大学からの技術移転における特許の 役割について1

大学からの技術移転における特許の
役割について
1
中山一郎*
インセンティブという点であろう。それでは,
1.はじめに
大学による特許権の取得が奨励されるのは,
発明者たる大学の教員・研究者の創作インセ
昨今,大学の研究成果の社会還元に対する
ンティブを高める必要があるからなのであろ
要請が高まっている。国立大学法人法 22条 5
うか。しかし,大学の研究成果の実用化を進
号は,大学の業務として「当該国立大学にお
めるために特許が有効な手段であるという議
ける研究の成果を普及し,及びその活用を促
論は,大学教員・研究者のインセンティブの
進すること」を掲げるし,知的財産基本法7
ために特許が必要であるという議論とは直接
条は,大学等の責務として,「大学等は,そ
関連しないようにも思われる。そうすると,
の活動が社会全体における知的財産の創造に
産学連携・技術移転活動において大学が特許
資するものであることにかんがみ,人材の育
権を取得するのは,何のためであろうか。本
成並びに研究及びその成果の普及に自主的か
稿では,大学からの技術移転という文脈にお
つ積極的に努めるものとする」と規定する。
ける特許の役割について若干の考察を試みて
確かに我が国の大学には,我が国の全研究者
みることとしたい。
約 76万人の約3分の1に当たる約 28万人が
なお,本稿中の意見にわたる部分は,筆者
在籍する 2。したがって,「知識経済」の進展
の個人的見解であって,筆者の属する機関の
に伴い,ナショナル・イノベーション・シス
見解を代表するものでないことをお断りして
テムの中核的存在として,大学が,教育・研
おく。
究といった従来の責務に加えて研究成果の社
会還元に積極的に取り組むことへの期待が高
2.産学連携・技術移転と特許
まるのは,自然な流れではある。
そして,研究成果の社会還元を進める手段
周知の通り,大学・公的研究機関の研究成
として注目されているのが,特許である。大
果の実用化を図る手段として特許にいち早く
学の研究成果を特許化し,ライセンスするこ
着目したのは米国である。1980 年にいわゆ
とで,実用化が進む,あるいは,大学と民間
るバイ・ドール法を成立させ,大学・公的機
企業との間の共同研究の成果を特許化するこ
関や中小企業が連邦政府の資金を用いて創出
とで,共同研究自身が促進されるといった効
した発明に対する権利を,連邦政府ではなく,
果が期待されるためである。
大学や中小企業自身に帰属させることを認め
ところで,一般的に特許の中心的機能とし
た 3。この結果,大学による特許取得件数の
てまず挙げられるのは,発明の創作に対する
推移を見ると,1980 年に出願され特許権が
*
内閣官房知的財産戦略推進事務局参事官補
佐,経済産業研究所客員研究員。
付与されたものは約 500件程度であったが,
87年出願では 1,000件を超え,さらに 90年出
161 ―
― 願では 1,500 件,95 年出願では約 3,400 件と,
年4月の国立大学の法人化により,今後は,
80 年代後半以降,大学による特許取得件数
我が国でも大学教員・研究者の発明に対する
が増加していることがわかる 4。もっともそ
権利の機関帰属が進むことが予想される。
の間,全体の特許件数も増加していることを
このように,大学からの技術移転に特許を
考慮する必要があるが,シェアで見ても,特
活用するという米国の試みは一つの「成功」
許付与件数に占める大学特許の割合は着実に
モデルとして日本を始め各国の追随するとこ
5
増加している 。さらに,最新の実績(2002
ろとなっているが,米国においては,バイ・
年度)を見ると,出願件数は 7,741 件,特許
ドール法の効果を疑問視する見方も存在する。
取得件数は 3,673件,新規ライセンス契約件
この点については別に論じたので詳述は避け
数は 4,673件,ライセンス収入は約 12億ドル,
るが 9,米国の産学連携・技術移転はバイ・
そして大学発ベンチャーの設立件数は 1980
年 以 降 の 累 計 で 4 , 320 社 ( う ち 2 , 731 社 が
2002年度末で存続)に達している 6。
ドール法の以前から活発化し始めており,
「バイ・ドール法は,重要ではあったが,決
定 的 な も の で は な か っ た 」(“ Bayh-Dole,
このような米国の「成功」を受け,我が国
でも,大学等が特許を活用して技術移転活動
を進める制度的環境が整備されつつある。ま
ず,1998 年の大学等技術移転促進法の下で,
国が様々な助成を行うことにより,技術移転
機 関 ( TLO ) の 整 備 が 進 め ら れ , 36 機 関
(2004年 2 月現在)が承認 TLO として活動す
るに至っている。また,1999 年には産業活
力再生特別措置法にいわゆる「日本版バイ・
ドール条項」(30 条)が盛り込まれ,国の委
託研究の成果については,受託者に当該研究
成果に対する権利を帰属させることができる
こととなった。
ただし,現時点での実績を見る限り未だ日
米の差は大きい。2002 年時点で見ると,大
学による出願件数は,大学長又は大学を有す
る学校法人が出願人であるものが 607 件であ
り,一方,技術移転機関( TLO)の実績で
は,出願件数が 1,335 件,実施許諾件数が
349件,ロイヤリティ収入が約4億円,また,
大学発ベンチャーの設立件数は 614 社(2003
年8月末時点)という状況であり 7,上述の
米国の数字と比較するとその差は大きい。た
だし,我が国の場合,現状では国立大学の教
官の発明の 80 %以上が発明者たる教官個人
に帰属しており 8,大学に権利が帰属するこ
とが原則になっている米国とは事情が異なる
ことには留意すべきである。もっとも 2004
while important, was not determinative.”10)
というのが,そのような懐疑的な見方を代表
しているように思われる 11。他方で,バイ・
ドール法のような制度が設けられたのは,
「誰でも使えるものは誰も使わない」ため,
大学の研究成果を実用化するための投資に誘
