清算所得課税の 改正 - 税理士法人 森田会計事務所

第 23 号
清算所得課税の
改正
1 財産課税方式から損益課税方式へ
2 制度改正の内容
3 グループ法人税制との関係
4 Q&A
森田 務 公認会計士事務所
清算所得課税の改正
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財産課税方式から損益課税方式へ
1 改正の概要
従来、法人が解散した後の清算所得については清算所得に対する法人税を課すこととさ
れ、清算中に生じた各事業年度の所得については各事業年度の所得に対する法人税を課さ
ないこととされていました。清算所得に対する法人税額は、通常の法人税額の計算方法で
ある損益課税方式ではなく、財産課税方式により計算されておりました。
しかし、平成 22 年の税制改正により、平成 22 年 10 月1日以後に解散した場合には、
解散後も各事業年度の所得に対する法人税額が課されることとなりました。
1
主な改正項目
●財産課税方式から損益課税方式へ変更
●残余財産分配予納申告が不要
●期限切れ欠損金の損金算入
●最終事業年度の事業税の損金算入
●完全支配関係がある子会社の場合の特例の創設
2
適用時期
この改正は、平成 22 年 10 月1日以後に解散若しくは、破産手続きの開始の決定が行
われる場合または同日以後に解散する法人の残余財産が確定する場合における法人の各事
業年度の所得に対する法人税及び各連結事業年度の連結所得に対する法人税について適用
し、同日前に解散が行われた場合における法人の清算所得に対する法人税については従前
通りとされています。
この改正において、平成 22 年 10 月1日前に他の連結法人が解散したことにより連結
完全支配関係を有しないこととなった場合の投資簿価修正額については従前通りとされて
います。
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清算所得課税の改正
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制度改正の内容
1 財産課税方式から損益課税方式への変更
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改正前の計算方法
従来、法人の残余財産が確定した場合の清算所得に対する法人税額の計算については、
財産課税方式が採用されておりました。
財産課税方式とは、清算時における財産額に着目して課税する方法で、残余財産の価額
から、解散時における資本金等の額と利益積立金額等を控除して所得金額を計算する方法
です。
清算所得金額 =
残余財産の価額−(解散時の資本金等の額 + 解散時の利益積立金額等)
清算所得
■改正前
簿価純資産
資本金等の額
利益積立金額等
所得課税
所得課税
清算所得課税
清算所得課税
解散
2
清算結了
改正後の計算方法
今回の改正に伴い、清算所得課税が廃止され、解散後も各事業年度の所得に対する法人
税を課すこととされました。つまり、清算事業年度の収益(益金)から費用(損金)を控
除して得た所得に対して課税する方法です。(法法5)
所得金額 = 収益(益金)− 費用(損金)
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清算所得課税の改正
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具体例
改正前と改正後の所得金額の計算について、比較します。
(1)条件
①解散時の貸借対照表
現預金
2,000 債務
資本金
3,000
1,000
②清算に際し、現預金 2,000 を債務の返済に充て、残りの債務1,000 について、債権者
より債務免除を受けたため、債務免除益を計上する。
(2)所得金額の計算
①改正前の場合
改正前は残余財産額を計算します。
残余財産額は、現預金 2,000−負債 3,000<0であるため、0となり、結果として清
算所得も0となるために課税は発生しません。
②改正後の場合
改正に伴い、所得金額を計算することとなります。
所得金額は、益金1,000(債務免除益)−損金0=3,000 となり、この 3,000 に対し
て課税されます。
結果として、従来の会社解散・清算では、課税されないケース(残余財産が一定額残っ
ていない)でも、改正後は、益金と損金の関係次第で、税負担が生じることがあります。
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清算所得課税の改正
2 期限切れ欠損金の損金算入
1
期限切れ欠損金とは
上記の事例のとおり、計算方法の変更に伴い、従来は課税されなかった清算行為につい
て、今後は、課税される可能性が出てきました。しかし、全ての債務免除益等に対して課
税されるわけではありません。
