講義録 - 川越市

自治基本条例連続講座(第3回)講義録(概要)
「自治基本条例の制定に向けて」
講師:関東学院大学法学部教授
いずいし
みのる
出石
稔
氏
今日は、自治基本条例の制定に向けての考え方、あるいは自治基本条例の作
り方を中心にお話をさせていただきたいというふうに思う。
自治基本条例の意義的なものを若干確認した上で「自治基本条例ではどうい
うようなものが定められるのだろうか」や「実際に自治基本条例を制定してい
る自治体ではどうなっているのか」など、事例を見ながらお話したいと思う。
それから、自治基本条例は策定プロセスが重要になってくる。というのは、
「自治基本条例は自治体の最高規範的な位置付けを有する」ということ、中に
は「自治体の憲法」とまでいわれる場合もあるような自治体の最高規範になる
ようなものを作る手続き、プロセス、この辺りのお話をしてまいりたいと思う。
特に、策定プロセスは、かなり自治体によって違う。実は、自治基本条例は、
結果的に中身はそう変わらないものが尐なくない。ところが策定プロセスは、
かなり違う。策定プロセスを充実させるほど、ある自治体とある自治体が全く
同じ条文だったとしても、魂が入っているか入っていないか、大きな違いがあ
る。この違いは、自治基本条例ができてからの実際の運用に結実すると思う。
「最高規範である」などと言われながら、どちらかというと「作ったら終わり」
というところが多いのではないか。「終わり」とは尐し言い過ぎだが、作るこ
とが目標・目的になってしまって、できあがったら、どちらかというと、「置
き去り」にされてしまう。むしろ大事なのは、「自治基本条例を作った暁に、
どうやって市民が、職員が、議会が、議員が活動していくか」、そこにつなが
らなければいけないと思う。その辺りのことを最後にお話ししたいと思う。
今日事例として使わせていただく中で、厚木市がこの 12 月に自治基本条例
の議決を得て、制定した。一昨日、市長選で、現職と新人の一騎打ちになった。
現職は4年間の任期中に、自治基本条例を作った。大きな実績なわけだが、昨
日の地元の新聞の中で書かれているのは「現市長が選挙戦で実績を、こういう
ものをあげてきた」と。出てきているのは、一番は「B-1 グランプリ」という
B 級グルメの祭典を開いたこととか、多尐自治基本条例とも関わるが「セーフ
コミュニティ」という国際認証、日本の自治体で国際認証の「セーフコミュニ
ティ」を取ったのは 3 団体のみで、その 3 つ目が厚木。こういったことが、ざ
っと列挙されているが、「自治基本条例」は、出てこない。
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自治基本条例はあまりマスコミ受け、一般受けしない。「憲法改正」といっ
たらものすごい話になる。「自治体の最高規範」といいながらあまり目立たな
い、注目されない。「できあがってしまったら置き去りにされてしまうのでは
ないか」、と私はすごく危惧する。だからこそ、これから川越市は自治基本条
例の取組がスタートされると伺ったが、スタートを切って作り上げるのが目的
ではない。作って自治基本条例のもとに川越市の自治を更に発展させていく。
そのアクターは、市長であり、議会であり、一番のアクターは市民で、それを
サポートするのが職員ということになると思うが、これらが一丸となって、社
会・経済的に非常に厳しい情勢だが、川越市の自治を自治基本条例のもとに更
に発展させていく。その手段が自治基本条例である、ということを最初に申し
上げてお話に入ってまいりたいと思う。
1 自治基本条例とは
(1) 自治基本条例の意義
① 自治のあり方(自治体運営)についての「理念」・「基本的な指針」
・
「拠る
べきルール」
ここでいう「自治体運営」というと、どうしても役所のイメージが強いと思
う。
自治体において行政が常日頃の皆さんの生活を守っていくために、法律や条
例を執行し、予算を使って行政を行っている。「自治体」は、行政、職員だけ
で担うというものではない。一番のポイントは市民で、市民が首長、議員を選
び、市長は執行権を持つ。議員は議会を構成して意思決定権を持つ。よく「二
元代表制」といわれ、この長と議会が実際に自治体運営を担うというのを「間
接民主制」とか「代表民主制」という。
本来ならば自治体は、住民の皆さんが毎度、大事なことを決めていいわけだ
が、なかなかそうはいかないから代表者に信託をしている。だから大事なのは、
信託をして長や議会が物事を決め、自治を進めていく、その補助機関が職員な
わけだが、任せきりではいけない。そのルールを再度しっかり認識しようとい
うのが、この①。
「自治のあり方」、実際にはどうやって川越市の自治は運営されるのか、そ
の基本的な考え方、理念、その指針、そしてそれを進めていくための頂点のル
ールになるということである。
② 他の条例、行政計画、政策・施策の指針や根拠
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川越市でも、さまざまな自治の運営を、条例を作って行っている。もちろん
条例だけでなくて法律もいっぱいある。そういう法環境の中、自治体は自らの
立法権として条例を制定することができる。
尐し法律論になってしまうが、条例は法律の下に位置付けられるものではな
い。対等である。条例には懲役、禁固、罰金など罰則などを付けられる。
比較的条例の効果が表れているのは、全国で最初に東京都の千代田区が作っ
た「路上禁煙条例」で、一定のエリアを指定して「ここでたばこを吸ったら罰
金だよ」と。正しくは過料というが、過料が科される。この結果、千代田区で
は路上喫煙はほとんどなくなった。これは、条例で規制、罰則まで設けて規制
を行った成果である。
それから神奈川県は去年の4月から「公共的施設における受動喫煙防止条例」
というものを制定し、神奈川県内のいわゆるファミレスとか、喫茶店なども原
則禁煙、禁煙か分煙。神奈川のファミレスに行くと、原則たばこを吸えない。
これも神奈川独自のルールである。
つまり法律があったとしても、条例で独自のルールを作れる。それから、自
治を進める上でさまざまな行政計画、環境基本計画あるいは福祉の計画、それ
から最近は地球温暖化の計画など、さまざまな計画を作って自治を進めていく。
そして更に、予算を使って皆さんの生活を豊かにし、ハッピーにしていくため
に政策を実施している。自治体がこの条例、計画、予算などを使って自治を進
めているわけだが、
「自治基本条例はそれの根拠になるものだ」ということがい
えるのではないか。
すなわち自治基本条例は、
「条例の条例」あるいは「ルールのルール」という
ことが言えると思う。①は自治を進める上での基本的な考え方、②はその自治
を進める道具、手段、というのは条例であったり計画であったりする、それら
の根拠となるルールであり、
「条例の条例」である。こういうことが言えると思
う。
③ 団体自治と住民自治を結合→市民主体のまちづくりの基礎
地方自治は、憲法第 92 条に保障する規定があって、そこに規定される「地
方自治の本旨」は、
「団体自治」と「住民自治」の二つの原則から成り立つとい
われている。
「団体自治」というのは「川越市は国あるいは埼玉県から独立している」。要
するに自治体は一つの団体として独立しているということである。
これに対して「住民自治」というのは、自分たちのことは自分たちで決めて
実行するという意味である。要するに自治体、川越市は独立して自分たちで決
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める、この 2 大原則が兹ね備わってはじめて憲法で保障された「地方自治の本
旨」が実現する。
かれこれ 17 年くらいかけて「地方分権」というものが進んでいる。
「地方分
権」あるいは最近の言葉でいうと「地域主権改革」というが、これは何かとい
うと「団体自治の充実」である。平成 12 年に「地方分権」
、第一次の分権が実
現した。
これは、いわゆる「地方分権一括法」を制定し、日本に約 1700 ある法律の
うちの 475 本をいっぺんに改正した。その内容は、団体としての都道府県や市
町村の強化が中心だった。
国と自治体の関係は、従来は、頭が国で、胴体は都道府県、市町村は手足と
いう構造だった。これを「機能分担」という。それで市町村は「末端行政」と
言われた。
それが「団体自治の強化」ということで、法律の改正によって「外交などは