因を与えるためには,研究成果を特許化した
上で,実用化を希望する者に排他的に実施許
諾する枠組みが必要とされたという背景が
あったからであるとされるし,バイ・ドール
法の効果に懐疑的な見解であっても,バイ・
ドール法を契機に,大学の技術移転活動が一
層強化されたことを認めている 12。そうする
と,大学の研究成果の中には,特許権の譲渡
又は排他的実施許諾という形を通じなければ
実用化が困難なものが存在することも否定で
きないように思われる。しかし,このことは
大学の研究成果を実用化するためには全ての
発明を特許化して排他的に実施許諾しなけれ
ばならないことまで意味するものではない。
このため,しばしば,特許権を取得しなくと
も実用化が進んだと思われるものまでが特許
化される結果,研究成果の利用が制約されて
いるのではないかという批判を招くこととな
るが 13,この点は後述する。
以下ではむしろ,実用化のために特許が必
要となるような研究成果の存在を前提として
そのような場合における特許の役割とはどの
162 ―
― ようなものであるのかについて考えてみるこ
者をあえて区別せず,むしろ一体的に理解し
ととしたい。
てもよいように思われる。リンカーンが述べ
たとされる「特許制度は,天才の火に,利益
3.特許の経済的機能に関する伝統的理
解と大学による特許取得
という油を注いだ」15 との言葉は,特許制度
のかかる側面を表したものと考えられよう。
創作へのインセンティブとして特許が必要
従来から,特許制度の中心的な機能は,発
であるという議論は,以下のようにも説明で
明に対する報酬( reward)を認めることに
きる。我が国の特許法が発明を「自然法則を
より発明を奨励し,創作インセンティブを確
利用した技術的思想」(特許法 2 条 1 項)と定
保する,あるいは,一定期間の独占権の付与
義するように,発明とは無体物である。本来,
と引き換えに発明を公開させる(公開代償説)
無体物たる情報は,一旦それが知られてしま
ことで発明の秘匿化を防ぎ技術の普及を促す,
うと,当該情報の利用を排除できず(消費の
といった点にあると理解されてきた。特許制
非排除性),また,同時に複数の者による利
度の経済的機能の古典的分析としてしばしば
用が可能(消費の非競合性)という,いわゆ
14
引用されるマッハルプ によれば,特許保護
る公共財的性格を有する。このため,社会的
を正当化する根拠は,4点に整理される。す
には有用な情報であっても,第三者による情
なわち,「自然法」(natural law)理論,「独
報の利用を排除できなければ,当該情報の生
占権による報賞」(reward-by-monopoly)理
産に対するインセンティブは失われてしまう。
論,「独占権と収益によるインセンティブ」
一定の要件を満たした無体の情報に対して人
( monopoly-profit-incentive)理論及び「秘
為的に排他的独占権を設定する特許制度は,
密との交換」( exchange-for-secret)理論で
当該情報を排除可能な財とすることで,その
ある。
ような財の生産に対するインセンティブを確
このうち,「自然法」( natural law)理論
保している。このような特許制度の機能は,
については,今日ではこの説を採る見解は見
発明が創出される前の事前のインセンティブ
あたらない。反対に,我が国の特許法がその
に着目しており,今日では最も広く受け入れ
目的を「発明の保護及び利用を図ることによ
られている説明であるように思われる 16。
り,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与
マッハルプの分類によれば第4番目の「秘
すること」(第1条)と規定していることか
密との交換」( exchange-for-secret)理論と
らも明らかなように,特許制度はあくまで産
は,発明者に発明を公開させる代償として排
業政策的観点から設けられているものである
他的独占権を付与するという議論(公開代償
というのが今日の一般的な理解であろう。
説)である。もし発明に対して何らの法的保
「独占権による報賞」(reward-by-monopoly)
護が存在しない場合,一旦公開してしまうと
理論及び「独占権と収益によるインセンティ
その後の利用は排除できないのであるから
ブ」( monopoly-profit-incentive)理論は,
(消費の非排除性),発明者が自らの発明を保
マッハルプによれば,前者が独占権の付与は
護するためには,公開せずにその発明を秘匿
「正当な」報賞であるのに対して,後者は報
しておく他はない。発明の秘匿化という事実
賞が「公正」であるか否かを問わず,創作へ
上の手段しかないとすれば,秘伝・口伝とい
のインセンティブとして独占権が付与される
う形でごく限られた形ででしか技術は普及し
点で区別される。しかし,発明に対する
ない。もちろん,秘匿化は事実上の手段であ
reward として独占権を付与し,創作へのイ
ンセンティブを確保するという意味では,両
るから,特許制度による法的保護があったと
ころで,かかる事実上の手段が使用できなく
163 ―
― なるわけではない。それどころか,不正競争
的であるというに過ぎない。
防止法による営業秘密の保護のように,秘匿
それでは,今日,このような「名声」に基
化という事実上の手段に加えて一定の場合に
づくインセンティブの有効性は低下している
は法的保護も認められる。しかし,特許制度
のであろうか。この点については,科学者自
による法的保護という選択肢が存在すること
身から,学術研究の分野では,「名声」に基
によって,少なからぬ発明が秘匿化されずに
づくインセンティブは十分有効に機能してい
公開され,それによって技術の普及が進むと
る,したがって学術研究成果については特許
いう側面があることも否定できないと思われ
権を取得すべきではなく,むしろ自由な利用
る。実際,技術情報の流通という点において
を可能とすべきであるという趣旨の主張がな
特許制度が相当程度のスピルオーバー効果を
されている 18。
また,「名声」のインセンティブ効果につ
