株式会社ワールド - 神戸大学大学院経営学研究科 神戸大学経営学部

KOBE BUSINESS SCHOOL
2002-11
株式会社ワールド
−SPA事業モデルとブランドの展開−
1.SPA事業モデルによる事業再編
1990 年代半ば以降、日本のアパレル企業の事業形態がダイナミックに変化している。一
般にSPA(製造小売業)と呼ばれる新業態が注目されるようになり、そのシステム化と
オペレーティングの巧拙が業績を左右するという局面も見られるようになってきた。
こうした動向に先鞭をつけたのが、神戸に本社を置く総合アパレル企業、株式会社ワー
ルド(寺井秀蔵社長)である。1993 年秋、最初のSPA事業として、若い女性をターゲッ
トとした新ブランド「オゾック」を立ち上げ、以後「アンタイトル」
「インディヴィ」
「ク
ードシャンス」…と順次、後続の新ブランドを投入。5年余りで、伝統的なアパレル製造
卸の事業形態から脱皮し、SPA事業モデルをプラットフォームとする小売主体の事業構
造へと転換した。2001 年 3 月期決算ベースでは、総売上高の約 72%を小売関連事業が占
めるまでになっている。
SPAは、
Specialty Store Retailer of Private Label Apparel の略で、
いわば
「PB100%
のファッション専門店」のこと。アパレル製造卸の場合は、自社が企画・製造するブラン
ド(例えば「オゾック」
)の販売を、独立資本のアパレル小売業に任せないで、自社の直営
店舗(百貨店のフロア出店を含む)で販売する事業形態を指す。ここでSPA事業モデル
とは、SPAの利点を最大限に引き出すよう工夫されたビジネスモデルのことである。
SPAの特徴は、店頭起点のマーチャンダイジング(MD)にある。需要の先読みが難
しいファッションアイテムの場合、シーズンごとの初回投入の商品企画をどれだけ需要期
に近づけることができるか、そして、シーズン中の動きに合わせた商品の追加供給と期中
企画をどれだけ的確に行えるかが、収益を左右するカギとなる。その最大の狙いは、
「売れ
る商品」
をいつでも過不足なく店頭に品揃えすることだが、
この理想に近づけるためには、
即時的な店頭販売データの収集・分析と、接客に当たる販売員の経験に基づく精度の高い
需要予測が欠かせない。従来のアパレル製造卸は、この店頭起点の情報を得にくいという
点で、根本的な弱みを抱えていた。
*本ケースは神戸大学大学院経営学研究科博士課程 村下訓が,同研究科教授 石井淳蔵の指導のもとに
作成したものである。本ケースの記述は経営管理の巧拙を示すものではなく,クラス討議の資料とし
て作成された。なお著作権は,神戸大学大学院経営学研究科に帰属し,無断複製は厳禁とする。
(2002 年 1 月 31 日)
1
SPA事業モデルの利点は、この需要の不確実性を吸収するということだけではない。
消費の最前線に設けられた直営店舗は、新しいファッション提案やライフスタイル提案に
よって需要を創りだす価値創造のステージでもある。ワールドは「MDをコアに消費者を
起点としたビジネスモデルを構築する」という基本コンセプトを持っているが、その根底
には小売の発想がある。新しい目標は、
“そこへ行けば欲しいものが見つかる”という「フ
ァイナルディスティネーションストア」の実現である。強い自社ブランドを持つことで優
位性を確保してきた高付加価値型の総合アパレル企業が、小売の発想の下でどのようにブ
ランドを育てていくのか。ワールドの新たなブランド展開のありようは、SPA事業モデ
ルの進展を方向づける独自の考え方と密接に関係している。
2.アパレル製造卸の時代1
現在のワールドを理解するためには、アパレル製造卸のパイオニアとして業界をリード
してきた、その事業の歴史を一応知っておいた方がよい。
日本のファッション業界の歴史は、20 世紀後半の数十年をかけて、業界のリード役が川
上から川下へと段階的に移行してきたプロセスとして捉えることができる。紡績業がまだ
日本の産業を支えていた 1950 年ごろまでは、地方のメーカー問屋や産地アパレルが主導
的な立場にあったが、1950 年代以降、一部のアイテムに特化したアイテムアパレル(スー
ツ問屋やセーター問屋など)が次第に主流を占めるようになった。
1959 年に創業したワールドもニット卸問屋としてスタートしたが、
1960 年代に入って、
いち早くトータルコーディネートの企画提案を展開。まさに業界のリード役として、従来
のアイテム地方アパレル中心から、全国展開の総合アパレル中心へと転換する、ファッシ
ョン業界の新時代を先導した。いわゆる企画系の総合アパレルが主流を占めた 1970 年代
から 80 年代初頭にかけては、ワールドがアパレル製造卸として飛躍的な成長を遂げた黄
金期にあたる。
<成長の仕組み>
ワールドの成長を支えたビジネスの仕組みに目を向けると、ポイントは大きく分けて2
つある。その1つは、チャネル政策である。多くの大手アパレル企業が百貨店取引に傾斜
するなかで、ワールドは中小衣料品専門店との取引を拡大していった。その取引契約では
「返品なしの完全買い取り制」を徹底する一方、ワールド製品の取扱率が 70%以上の取引
先を「オンリーショップ制度」の下でサポートし、全国展開の強力な販売ネットワークを
構築していった。ワールドと取引のある専門店数は、1990 年代初頭まで増加傾向を辿り、
最大で約7千数百店舗、この内「オンリーワンショップ」は約2千数百店舗を数え、その
後は減少傾向を辿っている。
このチャネル政策と一体的に機能したのが、もう1つのポイントであるブランド政策で
ある。独立資本の専門店を「オンリーショップ制度」の下に置くためには、供給される製
品が、トータルコーディネートのニーズに応えるフルアイテムで展開されていなければな
らない。同時に、そのトータルコーディネートのブランドが、他社にはない魅力的な商品
2
群に裏づけられた強力なブランドとして、マーケットに定着させることも必要である。中
