東京トリ戦争

東京トリ戦争
平成十八年十月三日
文責:Marbo
意外と気付きづらい事実だが、都会に暮らす鳥は実に多種多様である。カラス、ハト、ス
ズメ、ツバメ、メジロ、カモ、インコ、サギ、etc…
これらの鳥はみな素早く都会の環境に適応して一つの生態系を形成し、時には人間を
も利用しながらしたたかに生き延びている。
しかし、時には同じ空間に暮らすもの同士利害の対立が起こる。特に圧倒的な生息数と
旺盛な繁殖力、生命力を有するカラス、ハトの行動は都会において人間とさまざまなかた
ちで衝突する。ここではあまり日の当たることのないマイナーな都市公害である鳥害につ
いて、大まかにではあるが紹介してみたいと思う。
カラス、襲来
都会や市街地に住むカラスは、非常に巧
みに人間や人工物を利用して生きている。
彼らはわれわれが想像する以上に積極的
に都会と言う環境に参入し、そこで一つの
ユニークな生態系を生み出している。彼ら
は何も、減りつづける山林を追われて止む
無く都会に降って来たわけではない。確か
に一面ではそういった理由もあろうが、彼ら
が今日のように都会において繁栄を築くこ
とができたのは、都会と言う「自然環境」に積極的なメリットを見出したからである。そのメリ
ットとは、第一に、餌が生ゴミとして常に供給されること。第二に、脅威となる外敵が少ない
こと。第三に、街灯やネオンサインのお陰で深夜でも外敵の接近を察知できること。第四
に、ヒートアイランド現象など都会ならではの温暖な環境が冬の寒さから守ってくれること。
まさに、都会はカラスにとって「パラダイス」なのである。
荒れる、街角
前述のようにカラスにとって都会は非常に住みやすい環境を提供しているわけだが、都
会の本来の住人である人類との衝突は避けられない。東京のカラスは平成十三年まで
増加を続けていたが、同年から始まった都の捕獲作戦により近年は減少傾向にあるという。
とはいえ依然として数が多いことには変わりないうえ、ねぐらを移動し捜査から外れた可能
性もあり一概に減っているとは断言できない。
さて、カラスによって人間が被る被害は様々である。主なカラス害は以下の通りである。
都内でのカラス生息数(東京都調べ)
・集積所やくずかごのゴミが荒らされる。
都会のカラスにとって人間の出すゴミは非常に利用価値が高い。特に飲食店の出す
生ゴミは、同じ時間、同じ場所に毎日提供されるので、都会のカラスの食生活は非常に
恵まれていると言える。また通常のゴミも巣の材料として活用できる。ゆえに都会のゴミ
集積所は、毎朝カラスがビニール袋を引きちぎり中身を引きずり出しているので散らかり
放題である。
・繁殖期に巣に近づいた人間が襲われる。
カラスは夏場に繁殖期を迎え、背の高い木の枝に巣を作って卵を産む。巣のある木
に人が接近し、見上げたりすると、カラスは警戒して時に攻撃を加えてくる。激しい時に
は急降下してくちばしを突き立ててくるなど、大怪我に至る場合もあるので、高さが 10 メ
ートル以上の大型の街路樹などは近くで見上げない方がよい。
・農作物が奪われる。
これは都会ではなく農家への被害だが、昔からあるものである。
・電線がショートする。
稀に、隣の電線に留まったカラスの親子が餌を口移ししようとして、電線がショートす
ることがある。
・線路への置き石。
もっとも不可解なカラスの迷惑行為である。カラスが置くようなサイズの石では鉄道事
故に至る可能性は低いが、車輪やレールに傷がつくので鉄道会社にとっては非常に迷
惑である。カラスがこのようなことをする理由は全くわからないが、逆に理由なく遊んで
いるだけではないかとも考えられている。
・屋外の精密機器や配管、パッキンなどが破壊される。
カラスは細長いもの、細かいもの、複雑な形をしたものがお好みである。そういったも
のに惹かれるあまり壊して持ち去ってしまうことがある。また巣の材料として集めることも
あると言う。
・他の野鳥や小動物が襲われる。
昔から人間の近くで生息していたスズメなどの小鳥や、ネズミなどの小動物が餌として
カラスに殺されることがある。カラスの増加で東京に暮らすほかの野鳥の数は年々減少
している。時には猫をも殺すことがある。
撃退、東京都環境局
このように様々な局面でカラスと人間は利害を対立させている。カラスは都会と言う野生
環境における食物連鎖の頂点に位置する生き物であるため、人間が獲って喰いでもしな
い限りその勢いは増すばかりである。
石原都知事肝いりのカラス肉は人気が出なかったが、カラスの迷惑行為への対策として
は様々な方法が考え出されている。以下に代表的なカラス対策法と、その問題点を挙げ
てみよう。
・模様、音、匂い、模型などによる脅し。
カラスの五感が嫌がるものを置いたり、流したりする。しかしこういう種類の対策はカラ
スがすぐに真贋を見破ってしまうので、いたちごっこになりやすい。またカラスが嫌がる
音、匂いなどは、人の集まる都会では公害問題になりかねないので使えない。
・捕獲箱などによる生け捕り。
いわゆる罠を仕掛けてカラスを捕獲しようと言うものである。しかし都会においては設
