1.コーディネーターの意義・役割について

1.コーディネーターの意義・役割について
(1) コーディ ネートの意 義
人 は 、 他 者 や 社 会 、 そ し て す べ ての生命を育む自然とのかかわりの中に生きている。その
かかわ りの中で 、自らが生 きるこ との 意味を 発見 したり 、生 きる力 を培ってい く。
私 た ち の 社 会 は 、 そ の か か わ り がより良いものであることを願いつつ、青少年の成長を促
進する ための体 験の機会や 場など の環 境を耕 し、 創り、 育て ていか なくてはな らない。
青 少 年 の 体 験 活 動 は 、 人 と の 触 れ合いや自然と触れ合う「触れ合い交流体験型」のものか
ら 、 さ ら に は 一 歩 踏 み 込 ん だ 、 学 習目標を持ち計画的に企画された「ボランティア体験型」
の活動 まで、多 種多様であ る。
振 り 返 れ ば 、 私 た ち の 社 会 は 、 青少年に多様な体験活動やボランティア活動の機会を創出
す る 社 会 シ ス テ ム を 持 っ て い た 。 いわゆる「血縁社会」は、親子・兄弟・親戚縁者の絆をも
と に 、 青 少 年 に 多 様 な 生 活 の 知 恵 や経験の蓄積を伝え、血縁同士の相互扶助の中で、助け合
い 学 び 合 う こ と の 大 切 さ を 伝 え 教 えてきた。また、近隣の地域社会になくてはならない相互
扶 助 組 織 で あ る 「 地 縁 社 会 」 は 、 他者とともに生きるための方法やルールを青少年に身に付
け さ せ る 生 き た 教 室 だ 。 ま た 、 そ こは多様な世代や職業とが出会う場であり、自分を育んで
く れ る ふ る さ と へ の 愛 着 を 深 め 、 さらには人と人とが助けあって生きることの大切さを、体
験 を 通 し て 学 ぶ チ ャ ン ス で も あ る 。さらに、そうした伝統的な相互扶助の文化を育んできた
地域社 会には、 人と人、人 と社会 との 縁を結 ぶ人 々がい たの だった 。
そ の 「 縁 を 結 ぶ 人 」 は 、 何 も 特 別な人ではない。近隣の人々と親しみ、地域の文化と伝統
を愛し 、助けあ って生きる ことの 大切 さを心 に抱 く人々 であ る。
現 代 社 会 は 、 そ の 著 し い 社 会 変 動によって、そうした「縁を結ぶ」機能を低下させてきた
と い っ て よ い 。 家 庭 は 、 核 家 族 化 により小さな単位となり、親子の縁を結ぶ役割を果たして
き た 祖 父 母 の 同 居 も 不 可 能 な 家 庭 も多い。また、都市においては親戚縁者と遠く離れて暮ら
す 家 族 も 多 く 、 子 育 て の 孤 立 化 も 進む。地域社会におけるコミュニティの崩壊は、ますます
「子育 て縁」の 希薄化も生 んでい る。
人 は 、 常 に 他 の 人 か ら 必 要 と さ れ、家族・組織・社会の役に立つ存在として認められては
じ め て 、 自 分 が 生 き る こ と の 意 味 を確認できるといえる。そのために、私たちは人との出会
い を 求 め 、 さ ら に は そ の 出 会 い の 中で、他者や社会から「必要とされる」存在として認めら
れる出 会いを求 めて生きて いるの であ る。
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 は 、 人 と 人 、 人と社会、人と自然の交わりの中に生まれる。青少年が人
と し て 成 長 し て い く に は 「 必 要 と される」経験の蓄積なしに育つことはできないのである。
し か し 、 そ れ は 必 ず し も 自 然 発 生 的に生まれてくるのではない。その「縁を結ぶ人」が必要
な の だ 。 コ ー デ ィ ネ ー タ ー の 役 割 とは、青少年が多様な体験活動やボランティア活動を通し
て、自 ら学び成 長する多様 なチャ ンス を創出 する 「縁を 結ぶ 」こと なのである 。
(2) コーディ ネーターの 役割
コ ー デ ィ ネ ー タ ー と は 、 日 本 語 に直訳すれば「ものごとを調整する人」という意味で、幅
広い分 野で使わ れている言 葉であ る。
