動物咬傷 松山赤十字病院 皮膚科 緋田 哲也 ・哺乳類による動物咬傷 ・ヘビ咬傷 哺乳類による動物咬傷 ●イヌ咬傷 ●ネコ咬傷 ●ヒト咬傷 など ⇒救急での処置対応は基本的に同じです。 哺乳類による動物咬傷の救急対応 ●洗浄 できるだけ局所麻酔下でしっかり洗浄(水道水or生理食塩水)。 深い場合にはシリンジを用いて高圧洗浄する。 場合によってはメスで切開して創を広げたり、デブリードマンが 必要なことも。 ⇒最も重要です。 哺乳類による動物咬傷の救急対応 ●縫合 議論が分かれる。 縫合してはならないという意見や、受傷早期であれば縫合してもよ いなど。 創が大きい場合 ⇒受傷早期で十分洗浄ができた場合縫合してもよい。 創が小さい場合 ⇒開放創。 顔面、手指などは後遺症を考慮して初期治療後に形成外科、整形 外科にコンサルト。 縫合した場合にはドレナージなど(ナイロン糸をドレーンとして使用 する方法など)。 哺乳類による動物咬傷の救急対応 ●抗生剤 議論が分かれる。 基本的に投与すべきと考える。 ペニシリン系抗生剤(オーグメンチン®、ユナシン®等) 第3世代セフェム系(セフゾン®等)、ミノサイクリン。 起因菌 Pasteurella(パスツレラ)、Staphylococcus、Streptococcusを想定。 実際には混合感染症例が多い。 Pasteurella(パスツレラ)感染症 Pasteurellaは嫌気性菌で哺乳類に生息している口腔内常在菌。 (ネコでは約70%~90%と非常に高い。イヌでは約20~50%)。 ⇒イヌ・ネコ咬傷では最も多い感染症 壊死性筋膜炎や化膿性骨髄炎も生じうる。死亡例の報告あり。 発症は30分~2日間と急速例が多い。 感受性はペニシリン系では良好。 第一世代セフェム、エリスロマイシンでは抗菌活性が弱い。 実際は黄色ブドウ球菌や連鎖球菌との混合感染が多いため、 オーグメンチン®、ユナシン®が第一選択。 ペニシリン耐性株も散見。 臨床皮膚科,64巻6号,2010 哺乳類による動物咬傷の救急対応 ●破傷風予防 十分な調査はないが、必要であると報告している論文は多数。 破傷風予防:外傷初期診療ガイドライン(JATECTM)改訂第3版より引用 トキソイド接種歴 きれいな傷 それ以外の傷 トキソイド 破傷風免疫グ ロブリン トキソイド 破傷風免疫グ ロブリン 不明or3回以下 ● × ● ● 3回以上 3回目が10年以 上経過している 場合は● × 3回目が5年以 上経過してい る場合は● × 哺乳類による動物咬傷のまとめ ・洗浄が最も大切である。 ・縫合するか開放創にするかは難しいが、早期で洗浄 が十分であれば縫合も可能であると考える。 ・Pasteurella感染症などの感染症に十分注意し、抗生 剤投与や破傷風対策を検討する必要がある。 ヘビ咬傷 ●毒ヘビ咬傷 愛媛県ではマムシとヤマカガシ ●無毒ヘビ咬傷 マムシ 全長45 - 80センチ・メートル 北海道から九州まで 4月~11月まで活動する(7月~9月が多い)。 基本的に夜行性。 年間約2,000人咬まれる ヤマカガシ 全長は70 - 150cm 北海道以外に生息。 1972年に中学生が噛まれて死亡する事故が起 きてから、毒蛇として認識された。 ヤマカガシの毒性は強力で、LD50(半数致死 量)※で比較するとハブの10倍、マムシの3倍の 毒性。 ※実験動物に毒物を投与したとき、その半数が死亡する体重1kgあたりの用量(mg)。単位は「mg/kg」。 (レジデントノート Vol13 2012) がこん がこん ⇒マムシの場合、並行する2個の牙痕(例外もあります)。 (レジデントノート Vol13 2012) 自験例 マムシとヤマカガシの毒の作用 マムシ毒 出血作用、腫脹作用 壊死作用 血小板凝集作用 血小板凝集阻止作用 トロンビン様作用 血液凝固阻止作用 線溶作用、溶血作用 末梢血管拡張作用 毛細血管透過性亢進作用 神経毒作用 腫脹、疼痛 悪心、嘔吐、動悸、血圧低下 複視、眼瞼下垂 急性腎不全、DIC、心筋変性⇒死因 ヤマカガシ毒 血液凝固作用 (プロトロンビンの活性化) 腫脹や疼痛はマムシに比べて軽度 受傷後数分後ないし数時間後の止血 傾向の無い出血 DIC、多臓器不全⇒死因 公衆衛生 vol.74,2010年より改変 有毒動物による死亡者数 年 1999 マムシ 17 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 6 8 3 8 10 5 5 6 4 19 15 ヤマカガシ 1 ハブ 1 ハチ 27 1 34 26 23 1 24 18 26 20 公衆衛生 vol.74,2010年より改変 マムシ咬傷の治療 マムシ咬傷の治療 ●局所処置 切開による排毒や減張切開は現在では否定的な報告が多い。 受傷早期(1時間以内)に限り、5㎜ほど小切開するのがよいか。 ⇒洗浄する程度でよいか。 ●輸液 尿量を確保し、筋破壊からおこるミオグロビン血症による急性腎不全を 予防。 ●感染予防 抗生剤、破傷風対策は哺乳類による動物咬傷と同様。 マムシ咬傷の治療 ●マムシ抗血清(当院は常備しています。) ウマ血清であり、原則生涯1度のみ使用可能。 皮下や筋注では効果がない。⇒静注1) 。 1、2時間以内が良いが少なくとも24時間以内。 アナフィラキシーショックや血清病に注意(10%程度)。 腫脹疼痛が激しい場合には、様々な意見はあるが ステロイド前投与+1時間程度かけての点滴静注が望ましい。 マムシ血清の使用が予後に差がないため対症療法で十分との 報告もある2)。 ⇒過去の判例で,マムシ咬傷で抗血清を投与せず死亡した症 例に対して,医師側が敗訴している(1990、鳥取地裁)。 1)皮膚病診療 vol.26,2004年、長江ら 2)医事新報 24-7,2000年、内藤祐史 マムシ咬傷の治療 ●セファランチン 副作用があまりないが、効果は異論あり。 ●ステロイド マムシ抗血清が使用できない例ではパルス療法の報告もあり。 強力な抗炎症作用が効果的であったとの報告もある1)。 1)皮膚病診療 vol.26,2004年、長江ら ヤマカガシ咬傷の治療 ●ヤマカガシ抗血清(常備していません。) 治療はマムシと同様であるが、抗血清が手に入れにくい。 ⇒蛇族学術研究所または杏林大学救急部に連絡 抗血清使用以前は輸血や血漿交換、血液透析などで対処してい た。 ヘビ咬傷のまとめ ・毒ヘビ咬傷にはマムシ咬傷だけでなく、ヤマカガシ咬 傷がある。 ・マムシ咬傷に対しては原則入院治療が必要。 ・抗マムシ血清を使用するかどうかは議論が分かれる が、症状に応じて投与が望ましいと考える。
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