ヴァイオリンの機嫌もうかがいつつ…… 私が使用している楽器は︑イタリ ア・パルマで作られたグァダニーニ で あ る︒ も う こ の 楽 器 と 関 わ り を 持って 年が過ぎた︒これ程の年月 を共に過ごすと︑私の分身というよ りもむしろ体の一部のようになって おり︑一緒にいないとどこか落ち着 かない︒外で食事をする際にも︑ま ず楽器をどこにどの様に置くかを決 めてから自分の席を決める︒そして︑ 食事中にも時おり楽器に触れるなど して︑その存在を確かめている︒大 半の楽器がそうであるように︑ヴァ イオリン も ま た︑ 温 度 や 湿 度 の 変 化に敏感である︒そして︑この年齢 ︵ 2 4 0 歳 ︶と も な る と︑ あ ち ら こ ちらに痛んでいる箇所が出てくるの も無理からぬことであろう︒しかし それは言い換えれば︑それだけ多く の経験を経てきたということであり︑ 楽器から教えられることは限りない︒ さらに︑人間同様その日によって機 嫌の良い日悪い日もある︒機嫌の良 い 日 は︑ 何 を や っ て も う ま く い く︒ しかし︑機嫌のあまり良くない日は なかなか望んだとおりの音を出して くれない時もある︒ただし︑こちら もさすがにこれだけ長く弾き続けて いるので︑その対処の仕方はいささ かなりとも心得ているつもりだ︒時 には︑相棒の機嫌をとり︑時には少 し距離をおくなどして︑その機嫌が 良くなるのを辛抱強く待つのである︒ そして︑このところもう一つ気付い たことは︑どうやら先方もこちらの 様子を窺っているのである︒私の調 子が良い日はまさに自由自在︑あた かも自分自身の手足のように働いて くれる︒そして︑こちらが思った以 上の表現をしてくれることさえあ る︒しかし︑調子の出ない日にはそ うはいかない︒まるで口を閉ざして 山口研生 (ピアノ) 玉木宏樹編曲:サクラ変奏曲、エルンスト:夏の名残り のバラ、モーツァルト:ヴァイオリンソナタ、ベートーヴェ ン:ヴァイオリンソナタ第9番作品47 「クロイツェル」 、グ ノー:アヴェ・マリア、ワックスマン:カルメン幻想曲 他 S 席:5, 500円/ A 席:4, 500円 《問》せきれい社 03- 5414- 5914 ( 土日祝休) 愛器グァダニーニとの関係 れば私よりも200年以上長く生き︑ その間様々な経験を積んでいるので︑ こちらが教わる立場というのも当然 かもしれない︒かつて︑私の恩師江 藤 俊 哉 先 生 は﹁ 音 楽 は 音︑ 音 は 心 ﹂ と言われた︒言い換えれば︑心は音 であり︑音は音楽である︑というこ とか︒しかし︑この短い一言の意味 は大変に深い︒そして︑現在私は同 じ言葉を私のヴァイオリン︑グァダ ニーニから言われているように感じ る︒心を磨くこと︑ひいては︑音さ らに音楽を磨くこととなる︒今日も︑ そのいつ辿り着けるともしれない境 地を目指して弾き続けている︒ 2010年3月27日 (土)13:30開演 紀尾井ホール 17 しまった貝の如く黙りこくってしま う︒そうなると︑たちまちこちらが 落ち着かなくなってくる︒何とかし て自分と会話をしてもらいたい︒そ のための試行錯誤が始まる︒そして︑ その努力が功を奏すると︑またもと の良好な関係に戻るのである︒私の これまでの経験では︑楽器あるいは 私 の 調 子 が あ ま り 良 く な い 時 ほ ど︑ ヴァイオリンから教えられることが 多いように思う︒私がこのヴァイオ リンを知っている以上に︑先方は私 のことを知っている︒そして︑その 時 必 要 と あ ら ば︑ 的 確 な アドバイ スをしてくれるのである︒考えてみ 国際ロータリーチャリティーコンサート 1971年生まれ。8歳で視覚障害となり10歳でヴァイオリンを始める。94年桐朋学園大学 を卒業後、英国王立音楽院に留学。97年には四半世紀に一度開催される同音楽院175周 年記念コンサートでソリストに抜擢、スペシャル・アーティスト・ステイタスの称号を授与 され同年首席で卒業。98年には東京サントリーホールにおいて小林研一郎指揮、日本フィ ルと共演でデビュー。その後はソリストとして国内外で精力的に活動 川畠成道オフィシャルサイト http://www.kawabatanarimichi.jp/ なりみち かわばた 102
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