でもワールドの商品企画力を象徴する2大ブランド、ミセス向けの「コルディア」とOL
向けの「ルイシャンタン」は、これらの要求を満たす主力ブランドとして、1980 年代初頭
までのワールドの成長を支えてきた。業績は、1974 年から 12 期連続で増収・増益、その
間の売上高は 1974 年度 229.3 億円から 1986 年度 1414.6 億円に伸びている。
<主力ブランドの成長に陰り>
1983 年、それまで順調に推移した主力ブランドの「コルディア」と「ルイシャンタン」
の成長に陰りが見え始める。うまく機能していた「返品なしの完全買い取り制」が揺らぎ
始めたのである。もともとアパレル製造卸の商品企画・製造は投機的な色合いが強く、商
品のデザインは対象シーズンの 10 ヵ月ないし 9 ヵ月前に決定、
6 ヵ月前には生産を完了し
て展示会を開き、その時点で各専門店のオーナーは商品一式の仕入れを決める仕組みにな
っていた。ワールドが用意する追加発注用の在庫は多くても全販売量の2割までで、原則
として期中の追加生産は行わない。こうしたやり方では、商品の売れ行きのバラツキを、
個々の専門店の需要予測とシーズン中の販売努力で吸収できている間はよいが、売れ筋商
品の早期欠品や動きの鈍い商品の過剰在庫が専門店の手に負えない程度にまで拡大してく
ると、その仕組みを維持するのが難しくなってくる。その後、1980 年代半ばには、各専門
店で期末セールでも売り切れない不良在庫の発生が目立つようになり、一部ではワールド
への支払いも遅滞する事態に陥った。
問題の背後には、専門店オーナーが自身で仕入れの意思決定を行わず、バイヤー発注や
ワールド営業担当者による代行発注が目立ってきたこと、それによって専門的な目利きに
よる需要予測と販売努力が減退したこともあるとされる。しかし、専門店の姿勢がどうで
あれ、せっかく築き上げたチャネルを維持し、ワールドの売上を確保するためには、差し
当たり「返品なしの完全買い取り制」にこだわり続けるわけにもいかない。結局、過剰在
庫に対しては、
期末セールでの利益率保証と特例的な返品の容認を含む在庫処分支援へと、
踏み込まざるを得なくなった。このチャネル政策の隘路を切り抜けるために、ワールドは
消費の多様化に対応した多ブランド政策に活路を見出そうとする。
<多ブランド化と売れ筋追加供給による売上拡大策>
1980 年代後半、売上の伸びが鈍化した基幹ブランドの「コルディア」
「ルイシャンタン」
以外に、新たな収益源となるブランドを育てることが全社的な課題となった。1984 年に
28 ブランド、85 年に 38 ブランド、87 年に 54 ブランド、そして 88 年には 110 ブランド
を数えるまでに多ブランド化を推し進めた。しかし、ブランド数の多さと商品の多様さで
販売の間口は広がったものの、それは期待したような売上の伸びにはつながらなかった。
畑崎社長(当時)は、
「ブランドが多過ぎて消費者が混乱した」という認識を示し、多ブラ
ンド政策から一転、1ブランド当たりの売上拡大を目標として、ブランドの整理に取り掛
かる。1988 年に 110 以上あったブランドを、1990 年には 37 ブランドまで絞り込んだ。
多ブランド化と並行して、売れ筋の追加発注を可能にするジャストインタイム方式の生
産も実験的に取り入れられた。1983 年、当時のワールド子会社3工場に「かんばん方式」
を導入し、生産リードタイムを大幅に短縮する仕組みを作ったが、3工場の生産規模は全
3
製品の 3%程度で、自ずと対応力には限界があった。当時の試行的なレベルでは、協力工
場を巻き込んだ仕組みづくりに踏み込むわけにもいかなかった。
3.SPARCS構想のコンセプト2
1974 年から 12 期連続で増収増益を続けた拡大成長期を経て、ワールドは 1980 年代半
ばを境に停滞期に入る。当時、常務取締役で事業開発の陣頭指揮を取っていた寺井秀蔵氏
(1997 年 6 月から代表取締役社長)は、シーズンごとにゼロからスタートする従来の展
示会方式に、疑問を抱くようになった。
「新しいブランドを開発して、大きくなったら 1
つの区切りをつけて、次のブランドへという繰り返し。アパレルが作るブランドに感動が
なくなっていった。自分が消費者の視点に戻ったときに、こんな冷めた状態では人に感動
を与えることはできないと思いました。
」デザイナー出身の寺井氏は、これまでのブランド
開発のあり方にむなしさを感じ始めていた。ワールドが多ブランド化に活路を見出そうと
していた中で、彼は別の角度から総合アパレル企業の将来像を模索し始めていた。
消費者への接近。そして、消費者の感覚で何かを提案すること。
「それは“モノ”ではな
く“場”ではないかと思いました。
」市場(いちば)をコンセプトとする小売部門「ジ・エ
ンポリアム」での小売の経験が、その後の事業計画を方向づけることになった。
「売場の上
の階に置いた事務所から、お客さまの表情が変わっていくのを目の当たりにすることがで
き、その時の感動が忘れられないものとなりました」
。寺井氏は「壁にぶつかった時には、
いつでもこの原点に戻る」と言う。1992 年にスタートしたSPARCS構想の原点も、こ
こにある。
SPARCS(Super、Production、Apparel、Retail、and Customer Satisfaction)
構想は、ワールドの成長発展の道筋を明確化した基本コンセプトである(概念図について
は資料1参照)
。その狙いは、顧客の好み、テイスト、ライフスタイルのニーズを起点とし
て、小売・アパレル企画・生産を一気通貫する垂直統合型のビジネスモデルを構築するこ
と。この顧客中心のビジネスプラットフォームこそが、従来のロスや非効率を克服し、利
益成長機会を追求する切り札になると考える。目標は、消費者にとってベストな業態を構
築することである。
問題は、小売・アパレル企画・生産を一気通貫する垂直統合型のビジネスモデルをどの
ように構築するかという点にあった。寺井氏は、もし取引先の専門店が「店頭で顧客が買
