編集/(社)全国宅地建物取引業保証協会苦情解決業務委員会 第●号 自然災害と防災に関する 重要事項説明 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 吉野 伸 最近、 法令上の制限が厳しくなってきています。 法令の数が多くなっているだけでなく、 内容も複雑になっているので、 重要事項説明の仕事では基礎的な実務知識を よく整理しておかなければなりません。 今回は、 宅地造成等規制法の改正がありましたので、 法令上の制限のうち、 自然災害と防災について説明します。 Ⅰ 防災のための区域や土地の指定について重要事項説明とさ このような自然災害からの防止に関する法令上の制限の調 れているものの根拠法令をまず確認してください。根拠法令は 査はかなり難しいといえますが、調査する人が知識・経験・ノウハ 次のとおりです。 ウをもとに調査している物件には「何かある」と気づくことが最も 1 12 page 説明事項と根拠法令 区域・地区・土地 根拠法令 災害危険区域 建築基準法 大切です。そのことについてはこれから述べることにします。 また、調査だけではなく、制限の概要を書面に記載したり、対 面説明をしたりすることも重要であって難しい仕事であることは 2 宅地造成工事規制区域 宅地造成等規制法 3 造成宅地防災区域 宅地造成等規制法 4 ぼた山崩壊防止区域 地すべり等防止法 5 地すべり防止区域 地すべり等防止法 6 急傾斜地崩壊危険区域 急傾斜地の崩壊による災害の防 止に関する法律 7 土砂災害警戒区域 土砂災害警戒区域等における土 砂災害防止対策の推進に関す る法律 8 土砂災害特別警戒区域 土砂災害警戒区域等における土 砂災害防止対策の推進に関す る法律 9 砂防指定地 砂防法 います。その関係を整理してみます。法律と政令、省令の関係を 10 河川保全区域 河川法 分かっていなければ、全体を理解することができず、 かなり分かり 11 保安林及び保安施設地区 森林法 にくくなっています。この関係を示すと、図表1のとおりです。 いうまでもありません。 Ⅱ 法規制のポイント 1 自然災害の防災に関する規定 宅地建物取引業法(=宅建業法)に定める自然災害からの 防止に関する規定は、宅建業法を読んだだけでは分かりません。 具体的なことは、宅建業法の施行令と施行規則に定められて 2 宅地造成等規制法について 最近大きな改正があった宅地造成等規制法(以下「宅造規 事命令をすることができます(法22①)。 3 重要事項説明の規定 制法」または「法」)について説明します。 宅造規制法で重要な区域は、宅地造成工事規制区域と造成 宅地防災区域です。 自然災害の防止に関する規定について、重要事項説明のう ち「法令に基づく規制の概要」 (宅建業法施行令第3条関係) を説明しなければならないとされている法律とそのポイントを整理 A 宅地造成工事規制区域 (1)工事規制区域の指定 宅地造成に伴い災害が生ずるおそれが大きい次の土地の区 域について指定されます。 (a)既成の市街地 (b)市街地予定地 してみます。 これには、宅建業法施行規則第16条の4の2の土砂災害警 戒区域や造成宅地防災区域は含まれていません。これらの区域 については、物件が区域内にあるかどうか、 あるときその区域はど んな区域か説明をすればよく、いわゆる法令上の制限にはありま せん。 〈注〉区域指定は、市街化区域とは限らない。 (2)宅地造成工事の規制 ①工事規制区域内での宅地造成工事は知事等の許可を受け なければなりません(法8①)。 ②許可を受けた工事計画の変更(軽微な変更を除く) も知事 等の許可を受けなければなりません(法12①)。 ③工事計画の軽微な変更は、知事等に届け出なければなりま 図表1●宅建業法施行令・施行規則に定められた自然災害からの 防止に関する規定 Ⅰ.宅建業法第35条第1項第2号 法令に基づく制限で、契約内容の別に応じて 政令 で定めるものに関する事項の概要 せん(法12②)。 ④都市計画法の開発許可に適合している工事については、本 法の許可は不要です(法8①但)。 宅建業法施行令 (3)宅地造成 宅地造成とは、次のことをいいます(法施行令3条)。 ①宅地、建物の賃借以外の契約 第3条第1項に 定められている。 ②宅地の貸借の契約 第3条第2項に 定められている。 ③建物の貸借の契約 第3条第3項に 定められている。 ①切土であって、当該切土をした土地の部分に高さが2メートル をこえるがけを生ずることとなるもの ②盛土であって、当該盛土をした土地の部分に高さが1メートル をこえるがけを生ずることとなるもの ③切土と盛土とを同時にする場合における盛土であって、当該 盛土をした土地の部分に高さが1メートル以下のがけを生じ、 かつ、当該切土及び盛土をした土地の部分に高さが2メート ルをこえるがけを生ずることとなるもの Ⅱ.宅建業法第35条第1項第12号 ④前各号の一に該当しない切土又は盛土であって、当該切土 又は盛土をする土地の面積が500平方メートルをこえるもの その他宅建業者の相手方等の保護の必要性及び契約内容 の別を勘案して 国土交通省令 で定める事項 B 造成宅地防災区域(新設) (1)防災区域の指定 この区域は、宅地造成工事規制区域外の土地で、宅地造成 に伴う災害発生の大きい一団の造成宅地の区域については指 宅建業法施行規則第16条の4の2 ①宅地の売買・交換の契約 定されます(法20①)。 〈注〉造成宅地……宅地造成工事が行われた宅地 (2)災害防止のための措置と命令 ①知事等は、擁護壁等の設置、改造等について勧告すること ができます(法21②)。 ②建物の売買・交換の契約 ③宅地の貸借の契約 ④建物の貸借の契約 いずれの契約も、物件が次 の区域内にあるときは、 その 旨を説明しなければならない。 (a)造成宅地防災区域 (b)土砂災害警戒区域 このほかいろいろなことが定 められている。 ②知事等は、擁護壁等の設置や地形・盛土の改良のための工 page 13 Ⅲ います。 調査と確認 ②土砂災害警戒区域 写真Bは、土砂災害警戒区域に指定されている住宅地です。 重要事項説明の最初の業務としては、 まず調査と確認があり 特別警戒区域が指定されていることもあるのでよく調べます。 ますが、法令上の制限は、重要事項説明のなかでも難しい業務 ③急傾斜崩壊危険区域 とされています。 写真Cは、急傾斜地法にもとづき危険区域に指定されている 法令上の制限は、都市計画法や建築基準法のように内容は ことを示す標識です。制限される土地の形状変更等を調べます。 複雑でも資料関係が揃っていて、調査手順も進めやすくなって ④砂防指定地 いるものと、自然災害の防止に関する法令で実務として調べる 砂防法は古い法律(明治30年)ですが、現在でも写真Dにあ 方法が確立していないものとがあります。 るように、 いろいろなところで指定されています。 後者については、決定的なよい方法というものがなく、 まず知 ⑤河川区域 識を吸収しその上で現地実査をすることが肝要と思われます。 写真Eでは、川の流れているところが河川区域(堤外地)で建 現地実査には、 いろいろな調査の経験を必要とし、何か本でも 物が建てられているところが河川保全区域(堤内地)です。いず 読んで簡単に身につけられるというものではありません。普段から れも土地利用は制限があります。 そのつもりで現地を見て歩くことが大切です。 ⑥災害危険区域 現地での不動産の読み方ですが、 ここでは写真等によりその 災害危険区域の指定と土地利用制限を定めた条例を忘れず 一端を紹介します。 に調べなければなりません。 ①宅地造成工事規制区域 災害危険区域の指定と土地利用制限を定めた条例について 写真Aは、道路の左側はヒナ段になっている宅地造成された の資料は、図表2、図表3のとおりです。これらについても忘れず 宅地です。この地域一帯は宅造の工事規制区域に指定されて に調べなければなりません。 写真A● ●宅地造成工事規制区域 写真B● ●土砂災害警戒区域 都道府県、市の宅地造成工事を 規制する担当課で調べる 都道府県、市などで警戒区域か 特別警戒区域かを調べる 写真C● ●急傾斜崩壊危険区域 どのような制限があるかを 都道府県等で調べる 写真D● ●砂防指定地 写真E● ●河川区域 河川のある斜面地などは都道府県等に問い合わせる 河川区域内での土地利用は知事の許可を必要とする 堤 内 地 堤外地(河川区域) 14 page 第●号 図表2●建築基準法の「災害危険区域」の指定 後でよく説明できるように十分理解しておかなければなりません。 (災害危険区域) 第39条 地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による 危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができる。 