国が決めて全部実施します」、それに対して「環境問題とか、広域にわたるもの
は頭も、体も手足も県がやりましょう」そして「住民に最も身近な、皆さんに
とって最も身近なことは、市が頭も体も手足も全部持ちましょう」。こういう構
造に変えたのが 2000 年の地方分権である。
住民に最も身近なことを市町村がやるから、今の市町村のことを「先端自治
体」という。先ほどの機能分担論では「末端自治体」、「末端行政」であったの
に対し、こちらは「先端」。そういうふうにするために、2000 年の分権では、
簡単に言えば役所の機能や首長の権限を強化した。
ところが「住民自治」には、実はあまり手がつかなかった。
「住民自治」のイ
メージで分かりやすいのは「市民参加」。最近は「市民協働」という。これは法
律に、どこにも規定がない。
地方自治法の中で、財務事頄がものすごく細かく決めごとをしている。例え
ば、ついこの間までは、役所でお金を払うときに、クレジットカードを使って
はいけなかったが今は改正して「使っていいよ」とわざわざ地方自治法に書か
れた。それに対して、
「住民参加」、
「市民参加」とか「協働」などは、地方自治
法には書いていない。それから市民参加的なものとしては「住民監査請求」な
どはあるが、最近多くの自治体で実施している「パブリック・コメント」、「審
議会の公募委員登用」などは、実はこの分権で何も手をつけていない。
これからの自治は、団体自治が強化されたのだから、強化された権限を使っ
て自分たちで何をやるか。首長の権限は強化されたかもしれないが、首長を選
んでいるのは皆さんで、
「住民自ら何ができるか」というのは大事なポイントに
ほかならない。
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自治基本条例に求められるのは、今の地方分権、地域主権の時代の中で「団
体自治」が強化されていく、これだけではだめ。
「住民自治」も充実させていか
なければ自治とはいえない。そのときに自治基本条例は、この「団体自治」と
「住民自治」を結合していく、そして市民主体のまちづくりの基礎となるとい
うことがいえると思う。
この3つの意義は若干趣旨が違う。①では、本来の自治の姿を実現していく
ためのベースにしましょう、②はその実際に運用される条例や計画の依り所に
しましょう、そして③は今の地方自治の改革の流れの中で丌足している「住民
自治」を進めていくための、
「団体自治」と「住民自治」をつなげていくための、
連結器にしていこうというものである。この3つが備わる自治基本条例という
のは、
「自治体の最高規範」あるいは「自治体の憲法」などといわれることもあ
るが、そういうものになるということがいえると思う。
したがって、
「まちづくり条例」とか「市民参加条例」など、さまざまな条例
がこの分権時代に、自治体で作られているが、自治基本条例は「尐し次元が違
うのではないか」ということ。ただ、後で「最高規範的な位置付けをどう担保
するか」という論点が出てくるが、憲法と法律が違うのは皆さん納得されるの
ではないか。日本国憲法は「法」と書くけれども法律ではない。法律は衆参両
院で可決すると制定される。ところが憲法は御存知のとおりで、改正するには、
国会議員の議員総数の 3 分の 2 が賛成した上で、国民投票にかけることになり、
過半数が賛成しなければ改正できない。こうした法律よりも厳しい改正要件を
持つものを「硬性憲法」といい、それだけの位置付けがある。
「では自治基本条
例は」というと、地方自治法上は、自治基本条例であろうが、他の条例であろ
うが、議会の半数以上の議員の出席で、過半数の賛成で制定改廃ができる。だ
から自治基本条例とその他の条例の位置づけは変わらない、形式的な上下関係
はない。しかし、今言ったような①から③までの機能を兹ね備えるのだったら、
実質上「最高規範」と位置付けられるのではないか。
理念的にはそうだとして、
「ではそれをどう位置付けるか」、
「実際にどうやっ
て最高規範的に機能させるか」というのが結構重要な論点になる。
(2) 自治基本条例の制定状況等(200 を超える制定)
自治基本条例が全国でどのような状況にあるか、自治基本条例を制定してい
る自治体はおそらく 200 を超えているだろうと思われる。今、全国の自治体数
は 1720 余りで、そのうちの 200 なので、まだ 1 割強。多くの自治体議会が
定例会を年4回開催しているが、定例会ごとにどこかの自治体で自治基本条例
は制定されている状況なので、実数は分からない。そのくらい、自治基本条例
の取組は「全国的なムーブメント」という流れがある。
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○主な自治基本条例
・ニセコ町まちづくり基本条例
2001 年、今から 10 年前に北海道のニセコ町で制定された「まちづくり基
本条例」が、全国初の自治基本条例といわれている。
この条例、
「なぜ自治基本条例といわないか」というと、議会の規定がなかっ
た。
「自治のアクター」は、市民が中心で、そして市民が選ぶ、長と、議員で構
成する議会で成り立っているわけで、その議会のことが書いていなかった。そ
れで、自治基本条例ではなく「まちづくり基本条例」と名付けた。ただニセコ
町は、改正し、現在の条例には議会の規定は入っている。だから中身も自治基
本条例といえると思う。
このニセコの「まちづくり基本条例」が、いまだに全国で自治基本条例を作
るに当たっての検討のベースになっている。何でもそうだが、何もないところ
から生むわけだから最初が一番大変。私はこれをすごく評価できるものだと思
う。
・杉並区自治基本条例
杉並区が 2003 年に自治基本条例を作ったが、名前が初めて、「自治基本条
例」となり、中身も初めて議会の規定が入った、名実ともに、初の自治基本条
例になったということがいえる。
・大和市自治基本条例
大和市は、2005 年に自治基本条例が制定されたが、同市は「PI」という手
法を積極的に用いた。何かというと「パブリック・インボルブメント」の略で、
いろいろな手法を兹ね備えた市民協働手法で、市民だけで検討する会議を作っ
てみたり、市民が開催するフォーラムをやってみたり、よく「ワークショップ」
などというが、そういったものを入れてみたり、いろいろなことを組み合わせ
て、市民が主体となって、「より重層的」というか、そういう活動をする。
大和市は、大小合わせて 170 回も参加・協働機会を重ねて、この自治基本条
例を制定してきたという特徴がある。
・川崎市自治基本条例
川崎市の自治基本条例も結構有名で、同市は、かなり早い段階で「オンブズ
マン条例」を作り、
「外国人市民会議」というものを設置したりなどしていたの
で、既に自治の装置をいくつか持っていた。それに、自治基本条例を制定して、
これらの自治の装置の上に乗る規範にした。今言ったような制度をぶら下げた
り、自治基本条例を受けて「住民投票条例」、あるいは「パブリック・コメント
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条例」を作ったりしている。
・三鷹市自治基本条例
三鷹市は、また特徴的で、行政が中心になって、学識経験者も入って作り上
げてきた自治基本条例の案と、市民検討会の自治基本条例の案が両方出された。
これらを、「融合」・「競合」という形で成案を作り上げてきた。
・米原市自治基本条例
米原市は注目される。2006 年に制定された自治基本条例は、
「自治基本条例
を改正するときには住民投票にかける」という規定を入れている。だから「硬
性憲法」的な位置付け。
この条例は、議会で制定できる条例であるにもかかわらず、議会の議決とは
別に住民投票をかけることについて、
「法律に違反するのではないか」という指
摘もある。実際には、議会に提案する前に住民投票にかける、つまり、改正す
るときには、先に住民投票を行って、住民の過半数が改正に賛成したら議会に
提案する。だから住民が賛成したとしても「議会は否決してもよい」というこ
とになる。ただ専門的には、条例の提案権は市長にあり、この条例提案権をも
しかすると拘束するかもしれない。やはり多尐法律論がある。しかし、こうし
た積極的な取組もある。
・多治見市市政基本条例、茅ヶ崎市自治基本条例、厚木市自治基本条例
多治見市の「市政基本条例」は、
「市政基本条例」を作った上で、個別の取組
