B12 - 日本感性工学会

第16回 日本感性工学会大会
2014. 9. 4 - 6 @ 中央大学
B12
研究論文:論文
スチールロッカー扉閉め音の音質改善に関する研究(第 2 報)
感性量推定式を用いた制振材最適貼付位置の検討
佐藤 真*,大森信行*,待井 隆**,冨永隆一**,寺門正顕***
*
長野県工業技術総合センター材料技術部門,**光葉スチール株式会社,***清泉女学院大学
Improvement of the Door Closing Sound for Steel Locker (2nd Report)
Optimal Mounting Position of the Damping Material for Improving the Sound
Makoto SATO*, Nobuyuki OMORI*, Takashi MACHII**, Ryuichi TOMINAGA**and Masaaki TERAKADO***
*
Nagano Prefecture General Industrial Technology Center, 1-18-1 wakasato, nagano-shi, Nagano 380-0928, Japan
**
Koyo Steel Co.,Ltd., 4601-1 yawata, chikuma-shi, Nagano 387-0023, Japan
***
Seisen Jogakuin College, 2-120-8 ueno, nagano-shi, Nagano 381-0085, Japan
Abstract: The purpose of this study is to improve door closing sound for the steel locker. In this paper, we examined the optimal
mounting position of the damping material on the door for improving the sound. First, we determined several patterns of the
damping material mounting position on the door by design of experiment and we recorded these doors closing sound. The
presentation sounds for hearing test were selected from these recorded sounds. The hearing tests were performed by using the
semantic differential method and the factor analysis. Then we obtained the estimation formula of factor scores by the loudness.
Finally, we made graphs of factorial effects by design of experiment. As a result, the damping material which mounted to the
center of the door effectively improved the sound.
Keywords: Steel locker, Door closing noise, Sound quality, Factor analysis, Damping Material
1.はじめに
らかにするとともに感覚量に直結する部分に必要な対策を施
これまで製品発生音への対策は,とにかく音を抑えること
すことが有効であると筆者らは考えている.
だけに目が向けられており,
「音=悪い」という印象が強くも
そこで,本研究では扉閉め音を改善するため,必要な感覚
たれていた.しかし,近年では音を人にとって心地よくする
量と物理量との関係性を明らかにすることで,効率的な対策
快音化という考え方に次第に目が向けられるようになってき
方法を見出すとともに,上流設計に感性量を反映させること
ている.その背景には,必要以上の静音化はコスト高につな
を目的としている.前回の報告では[2],SD(Semantic Diffe-
がることや,それによって製品の作動感,存在感などの特徴
rential)法による被験者実験を行い[3],因子分析結果から扉
が失われることで付加価値がなくなってしまうことなどが挙
閉め音の感覚量を取得した.さらにその要因となる物理量と
げられる.競合他社の製品との差別化をいかに図るかが問わ
の関係性について検討を行った.その結果,高音域(2kHz 以
れている中で,製品の特徴は付加価値となりうる重要な要素
上)への対策が有効であることが判った.
であり,発生音もその 1 つに含まれる.実際,ミシン,洗濯
本報告では,扉閉め音の評価特性を前回よりさらに明確化
機,カメラ,ゴルフクラブといった多くの製品で付加価値向
させるため,提示音のサンプル数を増やして 2 回の被験者実
上を図るためのサウンドデザインが行われている[1].
験行い,因子分析結果を比較した.次に,快音化に有効な制
本研究では,これまでの研究では取り扱われてこなかった
振材貼付位置について検討を行った.2 回目の結果から得た
スチールロッカーを対象とした.この製品は学校等の多くの
因子得点(感性量)と,提示音を音質評価して得たラウドネ
人が集まる場所で多く使われ,その扉閉め音は時として使用
ス(物理量)から[4],感性量を推定する重回帰式を導出した.
者や周辺の室にいる者に不快感を生み出し,快適な音環境を
これを用いて感性量を推定し,実験計画法に基づいた要因効
乱す原因となっている.製造メーカとしても音環境に配慮し
果図を作成することで,快音化に有効な貼付位置を特定した.
た製品を市場競争力の高い価格で販売したいと考えているが,
以下にその過程と結果について報告する.
