差動インタフェースのEMC設計 - TDK Product Center

TDK EMC Technology
実践編
携帯電話
差動インタフェースのEMC設計
TDK庄内株式会社 齋藤 悟
1
背景
これらのラインはFPC、もしくは細線同軸ケーブルで配線され
昨今の携帯電話は、全部入りケイタイと言われるように多様化が
ますが、長いがゆえにノイズを放射するアンテナとなり、周辺回路
進みさまざまな機能が小さな筐体の中に収められています。デジタ
おもにRF回路へ悪影響を与える要因となっています。本来、差動
ルカメラ、ワンセグ、ミュージックプレーヤ、電子マネー、最近で
伝送方式はノイズが少ないと言われていますが、実際には信号間ス
はフルキーボードを備え、PCのように使うことができる端末まで
キューや他回路のノイズが信号ラインに載ることで自家中毒を引き
登場しています。また、液晶画面も大型、高解像度化が進み信号伝
起こします。
送の高速化が必要となり、シングルエンド伝送から差動伝送が採用
され始めています。そこでこれまでのシングルエンド伝送のノイズ
■ ノイズ対策のポイント
対策が使えなくなっています。本章では、携帯電話内での差動伝送
自家中毒を防ぐにはアンテナとなるケーブルからの不要なノイズ
ラインのノイズ対策事例についてご紹介します。
を抑制しなければなりません。
2
1.ケーブル(伝送線路)内のインピーダンスをマッチング
携帯電話内の差動伝送ラインと対策のポイント
させる→反射によるノイズ
■ システムの基本構成と信号の流れ
2.スキューを発生させないパターン設計を行う→スキュー
差動信号が採用されているのは、図1にあるように以下3系統があ
によるコモンモードノイズの発生
ります。
3.ノイズの影響を受けにくい部品配置、
ケーブル配置を行う。
1.CPUから液晶パネルラインへ
3.に関しては端末デザイン上制約があるので1.と2.が重要と
2.CPUからカメララインへ
なってきます。
3.CPUからUSB2.0ライン
1.と2.で十分にノイズ発生を抑制しない場合は、差動信号に
適したフィルタでの対策が必要になります。
図1 信号波形品質
XGA
LCD interface
スピーカ
Parallel
液晶パネル
Serial
500Mbps
VGA
Data rate
液晶ドライバ
CCD
カメラユニット
通信用
ANT
RF回路
300Mbps
ワンセグ
ANT
200Mbps
USB2.0 Full speed
メモリ
カード
I/F
USB interface
Time
Logic回路
USB2.0 High speed
400Mbps
QVGA
100Mbps
CPU
600Mbps
USB
電源ユニット バイブ
マイク
96
■ 差動信号のノイズ対策方法
②ディファレンシャルアッテネーション(Sdd21)図3
全ての信号ラインのノイズ対策に言えることですが、信号への影
この特性は、差動信号にどのくらい影響(鈍り)を与えるかを
響を最小限にして最大限のノイズ対策効果を得なければなりませ
ん。その点で言うとコモンモードフィルタは信号に影響を与えずに
示す指標となります。
この減衰量が少なければ信号波形に対して影響が少なくなりま
す。一般的にカットオフ周波数といわれます。
コモンモードノイズのみを対策できる唯一の対策部品です。
以下にその対策事例を示します。
図3 Sdd21
0
-1
CPU→液晶コントローラ
以下に実機を使った対策事例を見てみましょう。
まず、対策に使用するコモンモードフィルタの特性を示します。
①コモンモードアッテネーション(Scc21)図2
この特性は、差動信号に載っているコモンモードノイズを除去
Attenuation(dB)
■ 液晶差動インタフェースの対策事例
する指標となります。
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
-10
この減衰量が大きければ大きい程コモンモードノイズを大きく
1
10
100
1000
Frequency(MHz)
10000
減衰させます。
次にコモンモードフィルタを入れたときの信号波形を図4に示し
図2 Scc21
ます。
Attenuation(dB)
0
フィルタの有無でクロック、データランにおいてほとんど波形に
影響を与えることなく信号伝送することが可能です。
-10
-20
-30
-40
1
10
100
1000
Frequency(MHz)
10000
図4 信号波形品質
No filter
TCM1005-900
CLK
DATA
97
次に目的とするノイズ対策効果を図5に示します。これはある携
帯電話の液晶差動インタフェースからどの程度ノイズが発生してい
るかを捕らえたデータです。
図5 信号波形品質
-20
-30
Noise level(dBm)
-40
-50
-60
-70
-80
-90
1
500
1000
1500
2000
2500
Frequency(MHz)
3
ワンセグ帯および携帯電話の通信周波数帯に差動信号の高調波ノ
最後に
イズなどが発生しており、コモンモードフィルタを搭載することで
今後も液晶画面の高解像度化、内蔵カメラの高画素化が進むにつ
大きくノイズが減衰していることがわかります。
れて差動インタフェースの採用が多くなることが予想されます。設
以下に差動インタフェースからのノイズを対策することで得られ
計時の信号、グランドおよびシールディングの最適化がまずます重
る携帯電話の受信感度改善効果を示します。
要となってくるでしょう。
図4でご覧のとおり、GSM帯のノイズをコモンモードフィルタで
それでも対策しきれない場合は、差動信号用のフィルタであるコ
抑制することで通信アンテナへのノイズ進入が減少し、数dBの受
モンモードフィルタが有効となりますのでご検討ください。
信感度改善を得ることが確認できます。
図6 携帯電話受信感度(GSM900帯)
10
No filter
With TCM1005-900-2P
Bit error rate(%)
8
6
4
2
0
-96
-98
-100 -102 -104 -106
Base station amplitude(dBm)
-108
-110
98