Pasteurella multocida

Pasteurella multocida
豊川市民病院
泉田さゆり
<はじめに>
Pasteurella multocida は、グラム陰性の小球桿菌で、従来から人畜共通感染
症の原因菌として知られている。本菌は、哺乳類の口腔内常在菌で、猫で 100%、
犬で 15∼30%保有しており(*1)、犬・猫からの咬傷、ひっかき傷から感染する。
ヒトの臨床材料としては、喀痰・膿・血液・髄液などから分離され、気管支炎、
肺炎などの呼吸器系感染症と創傷感染が主であるが、髄膜炎や脳膿瘍、菌血症
を起こすこともある。免疫力の弱いヒトほど感染しやすいので、小児・高齢者は
注意が必要である。
グラム染色
羊血液寒天培地
<培養>
Pasteurella multocida は、血液寒天培地やチョコレート寒天培地によく発育
する。至適発育温度は、35∼37℃で、溶血性はない。普通寒天培地、BTB乳
糖加寒天培地に発育しにくい。SS寒天培地など胆汁を含む培地には発育しな
い。
<同定>
血液寒天培地に、S(スムース)型の光沢を持ったやや大きめのコロニーを形成する。
チョコレート寒天培地上のコロニー性状や臭気は、ヘモフィルス属菌に似てい
るが、血液寒天培地の発育を比べると、Pasteurella multocida は発育するが、
ヘモフィルス属菌は発育しないので鑑別可能である(表 1)。コロニーのグラム染
色 は 、 ヘ モ フ ィ ル ス 属 菌 や Acinetobacter 属 菌 に よ く 似 て い る 。
Acinetobacter 属菌との鑑別は、オキシダーゼテストにより容易にできる(表
2)。同定キットとしては、『ID test HN Rapid (ニッスイ)』により、約 4 時間で判定
できる。
分離培地
P.multocida H.influenzae
血液寒天(ヒツジ)
+
−
血液寒天(ウサギ)
+
+
チョコレート寒天
+
+
BTB乳糖加寒天
−
−
MacConkey 寒天
−
−
(表 1)
H.influenzae
『ID test HN Rapid (ニッスイ)』
Acinetobacter
P.multocida H.influenzae
sp
オキシダーゼ
+
+
−
カタラーゼ
+
+
+
硝酸塩還元
+
+
インドール
+
d
ガス
−
VP反応
−
尿素
−
d
ブドウ糖発酵
+
+
+
乳糖
−
−
d
白糖
+
−
−
マルトース
−
−
ラムノース
−
(表 2)
<薬剤感受性>
ペニシリンに極めて感受性が高い。テトラサイクリン、クロラムフェニコー
ルにも感受性を示す。しかし、近年、一部のセフェム系やマクロライド系抗菌
薬に耐性を示す株も報告されているので、注意が必要である(*2)。
<参考資料>
*1:インターネット ホームページ『人畜共通感染症について』
http://www.ask.ne.jp
*2:権田秀雄,野田康信,大石尚史,谷川吉政,佐藤慎二,池ノ内紀祐,山下
峻徳,山口育男:当科において Pasteurella multocida が喀痰から検出された
症例の検討.感染症誌 2001;75:780―784