った情報」をリアルタイムで流してくれたら、今のSPA事業モデルはなかったのではな
いかと言う。現実性のある情報というものは顧客が買う時点にしかない。そのリアルな情
報を共有できなければ、ものづくりの焦点のブレはいつまでも解消しない。取引先の専門
店がこの問題意識を共有してくれなければ、我々自身が小売を手がけるしかない。SPA
事業モデルの採用は、こうした事情を反映して導かれた1つの結論である。
SPA事業モデルは、SPARCS構想を実現するためのビジネスプラットフォームで
ある。ブランドは、このプラットフォームに乗せるコンテンツだと理解されている。重要
なのはもちろんコンテンツだが、そのコンテンツの作り方はビジネスプラットフォームの
形態に規定される面が強い。こうした理解に従う限り、SPA事業モデルの展開とブラン
4
ドの展開とは相即的である。
4.SPA事業モデルの積極展開 =SPARCS構想の第1ステージ
1993 年秋、SPA事業モデルの第1号ブランドとして「オゾック」が立ち上げられた。
それまで相対的に高価だったフレンチカジュアルを、若い女性にも手の届く価格帯で提供
し、購買層を広げようという狙いがあったが、これがピュアヤングと呼ばれる高校生から
20 歳前後の団塊ジュニア層(当時)に受け入れられて大ヒットした。その売上高は、デビ
ューから3年後に 100 億円、5 年度には 200 億円に伸び、文字どおりの基幹ブランドとし
て成長した。現在、百貨店を中心に、直営店とフランチャイズ店を合わせて約 100 店舗が
展開されている。
SPAの直営店展開は、それまで取引先の専門店が受け持っていた店舗投資、店頭在庫
のリスクを、ワールドが全面的に引き受けることを意味する。当初は、こうした小売のリ
スクを負うことを疑問視する向きが社内外で強かったが、寺井氏は逆にそのポジティブな
側面を強調する。リスクを負うことによって、それを少しでも減らそうという意識が高ま
る。その結果、ロスを利益に変えるために、業務精度を高めていくロジックも生まれてく
ると考えた。店頭情報は、独立資本の小売店と連携することができれば得ることが可能だ
が、その情報をどう生かすかという場面では、リスクと背中合わせの状況にある方がいっ
そうクリティカルである。
<「オゾック」のSPA事業モデル3>
従来の製造卸事業モデルと決定的に異なる点は、商品企画から店頭投入までのリードタ
イムが大幅に短縮されたことである。シーズンごとの商品企画の開始時期は店頭投入の 12
週間前、商品確認を目的とする内見会は店頭投入の 6−8 週間前である。以前の展示会注
文方式では、
商品企画が店頭投入の約1年前、
専門店の初回注文が店頭投入の 6 ヵ月前で、
その時点で生産量の 8−9 割が確定していた。
実際に店舗投入する商品は、
担当のマーチャンダイザーと店舗の売場担当者が決めるが、
その根拠となる需要予測の精度を上げるために、ワールドは「アキュレートレスポンス」
と呼ばれる仕組みを持っている。複数の販売スタッフが各商品を7点評価し、その平均点
と標準偏差を基に初回生産量が決められる。標準偏差(評価のバラツキ)が大きい場合は、
それだけ需要の不確実性が高いと判断して、製品ではなく素材での在庫を厚くする。需要
予測の精度を上げるもう1つの仕組みは、予測期間の短縮である。期中の追加発注分を全
体の 7 割程度見込み、売れ行きを見ながら順次2週間先の追加生産量を決定していく。こ
の2つの仕組みをつなげて、売れ筋の品切れリスクの回避と製品在庫の圧縮を可能にして
いる。需要予測は、最終的にはマーチャンダイザーや販売スタッフの判断に拠るところが
大きいが、その経験の積み重ねによって、寺井氏の言う業務精度の向上につなげることが
できるという点が重要である。
小売と企画・生産のダイレクトな連動によって、素早い意思決定を要する期中商品企画
も可能となった。店頭での実売情報と販売スタッフとの情報交換を起点に、期中の商品企
5
画と商品化の意思決定は短時間で行われる。商品化決定から店頭投入までのリードタイム
は、最短で2週間である。初回投入の売れ筋に加えて、期中の売れ筋投入でさらに売上を
上げる仕組みが実際に稼動している。
「オゾック」
ファンがシーズン中にたびたび店舗を訪
れるのも、およそ2週間単位で新商品が投入されているからである。企画に対する仮説・
検証のサイクルがうまく回っていれば、
店頭の品揃えはいつでも新鮮さを保っている。
「オ
ゾック」の場合、標準でプロパー消化率は 80%前後である。
回避できなかった、あるいは回避できそうにない過剰在庫を不良在庫化しない仕組みも
組み込まれている。店舗の責任分担では、売れ行きが芳しくない商品を期末セールで低価
格販売する方法が採られるが、それだけではない。別業態店の「ネクスト・ドア」に過剰
ぎみの商品が集められ、価格の異なる別の商品として販売される。小売のリスクを担当の
マーチャンダイザーや店舗の売場担当者だけに負わせるのではなく、全社的な仕組みでカ
バーするという点が、ワールドのSPA事業モデルの特徴である。
<ブランドの展開と業績>
「オゾック」の成功を受けて、それより少し年齢の高い 20 代のキャリア層を対象とし
た「アンタイトル」
「インディヴィ」
「クードシャンス」等の有力ブランドが、1997 年まで
に順次立ち上げられた。2001 年 3 月末時点におけるSPA事業(小売部門)の主要ブラ
ンド(リテールブランド)は次のとおりである(各ブランドロゴとコンセプトについては
資料2参照)
。
第Ⅰ世代(49 歳以上:団塊世代)向けブランド
ReFLEcT(リフレクト)
AIRPAPEL(エアパペル)
BeeNee(ビーニー)
FLUXUS(フラクサス)
esche(エッシュ)
第Ⅱ世代(30 歳〜48 歳:ばなな世代〜DC洗礼世代)
VOICEMAIL(ヴォイスメール)
ECLIPSE(エクリプス)
synchroX crossings(シンクロクロッシングズ)
DESVISIO(デヴィジオ)
