バンジャマン・ミルピエパリ・オペラ座バレエの新監督が

バンジャマン・ミルピエ
バンジャマン・ミルピエ Photo: Julien Benhamou
パリ・オペラ座バレエの新
監督が任命されました。
記者会見の様子を、フラ
ンソワ・ファーグのリポート
でお伝えします。
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DANCE EUROPE
March 2013
二十年近くにわたってパリ・オペラ座の舞
踊監督を精力的に務めたブリジット・ルフェ
ーヴルの退任の日が近づいている。2014年
10月15日、現オペラ座総裁のニコラ・ジョエ
ルが「世界最高のカンパニー」と言い切った
このバレエ団の、トップが交代する。さまざ
まな憶測が飛び交うなか、1月23日、予定さ
れた記者会見での公式発表の前日にいく
つかの新聞がミルピエの名前をすっぱ抜く
と、空気はさらに加熱した。有力候補と目さ
れていたなかには、エトワールのニコラ・ル・
リッシュ(2014年に定年)、現ウィーン国立バ
レエ監督のマニュエル・ルグリ、オペラ座の
バレエ・マスター兼舞踊監督補のローラン・
イレール、同バレエ学校校長のエリザベッ
ト・プラテル、さらにはシルヴィ・ギエムがい
た。次期総裁に決定しているステファン・リス
ナーは外部からの登用を望んでいるとも囁
かれていたが、ジョエルが断言したとおり、
最終決定は総裁(今回の場合は、新旧ふた
り)の権限で下された。九名が審査対象とな
り、その全員と面談を行った末に選ばれた
のが、アメリカ在住のフランス人、バンジャマ
ン・ミルピエだったのだ。多くの人には驚き
だったが、ジョエルは「君はひとりではない、
ここに友人がいる」と歓迎の意を示したとい
う。ジョエルはミルピエが妻(『ブラック・スワ
ン』の主演女優ナタリー・ポートマン)と息子
アレフと共にパリに永住する予定であること
にも触れ、ジェラール・ドパルデューら著名
人が高率課税を嫌って次々とフランス国籍
を捨てている最近の風潮を暗に批判した。
ミルピエがパリ・オペラ座に何をもたらす
ことになるのかは、未知数だ。完璧な仕立て
の黒いスーツと糊の効いた白いシャツに身
を包み、トム・フォード風の髭を生やし、有名
セレブの妻を持つこの美男は、見るからにス
タイリッシュな印象を与える。彼が2006年に
パリ・オペラ座に『アモヴェオ』(音楽はフィリ
ップ・グラスの『浜辺のアインシュタイン』の抜
粋)を振り付けた際にも、マーク・ジェイコブ
ズの高級感のあるスーツで決め、キャストと
共に舞台に立つ彼の姿は、やや決め過ぎで
軽薄なところがあったにしても、印象的だっ
た。だが彼はダンサーの意を汲める人物で
あり、ブリジット・ルフェーヴルの革新の精神
や、フォーサイスやトリシャ・ブラウンの現代
風のプログラムを連日完売するオペラ座とい
うカンパニーへの敬意以上に、バレエそのも
のへの情熱が表に出る受け答えだった。
これまでのところ、旧態依然とした進級コ
ンクールの改革や、新指導部の候補者、レ
パートリーの大がかりな変更等については
何も示されていない。ジョエルは、ミルピエと
の面談の際、何はさておきヌレエフの遺産に
ついての評価を尋ねたところ、打てば響くよ
うに敬愛しているとの答えが返ってきたと語
る。彼とリスナーはまた、ミルピエの音楽への
関心と知識も決め手のひとつだったとし、リス
ナーは音楽、オペラ、バレエのより緊密なコ
ラボレーションの可能性にも言及している。
ミルピエは権威ある地位に任命されて感
激の面持ちだったが、怖気づいているように
は見えなかった。「オペラ座の舞踊監督は、
昔から夢見ていましたが、任命は予想もしな
かった。でも徐々に実感が伴ってきていま
す。」いまだ多くを語らず、カンパニーに慣れ
るためにもなるべく長い時間をスタジオで過
ごしたいというが、いくつかのアイディアや企
画を温めているに違いない。すでに公表さ
れているものとしては、団内のダンサーのた
めの振付ワークショップの開催や、フランス
国内ツアーの強化がある。
一方ルフェーヴルは、在任期間中を通し
て幸福であり、請われてこれほど長くこの任
にあり続けられたことをうれしく思うと笑顔で
述べつつ、もっと留任してもよかったかもしれ
ないと本音も漏らした。実際、彼女の仕事は
今後もしばらくバレエ団に影響を残すことに
なるだろう。来シーズンの『ダフニスとクロエ』
をミルピエに委託したのも、ルフェーヴルだ
ったのだ。「でもそれが済んだら、芸術監督
としての私の総括は、ここにいるジャーナリス
トのみなさんにお任せしましょう。私は自分の
ために時間を使うことにするわ。」自伝の執
筆にかかるのだろうか?それもいずれ明らか
になるに違いない。
ともあれ、新監督ミルピエを歓迎したい。
足が千本もあれば(フランス語で、milleは
千、piedは足)、最高の結果へと駆け上がる
のもたやすいことだろう。(訳:長野由紀)