今回の改正では、清算所得課税の廃止に伴い、会社が解散した場合において、残余財産
がないと見込まれる場合には、期限切れ欠損金の損金算入が認められました。
期限切れ欠損金とは、次の①から②の金額を控除した金額となります。
①この適用を受けようとする事業年度の前事業年度以前から繰越された欠損金額の合計額
②この適用を受けようとする事業年度において損金に算入される青色欠損金及び災害損
失欠損金控除
ただし、①の金額については、長期的に欠損が生じている場合等には把握が難しいこと
から、上記金額に代えて別表五(一)の期首利益積立金額の合計額のマイナス数値を用い
ることも認められています。
なお、残余財産がないかどうかについては、帳簿価額ベースの貸借対照表ではなく、時
価で評価しなおした実態貸借対照表で判断することとなります。
2
具体例
前記の具体例において、青色欠損金500、期限切れ欠損金 2,000 がある場合の債務免
除益の計上時期による課税の違いを比較します。
(1)解散事業年度で債務免除益を計上した場合
益金1,000−青色欠損金500=500(課税所得)となり500 に対して法人税が課さ
れます。
(2)清算事業年度で債務免除益を計上した場合
益金1,000−青色欠損金500−期限切れ欠損金500=0となり課税は発生しません。
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清算所得課税の改正
●欠損金の利用順位は、青色欠損金、災害欠損金を先に控除し、まだ、所得が残ってい
る場合に、期限切れ欠損金を控除します。
●同じ債務免除益でも、解散事業年度で計上するか、清算事業年度で計上するかによい、
課税所得が異なる可能性があるために、計上のタイミングに注意が必要となります。
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適用要件
(1)適用要件
この規定は、確定申告書に期限切れ欠損金額の損金算入に関する明細を記載し、残余財
産が無いと見込まれることを示す書類を添付することが必要です。
(2)判定時期
残余財産がないと見込まれるかどうかの判定は、法人の清算中に終了する各事業年度終
了のときの現況によります。(法基通 12-3-7)
(3)残余財産がないと見込まれることの証明書
清算各事業年度終了時の処分価額による実態を示す貸借対照表など、債務超過の状態に
あることを説明できる書類。(法基通 12-3-9)
3 最終事業年度の事業税の損金算入
事業税は、申告納税方式を採用しており、申告書を提出した事業年度の損金に算入する
こととされています。しかし、最終事業年度の事業税については、次年度が無いことを考
慮して最終事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することとされました。なお、
地方法人特別税についても同様とされています。
また次の通り他の制度において計算の基礎とする所得の金額は事業税の損金算入前の金
額とする措置が講じられています。
●寄付金の損金算入限度額の計算上の寄付金損金算入前所得金額
●欠損金の控除限度額
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清算所得課税の改正
4 その他の改正項目
1
引当金の繰入制限
法人税法上の貸倒引当金及び返品調整引当金については、残余財産が適格現物分配に該
当する貸倒引当金を除き、残余財産が確定した事業年度に繰入れることが認められなくな
りました。
2
一括償却資産の損金算入
清算中の会社が、取得価額 20 万円未満の固定資産について、3年で償却する方法を選
択している場合において、残余財産が確定した場合には、残余財産の分配が適格現物分配
に該当する場合を除き、損金不算入となっている金額又は未償却となっている金額を損金
の額に算入することとなりました。
3
繰延消費税額等の損金算入
清算中の会社の残余財産が確定した場合には、残余財産の分配が適格現物分配に該当す
る場合を除き、繰延消費税額等でその時点で損金に算入されていない金額は損金の額に算
入することとなりました。
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清算所得課税の改正
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グループ法人税制との関係
1 完全支配関係とは
完全支配関係とは、次のような関係をいいます。
①一の法人又は個人が、法人の発行済株式数の全部を直接または間接に保有する関係
②一の法人又は個人と上記①の関係にある法人間の相互の関係。例えば、個人株主Aが、
法人X社と法人Y社を完全支配している場合におけるX社とY社の関係
グループ法人
個人
100%
大法人
100%
100%
中小法人
中小法人
2 適格現物分配の特例
1
適格現物分配とは
適格現物分配とは、完全支配関係にある法人間で行われる現物分配(金銭以外の資産の
