T3 project 佐藤 英貴 ・天体の位置や運動について、高い制度で研究す る学問が「位置天文学」である。 ・太陽、月、惑星、彗星、流星、人工天体、恒星、 星雲、銀河などすべての天体が対象となる。 ・有史以来、常に研究され続けてきた、歴史があ る分野である。 ・短い観測期間から計算された軌道は不正確 である。そのため、彗星の位置を継続的に観測 して、観測期間を延ばす必要がある。 追跡観測 初期観測群 ・天空は地球を中心とした巨大な球面であり、天体はすべ てその球面に投影されたものと考える。 ・太陽を原点に固定した黄道座標系や、恒星を固定した 赤道座標系(原点は春分点)などがある。通常は赤道座標 系が用いられる。 ・地上における赤経・赤緯と同様に、天球上の赤経・赤緯 が定義される。ただし、経度は地上の表記と異なり、h (時)、 m(分)、秒(s)で表される (1h = 15°)。 例) αOri 05h 55m 10s.305 +07°24’ 25”.43 ・太陽・月・惑星・小惑星・彗星などの太陽系内天体は、 太陽の周りを周回しているため、常に天球上を移動して いる。 ・地球から比較的近い位置にあるため、異なる地点から 観測した場合、天球上の位置が異なる。(視差の存在) ・観測地点の座標(赤経・赤緯)と正確な観測時刻が要求 される (秒単位、地球接近天体の場合は0.1秒単位のこと もある) 。 ・高知の関勉さんが銀塩時代から精力的に彗星・小惑 星の位置観測を行ってきた。 ・1990年代からCCDが普及し、八束の安部裕史さんや 北見の円舘金さん・渡辺和郎さん、大泉の小林隆男さ ん、守山の井狩康一さんなどが小惑星捜索を行いなが ら彗星の位置観測を報告してきた。 ・上尾の門田健一さんや山形の板垣公一さん、大崎の 遊佐徹さん、栗原の高橋俊幸さんらが近年多くの位置 観測を報告されている。 ・位置がよくわかっている写野内の、3個以上の恒 星の位置から、目的天体の座標(観測座標)を測量 する。標準星図から比較恒星を選び出す。 ・かつては乾板上で、拡大鏡を用いて測量されて いたが、現在はデジタルデータをソフトウェア処理 することで容易に、より正確に測量できるように なった。 ・恒星や銀河の正確な位置と光度を収録したカタログを 標準星図という。米国海軍天文台などが編纂。 ・位置の精度は0”.3程度。通常位置観測を行ううえで問 題はない(測定誤差のほうが大きい)。 ・天体の光度に関しては、概して信頼度は低い。そのた め、位置測定の星図と、測光の星図は別のものを用い るのが(研究では)一般的。 ・位置観測に求められる精度は0”.1単位であり、1 画素が2”程度が理想であるとされている。 したがって、ある程度の焦点距離はあったほうが よい。(ε180ED + EOS 6Dでは1画素 5”.6) ・デジカメ(RAWデータ)でも、FITS形式に変換する ことで位置測定は可能である。ただ、1画素あたり の情報量が少なく(12~14bit)、CCDカメラ(16bit)が 優位である。 彗星の撮影、fitsファイルへの変換 一次処理(ダーク減算、フラット補正) 位置測定ソフト(astrometricaなど) に画像を取り込む。 標準星図とのマッチング 彗星の位置が出力される (左上) 標準星図とのマ ニュアルマッチング (左下) マッチング終了 彗星の位置出力 ・公共天文台を使ってみよう ・海外の望遠鏡を遠隔操作しよう ・公共の施設の中には、市民学習活動の一環 として天文台の機材を、条件を設けて貸し出し ているところがある。(県立ぐんま天文台など) ・さじアストロパークではドーム・望遠鏡付きの ロッジを宿泊施設として用意している。 県立ぐんま天文台での観測例 ・現在、多くの商用リモート天文台が建設され ており、アマチュア天文家や研究機関が利用 している。 ・私は、itelescope.net (旧grobal rent-a-scope) という天文台を主に利用している。 ・リモート天文台の利点は、空の状態(透明度・晴天 率)がよいこと、観測したいときにすぐに観測できる こと、時差を活かすことができること、日本からは見 られない南天にアクセスできること。 ・欠点は費用。また、ある程度英語で交渉する能力 は必要。 