sunauna(スーナウーナ)
第Ⅲ世代キャリア(24 歳〜29 歳:団塊ジュニア世代)
UNTITLED(アンタイトル)
INDIVI(インディヴィ)
CROLLA(クローラ)
COUP DE CHANCE(クードシャンス)
6
STYLEJAM(スタイルジャム)
SOUP(スープ)
第Ⅲ世代ヤング(18 歳〜23 歳:ポケベル世代)
OZOC(オゾック)
SPB
SPIRIT PASSION BELIEF
(エスピービー)
WO HOP(ウォーホップ)
メンズ
BOYCOTT(ボイコット)
TAKEO KIKUCHI(タケオキクチ)
TAKEO KIKUCHI GENTLEMAN(タケオキクチジェントルマン)
TK TAKEO KIKUCHI(TKタケオキクチ)
TAKEO・KIKUCHI・SCULPTURE(タケオキクチスカルプチュア)
adabat(アダバット)
アイテム特化ブランド
Reidroc(レイドローク)
;アクセサリー、雑貨のフルアイテム展開ブランド
OZOC SACS(オゾックサック)
;バッグ中心のトータル雑貨ブランド
wellbeing(ウェルビーイング)
;パンツアイテム中心のボトム単品ブランド
rougeloup(ルージュルー)
;コンテンポラリーな雑貨ブランド
After All(アフターオール)
;バッグ、靴を中心とした服飾雑貨ブランド
sabase(サバーゼ)
;コンフォートなベーシックニット&ジャージのブランド
ワールドのSPA事業のブランド展開は、まず縦軸に年代層をとって区分し、各年代層
の多様な好みやテイスト、ライフスタイルのニーズに注目して括りのコンセプトを固め、
これを複数のブランドに組み立てて横軸にバリエーション展開していく方法をとる。上の
リストに挙げた世代区分が縦軸にあたり、各世代向けの複数ブランドが横軸の展開にあた
る。メンズは、20 代前半までの若い層を狙った「ボイコット」以外は対象の年代層を広く
とり、
「タケオキクチ」ブランドで統一的に横展開されている。アイテム特化ブランドは、
各年代層向けのトータルコーディネートのブランドではカバーしきれないアイテムを、個
別ブランドとして編成したもので、特に後述するストアブランドの展開では重要な位置づ
けを持っている。この他、キッズブランドとして、男の子向けの「タケオキクチダッシュ」
と女の子向けの「マリージョンティーユ」も展開されている。
2001 年 3 月期の総売上高 2,158 億円の内、小売部門のリテールブランドとストアブラ
ンドが占める割合は約 72%である。
2001 年 3 月末時点の総ブランド数は 46 ブランドで、
この内小売が 24 ブランド、卸が 13 ブランド、ストアが 9 ブランドである。2001 年度 3
月期ベースのブランド別売上高ランキングを見ると、上位 15 ブランドの内 12 ブランドが
リテールブランドとストアブランドである。
7
●主要ブランド売上高ランキング4(単位:百万円)
2001
2000
1.OZOC
23.6
26.1
retail brand
2.UNTITLED
22.5
19.1
retail brand
3.CORDIER
20.3
19.9
wholesale brand
6.3
wholesale brand
LINEAR
4.INDIVI
18.3
16.0
retail brand
5.TAKEO KIKUCHI
13.7
9.6
retail brand
6.INDEX
12.0
11.4
retail brand
7.ADABAT
8.0
8.8
retail brand
8.VILLE D’AZUR
7.1
6.1
wholesale brand
9.COUP DE CHANCE
6.4
4.0
retail brand
10.BOYCOTT
5.0
4.5
retail brand
11.GIO SPORTS
3.7
4.1
wholesale brand
12.AQUAGIRL
3.4
1.9
store brand
13.REFLECT
3.1
3.0
retail brand
14.VOICEMAIL
3.0
1.2
retail brand
15.UNA PARTE
3.0
2.5
wholesale brand
注1:2000 年度のブランド別売上高は、小売総販売高を基準とする調整値。
注2:組織変更に伴い、2001 年度の LINEAR の売上高は CORDIER の売上高に含む。
ストアブランド店を含む小売部門の総直営店舗数は、
2001 年度 3 月末時点で 771 店舗。
この内 2001 年 3 月期末ベースの新規増分が 152 店舗(新規出店が 252 店舗、閉鎖・移転
が 100 店舗)で、2000 年 3 月期末ベースの新規増分 76 店舗と比べ、小売店舗の出店ペー
スはいっそう加速している。2001 年 4 月以降も、特に業績が好調な「アンタイトル」と
「インディヴィ」を中心に、積極的な出店を続けている。
マーケティングチャネル別の比率を 2001 年 3 月期売上高ベースで見ると、専門店チャ
ネルが全体の 26.9%、百貨店チャネルが 52.0%、路面店等の直営店チャネルが 21.1%で、
特に百貨店フロア出店の直営店舗が総売上高の半分以上を占めている点が注目される。
<「オゾック」の停滞と対応策>
1993 年の「オゾック」の立ち上げに始まる一連のSPA事業の展開によって、ワールド
の収益構造は大きく変わった。7 割を超える売上を稼ぎ出すまでに成長した小売部門だが、
その全てが万事順調ということでもない。1998 年秋以降、成長路線を快走してきた基幹ブ
ランドの「オゾック」に陰りが見え始めた。
「オゾック」と同じターゲットゾーンを狙って
百貨店に進出した他社ブランドと競合するようになり、商品企画や在庫管理を含む「オゾ
ック」のマーチャンダイジングの精度が低下してしまったのである。SPAオゾック事業
部は、新規出店や既存店舗の拡張リニューアルを進める一方、販売促進や広告活動にも力
