人間は考える葦である

連 載
第 12 回
“人間は考える葦である”
京都のとある建物の 2 階の一室、2、3
人のデザイナーから起業した㈱シェアー
ズ。品質の高さとオリジナリティーにこ
だわった招待状や席次表のデザインを追
求し続けてきた。そのこだわりが実を結
び、2002 年婚礼印刷物を専門とする印
刷会社として㈱ジャストプリントを設立。
今 は 120 人 を 超 え る 部 隊 に 成 長、 全 国
700 を超える会場と提携している。そこ
で成長し続ける中で取り組んでいる人材
育成へのこだわりを八木治社長にお聞き
した。
モチベーションを自分から上げていける
働く環境作りが企業成長の鍵
NO を GOOD に変える発想力
福永 招待状や席次表、そして今で
はキャンドルやフレグランス商品な
どのウエディング関連商品の開発や
販売も手掛けられ、まさに急成長さ
れていらっしゃいます。スタッフが
増えている中で八木社長が目指すべ
き企業に向けて、どのような人材育
成や管理をされていらっしゃるので
すか。
八木 企業理念は「心地よさ」の提
供です。ジャストプリントにおいて
は印刷業であるとともにサービス業
であるという意識ですべてのお客さ
まに「心地良さ」を感じていただけ
る商品やサービスを追求し、提供し
続けています。この方向がブレない
ようにするためには、スタッフが前
向きで建設的な考え方であること、
そして NO を GOOD に変える発想力、
意見力を持ち、個々の将来のビジョ
ンを描き、それを実現する行動力を
持たせられる働く環境を作ることを
私の使命とし、日々取り組んでいま
す。
福永 そのためには具体的にどのよ
うなことをされているのですか。
八木 フランスの哲学者が言われた
「人間は考える葦である」という考え
にたち、自然界の中で人間ほど弱い
ものはありませんが“考える”こと
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ー 2015.12.4 ー
㈱シェアーズ/㈱ジャストプリント
代表取締役社長
八木 治 氏
1963 年 4 月京都市生まれ。95 年ウエディングの
商品開発を中心とした㈱シェアーズを起業。7 年後、
婚礼印刷部門を分社化し、㈱ジャストプリントを設
立。ともに代表取締役に就任。
ができます。考えることによりおか
れた環境で生きていくための知恵や
発想が生まれます。仕事も同じです。
上から強制的にさせるのではなく、
常に自身で考える習慣をつけること
により目標を持ち、そして自己の目
標達成のために前向きに行動し始め
ます。大いに悩むことで人間の能力
や感性は伸びます。会社でも上司で
もなく、モチベーションは自分で上
げていくということなのです。
㈱フェイス 代表取締役
福永有利子 氏
レストラン・ゲストハウスのウエディングプランナー
から各現場の管理職としてマネジメントを担い、確
実に業績を伸ばしてきた。2003 年にウエディング
プランナー養成スクール講師をはじめ、06 年より大
学にて非常勤講師として教壇に立ち、現在も教鞭を
執っている。06 年堂島ホテル婚礼部長に就任、そ
の後 08 年同ホテル副総支配人に昇任。09 年には
㈱フェイスを設立し、代表取締役に就任。現在は、
ホテル・ゲストハウスを主に成約率向上を目的とした
トレーニングや集客戦略立案・実践支援などのコン
サルティングに加え、ウエディング全般にわたる支援
を行なっている。著書・ウエディングプランナーじゃ
ない、アカンのは上司や! 悩める管理職のアメムチ
19 の育成術
福永 “モチベーションを上げてもら
えない”と SOS を発しているウエ
ディングプランナーが多くいます。
人から上げてもらうのではなく、自
分で上げられる環境をいかに作り上
げていくかということなのですね。
ほ
八木 よく報告、連絡、相談、
“報・
れん
そう
連・相 ”を社内外的なコミュ二ケー
ションの基本としていますが、それ
を押しつけて実行させる気はありま
せん。あくまでもルールであり自発
的な行動にはなりにくいからです。
必要なときは行なえばよいし、事業
的に必要なければ無理して行なう必
要はありません。それよりもヒアリ
ング能力を高めるために、私自身、
スタッフ全員とヒアリングを行なう
ことで、話を聞くことやお互いに情
報を共有することの大切さを自然と
身につけさせています。また常に Do
you understand? を 繰 り 返 し て い ま
す。つまり、どこまで分かったのか
を自分で分かること、また教える側
はどこまで理解しているのかを知る