Itelescope.netの料金表 T27 (70-cm f 6.5 CDK)は1時間露出あたり125豪ドル 豪州の透明度のよい空で観測した例 ・位置観測は敷居が高いと思われがちだが、彗 星写真を撮ることさえできれば、決して困難なも のではない。 ・機材ゼロでも彗星の写真を撮る方法はある。 ・測定した位置データは後世まで残り続ける。 天文学の歴史に名を刻むチャンスでもある。 ・位置測定が強く求められる彗星とは? →太陽に近いなど観測が少ない彗星(*1)、バースト・分裂の後 など非重力効果が生じて位置がずれる可能性がある彗星など ・観測対象を選ぶにあたっての事前準備 →位置推算表の入手(*2)、移動速度と方向のチェック(最適な露 出時間・撮像枚数の確認)、明るい恒星に重なっていないかの チェック(*3)を行っておくとよいです。 (*1) http://www.minorplanetcenter.net/iau/lists/LastCometObs.html (最終観測日と光度) (*2) http://www.minorplanetcenter.net/iau/MPEph/MPEph.html (位置推算表) (*3) http://archive.stsci.edu/cgi-bin/dss_form/ (Deep Sky Surveyのデータ参照) ・位置測定を行うソフトは何がよいか →astrometrica(*1)が最も使いやすいと思います。 ・astrometricaはシェアウェアなので敷居が高い →25ユーロです。私はpaypalで送金しましたが、クレジットカード 決済でも大丈夫のようです。 ・astrometricaを使ううえで必要なもの →軌道要素ファイル(*2)をダウンロードしましょう。初期設定では ¥astrometrica¥Tutrial¥MPCORB.DAT/COMET.DATです。上書きして 使用すればよいです。 (*1) http://www.astrometrica.at/ (*2) http://www.minorplanetcenter.net/iau/MPCORB.html ・標準星図は何を選べばよいか →USNO-A2.0は軽量で、ローカルで運用できるが光度 の信頼性が低い。 →USNO-B1.0 (NOMAD、PPMXL含む)は収録星が多い が、ネット接続が必須である。 →UCAC4はローカル運用が可能で、一部の天体につい てはSDSSの測光データを含むので、光度の信頼性が 高いと思われる。 一長一短がありますが、ネットに常時接続できれば USNO-B1.0が、できなければUSNO-A2.0が楽です。 ・リモート観測に興味がある →iTelescope.netは日本人の利用者も多く、安価で使いやすいと 思います。そのほか、Slooh.comなどいくつかの商用天文台が運 営されています。 ・リモート観測の魅力とは →時差を活かして観測できることです。主に通勤時間に、Play Station Vitaを用いて観測しています。位置測定は帰宅後に自宅 PCで行います。 [私の天体観測歴] ・1P/Halleyを小学生のときに観測(あまり記憶に残っていない)。 ・以降、軌道の計算に興味を持って専門書を読みふけった (数学・物理が得意 になりました)。 ・上京する春、故郷(岩手県盛岡市)の夕空に輝くC/1995 O1に感動した。 ・大学院時代に、天体観測を本格的に始めた。2008年に県立ぐんま天文台に通 うようになる。MPC code D80を取得し、30個程度の彗星の観測を行った。 ・2009年に大学院卒業とともに時間的余裕がなくなり、リモート観測に移行。 ・C/2009 UG89 (Lemmon)の彗星活動検出をきっかけに米国・欧州の天文学者で 特異小惑星の彗星活動を監視する「T3 project」の一員に加わり、10以上の特異 小惑星を彗星として報告した。 ・2015年5月現在、9個の周期彗星の初回帰検出、1個のロストコメット検出を 行っている。 ・目標は、すべての新彗星を観測すること。2011/2013/2014年に発見された彗 星については達成済み。今後は暗い彗星が増えて難しくなると思われる。
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