を実際に進めている。例えば、
「市政基本条例」の中に「是正措置」という規定
が入っている。その後多治見市は「是正請求手続条例」を制定した。つまり、
自治基本条例に盛り込まれた内容を条例で実現した、
「市政基本条例」を受けた
条例ということである。併せて、その際「市政基本条例」を一緒に改正して該
当する頄を設け、根拠規定を「市政基本条例」で置き直す、このような取組も
行われている。
茅ヶ崎市、厚木市で昨年、自治基本条例が施行した。茅ヶ崎市は「自治基本
条例施行に伴うアクション・プラン」というものを作っている。何かというと、
3箇年計画だとか、5箇年計画といった行政計画を1年間どれだけできたかチ
ェックし、検証してローリングしたりする「行政評価」がある。茅ヶ崎市では、
自治基本条例にこの仕組みを取り入れ、条ごとに年度計画を策定した。自治基
本条例には3年で見直すという規定が設けられているが、その3年間のスケジ
ュールを組んで「平成 22 年度はこういうことをやる」、
「23 年度はこういうこ
とをやる」ということを計画化して、それをオープンにして検証する。この取
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組は、自治基本条例の実効性確保として効果があると思われる。
厚木市は後ほど、尐し具体的にお話をしたいと思うので、ここでは省略をす
る。
先ほど「自治基本条例はだいたい同じような条文になる」と申したが、それ
でも結構違う。特に、取組経過や最高規範の作り方だとか、
「実効性確保」とい
う部分でだいぶ違うということを御理解いただけるのではないかと思う。
・神奈川県内の動向
神奈川県は割と自治基本条例の制定が進んでいる。県内には市町村が 33 あ
るが、そのうち 14 の市と町で制定され、現在8市町村で検討中。したがって
2、3年以内ぐらいには 3 分の 2 の市町村で自治基本条例が制定されそうであ
る。
ただ、900 万人の県民がいて、360 万人いる横浜市が取り組んでいない状
況にある。
さらに、全国で唯一、神奈川県が自治基本条例を都道府県レベルで制定して
いるが、論点がいっぱいある。私は「都道府県に自治基本条例が必要かな」と
多尐疑問がある。
都道府県も自治体だから自治基本条例があっていいが、一つだけ申し上げて
おきたいのは「市町村自治を尐しでも侵すような自治基本条例はあってはいけ
ない」。都道府県は広域自治体であって、住民に身近な基礎自治体である市町村
が自治の基本的な主体だから、それを絶対に侵してはならないと考える。
気になるのは、実は神奈川県の自治基本条例の中に県民投票の規定がある。
何か重要な案件が起きたときに本当に県全体で住民投票を実施するだけの意義
があるのかどうか。
ある市に廃棄物処理施設が立地すると、是非はともかく、その市の住民の多
くが反対する。ところがごみを処理するために一定の地域全体で捉えれば廃棄
物処理施設は必要だから、県全域で住民投票を行ったら賛成のほうが多数を占
めるかもしれない。
「これで本当に民意を測れるか」という論点がある。それか
らもう一点申し上げると、
「県民投票の事務を誮が執行するか」という論点もあ
る。現在は、県と市町村は対等の関係だから、市町村の職員は県の事務を執行
できない、やってはいけない。そういう問題もある。
(3) 自治基本条例の必要性
ふくそう
(1)の①②③と、この(3)の①②③は、符合するとともに、かなり輻輳する。
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① 住民自治の確立
「住民自治の確立」とは、
「自らで決めて実行する」という部分の根拠付けだ
が、(1)の①の「自治のあり方」であり、③の「団体自治と住民自治を結合」す
るという部分に当たる。
② 自治体ルールの再構築(条例の体系化)
「自治体ルールの再構築」とは、(1)の②に当たり、自治基本条例を頂点とし
た自治体のルール、条例を体系化していく。こういうことが自治基本条例の必
要性として認識されると思う。
③ 自治体運営の確立
「自治体運営の確立」が(1)の②と③に関わってくるが、まさに自治体運営を
中心的に担うのは、常日頃からプロとして担っているのが市の職員だが、その
市の職員が担う自治、信託を受けて担う自治についての在りよう、こういうも
のを整備していく、それを確立するための根拠になる。そのための「自治基本
条例の必要性」ということがいえると思う。
④ 分権自治体の標準装備
この①から③が合わさると、自治基本条例は記載したとおり「分権自治体の
標準装備」となるだろう。200 ぐらいの自治体が自治基本条例を制定している
と申したが、この趣旨が貫徹されていくならば、やはり自治基本条例は必要な
装備ではないだろうかと思う。
「自治基本条例は目的ではなく手段である」という意味で「自治基本条例は
政策競争」であるともいえ、最高の規範になる自治基本条例で自治を争ってい
くということも、もしかしたら今後展開されるのかな、とも思うところである。
2 自治基本条例の構想
「自治基本条例にどういうことが盛り込まれるか」ということなのだが、こ
こは是非誤解しないで聴いてほしいのだが、自治基本条例の内容を決めるのは
皆さんである。
(1) 盛り込むことが考えられる事頄
① 自治の理念
② 自治(まちづくり)の主体となる市民等の権利・責務
③ 議会の役割・責務
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④ 自治(まちづくり)の担い手である首長・行政の役割・責務
⑤ 自治の原則と自治体運営・財政運営の原則
⑥ 市民の参加と協働の原則
⑦ 住民自治の仕組みとしての住民投票制度
⑧ 自治基本条例の位置づけ(最高規範性)
⑨ 自治基本条例の実効性の確保
ここで挙げているのは「今まで制定されてきたもの」、「制定済みの自治基本
条例を踏まえた代表的なもの」というイメージで取っていただきたい。
「うちに
はいらない」と思えば盛り込まなければいいし、
「もっとここは入れなければい
けない」。市民が考えるならば堂々と規定すればいい。私が思うには、この2(1)
の①から⑨というのは、頄目的にはやはりこのぐらいに整理されるということ
である。その中身はだいぶ変わってくるということだと思う。
この①から⑨までを憲法に置き換えてみたいと思う。
①の「自治の理念」は憲法の前文に当たると考えられる。
②の「自治の主体となる市民等の権利・責務」、③の「議会の役割・責務」、
④の「首長・行政の役割・責務」は、尐しイメージが湧かないかもしれないが、
憲法でいえば「基本的人権」の部分に当たるのではないかと思う。なぜかとい
うと、実はここが憲法と自治基本条例の大きな違いなのだが、憲法には基本的
人権として、例えば「幸福追求権」、「生存権」、「財産権」などがある。これは
「裁判規範」で、損なわれたら裁判で救済が受けられる根源的な人権である。
これに対して自治基本条例で、これまで設けられたものは、この自治の主体
各々の役割・責務の規定、特に行政や議会の責務・役割などである。あるいは
「市民の権利」という規定にある程度権利的なものが書かれる。この「市民の
権利」というのは、実は「市民の行政に対する権利」、あるいは「行政の市民に
対する責任あるいは義務」というものが圧倒的に多い。
情報公開などは分かりやすい。
「情報を積極的に公開していかなければいけな
い」というのは、行政に誯せられた義務で、それに対して市民は、情報を得る
ことができる。
「知る権利」となると権利。こういう形で、行政に対しての権利
化というのは、やはり多い。それらが「裁判規範」になるかどうかは分からな
い。
「知る権利」は実際に情報公開条例に「知る権利」まで規定されているもの
もいっぱいあるし、その情報公開条例の上位として根拠になるのが自治基本条
例とするならば、自治基本条例に「知る権利」が「市民の権利」として入って
いるものも尐なくない。情報公開条例は実際に情報の開示・丌開示が裁判でも
争われる。このように「裁判規範」になるものもあれば、
「参加権」として、参
加することができる権利が自治基本条例で不えられたときに、その権利を侵害
されたら争えるかどうかというのは議論がある。
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それから⑤から⑦までは、憲法になぞらえれば、統治機構、
「統治」という部