ことで、個々の現状にあったアドバ
イスや目標数値の修正などを行なう
ことができるからです。
半年に 1 回、スタッフ全員にヒアリ
ング
福永 スタッフ全員に八木社長がヒ
アリングをされていらっしゃるので
すか。
八木 半期ごとの目標を立てさせて
いますので、半期ごとに必ず実施し
ています。一人一人に目線を向け、
きちんとアドバイスをすることが大
切なことだと思うからです。その目
線もときには下から、ときには上か
ら、そしてときには正面から向けて
います。個の人間の成長にためには
さまざまな角度から見てあげること
で、自身が不足していることが明確
になってきます。そしてその問題に
対しての解決策を自身なりに模索を
することで人間的にもますます成長
していきます。
福永 そこまで個々に目を向けても
らえる環境は素晴らしいですね。ウ
エディングの現場ではなかなかそこ
まで上司が部下の面倒をみることが
できない状況や、できていない現状
があります。新人にも“あれやって、
これやって”と新人からすれば雑用
としか思えないことを説明もなく指
示しています。ウエディングの業務
はどんなことにも意味があります。
その意味や目的を理解させずして指
示していたのでは成長はありません。
常に理解をしているのか、まさに Do
you understand ? を投げかけること
が必要ですね。
八木 レポート的な活字による報告
やマニュアルだけでは社内的なコ
ミュ二ケーションは図れません。も
ち ろ ん、 ま っ た く や ら な い よ り は
日報的なシートはあった方が良いで
しょうが、最終的には対面で、言葉
でコミュ二ケーションを取ることで
す。そのためには私自身が歩いて出
向き会話をしています。待っていて
も本音の声や何かの叫びは聞こえて
きません。また単に聞くだけではな
く NG を徹底的に吸い上げるクセを
つけることの大切さを教えています。
どうしてもマイナス面は覆いたくな
りますが、もしかしたらそこにチャ
ンスがあるかもしれません。まさに
NO を GOOD に変える発想力や意見
力を養うことができるのです。
自分のフィルターを通した感想文を
提出
福永 八木社長は常にプラス志向で
すね!
八木 ときには“なんで生まれたん
やろ?”と思ってみたり、京都生ま
れの京都育ち、小中学校も皆同じ仲
間で育ちましたので、大学時代に初
めて京都を離れてカルチャーショッ
クを受けました。結果的に外から京
都を見ることができ、改めて京都の
文化や人間性の素晴らしさを実感し
ました。京都人は二重人格で本音を
言わないと言われますが、本音を言
わなくても悟らせるべきという風潮
があるようです。身なりや体裁で相
手に感じさせることに重きをおいて
いたことを理解するとともに、ビジ
ネスにおいても同様に人間力を高め
ることで自然と人となりを感じさせ
ることが大切であると感じておりま
す。
福永 そのためにもさまざまな経験
や感性を磨くための自発的な行動な
ど、能動的に動かなければ体に吸収
することはできません。どうしても
日々の業務に追われがちですが、自
分を成長させるためには、何かを見
たり、食べたり、いろいろな方々と
話をする時間を自らが作らなくては
なりません。
八木 おっしゃる通りです。ネット
や本にはない情報や空気感は自分の
目で見て、耳で聞き、肌で感じなけ
れば分かりません。例えばスイーツ
のショップでメニューを見ただけで
おいしそうに見えるか? など疑問を
感じながら見ることで見方が変わり
ます。また当社では選抜メンバーで
香港へ研修旅行に行くのですが、単
に旅行を楽しむだけではなく、帰国
後に必ず感想文を提出させています。
自分なりのフィルターを通して書き
ますので、個々の感性によりとらえ
方が異なります。それにより現段階
における感性や感覚における課題を
見出すことができるからです。参加
者の感想文を読みその部分を指摘、
アドバイスします。そうすることで
結果的に自己成長へと発展していく
のです。
福永 強制しないこと、自身で“考
える”という働く環境を作り上げる
こと、考えることにより自己を成長
させ、さらにはモチベーションアッ
プとなり、最終的に個の集団のパワー
を発揮させるのですね。八木社長の
徹底した社員育成、管理があったか
らこそ、急成長を成し遂げ、さらに
飛躍しているのですね。“人間は考え
る葦である”まさにここに育成の原
点があることを知ることができまし
た。本日は、ありがとうございました。
ー 2015.12.4 ー
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