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Mahara オープンフォーラム 2013 講演論論⽂文集
Proceedings of Mahara Open Forum 2013
今、e ポートフォリオを総括する!〜~e ポートフォリオの活⽤用・普及のために〜~
第 4 回 Mahara オープンフォーラム
2013 年年 9 ⽉月 14 ⽇日(⼟土),15 ⽇日(⽇日)
東京学芸⼤大学 ⼩小⾦金金井キャンパス 南講義棟(S棟)203 教室
主催:MOF2013 運営委員会,東京学芸⼤大学
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
目次
大会プログラム ........................................................................................................................................................................... 1
飛ぶノート活用の展開
遠藤大二(酪農学園大学),内田英二(酪農学園大学),大西昭夫(バージョン 2) ........................................................ 3
紙資料の効率的仕分け機能を実装した Moodle と Mahara の連携
佐々木健太(法政大学大学院国際文化研究科),大嶋良明(法政大学大学院国際文化研究科) ...................................... 8
みんなで Blocktype プラグインを作ろう
隅谷孝洋(広島大学情報メディア教育研究センター), 秋元志美(広島大学情報メディア教育研究センター) ........ 11
Mahara リフレフォリオ:学習プロセスにおける学習者の省察的学習フレームワーク
森本康彦(東京学芸大学) ...................................................................................................................................................... 17
日常業務で使う mahara
藤田豊(横浜市消防局).......................................................................................................................................................... 24
千葉大学医療系 3 学部専門職連携教育プログラム「亥鼻 IPE」における Mahara の活用
高橋平徳(千葉大学大学院看護学研究科),岡田聡志(千葉大学大学院医学研究院),
前田崇(千葉大学医学部附属病院),伊勢川直久(千葉大学大学院医学研究院) ........................................................... 31
医学領域における e ポートフォリオの現状と千葉大学医学部における Mahara の導入
岡田聡志(千葉大学大学院医学研究院),高橋平徳(千葉大学大学院看護学研究科),
前田崇(千葉大学医学部付属病院),伊勢川直久(千葉大学大学院医学研究院) ........................................................... 33
国内外の日本語教師の交流活動コミュニティでの実践
加藤由香里(東京農工大学) .................................................................................................................................................. 37
放送大学における e ポートフォリオの実践
秋光淳生(放送大学教養学部),秦野努(放送大学教養学部),
三輪眞木子(放送大学教養学部),仁科エミ(放送大学教養学部) .................................................................................. 40
留学生を対象とした多文化交流活動型授業における Mahara の利用
宮城徹(東京外国語大学留学生日本語教育センター),島崎俊介(東京学芸大学),高橋敦志(東京学芸大学) ....... 45
Mahara を活用した学部教育の取組み―法政大学国際文化学部の事例報告―
大嶋良明(法政大学国際文化学部,法政大学国際文化研究科),
佐々木健太(法政大学国際文化研究科),田中勇太(法政大学国際文化学部) ............................................................... 50
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
【大会プログラム】
◎1 日目:9 月 14 日(土)
開始~終了
プログラム
12:30
受付開始
13:00~13:10
開会挨拶
13:10~15:10
基調講演セッション 進行:山川修(福井県立大学)
招待講演
小川賀代(日本女子大学)「e ポートフォリオによるキャリア支援」
特別講演 1 宮崎誠(法政大学)「e ポートフォリオによる教育の質保証」
特別講演 2 森本康彦(東京学芸大学)
「e ポートフォリオによる授業支援」
15:10~15:30
休憩
15:30~17:35
一般セッション 1:インタフェース&ツール 座長:久保田真一郎(宮崎大学)
飛ぶノート活用の展開
遠藤大二(酪農学園大学)
,内田英二(酪農学園大学),大西昭夫(バージョン 2)
紙資料の効率的仕分け機能を実装した Moodle と Mahara の連携
佐々木健太(法政大学大学院国際文化研究科),
大嶋良明(法政大学大学院国際文化研究科)
みんなで Blocktype プラグインを作ろう
隅谷孝洋(広島大学情報メディア教育研究センター),
秋元志美(広島大学情報メディア教育研究センター)
Mahara リフレフォリオ:学習プロセスにおける学習者の省察的学習フレームワーク
森本康彦(東京学芸大学)
日常業務で使う mahara
藤田豊(横浜市消防局)
17:50~
情報交換会
1
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
◎2 日目:9 月 15 日(日)
開始~終了
9:00~10:15
プログラム
一般セッション 2:リフレクション 座長:遠藤大二(酪農学園大学)
千葉大学医療系 3 学部専門職連携教育プログラム「亥鼻 IPE」における Mahara の活用
高橋平徳(千葉大学大学院看護学研究科),岡田聡志(千葉大学大学院医学研究院),
前田崇(千葉大学医学部附属病院)
,伊勢川直久(千葉大学大学院医学研究院)
医学領域における e ポートフォリオの現状と千葉大学医学部における Mahara の導入
岡田聡志(千葉大学大学院医学研究院)
,高橋平徳(千葉大学大学院看護学研究科),
前田崇(千葉大学医学部付属病院)
,伊勢川直久(千葉大学大学院医学研究院)
国内外の日本語教師の交流活動コミュニティでの実践
加藤由香里(東京農工大学)
10:15~10:30
休憩
10:30~11:45
一般セッション 3:アセスメント 座長:平塚紘一郎(仁愛女子短期大学)
放送大学における e ポートフォリオの実践
秋光淳生(放送大学教養学部)
,秦野努(放送大学教養学部)
,
三輪眞木子(放送大学教養学部),仁科エミ(放送大学教養学部)
留学生を対象とした多文化交流活動型授業における Mahara の利用
宮城徹(東京外国語大学留学生日本語教育センター),
島崎俊介(東京学芸大学)
,高橋敦志(東京学芸大学)
Mahara を活用した学部教育の取組み―法政大学国際文化学部の事例報告―
大嶋良明(法政大学国際文化学部,法政大学国際文化研究科),
佐々木健太(法政大学国際文化研究科)
,田中勇太(法政大学国際文化学部)
11:45~12:45
休憩
12:45~13:45
海外事例セッション
事例報告 1「MaharaUK2013」田中洋一(仁愛女子短期大学)
事例報告 2「ePIC2013,AAEEBL2013」久保田真一郎(宮崎大学)
事例報告 3「初年次教育等の視察(マサチューセッツ大学ボストン校,ラガーディアン
大学,バージニア工科大学)」平岡斉士(京都大学),宮崎誠(法政大学)
13:45~14:00
休憩
14:00~14:45
パネルディスカッション
「海外における e ポートフォリオの現状と日本 Mahara ユーザコミュニティの展望」
コーディネータ:田中洋一(仁愛女子短期大学)
パネリスト:久保田真一郎(宮崎大学)
,平岡斉士(京都大学),宮崎誠(法政大学)
14:45~15:00
クロージングセッション 進行:森本康彦(東京学芸大学)
2
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
飛ぶノート活用の展開
遠藤
大二†,内田 英二†,大西 昭夫††
Mahara に手書き原稿を配信する「飛ぶノート」は,学籍番号記入欄のマークシート化や安定性の向上を通じ,酪農学園大学での利用者
を増加させた.飛ぶノートは,当初 e ポートフォリオ Mahara の活用を促進するため,教員支援を主眼として開発されたが,利用数の安
定的増大は,学生の共感が決め手となった.教員・学生双方に利便性を向上させるという目的で,マークシートの改良と追加ツールの開
発が行われた.
Improvement of note-uploading system "Flying Note"
DAIJI ENDOH†,EIJI UCHIDA†,AKIO OHNISHI††
Users of a tool "TobuNote", which support Mahara through the redistribution of reporting papers, have been increased through
replacement of individual recognition tool from barcode-based to OMR-based ones. TobuNote developed solory support teachers to
increase Mahara-users. While students’ sympathy to this system was need for stable increase of users. The OMR-based individual
recognition system has been improved and additional programs have been developed to improve usefulness on both teachers and
students.
1.
はじめに
ており,学生が各自のバーコードシールを持参することが
酪農学園大学では,2009 年度に採択されたキャリア支
活用の前提となっていたため,学生からの評価が低く,学
援事業の予算を活用し,学生によるキャリア学習を支援す
習効果を上げるためには,教員側の努力も必用となった.
る e ポートフォリオとして Mahara が導入された.続い
本稿では,Mahara の活用・定着ツールとしての飛ぶノ
て,Mahara の利用を講義を通じて促進するための仕組み
ートの 2011 年度から 2013 年度前半までの改善と結果に
として学生の提出したレポートを PDF として Mahara 上
ついて報告する.
に返却する飛ぶノートを開発した (図 1) [1].2010 年度に
は,教務の基幹システムとして UNIPA が導入され,全学
の学生が教育システムに学生個々のユーザー名とパスワ
ードでログインして活用するという習慣が形成されたた
め,Mahara 上に返却されたレポートを確認・利用するこ
とにも抵抗がなくなり,飛ぶノートが普及する基盤は形成
された.ただ,レポートの個人認識をバーコードに依存し
† 酪農学園大学
Rakuno Gakuen University
図 1 飛ぶノートの概要
†† バージョン 2
VERSION2
3
Maharaオー
2.
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
飛ぶノートの開発と展開
飛ぶノートは,導入された Mahara の利用率を高める
2.1
飛ぶノートの仕組み
学生レポートを Mahara 上の個人別のスペースに返却
ことを主な目的として開発された.Mahara 導入後の学生
への告知等は効果を示さず,利用者は全く増加しなかった.
するためには,学生の個人識別タグをレポート用紙上に設
若者が自主的に記録を残すサービスとしては,2009 年時
置する必用があった.読み取り装置としては 2009 年頃か
点においてすでに Facebook が世界最大の SNS であり,
ら急速に普及し始めた個人用ドキュメントリーダーの有
学習記録を残すためのサービスとしては 2010 年には
効性が予想された.画像としてスキャンしたレポート用紙
Evernote の日本版が公開されていた.自主的な利用に限
の一定の領域をデータとして認識するためのプログラム
った場合,Mahara はこれらの洗練された世界的サービス
としては,正確・迅速かつオープンソースのバーコード識
と比較されることになる.利用者がサービスを選択する場
別プログラムが最も優れていたため,学生用に個別のバー
合の理由は,友人との情報共有性,接続スピードと携帯電
コードシールのシートを配布してそのシールを講義の際
話またはスマートフォンでの利用のしやすさが選択理由
に添付する方式を考案した.この方法は,バーコードシー
になっており,PC での利用が基本で学内にサーバーを置
ルシートを最初の時間に一度だけ個別に配布すれば良い
く Mahara はこれらのサービスに比べ操作性,利便性,検
ため,教員には好評だった[3].
索速度等で劣っている.学生が自主的にサービスを選択す
る場合,Mahara が選択される可能性は低いことが予想さ
れた.酪農学園大学で当初想定された,「自己の記録を集
積することによる就職時の記録を充実させる」という使用
方法についても,友人に評価された Facebook の記録を集
約するというやり方の方が効率的と評価される可能性が
高かった.Facebook や Evernote は,個人ユーザーの利便
性と志向を常にリサーチして,多数の専従プログラマーが
図 2 飛ぶノートによる Mahara 上への配信
改善を続けているため,これらのサービスと同一の競争を
することは無意味であることが予想される[2].
Mahara の強みとしては,大学側がサーバーを運用でき
2.2
飛ぶノート定着に関する障害
るため,講義資料等を掲載・頒布しやすいという,教育側
飛ぶノートを採用した講義においては,バーコードシー
からのアプローチに限られる.しかしながら,プリント資
ルシートを忘れる学生の存在が徐々に利用上の障害とな
料の配布サービスは UNIPA やその他の方法でも可能であ
った.教員にとっては,講義に指定されたバーコードシー
りいずれニーズは消失することが予想された.Mahara の
ルシートを持ってくることは,配布資料を持参するのと同
強みは学生が個人スペースを持っていることであるため,
様,講義に参加する際の当然の義務と考えられたため,バ
学生個人と教育側との接点に活用の展開点があると考え,
ーコードシールシートを持参する率が 90%を下回ること
レポートの返却という制度に着目した.100 人以上の学生
は無いと予想していた.しかしながら,一定数の学生はプ
がレポートを提出するような講義では,教員が個人別にレ
リントを持参せずに講義を受講する場合があり,多くの講
ポートを返却することに苦慮していることが散見された
義では,そのような場合に予備のプリントを配布している.
ため,個別に返却する手間を減らすことは,教員側のメリ
学生の要望としては,義務は最低限に限定されることを望
ットになり,学生としては,パソコンを立ち上げた上での
むため,バーコードシールシートの持参義務はプリントの
ログインと PDF の閲覧(図 2)という手間の掛かる行為でも
持参と同等に扱われるべきという考え方が存在した.学生
必用として受け入れられた.
側からすると,バーコードシールシートを持参しなくても
4
Maharaオー
プリントと同様,教員が予備を供給するか,講義後に添付
2.4
すれば良いと考えるようになり,持参率は徐々に減少し,
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
読み取り効率改善のための措置
マークシートの利用は,教員・学生ともに利便性があり,
講義によっては持参する学生数が 60%を下回る場合も出
飛ぶノートの普及にはプラスなるが,個人識別用の読み取
るようになった.また,一旦持参率が下がった講義では,
り方式としては,バーコードに比べ技術上難しい点がある.
持参率が向上することは無かった.持参しない学生に一定
まず,マーク対象領域を限定するための指標については,
のペナルティーを与える等の厳しい措置を取ると苦情が
複数の特許が設定されており,同様な方法で開発を行うと
続出し,教員の心理的負担が増大することとなった.
特許に抵触する恐れがあった.そのため,マークシート認
識部分を開発した VERSION2 社では,マーク欄を認識す
2.3
マークシート導入による安定的利用
るための方法として四角形の枠を設定し,その枠線を認識
飛ぶノートは,学生の自主的活用での可能性の低さから
することによりマーク位置を識別する方式を開発した.高
考案したシステムであるため,学生の心情や志向はあまり
い認識率を持つプログラムの開発には多数の工数を要し
考慮されていなかった.当初,バーコードシールシートを
たため,酪農学園大学ではその部分を買い取ることが出来
忘れた学生に対し,レポートの提出締め切りと同様,教員
ず,飛ぶノートを頒布する場合には,マークシート識別プ
が厳格な対処をすることにより持参率は維持できるもの
ログラムは個々の利用大学で VERSION2 と契約いただく
と予想していた.しかしながら,多くの教員は,義務的な
こととなった.酪農学園大学としては,無償で飛ぶノート
部分を最低限にとどめ,学生が了承せざるを得ない限定し
を提供したいと考えているため,独自のマークシート識別
た部分に義務を限定する傾向があった.レポートの提出や,
プログラムも開発し,提供可能にはしている.しかしなが
試験での成績等は,学則にも規定され,厳格な運用が実施
ら,酪農学園大学では VERSION2 社が制作したマークシ
されるが,厳格さを維持するためには永年学生・教員間で
ート認識プログラムを使用してきたため,独自開発の無償
のルールの共有が必要となることが,バーコードシールシ
版マークシート認識プログラムについては,認識精度や運
ートの持参率の低下から示されたといえる.学生はバーコ
用上の注意などは提供できていない.現状としては,飛ぶ
ードシールシートの持参を義務と考えることに賛同しな
ノートの組織的利用にあたっては VERSION2 社との契約
い傾向があり,教員は,自らの手間を減らすという理由だ
を第一選択にしていただくことが望ましいと言わざるを
けでバーコードシールシートの持参を義務化することに
得ない.
は賛同しづらい傾向があった.
実際にマークシートを利用していく際には,マーク欄の
結果的に,効率良い講義運営を支援するための方法とし
印刷が読み取り効率に大きく影響した.最も重要になるの
ては,飛ぶノートも従来から教員・学生双方に承認されて
がマークシート欄を囲む四角形の辺とマーク欄の距離で
いる方法で,レポートの個人特定を実施する必用が示され
あったが,この距離を適切に保ったマークを描くことがワ
た.著者らは,その時点で学籍番号を塗りつぶすマークシ
ープロソフトや表計算ソフトでは極めて難しかった(図 3).
ートに着目した.マークシートはセンター試験を中心に普
どちらのソフトでも図形は不連続な位置のいずれかに設
及しており,マークをミスした場合には,学生の自己責任
定されてしまい,完全な等間隔や任意の狭い距離に設定す
という考え方がすでに普及している.このことから,飛ぶ
ることはできなかった.そのため,ドロー系の図形描画ソ
ノートの個人認証にマークシートを用いることにより,マ
フトでマーク欄を作成して最低の注意書きとともに提出
ークミスおよびマークしない学生への厳格な対応が可能
用紙用のワード文書に貼り付けるという方式が選ばれた
になることを示唆された.実際,マークミスによって減点
(図 4).同様に,マークシートの塗りつぶす楕円を示す線
やレポート未提出という対応を取った場合にも,「マーク
の太さも誤記や誤認識の原因となったため,様々な濃さの
しなかっただけで自分に責任は無い」という学生からの苦
マークシート欄を試して最適な図形が選択された.実際の
情は寄せられていない.
運用では,印刷に用いるプリンターや紙の質に依存して変
5
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
飛ぶノートを開発した VERSION2 では,複数枚の回答に
更することが望ましい.
も対応可能にしていたが,遠藤・内田などの大学教員側は
それを十分に活用できていなかった.
2012 年度末からは,
採点後,教員が個人別に複数の試験シートを並べなおすこ
とにより複数枚の試験問題にも対応が可能になった.その
結果,個人別の返却と告知が間に合わず再試験を実施でき
なかった教員が再試験を実施することが可能になった.
図 3 飛ぶノートマークシート初期バージョン
3.2
試験成績の告知
試験成績の告知については,記述式の試験を実施してい
る教員以外でも,選択式の試験や中間の小テスト,e ラー
ニングなどによって総合的に成績を算出している教員な
どは,成績の告知に苦労していた.学籍番号や氏名の入っ
図 4 飛ぶノートマークシート改良バージョン
た告知用紙を掲示板に貼ることが多く行われていたが,こ
のような場合,学生からプライバシーが守られないことに
2.5
利用講義数の再増加
抗議を受ける場合がある.学生から暗号を受け取り,氏
マーク領域の認識率の改善に伴い,2011 年度~2012 年
名・学籍番号がわからないように掲示した場合には,その
度に減少した利用科目が 2013 年度には再度増加した.筆
暗号を忘れる学生が続出してしまう.メールなどでの自動
者の研究室では,大学内の飛ぶノート利用者へのサポート
配信が以前には可能であったが,スパムメール対策のため,
を行っているが,読み取りの安定と運用の安定によって,
そのようなソフトは販売されなくなった.また,メールサ
労力は増大することなく推移している.
ーバーが名簿順での自動配信などに対して拒絶する場合
もある.そのため,結果的に,飛ぶノートによる告知は有
3.
飛ぶノートの展開
効な方法と考えられた.筆者らは,エクセルのデータを学
籍番号のバーコードを含む PDF に自動変換するプログラ
飛ぶノートの普及に伴い,学生への認知度が高まるが,
その結果として新たに利用し始める教員にとっては,学生
ムを開発した.そのプログラムにより,個人別に配点等を
への説明の手間が不要となるため,さらに使いやすくなる
PDF として告知することが可能になった.
「飛ぶ告知」と
という,正のフィードバックがかかるようになった.また,
仮称しているソフトは 2014 年度には配布可能にしたい.
2012 年度には飛ぶノートの基幹ソフトとして用いている
Ruby on Rails のバージョンが新しくなったことに伴い,
3.3
出欠およびレポート提出状況の集計
学生個々人への配布時間が大幅に短縮された.2013 年度
2013 年度には,一学年 800 人を対象として分割講義を
現在,800 人を 40 分程度の時間で Mahara 上に返却して
実施する科目が飛ぶノートを採用した.この科目では,
いる.このような運用の安定化により,2012 年度後半と
2011 年度から全員に毎回 75 文字以上の感想をレポートと
2013 年度には,飛ぶノートの利用に関連した新たなサー
して提出することを義務付けており,その判定を成績に加
ビスを考案することが可能になった.
味していた.運用上は,多数のレポートの判定と,学生証
を RFID 装置に読ませる方式の出欠確認の矛盾などを確認
3.1
定期試験の返却
する作業が膨大になり,担当者には負担になっていた.飛
飛ぶノートは,手書きで記載した内容の返却に用いてい
ぶノートを導入するにあたり,読み取り結果や判定結果を
るものであるため,定期試験の返却には元々適していた.
自動記録された出欠記録と学生ごとに並べて表に整形す
6
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
るソフトを併せて開発することになり,ローカルホストで
教員と学生が形成してきた共同ルールのような視点が有
稼働するソフトが稼働するようになった.このソフトの開
効であった.飛ぶノートは,今後も教員にとって利用しや
発では,学生の記録の他に,出席記録データで記録されて
すい授業支援システムに改善することを目指すが,改善の
いる事項と記録されていない事項,飛ぶノートの読み取り
方向としては「教員と学生が共有しやすい」という指標を
の際に出力されるデータファイルの名称の取り決めなど
重要視する必用がある.
を工夫する必用はあったが,800 人分の出席記録データと
飛ぶノート提出記録データを 4-5 分で照合できるようにな
参考文献
っている.今後はこのような連携ソフトの開発により業務
1)
遠藤大二,2011,Mahara とクリッカーを連動した授
業を可能にする Mahara 活用の展開,
第 2 回 Mahara
全体を効率化することの必要性が提示された.
オープンフォーラム.
4.
2)
今後の課題
本稿では,e ポートフォリオ Mahara を活性化するため
エリック・ニース著,井口浩二訳,2012 リーン・ス
タートアップ,日経 BP,pp110-118.
3)
に開発された飛ぶノートの改善について述べた.飛ぶノー
内田英二・丸山友則・遠藤大二,2011,Mahara を活
トは,学生の意志に依存しない Mahara 活用の促進方法と
用したノート提出システム「飛ぶノート」を活用した
して開発されたが,利用者を安定的に増大する課程では,
授業実践,第 2 回 Mahara オープンフォーラム.
7
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
紙資料の効率的仕分け機能を実装した Moodle と Mahara の連携
佐々木健太†1
大嶋良明†1
大学に関係する教員や学生は、ICT が進む現代においても未だ多くの紙媒体資料を利用している.そこで、紙媒体の
資料を効率的に整理するため、また、学生への資料のフィードバックをより容易にするため、「pdf2submission」を実
装した Moodle を稼働させ、Mahara と連携した結果を報告する.
On the use of Moodle Plugin “pdf2submission” in Mahoodle
Environment
KENTA SASAKI†1
YOSHIAKI OHSHIMA†1
In this paper, we report on the installation and the trial use of a Moodle plugin called “pdf2submission” in so-called Mahoodle
environment, in the attempt of providing Mahara e-Portfolio users with a semi-automated drop box mechanism for QR-coded
handwritten documents in the form of scanned PDF.
