車載マルチメディア機器のEMC対策と最適化

CST S U C C E S S S T O R Y
車載マルチメディア機器の EMC 対策と最適化
Continental Automotive GmbH
自動車の電子化が急速に進み、EMC
対策が喫緊の課題となっています。
他の製造業と同様にコストとパフォ
ーマンスの両面からの要求に絶えず
迫られる車載機器メーカーにとって、
所定の予算内で EMC 基準を達成す
ることは必須事項です。
Continental は高級な車載マルチメデ
ィア機器を OEM 供給するグローバ
ル企業です。カーオーディオとマル
チメディア機器を新規設計するにあ
たり、最新の電磁界シミュレーショ
ン技術を導入し、顧客からの信頼に
応える品質の維持を図りました。
図 1 信頼性を高める努力が製品を支えます。
カーオーディオの設計ではすでに EDA ソフトウェアによるプリント基板のシミュレーションを導入し、ボ
ードレベルで電磁干渉を最小化する手法を確立していました。3 次元シミュレーション技術の導入は新しい
試みです。システムレベルのシミュレーションと筐体の最適化により設計品質が一段と向上することに期待
がかかりました。
Continental はこれまでにもアンテナや PCB の設計に CST ソフトウェアを使用していました。そのときに培
われた CST への信頼が今回のマルチメディア機器の開発、より詳しくはアンテナと筐体の EMC/EMI 設計
に CST 製品を採用する理由のひとつとなりました。
Continental について
Continental は欧州の純正装着品シェア一位、2011 年の売上高は 350 億ユーロにのぼる世界屈指の自動車部品メーカー
です。タイヤやブレーキシステムをはじめとするビークルダイナミックコントロールとエレクトロニックシステム、
センサーシステムのグローバルサプライヤーとして 46 カ国に事業所を展開し、169,000 人の従業員が運転の安全性確
保と環境保護に従事しています。
www.conti-online.com/
www.aetjapan.com
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新しいアプローチ
自動車システムの電磁的相互作用は、システム内部
 コンポーネントの配置やルーティング、ある
ばかりでなく自動車とシステムの間においてもさま
いはレイヤスタッキングの工夫によりシール
ざまなレベルで生じます(図 2 参照)
。プリント基板
ディングを回避できるか。
解析ツールのみを使用する従来の設計法は、筐体の
 筐体のスロットはいくつまで開けられるか。
影響を無視してボードレベルの干渉のみを考慮し、
したがって筐体とボードまたは筐体とシステムコン
バーチャルプロトタイピングは新技術の導入リスク
ポーネントの相互作用を考慮しません。Continental
を低減するばかりでなく高度な EMC / EMI 特性の
の設計者は、製品の EMC 特性を決定付ける根本的
制御を製品設計において可能とし、それによって
な設計課題を見極めた上で、それに基づいて設計パ
EMC/EMI 設計に対する信頼性を高めます。さらに、
ラメータを定義することにより EMC 特性を制御で
工程の途中でも中間結果が得られることから、技術
きないかと考えました。
者は初期の段階から確信を持って設計に臨むことが
できます。
製品設計はハードウェアとソフトウェアの両方の開
発とシステム統合が絡む複雑な工程です。それに加
EMC
えてさらに国別特性や地域特性を考慮し、あるいは
OEM 供給先の顧客企業が使用する多様な車種の製
EMI
造ラインに対応する必要性を考慮して、ひとつの製
品についていくつかのバリエーション開発が行われ
るのが普通です。ハードウェアの開発段階では電気
工学と機械工学に関連するタスクが鍵となります。
次に多数のプロトタイプの作製とテストを経てよう
EMI
やく最終的な製造工程に入ります。この設計工程で
発生する繰り返しを可能な限り減らし、開発コスト
を管理することがソフトウェア導入の目的です。
図 2 車載マルチメディア機器の EMC/EMI 相互作用
EMC シミュレーションの目的は、プロトタイプを作
成する前にバーチャルプロトタイピングで機能特性
Probe を検証し、それによってハードウェア的な繰り返し
Magnitude in を抑制することにあります。バーチャルプロトタイ
ピングではさまざまな実装オプションの比較も容易
 最も低コストのコンポーネントで要求水準を
E‐Farfield, です。たとえば下記の what-if 評価が行えます:
Housing + PCB PCB only E‐Field(Farfield)(y;23000)[1] E‐Field(Farfield)(y;23000)[1] 満たすことは可能か。
 部品内部における結合パスはどれか。
 シールディングは必要か。必要な場合はどの
