第 32 号 グループ法人税制の 取り扱い 1 グループ法人間の譲渡取引 2 グループ法人間の寄付 3 配当・株式の譲渡損益の取り扱い 4 中小企業向け特例措置の不適用 森田 務 公認会計士事務所 グループ法人税制の取り扱い 1 グループ法人間の譲渡取引 1 譲渡損益の繰延 100%支配グループ内の資産の移転に伴う譲渡損益は、繰延べとなります。現行では、 子会社間で工場の土地・建物を譲渡した場合には土地の含み益が譲渡益として課税されま すが、グループ内の移転による課税の中立性・適正性の確保が必要との観点から、連結納 税と同様、グループ内の資産の譲渡取引において生ずる損益については課税を繰り延べま す。 ■譲渡損益調整資産に係る譲渡損益の繰延べ及び認識 P:親会社 A、B:子会社 【改正前】 <グループ> P 100% 100% 対価 B社 A社 資産 譲渡損益の計上 取得 Tax Report 1 グループ法人税制の取り扱い 【改正後】 <グループ> P 100% 100% 対価 B社 A社 資産 譲渡損益の繰り延べ 取得 ・譲渡 ・償却 ・評価換え ・時価評価 譲渡損益の計上 2 譲渡損益繰延べの対象資産 対象資産は、固定資産、土地、有価証券、金銭債権、繰延資産などですが、従前の連結 納税制度における譲渡損益調整資産と同様に、商品等の棚卸資産や帳簿価格が 1,000 万 円に満たない少額の資産等は除かれるので、ある程度適用対象となる資産は限られます。 1 対象となる取引 完全支配関係がある普通法人や協同組合等への譲渡が対象です。 完全支配関係がある個人や公益法人等への譲渡は対象外です。 Tax Report 2 グループ法人税制の取り扱い 2 譲渡損益繰延べの対象資産の判定 ■「棚卸資産」の場合の譲渡損益調整資産の判定 棚卸資産 1,000万円 以 上 土地等 譲渡損益 調整資産 1,000万円 未 満 非該当 土地等 以 外 譲渡法人において「棚卸資産」であっても、 「土地等」については例外的に譲渡損益調整 資産の対象となる資産として限定列挙されているため、譲渡直前の帳簿価額が 1,000 万 円以上の場合には、譲渡損益の繰延べをしなければなりません。 3 判定単位 判定単位は、図表に掲げる単位に区分した後のそれぞれの資産の帳簿価額とします。 ■帳簿価額の判定単位 資産の区分 帳簿価額の判定単位 建物 減価償却資産 機械及び装置 1棟(区分所有建物にあっては、その区分所有 する建物の部分)ごとに区分したもの 一の生産設備又は1台若しくは1基ごとに区 分したもの その他の減価償却資産 上記に準じて区分したもの 土地等 土地を一筆(一体として事業の用に供されている一団の土地にあって は、その一団の土地等)ごとに区分したもの 有価証券 その銘柄の異なるごとに区分したもの 金銭債権 一の債務者ごとに区分したもの その他の資産 通常の取引の単位を基準として区分したもの Tax Report 3 グループ法人税制の取り扱い 4 譲渡損益の計算 譲渡損益調整資産に 係る譲渡利益額 その超える部分の金額 譲渡損益調整資産に 係る譲渡損失額 その譲渡に係る対価の額が原価の額を超える場合における その譲渡に係る原価の額が対価の額を超える場合における その超える部分の金額 譲渡損益調整資産の譲渡直前の帳簿価額 原価の額 ※不動産売買又は有価証券の譲渡に係る手数料など譲渡に付随して 発生する費用は、これに含まれません。 この制度は、連結法人間取引の損益の調整制度を改組したもので、完全支配関係がある 内国法人(普通法人または協同組合等に限る)間で一定の資産の移転を行ったことにより 生ずる譲渡損益を、その資産のそのグループ外への移転等のときに、その移転を行った法 人において計上する制度とされています。 したがって、譲渡損益調整資産に係る繰り延べられた損益は、その資産を譲り受けた法 人において、譲渡、償却、評価替え、時価評価、グループ離脱などの事由が生じたときに、 順次実現させていくことになります。その譲渡損益を実現させることとなる事由は、その 資産を譲り受けた法人に係る事由となりますので、常に 100%支配グループ一体での譲渡 損益調整資産の管理が必要となります。 計上すべき事由 1.譲渡した場合 計上すべき金額 繰延譲渡損益額全額(すでに計上済みの調整済額を除く) 譲受法人において償却費として 2.償却した場合 繰延譲渡損益額× 損金に算入された金額 譲受法人の取得価額 ※分数部分の計算には、長期にわたり譲受法人よりの数値提供が必要となる。 3.