有することは実証的にも明らかにされてきて
いる 17。
いては,経済学的な分析の対象にもなってお
しかし,以上のような伝統的理解は,大学
り,そこでは,「名声」が長期的に事業を営
教員・研究者の研究成果の特許化が求められ
もうとする営利企業の経済合理的な行動に影
る理由を十分に説明しているとはいい難いよ
響を与えることが明らかにされつつある 19。
うに思われる。というのも,一つには,学術
例えば「信頼」や「評判」を失ったときのマ
研究の世界には論文公表等による名声という
イナス効果が大きいと予想されれば,企業は
別のインセンティブのメカニズムも存在して
「名声」の維持に努めるし,また,ブランド
おり,特許がなければ,大学教員・研究者は
戦略を構築しようとする際にも,「名声」を
研究成果を生み出さないかというと,おそら
維持獲得しようとする積極的な動機が存在す
くそのようなことはないと考えられるからで
る。
ある。また,論文により研究成果が公開され
また,実際に商業的利害が大きく絡むと思
る限りで,公開代償説も説得性を欠く。それ
われる局面で,「名声」がインセンティブと
では,名声に基づく伝統的なインセンティブ
して機能している例として,ソフトウエア開
の有効性が低下したから,研究成果の特許化
発のケースを挙げることができる。従来,ソ
の必要性が叫ばれているのであろうか。次に
フトウエアは品質を劣化させずに大量の複製
この点について考えてみたい。
が可能なため,複製を制限しなければ,ソフ
トウエアの開発投資が回収できず,ひいては
4.
「名声」に基づくインセンティブ・メ
カニズム
開発のインセンティブが失われると考えられ
てきた。現に 80年代の IBM,90年代のマイ
クロソフトといった企業は,違法な複製に頭
伝統的に学術研究のコミュニティのルール
によれば,科学者・研究者への報償は論文公
を悩ませながらも,一貫して自社のソフトウ
エアを著作権で保護しようと努めてきた。
表による「名声」や「評判」といった人格的
ところが近年,複製や改変を自由に認める
なものが中心であり,研究成果は共通の財産
オープンソース・ソフトウエア(OSS)が着
(パブリック・ドメイン)とされてきた。
実に発展しつつある。従来,直接的な金銭的
もっとも「名声」とはいっても,「名声」は,
報酬なしに開発される OSS については,品
ポストといった処遇や研究費に影響するので,
も質面で商業的ソフトウエアに劣後するので
完全に非金銭的なインセンティブではなく,
はないかとの疑問も絶えず存在したが,今日
特許のように研究成果から直接金銭的報酬が
では, OSS の信頼性は,商業的ソフトウエ
得られる手段と比べて,相対的にみて非金銭
アと遜色ない,あるいはそれ以上であると考
164 ―
― えられているようである 20。ユーザー側から
唆しているようには思われる。加えて「名声」
すると,安いコストで信頼性の高いソフトウ
が経済合理的な行動原理として機能し得るこ
エアが望ましいのは当然だが,問題は,いか
とが経済学的にも明らかにされつつあること
に し て OSS は , そ の 信 頼 性 に つ い て ユ ー
と考えあわせれば,少なくとも,学術研究分
ザーの支持を勝ち得たのかという点である。
野において「名声」によるインセンティブ効
OSS の信頼性は,多数の優れたソフトウエ
ア開発者を動員できるか否かに依存している
から,結局,なぜ OSS はそれだけのソフト
開発者を動員できたのか,逆にいえば,経済
的な見返りが期待できないにもかかわらず,
なぜ多くのプログラマーは, OSS の開発に
参加して自らプログラムを提供するのか,と
いう点こそが解明すべき課題となる。
この点に関して,オープンソース・コミュ
ニ テ ィ の い わ ば ス ポ ー ク ス マ ン た る Raymond は,一見利他的な「ハッカー」(ここ
ではポジティブな意味で用いられている。)
の行動の背景には,厳格な能力主義の下で
「名声」( prestige)や「評判」( reputation)
を獲得しようとする競争が存在すると分析し
ている 21。つまり,プログラマーが自分の
ソースコードを公開してパブリックドメイン
に提供するという一見利他的な行動を取るの
は,自らが属するコミュニティに無償で提供
するものが多ければ多いほど,それが名声の
獲得につながり,その結果,自ら社会的地位
が向上するからであり,そしてそのような行
動は「贈与文化」(Gift Culture)の下では合
理的な行動であると説明する。そして,この
ような「評判」を巡る競争においては,開発
者の名前を絶えず明示することが求められ,
勝手に削除することは許されないといった独
自のルールも形成されるという。もっとも,
Raymond も認めているように,名声獲得競
争を中心とした贈与文化の成立にはある程度
の物質的充足性が前提となる。
以上のような OSS の事例は,アカデミア
における行動原理を直接説明するものではな
いが,商業的な利害が絡むソフトウエア開発
の分野においてさえ,「名声」といった人格
的なものがインセンティブ足り得ることを示
果が低下したとは考えにくい。そうすると,
「名声」によるインセンティブ効果が低下し
たから,これを補完するために,特許による
インセンティブが必要とされるというわけで
もなさそうである。ただし,このことは,特
許が大学教員・研究者のインセンティブを何
ら高めないということまで意味するものでは
ない。特許から得られる金銭的なインセン
ティブがより有効なケースもあろうし,「名
声」に加えて特許による金銭的報酬の途が開
かれることは,研究者のインセンティブを低
下させるものではなく,むしろ高める方向に
は作用するとは思われる。しかし,そうであ
るとしても,そのような追加的インセンティ
ブだけでは,大学による特許取得の必要性を
説明する論拠として十分に説得的ではないよ
うに思われる。むしろ,この点について考え
る上では,創作インセンティブや技術の開示
促進以外の特許制度の機能に着目することが
有益であろう。そして,そのような分析の枠
組みを提供してくれるのが,以下に述べる
Kitch の「プロスペクト」論である。
5.