の Moodle のプラグイン「pdf2submission」aを利用して構築
1. はじめに
を行なっていくこととした.
ICT の活用が進み、これまで紙でやりとりされていたも
のが電子に置き換わりつつある現代であるが、紙媒体が必
要とされる場面は未だ多い.そのため、必要となるデータ
が紙で記録されていることも多いといえる.また、そのデ
2. 環境の構築
ータを必要なときに参照できるようにするため、紙資料を
2.1 pdf2submission について
pdf2submission は、熊本大学の喜多敏博教授により開発
効率的に整理し、またその状態を維持する必要があること
された Moodle プラグインであり、
「紙に書かれたレポート
も同時にいうことができる.
しかしながら、紙資料に記録されたデータを必要時に応
や試験解答を Moodle 上で扱うため」 bの拡張機能である.
じてすぐに取り出すことは、高度に整理された状態を維持
QR コードが記載された表紙をスキャナでユーザー全員分
していないと難しい.
まとめて PDF 形式に保存し、特定のフォルダへファイルを
また、大学という環境に着目すると、教員には多くの学
アップロードすることで、QR コードの情報をもとに該当
生から提出される出席表やレポート、リアクションペーパ
ユーザーごとにファイルを切り分け、各ユーザーの提出フ
ー等、紙による資料が大量に寄せられることが日常的であ
ァイルと自動処理することができるものである.
る.これらの紙で提出された書類を学生へ返却する場合、
「教師権限」を持つユーザーは、学生全員分の表紙をダ
中等教育までのクラスのような、40 人規模で、かつ着席位
ウンロード可能であるが、
「学生権限」のユーザーは、その
置が固定されていれば、手渡しによる返却も容易であるが、
ユーザーだけの表紙をダウンロードすることができる.
大学などの大規模な人数で、かつ着席位置もランダムとな
なお、表紙をダウンロードするため、コースごとの「ブ
ロックタイプ」で pdf2submission を表示させておき、必要
ると、手渡しによる返却は時間がかかってしまう.
そこで、紙媒体の資料を効率的に整理するため、また、
に応じてダウンロードすることとなる.その「ブロックタ
イプ」が以下のようなものである.(図 1)
その資料をもとに学生に対してフィードバックをより容易
にするための方策を探ることを、本研究の目的とする.
法政大学では現在、Sakai ベースの授業支援システムが用
2.2 動作環境
意されており、さらに Mahara ベースの e ポートフォリオシ
pdf2submission は Moodle1.9、2.3 に対応しているが、2.3
対応版は 2.4、2.5 も動作したという報告もある.
ステムの全学導入が進んでいる.しかしながら、紙資料を
各学生に紐付けし、返却する機能は用意されていない.そ
今回は、Moodle2.3.7 と Mahara1.7.1 の環境で導入を行な
のため、オープンソース e ポートフォリオシステム Mahara
った.なお、Mahara から Moodle へ SSO 連携が可能な状態
をベースに、Mahara と連携が容易なオープンソース LMS
a pdf2submission https://moodle.org/mod/forum/discuss.php?d=186387
b
†1 法政大学大学院国際文化研究科
Graduate School of Intercultural Communication, Hosei University
https://moodle.org/pluginfile.php/214013/mod_forum/attachment/811533/pdf2sub
mission1.pdf
8
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
4. 今後の課題
となっている.Moodle2.3 に pdf2submission を導入した際の
手順は、付録に記した.
Mahara のプラグインのひとつに、酪農学園大学で開発さ
れた「飛ぶノート」cがあり、導入を試しているが、現段階
では動作させることが出来なかった.Ruby のサービス起動
時に、何らかのエラーが生じているものと思われるが、原
因の究明には至っていない.
「飛ぶノート」についても、な
るべく早期に稼動できるように環境整備に務め、同様の実
験を実施したいと考えている.
また、Mahara と Moodle の連携に関して、Mahara から
図 1
Moodle へシングルサインオン(SSO)連携が出来ない場合が
QR コード付き表紙を DL するための
あることが判明した.表 2 に、Mahara から Moodle への SSO
ブロックタイプ
Figure 1
設定をした際の状況を記した.まとめると、全学導入を進
Blocktype for downloading the papers with QR
めているサーバーの Mahara から我々が管理するサーバー
barcode.
の Moodle へ SSO が出来ないといった状態である.この原
因の究明も課題の 1 つである.
さらに、現段階では、各ユーザーが Moodle から Mahara
3. pdf2submission 動作実験
へファイルを送る必要がある.そのため、Moodle へアクセ
スしないといけないため、自動的にファイルを転送する方
導入後、テストユーザーを Moodle に 30 個作成し、
策を考えたい.Moodle には「エクスポート」という、SSO
pdf2submission がどのような条件下で正常に機能するかを
連携している Mahara へ数クリックでファイル転送が可能
実験した.その結果をまとめたものが表 1 である.実験 No.1
な機能が実装されており、この機能を応用することで実現
は、印刷サイズで指定されている A4 を表紙のみで、実験
できないか検討できよう.
No.2 は、法政大学で使用されている出席カードのサイズの
1 つであり、その紙型に準拠した場合でも機能するのかを
調べたものである.実験 No.3 は、表紙の後に別ページを差
表 2
し込み、サイズを大きくした状態で機能するかの実験であ
Table 2
り、実験 No.4 は、簡単なフィードバックとして使用するこ
Mahara から Moodle への SSO 連携状況
SSO cooperation state from Mahara to Moodle.
Moodle
とを想定し、A4 に 2 ページ分ずつ印刷をした場合に機能す
全学サー
バー
研究室サ
ーバー1
研究室サ
ーバー2
全学サーバー
○
×
×
研究室サーバー1
N.A.
○
○
研究室サーバー2
N.A.
○
○
るかを実験したものである.
以上の結果から、実験 No.2 および No.4 より、A4 で印刷
Mahara
をすることが必須であり、その後、QR コードを残す形で
好きなように紙を裁断しても問題がないようである.
また、実験 No.3 は、レポートなどの複数ページの提出物を
想定した実験であったが、表紙を表紙として用いることで
次のユーザーの表紙が読み込まれるまで、そのユーザーの
提出物として処理することがわかった.
5. 終わりに
表 1
Table 1
pdf2submission の動作実験
pdf2submission を導入した Moodle と Mahara の連携によ
Experimentation for working pdf2submission.
実験
No.
ページ状
態
印刷サイズ
紙型
成功
数
1
表紙のみ
A4
210mm×297mm
30/30
2
表紙のみ
A4
106mm×106mm
30/30
3
表紙+
別ページ
A4
210mm×297mm
30/30
4
表紙のみ
A5
148mm×210mm
0/30
り、学生が紙資料として提出した課題等を自動的に仕分け
することが可能となった.このことにより、出席カードの
ような簡単な資料から、紙で提出されたレポート課題も、
各々の e ポートフォリオを見にいくと、フィードバック付
きのそれぞれの紙で提出したものが蓄積させていくことが
可能となる.
学生が提出した書類を学生にも見える形で記録しておく
ことには、後から学生がその回で何を学んだかを振り返る
c 飛ぶノート http://www.carrier-port.jp/mahara/view/view.php?id=783
9
Maharaオー
機会に繋がり、さらにフィードバックがあることでその後
の学習意欲につながることが期待される.
参考文献
1) Mahara http://mahara.org
2) Mahara - Kaz Yatsushiro Lab
http://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~kaz/cgi-bin/pukiwiki/index.php?Ma
hara
3) Moodle http://moodle.org
4) Moodle 2.x | Mahara Wiki
https://wiki.mahara.org/index.php/Moodle_2.x
5) pdf2submission
https://moodle.org/mod/forum/discuss.php?d=186387
6) 飛ぶノート
http://www.carrier-port.jp/mahara/view/view.php?id=783
付録

pdf2submission 導入手順について
pdf2submission を導入するにあたり、README が公開さ
れているため d、ここでは大筋のみ紹介することとする.
ImageMagick convert、pdftk、ghostscript、zbarimg のコマン
ドが必要となるため、該当ソフトをサーバーへインストー
ルする.なお、zbarimg については、http://sourceforge.net/
projects/zbar/よりソースファイルをダウンロード後、make
コマンドを使ってインストールする.
次に、pdf2submission-v2.tar.gz をダウンロードし、解凍し
たフォルダ「pdf2submission」を Moodle ルート/blocks へコ
ピーする.その後、コピーしたフォルダ内にある pdfscan.php
の編集に入り、inputfolder、convert_command、gs_command、
pdftk_command、tmpd を適正な値に書き換える.inputfolder
は、仕分けをしてもらいたい PDF ファイルを置くフォルダ
を作成し、そのパスを記入する.
d https://moodle.org/pluginfile.php/214013/mod_forum/attachment/920798/REA
DME.txt
10
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
みんなで Blocktype プラグインを作ろう
隅谷孝洋1
秋元志美1
概要:Mahara ではプラグインを追加することで手軽に機能を拡張することができる. ここでは, ページの
表現力を拡張する Blocktype プラグインの作りかたの枠組みについて説明する. 実装の例として, 著者らが
作成して本学で実際に使用しているものをいくつか紹介する.
Blocktype plugins – build them, share them, and enjoy Mahara!
Takahiro Sumiya1
Yukimi Akimoto1
Abstract: We can easily extend Mahara by adding plugins. Here, we describe how to build Blocktype plugins which enhance the function of Mahara “page.” And we show our own examples which are used in our
University.
味をもっていただき, みんなで利用できるものが一つでも
1. はじめに
増えればよいなぁと希望している.
Mahara の利点のひとつとして, いろいろなところでプラ
2. Mahara プラグイン
グイン機構が採用されており, 容易に機能を追加拡張でき
ることがあげられる. もともと PHP で書かれているので
Mahara の管理者画面でプラグイン管理の画面を開く(サ
カスタマイズは容易だが, 本体コードに手を加えてしまう
イト管理/拡張機能/プラグイン管理)と, 現在のシステ
とバージョンアップの度にそこが変更されていないかどう
ムにインストールされているプラグインの一覧が表示され
かを確認しなければならない. Mahara のバージョンアッ
る (図 1). これを見ると, どんな部分がプラグインで拡張可
プは頻繁で, この作業はかなりコストがかかるため, カスタ
能なのかが何となくわかるだろう. 表 1 に, プラグインの
マイズする場合でも可能な限りプラグインで実現しておい
種類の一覧を挙げる. 名称でほぼ自己説明されているよう
たほうがよい.
ここでは, プラグインのなかでも最も目立つ Blocktype
プラグインについて作成の概略を説明する. Blocktype プ
ラグインは, Mahara のページ (ビュー) に配置されるブ
ロックになるものである. カスタムプラグインの例として
著者らの大学で実際に開発して利用しているものをいく
つか紹介する. ここでは作りかたの概要を紹介するだけ
なので、実際に作成する際には, Mahara に含まれている
標準 blocktype プラグインのソースや, Mahara.org の英文
チュートリアル [1] が役に立つ. また著者らのサイトでも
日本語のチュートリアル [2] を作成して公開しているので
参考にされたい. この稿を機として, プラグイン作成に興
1
広島大学 情報メディア教育研究センター
Information Media Center, Hiroshima University
図 1 Mahara 管理画面の「プラグイン管理」
11
1
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
表 1 利用可能なプラグインの種類
名称
説明
blocktype
ページの構成要素. ページ編集時にドラッグ・
アンド・ドロップできるアイコンに該当する.
(例: イメージギャラリー, 日誌エントリ)
artefact
「コンテンツ」メニューの項目に該当する. コ
ンテンツとして作成したものをページに配置す
るための blocktype プラグインを含んでいる.
(例: ファイル, 日誌)
auth
認証の種類. ユーザ名とパスワードを本体か
ら送って認証の可否を判定する. インスティ
テューション管理の「認証プラグイン」の項目
図 2 Artefact プラグイン
に該当. (例: 内部認証, LDAP)
grouptype
ユーザグループの種類を定義する. デフォルト
では standard と course がある. グループ内
のロールとしてどんなものが使えて, デフォル
トではどれか, などが定義してあるだけ?のよ
うだ. (例: スタンダード, コース)
export
ポートフォリオをエクスポートするときの「エ
クスポートフォーマット」の項目に該当する.
(例: スタンドアロン HTML ウェブサイト,
図 3 Blocktype プラグイン
Leap2A)
notification
通知設定で, それぞれの活動タイプに対して選
択する「通知タイプ」に該当. (例: メール, メー
search
ルダイジェスト, 受信箱)
それをページに置くための blocktype プラグインが必要で
ユーザ検索, グループ検索, コンテンツ検索を
あり, 通常内包されている.
Blocktype プラグインは, artefact に比べて実装のために
拡張する.
interaction
必要な要素がすくないため, 作成が簡単である. また, ペー
(グループ内で?)相互書き込みをするため
ジへ配置することができるプラグインなので, これを作る
のプラグイン. フォーラム相当の機能を追加.
ことでポートフォリオの機能や表現を直接的に増やすこと
(詳細不明)
import
ができる.
ポートフォリオとともにユーザ情報を読み込
ここでは, blocktype プラグインの構造について概観し
んで新規ユーザを作成するための手法. (例:
よう.
Leap2A)
3. Blocktype プラグインの作成
にも見えるが, 簡単な説明を追加してみた.
9 種類のプラグインのうち, artefact と blocktype が特に
Blocktype プラグインには 2 種類ある. 特定の artefact
重要なものだ. どんなポートフォリオを作る機能があるの
プラグインに含まれるものと含まれないものである. 特定
かは, これらのプラグインとしてどんなものが利用できる
の artefact に含まれる blocktype は, 蓄積されたコンテン
かに依存することになる.
ツをページ上に表示する方法を提供する. 例えば, コンテ
Artefact プラグインは, ファイルや日誌といった, ユーザ
ンツとして保存されたファイルの新しい表示方法を追加す
が作成し蓄積できるコンテンツに該当する (図 2). Artefact
ることができる. 特定の artefact に含まれない blocktype
プラグインを追加すると, 図のメニュー項目が増えていく.
は, Mahara に蓄積されたコンテンツを参照せずに, 何らか
Blocktype プラグインは「ダウンロード可能ファイル」
の情報をページ上に表示する. 例えば, クリエイティブコ
や「イメージ」といった, ページ編集画面(図 3)に置くこ
モンズライセンスを表示するものや, Youtube ビデオを表
とができるブロックに該当, このプラグインを追加すると,
示する blocktype などがこれに該当する.
図 3 のアイコンが増えていくことになる.
これらの 2 種類を区別して表現する必要がある場合, 本
コンテンツとして作成したものをページに何らかの形で
稿では前者を plugin blocktype, 後者を system blocktype
置いていくというのが Mahara の基本的な考え方であるの
と呼ぶことにする. プラグインの内部構造としては, この
で, コンテンツすなわち artefact タイプのプラグインには,
両者はほとんど同じである.
12
2
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
3.1 ディレクトリ構造
render_instance の 4 つのメソッドを必ず実装しなく
Mahara をインストールしたディレクトリ (配布ファイ
てはな らない. Plugin blocktype ではこ れら に加 え て
ルの htdocs をコピーしたディレクトリ) を $maharadir
get_artefact と artefactchooser_elements も実装し
とすると, system blocktype は
なくてはならない. その他のメソッドはデフォルトの動作
を変更したいときのみ実装する.
$maharadir/blocktype
に, plugin blocktype は
クラスの枠組みの記述は, 参考文献に示した英語 [1] もし
$maharadir/artefact/$artefactname/blocktype
くは日本語 [2] のチュートリアルから lib.php をコピーし
に blocktype の名前のディレクトリを作成し, その中に必要
て改変するのが簡単だろう. 核心部分は render_instance
なファイルを保存する. ここで $artefactname は plugin
メソッドの実装である. このメソッドはブロック内部を表
blocktype を入れる artefact プラグインの名称である.
示するための HTML コードを返すだけなのだが, Mahara
作成するブロックタイプの名称を $bt とすると, 上記の
的な情報を取得する部分についてはまとまった公式マニュ
ディレクトリ内に $bt という名前のディレクトリを作成
アルがなく, 既存のプラグインのスクリプトを参照するし
し, その中に決まった名前でいくつかのファイルを置く必
かない. 日本語チュートリアル [2] の T4 に, ページ閲覧者
要がある。具体的には, 図 4 のようなファイルを保存する
の User ID を得る方法などいくつかの方法を挙げている.
ことになる.
その他, クラスの内容を記述するにあたって, 従った方が
(1) version.php には, プラグインのバージョンを書いて
よい「Mahara のやり方」がある. 以下 3.3 から 3.6 でこれ
おく. (2) lib.php が, プラグインの本体である. 決まった名
らについて簡単に説明する. また, 変数やメソッド名, デー
前のクラスを定義する (3.2 参照). (3) install.xml には, プ
タベーススキーマの名付け方などのコーディングコンベン
ラグイン独自のデータベーステーブルの定義を書く (3.5).
ションも指定されている ([3], [4]) ので, できるだけ従った
(4) update.php には, プラグインアップデート時にデータ
方がよいだろう.
ベースを加工したい場合の操作を書く. (5)(6) はプラグイ
3.3 言語ファイル
ンが使用するメッセージを格納 (3.3 参照), (7) はテンプ
レートを格納する (3.6 参照). (8) はページ編集時に表示さ
画面上に表示されるメッセージは, ボタンのラベルから
れる, blocktype を示すアイコンである.
ヘルプメッセージまですべて言語ファイルとしてスクリプ
トとは別個に保存することになっている. こうすることで,
3.2 クラス
使用言語を切り替えた際の対応ができるようになり, さら
Blocktype プラグインの本体は, PHP のクラスである.
にロジックと表現の分離ができるようになる.
これを lib.php に記述する. System blocktype の場合は,
メッセージの内容は, 図 4 に示す blocktype.$bt.php
SystemBlockype の子クラスとして, plugin blocktype の場
に記述する. 英語が (5), 日本語が (6) である. 記述内容は
合は PluginBlockType の子クラスとして実装する. System
$string[’mof’] = ’Mahara Open Forum’;
blocktype では, 図 5 に「実装必須のメソッド」として示し
のような形になる. mof というラベルで示される文字列と
ている get_title, get_description, get_categories,
して ’Mahara Open Forum’ を指定するという意味である.
日本語ファイルの方には
$string[’mof’] = ’ マハラオープンフォーラム’;
などとする. クラスを記述する PHP スクリプトでは
get_string(’mof’,’blocktype.$bt’)
とすれば, ラベルに対応する文字列をその時の言語設定に
従って取得できる.
3.4 Pieforms
ページを編集状態にすると, 各ブロックの右上に歯車の
アイコンが表示され, それをクリックするとブロックの設
定を編集できるようになる. この設定編集画面のフォーム
入力の実装には, Pieforms [5] というライブラリを使うこ
とになっている. 設定データの保存や読み込みなどの処理
を全部やってくれて簡単である.
Pieforms を使う準備は Mahara によって行われるので,
われわれがすべきことは, どんなラベルで設定値を保存し, そ
図 4 Blocktype プラグインのディレクトリ構造
13
3
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
図 5 Blocktype プラグインのクラスメソッド(の一部)
れをどんなフォームコントロールを使って設定させるのかを
指定するということである. それが決まれば, Pieform のや
り方に従って PHP の配列を作成, instance_config_form
から戻してやればよい. これに関しては, 上記公式ドキュメ
ントを読むよりも, まずは Mahara に付属している block-
type プラグインの instance_config_form を読むのが簡
単だろう.
3.5 データベースアクセス
Blocktype プラグインは, 独自のテーブルを持つことが
図 6 テンプレートの動作
できる. 図 4 (3) の install.xml に Moodle の XMLDB [6]
で定められた形式 (XML) でテーブルのスキーマを記述し
ておくと, 管理者によるプラグインインストールのタイミ
ンジンを使っている. テンプレートエンジンは独自のもの
ングでテーブルが作成される.
ではなく, Dwoo [7] という Smarty と互換性をもつものを
PHP のコードからデータベースにアクセスするには
使用している.
XMLDB の関数を使う. データベースへの接続は Mahara
図 6 に示すように, render_instance 内で, パラメータ
が済ませてくれているはずなので, 単に関数を呼び出すだ
を配列に設定し, Dwoo の関数を呼び出して, HTML コー
けである. XMLDB の関数は [6] で一覧できる. 例えば
ドを生成, それを戻り値としている. このような構造にし
sql_execute (任意の SQL を実行する), get_record (レ
ておくことで, ロジックと見栄えが分離され, また Mahara
コードを一件取得する)など.
のテーマ変更機能にも簡単に対応できるようになる.
4. 実例
3.6 PHP テンプレートエンジン
render_instance メソッドで, ブロック描画のための
広島大学では 2012 年に, 博士課程教育リーディングプ
HTML コードを返すわけだが, Mahara の標準モジュール
ログラム事業の実施に伴い Mahara をカスタマイズした e
では HTML を直書きせず, PHP ベースのテンプレートエ
ポートフォリオシステムを開発 [8], 筆者らのグループがシ
14
4
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
表 2 開発・導入した blocktype プラグイン
進捗一覧:学生のテンプレートの編集状況
を学生ごとに一覧する。
一般
指導教員表示:学生の氏名と指導教員の氏
名を表示する。
SimpleText:学生たちの入力を一括収集
するための一行入力テキスト。
外部
ファイル
日誌
図 7 SimpleText の表示
時間割表示:iframe 内に SIS「もみじ」の
時間割を表示する。
WebCT レポート表示:WebCT で提出し
た課題ファイルへのリンクを表示する。
SimpleFile:学生たちの提出ファイルを
一括収集するためのファイル提出箱。
ZIP ファイル表示:ZIP でまとめられた
HTML ツリーを表示する。
成果確認:到達目標を提示し、学生が成果
物とともに自己評価を記入する。
CSS ファイルやリンク
設定画面で指定した
も有効。
ZIP ファイルの内容が
iframe 内に表示される。
ステム管理している. 2013 年 8 月現在, まだ 2 部局など (放
射線災害復興を推進するフェニックスリーダープログラム
と生物圏科学研究科) でしか利用されていないが, それぞ
図 8 ZIP ファイルの表示
れからの要望に対して異なる内容のポートフォリオを提供
している. 部局からの要望を聞いてポートフォリオを設計
する際に, Mahara の標準機能でカバーできない部分では,
編集後に元の画面に戻るための操作も不要になるわけなの
blocktype プラグインの開発を行った. 表 2 に, 現在本学の
で, 全体の操作はかなり簡単になる. 入力のための説明は
e ポートフォリオシステムで使用している独自プラグイン
ほぼ不要だ.
をあげる.
Blocktype プラグインの作成から話はそれるが, 本学で
ここでは, このうち “SimpleText” と “ZIP ファイル表
は「日誌」を表示する bocktype プラグインにパッチをあ
示” の blocktype プラグインについて簡単に内容を説明
てて, ページを閲覧している状態で「エントリを編集する」
する.
