資料1 継続就業しやすい企業とWLB 阿部正浩 ※ この報告は、阿部正浩・児玉直美・齋藤隆志・朝井友紀子 (2015)『子育てする企業の特 徴』を元にしている。この研究は日本学術振興会「課題設定による先導的人文・社会科学研 究推進事業実社会対応プログラム(課題設定型研究テーマ)」「少子化対策に関わる政策の 検証と実践的課題の提言」の下で行われたものである。 継続就業しやすい企業とWLBに光を当てる理由 • 従業員の継続就業が高まると・・・ – (事業主)人的資本投資をしやすく、その結果として 生産性向上という果実が得られる可能性。 – (従業員)賃金上昇、雇用安定という果実が得られる 可能性。 – (顧客)高い生産性、安心して発注出来る可能性。 • WLBの推進 – 女性活躍によって、就業率が高まる一方で出生率に 負の影響を与える可能性(外部不経済)があるが、そ れを低下させる可能性。 • WLBで従業員の継続就業は高まるか? これまでの研究結果 • 均等化施策やWLB施策が出生に与える影響 – 育児休業制度が出産確率に+ • 駿河・西本(2002)、駿河・張(2003) – 託児所支援や在宅勤務制度のような高コストの施策のみ が出生に+ • 野口(2007) • 女性の就業継続と均等化施策やWLB施策等との関連 – 制度の充実は離職率を下げる/就業率を上げる • 様々な両立支援制度:川口(2007)、松繁(2008)、Yanadori and Kato(2009) • 育児休業制度: 樋口(1994)、樋口・阿部・Waldfogel(1997)、滋 野・大日(1998)、佐藤・馬(2008)、朝井(2014)、Asai(2015) • 労働時間制度: Kato and Kodama(2014) • 次世代法: 水落(2012)、朝井・佐藤 これまでの研究結果 • ただし、すべての制度が就業継続を押し上げるわけで はなく、単独では影響のないものもある – 川口(2007)、松繁(2008)、Yanadori and Kato(2009)、朝 井(2014)、Asai(2015) • 人事制度(賃金制度など)の影響は検証されていない 阿部・児玉・齋藤・朝井(2015)の研究 出産した正社員女性が継続就業しやすい企業 がどのような特徴を持つか-女性比率、女性管 理職比率などが高い企業の特徴と違うのか? どういった制度が就業継続を促進するのか? – 均等化施策やWLB施策の充実 WLB施策の導入率上昇と施策導入による効果 上昇のどちらが大きいか? – WLB制度は導入されてもなかなか使われないと言わ れているが・・・ 就業継続する女性が多い企業の比率は47.6%から72.9%に大 幅に上昇 0.400 80.0 72.9 0.350 70.0 継続就業率(%:右軸) 0.300 0.250 60.0 47.5 50.0 0.200 正社員女性比率 40.0 管理職女性比率 0.150 30.0 0.100 20.0 0.050 10.0 0.000 部長女性比率 0.0 2006 2014 注:継続就業率は、1.結婚前に自己都合で退職する、2.結婚を契機に退職する、3.結婚後、妊娠や出産より前に退職する、4.妊娠や出産を契機に退職する、5.出 産後、育児休業を利用するが、1~2年のうちに退職する、6.出産後、育児休業を利用して、その後も継続就業する、7.出産後、育児休業を利用しないで継続就業 する、8.女性社員はいない、の8つの選択肢から、企業が女性正社員の就業継続の状況として最も多いパターンとして、6又は7と回答した企業の比率。 出産・育児に関わる支援制度は充実 2014年 短時間勤務制度 フレックスタイム制度 始業・ 終業時刻の繰上げ・繰下げ 所定外労働をさせない制度 事業所内託児施設の運営 子育てサービス費用の援助措置等:ベビーシッ ター費用など 職場への復帰支援 配偶者が出産の時の男性の休暇制度 子供の看護休暇 転勤免除: 地域限定社員制度など 育児等で退職した者に対する優先的な再雇用制 度 子育て中の在宅勤務制度 2006年 0.00 出産・育児に関わる支援制度の有無 1.00 0.90 0.80 0.70 0.60 0.50 0.40 0.30 0.20 0.10 2006‐2014年では、労働時間短縮施策を採用す る企業は増加 第4因子:労働時間柔軟化 第3因子:社員自立化 第2因子:女性戦力化 第1因子:労働時間短縮 0.00 0.50 1.00 1.50 2014年 2.00 2.50 3.00 3.50 2006年 2006, 2014年各年のクロスセクションデータによる平均値。