ステークホルダーとの対話 株主価値の創造 企業

ステークホルダーとの対話
株主価値の創造
企業経営における株主価値の創出
インターネットの普及により、投資家のスタイルおよび視点、株式投資に対する姿勢
も多様化しています。こうした新たな時代において、企業はどういったスタンスで株
主との関係を捉え、経営に取り組むべきなのでしょうか。企業の社会的責任という視
点からの企業評価を専門に研究されている、株式会社日本総合研究所上席主任研究
員・足達英一郎氏にうかがいました。
●株式会社日本総合研究所 上席主任研究員
足達 英一郎氏
1986 年一橋大学経済学部卒。90 年に日本総合研究所入社。経営戦略研究部、技術研究
部を経て、現在創発戦略センター上席主任研究員、ISO 社会的責任規格化作業グルー
プ日本エクスパート。アジア太平洋クリーナープロダクション会議理事も兼務
●聞き手:
エーザイ執行役
コーポレートコミュニケーション・IR担当
藤吉
彰
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1.株主と直接対話しながら、良好な関係を構築していく
2.ポイズンピルではなく、株主利益を守るワクチン投入
3.エーザイを正しく評価してもらうために非財務情報の開示も
4.すべての原点は、いかに支持していただける薬をつくれるか
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1.株主と直接対話しながら、良好な関係を構築していく
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■多くのことに気づかされる、株主の言葉
足達 エーザイは2004年・2005年と2年連続で、日本IR協議会のIR優良企業賞を受賞
されるなど、IRに関して実直に取り組まれている印象を持っています。
藤吉 ありがとうございます。エーザイのIR活動で心がけているのは、第一に、細かい
ことを大切にすること。社内の空気に慣れてしまうと、社内の常識が世の中の非常識
になっていることに気づかなくなる危険性があります。それを防いでくれるのが、株
主の方々です。株主との対話から多くのことに気づかされ、学んでいます。
2つめは、IRは外向けだけではなく、株主の言葉を社内にフィードバックする役
割もあるということです。そこで、執行役員会で株主の意見を紹介するといったこと
にも取り組んでいます。
とにかく基本となるのは、対話です。今後も株主や投資家の方々と直接お話する機
会を重視したいと考えています。
■時代を先読みし、いち早く四半期開示にも着手
足達
藤吉
エーザイでは、四半期決算にも注力されていますよね。
四半期開示は、2003 年度の第一四半期から行っています。かなり早くからの着手と
なったわけですが、これは日本もいずれ四半期決算が主流になると予測し、1 年前か
ら情報を積み重ねていたため、四半期ながら本決算と同じレベルのものを開示するこ
とができました。これなどは、まさに会社の考え方が大きく前面に出た事例であり、
このときは日経新聞の記事に取り上げられ、とても高く評価されました。また、こう
したIRの強化が、外国人投資家の方々にも高く評価されている要因の一つだと思い
ます。
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■今後は質の充実を念頭に注力
藤吉 四半期決算に関しては、1-2枚の資料で数字を公表するだけというスタイルが主
流だと聞いています。しかし、エーザイでは経営トップが充実した情報の発信に力を
入れており、四半期決算についても説明会を開催し、参考資料として基本データもつ
けるなど、質・量とも充実した情報が提供できていると思います。
しかしながら、単にボリュームが多ければいいというものではないことも理解して
おります。そこで今後は、株主や投資家、アナリストなどの意見も参考にしながら、
質の充実・改善に力を注ぎたいと考えています。
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2.ポイズンピルではなく、株主利益を守るワクチン投入
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■敵対的買収に対する防衛策を発表
足達 2月にエーザイは、敵対的買収に対する防衛策を発表され、話題を呼びました。短
期志向の株主と長期志向の株主のそれぞれの期待に、どう応えていくのかが話題にな
っているとき、IR活動のパイオニアとして一石を投じるチャレンジングな動きとし
て、ポジティブな解釈をしています。これに関して「企業防衛策は、会社とともに長
期志向の投資家利益も守る」と明確なメッセージを出されるべきだと思いました。
藤吉 2月 28 日に発表したときは、新聞などで多く取り上げられましたけれど、意図が
十分に通じなかったと感じました。そこで後日、メディア、アナリスト、そして海外
の大手株主を中心に行ったインフォメーションミーティングの中で意図を説明し、ご
理解いただいたと思っています。
■経営陣の保身のためのプランではない
藤吉 まず、名称は『当社企業価値・株主共同の利益の確保に関する対応方針について』。
このプランでは、買収のオファーがあった場合、情報はすべて社外取締役独立委員会
に提供され、株主にも公開して、評価することになっています。そして、買収提案が
株主利益や企業価値を損ねると判断した場合、取締役会にポリシーの発動を提案する
ことになっています。
しかしながら、社外取締役独立委員会が企業価値を高める優れた内容だと判断した
場合は取締役会にもかけずに、株式の取得が進むことになります。これは、独立委員
会が株主の代表である7名の社外取締役のみによって構成されているため、独立委員
会がオーケーであれば、経営陣がいっさい関わらない形で買収を受け入れようと考え
たわけです。つまり、世の中でよく心配される、経営陣の保身のためのプランではな
いのです。
■株主の利益を損ねることがイコール防衛策ではない
藤吉 昨年エーザイでは企業理念を定款に盛り込みました。これにより、理念に反するこ
とは、この会社では受け入れられないことが明確になっています。また、独立委員会
は経営陣から独立しているため、コーポレートガバナンスも効いています。もし、株
主の方でプランの内容や独立委員会の独立性を心配されるのであれば、きちんと説明
させていただきたいと思っています。
足達 新聞発表では、そこまでガバナンスが効いていることは読み取れませんでした。
企業防衛策がイコール株主の利益を損ねるのではないということですね。
藤吉 そもそも意図が違います。敵対的買収に対抗するポイズンピルではなく、株主利益
を守るワクチン。我々はそう考えています。
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3.エーザイを正しく評価してもらうために非財務情報の開示も
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■長期視点を持った方々を中心とする株主構成
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足達 最近、四半期開示を期待するような短期の業績・財務情報に敏感な投資家と、社会
的責任投資のような、どちらかといえば長期で企業の価値や成長を見ていきたいとす
る投資家に、株主の立場は二極分化しているように思います。そして、長期的視点を
持つ投資家からは、非財務情報の開示を期待する声が強いように感じます。こうした
傾向をお感じになることはありませんか?