というリンクを表示, それをクリックすると日誌エントリ
の編集画面に直接いけるようになるパッチを適用している.
通常の UI であれば「コンテンツ」→「日誌」をクリックし
4.1 SimpleText
本プラグインは, 修士論文題目や副指導教員名を学生に
て該当の日誌エントリを探し, 編集をすることになる. こ
提出させ, 一括して収集したいという要望に従って作成し
れも SimpleText プラグインと同様に, Mahara 標準の操作
たものである.
体系では煩雑な部分を省略するものである.
Mahara 標準のテキストブロックでは, 書式付きテキス
操作が簡便になるからと言って, 他の部分の UI と異なる
トが作れたり改行が入れられたりする. 改行なし, 書式な
操作体系を導入するのが良いのかどうか, 導入の際に少し
しのテキストを手軽に入力するため, 通常の Mahara の UI
躊躇した. が, 今回のポートフォリオでは日誌の利用割合
とは異なり, 編集モードに入らなくても入力ができるよう
が非常に高く, ここの操作性を改善して全体の使い勝手を
にした. render_instance() の中で, 現在の閲覧者がペー
上げることを優先した. SimpleText もこの考え方に従い,
ジ所有者かどうかを判断し, 所有者の場合には, 既に入力さ
簡便な入力方法の実現を優先した.
れた文字と, テキスト入力フィールド, 送信ボタンを表示す
4.2 ZIP ファイル表示
る. 所有者でない場合には, 既に入力された文字だけを表
示する.
標準の Mahara では, HTML 形式(ページ遷移やファ
通常の UI では, 「このページを編集する」ボタンを押し
イルやへのリンクを含む)の書類を手軽に表示する方法
て編集モードに入り, さらにブロックの歯車アイコンをク
が用意されていない. 本システムを利用している生物圏科
リックするとテキストが入力できるようになるわけなので,
学研究科の学生は, 2010 年度から稼働している別システ
2 クリックを節約したことになる. たった 2 クリックだが,
ムから移行してきており, そこで作成したポートフォリオ
15
5
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
を HTML 形式で持っている. それを有効に使うため, ZIP
を持って頂き, 実際に作成, 公開し, Mahara をより楽しめ
でひとまとめにされた HTML 形式の書類をサーバ側で展
るようになれば筆者望外の喜びである.
開、Mahara のページ内に表示するようなプラグインを作
参考文献
成した.
ZIP ファイルは通常のファイルと同様に, 利用者のコンテ
[1]
ンツ領域におく. コンテンツ領域内で ZIP ファイルを展開
しても, HTML ファイル内のリンクなどは正常に働かない.
そこで, 本プラグインでは, ZIP ファイルを maharadata 領
[2]
域へ展開し, ページ内に表示するように作成した. 表示の
[3]
仕組みについては, 本プラグインの配布サイトで説明して
いるので興味があるかたはそちらを参照されたい.
[4]
ここであげた SimpleText, ZIP ファイルの表示 (Unzip-
per) については,
[5]
http://sumi.riise.hiroshima-u.ac.jp/index.php
?MaharaPlugin
で公開している.
[6]
5. 終わりに
本稿では, Mahara の blocktype プラグインの開発につい
[7]
て概観した. Blocktype プラグインは手軽に Mahara の機
[8]
能を拡張できるものだが, まだ公開されているものはそれ
ほど数がない. 本稿を機会として, プラグイン作成に興味
16
Basic blocktype plugin, Mahara Wiki, 入 手 先
!https://wiki.mahara.org/index.php/Developer Area
/Development Tutorials/Basic blocktype plugin"
(2013/8/18 確認)
MaharaBlockDev, 入 手 先 !http://sumi.riise.hiroshimau.ac.jp/index.php?MaharaBlockDev" (2013/8/18 確認)
Mahara Developer Area/Coding guidelines, 入 手 先
!https://wiki.mahara.org/index.php/Developer Area/
Coding guidelines" (2013/8/19 確認)
Mahara Developer Area/Database Conventions, 入 手
先 !https://wiki.mahara.org/index.php/Developer Area/
Database conventions" (2013/8/19 確認)
Mahara Developer Area/Form API (Pieforms)m 入 手
先 !https://wiki.mahara.org/index.php/Developer Area/
Core Subsystems/Form API (Pieforms)" (2013/8/19 確
認)
doc.moodle/XMLDB
Documentation,
入 手 先
!http://docs.moodle.org/dev/XMLDB Documentation"
(2013/8/19 確認)
Dwoo – a PHP Template Engine,
入 手 先
!http://dwoo.org" (2013/8/19 確認)
隅谷孝洋, 秋元志美, 井上雅晴, 金井裕美子, 川地信輔, 杉野
利久, 三戸里美, 古澤修一「Mahara を用いた大学院学生指
導用ポートフォリオシステムの構築」Mahara Open Forum
2012
6
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
Mahara リフレフォリオ:
学習プロセスにおける学習者の省察的学習フレームワーク
森本康彦†1
近年,多くの大学が学習者中心の教育の実現のために e ポートフォリオシステムの導入を行っている.e ポートフォ
リオは,学習評価を促進させるためのツールとしての役割と,学習成果を引証付けるためのエビデンスとしての役割
を合わせ持つ.つまり,e ポートフォリオシステムは,学習プロセスを通して学習評価を支援することで学習者の省
察を促し自己成長や専門性育成を促進させる,また,その過程で収集されたエビデンス群を学習成果として管理・運
用することで教育の質保証のアカウンタビリティの達成を可能にする,ことが求められる.その中で,オープンソー
スシステムである“Mahara”を活用する大学が多く存在する.しかし,Mahara は,学習者の学習成果物であるアー
ティファクトを蓄積し,それらをページにまとめ公開するという一連の活動を想定しており,それ以前の学習プロセ
スにおける学習者の学習・評価活動そのものを支援するには不十分であり,さらに,操作性に乏しいシステムとなっ
ているため,利用者による運用面での工夫が不可欠であった.そこで,本研究では,学習プロセスにおける学習者の
e ポートフォリオを活用した学習・評価活動の効果的な実施の支援を Mahara 上に実現することを目的に,学習者が
学習プロセスにおいて省察的学習を行うためのフレームワークを提案し,Mahara 上に実装した.本稿では,本フレ
ームワークの設計と開発,および,本フレームワークを有する Mahara の優位性について述べた.なお,本フレーム
ワークを有する Mahara は,「Mahara リフレフォリオ」と呼ばれ,今後,オープンソースソフトウェアとして公開予
定である.
Mahara Refle-folio: Framework for Reflective Learning and
Assessment during Student Learning Process
YASUHIKO MORIMOTO†1
In recent years, many e-portfolio systems have been introduced for student-centered learning in higher education. E-portfolios
have two roles: promoting learning and assessment and providing evidence for learning outcomes. In other words, e-portfolio
systems should promote student reflection while supporting their learning and assessment during the learning process and also
achieve accountability of quality assurance in higher education by managing collected learning evidence of learning outcomes. In
this kind of situation, there are many universities that use Mahara, which is an open source e-portfolio system. As Mahara
assumes that the series of activities represented by accumulated artifacts (which are the student's work samples) are summarized
and exhibited on a webpage, it is insufficient for supporting student reflective learning and assessment activities during the
learning process. Moreover, it is said to be difficult to operate. Therefore, the user needs to devise a practical way to use Mahara
for reflective learning and assessment. The purpose of this study is to provide support for student reflective learning and
assessment activities using their e-portfolios through the learning process. Specifically, this study proposes a framework to
enable the students to carry out reflective learning and assessment effectively through the learning process and implement it on
Mahara. In this paper, the design and development of the framework are described, and then the advantages of implementing it
on Mahara were investigated. The framework is called Mahara Refle-folio, and it will be available as open software in the near
future.
した学習(以下,e ポートフォリオ学習)における自己評
1. はじめに
価や相互評価などの評価活動を通した省察を行い難いため,
近年,教育の質向上・質保証,学習者中心の教育,の実
利用者による運用面での工夫が不可欠となっている現状が
現に向け,多くの大学等の教育機関において,e ポートフ
存在する.
ォリオシステムが導入されている.その中で,オープンソ
そこで,本研究では,e ポートフォリオ学習における評
ースシステムである Mahara[1]を活用する大学が多く存在
価活動を通した学習者の省察を促進させる環境を Mahara
する.しかし,Mahara は,学習者の学習成果物であるアー
上に構築し,オープンソースとして公開することで,学習
ティファクトを蓄積し,それらをページにまとめ公開する
プロセスにおける e ポートフォリオ学習の促進とその普及
という一連の活動を想定しており,それ以前の学習プロセ
に貢献することを目的とする.本稿では,本フレームワー
スにおける学習者の学習・評価活動そのものを支援するに
ク の 設 計 と 開 発 , およ び ,本 フ レ ー ム ワ ー ク を有 す る
は不十分であり,さらに,操作性が悪く使いづらいという
Mahara の優位性について述べる.なお,本フレームワーク
指摘がある.つまり,利用者は,e ポートフォリオを活用
を有する Mahara は,
「Mahara リフレフォリオ」と呼ぶこと
とする.
†1 東京学芸大学
Tokyo Gakugei University
17
Maharaオー
2. Mahara の特徴
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
め公開することは得意とするが,学習活動の中やその前後
で,自身や他者との評価活動を通して自ら学習を省察する
2.1 Mahara とは
ことの支援が不十分であると考えられる.一方,学習活動
Mahara は,2006 年にニュージーランドの高等教育委員
との複合を模索し,Moodle[8]と Mahara の連携が検討され
会の e-learning Collaborative Development Fund (eCDF) によ
実施されているが,利用者は,アーティファクトの蓄積や
る Mahara プロジェクトのスタートから開発が始まり,
評価活動等の諸活動をどちらのシステム上で行うかなどの
Massey University, Auckland University of Technology, The
実質的な連携は,運用を工夫して行う必要があるため,本
Open Polytechnic of New Zealand, そして Victoria University
質的な解決にはならない.さらに,画面構成やナビゲーシ
of Wellington が参加,現在まで,ニュージーランド教育省
ョンの階層が分かりづらいなどインタフェースの操作性の
か ら の 支 援 や 2007 年 に The Open Polytechnic of New
悪さが,利用者の学習・評価活動を益々難しくしている.
Zealand がアンドリュー・メロン財団から獲得した資金に
3. 省察的学習フレームワークの設計
より開発が続けられている[1].2008 年に 1.0 がリリースさ
れ,それ以来,頻繁に版改訂を繰り返し 1.72 が最新版とな
3.1 省察的学習とは
っている(2013 年 8 月 20 日現在).
Mahara は,学習成果物であるアーティファクトを蓄積し,
それらをページとしてまとめることで振り返りを行い,さ
省察的学習(reflective learning)とは,「省察/ふりかえ
り/リフレクション(reflection)」を通した学びであり[9],
構成主義的な教育観に立つ e ポートフォリオ学習では,そ
らに,そのページを公開しフィードバックをもらうことで
のベースとなっている[7].
学習を深めるツールとして活用されている[2].つまり,
省察的学習は,特にアカデミックな文脈においては,意
Mahara は,
「学習成果物の蓄積→ページにまとめる→公開」
識的で明確な目的を有し,特定の学習成果を伴うものであ
を繰り返す活動を支援することをベースにシステムが組ま
り,学習プロセスとそこでの学習成果は,記述・可視化さ
れていることが特徴である.典型的な実践例としては,東
れ,他者から見られ評価されることにより本質的な影響を
京外国語大学の留学生対象プログラムでの活用が挙げられ
受ける[10].つまり,学習プロセスにおいて,e ポートフォ
る[3].
リオを用いて相互評価を行い/受けることで,自身のふり
かえりに繋がり自己評価が促されることで,より多くのリ
2.2 Mahara の問題点
フレクションが誘発され,深い学習が生起されると考えら
現在,利用者が Mahara を活用する際の問題点として,
以下が指摘されている.
れる[7].また,省察のプロセスを通して得られる成果とし
問題点 1: 学習プロセスにおける学習・評価活動の実施の
ては,(1)学習,知識・理解,(2)何らかのアクション,(3)
批判的評価,(4)個人的・専門的能力育成,(5)メタ認知,(6)
ための機能が不十分である[4].
問題点 2:画面構成やナビゲーションの階層が分かりづら
実践観察からの方法論や原理の抽出,(7)意思決定,問題解
いなどインタフェースの操作性が悪く,使いづらい[5].
決,エンパワーメント,エマンシペーション,(8)思いがけ
ない成果,(9)感情,(10)更なる省察の必要性の認識,が挙
Mahara 等の e ポートフォリオシステムが扱う e ポートフ
げられる[10].つまり,省察の成果は学習そのものであり,
ォリオは,学習評価を促進させるためのツールとしての役
学習プロセスにおいて省察をいかに行うかが重要であると
割と,学習成果を引証付けるためのエビデンスとしての役
言える.
割を合わせ持つ.つまり,e ポートフォリオシステムは,
3.2 求められる要件
学習プロセスを通して e ポートフォリオ活動を実行する環
境を提供し,学習・評価活動を支援することで学習者の省
2.2 における現在の Mahara の問題点を解決し得る要件と
察を促し自己成長や専門性育成を促進させる,また,その
して,以下が挙げられる.要件①と②は,問題点 1 に対応
過程で収集されたエビデンス群を学習成果として管理・運
し,要件③は,問題点 2 に対応する.これら要件を満たす
用することで教育の質保証のアカウンタビリティの達成を
機能を Mahara 上に実現することで,既存 Mahara が抱える
可能にする,ことが求められる[6].e ポートフォリオ活動
問題点の解決が図れると期待できる.
とは,e ポートフォリオ学習において欠かせない活動群で,
要件①:
自己評価や相互評価などの評価活動が学習活動に埋め込ま
e ポートフォリオを活用した省察的学習の実行
環境を提供する.
れており,これら活動を繰り返すことで,学習者の省察が
要件②:
誘発され,学習が生起されることが特徴である[7].しかし,
e ポートフォリオを活用した省察的学習を促進
するための支援を提供する.
Mahara は,
「学習成果物の蓄積→ページにまとめる→公開」
要件③:
を繰り返す活動を単に支援することをベースにシステムが
組まれている.つまり,学習プロセスにおける成果をまと
18
容易に操作可能なインタフェースを提供する.
Maharaオー
3.3 省察的学習フレームワーク
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
個人やグループに応じた省察的学習の支援を可能にするよ
前節までの議論から,本研究では,要件①~③を満たすた
う配慮する.これにより,要件②の解決が期待できる.
め, e ポートフォリオを活用した省察的学習を実現する環
図 2 に,システム構成概念モデルを示す.Mahara リフレ
境を提供し,利用者に支援を行うためのフレームワークを
フォリオは,既存 Mahara システム(図 2 左)と,本フレ
提案する.なお,本研究においては,既存の Mahara に本
ークワークの拡張部(図 2 右)から構成される.
フレームワーク に対応する機能を拡張した Mahara を,
「Mahara リフレフォリオ」と呼ぶ.
3.3.1 構成要素
要件①を満たすためのフレームワークとして e ポートフ
ォリオ・ユニットを採用する[11].e ポートフォリオ・ユニ
ットとは,授業単元や課題など有意味な学習単位内で発生
するすべての e ポートフォリオを一つのかたまり(ユニッ
ト)としてまとめたものである.これにより,e ポートフ
ォリオ活動で生成されるすべての学習成果を一括して扱え
るようになり,学習と評価の一体化が実現される.ここで
は,ユニットに対応するものとして「e バインダー」と「e
ルーズリーフ」を提案する.利用者は,e バインダーを作
図2
成し,その中に e ルーズリーフを必要に応じて追加してい
4. Mahara リフレフォリオの開発
く.e ルーズリーフには,e ポートフォリオ活動の記録や成
前 章 で 提 案 し た 省察 的 学習 フ レ ー ム ワ ー ク を既 存 の
果を蓄積し活用できるよう構成要素を決定した(表1).
表1
Mahara へ実装を行った.以下に,具体的な機能と簡単な利
e ルーズリーフの構成要素
構成要素名
説
システム構成概念モデル
用例について述べる.
明
ゴール
学習のゴールの設定・確認を行う
ルーブリック
ルーブリック(評価基準)作成・確認を行う
アーティファクト
(学習成果物)
自己評価
学習のエビデンス(例えば,学習の成果物,
成長や達成の証明等)を収集する
自己評価の記録を収集する
行った.以下に,各機能について述べる.また本開発では,
相互評価
教員評価
相互評価の記録を収集する
教師による評価の記録を収集する
スになるよう配慮した.
4.1 機能
前章に従い,省察的学習フレームワーク拡張部の開発を
要件③を満たすため,できるだけシンプルなインタフェー
(1) e バインダー
3.3.2 利用者モデル
本フレームワークが想定する主な利用者は,学習者,ピ
e バインダーは,紙ベースのポートフォリオの場合のコ
アである仲間(個人),仲間(グループ),ファシリテータ
ンテナやスリーリングバインダーの役割を担い,生成され
としての教員,を想定している(図 1).ここでは,自分自
るアーティファクトや評価記録などの学習エビデンスを収
身による自己評価,ピアによる相互評価,教員評価,を省
納するための入れ物(フォルダ)に相当する.利用者は,
察的学習に欠くことができない評価活動と位置付けている.
授業単位や課題などの有意味な学習単位ごとに自由に e バ
インダーを作成し,管理,利用することができる.利用者
は,名前を自由に決定し,色を選択できる(図 3).
図1
利用者モデル概念図
3.3.3 システム構成
開発システムは,利用者が生成するアーティファクトと
ユーザ・グループ情報を共有することで既存 Mahara シス
テムとシームレスな連携を可能にすることを想定している.
図 3 e バインダーの画面例
また,活動ログを取得し,活用できるようにすることで,
19
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
なお,図 3 左上の「Mahara」をクリックすると既存の
Mahara システムのトップページへと遷移する.
(2) e ルーズリーフ
e ルーズリーフには,以下に示す e ポートフォリオ活動
である,A)ゴール設定・確認,B)ルーブリックの登録・閲
覧,C)アーティファクトの登録・閲覧,D)自己評価,E)相
互評価,F)教員評価,を行うことができ,その活動に関係
して生成されるエビデンス群が蓄積される(図 4).
利用者は,e バインダー内の e ルーズリーフにアクセス
するだけで,学習成果を蓄積・参照しながら評価活動をタ
図6
イミングよく行うことができるようになり,学習と評価の
一体化が実現される.よって,要件②が満たされると期待
C)
できる.また,手数をかけずに e ルーズリーフにアクセス
ルーブリックの登録の画面例
アーティファクト(学習成果物)の登録
教員または学習者は,アーティファクトの登録を行うこ
できるため,容易に e ポートフォリオ活動を行うことがで
とができる(図 7).
き,要件③の解決に繋がると考えられる.
図7
図 4 e ルーズリーフの画面例
D)
【e ポートフォリオ活動の支援】
アーティファクトの登録の画面例
自己評価
学習者または教員は,自己評価の実施および自己評価結
A) ゴール設定/確認
果の確認を行うことができる(図 8,図 9).
教員または学習者は,ゴール設定およびゴールの確認を
行うことができる(図 5).
図5
B)
ゴール設定の画面例
図 8 自己評価の実施画面例
ルーブリックの登録/閲覧
教員または学習者は,ルーブリックの登録および閲覧を
行うことができる(図 6).
20
Maharaオー
図 11
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
教員相互評価の実施画面例
(3) 省察的学習促進のための支援
A)
図9
公開範囲の設定
学習者または教員は,e ルーズリーフの公開範囲を設定
自己評価結果の確認画面例
することで,自分の e ルーズリーフを閲覧することができ,
E)
相互評価
相互評価を許す人を制限することができる.公開範囲は,
学習者は,相互評価の実施および相互評価結果の確認を
「特定の個人」,「グループ」,「全体」,「非公開」の 4 種類
行うことができる(図 10).
が存在する.
図 12 公開設定画面例
B)
e ルーズリーフの配布
教員は,他の利用者に対し e ルーズリーフを配布するこ
図 10 相互評価の実施画面例
とができる.
F)
教員評価
本来 e ルーズリーフは,利用者各人が作成し自由に公開
教員は,教員評価の実施を行うことができる(図 11).
範囲を設定することが可能であるが,教員だけは,e ルー
なお,本システムは,教員権限は,既存 Mahara の「管理
ズリーフのタイトルとルーブリックの登録,公開設定を事
者」と「サイトスタッフ」権限を持っている者を対応させ
前に行い,特定の利用者にその e ルーズリーフを配布でき
た.
る特権を持つ.その際,e ルーズリーフを配布された利用
者は,配布者である教師が行った設定を変更することはで
きない.
e ルーズリーフの配布時に,既に配布元と同名の e バイ
ンダーが存在している場合は,配布する e ルーズリーフを
その配下に,存在しない場合は,新たに配布元と同名の e
21
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
バインダーを作成し,その配下に e ルーズリーフが配布さ
能にしている.これによって,評価結果の確認だけでなく,
れる.
次なる評価活動も実施しやすくなり,自身や他者の学習評
価状況の把握にも繋がることで,より多くのリフレクショ
ンが誘発される機会が提供され,省察的学習が生起される
と考えられる.よって,要件②の解決に繋がると期待でき
る.
図 13 公開設定画面例
C)
マイグループ一覧(マイグループボタン)
図 3,図 4 の右上の「マイグループ」をクリックするこ
とで,自分が所属しているグループ一覧が表示される.さ
らに,その中のあるグループをクリックすると,そのグル
ープ内で自分に e ルーズリーフを公開しているユーザーの
一覧が表示される(図 14).これにより,自分が所属して
いるグループメンバーの e ルーズリーフの閲覧が容易に実
現でき,相互評価の促進に繋がると考えられる.
図 16 最新評価一覧
図 14 マイグループ一覧
D)
4.2 利用例
ここでは,ある授業を担当する教員が,Mahara リフレフ
ユーザー一覧(ユーザーボタン)
ォリオを利用し授業を行い,学生の自律的な省察的学習を
図 3,図 4 の右上の「ユーザー」をクリックすることで,
自分に e ルーズリーフを公開しているユーザーの一覧が表
促す際の利用例について説明する.
示される(図 15).これにより,e ルーズリーフの閲覧が容
教員側の操作:
易に実現でき,相互評価の促進に繋がると考えられる.
1)
教員は,名前を指定し(例:授業名),e バインダーを
作成する.
2)
続いて教員は,名前を指定し(例:単元名),e ルーズ
リーフを作成する.
3)
2)で作成した e ルーズリーフ上で,ゴール設定,ルー
ブリックの作成を行う.
4)
2)の e ルーズリーフの公開設定を行う.この e ルーズ
リーフを配布すると,2)~4)の設定内容がそのまま変
図 15
E)
更不可能な形で配布されるので,配布先の学生の公開
ユーザー一覧
範囲に合わせて設定を行う必要がある.