「プロスペクト」論 22
Kitch は,発明者に対する報酬( reward)
として特許を認める報酬理論(reward theo-
ry)では特許制度の機能を説明するには不完
全であり,むしろ特許は実用化以前の開発の
可能性の段階でいわば「プロスペクト」
(Pro-spect ;「(成功する)見込み」「将来性」
23)として付与されるという「プロスペクト」
論を主張する。Kitch がそのように主張する
理由は3点ある。
第1に,特許権の権利範囲は往々にして発
明者が実際の発明した範囲を超えるという点
165 ―
― が挙げられる。つまり,自動車エンジンの基
本特許とされる Selden 特許やコピーの原理
に関する基本特許の例が示しているように,
パイオニア発明が発明された時点では,往々
にして未だ実用化に耐える製品が開発されて
いない。ところが,そのような基本発明の特
許権の権利範囲自体は広いため,その後に実
用化された高性能の改良製品が権利範囲に含
まれるといった事態が生じる。Kitch は,こ
のような事態は,発明に対する報酬
(reward)として権利を付与するという報酬
理論では説明が困難であるという。
第2に,特許制度自体が基本的に早期に出
願を促す仕組みを採用しており,出願時点で
発明が商業価値を持つことを示す必要はなく,
発明が一定の効果を持って作用することさえ
示せばよいことも特許制度のプロスペクト機
能の証左であるとされる。
第3に,特許は実用化のかなり以前の段階
で付与されていることが挙げられる。 Kitch
は 1950 年代頃までの古い事例であるが,特
許が付与されてから実用化までに 10年以上
を要したケースが少なからず存在することを
調査し,発明と実用化の間にかなりのタイム
ラグが存在することを指摘する。
そしてこのような実態から Kitch は,特許
権は鉱業権に類似すると述べる。鉱業権の設
定にあたっては商業的重要性を立証する必要
性はない。なぜなら商業的重要性を確認する
ための試掘であってもそれ自体が巨大な投資
Kitch は,特許制度の「プロスペクト」機
能は,発明の保護手段として秘匿化という手
段しか存在しない状況と比べて,以下のよう
な利点を持つと述べる。
第1に,発明の秘匿化は重複投資をもたら
すのに対して,「プロスペクト」としての特
許は,情報の流通及び重複投資の回避を可能
にするとともに,権利者が実用化に向けて特
許の価値を高める活動を調整することによっ
て,より効率的な開発も可能になる。
第2に,更なる開発の成果が特許を受けら
れない,あるいは特許を受けられるか否かが
不明であっても,「プロスペクト」としての
段階で特許権が存在すれば,特許発明の価値
を高めるための投資を行うリスクを低減でき
る。また,特許が存在するが故に,競業者に
「ただ乗り」されることをおそれることなく,
顧客に対する製品のマーケティングも可能に
なる。
第3に,特許は,権利者と,発明の価値を
高めるために必要な補完的情報や資産の保有
者との間で取引を行う際のコストを低減する。
第4に,シグナル効果である。特許の存在
により,重複投資の回避はもちろん,権利者
はその方が効率的だと思えば,積極的にライ
センスしようとする。公開代償説では,特許
は単に公開の代償として位置づけられるが,
「プロスペクト」論によれば,特許の存在に
より権利者自身が情報を広く流通させるイン
センティブを持つと説明される。
であって,リスクも高いので,最初に排他権
を設定しなければ投資が行われないからであ
る。
6.