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そ こ で 、 私 た ち が 活 動 す る 「 体 験 活 動 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 支 援 セ ン タ ー 」( 以 下 、「 支 援 セ
ン タ ー 」 と い う 。) の た め に 、 コ ー デ ィ ネ ー タ ー の 役 割 を 置 き 換 え て み れ ば 、 次 の よ う な 役
割を担 う専門的 なスタッフ のこと をい う。
「 支 援 セ ン タ ー 」 の コ ー デ ィ ネ ー タ ー と は 、「 体 験 活 動 や ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 を 行 い た い 」
と い う 意 志 を 持 つ 人 や 社 会 組 織 の ニ ー ズ (「 ボ ラ ン テ ィ ア ニ ー ズ 」 と 呼 ぶ ) と 、「 体 験 ・ ボ
ラ ン テ ィ ア 活 動 の 参 加 を 求 め た い 」「 活 動 の 環 境 を 提 供 し た い 」 と い う 人 や 社 会 組 織 の ニ ー
ズ (「 社 会 ニ ー ズ 」 と 呼 ぶ ) の 間 に あ っ て 、 そ れ ぞ れ の ニ ー ズ の 内 容 を 掌 握 し 、 双 方 の ニ ー
ズ が お 互 い に 満 た さ れ る こ と が で き る た め に 需 給 調 整 (「 マ ッ チ ン グ 」 と 呼 ぶ ) を 行 う な ど
の“触 媒”とし ての役割を 果たす ので ある。
コ ー デ ィ ネ ー タ ー は 、 体 験 活 動 や ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の 指 導 者 で は な い 。「 ボ ラ ン テ ィ ア ニ
ー ズ 」 と 、「 社 会 ニ ー ズ 」 と を 柔 軟 な 感 性 と 深 い 洞 察 力 に よ っ て 見 つ め 、 確 か な 知 識 と 経 験
や、豊 富な情報 をもとに、 出会い 、結 びあう 機会 や場を 演出 する役 割を担って いく。
コー ディネー ターは、次 の四つ の目 標によ り活 動する と考 えられ る。
コミュニケーション
ボランティアニーズと社会ニーズを探求し、相互の
(Communication) 理 解や、 分か ちあい のた めの橋 渡しをする 。
カウンセリング
相談者のニーズを受けとめ、寄り添い、自ら課題を
目 標 と な る (Counselling)
解 決する ため に側面 的に 助言す る。
四つの「 C」 コーディネーション
相 談者同 志が、互いに対等 な関係を築 き、学びあい、
(Coordination)
助 けあう 絆を 結ぶた めの 機会を 提供する。
コラボ レーション
多様な世代や、社会的立場の人々・組織などが、同
(Collaboration)
じ 夢や目 標に 向かっ て協 働する ための機会 を拓く。
(3) コーディ ネーション の留意 点
コー ディネー ターは、地 域社会 にお いてど のよ うな役 割を 果たす のだろうか 。
そ の 役 割 を 一 言 で 表 現 す る と す れば、青少年の「ボランティアニーズ」と「社会ニーズ」
と の 間 に あ っ て 、 双 方 の ニ ー ズ を 受けとめ的確に掌握しつつ、体験活動ボランティア活動の
機 会 の 充 実 を 図 り な が ら 、 青 少 年 のために豊かな人間性・社会性を培うチャンスを創出する
ことに ある。
青 少 年 の 「 ボ ラ ン テ ィ ア ニ ー ズ 」とは、青少年自身がボランティア活動などを体験したい
と い う 意 志 を も ち 、 支 援 セ ン タ ー を訪問して活動情報や体験プログラムに参加したりする“
直 接 的 ニ ー ズ ”。 さ ら に は 、 青 少 年 の た め に 体 験 活 動 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の 機 会 や プ ロ グ ラ ム
を 提 供 す る 教 育 計 画 を 行 う 学 校 等 の教育機関、地域のボランティア・NPO、家庭の保護者
など、 学習環境 を開拓する 役割を 担う 人や組 織が 求めて くる “間接 的ニーズ” をいう。