5)
最新評価一覧
図 3,図 4 の画面右側には,常に最新の「自己評価」,
「自
配布する学生を選択し,e ルーズリーフを配布する.
学生側の操作:
分が行った相互評価」,「自分が受けた相互評価」,「教員評
6)
価」の一覧が最大 5 件新しいもの順で表示される(図 16).
学生は配布された e ルーズリーフにアクセスし,ゴー
ルを確認する.
これは,各利用者の全ての活動ログの取得を行っており,
7)
取得した活動ログを用いて学習・評価最新情報の表示を可
学習プロセスにおいて生成されるアーティファクト
を e ルーズリーフ上にアップロードする.
22
Maharaオー
8)
必要に応じて自己評価を行う.
9)
「グループ」ボタンをクリックし,同じグループの仲
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
6. おわりに
本論文では,e ポートフォリオ学習における評価活動を
通した学習者の省察を促進させるためのフレームワークを
間のアーティファクトを閲覧し,相互評価を行う.
設計し,既存の Mahara 上に実装した.
10) 他の仲間からの相互評価,教員からの教員評価を見な
今後は,本機能を使った実践を行い,本機能が省察的学
がらアーティファクトを修正,登録し,再度自己評価
習の支援として有効的に働くかを評価する.また,Mahara
を行う.
の既存機能を駆使し運用を工夫することで同様の学習評価
11) 7)~10)を何度となく繰り返しながら,自律的に省察的
活動を行おうと考えた場合と比べ,本機能ではどれくらい
学習を進める.
手数が軽減されたか否か等のユーザビリティに関する評価
12) 蓄積されたアーティファクトからベストワークや特
も合わせて行う予定である.そして,近い将来には,オー
筆したものをセレクションし,既存 Mahara のページ
プンソースとして世界に発信し,既存の Mahara では困難
機能を使い,ページにまとめる.
であった,学習プロセスを通した省察的学習の実行とその
13) ページを公開する.
支援を可能にする本機能を,広く多くのユーザーに使って
もらいたいと考えている.
5. Mahara リフレフォリオの優位性
利用者は,Mahara リフレフォリオを用いることで,学習
謝
プロセスを通して e ポートフォリオを活用した省察的学習
辞
本機能の開発にあたってご協力頂いた,㈱VeRSION2 の戸
を容易に実施することができる.また,e バインダー内の e
田優太氏,阿部竜二氏,東京学芸大学大学院生の島崎俊介
ルーズリーフは,学習・評価活動で生成されるアーティフ
君に感謝申し上げます.
ァクトや評価記録を一体化して管理できるため,学習と評
価を切り離すことなく e ポートフォリオを活用した深い省
参考文献
察的学習を行うことができる.このように,学習プロセス
1) Mahara ePortfolio System <https://mahara.org/>
を通して省察的の機会が提供されることで,より多くの学
2) F レックス: “Mahara(1.3 用)活用ガイド” (2010)
習が生起され,専門性開発や自己成長へと繋げていくこと
<http://eport.f-leccs.jp/artefact/file/download.php?file=1052901&
が可能となる.さらに,e ルーズリーフから登録され,省
view=1849&download=1> (参照日 2013 年 8 月 20 日)
察に使われたアーティファクトは,既存の Mahara 本体の
3) 宮城徹: “超短期留学生受け入れ日本語・日本文化プログラムで
正規のファイルとして一元的に蓄積されるので,その後,
の Mahara 利用の試み”, Mahara オープンフォーラム 2012 講
精選(セレクション)し,Mahara の既存機能を使いページ
演論文集,pp.19-23 (2012)
にまとめ,公開することが可能である.また,各人のアカ
4) 中西大輔, 大澤真也: “Mahara と Moodle を連携させる”, Mahara
ウントやグループなどのユーザ・グループ情報も Mahara
オープンフォーラム 2012 講演論文集,pp.38-42 (2012)
本体と共有しているため,本機能は,既存 Mahara の新機
5) 平塚紘一郎: “Mahara のナビゲーション機能の改良にむけて”,
能として滞りなく動作する.よって,既存 Mahara とシー
Mahara オープンフォーラム 2011 講演論文集,pp.15-17 (2011)
ムレスな連携により,利用者は違和感なく一つのシステム
6) 森本康彦: “東京学芸大学における e ポートフォリオ構想―教員
養成のための e ポートフォリオ活用・普及の現状と課題”, シ
として操作ができる.
ナプス, Vol.23, pp.16-19 (2013)
図 17 は,Mahara リフレフォリオを用いた省察的学習サ
7) 森本康彦: “高等教育における e ポートフォリオの最前線”, シス
イクルの流れを示している.学習者は,Mahara リフレフォ
リオを用いることで,図 17 の各活動を繰り返し行うことで,
深い省察的学習を行うことができる.
テム制御情報学会誌, 55(10), pp. 23-29 (2011)
8) Moodle < https://moodle.org/>
9) 和栗百恵: “「ふりかえり」と学習-大学教育のおけるふりかえ
り 支 援 の た め に ”, 国 立 教 育 政 策 研 究 所 紀 要 , 第 139 集 ,
pp.85-100 (2009)
10) Moon, A. J.: “A Handbook of Reflective and Experiential Learning
Theory and Practice”, RoutledgeFalmer (2004)
11) 森本康彦, 喜久川功, 宮寺庸造: “e ポートフォリオ活用のた
めの蓄積文法と支援システムの開発”, 日本教育工学会論文
誌, 35(3), pp.227-236 (2011)
図 17
Mahara リフレフォリオでの省察的学習サイクル
23
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
日常業務で使う mahara
藤田 豊1
概要:本稿では mahara を学校ではなく職場で利用した実践例とともに,企業及び自治体内で普及させる
ために必要な取り組み,本格的に活用するために必要な機能追加について考察する.
1. はじめに
ここ数年,国内におけるeポートフォリオの導入事例が
増えているが,その多くは教育機関での導入であり,企業
や自治体での導入事例は豊富とは言えない.しかし,e
ラーニング同様,eポートフォリオもまた,教育機関だけ
のものではない.e ポートフォリオ入門 [1] が教育機関だけ
でなく企業でのeポートフォリオ活用シーンを想定して解
説されているように,まさしく学習という行為(もしくは
現象)とネットワーク接続が存在する場なら,どこにでも
図 1 moodle と mahara の棲み分け
eポートフォリオ活用の鍵がある.
1.2 eポートフォリオの必要性
本稿で紹介する事例は,平成 25 年1月に正式運用を開始
インフォーマルかつ個人を軸としたサービスにはeポー
した横浜市消防局イントラネット内の mahara 1.5(ユーザ
数は全職員である約 3500 名)における活用の一部である.
トフォリオが最適である.e-ポートフォリオにおいて重要
1.1 変化した moodle のポジション
揃っていることが望ましい.
なポイントは内省と共有であり,具体的には次の三点が
• 個人が追加/編集/削除できる「内省の場」
横浜市消防局が moodle を導入してから五年が経過した.
• 個人がアクセスコントロールできる「表現の場」
当初からのコンセプトであった「業務と学習の一体化」は
• 個人で意見交換や批評ができる「交流の場」
実際の運用シーンでも実現し,普段使いされる LMS とし
以上の条件を兼ね備えたソフトウェアのうち,当局が導
てイントラの中心的存在へと成長したことは間違いない.
入した moodle とも親和性の高い mahara を選定した.
しかし,業務と学習を一体化させたことによるメリットと
引き換えに,サイト全体がよりフォーマルな場へと移り変
わってきたことも確かである.LMS がフォーマルである
ことのメリットも当然あるのだが,個人を軸としたイン
フォーマルな学習も組織が成長する上で欠かせない要素だ.
当局の moodle はコース(多くは業務ごとに開講)が全
ての軸であり,そもそも個人の自由にできる場が少ない.
組織としては管理しやすい反面,職員個人の職務探究や
キャリア形成をサポートするツールとしては不十分と言わ
ざるを得ない.
図 2 コンテンツとページの関係性
1
横浜市消防局
Yokohama City Fire Bureau
mahara はユーザ自身のコンテンツや外部サイトからの
24
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
情報などをまとめて共有する「ページ」機能を中心に構成
されたeポートフォリオシステムである.
2. ウォール,ブログ,ページ
この章では,ユーザとして職場の mahara をどう利用し
ているかを振り返り,主要機能の価値について分析する.
2.1 短期記憶としてのウォール
ウォールはアクセス制御さえ存在しない最も単純な記録
装置である.プロファイルページにのみ配置できるブロッ
クであるが,プロファイルページへのアクセス制御の影響
は受けない.つまりイントラネットの利用者全員が読み手
である.使用感としては Twitter をはじめとするマイクロ
ブログサービスに近く,知識,アイデア,疑問,考察,雑感
などタイムリーな情報を記して行く.ユーザインターフェ
イスからもわかるようにスピーディーかつ簡潔に投稿する
ことを重視した機能であるが,可能性としての「読み手」
が存在することにより,「書き手」に論理的な再構築が期
待できる.この点が手帳に書くメモとの決定的な違いであ
り,投稿者にはその都度,内省のきっかけが与えられるこ
とになる.
公開すべきか判断に困るような内容はプライベート投稿
を選べばよいので,ほぼメモ代わりにウォールを使ってい
る.リンクを貼った上でリンク先ページへの疑問や考察を
添えることも多く,ソーシャルブックマークのような使い
*1
方をしている.
一週間の ToDo 確認作業もプランではなくウォールで
行っている.まず週の始めに「今週やること」を箇条書き
で自身のウォールに投稿し,一週間経ったところで「今週
やること」の内,完了できていない項目を「今週こそやる
*2 一週間のうちに新たに発生し
こと」として再び投稿する.
た ToDo については「今週やること」として新規に書く.
これを繰り返すと自身の業務を週単位の差分で把握するこ
図 3 今週やることをウォールに投稿する
とになるのだが,さらに「やらねばならないこと」
「やりた
いこと」
「やるべきこと」が自身の中で浮き彫りになってく
る.リマインダーとしてではなく,週単位で自身の業務を
り,長くeポートフォリオを使うのならば,自身の考え方
考え直すきっかけとなり,必然的に仕事の進め方について
がどう変わったのかを知ることができる.そのことは常に
想いを巡らせることになる.
内省の材料となる.
極めて主観的な意見,雑感を書いた例としては
2.2 中期記憶としてのブログ
• 自身が参加した研修の振り返り
能である.しかし,ウォール投稿との最大の違いは「ペー
• SNS 以外での「いいね!」についての考察
ブログは日本語言語パックでは日誌と翻訳されている機
• 自身が開催した研修プログラムの振り返り
ジ内にブロックとして表示できること」にあるだろう.
• 育児と出勤時間についての雑感
いつ書いたものなのかという点も重要なメタ情報であ
*1
*2
などがある.
トラブル発生時の反省点を客観的に書いた例としては
このようなウォールに他部署のユーザから合いの手が入ると仕事
にリズムが生まれ楽しい.
そのうち上司が新たなタスクをウォールでポストしてくるように
なるかもしれない.しかし,投稿削除の権限はそのウォールの
オーナー(すなわち私)に付与されているので安心だ.
• 情報システムのサーバに想定外のネットワーク負荷が
かかった時の報告
• サーバメンテナンス計画の甘さからダウンタイムを長
25
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
*4
とが,その業務に私自身をアサインすることになるのだ.
ページの特長はサイト内外のいろいろな情報をブロック
という形で1ページに配置できるレイアウト機能とページ
ごとの柔軟な共有機能にある.以下,私が多用するレイア
ウト二種類の使用例と共有機能について示す.
2.3.1 2カラム
もっとも使いやすいレイアウトと言えば,やはり2カラ
ムレイアウトである.
2カラムレイアウトを使った例としては
• 左カラムに研修案テキストボックスや実施通知文書,
右カラムに研修実施後の振り返りブログ
• 左カラムにトラブル解決法テキストボックスと関連資
料ファイル,右カラムにトラブル解決直後の反省を記
したブログ
などがある.右側にブログを配置することが多い.
図 4 同僚のウォール投稿をきっかけに書いたブログ記事
引かせてしまった時の報告
などがある.
何か行事や事件が発生し,そのことについて未来の自分
*3 いずれにして
自身への報告として投稿することが多い.
もウォールのように思いつきでは投稿せず,ある一定のボ
リュームを持たせた上で結論まで書こうとする傾向にある.
2.3 長期記憶としてのページ
ページは前述したウォールやブログとは異なり,ある時
点での考えを残すという感覚ではない.基本的に完成とい
う概念はなく,常に現在を表す表現方法なのである.もち
ろん,更新の必要がなくなれば実質上変化はなくなるのだ
が,その点も含めてインターネットのウェブページをイ
メージすれば理解しやすい.
最終更新日が重要な扱いを受けていない点や編集履歴が
残らない点は残念だが,言い換えれば「いつでも書き換え
られる」ということでもあり,私にとってページはブログ
よりも書き始めやすい.
図 6 左カラムに研修案テキストボックス,右カラムに研修実施後の
振り返りブログ
「実施計画」と「実施結果」という形や「客観的一般論
図 5 ウォール,ブログ及びページと時間軸
を集めた左カラム」に対する「主観的事実に基づいた右カ
ラム」という形は,業務における失敗や成功の分析をする
事業計画を立案する際のノートとして使ったり,リサー
チ結果を客観的にまとめたりと,新しいことを始める際
上で非常に有効である.
は必ず「ページを作成する」ボタンを押す.私にとっては
*4
「ページを作成する」ボタンを押してタイトルを入れるこ
*3
ちなみに私のブログ名は「藤田の後悔日誌」である.
26
mahara 導入以降,私が担当しているにも関わらずページを作成
していない業務があるとすれば,それは極めて一時的で規模が小
さい業務であるかもしくはそもそも興味がないかのどちらかであ
る.
Maharaオー
3カラムにして「事前調査」
「実施計画」
「結果総括」と
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
• 調査中のウェブ技術についてまとめたページ
いう構成にしてもよいだろう.
左カラムにリサーチ中の技術を解説したスライドシェ
上記例の場合,随時最新の情報が提示されるであろう
アを埋め込み,右カラムに補足説明と理解できなかっ
ノートやフォルダと,ある時点での考え方を記録したブロ
た点を記載する.
グという違いにも対比するという点において意味がある.
などである.
また,図 7 のように,同類でありながら条件が異なるも
パブリックな情報素材の左カラムとそれを受けての右カ
のを比較する場合にも扱いやすいレイアウトである.
ラムという対比は,上司や同僚に説明する際にも明快な印
象を与える.
2.3.3 ページ共有機能
最も重要なことはこれらのページを他のユーザと共有で
きるという点にある.ブロックがひとつもない状態から共
有を開始してもよいし,一定のレベルまで出来上がってか
ら共有を開始してもよい.もしくは徐々に共有範囲を広め
るという方法もあるだろう.
ページは必要に応じてフレンドや同僚,上司と共有する.
表 1 ページ共有の例
フレンド
利用した育児関連制度まとめ
図 7 主催が異なる二つの講演を比較したページ
サーバ管理のノウハウ
研修参加結果報告
これら比較するという行為は日常生活でも連続的に行っ
導入検討中製品のリサーチ
同僚
上司
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
⃝
ているはずだが,職場ではさらに論理的かつ記録を残しな
がら行うことを期待されるのは言うまでもない.そういっ
*6
また,アクセス権に時限設定が可能である.
た観点からも比較行為とページ作成は相性がよい.
ページとはすなわち他者と共有できる個人的な総括の場
2.3.2 2カラム(大きな左カラム)
なのである.
何かについて調べた結果をページにする際,左カラムに
3. グループ
外部からの情報を配置し,右カラムに私の意見を書くこと
が多い.そんな時は調べた情報が多くを占めるため,左カ
いくつかのセクションではグループを実験的に利用して
ラムが大きい2カラムが使いやすい.
いる.私が所属している企画課情報担当グループ内での実
例をいくつか紹介する.
3.1 内部広報誌編集
当局では隔月の内部広報誌を壁新聞のスタイルで発行し
ており,企画会議から印刷配布までを職員の手で行って
いる.
企画会議後にグループページを作成し,各記者が作成し
た記事をテキストボックスとして追加していく.関連する
資料や挿入予定の写真などもファイルブロックとしてグ
ループページに追加されている.このことによってグルー
図 8 採用を検討中の製品についてリサーチしたページ
プページ自体が全体進捗及の確認に利用でき,各号のアー
カイブとして残すこともできる.
例えば
また,グループ内のフォーラムに取材前の下調べ結果や
• 採用を検討中の製品についてリサーチしたページ
取材のポイントを投稿しておくと,他のメンバーとも共通
左カラムに採用検討中製品の PR 動画共有サービスを
認識を持ちやすいだけでなく,実際に発行された記事と比
埋め込み,右カラムに関連リンク及び気になっている
較することで今後の企画会議にも活用できる.
点を記載する.*5
*5
しかし,見る側にとっては携帯性や即時性の面で PC は紙媒体に
劣る.動画を埋め込んだページを作っても「印刷しておいてね」
と上司に言われて困ることがある.
*6
27
例えば事業計画案をページとして作成する場合,共有開始日を上
司への提案予定日に設定することで背水の陣を敷くことができ
る.
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
グ,雑感」という構成で俯瞰できるページとなり,各担当
者がヒアリング結果から導き出す結論や変化する考え方を
リアルタイムに比較しながら,全体的なシステム構成を検
討することができた.
3.3 他部署からの問い合わせ
私の所属するセクションは,消防署や消防出張所からの
問い合わせを受けることが多いのだが,大半は電話による
ものであるため記録が残りにくい.対応中はそのことに尽
力しているため,明確な目的意識を持って学習している状
図 9 内部広報誌作成の業務フローと mahara の機能
態なのだが,当然一度解決してしまうと急速に記憶が薄れ
る.後々類似した問題に直面すると曖昧な記憶を遡ること
になり,考え方を共有できずに「対応は人次第」という状
況にも陥りかねない.もちろん定型的なものはすでに通常
のマニュアルで対応が可能だが,例外的な状況*7 は度々発
生し,その都度担当者を悩ませる.そこで定型的ではない
特異な相談などは,受けた後フォーラムに投稿するように
している.
図 10 内部広報誌作成のためのページ
3.2 システム利用者ヒアリングまとめ
システム改修などに際して,利用者からのヒアリングは
非常に重要である.改修規模が大きければ関わる担当者の
数も増え,ヒアリング自体も複数回の実施が必要となる.
そこで二名の担当者にそれぞれヒアリング結果のページ
を作成してもらった.
図 12 特異な相談内容はフォーラムに投稿する
直面している問題の解決だけでなく,その背景に見える
環境的要因や認識のズレなど,根源的な問題を知るきっか
けにもなる.そういったレベルまで達した案件については,
フォーラムの投稿を元に汎用的な考え方をまとめたページ
を作成することがある.「ウォール→ブログ→ページ」と
同じように「ウォール→フォーラム→ページ」という変遷
図 11 複数ページのノートをひとつのページで俯瞰する
をたどるということである.
4. 組織で活用するために必要なこと
そして担当者Aが作成したページ「事前ヒアリング集」
及び,担当者Bが作成したページ「本ヒアリング集」内の
ソーシャルメディアとしての要素が強いシステムである
ノートを,自らが作成したページに読み取り専用としてイ
ため,利用者を増やすことは全てのユーザにとって根源的
ンポートした.ここに自らの考えをまとめたテキストボッ
*7
クスブロックを追加すると「事前ヒアリング,本ヒアリン
28
例外的な状況というものは,存在が例外的であるにも関わらず何
の予兆もなく簡単に発生するので困る.
Maharaオー
なメリットとなる.本章では,運用上の工夫と実装すべき
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
べきだろう.
機能に分けて考察する.
また,メッセージ機能に送信箱がない点も個人間のコ
ミュニケーションにとって障壁となる.送信箱,受信箱
4.1 運用上の工夫
というよりも,むしろ SNS や SMS で主流となっている
のしくみが理解できないという点が,積極的に利用しよう
はないか.
mahara で難しいのはその概念である.当局でも mahara
チャットのようなスタイルが mahara にはマッチするので
と考えているユーザにとって障壁となっている現状がある.
その障壁をクリアするためには
• イントロダクション動画(イメージ向上でメンタルブ
ロックを外す)
• 操作になれるキャンペーン(エクササイズとして mahara
上で特定の操作をしたユーザのファイルクォータが増
やす)
• 便利機能紹介(無料で便利なツールであることを全面
図 13 コミュニケーションによる学習の活性化
に出した紹介記事をイントラや内部広報誌で定期連載
する)
4.2.2 ウォール
• オンラインヘルプの強化(別途配布のマニュアルでは
ない)
ウォールは先にも述べたようにアクセス制限のない機能
など,ユーザがシステムそのものに慣れるための工夫が
である.そこで全ユーザのウォール投稿を時系列で並べた
必要ではないだろうか.すでに興味を示しているユーザに
「パブリックウォール」を実装すれば,ウォールの利用も活
対しては効果的である.
発になり,コミュニケーションが活性化するのではないだ
これらはいずれも人的コストを大量に消費する取り組み
ろうか.
4.2.3 ブロック
であるが,日本語コミュニティが協力することでスケール
メリットが期待できるのではないだろうか.
次に示すようなブロックがあれば,地味ながら業務利用
また,ムーブメントとして盛り上げることも効果的であ
する上で有用である.
ろう.
• 取扱レベル表示ブロック(部外秘/取扱注意/印刷可
• キーマンとなる名物職員に利用方法を徹底レクチャー
能など.著作権表示ブロックのようなイメージ.)
する(人的ネットワーク資源を活用して巻き込む)
• 共有ユーザ表示ブロック(このページを一体誰が閲覧
• 検討部会にグループ機能の利用を提案する(業務利用
できているのかという情報は組織内において非常に重
の実例としてユーザ全体にアピールする)
要である.)
• イントラのポータルページにパブリックウォールを
• マインドマップ作成ブロック(さらにアウトラインが
流す(全ユーザのウォール投稿を時系列に並べ替えた
出力できるとよい.)
もの)
業務システムなどに比べ,情報システムは運用を開始し
• 業務システムと連携させる(実務の振り返りを共有す
た後に利用方法が明確になってくる場合が多い.そこに対
などは前述のようなシステムそのものに慣れるための工
4.2.4 ウォッチリスト
ることが狙い)
応できるという意味で,プラグインの存在は大きい.
夫を行うよりも全体に対するインパクトがあるはずだ.
特定のページをリストに追加しておくと,そのページに
これらは組織によって事情が大きく異なるが,事例の共
変更が加わった場合に通知される.これがウォッチリスト
有から共通点が見出せる可能性もあるのではないだろうか.
の機能なのだが,現時点では自分のウォッチリストしか見
ることができない.
4.2 実装すべき機能
もし他のユーザのウォッチリストを見ることができれ
4.2.1 コメント及びメッセージ
ば,ソーシャルブックマークのような機能になるかもしれ
mahara の実装で最も問題なのはコメント投稿の通知が
ない.
