close

Enter

Log in using OpenID

明るさアップに光明

embedDownload
明るさアップに光明
---メタマーによる明るさ知覚メカニズムの解明--1.背 景
私たちは普段、自然に部屋が明るい、もしくは暗いと明るさを判断していますが、この明る
いと感じる脳のメカニズムは、まだ良くわかっていません。一般に対象物の輝度や照度※1 が高
いと明るいと感じ、また低いと暗く感じます。しかしながら、例えば、同じ輝度の光でも色に
よって明るさが異なることが知られています。ヒトの目には、錐体細胞と桿体細胞※2 という光
を検出する細胞があります。したがって輝度や照度の単位は、これら錐体細胞と桿体細胞の光
に対する感度を基に作られています。
近年、これらの細胞以外にも新たな光を検出する細胞が発見されました。この細胞はメラノ
プシンと呼ばれる視物質※3 をもっていることからメラノプシン神経節細胞と呼ばれています。
この細胞は概日リズム※4 の調整をおこなっていることが報告されています。さらに最近では、
この細胞は明るさなどの「見え」にも影響していることが示唆されています。しかしながら、
光の情報が私たちの脳にどのように伝わるか、また、光の情報とメラノプシン神経節細胞の働
きにどのような関連性があるのかはいまだ明らかにされていませんでした(図 1)。そこで、研
究グループはメラノプシン神経節細胞の明るさ感※5 に関するメカニズムを解明するためにマウ
スやヒトの明るさ感を調べる実験をしました。
2.研究手法と結果
メラノプシン神経節細胞の概日リズムへの影響について、これまでの研究では、いろいろな
色の光を刺激として用いその反応を調べてきました。しかしながら、いろいろな色の光を用い
た刺激によってこの細胞の働きを評価することは難しいとされています。なぜなら、このよう
な刺激はメラノプシン神経節細胞を刺激すると同時に錐体細胞と桿体細胞も刺激します。した
がって、その反応にはメラノプシン神経節細胞の反応だけではなく、錐体細胞と桿体細胞の反
応も含まれてしまいます。メラノプシン神経節細胞の働きを調べるためには、錐体細胞や杆体
細胞には影響を与えないでこの細胞のみを刺激することが必要です。
研究グループでは、この問題を克服するためにメタマー※6 と呼ばれる刺激を用いました。メ
タマーとは、同じ色・輝度ですが、そのスペクトラムは異なる視覚刺激です。同じ色・輝度で
あるために、被験者にとっては2つのメタマーは全く同じ刺激に見え、その違いがわかりませ
ん。言い換えれば、メタマーは、3種類の錐体細胞には同じ刺激を与えますが、メラノプシン
神経節細胞には異なる刺激を与えることが可能な刺激です(図2)。数あるメタマーからメラノ
プシン神経節細胞を大きく刺激するメタマーと、あまり刺激しないメタマーを選び、これらの
メタマーに対する反応を比較することによって、メラノプシン神経節細胞起因の反応を調べま
した。このようにして、研究グループは、メラノプシン神経節細胞の明るさ感への寄与の解明
に挑戦しました。
実際、メラノプシン神経節細胞のみが、これらのメタマーによって刺激されているかを確認
するために、遺伝子操作したマウスを用いて実験をおこないました。遺伝子操作によってメラ
ノプシンをもたないマウスにメタマーを提示しました。メタマーはメラノプシン神経節細胞の
みを刺激するように作られていますので、メラノプシン神経節細胞の無いマウスでは反応が生
じないはずです。実際、反応はほとんど生じませんでした。このことはメタマーがきちんとメ
ラノプシン神経節細胞のみを刺激していることの確認になります。続いて、ヒトに対してメタ
マーを提示し実験を行いました。メラノプシン神経節細胞への刺激が大きいメタマーと小さい
メタマーを被験者に提示し、被験者が明るさの判断を行いました。その結果、メラノプシン神
経節細胞への刺激を10%増加させた場合、おおよそ明るさ感が10%-20%程度増加する
ことが示されました。
3.今後の期待
明るさの知覚メカニズムを解明するためには今後も引き続き研究を重ねる必要がありますが、
今回の研究成果は、たとえ同じ色および輝度の光刺激でも、メラノプシン神経節細胞を選択的
に刺激することによって、明るさ感を上昇させることが可能であることを示しています。さら
に、マウスおよびヒトの双方で確認されたことによって、この機能は生物にとって非常に根本
的なメカニズムの一つだということが示唆されます。今後さらに研究が進むと将来的には、照
明装置やテレビのモニタなどの表示装置に大きな影響を与えることが期待されます。例えば、
同じ輝度で明るさ感を10%増加させますと、逆に約90%の輝度で今までと同じ明るさ感を
得ることが可能になると考えられます。将来的にはこれが世界中全ての照明システムや表示シ
ステムに適用できる日が来るかもしれません。
<補足説明>
※1. 輝度・照度
人間が感じる明るさの量を表す。錐体、桿体細胞※2 の感度を基に定義される。
※2. 錐体細胞と桿体細胞
網膜に存在する光受容体。暗い場所で働く桿体細胞と異なる色に反応する3種類の錐体細
胞が存在する。錐体細胞は、それぞれ赤色の波長光に感度のピークをもつ L 錐体、緑色の
波長光に感度をもつ M 錐体、および青色の波長光に感度をもつ S 錐体と呼ばれている。
※3. 視物質
ある特定の波長の帯の光に反応するたんぱく質。光信号を中枢に伝える。
※4. 概日リズム
多くの生物には体内時計が内在し、さまざまな現象が約 1 日(概日)周期のリズムで繰り
返されている。このリズムのことを概日リズムと呼ぶ。
※5. 明るさ感
明るさの明暗を感じる知覚量、明度。
※6. メタマー
特定の観測条件下で輝度や色などの見えは同じであるが、スペクトラムは異なる視覚刺激。
錐体に対しては同じ刺激となり、一方、メラノプシン神経節細胞には異なる刺激となる(図
2)。
Author
Document
Category
Uncategorized
Views
2
File Size
170 KB
Tags
1/--pages
Report inappropriate content