「プロスペクト」論の妥当性をめぐる
議論
同様に,「プロスペクト」としての発明に
ついて,その実用化に向けた開発を効率的に
Kitch の「プロスペクト」論は,発明を生
行うためには,発明の技術的可能性の存在に
み出す創作活動に対する事前のインセンティ
ついての情報が広く流通し,また,効率的な
ブよりも,発明の創出された後にその発明を
マネジメントによって実用化に向けて資源が
実用化するための投資に対する事後のインセ
最適に投入される必要があるが,特許制度は
ンティブを重視して特許の機能を理解する点
実際にこのような機能を有しているというの
に特徴がある。
それでは,「プロスペクト」論は実際にど
が,「プロスペクト」論の要点である。
166 ―
― の程度の妥当性を持つと考えられるのであろ
勃興期において,基本特許権者はより品質の
うか。
高い実用品の開発にイニシアティブを発揮し
技術移転については,Kitch 自身が,特許
て産業の発展に注力したというよりも,むし
の「プロスペクト」機能は,政府が保有する
ろ新規参入者に対して積極的に権利を行使し
特許権の排他的実施許諾を支持するものであ
て係争を多発させたに過ぎなかったと指摘す
24
ると述べている 。
る。
先に,バイ・ドール法のような枠組みが必
他方,「プロスペクト」論による説明が一
要がされた背景として,大学の研究成果を単
定の合理性を持つと考えられる局面もなくは
にパブリックドメインに置くだけでは「誰で
ない。その一つが,医薬品のように,実用に
も使えるものは誰も使わない」ために実用化
供されるためには臨床試験による安全性の確
が進まず,研究成果を特許化しそれを(排他
認といったそれ自体では発明を生み出さない
的に)実施許諾することで,産業界による実
が,多額の追加投資が必要となるようなケー
用化のための追加投資に誘因を与えることが
スである。
可能となるという趣旨を述べた。この点は,
よく知られているように,膨大な薬剤候補
まさに「プロスペクト」論の下での特許の役
物質の中から,様々な試験を経て,最終的に
割と一致する。「プロスペクト」論が公表さ
上市されるのがわずかな医薬品に関する発明
れたのは 1977 年であり,1980 年に成立した
の場合,特許権が付与されるのは,最終的な
バイ・ドール法の必要性が議論されていた時
上市の段階ではない。何らかの形で技術的意
期と重なる。残念ながら筆者自身はバイ・
義が判明していれば発明は特許として成立し
ドール法の立案の過程において「プロスペク
得るのであって,通常,医薬品の発明は,医
ト」論がその論拠となったか否かについては
薬品の上市のかなり手前の段階で特許を付与
解明できなかったが,少なくともバイ・ドー
される。逆に,実用化(上市)まで特許が認
ル法の成立は,発明の創出後の事後的インセ
められないとすれば,臨床試験に要する投資
ンティブを重視する「プロスペクト」論のよ
は極めてリスクの高いものとなり,現実的に
うな考え方が一定程度の支持を得たことを物
は,そのような投資は進まないものと予想さ
語っているように思われる。
れる。特に,安全性の確認を主目的とする臨
もっとも「プロスペクト」論に対しては批
床試験から特許を受け得るような発明が生じ
判も根強い。「プロスペクト」論は,基本特
ることは,通例,想定されないから,特許保
許の権利者が発明の実用化や改良といったそ
護を受ける可能性が低い追加投資に対する投
の後のイノベーション活動を調整することが
資を誘引するためには,追加投資以前の特許
効率的であるとの立場に立つが,批判論者は,
の存在が重要となる。これは,「プロスペク
特に累積的技術革新の局面において権利者に
ト」論による説明と整合的である。
よる調整は有効に機能するのかという疑問を
また,医薬品発明と「プロスペクト」論と
呈する。つまり,基本発明の特許権者は往々
の関係については,我が国では産業上利用可
にして自らのやり方に固執してその後のイノ
能性の要件に相当する米国の有用性要件を巡
ベーションを停滞させるのではないか,イノ
る2つの判例が格好の題材を提供している。
ベーションの経路の不確実性を前提にするな
我が国の審査実務では,いわゆる医療行為
らば,一人の特許権者に研究活動を全て調整
(人間を手術,治療,診断する方法)は産業
させるのではなく,多様なアプローチを競わ
上利用可能性を欠くとして特許されないが 25,
せた方がよい,といった議論である。そして,
この医療行為を除けば産業上利用可能性が問
歴史的に見ても,自動車産業や航空機産業の
題となるケースはそれほど多くはない。同様
167 ―
― に米国においても,一般的には有用性(Util-
1995年の In re Brana 判決 31 において「プロ
ity)が問題となるケースは稀であるとされ
るが,その中でも化学・バイオ野においては,
有用性が重要な論点となる場合があるとされ
る 26。
そのようなリーディングケースが,1966
年の Brenner v. Manson 最高裁判決 27 である。
この事件で問題となった発明は既知のステロ
イドの精製のプロセスに関するもので,当該
プロセスにより精製されたステロイド化合物
の有用性を確認してはいなかったものの,近
似の同族体については有用性が知られていた。
Manson はこの同族体の有用性を根拠に当該
プロセスも有用性要件を満たすと主張したが,
最高裁は,ステロイドの化合物の性質の予測
困難性を指摘し,同族体の有用性をもって本
件化合物の有用性が示されたことにはならな
いと判示した。Manson は,発明は発明者が
意図した通り作用すれば十分であること及び
有用性は発明が科学的研究の対象となるもの
であれば足りるとも主張した。しかし,これ
に対して,最高裁は,憲法が特許による独占
を認めたのは,実質的な有用性(substantial
utility)を持った発明から公衆が利益を得ら
れるからであって,「具体的な利益が現実に
利用可能な形で存在する」
(“specific benefit
exists in currently available form.”)ことが
必要であると判示して Manson 側の主張を斥
けた 28。さらに最高裁は,現時点では有用性
が存在しないように思われるものが,後日,
衆目を集めるかもしれないという「プロスペ
クト」を認識しているわけではないとしなが
らも「特許は狩猟許可証ではない」
(“Patent
