レーザーデータによる那珂川とその周辺の地形区分 黒木貴一*・磯 望**・後藤健介***・宗建郎**・黒田圭介** * 福岡教育大学,**西南学院大学,***長崎大学 1.まえがき 一般に地形区分ではステレオペア空中写真の実体視 判読を実施するが,広域を対象とする場合には,衛星画 像による判読や DEM を用いた自動分類が通常用いられる。 一方,狭い範囲に空中写真判読を適用することを想定す れば,画像の粗さ,立体感の消失,樹木等植生による地 表被覆が問題となり,地形区分はスケールが増すほど困 難となる。ところがレーザーデータは,色彩による景観 の印象は得られないが,画像解析で微妙な立体感を強調 でき,樹木等植生による地表被覆はあまり問題とならな い。そこで狭い範囲に対するレーザーデータを用いた地 形判読方法に関する検討が必要かと思われる。山地・丘 陵地の斜面に対しては,近年レーザーデータによる GIS を用いた微地形区分手法が多く提案されているが,平野 の微地形に関してはまだ十分ではない。特に一級河川に 比べて二級河川は,一般に延長,流域面積ともに小さく 氾濫時に形成される微地形の規模が小さいため,地形区 分はより難しいと思われる。しかし,福岡平野には都市 河川としての二級河川が多くあり,しかも近年は氾濫に よる被害が頻発している 1)-2)。 本研究では平成 21 年 7 月中国・九州北部豪雨(2009 年 安徳台 豪雨と略称)により氾濫被害の生じた那珂川中流域を対 象に,レーザーデータによる地形区分方法を検討し,そ の区分結果の有用性を示す。 2.研究調査概要 2.1 研究対象地域 本研究では, 福岡市の南に位置する那珂川町(約 75km2) Fig.1 Study Area 2 の北部 5km を研究対象地域とし,当該地域にある那珂川 (延長約 35km の二級河川で福岡市を通過し博多湾に達す る)及びその周辺の地形に着目した(Fig.1)。那珂川町北 部は標高が 2030m の平野があり, 平野中央部には標高約 60m の Aso4 の火砕流台地(安徳台)があって平野は南北 に分断されている。 その平野に 2009 年豪雨による氾濫被 害が生じた。 Fig.2 Landform Image 2.2 研究方法 2m メッシュのレーザーデータ(2007 年)(国際航業の RAMSe)を使用し地形区分を試みる。地形は, 一般面(旧河道や後背湿地),堤防(人工堤防と自然堤防),法面(河岸),河床,水面,その他(山地・丘 陵,段丘)とした(Fig.2)。地形区分は,レーザーデータ以外に国土地理院撮影の 10000 分の 1 カラー 空中写真(2007 年)を併用する手法を検討した。 2.3 地形区分の検証 研究対象地域の最上流地点(河川距離 0m)から下流方向に 25m 間隔で解析区間を設定し,各区間に対 する地形区分毎の平均標高を求めた。また 2 時期のレーザーデータ(2002 年と 2007 年)の標高差の分 布と 2009 年豪雨による溢流地点との対応,その際の河床付近の土砂堆積状況とを比較した。各検討を 通じて豪雨に伴う氾濫に対する那珂川の脆弱性を整理した。 3.研究調査の結果 3.1 地形区分方法 陰影図は地形をよく表現できるが,光源方位次第で場所により視覚的印象が変化するため判読には 工夫を要する。そこで地形判読のための陰影図は光源高度を 45 度とし,光源方位を 315 度と 225 度の 2 種を用意した。また地表の植生による DEM の精度低下域(地形印象が三角形斜面になる)を確認する ためカラー空中写真を用いた。Fig.3 は判読に使用した画像と判読結果を示す。たとえば(2)では光源 方向と同じ走向(NNESSW 方向)の那珂川北部の地形判読はできず,(3)では植物に覆われる河岸の法面 Fig.3 Reference Images for Landform Classification and Result と河床境界が見えない。そこで(1)∼(3)の 3 画像を交互に重ね合わせ目視判読した。これより空中写 真や陰影図単独では判読しにくい平野の微地形区分が可能となった。 (4)は 1500m 付近の地形区分に解 析区間を重ね合わせた。地形は河道両側に法面があって所々堤防が見られる。河道には河床と水面が 区分されるが,水面は(1)と(2)に三角形の地形表現で示されるため,河床に比べレーザー測量が十分 にできていない。そのため,水面の標高は以後参考値として扱う。 3.2 地形区分毎の平均標高 Fig.4 に地形と平均標高との関係をグラフ化した。標高は各区間に対し法面を基準 0m とする標高差 で示した。標高は,一般面が0.4m∼3.5m,堤防が0.3m∼3.2m,河床が3.8m∼1.0m,水面が4.9m∼ 0.7m,その他が 1.3m∼14.6m にあり,低い方から概ね水面,河床,一般面,堤防,その他である。 法面と河床との標高差は3m から 0m の範囲に多くあり,3500m 付近より上流では約1.5m で,それ より下流では約2.5m であり上流より約 1m 小さい。前者では,1500m と 3400m 付近に向かって法面と の標高差が徐々に縮小し,最接近後に反転し標高差は急拡大する。標高差の最接近区間では,河床の 平均標高が法面を上回る結果となった。このような標高差の変化は,後者では 4300m と 5200m 付近に 見られる。5200m 付近を除けば,各区間付近には堰が設置されている。標高差グラフの頂部平坦さか ら判断すると,大きな河床上昇区間は西隈井堰では 1150m より下流に,柿の井堰では 2900m より下流 にあるため,両堰とも上流約 500m 区間に影響を強く及ぼしている。