「 支 援 セ ン タ ー 」 に お け る コ ー ディネーターは、そうしたニーズに応えるために、青少年
が 相 談 し や す い 施 設 環 境 の 整 備 や 雰 囲 気 づ く り に 努 め な が ら 、 青 少 年 と 直 接 対 面 し 、「 聴 き
役 」 に 徹 し つ つ 、 青 少 年 自 身 の 潜 在的ニーズや可能性を発見し、選択可能な多様な情報や、
魅 力 あ る 独 自 の プ ロ グ ラ ム を 企 画 して提供するなどの専門性を発揮する。さらには、家庭の
教 育 、 学 校 の 教 育 、 地 域 の 教 育 活 動が求めるニーズを掌握し、あらかじめ収集した情報をも
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とに、 教育計画 づくりの支 援や、 青少 年を育 てる 地域の リー ダーの 養成や支援 をする。
ま た 、「 社 会 ニ ー ズ 」 と は 、 地 域 社 会 の 教 育 機 関 の ニ ー ズ に 応 じ て 、 青 少 年 の た め に 体 験
活 動 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の プ ロ グ ラ ムや活動環境を提供する、社会教育施設、社会福祉施設、
青 少 年 団 体 、 ボ ラ ン テ ィ ア ・ N P Oなどの社会組織、町内会などの地縁組織、ボランティア
活 動 の 協 力 を 必 要 と す る 個 人 な ど を意味する。その「社会ニーズ」を的確に掌握したり、開
拓 し た り す る と と も に 、 青 少 年 を 受け入れるためのノウハウや、プログラムづくりのアドバ
イスを すること も重要な役 割であ る。
その ためには、コ ーディネー ター自身の 豊富な社会 活動経験は 必須の要 件であると いえる。
ま た 、 行 政 や 民 間 を 問 わ ず 多 様 な 機関・団体、多彩な専門性や活動経験をもつ人々とのネッ
トワー キング力 も必要にな る。
【コ ーディ ネーション の展開】
集める
行 政、企業、 家庭や 地縁 組織、 ボラ ンティ ア・ NPO情 報な どを集める
知らせる
多 様なメディ アを活 用し て情報 を知 らせる
受けとめ る ボ ランティア ニーズ 、社 会ニー ズの 双方を 受け とめる
拓く
事 業の企画開 発や実 態調 査など の研 究開発 活動
つくる
ボ ランティア 組織や NPO法 人をつく り運営する ためのノウ ハウを提供 する
つなぐ
ボ ラ ン テ ィ ア や NPO、 地 域 の 関 係 諸 機 関 が 有 機 的 な 連 携 を 保 て る よ う に 、
ネ ットワーク 化によ る触 媒的な 役割 を果た す
結ぶ
「 ボ ラ ン テ ィ ア ニ ー ズ 」( ボ ラ ン テ ィ ア を 志 す 人 々 ) と 「 社 会 ニ ー ズ 」( ボ
ランティアの参画を必要とする人や組織)との間にあって、双方のニーズ
を受けとめながら、それぞれのニーズを満たし、多様な協働の場を提案す
る
学ぶ
多 様な学習プ ログラ ムを 開発し 、提 供する
2.コーディネーションの可能性
(1) 現状
体 験 活 動 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 に お けるコーディネーションについて、現在では次のような領
域で展 開されて いる。
ア. 学習・情 報支援活動 の領域
学 校 教 育 や 社 会 教 育 に お い て学習した成果を、個人のもつ潜在的な能力や人格、生活
経 験 ま た は 職 業 に お い て 得 た 知識や技術・経験などを、ボランティア活動を通して社会
に 還元し、 かつ役立て るため に必 要とな るコ ーディ ネー ション 領域。
イ. 中間支援 活動の領域
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の 普 及 啓 発や情報収集と提供、相談助言、活動に必要な訓練研修プ
ロ グ ラ ム の 提 供 、 活 動 者 間 の ネットワーキング活動などの支援を目的に組織された、各
種ボランティアセンターなどの専門推進機関において行われるコーディネーション領