2 災害危険区域内における住居の用に供する建築物の建築 の禁止その他建築物の建築に関する制限で災害防止上必要 なものは、前項の条例で定める。 そのために法令の知識と現地実査の確認が大切になります。 2 対面説明 重要事項説明の第3の業務は、相対して声を出して説明する ことです。説明は、相手が理解してくれないと何もなりません。 対面説明は、相手に理解してもらえるようにいろいろな工夫が 求められています。工夫の仕方は、画一的で決定的なものはな 図表3●「災害危険区域に関する条例」の例 いようで、物件にもよりますし、 また法令によっても違います。もっ ○○市災害危険区域に関する条例 □□○○年○○月○○日 条例第○○○号 (趣旨) 第1条 この条例は、建築基準法(昭和25年法律第201号。 以下「法」という。)第39条第1項の規定による災害危険区 域の指定および同条第2項の規定による建築物の建築の 制限に関し必要な事項を定めるものとする。 (災害危険区域) 第2条 法第39条第1項の規定により災害危険区域として指 定する区域は、土石流その他の災害による危険が特に著し い区域として、○○市○○○○字○○の区域内で市長が 指定する区域とする。 2 市長は、前項の規定により災害危険区域を指定したときは、 その区域を告示するものとする。 (建築の制限) 第3条 前条の災害危険区域においては、住居の用に供する 建築物は、建築してはならない。 (委任) 第4条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。 附則 この条例は、□□○○年○月○○日から施行する。 Ⅳ 書面作成と対面説明 1 書面作成 重要事項説明の第2の業務では、書面の作成も難しいといえ ます。 とも大切なことは、相手の立場をよく考えて説明することでしょう。 重要事項説明の業務には、①調査・確認、②書面作成、③対 面説明、があります。これらについてすべてをここで述べることは できませんが、 これまで説明しました法令の規定の理解や十分な 現地実査をもとに、3つの業務を関連づけることにより他の法令 上の制限の重要事項説明の参考にしていただけると思います。 図表4●宅地造成等規制法―改正前と改正後の項目 改正前 (A)宅地造成工事 規制区域 ↓ 工事の許可 改正後〈注1〉 (A)宅地造成工事規制区域 ↓ ①工事の許可(法8①) ②工事計画変更の許可(法12①) (B)造成宅地防災区域〈注2〉 ↓ 区域指定の有無(法20①) 説明について (A)宅地造成工事規制区域について(宅建業法35条1項2号) 工事の許可と工事計画変更の許可を法令上の制限で説明する。 (B)造成宅地防災区域について(宅建業法施行規則16条の4の2) 区域指定の有無を説明する。有の場合は区域の意味も説明する。 〈注1〉平成18年9月30日から施行されている。 〈注2〉造成宅地防災区域指定の有無は、 すべての取引についての重要事項 説明項目である。 図表5●造成宅地防災区域についての重要事項説明(抜すい) ☆宅地造成等規制法に規定する造成宅地防災区域内か否か 宅地造成等規制法 このほど改正された宅地造成等規制法について、改正前と改 造成宅地防災区域 □ 外 □ 内 →※資料参照 正後の項目について、図表4でまとめました。また、造成宅地防 災区域についての書面作成については図表5に抜すいを示しま した。古い書式には、 このような項目が入っていませんので、追加 ご質問について する必要があります。 リアルパートナー紙上研修についてのご質問は、お手数ではござ ここでは、宅造工事規制区域の例を示しましたが、 ほかの法令 いますが、 「文書」でご送付くださいますようお願いいたします。 についても制限の要点をまとめて書面に記載する必要があります。 なお、個別の取引等についてのご質問にはお答えできませんの 法令上の制限については、全宅連の重要事項説明資料のほ でご了承ください。 かにいろいろな資料が揃っていますので十分活用することがで ご送付先●(社)全国宅地建物取引業保証協会 きます。 紙上研修担当 ただし、書面に記載したり資料を添付したりするようなときは、 〒101-0032 東京都千代田区岩本町2-6-3 page 15
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