分配)をいいます。
完全支配関係には、法人間の完全支配関係と、個人と法人の間の完全支配関係がありま
すが、この現物分配の規定については、法人間の完全支配関係に限定されています。
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清算所得課税の改正
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適格現物分配の特例
前述のように規定する適格現物分配により資産を移転した場合には、その分配を行った
会社の帳簿価額で分配が行われたものとみなします。
①適格現物分配を行った法人は、分配による譲渡損益は計算されません。
②適格現物分配を受けた法人は、分配された資産の取得価額は帳簿価額相当額とされ、
資産の移転を受けたことによる収益の額は益金の額に算入せず、利益積立金額に加算
されます。
③適格現物分配は配当所得の範囲から除くこととされ、配当金に係る源泉徴収は不要と
なります。
3
適用時期
この規定は、平成 22 年 10 月1日以後に現物分配が行われる場合から適用されます。
ただし、残余財産の分配にあっては、平成 22 年 10 月1日以後の解散によるものから適
用されます。
3 受取配当等の益金不算入の特例
清算に伴う残余財産の分配は、税務上、受取配当金とみなされます。完全支配関係にあ
る子会社の清算に伴い、残余財産の分配があった場合には、その分配が現物配当であれば、
上記の規定が適用されますが、金銭である場合には受取配当等の益金不算入の規定が適用
されます。
ただし、平成 22 年の改正に伴い、完全支配関係にある子会社からの受取配当について
は、負債利子の控除は行わないために全額が益金不算入となります。
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清算所得課税の改正
4 特定資産の譲渡損の損金不算入の特例
1
特例の内容
親会社が上記の適格現物分配により、資産の移転をした場合には、その後一定の期間(※
1)内にその移転資産(※2)のうち一定の資産を譲渡したことにより発生する譲渡損があ
る場合には、その譲渡損は損金に算入されません。
これは、適格現物分配により移転した資産の含み損を利用した所得の引下げを防止する
ことが目的となっています。
※1
一定の期間とは、適格現物分配が行われた日の翌日の属する事業年度開始の日から3年を経過
する日までの期間をいいます。
※2 移転資産とは、適格現物分配により移転した資産のほかに、親会社が子会社と 100%支配関
係になる前から保有していた資産を含みます。従いまして、分配された資産以外の資産も対象
となる可能性がありますので注意が必要です。
2
対象となる資産
対象となる資産については、下記の①∼③以外の資産で、支配関係が生じた日における
価額が同日における帳簿価額を下回っていない資産をいいます。棚卸資産(土地、土地の
上に存する権利を除く)
①法人税法 61 条第1項に規定する短期売買商品
②法人税法 61 条の3第1項第 1 号に規定する売買目的有価証券
③適格現物分配の日における帳簿価額又は取得価額が 1,000 万円未満の資産
5 子会社欠損金の引継ぎ
1
特例の内容
完全支配関係にある子会社の残余財産が確定した場合において、残余財産が確定した日
の翌日前7年以内に開始した事業年度(以下「前7年前事業年度」といいます)において
生じた未処理欠損金額がある場合には、その欠損金額は親会社の欠損金額とみなすことと
されました。
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清算所得課税の改正
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引継ぎ対象となる未処理欠損金
(1)対象となる未処理欠損金は、欠損の生じた事業年度において青色申告書を提出し、そ
の後連続して確定申告書を提出している場合に限られます。
(2)租税回避行為に利用されることを防止するため、原則として、完全支配関係になった
事業年度以後の事業年度の未処理欠損金のみしか引継ぐことが出来ません。つまり、
3年前に完全支配関係になった場合には、7年分ではなく、3年分のみ引継ぐことが
出来ます。ただし、次のような特例措置があります。
①残余財産確定の日の翌日の属する事業年度開始の日の5年前から継続して支配関係が
ある場合には、前7年前事業年度分が対象になります。
②特定資産の譲渡損失等から成る部分の金額は引継げません。
3
適用時期
この規定は、平成 22 年 10 月1日以後に解散する会社の残余財産が確定した場合につ
いて適用します。
6 親会社における子会社株式消滅損の取り扱い
1
変更の内容
従来、子会社が清算した場合には、親会社が所有していた子会社株式については、消滅