完全支配関係が 消滅した場合 繰延譲渡損益額全額(すでに計上済みの調整済額を除く) Tax Report 4 グループ法人税制の取り扱い 具体事例1 譲渡利益額が生ずる場合の取扱い A社は、完全支配関係があるB社に簿価1億円(時価1.2億円)の土地を1.2億円で譲渡した。 《A社の処理》 《B社の処理》 ・会計上の仕訳 ・会計上の仕訳 現預金 1.2億円 土 地 1億円 土地 1.2億円 現預金 1.2億円 売却益 0.2億円 相殺 ・申告調整 譲渡損益調整損 0.2億円 ・申告調整 調整なし 譲渡損益調整勘定 0.2億円 → 譲渡益0.2億円の繰延べ(減算・留保) ●税務処理 【A社】 ■別表4 所得の金額の計算に関する明細書 処分 総額 区分 ① 当期利益又は当期損失の額 1 社外流出 ③ 留保 ② 20,000 20,000 配当 その他 加 算 減 譲渡損益調整資産に 算 係る譲渡益減算 所得金額又は欠損金額 ■別表5(1) 20,000 20,000 0 39 利益積立金額の計算に関する明細書 区分 当期の増減 期 首 現 在 利 益 積 立 金 額 ① 減 ② 譲渡損益調整資産 繰越損益金 増 ③ 差引翌期首現在 利益積立金額 ④ △ 20,000 △ 20,000 20,000 20,000 【B社】 譲受法人の資産の取得価額に関して、グループ法人税制で特別の規定は設けられていま せん。 購入した資産が減価償却資産に該当する場合は、取引金額に基づいた取得価額について、 通常通り減価償却を行います。 Tax Report 5 グループ法人税制の取り扱い 具体事例2 譲渡損失額が生ずる場合の取扱い A社は、完全支配関係があるB社に簿価2億円(時価1.5億円)の土地を1.5億円で譲渡した。 《A社の処理》 《B社の処理》 ・会計上の仕訳 ・会計上の仕訳 現預金 1.5億円 売却損 0.5億円 土 地 土地 2億円 相殺 ・申告調整 譲渡損益調整勘定 0.5億円 1.5億円 現預金 1.5億円 ・申告調整 調整なし 譲渡損益調整益 0.5億円 → 譲渡益0.5億円の繰延べ(加算・留保) ●税務処理 【A社】 ■別表4 所得の金額の計算に関する明細書 処分 総額 区分 ① 当期利益又は当期損失の額 加 譲渡損益調整資産に 算 係る譲渡益加算 減 算 所得金額又は欠損金額 ■別表5(1) 1 ② △ 20,000 △ 20,000 20,000 20,000 配当 その他 0 39 利益積立金額の計算に関する明細書 区分 当期の増減 期 首 現 在 利 益 積 立 金 額 ① 減 ② 譲渡損益調整資産 繰越損益金 5 社外流出 ③ 留保 増 ③ 差引翌期首現在 利益積立金額 ④ 20,000 20,000 △ 20,000 △ 20,000 適用時期 この譲渡取引に係る損益の繰延制度の適用時期は、平成 22 年 10 月1日以後に行う譲 渡損益調整資産の譲渡からとなります。 Tax Report 6 グループ法人税制の取り扱い 2 グループ法人間の寄付 1 制度の概要 1 改正前 単体法人が 100%の資本関係にある他の単体法人に寄付を行う場合であっても、寄付金 は一般の寄付と同様に、期末資本金の額の 1,000 分の 2.5 及び所得仮計の 100 分の 2.5 の合計額を超える金額が損金不算入とされていました。 連結法人が他の連結法人に寄付を行う場合には、寄付金の全額が損金不算入とされ、寄 付を受ける連結法人においては受贈益の全額が益金算入とされていました。 2 平成 22 年度改正の概要 内国法人が「法人による完全支配関係」がある他の内国法人に対して支出した寄付金の 額で、当該他の内国法人において受贈益となる金額に対応する額は、その全額が損金不算 入とされます。 完全支配関係の法人間で寄付金=受贈益という行為が行われた場合に、一方の法人にお いて寄付金の全額が損金不算入となり、他方の法人において受贈益が益金不算入となりま す。 寄付をする法人において寄付金となり、寄附を受ける法人において受贈益となるものに ついてだけ、本措置が適用されます。 また、上記の取り扱いが適用される場合には、寄附を行った法人と寄附を受けた法人の 株式を有する法人は、寄附を行った法人の株式の帳簿価額を減額し、寄附を受けた法人の 株式の帳簿価額を増額することとなります。 この株式を有する法人は、株式の帳簿価額の減額又は増額の処理に際し、自己の利益積 立金額を減少させ又は増加させることとされています。 なお、この株式を有する法人における株式の帳簿価額の減額又は増額の処理は、連結法 人間の寄附金=受贈益の場合には適用されません。 