第1,第2因子は4つの施策の 合計なので0‐4、第3、第4因子は2つの施策の合計なので0‐2を取る変数。 継続就業に対して、2006年には社員自立化因子が、 2014年では労働時間短縮因子が効いている 第4因子:労働時間柔軟化 第3因子:社員自立化 ** 第2因子:女性戦力化 *** 第1因子:労働時間短縮 ‐0.20 ‐0.10 0.00 0.10 0.20 2014年 0.30 0.40 0.50 0.60 0.70 2006年 2006, 2014年各年のクロスセクションデータで、回帰分析(OLS)をした係数。被説明変数は継続就業状況、説明変数 は、第1~第4因子、組合有無、産業、規模。***, **, *は、それぞれ1, 5, 10%水準で統計的に有意なことを示す。 就業継続率の上昇のほぼ全てが係数要因 1.000 0.847 *** 0.040 0.037 *** 0.035 0.800 0.030 0.030 *** 0.027 ** 0.012 ** 0.006 0.018 * 0.024 *** 女性正社員比率 女性管理職比率 女性部長比率 0.025 0.600 0.020 0.400 0.801 *** 0.015 0.010 0.200 0.005 0.000 0.000 継続就業状況 ‐0.200 endowments coefficients interaction difference 注: Blinder‐Oaxaca分解で、2006‐2014年の変化を構造要因(施策などの平均値の変化)と係数要因 (施策を行うことに対する感応度)に分解。説明変数は、第1~第4因子、組合有無、産業、規模。 ***, **, *は、それぞれ1, 5, 10%水準で統計的に有意なことを示す。 継続就業率が上がったのは、労働時間短縮施策に 対する労働者、企業の対応の変化 0.800 0.040 0.700 0.030 0.600 0.020 0.500 (0.554 ) 0.200 女性管理職比率 女性部長比率 ‐0.020 0.000 ‐0.200 0.000 ‐0.010 0.100 ‐0.100 0.018 * 0.010 0.400 0.300 (0.015 ) 継続就業状況 ‐0.097 ** ‐0.030 ‐0.040 第1因子:労働時間短縮 第2因子:女性戦力化 第3因子:社員自立化 第4因子:労働時間柔軟化 注: Blinder‐Oaxaca分解の係数要因の係数。説明変数は、第1~第4因子、組合有無、産業、規模。 ***, **, *は、それぞれ1, 5, 10%水準で統計的に有意なことを示す。()の係数は10%水準には足りな いが、有意なレベルが高い係数。 まとめ 正社員女性が出産した場合に、退職せずに継続就業が行われやすい 企業の特徴-女性比率、女性管理職比率などが高い企業の特徴と違 うのか? どういった制度がある企業で女性の就業継続が促進されるか? WLB施策の導入率上昇と施策導入による効果上昇のどちらが大きい か? 女性の就業継続率、女性正社員比率、女性管理職比率、女性部長比 率などは近年上昇。 2014年では、労働時間短縮施策を行っている企業といない企業の継 続就業確率の差が2006年に比べて大幅に上昇。WLB施策が導入され ても利用されない/効果がないと言われてきたが、近年施策の効果 は大きくなっている。 効果のある支援施策は、継続就業率と、女性管理職比率・女性部長 比率とでは必ずしも同じではない。継続就業上昇に効果のあった施策 は労働時間短縮、女性管理職比率・女性部長比率に効果のあった施 策は託児施設など女性を戦力化しようとする会社の支援。 