を入れて巻き返しを図ったが、売上は期待したほどの伸びを示さず、在庫費用や間接費の
8
増加が利益を圧迫する状況に陥った。
こうした事態に対応して、ワールドは、
「オゾック」に限らず小売部門の全ブランドを対
象に、商品企画・開発や在庫管理を含むマーチャンダイジング活動と、ストアの出店・閉
鎖を含むマーケティング活動とを、明確に区分する方針を打ち出した。各ブランドを管理
運営する事業部は、利益率基準でマーチャンダイジング活動の改善に専念することとし、
マーケティング活動と総コストについては、執行役員(COO)の下で全社的な事業運営
を管理する事業推進統括部で一括してコントロールすることとした。
全社的に対応策を探るにあたって重要なもう1つの観点は、事業部ごとに特色のある展
開がなされていた複数のSPA事業モデルを個々に検証し、マーチャンダイジングの精度
を上げるのに役立ちそうなシステムの優れたところを見つけ出すことであった。そこで注
目されたのが、SPAアンタイトル事業部が管理運営する「アンタイトル」ブランドの在
庫管理手法である。このシステムでは、直営店が週単位で精度の高い商品の追加発注を行
う仕組みを持っている。前週の単品ごとの売れ行きに合わせて調整された追加発注によっ
て、常時、過不足のない店頭品揃えを可能にしている。その背後には、事業部の総商品在
庫に目配りした精度の高い素材調達と生産のコントロールがある。
「オゾック」
の手法と比
較すると、上流工程への関与がいっそう徹底しているのである。こうした優位点を全社的
に共有するため、2000 年春夏のコレクションから、
「アンタイトル」の在庫管理手法のエ
ッセンスが全ブランドのSPA事業モデルに組み入れられた。
その効果は、すぐに在庫管理の精度向上に結びついた。2000 年春夏物のリテールブラン
ドの売上高に対する在庫(棚卸資産)比率は、前年同期と比べて 3.3%改善されて 9.4%に、
2000 年秋冬物ではさらに 1.9%改善されて 7.5%まで低下した。
「オゾック」単体では、前
年に 10.9%だった在庫比率が 6.1%まで改善している。また、ワールドがブランドの収益
率を測定する指標として用いているCFROA(キャッシュフロー資産収益率=各ブラン
ドが生み出すキャッシュフローを、そのキャッシュフローを生み出すのに投入された総資
産で割って算出した比率)は、小売ビジネス全体で前年比 1.8%改善され、2001 年 3 月期
ベースで 40.1%に上昇した。
「オゾック」単体のCFROAは、前年比 3.9%改善されて同
59.2%になっている。
「オゾック」の停滞に端を発したSPA事業の曲がり角は、当面、マーチャンダイジン
グの精度の向上に焦点することによって次の成長軌道を見出すかたちとなった。しかし、
事業のプラットフォームとなるSPA事業モデルが他社にも導入され、その仕組みの差別
的な優位性が同質化によって埋め合わされる傾向は、今後も続くはずである。マーチャン
ダイジングの精度向上の技法を追求する企業間の競争は、アパレル業界全体の利益を向上
させることにはつながるだろうが、ワールドの差別的な優位性を長期間にわたって維持す
るキーファクターとはなりにくい。この点で、同社でもコンテンツであるブランドの重要
性は十分に意識されている。
売れ筋商品への集中は、本来、固有のテイストを打ち出すことによって優位性を築こう
とするリテールブランドの企画性とは相容れない面がある。こうしたトレードオフの問題
にいかにしてバランスよく対処するかが、マーチャンダイジングに傾斜しがちなSPA事
業モデルの課題である。例えば、順調に売上を伸ばしている「アンタイトル」では、ワー
ルドの伝統的な強みである素材開発やカラー展開に力を入れ、そこから商品企画面の独自
9
性を打ち出している。売れ筋商品を小売店頭の棚から切らさないようにする一方で、その
ブランドの全体的なトーンをバランス良く演出する品揃えの工夫や、期中企画の新商品の
周期的な投入による鮮度の維持など、長期的なブランドの育成に目配りしたマーケティン
グ努力も同時に投入されている。
しかし、寺井社長は、商品ブランドに注目するメーカー発想のブランド育成策に集中す
ることなく、むしろ小売発想のブランドづくりに注力しようとしているようである。特定
の商品ブランドにこだわらない品揃えを打ち出したセレクトショップ型のストアブランド
の展開がそれである。
<ストアブランドの展開>
ストアブランド展開の基本コンセプトは、「ファイナルディスティネーションストア」
(
“そこへ行けば必ず欲しいものが見つかる”
という期待を持って来店してもらえる店舗の
こと)である。顧客の年齢層やライフステージに合わせた品揃えを基本とし、その店舗の
顧客は誰かを分かりやすく打ち出した店づくりをすることによって、複数のストアブラン
ドを展開している5。2001 年秋の時点でワールドが展開しているストアブランドには、3
つのタイプがあるが、各事業モデルのプラットフォームは、商品ブランドの展開で順次手
法を開発してきたSPA事業モデルをベースとしている。
●ファッションコモディティの事業モデル
1つは、
「ファッションコモディティ」のマーケットに焦点するストア群である。ワール
ドの「ファッションコモディティ」とは、価格重視の低価格な商品群と、ファッション価
値を追求する商品群との間に位置する商品群のこと。いわば価格競争力を持ちつつファッ
ション性を追求した品揃えを特徴とし、Tシャツなどのベーシックアイテムに、色、形、
素材などでその時々のファッショントレンドを加味した商品群を投入する。
メインターゲットは、現在、30 代に入りつつある団塊ジュニア世代のうち、結婚を機に
仕事を離れ、子育て中心の生活を送る女性とその子供たちである。首都圏近郊の住宅地に
あるショッピングセンターを中心に展開するストアブランド「ハッシュアッシュ」と、量
販向け大手アパレルの櫻屋商事との合弁会社「ワールドシーピー」から 2000 年秋にデビ
ューした「タイプフェイス」を中核ブランドとして、新しい事業モデルの確立に向けて実