オーナーにしか届かない点である.オーナーがコメント欄
また,ページごとのウォッチリスト追加数がわかれば,
を使って返信したつもりでも相手に伝わらないことを意
ページに対する純粋な注目度の指標となるのではないだ
味する.これが予想以上にコミュニケーションの断絶を生
ろうか.例えば,コメント数は少ないが多くのユーザが
み,意見交換の機会を損失してしまう.ページやブログの
ウォッチリストに登録しているページがあるとすれば,そ
コメント欄もフォーラムトピックへの返信と同じ扱いにす
れは周囲の期待や今後の注目度が高いということになる.
29
Maharaオー
5. おわりに
個々のユーザにとってeポートフォリオの出発点はどこ
か.具体的な利用シーンはユーザによって様々だとしても,
eポートフォリオとしての意味を持ち始める瞬間に共通点
があるはずだ.人々の中に客観なるものが存在せず,ある
のは間主観性を前提とした主観のみなのだとすれば,やは
り内省こそが成長の原点かつeポートフォリオの出発点な
のではないだろうか.
当局の mahara は「AINET*8 リフレクション」という
サービス名で運用している.内省=リフレクションという
根源的な要素を運営側が意識し続けるためである.
アウトプットを前提としたリフレクションは個人を成長
させ,その積み重ねがムーブメントとして昇華した際に組
織も成長する.eポートフォリオシステムはそのための
ツールであり,条件しだいでは導入のハードルも高くはな
い.それが企業や自治体がeポートフォリオシステムを導
入すべき理由である.
一度導入したならば便利に使うだけでなく,利用した
ユーザが成長し,さらにeポートフォリオというサービス
を牽引していくことが望ましい.そのようなサイクルが一
度生じさえすれば,技術と人材の両輪がしっかりと組織を
前進させてくれるだろう.
参考文献
[1]
*8
デリン・ケント, リチャード・ハンド, グレニス・ブラッ
ドベリ, メグ・ケント 著, 大澤真也, 中西大輔, 吉田光宏
共訳:Mahara でつくる e ポートフォリオ入門, 海文堂
(2012.02.20).
AINET は moodle をはじめとする横浜市消防局内ウェブサービ
スの総称である
30
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
千葉大学医療系 3 学部専門職連携教育プログラム
「亥鼻 IPE」における Mahara の活用
高橋平徳†1
岡田聡志†2
前田崇†3
伊勢川直久†2
千葉大学では,医学部,看護学部,薬学部の医療系 3 学部が協働し,実習やグループワークで学び合う専門職連携教
育(「亥鼻 IPE」; Interprofessional Education)を実施している.各学年 300 名ほどの学生の自己主導型学習を支えるた
めに moodle を活用している.そして今年度から紙ポートフォリオに替え Mahara を導入した.本プログラムでの導入
経緯や,状況,課題について報告・検討し,Mahara を活用した授業実践の改善への知見を共有したい.
Use of Mahara in "Inohana IPE"
Chiba University interprofessional education program
through the collaboration of three healthcare schools
YOSHINORI TAKAHASHI†1
SATOSHI OKADA†2
†3
TAKASHI MAEDA
NAOHISA ISEGAWA†2
Chiba University has conducted Interprofessional Education (IPE) program through the collaboration of three healthcare schools:
The School of Medicine, The School of Nursing, and The Faculty of Pharmaceutical Sciences. We use moodle to support selfdirected learning about 300 students each school year. Then, we introduced the Mahara instead of the paper portfolio from this
year. By reporting the introduction history of Mahara in our education program, I want to share knowledge for the improvement
of Mahara.
1. はじめに
2. 導入の経緯―なぜ Mahara なのか
千葉大学では,医学部,看護学部,薬学部の医療系 3 学
2.1 紙ポートフォリオと「Wiki フォリオ」の課題
部が協働し,2007 年より専門職連携教育(Interprofessional
亥鼻 IPE では紙ポートフォリオを活用してきたが,課題
Education; IPE)を実施している.3 学部が所在するキャン
も生じていた.たとえば,学生にとっては,学年を経るに
パスにちなんで名付けられた「亥鼻(いのはな)IPE」では,
つれファイルが厚くなるため,ふりかえりや,授業への持
学部学生各学年 300 名ほどが 4 年間の必修科目として,座
参が億劫になること,資料などをファイルにとじ忘れたり,
学を最小限に,学部混成のグループワークや,演習・実習
ファイル自体を紛失したりすることなどがあった.また,
など経験的な学習に取り組んでいる[a].より効果的に経験
教員にとっては,膨大なファイルを一つ一つ評価すること
による学習の成果を定着させるため,学生は毎回リフレク
や,教員間でポートフォリオの内容を共有することなどの
ション・シートを記入し,自己評価,グループ評価をおこ
困難性,事務にとっては保管や回収・返却の手間など数々
なう.それらの成果物や配布資料,レポート等を蓄積する
の課題が生まれていた.
そこで,2012 年 2 月頃から,紙ポートフォリオから e ポ
ポートフォリオを作成してきたが,今年度から新たに紙ポ
ートフォリオに加えて e ポートフォリオ Mahara を導入した.
ートフォリオへの移行を模索し始めた.医学部は先立って
本発表では,亥鼻 IPE での Mahara 導入の経緯や,現在の
2010 年度より独自に e ポートフォリオ(「Wiki フォリオ」)
状況,課題について報告・検討し,Mahara を活用した授業
を開始しており,そのシステムを看護学部,薬学部も活用
実践の改善への知見を共有したい.
することが検討された.しかし,そのシステムは moodle
なお,現在の moodle のバージョンは 2.1.7 で,Mahara は
の Wiki モジュールを使用したものであったため,ファイル
1.3.8 である.
のアップロードエラーや,学生自らが Wiki にリンクを作成
する必要があるなど使用に関する課題が多く確認されてい
た.そのため,医学部の「Wiki フォリオ」に代わるあらた
な e ポートフォリオ・システムの導入の検討を開始した.
†1 千葉大学大学院看護学研究科
Chiba University Graduate School of Nursing
†2 千葉大学大学院医学研究院
Chiba University Graduate School of Medicine
†3 千葉大学医学部附属病院
Chiba University Hospital
a) 亥鼻 IPE ウェブサイト
https://moodle01.m.chiba-u.jp/ipe/index.html.
2.2 亥鼻 IPE で求める e ポートフォリオ・システムの機能
と Mahara への注目
まず亥鼻 IPE や医学部での利用で必要とされる e ポート
31
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
フォリオ・システムの機能を検討した.そして,①データ
計 580 名のうち,35 名であった.問い合わせ内容は,①フ
を蓄積し,いつでも閲覧できる,②自己評価・他者評価を
ァイルのエクスポートがうまくできない:13 名,②ビュー
行え,分析が可能である,③チームメンバーや教員と情報
の作成がうまくできない:12 名,③提出が完了しているか
を共有できる,④学外実習施設からのフィードバックや卒
確認してほしい:4 名,④ビューの作成方法がよくわから
後など,発展した活用ができる,という機能が必要である
ない:4 名,⑤iFolio の表示が崩れる:1 名,⑥ビューの提
と確認した.
出が必要だと知らなかった:1 名であった.最大でも 4 往
業者によるオーダーメイドのものや,sakai OSP も同時に
復のメールのやり取りによって解決した.研究室へ訪ねて
検討したが,A.学生や教員の新たな負担とならない(現在
きた学生もいたが,初年度で,マニュアルのみの説明のわ
定着している moodle と連携して機能する),B.導入とラン
りには,おおむね良好に導入できていると考えられる.
ニングのコストが大きくかからない,C.マニュアルや研究
また,現バージョン(moodle:2.1.7,Mahara:1.3.8)で
が充実し,今後の継続性が期待できる,という 3 点におい
は,1.Firefox ブラウザを使用すること,2.ファイル名を
て,Mahara の導入を決定した.そして,2013 年 4 月より
半角英数字にすること,3.利用可能なエクスポートフォー
運用を開始した.看護学部,医学部,薬学部がある亥鼻(い
マットで LEAP2A ポートフォリオフォーマットを選択する
のはな)キャンパスでの e ポートフォリオ・システムとい
こと,の 3 点を確実に行わなければ,ファイルが正常にエ
うことで,「iFolio」と名づけた.
クスポートされないという現象が生じている.これらは学
生の問い合わせの①と⑤にかかわるものであるため,この
課題が解消されればより学生に扱いやすいものとなるであ
3. 活用の状況
ろう.
3.1 活用の方法
本年 25 年度の Mahara の利用は,Step1 の 1 年次生 289
5. おわりに
名と,Step2 の 2 年次生 291 名である(9 月,12 月にそれ
ぞれ 4 年次生,3 年次生の利用が始まる).
以上,亥鼻 IPE での Mahara 導入の経緯や,現在の活用
Mahara は非常に多機能であるが,300 名近くの学生にす
状況と課題について報告してきたが,今後取り組んでいく
べての機能を開放すると,学生も混乱し,教員も対応でき
べき課題は非常に多い.学生の自己主導型学習を支えるた
なくなることが予想されるため,まずは,求める機能のう
めには,写真や動画などを利用したより充実したビューを
ち「①データを蓄積し,いつでも閲覧できる」ことに制限
作成できるための基盤整備,現在制限している機能(評価
している.すなわち,コースグループでグループを作成し,
のフィードバック,チームメンバーとの情報共有,卒後の
学生は毎回のリフレクション・シートやレポートなどをま
活用など)の開放,そしてより容易に活用できるための工
とめ,教員に対してビューとして提出するという機能に限
夫などが求められる.また,経験による学習の成果を真正
定し Mahara を活用している(学生によるグループの作成
に評価するためには,かかわる教員の確保や FD の開催な
とファイル共有の方法は通知していない).
どが求められるであろう.これからもよりよい Mahara へ
3.2 活用での工夫―マニュアルの作成と説明会の実施
の検討と改善を継続していきたい.
約 300 名を対象に Mahara の説明をする機会がとれない
ため詳細なマニュアルを作成した.moodle のマニュアルは,
「課題を提出したあと,1.「ポートフォリオにエクスポー
参考文献
トする」をクリックする,2.「LEAP2A ポートフォリオフ
1) 前田崇・野口穂高・田邊政裕,2012,千葉大学における 6 年一
貫 e ポートフォリオの導入,東京大学・東京医科歯科大学『平成
23 年度文部科学省先導的改革推進委託事業医学・歯学教育の改
善・充実に関する調査研究最終年度報告書』,pp.153-158.
2) 前田崇・岡田聡志・伊勢川直久・白澤浩・野口穂高・朝比奈真
由美・伊藤彰一・田邊政裕,2013,千葉大学医学部における e ポ
ートフォリオの実践,第 45 回医学教育学会大会モーニングセミナ
ー3 配布資料.
ォーマット」を選ぶ」,Mahara のマニュアルは,
「1.iFolio
にフォルダをつくる,2.ビューをつくる,3.ビューを提
出する」といったように,必要最小限の機能を活用する方
法について作成した.
また,学生からのビューを受け取り評価する教員に対し
ても,ビューの確認方法,ビューのリリース方法について
のマニュアルを作成し,Mahara 導入の利点とあわせて,説
明会をおこなっている(7 月 22 日).
4. 現状での課題
学生からの教員への問い合わせは,1 年次生と 2 年次生
32
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
医学領域における e ポートフォリオの現状と
千葉大学医学部における Mahara の導入
岡田聡志†1
高橋平徳†2
前田崇†3
伊勢川直久†1
強力なグローバル化圧力にさらされている日本の医学領域では,アメリカでの e ポートフォリオの浸透と進展を背景
に,e ポートフォリオに対する関心が急激に高まっている.千葉大学医学部では 2010 年度より Moodle を利用した e
ポートフォリオを導入していたが,2013 年度より Mahara にシステムを移行し,各種授業で e ポートフォリオの利用
を推進している.本発表では,このような医学領域の現状と千葉大学医学部における実践について報告する.
Current State of e-portfolio in Medical Education and
Introduction of Mahara in Chiba University School of Medicine
SATOSHI OKADA†1 YOSHINORI TAKAHASHI†2
TAKASHI MAEDA†3 NAOHISA ISEGAWA†1
In the context of penetration of e-portfolio in United States, Interest in e-portfolio is increasing rapidly in Japanese medical
education facing intense pressure of globalization. Chiba University School of Medicine introduced e-portfolio using Moodle in
2010 and changed the system to Mahara in April, 2013. In this presentation, Current State of e-portfolio in medical education and
practice in CUSM is reported.
医学領域における e ポートフォリオの導入の推進力の背景
1. はじめに
となっているアメリカの医学教育における e ポートフォリ
高等教育における e ポートフォリオに対する関心の増大
オの現状について整理をするとともに,千葉大学医学部で
とともに,様々な機関において e ポートフォリオ・システ
導入した e ポートフォリオの実践事例について報告する.
ムの導入が進められていく中で、期待と実態に適合するシ
ステムの構築と運用が課題となってきている.大枠として
2. アメリカの医学教育における e ポートフォ
リオの動向
の自己主導型学習( self-directed learning)や真正な評価
(authentic assessment)などへの活用という理念はあるもの
の,実際のシステムの構築と運用においては,それをどの
日本の医学教育における e ポートフォリオ導入の大きな
ように実現していくかということの前提として,より具体
推進力となっているのが,アメリカの医学教育における動
的な期待と実態の把握が必要になってくる.
向である.日本とは制度自体が異なるものの,アメリカの
Medical School ではコンピテンシーの設定の推進とともに,
Burton R. Clark は高等教育システムを事業体と専門分野
から構成される「マトリックス構造」や「Loose web」と表
当初は各機関が主導する形で e ポートフォリオ・システム
現したが[2],その枠組みを援用すれば e ポートフォリオに
の 導 入 が 進 め ら れ た 。 AAMC ( Association of American
寄せられる期待や実態ですら,事業体としての機関や専門
Medical College)の GIR(Group on Information Resources)
分野によって異なることが予想される.
による 2010 年の調査によれば,アメリカ及びカナダの
実際に,医学領域を取ってみても,実体面では他の学部
Medical School で調査に回答した 90 校のうち,少なくとも
と比較したとき,その歴史的な経緯やカリキュラムなどに
49 校が e ポートフォリオ・システムを導入していることが
特殊性を有しており,ECFMG(Educational Commission for
確認できる[a].そのうちの 51.0%がベンダーの製品,46.9%
Foreign Medical Graduates)の受験資格変更に伴ういわゆる
が独自開発(Homegrown),2.0%がオープンソースとなっ
2023 年問題に代表される強力なグローバル化圧力の存在
て お り , ベ ン ダ ー の内 訳 は複 数 回 答 で は あ る もの の ,
は,専門分野固有の特徴に適合するシステムの必要性を示
BlackBoard と E-Value がそれぞれ 6 校,Angel が 2 校,その
唆する.
他が 10 校となっている[3].
このように機関によって様々な e ポートフォリオ・シス
本発表では,このような背景から医学領域に焦点を当て,
テムの導入が計画・実施される中で,2007 年という早い段
†1 千葉大学大学院医学研究院
Chiba University Graduate School of Medicine
†2 千葉大学大学院看護学研究科
Chiba University Graduate School of Nursing
†3 千葉大学医学部付属病院
Chiba University Hospital
階 か ら AAMC と NBME ( National Board of Medical
a)AAMC の Medical School の会員校は 2013 年 8 月現在 158 校となってい
る.
33
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
Examiners)が中心となって,散在するそれらのシステムを
いない.しかし,アメリカでの e ポートフォリオの定着と
統合・包括するシステムの開発が検討されてきている[8].
展開を背景に,急速にその関心は高まりつつあるといえる.
開 発 段 階 で は 「 eFolio Connector 」「 Electoronic Portfolio
この点に関して,千葉大学医学部では,ポートフォリオ
Connector」と称されて開発が進められてきたが[1],2013
評価の重要性を認識し,1 年次から 5 年次の各種の授業で
年 3 月に「Pivio」として Web 上に公開され,今夏のパイロ
ポートフォリオ評価を導入していたものの,2009 年度まで
ット版のリリースの後,2014 年に学生及びレジデントを対
は紙ベースのポートフォリオが主であった.しかし,紙ベ
象としたフルリリース版が提供される予定となっている
ースのポートフォリオの運用においては,実際にポートフ
[4].
ォリオ評価を利用していく中で,学生にとっては成果物が
この Pivio は現状としては「secure lockbox」としてデー
増えるにつれてファイルがかさばり,持ち運びに苦労する,
タのストレージと転送という側面が強調されているが,こ
あるいはポートフォリオのファイルを置き忘れるという事
れは Medical School に留まらない生涯学習としての医師の
態が発生し,教員や事務にとってはファイルを置いておく
育成を視野に入れたものであり,その範囲は Medical School
スペースやそれを移動する労力,回収・返却の手間等の問
入学前のデータから在学中,レジデント,そして医師とし
題が生じていた.
ての活動までも含まれる.図 1 と図 2 は Pivio がデータと
このため,2009 年度より e ポートフォリオ・システムの
して取り扱う範囲とプラットホームとしての構造を示した
導入を検討し,整備に取り掛かり,2010 年度より 1 年次の
ものである.資格認定機関への書類の送付等も視野に入れ
学生に限定した上で,e ポートフォリオ・システムの利用
たものであり,今後の計画としてリフレクションや学習計
を開始した.
画のテンプレートの提供や学習過程や教育・プログラムの
その経緯については,文献[5][6]に詳しいが,当時のシス
テムは千葉大学医学部で LMS として利用している Moodle
ツールとしての活用も視野に入っているとされている[4].
を利用したものであり,教員と学生間の双方向性を重視す
るために Moodle のポートフォリオ・モジュールではなく,
Wiki モジュールを使用するものであった.
しかし,導入初年度は,運用上の不備もあり,2010 年度
10 月に実施された「e ポートフォリオに関する学生調査」
(対象:医学部 1 年次生 111 名,回収数 105 票,回収率 94.6%)
においては,「e ポートフォリオのシステムが使いやすい」
という意見が 20.0%に留まるなど,不具合も多く確認され
た[5].その後,運用の見直し等により,2011 年度の同様の
図1
Pivio の全体像([4]参照)
調査では「使いやすい」という意見は 60.0%になるなど改
善が見られたが[7],原因不明のファイルのアップロードエ
ラーやシステム面のエラーについては依然として多く発生
しており,またそもそもユーザに html の知識を求めるとい
う点,千葉大学医学部独特のシステム利用であるため波及
性が見込めない点,学生は教員や評価のためにファイルや
コメントをアップロードするなど本来のポートフォリオの
趣旨と差異がある点,特定の教員に対するポートフォリオ
の送付が困難であることも含めシステムとしての基本的な
構造の一部に問題がある点など,課題が多く確認されてい
た.
このような背景から 2013 年度の利用開始に向けて LMS
図2
Pivio のプラットホームとしての設計([4]参照)
である Moodle ではなく,e ポートフォリオ・システムとし
て設計されている Mahara の導入を検討し,Moodle のバー
ジョンアップと合わせて Moodle から Mahara へ Single
3. 千葉大学医学部における Mahara の導入
Sign-On を可能とした上で,2013 年 4 月より利用を開始し
3.1 千葉大学医学部における Mahara 導入の経緯
た.
日本の医学教育においては e ポートフォリオの活用は端
なお,千葉大学医学部においては LMS の Moodle を導入
緒に就いたばかりであり,アメリカのような機関を横断す
した際に,「医学部 Moodle」という名称を付けたため,全
るポートフォリオとしての利用は現状としては計画されて
学で使用している「千葉大学 Moodle」との区別が不明確に
34
Maharaオー
なり,管理上の混乱の問題があったことと,医学部・看護
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
(2)総括的評価におけるリフレクションとしての利用
学部・薬学部が所在する亥鼻キャンパスにおける e ポート
次に,スカラーシップ・プログラムは,医学部 1~2 年次
フォリオ・システムということで,Mahara を「iFolio」と
生を対象としたベーシック,3 年次生を対象としたアプラ
いう名称で呼ぶこととしている.
イドにおいて,iFolio による評価を実施している.本プロ
グラムにおいて学生は 42 の研究領域のうち自分が希望す
3.2 実際の Mahara の利用の仕方
る研究領域のプログラムに参加し,その領域の研究や抄読
2013 年 4 月に導入した iFolio は,1 年次の科目・ユニッ
会,カンファレンス等への参加を経験することにより,医
トである「導入 PBL チュートリアルユニット」の授業から
学・医療の発展のために必要となる高い学識的な思考と研
利用を開始し,2013 年 8 月現在に「チーム医療 1(IPEⅠ)
究開発のための知識・技術・倫理観を習得することを目指
ユニット」「チーム医療 2(IPEⅡ)」「スカラーシップ・ベ
す.
ーシックプログラム」
「スカラーシップ・アプライドプログ
本プログラムでは iFolio 上にプログラムを通じた最終的
ラム」で利用されている.以下では「導入 PBL チュートリ
な成果物と振り返り(リフレクション)を提出することと
アルユニット」と「スカラーシップ・プログラム」での iFolio
なっており,総括的評価における事後的なリフレクション
の利用について紹介する.
という位置づけで使用している.
iFolio の基本的な使用方法は先述の導入 PBL チュートリ
(1)形成的評価におけるリフレクションとしての利用
導入 PBL チュートリアルは,医学部 1 年次生を対象に,
アルと同様であり,各研究領域分のグループを iFolio 上に
4 月 10 日から 5 月 29 日にかけて 9 日間で計 18 回実施され
作成した上で,同じ方法での利用を想定している.iFolio
る授業で,うち 3 日間 6 回分については,学生(119 名)
の使用の仕方についても同様に pdf ファイルのマニュアル
を 1 グループあたり 7 名ずつ計 17 グループに分け,各グル
と動画のマニュアルを学生及び教員に用意することに加え,
ープにチューターとして 1 名の教員が付き,PBL 形式で実
各研究領域の担当教員に対しては 7 月 12 日と 7 月 19 日の
施される.この PBL 形式の授業において,各回の授業の成
2 日間に評価法と e ポートフォリオの使用法に関する FD
果物のポートフォリオでの提出とフィードバックの投稿を
(Faculty Development)を実施した[b]。
実施することとした.この点では形成的評価におけるリフ
レクションとしての利用に位置づけられる.
3.3 現状としての課題
Mahara 自体については,非常に広範囲な機能を有してお
本年度から iFolio(Mahara)を導入したため,実践の蓄
り,様々な利用方法が可能であるというメリットがある反
積としては必ずしも十分とは言い難いが,現時点でシステ
面,機能が広範であることに伴い操作が複雑になりがちで
ム上のエラーは確認されておらず,e ポートフォリオ・シ
あることと,一種の「慣れ」が必要であることが様々な場
ステムの管理という点では負担が大幅に減少したと言える.
面で指摘されている.