分に当たると思う。憲法でいえば「国会」、
「内閣」、
「司法」という部分になる。
このうち、特に⑦の「住民投票」については、相当議論があるところなので、
自治基本条例を受けて新しい制度として住民が直接、意思表明ができるもので
「間接民主制を補完する」などという言い方があるが、それを補完する意味で
直接住民が意思を表明できるというのが住民投票。最近の自治基本条例はほと
んどで住民投票の規定が置かれている。
「住民投票」といっても大きく 2 種類あって、
「常設型」といって、住民投票
条例を設けると一定の要件を満たしたら住民投票が行われるという制度と、
「個
別案件型」といって、何かの案件が起きたときに住民投票したいと思った市民
がその案件に限った住民投票条例の制定を求めてきた場合に、その都度議会が
議決して住民投票を実施するという二つの制度がある。これは多くの論点があ
る。
⑧と⑨は、これは先ほど申した「形式的には自治基本条例は他の条例と同等
だけれども、いかに最高規範的な位置付けにするか」ということで、規定を置
くケースが尐なくない。「この条例を最高規範と位置付ける」、あるいは「他の
条例のよりどころとなるものである」などと条文に書かれる。厚木市の条例や、
大和市の条例にも規定されている。
⑨の自治基本条例の実効性を確保するための手続きとして、厚木市などでは、
改正手続の規定を入れている。米原市の紹介で住民投票の規定に触れたが、厚
木市は、
「自治基本条例を改正する際は、制定時に行った手続きと同等の手続き
を経なければならない」という規定を入れている。これは、すなわち「簡単に
改正させない」で最高規範的な位置付けを手続の中で確保しようという趣旨で
ある。
(2) 既存法や制度との関係から
(下の図を示して)この四角枠内が川越市あるいは市役所と思っていただき
たい。このマルは川越市や川越市民に適用される法律で、介護保険法、生活保
護法、都市計画法、あるいは学校教育法など、さまざまな法律があり、実は自
治体は「団体自治」、
「住民自治」といって、
「国から独立して自分たちのことは
自分たちで決める」と言いながら、多くの事務は法律で決まっている。国、国
会が決めて、それに基づいて自治体の職員が事務を執行する。ただ、法律とい
えども、分権時代は「自治体が地域の実情を踏まえて解釈することができる」、
加えて「法律の分野でも条例を制定することができる」という考え方が成り立
つ。だから、
(下の図を示して)こうなっていたとしても、自治体のこの二つ(住
民自治と団体自治)の原則は、この中全般に生きている。
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申し上げたいのは、こういう川越市を取り巻く状況の中で、例えば、間もな
く廃止になる見込みだが、議会の定数の上限が地方自治法で決まっているなど、
自治に関するいろいろなことが法定化されている。更に法令で決まっていない
部分、
(下の図の網掛けの部分を示して)こういう部分があって、法定外の部分
も自治は担われている。そういうときに「既存法だとか、既存のさまざまな制
度と自治基本条例をどういうふうに関連付け、整理するか」というのが、自治
基本条例を構想するときに重要となってくる。
川越市(市役所)
法律
法律
法律
法律
法律
法律
① 地方自治法等で法定化されていない自治体の組織執行体制
例えば「知事の多選禁止条例」、「多選自粛条例」があるが、規律する法令は
ない。そういう法にない自治の仕組、資料に「市長の宣誓」と書いたが、これ
はニセコ町の「まちづくり基本条例」にある。職員は採用の際、必ず地方公務
員法に基づいて宣誓をすることになっており、宣誓書にサインするのだが、こ
れは法律で決まっている。ところが、その代表者である市長は宣誓しない。い
いかどうか、必要かどうかではなく、ニセコ町はこの「まちづくり基本条例」
の中に町長の宣誓規定を置いている。このように地方自治法等の法律で定まっ
ていない自治体の組織や執行体制についてどうするかということである。
② 法定事頄(地方自治法等)の条例化の是非(二度書きの是非・詳細化・
一覧性)
他方、従来法定されているものの取扱いで、法律に書かれていることを条例
で二度書きしないという原則がある。すると市民は「これは法律に書いてある」、
「これは法律に書いていない」、「条例に書いてある」など、いろいろなものを
全部見ないと分からない。自治基本条例を最高規範的に位置付けるとするなら
ば、やはり法定事頄でも、ここにある財政運営、あるいは議会のことなどにつ
いても、自治基本条例に書いてもいいのではないか。
特に論点になるのは「基本構想」で、
「基本構想」というのは、地方自治法第
2条第4頄で市町村に策定が義務付けられ、更に、議会の議決を要する。だか
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ら、自治基本条例が最高規範とするならば、
「基本構想」は「自治体の最高計画」。
その最高計画の策定は地方自治法が決めている。これをどうするか。
「自治基本
条例に再度、それだけ重要なのだから規定をしよう」という動きがある。それ
とともに、今回の通常国会で、地方自治法の改正案が通れば、この「基本構想」
の策定の根拠自体が削除される。したがって、
「川越市は基本構想を策定しない」
という選択肢、あるいは、
「基本構想は必要だけれども議会の議決はいらない」、
「自治体の最高計画なのだから議決を経るようにしよう」という選択肢もある。
ではその取扱いをどこに書くか。普通に考えれば、
「議決事件条例」に規定する
ことになるが、自治基本条例にその規定を置くという手がある。それから、こ
れは結構意外と思うかもしれないが、どこの自治体も「総合計画」を策定して
いる。その内容は、長期計画としての「基本構想」、中期計画としての「基本計
画」
、短期計画としての「実施計画」から成り、これらを合わせて「総合計画」
というが、では総合計画の根拠はどこにあるのか。実はない、そのように称し
てきただけである。
「でもそんなに重要な計画なら、明確にしたら」というのが、
この②に挙げている部分で、これらが自治基本条例を今後検討する中で、個別
の論点になる。
③ 法令に基づく自治制度との関係
資産公開、行政手続、個人情報保護、情報公開などは、個別に法令があって
自治体に制度化の努力規定が各法律にある。川越市も条例を制定している。法
律から引っ張ってきている自治制度なのだが、本当にそれでいいのだろうか。
自治体のルールだから、「自治基本条例に根拠を持ってきてもいいのではない
か」。このような論点もあると思う。
④ 個別条例等で設けられる独自の自治制度との関係
個別にさまざまな条例が作られている。既に作られているものがある、それ
から今後作らなければならないものがあるだろう。それと自治基本条例の関係
をどう整理するか、この辺りも論点になってくるだろう。
⑤ 個別政策との関係
条例ではなくても個別政策と自治基本条例がどう関連付けられるか、この辺
りも自治基本条例を構想するときに、いろいろと議論をたたかわせていく必要
があるということになる。
3 自治基本条例の制定手続
13
(1) 最も大切な策定プロセス
やはり従来だと、条例を策定するときに、行政職員がプロとして作った案を
議会で議決するのはもちろんだが、その前に市民のパブリック・コメントにか
けることや審議会で議論するケースなどもある。審議会に入っている市民委員
は、どちらかというと、自治会長とか、民生委員が市民代表となるパターンで
進められてくることが多かったと思うのだが、自治基本条例に限らず、これか
らの時代「団体自治」と「住民自治」をつなげていくためには、多くの市民の
方がこういう自治の重要な制度の策定に関わっていくことが当然必要になって
くるだろうと考えられる。特に自治基本条例については、
「多くの関係者が参加
する」、そういうような手続きを確保して、重層的、つまり単発ではなく、複数
の手法を用い、そしてそれらを重ね合わせていくことが求められる。すなわち、
参加あるいは協働で「参加」というのはどちらかというと行政から一方通行だ
が、対して「協働」というのは双方向、双方向で作り上げていくということが
大事。これらを組み合わせて実施することが、
「適正手続」ということができる
だろう。
(2) 市民のための自治基本条例
そのような形で市民が多数関わって自治基本条例を作りあげると、そこには