is not a hunting license”29)こと,そして特
許は「研究に対する報酬ではなく研究が成功
裡に完了したことに対する補償である」
(“not a reward for the search, but compensation for its successful conclusion”30)と述
べており,「プロスペクト」論には否定的な
ようにも見える。
他方,連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は,
スペクト」論に一定の理解を示したかに見え
る議論を展開している。この事件では,
Brana 側は自らの化合物の発明の有用性を,
類似の化合物の抗癌作用がマウスでの実験で
確認されていることとの比較で立証しようと
した。CAFC は,有用性なしとした特許商標
庁の判断を覆し,通常の実験動物でもって得
られた結果によって類似化合物に抗癌作用が
認められ,当業者であればそれをもって有用
性ありと判断できる場合には,有用性の要件
は充足されることを判示した。さらに CAFC
は,特許法上の有用性の判断に当たっては
FDA の認可は前提条件とはならないとした
上で,「特許法における有用性は,特に医薬
品に関する発明という文脈においては,必ず
更なる研究開発に対する期待を含むものであ
る」(“Usefulness in patent law and particular in the context of pharmaceutical invention necessarily includes the expectation of
further research and development.”32)と述
べ,特許法による有用性が認められる時期は,
臨床試験によって医薬品としての効果や安全
性が確認される時期よりも早くなければ,新
薬の開発投資に対するインセンティブが失わ
れるとの判断を示している。この点は「プロ
スペクト」としての特許の機能を CAFC が支
持しているようにも見える。もっとも CAFC
が「プロスペクト」論の存在を認識してこの
ような判断を示したのか否かは不明である。
ところで, Brana 判決は, Brenner 判決を
引用していない。Brenner 判決は有用性の要
件を規定した 101条(35 U.S.C.§ 101)につ
いての判断であるのに対して,Brana 判決は,
101条も関係はするが,直接の拒絶理由は明
細書の記載要件を定めた 112条(35 U.S.C.§
112)であり,112条の解釈が争点であると
CAFC は述べていることからすれば, CAFC
は適用条文が異なるために Brenner 判決を引
用しなかったようにも思われる。あるいは,
CAFC は, Brana 事件を Brenner 判決の射程
168 ―
― 外とするために 112 条の問題として処理した
とも考えられなくはない。この他にも,明細
書の記載の相違や時代背景や技術的背景の相
違 を 指 摘 す る 見 解 も あ る 33。 と は い え ,
Brenner 判決は最高裁判決であり,そこで示
された考えは,2001 年に改定された有用性
審査基準においても「有用性は具体的,実質
的で,信頼できなければならない」(“ The
utility is specific, substantial and credible”)
として反映されている 34。ただし,有用性の
基準は一般的にそれほど高くなく,Brenner
判決が簡単に拡張されると考えるべきではな
いとの指摘もある 35。いずれにせよ, Brana
判決の存在は,「プロスペクト」論が一定の
範囲で妥当性を持ち得る理論であることの証
左であるように思われる。
7.政策的含意
以上の議論を産学連携・技術移転における
特許の役割という文脈に引き戻して整理する
と以下のようになる。
大学の研究成果の特許化及びその排他的実
施許諾を可能とする枠組みの必要性は,大学
の教員や研究者の創作インセンティブを高め
るという点からのみでは十分に説明できない。
というのも,「名声」に基づくインセンティ
ブのメカニズムは,学術研究の世界にとどま
らず商業的利害が関係する局面においてさえ
その有効性が認識されつつあり,学術研究の
世界においてその有効性が低下したとは考え
にくいからである。
他方,「プロスペクト」論を用いれば,大
学教員・研究者の創作インセンティブを与え
るのではなく,創作された発明の実用化のた
めに産業界にインセンティブを与えるという
観点から,大学の研究成果の特許化及びその
排他的実施許諾を可能ならしめる枠組みを正
当化することが可能になると思われる。また,
技術移転契約に発明の着実な実用化のための
条 項 ( マ イ ル ス ト ー ン の 設 定 や Due dili-
gence 条項)を設けることも,特許権者が発
明の実用化のための活動を調整することを正
当化する「プロスペクト」論と整合的である。
しかし,大学の研究成果を特許化する枠組み
自体は必要であるとしても,そのような枠組
みの下で,実用化投資を誘引するために大学
の研究成果を特許権の実施許諾という形で移
転する必要がある場合と,パブリックドメイ
ンにおいても十分に技術移転は進み得るので
特許化するとかえって研究成果の利用が制限
される虞がある場合とを如何に見極めていく
かという課題は残る。換言すれば,大学の研
究成果のうち何を特許化し(パテントポリ
シー),どのように実施許諾するのか(ライ
センスポリシー),そして個々のケースにお
いてどのように適切な技術移転の手段を選択
するか(「目利き」)という問題こそが,研究
成果を社会に還元しようとする大学に課せら
れた課題であるように思われる。
このような議論においてしばしば着目され
るのは,実施許諾を排他的に行うか非排他的
に行うかというライセンスポリシーの問題で
あるが,その点に劣らず重要なのは,何を特
許化するかというパテントポリシーとその運
用の問題である。というのも,特許出願の段
階で,実用化のために大規模な追加投資が必
要であり,特許保護が産業界に対するインセ
ンティブとして不可欠なもののみが適切に選
別されていれば,ライセンス段階での排他的
な実施許諾は特に問題とならないと思われる
からである。
出願の選別の問題は,特に本年4月以降法
人化される国立大学の知的財産本部あるいは