音環境を優先すると逆にコストが増大してしまうという問題
を抱えている.この問題を低コストで解決するには,ただや
2.実験方法
みくもに対策するのではなく,人の音に対する感覚特性を明
2.1.被験者実験
1
型:大扉 550 ㎜×270 ㎜)を使用した.扉部分から発生した音
のみを評価の対象とするため,図 1 のスチールロッカーを加
工して扉の枠をコンクリートに埋め込み,そこに扉を取り付
けた.
2.3.音の収録
扉閉め音の収録を図 2 のように全無響室(7m×5.6m×高さ
5.5m)内で行った.ダミーヘッド(高研製,SAMRAI)の外
耳道入口からスチールロッカーの扉までの距離を 0.4m とし,
外耳道入口に装着したバイノーラルマイク(Bruel & Kjaer 製,
Type3050-A-060)にて扉閉め音を収録した.なお,無響室内
図1
の等価騒音レベル(10sec)を騒音計(RION 製,N L-6)で測
供試品(光葉スチール製 ST 型)
ったところ 25dB(A)以下であった.
コンクリート
また,扉閉め速度については,取手部の速度をレーザ変位
ダミーヘッド
枠
計(松下電工製,LM100)にて測定し,閉め速度が指定の条
件(低速: 50mm/s,中速:70mm/s,高速:90mm/s)になる
扉
よう,筆者のうち 1 名が扉閉め動作を行い,音の収録を行っ
た.
2.4.提示音の作成
バイノーラルマイク
1 回目の被験者実験に用いた音源は全 27 音である.扉閉め
40cm
速度や扉の大きさによって音の周波数特性が変わることから,
3 種類の扉を 3 種類の速度で閉めた音の 9 音を用いた.さら
に,音の評価に対する周波数成分の影響を調べるため,3 種
類の扉を中速で閉めた音に図 3 のような 6 種類の周波数フィ
図2
実験の様子
ルタを適用した音の 18 音を用いた.これらの音については,
最大騒音レベル(A 特性)がすべて同じになるようレベル調
#4
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
200Hz frequency[Hz]
LPF(低域通過)
200
2000
frequency[Hz]
#7
#5
#5
#8
#8
#5
#8
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
200-2kHz
BPF(帯域通過)
frequency[Hz]
#9
#9
#6
#6
#6
整した.
#7
#7
#4
#4
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
frequency[Hz]
2kHz LPF(低域通過)
図3
#9
2 回目の被験者実験に用いた音源は全 17 音である.小扉に
図 4 の 32 パターンで制振材を貼付し,それを中速で閉めた音
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
2kHz HPF
(高域通過)
frequency[Hz]
200
2000
frequency[Hz]
を録音した.その中から特徴的な音 13 音(No.1,2,4,9,
10,14,15,17,18,22,30,32)とエリア d の音 1 音,さ
らに 1 回目の音源の中から 3 種類の扉(大扉,中扉,小扉)
を中速で閉めた 3 音,小扉を中速で閉めた音に 2kHzLPF を適
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
200-2kHz
BEF(帯域除去)
frequency[Hz]
用した 1 音を加えた.
2.5.制振材の貼付位置
制振材(埼玉ゴム工業製,SR-1532N)には厚さ 2 ㎜のアス
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
frequency[Hz]
200
2000
frequency[Hz]
ファルト系制振材を使用した.小扉への制振材の貼付位置は
図 4 に示すように a~f の 6 箇所のエリアについて検討した.
エリア毎の主効果および,エリア間の交互作用を考慮し,実
200Hz HPF(高域通過)
験計画法に基づいて L32 直交表に割り付けを行い,32 種類の
提示音作成用の周波数フィルタ
貼付パターンを決定した.なお,制振材は扉の裏面から貼付
本報告では被験者実験を 2 回に分けて行った.1 回目では,
した.制振材の大きさは No.17 のように 1 エリアのパターン
扉の大きさ,扉閉め速度,音の周波数特性の 3 つの物理的な
であれば縦 80 ㎜×横 75 ㎜,No.16 のように隣接するパターン
パラメータが異なる音について実験を行った.2 回目では,
では,エリア間の境界部分はカットせず,つながった状態の
制振材を貼付した扉閉め音について実験を行った.
ものを貼付した.