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域。
ウ. 受け入れ 支援活動の 領域
人 々 や 社 会 組 織 等 が 、 自 己 の実現を目的としたり、地域社会の公共の利益や、地球社
会 に お け る 民 族 や 地 域 ・ 国 家 などを越える普遍的な利益を追求し、共生の社会の実現の
た め に 活 動 す る た め の 、 ボ ラ ンティア参加の場を拓き効果的な活動環境を提供するため
に 必要なコ ーディネー ション 領域 。
以上 の領域を さらに整理 すれば 、次 のよう に表 記する こと ができ る。
【コ ーディ ネーション のフィー ルド】
領
域
支援内容
支 援機関
( A) 学 習 ・ 情 報 支 援 活 動 の ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の 動 機 づ 社 会 教 育 機 関 ・ 施 設 、 学 校
領域
けとなる啓発活動、学習の 教育機関、研究機関、生涯
場や情報提 供を行う
学習推進機関・施設、民間
社会教育団体、企業や労働
団体 等の社会 貢献推進窓 口、
地域 の各種学 習グループ 他
(B)中 間支援 活動 の領域
ボランティア活動を行いた ボ ラ ン テ ィ ア セ ン タ ー や
い 人 ・ 組 織 と 、 活 動 を 受 け NPO・ 市 民 活 動 サ ポ ー ト セ
入れたい人・組織・施設等 ンター、生涯学習センター
の間にあって、両者を支援 や公民館等の社会教育機関
しマッチング(需給調整) ・施設のボランティア相談
する
窓口 他
( C) 受 け 入 れ 支 援 活 動 の 領 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 を 行 い た 生 涯 学 習 ・ 社 会 教 育 機 関 や
域
い 人 ・ 組 織 を 受 け 入 れ 、 そ 施設、学校教育 機関や施設、
のエネルギーを公益目的の 社会福祉機関や施設、社会
ために活か す
教育団体、ボランティア・
NPO、 地縁組織 、個人他
ま た 、 次 の 表 は 、 ボ ラ ン テ ィ ア コーディネーションの標準的役割の分類とサービス提供の
内容で ある。
【ボランテ ィアコー ディネーシ ョンの内容 】
サ ービス の分 類
サー ビス 提供の 内容
①情報サービス(情報の収 ボランティア活動の参加プログラム情報、活動団体や受け
集と提 供)
入れ先に関する情報、支援センターや援助財団の情報、活
動の成果を高めるために必要な学習情報などを、多様なメ
ディ アを 活用し て提 供する 。
②アドバイザリー・サービ 活動を行いたい人や団体、ボランティアを受け入れたい人
ス(相 談助言活 動)
や団体・施設のために、効果的な活動方法や受け入れ方法
など につ いて電 話や 対面な どで 相談助 言に当たる 。
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③コーディネーション・サ 活動を行いたい人や団体のニーズと、ボランティアを受け
ービス (需給調 整活動) 入 れ た い 人 や 団 体 ・ 施 設 の ニ ー ズ を 的 確 に 掌 握 し 、 よ り よ
いマ ッチ ングに よっ てそれ を社 会の力 に還元させ る。
④学習プログラム・サービ ボランティア活動を始めるために必要な基礎的講座、フィ
ス(学 習支援活 動)
ールド学習、活動を高めるための技術や地域、組織運営の
ため のマ ネージ メン ト・ト レー ニング 等を企画し 提供する。
⑤ 活 動 プ ロ グ ラ ム ・ サ ー ビ 人々 の参 加のき っか けづく りや、活動領域 の拡大 のた めに、
ス(活動メニューの開発 世代や職業、ライフスタイルなどに合わせた実践活動プロ
と提供 活動)
グラ ムを 開発し 提供 する。
⑥ネットワーキング・サー 活動領域を同じくする活動者や団体、異なる領域の活動者
ビス(活動者・組織間の や団体の交流と相互学習・協力を促進し、その成果を個々
連携促 進活動)
の活 動の 発展と 社会 改革へ と還 元させ る。
⑦拠点サービス(活動拠点 活動者のために利用しやすい拠点を整備し、事務局、会議