しかしやはり導入初年度ということもあり,教員・学生
このため,iFolio 上に 17 グループ分のグループを作成し,
共に,使用については混乱が生じたのも事実である.その
学生をメンバー登録,教員をチューター登録した上で,授
多くはヒューマンエラーに起因するものであり,例えば学
業での利用方法については使用する機能を出来るだけ限定
生がフィードバックの投稿はしたもののビューの送信を忘
し,手順についても簡素化することとした.具体的には,
れていたり,ファイルをフォルダに入れないままビューを
以下のような手順を想定した.
送信してしまっていたり,あるいはチューターや教員がビ
ューをリリースしていないために,学生がビューを編集で
①学生が提出用ファイルを当該授業用フォルダに入れる.
きないといったことである.このことは,導入開始以前の
②学生が各自のビューのフィードバックを投稿する.
周知や利用方法に関する案内が十分に行き届かなかったこ
とによるものと考えられるが,今後 iFolio(Mahara)の利
(授業の振り返りを入力する)
③学生がチューターにビューを送信する.
用を継続していくことによって,改善していくものと考え
④教員がファイルを確認し,フィードバックを投稿する.
られる.
⑤教員がビューをリリースする.
⑥①に戻る.
4. おわりに
学生には授業時に iFolio の使用の仕方についてビューの
以上,医学領域において e ポートフォリオが推進される
作成の仕方やフォルダへのファイルの入れ方等について説
背景と現状,そして千葉大学医学部における Mahara を利
明を行うとともに,pdf ファイルのマニュアルと動画のマ
用した実践について論じてきた.医学領域においては今後
ニュアルを用意した.チューターにはチューター用の pdf
急速に e ポートフォリオ・システムの導入が進んでいくと
ファイルのマニュアルと動画のマニュアルを用意した.
b)http://www.chibauniv-resident.jp/mededu/faculty/index.html
35
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
善・充実に関する調査研究最終年度報告書』,pp.153-158.
7) 前田崇・岡田聡志・伊勢川直久・白澤浩・野口穂高・朝比奈
真由美・伊藤彰一・田邊政裕,2013,千葉大学医学部における e
ポートフォリオの実践,第 45 回医学教育学会大会モーニングセミ
ナー3 配布資料.
8) NBME (National Board of Medical Examiners), 2007, eFolio: A
Secure Personal Data Manager Serving Physicians, Proceedings of an
Invitational Conference, Baltimore Maryland, October 1-3.
( https://www.aamc.org/download/76810/data/efolio.pdf)
考えられるが,課題も多い.最後に 2 点だけ指摘しておき
たい.
1 つは卒後教育をどのようにポートフォリオに組み込ん
でいくかという点である.医師の養成においては 6 年間の
卒前教育だけではなく,研修医としての卒後教育,その後
の生涯学習もまた重要な意味を持っている.この点を鑑み
ると,卒後も利用できるシステムであることは,1 つの重
要な要件ではあるが,情報管理のコスト等の課題がある.
もう 1 つは実践の蛸壺化である.医学領域は 6 年制かつ
履修科目のほとんどが必修科目であり,履修順序も定まっ
ているという特殊性を有しており,全学的に導入される
様々なシステムが使用しづらいという側面があり,医学領
域独自にシステムを導入せざるを得ず,予算規模や開発・
管理の人員が限定されるという状況に直面しがちである.
そのような状況な中で,個々に独自にシステムを開発し導
入を進めてしまえば,セクショナリズムに陥る危険ととも
に,労力やコストという点において大きな損失を生む可能
性が高い.また,各医学部に様々な形態のシステムが導入
されてしまえば,機関の枠組みを超えた利用等の障害にな
ることも考えられ,先述した卒後教育での利用は,遠ざか
る可能性がある.
これらの課題はまさにアメリカが Pivio を開発する動機
となったものであり,日本の医学教育においても今後早急
にこれらの課題にどのように取り組むかという方針が策定
されることが期待される.学会や種々の中間組織が連携し
て,e ポートフォリオの開発・導入を推進していくことを
期待したい.
参考文献
1) Bostrom, Dana., 2012, November 2, E-Folio Update, presented at
the AAMC Annual Meeting, Marriott Marquis, San Francisco,
California USA.
(https://members.aamc.org/eweb/upload/110212_GG-C_1000_Bostrom
_Dana.pdf)
2) Clark, Burton R., 1983, The higher education system: Academic
organization in cross-national perspective. Berkeley/ Los Angeles/
London: University of California Press.
3) GIR (Group on Information Resources), 2010, Medical School IT
Survey, AAMC Curriculum Reports.
(https://www.aamc.org/initiatives/medaps/curriculumreports/)
4) Johnson, Angelique. & Rose, Leta S., 2013, April 9, Support
Lifelong Learning: AAMC & NBME’s New Electronic Portfolio
Connector, Panel Session presented at the MedBiquitous Annual
Conference 2013, Johns Hopkins University School of Medicine,
Baltimore, Maryland USA.
(http://medbiq.org/sites/default/files/presentations2013/Johnson_Rose.p
ptx)
5) 前田崇・野口穂高,2011,e-ポートフォリオ・システムの構
築と卒業目標到達度の評価,千葉大学医学部『文部科学省平成 20
年度<質の高い大学教育推進プログラム>学習成果基盤型教育に
よる医学教育の実質化取組み成果報告書』,pp.210-218.
6) 前田崇・野口穂高・田邊政裕,2012,千葉大学における 6 年
一 貫 e ポートフォリオの導入,東京大学・東京医科歯科大学『平
成 23 年度文部科学省先導的改革推進委託事業医学・歯学教育の改
36
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
国内外の日本語教師の交流活動コミュニティでの実践
加藤由香里
本研究では,国内外で活動する日本語教師が,ネットワーク上で他の教師との交流を通じて,自らの成長を自ら考え
る活動を支援している.2012 年 4 月から 9 月までの 6 カ月間,この活動に参加した日本語教師 9 名と 4 名のメンター
に意見を求めた結果,参加者同士の意見交換を活性化するために,ルール作りが必要であることと,活動記録として
のティーチング・ポートフォリオ作成が有意義であったことが明らかになった.この結果をふまえて,2012 年 11 月
からは,参加者で興味のあるサブグループを作り,グループのリーダが中心となって認知的な負荷を軽減して省察活
動に取り組める工夫を試みた.その結果,2つのサブグループで,WEB サイトを通じた交流数の増加とともに,学
生同士の交流プロジェクト,セミナーの企画など現実の問題を解決するための議論と交流が行われた.
Practice in Collaborative Community of Japanese Language
Teachers Domestic and Overseas
YUKARI KATO
The main objective of this project is to promote teacher collaboration for new curriculum development and assessment for
Japanese language education, reporting their practices and exchanging ideas with each other. In order to promote professional
communication between Japanese language teachers and professionals in teacher education, the author organized virtual learning
communities, utilizing two different sites: moodle-based website and e-portfolio system. In use of these sites, nine participants
and four mentors tried to report daily activities, and share knowledge for improvement of domestic and overseas language
learning. Through such collaboration on the web, it proposed the model for fielding small inquiry communities of project’s participants in order to improve their practice and challenge new program to improve their students’ learning environments and
their teaching and management skills.
教授法に大きな比重が置かれていた出題範囲の見直しがす
1. はじめに
すめられ,
「社会・文化に関わる領域」
「教育に関わる領域」
近年の「留学生 30 万人計画」,「アジア人財構想」,「国
「言語に関わる領域」の 3 領域を基本とする 5 つの区分か
際化拠点事業(グローバル 30)」,「EPA(経済連携協定,
ら出題されるようになった.この改正を受けて,大学の日
Economic Partnership Agreement)にもとづく看護師・介護
本語教師養成課程も,必要な基礎的知識や実習の場を提供
福祉士候補の受け入れ」など日本語教育をめぐる環境が急
するとともに,これからの多言語・多文化社会で必要とな
速に多様化している.このような日本語教育をめぐる変化
る「応用実践力」を備えた日本語教師の養成を目指してい
の中で,現場のニーズに対応できる実践的な「言語教師を
る.
養成」すべきか,理論的な裏づけに基づいて「日本語教育
2. 教師のスキルアップサイトの構築
学」を発展させていくことのできる「研究者の養成」をす
すめるべきか,養成すべき日本語教師像について意見も分
本プロジェクトでは,現職の日本語教師が専門的な知識,
技能を学べる WEB サイト「語学教師の成長サポート」
かれている[1].
日本語教師の養成プログラムの授業科目や授業時間等
(https://lms. katoyukari.net/)と自らの活動を振り返るための
は,1985 年に文部科学省によって,標準的な内容が示され,
e ポートフォリオ「かとプロ」(https://sns.katoyukari.net/)を
1986 年からは,この内容に基づいて「日本語教育能力検定
構築した.この2つの枠組みを利用して,自らの教育実践
試験」が毎年実施されており,日本語教師採用の応募資格
を記録して公開し,それを相互に検討しあうための実践活
とされるようになっている[2].2000 年の文化庁委嘱「日本
動を行っている[3].
語教員の養成に関する調査研究者会議」では,言語と言語
「語学教師の成長サポート」では,
「教師としての資質向上
(scholarly teaching)」を目指した多様なコースが学習管理
システム moodle 上に提供されている(図1).最終課題で
東京農工大学
Tokyo University of Agriculture and Technology
ある参加者のティーチング・ポートフォリオは,mahara 上
37
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
4. 第1期の活動振り返り
に構築され,プロジェクト内で公開されている.本研究で
は,電子ティーチング・ポートフォリオによる TP 作成を
遠隔で個々に活動する参加者に対して,活動を振り返る
行い,教育の学問的研究(SoTL)に関わる「教員間の知的
記述式のアンケートならびにインタビューによって情報収
な交流」を促進するツールと位置づけている(図2).
集を行い,(1)プロジェクトの参加動機,(2)プロジェ
クト運営上の問題点,および改善点等について意見を聞い
た.
4.1 プロジェクト参加動機
事前アンケートの参加動機を問う項目への回答として
は,参加者間の交流を通じた授業改善のための情報共有が
あげられた.また,若手の教師を中心に,教授方法につい
てアドバイスがほしいという意見も聞かれた.
A(教師歴 1 年,海外)
現在海外で日本語教師をしていても,相談できる相手がほ
とんどいません.
(中略)このプロジェクトに参加すればい
ろんな方々からのご意見が伺えるだろうしまた自分自身も
図 1
Figure 1
Moodle サイト
改めてまとまった形で考えることができると思った.
The snapshot of Moodle site.
4.2 運営の問題点,改善点
本プロジェクトで日本語教師としての教育活動の意見
交換および,報告を行うことには抵抗感が強かった.一方,
プロジェクトで行った活動の中で,TP 作成が教師としての
実践を振り返る機会となったという意見もあった.
教師 F(教師歴 7 年,国内)
それは,情報をどこまで公開するか,そこで得た情報をお
互いにどう守るかという点です.違う職場にいる方に対し
て,どこまでが公開可能な情報なのか判断がつかず,振り
返りでもどこまで書いていいか迷ってしまいました.
図 2
Figure 2
教師 D(教師歴 6 年,国内)
Mahara サイト
TP の最後に書く短期目標,長期目標を書いたのが影響して
The snapshot of Mahara site.
いるように思います.TP をまとめたこともきっかけとなり,
G フォーラムでの発表を決めました.
3. プロジェクトの活動(第 1 期)
4.3 第 1 期のまとめ
本プロジェクトは,2012 年 4 月から 10 月まで,第1期
アンケートの結果,日本語教師の教育プログラムの内容,
が 13 名(日本語教師 9 名,メンター4 名)で活動し,6 カ
月ごとに新たにメンバーを募集していく運営方法をとった.
参加者は,先の述べた2つのサイト(「語学教師の成長サポ
システム運用方法について検討すべき点として,(1)交流
活動に関心が高いものの,十分な意見交換が行えなかった,
(2)若手教師からの意見表明が難しいこと,
(3)自発的な
ート」,「e ポートフォリオ・かとプロ」)を利用して,6 か
発言を待つだけでなく,強制的な報告なども含めたルール
月間かけて参加者の一人一人が,e ポートフォリオ「かと
作りが必要であること,(4)ティーチング・ポートフォリ
プロ」上に,自分自身のティーチング・ポートフォリオを
オの作成が有意義であったことが明らかになった.この結
作成することを最終課題とした.課題に必要な知識である
果から,交流活動が可能なシステム環境が十分に活用され
「e ポートフォリオ mahara の利用方法」および「ティーチ
なかったこと,また,教員実践を議論するコミュニティが
ング・ポートフォリオ作成」の手順を,学習管理システム
成立しにくく,参加者間の交流活動が不十分であったこと
moodle 上で提供されるコースで学んだ.
38
Maharaオー
が問題点として明らかになった.この結果を踏まえて,第
2期(2012 年 11 月~2013 年 4 月)は,参加者間の交流を
促す工夫をと入りいれて,参加者の興味に応じた多様な活
動を展開することを試みた.
5. プロジェクトの改善(第2期)と今後
第1期は,メンターが主導して,ティーチング・ポート
フォリオを作成する活動であった.そのため,
「教師として
の資質向上」を目指して,moodle 上に様々なコンテンツを
準備し,4 名のメンターが担当する参加者の進捗を確認し
ながら,支援ツール等(mahara)ならびに電子メールを利
用してコミュニケーションをとる方法で活動が進められた.
第2期は,第1期の継続メンバー8 名とメンター4 名に新規
参加者 6 名を加えた 18 名での活動に取り組んだ.第2期は,
最終課題を第1期と同様にティーチング・ポートフォリオ
作成とし,海外で活動する若手教師だけでなく,国内で活
動する中堅教員にも参加を呼び掛けた.また,参加者の興
味に応じたサブグループによる活動を中心にプロジェクト
をすすめた.その結果,8つのサブグループのうち,2つ
で参加者間での自由な討論や意見交換が行われた.今後も,
オンラインでの教師研修を成功させる条件をさらに参加者
を募って検討していきたいと考える.
謝辞
謝辞
本研究は,科学研究費基盤研究(B)
「国内外の日
本語教師の職能開発を支援する電子ティーチング・ポート
フォリオの開発(課題番号:23300296)ならびに挑戦的萌
芽研究「海外からの児童・生徒の受け入れのための接続教
育ネ 3300296)の研究成果の一部である.
参考文献
1) 宇佐美まゆみ:大学の日本語教員養成・研修における課題を含
めた現状,協力者会議資料 2 (H.21.10.05),
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/kondankaitou/nihongo_kyouin/
03/pdf/shiryo_2.pdf(2012.12.17 確認)
2) 遠藤織枝編:日本語教育を学ぶ第二版,三修社.(2011)
3) Kato, Yukari : A virtual collaboration for the professional
development of Japanese language teachers, Asia-Pacific Collaborative
Education Journal, Vol.9, No.1, 2013, pp. 53-61 (2013).
著者紹介
加藤由香里
東京農工大学
大学教育センター
准教授
39
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
放送大学における e ポートフォリオの実践
秋光淳生†1
秦野努†1 三輪眞木子†1 仁科エミ†1
概要:2013 年 4 月から放送大学において開講された基礎科目「遠隔学習のための パソコン活用('13)」は、パソコン
やインターネットを利用して、充実した遠隔学習を行うことができるようになることを目指して作成された科目であ
る。その目的のために、mahara を用いて e ポートフォリオサーバを構築し、受講生が自由に利用できる環境を整備
した。ここでは、その取り組みについて報告する。
Educational practice with e-portfolio system for distance
learners in the Open University of Japan
TOSHIO AKIMITSU†1 TSUTOMU HATANO†1
MAKIKO MIWA†1 EMI NISHINA†1
In the Open University of Japan (OUJ), many lectures are delivered based on TV and radio. For complementing
such lectures, OUJ promote ICT infrastructure such as LMS, streaming and so on. In order to prepare students
to use such system and promote better learning in distance education, we have developed a digital-literacy
training course and we utilize an e-portfolio system for the students based on Mahara. In this paper, we report
the development of the system and the educational practice of this system.
ている。入学後のコース変更も自由であり、学生は、各学
1. はじめに
期、自分のペースに従って履修する科目数を決め、自分の
放送大学は 1983 年に開設された正規の通信制大学であ
興味に従って履修する科目を決定することになる。
る。講義の提供方法には、各都道府県にある学習センター
このように、自分のペースで学ぶことができる点は非常
にて行なわれる対面の面接授業と、BS デジタル放送によ
に便利であるものの、一方で自分の責任のもと、孤独で自
って全国に放送されているテレビ・ラジオによる放送教材
律的に学ぶことになる。
と印刷教材を用いた放送授業の 2 種類の授業がある。放送
放送や郵送を主たる道具としている放送大学でも、多様
大学は教養学部という1つの学部のもとに、生活と福祉、
な学生のニーズに応えるため、近年 ICT を活用した学生サ
心理と教育、社会と産業、人間と文化、情報、自然と環境
ービスを提供している。科目登録や成績などを確認する教
といった 6 つの分野がある。提供している科目区分には、
務情報システム、過去の単位認定試験問題や補助教材とい
基礎科目、共通科目、専門科目、総合科目の 4 種類がある。
った学習参考情報や放送授業のネット配信、講義への質問
こうした科目区分、授業区分、分野などによって定まる条
をするための学生用 Web サイト、本の予約などの図書館の
件のもと、所定の単位を取得することで大学卒業の資格を
サービス、学生全員に提供される Web メール、通信指導問
得ることができる。
題の提出といったサービスが提供され、これらのサービス
現在、開講している放送授業は 300 科目程度あり、学習
は CAS(Central Authentication System)1)を用いてシン
センターごとに違いはあるが、トータルで年間 3,000 に近
グルサインオンで利用することができる。
い面接授業が開講されている。放送授業を担当した教員が
しかし、放送大学の学生には、年齢層の高い学生も多く、
担当し、放送授業と密接に関連した面接授業や、同一のシ
パソコンの操作について学習の機会のなかった学生もいる。
ラバスの元に全国で開講される科目もあるが、基本的に面
そのため、放送大学でも、全国の学習センターでパソコン
接授業は開設する学習センターで企画され、その多くは放
の初学者に向けた面接授業を提供しているが 2)、限られた
送授業と必ずしも対応しない。つまり、学生はシラバスを
人数と日数で講義できる内容には限りがあり、多くの学生
元に自分の判断で受講する放送授業と面接授業を選択する。
に提供するには放送授業のほうが向いている。
つまり、放送大学は開かれた遠隔高等教育機関として、
そこで、2013 年度から開講された基礎科目「遠隔学習の
全国に広がる多くの多様な学生に、幅の広い講義を提供し
ためのパソコン活用('13)」を開講し、その受講生を対象に、
mahara を利用した e ポートフォリオのサービスを提供し
た。この稿は、通学制の大学とは異なる通信制の大学であ
†1 放送大学 教養学部
The Open University of Japan
40
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
るという条件での e ポートフォリオの教育実践を、主に
とができるが、これらのサービスをすべての学生が利用し
mahara の変更点などを中心に述べる。
ているわけではない。すべての学生に対して情報の提供が
2. e ポートフォリオ利用の意義
担保されるのは、通信指導のコメントや郵送による通知と
いうことになるが、軽微な追加情報であれば、すべての受
今回、対象とする「遠隔学習のためのパソコン活用('13)」
講生に個別に郵送する手間を考えると躊躇する気持ちが起
は、本論文の著者である、三輪、秋光が主任講師を務め、
きてしまう。
仁科が分担講師を務めている。この科目はパソコンの初心
者がパソコンやインターネットの利用を通じて、遠隔学習
2.2 評価の困難さ
者としての素養を身につけることを目指した科目である。
今回の科目は遠隔学習を行なう上で必要となるスキルを
その意味では、e ポートフォリオの実践を行なう上で相
身につけることを目指したもので、パソコンやインターネ
応しい科目であった。しかし、通学制の初年次教育とは異
ットを実際に利用することが前提となる。
なる通信制の大学であるがゆえの制約条件もある。ここで
科目としては実践を前提にしたものであるが、その評価
は、放送大学の学習のしくみについて述べ、教育上の課題
は通信指導問題と単位認定試験というテストによって行な
と e ポートフォリオ利用の狙いについて述べる。
われる。単位認定試験は全国の学習センターで同一の時間
に行なわれ、試験の形式は記述式、択一式の 2 種類がある
2.1 放送授業の学習のしくみ
が、この科目は受講生が多くなることが見込まれるため、
放送大学では、放送科目を 1 度作成すると、その科目は
択一式で行なった。そこで実践を通して、どれだけのスキ
通常 4 年間 8 学期間にわたって開講される。開講中に、教
ルの習得したのかを、試験問題を工夫するよって評価する
材に訂正が見つかったり、法律などの改正で変更の必要が
ことになる。
生じたりした場合には、履修学生に対して印刷教材の正誤
ペーパーテストは履修の理解を判断する材料にはなるが、
表を作成したり、放送教材の一部を修正したりすることが
科目の作成者からすると、科目の価値は、単にペーパーテ
あるが、通学制の大学のように学期ごとにカリキュラムを
ストだけで測ることはできないものを含んでいるという思
大幅に変更するということはない。
いもあり、そうした学びの価値を、学生自身が気づくため
放送大学の放送授業を履修した場合、学生は、既に作成
の仕掛けを提供したいと考えた。
済みの印刷教材と放送教材を元に学習を進め、半期に一度
行なわれる通信指導(演習問題)を提出し、その添削(択
2.3 双方向性について
一式の場合には正答と解説)を受ける。通信指導に合格す
放送大学の科目履修は、学生が自由に決めることができ、
ると学期末に行なわれる単位認定試験を受験資格が与えら
その結果、科目履修者は学期ごとに異なり、履修者同士が
れ、その試験に合格することで単位を取得する。
知り合う機会はほとんどない。学生の中には、他の人に自