技術移転機関の経営という点からみても重要
である。既に述べたとおり,4月からの国立
大学法人化にあわせて,国立大学の教員・研
究者の発明に対する権利については個人帰属
から機関帰属を原則とする方向でその取り扱
いを見直すというのが基本的方針である。そ
うすると,これまでは,教員・研究者個人が
負担していた特許出願費用を大学側が負担す
169 ―
― ることになる。一方,通例,実施許諾契約に
るからである。本稿で触れた例の他にも,例
基づく実施料収入の獲得には相当のタイムラ
えば,我が国ではこれまで産業上の利用可能
グを伴う。現状でも,国からの助成金がなけ
性がないとして特許保護が否定されてきたい
れば赤字というのが我が国の平均的な TLO
わゆる医療方法についても,その特許保護を
の姿である 36。その上に機関帰属が進めば国
認めるべきか否かが現在議論されている。そ
立大学の知的財産本部あるいは技術移転機関
の際,特許保護の必要性を説く議論は,医療
の経営は一層厳しい状況となるであろうこと
方法に対する特許保護がその医療方法を実用
が予想される。米国の場合でも,大学に開示
化しようとする産業界に対するインセンティ
される発明のうち出願される割合は半分程度
ブとして機能するという点を根拠として挙げ
であり 37,出願の選別は行われている。法人
ており 39,「プロスペクト」論と重なるとこ
化に伴う機関帰属原則への移行という特別の
ろが多い。
事情を抱える我が国の国立大学にとって出願
むしろ真に検討すべきは,特許が有する
段階における適切な選別は一層重要な課題と
「プロスペクト」機能を正当に評価した上で,
なろう。
その機能が妥当する範囲を適切に見定めると
いう点にあるように思われる 40。産学連携・
8.おわりに
技術移転の文脈でいえば,大学の知的財産関
連組織は,特許出願件数や取得件数を自らの
本稿では,大学の研究成果を特許権の実施
目標として掲げることが多い。しかし,特許
許諾という形で社会に還元する場合における
が有効な手段となるのは,特許が発明を実用
特許の役割とは何かという点から若干の考察
化するための投資への誘因として必要とされ
を行った。
る場合なのであって,その点の見極めを行う
大学には,特許権以外にも「名声」という
ことなく特許出願件数のみを目標とすること
インセンティブが存在するし,論文等の形で
は避けるべきであろう。個別の発明について
研究成果も公開されるため,公開することの
「プロスペクト」として特許権を取得するの
代償として大学に特許権を与える必要性も薄
が妥当か否かを見極めるのは決して容易なこ
い。このため,大学による特許権取得に意義
とではないと思われる。しかし,教育・研究
を認めるとすれば,創作インセンティブや技
に加え社会貢献という新たな責務を有するこ
術の開示促進以外の特許の機能に着目する必
ととなった大学にとっては避けて通れない課
要がある。本稿では,そのような論拠として,
題であり,試行錯誤を通じた真摯な取り組み
発明が創出された後で,その実用化を図り,
が求められよう。
その価値を高めるインセンティブとして特許
が機能するという「プロスペクト」論を紹介
した。既述の通り「プロスペクト」論につい
ては様々な議論があり,どちらかといえば米
国内でもマイナーな見解と見られているよう
である 38。
しかし,オール・オア・ナッシングの議論
として「プロスペクト」論の是非を論じるこ
とはあまり意味がないように思われる。本稿
で見た通り,局面によっては,「プロスペク
ト」論による説明が妥当性をもつと考えられ
170 ―
― 注
1
本稿は,拙稿『「プロパテント」と「アン
チコモンズ」―特許とイノベーションに関す
る研究が示唆する「プロパテント」の意義・
効果・課題―』経済産業研究所ディスカッ
ションペーパー 02-J-019(2002)及び拙稿
「事後的インセンティブとしての特許制度の
機能について」知財ぷりずむ 2巻 15号1頁
(2003)をもとに,必要な加除修正を行った
ものである。
2 文部科学省『平成 14年度科学技術の振興
に関する年次報告』107頁(2003)
。
3
35 U.S.C.§ 200-§ 212. 1983年には,Memorandum on Government Patent Policy
(February 18, 1983) によって,大企業もバ
イ・ドール制度の対象となり,その後,35
U.S.C. § 210=においてその旨が追認されて
いる。
4 http://www.uspto.gov/web/offices/ac/ido
/oeip/taf/univ/univ_toc.htm ただし,件数
は大学による出願のうち特許権が付与された
ものの出願年ベースの数字である。つまり,
拒絶された出願を含んでおらず,大学による
出願件数自体を表す数字ではない。
5 http://www.uspto.gov/web/offices/ac/ido
/oeip/taf/univ/asgn/table_1.htm 1969年∼ 86
年の間の全特許付与件数の中に占める大学の
割合は 0.5%であったが,90年は 1.3%,95
年は 1.9%,96年以降 2000年までが約 2%と,
シェアでみても数倍程度は増加している。
6 AUTM Licensing Survey, FY 2002 Survey
.
Summary(2003)
7 特許庁『特許行政年次報告書 2003年版<
本 編 > 』 71 ∼ 72 頁 ( 2003)。 大 学 発 ベ ン
チャーの件数については, http://www-ilc.
tara.tsukuba.ac.jp/rehp/jp/hp/vbfile_h15.pdf
参照。
8 今後の産学連携の在り方に関する調査研究
協力者会議『「知の時代」にふさわしい技術
移転システムの在り方について』4頁
(2000)
。
9 拙稿・前掲注1。
10 David C. Mowery, Richard R. Nelson,
Bhaven N Sampat, and Arvids A. Ziedonis,
“The Growth of patenting and licensing by
U.S. universities: an assessment of the
effects of the Bayh-Dole act of 1980,” 30
Research Policy 99 (2001) at 116.
