平成 24 年9月 1 日 厚生労働省委託事業 <EU 諸国における自動車

平成 24 年9月 1 日
厚生労働省委託事業
<EU 諸国における自動車運転者の法規制及び実態に関する調査研究>
「報告書」に対する、所見と持論。
運革協
専務理事
辰巳寛一
先ず始めに、この調査研究に携わった各大学の先生方に於かれましては大変
なご苦労があったかと存じます、心より「敬意」を表すと同時に感謝申し上げ
ます「有難うございました」
<この研究の「趣旨と目的」について・・・・。>
日本国内の「トラック・バス等」の自動車運転者つまり、
「プロ専従ドライバー」
の長時間労働の実態を、
「他産業の一般労働者」と比較した場合に「過労死」と
認定される、
「脳・心臓疾患」の割合が突出して多い、これは正しく「自動車運
転者」の「労働時間」に関係することが明らかになっている。
そのことから、我が国でも「自動車運転者の労働時間等の改善に対する基準」
が厚生労働大臣「告示」として定められている。
にも係らず、一向に改善されていない実態を重く感じた、厚労省が「委託業務」
として「日通総合研究所」が纏めたものがこの「報告書」である。
そこで、「EU(27カ国あるヨーロッパ連合)の中でもとりわけ<先進国>と
呼ばれる、イギリス・ドイツ・オランダ・フランス・スペインの五カ国と、ア
ジア諸国(48国)の中でとりわけ<先進国>と位置づけられている我が国、
日本における、自動車運転者の労働環境を比較して、今後の施策の在り方を検
討する際の参考とするのが、この「報告書」の趣旨と目的であることを理解し
た。
<労働時間関係の法制度>
今回の対象となった。EU 五カ国の一般労働者と「自動車運転者」の法定労働時
間は多少の「バラツキ」はあるものの、一定の基準が設けられている。
一般労働者平均労働時間 →週48時間(8時間×6日間)
自動車運転者平均労働時間→週60時間(10時間×6日間)となり、一般労
働者より2時間平均多いが「みなし就労時間」
(待ち時間)なども含まれている。
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<一方、日本の大臣告示である「改善基準」は>
週44時間(9時間×4.8日?)とさほど差異があるものではない。
又、
「拘束時間」
・
「連続運転時間」
・
「休憩時間」も差異があるものではないこと
がわかる。ただし、フェリーの乗船時間については。
EU 規制・・・乗船時間は全て「休憩時間」に対し
日本・・・・・乗船時間のうち、2時間は「拘束時間」その他は「休憩時間」
<自家用・事業用含む、貨物車の保有台数>
EU5カ国の合計で 1.500万台
日本1国で. ..
1.500万台
如何に日本はトラック輸送が主流か。
<年間労働時間の比較>
EU5カ国平均で 年間1.540時間→1 ヵ月128時間→25日で5.2時間
日本の ..平均は 年間1.853時間→1ヶ月155時間→25日で6.2時間
この資料で出ている数字には疑問がある。EU はともかく、日本の運転者の労働
時間が一日6.2時間とは、どの資料に基づいたのか?トラックだけではなくバ
スもタクシーも全ての自動車運転者としての労働時間なのか?それにしてもあ
まりにも短い「労働時間」に疑問を感じる。
<辰巳の所見>
EU 諸国の自動車運転者の「労働条件と労働対価や労働環境」の実態はこの調査
で様々なことがわかり、一定の我が国(日本)との比較が出来たと思う。
そこでは、日本の「大臣告知」で定められている、
「自動車運転者の労働時間等
の改善に対する基準」と EU 諸国の「自動車運転者の労働時間規制」はさほど
差異があるものではないと感じる。
しかし、EU 諸国の場合は「罰則規定」が厳格で尚且つ厳重に取り締まっており、
個人オーナー・ドライバーに対しても、企業と同じ罰則が設けられている。
例えば、イギリスでは運転時間や休憩時間の違反者は「30万円以下の罰金」
また、それを証明する「タコグラフ」は義務化、それに違反した者は「60万
円以下の罰金」を課せられる。他の EU 諸国も、多少罰金の金額は異なるがほ
ぼ同じ内容で厳しい罰則規定が設けられている。基準の労働時間を超えての労
働者にも罰金が課せられる。
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一方、日本国内で「自動車運転手」の産業界に限定して、こういった罰則規定
は設けられているのだろうか?事故を起こしたドライバーのみ道交法で罰せら
れるが労働時間を超過しても罰せられない。一方企業の責任はその事故原因が
一般労働者としての「労働基準違反」と判断された場合のみ、警察(公安)か
ら「労働基準監督署」に通報され、企業に対して「是正勧告」がなされ、悪質
な場合は「書類送検」となる。営業停止処分「〇〇日車」等々。