や資・ 機材の提 供活動) 室、 資料 や機材 など を提供 する 。
⑧マネージメント・サービ 活動に参加する人々との参加意欲を満たし、活動の目的を
ス(活動者の組織運営支 達成し問題解決へ導くために必要な、効果的な組織運営、
援活動 )
人材活用、会計処理、財源の開発、広報啓発などについて
助言 した り学習 の場 を提供 する 。
⑨研究情報サービス(調査 ボランティア活動の実体や社会背景等を調査し、その社会
研究活 動)
的動向を分析して活動者や関係諸機関に提供し、社会に提
言す る。
⑩アドボカシー・サービス ボランティアが、活動を通して得た成果や問題意識を行政
(社会提 案への支 援活動) や 関 係 諸 機 関 に 政 策 提 案 し た り 、 社 会 に 提 言 し た り す る た
めに必要な情報、資料などを提供するなど、ボランティア
活動 の成 果を社 会に 還元す るた めに必 要な支援を 行う。
(2) 今後の課 題
ボ ラ ン テ ィ ア コ ー デ ィ ネ ー シ ョ ンについては、それらの各活動領域を画一的にとらえるこ
と は で き な い 。 そ れ ぞ れ は 、 個 別 的な領域で活動展開されるとともに、独自の専門性を持っ
て い る 。 同 時 に 、 コ ー デ ィ ネ ー シ ョンを進めていく地域の現場においては、当然のようにい
くつも のニーズ が重なりあ い、複 合的 な目的 をも って活 動し ている 。
し た が っ て 、 そ れ ら の 活 動 領 域 の中には、組織・機関の目的や事業内容によって、相互に
重複し た“複合 的コーディ ネーシ ョン 機能” を持 つ例も 少な くない 。
た と え ば 、 地 域 社 会 を ベ ー ス と した「公民館」や「生涯学習センター」などは、それぞれ
の 講 座 等 で 学 習 し た 人 々 に 対 し 、 地域で活躍できる多様なボランティア情報を提供するとと
も に 、 他 方 で は 、 そ の 施 設 そ の も のの活性化のために必要な業務に対して、ボランティアの
協 力 を 求 め 、 か つ 受 け 入 れ を 行 っ ている。それは“学習支援”のためのコーディネーション
と、
“ 受け入 れ支援”のためのコ ーディネー ションと が複合的に 行われてい る事例でも ある。
「 国 立 教 育 政 策 研 究 所 社 会 教 育 実 践 研 究 セ ン タ ー 」 が 平 成 19年 3月 に 報 告 し た 「 体 験 活 動
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ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 支 援 セ ン タ ー 等 の実態調査」によれば、実施している業務内容としては都
道 府 県 、 市 区 町 村 と も に 「 団 体 等 に 関 す る 情 報 の 収 集 ・ 提 供 」( 都 道 府 県 84.6% 、 市 区 町 村
70.3% )、「 地 域 に お け る 活 動 の 場 に 関 す る 情 報 収 集 」( 都 道 府 県 69.2% 、 市 区 町 村 58.6% )
が上位 を占めて いる。
そ の 一 方 で 、「 新 た な 活 動 の 場 の 開 発 」( 都 道 府 県 26.2% 市 区 町 村 24.9% )、「 地 域 住 民 が
どのよ うな活動 に参加した いかに つい てのニ ーズ の把握」
( 都道府 県4.6%市区 町村11.7%)、
「 地 域 プ ラ ッ ト ホ ー ム と し て の 場 所 の 提 供 」( 都 道 府 県 4.6% 市 区 町 村 6.7% ) な ど の 業 務 内
容 の 比 率 が 少 な い が 、 こ う し た 新 しい可能性のための開発がコーディネーション活動の大き
な課題 ではない だろうか。
「 現 在 ど の よ う な 課 題 が あ る か 」 を 都 道 府 県 に 聞 い て み る と 、「 活 動 の 場 の 提 供 を 行 っ て
い る 団 体 等 と の 情 報 の 共 有 が 十 分 で な い 」( 40.0% )、「 他 の ボ ラ ン テ ィ ア 団 体 ・ N P O 等 と