による損失を計上していました。しかし、今回の改正により、子会社の消滅よる損益につ
いては、親会社による帳簿価額で計算することとなるため、消滅損として損金の額に算入
できなくなりました。
2
適用時期
この規定は、平成 22 年 10 月1日以後に解散した子会社の清算に伴う損失について適
用します。
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清算所得課税の改正
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Q&A
Q 1 青色欠損金の引継ぎ
次のような未処理欠損金額 1,000 を有する内国法人G4の残余財産が確定した場合に
は、その未処理欠損金額は、どのように引き継がれることとなりますか。
なお、内国法人G1、G2、G3及びG4には、残余財産確定の日よりも5年以上前か
ら支配関係があり、法人税法第 57 条第3項による欠損金額の引継額の制限はないものと
します。
内国法人
G1
100%
内国法人
G2
100%
70%
内国法人
未処理欠損金額
1,000
内国法人 G4
G3
30%
A1
G4の未処理欠損金額 1,000 のうち 700 はG2が引き継ぎ、残りの 300 をG3が引
き継ぐこととなります。
残余財産確定法人の株主等が2以上あるときには、次の算式により計算した金額をそれ
ぞれの株主等法人の欠損金額としてみなすこととされています。
■算式
未処理欠損金額又は
未処理災害損失欠損金額
残余財産確定法人の発行済株式
又は出資(自己株式等を除きます。)
の総数又は総額
×
株主等法人の有する残余財産
確定法人の株式又は出資の数又は
金額
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清算所得課税の改正
Q 2 期限切れ欠損金の算定方法
平成 22 年度の税制改正により、解散した法人に残余財産がないと見込まれるときは、
いわゆる期限切れ欠損金額を損金の額に算入することができることとなったと聞きました。
当社は現在、債務超過の状態にあり、今後解散する予定です。最終的には清算配当が見
込まれないことから、仮に、清算中の事業年度において当社が有する青色欠損金額を超え
る所得の金額が生じたとしても、いわゆる期限切れ欠損金額を損金の額に算入することが
できるものと考えています。
ところで、この場合の期限切れ欠損金額はどのように算定するのでしょうか。
A2
お尋ねの清算中の事業年度において損金算入の対象となる期限切れ欠損金額は、当該事
業年度における法人税申告書別表五(一)の「期首現在利益積立金額①」の「差引合計額
31」欄に記載されるべき金額がマイナス(△)である場合のその金額から、当該事業年度
に損金の額に算入される青色欠損金額又は災害損失欠損金額を控除した金額となります。
ただし、損金の額に算入することができる期限切れ欠損金額は、当該事業年度の青色欠
損金額等の控除後の所得の金額が限度となります。この期限切れ欠損金額とは、次の①に
掲げる金額から②に掲げる金額を控除した金額をいいます。
①適用年度終了時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額
②法人税法第 57 条第1項又は第 58 条第1項の規定により適用年度の所得の金額の計
算上損金の額に算入される欠損金額(いわゆる青色欠損金額又は災害損失欠損金額)
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清算所得課税の改正
Q 3 残余財産がないことの見込が変わった場合の期限切れ欠損金の取り扱い
当社は、平成 23 年1月に解散し、清算中の事業年度である平成 24 年1月期において、
残余財産がないと見込まれたことから、いわゆる期限切れ欠損金額を損金の額に算入して
法人税の確定申告を行いました。その後、平成 25 年1月期末において再判定したところ、
残余財産が生じる見込みとなりました。
この場合、平成 24 年1月期における期限切れ欠損金額の損金算入をさかのぼって修正
する必要があるのでしょうか。
A3
期限切れ欠損金額の損金算入制度は、清算中に終了する各事業年度終了の時の現況によ
って「残余財産がないと見込まれる」と判定される場合にその損金算入を認めるという制
度となっていることから、仮に、その後に状況が変わって当初の見込みとは異なる結果と
なったとしても、過去において行った期限切れ欠損金額の損金算入に影響を与えるもので
はありません。
したがって、お尋ねの場合には、平成 24 年1月期における期限切れ欠損金額の損金算
入について、さかのぼって修正する必要はありません。
TaxReport
清算所得課税の改正
【著 者】日本ビズアップ株式会社
【発 行】森田 務 公認会計士事務所
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