市民のニーズがくみ上げられ、くみ取れる。そして市民の合意、コンセンサス
を得て策定するということは、まさに、どんな条文になろうと、そこには市民
の魂が込められる。結果的には、先ほども申した、ある程度他都市と同様の条
文になったとしても、効果に大きく違いが出てくるのではないか。これが「自
治の深化」、深まり、そういうことがいえると思う。
(3) まちの個性を盛り込み、反映させる
自治基本条例自体は、そんなに大きく変わっていないが、その中に最低一つ
は「まちの個性」、「きらりと光る我がまちの自治基本条例」となるようなもの
を入れていくということが大事だと思う。
代表的なのは前文になると思う。自治基本条例は一般的には前文を設けるの
で、そこにこれまでの歴史を書いてみたり、現状を書いてみたり、将来に目指
すべきことを書いてみたり、自治の独自性に言及することももちろんできる。
それから、中にはその地域の特色があり、川越市はまさにその特色があるわけ
で、町並みなど一番いい例である。
厚木市の例を出すと、同市では「セーフコミュニティ」といって安全・安心
に暮らしていくためのさまざまな取組をして、国際認証を得ているが、その取
組につながるための「市民の安心・安全に生活する権利」という規定を入れて
14
いる。これなども非常に分かりやすい例だと思う。このようにして「独自性」
というものも自治基本条例には、求められるだろうと思う。
4 自治基本条例の運用の誯題と展望
実際に制定する自治基本条例の中身はもちろん皆さんで決めていくわけだが、
制定するに当たっての誯題、それから制定された暁の運用における誯題、展望
的なものを見てみたいと思う。
(1)
最高規範性の確保
「最高規範性をどう確保するか」ということで、代表的なものは、他の条例、
あるいは行政計画との関係で、要は、さまざまな条例に対して自治基本条例が
優位する、
「上位である」ことを明らかにすること。あるいは自治基本条例のも
とに個別の条例や計画を体系化するという書き方もある。そうすると、各条例
や計画はおのずから自治基本条例がベースになるということが分かる。そうい
う規定を設けることが考えられる。
それから(12ページの図を示して)、自治体は法律に囲まれているが、
「法律
とはいえども地域に合った運用をしていく」、「住民のために法律を使う」とい
った視点から、法令との関係を書くケースがある。例えば「法令の執行に当た
っては、自治基本条例の趣旨にのっとって行わなければならない」、「解釈しな
ければならない」、このような規定が置かれているケースもある。このように、
「自治基本条例の位置を明確にする」、「立ち位置を条文上明確にする」という
取組がある。
それから一歩進めて、改正規定での最高規範性の確立が考えられる。作ると
きはともかく、
「作り上げた自治基本条例を改正するには、単純に議会の通常の
議決ではなくて、一歩踏み込んだことができないだろうか」という検討もある。
米原市の取組や、厚木市の自治基本条例の第40条に「市長は、この自治基本条
例を改正しようとするときは、この自治基本条例の目的、位置付け等を踏まえ、
この自治基本条例の制定に際して行った市民の参加その他の方法により行わな
ければならない」という規定がある。この手続を行わないと改正できないとい
うことで最高性を確保している。こうした対応を、最高規範的に位置付けよう
とするならば検討しておくことが大事だろう。
(2) 自治基本条例制定に伴う条例等の見直し
自治基本条例を制定する以前から、さまざまな制度、例えば情報公開条例、
行政手続条例などがあるが、そういう既存条例等をどうするか。
15
端的に言うと、自治基本条例とリンクを張る、連動させることとともに、
「そ
れだけでいいのか」、「自治基本条例を作った上で個別条例の内容も見直したほ
うがいいのではないか」、このような論点が出てくる。
大和市の例で、自治基本条例の中に「市民」という定義がある。他の条例で
「市民」という規定はいっぱい使っているのだが、自治基本条例の定義と違う
ものも尐なくなかった。条例によって、
「市民」に在住者・在勤者・在学者、あ
るいは利害関係者、納税者が入るケースもある。さまざまな条例によって違う
から、それを、
「自治基本条例で「市民」という定義を入れたのだったら、他の
条例も全体的に整備しよう」と、このようなことを大和市は行っている。
もう一つは、私の意見だが、行政手続を例にすると、行政手続に関する法律
として「行政手続法」があり、同法の第46条の規定で「国の行政手続制度、法
律を踏まえて、自治体でも行政手続制度を整備するよう努めなさい」と書いて
ある。いくつかの自治体の行政手続条例は、第1条で「この条例は、行政手続
法第46条の趣旨にのっとり」などと書いている。これは「法律を受けた条例」
ということで、それでいいのか。我がまち、川越市の行政手続を定めるのだっ
たら、自治基本条例に行政手続の規定を設けることが多いことも考えれば、そ
の自治基本条例の規定を受けたらどうか。
「この条例は、自治基本条例第○条の
規定に基づき、本市における行政運営の公正の確保、透明性の向上に資するこ
とを目的とする」、こういうイメージで。
(3) 自治基本条例を受けた新たな制度(条例等)の整備
やはり自治基本条例を制定する以上、これからの川越市の自治に必要な制度
を検討する必要があると思う。ここにいくつか例を挙げたが、そういうような
ものを整備していくことが必要で、そうでなければ、自治基本条例に掲げられ
た各頄目はまさに、場合によっては空文化してしまうというか、絵空事になっ
てしまう。それを実行するために市民も職員も議員も活動するのだが、やはり
特に制度になるようなもの、
「市民参加」など一番分かりやすいが、こういうよ
うなものについては条例や、中には要綱のようなものもあると思うが、こうい
うものを整備していくということが必要だろう。あるいは既に要綱で定められ
ているものについては、やはり自治のルールとして条例化していくことが必要
かと考えるが、そういうようなものも、この自治基本条例の制定とともに、
「ま
ちづくりの推進」などといった規定を受けて個別の条例を、更に要綱を条例化
していくなども考えられると思う。
(4) 実効性の確保・効果を発揮するための取り組み
自治基本条例には理念、責務が多くなるが、それをお題目に終わらせない取
16
組が必要であろうということで、まず「適切な運用」が求められる。これは多
治見市の例でお話ししたような、是正の規定を入れる、あるいは住民投票の条
例を作るというような取組と、自治基本条例に再度フィードバックしてくるよ
うな取組、あるいは茅ヶ崎市のところでも先ほど説明した自治基本条例の運用
方針について「アクション・プラン」を作っていくといった取組に見られる運
用を適切に行うということ。
加えて、自治基本条例自体の見直し。「適正な見直し・改善」が必要だろう。
ちなみに、厚木市の自治基本条例第 39 条では「この自治基本条例の運用状況
を評価し、4年を超えない期間ごとに、この自治基本条例の見直しを行うもの
とする」という形で「適正な見直し、改善を図っていきましょう」という対応
をしている。具体的な見直しの取組で代表的な例がニセコ町で、当初制定され
た「まちづくり基本条例」には議会の規定がなかった。その後、同条例にも4
年を超えないごとの見直し規定があるが、1回目の見直しで議会の規定を入れ、
さらに2回目の見直しも実施している。
ただ、一つ申し上げておきたいのは、最高規範的な位置付けにした条例をそ
んなにしょっちゅう変えていいのか。御存知のとおり、憲法は 60 年以上改正
されていない。それは、最高法規がしょっちゅう変わってしまうと、やはり法
的安定性も損なわれるし、人権が損なわれてしまったりすることも考えられる
ので、そう簡単には改正できない規定になっている。ところが自治基本条例は、
もともと条例だから議会で改正できる。それで4年以内に毎回見直しを行って、
本当にいいのかな、と多尐疑問がある。
これは厚木市の取組のときにも、茅ヶ崎市の取組のときにも私はそういう意
見を言ったのだが、やはり「小さく生んで大きく育てたい」というイメージ「直
していくことをベースにしましょう」ということだった。だからこそ厚木市の
規定には、見直しをするのはいいが、
「きちんと手続きを踏みましょう」、
「市民
参加でやりましょう」という規定を入れた。
(5) 地方政府基本法(地方自治基本法)制定の動きとのリンク