の 連 携 が 十 分 で な い 」( 38.5% )、「 活 動 の 場 が 十 分 に 確 保 で き な い 」( 36.9% )、「 他 の セ ン
タ ー と 人 材 確 保 に 関 す る 情 報 が う ま く 共 有 で き な い 」( 32.3% ) が 上 位 を 占 め 、 ネ ッ ト ワ ー
キング に関する 課題が大き いこと がわ かった 。
ま た 、 市 区 町 村 に お い て は 、「 セ ン タ ー の 体 制 ( 職 員 数 等 ) が 不 十 分 」( 41.0% )、「 地 域
の ボ ラ ン テ ィ ア リ ー ダ ー 等 の 指 導 者 の 養 成 が 十 分 で な い 」( 39.2% )、「 活 動 プ ロ グ ラ ム の 開
発 が 難 し い 」( 34.6% )、「 コ ー デ ィ ネ ー タ ー の 人 材 の 不 足 」( 33.3% )、「 ホ ー ム ペ ー ジ を 活
用した 対応がで きていない」( 32.0%)、「コーデ ィネーター の養成が遅 れている」(22.9%)
など人 的資源の 問題が大き いこと がわ かる。
い ず れ に し て も 、 そ の ど の 領 域 に重きをおいてコーディネーションが行われるかは、組織
機 関 の 設 立 目 的 、 事 業 内 容 、 社 会 的役割によって異なっている。地域全体のそれぞれの機関
が 相 互 の 人 的 交 流 や 情 報 交 換 を 行 い、また共同事業などを計画したり、横断的な“推進協議
会 ” な ど の ネ ッ ト ワ ー ク 機 関 を 組 織することによって、各種の行政機関や民間機関相互のパ
ートナ ーシップ の絆を結ぶ ことも 期待 される 。
特 に 行 政 に お い て は 、 ボ ラ ン テ ィア活動の自主性や主体性を十分に尊重しつつ、その特性
が発揮 しうるよ うな支援が 求めら れる 。
以下 は、ボラ ンティアコ ーディ ネー ション を行 う際に 留意 するべ き課題であ る。
ア. ボランテ ィアとのパ ートナ ーシ ップを 構築 する
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の も つ 特 性を十分に理解するとともに、その社会的役割と主体的意
思 を 尊 重 し 、 活 動 に 必 要 な 情 報を公開する努力を怠ってはならない。また、活動の成果
と して発信 される政策 提案に 対し 、真摯 に耳 を傾け る姿 勢が大 切である。
イ. バリアフ リーに徹す る
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 を 行 う 上 で の 障 壁 、 例 え ば 活 動 を 行 う 上 で の “ 情 報 の 壁 ”“ 人 々 の
理 解 と 意 識 の 壁 ”“ 制 度 の 壁 ” な ど を 取 り 除 く 努 力 は 、 行 政 に 大 い に 期 待 さ れ る 側 面 的
支 援の一つ である。
ウ. ボランテ ィア活動の 多様性 を尊 重する
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 は 、 活 動 者の生活者としての問題意識や、自由な創造力から誕生す
る 。 行 政 に お い て は 、 ボ ラ ン ティア活動の分野や活動形態を画一的にとらえるのではな
く 、その柔 軟性こそが 活動の 生命 力であ る、 との認 識を 深める ことが求め られる。
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エ. 情報とネ ットワーキ ングの 壁を 取り除 く
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 を 支 援 す るためには、担当部局のみならず、他の部局に対しても、
ボ ランティ アの求めに 応じて 情報 を提供 する よう協 力を 求める ことが必要 である。
ま た 、 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 者 相互の連携が、行政の“タテワリ”的弊害の影響を受けな
い ように十 分配慮し、 内部の 連絡 調整を 図る ことが 必要 である 。
オ. 行政職員 の意識の壁 を取り 除く