11 Mowery et al.・前掲注 10の他, Rebecca
S. Eisenberg,“ Public research and private
development : patents and technology transfer in government-sponsored research” 82
リチャー
Virginia Law Review 1663 (1996),
ド・R・ネルソン「技術革新における米国の
研究大学の貢献」原山優子編著『産学連携
「革新力」を高める制度設計に向けて』9頁
(東洋経済新報社、2003)など。
12 前掲注10及び11の文献参照。
13 前 掲 注 10 及 び 11 の 文 献 の 他 , Jeannete
Colyvas, Michael Crow, Annetine Gelijins,
Roberto Mazzoleni, Richard R. Nelson,
Nathan Rosenberg, and Bhaven N. Sampat,
“How do university inventions get into prac-
171 ―
― tice,” 48 Management Science 61 (2002) 参
照。
14 フリッツ・マッハルプ著(土井輝生訳)
『特許制度の経済学』63頁(日本経済新聞社,
1975)
。
15 吉藤幸朔『特許法概説』4頁(有斐閣,第
13版,1998)からの引用に基づく。
16 中山信弘『工業所有権法上特許法第二版増
補版』5∼11頁(弘文堂,2000)
。
17 Wesley M. Cohen, Akira Goto, Akiya Nagata, Richard, R. Nelson and John P. Walsh,
“R&D spillovers, patents and the incentives
to innovate in Japan and the United States”,
31 Research Policy 1349 (2002).
18 今野浩『カーマーカー特許とソフトウエア』
(中央公論社,1995)今野浩『特許ビジネス
はどこにいくのか IT 社会の落とし穴』(岩
波書店,2002)
。
19 小田切宏之『企業経済学』(東洋経済新報
。
社, 2000)
20 1998年 11月頃に流出したマイクロソフト
の社内文書とされる文書(いわゆるハロ
ウ ィ ー ン 文 書 Ⅰ 。 原 文 http://www.opensource.org/halloween/halloween1.html 山
形 浩 生 訳 http://cruel.org/freeware/halloween.html)も,オープンソースソフトウ
エアの品質の高さを認めている。
21 エリック・スティーブン・レイモンド著,
山形浩生訳「ノウアスフィアの開墾」『伽藍
と バ ザ ー ル 』 84 頁 ( 光 芒 社 , 1999) 原 文
( Eric S. Raymond, “omesteading the Nooshere”) は http://www.catb.org/~esr/writings/cathedral-bazaar/homesteading/から,
翻 訳 文 は , http://cruel.org//freeware /noosphere.html からそれぞれ入手可能。
22 Edmund w. Kitch, “The Nature and Function of The Patent System”, 20 The Journal
of Law and Economics, 265 (1977).
23 Kitch は「プロスペクト」を「既知の技術
的可能性を実用化開発する機会」(“a particular opportunity to develop a known technological possibility”)と定義する。Kitch ・前
掲注22 at 266。
24 Kitch ・前掲注22 at 287。
25 特許庁「特許・実用新案審査基準第Ⅱ部第
1章 2.1「産業上利用することができる発明」
に該当しないものの類型」 http://www.jpo.
go.jp/shiryou/index.htm
26 Martin J. Adelman, Randall R. Rader, John
R. Thomas and Harold C. Wegner, Cases
and Materials on Patent Law, 141 (West,
Second Edition, 2003).
Brenner v. Manson, 383 U.S 519 (1966).
Id. at 534-535.
Id. at 536.
Id. at 536.
In re Brana, 51 F. 3d. 1560 (Fed. Cir.,
1995).
32 Id. at 1568.
33 泉川達也「米国におけるバイオテクノロ
ジーの特許保護の現状と課題」知的財産研究
所編『バイオテクノロジーの進歩と特許』17
。
頁,36-37頁(雄松堂,2002)
34 USPTO, “Utility Examination Guidelines,”
66. Federal Register,1092,1092 (2001).
35 Robert P. Merges, Peter S. Menell and
Mark A. Lemley, “Intellectual Property in
the New Technological Age, Second
Edition” 163 (Aspen Law & Business, 2000).
36 産業構造審議会産業技術分科会産学連携小
委員会『産学連携の更なる促進に向けた 10
の提言』図表5(2003)によると,大学の外
部組織として設置された外部 TLO(22機関)
と大学の内部組織として設置された内部 TLO
(5機関)の平成 14年度の平均的な収支状況
は,外部 TLO の場合で 471万円の黒字(国か
らの助成金がない場合は 848 万円の赤字),
内部 TLO の場合で 654万円の黒字(国からの
助成金がない場合は 184万円の赤字)といっ
た状況である。
37 AUTM ・前掲注6によれば,2002年度に
大学に開示された発明は 15,573 件,一方,
2002年度の出願件数は7,741件である。
38 Eisenberg ・前掲注11 at 1669-1670.
39 医療関連行為の特許保護の在り方に関する
専門調査会第4回資料2「論点の整理」参照。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyous
akai/iryou/dai4/4siryou2.pdf
40 青木玲子・長岡貞男「有用性基準の経済学」
後藤晃・長岡貞男『知的財産権制度とイノ
ベーション』249頁(東京大学出版会,2003)
は,「プロスペクト」論を直接の検討対象と
するものではないが,基礎研究段階と開発研
究段階との間の中間的な研究成果に対する有
用性基準のあり方について,特許保護が基礎
研究及び開発研究にそれぞれどのようなイン
センティブを与えるかという観点から分析し
ており,参考となる試みである。
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