これは将来の話になるが、地方自治法の改正が今国会に提案される見込みで、
専決処分の見直しだとか、議会の召集の規定とかの部分がそうだが、相変わら
ず「つぎはぎ」、対症療法である。そこで、別途現在検討されているのが、地方
自治法を抜本改正して「枠組み法」化しようという動きで、「地方政府基本法」
あるいは「地方自治基本法」というようなものに改めようと検討されている。
既に検討は始まっていて、中でも「多くのことは枠組みだけ決めて、その先は
自治基本条例に委ねたらどうか」という検討がされている。そこまで明確に書
かないとしても、地方自治法とか、個別の自治を定めるさまざまな法律が「枠
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組み法」に変わっていったとしたら、自治基本条例がまさに出番になってくる
ということがいえるのではないかと思う。
5 先進事例にみる自治基本条例の策定過程
厚木市の例を中心に、尐し先進自治体の自治基本条例の取組の経緯だとか、
論点を尐しお話してみたいと思う。
(1) 厚木市の取り組み
厚木市の自治基本条例は、私が学識経験者として、最初から最後まで関った
ので、ここで尐し挙げてみる。
① 制定までの経緯
(参考:講座資料
抜粋)
・市民説明会(8か所)
・厚木市自治基本条例制定を考える市民会議(49回にわたる会議)→市
長へ提言
・自治基本条例フォーラム(2回開催)
・厚木市自治基本条例策定委員会(17回の会議)市長へ答申
・条例素案の作成(自治基本条例担当・法制担当・専門委員協議⇒経営
会議)
・条例素案のパブリックコメント(38人117件の意見提出)=16か所
修正
・条例案の市議会提案(H22年9月定例会)→「継続審査(閉会中審査)」
・H22年12月定例会=全会一致可決(12月21日)→12月24日公布・
施行
厚木市自治基本条例が制定されたのは去年の 12 月で、検討をスタートした
のが平成 20 年6月なので、約 2 年半をかけて、全くない状態から、自治基本
条例を作り上げた。
制定の経緯としては、まさに「パブリック・インボルブメント」という、重
層的、多様な市民参加を行っている。最初に市民に自治基本条例の取組を認識
してもらうため、行政が市内8箇所で「市民説明会」を行っている。
その後「厚木市自治基本条例制定を考える市民会議(市民会議)」、を立ち上
げた。これは「これから厚木市で自治基本条例の制定に向けて取り組むに当た
18
り、市民の方の検討組織を作ります。この会議に参加希望する方は手を挙げて
ください」ということで募集を行っている。行政が募集をかけたが、手が挙が
った人全員メンバーにした。抽選とか面接などをして選定するのではなく、応
募者全員をメンバーとするということで、実際には、途中やめた人もいるが、
35 人が参加した。これを多いと見るか、尐ないと見るかは見解が分かれる。厚
木市も 20 万人都市、そこで 35 人の参加は「も」なのか「しか」なのか、判
断は分からないが、そのような状況だった。
ただその 35 人は、だいたい月 2 回の全体会議を平日の夜開催し、さらに分
科会を作って、分科会によってはそのメンバーが個々にまた会を設定して、の
べ 49 回にわたる会議を開いた。私も全体会議はほぼ全部出席したと思う。分
科会もできるだけ出るようにしていたが、市民だけの会議で条例に盛り込むべ
き内容を検討し、市長に提言をした。自治基本条例の骨子になる部分で、検討
の際、事務局から素案は出していない。ただ、他都市の例を示すということは
している。全くない段階から市民が議論をするということで、最初のころは「自
治基本条例なんて何で必要なんだ」、
「必要ではないと思う」、そんな意見が出て
きた。次いで「作るならどう作るか」など、さまざまな議論が交わされた。た
だし、一つだけ申し上げておきたいのは、会議のルールは作った。
「他の人の発
言を否定してはいけない」、
「ちゃんと受け止める」。そして自分の意見を述べる
といったきちんとしたルール。どうしても、みんな考えが違うから、とりわけ
「声の大きい人がずっとしゃべり続ける」というケースがよくある。それは絶
対にだめで、みんな一緒に参加しているという共通認識をもつことに心がけた。
こういうルールを作った上で、議論はいろいろとあったが、何とかまとめた、
まさにゼロから。その間、市民が中心となって「自治基本条例フォーラム」を
2回開催している。
そして、厚木市は「二段階方式」といい、市民だけで検討する「市民会議」
でまず骨子を作り、それをベースにして市長へ提言する。
その提言を基に、
「厚木市自治基本条例策定委員会」を組織した。こちらには、
前述の「市民会議」のメンバーが2~3人と、市の各界の代表者、学識経験者
がメンバーとなっている。それから職員も入った。
「職員というのはこういう委
員会にはなるべく入らないほうがいい」とよく言われるのだが、職員が入った。
なぜかというと、職員の責務や行政制度の確立など職員に影響のある部分が自
治基本条例には多いわけで、
「職員の意見をちゃんと聴く、職員にちゃんと意見
を言わせる」、こういう機会を作った。議員は入らなかった。それはなぜかとい
うと、議員は議会で審議していただくということで、後に申し上げるが、議会
の規定は議員で決めて作ってもらうので、そのようになった。ちなみに、私は
専門委員なので、事務局としてかかわった。この策定委員会も 17 回の会議を
19
開き、「市民会議」の出した提言をベースにして、ほとんど修正しなかったが、
市長に答申をした。
それを受けて行政内部になるが、市長、副市長が入る「経営会議」で条例素
案を策定し、更にパブリック・コメントを行い、必要な修正をかけ、そして議
会に提案した。
議会には、去年の 9 月の第3回定例会に条例案を提案した。このときは、実
は「継続審査」になった。1回の議会では議決されなかった。
「継続」になった
上で閉会中審査をして、12 月の第4回定例会で再度審議し、ここで全会一致の
可決、12 月 24 日公布・施行になったと、こういう経緯をたどった。
② 条例(前文・12章40か条)の概要(特徴)
ア 構成
「構成」としては、今では「特徴」ともいえないかもしれないが、前文は「で
すます調」を使った。一方、本則は「である調」を使った。
条文についてだが、
「法制執務」というのは難解で、例えば「直ちに」と「速
やかに」と「遅滞なく」は全部意味が違う。
「一番早く」というときには「直ち
に」を使い、一番ゆっくりでいい、
「とりあえず事情が許せばなるべく早く」と
いうのが「遅滞なく」、その中間が「速やかに」。法律や条例はすごく難解に見
えるかもしれないが、短い条文できちんと読めば解釈が同じになる。だから「市
民会議」で出された提言を中心にして、内容はほとんどいじらないようにした
のだが、条文のチェックだけはきちんと行った。それは市民の方にも理解して
もらった。
「市民の心」これを条例にする、自治基本条例にする、これにすごく
心がけた。それでも従来の法務、条文とは違うところもある。それはイの「特
徴」のところで申し上げたいと思う。
イ 特徴(総論的事頄のみ)
これは私の提言で実現したのだが、厚木の自治基本条例を見ていただくと、
第1条の目的のところで、
「この自治基本条例は」と書いている。それから第2
条「自治基本条例の位置付け」、これが最高規範的な部分だが、ここでも「この
自治基本条例は、厚木市の自治を推進する上で、最も尊重すべき条例とする」
と規定している。何を申したいかというと、普通、条例でその条例を引っ張っ
てくるときは、
「この条例」という。ところが、憲法を見てもらうと分かるのだ
が、必ず「この憲法」と書いてある。憲法は法律ではないから。
「普通の条例と
は違う」
、だから「自治基本条例」という6文字の名詞として表記することとし
た。これは、法制ルールから完全に逸脱している。こんなことは絶対にやらな
いのだが、それを通した。全部で 13 箇所あるが、議会にも理解してもらった。
20
自治基本条例の改正手続は、先ほど申したとおり、制定時と同等の手続きを
しなければならないという、「準硬性憲法的」な位置付けにしてある。
議会と議員の規定は、
「市民会議」からの提言もあったのだが、基本的には議
会側でも検討が進められ、議会から示された条文をそのまま使った。要するに
「議会の部分は議会自身が決めた」ということである。