制度創設の理由 完全支配関係にある法人間の寄附金=受贈益の取引を内部取引と捉え課税関係を生じさ せないようにするために設けられました。 Tax Report 7 グループ法人税制の取り扱い 2 寄付があった場合の処理 1 一般的な寄附金の取り扱い ■寄附金の具体例 ●金銭の贈与 ●無償または低廉による資産の移転 ●無利息や低利息による貸付け ただし、支出側において広告宣伝や福利厚生等の目的による場合には、寄附金ではなく 広告宣伝費等として損金算入されます。 寄附金に該当した場合には、損金算入限度額を超える寄附金の額は、損金不算入となり ます。 一方、寄附を受けた側の法人では、その受けた寄附金の額相当の受贈益が生じ益金の額 に算入されます。 2 100%グループ内の法人間の寄附 措置の対象となるものは、法人による完全支配関係の中で内国法人から他の内国法人に 対して行われる寄附であって、寄附金と受贈益が対応関係にあるものに限られます。 100%支配グループの法人間で寄附を行う場合、寄附金を支出した法人において全額損 金不算入とするとともに、これを受領した法人においても全額益金不算入とし、その益金 不算入とされる金額を受領した法人の利益積立金額に加算します。 この寄附金の取扱いは法人によって支配されている 100%支配グループ内にのみ適用 されます。 個人によって支配されている 100%支配グループ内の寄附金については、これまでどお り寄附した法人側は損金算入限度額を除き損金不算入、寄附を受けた法人側では益金算入 となります。 Tax Report 8 グループ法人税制の取り扱い ■寄附金・受贈益のまとめ P社 100% 100% A社 寄附 損金不算入 全額損金不算入 3 B社 益金算入 〈改正後〉 全額益金不算入 適用時期 この取り扱いは、平成 22 年 10 月1日以後に支出する寄附金の額及び同日以後に受け る受贈益の額について適用されます。 Tax Report 9 グループ法人税制の取り扱い 3 配当・株式の譲渡損益の取り扱い 1 完全子会社からの配当の益金不算入 グループ法人税制では、100%支配グループ内法人からの配当等を行う場合、負債利子 控除は不要とし、全額益金不算入となります。現行は、子会社が親会社に配当する際、親 会社の支払利子の関連会社株式相当部分が益金不算入の対象外となり、課税されることか ら、親会社による株主への配当や設備投資の原資が減少するなどの問題がありました。そ こで、100%支配グループ内の受取配当等については全額益金不算入とする制度に改めら れました。 1 制度の概要 法人税法では、ニ重課税排除の観点から内国法人が受ける配当等の額について、次に掲 げる株式等の区分に応じた金額は、各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入し ないこととされています。 したがって、完全支配関係がある法人間の配当等の額については、全額益金不算入とな り、グループ内での円滑な資金移転が可能であるものとされています。 ■株式等の区分毎の益金不算入額 ①完全子法人株式等 ②関係法人株式等 その株式等につき受ける配当等の額の合計額 その株式等につき受ける配当等の額の合計額からその株 式等に係る負債の利子の額を控除した金額 ③①及び②の株式等のいず その株式等につき受ける配当等の額の合計額からその株 れにも該当しない株式等 式等に係る負債の利子の額を控除した金額の 50%相当額 Tax Report 10 グループ法人税制の取り扱い P社 配当等 配当等 配当等 25%以上 100% B社 ②関係法人株式等 (配当等ー負債利子) A社 25%未満 C社 ①完全子法人株式等 配当等 ①②以外の株式等 (配当等ー負債利子)×50% 益金不算入 (1)完全子法人株式等 配当等の額の計算期間の開始の日からその計算期間の末日まで継続して内国法人とその 支払いを受ける配当等の額を支払う他の内国法人との間に完全支配関係があった場合の当 該他の内国法人の株式等をいいます。 2 適用時期 この益金不算入制度については、平成 22 年4月1日以後に開始する事業年度の所得に 対する法人税について適用されます。 平成 22 年4月1日以後に開始する事業年度において支払いを受けた配当等の額につい て、その計算期間が同日前に開始した場合であっても、計算期間を通じてその配当等を支 払う他の内国法人との間に完全支配関係があれば、新制度が適用されます。 Tax Report 11 グループ法人税制の取り扱い 4 中小企業向け特例措置の不適用 資本金の額または出資金の額が1億円以下の中小企業には、いくつかの課税上の特例措 置が講じられています。 