<EU 諸国に話を戻す、>
この自動車運転者に対する「労働時間管理・監督」は5カ国ともに「タコグラ
フ」で管理され、イギリス・ドイツ・オランダは「デジタルタコグラフ」の装
着義務化。そのデーターは「会社側」の管理書類の為だけではなく、警察や行
政機関に定期的に提出または、一定期間の保存が義務付けられている。
フランスでは「タコグラフ不装着」は「犯罪」とみなされ、
「1400万円以下
の罰金」又は「一年以下の懲役」という厳罰に処せられる。
その厳しい罰則規定を、取り締まるのは「路上検査・事業所内立ち入り検査」
はもちろんのこと、運転者個人の「登録カード」と「トラックの登録カード」
で「警察」や「交通公共事業検査局」などが所管している。
事故を起こした場合は当然のこと乍、常に定期的に「労働時間に関する帳票類」
を諸官庁に提出する義務が「企業」も「個人オーナー」にも課せられているの
で、違法を働かせる考えがそこにはない。
また、労働者からの通報も大きな影響があると思う。
その結果なのか、国民性のモラルなのか、労使間に従属性がないのか?この対
象となっている5カ国から、
「労働時間関係違反」で運送会社が提訴された事例
は殆どない。当り前かもしれない。
ただ、水面化で「隠されている部分はないか?」と他国ながら疑ってしまう。
<問題点として>
EU 諸国は、産業別組合が大半であり、前項であげられる通り「厳格な労働時間
法規」によって「拘束」されている為、EU 諸国のトラック輸送が発展しない。
そのことによってドイツなどでは、
「賃金」を事業者と労働者とが「自由に決め
る」ようになってきた。また、このままでは「東側諸国」からの低価格競争に
ついていけなくなってきているのも問題点として挙げられていることに、なに
か「日本」的な状況になってきているのではないかと懸念される。
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この、EU 諸国以外の経済に勝ち残るためには、この厳しい「労働時間規制」を
緩和するよう、
「事業主団体」と「産業労働組合団体」とが交渉している。特に
「ドイツ」にその傾向が強い。反面オランダは法規の改正をする動きが無いな
ど、EU の中でもばらつきがあるのは、やはり国内経済ありきではないかと強く
感じる。
<事業者に対しての支援処置>
これは EU 諸国対象5カ国全て、国からの「支援処置」は全くない。これは当
り前であり、日本では、
「補助金」や「交付金」目当てで、無駄な国税、国民の
血税を、当てにしている。事業者は事業者として、
「立脚」しなければいけない。
国からの「補助」や「支援」を期待する前に、業界同士でこの産業界を守るべ
きである。
<辰巳からの総論・持論>
今回、この「報告書」を見て感じたことは、EU 諸国は産業界(自動車運転者)
としてしっかりと「立脚」されており、
「運転者カード」がその最たるもので、不正記録などが発見されれば、会社及
び、運転者が関連する営業許可を失う結果となりうる。
不正を許さない、国民全体のモラルもあると思う。今から「6年も前」から、
全車両に「デジタルタコグラフ」が装着義務化され、「運転者カード」(デジタ
ル・タイムカード)も発行するなど、産業全体で「労働条件」を守っていて違
反者は厳罰に処する体制が整っている。
しかし、どこにでもあることだが、過去より悪用する者はいることも事実であ
るが、2006年より「デジタル化」になったことで格段に悪用する者、悪用
できる者が激減したとある。
「EU 諸国の労働時間制度」と「日本の大臣告示である労働時間の改善基準」と
はさほど差異があるものではなく、逆に「日本の改善基準」は拘束時間にも規
制を引いている。EU 諸国では、拘束時間についての規制はない。その他の、
「運
転時間」や「連続運転時間」・「休息時間」・「フェリー乗船規程」などは、殆ど
差異はない。
では、根本的になにが違うのか?それは罰則規定と監視体制に雲泥の差がある。
この罰則規定と監視体制が整っている国こそが「法治国家」であり、先進国と
いわれる、国ではないのだろうか。
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厚生労働大臣の告示である労働時間の改善基準をいくら発動させても、監視す
る者がいない、又違反者に対して「明確な罰則規定」すらないでは、レフリー
のいない「ボクシング」のようなもの。全く「やる気」がない。形だけのもの
であり機能していない。出来ないのか、やろうとしていないのかはわからない。
また、大きな違いの一つには、この EU5カ国に関しての「自動車運転者の労働
時間制度の罰則」についてである。事業者及び「運転者」に対しての罰金に注
視すべきである。イギリスを始め今回の対象となった「EU 先進5カ国」は違反