通信指導について、かつては郵送によってのみ行なわれ
分が履修していることを知られたくないという学生もいる
ていたが、近年では、択一式の科目と記述式の科目の一部
と考えられることから、通学制のように、ある程度のグル
については、LMS(Moodle)を用いて Web で提出できる
ープを作り、強制的に評価し合うように仕向けることは難
ようになっている。さらに科目によっては、Moodle の電
しい。また、学生間のコミュニケーションの場であるフォ
子掲示板の機能を用いて、学生同士の議論の場であるフォ
ーラムを開設しても、何かきっかけがなければ、その場が
ーラムと、教員からのお知らせのフォーラムが開設されて
十分に活用されることは難しいであろう。
いる。
このように、学生は、自分のペースで主体的に自律的に
開講中に、講義に関して疑問のある場合には、学生は郵
学ぶ大変さは認識していても、それを解決するための方法
送による質問票や電子メールによって、講師に質問をする
に恵まれているわけではない。通信指導や単位認定のしく
ことができる。
みを変更するのも一つの方法ではあるが、むしろここでは、
また、放送授業のネット配信も行われ、映像の権利処理
制度はそれほど変更せずに、個人で学ぶ学生が緩やかに協
ができない科目を除き、ほとんどの科目がネット配信され
力しながら、それぞれの学習のペースをサポートする機能
ており、学生は自分の好きな時間に見ることができる。
を提供したいと考えた。
このように、受講生に対しては、柔軟な学習環境が提供
されている。しかし、一方で、教員が開講中に学生に情報
2.4 操作の説明の困難さ
を提供する方法は限られている。
放送大学では、科目を作成するためには、印刷教材を作
開講中に何か情報を追加する場合には、補助教材を掲載
成し、その後放送教材を作成するため、科目の制作は講義
した Web サイトを構築したり、電子掲示板にある「教員か
が開講される数年前に決まっている。科目を作成している
らのお知らせ」を用いたりすることで、情報を発信するこ
段階で、受講する学生の反応をすべて予想することは難し
41
Maharaオー
い。また、開講中に学生の反応を踏まえ、新たな機能を提
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
3.2 閲覧ページの制限とヘルプの作成
e ポートフォリオの利用にあたっては不必要なページを
供したいと思うこともある。
パソコンの不慣れな学生がいることから、動画で操作を
クリックして迷子になることがないように、表示されるボ
説明したいところであるが、同じ映像を 4 年間流れる放送
タンを削った。主な変更点は以下のとおりである。
教材の特徴を考え、基本的な操作を放送授業で紹介するこ
 ダッシュボードは「お知らせ」を表示する。
とにし、放送授業の第 15 回で説明を行った。
 コンテンツでは、
「プロファイル」、
「プロファイル写
それとともに、なるべく操作に迷うことなく使いながら
真」を非表示にする。
 マイポートフォリオでは「共有」と「エクスポート」
徐々に覚えていけるようにする工夫が必要と考えた。その
ためには、事前に仕様を定めるよりはオープンソースで変
を非表示にする。
 グループは「共有ページ」のみを表示し、
「グループ
更が容易なシステムが有効であると考えた。
を探す」などは非表示にする。また、「共有ペー
2.5 講義の設定
ジ」ではデフォルトで「マイインスティチューシ
以上のような制約を考え、この科目においては、郵送で
ョン」にチェックを入れるように改修し、見本と
も Web のどちらで提出することができた通信指導の提出
なるページの一覧で表示されるようにする。
を Web に限定することにし、大学の了解を得た。その際に
 ヘッダーでは「設定」や「メール」画面を省き、代
わりにヘルプ画面を作成した(図 1)。
シラバスには以下のように記述した。
「この授業の通信指導については、郵送を用いず、 問題の
掲載と提出とも Web を用いて行うこととするため、 基本
的なパソコン操作を身につけることが必要となる。
図 1
※この授業を受講する学生は,学習センターまたは自宅の
ヘルプの作成
パソコンを使ってインターネットにアクセスする方法を学
んでおいてください。」
3.3 見本となるページの共有とテンプレートの配信
これによって、通信指導の提出である 6 月上旬までに学
初学者がポートフォリオを全て自分で作成することは難
生は LMS にアクセスすることになるので、そこで、
「教員
しい。そこで、テンプレートを作成し、mahara のテンプ
からのお知らせ」のページにて追加の情報提供を試みた。
レート配信機能を用い配布することにした 3)。その要素と
また、e ポートフォリオの利用については義務にはせず
して
 学習の目標
に、希望者が自由に使えるようにした。
前述の通り、放送大学の多くのサービスは CAS を用い
 チェックリスト
 学習記録
たシングルサインオンで提供されている。そこで、オープ
ンソースである mahara を利用し、認証にあたっては、
 レポートとプレゼンテーションファイル
Mahara の CAS plugins をインストールして利用するこ
を選んだ(図 2)。
ととした。
3. mahara の改造
ここでは、利用するために行った mahara の改造点につ
いて述べる。mahara のバージョンは 1.5.3 を用いた。ま
た、不十分な操作説明を補ううえでアイコンが有効である
と考え、テーマは"primary school"を選び、色を減らし大
人しいテーマへと変更した。
3.1 ユーザの取り扱い
ユーザ認証には CAS モジュールを利用したが、その際、
利用を受講生に限定するため、受講生のデータを 4 月に
CSV で入力した。また、こうしたユーザに対して各学期で
異なるテンプレートを配信する可能性もあるため、学期の
登録者を一つのインスティチューションに属するものとし
た。
図 2
42
テンプレート
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
チェックリストについては、各講義の目標が3つずつあ
設定した。そして、一つでもチェックした人数が全部にチ
るので、それを記入したエクセルファイルを置き、5段階
ェックを入れた状態を受講生の進捗度が 100%であった状
で自己評価する。それをルーブリックとして用いた。この
態と考えて、受講生の習熟度を計算し、グラフを表示する
チェックリストでグラフを作成し、レポート、プレゼンテ
ことにした(図 4)。
ーションファイルを作成すると、講義で扱った事務系ソフ
さらに、習熟度のためのチェックリストについて、エク
トを実際に一通り操作することになる。
セルのファイルをダウンロードして使うだけでは、他の学
パソコンの講義では手順を正しく伝えるよりは、間違っ
生がどれだけ習熟しているのかが分からないので、
た時にどのように対応したらよいのかを伝えることも大切
html5.jp 4) のライブラリであるレーダーチャートを利用
である。そこで、放送授業では教室で講師が電子黒板を使
し、習熟度レーダーチャートのページを作成し、利用者の
い、2 人の学生に講義をするスタイルで収録した。また、
平均を定期的に計算した。
全 15 回の講義では、前半でパソコンやインターネットの
基本的な事柄について学び、後半は、レポートを作成し、
プレゼンテーションをするために、文献の検索や表計算ソ
フト、文書作成ソフト、プレゼンテーションソフトという
流れにした。そして、実際に 2 人の学生にプレゼンテーシ
ョンを行ってもらった。
受講生があるタイミングでレポートを提出するというこ
とは期待できないので、その 2 人の学生が作成した文書と
プレゼンテーションファイルを pdf 形式で共有し閲覧して
もらうことにした。また、この e ポートフォリオの操作の
仕方と利用のねらいをもとにレポートとプレゼンテーショ
ンファイルを公開した。
3.4 ソーシャルグラフ
この科目でも通信指導の LMS 内に学生間の交流の場と
して電子掲示板が開設されているが、匿名での書き込みは
許されておらず、本名で書き込むことになる。お互い知ら
ないもの同士が何も指示がない状態で電子掲示板を活用し
て活発な議論が起こることは考えにくい。また、同様に学
生間の相互評価も行なわないことにしたが、しかし何らか
図 4 進捗リスト
の形で学生同士の繋がりを利用したい。
そこで、他の受講生がどこまで勉強が進んでいるのかを
共有する目的で、学習の進捗を記入してもらい、その平均
4. 実践の結果と課題
を表示するグラフを作成した(図2)。
科目の登録者は 1500 名弱の学生が受講した。最終的に
今回、このサーバを利用するのはこの科目の受講生だけ
途中でドロップアウトする人もいて、最終的に7割の受講
であり、レポートとプレゼンテーションファイルをアップ
生が単位認定試験を受験した。このうち、一度でも e ポー
するにしてもそれほど大きな容量のファイルをアップする
トフォリオを利用した人数は 320 名と少なかった。
学生も少ないと思われることから、利用しているファイル
印刷教材や放送教材をもとに学習をして、単位認定試験
の容量を表す「クォータ」のグラフを改造し、そこに進捗
を受験するという、放送大学が提供してきた一連の学習の
度を表示することにした。
スタイルに比べ、単位に直結するわけではない e ポートフ
ォリオの利用にメリットを感じ、積極的に活用していくた
めには、まだ仕掛け不足していたのかもしれない。今学期
の学生については、今回で利用を終えることなく、今後も
引き続き提供していくことが必要と思われた。
図 3
また、放送授業では第 15 回での紹介になってしまった
ディスククォータの改造
個々の項目としては、各回の印刷教材を「読んだ」、放送
が、講義後に行ったアンケートの自由意見の中には、前半
教材を「観た」、
「復習した」、という全部で 45 個の項目を
部分で説明をして欲しいという意見が複数見られた。操作
43
Maharaオー
方法の説明については、サイト内に動画で説明を加えるな
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
ステムを利用することは有効であった。
どの工夫が必要であると思われる。
また、双方向性の欠如が指摘される遠隔教育機関にあっ
今回作成した進捗グラフによる「学習の進捗」について
て、近年は ICT を活用することで、通学制において行なわ
は、途中から利用を止めてしまった学生もいるため、全体
れている教育と同等の価値を提供するということが可能に
の割合があまり変化しなくなってしまうといった問題もあ
なってきた 5)。こうした状況にあって、受講生の学習記録
った。そこで、項目ごとに平均を計算し、定期的にダッシ
を得られることは学生の傾向など多くの特徴を把握する上
ュボードや、通信指導のフォーラムに掲載した(図 5)。
でとても参考になる。
と同時に、こうしたデータを使うことで、緩やかに学生
間の繋がりを演出できるのではないかと考えられた。学生
同士が知り合いでない通信制においては、むしろそうした
緩やかな繋がりを活用することが特に有効であると考えて
いる。
こうしたことを今後も発展させていくためには、サービ
スの提供者である送り手と情報の提供者となる学生の双方
で、こうしたデータの活用についての共通理解があること
が望ましく、それをどのように作り上げていくのかも今後
の課題である。
参考文献
図 5 進捗の平均
この表によれば、この教材では印刷教材と放送教材が同
じように利用されていることが分かった。また、全体の平
均が上がらない理由の一つとして「復習した」というのを
最後までチェックしない学生も多かったことが考えられる。
電子掲示板の活用において、
「教員からお知らせ」を頻繁
に書き込んだところ、学生からは他の科目に比べ多くの質
問メールが届いた。こうした利用を見ていると、放送授業
のスケジュールと、それにあわせた教員の書き込みは学習
のペースメーカーとして大きな役割を果たしていると思わ
れる。
今回は、利用者がこの科目の受講者のみであることから、
進捗や習熟度を計算するにあたって、"usr" テーブルに列
を増やし、ディスククォータを元に進捗のグラフを作成し
たが、2 学期からの実施にあたっては、前学期の履修者と
新たな履修者という 2 つのグループからなる。そこで、こ
うしたグラフをページ単位で作成するように変更している。
次年度の 1 学期からは、複数科目において実施できるよ
うに、ここで作成したチェックリストと進捗グラフのモジ
ュール化を行なう予定である。
5. おわりに
遠隔教育機関である放送大学における e ポートフォリオ
の教育実践について述べた。e ポートフォリオなど、学習
を支援する新たなシステムを導入する際、そのシステムは
教員の教授活動に影響を与えることがある。今回は放送大
学における初めての試みであり、そのためには多少の試行
錯誤も必要であり、事前にすべての仕様を定めることはで
きなかった。その点では変更が容易なオープンソースのシ
44
1) Jasig, "CAS|Jasig Community"
http://www.jasig.org/cas, (2013 年 8 月最終アクセス)
2) Makiko Miwa et al, "Developing a Community of Practice
for Teaching Digital Literacy", Proc. 26th AAOU Annual
Conference.
3) 久保田真一郎, “Mahara によるポートフォリオテンプレート
を利用した学習” ,日本教育工学会第 28 回全国大会(長崎大学),
2012
4) 羽田野太巳 html5.jp ライブラリ
http://www.html5.jp/library/index.html (2013 年 8 月最終アクセ
ス)
5) 鈴木克明, "遠隔教育者を支える同価値理論と交流距離理論"第
19 回教育メディア学会年次大会(東北学院大学)発表論文集
27-28,2012
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
留学生を対象とした
多文化交流活動型授業における Mahara の利用
宮城徹†1
島崎俊介†2
高橋敦志†2
東京外国語大学留学生日本語教育センターでは,国費学部進学留学生に対し,1 学期に「多文化コミュニケーショ
ン」という授業を開講している.本授業は,多文化を学ぶためにアクティビティや,日本と自国の特徴についての発
表を行う授業である.昨年度までは,学生の発表やアクティビティの課題として紙ベースのポートフォリオやパワー
ポイント等を活用しながら授業を行ってきたが,2013 年度から,Mahara を授業で活用し始めた.
本論文では,留学生に対し,半期における Mahara を活用した授業の実践報告を行い,e ポートフォリオ活用の効果
について考察を行う.具体的には,(1)授業で使用した Mahara のカスタマイズについて,(2)アクティビティと e
ポートフォリオ作成の概要,(3)学生の e ポートフォリオの評価(アセスメント)について報告する.
Mahara for international students: In the case of “Multi Cultural
Communication” class at JLC-TUFS
TORU MIYAGI†1 TOSHIYUKI SHIMAZAKI†2
ATSUSHI TAKAHASHI†2
A Class called “Multi Cultural Communication (MCC)” is held in the first semester at Japanese Language Center for
International students, Tokyo University of Foreign Studies (JLC-TUFS) for international pre-undergraduate students. The main
objective of this class is to provide an opportunity for the students to discover Japanese culture, their own culture, and
classmates’ cultures through various “field works” outside of the campus and discussions with classmates and Japanese students.
Mahara was introduced in order to facilitate their reflection and communication for the first time in 2013.
This paper reports how the activities were conducted with Mahara, and discusses merits and demerits of using e-Portfolio
at a university class for international students. Specifically, (1) customizing of Mahara for JLC-TUFS,(2) outline of the activities
and weekly tasks on Mahara, and (3) assessment of their e-Portfolios are examined for future use.
ポートフォリオの評価(アセスメント)について報告す
1. はじめに
る.
東 京 外 国 語 大 学 留 学 生 日 本 語 教 育 セ ン タ ー (以 下 ,
JLC-TUFS)では,国費学部進学留学生(以下,1 年コー
ス留学生)に対し,1 学期に「多文化コミュニケーショ
2. 多文化コミュニケーションの概要
ン」という授業を開講している.本授業は,多文化を学
2.1 背景
ぶためにアクティビティや,日本と自国の特徴について
当該科目は 1999 年以降毎年実施されてきている.「異
発表を行う授業である.昨年度までは,学生の発表やア
文化」ではなく「多文化」という名称を当初から用いて
クティビティの課題として紙ベースのポートフォリオや
きたのは,1 年コース留学生たちの出身国に広がりがあ
パワーポイント等を活用しながら授業を行ってきたが,
り(1999 年時には 27 か国,2013 年時には 54 名,28 か
2013 年度から,Mahara を授業で活用し始めた.
国),世界で進行する国際化,多言語多文化化を先取りし
本論文では,留学生に対し,半期における Mahara を
たものだったともいえる.当初は,日本語教育などの少
活用した授業の実践報告を行い,e ポートフォリオ活用
人数クラスとは異なり,1 年コース留学生全員の合同授
の効果について考察を行う.具体的には,(1)授業で使
業であったが,2004 年度からは 2 クラス(1 クラス約 25
用した Mahara のカスタマイズについて,(2)アクティ
名程度)を別々の教員が担当するものとなって,現在に
ビティと e ポートフォリオ作成の概要,(3)学生の e
至っている.2 クラスの授業内容はやや異なるが,日本
での日本人との生活や他の留学生との生活への適応や気
付きを促すためのアクティビティや,課題の実施という
†1 東京外国語大学留学生日本語教育センター
Japanese Language Center for International Students, Tokyo University of
Foreign Studies
†2 東京学芸大学
Tokyo Gakugei University
点は共通している.開始当初は,自文化紹介プロジェク
ト(各学生が自分の国の文化の幾つかのトピックについ
て,プレゼンテーションを行う)が授業のほとんどを占
45
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
めていた.しかしインターネットの普及に伴い,単なる
作や問題が起きた際の柔軟な対応を求めるのが困難であ
ネット情報の切り貼り的な発表が増えたこと,安易な「お
るといった問題が生じた.そこで,本年度は,東京学芸
国料理紹介」や「民族衣装のショー」などを通じ,各国
大学森本研究室(以下,森本研究室)にサーバー・ネッ
のステレオタイプ的なイメージを再生産する場になりが
トワークを依頼した.それにより今回は,Mahara (ver.
ちなことなどから,少しずつ授業内容に変更を加えてき
1.6.3)をベースにし,さらに JLC-TUFS 向けのカスタマイ
ている.2007 年度は,各国における環境破壊を中心的課
ズを行ってもらうことが可能となった.カスタマイズ内
題とした[1].2009 年度からは,障がいを持つ人たちとの
容は以下の通りである.
コミュニケーションをトピックに加え,外部の研究者や
障がいのある留学生を招いて,ワークショップを実施し
3.1.プラグイン管理
Mahara は,ページだけでなく日誌の作成など様々な機
た[2].2011 年以降は,東日本大震災の教訓を加え,授業
でも防災や原発の問題を討議のトピックとしてきている.
能を有している.ある程度 Mahara の知識があり,慣れ
ているユーザーは, 操作面で問題なく使いこなすことが
できる.しかし,初めて使うユーザーは Mahara のイン
2.2 前年度までの授業の流れ
授業において,強調されていることは,
「君たち(留学
ターフェースの複雑さや,構造を理解することが困難で
生)は,フィールドワーカーだ」という点である.ここ
あ る と い う 指 摘 も 多 く , 実 際 に Mahara を 利 用 し た
でフィールドとは日本であり,彼らは,その場に一定期
JLC-TUFS 教員の報告でも使いにくいという意見があっ
間留まって身を浸し,感じ,味わい,自らを変化させて
た.そこで,本授業で活用した Mahara のプラグインを
いく.そのためのきっかけづくりとして,様々な教室外
以下のように設定した.
アクティビティが用意されている.
・file/image
フィールドワーカーがフィールドノート(野帳)をつ
・file/filedownload
けるように,本授業では絵を描いたり,写真を撮ったり,
・internal/textbox
レポートを書いたりする作業が多い.これらを前年度ま
以上のプラグインのみを「表示」, それ以外を「非表示」
では,ビニルフォルダーに挟み込んでいくように指導し
に変更した.これより,学生がページを作成する際には,
ていた.しかしこの段階では,単に提出物を整理して保
「テキストボックス」と「イメージ」のみでページの作
存するためだけのフォルダーに過ぎず,それを内省や新
成を行うこととした.実際に,2つのブロックのみで本
たな活動へのきっかけとして使用することはなかった.
授業を行ったが,特に問題はなく,むしろ,学生からは
2011 年後半から,別のプログラムに e ポートフォリオ
シンプルで使いやすいという意見が得られた.また,ダ
を試験導入し[3],留学生教育における e ポートフォリオ
ッシュボードに表示される情報も最小限なので,操作面
の意義と有効性を実感したため,島崎,高橋両名の協力
でつまずくユーザーはほとんどいなかった.
を得て,本授業にも試験導入を図ることとした.
3.2.Mahara 日本語訳を変更
Mahara は,インストールしたのち言語パックを用いる
2.3 今年度の方針
本年度は Mahara を授業で活用することで,留学生の
ことで日本語化を行うが,言語パックの日本語には,わ
多文化理解や,他者からのコメントを受けることで内省
かりにくい表現も見受けられる.そこで,実際に言語パ
を促すことを考えた.その際,特に以下の三点に力点を
ックの日本語を書き換えるカスタマイズを行った.例と
置いて実施した.
しては,
1. Mahara を JLC-TUFS で使い易いようにカスタマイ
・「一般」を「テキストボックス」に変更
ズを行う(3 章).
・「共有」を「ページの共有設定」に変更
2. フィールドワークに関連する e ポートフォリオを
こうしてカスタマイズされた JLC-TUFS Mahara は以下の
作成する(4 章).
ようになった(図1・図2・図3).
3. 学習者をどのように評価(アセスメント)するか
について,検討する(5 章).
3. Mahara のカスタマイズについて
前回の実践[4]では,JLC-TUFS は,外部業者にシステ
ムの管理を依頼していた.しかし外部に委託することで,
図1
Mahara のバージョンアップにも費用がかかることや,操
46
JLC-TUFS
Mahara トップページ
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
述形式は[その日の活動/その日に課された宿題]であ
る.
全体の学期の流れとして,まず初めに e ポートフォリ
オを作成するために Mahara の使い方を説明し,実際に
留学生にページを作ってもらった.そして,各活動が行
われた後には Mahata ページを作成する宿題を課し,次の
授業でそのページを元にディスカッションや評価をし合
った.
各活動では,散策・訪問見学・議論など多岐にわたっ
図2
て実践を行った.例えば野川公園や NAOJ 等の見学・散
ページ作成画面
策では,現地に赴いて 「探索」を行い,日本と母国の文
化的な違いや新しい発見等がある場合は写真に収めた.
また,白糸台小学校や都立狛江高校等の訪問見学では,
歌と和太鼓(小学校),琴の演奏とお点前(高校)を実際
に体験した.更に,原子力に関する議論では,
「日本に原
子力発電は必要か」という観点から,自国の原子力発電
やエネルギー供給方法と比較しながら是非を問う議論が
展開された.これらの活動における学生の「新しい発見」
や母国との比較,主張や感想をまとめ,Mahara ページを
作成した.最後にこの授業のまとめでは,過去に作成さ
図3
れた Mahara ページを用いて一学期間の振り返りを行い,
ページ作成画面
ベストワークを精選(セレクション)して新たに Mahara
ページを作成した.
4. フィールドワークと e ポートフォリオ作成
4.1 今年度の授業計画
このクラスでは,表 1 のように授業計画を立て,実践
を行った.なお,表中の項目である“内容”における記
表1:多文化コミュンケーションクラスにおける1学期間の授業計画
活動名
内容
準備
授業オリエンテーション(e ポートフォリオの説明を含む)
活動①
野川公園散策/Mahara ページを作成
発表・評価
活動①に関する発表・議論・評価
活動②
白糸台小学校訪問/Mahara ページを作成
発表・評価
活動②に関する発表・議論・評価
活動③
日本人学生と原子力発電に関する議論/Mahara ページを作成
活動④
国立天文台(NAOJ)見学/Mahara ページを作成
発表・評価
活動③に関する発表・議論・評価/日本の高校について下調べ
をし,Mahara ページを作成
準備
Mahara ページ(日本の高校下調べ)に関する発表・議論・評価
活動⑤
都立狛江高校訪問/Mahara ページを作成
発表・評価
全 Mahara ページを用いて発表・議論・評価/セレクション
47
Maharaオー
4.2 e ポートフォリオ作成の目的
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
である.しかし②の「数個の観点」が三者で大きく異なっ
この授業では,各活動の後に e ポートフォリオシステム
ていたため,③~④の過程を数回繰り返すことで意見を一
上に成果物を作成し,蓄積した.これらは授業内での使用
致させた.