2.2.供試品
2.6.音の再生
実験では 3 種類のスチールロッカーの扉(光葉スチール製,
事前に収録時の騒音レベルと聴取時の騒音レベルが同じに
ST 型:小扉 258.6 ㎜×242 ㎜,Y 型:中扉 387 ㎜×276 ㎜,LT
なるよう,再生機器のレベル調整を行った.実験では,提示
2
a
be c
d
d
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
2
5
0
0
0
0
9
0
0
0
0
0
00
1
1
1
1
1
1
6
0
1
1
0
1
0
0
0
0
0
0
4
1
10
0
1
11
0
0
1
7
1
3
0
0
4
1
1
0
1
8
0
0
0
1
1
0
0
1
0
010
1
0
11
01
0
12
1
0
1
0
1
0
1
0
0
1
1
0
0
1
00
1
0
0
11
0
1
1
0
0
00
1
1
14
1
1
15
1
1
16
1
0
0
0
0
00
1
1
1
00
1
1
1
13
11
1
1
15
1
11
0
170
0
1
19
10
00
20
1
0
0
0
1
0
1
1
1
1
0
141
1
0
018
01
0
0
0
1
1
1
1
1
1
8
0
0
1
1
1
1
1
0
12
1
0
0
1
1
0
1
1
1
0
23
190
10
0
24
0 20 1
0
0
0
00
0
0
1
00
11
0
1
1
10
00
11
1
1
0
21
00
0
0
10
1
1
29
1
1
1
0
1
0
25
1
0
0
0
1
1
0
0
220
10
0
01
1
30
1
1
0
0
1
1
1
0
1
1
0
1
0
28
1
0
1
0
1
1
きれい
3.
滑らかな
1
2
3
4
5
粗 い
4.
静かな
1
2
3
4
5
うるさい
5.
響 く
1
2
3
4
5
響かない
6.
繊細な
1
2
3
4
5
雑 な
7.
安っぽい
1
2
3
4
5
高級な
8. どっしりとした
1
2
3
4
5
軽やかな
9.
聴きやすい
1
2
3
4
5
耳障りな
10.
厚みのある
1
2
3
4
5
うすっぺらな
11.
不安定
1
2
3
4
5
バランスが良い
12.
音程が低い
1
2
3
4
5
音程が高い
13.
乾いた
1
2
3
4
5
潤いのある
14.
大胆な
1
2
3
4
5
繊細な
15.
細 い
1
2
3
4
5
太 い
16.
不快な
1
2
3
4
5
心地よい
17.
悪 い
1
2
3
4
5
良 い
18.
迫力がある
1
2
3
4
5
物足りない
19.
上品な
1
2
3
4
5
下品な
20.
暗 い
1
2
3
4
5
明るい
21.
好 き
1
2
3
4
5
嫌 い
図5
11
1 24 1
0
1
1
1
0
01
1
1
1
31
1
1
32
1
0
1
ランダムな順番で再生した.なお,実験室内の等価騒音レベ
2.7.被験者
スチールロッカーは幅広い世代で使用されることを踏まえ
て被験者を選び実験を行った.1 回目の被験者実験での年齢
性),50 代 1 名(男性)
,60 代 1 名(男性)の合計 15 名,2
回目の被験者実験での年齢構成は 20 代 7 名(女性),30 代 4
名(男性),40 代 3 名(男性),50 代 1 名(男性)の合計 15
1
1
1
2.8.評価シート
被験者実験には図 5 の SD 法による評価シートを用いた.
評価シートの形容詞対には 21 項目を用いた.これは事前に,
1
1
先行研究等[5-10]で用いられている形容詞対を参考に,40 項
0
目の形容詞対を用いて予備実験を行い因子分析した結果,一
0
28
1
0
0
1
1
1
つの因子の負荷量が高く,他因子の負荷量が低かった形容詞
対をこの中から抽出したものである.評価尺度は 5 段階とし
た.
1
1
1
評価シート
た,提示音の再生は,再生順による影響を考慮し被験者毎に
0
00
31
1
5
名である.
1
230
1
30
1
1
1
1
1
29
1
26 1
0
27 1
(b) 貼付パターン
0
1
0
1
0
1
4
1
27
1
3
構成は 20 代 5 名(女性)
,30 代 2 名(男性),40 代 6 名(男
0
1
2
1
1
1
26
1
0
00
1
小さい
汚 い
(A)以下であった.
18
22
0
5
2.
