA 結合タンパク質(RPA
と呼ばれている)、Swi5-Sfr1 を精製し、試験管内鎖交換反応を行ったところ、Swi5-Sfr1
タンパク質が Rad51 タンパク質の鎖交換反応能を大きく上昇させた。このことから、
Swi5-Sfr1 が Rad51 タンパク質の新たなメディーエーターであることが証明された。
一方、いろいろな状況証拠から、Swi5-Sfr1 タンパク質複合体が Dmc1 の活性を制御す
ることが予想されたので、Rad51 の場合とどうような試験管内鎖交換反応を行い、
Swi5-Sfr1 の生化学的機能を解析した。その結果、Dmc1 にたいしても、その鎖交換反応
能を上昇させた。以上の結果は、初めて Dmc1 に対するメディエーターを発見したことの
みならず、2種類の機能的に異なったレコンビナーゼに Swi5-Sfr1 複合体が働きかけ、そ
の活性を上昇させるということを示す世界で最初の例である。
Swi5-Sfr1 複合体のレコンビナーゼ活性化機構を解析した結果、Rad51 に対しては、そ
の ATPase 活性を Dmc1 にたいしては、単鎖 DNA 結合能を上昇させることが明らかとな
った。
<今後期待できる成果>
今回の発見の大きな意義は、真核生物の相同組換えの分子機構の理解において、長らく
不明であった、Dmc1 レコンビナーゼ活性化分子を見出したことである。Dmc1 は減数分
裂時の相同組換えに直接的に関わるとともに、正確な染色体分配に重要な働きをしている。
正確な染色体分配が起こらない場合、ダウン症に代表される染色体の異数体病になったり、
不妊の原因になることが知られている。Dmc1 レコンビナーゼ活性化機構の解明は、作用
機序にもとづいた新しい不妊治療薬の開発に結びつく可能性がある。
<発表論文題名>
The Swi5-Sfr1 complex stimulates Rhp51/Rad51- and Dmc1-mediated DNA strand
exchange in vitro
<用語の説明>
相同組換え
同一あるいはほとんど同一の塩基配列をもつ DNA 分子間の鎖交換反応。ファージ、アー
キア、原核生物、真核生物など、全ての生物で保存された生命現象である。真核生物では、
減数分裂時に数千倍に上昇することが知られている。一方、体細胞分裂時や原核生物の通
常の細胞分裂時では、損傷 DNA の修復や崩壊した DNA 複製フォークの再構築に重要な働
きをしている。
レコンビナーゼ
相同組換えを英語で recombination(レコンビネーション)という。Recombination を行
う酵素という意味から recombinase(レコンビナーゼ)が命名された。レコンビナーゼ活
性を有するタンパク質として、バクテリアの RecA タンパク質や真核生物の Rad51,Dmc1
が知られている。Dmc1 は減数分裂時に特異的に発現して機能し、Rad51 は、体細胞分裂
時にも発現しており、減数分裂組換えと DNA 修復の両方に関与している。