また 200m,700m,2100m,2300m, 3500m,4600m,4800m 付近では,前者ほど顕著ではないが法面との標高差が短い区間で約 1.5m 増減す る変化が認められる。各波長は数 100m である。これら区間付近には橋がある。したがって法面と河床 との標高差は,洪水時に障害となる堰の上流ほど,橋に近接する場所ほど河床に多くの土砂が蓄積さ れてきた歴史を示している。 Fig.4 Ground Elevation on Each Landform 一方,法面と堤防との標高差は平均すると約 1.5m あり,上下流での相違は法面と河床とのそれに 比べて小さい。また,標高差は 600m,2600m,5200m 付近に向かって増加し約 3m となり,以降は縮小 し 1400m と 3000m 付近では 0m 程度まで減少する。 法面と一般面との標高差でも同様の増減傾向が認め られる。しかし法面に対する堤防や一般面の標高差の増減と河床のそれとはあまり調和が見えない。 つまり自然堤防(堤防一部)形成と堰や橋との関連性は薄く,別な要因があると思われる。 既存文献 2)記載の氾濫水の流向と解析区間を重ねると,2009 年の溢流点は 300m,375m,800m,1300m, 1575m,1800m,1950m,2000m,2050m,2125m,2150m,2350m,2475m,2725m,2825m,3450m,3625m 付近にある。大半の区間が堰や橋との近接位置にあり,溢流はそこで土砂の堆積に結びつく洪水の停 滞が生じたことが背景にあったと考えられる。しかし,1300m,1575m,2825m には目立つ障害がない。 前 2 者は,堤防と河床との標高差が極端に近接する区間であり,洪水が堤防を溢流しやすかったこと が考えられる。2825m 区間は那珂川が西に転向する場所でかつ柿の井関による大きな河床上昇が近傍 まで及ぶ場だったことが要因として考えられる。 3.3 2002 年∼2007 年の5年間の標高差 Fig.5 は,2002 年と 2007 年のレーザーデータから求めた河床の標高差の平均と標準偏差である。 レーザーデータの高さ精度は約±15cm なので,十分信頼できる±0.3m を超える標高差に注目する。 600m から 1300m まで標高差が徐々に拡大する。これは Fig.4 と比較すると西隈井堰による土砂堆積範 囲の上流側に土砂が付加したことを示している。 この間の大量の土砂堆積の要因として 2003 年 7 月九 州豪雨に伴う洪水が考えられる。 西隈井堰と柿の井堰間では, 西隈井堰の直下流は約 0.5m 上昇したが, 同堰と柿の井堰間の上流側全体は約 0.5m 標高が低下し,下流側では変化が見られない。局所的に 2m 以上低下している 1425m,2175m,2425m 付近は,河畔林の密度が高く 2002 年のレーザーデータが十分 取得されなかった影響が出た可能性があり,実際には当該区間の標高変化は少なかったと思われる。 柿の井堰より下流ではほとんど標高差はない。しかし,標準偏差は 3400∼3700m,4400∼4800m 付近で 高まっており,この区間では堰や橋による土砂の堆積と侵食が激しくなっているものと思われる。 Fig.5 Elevation Change on River Bed 3.4 2009 年豪雨による土砂の堆積状況と標高差との関連 Photo1(2010 年 2 月 3 日撮影)は Fig.5 で約 1m の標高上昇を示している 1250m 付近の 2009 年豪雨後 の状況である。堤防法面を侵食すると同時に,河岸に厚さ 1.5m 以上の新しい土砂が堆積し,その土砂 は水面下にも続く。Photo 2(2009 年 8 月 2 日撮影)は Fig.5 で約 0.5m の標高上昇を示している西隈井 堰直下流 1850m 付近の 2009 年豪雨後の状況である。河床に厚さ約 1m の新しい土砂が堆積している。 このようにレー ザーデータの標 高差は,今後土 砂が堆積しやす い場所を示して いるといえる。 4.まとめ Photo 1 Landscape at Section 1250m Photo 2 Landscape at Section 1850m レーザーデ ータ(2m メッシュ)による地形区分結果を用いて,那珂川の堤内外の標高と標高変化を検討した結果, 1)光源方位の異なる陰影図 2 枚と空中写真を同時に判読し河川およびその周辺の詳細な微地形区分が できること,2)地形区分ごとの平均標高の上下流方向の分布から堰や橋による河床の土砂堆積状況を 示せること,3)堰や橋の近傍以外にある 2009 年氾濫の溢流地点は,河床標高の上昇域にあり,中でも 河床と堤防との平均標高が極端に近接する区間にあること,4)標高差から河床に土砂が堆積しやすい 場所を示すことができること,が分かった。 謝辞 本研究は,平成 22 年度河川整備基金助成金による研究課題「異常豪雨による都市域の大規模氾 濫災害に関する調査研究(代表:橋本晴行)」の一部として実施した。現地調査では福岡教育大学の平成 22 年度自然地理学ゼミ生に援助を得た。ここに記して謝意を表します。 参考文献 1)黒木貴一・磯 望・後藤健介・張 麻衣子(2005):2003 年九州豪雨による浸水状況か ら見た福岡市博多駅周辺の土地条件.季刊地理学,57,6378.2)黒木貴一・磯 望・後藤健介・黒田 圭介(2010):平成 21 年 7 月中国・九州北部豪雨による那珂川町の被害.自然災害研究協議会西部地区 部会報・論文集,第 34 号,113116.
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