験的な展開を行っている。
「ファッションコモディティ」のマーケットは、ファッション感度の高い高付加価値型
の商品ブランド展開を行ってきたワールドにとっては、従来の発想がそのまま適用しにく
い新しいマーケットである。寺井社長自身が「実験的な」と形容するように、その成果を
評価するまでには、もう少し時間がかかりそうである。
●バラエティショップ型の事業モデル
首都圏を中心とするキャリアウーマン層をメインターゲットとしたストアブランドも、
実験的な事業モデル化が始まっている。2001 年秋の時点で展開されているのは、
「イッツ
デモ」と「インデックス」の2ストアブランドである。
“日常のスタイルアップ”をコンセプトとする「イッツデモ」は、洋服、アクセサリー、
10
コスメ、雑貨、食品など、仕事を持つ女性の毎日を応援するデイリーグッズを豊富に品揃
えしたストアブランドである。もう1つの「インデックス」は、キャリア予備軍とも言え
る第Ⅲ世代ヤング(18〜23 歳)をメインターゲットとしたストアブランドで、ワールドの
オリジナル商品ブランド「エスピービー」
「ウォーホップ」
、スタイリッシュで機能的なバ
ッグ、靴等をラインアップした服飾雑貨ブランド「アフターオール」を中心に品揃えして
いる。
忙しくてもスタイリッシュな日常生活を送りたい首都圏近郊の女性が、通勤途中に気軽
に立ち寄ることができるという、その利便性が集客のポイント。このため、両ブランドの
ストアは首都圏の市街地と近郊の主要な駅を中心に展開されている。
●編集型大型世代店舗の事業モデル
ターゲット世代を絞り、その世代の女性のテイストに合わせた複数のブランドで売場を
構成したライフスタイル提案型の大型店舗も、ストアブランドの事業モデルとして立ち上
げた。狙いは、ファッショントレンド情報がどんどん多様化する中で、自分に合ったスタ
イルを見つけにくくなっている女性のために、いわばワールドが目利きとなって編集した
魅力的な商品群を提案していこうとするもの。ワールドが提唱する「ファイナルディステ
ィネーションストア」のコンセプトをずばり具体化した中核店舗である。
2000 年立ち上げの第1号店「オペーク ギンザ」での実験は順調に進み、2001 年春には
第2号店「オペーク ナゴヤ」がテイクオフ、さらに 2002 年春には大阪・心斎橋に 1,000
坪級の新規店が出店される予定である。
商品構成では、ワールドのファッションブランド商品以外に、他社製のコスメ、バッグ
や靴なども品揃えしている。このほか、店内にはレストランやヘアサロンも備え、多面的
なライフスタイル提案へと歩を進めている。
5.パートナー企業群とのコラボレーション=SPARCS構想の第2ステージ
<ワールドプロダクションパートナーズ(WP2)>
前節で紹介したSPARCS構想の第1ステージでは、ワールド独自のSPA事業モデ
ルの開発を中心として、仮説・検証型の実験的な取り組みが展開されてきた。
「オゾック」
の立ち上げに始まる一連のチャレンジは、文字通りワールドの収益を支える小売主体のS
PA事業モデルの確立へと進展しつつあるが、寺井社長は、こうした販売系モデルの確立
だけではSPARCS構想は完結しないと考えている。顧客を起点とする一気通貫の事業
モデルを完成させるためには、販売系モデルと整合的な生産系モデルへと改革することが
必要であるとし、2000 年、原材料メーカーや縫製メーカーとのコラボレーションによる
WP2(ワールドプロダクションパートナーズ)を立ち上げた。
その狙いは、SPA事業モデルのマーチャンダイジングの精度をさらに向上させるため
に、SPAの週次業務に生産サイクルを完全に同期化することである。
「オゾック」の停滞
と対応策で見たように、在庫管理の精度にはまだ改善の余地が残されている。この改善の
余地を埋めるには、ワールド単独の努力では限界があり、上流の原材料メーカーや縫製メ
11
ーカーとの一体的なコラボレーションが欠かせない。具体的には、素材開発・生産から縫
製・店頭への物流までの一連のプロセスを、
店頭を起点として組み直すことを目的として、
ワールドとパートナー企業との集合体(WP2)が一体的なネットワークを構築することで
ある。
<バーチャルSPA>
もう1つのコラボレーションの形態は、取引先小売店とのパートナーシップを基本とす
る「バーチャルSPA」である。この事業モデルは、ワールドが商品構成を担当し、在庫
リスクを負う一方、取引先小売店は販売業務を担当し、店舗経費を負担するという役割分
担の仕組みをベースとしている。
「バーチャルSPA」は、相対的にマーチャンダイジング
の精度が高い「アンタイトル」と「インディヴィ」ですでに導入されており、今後はそこ
での経験を生かして他のブランドでも展開していくことにしている。
<製造卸事業の立て直し>
SPA事業モデルの進展に伴い、収益面における製造卸事業の相対的な位置づけは低下
傾向にあるが、前の<主要ブランド売上高ランキング>で見たように、第Ⅰ世代(49 歳以
上)をメインターゲットとする「コルディア」
「ビルダジュール」
「リフレクト」
「ウナパル
テ」等の主力ブランドは、依然としてワールドの基幹ブランドとしてマーケットの強い支
持を得ている。もちろん、ワールドも歴史のある製造卸事業の重要性は十分に認識してお
り、1997 年以降、段階的に事業構造の見直しを進めている。
その基本方針は、第1に、利益貢献度の低いブランドは存続させないこと、第2に、利
益貢献度の低い取引先専門店との取引は継続しないこと、第3に、公平で透明性の高い取
引条件を設定し直すこと、である。第3の取引条件については、1999 年から、取引数量に
応じたインセンティブの導入と現金取引優遇を盛り込んだ新システムの下での「完全買い
取り制」を徹底している。
展示会発注(現在はシーズン4ヵ月前)の従来方式に加え、シーズン中の売れ筋商品を
FAXで発注できるシステムも実験的に稼動させている。その結果、ホールセールブラン