者に関して、違反一件毎に実に「30万円(一部6万円)~80万円前後」の
罰金が課せられる、これは決して安価なものではない。
また、これを取り締まる「権限」をもつ機関が各国、警察を含め、連邦政府機
関やオペレーターサービス庁、税関当局、労働監督署、各自治州の交通取締局
など、あらゆる行政機関が横のつながりを持って連携し、取り締りに当たって
いる。同じ先進国と言われている「日本国」とは大違い。欧州市場はしっかり
としたルールを作り統一化され、ついては「自動車運転者の労働条件の改善」
に着手し、公共道路上の「安全確保」を大前提とし、国民の生命を守っている
ことがこの報告書を見て手に取るように理解できた。
その反面、日本の自動車運転者の労働時間が、他産業と比べて圧倒的に長く、
未だに、他産業の労働時間との乖離が縮まらないのは、この報告書のまとめに
も記している、
「長時間労働の一方で賃金水準も低いなども問題」と、明確に指
摘されており、その原因には多層構造受注による「不必要な運賃の下落」にあ
ると私は見る。「全国」の「求荷や求車」は、「全日本トラック協会」と各都道
府県に点在する「地方トラック協会」のインフラを利用すれば、簡単に出来る。
それで下請禁止特措法などで「規制」をかけ、請けた企業は責任を持って「ト
ラック輸送」を行う。当然「アウトサイダー」での「求荷・求車」は認めない。
また取引されている「運賃」はトラック協会が監視することにより、最低運賃
を下回っている場合は排除命令を発することで、全て解消する。それが本来協
会の在り方ではないのか?
EU 諸国に劣らない、労働時間規制を確保する為にも、先ずは、各事業者「運賃
算出システム」を導入して基準となる「運賃」を把握する必要がある。
そうすることにより、荷主企業にも信頼されその運賃を確保し、それにも係ら
ず、
「自動車運転手」の労働条件を守らない企業や個人を EU 諸国のような厳罰
処分にすることで有効になってくる。
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もし、現状のままで EU 諸国のような、
「労働時間規制」を厳罰化にすると、運
転者の「賃金」が確保出来ない。
800円×.16時間=12.800円×24日=307.000円と
1600円× 8時間=12.800円×24日=307.000円では全く異
なることを皆さんは理解していない!(800円のまま8時間に出来るか?)
EU 諸国の「労働時間規制」の主な目的は、公正な労働条件の確保、運転者の労
働条件の改善、最後に「道路交通安全の確保」とある。
それに対し、我が国(日本)の労働改善告示の目的は「運転者の労働時間等の
労働条件の向上」としている。
「道路交通安全の確保」が抜けているではないか!これでは、国交省・厚労省・
警察を始めとする、必要な行政機関の継続的な連携が取れない。
EU 諸国に出来て、なぜ我が国(日本)ではこの簡単なことが出来ないのか?こ
れには、様々は「利権」が絡む「聖域」があり、踏み込むことが出来ないよう
に「既得権益」を持つ者があまりにも、我が国の「物流業界」には存在するか
らである、それは同業者を含む「大手運送企業」を始め、産業・工業界やその
子会社倉庫企業と物流企業。一般個人ブローカー(見ず屋)から始まり、
「行政」
や「政治家」にいたるまで、最後には「トラック協会」までが、自分達の「利
権」を確保するが為にこの国の「自動車運転者の労働時間」は全く改善されな
い。結果、我が国の「道路交通安全の確保」は出来ない、これからも永続的に
一般国民を巻き添えにしての重大事故も減ることはないと断言する。
そのうち、皆さんの「大切な方」の命を奪うばかりか、自身の命も奪います。
そうなる前に EU 諸国のように「自動車運転手」の産業別に一般労働者とは別
に「労働時間規制」を設け、その為には「運転者の賃金確保」これを前提とし
た「基準運賃の制定」。必要なデジタコ義務化は当然のことで、更に EU 諸国を
上回る為に「運賃算出システムの導入」が必要不可欠。
「運賃確保」=「賃金確
保」である。
当然、EU の5カ国にもそういった利権争いがあると思うが、それよりも、労働
者の環境改善や何と言っても「道路交通安全の確保」が優先されているのだと
思う。今回のこの「報告書」を厚労省は重く理解して頂き、これに携わった、
各有名大学教授の方々のご尽力を無駄にすることなく、一日も早く各省庁にて
取り上げて頂き、EU 諸国(5カ国)に負けない、労働者保護、国民の安全・安
心と「道路交通安全」の観点で「実運送企業」で働く「自動車運転者」の労働
時間規制を設けて頂きたいと強く願う。
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