総合計画の規定は、先ほど尐し言った話で「基本構想、それから総合計画を
きちんと自治基本条例に明定しよう」ということで、自治基本条例に明確に位
置付けた。
「法令遵守」の規定も興味深い。
「法令遵守」は、だいたい自治基本条例なら、
職員あるいは執行機関側に対して義務付けるために規定を置くケースがあるが、
厚木市の規定は、市民に対しても法令遵守を位置付けている。市民も協働に当
たって公益性のある活動に携わることから、
「法令及び条例等を遵守しなければ
ならない」ということを定めた。これも「市民会議」から提案されているとこ
ろがポイントだと思う。
「地区市民自治推進組織」の規定は、狭域自治の仕組みで、市全体で自治は
進めるけれども、更に地域ごとに、ある程度財源と権限を委ねて自治を進めよ
うというもの。有名になった名古屋市の「地域委員会」では、地域住民が投票
をして地域委員を決める。厚木市の制度がこれからどうなるか分からないが、
そういうようなイメージも踏まえた地域の推進組織を作ろうという趣旨。
それから住民投票についても、根拠規定を設けている。
③ 議会による修正議論
条例案については、議会による修正議論があった。
自治基本条例の制定に向けては、議会も相当な覚悟を持って臨んだ。2年か
けて「市民会議」が中心になって自治基本条例を作り上げてきた、これは高く
評価するし、
「市民会議」に対して敬意を表するということも言われていた。だ
からこそ、議会が真剣に審議しなければいけない。それには、常任委員会での
審議1回で結論を出すわけにはいかない。実際に条例内容について何点か指摘
もあった。だからこそ「修正をすることを前提に「継続審査」にしたい」とい
うのが、提案された最初の 9 月議会での結論で、その後、議会閉会中に、何度
か「総務企画常任委員会」が開かれて、そこで修正を検討された。まさにここ
で議会の政策法務能力が問われた。2年かけて作ってきたものをわずかの間で、
どうやって議会の考えを示し、修正をかけるか、その能力が強く問われた。
結果的に次の 12 月議会で、全会一致で可決された。
この間、議会側は「市民会議」のメンバーと懇談までしている。それらを踏
まえた議会審議の中で、次のような議論が交わされた。「真剣に修正を考えた、
21
しかしそれぞれの規定がもっともなことがよく分かった」、「細かい点はまだ修
正すべきところもあったかもしれないけれども、そんな細かいところを修正す
るのは、かえって本末転倒だ」など委員会で述べられていた。そして、全会一
致となった。
結果的に十分議論した結果ということでいけば、全会一致も意義深いものが
あるのではないかと、私はこのように思う。ただ一点、細かいが、厚木市の自
治基本条例の 40 条の後の附則。
「附則」というのは本則に負けず劣らず重要な
規定で、
「経過措置」だとか「例外規定」などが設けられるが、附則第2頄以下
は、「この自治基本条例を制定するに当たって、他の条例を改正する」という、
関係条例の改正規定。この規定について議員から厚木市の最高規範である自治
基本条例として「美しくない」という意見が出た。制定条例の附則で他条例の
改正をすることは、確かに条例間に差異がないこともあり、一般的によく行わ
れる手法だが、自治基本条例の制定と別に、例えば整備条例として「自治基本
条例の制定に伴う関係条例の整備に関する条例」の制定や、1件ごとに改正条
例を出してもいい。それでその議員は「美しくない」と指摘した。こういう附
則の規定は自治基本条例自体にはかかわりなく、結果的に例規上は消えるのだ
が、
「これは美しくないよね」と。私は的確な意見ととらえていた。それで附則
第2頄以下を削除して、個別条例改正を行うのかなと思ったら、修正しなかっ
た。尐し残念だった。
④ 自治基本条例制定後の具体的取組
厚木市は制定後の実効性を確保するということで、資料のこの四角に囲った
ア・イ・ウの3つに取り組むことを議会で部長が宣言した。アとして、
「仕組み
の整備・措置を講ずる事頄」は年度内に行う。自治基本条例に書かれていなく
ても、できるものは、すぐやりますとした。ただ議会審議が 1 回「継続」にな
ってしまったので、もう尐しかかるのかなと思うが。さらに、イとして、要綱
で決められたものは、今年の6月議会を目途に条例化する。ウとして、先ほど
出た「地区市民自治推進組織」と住民投票制度は2年を目途に制度化する。こ
れを議会で宣言している。だから、取り組むということ、運用していくという
ことをまさに明確化したということがいえると思う。
(参考:講座資料 抜粋)
ア
イ
仕組みの整備・措置を講ずる事頄→年度内
要綱により措置している事頄→条例化検討(2011年6月議会提案
を目途)
ウ 地区市民自治推進組織(34条)
・住民投票制度(36条)→2年を目
標
22
(2) 他の自治体の策定の流れ(神奈川の事例から)
神奈川県内のいくつかの条例の策定プロセスを尐し紹介しておきたいと思う。
① 大和市
大和市は、「自治基本条例をつくる会」という、これも市民だけの会を設け、
ここでそれこそ 170 回を超える「パブリック・インボルブメント」によって素
案を作りあげている。厚木市と違うのは、その後「策定委員会」は作っていな
い。市民が作った素案をベースに市が条文整備し、議会提案する前に「議会協
議会」というものを開いて、議会の意見を受けている。その意見を踏まえて条
例を提案したというもの。市民としてはやはり「自分たちの出した素案を、極
力条例の条文にも反映してほしい」という要望も出された。とはいえ、一部修
正は入ったのだが、何とかうまくまとまっている。
市長交代により、自治基本条例を廃止までは無理にしても、改正しようとい
う動きがあったようである。ところが、いまだに自治基本条例は改正されてい
ない。なぜかというと、
「やはり170回もかけて、市民が真剣に作り上げた自
治基本条例をそう簡単に改正できない」という結論で、最高規範的なものがあ
る程度担保されている例と言えると思う。
② 茅ヶ崎市
茅ヶ崎市も同じく市民だけの組織である「市民検討委員会」を設置し、ここ
が自治基本条例の素案を提言し、これを行政当局が条文化したのだが、その際、
「市民検討委員会」と市当局との意見交換会を行って成案にした。ただここで
は、尐なからず市民と行政の意見が対立した。行政が委員会案をだいぶ直した
ということもあるのだが、ここで対立構造が生まれた。その結果、条例施行の
直前の去年の3月に、
「自治基本条例フォーラム」を開き、私もパネリストを務
めたが、市長も出てきて、さらに市民も入って討論をした。市民委員会から意
見書が出されたのだが、そこで市長が「この自治基本条例は確かに、市民の御
批判も分かる。だけれども、作ったものをまずしっかり実行することが必要だ
ろう」、「だから毎年執行状況を検証し、皆さんに報告します」と述べた。この
市長方針を受けてできたのが「自治基本条例施行に伴うアクション・プラン」。
一方、市民は「自治基本条例を見守る会」という市民団体を組織した。行政が
主導ではない、市民だけで作ったもので、ここで監視、あるいは提言などを行
っていくということである。
③ 南足柄市
南足柄市は、やはり市民だけの組織である「市民会議」が素案を提言したの
23
だが、一連の取組に学識経験者が誮も入っていない。これまで挙げた事例は、
学識者が入っている。もちろん素案を書いたりしない。市民間で議論をする中
で、専門家として意見を述べるわけだが、やはり影響力がある。南足柄市はそ
れをやらなかった、全部市民だけで作った。立派である。
同市は市議会で1回継続審査になったのだが、条例案が提案された定例会で、
常任委員会に付託され、そこでは「可決すべきものとする」との結論になった。
ところが、本会議で動議が出た。
「こんなに簡単に自治基本条例を決めてはいけ
ない」という趣旨で、急遽、動議が成立した。自治基本条例は継続審査とした
うえで、特別委員会が発足し、いったんそこに差し戻された。そして特別委員
会で修正が入り、次の定例会で一部修正し、議決された。
④ 小田原市
小田原市の例で、実は私の勤める大学の法学部は小田原にある。つまり私は
在勤者ということで、学識者ではなくて市民として、ときどき小田原市の取組
に参加したのだが、この小田原市の方式はまた特徴的である。
まず「プレ検討委員会」といって、川越市の「連続講座」と似たようなイメ
ージでよいかと思うのだが、もっと回数が多く、だれでも参加できる勉強会を
実施した。そうした上で、