0
1
1
4
ル(10sec)を騒音計(RION 製,NL-6)で測ったところ 30dB
0
25
3
1
16
1
1
0
1
2
被験者に評価シートの質問項目について答えてもらった.ま
210
1
かなり
1
0
17
1
やや
大きい
1
1
13
1
1
どちらとも
いえない
音をヘッドフォン(SENNHEISER 製,HD580)から再生し,
1
1
0
1
0
10
1
やや
1.
0
9
0
0
0
0
0
0
0
0
0
7
1
0
0
3
0
6
1
1
0
0
2
0
0
f
00
0
0
0
0
0
5
e
f
(a) 貼付エリア
0
0
0
1
c
b
a
かなり
1
0
2.9.ラウドネス値の計算
32
1
1
1
1
1
0
次節で用いている「ラウドネス」は,人の音の大きさ感じ
方を定量的に表す音質評価指標の一種である[4].定常音の場
合「周波数マスキング」が考慮された ISO 規格のラウドネス
値が用いられているが,今回の扉閉め音は過渡音であるため
「周波数マスキング」と「時間マスキング」の両方が考慮さ
No.17
No.16
れたラウドネス値「Time-varying Loudness」を用いることとし
(c) 貼付例
図 4 制振材貼付パターン
た.このラウドネス値を Bruel & Kjaer 社のソフトウェア(Au-
3
表1
tomotive Sound Quality BZ-6047)にて計算した.ラウドネスは
臨界帯域毎に時間波形で出力され(臨界帯域:人の聴覚にお
17.
16.
21.
9.
19.
11.
12.
20.
15.
8.
10.
14.
18.
13.
6.
2.
3.
7.
1.
4.
5.
けるフィルタの周波数帯域.50~13.5kHz の周波数範囲(中心
周波数)を 24 の帯域に分割したもの)
,後節では提示音につ
いて計算したラウドネス時間波形のピーク値(以下ラウドネ
スピーク値)を用いている.
2.10.重回帰式に用いた説明変数
図 6 のように周波数帯域を 20‐63.2‐200‐632‐2k‐6k‐
20kHz の 6 帯域に分割した.この帯域内に含まれる臨界帯域
のラウドネスピーク値の平均(以下ラウドネスピーク平均値)
を重回帰式の説明変数として用いた.図中のプロット付近の
太線がラウドネスピーク平均値である。前回の報告では帯域
を 3 つに分割していたが[2],その後 3 帯域では不十分と判断
表2
し,今回は 3 帯域をさらに対数的に 2 分割する形で周波数帯
域を 6 分割としている.
第1因子
第2因子
第3因子
第4因子
2.11.信頼性の高い数式モデルの探索
因子得点を目的変数,帯域毎のラウドネスピーク平均値を
0.9
+好き
説明変数として重回帰分析を行った.重回帰分析ではパラメ
0.7
**
0.1
まず,オーバーフィッティングを回避するため,AIC(赤池
-0.1
情報量基準)値を用いた.6 つの説明変数がすべて使われた
-0.3
9
***
+好き
0.7
0.1
-0.1
-0.3
200
2000
周波数 [Hz]
図6
20000
***:p<.001
+静か
***
**:p<.01
+静か
+雑な ***:p<.001
*:p<.05
+軽い
**
0.3
*
0.1
なし
なし
-0.1
あり
あり
-0.3
-0.7
-嫌い
-嫌い
-0.9
+好き
-重い
第1因子
-うるさい
-美的な
-うるさい
-美的な
第2因子
第3因子
第4因子
*:p<.05
+雑な
+軽い
0.9
**
-重い
**:p<.01 +静か
***:p<.001
中域(200~2kHz)の影響
第2因子
第3因子
第4因子
第1因子
***
+好き
0.7
***
**:p<.01
***:p<.001
+静か
+雑な
*:p<.05
+軽い
***
0.5
因子得点 平均値
0.3
-0.3
0.3
なし
なし
-0.1
あり
あり
-0.3
-嫌い-0.9
-0.9
***
-嫌い
-美的な
第2因子
-うるさい
-美的な
-重い
第3因子
*:p<.05
-うるさい
**:p<.01
第4因子
***:p<.001
第2因子
第3因子
第4因子
高域(2kHz~)の影響
図7
4
-重い
第1因子
第1因子
臨界帯域毎のラウドネスピーク値
**
*
0.1
-0.5
-0.7
20
**:p<.01
**
-0.7
5
*:p<.05
+雑な
-0.5
-0.5
7
-うるさい
-美的な
0.5
因子得点 平均値
因子得点 平均値
因子得点 平均値
ラウドネスピーク値 [sone]
11
-重い
-美的な
第2因子
第3因子 -うるさい
第4因子
低域(~200Hz)の影響
第2因子
第3因子
第4因子
0.9
各 帯 域0.1
におけ
るラウドネス
-0.1
ピーク平均値
13
-重い
第1因子
+軽い
**
0.5
15
-嫌い
-0.9
+好き
0.9
問項目の因子負荷量のうち最大値を太字で示した。因子数に
-0.9
17
あり
あり
第1因子
(最尤法,プロマックス回転)した結果を表 1 に示す.各質
-0.7
19
なし
なし
-0.3
-嫌い
-0.5
1 回目の被験者実験の評価シートの素点を用いて因子分析
21
*
-0.1
0.3
0.7
ついては解釈の可能性[3]を考慮して 4 因子とした.因子負荷
*
0.1
大係数)値を計算し,多重共線性が高い VIF>10 の説明変数を
3.1.被験者実験の因子分析結果
***
***
-0.7
0.5
3.結果と考察
***+静か
+雑な
-0.5
した.最後に多重共線性の問題を回避するため VIF(分散拡
除外した.