また,フィールドワークを行った後に Mahara 上で成果
を目的とし,主に以下の内容が期待された.すなわち,
・クラス内での成果物の共有による学び合い
物を作成すると同時に,学生には4段階の自己評価(セル
・成果物に対する自己評価による内省の促し
フアセスメント)を行うように指示した.これは,自身の
・成果物に対する相互評価による他者評価
学習を内省することを目的としたものである.その際に,
・継続的学習の方法・習慣付け・動機付け
以下の観点を提示した.すなわち,
・日本語能力を超えた学習コミュニティの創出
・Communication with Others (他者とのコミュニケーショ
である.特に紙ベースのポートフォリオと比較すると,e
ン)
ポートフォリオシステム上にある学習成果物は,ネットワ
・Observation of Japanese people/culture(日本人・文化の観
ークを介してのアクセスが可能である.そのため,学習を
察)
振り返る機会が増大し,学習の動機付けや習慣付けにつな
・Understanding and interest of your culture(自文化への関
がる.また,コメントやフィードバック等の相互評価が行
心・理解)
い易いため,相互作用が高まったと考えられ,結果として
である.しかし,上記の自己評価を行う学生とそうでない
成果物の作成の改善につながった.
学生がいた.これは授業開始の段階で,いかなる評価を行
また,留学生が日本で何を学び,何を会得したかを知る
うのか,そのために学生による自己評価をどのように行わ
「学習のエヴィデンス」として e ポートフォリオシステム
せるのかについて,筆者間でコンセンサスが得られておら
上に作成・蓄積すれば,日本で学んだ学習内容から学生が
ず,学生への指示も徹底しなかったからである.
習得した言語能力までも確認出来ることが期待される.
6. 今年度の授業における考察
5. 評価(アセスメント)
6.1 カスタマイズについて
今回,多文化コミュニケーションの授業を行う際,学生
今回行ったカスタマイズは,Mahara のプラグイン管理と
のフィールドワーク後のアセスメント(学生の自己評価)
言語パックの言葉を書き換えた程度のものである.カスタ
および Mahara のページをプロダクトとしてどのように評
マイズの目的は,あくまでシンプルで使いやすく,最低限
価するかが大きな課題となった.
の機能を有することなので,特に Mahara のソースを書き
まず,学生がフィールドワークを行って,その後 Mahara
換えてカスタマイズを行ってはいない.しかし例えばプロ
ページを作成する際に自己評価を行うための観点を定め,
ファイルの市町村や住所を記入する箇所はプラグインで管
その観点に基づく自己評価を促したが,学生にうまく自己
理できない箇所だったので,今後はソースを編集して行う
評価の意義や観点を伝えることが難しかった.そのため,
必要があると考えられる.
前章でも述べたが,学生に自己評価を促したものの,実際
には行った学生とそうでない学生がいた.
6.2 評価について
また,最終的に学生が作成した Mahara ページをプロダ
今回の授業実践における評価の扱いに関しては以下のよ
クトとして評価するためのルーブリックを作成した.この
うな課題が示された.
ルーブリックは西岡が Wiggins を参考にして作ったものを
今回の授業形式は,一つのトピックに関して,何度もデ
さらに加筆・修正した方法である[5][6]。その具体的な手続
ィスカッションやページの見せ合いによる内省によって,
きは以下のとおりである.すなわち,
気付きを深めていく形の授業ではなかった.したがって,e
①
課題を実行し,多数の学生の成果物を集める
ポートフォリオ上で,学習者の内省の深まりを意識するこ
②
予め数個の観点を用いて成果物を採点することを
とは難しかった.授業の最終段階で,この授業を通して,
複数人で同意しておく
彼らの日本文化や自文化,他文化に対する見方がどう変わ
それぞれの観点について,一つの成果物を少なくと
ったと思うかについて,書かせても良かったかもしれない.
③
も 3 人(宮城・島崎・高橋)が読み,1~5 点で採点
する
④
⑤
6.3 その他
全部を検討し終わった後で,全員が同じ点数を付け
e ポートフォリオを作成させ,それを評価する際に,注
た成果物を選び出し,それぞれの点数に見られる特
意しなければならないこととして,
「ディスカッションや e
徴を記述する.
ポートフォリオの振り返りを通じて内省し,新たな気付き
意見が分かれた成果物を見直す
を得たとしても,学習者はそれをその時にすぐ自分の e ポ
48
Maharaオー
ートフォリオに記述するとは限らない」ということが挙げ
られる.つまり学習の進展が,必ずしも,本人の e ポート
フォリオ上に現れるとは限らない.つまり,学習のプロセ
スを重視し,それを評価に反映することは理論的には相応
しいことと思われるが,実際には,e ポートフォリオ上の
成果物を通して,その学習のプロセスを判断することは難
しい.
7. 終わりに
留学生教育における e ポートフォリオの活用は,日本で
ははじまったばかりである.そこでは様々な解決すべき問
題も存在する.特に,今回課題となった成績評価のつけ方
は,授業担当者のみならず,外部者(留学生の場合は,出
身国の担当教員など)にとっても,明解で受け入れ可能な
ものでないといけない.今後もより適切な評価方法を工夫
していきたい.一方で,留学生対象の授業での e ポートフ
ォリオ利用には利点もある.留学生の中には,自国でポー
トフォリオを何らかの形で利用した経験のある者も多い.
また,討議を通じて内省を深める授業活動を好む留学生も
多い.その意味でも,e ポートフォリオを活用する授業に
ついては,日本人学生よりも,取り組み易いようである.
今後は,より具体的に,e ポートフォリオによって,留学
生の学びがどのように促進されるのかについて,研究を進
めていきたい.
8. 参考文献
[1]
宮城徹: 1年コース多文化コミュニケーション授業
の再考と新展開-環境問題を題材として-, 東京外
国語大学留学生日本語教育センター論集, 第 34 号,
2008, pp.155-168
[2]
宮城徹: フィールドワークする留学生-「多文化コミ
ュニケーション」授業での試みを通して, 『多言語多
文化-実践と研究』, Vol. 3, 2010, pp. 4-26
[3]
宮城徹: 超短期留学生受け入れ日本語・日本文化プロ
グラムにおける e ポートフォリオの活用-教育モデル
の構築に向けて-, e ポートフォリオ国際セミナー2013
[4]
宮城徹: 超短期留学生受け入れ日本語・日本文化プロ
グラムでの Mahara 利用の試み, Mahara オープンフォ
ーラム 2012 講演論文集, pp.19-20
[5]
Grant Wiggins: EDUCATION ASSESSMENT –Designing
Assessments to Inform and Improve Student Performance-,
Jossey-Bass, 1998, p.177
[6]
西岡加名恵編著: 逆向き設計で確かな学力を保障す
る,明治図書, 2008, pp.25-26
49
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
Maharaオー
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
Mahara を活用した学部教育の取組み
―法政大学国際文化学部の事例報告―
大嶋良明†1,2
佐々木健太†2
田中勇太†1
法政大学国際文化学部は国際社会人の育成をめざし,SA(スタディアブロード)を学部教育の特色のひとつとして
その教育事業を展開している。従来ブログや SNS など ICT を活用して SA での学習成果を可視化する活動を行って
きたが,2012年度にはさらに総合的な学びの可視化を求めてオープンソースの ePortfolio ツール Mahara を導入し,
チュートリアル,演習,情報科目などのいくつかの学部授業において,試験的な利用を始めた。本研究ではその結
果を報告する.
On the Trial of Mahara ePortfolio for Undergraduate Education
-A Departmental Case Study at Hosei UniversityYOSHIAKI OHSHIMA†1,2 KENTA SASAKI†2
YUTA TANAKA†1
In this paper, we report and discuss findings on the use of Mahara ePortfolio for undergraduate education in a few course
categories and class formations, ranging from the freshman tutorial class to the advanced multimedia workshop to the senior
undergraduate seminar. We have found that Mahara serves well for those who are with ICT skill in general but could also be used
for a collaborative group work by novice freshman students if properly assisted.
礎科目として情報リテラシを必修化していることなどが挙
げられる.
このようなプログラムのひとつの問題点は SA の前後で
学生の学びの意識の連続性がともすれば失われてしまうこ
とにある.すなわち SA 渡航前は取りあえずの語学力向上
に心を奪われ3年生以降の自分の将来像や専門性について
具体的に構想する余裕がなく,SA 帰国後はゼミや就職活
動が慌しく始まり,SA も含めたこれまでの学びの成果に
ついて落ち着いて振り返ることなく最終学年に至るケース
が少なくない.このような事態に陥らぬために学びの線を
縦横につなぐ有効な手立てが求められている.
また SA 期間中は教室内での学びにとどまらず在外環境
で生きること全体が広い意味での学びになっている筈であ
るが,そのような学習体験を適切に記録に留め,その成果
を意味づけする有効な仕組みが求められている.
長期の SA プログラムにおいて,これまでの意欲的な試
みとしては,相互扶助型の多言語学習サイト Lang-81への
学生参加や SNS 型のオープンソース CMS である Elgg2の
レンタルサーバ上での試験運用などを通じて SA 先言語の
自学自習と在外環境での生活情報の共有に重きを置いた学
習コミュニティ形成を目指すものなどがあった.
また短期の夏期 SA プログラムにおいては,英語学習の
みならず滞在先での異文化体験や現地取材のフィールドワ
ークをブログとして記録に留めまとめる作業を単位化して
おり,これをオープンソース CMS の WordfPress で運用し
ている.在外環境における個々の学生の学習記録や異文化
体験をリアルタイムに学生同士が共有し指導教員とのやり
とりを通じて成果報告にまとめる作業過程は,近年 Wicks
ら に よ っ て 提 唱 さ れ た bPortfolio 3 の 構 成 法 と 似 て お り
Barrett の考え方に即してブログをワークスペースに固定ペ
ージをショーケースと見做すことができる4.
これらの試みが共に目指したものとは,いずれも適切な
情報共有のプラットフォームを用意することで SA の学習
内容を内外に可視化することであったと言えよう.そこで
1. はじめに
国際社会人の育成をめざし,SA(スタディアブロード)
を学部の教育事業の柱とする法政大学国際文化学部におい
て,われわれは従来ブログや SNS を活用した SA の学習成
果の可視化を目指した活動を行ってきたが,これを発展さ
せて2012年度には ePortfolio ツール Mahara を導入し,チュ
ートリアル,入門科目,演習,情報科目などのいくつかの
学部授業において試験的な利用を始めたのでその結果を報
告する. Mahara は演習やワークショップ科目など少人数
の教室環境では特に使いやすいが,情報実習室でのマルチ
メディア科目や150人規模の教室でのグループワークなど
でも,補助員による適切な支援があればそれなりに効果的
な利用ができることが分かった.
2. 背景
法政大学国際文化学部では2011年頃より ePortfolio ツール
Mahara を試験的に導入しその活用方法についての検討を始
めた.その背景について述べる.
国際文化学部はいわゆるリベラルアーツ型の教育体系を
とっており,入門科目,基幹科目に続く専門科目群は国際
社会,言語文化,表象文化,情報文化と4コースに分かれ
ているため,単一のカリキュラムモデルによる積み上げ型
の教育を目指すことには適していない.
また学部の特色としてはスタディ・アブロード(SA)制度
により学部2年生全員を海外での長期研修(秋セメスタ)
あるいは短期研修(夏休み)に参加させること,さらに基
* †1法政大学国際文化学部国際文化学科
Faculty of Intercultural Communication, Hosei University
†2 法政大学大学院国際文化研究科
Graduate School of Intercultural Communication, Hosei University
50
Maharaオー
考えられるのが学部生全員が取り組める ePortfolio の導入
で あ る が , オ ー プ ン ソ ー スの ソ リ ュ ー シ ョ ン の 中 で は
Mahara が適しており,これまでの成果をさらに発展させう
るもの,相補うものとして期待された.また ePortfolio の
活用は SA の期間のみならず,より長い視野で,すなわち
入学してから卒業するまでのすべての学習活動を支援する
ような使われかたにおいて最も効果が期待される.
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
できた.また通常ならば制作物は Web 領域から HTML ベ
ースで公開するが,Mahara の公開機能も手軽である点は学
生達に歓迎された.
ひとつ問題となったのは学生作品をひとつのページとし
てギャラリー化した時で20~30本の動画を貼り付けたペー
ジはロードにかなりの時間がかかることであった.コンテ
ンツはできれば YouTube などのクラウドサービスを使わず
に配信できることが望ましく,これまで別サーバで運用し
てきた VideoPress5のような配信環境とのリンクが求められ
た.
3. Mahara の導入
以上の検討を経て2011年度にはいくつかの学部ゼミが学
内の学習支援の組織である情報メディア教育研究センター
が運用する Mahara のユーザ利用を開始した.また筆者ら
の研究室でも Mahara を別個に導入し,こちらはより実験
的な環境において管理運用も含めた検討を開始し,2012年
度からの本格利用にむけての準備に入った.以下の各節で
は,その後の約2年間の取組みについて報告する.
4.4 留学生受入科目
学部では留学生を対象とする科目を開講しており他学部
学生も履修可能となっているが,これらのうち筆者のひと
りが担当する科目「ネット社会と日本」において Mahara
を利用してみた.留学生4名と帰国子女を含む日本人10名
の英語による授業において,調べ学習,グループワーク,
期末レポートなどに使用した.
アクセス方法については特に指定をしなかったこともあ
り教室内では iPad,ノート PC,スマートホンなどそれぞ
れの端末から学内の無線 LAN 経由でアクセスした.アカ
ウント整備が学期半ばと遅かったこと,1年生から4年生ま
でを含みスキルにばらつきがあったこと,留学生への学内
ICT 環境への案内が十全でなかったこと等が原因で利用開
始はスムーズではなく,重なるログイン失敗やシステム応
答の鈍さなどが操作面での不満につながったと推測された.
4. 2012年度の取組み
4.1 チュートリアル(予備実験)
学部1年生から Mahara を使用させる現実的な可能性を見
極めるため,筆者のひとりが担当する「チュートリアル」
のクラスにおいて簡単な予備調査を実施した.
まず利用者が自己登録形式でのアカウント作成を検討し
たが,確認メールへの返信など操作性への不満が聞かれた
ため,新規ユーザは CSV ファイルにより一括登録する方法
とした.
少人数の授業運営のなかで学生たちを観察すると,教材
のダウンロードや「友達」機能など基本的な操作について
は概ね抵抗感なくついてこられるものの,全体としての
Mahara は初心者にはまだまだ抽象的なツールとして受け止
められていることが看取された.そこで最初にやるべき事
と簡単なページの構成法だけを数ページのプリントにまと
めたものを作成し配布した.
4.2 新入生アカウントの配布
2012年度より新入生全員に Mahara のアカウントを配布
できる感触を得たため,若干の準備作業を経て春セメスタ
最終回の「情報リテラシ」の授業でアカウント,パスワー
ド配布とログイン確認の作業を実施した.なお予備実験で
の経験を参考に,新規ユーザは CSV ファイルにより一括登
録する方法とした.
50人規模の情報実習室において教育システム LAN に接
続する PC デスクトップからのログイン確認に続き,全体
の機能説明,プロファイル情報の記入,ファイルアップロ
ード,簡単なページ作成など必要最小限の操作を練習した.
これら一連のハンズオンに一コマ分の授業時間を費やすこ
とになるため,あらかじめ授業担当者の了解を得たうえで
実習を行った.
4.3 情報科目
秋セメスタに開講する「メディア情報基礎」において
Mahara を使用してみた.この科目では Elements レベルの
Photoshop や Premiere を実習に用いて PC マルチメディアの
基礎を学習する.ここでの利用はもっぱら制作したディジ
タルイメージや短い映像作品とそれらの制作メモを「ペー
ジ」に構成することであった.「情報リテラシ」が春セメ
スタで終了し,ICT スキルのばらつきが解消に向かうため,
Mahara に対する抵抗感はなく学生は実習に取り組むことが
51
4.5 システムの移行と統合
2012年度末に全学ドメインのサーバに Mahara を新規導
入することとなり,それまで別個の部門サーバ上にあった
2つの Mahara の運用をいったん凍結しアカウント情報およ
びユーザコンテンツを順次移行することでシステムを統合
した.先行ユーザの一部に重複するアカウントがあったの
でこれらは別アカウントとして名前の衝突を回避した.
なおコンテンツの移行に関してはほぼ問題なく移行前の
状態が保存されるが,移行後に一部の関係情報が失われる
ことが予備的な調査により判明した.
5. 2013年度春セメスタの取組み
5.1 新入生アカウントの配布
名簿情報をもとに新入生全員のアカウントを年度初めに
作成し「情報リテラシ」の初回授業において学生に配布し
た.前年度よりアカウント作成時期を早めたことにより,
春セメスタの授業から Mahara を利用できるようにした.
また新システムでは Mahara の各機能について項目ごとに
1~2分程度のチュートリアル動画を用意しログイン画面に
リンクを設置しており,これを参考にするよう案内した.
5.2 入門科目(情報分野)
1年生の必修科目である「国際文化情報学入門」におい
て,学外でピクトグラム収集する演習課題と,それを題材
とするグループワークのプラットフォームとして Mahara
を使用した.具体的には:
•
ピクトグラムを10個収集し「ファイル」に保存
•
情報学の観点から分析し「ページ」を作成
•
各グループ8名で収集物のベスト10を選出
•
提出用の雛形ページをコピー,ベスト10を完成
•
完成したページを「送信」して課題提出
という作業手順を指示した.ICT スキルにかなりのばらつ
Maharaオー
きがあり機器操作には TA の補助が必要であったが,授業
内で貸出ノート PC を学内無線 LAN 環境で接続し,提出ペ
ージの構成作業,プレゼンテーションと講評を実施した.
この科目の一度の受講数は160名程度であり,グループワ
ーク用のノート PC に加えて,スマートホン等を介して多
くの学生が同時に自分の Mahara アカウントに接続してい
ることより,中~大教室における無線 LAN の接続数や
Mahara へのアクセス状況に関して興味深い利用例となった.
5.3 情報系科目
マルチメディア制作のワークショップ科目「マルチメデ
ィア表現法」において Mahara を利用しコンテンツの保存
場所として,また文字通り動画,音楽,静止画,ポスター
原稿,制作メモ,絵コンテなどを収納する学生たちのディ
ジタルポートフォリオとして大いに活用した.2年生以上
の受講生であり操作には抵抗感を示さず,胞芽的ではある
が,みずから使い方を発見する段階に到達しつつあるよう
に見受けられた.また Windows PC や Mac を学内 LAN に
接続した情報セミナー室環境で必要な操作等は相互に教え
合う雰囲気が醸成され Mahara の利用はもっともスムーズ
に展開できた.
一方で学生が提出するディジタルデータのファイルサイ
ズがかなり大きいため,ファイルアップローダの上限値に
十分に余裕を持たせる必要があった.
ンフォーラム2013 講演論論⽂文集
ある.
まず「グループ」についてであるが,Mahara は学習管理
のシステムではないが,大学のような組織では「演習」
「実験」などのグループ名は容易に思いつく.Mahara にお
いてグループ名は共通の名前空間に属するので簡単に衝突
がおこるのではないかと危惧される.グループの管理につ
いても CSV 形式による管理では shortname が指定できると
ころを手作業で作成したグループには shortname が事後に
付与できない点が作業上は不便に感じられる.
つぎに CSV によるグループメンバーの変更についてであ
るが,この機能も大変便利である一方,毎度適用する CSV
データは変更分のみを反映する差分データではなくて完全
なユーザリストでなくてはならず,この点において使用に
は注意を要する.
またグループやインスティチューションの所属メンバー
のリストが取得できないこと,登録 ID による検索ができ
ない点も管理作業上は不便に感じられる.
7. おわりに
ePortfolio ツール Mahara の活用に関する法政大学国際文
化学部でのこれまでの取り組みについて,おもに学部授業
での使用経験を中心に報告した.今後はさらに成熟した利
用法の発見とユーザによる学習コミュニティの内発的な発
展をめざして取り組む予定である.
5.4 演習科目
学部の「演習」においては,研究指導やグループプロジ
ェクトの管理,輪講論文の管理,論文レビューなどさまざ
まな実践的利用を行った.筆者らの研究室は小規模であり
また社会人大学院生も在籍するため,今年度は学部ゼミと
大学院ゼミを連続で週2回集まって勉強する形式をとって
いるが全員が顔をあわせる機会は限られており Mahara の
グループ機能を活用して各自の研究構想を逐次更新し,そ
の結果を共有するような運営方法が適しているようである.
一方,普段のコミュニケーションはもっぱら Facebook の
ようなソーシャルメディアに大きく依存して,Mahara 内部
のメッセージングなどの利用率はいまひとつである.また
コンテンツについては,これまでに Google Apps やオープ
ンソースの CMS など,さまざまなプラットフォームに研
究室活動の成果物が散在している.Mahara を中心とする研
究室の仕組みづくりは始まったばかりであり,その教育上
の長所や恩恵について考察する段階には至っていない.
5.5 その他の取組み
「チュートリアル」において科目内容の理解度を自己評
価させるルーブリック・テンプレートを作成しユーザに提
供した.例年これを紙ベースのアンケートとして学期末に
提出させ学部にて集計してきたが,これを学生が手元にお
いて参照可能な電子化データとすることが実現した.まだ
集計機能が用意されていないため大規模な実施には至らな
かったが,ルーブリック機能の活用に向けてひとつ足がか
りができたものと期待される.
6. 若干の留意点
最後に考察にかえて,初めての Mahara ユーザとして,ま
た管理者として気がついた点を述べたい.筆者らは Mahara
の使用経験は浅く,理解不足に発する誤り,すでに解決済
み問題,そもそもの設計思想に反する要望があるかもしれ
ない.その点はどうかご教示を賜りたくお願いする次第で
52
謝辞 本プロジェクトは平成24年度文部科学省グローバ
ル人材育成推進事業タイプ B(特色型)の助成を受けた.こ
こに謹んで感謝の意を表する.
参考文献
1) http://lang-8.com/
2) http://elgg.org/
3) Wicks, D. et. al, :bPortfolios: Blogging for Reflective Practice, from
http://sloanconsortium.org/effective_practices/bportfolios-bloggingreflective-practice
4) Barrett, Helen C.,: Balancing the Two Faces of E-Portfolios,
Innovations in Education, Vol.2, pp.291-307, Open School BC, 2nd
Edition (2011)
5) http://videopress.com/
1 http://lang-8.com/
2 http://elgg.org/
3 Wicks, D. et. al, :bPortfolios: Blogging for Reflective Practice, from
http://sloanconsortium.org/effective_practices/bportfolios-bloggingreflective-practice
4 Barrett, Helen C.,: Balancing the Two Faces of E-Portfolios,
Innovations in Education, Vol.2, pp.291-307, Open School BC, 2nd
Edition (2011)
5 http://videopress.com/
MOF2013 運営委員会
委
委
員
長
員
森
遠
大
篭
田
平
宮
山
本 康 彦
藤 大 二
澤 真 也
谷 隆 弘
中 洋 一
塚紘一郎
崎
誠
川
修
(東京学芸大学)
(酪農学園大学)
(広島修道大学)
(仁愛大学)
(仁愛女子短期大学)
(仁愛女子短期大学)
(法政大学)
(福井県立大学)
Mahara オープンフォーラム 2013 講演論文集
発
行
日
2013 年 9 月 9 日
Rev.1.2