付録1 データ • 「仕事と家庭の両立支援にかかわる調査」 – 日本学術振興会『課題設定による先導的人文・社会科学研究推進事業(実 社会対応プログラム)』「少子化対策に関わる政策の検証と実践的課題の提 言」研究グループ(2014年6月実施) サンプルサイズ 1000(うち264サンプルは2006年調査と同一企業) 調査項目 就業継続状況、女性比率、女性管理職比率、女性部長比率、(事業所内託児施設、短時間勤務制度、男性 の休暇制度など出産・育児に関わる支援制度(2006年調査とほぼ同一項目) – 独立行政法人労働政策研究・研修機構(2006年6月実施) サンプルサイズ 863 回答企業の属性 従業員数 2014年調査 12% 29% 業種 18% 13% 15% 2014年調査 3.7 12% 18.4 2006年調査 4.7 2006年調査 7% 27% 19% 14% 16% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 299人以下 300人~499人 500人~699人 700人~999人 1000人~1999人 2000人~ 29.5 13.4 2.2 8.5 1.2 7.0 40.4 0.4 4.7 9.3 0.6 5.7 0.9 7.0 37.0 17% 0% 0% 0.4 4.4 80% 90% 100% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 建設業 製造業 電気ガス熱供給水道業 卸売業 小売業 飲食店 運輸業 通信業 金融・保険業 不動産業 サービス業 労働組合あり=2014年調査:約53%、2006年調査:約56% 100% 付録2 推定モデル プロビットモデル – 被説明変数:企業調査における女性正社員の継続就業や退 職のパターンのうち、最も多いもの • 選択肢は8通り;数値が大きいほど、継続就業をしている – – – – – – – – 「1.結婚前に自己都合で退職する」 「2.結婚を契機に退職する」 「3.結婚後、妊娠や出産より前に退職する」 「4.妊娠や出産を契機に退職する」 「5.出産後、育児休業を利用するが、その後1~2年のうちに退職する」 「6.出産後、育児休業を利用して、その後も継続就業する」 「7.出産後、育児休業を利用しないで、継続就業する」 約47% 「8.女性正社員はいない」→サンプルから取り除く(計7社) – 説明変数: • 4つの因子:因子負荷の高い(0.4以上)のダミー変数を足し合わせて 4つの変数を作成。 第1因子:労働時間短縮因子:短時間勤務制度、所定外労働をさせない制度、配偶者が出産のときの 男性の休暇制度、子どもの看護休暇。 第2因子:女性戦力化因子:事業所内託児施設の運営、職場への復帰支援、転勤免除(地域限定社 員制度など)、育児等で退職した者に対する優先的な再雇用制度。 第3因子:社員自立化因子:子育てサービス費用の援助措置等、子育て中の在宅勤務制度。 第4因子:労働時間柔軟化因子:フレックスタイム制度、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ。 • コントロール変数は、企業規模ダミー、産業ダミー 付録3 因子負荷表 12の出産・育児に関わる支援制度・慣行について、4つの因子を仮定して因子分析(プロ マックス回転)。 第1因子 短時間勤務制度 第2因子 第3因子 第4因子 Uniqueness 0.56 0.01 ‐0.03 0.27 0.58 ‐0.05 ‐0.02 0.36 0.66 0.46 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ 0.30 0.06 ‐0.15 0.59 0.48 所定外労働をさせない制度 0.59 ‐0.02 ‐0.01 0.34 0.50 事業所内託児施設の運営 0.23 0.46 0.11 ‐0.46 0.53 子育てサービス費用の援助措置等 0.22 ‐0.09 0.78 ‐0.04 0.36 職場への復帰支援 0.12 0.61 ‐0.15 0.13 0.56 配偶者が出産のときの男性の休暇制度 0.61 0.03 0.09 ‐0.05 0.61 子どもの看護休暇 0.78 ‐0.08 0.11 ‐0.07 0.41 転勤免除(地域限定社員制度など) ‐0.18 0.54 0.10 0.14 0.64 育児等で退職した者に対する優先的な再雇用制度 ‐0.10 0.77 0.01 ‐0.08 0.43 子育て中の在宅勤務制度 ‐0.09 0.11 0.69 0.22 0.43 フレックスタイム制度
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