行 政 で 働 く 人 々 の 意 識 の 壁 、すなわちボランティア活動への理解を促進する必要があ
る 。 優 秀 な ボ ラ ン テ ィ ア コ ー ディネーターであっても、行政内部の意識の深さと理解な
し には、そ の能力を十 分に発 揮す ること はで きない 。
職 員 に 対 す る ボ ラ ン テ ィ ア 研修や体験学習学習の機会、ボランティア休暇・休職制度
の 普及など も、意識の 壁を取 り除 く効果 的な 方法の 一つ であろ う。
カ. 組織や制 度の壁を取 り除く
組 織 や 制 度 の 壁 を 取 り 除 く ために、行政内部の横断的な連絡協議システムを設置する
こ と が 必 要 で あ る 。 ま た 、 そ の協議の場に、各分野のコーディネーターが出席して意見
を 述べたり 提言を発表 する機 会を 設ける のも 有効な 方法 である 。
キ. 法的・制 度的支援体 制の整 備の 研究を すす める
「 特 定 非 営 利 活 動 促 進 法 」( N P O 法 ) の 成 立 に 伴 っ て 、 ボ ラ ン テ ィ ア 団 体 等 の 法 人
格 取 得 を 支 援 す る た め に 、 各 地方自治体では関連した条例等の整備が進められている。
ま た 、 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 中 の 事故責任について、それを支援する諸保険制度の開発や普
及 も 進 め ら れ 、 行 政 に よ る 保 険料の支援を行う自治体も増えている。さらには、活動の
財 政 基 盤 づ く り を 支 援 す る た めに、寄付行為を促進するための地方税の減免処置を行う
自 治体も現 れている。
こ う し た 法 的 ・ 制 度 的 支 援 体制は、現場のコーディネーターの活動をバックアップす
る ものとし て歓迎され るべき 取組 である 。
ク. 人材の養 成を進める
人 材 は 、 支 援 セ ン タ ー の コ ーディネーションにおいての鍵となるが、調査によれば、
地 域 社 会 と 直 接 接 す る 市 区 町 村では、コーディネーターの人材の確保と養成が大きな課
題 と な っ て い る 。 都 道 府 県 に おいては、そうしたニーズを十分に掌握して、多様なスキ
ル を 持 つ 大 学 、 専 門 機 関 、 N PO等との連携により人材の開発や養成に努めていく必要
が ある。
(3) 新たな可 能性
ア. ボランテ ィア活動の “世代 ”の 多様化 にど う応え るか
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 者 の 世 代 の 多 様 化 は 、 特 に 1990年 代 に な っ て 顕 著 な 現 象 と な っ てい
る 。 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 は 、 今 児童や在学青少年から中高年世代までの、それぞれの世代
の 自 己 実 現 欲 求 と と も に 行 わ れている。また一方では、ボランティア活動は世代を越え
た 普 遍 的 な 文 化 と し て 多 様 に 取り組まれるようになり、それに伴って、ボランティアコ
ー デ ィ ネ ー シ ョ ン の 在 り 方 に も、世代ごとの自己実現目的や、そのライフステージに合
わ せ た 多 面 的 な 相 談 ・ 助 言 シ ステムや、プログラム開発、その他の支援方法が必要とさ
れ るように なってきて いる。
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コ ー デ ィ ネ ー タ ー 研 修 プ ロ グラムの立案に当たっても、それら各世代のライフステー
ジ にマッチ ングした対 応方法 など の、き めの 細かい 研修 を行っ ていく必要 がある。
イ. ボランテ ィア活動の “活動 形態 ”の多 様化 にどう 応え るか
ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の 形 態 は 、多様である。自分の自由時間を活用して、あえて組織に
所 属 し な い で 個 人 で 活 動 す る ことを希望する人がいる。既存のグループや団体に所属し
