平成24年度版

スポーツ・武道実践科学系
た
ぐち
のぶ
たか
氏 名
田
口 信 教 教授
主な研究テーマ
□水泳に関する研究 □競技力向上の為の指導方法考察
□水中運動の指導方法やその用具の研究開発
□水泳指導の流れの研究
平成24年度の研究内容とその成果
あり、完成されたものではなく、ましてや
水泳は、人が生活して行く上で必要不可
完璧である訳がありません。それらの前提
欠な技術として発達し、工夫と改善によっ
に立って解析が行なわれるため、改善や改
て泳ぐ速度は目覚ましい進化を遂げていま
良が進み、新しい技の進化につながります。
す。イギリスとフランスの間に横たわる
泳ぐ技術は、単純な動作の繰り返しのよう
ドーバー海峡(約34㎞)を1875年に初めて
に見えますが、人それぞれ筆跡が異なるよ
横断した記録は、21時間45分でした。命が
うに、各自の体形や体質などの素質と独特
けと言われたこの横断記録は、2007年には
な工夫が複雑に絡み合い、微妙な違いが技
6時間57分50秒にまで短縮され、連続3回
に現れます。水の抵抗を小さくするため
も横断する人まで現れています。第1回ア
に、無駄な部分をそぎ落し、極限まで減量
テネ五輪(1896年)の、100m自由形競技
によって体積と軽量化を図った選手や、よ
の優勝記録は1分22秒2であったが、現在
り多くの水をつかむために肩関節や足首の
では、46秒91と半分まで短縮されています。
柔軟性を高めて可動範囲を広げ、足ヒレの
ではなぜ、100年足らずの間に、そんなに
ごとく撓らせた選手。さらに、水着の改良
速く泳げるようになったのでしょうか。ス
による進化も大きく貢献しています。裸で
ポーツの技には特許や著作権もなく、カン
泳ぐ方が速く泳げた時代から、魚のように
ニングがし放題であり、ルール違反にもな
整流構造の流線型にする水着の時代に入り
りません。実際に技術を修得しようと“ま
ました。伸縮性の異なる各種繊維生地材料
ねてみる”と、
“なぜ”、このような動作を、
の違いを組み合わせ、撥水性にも優れ、縫
この時点、この場所で行うのかを不思議に
い目を無くし、締め付け力を高め、体の筋
思い、必要性を考えさせられます。泳ぎの
肉の凹凸を減らし、流体抵抗を軽減させた
技を盗む側は、動作の有用性や必要性を見
画期的な効果を持つ水着です。しかし、世
つけ、理解すると同時にムダな動きも見つ
界新記録が次々と更新されましたが、水着
けることになります。人が考え出した技で
を着用するのに30分以上もかかり、1人で
は着ることが難しく、一瞬も早く脱ぎたい
み、入水した瞬間の水中真横と水中真下か
と思うほどの締め付け過ぎるため、血液の
ら撮影した写真ですが、写真の違いは、水
循環不全で事故が起こる可能性も指摘され
泳用ゴーグルのアイカップ内に水が入らな
るなど、改良の余地があるとされ競技大会
での使用は、現在認められなくなりました
が、流体抵抗を軽減させる効果があること
に変わりはなく、裸で泳ぐより、水着を着
た方が速く泳げる時代に入ったことは確か
です。
先駆者の工夫と改善のお陰で、今では昔
の世界記録を小学生や中学生が簡単に上回
ることができるようになりました。目覚ま
しい記録更新の要因となった智恵は沢山出
写真2 水中真下
されてきましたが、イルカは50mを3秒で
泳ぐのに対して、人間は20秒91とあまりに
も遅く、まだまだ改善や改良の余地が沢山
あるように思います。
「研究内容」
人が速く泳ぐための動作の中に、まだま
だ数多くの改善点を見つけることが出来ま
す。
これらの写真はスタート台から飛び込
写真1 アイカップ内に水が入らない。
写真3 アイカップ内に水が入った。
写真4 水中真下
い飛び込みと、水が入る飛び込み姿勢のも
私の研究は、人類が速く泳ぐ為の改善や
のです。写真1と2は、ゴーグルのアイカッ
改良を如何に行ってきたのかを歴史的に解
プ内に水が入らないように顎を引き、頭部
明し、競技者側からの視点で問題点や改善
を両腕の間から出だして頭部で流体抵抗を
点などの提案を行うことで、より効果の高
受けるように飛び込みをおこなっていま
い物は何かなどを検証する研究なども行っ
す。写真3と4は、顎を引く動作を行わず、
ております。
両腕の間に頭部を挟み、頭部が流体抵抗を
受けにくくしたことで、ゴーグルが流体抵
抗を受け、アイカップ内に水が入ったもの
です。このように水泳用ゴーグルを着用す
ることで、大きな流体抵抗が発生している
ことがお分かり頂けたことと思います。
水泳を習い始めた初心者の多くが顔面に
流水抵抗が受けるように飛び込み、ゴーグ
ルのアイカップ内に水が入って視界を妨
げ、泳ぎに集中できないなどの嫌な思いを
します。しかし、直ぐに顎を引くテクニッ
クを身につけ、アイカップ内に水が入らな
くなりますが、頭部を前に出すため、飛び
込みスピードにブレーキをかける姿勢とな
ります。現在、スタート台が新しく変っ
たことで飛び込みスピードが格段に速く
なっています。以前のスタート台では、5
mラインまでの到達時間が1秒30であった
速度が、現在、5mの到達時間が1秒20を
切る選手が現れ、到達スピードが10%も速
くなっています。入水角度45度、秒速/5
mの入水スピードにブレーキを極力少なく
した姿勢での飛び込めるゴーグルが求めら
れ、現在、各製造企業で改善や改良が行な
われています。選手が着用している水着や
スイムキャップ、ゴーグルなども進化し、
記録更新はまだまだ続くものと考えます。