グループ法人税制においては、多くの優遇措置を講ずる一方で、中小特例の適用につい ては、自らの資本金に加えて、親会社の資本金等の規模も基準に判定される。すなわち、 親会社の資本金が5億円以上の場合、その 100%子会社については、中小特例は適用しな いこととされました。 1 対象法人 ①資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人 ②相互会社(外国相互会社を含む) ③法人課税信託の受託法人 2 制限の対象となる措置 ①法人税の軽減税率 ②特定同族会社の留保金課税の不適用措置 ③交際費等の損益不算入制度における定額控除制度 ④貸倒引当金の法定繰入率 ⑤欠損金の繰戻還付制度 Tax Report 12 グループ法人税制の取り扱い ■不適用の対象となる中小特例 項目 原則 中小特例 各事業年度の所得に対して法人税率 30%を適用する(法法 66②) 。 各事業年度の所得金額のうち、800 万 円以下の金額については法人税率 22%(平成 21 年4月1日∼平成 23 年3月 31 日までの間に終了する各事 業年度については 18%)を適用する (法法 66②・⑥、措法 42 の3の2)。 特定同族会社の留保金課税制度を適用 しない(法法 67①)。 軽減税率 特定同族会社の 特別税率不適用 貸倒引当金の 法定繰入率の 選択 交際費等の 損金不算入制度 における 定額控除制度 欠損金の 繰戻しによる 還付制度 特定同族会社の各事業年度の留保金額 が留保控除額を超える場合には、その 超える部分の金額に対し、留保金課税 を適用する(法法 67①) 。 ■超える額に適用される税率 ①年 3,000 万円以下の金額には 10% ②3,000 万円超1億円以下の金額には 15% 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の 算出については、貸倒実績率を用いる 算出については、貸倒実績率と法定繰 (法法 52②) 。 入率の選択適用ができる(措法 57 の 10)。 交際費は全額損金不算入(措法 61 の 定額控除限度額(平成 21 年度税制改正 4) 。 により平成 21 年4月1日以降に終了 する事業年度については 600 万円)に 達するまでの交際費等についてはその 90%相当額を損金の額に算入すること ができる(措法 61 の4①) 。 平成4年4月1日から平成 24 年3月 青色申告書である確定申告書を提出す 31 日までの間に終了する事業年度に る事業年度において生じた欠損金額が おいて生じた欠損金については欠損金 ある場合は、その事業年度開始の日の の繰戻還付制度を適用しない(措法 66 前1年以内に開始した、いずれかの事 の 13) 。 業年度に繰り戻して法人税の還付を請 求することができる(平成4年4月1 日から平成 24 年3月 31 日までの間に 終了する事業年度において生じた欠損 金についても適用可能) 不適用 Tax Report 13 グループ法人税制の取り扱い 1 適用事例 大 中小 :資本金額5億円以上の法人 :資本金額1億円以下の法人 :中小企業向け特例措置の適用を 受けられない法人 大 (1) 大 (2) 100% 100% 中小 中小 50% 100% 50% 中小 中小 大 (3) (4) 100% 100% 中小 100% 大 中小 50% 100% 50% 中小 (5) 中小 中小 中小 (6) 100% 50% 中小 100% 100% 中小 大 50% 大 50% 中小 50% 中小 Tax Report 14 グループ法人税制の取り扱い (7) 中小 100% 100% 大 大 50% 50% 中小 2 適用時期 この制限措置は、法人の平成 22 年4月1日以後に開始する事業年度について適用され、 法人の同日前に開始した事業年度については従前どおりとされています。 TaxReport グループ法人税制の取り扱い 【著 者】日本ビズアップ株式会社 【発 行】森田 務 公認会計士事務所 〒630-8247 奈良市油阪町456番地 TEL 0742-22-3578 第二森田ビル 4F FAX 0742-27-1681 本書に掲載されている内容の一部あるいは全部を無断で複写することは、法律で認められた場合を除き、著 者および発行者の権利の侵害となります。 Tax Report 15
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