ドの収益性は 1998 年以降、目に見えて改善されつつある。これをワールドの評価指標で
あるCFROA(キャッシュフロー資産収益率)で見ると、1988 年 3 月期 29.2%、1999
年 3 月期 42.9%、2000 年 3 月期 64.9%、2001 年 3 月期 80.6%と、右肩上がりに進展し
ている。店舗投資や在庫リスクを伴うリテールブランドと比較して、改善後のホールセー
ルブランドのCFROAは高い。2001 年度3月期の小売ビジネス全体のCFROAは
40.1%、稼ぎ頭の「オゾック」でも 59.2%である。
しかし、寺井社長が強調しているように、
「生産系のロス・無駄を無くして利益に変え、
その利益を顧客に還元する」という考え方に立てば、専門店チャネルではSPA事業モデ
ルほどの効率化は難しい。そこで、基幹ブランドの「コルディア」を手始めに、ワールド
の直営店を立ち上げて販売チャネルを強化する
「SPA化」
にもチャレンジし始めている。
また、2001 年春には、40 代から 50 代の女性をターゲットとする新ブランド「エアパペル」
「フラクサス」の開発を軸に、大丸百貨店とのコラボレーション事業も立ち上げた。
協働を念頭に置いた取引条件の整備をベースとして、独立資本の小売事業者とのコラボ
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レーションを模索する一方で、棲み分けを意識しないワールドの直営店舗展開も進めてい
く。ワールドのホールセールブランドを、編集型大型世代店舗「オペーク」をはじめとす
るストアブランド店舗や商品ブランド別の直営店でも積極的に販売していく姿勢は、いっ
そう鮮明になりつつある。
6.ブランドマネジメントの手法
<ブランド・ポートフォリオ・マネジメント>
2001 年 3 月期時点でワールドが管理するブランド数は、ホールセールブランドが 13、
リテールブランドが 24、ストアブランドが 9 で、合計 46 ブランドである。こうしたブラ
ンド展開の基本的な考え方について、ワールドの“annual report 2001”では次のように
説明されている。
「日本における顧客層のファッションの好みは、ここ数年、急速に多様化
している。そのため、ワールドは、単一のブランドに集中するよりも、異なる年齢層の多
様なテイストに対応し、それぞれのニーズにぴったり照準を合わせたレスポンスの手段と
して多様なブランドを提供する」のだということである。
この考え方をブランドマネジメントに適用すると、特定の年齢層のテイストに対応し、
その特定のニーズに照準を合わせて立ち上げられたブランドは、対象とするターゲットに
今現在どの程度支持されているかによって、評価されるということになる。この評価の方
法は、ワールド独自のブランド・ポートフォリオ・マネジメントとして定式化されている。
収益性(本社間接費を賦課する前の営業所得)
Ⅲ
Ⅱ
効率化追求
拡張
ステージ
ステージ
成長性(売上伸び率)
Ⅳ
Ⅰ
スクラップ&ビルド
開発
ステージ
ステージ
縦軸の収益性指標「本社間接費を賦課する前の営業所得(Operating income before
corporate overhead)
」は、特定ブランドの粗利益から、そのブランド固有の経費、投資に
対する利子(内部利子率で算出)
、及び出店店舗のリニューアルや閉鎖に伴う売上ロス・資
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産償却費用を差し引いて算出した営業所得のことである。この指標は、本社間接費(マー
ケティング費用等)は差し引かないで収益性を見ることを意味している。また横軸の成長
性指標「売上伸び率」は、前年対比の売上成長率のことである。両軸が交差する点は、収
益性指標ゼロ、成長性指標ゼロのポイントである。各ブランドが、このポートフォリオチ
ャートのどの象限に位置するかによって、マネジメントのあり方は異なる。
「Ⅰ.開発ステージ」に位置するブランドは、現在開発中の新ブランドであり、収益に
は貢献しないが、売上の成長率は高い。新ブランドの立ち上げは慎重に行われる。まず、
首都圏の厳選されたロケーションで5店舗だけ直営店をオープンさせ、顧客の支持が得ら
れるかどうかを評価する。この段階における評価指標は、売上の伸びである。この評価期
間に、提案の仮説・検証を繰り返し、顧客の好みに合った魅力的なブランドのアイデンテ
ィティを構築する。新ブランドを、この開発ステージで見極める期間は 1〜2 年である。
「Ⅱ.拡張ステージ」に位置するブランドは、収益性が伸びており、成長率も高いブラ
ンドである。この段階では、ブランドアイデンティティも確立されており、新規出店によ
って収益と成長の両方を最大限に伸ばすように努める。これまでの経験では、新ブランド
は立ち上げからおよそ 2〜3 年でこの拡張ステージに移行し、30 店舗で約 30 億円の売上
を達成するまでに成長する。前段の開発ステージにある新ブランドを除いて、ワールドの
大部分のリテールブランドがこの拡張ステージに位置している。
「Ⅲ.効率化追求ステージ」に位置するブランドは、収益性は依然として高いが成長率
は鈍化しているブランドであり、運営の効率化を高めることがマネジメントの主要なテー
マとなる。新規出店の投資やマーケティング費用を抑え、最大の収益が得られるように努
める。主要なホールセールブランドがこの効率化追求ステージに位置している。
「Ⅳ.スクラップ&ビルドステージ」に位置するブランドは、売上が落ちている収益性
の低いブランドであり、ブランド再構築、あるいはブランド打ち切りのどちらの手を打つ
かが早急に検討される。現時点では、管理対象にこの種のブランドは含まれていない。
また、ワールドでは、新ブランド開発への投資をコントロールするため、ブランド単位
の投資限界を定めたマネジメントルールを決めている。
1)1ブランド当たりの営業損失は、年間 3 億円を超えないこと。