+軽い
0.3
数式モデルから説明変数を一つ一つ外していき,その都度数
-0.5
式モデルの AIC 値を算出してこれが最小になる数式モデルを
-0.7
選択した.次に,算出された偏回帰係数が意味のあるものか
0.9
-0.9
を判断するため有意差検定をし,有意でない説明変数を除外
0.7
+静か
+雑な
**
0.5
因子得点 平均値
因子得点 平均値
回避するために説明変数の絞込みを行った[11].
***
+好き
0.7
題が発生し信頼性が低い数式モデルとなってしまう.これを
0.3
因子間相関(1 回目)
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子
1.00
-0.50
-0.78
0.18
-0.50
1.00
0.45
0.30
-0.78
0.45
1.00
-0.07
0.18
0.3
-0.07
1.00
+軽い
0.9
ータが多すぎるとオーバーフィッティングや多重共線性の問
0.5
因子分析結果(1 回目)
質問項目
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子
悪い‐良い
1.02
0.06
0.06
-0.04
不快な‐心地よい
0.93
-0.06
0.11
0.08
好き‐嫌い
-0.92
0.03
-0.04
0.08
聴きやすい‐耳障りな
-0.68
0.17
0.00
-0.14
上品な‐下品な
-0.62
0.02
0.25
0.04
不安定‐バランスが良い
0.60
0.03
-0.15
-0.06
音程が低い‐音程が高い
-0.05
0.93
-0.10
-0.12
暗い‐明るい
0.20
0.87
-0.12
-0.22
細い‐太い
0.11 - 0 . 8 1
0.03
-0.14
どっしりとした‐軽やかな -0.10
0.8
-0.03
0.11
厚みのある‐うすっぺらな -0.06
0.73
0.18
0.07
大胆な‐繊細な
0.27
0.47
-0.12
0.22
迫力がある‐物足りない
0.01
0.38
0.14
0.33
乾いた‐潤いのある
0.27 - 0 . 3 3
-0.23
-0.03
繊細な-雑な
-0.03
-0.18
0.88
-0.07
汚い-きれい
-0.01
0.09 - 0 . 8 0
0.16
滑らかな-粗い
-0.04
0.13
0.67
-0.16
安っぽい‐高級な
0.19
-0.21 - 0 . 5 9
-0.06
大きい-小さい
-0.07
0.11
-0.30
0.67
静かな‐うるさい
-0.11
0.14
0.41 - 0 . 5 6
響く‐響かない
0.05
-0.12
0.20
0.42
*:p<.05
**:p<.01
***:p<.001
周波数帯域の因子得点への影響
質問項目
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子
悪い‐良い
0.99
0.03
0.02
0.14
不快な‐心地よい
0.92
0.04
0.15
0.13
好き‐嫌い
-0.89
-0.05
-0.03
-0.08
不安定‐バランスが良い
0.71
-0.06
0.09
-0.09
上品な‐下品な
-0.67
0.01
0.05
0.25
聴きやすい‐耳障りな
-0.66
0.01
-0.33
0.04
安っぽい‐高級な
0.51
-0.25
-0.01
-0.37
どっしりとした‐軽やかな 0.09
0.92
0.12
0.12
厚みのある‐うすっぺらな -0.11
0.88
0.18
0.06
音程が低い‐音程が高い
0.00
0.70
-0.33
-0.10
細い‐太い
0.10 - 0 . 6 4
-0.10
0.10
暗い‐明るい
0.34
0.53
-0.41
-0.05
大胆な‐繊細な
0.39
0.42
0.07
-0.04
乾いた‐潤いのある
0.09
-0.4
0.18
-0.08
大きい-小さい
0.20
0.14
0.71
-0.09
響く‐響かない
0.15
-0.13
0.66