「オープンスクエア」という公開検討会と、公募市民
が入った「検討委員会」を同時に開催して、両組織がキャッチボールをする。
「オ
ープンスクエア」というのは、誮が参加してもいい。手を挙げた人がメンバー
になるのではなくて、来たい人が来て、
「今日は福祉のことを話しましょう」、
「今
日は議会のことを話しましょう」と討議されたことが、
「検討委員会」で出され、
また「検討委員会」で議論したことがオープンスクエアにまた戻る、こういう
ことを繰り返し実施している。
もう一つ特徴的なのは、一切先進事例を見ない。今日示したこういうもの(追
加資料の厚木市の条例など)は参考にしないで検討するという原則を貫いてい
る。現在、素案ができ上がっていて、20 条あるかないかの短い内容で、こうし
た独自の取組を展開している。同市では、まだ自治基本条例は制定されていな
い。4月の統一地方選で市議会議員選挙があるので、その先の対応となる見込
みである。
⑤ 横須賀市
最後に横須賀市。冒頭の私の紹介にもあったとおり、私が元勤めていたとこ
ろで、これまで紹介した①から④までは特徴的な取組だが、決してこういう取
組ばかりではない。行政主導で取り組んでいる自治体も多数ある。横須賀市は、
市民会議的なものは設置していない。
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「検討委員会」という第三者機関を組織している。メンバー15 人中、過半数
の8人が公募委員で、実際に何十人か手が挙がって、その中から8人にお願い
したということである。検討委員会は月1回程度開催しているが、併せて、市
民だれでも参加できる「自治基本条例フォーラム」をこれまで3回ほど実施し
て、そこで出された意見を委員会にフィードバックするという取組が行われて
いる。尐し小田原に似た方式。
6 川越市の今後の検討に向けて
川越市では自治基本条例の取組を今後進めていくことになると思うが、何
点か留意というか、考えておくべきことを尐しまとめた。
① 自治基本条例はトレンド しかし、流行だから作るわけではない
自治基本条例は、やはり「トレンド」というところがある。今、毎議会どこ
かで定められているという話もしたが、とかく「市長のアクセサリー条例」、あ
るいは「パフォーマンス」、そういうこともなきにしもあらず。だけれども、そ
れではいけない。尐なくとも「最高規範的になる」ということは大事だし、一
方で「本当に自治基本条例が要るのか」という議論もあるのだが、そのときに
考えてみたいのは、今後川越市のアイデンティティを具現化していく、あるい
は、次の言葉はすごく好きな言葉だが、相模女子大学の松下啓一先生が、
「市民
がハッピーになるためのものでなくてはいけない」、「市民がハッピーになるた
めに自治基本条例があるといい」と、こういう考え方を示されていて、そうい
うようになっていくための自治基本条例でなくてはいけない。
「はやりだから作
る」ではいけないだろうと思う。
もう一つ論点があるのは、これも私がいろいろな自治体で関わって、必ず出
てくる話だが、
「即効性を期待してはいけない」ということ。よく、自治基本条
例を定めたら、
「これで緑を壊してマンションを建てるとか、乱開発、こういう
ものは止められる」などというふうに思って、手を挙げて検討組織に参加して
くる方とか、フォーラムに来る方も尐なくはない。自治基本条例は、いわゆる
「規制条例」ではない。理念が中心にあって、あるいは最高規範としてこれか
ら自治体が進むべき道筋を示しているもの。だからこそ、むしろ大事なのは「自
治基本条例のもと、市民、議会、行政がどう活動していくか」であって、自治
基本条例は行動のベースを築くものなのである。すなわち、
「裁判規範になるか
どうか」という問題は先ほど申したが、「行動規範」あるいは「行為規範」。自
分たち自治のアクターが活動していくための規範になる。更に条例である以上、
「行政計画よりも一段上」ということを認識してその中身を考えていく必要が
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あるということ。自治基本条例は「魔法の杖」ではない。
「使っていくことが大
事」ということである。
② さまざまな自治基本条例
いくつか例を申したとおり、自治基本条例の作り方に決まりはない。一方で、
自治基本条例の内容が根本的に違うというようなものがない以上、もしかする
と「コピペ」でも作れてしまう。今は便利な世の中で、インターネットで情報
が手に入るので、
「コピペ」が簡単にできる。他市の自治基本条例と全く同じ内
容を「川越市自治基本条例」と置き換えたらできてしまった。それで、議会が
議決すれば、制定されるわけだが、それではいけない。
大事なのは、仮に同じような条文になったとしても、作り方。条例に「魂を
入れる」ということ。それとともに、やはり「川越らしさ」もどこかに注入し
てほしいと思う。
③ みんなでつくる
市民・行政、市長・議会は、自治基本条例のパートナー、あるいは自治のア
クターで、ともに手を携えて、あるいはコンセンサスを得て作ること、これが
大事である。
ただ、全く対等に、同じように取り組むといっても、難しいと思う。
「餅は餅
屋」と書いたが、
「役割分担と協力」ということが挙げられると思う。やはり職
員は、給不をもらって昼間仕事をしているわけだから使えばいい。市民の方は
やはり、働いていたり、家事をしていたりするわけだから。そこでどう関わる
かということも考えられる。市民の関わり方、議会という立場の関わり方、さ
まざまなことがあるから、それぞれの役割をどう考えるか。そもそも「協働」
という考え方は、対等だけれども「各々の立場を理解して行うのが協働ですよ」
ということを考えると、この「役割分担と協力」が自治基本条例を創るには丌
可欠である。ただ、
「安易な妥協」という意味ではない。議論は尽くし、立場の
違いを乗り越えて「川越の最高規範を創る」という崇高な目的のもとに議論さ
れるといいのではないだろうか。
④ 自治基本条例が制定されると
「自治基本条例が制定されるとどうなるのか」ということだが、東京の多摩
市で自治基本条例が作られたときに、策定に関わった市民の方に話を聞いたこ
とがある。
「多摩市で自治基本条例が制定されて何が一番変わりましたか」と聞
いたときに最初に出てきたのが、「職員が変わった」という答えだった。
「職員が変わった」、何かつまらないな、と思うかもしれないが、自治を日ご
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ろ運営している、皆さんに成り代わって運営している職員が変わっていくとい
うのはすごく大事で、そうすると職員の意識が変わって、あるいは自治基本条
例にのっとった取組を進めていくことになると、行政が変わる。行政が変わる
ということは、その行政は新しい仕組も作るし、それに応じて市民の方も変わ
っていく。市民が変われば地域が変わっていく。
最後は大きく出て、
「国が変わる?」、
「?」としたが、こうなっていく。分権
とか地域主権というのは、国と自治体の権限争いではない。今の日本がつぶれ
ないためには、自治体がまさに自分たちのことを自らやっていくしかない。そ
うなると自治基本条例は、もしかすると、本当に大きく出たが、国を変える大
きなファクターになるのではないのかと、このように思う。
もっとも、ここで注意していただきたいのは、
「職員が変わる」としたが、自
治基本条例を制定したからと言って変わらない。そうではなく、正しくは、
「職
員を変える」、「行政を変える」ではないだろうか。では誮が?自治基本条例が
変えるということになるわけだが、それは、そのアクターのみんなで変えてい
くということだと思う。自治基本条例は「作ったら終わりではない」というこ
とを最後に申し上げておきたい。
地域主権改革は、まさに個性豊かで活力に満ちた地域社会を実現することで
ある。そのためにも、
「団体自治」はもちろんだが、
「住民自治」も重要である。
「団体自治」はさらなる国の改革で充実していくと思われるが、自治基本条例
は、
「住民自治」を活用する最大の力となると私は思う。この自治基本条例を積
極的に活用していく、そのためのスタートで、もちろんまず創ることが先決だ
が、これからの川越市の取組に期待している。
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