藤吉 現状として、エーザイの株主は長期的視点を持った方々が中心であり、15 年分のポ
ートフォリオを作成して分析されている投資家もおられます。こうした株主が多いた
め、必然的に質問内容は長期に関わるものが多くなっていますね。
■パイプライン情報もなるべく積極的に
藤吉
製薬会社の5年後、10 年後を予測するためには、パイプラインと呼ばれる新製品の
種をよく知ることが、とても大切になります。そのため、非財務情報として質問され
る内容は、ほとんどがパイプラインについてです。しかしながら、新製品に関する情
報は企業秘密にあたる部分も多く、研究内容や成果をお伝えするには、考慮すべき点
が多々あるもの事実です。
とはいえ、株主や投資家の方々にきちんと評価してもらうためには、そういう情報
を開示することも必要だろうという認識も経営トップとも共有しています。そうした
情報も、なるべく決算資料と一緒にまとめて提供できるよう、様々な努力をしている
ところです。
■We are Happy Shareholder
藤吉
たとえば、ここ数年は、インフォメーションミーティングと同時に、R&Dミーテ
ィングも開催しています。この席ではR&Dの責任者が現在のパイプラインの状況や、
新薬の希望の星を紹介するなど、株主や投資家の方々が判断に困らないよう、情報の
提供を積極的に行っています。
それ以外の定性的な情報に関しては、明確な方針を打ち出してお伝えしており、業
績もある程度期待に添っていることから、環境問題や社会問題に特化した質問は、あ
まり受けたことがありません。我々にとっては“We are Happy Shareholder”と言っ
ていただけることが、いちばんありがたいことです。そう言っていただけるよう、努
力してやっているつもりです。
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4.すべての原点は、いかに支持していただける薬をつくれるか
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■環境負荷の低減にも、様々な取り組みを実施
足達 非財務情報の例として、環境アセスメントについてはいかがでしょう。製薬メーカ
ーの場合、化学合成の過程で有害物質の使用が避けられない状況にあります。化学物
質の削減や代替に取り組むプロセスを知り、そこに当該社の優位性があれば、SRI
の観点からも応援したいという思いがあるのですが。
藤吉 当然、環境負荷を低減するための努力は日々続けております。また、たとえばアリ
セプトの申請段階では、薬が使用されて排泄されたのち、環境にどのような影響を与
えるのか。微生物や魚類など、いくつかのスタディーを行って環境への影響を評価し
ました。こうした、皆さんの目に触れない部分での取り組みは、数多くあるわけです。
しかし、それを外に向かってアピールするのは、少し気恥ずかしい気がしますね。
■企業秘密に関わる部分の開示方法も模索したい
足達 本日のお話で、非財務情報の中にも、いろいろな情報があることがわかりました。
ところで、こうした非財務情報について、欧米では開示を制度しようという動きもあ
ります。
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藤吉 我々IRの立場でいきますと、主たるお客様は、株主やアナリストの方々です。そ
うした方々が、どういった情報を必要としていて、どこまで対応できるか。現状とし
て、研究開発以外の非財務情報で、何が求められているのか、つかみきれておりませ
ん。しかしながら、エーザイの評価に必要な情報は、極力出していきたいと思ってい
ます。もちろん、企業秘密に関わらない部分は積極的に開示する方向ですし、企業秘
密に関わる部分でも、どうしたら伝えられるか、その方法も考えていきたいと思いま
す。
■IR活動のフロントランナーとして新たな領域の開拓を
藤吉 ホームページなどを通じて、様々なご意見をいただき、対応を考えていますが、何
をやるにしても、お金と時間と手間がかかります。つまり、それができるだけの体力
が必要になるということです。それを考えていくと、いかに患者様や消費者から支持
される薬をつくれるか、というところに行き着くわけです。
エーザイは研究開発型企業です。従業員の一人ひとりが、どうすればいいものを早
くつくれるか。それを考え、実行することが、すべての基本だと思います。
足達 本日は、様々なお話を伺うことができて、大変勉強になりました。今後も日本のI
R活動のフロントランナーとして、新しい領域を開拓していかれることを期待してお
ります。
藤吉 こちらこそ、貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。
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