0.16
静かな‐うるさい
-0.33
-0.01 - 0 . 6 3
0.20
迫力がある‐物足りない
-0.27
0.51
0.54
-0.14
繊細な-雑な
-0.29
0.05
-0.12
0.66
滑らかな-粗い
-0.22
0.00
-0.06
0.62
汚い-きれい
0.43
0.03
-0.03 - 0 . 5 2
第1因子
第2因子
第3因子
第4因子
a
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
-0.05
t値
7.22
-5.53
-6.59
2.66
-0.144***
-0.184
***
あ
L2
り
な
L1
し
あ
L2
り
e
b なし
a あり
b あり
あり
L2
f
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
-0.05
目的変数:y … 因子得点(感性量の推定値)
)
説明変数:x1 … 20~63Hz 帯域のラウドネスピーク平均値,
x2 … 6k~20kHz 帯域のラウドネスピーク平均値
なし
L1
偏回帰係数:α,β1,β2
求められた数式
あり
L2
なし
L1
d
制振材貼付エリア
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
-0.05
y = β1 × x1 + β2 × x2 + α
あり
L2
なし
L1
b
***:p<.001
数式モデル
d
a なし
なし
L1
重回帰分析結果
***
c
な
L1
し
主効果
因子間相関(2 回目)
偏回帰係数
α
β1
β2
b
あ
L2
り
な
L1
し
制振材貼付エリア
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子
1.00
0.15
0.33
-0.57
0.15
1.00
-0.04
-0.52
0.33
-0.04
1.00
-0.18
-0.57
-0.52
-0.18
1.00
表5
あ
L2
り
な
L1
し
あ
L2
り
な
L1
し
因子得点(推定値)
表4
あ
L2
り
な
L1
し
因子得点(推定値)
17.
16.
21.
11.
19.
9.
7.
8.
10.
12.
15.
20.
14.
13.
1.
5.
4.
18.
6.
3.
2.
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
-0.05
因子分析結果(2 回目)
因子得点(推定値)
表3
f
c なし
f なし
c あり
f あり
あり
L2
なし
L1
d
d
f
y =‐0.144 ×x1‐0.184 × x2 + 2.66
あり
L2
なし
L1
あり
L2
制振材貼付エリア
交互作用
図8
量の第 1 因子は,
「良い」
「心地よい」
「好き」などに負荷量が
高く,好み因子とした.第 2 因子は「音程が高い」
「明るい」
表6
要因効果図
貼付パターンによる因子得点の上位
「軽やか」などに負荷量が高く,軽さ因子とした.第 3 因子
貼付位置 因子得点(推定)
bとc
0.444
bとd
0.264
bとe
0.235
は「雑な」「汚い」「粗い」などの負荷量が高く,粗さ因子と
した.第 4 因子は「小さい」
「静かな」
「響かない」に負荷量
が高く静けさ因子とした.4 つの因子間相関は表 2 に示した.
bとf
周波数成分の有無と因子得点の関係を図 7 に示す.周波数成
0.236
分の有無の差を確認するため,それぞれ平均値の差の検定を
行っており,*は 5%,**は 1%,***は 0.1%の有意水準で平
a
均値に差があることを示している.低域の周波数成分がある
場合は「好き」
「重い」
「美的」
「うるさい」の 4 つの感覚が有
b
c
e
f
意に強くなり,中域の周波数成分がある場合は「好き」
「静か」
d
の 2 つの感覚が有意に強くなる.また,高域の周波数成分が
ある場合は「嫌い」
「軽い」
「雑な」の 3 つの感覚が有意に強
図9
くなる傾向が判る.