2)1ブランド当たりの累積営業損失は、10 億円を超えないこと。
現在、ストアブランドを含めたSPA事業モデルの積極的な開発投資を行う必要性が高
まっており、仮説・検証型の実験的な店舗展開とならざるを得ない面もある中で、過剰投
資を防ぐためのマネジメントルールの厳格な適用が重視されている。
<ブランドマネジメント組織>
ワールドのブランドマネジメントは、階層化されたブランドマネジャー制によって遂行
されている。ブランド戦略に関する最高位の意思決定は、CEO、COOを中心としたマ
ネジメント層で行われるが、ブランドポートフォリオによる全社的なマネジメントとブラ
ンドマーケティングは、COO直轄の「事業推進統括部」を中心にコントロールされてい
る。前にも述べたように、ワールドでは、マーケティングとマーチャンダイジングの担当
部局を明確に区分しており、各事業部ではオペレーションレベルのマーチャンダイジング
に専念することになっている。
最高位の統括ブランドマネジャーはCOOが担い、
「事業推
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進統括部」の各マーケティング担当者は、全ブランドに目配りするブランドマネジャーの
役割を担っている。
COOの下には、
単一あるいは複数のブランドを束ねた 11 事業部が設けられているが、
各事業部が管理するブランド単位にブランドマネジャーが置かれている。さらに、各ブラ
ンドマネジャーを管理統括する事業部長も、管理対象ブランドのマネジメントの責任者と
して位置づけられている。2001 年 10 月 1 日時点の事業部は、次のとおりである(機構図
については資料3参照)
。
SPA第Ⅰ・第Ⅱ世代事業部
―第Ⅰ世代=フラクサス/エアバベル/エッシュ/スマートピンク
―第Ⅱ世代=ルイシャンタン/ジオスポーツ
―リフレクト
SPAアンタイトル事業部
―アンタイトル
―シンクロクッシングズ
SPAアダバット事業部
SPA第Ⅱ・第Ⅲ世代事業部
―第Ⅱ・Ⅲ世代=エクリプス/キョウイチフジタ/スーナウーナ/サンクチュエ/
ビーニー
―ヴォイスメール
―インディヴィ
―クードシャンス
SPAメンズ事業部
―ドルチェ
―タケオキクチ
―TKタケオキクチ
―ボイコット
SPAオゾック事業部
バイイングSPA事業部
―アクアガール
―ドレステリア
―アナトリエ
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FCMS事業部(ファッション・クロス・マーチャンダイジング・ストア事業部)
―商品開発
―MD/直営店舗=インデックス/イッツデモ/ジ・エンポリアム/ネクストドア
FCOM事業部(ファッション・コモディティ事業部)
―ハッシュアッシュ/三寒四温
ストア事業部
―MD
―直営店舗
専門店事業部
―コルディア・リニア
―第Ⅰ・第Ⅱ世代商品開発=ビルダジュール/ウナパルテ/ジオ/ブロンシェ/
ステェッソ/レイドローク/サバーセ/
ウェルビーイング
―MD
組織レベルで見ると、SPA事業モデルがブランド展開のプラットフォームになってい
ることがいっそう鮮明に読み取れる。SPA事業モデルと直接関係しないのは、専門店事
業部だけである。但し、前にも述べたように、コルディア・リニアも直営店の展開による
SPA事業化が進められている。
SPA事業モデルは、各事業部のブランド展開と相即的に開発が進められており、その
巧拙が各ブランドの評価を直接左右する側面がある。つまり、SPA事業モデルに組み込
まれているマーチャンダイジングの仕組みがブランドの売上を左右することになり、その
点を強調すると、ブランド力はマーチャンダイジングの精度とオペレーションに大きく支
えられていることになる。SPA事業モデルの下で、個別的なブランドマネジメントの焦
点は、いっそうマーチャンダイジング寄りになっている。
記述内容は、藤田健・石井淳蔵(2000)
「ワールドにおける生産と販売の革新」
,国民経済雑誌第 182 巻
第1号,神戸大学経済経営学会,pp.49-67,に基づいている。
2 この節の寺井秀蔵社長の発言は、社団法人日本アパレル産業協会発行の機関誌「JAIC」第 75 号(2000
年 2 月)掲載、
「トップ・インタビュー―ワールド 寺井社長に聞く」を参照している。その原稿は、
http://www.jaic.or.jp/ から取得した。
3 記述内容は、藤田健・石井淳蔵(2000)
「ワールドにおける生産と販売の革新」
,国民経済雑誌第 182 巻
第1号,神戸大学経済経営学会,pp.49-67,に基づいている。
4 WORLD CO.,LTD.“ANNUAL REPORT 2001”
,p.21 の表を基に作成。
5 「ストアブランド」は、基本的にはストアそのもののブランドだが、そのストア固有の商品群を意味す
る場合もある。
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<参考資料>
WORLD CO.,LTD.“ANNUAL REPORT 2001”
。
株式会社ワールド,
[ワールドアイ]VOL.14:第 43 期中間事業報告書
(2000 年 12 月発行)
。
株式会社ワールド,[ワールドアイ]VOL.15:第 43 期事業報告書(2001 年 7 月発行)
。
社団法人日本アパレル産業協会,機関誌「JAIC」第 75 号(2000 年 2 月)
,
「トップ・イ
ンタビュー―ワールド 寺井社長に聞く」
。
<参考文献>
藤田健・石井淳蔵(2000)
「ワールドにおける生産と販売の革新」
,国民経済雑誌第 182
巻第1号,神戸大学経済経営学会,pp.49-67。
<インタビュー>
株式会社ワールド人事統括部人材開発課:高萩幸男氏,
2001 年 11 月 22 日,9:30→11:30,
ワールド本社:神戸市中央区港島中町 6 丁目 8 番 1。
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