て 、 仲 間 と の 人 間 関 係 を 楽 し む人や、自らの手で組織づくりを志す人がいるなど、参加
の 形態は様 々である。
活動とは いっても、お金や物品 を提供 する 人。趣 味や 技術、培った 経験を提供 する人。
問 題 意 識 を 共 有 し 、 社 会 の 課 題に挑戦する人。組織の運営に協力し、携わる人。新しい
民 間 非 営 利 事 業 を 起 業 す る 志 をもち、活動に入る人。ひたすら、心の癒しを求めて活動
の 世 界 に 入 る 人 。 そ う し た 活 動の自由さこそが、何よりもボランティア活動の楽しさの
源 泉である 。
こ う し た 多 様 な 活 動 ニ ー ズ に応えるためには、コーディネーターの所属する機関や施
設 の 用 意 し た 既 存 の 研 修 機 会 だけでは不十分である。そこで、日頃の学習領域を越えた
多 様 な 研 修 会 や 集 会 等 に 参 加 し、情報や知識の幅を広げ、人的ネットワークの拡大に努
め ることを 援助するこ とも大 切な 視点で ある 。
ウ. ボランテ ィア活動の “教育 ニー ズ”の 多様 化にど う応 えるか
豊 か な 生 涯 学 習 社 会 の 構 築 は、我が国の教育政策の大きな柱となり、そうした社会の
実 現のため に、ボラン ティア 活動 の役割 の重 要性が 提起 されて いる。
ま た 、 近 年 に お け る 西 暦 2003年 を 目 標に し た 学 校 教 育 を 中 心 と し た “ 教 育 改 革 ” 論議
に お い て も 、 ボ ラ ン テ ィ ア の もつ教育的役割の重要性が強調されるようになってきた。
小 ・ 中 学 校 に お け る 「 心 の 教育」の重要性が説かれ、道徳教育における体験的倫理観
を 醸 成 す る 手 段 と し て の ボ ラ ンティア学習の有用性に期待が向けられている。さらに、
教 科 の ワ ク を 越 え た 学 習 機 会 の充実のための手段として、身近な生活課題その他を学ぶ
こ と の で き る 学 校 の 特 性 を 活 かした独自のカリキュラム「総合的学習の時間」の新設に
お いても、 ボランティ ア学習 の有 効性が 説か れてい る。
高 等 学 校 に お い て は 、 地 域 社会において高校生自身が企画するボランティア活動計画
が 、1998年 度 より単位 として認定 されるよう に制度の改 革が行われ ている。
大 学 等 の 高 等 教 育 機 関 に お いても、大学等の学生のためのボランティア活動情報提供
シ ス テ ム の 整 備 が 行 わ れ つ つ あり、教科学習の成果を社会貢献に活用する「コミュニテ
ィ サ ー ビ ス ラ ー ニ ン グ 」 な ど の試みは急速に広がっている。こうした地域社会を教室に
し て学ぶ“ ボランティ ア学習 ニー ズ”に 、柔 軟に対 応す ること も緊急な課 題である 。
ま た 、 大 学 と の 連 携 は 、 新 たな人材の確保と養成においても、大きな成果を生む可能
性 を秘めて いるともい えよう 。
エ. 学校教育 を支援し放 課後に おけ る社会 教育 活動を 活性 化する
地 域 社 会 の 人 々 や ボ ラ ン テ ィア・NPOが多様な知識・経験・技術を活用して学校教
育 を 支 援 す る “ 学 校 支 援 ボ ラ ンティア活動”は、いまでは各学校で定着しつつある。し
か し 、 そ の 活 動 を 効 果 的 に 進 めるためのコーディネーターの配置や研修システムの開発
に ついては 、まだ発展 途上で ある 。
さ ら に 、 2007年 度 か ら は 学 校 の 新 た な役 割 と し て 、 社 会 教 育 行 政 と 社 会 福 祉 行 政 とが
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相 互に連携 した“放課 後子ど もプ ラン等 の事 業がス ター トした 。
こ う し た 、 新 た な 学 校 を 拠 点にした社会教育に対応可能なコーディネーターの養成や
コ ーディネ ーション・ システ ムの 開発と 推進 も今後 の課 題であ る。
(興 梠 寛)
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