0
5
最適貼付位置
0
0
0
1
0
0
2
0
0
3
0
0
4
0
0
0
0
0
0
1
1
1
0
1
1
1
0
0
1
0
5
0
0
1
6
0
0
1
7
0
0
1
8
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
-0.05
た,制振材の貼付の有無で比較すると,貼付ありの場合はな
ラウドネスピーク値 [sone]
20
15
貼付なし
し場合に比べて,
1.6kHz 以上の周波数で平均約 3[sone]の減尐,
貼付ありNo.13
割合で約 15%減尐していることから,高域の周波数について
は貼らない場合の 85%程度の大きさで聞こえていると言える.
10
3.5.考察
表 1 の 1 回目の因子分析結果と表 3 の 2 回目の因子分析結
5
果を比較すると,ほぼ同じ因子構造をとっていることから,
扉閉め音の評価は,音の種類や被験者によらず同じ指標で評
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
価していると言える.
周波数 [Hz]
図 10
また,図 7 の第 1 因子の因子得点の周波数帯域の有無によ
最適貼付位置におけるラウドネスピーク値
る影響について低域,中域,高域を比較してみると特に高域
次に,2 回目の実験の因子分析結果(最尤法,プロマックス
の影響が大きく,高域がある方が「嫌い」と評価される傾向
回転)を表 3 に示す.2 回目の実験では扉に制振材を貼付した
があり,これは聴覚の周波数特性において 2kHz 付近の感度が
際の扉閉め音を提示音として用いている.1 回目の実験と同様
高いことと深く関係していると考えられる.
に各質問項目の因子負荷量のうち最大値を太字で示した。因
表 5 の重回帰分析結果では,20~63Hz の説明変数の偏回帰
子数については解釈の可能性[3]を考慮して 4 因子とした.1
係数の符号がマイナスであるので,低域が含まれるほど「嫌
回目の因子分析結果と比較すると第 3・第 4 因子の逆転,
項目 7,
い」と評価される傾向になることを示しているが,図 7 では
18 が別因子へ移動した以外は,因子構造に大きな変化は見られ
低域が含まれると「好き」と評価される傾向であり結果が一
なかった.
致していない.原因として,推定式に用いた説明変数の周波
3.2.重回帰式
数帯域の切り方に問題があった可能性が考えられる.同様に,
表 5 に 6 つの周波数帯域のラウドネスピーク平均値を使っ
6k~20kHz の説明変数の偏回帰係数の符号はマイナスである
て感性量を推定した結果を示す.表 1,3 より快音化に関係が
ので,高域が含まれるほど「嫌い」と評価される傾向になる
ありそうな形容詞対を見ていくと,第 1 因子に多く含まれる
ことを示しており図 7 の高域の結果と一致するため,快音の
と考えられたため,第 1 因子の因子得点を推定する感性量と
評価(好き嫌い)に高域の周波数が強く影響していると考え
した.63~6kHz の周波数帯域の説明変数は,数式モデルの探
られる.
索過程の中で推定式から除外された.この推定式を元に,制
中央付近への制振材の貼付によって,第 1 因子の因子得点
振材を貼付した 32 パターンの扉閉め音について第 1 因子の因
が良くなった要因には,扉閉め動作で発生する曲げ 1 次振動
子得点の推定を行った.
モード,その弾性変形によって内部に蓄えられるひずみエネ
3.3.最適貼付位置の推定
ルギが大きく関わっていると考えられる.扉閉め動作を行う
重回帰式から算出した因子得点の推定値をデータとして用
と,振動が発生する.この振動における変位によって扉内部
い,実験計画法による図 8 の要因効果図を作成した.なお,
にひずみエネルギが蓄積され,またそれが解放され,また逆
分散分析の結果,有意水準が 20%より大きく有意でない項目
方向に変形するといったことが繰り返されることで振動が持
については誤差項として扱った.また,この線形モデル式よ
続する.扉閉め時には中央を腹とした,変形量が大きな曲げ
り貼付パターンによる第 1 因子の因子得点(推定値)を算出
1 次振動が発生するため,中央部に大きなひずみエネルギが
し,因子得点が上位である 4 つの貼付パターンを示したのが
蓄積される.制振材をひずみエネルギが発生している場所に
表 6 である.これらの結果よりエリア b とエリア c への制振
貼付ことで,ひずみエネルギが熱エネルギに変換され,振動
材の貼付が最も有効であった.制振材が 1 箇所の場合では,
を持続させるためのエネルギが消費される.したがって,大
要因効果図の主効果からも明らかなように,エリア b が有効
きなひずみエネルギが発生する扉中央に貼付したことで振動
であることが判った.