置場所を確保し辛いうえ、賢いカラスが罠にかかる可能性は低いため、全体から見れ
ばほとんど効果がないと言ってもよい。
・射殺、毒殺。
猟銃で射殺、あるいは生ゴミなどの餌に毒を盛る。生け捕りに比べれば効果は大きい
かと思われるが、都会で発砲したり、毒入りの食べものを放置したりするのは人間にとっ
て危険すぎる。
・巣の撤去、破壊、ホルモンによる避妊など繁殖の抑制。
実効性、危険性の事を考えると、これらは良いアイデアではないかと思われる。とはい
え巣は、探し出すのに一苦労であるが。
・都市環境の改造。
わざわざカラスを養ってやっているかのよ
うな現在の都市環境を改め、ゴミの減量、カ
ラスに荒らされないゴミ集積形態の普及な
どを推進する。こうなるのが理想ではあるが、
難点は非常に時間がかかるところだろうか。
ハト、新生
カラスに次いで被害が多いのがハト害である。確かにハトは人間の住むところ、どこに
でも居るような気がする。
都会や住宅街、神社の境内などで見かけるハトのほとんどは「ドバト」と言って、かつて
食用、伝書鳩用として家畜化されていた「カワラバト」が再び野生化したものである。一年
を通じて衰えない旺盛な繁殖力で爆発的に増え、もともと家畜だったために人を恐れず、
また「カワラバト」時代の岩場に住む習性が影響してかコンクリート建築を好むため、当然
のごとく都会に住み着いてしまった。
ところで、ハトはカラスと並んで鳥害の代表格であるが、同時に都会のハトにとってカラ
スは天敵でもある。カラスは時々ハトの巣を襲って、卵を食べてしまう。一年中いつでも繁
殖して卵を産んでいるハトは、一年中カラスに狙われている。しかしハトと違ってカラスは
人間を警戒するので、ハトはカラスが近づきにくく、また安全で見つかりにくい場所として、
マンションのベランダやコンクリート建築の入り組んだところなどに巣を作るようになった。
そのような場所にはよく大量の鳥の糞が落ちていることに、皆さんは気づくはずである。
危ない、鳥糞
ハトによる公害とは即ちハトの糞である、と言ってよいだろう。前述のようにハトは人間
に寄り添って生きることで外敵から身を守っているので、糞被害は都会に住む誰もが被り
得るものである。ハトの糞によって引き起こされる被害は様々だが、以下に代表的なもの、
特徴的なものを挙げる。
・健康被害
「クリプトコックス病」
糞内部で増殖したカビが原因で起こる恐ろしい病気である。空気感染し、脳髄液内で
菌が繁殖。頭痛、発熱から人格変化などの脳障害を引き起こし、死に至る事もある。
脳に感染した場合、治療することはほぼ不可能とされる。
「ヒストプラズマ症」
同じくカビが原因。肺結核に似た症状を引き起こす。接触感染。
「トキソプラズマ症」
ハトの体内に棲息する原虫が原因。妊婦がこの原虫に感染すると流産、又は生まれ
てきた子供に脳障害が起こる。
その他「サルモネラ食中毒」「脳炎」「ニューカッスル病」「アレルギー」「オウム病」「ダニ、
シラミの媒介」等々
・物的被害
金属の腐食を促進、電線のショート、悪臭、美観を損ねる等々
終わらぬ、闘い
ハトの糞は不潔なだけでなく、恐ろしい健康被害や損害を与えかねないとして、ハトを
駆逐するためのさまざまな方法が考え出されている。また今ではそのためのグッズが豊富
に販売されており、誰でも手に入れることが出来る。以下にその例を書いてみよう。
・ハトがとまり易い場所をとまれなくする。(プロテクター、テグス、電線等)
プロテクターとは、最近駅のホームの電光掲示板や配線の上などに取り付けられ
るようになった剣山状のもので、テグスは極細のワイヤーである。こういったも
のをハトの留まりやすいところに配置してハトの足場を無くしてしまおうと言う
物である。かつては本当に針を立て、屍の山を築いている場所もあったと言う。
・ハトの侵入を防ぐ。(防鳥ネット)
ベランダにハトが侵入するのを防ぐため、ベランダ全体をネットで覆うという
もの。見た目はあまりよろしくない。
・心理的に近寄れなくする。(忌避剤、磁石、爆発音、目玉、超音波等)
これはカラスと同様の対策法で、効果が長続きするか疑問な上、近隣住民に迷
惑をかける可能性がある。
・餌をやらない。(都のエサやり防止キャンペーン)
もとは家畜のドバトは、人間が餌をくれることをいつも心待ちにしている。広島市の調
査ではハトの餌の7割が、人間が戯れに与えた餌だったと言う。真にハト害を減らすに
は、遊び半分でハトに餌を与えたりしないことである。
しかし、もとは人間の都合にあわせて家畜として利用されていた鳥が、用済みとして放り
出されたかと思ったらいつのまにか厄介者扱いされて攻撃を受けている現状には、同情と
言うか、この世の無常を思わずにはいられない。
参考資料
「カラスはどれほど賢いか−都市鳥の適応戦略−」唐沢孝一(中公新書)
「株式会社タケホープ公式ページ」http://www.takehope.co.jp/
「カラス研究室」http://homepage3.nifty.com/shibalabo/crow/
その他様々な鳥害対策業者のホームページ