ように設定するか。
Radiation source on PCB Frequency/GH
図 3 PCB からの放射電界強度(3m 遠方界)。筐体無し(赤)
と有り(緑)。
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並行シミュレーション
2.5 次元のボードレベルシミュレーションと 3 次元
筐体有り
のシステムレベルシミュレーションを並行して進め
ることで、多様なゴールの策定が可能となります。
また、ふたつのシミュレーションによる相乗効果も
期待できます。
PCB シミュレーションのゴールとして次のような事
柄が考えられます:信号と電力の信頼性確保、結合
の確認、回路からの放射の低減、インピーダンスを
制御した PCB レイアウトの特性検証、信号経路とド
ライバープロパティの最適化、周波数の変化が PCB
に与える影響の最適化。これらをシミュレーション
し結果値として S パラメータ、電圧と電流、電界強
度、結合係数、放射レベルなどが求められます。
一方、3 次元シミュレーションのゴールとして次の
ような事柄が考えられます:全体的な EMC 特性の
筐体無し
最適化、バリエーション設計における派生機種の比
較と最適化、パラメータ対コスト、あるいはパラメ
ータ対パフォーマンスのトレードオフ。電磁干渉の
影響下でも目的の性能が得られることの確認も 3 次
元シミュレーションの目的です。メカ ASSY と信号
の特性も考慮するシミュレーションにより筐体の共
振や結合のパス、電磁界分布、放射パラメータ、表
面電流などが得られます。
図 4 は、3 次元シミュレーションで求めたシンプル
な PCB の電界分布と表面電流を、筐体有りと無しの
場合に分けて示します。
図 4 1.65GHz の共振周波数における電磁界分布
 シミュレーションツールに PCB を読み込み
 結合と放射に関する情報を取得
 ボードレベルモデルの作成
 インピーダンスと共振特性の理解
 SI/PI シミュレーションの実行
 構造と信号の定義
 3 次元電磁界シミュレーションの実行
 S パラメータ、電磁界分布、表面電流の取得
 インピーダンスと共振特性の理解(システムレベル)
 3 次元構造モデルの作成
 シミュレーション用にモデルを簡略化
 モデルに信号を入射
 遠方界特性/EMC 特性の調査
 コンプライアンスの確認
図 5 EMC 検証フロー
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EMC 検証フロー
EMC 検証プロセスのフローダイアグラムを図 5(前
ページ)に示します。ここにはありませんが、CST
ソフトウェアにインポートした構造データを簡略化
し、簡略モデルでシミュレーションを行うことも可
能です。ただし構造を簡略化した場合も、電気的な
接続と材質は、たとえば酸化物層なども含めて正確
図 6 カーオーディオモデルのセットアップ
にモデリングする必要があります。
シミュレーションの結果を真に役立たせるためには、
目的に応じたテストベンチの設定が欠かせません。
また、結果を適切に解釈し、電気的設計と構造設計
のチームにそれぞれフィードバックすることもシス
テムの最適化のために必要です。モデルの品質とい
う点では、測定からのフィードバックも重要です(図
6、7 参照)
。
まとめ
CST ソフトウェアを使用した EMC 設計では、シミ
ュレーションによって各種パラメータの意味や関連
性が明らかになります。これにはさまざまな効能が
あります。たとえば、バーチャルプロトタイピング
においては、繰り返しのループ回数が減少し、開発
期間を短縮するとともに NRE コストを削減できま
図 7 電界強度。シミュレーション結果(上)と測定値
す。また、シールディングやフィルタといったノイ
ズ対策部品無しで要求水準が満たされることがシミ
ュレーションで確認できれば、部品表の項目を削減
することができ、また PCB における領域の節約にも
つながります。EMC を開発工程における設計パラメ
ータのひとつと捉えることで、最先端のアーキテク
チャの導入が可能となり、技術革新とともにコスト
削減と品質向上を進めることができます。
顧客に対し早い段階で EMC メカニズムを説明する
ことは、設計サイクル全体への信頼を得るのに有効
な方策です。Continental もこれを実践し、EMC パフ
ォーマンスに関する貴重なフィードバックをエンド
ユーザーから得ています。
執筆者
Ralf Kakerow
Head of EMC & ECAD
Interior – Infotainment and Connectivity
Continental Automotive Gmbh, Wetzlar, Germany
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