や音がより速やかに減尐したため,結果として第 1 因子の因
3.4.最適貼付位置におけるラウドネスピーク値
子得点が良くなったのではないかと考えられる.
貼付エリアの有効性を確認するため,貼付位置が最も有効
また,図 8 の最適貼付位置におけるラウドネスピーク値の
であったエリア b とエリア c の貼付パターン(No.13)と,何
結果をみると,高域の周波数で広範囲にわたりラウドネス値
も貼付していない場合(No.1)の周波数毎のラウドネスピー
の減尐が見られたことから,この位置への制振材貼付が有効
ク値結果を図 10 に示す.ラウドネス値[sone]は人が感じる音
であったと考えられる.
の大きさを表しており,数値が倍になると倍の感覚として聞
4.おわりに
こえる.グラフを見ると 5kHz を中心に大きなピークがあるこ
本研究ではスチールロッカーの扉閉め音について SD 法によ
とから,高域の周波数が大きく聞こえていることが判る.ま
る評価シートを用いた被験者実験を行い,次のことが判った.
6
(1) スチールロッカーの扉閉め音は「好み因子」
「軽さ因子」
関する研究,第 15 回日本感性工学会大会予稿集,F76,
「粗さ因子」
「静けさ因子」の 4 つの因子で評価されている
2013.
ことが判った.
[3] 松尾太加志,中村知靖:誰も教えてくれなかった因子分析,
(2) 快音化につながると考えられる「好み因子」は 2kHz
北大路書房,2008.
以上の高域周波数に特に影響を受けやすく,小さい方が好
[4] Bruel & Kaer:Automotive Sound Quality BZ-6047 UserManual,
まれる.
pp.243-295, 2007.
(3) 物理量による感性量の推定式により最適な制振材貼付
[5] 入門寛,御法川学,鈴木昭次,長松昭男,近江憲仕,伊藤
位置を探索した結果,エリア b,c への貼付が有効であるこ
孝宏:ターボ機械の音質評価に関する研究(第 1 報),
とが判った.
ターボ機械,33,2,pp.7-13,2004.
今後は,これらの結果を上流設計に生かせるような,より
[6] 入門寛,御法川学,鈴木昭次,長松昭男,磯本剛,伊藤
信頼性の高い推定式および物理量の探索と,推定式の妥当性
孝宏:ターボ機械の音質評価に関する研究(第 2 報),
の検証が今後の課題である.
ターボ機械,33,4,pp.31-37,2004.
[7] 古屋耕平,高木一晃,大久保信行,久松吾郎,戸井武司:
謝
辞
音質評価指針に基づいたゴルフクラブの構造設計,日本機
本研究を遂行するにあたり,実験にご協力をいただきまし
械学会論文集(C 編),78,790,pp.71-79,2012.
た長野県工業技術総合センター職員各位,清泉女学院大学学
[8] 中川紀壽,須之内俊也,関口泰久:自動車におけるドア閉
生各位,信州大学工学部大谷真准教授に深く感謝の意を表し
め音の音質評価(第 1 報:ドア閉め音の定量的評価手法の
ます.
検討)
,設計工学,41,3,pp.46-52,2006.
本研究に使用した機器の一部は平成 23 年度に(財)JKA の
[9] 関口泰久,須之内俊也,中川紀壽:自動車におけるドア閉
自転車等機械工業振興事業の補助により導入したものです.
め音の音質評価(第 2 報:ドア閉め音の音質目標設定法の
検討)
,設計工学,41,6,pp.47-51,2006.
参考文献
[10] 関口泰久,須之内俊也,中川紀壽:自動車におけるドア
[1] 加川幸雄,戸井武司,安藤英一,堤一男:快音のための
閉め音の音質評価(第 3 報:ボディータイプ別での音質目
騒音・振動制御,丸善出版,pp.98-109,2012.
標設定法の検討)
,設計工学,42,2,pp.9-15,2007.
[2] 佐藤真,大森信行,待井隆,冨永隆一,堀内武志,小口康
[11] 緒賀郷志:R による心理・調査データ解析,東京図書,
明,寺門正顕:スチールロッカーの扉閉め音の音質改善に
pp.154-156,2012.
7